説明

緩衝装置

【課題】第1部材と第2部材との間の相対移動を緩衝させるロータリーダンパーを有する緩衝装置において非緩衝方向に相対移動するときロータリーダンパーのピニオンの歯とラックの歯との噛み合いによる負荷を軽減すること。
【解決手段】第1部材はラック体を有するケース体を有し、ケース体内を摺動する摺動部材端部に、ロータリーダンパーを回動可能に軸支し、スライダを非緩衝方向に移動するときロータリーダンパーのピニオンの歯とラックの歯との噛み合いを離脱する方向にロータリーダンパーを回動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は第1部材および第2部材の相対的な移動を緩衝させる緩衝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種緩衝装置として引き出し装置の収納ケース部に設けられた固定レールに、スライドレールを介して、引き出し部をスライド自在とした引き出し装置が知られている(特許文献1)。この装置の引き出し部には走行体が設けられ走行体内に、高粘性流体が封入されると共に、回転筒が回転自在に内装されている。さらに走行体内に、回転筒と一体に回転可能に、回転筒を外装する可動筒と、回転筒に並設されたピニオンとを有している。また可動筒にはスプリングワンウエイクラッチが、その一端はピニオンに掛止され、他端はフリーの状態として設けられている。
【0003】
そして引出し部が引き出される方向には、固定レールに設けられたラックによりピニオンが回転するが、ピニオンの回転はピニオンによりスプリングワンウェイクラッチが巻き戻されて、拡径され可動筒とスリップ状態となるため、可動筒及び回転筒は回転せず、ピニオンは高粘性流体による抵抗力を受けない。
【0004】
一方引き出し部が収納される方向には、固定レールに設けられたラックによりピニオンが回転し、このピニオンによりスプリングワンウェイクラッチが可動筒を巻き締め、ピニオンの回転力が可動筒と回転筒に伝達されるため、ピニオンは高粘性流体による抵抗力を受け、引き出し部の収納方向への走行時のみ走行体に対して制動力を作用させることができる。
【0005】
その他従来家具の可動部分、例えば抽斗を引出しガイドによって摺動式に案内する装置が知られている(特許文献2)。そしてこの装置には緩衝装置が設けられている。この緩衝装置は引出しレールに固定されるキャリアと、このキャリアに支持される回転式ダンパーと回転式ダンパーの軸に取付けられたピニオン及びスライダに設けられたラックとからなる。キャリアには回転式ダンパーの回転を阻止して保持するゴム、摩擦性の高いプラスチック又は爪歯などの保持具が設けられている。
【特許文献1】特開平4−28307
【特許文献2】特開2002−242978
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし上述した引き出し装置ではスプリングワンウエイクラッチを用いていることから緩衝装置自体が複雑になり、コスト高になるという問題がある。その上スプリングワンウエイクラッチ付きロータリーダンパーは構造上比較的に大型となり緩衝装置を小型化できないという問題を有する。
【0007】
また、ワンウエイクラッチを使用しない公知の緩衝装置ではゴム・摩擦性の高いプラスチックなどの保持具が必要となる上、キャリアに保持具を配置する作業が必要となるため製品コストが上昇する。そのほかゴムや摩擦性の高いプラスチックの代りに、キャリアに爪歯を配置した場合は、キャリアの爪歯と回転式ダンパーの爪歯が当初から完全に噛み合うのは稀であり、爪歯と爪歯の歯先が当接する場合が多々生ずる。そのような場合、爪歯と爪歯とが噛み合うまでの間緩衝作用の発生にタイムラグが生じる。さらに爪歯と爪歯とが噛み合うときに異常音が発生するという問題点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の緩衝装置は第1部材(固定部材)と第2部材(移動体)との間の相対移動を緩衝させる緩衝装置において、第1部材はラックが設けられたケース体とこのケース体内を、第2部材と共に摺動する摺動部材とこの摺動部材に回動可能に軸支され、前記ラックと噛み合うピニオンを有するロータリーダンパーとを具備し、前記ロータリーダンパーのピニオンの回転軸と前記摺動部材の回動支点とを結ぶ軸間直線が前記ラックの歯先面に対する垂直線に対して前記摺動部材の緩衝方向とは反対方向に傾斜しており、前記摺動部材を前記ケース体内で傾斜している側の方向に移動させるとき、前記ロータリーダンパーは前記回動支点を中心に、前記ラックと前記ピニオンの歯の噛み合いを離脱する方向に回動して、前記ロータリーダンパーの緩衝作用を少くとも低減し、前記摺動部材を前記軸間直線の傾斜している側とは反対側に移動させるとき前記ロータリーダンパーは前記摺動部材の回動支点を中心に前記ラックと前記ピニオンとが噛み合う方向に回動し、前記ロータリーダンパーの緩衝作用が生ずるようにしたことを特徴とする。
【0009】
この発明によりロータリーダンパーを所望の緩衝を生じさせたい方向において緩衝作用が生ずるようにし、緩衝作用を所望しない方向において緩衝作用を少くとも低減ないし殆んど生じないようにすることができる。
【0010】
請求項2記載の緩衝装置は前記ケース体内を前記摺動部材が摺動するとき、前記ロータリーダンパーが前記ケース体に対して摺動する摺動摩擦部材を有し、該摺動摩擦部材とケース体との摩擦力により、前記摺動部材が一方の移動方向のときは前記ロータリーダンパーのピニオンと前記ラックとの間の噛み合いを解除する方向にロータリーダンパーが回動支点を中心に回動するように回動力を付与し、前記スライダーが他方の移動方向に移動するとき前記ロータリーダンパーのピニオンと前記ラックとが噛み合う方向にロータリーダンパーの回動支点を中心に回動するように回動力を付与するようにしたことを特徴とする。この発明により請求項1の発明における摺動部材の移動方向に応じてピニオンとラックとの間の噛み合いを離脱させる方向にまた噛み合い方向への回動を増強できる。
【0011】
請求項3記載の緩衝装置ではケース体内に長手方向に設けられた前記ラックは、前記軸間直線が傾斜している側の端部にラックの歯が形成されていない噛み合い案内部を有しており、前記噛み合い案内部に、前記ロータリーダンパーのピニオンの歯と前記ラックの歯との噛み合いが解除された方向に回動されている前記ロータリーダンパーを、前記ピニオンの歯とラックの歯とが噛み合う方向に回動させる案内手段を有することを特徴としている。
【0012】
