説明

線状物冷却装置

【課題】 樹脂被覆後の被覆電線など、走行する高温の線状物を冷却水中で冷却するに際し、前記線状物に対する冷却速度を高めることができて、従来に比べて冷却に要する線状物走行距離を短くして装置のコンパクト化とその設置面積の省スペース化を図ることができる線状物冷却装置を提供すること。
【解決手段】 押出機41により樹脂被覆され、この樹脂被覆後の走行する高温の線状物42を冷却水中で冷却する線状物冷却装置において、前記冷却水を貯留するとともに、線状物42を通過させる貯水槽21と、貯水槽21内に線状物走行方向に沿って間隔をあけて複数個設けられ、冷却水中で線状物42に向けて水を噴射する水噴射ノズル22とを備えていることを特徴とする線状物冷却装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する高温の線状物を冷却水中で冷却する線状物冷却装置に関するものであり、特に被覆電線などの樹脂被覆された線状物を製造する際に好適に用いられる線状物冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
線状物、例えば被覆電線を製造する電線被覆装置は、芯線を走行させながら該芯線に樹脂被覆を施し、樹脂被覆されて走行する高温の被覆電線を冷却し、冷却された被覆電線を巻き取るようにしたものである。このような電線被覆装置には、押出機によって施された樹脂被覆を冷却硬化(凝固定着、冷却固化)させるために、樹脂被覆後の走行する高温の被覆電線を冷却する冷却装置が備えられている。
【0003】
従来、被覆電線の冷却装置は、一般に、押出機による樹脂被覆後の高温の被覆電線を水平に延びる冷却水槽(貯水槽)の冷却水中に浸し走行させて冷却するように構成されている。なお、押出機による樹脂被覆後の該樹脂被覆の温度は、通常、150〜300℃であり、樹脂被覆が例えばPVC(ポリ塩化ビニル)であれば180℃前後の値である。
【0004】
しかしながら、前記冷却水槽(貯水槽)より構成される従来の被覆電線の冷却装置では、単に、高温の被覆電線を冷却水槽内の冷却水中を走行させるようにしたものであるから、前記被覆電線に対する冷却速度が遅く、このため、被覆電線の走行距離が長くとれる長尺の冷却水槽が必要で大きな設置スペースを必要とするという欠点があった。
【特許文献1】特許第2951379号公報(第1図、第6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の課題は、樹脂被覆後の被覆電線など、走行する高温の線状物を冷却水中で冷却するに際し、前記線状物に対する冷却速度を高めることができて、従来に比べて冷却に要する線状物走行距離を短くして装置のコンパクト化とその設置面積の省スペース化を図ることができる線状物冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
請求項1の発明は、走行する高温の線状物を冷却水中で冷却する線状物冷却装置において、前記冷却水を貯留するとともに、前記線状物を通過させる貯水槽と、前記貯水槽内に線状物走行方向に沿って間隔をあけて複数個設けられ、前記冷却水中で前記線状物に向けて水を噴射する水噴射ノズルとを備えていることを特徴とする線状物冷却装置である。
【0008】
請求項2の発明は、押出機により樹脂被覆され、この樹脂被覆後の走行する高温の線状物を冷却水中で冷却する線状物冷却装置において、前記冷却水を貯留するとともに、前記線状物を通過させる貯水槽と、前記貯水槽内に線状物走行方向に沿って間隔をあけて複数個設けられ、前記冷却水中で前記線状物に向けて水を噴射する水噴射ノズルとを備えていることを特徴とする線状物冷却装置である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の線状物冷却装置において、前記水噴射ノズルが、線状物走行路を挟むように対向配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の線状物冷却装置は、樹脂被覆後の被覆電線など、高温の線状物が導かれて冷却水中を走行する貯水槽内に、線状物走行路に沿って上流側から下流側へ間隔をあけて複数個設けられ、冷却水中で線状物に向けて水を噴射する水噴射ノズルを備えている。