説明

締結部材、締結装置、および、締結方法

【課題】被取付部材とこの被取付部材に貫通するボルトとの隙間へ液状充填材の充填が容易な締結方法を提供する。
【解決手段】内周面側を相対する状態の一対の皿ばね座金120間に、略環状の袋状の充填空間131Aに液状充填材132を充填した締結部材130を配置させてPC鋼棒102に装着する。座金110およびナット103を取り付け、PC鋼棒102に緊張力を作用させる。皿ばね座金120が平板状に潰れるとともに、締結部材130が内周側に向けて破裂し、液状充填材132が、アンカープレート101の貫通孔とPC鋼棒102との間の隙間104に流れ込んで充填する。締結部材130を装着するのみで、通常のナット103の螺着作業で液状充填材132を充填でき、締結作業性を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被取付部材の貫通孔に貫通されたボルトにナットを螺着して前記被取付部材を締結する際に用いられる締結部材、締結装置、および、締結部材を用いた締結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばPC杭の製造の際に、PC鋼棒とこのPC鋼棒を貫通し緊張力を作用させるアンカープレートとの間に隙間が生じる。このことにより、PC鋼棒が腐蝕して遅れ破壊が生じるおそれがある。
したがって、従来では、例えばナットをPC鋼棒に螺着して緊張力を作用させる前にPC鋼棒とアンカープレートとの間の隙間に、タールやグリースなどの充填材を充填している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したように、充填材を充填する作業は煩雑で、作業の効率性が望まれている。
【0004】
本発明の目的は、このような点に鑑みて、被取付部材とこの被取付部材に貫通されるボルトとの間への液状充填材の充填が容易な締結部材、締結装置、および、締結方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に記載の締結部材は、被取付部材の貫通孔に貫通されたボルトにナットを螺着して前記被取付部材を締結する際に用いられる締結部材であって、前記被取付部材および前記ナット間に介在され、略液密な充填空間を有し前記ナットの前記ボルトへの螺着により破裂可能な袋体と、この袋体の充填空間内に充填された液状充填材と、を具備したことを特徴とする。
この発明では、液状充填材が充填された略液密な充填空間を有しナットのボルトへの螺着により破裂可能な袋体を、被取付部材およびナット間に配置させる。そして、ナットの螺着により、袋体の充填空間が破裂して充填された液状充填材が流れ出して貫通孔内に流通して被取付部材の貫通孔とボルトとの間に液状充填材が流れ込んで充填される。
このことにより、ナットを螺着する作業のみで被取付部材およびボルト間の隙間が液状充填材にて充填され、被取付部材の締結作業性が向上する。
ここで、液状充填材としては、水溶液のような粘性の低いものの他、例えばグリースやペーストなどのような粘性を有したものなど、いずれの流動性物を対象とすることができる。
【0006】
そして、本発明では、請求項1に記載の締結部材であって、前記袋体は、前記ボルトを挿通する略環状に形成された構成とすることが好ましい。
この発明では、袋体をボルトが挿通する略環状に形成している。
このことにより、座金のように装着させるのみで、締結作業性を向上できる。
【0007】
また、本発明では、請求項1または請求項2に記載の締結部材であって、前記袋体は、前記充填空間が複数区画形成された構成とすることが好ましい。
この発明では、袋体の充填空間を複数区画形成する。
このことにより、ナットの螺着による複数の充填空間の破裂により、複数の箇所から液状充填材が被取付部材の貫通孔とボルトとの間に流れ込んで、液状充填材による隙間の良好な充填が得られる。
【0008】
さらに、本発明では、請求項1に記載の締結部材であって、前記袋体は、内周側が外周側に連通し前記ボルトを挿通可能な切欠を有した平面視略U字状または平面視略C字状に形成された構成とすることが好ましい。
この発明では、内周側が外周側に連通しボルトを挿通可能な切欠を有した平面視略U字状または平面視略C字状に袋体を形成している。
