説明

線状αオレフィンを製造する方法

本発明は、線状αオレフィンを製造する方法に関するものであって、液相のエチレン1aをオリゴマー化反応器2に案内する。オリゴマー化反応器2は、液状のエチレンと液相の触媒の良好な混合を保証するために機械的な撹拌機構2aを有している。オリゴマー化反応器2の塔頂からは蒸発したエチレンが軽質のαオレフィンと僅かな割合の有機溶剤と共に取り出される。反応器2の塔頂から取り出された混合物は、ガス状の新規のエチレン7と一緒に熱交換器3と分離器4によって凝縮される。分離器4から取り去れた液相は循環ポンプ5aによって液状の供給エチレン1aとしてオリゴマー化反応器2へと戻される。オリゴマー化反応による液状の生成物8は、側方で反応器2の底部から取り出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応器において有機溶剤及び均一系液体触媒の存在下でエチレンのオリゴマー化により線状αオレフィンを製造する方法に関する。
【0002】
エチレンのオリゴマー化により線状αオレフィンを製造するためのこのような形式の方法は例えばDE4338414号明細書に開示されている。この先行技術によれば、オリゴマー化は、オリゴマー化反応器の下方部分で液相において行われる。反応は発熱性であって、反応温度が高すぎると生成物品質が悪化するので、反応熱を排出しなければならない。先行技術によれば、熱の排出は、直接的な冷却と冷媒としてガス状のエチレンを用いて冷却循環路によって行われている。エチレン循環路からガス状のエチレンが反応器へと案内され、液相に溶解される。これにより、オリゴマー化反応のために必要なエチレン濃度が維持される。過剰のエチレンによって反応温度が制御される。反応においては著しく発熱するので、反応熱の排出のために、即ち、反応を直接冷却するために、大量のガス状エチレンが必要になる。供給エチレンの僅かな量のみが、実際のオリゴマー化反応において反応する。
【0003】
先行技術を図1につき詳しく説明する。ガス状のエチレン1はオリゴマー化反応器2の底部領域に供給される。反応器2内には、均一系液体触媒を含む有機溶剤が存在している。この場合、ガス状のエチレン1は液体触媒を含む溶剤を横切り、この際に、ガス状のエチレンの僅かな部分がオリゴマー化して線状αオレフィンとなる。エチレンの大部分と、軽質のαオレフィンと、反応器における熱力学的な平衡に応じて、若干の有機溶剤とから成る混合物が、オリゴマー化反応器2の塔頂(頭部)から反応器を出ていく。このガス混合物は冷却器3において冷却され、分離器4へと移送される。冷却の際に形成される液相9は主に溶剤と軽質のαオレフィンとから成っており、分離器4の排水溜めから取り出され、反応器へと若しくはさらなる分離のために案内される(図示せず)。ガス状のエチレンの大部分は分離器4の頭部から出て、新規のエチレン7と共に循環路の圧縮機5へと案内される。後続の熱交換器6ではガス状のエチレンは再び、例えば10℃の使用温度にまで加熱され、供給材料としてオリゴマー化反応器2へと戻される。この場合ガス状のエチレンの使用温度を調節するために、2つの熱交換器6が必要である。両熱交換器6は互いに異なる一定の温度に調節される。ガス状のエチレン1の使用温度は、両熱交換器6の相対的な割合により調節され、この場合、反応器における供給物としてのガス状のエチレンの総量は一定に維持される。反応が変動する場合にも、即ち、熱放出が変動する場合にも反応器温度を一定に維持するために、ガス状のエチレン1の使用温度は可変である必要がある。オリゴマー化反応による実際の生成物8は側方で溶剤と一緒にオリゴマー化反応器2から取り出される。取り出された液体混合物8は次いで、液体触媒を含む溶剤と線状αオレフィン生成物とに分離される。液体触媒を含む溶剤は再生され、オリゴマー化反応器へと戻される(図示せず)。線状αオレフィンは個々のαオレフィンへと分離される(図示せず)。
【0004】
選択的には、供給物として反応器2へと案内されるガス状のエチレン1の温度を、1つの熱交換器6によって調節することができる。しかしながらこの場合、熱交換器6の温度は可変的でなければならない。
【0005】
上述した先行技術による方法は一連の欠点を有している。オリゴマー化反応器の反応熱を導出するために、多量のガス状のエチレンが循環路を通らなければならない。相応に循環路の圧縮機を極めて大きく設計しなければならない。他方では、ガス状のエチレンの使用温度を介して、2つの熱交換器又は1つの調節可能な熱交換器によって反応器温度を制御するのは手間がかかり複雑である。
【0006】
このような欠点を回避するためにEP1748038号明細書によれば、オリゴマー化反応器のための供給物として、微量のガス状のエチレン及び大量の不活性ガスを使用することが提案されている。この場合、不活性ガスとしては主に、メタン、エタン、プロパン、プロピレンのような炭化水素、及び水素が提案されている。ここでも、大量のガスが循環路内で案内されなければならない。
【0007】
EP1749806号明細書に開示された、エチレンのオリゴマー化により線状αオレフィンを製造する方法では、反応器塔頂が冷媒によって冷却され、この場合、反応器塔頂における温度が15〜20℃に維持され、凝縮機による冷却が行われ、この場合、冷媒としてはプロピレンが使用される。プロピレンはこの場合、反応器の塔頂では液化され、反応器の底部領域では気化される。この方法の欠点は、凝縮機の冷却面に、例えば導入ポリマにより著しく被膜形成が生じることである。
