説明

縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする装置およびプログラム

【課題】縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする装置を提供すること。
【解決手段】本発明の装置は、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を表す縦隔画像をCT画像から抽出する手段と、血管画像をCT画像から抽出する手段と、血管画像に基づいて、大動脈を第1の境界面として設定する手段と、縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づくアキシャル方向の境界面のうちの少なくとも1つを第2の境界面として設定する手段と、縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面のうちの少なくとも1つを第3の境界面として設定する手段と、第1の境界面、第2の境界面および第3の境界面のうちの少なくとも1つを用いて、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非小細胞癌(I期II期)の標準療法として、外科的切除を行う方法が知られている。しかし、日本では、肺区域切除および縦隔リンパ節郭清を行う方法が標準的な方法である。日本の術後予後は海外に比べて良いため、国際胸部外科学会などの国際学会を通して日本の手術方法が世界的に広がることが期待されている。
【0003】
従来、3次元胸部X線CT像における縦隔リンパ節の位置を推定する技術が知られている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3を参照)。しかしながら、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする技術や、そのセグメンテーション結果として得られる複数の区域を区別して3次元的に表示する技術は存在しなかった。
【非特許文献1】菅原智明 他、「3次元胸部X線CT像における縦隔リンパ節の存在位置の推定」、電子情報通信学会、信学技法、TECHNICAL REPORT OF IEICE、DSP2002−5、IE2002−5、MI2002−5(2002−04)、25〜30
【非特許文献2】北坂孝幸 他、「モデルを利用した3次元胸部X線CT画像からの縦隔内動脈領域抽出」、電子情報通信学会、信学技法、TECHNICAL REPORT OF IEICE、MI2000−97(2001−01)、115〜120
【非特許文献3】Takayuki Kitasaka et al.,”Automated Extraction of Aorta and Pulmonary Artery in Mediastinum from 3D Chest X−ray CT Images without Contrast Medium”,Medical Imaging 2002: Image Processing,Milan Sonka,J.Michael Fitzpatrick,Editors,Proceedings of SPIE Vol.4684(2002),1496−1507
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の装置は、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする装置であって、該縦隔リンパ節郭清で切除される領域を表す縦隔画像をCT画像から抽出する手段と、血管画像をCT画像から抽出する手段と、該血管画像に基づいて、大動脈を第1の境界面として設定する手段と、該縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づくアキシャル方向の境界面のうちの少なくとも1つを第2の境界面として設定する手段と、該縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面のうちの少なくとも1つを第3の境界面として設定する手段と、該第1の境界面、該第2の境界面および該第3の境界面のうちの少なくとも1つを用いて、該縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする手段とを備え、これにより上記目的が達成される。
【0006】
本発明の1つの実施形態では、前記解剖学的特徴に基づくアキシャル方向の境界面は、左鎖骨下静脈下縁(肺尖)と、左腕頭動脈が気管正中線と交差する高さと、大動脈弓上縁と、大動脈弓下縁(アキシャルスライスで上行大動脈と下行大動脈が分離して見える高さ)と、奇静脈上縁と、左主肺動脈上縁と、右主肺動脈上縁と、気管分岐と、右主肺動脈下縁とを含む。
【0007】
本発明の1つの実施形態では、前記解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面は、大静脈前壁面と、上行大動脈前壁面と、気管前壁面と、気管後壁面と、大動脈左側面と、上行大動脈後壁面と、下行大動脈後壁面と、主気管支前壁面と、主気管支後壁面と、左気管支内側面と、右気管支内側面とを含む。
【0008】
本発明の装置は、前記複数の区域を互いに異なる態様で3次元的に表示する手段をさらに備えていることが好ましい。
【0009】
本発明のプログラムは、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする縦隔リンパ節セグメンテーション処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、該縦隔リンパ節セグメンテーション処理は、該縦隔リンパ節郭清で切除される領域を表す縦隔画像をCT画像から抽出するステップと、血管画像をCT画像から抽出するステップと、該血管画像に基づいて、大動脈を第1の境界面として設定するステップと、該縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づくアキシャル方向の境界面を第2の境界面として設定するステップと、該縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面を第3の境界面として設定するステップと、該第1の境界面、該第2の境界面および該第3の境界面のうちの少なくとも1つを用いて、該縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションするステップとを包含し、これにより上記目的が達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする装置およびプログラムを提供することができる。本発明の装置およびプログラムは、手術で切除する区域を表示する手術支援ツール、縦隔リンパ節郭清の普及のための教育ツール、各リンパ節区域の体積評価から治療効果を判定するためのツール等として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
1.縦隔リンパ節セグメンテーションシステムの構成
図1は、本発明の実施の形態の縦隔リンパ節セグメンテーションシステム1の構成の一例を示す。
【0013】
縦隔リンパ節セグメンテーションシステム1は、CT装置10と、CT装置10に接続されたコンピュータ20と、コンピュータ20に接続された表示装置30とを含む。
【0014】
CT装置10は、3次元物体(例えば、縦隔リンパ節郭清で切除される領域)のスライス画像を積層し、その積層されたスライス画像を複数のボクセルに分割することによって、3次元に配列された複数のボクセルを生成する。CT装置10によって生成された複数のボクセルは、コンピュータ20に出力される。
【0015】
図1において、参照番号12は、CT装置10によって生成され、3次元に配列された複数のボクセルV(i,j,k)の集合(CT画像)を模式的に示す。ここで、i=1,2,・・・L;j=1,2,・・・M;k=1,2,・・・Nであり、L、M、Nは、それぞれ、1以上の任意の整数である。各V(i,j,k)は、CT値を有している。CT値は、CT装置10によってボクセル単位に計測された値であり、例えば、整数によって表される。CT装置10としては、図1に示されるボクセルの集合12を出力し得る任意のタイプのCT装置を使用することができる。
【0016】
コンピュータ20は、ボクセルの集合12に基づいて、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする縦隔リンパ節セグメンテーション処理を実行する。コンピュータ20としては、各種プログラムを実行するCPUと各種データを格納するメモリとを含む任意のタイプのコンピュータを使用することができる。
【0017】
表示装置30は、コンピュータ20によって実行された縦隔リンパ節セグメンテーション処理の結果を表示する。表示装置30は、縦隔リンパ節セグメンテーション処理の結果として生成された画像を3次元的にカラーで表示することが可能な表示装置であることが好ましい。表示装置30は、例えば、液晶表示装置であってもよいし、CRT表示装置であってもよい。
【0018】
図2は、コンピュータ20の構成の一例を示す。
【0019】
コンピュータ20は、CPU21と、メモリ22と、入力インターフェース部23と、出力インターフェース部24と、ユーザインターフェース部25と、バス26とを含む。
【0020】
CPU21は、プログラムを実行する。そのプログラムは、例えば、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする縦隔リンパ節セグメンテーション処理をコンピュータ20に実行させるプログラムである。そのプログラムやそのプログラムの実行に必要なデータは、例えば、メモリ22に格納されている。そのプログラムがどのような態様でメモリ22に格納されているかは問わない。例えば、メモリ22が書き換え可能なメモリである場合には、コンピュータ20の外部からそのプログラムをインストールすることにより、そのプログラムをメモリ22に格納するようにしてもよい。あるいは、メモリ22が書き換え不可能なメモリ(読み出し専用メモリ)である場合には、メモリ22に固定する(焼き付ける)形式でそのプログラムをメモリ22に格納するようにしてもよい。
【0021】
入力インターフェース部23は、CT装置10からCT画像を受け取るための入力インターフェースとして機能する。
【0022】
出力インターフェース部24は、縦隔リンパ節セグメンテーション処理の結果を表示装置30に出力するための出力インターフェースとして機能する。
【0023】
ユーザインターフェース部25は、ユーザとのインターフェースとして機能する。ユーザインターフェース部25には、例えば、マウス25aやキーボード25bなどの入力デバイスが接続されている。
【0024】
バス26は、コンピュータ20内の構成要素21〜25を相互に接続するために使用される。
【0025】