この発明により移動体が緩衝装置から離れる方向に移動し、ロータリーダンパーのピニオンの歯がラックの歯の前端に対向する位置からずれたとき強制的にロータリーダンパーをその回動支点を中心としてピニオンの歯とラックの歯との噛み合い方向に強制回動させることができ、ロータリーダンパーを緩衝方向へ移動させるとき、最初からピニオンの歯とラックの歯とを確実に噛み合わせることができる。
【0013】
請求項4記載の緩衝装置はロータリーダンパーの緩衝終位置にて、前記ロータリーダンパーのピニオンの歯と前記ラックの歯との噛み合いを離脱する方向に、前記ロータリーダンパーをその回動支点を中心に回動させる手段を有することを特徴としている。
【0014】
この発明によりロータリーダンパーを緩衝終了位置から非緩衝方向に移動させるとき最初からロータリーダンパーピニオンの歯とラックの歯とが噛み合わないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の緩衝装置の一実施の形態の構成を図1乃至5を参照して説明する。各図において同一部分には同一参照番号が付けてある。
【0016】
図1は分解斜視図である。
【0017】
図2乃至5は緩衝装置の種々の動作位置で裏蓋に設けられた1つの突条部のみ破線で示し、裏蓋を取除いて示す平面略図である。
【0018】
1は第1部材全体を表し、移動体例えば引戸に対する緩衝装置すなわち引戸クローザであり、引戸の荒閉まりや跳ね返りを防止する装置である。この緩衝装置は細長矩形平板状のケース体2を備えている。このケース体2の上面側には、取付け凹部3が長手方向に延在している。4は移動体例えば引戸や折戸、引出しであり、そこには係合ピン5が取付けプレート6にて取付けられている。取付凹部3の底面を形成する底面部7には案内スロット8が形成されている。この案内スロット8は移動体4の係合ピン5が長手方向に摺動可能に係合できるように、この係合ピン5の直径より若干大きな幅を有している。そして案内スロット8は底面部7の長手方向の中央部からケース体2の長手方向に前端に亘って設けられている。すなわちこの案内スロット8はケース体2の前端まで上下に貫通しており、このケース体2の前端面に連通している。よってケース体2の前端面から取付凹部3までの間の案内スロット8は、このケース体2の底面部7に設けられたスロットとして形成されている。この案内スロット8の前端開口縁には案内スロットの前端縁に向けてテーパ状に開いたテーパ状案内面9が形成されている。このテーパ状案内面9は移動体4の係合ピン5の案内スロット8への係合を容易にする案内面として機能する。
【0019】
またケース体2の取付け凹部3の底面部7には細長い摺動溝10が設けられている。この摺動溝10は取付凹部3の長手方向に延在する移動溝部11を備えている。この移動溝部11は案内スロット8に平行に設けられている。
【0020】
さらに移動溝部11の前端部には取付け凹部3の幅方向に向う回動溝部12が連続して設けられている。この回動溝部12は円弧状に湾曲した形をしている。この回動溝部12は移動溝部11から幅方向にケース体2の一側縁に亘って形成されている。
【0021】
さらにケース体2の取付凹部3の後端側にはケースの長手方向に約1/3の長さに亘って底面部から垂直に立上ったラック13が形成されている。ラック13の歯14はケース体2の一方のすなわち右側側壁方向に向いており、ラックの上面は平坦に形成されている。ラック13の前後両端部は歯列を欠落させて噛み合い案内部が形成されている。後端部の歯列は、必らずしも欠落させる必要はないが前端部ではラックの歯14にピニオンの噛合の開始を良好に行わせるために、歯列を欠落させると有利である。
【0022】
ケース体2の取付凹部3の前端部の一側縁に連続して突出部15が設けられており、そこに上面視L字形の固定溝16が形成されている。この固定溝16のL字脚部の一方はケースの長手方向に平行に延在し、取付凹部3に達している。
【0023】
そしてこの固定溝16には細長い矩形の平板体の先端をL字状に折曲げた形状のブレーキプレート17が嵌合固定されている。このブレーキプレート17のケース長手方向の長さはケース長の約1/2の長さを有している。
【0024】
このブレーキプレート17は金属等で構成され摺接部材として働く。さらにこのブレーキプレート17は先端を固定溝16に固定した状態でこのケース体2の長手方向に平行に取付凹部3内に延在している。このブレーキプレート17の摺接面は摩擦抵抗が高くなるよう粗面化することができる。なお、このブレーキプレート17は、ケース体側壁から離間された状態で取付け凹部3内に延び、ケース体2の取付凹部3内に、この取付凹部の長手方向に摺動可能に取付けられた摺動部材を形成するスライダー18内に延在している。摺動部材としてのスライダー18は、取付凹部3の右側内壁と左側内壁とにスライダー18の左側面19及び右側壁20と接触しながらガイドされて、ケース体2の長手方向に摺動可能に配設されている。
【0025】
スライダー18はほぼ平板状に形成され、その左側の前端部には引張りばね21の前端部のくびれ部22を挾持するため、スライダー18の板状部から突出した挾持片23a及び23bとから成る挾持部23が設けられており、挾持片23aから引張りばねをガイドするガイド壁24がスライダー18の高台状部25へ延在している。挾持片23b側での引張りばねのガイドはケース体2の取付け凹部3を形成している内側壁によってなされる。
【0026】
またスライダー18の前端部に低台状部26が形成されており、スライダー18の幅方向中央部にスライダー18の長手方向に走行する短かなスロット27が形成されている。スロット27は移動体4例えば引戸の上端面に取付けられた係合ピンが摺動可能に嵌挿される溝であり、係合ピン5の径より若干大きな幅を有している。スライダー18をケース体2の取付け凹部に装着した状態で、スロット27はケース体2の案内スロット8と上下方向に連通している。またスライダー18の高台状部25の前端部に係止溝28が形成されており、高台状部25の係止溝28よりスライダーの前端側に位置する高台状部25の台状部分29は後端側より幅方向において左側に狹くなっている。スライダー18の高台状部25の右側面とスライダー18の右側壁との間にはブレーキプレート17が延在する収容溝30が設けられている。係止溝28には例えば金属から成る細長矩形平板体をL字状に折曲した押付部材30の短い脚部を挿入し、長い脚部を台状部分29の側壁とブレーキプレート17との間に配置する。なお押付部材31のブレーキプレート17側に向いた面にはスライダ18が摺動する際ブレーキプレート17との摩擦力を高めるため摩擦材などにて構成された平板状ブレーキパット32が取付けられている。
【0027】
