説明

縦型バランス計測装置

【課題】スラスト給気孔から供給する加圧空気で形成されるスラスト空気軸受のスラスト力を高めて、回転軸の自重をスラスト空気軸受のみで支持することができ、かつスラスト空気軸受及びラジアル空気軸受に供給する加圧空気の圧力を独立に制御してそれぞれの剛性を独立に制御することができる縦型バランス計測装置を提供する。
【解決手段】羽根車1aがシール円板1bより大きい外径の円形端面1eをシール円板側に有しており、縦型バランス計測装置が、回転軸1をその軸心を鉛直に保持して支持する軸受マウント10を備える。軸受マウント10は、羽根車の円形端面1eの下面に加圧空気を供給するスラスト給気孔12と、ラジアル支持用の円筒部1cに加圧空気を供給するラジアル給気孔14と、スラスト給気孔12とラジアル給気孔14の間に位置しその間から加圧空気を排気するスラスト側排気孔16とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦型バランス計測装置に係り、さらに詳しくはその軸受マウントに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来の縦型バランス計測装置の模式図である。この図において、1は被検査物である回転軸、2は空気軸受、3は軸受マウント、4はマウント支持バネ、5は原点センサ、6は変位センサ、7は信号処理装置である。
回転軸1は、図で上端に羽根車1aを有し、その一部に原点マーキングMが設けられ、これを原点センサ5で検出して羽根車1aの回転位置(方位)と回転速度を検出する。
【0003】
縦型バランス計測装置は、回転軸1の軸心を鉛直に保持して、軸受マウント3に設けられた空気軸受2で回転可能に支持し、さらに軸受マウント3をマウント支持バネ4で支持する構造となっている。回転軸1が回転することで発生する振動は、軸受マウント3を介してマウント支持バネ4に伝わり、これを変位させる。この変位を変位センサ6(ピックアップ)で検出し、信号処理装置7演算することでアンバランの量と方位を求めるようになっている。
【0004】
なお、かかる縦型バランス計測装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平04−40650号公報、「つりあい試験方法および装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図2は、本発明が対象とする回転軸1の説明図である。なおこの図は、小型車両用過給機に組み込まれ、他端にコンプレッサインペラ8が取り付けられた状態を示している。
【0007】
回転軸1は、同軸かつ順に間隔を隔てて配置されている羽根車1a、軸シール用のシール円板1b、ラジアル支持用の第1円筒部1c及び第2円筒部1dを有する。
羽根車1aは、例えばタービンインペラであり、回転軸1に一体に形成されている。また、羽根車1aは、シール円板1bより大きい外径の円形端面1eをシール円板側に有する。
シール円板1bは、羽根車1aに向かう潤滑油を遠心力で飛散させ、かつ軸受ハウジングとの間で潤滑油の洩れをシールする。
第1円筒部1c及び第2円筒部1dは、軸受ハウジングに設けられたラジアル軸受により支持される。
また、回転軸1に作用するスラストは、軸受ハウジングに設けられたスラスト軸受9により支持される。
【0008】
図3は、従来の縦型バランス計測装置における軸受マウント3の構造図である。この図において、軸受マウント3は、図2の回転軸1に対応して、スラスト給気孔3a、ラジアル給気孔3b,3c、及び排気孔3d,3eを有する。
スラスト給気孔3aは、シール円板1bの下面に加圧空気を供給して上向きのスラスト力を発生させ、シール円板1bの下面にスラスト空気軸受を形成する。
ラジアル給気孔3b,3cは、ラジアル支持用の第1円筒部1c及び第2円筒部1dに加圧空気を供給して半径方向のラジアル力を発生させ、第1円筒部1c及び第2円筒部1dとの間にラジアル空気軸受を形成する。
排気孔3d,3eは、ラジアル給気孔3b,3cから出た加圧空気がシール円板1b側に回り込むのを防ぐために設けられている。
【0009】
空気軸受2(ラジアル空気軸受)は給気口から加圧空気を供給し、軸との間に形成された圧力勾配で軸を保持するものである。従って、供給する加圧空気の圧力を高くするほど空気軸受の軸受剛性を高めることができる。
また、図1に示した従来の縦型バランス計測装置では、空気軸受2が剛であればあるほどマウント支持バネ4の変位量が大きくなるため、計測精度が良くなる。
【0010】
しかし、図4に模式的に示すように、図3に示した軸受マウント3において、シール円板1bと第1円筒部1cとの直径差が小さく、シール円板1bの下面面積が小さいため、シール円板1bの下面に発生する圧力P1が低く、スラスト給気孔3aからの供給のみでは、回転軸1の自重を支持するためのスラスト空気軸受のスラスト力が不足する問題点があった。
【0011】