2.縦隔リンパ節セグメンテーション処理の概要
図3は、縦隔リンパ節セグメンテーション処理の概要を示す。このような縦隔リンパ節セグメンテーション処理は、例えば、プログラムの形式で実現され得る。そのようなプログラムは、例えば、CPU21によって実行される。
【0026】
ステップ301:CT画像が取得される。CT画像に含まれる複数のボクセルのそれぞれはCT値を有している。このようなCT画像の取得は、例えば、CPU21が入力インターフェース部23を介してCT装置10から出力されたCT画像を受け取ることによって達成される。しかし、CT画像を取得する態様は、これに限定されない。コンピュータ20は、任意の態様でCT画像を取得し得る。例えば、コンピュータ20は、磁気ディスクなどの記録媒体に記録されたCT画像を読み出すことによってCT画像を取得してもよいし、CT装置10から受け取ったCT画像のうちの一部(例えば、CT装置10から受け取ったCT画像のうちユーザによって選択されたもの)を取得するようにしてもよい。
【0027】
ステップ302:CT画像から、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を表す縦隔画像が抽出される。このような縦隔画像の抽出は、例えば、胸部CT画像内の領域のうち、操作者によって指定された領域(例えば、直方体の領域)に対してCT値の差を利用したしきい値処理を行うことにより、操作者によって指定された領域から、血管、気管、食道、甲状腺、骨、肺などを除去することによって達成される。ここで、縦隔リンパ節郭清で切除される領域は、リンパ節と、そのリンパ節の周囲にある軟部組織・脂肪組織とを含む。
【0028】
ステップ303:CT画像から、大動脈および大静脈を表す画像(血管画像)が抽出される。このような血管画像の抽出は、例えば、胸部CT画像内の領域のうち、操作者によって指定された領域(例えば、直方体の領域)に対してCT値の差を利用したしきい値処理および連結成分処理を行うことによって達成される。
【0029】
ステップ304:血管画像に基づいて、大動脈(例えば、大動脈弓)が第1の境界面として設定される。ステップ304の詳細は、「3.境界面の設定」において後述される。
【0030】
ステップ305:縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づくアキシャル方向(体軸に垂直な方向)の境界面のうちの少なくとも1つが第2の境界面として設定される。ステップ305の詳細は、「3.境界面の設定」において後述される。
【0031】
ステップ306:縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面のうちの少なくとも1つが第3の境界面として設定される。ステップ306の詳細は、「3.境界面の設定」において後述される。
【0032】
ステップ307:第1の境界面、第2の境界面および第3の境界面のうちの少なくとも1つを用いて、縦隔リンパ節郭清で切除される領域が複数の区域にセグメンテーションされる。ステップ307の詳細は、「4.セグメンテーションの実行」において後述される。
【0033】

3.境界面の設定
縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションするための境界面としては、3種類の境界面が用いられる。以下、各境界面を設定する方法を説明する。
【0034】

3.1 大動脈
図3のステップ303において抽出された血管画像内の大動脈(例えば、大動脈弓)が第1の境界面として設定される。第1の境界面の設定は、血管画像の抽出と同時に自動的に行われる。
【0035】