さらにスライダ18の右側壁20には摩擦材から成るブレーキパット33の装着突出部34を取付ける装着溝35が形成されている。さらにスライダー18の後端部右コーナ低台状部36に短軸37が立設されている。この短軸37にロータリーダンパー38のシリコーン油が満たされたケーシング39の張り出し部40に設けられた軸受孔を有するスリーブ軸受41が装着されている。
【0028】
ロータリーダンパー38の回転軸42にピニオン43が固定されている。ピニオン43の歯はラック13の歯とかみ合うことができるように短軸37を中心に回動可能になっている。ロータリーダンパー38の回動範囲は一方ではスライダー後端部より突出したストッパー44により、他方では高台状状部25の後端縁にて規制される。
【0029】
本発明においてスライダー18に設けられたロータリーダンパー38の回動短軸37とピニオンの回転軸42とを結ぶ直線(軸間直線)がラック13の歯先面に対する垂直線に対して傾斜している。この軸間直線の傾斜によってスライダー18を軸間直線の傾斜している側すなわち前端側に移動させるときには、ロータリーダンパー38のピニオン43の歯はラック13の歯の先端にのみ接触する程度にロータリーダンパー38は短軸37を中心にラック13とピニオン43が噛み合う方向とは反対方向に回動する。したがってケース体2とスライダー18の相対移動のうちの一方の移動方向ではロータリーダンパー38のピニオン43とラック13とは噛み合うことがないため、スライダー18は、軸間直線が傾いている方向に、すなわち前端側に移動するとき、ロータリーダンパー38の緩衝作用を受けることがない。
【0030】
一方スライダ18を軸間直線の傾斜している側とは反対側に移動させるとき、すなわちスライダー18をケース体2の後端側に移動させるときは、一度ロータリーダンパー38のピニオン43とラック13とが噛み合うと、ロータリーダンパー38は短軸37を中心にラック13とピニオン43とが噛み合う方向に回動する。
【0031】
したがってケース体2とスライダー18の相対移動のうち他方の移動方向、すなわちスライダー18をケース体2の後端側へ移動させる方向ではロータリーダンパー38のピニオン43とラック13とが噛み合うためスライダー18はロータリーダンパー38の緩衝作用を受け、スライダー18とケース体2との相対移動を緩衝させることができる。
【0032】
またケース体2の長手方向に設けられたラック13の一方側(軸間直線が傾いている側)すなわちラック13の前端側でロータリーダンパー38をロータリーダンパー38のピニオン43とケース体2に設けられたラック13とが噛み合う方向に回動させる手段としてロータリーダンパーケーシング表面に案内軸45が設けられている。またケース体2の裏蓋46の内側面に突条47が設けられ、突条47の後端部には後端に向ってロータリーダンパー38の回動方向と同方向に傾斜したテーパ面が形成されている。このテーパ面が設けられている突条47の位置に対向するラック13の位置では、ラック13の歯14が形成されていない。
【0033】
したがってスライダー18が一方の方向、すなわちケース体の前端方向へ移動するとき、案内軸45がケース体2の一部を形成する裏蓋46に形成された突条47のテーパ面によりガイドされ、ピニオン43の歯とラック13の歯とが噛み合う方向に短軸37を中心にロータリーダンパー38は強制回動させられる。この強制回動させられる位置でラック13に歯が形成されていないため、ロータリーダンパー38のピニオン43とラック13の歯とが接触することがない。
【0034】
したがってスライダー18を軸間直線の傾斜方向の側とは反対側の方向、すなわちスライダー18をケース体2の後端方向に移動させる際には上記強制回動によってスライダー18とケース体2との相対移動の際、ロータリーダンパー38のピニオン43とラック13の歯14とを直ちに噛み合わせることができるため、スライダー18とケース体2との相対移動の緩衝を確実に行うことができる。
【0035】
またロータリーダンパー38のケーシング39から側方に突出した支持部48から上方に突出した摺動摩擦軸49が設けられている。摺動摩擦軸49はロータリーダンパー38の回動支点を通過するスライダーの長手方向の直線に対してラック13の側に設けると好適である。この摺動摩擦軸49はケース体2の裏蓋46の内面と摩擦しながら摺接する摺動摩擦部材を形成している。この摺動摩擦軸49はそれ自体弾性を有するか、弾性体を介して摺接させる構成とすることができる。摺動摩擦軸49をケーシング39の表面から直接突出するように構成することができる。
【0036】
上述のようにスライダー18がケース体2と相対移動するとき、スライダー18の移動と共に、ロータリーダンパーが移動し、ロータリーダンパー38に設けられた摺動摩擦軸49とケース体2の裏蓋46の内面と間に摩擦が発生する。
【0037】
したがってスライダー18を、軸間直線の傾斜方向の側、すなわちケース体2の前端側へ移動させるときは上記摩擦によりロータリーダンパー38はその回動支点としての短軸37を中心にラック13とピニオン43が噛み合う方向とは反対の方向に回動させられ、その位置を保持したまま移動することができる。
【0038】
これに反しスライダー18を軸間直線の傾斜方向の側に移動させるときは摺動摩擦軸49とケース体2の裏蓋46との摩擦によりロータリーダンパー38の回動支点である短軸37を中心にラック13とピニオン43とが噛み合う方向とは反対の方向に回動させられ、その位置を保ったまま移動することができる。
【0039】
有利な実施例では案内軸45を摺動摩擦軸49としても使用できるようにすることができる。その際案内軸45をその軸線方向に弾性的に押圧作用をするように構成し、その弾性を調節可能にし、案内軸による摩擦力を調整可能にすると好適である。
【0040】
スライダ18の低台状部26に軸受孔50が穿設されている。この軸受孔50はスライダの軸方向においてスロット27の後端部付近にあるがスロット27より右側に設けられている。この軸受孔50には緩衝部材として、移動体4の係合ピン5の当接によってブレーキプレート17を押圧するためのフック体51が回動可能に取付けられており、このフック体はスライダーが第2部材(係合ピン)とともに摺動するための保持手段を構成する。
【0041】
そしてこのフック体51は移動体4の係合ピン5の当接によって回動し、ケース体2に取付けられたブレーキプレート17を押付部材31及びブレーキパット32を介して押圧する。その際ブレーキプレート17の右側面はスライダ18の右側壁20の内面に取付けられたブレーキパッド33に当接し、ブレーキプレート17がサンドイッチ状に挾まれてスライダ18ひいては移動体が制動され、スライダ18とケース体2の相対的移動を緩衝する。
【0042】