【0008】
本発明の根底を成す課題は、エチレンのオリゴマー化により線状αオレフィンを製造する方法を選択的に提供することである。
【0009】
さらに本発明の課題は、循環路におけるエチレンの量を減じることである。
【0010】
さらに装置部分における被膜形成が減じられると望ましい。
【0011】
本発明の課題は請求項1の特徴部に記載の構成により解決される。さらに本発明の有利な構成は従属請求項に記載されている。
【0012】
本発明によれば、エチレンは少なくとも部分的に液状の凝集状態で反応器に供給される。これにより供給されたエチレンの熱吸収のための容量は著しく高まる。エチレンが液状で供給された場合、エチレンは、オリゴマー化反応の際に生じる熱をいっそう多量に吸収することができる。オリゴマー化反応の熱の吸収容量は、この場合、気化熱の分だけ高まる。従って、オリゴマー化反応の際の同じ熱量を、ずっと僅かな量のエチレンにより吸収することができる。これにより、エチレン循環路における量を、先行技術に対して著しく減じることができ、オリゴマー化反応の温度調節を著しく簡単にすることができる。循環路で案内される量が減じられたことにより、循環路に案内される潜在的な被膜形成要素も減少するので各装置部分における被膜形成も減少する。循環路で案内されるエチレンの量が著しく少なくなることにより、反応器の二相間の層から連行される液滴が存在する可能性も最小になる。これにより反応器から循環路へ到る潜在的な被膜形成要素が著しく減じられる。液相で供給することによりさらに、エチレンと液相で存在する触媒材料との良好な混合が得られる。従って、オリゴマー化反応は収量を減じることなく行われる。
【0013】
本発明の有利な構成では、付加的に液化された不活性ガスを反応器へと導入する。不活性ガスとは、本願の範囲では、反応器で行われる反応に関して不活性であるガスであると理解されたい。有利にはこの場合、液化された不活性ガスとして、炭化水素、有利にはプロピレン、プロパン、及び/又は4つの炭素原子を有した炭化水素を使用する。本発明のこの実施例では、エチレンに加えて付加的に、液化された不活性ガスを低温担体として反応器へと導入する。液化された不活性ガスは反応器で気化し、気化したエチレンと一緒に再び凝縮され、供給材料として反応器へと戻される。液化された不活性ガスはこの場合、気化し易く、かつ許容可能な温度のもとで凝縮可能であるように選択される。この場合、上記不活性ガスは、反応条件のもとでの気化し易さと冷媒温度のもとでの凝縮可能性とを互いに良好に譲歩したものである。さらに驚くべきことに、エチレンが上記不活性ガスと共にあると、エチレン単独の場合よりも著しく凝縮し易いことが示されている。従って液化のためのエネルギコストは本発明のこのような構成ではさらに減じられる。
【0014】
本発明の構成では、反応器は機械的な撹拌機構、有利にはガス導入攪拌機、特に有利には中空シャフト導入攪拌機を有している。機械的な撹拌機構によれば、液相のガス相と液体触媒材料との混合は著しく改善される。機械的な撹拌機構を介してエチレンを供給する際にその他の設備は不要であり、混合物は著しく効果的に形成される。特に中空シャフト導入攪拌機の使用は有利である。中空シャフト導入攪拌機は反応器の気相から吸引を行い、これにより反応器における混合はさらに改善される。
【0015】
本発明の別の有利な構成では、反応器からガス状で流出するエチレン又はエチレンと不活性ガスは部分的にのみ凝縮される。本発明のこのような構成では、凝縮は、反応器からの全てのガス流が凝縮されない規模で行われる。二相混合物が生じる。二相混合物は分離器において分離され、エチレン又はエチレン及び不活性ガスから成る液相は直接反応器へと戻され、ガス相は圧縮後にガス状で反応器へと戻される。本発明のこのような構成でも、圧縮の装置的な手間は先行技術よりも著しく減じられる。さらに気相における付加的な供給は、純粋な液相を戻すものと比べて、反応器内容物を良好に混合させることができる。ガスは反応器への進入の際に液相を押しのけ、生じた気泡形成は乱流を拡大し、従って反応器における混合を増大させる。
【0016】
有利には、反応器の温度調節の制御は、供給される液相の体積流の制御により行われる。液体の冷媒、即ち液相のエチレン又は液相のエチレンと不活性ガスを有した循環路を使用する場合、オリゴマー化反応器における反応温度は、液体の冷媒の供給体積流の制御により調節される。体積流の制御による温度調節はこの場合、使用温度の調節よりもずっと簡単である。従って、本発明のこのような構成では、先行技術による使用温度の調節のための熱交換器を省くことができる。
【0017】
本発明によれば、エチレンのオリゴマー化により線状αオレフィンを製造する方法を実行する際の特に装置的なコストを減じることができる。液相のエチレンをオリゴマー化反応器に供給することにより必要な冷媒量は著しく減じられる。これにより冷却循環路のための循環路圧縮機を著しく小さな量のためのものに設計することができ、単純な循環ポンプによって代替可能である。さらに、液相のエチレンを供給する場合、使用温度を調節するための熱交換器を省くことができ、若しくは、エチレンの導入温度の調節を著しく簡易化することができる。これにより、このような方法の設備コストは先行技術のものよりも著しく減じられる。さらに、循環路においては僅かな被膜形成要素しか案内されないので、被膜形成のリスク及びこれに伴うクリーニングの手間を減じることができる。本発明によれば、エチレンのオリゴマー化により線状αオレフィンを製造するための従来の技術に対して選択的な方法が提供される。