3.2 解剖学的特徴に基づくアキシャル方向(体軸に垂直な方向)の境界面
解剖学的特徴に基づくアキシャル方向(体軸に垂直な方向)の境界面は、以下に示す9種類の境界面を含む。
(1)左鎖骨下静脈下縁(肺尖)
(2)左腕頭動脈が気管正中線と交差する高さ
(3)大動脈弓上縁
(4)大動脈弓下縁(アキシャルスライスで上行大動脈と下行大動脈が分離して見える高さ)
(5)奇静脈上縁
(6)左主肺動脈上縁
(7)右主肺動脈上縁
(8)気管分岐
(9)右主肺動脈下縁
上記(1)、(2)、(5)〜(8)の境界面は、「肺癌取扱い規約(第6版)」に示された定義に対応するものである。上記(3)、(4)、(9)の境界面は、本発明において必要とされる追加の境界面である。これらの追加の境界面は、「肺癌取扱い規約(第6版)」の文意に沿っている。
【0036】
上記9種類の境界面のそれぞれは、操作者が各解剖学的特徴の見られるスライス画像を指定することによって、操作者によって手動的に設定される。ただし、上記(8)の境界面(すなわち、気管分岐)は、「3.2.3 気管前壁面、気管後壁面の設定」において後述されるように気管前壁面、気管後壁面を自動的に設定する際に自動的に設定されるようにしてもよい。また、上記(3)の境界面(すなわち、大動脈弓上縁)は、「3.2.2 上行大動脈前壁面の設定」において後述されるように上行大動脈前壁面を自動的に設定する際に自動的に設定されるようにしてもよい。
【0037】
図4は、解剖学的特徴に基づくアキシャル方向(体軸に垂直な方向)の境界面として設定された境界面の一例を示す。
【0038】

3.3 解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面
解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面は、以下に示す11種類の境界面を含む。
(1)大静脈前壁面
(2)上行大動脈前壁面
(3)気管前壁面
(4)気管後壁面
(5)大動脈左側面
(6)上行大動脈後壁面
(7)下行大動脈後壁面
(8)主気管支前壁面
(9)主気管支後壁面
(10)左気管支内側面
(11)右気管支内側面
上記11種類の境界面のそれぞれは、操作者が各解剖学的特徴の見られるスライス画像を指定することによって、操作者によって手動的に設定される。ただし、上記(1)の境界面(すなわち、大静脈前壁面)は、所定のボタンを押すことによって自動的に設定され得る。また、上記(2)の境界面(すなわち、上行大動脈前壁面)は、所定のボタンを押すことによって自動的に設定され得る。また、上記(3)、(4)の境界面(すなわち、気管前壁面、気管後壁面)は、気管内の一点を指定することによって自動的に設定され得る。
【0039】
なお、これらの境界面と各アキシャルスライス画像とが交差することによって、各アキシャルスライス画像上に形成される交差線を境界線という。
【0040】
図5は、解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面として設定された境界面の一例を示す。
【0041】
図6は、各アキシャルスライス画像のための座標系を示す。図6において、「A」は、”anterior”を示し、「P」は、”posterior”を示し、「R」は、”right”を示し、「L」は、”left”を示す。
【0042】

3.3.1 大静脈前壁面の設定
大静脈前壁面を自動的に設定することは、例えば、大静脈画像(大静脈を表す血管画像)を用いて、各スライス画像上に、大静脈画像のうち最も腹側の点を通る直線を作成することによって達成される。しかし、CT画像から抽出された大静脈画像における静脈の形状は安定しない傾向がある。
【0043】
図7は、CT画像から抽出された大静脈画像の例を示す。図7において、aは、理想的な大静脈画像の例を示し、bは、大静脈のうち造影効果の高い部分のみが大静脈として抽出された場合の大静脈画像の例を示し、c、dは、それぞれ、大静脈の下部が抽出されなかった場合の大静脈画像の例を示す。図7のb、c、dに示されるように、大静脈画像における静脈の形状が安定しない場合には、大静脈前壁面を手動的に設定することが好ましい。
【0044】
大静脈前壁面を手動的に設定することは、例えば、(1)境界面の開始スライス画像において大静脈前壁の接点(点A:始点)を設定し、境界面の終了スライス画像において大静脈前壁の接点(点A:終点)を設定すること(図8のa、bを参照)と、(2)開始スライス画像において、大動脈前壁の接点(点A;始点)を通り、x軸に平行な直線を引くことによって、この直線を境界線とし、終了スライス画像において、大動脈前壁の接点(点A;終点)を通り、x軸に平行な直線を引くことによって、この直線を境界線とすること(図8のbを参照)と、(3)開始スライス画像と終了スライス画像との間にある各スライス画像について、直線補間により接点を算出することとによって達成される。このようにして、各スライス画像上の境界線を積み上げることで、大静脈前壁面が作成される(図8のcを参照)。
【0045】

3.3.2 上行大動脈前壁面の設定
上行大動脈前壁面を自動的に設定することは、例えば、大動脈画像(大動脈を表す血管画像)を作成する際、大動脈弓から分岐する3本の血管(腕頭動脈、左総頚動脈、左鎖骨下動脈)をあらかじめ切り取ること(図9のa、bを参照)、大動脈画像の最もz座標の小さな点を大動脈弓上縁スライスとして設定すること(図9のcを参照)と、その後、各スライス画像上に、大動脈画像のうち最も腹側の点を通る直線を作成すること(図10のa、b、c、dを参照)とによって達成される。ここで、大動脈よりも右主肺動脈が腹側に来る場合でも、前スライスの接点のx座標左右5ピクセル以内(経験により決定)で最小y座標を探すことにより、大動脈の前壁を追うようにしている(図10のcを参照)。
【0046】
上行大動脈前壁面を手動的に設定することは、例えば、大静脈前壁面を手動的に設定する際に設定された大動脈前壁線始点・終点と共に中点を用いて、開始スライス画像と終了スライス画像との間にある各スライス画像について、直線補間により接点を作成することにより平面の上行大動脈前壁面を作成すること(図11のaを参照)と、直線補間により各スライス画像について作成された接点をy軸に平行に上下移動させることによって、曲面の上行大動脈前壁面を作成すること(図11のe、fを参照)とによって達成される。ここで、中点としては、「3.2.4 大動脈左側面、上行大動脈後壁面の設定」において後述される開始スライス画像上の点D1が用いられる。スライス画像上の血管の形状は、円形の場合と楕円形の場合とがある。大動脈画像を用いて、上行大動脈の前端まで点D1をy軸の負方向に平行に移動させた点を点F1とし、大動脈左側線に平行にy軸の負方向に移動させた点を点F2とする。点F1と点F2のうち、y座標が小さい方の点を大動脈前壁線中点とする(図11のb〜dを参照)。
【0047】