フック体51は前端側から後端右側にかけての低台状部52と後端左側に高台状部53とを有している。低台状部52の裏側には軸受孔50に軸受けされる短軸54が設けられている。
【0043】
さらに低台状部52の前端部裏側にはケース体2の摺動溝10の移動溝部11と回動溝部12のそれぞれに摺動可能に係合される係合凸部55が突設されている。この係合凸部55は移動溝部に摺動可能に嵌合される長手寸法を有しているとともに、この摺動溝10の回動溝部に回動可能に嵌合される幅寸法を有している。したがって係合凸部55の両側縁それぞれは、摺動溝10の回動溝部に沿った円弧状に形成されている。また係合凸部55はフック体51の前端側での幅方向における中央部に設けられている。フック体51の低台状部52の左端側後縁部から、保持凹入部56を有する高台状部53が形成されている。保持凹入部56の右端部から右側に向って隆起するカム隆起部57が続いている。このカム隆起部57は、フック体51の短軸54をスライダー18の低台状部52の軸受孔50に回動可能に装着した状態で移動体4の係合ピン5が保持凹入部56にはいり、後端側に向って押圧移動すると、押付部材31の脚部の左側面を押圧する。したがってこの押付部材31の右側面に取付けられたブレーキパッド32をブレーキプレート17の左側面に当接させて押圧する。その際ブレーキプレート17はスライダーの右側壁20の内面に取付けられたブレーキパット33とでサンドイッチ状に挾まれて両側から締付力が加わり、スライダ18の移動を制動する制動力が加わり、スライダ18の移動ひいては移動体の移動を制動する緩衝作用が生ずる。
【0044】
その他ケース体2の後端部の左側コーナ部に、引張りばね21の後端部のくびれ部分を固定するための取付け凹部58が形成されている。
【0045】
さらにケース体2の前端部及び後端部に、緩衝部材を固定部材例えば戸枠に取付けられたレール端部に取付けるための取付け孔60及び61があけられている。
【0046】
図6は本発明の緩衝装置を引戸に適用した場合の斜視図である。図において一対のガイドレールのうち上側のガイドレール65を2段に構成し、その上段ガイドレール内の一端に本発明の緩衝装置1を取付け、移動体としての引戸4が支持軸66を介して下段のガイドレール内を走行する4輪台車67に支持されている。この4輪台車の基台の引戸の幅方向で、緩衝装置1の側とは反対方向に延びる延長部68に係合ピン5が取付けられている。この引戸4を4輪台車67によってガイドレール65内を引戸の閉じる方向すなわち緩衝装置1の方向に勢いよく走行させたとしても、引戸4は引戸4の係合ピン5が緩衝装置1のケース体2の中に進行し緩衝作用を受け、跳ね返りが防止される。
【0047】
図1〜5に示す緩衝装置を図6に示すように引戸に引戸クローザとして適用した場合について説明する。
【0048】
まず引戸4を緩衝装置1の方向に閉めた状態の緩衝装置の動作位置が図2に示されており、図3に引戸4を閉めた状態から開動作中の作動位置が示されている。
【0049】
図4は緩衝装置が引戸4の係合ピン5を待機している動作位置を示し、図5は緩衝装置が引戸4の係合ピン5を保持して引戸4の閉動作方向の運動を緩衝しながら移動途中の動作位置を示している。
【0050】
緩衝装置1を引戸クローザとして使用する場合、引戸4を勢い良く閉作動した場合でも、戸枠に衝撃的に当たり、はね返りが生せず、引戸4と戸枠との間に隙間が生じないようにする必要がある。そのため、引戸4の閉動作終了近傍より引戸の閉動作終了に向けて緩やかな閉動作を完了するようにしなければならない。
【0051】
引戸4を閉める場合引戸4の上端面に取付けられた係合ピン5は緩衝装置1の側に向けて移動する。
【0052】
係合ピン5がフック体51の保持凹入部56への当接以前では、緩衝装置1は図4に示す動作位置にある。この動作位置では摺動部材としてのスライダー18の固定溝16に嵌合固定されたブレーキプレート17は、係止溝28に嵌挿された押付部材31に取付けられたブレーキパッド32により押圧されていない。したがってブレーキプレート17は、スライダー18の右側壁20に取付けられたブレーキパッド33と押付部材31に取付けられたブレーキパッド32との間に位置しているが、押付部材31により押圧力を受けない。
【0053】
またスライダー18に軸支されたフック体51の低台状部52に形成された係合凸部55が摺動溝10の回動溝部12に位置しているので、スライダー18が引張りばね21によってケース体2の後端方向に向って付勢されていても、スライダー18は長手方向に移動できない。またスライダー18の後端部の右コーナ台状部36の短軸37を回動支点として回動可能に取付けられたロータリーダンパー38はピニオン43の歯がラック13の歯と噛み合う直前の位置に位置している。
【0054】
しかし引戸4が移動して、引戸上の係合ピン5は、ケース体2テーパ案内面9を経て案内スロット8及びスライダー18のスロット27のそれぞれに嵌入しつつ、これらの案内スロット8及びスロット27内を摺動案内され、フック体51の保持凹入部56の後端側張り出し部に当接し嵌入される。そしてこの係合ピン5によるフック体51の保持凹入部56の後端側張出し部へ当接し、その当接力によって、フック体51が後端側に押圧される。その結果フック体51が反時計回りに短軸54を中心に回動する。そして、係合ピン5はフック体51の保持凹入部56内に、嵌入保持される。その際フック体51は、フック体の係合凸部55がケース体2の摺動溝10の回動溝部12に案内されながら、スライダーの軸受孔50に嵌合された短軸54を回転中心として回転した後、このフック体51の係合凸部55がケース体2の摺動溝10の移動溝部11に移動する。
【0055】
この結果係合凸部55と回動溝部12との係合が解除されて、図5に示すようにこのフック体51、係合ピン5及びスライダー18のそれぞれが、引張りばね21の引張力によりケース体2の後端に向って移動する。このときスライダー18の後端部の右コーナ台状部36に短軸37を介して回動可能に取付けられたロータリーダンパー38のピニオン43の歯とケース体2に設けられたラック13の歯に噛み合う。それによりフック体51、係合ピン5及びスライダー18の移動に伴って、ラック13に対してロータリーダンパー38のピニオン43が回転して図2に示すように、スライダー18の後端縁がケース体2の取付け凹部3の後端部に当接するまで、スライダー18と共にフック体51及び係合ピン5ひいては引戸4が所定の閉位置まで移動する。
【0056】
