説明

締結部材とそれを用いた気体圧縮機

【課題】気体圧縮機において、締結部がジンケート浴でメッキ処理されたボルトとガスケットとからなる締結部材で締結されて、その締結部材からのリークを防止する。
【解決手段】ケース11とフロントヘッド12とが第一締結部材80により締結されて、内部に収容空間を有するハウジング10と、収容空間に収容されているとともに第二締結部材70によりハウジング10に締結された、気体を圧縮する圧縮機本体60とを備え、第二の締結部材70が、ジンケート浴でメッキ処理されたボルト(71)と錫メッキ処理された銅材製のガスケット(72)とを組み合わせてなる締結部材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結部材およびそれを用いた気体圧縮機に関し、詳細には、ボルトとガスケットとの組合せの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、締結部材の一方としてボルトが用いられている。そして、このボルトには、主として防錆や見栄えの観点から、各種のメッキ処理が施される。
【0003】
このメッキ処理は、従来は塩化浴(=酸性浴;塩化アンモンを主体とするメッキ浴)が主流であったが、塩化浴は塩化イオンを含むため、メッキ槽の腐食を早める排水中COD(Chemical Oxygen Demand;化学的酸素要求度)が高いという問題がある。
【0004】
そこで、近年は、環境負荷軽減等の観点から、上記塩化浴から、完全ノーシアン化亜鉛メッキ浴や、亜鉛と水酸化ナトリウム(NaOH)とからなるアルカリ性亜鉛メッキ浴などのジンケート浴に移行しつつある。
【特許文献1】特開2005−194553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本願発明者らの研究によれば、塩化浴でメッキ処理されたボルトとの組合せで従来用いられていたアルミ製のガスケットは、ジンケート浴でメッキ処理されたボルトとの組合せでは、ボルトとガスケットとの間において、従来とは比べものにならない程多くのリークが発生することが判明した。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、ジンケート浴でメッキ処理されたボルトと組み合せた状態において、リークの生じない、またはリークを大幅に抑制することができるガスケットとの組合せとしての締結部材を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、その締結部が、ジンケート浴でメッキ処理されたボルトとガスケットとからなる締結部材で締結されているとき、その締結部材からリークが生じない、またはリークを大幅に抑制することができる気体圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る締結部材は、ジンケート浴でメッキ処理されたボルトと、錫メッキ処理された銅材のガスケットとを組み合わせてなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る気体圧縮機は、ケースとフロントヘッドとが第一の締結部材により締結されて、内部に収容空間を有するハウジングと、前記収容空間に収容されているとともに第二の締結部材により前記ハウジングに締結された、気体を圧縮する圧縮機本体とを備え、前記第一の締結部材および前記第二の締結部材のうち、少なくとも一方が、本発明に係る締結部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る締結部材によれば、ジンケート浴でメッキ処理されたボルトと組み合せた状態において、リークの生じない、またはリークを大幅に抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係る気体圧縮機によれば、その締結部が、ジンケート浴でメッキ処理されたボルトとガスケットとからなる締結部材で締結されているとき、その締結部材からリークが生じない、またはリークを大幅に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る締結部材の実施形態、およびこの実施形態の締結部材を用いた気体圧縮機の一形態(本発明に係る気体圧縮機の一実施形態に相当)について、図面を用いて説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る気体圧縮機の一実施形態であるベーンロータリ形式のコンプレッサ100を示す図であり、後述の図3におけるA−A線に沿った断面を示す図である。また図2は、図1におけるB部の詳細を示す拡大図、図3は、図1における側面図である。