3.3.3 気管前壁面、気管後壁面の設定
気管前壁面、気管後壁面を自動的に設定することは、例えば、(1)アキシャルスライス画像上の気管内にシードとなる点を設定すること(図12のaを参照)と、(2)リージョングローイングにより気管のCT値の領域を抽出すること(図12のbを参照)と、(3)各スライス画像について、最初の設定点から新たなシードを自動的に設定し、同様にリージョングローイングにより気管領域を抽出していくことによって達成される。自動的に設定するシードは、気管分岐スライスで分岐した左右の気管支の抽出に対応可能なように前スライスで抽出した領域の最小と最大y座標から、領域の左右の端3分の1ずつの点を計算して用いる(図12のcを参照)。上記(1)〜(3)の処理と同時に各スライス画像上の気管領域にラベリング処理を行い、ラベル数が2になったスライス画像で抽出を終了する(図12のdを参照)。その結果、気管分岐のスライスと、気管分岐までの気管領域とが抽出される(図12のeを参照)。抽出された各アキシャルスライス画像の気管領域について、y座標の最小値とy座標の最大値とをそれぞれ気管前壁線のy座標と気管後壁線のy座標とする(図12のa〜dの黄色線を参照)。
【0048】
気管前壁面、気管後壁面を手動的に設定することは、例えば、大静脈前壁面を手動的に設定する際と同様に、開始スライス画像および終了スライス画像のそれぞれについて、気管前壁接点、気管後壁接点を設定することと、開始スライス画像と終了スライス画像との間にある各スライス画像について、直線補間により接点を算出することとによって達成される。このようにして、各スライス画像上の境界線を積み上げることで、気管前壁面、気管後壁面が作成される。
【0049】

3.3.4 大動脈左側面、上行大動脈後壁面の設定
大動脈左側面、上行大動脈後壁面を手動的に設定することは、例えば、大静脈前壁面を手動的に設定する際と同様に、開始スライス画像と終了スライス画像のそれぞれについて、
上行大動脈左側接点(点A)、下行大動脈左側接点(点B)を設定し、点Aと点Bとを通る直線を大動脈左側線とし、開始スライス画像と終了スライス画像との間にある各スライス画像について、直線補間により接点を作成し、平面の大動脈左側面を作成することによって達成される。各スライス画像について、大動脈画像を用いて、点A、点Bをそれぞれ上行大動脈、下行大動脈の左端接点となるようにx軸に左右に平行移動させ正確な接点に補正し、曲面の大動脈左側面を作成する(図13のaを参照)。各スライス画像について、大動脈画像を用いて、上記補正された点Aを上行大動脈の右端までx軸の負方向に左右に平行移動させた点を点Cとする。大動脈弓上部スライス画像について、点Cを上記移動距離の4分の3だけx軸の正方向に移動させた点を点D2とし、下部スライス画像について、点Cを上記移動距離の2分の1だけx軸の正方向に平行移動させた点を点D1とする(図13のb1、b2を参照)。点D1、点D2を大動脈左側線に平行にy軸の正方向に移動したものをそれぞれ点E1、点E2とする(図13のcを参照)。各スライス画像について、点E1、点E2を通り、大動脈左側線に垂直な線を作成し、その線を大動脈後壁線とする。ただし、大動脈左側線と大動脈後壁線との交点よりy座標が小さい領域については、大動脈後壁線を作成しないものとする(図13のdを参照)。
【0050】

3.3.5 主気管支前壁面、主気管支後壁面の設定
気管支は、斜めに走っていたり(図14のaを参照)、左右の気管支の太さが異なっていたり(図14のbを参照)する場合が多い。
【0051】
主気管支前壁面、主気管支後壁面を手動的に設定することは、例えば、前壁接点、後壁接点を設定し、上行大動脈前壁面を手動的に設定する際と同様に曲面の主気管支前壁面、曲面の主気管支後壁面を作成すること(図14のa、bを参照)によって達成される。
【0052】

4.セグメンテーションの実行
縦隔リンパ節郭清で切除される領域は、9個の区域(区域#1、区域#2、区域#3a、区域#3、区域#3p、区域#4、区域#5、区域#6、区域#7)にセグメンテーションされる。
【0053】

4.1 各区域を抽出するために必要な境界面
「3.境界面の設定」において上述したすべての境界面を設定する必要はない。操作者が抽出したい区域を指定する(例えば、操作者が抽出したい区域の番号を入力する)場合には、その指定された区域を抽出するために必要な境界面のみを設定するようにすればよい。例えば、操作者が抽出したい区域を指定する(例えば、操作者が抽出したい区域の番号を入力する)場合には、設定すべきアキシャルスライス名を表示し、アキシャルスライスを設定するとそのスライス上で設定すべき解剖学的特徴点がある場合には、指定すべき特徴点名を表示するようにしてもよい。このように、画面表示(ガイダンス)に従って必要な項目を設定することによって、必要な境界面のみを設定するようにしてもよい。これにより、必要最小限の境界面を用いて、目的とする区域を抽出することが可能になる。
【0054】
表1は、各区域を抽出するために必要な境界面を、z軸に垂直な境界面とy軸に垂直な境界面とx軸に垂直な境界面とに分類して示したものである。表1において、下線を付けた境界面は、「肺癌取扱い規約(第6版)」には定義されていないが、縦隔リンパ節郭清で切除される領域(縦隔領域)を9個の区域(区域#1、区域#2、区域#3a、区域#3、区域#3p、区域#4、区域#5、区域#6、区域#7)にセグメンテーションするために不可欠のため、本願の発明者によって定義された境界面を示す。また、表1において、網掛けを付けた境界面は、個体差によって影響を受ける境界面を示す。
【0055】
【表1】

z軸に垂直な境界面としては、以下の境界面がある。
【0056】
Z1:左鎖骨下静脈下縁(肺尖)
Z2:左腕頭動脈が気管正中線と交差する高さ
Z3:大動脈弓上縁
Z4:大動脈弓下縁
Z5:奇静脈上縁
Z6:左主肺動脈上縁
Z7:右主肺動脈上縁
Z8:気管分岐
Z9:右主肺動脈下縁
y軸に垂直な境界面としては、以下の境界面がある。
【0057】
Y1:大静脈前壁面
Y2:上行大動脈前壁面
Y3:気管前壁面
Y4:気管後壁面
Y5:主気管支前壁面
Y6:主気管支後壁面
Y7:上行大動脈後壁面
Y8:下行大動脈後壁面
x軸に垂直な境界面としては、以下の境界面がある。
【0058】
X1:大動脈弓
X2:大動脈左側面
X3:左気管支内側面
X4:右気管支内側面
以下の説明では、説明の簡略化のために、Z1〜Z9によってz軸に垂直な境界面を示し、Y1〜Y8によってy軸に垂直な境界面を示し、X1〜X4によってx軸に垂直な境界面を示すものとする。
【0059】