このことにより、ボルトにナットを取り付けた状態でも切欠からボルトを内周側に挿通させて被取付部材とナットとの間に配置させることができ、締結作業性を向上できる。
【0009】
また、本発明では、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の締結部材であって、前記袋体は、合成樹脂フィルムにて形成された構成とすることが好ましい。
この発明では、合成樹脂フィルムにて袋体を形成する。
このことにより、ナットの螺着により破裂して液状充填材が流れ出る構成が容易に得られるとともに、液状充填材を充填する製造も容易で、安価に提供できる。
【0010】
さらに、本発明では、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の締結部材であって、前記ボルトは、PC(Prestressed Concrete)鋼棒であり、前記被取付部材は、アンカープレートであり、前記液状充填材は、防錆剤であることを特徴とする。
この発明では、PC鋼棒とアンカープレートの貫通孔との間の隙間に、ナットの螺着により袋体が破裂して流れ出る防錆剤を充填させる。
このことにより、PC鋼棒を用いるプレキャストコンクリート製品におけるPC鋼棒の腐蝕による損傷を防止するための螺着作業が容易となる。
【0011】
本発明に記載の締結装置は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の締結部材と、前記ボルトが貫通可能な略環状で前記被取付部材および前記ナット間に配設される円板部と、この円板部の外周縁近傍に周方向に沿った略円筒状に突設され内径が前記ナットの最大径寸法より径大で内周側に前記締結部材が配置されるリブ部とを有した受け治具と、を具備したことを特徴とする。
この発明では、ボルトが貫通可能な略環状で被取付部材およびナット間に配設される円板部の外周縁近傍に周方向に沿った略円筒状で内径がナットの最大径寸法より径大のリブ部を突設した受け治具を配置させ、この受け治具のリブ部の内周側に締結部材を配置させる。締結部材は、リブ部により容易に位置決め配置される。そして、ナットを螺着させることで締結部材の袋体が破裂して流出する液状充填材は、リブ部により外周側に流れ出ることを規制される。
このことにより、液状充填材が被取付部材の貫通孔およびボルト間に良好に流れ込み、円板部にリブ部を設けた簡単な構成で効率よく充填できる。
【0012】
そして、本発明では、請求項7に記載の締結装置であって、外径が前記受け治具のリブ部の内径と同径または若干径小に形成され前記受け治具の内周側に配置された前記締結部材と前記ナットとの間に介在される座金を具備した構成とすることが好ましい。
この発明では、外径が受け治具のリブ部の内径と同径または若干径小に形成された座金を、受け治具の内周側に配置された締結部材とナットとの間に配設させる。そして、ナットの螺着により、座金が受け治具のリブ部の内周側に収容される状態となる。
このことにより、締結部材の袋体が破裂して流出する液状充填材は、リブ部の開口する軸方向の一面側が座金にて閉塞される状態となり、液状充填材が被取付部材の貫通孔およびボルト間により良好に流れ込み、円板部にリブ部を設けた簡単な構成でより効率よく充填できる。
【0013】
また、本発明では、請求項7または請求項8に記載の締結装置であって、外径が前記受け治具のリブ部の内径より径小で内周面側に前記締結部材が配置される略裁頭形状に形成され前記受け治具の円板部および前記ナット間に介在される裁頭形状物を具備した構成とすることが好ましい。
この発明では、外径が受け治具のリブ部の内径より径小で略裁頭形状に形成された例えば皿ばね座金などの裁頭形状物を、受け治具の円板部とナットとの間に配設するとともに、裁頭形状物の内周面側に締結部材を配置させる。そして、ナットの螺着により、裁頭形状物が略平板上に変形されつつ締結部材の袋体が内周側であるボルト側に向けて破裂する状態となる。
このことにより、袋体が破裂して流れ出る液状充填材は、良好に被取付部材の貫通孔およびボルト間に流れ込み易く、広く出回っている簡単な構成の裁頭形状物を利用する簡単な構成で、より効率よく良好に充填できる。
