説明

繊維およびそれからなる繊維製品並びに繊維ブラシ

【課題】 高い導電性を有しかつ繊維表面における該導電性の斑が非常に小さい、さらには湿度が変化する際の導電性の安定性に非常に優れた導電性を具備する繊維と、該繊維を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】 導電剤を含有する脂肪族ポリエステルに、脂肪族ポリエステルと非相溶の繊維形成性ポリマーが分散されてなるアロイ成分が、繊維表面を覆ってなる、23℃湿度55%での平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が、0.4以下の繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性に優れた繊維およびそれからなる繊維製品に関するものである。詳しくは、繊維の長手方向の導電性斑が小さく、また湿度が変化する際の導電性の安定性に優れた繊維、および該繊維を用いてなる衣料や敷物、あるいはブラシなどの繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主たる繰り返し構造単位が脂肪族ポリエステルからなる繊維は、従来の石油系原料からなる芳香族ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなど)に比べて、一般的に、それ自身が天然物由来の原料(モノマー)からなり、生分解性に優れることから、近年、地球環境保護の点から注目され、急速に開発が進められている。
【0003】
ところで、従来の、そしてこれからの繊維の機能性付与においては、「導電性」は重要な機能の1つであり、例えば、クリーンルーム用の衣料用繊維として、あるいはカーペットへの混繊用繊維として静電気を除去するものであったり、またあるいは、装置の中で電荷を付与するものであったりと、衣料用、産業用など幅広い分野において大きな需要が存在する。近年では、電子情報機器、特に携帯電話などの無線端末の普及により日常的な環境においても電磁波の暴露量が増加しており、健康への影響が懸念されていることから、導電性以外にも、電磁波遮蔽素材として利用する事例も増えている。
【0004】
例えば、制電剤としてポリ乳酸とポリアルキレンエーテルのブロック共重合体を用いた制電性繊維に関する技術が提案されている(特許文献1参照)。該技術においては、確かに制電性に優れる繊維が得られるものの、共重合成分としてポリエチレングリコールを用いることから、その導電レベルはどんなに高くとも体積固有抵抗値でせいぜい10[Ω・cm]程度であって高い導電性を示すものではなく、また制電剤は水分の有無により導電性が変化するものであることから、結果として該技術により得られた繊維は、高い導電性、あるいはあらゆる雰囲気(湿度変化)においても安定した導電性、などが確保されるものではなかった。
【0005】
また、導電性繊維の構成成分として、従来から用いられるポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)を採用した導電性繊維に関する技術が開示されている(特許文献2参照)。該技術開示においては、PETやPBTに導電性微粒子を含有せしめ、高固有粘度を有するPETを芯成分とする芯鞘複合繊維として高速紡糸を行うことで確かに強伸度特性に優れた繊維が得られるものの、従来から知られているように、PETやPBTは高濃度で導電性微粒子を含有せしめて溶融紡糸を行うのが非常に困難であって、たとえ高固有粘度のPETを芯成分に用いて複合紡糸を行ったとしても、高い導電性を有する導電性繊維が得られるものではなかった。
【0006】
一方で、導電性粒子と脂肪族ポリエステルを主成分とする重合体とが混合されてなる導電性ポリマーと、脂肪族ポリエステルを主成分とする繊維形成性ポリマーとが単繊維内で複合されてなる導電性繊維に関する技術が開示されている(特許文献3参照)。該技術開示においては、導電性ポリマーが単繊維内で複合されてなることから、確かに繊維は導電性を有するものの、該技術開示において好ましいとする複合構造では、導電性ポリマーの繊維表面への露出が少ないことから、繊維表面での導電均質性が悪い、すなわち繊維の表面抵抗は非常に斑が大きいものであった。
【特許文献1】特開平8−253665号公報(特許請求の範囲、段落番号[0008],[0013],[0014]など)
【特許文献2】特開昭63−85114号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平9−157953号公報(特許請求の範囲、段落番号[0025])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、高い導電性を有しさらには繊維表面での導電性斑の小さい繊維、および該高い導電性を有する繊維を用いてなる様々な繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下の構成を採用する。