4.2 区域#1の抽出
区域#1の抽出は、例えば、図3のステップ302において抽出された縦隔画像に含まれる複数のピクセルのうち、式(#1−1)を満たすピクセルを特定し、その特定されたピクセルの画素値に特定の値(例えば、yellowgreenを表すカラー値)を割り当てることによって行われる。このような処理は、コンピュータ20によって実行される。
【0060】
Z1 ≦ z <Z2 ・・・式(#1−1)

4.3 区域#2の抽出
区域#2のx軸に垂直な境界面は、大動脈左側面(X2)の存在し始める大動脈弓下縁(Z4)のスライス画像よりも上側では、大動脈弓(X1)が存在すれば大動脈弓(X1)よりも右側である。区域#2のx軸に垂直な境界面は、大動脈弓下縁(Z4)のスライス画像よりも下側では、大動脈左側面(X2)が存在するため大動脈左側面(X2)よりも右側である。そこで、本発明では、個体差を考慮して、区域#2の終了スライス画像である奇静脈上縁(Z5)のスライス画像が大動脈弓下縁(Z4)よりも上側にある場合には、大動脈弓(X1)を境界面として用いることとし、奇静脈上縁(Z5)のスライス画像が大動脈弓下縁(Z4)よりも下側にある場合には、大動脈左側面(X2)を境界面として用いることとした。
【0061】
区域#2の抽出は、例えば、図3のステップ302において抽出された縦隔画像に含まれる複数のピクセルのうち、条件に応じて、式(#2−1)または式(#2−2)または式(#2−3)または式(#2−4)のうちのいずれか1つを満たすピクセルを特定し、その特定されたピクセルの画素値に特定の値(例えば、pinkを表すカラー値)を割り当てることによって行われる。このような処理は、コンピュータ20によって実行される。
【0062】
図15は、区域#2をpinkに色付けして表示した例を示す。
【0063】
1.Z2 ≦ z < Z5 かつ z ≦ Z3の場合(図15の(a)を参照)
Y3 ≦ y ≦ Y4 ・・・式(#2−1)
2.Z2 ≦ z < Z5 かつ z > Z3の場合
If Z5 < Z4 (常に大動脈弓を境界面とする、図15の(b)を参照)
Y3 ≦ y ≦ Y4 かつ x < X1 ・・・式(#2−2)
else Z4 ≦ Z5 (大動脈弓および大動脈左側面を境界面とする)
(1)z < Z4 (図15の(b)を参照)
Y3 ≦ y ≦ Y4 かつ x < X1 ・・・式(#2−3)
(2)Z4 ≦ z < Z5 (図15の(c)を参照)
Y3 ≦ y ≦ Y4 かつ x < X2 ・・・式(#2−4)

4.4 区域#3aの抽出
区域#3aのz軸に垂直な終了スライス画像は、「肺癌取扱い規約(第6版)」には定義されていない。そこで、本発明では、区域#3aのz軸に垂直な終了スライス画像として、右主肺動脈下縁(Z9)のスライス画像を用いることとした。
【0064】
区域#3aの抽出は、例えば、図3のステップ302において抽出された縦隔画像に含まれる複数のピクセルのうち、条件に応じて、式(#3a−1)または式(#3a−2)または式(#3a−3)または式(#3a−4)のうちのいずれか1つを満たすピクセルを特定し、その特定されたピクセルの画素値に特定の値(例えば、orangeを表すカラー値)を割り当てることによって行われる。このような処理は、コンピュータ20によって実行される。
【0065】
図16は、区域#3aをorangeに色付けして表示した例を示す。
【0066】
1.Z2 ≦ z < Z9 かつ z ≦ Z3の場合(図16の(a)を参照)
y < Y1 ・・・式(#3a−1)
2.Z2 ≦ z < Z9 かつ z > Z3の場合
if Y1 < Y2 (図16の(b)を参照)
y < Y1 ・・・式(#3a−2)
else Y2 ≦ Y1 (図16の(c)を参照)
(1)y < Y2
xについては条件なし ・・・式(#3a−3)
(2)Y2 < y < Y1
x < X1 ・・・式(#3a−4)