ここで引戸4の閉速度が比較的遅く、この引戸4の係合ピン5のフック体51の保持凹入部56への当接力が、引張りばね21の引張り力よりも小さい場合及びロータリーダンパー38による緩衝作用がラック13に付与されロータリーダンパー38のピニオン43に対する回転抵抗力とラック13とピニオン43による噛み合い抵抗力と引張りばね21の引張り力との合力より小さい場合は、フック体51の保持凹入部56の前端側面にて係合ピン5は連行され、ロータリーダンパー38とラック13とによる緩衝作用のみを受けて係合ピン5ひいては引戸4が所定位置まで確実に移動する。
【0057】
これに対して引戸4の閉速度が比較的速く、この引戸4の係合ピン5のフック体51の保持凹入部67への後端側への当接力が引張りばね21の引張り力よりも大きい場合やロータリーダンパー38による緩衝作用が生じ、ロータリーダンパー38のピニオン43による回転抵抗力及びピニオン43とラック13との噛み合い抵抗力と引張りばねの引張り力の合力よりも大きい場合にはフック体51のカム隆起部57にて押付部材31の一方の脚部内面が押圧されて、この押付部材31に取付けられたブレーキパッド32を介してブレーキプレート17を押付すると共にスライダー18の右側壁20に取付けられたブレーキパット33とによりサンドウイッチ状に挾んでブレーキプレート17を締付ける。
【0058】
したがってフック体51、係合ピン5、及びスライダー18の移動に伴って押付部材31に取付けられたブレーキパッド32及びスライダー18の右側壁20に取付けられたブレーキパッド33がブレーキプレート17を挾みつつ摺接されて、制動力を受け、かつロータリーダンパー38及びラック13による緩衝作用を受けて係合ピン5のケース体2の後端側への移動が緩衝される。
【0059】
次に引戸4にて開口部を閉じた状態から、この引戸4を開放動作する場合について説明する。
【0060】
この場合図2に示す動作位置から引戸4が開放動作して、この引戸4の係合ピン5を緩衝装置1の前端側に移動させることにより引張りばね21が伸張されていく。
【0061】
同時に、この係合ピン5の緩衝装置1のケース体2の前端側への移動によって、係合ピン3がフック体51の保持凹入部56の前端側を押圧してフック体51が時計回りに回転する。
【0062】
その結果、フック体51の時計回りの回転によってフック体51のカム隆起部57による押付部材31を介したブレーキプレート17の押付けが解除される。それ故ブレーキプレート17への押付部材31の押付けによる緩衝作用が解除された状態で、引戸を開放動作できる。
【0063】
この状態で、さらに引戸4を開放動作すると引戸4上の係合ピン5にてフック体51の保持凹入部56の前端側が押圧されて、このフック体51の係合凸部55がケース体2の摺動溝10の移動溝部11から回動溝部12へと案内される。
【0064】
その結果図4に示すようにフック体51が時計回りに回転し、係合ピン5を待機する待機位置姿勢へと姿勢変化して、フック体51の保持凹入部56による係合ピン5の係合保持が解除されるとともに、フック体51の係合凸部55がケース体2の摺動溝10の回動溝部12に係合されることによって引張りばねは伸張された状態に保持される。
【0065】
また本発明においてスライダー18の後端部の右コーナ低台状部36に立設された短軸37に、ロータリーダンパー38が回動可能に取付けられている。したがってスライダー18がケース体2の前端側へ移動する際、ロータリーダンパー38のピニオンの回転軸42とロータリーダンパー38のスライダー18の短軸37に回動可能に取付けられている回動支点とを結ぶ軸間直線がケース体2のラック13の歯面に対する垂直線に対してケース体2の前端に向って傾斜している。それ故スライダー18をケース体の前端方向に移動させるとき、ロータリーダンパー38の回動支点はスライダー18の移動方向に平行な力を受けるので、ロータリーダンパー38は回動支点を中心にラック13の歯14とピニオン43の歯の噛み合いを離脱させる方向に回動させられる。
【0066】
ロータリーダンパー38の回動の結果、図3に示すようにピニオン42の歯とラック13の歯14との噛み合いが外れるので、引戸4を開放動作するときロータリーダンパー38によるピニオン43とラック13との噛み合いに基づく制動作用は生ぜず、スムーズに引戸を開放することができる。
【0067】
さらに本発明ではロータリーダンパー38の回動を補助するために、ケース体2の裏蓋46の内面と弾性的に摺動接触する摺動摩擦軸49がロータリーダンパー38のケーシング39に設けられている。この摺動軸49がケース体2の裏蓋46の内面と弾性的に摩擦接触する。この摩擦力によりスライダー18が、ケース体2の前端方向に移動するときロータリーダンパー38はその回動支点を中心に反時計回り方向に回動させる力が生ずる。なおこの摩擦力はロータリーダンパー38の歯とラックの歯との噛み合いを解消してロータリーダンパーにより、スライダ18の移動に対する制動力が生じないようするためであり、開放動作の制動力として殆ど影響しないように選定される。したがってロータリーダンパー38のピニオン43の歯はラック13の歯14との噛み合いを確実に離脱させることができる。したがって引戸4の係合ピン5が引戸の開放動作時、ロータリーダンパー38が制動負荷となることがないため引戸4の開放動作時の負荷を少なくすることができる。
【0068】
さらに本発明においてケース体2の長手方向に設けられたラック13、前端部にラック13の歯14が形成されていない噛み合い案内部を有し、この案内部にロータリーダンパーのピニオン43の歯とラック13の歯との噛み合いが解除されている方向に回動されているロータリーダンパー38を、そのピニオン43の歯とラック13の歯とが噛み合う方向に回動させる案内手段を有している。上記実施の形態ではその案内手段として上記ラック歯欠落部位置にスライダー18が非緩衝方向に移動したときケース体2の裏蓋46の内面に設けられたテーパを有する突条47にロータリーダンパーケーシング39に設けられた案内軸45がガイドされて、ピニオンの歯43とラックの歯とが噛合可能な回動位置にロータリーダンパー38が回動される。
【0069】
したがって本発明ではスライダー18が緩衝方向に移動するとき緩衝動作の最初からロータリーダンパー38のピニオン43の歯とラック13の歯が直ちに噛み合うことができる。
【0070】
さらに本発明において緩衝終位置においてロータリーダンパーのピニオンの歯とラックの歯の噛み合いを離脱する手段を設けてもよい。本発明の他の実施例ではロータリーダンパー38のケーシング39から突出する案内軸45と、ケース体の裏蓋46に設けられた、テーパ案内面を有する突条59とによりロータリーダンパー38をその回動支点を中心にピニオン43の歯とラック13の歯14との噛み合い解除方向すなわち反時計回りに回動するように構成されているので、引戸2を開放方向に移動を開始する当初から、スライダー18に対するロータリーダンパー38のピニオン43の歯とラック13の歯とによる噛み合いによる負荷を解消することもできる。