(1)導電剤を含有する脂肪族ポリエステルに、脂肪族ポリエステルと非相溶の繊維形成性ポリマーが分散されてなるアロイ成分が、繊維表面を全て占めてなる、23℃湿度55%での平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が、0.4以下の繊維。
(2)脂肪族ポリエステルが乳酸を主たる繰り返し構造単位とするポリ乳酸系ポリマーであることを特徴とする前記(1)に記載の繊維。
(3)引張弾性率が15〜90cN/dtexであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の繊維。
(4)23℃湿度55%での平均抵抗率Pが1.0×1012[Ω/cm]以下であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の繊維。
(5)繊維の、23℃湿度55%での平均抵抗率P[Ω/cm]と、10℃湿度15%での平均抵抗率Y[Ω/cm]との比Z(Z=Y/P)が1〜5の範囲であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の繊維。
(6)前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の繊維を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする繊維製品。
(7)前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の繊維を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする繊維ブラシ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維は、導電剤を含有するポリマーが、脂肪族ポリエステルであることから、従来のポリエステル、例えばPET系ポリマーや、PBT系ポリマーなどとは大きく異なり、高濃度で導電剤を含有していても繊維を形成することが可能である。これにより高い導電性を有する繊維となり、防塵衣等の衣料用途や、車両内装材、建造物の壁材などの内装材、カーペットや床材など敷物などの非衣料用途に用いることができ優れている。加えてポリエステルであることから、吸水性あるいは吸湿性がほとんどなく、結果として導電性の湿度依存性が小さいため導電性が非常に安定する。これらのことから、高い導電性および環境変化における導電性の安定性が必要とされる繊維製品、例えば後述するような常時あるいは頻繁に電圧を印可して用いられる電気を用いる配線物や電子写真装置中の各種ブラシなどに好適に採用される。
【0010】
すなわち、本発明の繊維は、導電剤を含有する脂肪族ポリエステルに、脂肪族ポリエステルと非相溶の繊維形成性ポリマーが分散されてなるアロイ成分が、繊維表層を全て占める、という構成とすることによって、まず繊維表面のいずれの場所においても導電性に優れる、すなわち繊維の抵抗率の標準偏差(導電性の斑)が小さく、また23℃湿度55%の中温中湿度と10℃湿度15%の低温低湿度とのそれぞれの温湿度条件における平均抵抗率との比が小さい、つまり環境変化に対する繊維自体の導電性の安定性が非常に高い、という優れた2点の性能発現がともに可能である。そして前述脂肪族ポリエステルに非相溶の繊維形成性ポリマーが、導電剤を含有する脂肪族ポリエステル中(海)に分散されていることから、繊維物性、例えば強度や初期引張弾性率といった重要な繊維物性を担うという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における繊維とは細く長い形状を指し、その長さは一般的に言われる長繊維(フィラメント)であっても短繊維(ステープル)であってもよい。短繊維の場合は用途に応じて所望の長さにすればよいが、紡績工程あるいは後述するような電気植毛加工などに用いられることを考慮すると長さ0.05〜150mmであることが好ましく、0.1〜120mmであることがより好ましい。また特に電気植毛加工に用いられる場合は0.1〜10mmの長さであることがより好ましく、0.2〜5mmであることが特に好ましい。
【0012】
また、本発明の繊維の単糸繊度(単繊維繊度)に関しては、後述するような様々な用途に採用が可能であるという点で単糸繊度は50dtex(デシテックス)以下であることが好ましく、また0.01dtex以上であることが好ましく、さらに0.01〜20dtexであることがより好ましく、0.1〜10dtexであることが特に好ましい。そして例えば後述する電子写真装置に組み込まれるブラシローラーに用いる場合で清掃装置あるいは帯電装置に組み込む用途に用いる場合には清掃性能、あるいは帯電性能が優れるという点で該単糸繊度は0.1〜8dtexであることが特に好ましく、0.1〜5dtexであることが最も好ましい。衣服の裏地や防塵衣の表地あるいはその他各種衣類の少なくとも一部に用いられる場合では、0.1〜5dtexであることが特に好ましい。衣料用途以外の、車両内装材、建造物の壁材などの内装材、カーペットや床材などの敷物といった非衣料用途に用いられる場合には、0.1〜6dtexであることが特に好ましい。