したがって、水噴射ノズルが水を噴射することで発生する水流によって貯水槽内の冷却水を攪拌することにより、冷却水中を走行する線状物の表面に、連続的に新たな冷却水流を導き与えて接触させることで、水噴射ノズルを備えない従来装置に比べて、線状物と冷却水との熱交換を効率良く行って線状物に対する冷却速度を高めることができる。これにより、従来装置に比べて、所望温度までの冷却に要する線状物走行距離を短くして装置のコンパクト化とその設置面積の省スペース化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態による線状物冷却装置の構成を概略的に示す平面図、図2は図1におけるプレ冷却部のA−A断面図、図3は図1におけるメイン冷却部のB−B断面図である。
【0012】
図1〜図3に示すように、本実施形態の線状物冷却装置は、被覆電線製造ラインに備えられて、押出機41により樹脂被覆され、この樹脂被覆後の走行する高温の被覆電線42を冷却するものであって、押出機41と図示しない引取機との間の位置に設置されており、押出機41からの高温の被覆電線42が通るプレ冷却部10と、プレ冷却部10を通過した被覆電線42が通るメイン冷却部20とを備えている。プレ冷却部10の受水槽11に連ねてメイン冷却部20の貯水槽21が連設されている。
【0013】
プレ冷却部10は、上側が開放可能な蓋付きの箱状の受水槽11と、受水槽11内に被覆電線42の走行方向に沿って上流側から下流側にわたって所定の間隔をあけて、かつ、被覆電線42の走行路を挟むように対向配置の状態で設けられた複数個のミスト噴射ノズル(ミストスプレーノズル)12と、これらのミスト噴射ノズル12から冷却水をミスト状態で円錐体形状に噴射させるために各ミスト噴射ノズル12に冷却水を供給する冷却水供給管13とを備えている。
【0014】
また、メイン冷却部20は、上側が開放可能な蓋付きの箱状をなし、冷却水を貯留し、被覆電線42を冷却水中を走行させる貯水槽21と、貯水槽内に被覆電線42の走行方向に沿って上流側から下流側にわたって所定の間隔をあけて、かつ、被覆電線42の走行路を挟むように対向配置の状態で設けられ、冷却水中で水を噴射する複数個の水噴射ノズル22と、これらの水噴射ノズル22に加圧水を供給するための加圧水供給管23とを備えている。
【0015】
なお、受水槽11の受水槽端部板11aには、被覆電線42が通過可能なようにU字形切欠開口(図示省略)が設けられている。また、受水槽11と貯水槽21との共用仕切壁30、及び貯水槽端部板21aにも被覆電線42が通過可能なようにU字形切欠開口(図示省略)が設けられている。貯水槽21内の冷却水が、共用仕切壁30のU字形切欠開口と貯水槽端部板21aのU字形切欠開口とからこぼれ落ちるが、貯水槽21内には加圧水供給管23より水噴射ノズル22を通して冷却水が供給され、水位を一定に保持するようになっている。そして、貯水槽21の貯水槽端部板21aの下側には、貯水槽21からの冷却水を返送し循環させるための図示しないドレン容器及びドレン配管が設けられている。また、受水槽11の下側には、ミスト噴射ノズル12からミスト状態で噴射された冷却水や、共用仕切壁30のU字形切欠開口からの冷却水を返送するために、図示しないドレン容器及びドレン配管が設けられている。
【0016】
このように構成される線状物冷却装置においては、押出機41からの走行する高温の被覆電線42は、まず、受水槽11内に入り、受水槽11内を通過する間に、各ミスト噴射ノズル12により冷却水がミスト状態で円錐体形状に拡がってまんべんなく噴射されることで、所定温度にまで冷却されてその硬化が進行する。
【0017】
この受水槽11を出て、被覆電線42は、直ちに貯水槽21内に入る。この貯水槽21内を通過する間に、各水噴射ノズル22から水を噴射することで被覆電線42に向けて発生する水流によって貯水槽21内の冷却水が積極的に攪拌されることにより、冷却水中を走行する被覆電線42の表面に、連続的に新たな冷却水流が導き与えられて接触する。これにより、水噴射ノズル22を備えない場合に比べて、被覆電線42と冷却水との熱交換が効率良くなされて被覆電線42に対する冷却速度を高めることができ、貯水槽21の被覆電線走行方向の長さが従来より短くても、貯水槽21内を通過する間に被覆電線42を所定の温度にまで冷却して、巻取りの際断面形状の変形が生じることのないように硬化させることができる。