【0018】
以下に、本発明の実施例を先行技術と比較しながら、本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】先行技術によるオリゴマー化により線状αオレフィンを製造する方法を示した図である。
【図2】本発明の構成を示した図である。
【図3】本発明の別の構成を示した図である。
【0020】
図1には、先行技術による線状αオレフィンを製造する方法が示されている。図1に示された先行技術による線状αオレフィンを製造する方法は気相のエチレン1を使用しており、これについては冒頭で既に説明した。
【0021】
図2に示された本発明による構成では、液相のエチレン1aがオリゴマー化反応器2へと案内される。オリゴマー化反応器2は、液状エチレンと液相の触媒との良好な混合を保証するために機械的な撹拌機構2aを有している。オリゴマー化反応器2の塔頂(頭部)からは、蒸発したエチレンが軽質のαオレフィンと僅かな量の有機溶剤と共に取り出される。反応器2の塔頂から取り出されたガス混合物は、ガス状の新規のエチレン7と共に熱交換器3と分離器4によって凝縮される。分離器4から取り出された液相は、循環ポンプ5aによって液体の供給エチレン1aとしてオリゴマー化反応器2に戻される。エチレンの凝縮が完全には行われていない場合、余剰の気相10が分離器4の頭部から取り出される。分離器4によって、二相混合物が循環路ポンプ5aに到らないことが保証される。オリゴマー化反応による液状の生成物8は反応器2の底部の側方から取り出される。
【0022】
冷却循環路におけるエチレンの量は図1に示した先行技術のものよりも著しく減じられている。実験として、両者において、約30barの圧力のもと約60℃の温度でオリゴマー化反応を行った。両者とも1時間につき10トンの液体生成物8が取り出され、相応に1時間につき10トンのガス状の新規のエチレン7を添加した。先行技術ではこの場合、循環路圧縮機によって、1時間につき200トンのエチレンが循環路において冷却のために送られる。これは1時間につき5000立方メートルのエチレン量に相当する。図2に示した本発明による実施例では、冷却循環路において1時間につき47トンのエチレンしか循環させられない。これは1時間につき120立方メートルの液相のエチレンに相当する。これにより先行技術による循環路圧縮機5とは異なり単純な循環路ポンプ5aを使用することができる。先行技術による2つの熱交換器6は本発明のこの実施例では完全に省かれる。反応器の使用温度は、液状のエチレン1aの体積流の調節により制御される。
【0023】
図3には本発明の別の構成が示されている。本発明のこの構成では、反応器から流出したガス状のエチレンが熱交換器3において完全には凝縮されない。生じた二相混合物は分離器4において分離される。気相11は圧縮され、ガス状で反応器2へと戻される。この場合、ガス状のエチレン1bは、中空シャフトガス流入攪拌機2aを介して反応器2へともたらされる。分離器4からの液相12は直接反応器2へと戻される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器(2)において有機溶剤と均一系液体触媒の存在下でエチレン(1,1a)のオリゴマー化により線状αオレフィンを製造する方法において、エチレン(1a,12)を少なくとも部分的に液状で反応器(2)へと導入することを特徴とする、線状αオレフィンを製造する方法。
【請求項2】
付加的に液化不活性ガスを反応器(2)へと導入する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
液化不活性ガスとして、炭化水素、有利には、プロピレン、プロパン、及び/又は4つの炭素原子を有した炭化水素を使用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
反応器(2)が機械的な撹拌機構(2a)、有利には、ガス導入攪拌機、特に有利には中空シャフト導入攪拌機を有している、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
反応器(2)の温度調節を、供給される液相(1a,12)の体積流の制御により行う、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−518834(P2013−518834A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551530(P2012−551530)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000131
【国際公開番号】WO2011/095273
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(391009659)リンデ アクチエンゲゼルシャフト (106)
【氏名又は名称原語表記】Linde Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Klosterhofstrasse 1, D−80331 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】