【0013】
また、繊維の断面形状については、丸形であれば均一な繊維物性および繊維断面内における等方的な導電性を有するため好ましく、また繊維をブラシローラーに用いるために短繊維あるいは織物あるいは編物あるいは不織布の形状で組み込み、使用する用途あるいは目的に応じて、例えば繊維の曲がる方向に異方性を持たせて剛性を高めるまたは弱める、あるいは後述する電子写真装置中で用いられる場合にはトナーとの良好な接触性を得てより優れた清掃性能を発現させるといった場合には、偏平型、多角形、多葉型、中空型、あるいは不定形型などが好ましい。ここで繊維の断面形状あるいは単繊維直径については、走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維外径が全て視野に入る倍率において測定することで定める。詳細には後述のK.項の方法で測定する。
【0014】
本発明の繊維は、繊維表層を全て占める、繊維形成性ポリマーと脂肪族ポリエステルとからなるアロイ成分のなかの脂肪族ポリエステルが導電剤を含有する。繊維自体の導電性はこの導電剤を含有する脂肪族ポリエステルによって決まり、脂肪族ポリエステルが導電剤を多量に含有可能であるからこそ、所望の導電性能を自由に制御することができ、優れた導電性を有する繊維となる。
【0015】
本発明の繊維は、繊維表層の一部に導電剤を含有した成分を配置した、従来の導電性複合繊維と比較して、導電剤を含有する脂肪族ポリエステルに、脂肪族ポリエステルと非相溶の繊維形成性ポリマーが分散されてなるアロイ成分(以下「アロイ成分」と略記する)が繊維表層を全て占めることで、繊維の長手方向はもとより、繊維軸方向に垂直な繊維横断面の繊維外周方向においても導電性斑がほとんどなく、安定した導電性を発現する。
【0016】
本発明の繊維の構成については、繊維が実質的に該アロイ成分のみからなるものであってもよい。ここで「実質的にアロイ成分のみからなる」とは、本発明の趣旨を損ねるものを繊維中に含有しない、すなわち前述したアロイ成分が繊維表層を全て占める際に高い導電性を持ちかつ斑のない優れた導電性を達成するために、該斑のない優れた導電性を損ねるものをアロイ成分中に含まない、という意味であり、該アロイ成分が95体積%以上であれば「実質的にアロイ成分のみからなる」ことを指す。なおここで前述のアロイ成分の割合は、後述するように繊維軸方向に垂直な繊維横断面における面積から換算できる。なお「斑のない優れた導電性」については、後述する23℃湿度55%での平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)の値が0.4以下であることが好ましい。
【0017】
本発明における脂肪族ポリエステルには、主たる繰り返し構造単位が脂肪族エステルから構成されるポリエステルを用いることができる。「主たる繰り返し構造単位」とは脂肪族エステルが重合原料として50モル%以上、好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上の分率で脂肪族ポリエステルを構成するものであって、(a)単一種の繰り返し構造単位からなる脂肪族ポリエステルのホモポリマー、(b)複数種の繰り返し構造単位からなる脂肪族ポリエステル共重合ポリマー、の両方を含む。脂肪族ポリエステル共重合ポリマーには、脂肪族ポリエステル以外の他の成分、例えば芳香族ポリエステル、ポリアルキレンオキシド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタン、ポリオルガノシロキサンなどの成分を50モル%未満、好ましくは20モル%未満、より好ましくは5モル%未満、共重合したものであってもよく、特に好ましくは全く共重合されていない脂肪族ポリエステル、すなわち前述の(a)脂肪族ポリエステルのホモポリマーを用いることができる。また共重合様式としてはブロック共重合および/またはグラフト共重合および/またはランダム共重合のいずれであってもよい。特に好ましいのは(a)脂肪族ポリエステルのホモポリマーである。
【0018】
従来、汎用的に用いられてきた芳香族ポリエステル、例えばPET系ポリマーやPBT系ポリマーは、通常、導電剤を概ね10重量%程度かそれ以上含有させた場合には、繊維中で導電剤が凝集してしまい、もはや溶融紡糸中の糸切れが多発して全く引き取りができなかったのであるが、脂肪族ポリエステルは、導電剤を多量に含有させた場合であっても導電剤の凝集はあまり起こらず、繊維を形成させるためのプロセス、例えば溶融紡糸において、導電剤を含有していない通常の脂肪族ポリエステルを溶融紡糸するのと何ら変わりなく同じように溶融紡糸が達成できることを本発明者らは見出したのである。これにより、従来はポリアミド系ポリマーでは可能であった高い導電性を有する繊維の製造が、ポリエステル系ポリマーであっても同じように高濃度の導電剤を含有させ、しかも湿度依存性というポリアミド系ポリマーの欠点を克服して高い導電性を有する繊維を形成することが可能となったのである。