【0014】
さらに、本発明では、請求項9に記載の締結部材であって、前記裁頭形状物は、内周面が相対する状態に一対設けられた構成とすることが好ましい。
この発明では、内周面が相対する状態に裁頭形状物を一対設ける。
このことにより、一対の裁頭形状物が略平板状に変形する際に締結部材の袋体が内周側であるボルト側に向けて破裂する状態が容易に得られるとともに、裁頭形状物の周縁同士の周方向での接合状態により、流れ出る液状充填材が外周側へ漏れ出ることをさらに防止でき、より効率よく良好に充填できる。
【0015】
本発明に記載の締結装置は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の締結部材と、内周面側に前記締結部材が配置される略裁頭形状で前記被取付部材および前記ナット間に介在される裁頭形状物と、を具備したことを特徴とする。
この発明では、略裁頭形状の裁頭形状物を被取付部材とナットとの間に配設するとともに、裁頭形状物の内周面側に締結部材を配置させる。そして、ナットの螺着により、裁頭形状物が略平板上に変形されつつ締結部材の袋体が内周側であるボルト側に向けて破裂する状態となる。
このことにより、袋体が破裂して流れ出る液状充填材は、良好に被取付部材の貫通孔およびボルト間に流れ込み易く、広く出回っている簡単な構成の裁頭形状物を利用するのみでよく、より効率よく良好に充填できる。
【0016】
そして、本発明では、請求項11に記載の締結装置であって、前記裁頭形状物は、内周面が相対する状態に一対設けられた構成とすることが好ましい。
この発明では、内周面が相対する状態に裁頭形状物を一対設ける。
この発明では、一対の裁頭形状物が略平板状に変形する際に締結部材の袋体が内周側であるボルト側に向けて破裂する状態が容易に得られるとともに、裁頭形状物の周縁同士の周方向での接合状態により、流れ出る液状充填材が外周側へ漏れ出ることを防止でき、一対の裁頭形状物を用いる簡単な構成でより効率よく良好に充填できる。
【0017】
本発明に記載の締結方法は、被取付部材の貫通孔に貫通されたボルトにナットを螺着して前記被取付部材を締結する締結方法であって、液状充填材を袋体内に略液密に充填した締結部材を用い、前記被取付部材と前記ナットとの間に位置する状態に前記締結部材を配置させ、前記ナットを前記ボルトに螺着させて前記袋体を破裂させて前記液状充填材を前記貫通孔と前記ボルトとの間に流入させることを特徴とする。
この発明では、液状充填材を袋体内に略液密に充填した締結部材を、被取付部材とナットとの間に位置する状態に配置させる。そして、ナットをボルトに螺着させて袋体を破裂させて液状充填材を貫通孔とボルトとの間に流入させる。
このことにより、締結部材を座金のように装着させるのみで、通常の螺着作業により液状充填材の充填が得られ、締結作業性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態における締結装置を図面に基づいて説明する。なお、本実施の形態における締結装置は、例えばPC(Prestressed Concrete)の製造に利用する構成を例示するが、被取付部材をボルトおよびナットの螺着により締結する各種用途に利用できる。
図1は、本実施形態における締結装置の概略構成を示す断面図である。
【0019】
〔締結装置の構成〕
図1において、100は締結装置で、この締結装置100は、例えばPC杭の製造の際に用いられる。すなわち、締結装置100は、被取付部材としての鋼板のアンカープレート101に設けられた貫通孔101Aに嵌挿されたボルトとしてのPC鋼棒102の雄ねじ部102Aにナット103を螺着させて、アンカープレート101を締結すなわちPC鋼棒102に緊張力を作用させる際に利用され、PC鋼棒102とアンカープレート101の貫通孔101Aとの間に生じる隙間を閉塞させる。
この締結装置100は、座金110と、一対の裁頭形状物としての皿ばね座金120と、締結部材130と、を備えている。
【0020】
座金110は、例えば鋼板などにより、PC鋼棒102を貫通可能な平板環状に形成されている。この座金110は、アンカープレート101とナット103との間に位置して内周側にアンカープレート101の貫通孔に嵌挿されたPC鋼棒102の雄ねじ部102Aを嵌挿して配設される。