4.5 区域#3の抽出
区域#3のx軸に垂直な境界面は、大動脈左側面(X2)の存在し始める大動脈弓下縁(Z4)のスライス画像よりも上側では、大動脈弓(X1)が存在すれば大動脈弓(X1)よりも右側である。区域#3のx軸に垂直な境界面は、大動脈弓下縁(Z4)のスライス画像よりも下側では、大動脈左側面(X2)が存在するため大動脈左側面(X2)よりも右側である。区域#3のy軸に垂直な境界面は、気管分岐(Z8)のスライス画像より上では気管前壁面(Y3)、気管分岐以降は主気管支前壁面(Y5)よりも前側である。そこで、本発明では、個体差を考慮して、気管分岐(Z8)のスライス画像が、区域#3のz軸に垂直な境界面である右主肺動脈上縁(Z7)のスライス画像よりも上側にある場合には、気管前壁線(Z3)、気管分岐(Z8)のスライス画像から右主肺動脈上縁(Z7)のスライス画像の間では主気管支前壁面(Y5)より前側を条件とすることとした。
【0067】
区域#3の抽出は、例えば、図3のステップ302において抽出された縦隔画像に含まれる複数のピクセルのうち、式(#3−1)を満たし、かつ、(条件に応じて、式(#3−2)または式(#3−3)または式(#3−4)または式(#3−5)のうちのいずれか1つ)を満たすピクセルを特定し、その特定されたピクセルの画素値に特定の値(例えば、blueを表すカラー値)を割り当てることによって行われる。このような処理は、コンピュータ20によって実行される。
【0068】
図17は、区域#3をblueに色付けして表示した例を示す。
【0069】
Z2 ≦ z < Z7 ・・・式(#3−1)
1.Z2 ≦ z < Z4(大動脈左側面が存在しない間)
if z ≦ Z3 (図17の(a)を参照)
Y1 < y <Y3
else z > Z3 (図17の(b)を参照)
Y1 < y <Y3 かつ x < X1 ・・・式(#3−2)
2.Z4 ≦ z < Z7(大動脈左側面が存在する間)
if Z7 < Z8(常に気管前壁面を境界面として用いる場合、図17の(c)を参照)
Y1 < y <Y3 かつ y < Y7 かつ x < X2 ・・・式(#3−3)
else Z8 ≦ Z7(気管前壁面および主気管支前壁面を境界面として用いる場合)
(1)Z4 ≦ y < Z8 (図17の(c)を参照)
Y1 y < Y3 かつ y < Y7 かつ x < X2 ・・・式(#3−4)
(2)Z8 < y < Z7 (図17の(d)を参照)
Y1 y < Y5 かつ y < Y7 かつ x < X2 ・・・式(#3−5)

4.6 区域#3pの抽出
区域#3pの抽出は、例えば、図3のステップ302において抽出された縦隔画像に含まれる複数のピクセルのうち、式(#3p−1)を満たし、かつ、(条件に応じて、式(#3p−2)または式(#3p−3)または式(#3p−4)のうちのいずれか1つ)を満たすピクセルを特定し、その特定されたピクセルの画素値に特定の値(例えば、redを表すカラー値)を割り当てることによって行われる。このような処理は、コンピュータ20によって実行される。
【0070】
図18は、区域#3pをredに色付けして表示した例を示す。
【0071】
Z2 ≦ z < Z8 ・・・式(#3p−1)
if z ≦ Z3 (図18の(a)を参照)
Y4 < y ・・・式(#3p−2)
else z > Z3 (図18の(b)を参照)
Y4 < y かつ x < X1 ・・・式(#3p−3)
ただし、以下の式(#3p−4)によって示される区域は区域#3pではないとして、その区域を区域#3pとして抽出しないようにした(図18の(c)の白色の区域)。
【0072】
Z4 ≦ z < Z8 かつ 大動脈左側面と下行大動脈との接点のy座標 < y かつ 下行大動脈 < x < X2 ・・・式(#3p−4)

4.7 区域#4の抽出
区域#4のx軸に垂直な境界面は、大動脈左側面(X2)の存在し始める大動脈弓下縁(Z4)のスライス画像よりも上側では、大動脈弓(X1)が存在すれば大動脈弓(X1)よりも右側である。区域#4のx軸に垂直な境界面は、大動脈弓下縁(Z4)のスライス画像よりも下側では、大動脈左側面(X2)が存在するため大動脈左側面(X2)よりも右側である。そこで、本発明では、個体差を考慮して、区域#4の開始スライス画像である奇静脈上縁(Z5)のスライス画像が大動脈弓下縁(Z4)よりも上側にある場合には、大動脈弓(X1)を境界面として用いることとし、奇静脈上縁(Z5)のスライス画像が大動脈弓下縁(Z4)よりも下側にある場合には、大動脈左側面(X2)を境界面として用いることとした。
【0073】
区域#4の抽出は、例えば、図3のステップ302において抽出された縦隔画像に含まれる複数のピクセルのうち、式(#4−1)を満たし、かつ、(条件に応じて、式(#4−2)または式(#4−3)または式(#4−4)のうちのいずれか1つ)を満たすピクセルを特定し、その特定されたピクセルの画素値に特定の値(例えば、yellowを表すカラー値)を割り当てることによって行われる。このような処理は、コンピュータ20によって実行される。
【0074】
図19は、区域#4をyellowに色付けして表示した例を示す。
【0075】
Z5 < z < Z8 ・・・式(#4−1)
If Z4 < Z5 (常に大動脈左側面を境界面として用いる場合)
Y3 < y < Y4 かつ x < X2 ・・・式(#4−2)
else Z5 ≦ Z4 (大動脈弓および大動脈左側面の両方を境界面として用いる場合)
(1)Z5 ≦ z < Z4
Y3 < y < Y4 かつ x < X1 ・・・式(#4−3)
(2)Z4 ≦ z < Z8
Y3 < y < Y4 かつ x < X2 ・・・式(#4−4)

4.8 区域#5の抽出
区域#5の抽出は、例えば、図3のステップ302において抽出された縦隔画像に含まれる複数のピクセルのうち、式(#5−1)を満たすピクセルを特定し、その特定されたピクセルの画素値に特定の値(例えば、greenを表すカラー値)を割り当てることによって行われる。このような処理は、コンピュータ20によって実行される。
【0076】
図20は、区域#5をgreenに色付けして表示した例を示す。
【0077】
Z4 ≦ z < Z6 かつ Y7 < y < Y8 かつ X2 < x ・・・式(#5−1)