【0019】
本発明における脂肪族ポリエステルの具体例としては、まず(A)グリコール酸、乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのような脂肪族ヒドロキシカルボン酸や、グリコリド、ラクチド、ブチロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなど、単一のモノマーから重合されてなる、ポリグリコール酸やポリ乳酸といった脂肪族ポリエステル(ポリヒドロキシカルボン酸)が挙げられる。この(A)では単一のモノマーのみ採用しても、複数種を用いてもよいし、あるいは下記(B)に記載のジオールモノマーあるいはジカルボン酸モノマーを共重合してもよい。
【0020】
また他の脂肪族ポリエステルの具体例としては、(B)エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのような脂肪族ジオール、またはジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチルプロピルエーテルグリコール、ビスヒドロキシエチルプロパン、ビスヒドロキシプロピルブタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどのような脂肪族ポリアルキレンエーテルグリコールと、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸とからなる、すなわち、ジオール(グリコール)モノマーとジカルボン酸モノマーとからなる脂肪族ポリエステルが挙げられる。この(B)においても、単一のジオールモノマーと単一のジカルボン酸モノマーのみを用いてもあるいは複数種のジオールモノマーおよび/または複数種のジカルボン酸モノマーを用いてもよい。また共重合成分としては、ジヒドロキシブチルカーボネート、ジヒドロキシヘキシルカーボネート、ポリブチレンカーボネート(グリコール)、ポリヘキサンカーボネート(グリコール)、ポリオクタンカーボネート(グリコール)などの脂肪族ポリカーボネートグリコールやそれらの共重合体およびオリゴマーを用いてもよい。
【0021】
また本発明における前述の(a)または(b)に分類される脂肪族ポリエステルは、高濃度の導電剤を含有させても導電剤を含有していない通常の脂肪族ポリエステルとほとんど変わらず溶融紡糸が達成できるという利点を損ねない範囲であって、かつ脂肪族ポリエステルを構成する繰り返し構造単位が50モル%未満、好ましくは20モル%未満、より好ましくは5モル%未満の範囲において、ポリエステルを構成しうる脂肪族以外の他の成分を共重合してもよい。具体的には、芳香族系あるいは脂環族系のジカルボン酸化合物を共重合せしめることができ、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、本発明における前述の(a)または(b)に分類される脂肪族ポリエステルは、芳香族系あるいは脂環族系ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として、例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
また例えばその共重合成分として、芳香族系あるいは脂環族系のヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族系あるいは脂環族系ヒドロキシカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これら芳香族系あるいは脂環族系ヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いてもよいし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
以上のように本発明における脂肪族ポリエステルは、多種多様のものを用いることができるものの、本発明の趣旨、すなわち高濃度の導電剤を含有させても導電剤を含有していない通常の脂肪族ポリエステルとほとんど変わらず溶融紡糸が達成できる点を満たし、かつ後述するように高い融点や低い屈折率である点から、本発明における脂肪族ポリエステルとしては、乳酸、グリコール酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレートなどのヒドロキシカルボン酸を主たる繰り返し構造単位とする脂肪族ポリエステルが好ましく、グリコール酸、あるいは乳酸を主たる繰り返し構造単位とする脂肪族ポリエステル(以下、それぞれ「ポリグリコール酸」、「ポリ乳酸」と総じて記載することがある)が特に好ましく、ポリ乳酸が最も好ましい。ポリ乳酸においては、L−乳酸を主成分とするポリ(L−乳酸)や、D−乳酸を主成分とするポリ(D−乳酸)がある。ポリ(L−乳酸)や、ポリ(D−乳酸)は、通常、それぞれ互いに少量のラセミ体を含んでいるため、例えばポリ(L−乳酸)であっても少量のD−乳酸を含んでいる。