皿ばね座金120は、例えば鋼板などにより、PC鋼棒102を貫通可能な略平板環状で、外周縁が一面側に湾曲する略裁頭形状に形成されている。これら皿ばね座金120は、内周面が相対する状態に、アンカープレート101とナット103すなわち座金110との間に位置して、内周側にPC鋼棒102の雄ねじ部102Aを嵌挿して配設される。
【0021】
締結部材130は、リング状の略液密な充填空間131Aを有し、いわゆるタイヤチューブ状に形成された略環状の袋体131を備えている。そして、締結部材130は、袋体131の充填空間131A内に液状充填材132が充填され、略環状に構成されている。
袋体131は、例えばポリエチレンなどの合成樹脂フィルムにて内周側にPC鋼棒102を嵌挿可能な略環状で、軸方向での圧縮力の作用により内容物である充填された液状充填材132が流出する状態である破裂可能に形成されている。なお、合成樹脂フィルムに限らず、液状充填材132を液密に充填可能な各種材料を利用できる。
そして、合成樹脂フィルムを用いることで、液状充填材132を封入して所定の寸法の略環状に締結部材130を形成する際に、例えば2枚のシート状材を熱圧着などにより形成する食品の包装などに広く利用されている方法を利用できるので好ましい。さらに、合成樹脂フィルムを用いることにより、圧縮力の作用により潰される際に軸方向で略均一に圧縮力が作用される状態に変形されるので好ましい。そしてさらに、合成樹脂フィルムを用いる場合、ナット103が螺着されてPC鋼棒102に緊張力が作用する状態でも厚さ寸法は数十μm程度であり、PC鋼棒102に緊張力を作用させる際には、PC鋼棒102の1m当たり約4mmの伸びとなるので、PC鋼棒102の緊張力の変動などに影響せず、ナット103の締め付けトルクもナット103の回転角などにより設定されるので影響せず、好ましい。
【0022】
液状充填材132は、例えば防錆剤、タール、グリース、シーリング材など、袋体131の破裂により流れ出てアンカープレート101の貫通孔101Aの内周面とPC鋼棒102の外周面との間の隙間104に流れ込むことが可能な流動性を有した液状物である。この液状充填材132は、例えばPC鋼棒102の腐食防止、隙間の液密や気密のためのシールなど、各種目的に応じて適宜選択される。
また、液状充填材132は、隙間104の容積に応じて、また防錆やシールなどの目的に応じて、必要量が袋体131の充填空間131Aに充填される。すなわち、締結部材130は、液状充填材132の特性や隙間104の容積などに応じて、適宜の大きさに形成されている。
【0023】
〔締結装置の動作〕
次に、上記締結装置100の動作について、図面を参照して説明する。
図2は、PC鋼棒に緊張力を作用させた途中の状態を示す説明図である。
【0024】
まず、アンカープレート101の貫通孔101Aに貫通されたPC鋼棒102の雄ねじ部102Aに、一方の皿ばね座金120を外周縁側がアンカープレート101から離間する方向に湾曲する状態に装着する。この装着した皿ばね座金120の内周面側に載置する状態に、締結部材130を内周側にPC鋼棒102の雄ねじ部102Aを相対的に嵌挿させて装着する。この後、他方の皿ばね座金120を、締結部材130を覆うように内周側にPC鋼棒102の雄ねじ部102Aを相対的に嵌挿させて装着する。そして、座金110を装着し、図1に示すように、ナット103を取り付ける。
この状態で、PC鋼棒102をナット103が取り付けられた側と反対側に引っ張るように緊張力を作用、あるいは、ナット103をねじ込む。このことにより、皿ばね座金120が弾性あるいは塑性変形されて平板状に潰される状態となるとともに、皿ばね座金120間に介在する締結部材130も押し潰されるように袋体131が破裂して充填されていた液状充填材132が流れ出る。この液状充填材132が流れる際、皿ばね座金120は周縁同士が周方向で圧接する接合状態で内周面同士が近接するように変形するので、締結部材130は外周縁側から次第に押し潰される状態となり、内容物である液状充填材132は内周側へ絞り出される状態となる。このことにより、袋体131は内周側近傍が破裂する状態となる。さらに、流れ出る液状充填材132は、一対の皿ばね座金120の周縁同士が周方向で圧接する接合状態で皿ばね座金120の内周側が開放する状態となっていることから、液状充填材132は内側となるPC鋼棒102側に流れ出る。さらに、液状充填材132は、流通抵抗が小さい隙間104へ絞り出されるように流れ込む状態となる。