【0014】
図示のコンプレッサ100は、ハウジング10の内部の収容空間に、気体を圧縮する圧縮機本体60を収容してなるものである。
【0015】
ここで、ハウジング10は、一端が開放された略円筒状を呈したケース11と、ケース11の開放端を覆って、内部に閉じた収容空間を画成するフロントヘッド12とからなり、ケース11とフロントヘッド12とは、図3に示すように、圧縮機本体60の回転軸51を中心として略等角度間隔で設けられた6本の第一締結部材80(第一の締結部材)により締結されている。
【0016】
また、圧縮機本体60は、回転軸51を略中心とする矩形の頂部に対応するように4本の第二締結部材70(第二の締結部材)により、フロントヘッド12に締結されて、ハウジング10の内部の収容空間の所定位置に保持されている。
【0017】
なお、圧縮機本体60は、図示しない伝達機構によって軸回りに回転駆動される回転軸51と、回転軸51と一体的に回転するロータ50と、ロータ50の外周面の外方を取り囲む断面輪郭略楕円形状の内周面を有するとともに両端が開放されたシリンダ40と、ロータ50の外周面から突出自在にロータ50に埋設され、この突出した先端がシリンダ40の内周面に当接する、回転軸51回りに等角度間隔でロータ50に設けられた5枚の板状のベーン58と、シリンダ40の両開放端面の外側からそれぞれ、当該開放端面を覆うようにシリンダに固定されたリヤサイドブロック20およびフロントサイドブロック30とを備えている。
【0018】
そして、ロータ50の回転方向について相前後して連続する2つのベーン58,58の互いに対向する面、シリンダ40の内周面、ロータ50の外周面および両サイドブロック20,30の端面(ロータ50に向いた側の内側端面)により、ロータ50の回転に伴ってその容積が順次変化する5つの圧縮室48が画成され、容積が増大する工程にある圧縮室では気体が圧縮室48内に吸入され、容積が減少する工程(圧縮行程)にある圧縮室48では、気体が圧縮されて高圧となり、圧縮行程の終期に、圧縮室48内の気体(高圧の圧縮気体)が圧縮室48内からハウジングの収容室に吐出され、さらに、収容室からハウジング10の外部に吐出されることで、圧縮気体を外部に供給している。
【0019】
ここで、圧縮機本体60とフロントヘッド12とを締結する第二締結部材70(図2,3)は、ジンケート浴でメッキ処理されたボルト71と、錫メッキ処理された銅材のガスケット72とを組み合わせてなるものである。
【0020】
ここで、ボルト71におけるジンケート浴のメッキ処理は、ボルト71を締結対象(本実施形態ではシリンダ40)に締結した状態において少なくともボルト71がガスケット72に当接する範囲(通常はボルト71の座面)に施されていればよい。
【0021】
また、銅材のガスケット72における錫メッキ処理は、ボルト71を締結対象(本実施形態ではシリンダ40)に締結した状態において少なくともガスケット72がボルト71に当接する範囲(通常はボルト71の座面が当接する面)に施されていればよい。
【0022】
ここで、ジンケート浴でメッキ処理されたボルト71は、その硬度(例えば、ビッカース硬さHv)が、この従来用いられていた塩化浴でメッキ処理されたボルトよりも特徴的に高いことを、本願発明者らは解明した。
【0023】
この研究によると、ジンケート浴でメッキ処理されたボルト71の表面における硬さが、塩化浴でメッキ処理された従来のボルトの表面における硬さよりも硬いため、このメッキ自体は、従来の塩化浴のメッキ処理よりも弾性的な伸びが小さいと推定された。
【0024】
したがって、従来の塩化浴のメッキ処理のボルトでは、ボルトの座面が、塩化浴のメッキ処理のボルトと組み合わされて従来用いられていたアルミ材製ガスケットの表面に当接し始めて、塩化浴メッキのボルトの座面とアルミ材製ガスケット表面との間で生じる摩擦抵抗を受けても、塩化浴によるメッキは当接面間での摺動に追従して伸ばされ、ボルトから容易に剥離することはなかった、と考えられる。
【0025】
これに対して、ジンケート浴のメッキ処理のボルト71では、ボルト71の座面が、塩化浴のメッキ処理のボルトと組み合わされて従来用いられていたアルミ材製ガスケットの表面に当接し始めて、ジンケート浴ボルト71の座面とアルミ材製ガスケット表面との間で摩擦が生じると、ジンケート浴によるメッキは、塩化浴によるメッキよりも伸びが小さいため、摩擦抵抗によって伸びずに剥離し、剥離したジンケート浴のメッキが、ボルト71の座面とアルミ材製ガスケットの面との間に噛み込む。