この場合、D−乳酸はポリ(L−乳酸)における共重合物となるため、過度のD−乳酸がポリ(L−乳酸)に存在すると、ポリ乳酸としての融点が低下してしまう。そこでL−乳酸を主成分とするポリ(L−乳酸)の場合には、繰り返し構造単位の60モル%以上がL−乳酸よりなることを意味しており、40重量%を超えない範囲でD−乳酸を含有するポリエステルであってもよい。このときL−乳酸の分率が多いほど好ましいことから、繰り返し構造単位の80モル%以上がL−乳酸よりなることが好ましく、90モル%であることが特に好ましい。またポリ乳酸としてはポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の両方を含むもの(「ステレオコンプレックス」と呼称されることがある)であってもよく、この場合、ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の分率は、ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の比率が近いほどポリ乳酸自身の融点が高いことから好ましく、ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の比率が等しい、すなわちポリ(L−乳酸)の重量分率:ポリ(D−乳酸)の重量分率=50:50であることが最も好ましい。
【0025】
本発明における脂肪族ポリエステルは、融点が130℃以上であることが好ましい。後述するように、本発明の繊維は衣料や敷物、あるいはブラシといった様々な用途に用いられるのであるが、これらの用途においては、脂肪族ポリエステルの融点が130℃以上であると、染色加工時や熱セット時あるいは摩擦加熱時に溶融欠点が発生しにくいため、製品の品位が向上し、好ましい。そして本発明における脂肪族ポリエステルの融点は好ましくは150℃以上であり、特に好ましくは融点が170℃以上である。ここで融点(Tm)は、後述する実施例H.項の方法によって観測される吸熱ピーク温度を指す。
【0026】
また本発明における脂肪族ポリエステルは、その屈折率が1.50以下であることが好ましく、1.45以下であることがより好ましい。屈折率が1.50以下である場合には、染色時の布帛の発色性が優れ、結果的に優れた色あいのものが得られる。屈折率は低ければ低いほどよく、下限は1.00である。なおここでいう屈折率は、自然光を採光できる室内に設置され恒温水の循環等の手段により23℃に調節された、プリズムを備えたアッベ屈折計により、JIS−K7105記載の方法に準拠して測定される値を意味している。
【0027】
本発明における脂肪族ポリエステルの数平均分子量は高いほど好ましく、5万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましい。また該数平均分子量は高いほど好ましいものの、生産時に安定して作られることを考慮して、高々40万であり、30万以下であることが好ましい。
【0028】
なお本発明における脂肪族ポリエステルの中で特に好ましいとされるポリ乳酸の製造方法は、具体的には、特開平6−65360号公報に開示されている方法が挙げられる。すなわち、乳酸を有機溶媒及び触媒の存在下、そのまま脱水縮合する直接脱水縮合法である。また特開平7−173266号公報に開示されている少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法が挙げられる。さらには、米国特許第2,703,316号明細書に開示されている方法が挙げられる。すなわち、乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に、開環重合する間接重合法である。
【0029】
本発明の前述のアロイ成分は、導電剤を含有する脂肪族ポリエステルと、脂肪族ポリエステルと非相溶の繊維形成性ポリマーとからなる。該繊維形成性ポリマーは周囲を覆う(海である)導電剤を含有する脂肪族ポリエステルの中で「島」成分として存在し、あたかも骨材として機能することで、繊維物性、例えば強度や初期引張弾性率といった物性を担い、優れた繊維となる。通常、該非相溶ポリマーは、繊維軸方向に伸長した形状をしており、該形状であることから前述のように骨材として機能する。
【0030】
該脂肪族ポリエステルと非相溶の繊維形成性ポリマー(以後「非相溶ポリマー」)としては、本発明で用いる脂肪族ポリエステルと非相溶であればよく、例えば、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーやその他ビニル基の付加重合により合成される例えばポリメタクリレート系ポリマーやポリアクリロニトリル系ポリマーなどのビニル系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、シリコーン系ポリマー、芳香族あるいは脂肪族ケトン系ポリマー、天然ゴムや合成ゴムなどのエラストマー、その他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。