そのため、従来は、この不足を補うためにラジアル側の圧力P2を高く設定し、その排気を積極的にスラスト側に回り込ませて、回転軸1を浮上させていた。その結果、ラジアル側の圧力P2を自由に設定できない問題点があった。
【0012】
また、シール円板1bの下面に形成されるスラスト空気軸受は、軸受隙間が微小な状態で剛性を発揮するので、ラジアル側から回り込んだ排気で回転軸1を浮上させると、スラスト空気軸受の剛性が低くなり、自励振動が発生しやすくなる問題点があった。
【0013】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、スラスト給気孔から供給する加圧空気で形成されるスラスト空気軸受のスラスト力を高めて、回転軸の自重をスラスト空気軸受のみで支持することができ、かつスラスト空気軸受及びラジアル空気軸受に供給する加圧空気の圧力を独立に制御してそれぞれの剛性を独立に制御することができる縦型バランス計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、羽根車、軸シール用のシール円板、ラジアル支持用の円筒部が同軸かつ順に間隔を隔てて配置されている回転軸をその軸心を鉛直に保持して回転させ、そのアンバランスの量と方位を求める縦型バランス計測装置であって、
前記羽根車はシール円板より大きい外径の円形端面をシール円板側に有しており、
前記回転軸をその軸心を鉛直に保持して支持する軸受マウントを備え、
該軸受マウントは、羽根車の前記円形端面の下面に加圧空気を供給するスラスト給気孔と、
前記ラジアル支持用の円筒部に加圧空気を供給するラジアル給気孔と、
前記スラスト給気孔とラジアル給気孔の間に位置しその間から加圧空気を排気するスラスト側排気孔とを有する、ことを特徴とする縦型バランス計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明の構成によれば、羽根車の円形端面の下面面積が、シール円板より大きいので、円形端面の下面にスラスト給気孔から加圧空気を上向きに供給することで発生する圧力もシール円板より高くなり、面積×圧力で定まるスラスト空気軸受のスラスト力を大幅に高めることができる。
従って、スラスト空気軸受のスラスト力の不足が解消でき、回転軸の自重をスラスト空気軸受のみで支持することができる。
【0016】
また、スラスト側排気孔が、スラスト給気孔とラジアル給気孔の間に位置し、その間から加圧空気を排気するので、スラスト給気孔とラジアル給気孔の中間位置の圧力が常に外気圧に保たれ、スラスト空気軸受とラジアル空気軸受の空気の相互干渉が無くなり、スラスト空気軸受及びラジアル空気軸受に供給する加圧空気の圧力を独立に制御してそれぞれの剛性を独立に制御することができる。

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の縦型バランス計測装置の模式図である。
【図2】本発明が対象とする回転軸の説明図である。
【図3】従来の縦型バランス計測装置における軸受マウントの構造図である。
【図4】図3のA部の模式図である。
【図5】本発明の縦型バランス計測装置における軸受マウントの構造図である。
【図6】図5のA部の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0019】
図5は、本発明の縦型バランス計測装置における軸受マウントの構造図である。
本発明の縦型バランス計測装置は、図2に示した回転軸1を検査対象とする。すなわち、本発明の縦型バランス計測装置が検査対象とする回転軸1は、羽根車1a、軸シール用のシール円板1b、ラジアル支持用の円筒部1c,1dが同軸かつ順に間隔を隔てて配置されている。
また、羽根車1aはシール円板1bより大きい外径の円形端面1eをシール円板側に有している。円形端面1eの直径は、円形端面1eの軸部を除くドーナツ形状部分に作用する圧力(後述する円形端面1eの下面に発生する圧力P3)により、面積×圧力で定まる上向きのスラスト力が回転軸1の自重より大きくなる大きさであるのがよい。
また、円形端面1eは、回転軸1の軸線に直交する平面であるのが好ましいが、軸線に対して対象である限りで、傾斜していてもよい。
なお、この例において、ラジアル支持用の円筒部1c,1dは、ラジアル支持用の第1円筒部1cと第2円筒部1dであるが、円筒部1c,1dが一体であってもよい。
【0020】
本発明の縦型バランス計測装置は、回転軸1をその軸心を鉛直に保持して回転させ、そのアンバランスの量と方位を求める縦型バランス計測装置であり、その全体構成は、図1の模式図と同じである。
【0021】
本発明の縦型バランス計測装置は、回転軸1をその軸心を鉛直に保持して支持する軸受マウント10を備える。この軸受マウント10は、図1の模式図における軸受マウント3に相当する。
この場合、回転軸1は、羽根車1aが上になるように、軸受マウント10の軸線に沿って設けられた中空開口孔に上方から挿入する。
【0022】