4.9 区域#6の抽出
区域#6のz軸に垂直な終了スライス画像は、「肺癌取扱い規約(第6版)」には定義されていない。そこで、本発明では、区域#6のz軸に垂直な終了スライス画像として、左主肺動脈上縁(Z6)のスライス画像を用いることとした。また、「肺癌取扱い規約(第6版)」の定義によれば、区域#6のz軸に垂直な開始スライス画像は、大動脈弓(X1)の存在し始める大動脈弓上縁(Z3)のスライス画像であるが、個体差により、左腕頭動脈が気管正中線と交差する高さ(Z2)にあるスライス画像よりも大動脈弓上縁(Z3)のスライス画像が上側にくる場合がある。そこで、本発明では、このような場合には左腕頭動脈が気管正中線と交差する高さ(Z2)よりも上側は区域#1であるという定義を優先し、区域#6のz軸に垂直な開始スライス画像として、左腕頭動脈が気管正中線と交差する高さ(Z2)にあるスライス画像を用いることとした。
【0078】
区域#6の抽出は、例えば、図3のステップ302において抽出された縦隔画像に含まれる複数のピクセルのうち、条件に応じて、式(#6−1)または式(#6−2)のうちのいずれか1つを満たすピクセルを特定し、その特定されたピクセルの画素値に特定の値(例えば、syanを表すカラー値)を割り当てることによって行われる。このような処理は、コンピュータ20によって実行される。
【0079】
図21は、区域#6をsyanに色付けして表示した例を示す。
【0080】
if Z2≦Z3
start_slice = Z3
else Z3<Z2
start_slice = Z2
1.start_slice ≦ z < Z4 (図21の(a)を参照)
Y2 ≦ y ≦ Y8 かつ X1 < x ・・・式(#6−1)
2.Z4 ≦ z < Z6 (図21の(b)を参照)
Y2 ≦ y ≦ Y7 かつ X1 < x ・・・式(#6−2)

4.10 区域#7の抽出
区域#7のz軸に垂直な終了スライス画像は、「肺癌取扱い規約(第6版)」には定義されていない。そこで、本発明では、区域#7のz軸に垂直な終了スライス画像として、右主肺動脈下縁(Z9)のスライス画像を用いることとした。
【0081】
区域#7の抽出は、例えば、図3のステップ302において抽出された縦隔画像に含まれる複数のピクセルのうち、式(#7−1)を満たすピクセルを特定し、その特定されたピクセルの画素値に特定の値(例えば、parpleを表すカラー値)を割り当てることによって行われる。このような処理は、コンピュータ20によって実行される。
【0082】
図22は、区域#7をparpleに色付けして表示した例を示す。
【0083】
Z8 ≦ z < Z9 かつ Y5 < y < Y6 かつ X4 < x < X3 ・・・式(#7−1)

4.11 個体差を考慮したセグメンテーションの有用性について
区域#2および区域#4のx軸に垂直な左側境界面については、上述したようにZ4とZ5の上下関係を考慮して境界面を決めなくても、区域#5、#6でない領域とすればよいようにも思われる。しかし、区域#5、#6のz軸に垂直な終了スライス画像である左主肺動脈上縁(Z6)のスライス画像と奇静脈上縁(Z5)のスライス画像の上下関係にも個体差があり、数%の割合ではあるが、Z6の方がZ5よりも上側にくる場合が存在する。このような場合には、区域#2や区域#4の左側に区域#5や区域#6は存在しない。従って、上述した個体差を考慮したセグメンテーションは、縦隔リンパ節郭清で切除される領域(縦隔領域)を9個の区域に正確にセグメンテーションするために必要である。
【0084】
図23は、区域#4と区域#5、#6との位置関係の例を示す。図23において、(a)は区域#4と区域#5、#6が共に存在するスライス画像の例を示し、(b)は区域#4は存在するが、区域#5、#6が存在しないスライス画像の例を示す。
【0085】
「肺癌取扱い規約(第6版)」でリンパ節の領域が定義された頃に比べて、撮像機器の精度が向上し、より薄いスライス厚の画像が得られるようになった(昔は5mm程度であったが、現在では1〜0.625mm程度)。個体差が生じるスライス画像間の距離は平均6〜10mmである。従来の撮像機器では、このような薄いスライス画像間の距離を考慮することができず、また考慮する必要もなかった。しかし、より薄いスライス厚のCT画像を用いて診断支援画像や手術支援画像を作成するためには、本発明によるセグメンテーションは不可欠である。
【0086】

4.12 境界面をマニュアル操作で設定することの有用性について
z軸に垂直な境界面のスライス画像については、従来、自動的に決定することができないスライス画像が存在した。先行研究ではほぼ全自動処理であるのに対して、本発明ではマニュアル操作を多く残している。例えば、主気管支前壁面および主気管支後壁面の設定については、全自動で行うよりもマニュアル操作で行った方が正確な境界面を作成することができる)。
【0087】
図24は、主気管支前壁面および主気管支後壁面の設定を説明するための図である。図24において、(a)は、気管支の抽出領域(緑色の領域)を示す(末端の気管支まで抽出されてしまう)。図24において、(b)は、末端の気管支を除去したとしても単に左右気管支のy座標の最大座標同士、最小座標同士を結ぶのでは境界線が赤色の線のようになってしまうことを示す(正解線は青色の線)。34例中15例でこのようなことがおきる可能性があった。
【0088】

スライス画像上では気管分岐後は、主気管支から細気管支が分岐して見られる場合が多く、このような場合に、単に、気管画像のy座標の最大座標を気管後壁線とし、気管画像のy座標の最小座標を気管前壁線とすると、誤差が生じてしまうと考えられるからである。正確な境界面を作成するためには、本発明のようにセミオートで線を引くことも有効であると考えられる。
【0089】

5.区域の抽出例
図25は、区域#2のみを抽出した場合の表示例を示す。このような表示は、3次元的な表示であることが好ましい。区域#2を抽出するためには、表1に示されるように、z軸に垂直な境界面として「左腕頭動脈が気管正中線と交差する高さ(Z2)」および「奇静脈上縁(Z5)」を設定し、y軸に垂直な境界面として「気管前壁面(Y3)」および「気管後壁面(Y4)」を設定し、z軸に垂直な境界面として「大動脈弓(X1)」または「大動脈左側面(X2)」を設定した後に、コンピュータ20が「4.3 区域#2の抽出」において説明した縦隔リンパ節セグメンテーション処理を実行するようにすればよい。
【0090】
図26は、9個の区域#1〜#7を抽出した場合の表示例を示す。このような表示は、3次元的な表示であることが好ましい。9個の区域を抽出するためには、「3.2 解剖学的特徴に基づくアキシャル方向(体軸に垂直な方向)の境界面」において説明した9種類のすべての境界面を設定することと、「3.3 解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面」において説明した11種類のすべての境界面を設定する必要がある。これらの境界面を最低数の設定操作により設定することが好ましい。
【0091】