【0071】
上述の実施形態では引戸を閉める際ケース体2に固定されたブレーキプレート17にスライダー18とフック体51の回動による押付部材を介したブレーキパッドとで挾んで制動力を加えているが、フック体51自体で押圧してスライダー18を摺動するようにすることもできる。
【0072】
また、押圧部材はブレーキパッドを有していなくてもよく押付部材を直接ブレーキプレート又はケース体に押圧させてもよい。さらに、スライダーはブレーキパッドを有していなくてもよくスライダー18と押圧部材とで直接サンドウィッチ状に挟んでブレーキプレートを締め付けてもよい。
【0073】
さらにブレーキプレート17の代りにケース体自体にフック体51が直接又は間接的に押圧力を作用させるようにすることもできる。
【0074】
また引張りばね21によりスライダー18に引張り力を加える代りにスライダー18とケース内壁間に加圧ばねを設けて加圧力によりスライダー18を移動させるようにすることができる。
【0075】
その他ロータリーダンパー38のケース体2の内壁との間の摩擦力を付与する手段として摺動摩擦軸49の代りに、ロータリーダンパー38のケーシング39から直接突出する突出部とすることができる。その他ケーシング39に貼着されたパッドまたはケーシングそれ自体によって摺動摩擦が生ずるようにすることもできる。その他ロータリーダンパー38を、そのピニオン43とラック13の歯とがかみ合う方向に又はその逆の方向に案内するために設けられた案内軸45と兼用することもできる。その場合ケース体2の内壁と弾性的に接触するようすることが望ましい。したがって摩擦力付与手段は弾性材で構成するかその少くとも一部を弾性部材として構成する。
【0076】
上述のように本発明によれば引戸4を開放動作する際、引戸4の係合ピン5がフック体51の保持凹入部56の前端側を押圧するのでフック体51の時計回りの回転により、フック体51のカム隆起部による押付部材31によるブレーキプレートへの押付力が作用しないので、スライダー18の移動に対して制動力は作用しない。
【0077】
さらにスライダー18の後端部にロータリーダンパー38がその回動支点を中心に回動可能に取付けられており、その回動支点とロータリーダンパー38のピニオン43の回転軸42とを結ぶ軸間直線が、ラック13の歯先面に対する垂直線に対し非緩衝方向に傾斜しているので、引戸4の開放方向に、引戸4の係合ピン5が移動させると、それと一緒にスライダー18も移動する。したがって、スライダー18に回動可能に取付けられたロータリーダンパー38の回動支点に、スライダー18の移動方向の力が作用し、それによりロータリーダンパー38のピニオン43の歯とラック13の歯との噛み合いを離脱する方向に、すなわち前記軸間直線のラック13の歯面に対する傾斜角度が減少する方向にロータリーダンパー38を回動する回動力が生じて、ピニオン43の歯とラック13の歯14の噛み合いが解除される。
【0078】
したがって引戸4の開放動作において、ロータリーダンパー38の歯とラック13の歯とのかみ合いによる制動作用が生じないので引戸2の開放動作時に、引戸開放方向に引戸4を開く開放運動力を低減でき、引戸4を軽く開けることができる。
【0079】
次に本発明の第2実施形態につき、図7及び図8、第3実施形態につき、図9及び図10、第4実施形態につき、図11及び図12を参照して説明する。なお、これらの実施形態を示すそれぞれの図において、図1乃至図6に示す部分と同一又は類似の機能を果たす部分には、同一参照番号が付けてある。したがって、その構成及び作用についての詳細な説明は省略する。
【0080】
まず、図7及び図8は、緩衝装置の裏蓋を取除いて示す平面略図である。ただし、裏蓋内面に形成されている突条のみ対応する個所に付加的に図示されている。
【0081】
図7及び図8の第2実施形態と第1実施形態との大きな相違点は次のとおりである。
【0082】
(1)第1実施例では摺動部材としてのスライダー18にロータリーダンパー38が回動可能に取付けられていたのに対して、第2実施形態は摺動部材をフック体51とし、このフック体51にロータリーダンパー38が回動可能に取付けられている。
【0083】
(2)第2実施形態では緩衝作用は、ロータリーダンパー38自体の制動力と、ロータリーダンパー38のピニオン43とラック13の歯14との噛み合いに基づく制動によってのみ生ずるのに対し、第1実施形態では、ケース体にブレーキプレート17が取付けられており、ケース体2の取付け凹部3内を摺動するスライダー18が設けられており、スライダー18と共働する押付部材30、ブレーキパッド32、33等が設けられ、ブレーキプレート17を押付部材30、ブレーキパッド32,33により、サンドウィッチ状に締付けて生ずる制動力が付加されている。
【0084】
(3)第2実施形態では、フック体51の引張りばね狭着部23に引張りばね21の前端側のくびれ部22を係止して、フック体51が引張りばね21により緩衝方向すなわち後端側に向かって付勢されているのに対し、第1実施形態は引張りばねの前端側はスライダー18の前端側に固定され、スライダー18を引張りばね21により緩衝方向に付勢している。
【0085】
(4)第2実施形態では、ケース体2の裏蓋46の後端側内面にロータリーダンパー38の案内軸45を、ロータリーダンパー38のピニオン43の歯がラック13の歯との噛み合いを離脱する方向に案内するため、テーパを有する突条70が設けられている。したがって、ロータリーダンパー38は回動軸37を中心に反時計回りに回動され、ロータリーダンパー38が非緩衝方向に移動を開始する当初から、ピニオン43の歯とラック13の歯との噛み合いが生ぜず、非緩衝方向へのフック体51の移動の際の負荷を低減できる。
【0086】
なお、緩衝終位置においてフック体51の移動は、ケース体2の取付け凹部3の後端部に形成されたストッパー台状部69へのロータリーダンパー38のケーシング39の当接によって停止するようになっている。また、緩衝終位置の突条70に対向するラック13の部分は、ロータリーダンパー38の回動を容易にするためラックの歯14が欠落されている。
【0087】
第2の実施形態でも、ロータリーダンパー38の短軸37とピニオン43の回転軸42とを結ぶ直線(軸間直線)は、ラック13の歯先面に対する垂直線に対して非緩衝方向に向かって傾斜している。
【0088】