【0025】
〔締結装置の作用効果〕
上述したように、上記実施形態では、袋体131の略液密な充填空間131Aに液状充填材132が充填された締結部材130を、アンカープレート101およびナット103間に配置させる。そして、ナット103の螺着、すなわちPC鋼棒102への緊張力の作用やナット103のねじ込みにより、袋体131の充填空間131Aが破裂して充填された液状充填材132が流れ出し、アンカープレート101の貫通孔101AとPC鋼棒102との間の隙間104へ流れ込み、隙間104が充填、すなわちPC鋼棒102の表面に液状充填材132が塗布された状態となる。
このため、締結部材130を装着するのみで、通常のナット103の螺着作業のみでアンカープレート101およびPC鋼棒102間の隙間104が液状充填材132にて充填され、アンカープレート101の締結作業、すなわちPC杭を製造する際のPC鋼棒102の防錆処理の作業性を容易に向上できる。
【0026】
そして、上記実施形態では、袋体131をPC鋼棒102が挿通する略環状に形成している。
このため、締結部材130を座金110のように装着させるのみで容易に配設でき、締結作業性を向上できる。さらに、環状であることから、略均一に液状充填材132に圧縮力が作用する状態となり、液状充填材132の良好な流れ出しが得られる。
【0027】
また、上記実施形態では、合成樹脂フィルムにて袋体131を形成している。
このため、上述したように、ナット103の螺着により破裂して液状充填材132が流れ出る構成が容易に得られるとともに、液状充填材132を充填して締結部材130を製造する工程も容易で、ナット103の螺着に影響を与えずに良好に螺着でき液状充填材132の充填によるPC鋼棒102の保護などの良好な締結状態が得られる構成が容易で安価に提供できる。
【0028】
そして、上記実施形態では、PC鋼棒102とアンカープレート101の貫通孔101Aとの間の隙間104に、ナット103の螺着により袋体131が破裂して流れ出る液状充填材132である防錆剤を充填させる構成に適用している。
このため、PC鋼棒102を用いるプレキャストコンクリート製品におけるPC鋼棒102の腐蝕による遅れ破壊などの損傷を防止するための、従来煩雑な作業のPC鋼棒102の処理が容易にでき、PC鋼棒102に緊張力を作用させる螺着作業が容易にでき、特に有効である。
【0029】
また、上記実施形態では、略裁頭形状の皿ばね座金120をアンカープレート101とナット103との間に配設するとともに、皿ばね座金120の内周面側に締結部材130を配置させている。
このため、ナット103の螺着により皿ばね座金120が略平板上に変形されつつ締結部材130の袋体131が内周側であるPC鋼棒102側に向けて破裂する状態となり、袋体131が破裂して流れ出る液状充填材132が良好にアンカープレート101の貫通孔101AおよびPC鋼棒102間の隙間104に流れ込み易くなり、広く出回っている簡単な構成の皿ばね座金120を利用する簡単な構成で、より効率よく良好に液状充填材132の充填が得られる。
【0030】
さらに、皿ばね座金120を内周面が相対する状態に一対配設し、これら対向する皿ばね座金120間に締結部材130を配設させている。
このため、上述したように、液状充填材132がPC鋼棒102側に向けて絞り出されるように流れるとともに、外周縁が互いに圧接する状態となるので、液状充填材132が外周側に漏れ出ることを防止でき、より効率よく良好に液状充填材132を充填できる。
【0031】
〔実施形態の変形例〕
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などの種々の変更は本発明に含まれるものである。
【0032】