6.本発明の適用例
縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションし、その複数の区域を互いに異なる態様で(例えば、互いに異なるカラーで)3次元的に表示することにより、本発明の装置は、手術で切除する区域を表示する手術支援ツールまたは縦隔リンパ節郭清の普及のための教育ツールとして役立つことができる。また、抽出された各区域に対応するピクセルの数をカウントすることにより、各区域の体積を算出し、各区域について算出された体積を評価することにより、本発明の装置は、放射線治療などの治療の効果を判定するツールとして役立つことができる。区域を抽出するために用いられた境界線や、区域の体積などの情報をメモリに保存しておき、次に同一の区域を抽出する際にその保存した情報をメモリから読み出すことができることが好ましい。また、CT画像に半透明にした区域分け画像を重ね合わせて表示することにより、本発明の装置は、リンパ節腫大症例において、腫大したリンパ節がどのリンパ節領域に所属するかを判定する診断支援画像ツールとして役立つことができる。
【0092】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする装置およびプログラム等を提供するものとして有用である。本発明の装置およびプログラムは、手術で切除する区域を表示する手術支援ツール、縦隔リンパ節郭清の普及のための教育ツール、各リンパ節区域の体積評価から治療効果を判定するツール等として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施の形態の縦隔リンパ節セグメンテーションシステム1の構成の一例を示す図
【図2】コンピュータ20の構成の一例を示す図
【図3】縦隔リンパ節セグメンテーション処理の概要を示す図
【図4】解剖学的特徴に基づくアキシャル方向(体軸に垂直な方向)の境界面として設定された境界面の一例を示す図
【図5】解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面として設定された境界面の一例を示す図
【図6】各アキシャルスライス画像のための座標系を示す図
【図7】CT画像から抽出された大静脈画像の例を示す図
【図8】大静脈前壁面の設定方法を説明するための図
【図9】血管画像の作成方法を説明するための図
【図10】上行大動脈前壁面の設定方法を説明するための図
【図11】上行大動脈前壁面の設定方法を説明するための図
【図12】気管前壁面、気管後壁面の設定方法を説明するための図
【図13】大動脈左側面、上行大動脈後壁面の設定方法を説明するための図
【図14】主気管支前壁面、主気管支後壁面の設定方法を説明するための図
【図15】区域#2をpinkに色付けして表示した例を示す図
【図16】区域#3aをorangeに色付けして表示した例を示す図
【図17】区域#3をblueに色付けして表示した例を示す図
【図18】区域#3pをredに色付けして表示した例を示す図
【図19】区域#4をyellowに色付けして表示した例を示す図
【図20】区域#5をgreenに色付けして表示した例を示す図
【図21】区域#6をsyanに色付けして表示した例を示す図
【図22】区域#7をparpleに色付けして表示した例を示す図
【図23】区域#4と区域#5、#6との位置関係の例を示す図
【図24】主気管支前壁面および主気管支後壁面の設定を説明するための図
【図25】区域#2のみを抽出した場合の表示例を示す図
【図26】9個の区域#1〜#7を抽出した場合の表示例を示す図
【符号の説明】
【0095】
1 縦隔リンパ節セグメンテーションシステム
10 CT装置
12 ボクセルの集合
20 コンピュータ
30 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする装置であって、
該縦隔リンパ節郭清で切除される領域を表す縦隔画像をCT画像から抽出する手段と、
血管画像をCT画像から抽出する手段と、
該血管画像に基づいて、大動脈を第1の境界面として設定する手段と、
該縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づくアキシャル方向の境界面のうちの少なくとも1つを第2の境界面として設定する手段と、
該縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面のうちの少なくとも1つを第3の境界面として設定する手段と、
該第1の境界面、該第2の境界面および該第3の境界面のうちの少なくとも1つを用いて、該縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする手段と
を備えた、装置。
【請求項2】
前記解剖学的特徴に基づくアキシャル方向の境界面は、
左鎖骨下静脈下縁(肺尖)と、
左腕頭動脈が気管正中線と交差する高さと、
大動脈弓上縁と、
大動脈弓下縁(アキシャルスライスで上行大動脈と下行大動脈が分離して見える高さ)と、
奇静脈上縁と、
左主肺動脈上縁と、
右主肺動脈上縁と、
気管分岐と、
右主肺動脈下縁と
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面は、
大静脈前壁面と、
上行大動脈前壁面と、
気管前壁面と、
気管後壁面と、
大動脈左側面と、
上行大動脈後壁面と、
下行大動脈後壁面と
主気管支前壁面と、
主気管支後壁面と、
左気管支内側面と、
右気管支内側面と
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記複数の区域を互いに異なる態様で3次元的に表示する手段をさらに備えた、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションする縦隔リンパ節セグメンテーション処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
該縦隔リンパ節セグメンテーション処理は、
該縦隔リンパ節郭清で切除される領域を表す縦隔画像をCT画像から抽出するステップと、
血管画像をCT画像から抽出するステップと、
該血管画像に基づいて、大動脈を第1の境界面として設定するステップと、
該縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づくアキシャル方向の境界面を第2の境界面として設定するステップと、
該縦隔画像に基づいて、解剖学的特徴に基づく縦隔内構造物に沿った境界面を第3の境界面として設定するステップと、
該第1の境界面、該第2の境界面および該第3の境界面のうちの少なくとも1つを用いて、該縦隔リンパ節郭清で切除される領域を複数の区域にセグメンテーションするステップと
を包含する、プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2008−142482(P2008−142482A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336432(P2006−336432)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(503341686)メド・ソリューション株式会社 (9)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【出願人】(506414129)株式会社Aze (3)
【出願人】(506065415)有限会社カスクリード (3)
【Fターム(参考)】