【0018】
次に、貯水槽21内に水噴射ノズル22を備えない装置との比較を行ったので、これについて説明する。図5は比較例の線状物冷却装置の構成を概略的に示す平面図、図6は図5におけるメイン冷却部のC−C断面図である。ここで、この比較例では図1に示す装置と同一部分には図1と同一の符号を付してある。すなわち、図5及び図6に示すように、前記実施形態の装置との相違点は、比較例では、そのメイン冷却部20’の貯水槽21内に水噴射ノズルが設けられていない点にある。貯水槽21は図示しない給水管にて注水されるようになっている。
【0019】
前記実施形態及び比較例ともに、受水槽11の被覆電線走行方向の長さ:1.5m、貯水槽21の被覆電線走行方向の長さ:3mにし、押出機からの、φ1.0mmの銅線に樹脂被覆をされたφ1.6mmの被覆電線を、走行速度600m/分にて通過させて冷却を行った。前記実施形態の装置では、被覆電線走行方向におけるミスト噴射ノズル12同士の間隔は70mmとし(比較例も同じ)、被覆電線走行方向における水噴射ノズル22同士の間隔は70mmとした。その結果、比較例では、所定温度まで冷却がなされずに引取機を経て巻取りされるため、図7に示すように、得られた被覆電線は、巻取りの際にその樹脂被覆の一部がつぶれて変形が生じていた。
【0020】
これに対して、前記実施形態の装置によると、所定温度まで冷却されて十分に樹脂被覆の冷却硬化がなされるので、図4に示すように、変形のない円形断面を有する被覆電線が得られた。
【0021】
なお、図1に示す線状物冷却装置は、連続鋳造により製造される線材の冷却にも適用可能であり、また、電線以外の用途として例えば樹脂被覆鋼線を製造する際の該樹脂被覆鋼線の冷却にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態による線状物冷却装置の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1におけるプレ冷却部のA−A断面図である。
【図3】図1におけるメイン冷却部のB−B断面図である。
【図4】図4は本発明に係る図であって、巻き取られた被覆電線の断面形状を説明するための図である。
【図5】比較例の線状物冷却装置の構成を概略的に示す平面図である。
【図6】図5におけるメイン冷却部のC−C断面図である。
【図7】比較例に係る図であって、巻き取られた被覆電線の断面形状を説明するための図である。
【符号の説明】
【0023】
10…プレ冷却部
11…受水槽
12…ミスト噴射ノズル
13…冷却水供給管
20…メイン冷却部
21…貯水槽
22…水噴射ノズル
23…加圧水供給管
30…共用仕切壁
41…押出機
42…被覆電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する高温の線状物を冷却水中で冷却する線状物冷却装置において、前記冷却水を貯留するとともに、前記線状物を通過させる貯水槽と、前記貯水槽内に線状物走行方向に沿って間隔をあけて複数個設けられ、前記冷却水中で前記線状物に向けて水を噴射する水噴射ノズルとを備えていることを特徴とする線状物冷却装置。
【請求項2】
押出機により樹脂被覆され、この樹脂被覆後の走行する高温の線状物を冷却水中で冷却する線状物冷却装置において、前記冷却水を貯留するとともに、前記線状物を通過させる貯水槽と、前記貯水槽内に線状物走行方向に沿って間隔をあけて複数個設けられ、前記冷却水中で前記線状物に向けて水を噴射する水噴射ノズルとを備えていることを特徴とする線状物冷却装置。
【請求項3】
前記水噴射ノズルが、線状物走行路を挟むように対向配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の線状物冷却装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−120381(P2006−120381A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305206(P2004−305206)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】