したがって、フック体51を非緩衝方向すなわちケース体2の前端方向に移動させるとき、ロータリーダンパー38の回動支点は、フック体の前端方向への移動方向に平行な力が作用する。換言すれば、ピニオン43の歯とラック13の歯との噛み合いを解除する方向に短軸37を中心に反時計回りにロータリーダンパー38を回動させる力が生じ、ピニオン43の歯とラック13の歯との噛み合いは生じない。
【0089】
これに反し、ロータリーダンパー38が緩衝方向に移動するときは引張りばね21により、ロータリーダンパー38に、回動短軸37を中心に時計回りに回動する力が作用し、ロータリーダンパー38の緩衝作用とロータリーダンパー38の歯とラック13の歯14との噛み合い抵抗力に基づく緩衝作用が生ずる。
【0090】
図7は、フック体51が移動体4の係合ピン5を待機している待機状態を示している。この場合、フック体51の係合凸部55は、摺動溝10の回動溝部12に位置している。この状態からフック体51は、移動体4の係合ピン5の当接によって回動し、移動体4の係合ピン5は、フック体51の保持凹入部に入り、フック体51の係合凸部55が回動溝部12から移動溝部11へ移動して、フック体51は引張りばね21の引張り力により緩衝方向に移動する。
【0091】
そして、フック体51上の短軸37に回動可能に取付けられたロータリーダンパー38のピニオン43は、ケース体2の裏蓋46の内側に設けられた突条47により、緩衝方向への移動開始時ラック13の歯の欠落部に位置しているので、移動の開始当初からピニオン43の歯はラック13の歯と噛み合い移動する。その際、ロータリーダンパーケーシング39に取付けられた摺動摩擦軸49とケース体2の裏蓋46の内面との間の摩擦力およびフック体に加わる緩衝方向の力により短軸37に回動可能に軸支されたロータリーダンパー38を時計回りに回動する回動力が生じ、ピニオン43の歯とラック13の歯14とが噛み合って、フック体51及びフック体の保持凹入部56に保持された係合ピン5は緩衝方向へ、緩衝されながら移動する。そして、緩衝終位置におけるラック13の歯の欠落部にピニオン43が到達すると、ロータリーダンパー38は摺動軸49が裏蓋46の内面に設けられた突条70のテーパー面にガイドされて、ロータリーダンパー38は短軸37を中心に反時計回りに回動される。その結果、ロータリーダンパー38はその緩衝終位置においてピニオン43の歯がラック13の歯と噛み合わない回動位置に達する。
【0092】
図8は、緩衝装置の緩衝終位置の状態を示している。フック体51及び係合ピン5がその緩衝終位置からケース体2の前端方向に引張りばね21の引張り力に抗して移動を開始するとき、フック体51の短軸37に回動可能に軸支されたロータリーダンパー38には、ロータリーダンパーケーシング39に取付けられ弾性的に接触しながら摺動する摺動摩擦軸49と裏蓋46との摩擦接触力と、移動体4ひいては係合ピン5の移動力とにより、ロータリーダンパー38を短軸37を中心に反時計回り方向に回動させる力が生ずるため、非緩衝方向への移動中、ロータリーダンパー38のピニオン43の歯とラック13の歯とは噛み合うことがなくなる。したがって、移動体4が非緩衝方向に移動するとき、ロータリーダンパー38やラック13による制動作用を受けず、引張りばね21の引張り力に抗してのみ、移動体4を移動すればよいので、その移動力を軽減できる。
【0093】
次に、第3の実施形態について、図9及び図10を参照して説明する。図9及び図10は、緩衝装置の裏蓋を取除いて示す平面略図である。ただし、裏蓋に形成されている突条のみ対応する個所に付加して図示されている。図9は、係合ピンの待機位置での状態を示し、図10は緩衝終位置の状態を示している。
【0094】
第3実施例と、図7及び図8の第2実施形態と異なるところは、次のとおりである。
【0095】
(1)摺動部材として保持連行体71を用い、ロータリーダンパー38が保持連行体71の低台状部72に回動可能に取付けられており、その高台状部73の前端部に永久磁石74が磁性部材から成る係合ピン5を吸着して保持するために設けられている。
【0096】
(2)図7及び図8の第2実施形態では、フック体51を緩衝終位置に強制的に連行するために引張りばね21が設けられていたが、図9及び図10の第3実施例では強制連結手段は全く設けられていない。したがって、フック体の摺動溝部10の移動溝部11及び回動溝部12も存在しない。
【0097】
(3)連行保持体71はケース体の取付け凹部3の左、右の側壁によって摺動可能に案内されている。
【0098】
(4)第3実施形態では、連行保持体71の係合ピン待機位置はケース体2の取付け凹部3の前端壁であり、連行終位置は移動体4より係合ピン5を介して加わる力とロータリーダンパー38による緩衝作用力とロータリーダンパー38のピニオン43の歯とラック13の歯との噛み合い抵抗力とにより決まる位置または係合ピン5から加わる力が大きい場合、ロータリーダンパー38の終位置により決まる位置をとる。
【0099】
ロータリーダンパー38の終位置において、連行保持体71はケース体2の取付け凹部3の右側後端部に突出するストッパー部75の前端壁に当接している。
【0100】
上述から明らかなように、第3の実施形態では移動体4のロータリーダンパー38の緩衝作用力に逆行する引張りばね21の引張り力がないため、ロータリーダンパー38に第2実施形態に用いたのと同一ロータリーダンパーを使用すると緩衝作用は大きくなる。
【0101】
さらに第3実施形態では非緩衝方向へ移動体4を移動するとき、ロータリーダンパー38のピニオン43の歯とラック13の歯との噛み合いがなく、しかも引張りばね21も存在しないからその引張り力に抗して移動させる必要がないので、非緩衝方向の移動体の移動力を低減できる。
【0102】
以上保持連行体71に永久磁石74を配設し、係合ピン5を永久磁石とし、保持連行体71に設けた永久磁石74の代わりに鉄材などの磁性体を用いることもできる。もちろん両者を永久磁石とすることもできる。永久磁石としては強磁性体からなる磁石例えばフエライト磁石とすることができる。
【0103】
なお、係合ピン5と永久磁石74の両吸着面を平坦化して吸着力が向上させると好適である。永久磁石の吸着力は、ロータリーダンパー38を非緩衝方向に移動する際、ピニオン43とラック13の歯とが噛み合っていないため摺動負荷として保持連行体71とロータリーダンパー38とを、緩衝装置の待機位置まで係合ピン5が連行できればよいので余り強力な磁石は必要でない。
【0104】
次に第4の実施形態につき図11及び図12を参照して説明する。
【0105】
図11及び図12はいずれも緩衝装置の裏蓋を取除いて示す平面略図である。ただし裏蓋に形成されている突条のみ対応する個所に付加して図示されている。この実施形態の第3実施形態と異なる点は次のとおりである。
【0106】