すなわち、上述したように、PCの製造に適用するのみならず、ボルトおよびナットの螺着により被取付部材を締結する各種用途に適用できる。例えば、2枚の重ね合わされる鋼板をボルトおよびナットの螺着により締結すなわち一体に連結する場合などにも利用できる。
そして、上記実施形態では、座金110を用いたが、座金110を用いなくてもよい。
【0033】
また、皿ばね座金120を内周面が相対する状態に一対設けて説明したが、1つのみ利用してもよい。
例えば、締結部材130をPC鋼棒102に装着した後にこの締結部材130を覆うように皿ばね座金120を取り付けてもよい。
一方、皿ばね座金120を内周面がナット103側に対向するように装着した後に締結部材130を皿ばね座金120の内周面側に載置する状態に取り付けてもよい。この場合、さらに締結部材130を覆うように座金110を装着すると、液状充填材132が内周側へ流出し易くなるので好ましい。
そして、裁頭形状物として広く利用されている皿ばね座金120を用いたが、皿ばね座金120に限らず、例えば座金110を裁頭形状に形成したものなどを用いててもよい。
【0034】
さらに、皿ばね座金120を用いず、例えば図3に示すような、受け治具150を用いてもよい。
具体的には、受け治具150は、例えば鋼板などにて、PC鋼棒102が貫通可能な略環状の円板部151と、この円板部151の外周縁に周方向に沿った略円筒状に一連に突設されたリブ部152とを有し、略平皿状に形成されている。この受け治具150は、リブ部152の内径がナット103の最大径寸法より径大、すなわち座金110が用いられる場合、座金110の外径と略同寸法もしくは若干径大に形成され、ナット103のねじ込みにより、ナット103あるいは座金110が受け治具150のリブ部152の内周側に挿入して端面が円板部151の平面に当接可能に形成されていることが好ましい。
そして、ナット103の螺着処理工程の際には、アンカープレート101の貫通孔101Aに貫通されたPC鋼棒102の雄ねじ部102Aに、受け治具150をリブ部152がナット103側に向けて突出する状態で装着する。この装着した受け治具150のリブ部152の内周側に締結部材130を挿入して配設する。この後、座金110を装着し、ナット103を取り付け、螺着する。このナット103の螺着により、座金110が受け治具150のリブ部152内に移動されて締結部材130を押し潰す。このことにより、締結部材130が破裂して液状充填材132が流れ出して隙間104内に充填される。
この図3に示すような構成でも、上記一実施形態と同様に、リブ部152により液状充填材132が内周側であるPC鋼棒102側へ流れる状態が得られ、簡単な構成で液状充填材132の良好な充填が容易に得られる。特に、リブ部152の内径が座金110の外径と略同寸法もしくは若干径小に形成した構成とすることで、受け治具150におけるリブ部152の先端縁の開口面が座金110にて閉塞される状態となり、液状充填材132が漏れ出ることを防止でき、より効率よく良好な充填が得られる。
【0035】
また、本発明では、上記図3に示す構成に加え、上記図1および図2に示す一実施形態の一対の皿ばね座金120を用いる例えば図4に示す実施形態とするなどしてもよい。
すなわち、この図4に示す実施形態では、リブ部の内周側に収容される径寸法の皿ばね座金120を一対用い、間に締結部材130を配設する。
この図4に示す実施形態でも、上記各実施形態と同様に、液状充填材132が内周側であるPC鋼棒102側へ流れる状態が得られ、簡単な構成で液状充填材132の良好な充填が容易に得られる。
【0036】
また、締結部材130としては、環状に限らず、平面視略U字状または平面視略C字状としてもよい。
すなわち、内周縁が外周縁に連通する切欠を有する構成としてもよい。この構成では、PC鋼棒102を切欠から内周側に相対的に挿入させることで取り付けることができる。なお、平面視略C字状の場合には、切欠を広げるようにしてPC鋼棒102に装着させればよい。このことにより、既にナット103がPC鋼棒102に取り付けられた状態でも、ナット103や座金110を取り外すことなく締結部材130を装着できるので汎用性および作業性を向上できる。