【0026】
そして、ボルト71の座面とアルミ材製ガスケットの面との間に噛み込んだジンケート浴のメッキは、上述したように塩化浴のメッキよりも硬度が高いため、ボルト71をシリンダ40に規定トルクで締結した状態であっても、ボルト71の座面とアルミ材製ガスケットの面との間で潰されずに残存することが、本願発明者らの研究により判明した。
【0027】
この結果、ボルト71の座面とアルミ材製ガスケットの面との間に微小な隙間を形成することとなり、ジンケート浴のメッキ処理が施されたボルト71と、塩化浴のメッキ処理が施されたボルトと組み合わされて従来用いられていたアルミ材製ガスケットとからなる締結部材においてリークの発生するメカニズムが解明された。
【0028】
これに対して本実施形態のコンプレッサ100における第二締結部材70は、ジンケート浴でメッキ処理されたボルト71と組み合わされるガスケットが、従来のアルミ材製ガスケットではなく、錫メッキ処理された銅材のガスケット72であるため、ジンケート浴でメッキ処理されたボルト71の座面と錫メッキ処理された銅材のガスケット72の面との間にジンケート浴のメッキが噛み込んでも、銅材ガスケット72の表面にメッキ処理された錫のメッキ層に埋没し、あたかも錫が、ボルト71から剥離して噛み込んだジンケート浴のメッキの周囲の隙間を埋めたように作用する。
【0029】
この結果、ボルト71の座面と錫メッキ処理された銅材のガスケット72の面とは、ジンケート浴の剥離したメッキの存在にも拘わらず、隙間なく当接する。
【0030】
これにより、ジンケート浴のメッキ処理が施されたボルト71と、錫メッキ処理された銅材のガスケット72とが組み合わされた第二締結部材70は、ボルト71の座面とガスケット72の面との間で、リークが生じることがない。
【0031】
このように、本実施形態に係るコンプレッサ100によれば、第二締結部材70は、ボルト71が塩化浴のメッキ処理を施していないため、製造工程におけるメッキ槽の腐食を高める排水中CODを低下させることができる。
【0032】
しかも、第二締結部材70からリークが生じないため、リークを大幅に抑制した信頼性の高いコンプレッサ100を提供することができる。
【0033】
なお、上記実施形態のコンプレッサ100に用いられている締結部材70は、本発明に係る締結部材の一実施形態でもある。
【0034】
そして、本発明に係る締結部材は、上記実施形態のコンプレッサ100のような気体圧縮機に用いられるものに限定されたものではなく、本発明に係る締結部材におけるボルトと締結される締結対象が存在するものであれば、車両エンジンの締結部や車両変速装置の締結部を始めとして、如何なるものに用いることができる。
【0035】
すなわち、ジンケート浴でメッキ処理されたボルト71と、錫メッキ処理された銅材のガスケット72とを組み合わせてなる締結部材であれば、本発明の技術的範囲に属するものであり、この場合、ボルト71とガスケット72とは、ボルト71を締結対象に締結した状態において少なくともボルト71とガスケット72との当接範囲についてそれぞれ、対応するメッキ処理が施されていれば足り、ボルト71の全面およびガスケット72の全面がそれぞれ対応するメッキで処理されている必要はない。
【0036】
また、本実施形態は、フロントヘッド12と圧縮機本体60とを締結する第二締結部材70が、上述したジンケート浴によるメッキ処理のボルトと錫メッキの銅材製ガスケットとを組み合せた締結部材であるが、フロントヘッド12とケース11とを締結する第一締結部材80についても、ジンケート浴によるメッキ処理のボルトと錫メッキの銅材製ガスケットとを組み合せた締結部材としてもよく、上述した第二締結部材70と同様の作用、効果を得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本願発明者らが行った実験の結果について説明する。
【0038】
ボルトにメッキ処理を施す場合、メッキ処理の浴種としては、大きく分けて、塩化浴とジンケート浴とがあり、塩化浴は、塩化アンモンを主体とするメッキ浴であり、塩化イオンを含有するため、排水中における、メッキ槽の腐食度合いの高めるCOD濃度が高いのが特徴である。
【0039】
一方、ジンケート浴は、完全ノーシアン化亜鉛メッキ浴や、亜鉛と水酸化ナトリウム(NaOH)とからなるアルカリ性亜鉛メッキ浴などがあり、COD濃度は塩化浴よりも低く、環境に対する負荷も塩化浴よりも低いのが特徴である。