図5において、本発明の軸受マウント10は、全体として軸線に沿って設けられた中空開口孔を有する中空円筒部材であり、その内部にスラスト給気孔12、ラジアル給気孔14,15、スラスト側排気孔16、及びラジアル側排気孔18を有する。
スラスト給気孔12、及びラジアル給気孔14,15には、図示しないそれぞれ独立したフレキシブルパイプを介して、空圧源から加圧空気が供給される。また、各給気孔12,14,15に供給する加圧空気の圧力はそれぞれ独立して制御できるようになっている。
【0023】
スラスト給気孔12は、軸受マウント10の内部を通り、その上端から鉛直上向きに開口した孔であり、羽根車1aの円形端面1eの下面に加圧空気を供給する。スラスト給気孔12は、軸受マウント10の軸線を中心として周方向に均等に複数(例えば、4〜8個)が設けられている。
【0024】
ラジアル給気孔14,15は、軸受マウント10の内部を通り、その内端から半径方向内向きに開口した孔であり、ラジアル支持用の円筒部1c,1dに加圧空気を供給する。ラジアル給気孔14,15は、軸受マウント10の軸線を中心として周方向に均等に複数(例えば、4〜8個)が設けられている。
【0025】
スラスト側排気孔16は、スラスト給気孔12とラジアル給気孔14の間に位置し、その間から加圧空気を排気する。この例では、スラスト側排気孔16はシール円板1bの位置にあるが、シール円板1bより上側であってもよい。また、スラスト側排気孔16は、スラスト給気孔12とラジアル給気孔14から供給される加圧空気により中空開口孔内の圧力が上昇しないように、十分大きく設定されている。
【0026】
ラジアル側排気孔18は、この例で、ラジアル支持用の第1円筒部1cと第2円筒部1dの間に位置し、その間から加圧空気を排気する。この例では、ラジアル側排気孔18は、第1円筒部1cと第2円筒部1dの中間位置にあるが、上下のラジアル給気孔14,15から供給される加圧空気により中空開口孔内の圧力が上昇しないように、十分大きく設定されている。
【0027】
図6は、図5のA部の模式図である。
この図に示すように、上述した本発明の構成によれば、羽根車1aの円形端面1eの下面面積が、シール円板1bより大きいので、円形端面1eの下面にスラスト給気孔12から加圧空気を上向きに供給することで円形端面1eの下面に発生する圧力P3は、シール円板1bの下面に供給した場合より高くなり、面積×圧力で定まるスラスト空気軸受のスラスト力を大幅に高めることができる。
従って、スラスト空気軸受のスラスト力の不足が解消でき、回転軸1の自重をスラスト空気軸受のみで支持することができる。
【0028】
また、スラスト側排気孔16が、スラスト給気孔12と上側のラジアル給気孔14の間に位置し、その間から加圧空気を排気するので、スラスト給気孔12とラジアル給気孔14の中間位置の圧力が常に外気圧(大気圧)に保たれ、スラスト空気軸受とラジアル空気軸受の空気の相互干渉が無くなり、スラスト空気軸受及びラジアル空気軸受に供給する加圧空気の圧力を独立に制御してそれぞれの剛性を独立に制御することができる。
【0029】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0030】
1 回転軸、1a 羽根車、1b シール円板、
1c 第1円筒部、1d 第2円筒部、1e 円形端面、
2 空気軸受、3 軸受マウント、3a スラスト給気孔、
3b,3c ラジアル給気孔、3d,3e 排気孔、
4 マウント支持バネ、5 原点センサ、
6 変位センサ、7 信号処理装置、
8 コンプレッサインペラ、10 軸受マウント、
12 スラスト給気孔、14,15 ラジアル給気孔、
16 スラスト側排気孔、18 ラジアル側排気孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽根車、軸シール用のシール円板、ラジアル支持用の円筒部が同軸かつ順に間隔を隔てて配置されている回転軸をその軸心を鉛直に保持して回転させ、そのアンバランスの量と方位を求める縦型バランス計測装置であって、
前記羽根車はシール円板より大きい外径の円形端面をシール円板側に有しており、
前記回転軸をその軸心を鉛直に保持して支持する軸受マウントを備え、
該軸受マウントは、羽根車の前記円形端面の下面に加圧空気を供給するスラスト給気孔と、
前記ラジアル支持用の円筒部に加圧空気を供給するラジアル給気孔と、
前記スラスト給気孔とラジアル給気孔の間に位置しその間から加圧空気を排気するスラスト側排気孔とを有する、ことを特徴とする縦型バランス計測装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−247837(P2011−247837A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123661(P2010−123661)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】