また、締結部材130として、例えば略直線上のチューブ状に形成し、PC鋼棒102の周面に巻き付けるようにして配設し、粘着テープなどにて取り付けるようにしてもよい。このような構成の場合、例えばリブ部152の内周側に配設したり、一対の皿ばね座金120間に配設したりすることで、比較的に容易に作業できる。
【0037】
さらに、締結部材130としては、環状の充填空間131Aを1つ有した締結部材130を用いて説明したが、例えば周方向で充填空間131Aを複数区画した構成としてもよい。この構成によれば、各充填空間131Aの破裂により複数箇所から液状充填材132が隙間104へ流れ込む状態となる。
また、皿ばね座金120と締結部材130とをそれぞれ別体として装着する構成を例示したが、一対の皿ばね座金120の間に締結部材130が一体的に取り付けられた一体構成としてもよい。
【0038】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順などは、本発明の目的を達成できる範囲で他の構成に変更するなどしてもよい。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の締結装置における液状充填材の充填状況を確認する実験について図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
図5は、実験装置を示す断面図である。
【0040】
(実験装置)
PC鋼棒102として、径寸法が32mmの規格品(ねじの呼び;M33×2 高周波熱錬株式会社規格)を用いた。
ナット103には、規格品(B=58mm,H=49mm 高周波熱錬株式会社規格)を用いた。
座金110には、規格品(D=72mm,d=34.5mm,厚さ寸法t=4.5mm 高周波熱錬株式会社規格)を用いた。
アンカープレート101には、規格品(貫通孔101Aの径寸法d1=36mm,厚さ寸法t=32mm(G孔なし) 高周波熱錬株式会社規格)を用いた。
皿ばね座金120には、軽荷重用の規格品B−71(D=71,d=36 高周波熱錬株式会社規格)を用いた。
締結部材130としては、液状充填材として流動性物であるねりからしを封入した約2gのねりからしパック(テーオー食品株式会社製)を粘着テープにて略環状に4つ連結して形成した。
【0041】
そして、図5に示すように、図示しない油圧ジャッキ(理研精機株式会社製 商品名;BS7.7-720-10)にPC鋼棒102を連結し、油圧ジャッキの筐体に略円筒状の治具であるチェア160を介してアンカープレート101を配置させ、締結部材130を間に挟み込んだ一対の皿ばね座金120、座金110およびナット103をPC鋼棒102に装着した。この状態で、油圧ジャッキを駆動させてPC鋼棒102をアンカープレート101から引き抜く状態にナット103側と反対側へ緊張力を作用させた。
この結果、約10kNで載荷した時点で、ねりからしパックが破裂した。そして、油圧ジャッキの駆動を停止させ、ねりからしの充填状況を確認した。その結果、PC鋼棒102の全周に亘って、かつPC鋼棒102がアンカープレート101の貫通孔101Aに嵌挿している位置、すなわち隙間104の内部までねりからしが付着していることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る締結装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】上記一実施形態におけるPC鋼棒に緊張力を作用させた状態を示す説明図である。
【図3】本発明の他の実施形態における締結装置の概略構成を示す断面図である。
【図4】本発明のさらに他の実施形態における締結装置の概略構成を示す断面図である。
【図5】本発明の締結装置における液状充填材の充填状況を確認する実験装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
100……締結装置
101……被取付部材としてのアンカープレート
101A…貫通孔
102……ボルトとしてのPC鋼棒
103……ナット
104……隙間
110……座金
120……裁頭形状物としての皿ばね座金
130……締結部材
131……袋体
131A…充填空間
132……液状充填材
150……受け治具
151……円板部