【0040】
ここで、本願発明者らは、ジンケート浴によりメッキ処理されたボルト(実施例)と塩化浴によりメッキ処理されたボルト(比較例)とについて、硬度や脆性、ガスケットとの相性などについて実験を行い、下記表1の結果を得た。
【0041】
【表1】

この表1中において、A>B>Cの順に、対応項目に対する適性が高いことを示す。すなわち、光沢の項目については、B評価であるジンケート浴によるメッキ処理のボルトよりも、A評価である塩化浴によるメッキ処理のボルトの方が、光沢が良好であることを示している。
【0042】
また、ガスケットとの組合せの評価は、○印がリークのないことを表し、×印がリークの発生を表している。
【0043】
表1の結果から解されるように、ジンケート浴によるメッキ処理のボルトの硬度(100〜140)は、塩化浴によるメッキ処理のボルトの硬度(50〜80)よりも高い。
【0044】
そして、従来のアルミ材製のガスケットとの関係では、塩化浴によるメッキ処理のボルトと組み合せた締結部材としては、リークが発生しなかったが、ジンケート浴によるメッキ処理のボルトと組み合せた締結部材としては、リークが発生した。
【0045】
ここで、そのリークの発生原因についてさらに検証したところ、表2に示すように、アルミ材製のガスケットとジンケート浴によるメッキ処理のボルトとを組み合せた締結部材は、アルミ材製のガスケットと塩化浴によるメッキ処理のボルトとを組み合せた締結部材に対して、アルミ材製のガスケット上に付着した亜鉛成分(メッキの成分)の濃度が3倍となっていることが判明し、この結果、ジンケート浴でのメッキの硬さが塩化浴でのメッキの硬さよりも硬いため、ジンケート浴のメッキはボルトの座面で剥離して、アルミ材製ガスケットの表面に残留し、従来の塩化浴によるメッキ処理のボルトとアルミ材製ガスケットとの組合せの締結部材では発生しなかったリークが発生するメカニズムが解明された。
【0046】
【表2】

一方、錫メッキによる銅材製のガスケットとの関係では、ジンケート浴によるメッキ処理のボルトと組み合せた締結部材としても、リークが発生しなかった(表1参照)。
【0047】
これにより、本発明に係る締結部材の有効性が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る気体圧縮機の一実施形態であるベーンロータリ形式のコンプレッサ100を示す図であり、図3におけるA−A線に沿った断面を示す図である。
【図2】図1におけるB部の詳細を示す拡大図である。
【図3】図1における矢視C方向から見た側面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 ハウジング
11 ケース
12 フロントヘッド
60 圧縮機本体
70 第二締結部材(第二の締結部材)
71 ジンケート浴でメッキ処理されたボルト
72 錫メッキ処理された銅材製のガスケット
80 第一締結部材(第一の締結部材)
100 コンプレッサ(気体圧縮機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジンケート浴でメッキ処理されたボルトと、錫メッキ処理された銅材のガスケットとを組み合わせてなることを特徴とする締結部材。
【請求項2】
前記ボルトと前記ガスケットとは、前記ボルトを締結対象に締結した状態において少なくとも該ボルトと前記ガスケットとの当接範囲についてそれぞれ、対応する前記メッキ処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載の締結部材。
【請求項3】
ケースとフロントヘッドとが第一の締結部材により締結されて、内部に収容空間を有するハウジングと、前記収容空間に収容されているとともに第二の締結部材により前記ハウジングに締結された、気体を圧縮する圧縮機本体とを備え、
前記第一の締結部材および前記第二の締結部材のうち、少なくとも一方が、請求項1または2に記載の締結部材であることを特徴とする気体圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−232238(P2008−232238A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71725(P2007−71725)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(504217742)カルソニックコンプレッサー株式会社 (101)
【Fターム(参考)】