【0031】
該非相溶ポリマーとしてより具体的には、例えば、ビニル基を有したモノマーが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの付加重合反応によりポリマーが生成する機構により合成されるポリオレフィン系ポリマーやその他のビニル系ポリマーであって、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、などが挙げられるが、これらは例えばポリエチレンのみ、あるいはポリプロピレンのみのように単独重合によるポリマーであってもよいし、あるいは複数のモノマー共存下に重合反応を行うことで形成される共重合ポリマーであってもよく、例えばスチレンとメチルメタクリレート存在下での重合を行うとポリ(スチレン−メタクリレート)という共重合したポリマーが生成するが、本発明の目的を損ねない範囲において、このような共重合体であるポリマーであってもよい。
【0032】
また該非相溶ポリマーとしては、例えば、カルボン酸あるいはカルボン酸クロリドと、アミンの反応により形成されるポリアミド系ポリマーを挙げることができ、具体的にはナイロン6、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,9、ナイロン6,12、ナイロン5,7およびナイロン5,6などが挙げられるほか、本発明の趣旨を損ねない範囲で他の芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸と芳香族、脂肪族、脂環族ジアミン成分が、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸とアミノ基を両方有したアミノカルボン酸化合物が単独で用いられていてもよく、あるいは第3、第4の共重合成分が共重合されているポリアミド系ポリマーであってもよい。
【0033】
また該非相溶ポリマーとしては、例えば、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステル系ポリマーを挙げることができる。具体的には、本発明で用いられるポリエステル系ポリマーとしては、例えばジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができ、これらにかかるポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(ポリプロピレンテレフタレートと呼称される場合もある;PTT)、ポリテトラメチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレンナフタレート(PPN)およびポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート(PCMT)等の芳香族ポリエステル、あるいは芳香族ヒドロキシカルボン酸を主成分とする溶融液晶性を有する液晶ポリエステルなどが挙げられる。そして、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるポリエステル系ポリマーには、本発明の目的を損ねない範囲で他の成分が共重合されているものが用いられてもよく、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物として例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
また該ポリエステル系ポリマーの共重合成分としては、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテル、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また該ポリエステル系ポリマーの共重合成分としては、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわちヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いてもよいし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
また該非相溶ポリマーとしては、芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基を両方有したヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とするポリエステル系ポリマーであってもよく、これらヒドロキシカルボン酸からなる重合体としては、例えばポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(6−ヒドロキシカプロン酸)などのようなヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル系ポリマーや、グリコリド、ラクチド、ブチロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなど、単一のモノマーから重合されてなる、ポリグリコール酸やポリ乳酸といったポリエステル系ポリマー(ポリヒドロキシカルボン酸)を挙げることができ、その他にも、これらポリ(ヒドロキシカルボン酸)には、本発明の趣旨を損ねない範囲で芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族ジオール成分が用いられていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよい。