152……リブ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付部材の貫通孔に貫通されたボルトにナットを螺着して前記被取付部材を締結する際に用いられる締結部材であって、
前記被取付部材および前記ナット間に介在され、略液密な充填空間を有し前記ナットの前記ボルトへの螺着により破裂可能な袋体と、
この袋体の充填空間内に充填された液状充填材と、
を具備したことを特徴とした締結部材。
【請求項2】
請求項1に記載の締結部材であって、
前記袋体は、前記ボルトを挿通する略環状に形成された
ことを特徴とした締結部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の締結部材であって、
前記袋体は、前記充填空間が複数区画形成された
ことを特徴とした締結部材。
【請求項4】
請求項1に記載の締結部材であって、
前記袋体は、内周側が外周側に連通し前記ボルトを挿通可能な切欠を有した平面視略U字状または平面視略C字状に形成された
ことを特徴とした締結部材。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の締結部材であって、
前記袋体は、合成樹脂フィルムにて形成された
ことを特徴とした締結部材。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の締結部材であって、
前記ボルトは、PC(Prestressed Concrete)鋼棒であり、
前記被取付部材は、アンカープレートであり、
前記液状充填材は、防錆剤である
ことを特徴とした締結部材。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の締結部材と、
前記ボルトが貫通可能な略環状で前記被取付部材および前記ナット間に配設される円板部と、この円板部の外周縁近傍に周方向に沿った略円筒状に突設され内径が前記ナットの最大径寸法より径大で内周側に前記締結部材が配置されるリブ部とを有した受け治具と、
を具備したことを特徴とした締結装置。
【請求項8】
請求項7に記載の締結装置であって、
外径が前記受け治具のリブ部の内径と同径または若干径小に形成され前記受け治具の内周側に配置された前記締結部材と前記ナットとの間に介在される座金を具備した
ことを特徴とした締結装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の締結装置であって、
外径が前記受け治具のリブ部の内径より径小で内周面側に前記締結部材が配置される略裁頭形状に形成され前記受け治具の円板部および前記ナット間に介在される裁頭形状物を具備した
ことを特徴とした締結部材
【請求項10】
請求項9に記載の締結部材であって、
前記裁頭形状物は、内周面が相対する状態に一対設けられた
ことを特徴とした締結装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の締結部材と、
内周面側に前記締結部材が配置される略裁頭形状で前記被取付部材および前記ナット間に介在される裁頭形状物と、
を具備したことを特徴とした締結装置。
【請求項12】
請求項11に記載の締結装置であって、
前記裁頭形状物は、内周面が相対する状態に一対設けられた
ことを特徴とした締結装置。
【請求項13】
被取付部材の貫通孔に貫通されたボルトにナットを螺着して前記被取付部材を締結する締結方法であって、
液状充填材を袋体内に略液密に充填した締結部材を用い、
前記被取付部材と前記ナットとの間に位置する状態に前記締結部材を配置させ、
前記ナットを前記ボルトに螺着させて前記袋体を破裂させて前記液状充填材を前記貫通孔と前記ボルトとの間に流入させる
ことを特徴とする締結方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−224010(P2008−224010A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67534(P2007−67534)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】