(1)摺動部材としての保持連行体71の係合ピン5を連行する保持部にプラスチックやゴム金属等の弾性部材を使用し、係合ピン5に対向する部分に袋孔部76を形成し、その袋孔部の入口の狭突部分77は係合ピンの直径より狭くなっているが、移動体3の緩衝方向への移動力により、その係合ピン5が、その弾性を有する狭突部分を拡開して袋孔内に進入するようになっている。この実施形態では袋孔の入口部は係合ピン5の導入を容易にするためにテーパ状に内側に向かって絞られている。
【0107】
(2)袋孔部76に隣接して、保持連行体71の前端部に袋孔の狭窄部分の弾性拡開を容易にするため左、右の側にスロット78が形成されている。
【0108】
なお、係合ピン5の断面は円形と異なり角に丸みをつけた3角形断面と、袋孔も3角形断面の孔と、両3角形の1つの頂点が緩衝方向に向くようにして、3角形の底辺部に狭突部を設けることによって袋孔に係合ピン5が進入しやすくしかつ保持され易くすることができる。
【0109】
また狭窄部の弾性による保持力は、係合ピン5による保持連行体71の待機位置への連行ができる程度に選ばれている。
【0110】
その他緩衝方向及び非緩衝方向への緩衝装置の動作は第3実施形態と変わらない。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の緩衝装置の第1実施例の分解斜視図である。
【図2】図1の実施例の緩衝装置の裏蓋を取外して、裏側から見た緩衝動作終了動作位置での平面略図である。
【図3】図1に示す緩衝装置の非緩衝方向に移動中の動作位置での平面略図である。
【図4】図1に示す緩衝装置の緩衝しようとする移動体の係合ピン待機姿勢動作位置で示す平面略図である。
【図5】図1に示す緩衝装置の移動体の移動運動の緩衝動作中の動作位置で示す平面略図である。
【図6】本発明の緩衝装置を適用した装置の斜視略図である。
【図7】本発明の緩衝装置の第2の実施形態の待機状態の平面略図である。
【図8】図7に示す第2実施形態の緩衝装置の緩衝終位置の状態の平面略図である。
【図9】本発明の緩衝装置の第3の実施形態の待機状態の平面略図である。
【図10】図9に示す第3実施形態の緩衝装置の緩衝終位置の状態の平面略図である。
【図11】本発明の緩衝装置の第4の実施形態の待機状態の平面略図である。
【図12】図11に示す第4実施形態の緩衝装置の緩衝終位置の状態の平面略図である。
【符号の説明】
【0112】
1 緩衝装置全体
2 ケース体
3 取付け凹部
4 移動体
5 係合ピン
6 取付プレート
7 底面部
8 案内スロット
9 テーパ状案内部
10 摺動溝
11 移動溝部
12 回動溝部
13 ラック
14 ラックの歯
15 突出部
16 固定溝
17 ブレーキプレート
18 スライダー
19 スライダ左側面
20 スライダ右側壁
21 引張りばね
22 引張りばねくびれ部
23 引張りばね挾持部
24 ガイド壁
25 高台状部
26 低台状部
27 スロット
28 係止溝
29 台状部分
30 収容溝
31 押付部材
32 ブレーキパッド
33 ブレーキパッド
34 装着突出部
35 装着溝
36 右コーナ低台状部
37 短軸
38 ロータリーダンパー
39 ロータリーダンパーケーシング
40 張り出し部
41 スリーブ軸受
42 回転軸
43 ピニオン
44 ストッパ
45 案内軸
46 裏蓋
47 突条
48 支持部
49 摺動摩擦軸
50 軸受孔
51 フック体
52 低台状部
53 高台状部
54 短軸
55 係合凸部
56 保持凹入部
57 カム隆起部
58 取付け凹部
60 取付け孔
61 取付け孔
65 上側ガイドレール
66 支持軸
67 4輪台車
68 延長部
69 ストッパー台状部
70 突条
71 保持連行体
72 低台状部
73 高台状部
74 永久磁石
75 ストッパー台状部
76 袋孔部
77 狭窄部分
78 スロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材との間の相対移動を緩衝させる緩衝装置において、第1部材はラックが設けられたケース体と、該ケース体内を第2部材と共に摺動する摺動部材と該摺動部材に回動可能に軸支され、前記ラックと噛み合うピニオンを有するロータリーダンパーとを具備し、前記ロータリーダンパーのピニオンの回転軸と前記摺動部材の回動支点とを結ぶ軸間直線が前記ラックの歯先面に対する垂直線に対して、前記摺動部材の緩衝方向とは反対方向に向って傾斜しており、前記摺動部材を前記ケース体内で傾斜している側の方向に移動させるとき、前記ロータリーダンパーは前記回動支点を中心にして、前記ラックと前記ピニオンの歯との噛み合いを離脱する方向に回動するようにしたことを特徴とする緩衝装置。
【請求項2】
前記摺動部材を、前記ケース体内を摺動させるとき、前記ロータリーダンパーが前記ケース体に対して弾性的に摺動する摺動摩擦部材を備え、該摺動摩擦部材とケース体との間に生ずる摩擦力により、前記摺動部材が一方の移動方向のとき、前記ロータリーダンパーのピニオンと前記ラックの歯との噛み合いを解除する方向に前記ロータリーダンパーにその回動支点を中心に回動させる回動力を付与し、前記摺動部材が他方の移動方向に移動するとき、前記ロータリーダンパーのピニオンと前記ラックの歯とが噛み合う方向に、前記ロータリーダンパーの回動支点を中心に回動させる回動力を付与するようにしたことを特徴とする請求項1記載の緩衝装置。
【請求項3】
前記ケース体内に長手方向に設けられた前記ラックは、前記軸間直線が傾斜している側の端部にラックの歯が形成されていない噛み合い案内部を有しており、前記噛み合い案内部に、前記ロータリーダンパーのピニオン歯と前記ラックの歯との噛み合いが解除された方向に回動されている前記ロータリーダンパーを、前記ピニオンの歯とラックの歯とが噛み合う方向に回動させる案内手段を有することを特徴とする請求項1又は2記載の緩衝装置。
【請求項4】
前記ロータリーダンパーの緩衝終位置にて、前記ロータリーダンパーのピニオンの歯と前記ラックの歯との噛み合いを離脱する方向に、前記ロータリーダンパーをその回動支点を中心に回動させる手段を有することを特徴とする請求項1〜3項いずれか1項記載の緩衝装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−300296(P2006−300296A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127165(P2005−127165)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000137959)株式会社ムラコシ精工 (92)
【Fターム(参考)】