【0037】
その他に該非相溶ポリマーとしては、アルコールと炭酸誘導体のエステル交換反応により形成されるポリカーボネート系ポリマー、カルボン酸無水物とジアミンの環化重縮合により形成されるポリイミド系ポリマー、ジカルボン酸エステルとジアミンの反応により形成されるポリベンゾイミダゾール系ポリマーや、そのほかにもポリスルホン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリエーテルケトンケトン系ポリマー、脂肪族ポリケトンなどのポリマーの他、セルロース系ポリマーや、キチン、キトサンおよびそれらの誘導体など、天然高分子由来のポリマーなども挙げられる。
【0038】
これら非相溶ポリマーとして、導電剤を含有する脂肪族ポリエステル(導電剤含有APE)との界面接着性が良好で剥離が生じがたいという点、および吸湿性が低く、繊維自体の導電性能への影響がほとんどないという点でポリエステル系ポリマーが好ましい。例えば、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするPET系ポリマー、トリメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするトリメチレンテレフタレート系ポリマー(以下「PTT系ポリマー」と総称することがある)、テトラメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするPBT系ポリマー、エチレンナフタレートを主たる繰り返し構造単位とするエチレンナフタレート系ポリマー(以下「PEN系ポリマー」と総称することがある)、シクロヘキサンジメタノールテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするシクロヘキサンジメタノールテレフタレート系ポリマー(以下「PCMT系ポリマー」と総称することがある)、プロピレンナフタレートを主たる繰り返し構造単位とするプロピレンナフタレート系ポリマー(以下「PPN系ポリマー」と総称することがある)、が好ましいものとして挙げられる。
【0039】
個別には、後述するような電子写真装置の中に組み込まれている繊維ブラシに用いられるような場合に、所望の剛性を付与しうるという点で、PET系ポリマー、PTT系ポリマー、PBT系ポリマー、PEN系ポリマー、PPN系ポリマーが好ましく、特に導電剤含有APEと融点(Tm)が近く、程良い繊維剛性を付与しうる点でPTT系ポリマー、PBT系ポリマー、PPN系ポリマーがより好ましい。
【0040】
そして本発明のアロイ成分における非相溶ポリマーとしては上記の中から選ばれる繊維形成性ポリマー1種類を単独で用いてもよく、また本発明の目的を損ねない範囲において複数種のポリマーを併用してもよい。
【0041】
本発明の前述アロイ成分における、導電剤含有APEと、脂肪族ポリエステルと非相溶の繊維形成性ポリマー(非相溶ポリマー)との体積比率は、非相溶ポリマーがアロイ成分において分散されて島を形成する、すなわち、本発明の繊維(単繊維)を繊維軸に垂直な繊維横断面で切断して観察した際に、アロイ成分の部分においては、導電剤含有APEの海に非相溶ポリマーが分散されて島状に存在する形態でアロイ成分を形成しているものであればよく、島成分の非相溶ポリマーによって繊維物性を確保しつつも高い導電性を有する、あるいは導電性斑がより小さくなることから、アロイ成分における導電剤含有APEと非相溶ポリマーとの体積比率[(導電剤含有APE)/(非相溶ポリマー)]は、30/70〜95/5であることが好ましく、さらに導電剤含有APEが安定して導電性を担い、また島の非相溶ポリマーが繊維物性を安定して担いうることから、40/60〜90/10であることがより好ましく、45/55〜85/15であることが特に好ましい。
【0042】
本発明の前述のアロイ成分においては、導電剤を含有する脂肪族ポリエステルと、繊維形成性ポリマーとが非相溶であるが、本発明において「非相溶」とは、前述導電剤含有APEと非相溶ポリマーとが高分子の分子鎖サイズオーダーで相溶せず、単繊維の繊維軸方向に垂直な繊維横断面(以下「繊維横断面」と記載することがある)を観察した際に、導電剤含有APEの中で非相溶ポリマーにより形成される島の平均直径サイズが、少なくとも10nmの大きさを有するものを指す。
【0043】
また本発明の前述のアロイ成分において、非相溶ポリマーの平均直径サイズは、繊維表面における導電性斑が小さいことから、前述繊維横断面において、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.8μm以下であることがさらにより好ましく、0.5μm以下であることが特に好ましい。
【0044】
本発明において、前述の導電剤含有APEに、前述の非相溶ポリマーを分散せしめる方法としては任意の方法が採用できるが、好ましい方法としては、(A)不活性気体(窒素、炭酸ガス、希ガスなど)の雰囲気下、所定の比率で定量供給しながらエクストルーダや静置混練子のような混練機に投入し、常圧もしくは減圧下で溶融混練する方法、(B)混練機に投入する以前の任意の段階で、粉体あるいは粒体の導電剤含有APEと非相溶ポリマーとをあらかじめ所定の重量比率で混合、攪拌したものをエクストルーダや静置混練子のような混練機に投入し、常圧もしくは減圧下で溶融混練する方法、などが挙げられ、適宜採用する混練機の仕様に応じて(A)または(B)の方法が採用される。特にエクストルーダに関しては1軸あるいは2軸以上の多軸エクストルーダを好適に用いることができるものの、非相溶ポリマーが導電剤含有APE中に微細混練するという点で、2軸以上の多軸エクストルーダを採用することが好ましい。また特に静置混練子に関しては、例えば溶融、混合したアロイ成分が通過する流路を2つあるいはそれ以上の複数に分割して再度合一するという作業(この分割から合一までの作業1回を1段とする)がなされる静置型の混練素子であれば、より混練性が優れるという点で静置混練子の段数は5段以上であることが好ましく、10段以上であることが更により好ましい。また流路の必要長さにも依るものの50段以下であることが好ましい。
【0045】
本発明における脂肪族ポリエステルに含有される導電剤は、多種多様のものを採用でき、導電性のカーボンブラックや金属酸化物など、必要とする用途に応じて適宜採用して用いることができる。具体的にはまず好ましいものとして、導電性のカーボンブラックが挙げられ、例えば導電性ファーネスブラック、導電性ケッチェンブラック、あるいは導電性アセチレンブラック、カーボンナノチューブ(以下CNTと略記することがある)、気相成長炭素繊維(以下VGCFと略記することがある)などが好適に用いられる。これらのうち、導電性ファーネスブラックあるいは導電性アセチレンブラックは後述するような好適とされる溶融紡糸において脂肪族ポリエステルと良好な相互作用を有していることから、脂肪族ポリエステル中に高濃度で含有せしめながらも優れた紡糸性を保持することが可能な点で、より好ましい成分として用いられる。またCNTはその直径が50nm以下のものであると、導電性も高く、また後述のように少量添加でも導電剤含有APEに含有せしめた場合に高い導電性を有することから、とても好ましい導電剤として用いられる。そしてこれら導電性のカーボンブラックの導電性は比抵抗値として5000[Ω・cm]以下のものが好ましく用いられ、特に好ましい範囲としては、1.0×10−7[Ω・cm]〜500[Ω・cm]である。
【0046】
また本発明における導電剤としては、前述の導電性のカーボンブラックを用いた場合、得られる繊維が黒色になることがあって、用途によっては用いることができないことがある。従ってその場合には、黒色以外の導電剤を用いればよく、金属、金属酸化物や金属化合物、あるいは金属や金属酸化物をコーティングした粒子などが挙げられる。金属としては例えば金、銀、銅、ニッケル、鉄、アルミニウム、あるいはこれら金属からを少なくとも1種選ばれて含有する合金が挙げられる。特に鉄については純度が高い粒径の小さい純鉄粒子が容易に入手可能でしかも比抵抗値が10−5[Ω・cm]以下と非常に小さく、好適に採用できる。また金属化合物については硫化銅、ヨウ化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウムなどが挙げられる。また金属酸化物としては、錫酸化物、亜鉛酸化物、インジウム酸化物、ジルコニウム酸化物、タングステン酸化物、アンチモン酸化物、アルミニウム酸化物などが好適なものとして挙げられる。そしてより好ましいものとして、金属酸化物をコーティングしてなる粒子が用いられ、粒子としては、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどが挙げられ、またコーティングされる金属酸化物としては、錫酸化物、アルミニウム酸化物、アンチモン酸化物、亜鉛酸化物、インジウム酸化物などが挙げられ、これら金属酸化物は1種単独で用いてもよくあるいは元素の異なる複数種を混合して用いてもよい。そしてこれら金属酸化物をコーティングしてなる粒子の中でより好ましいものとしては、アンチモン酸化物を含有(ドープ)した錫酸化物をコーティングしてなる酸化チタン粒子、アンチモン酸化物を含有(ドープ)したインジウム酸化物をコーティングしてなる酸化アルミニウム粒子、アンチモン酸化物を含有(ドープ)した錫酸化物をコーティングしてなる酸化ケイ素粒子、などが挙げられる。そして、粒子としての平均粒径が小さく繊維に添加しても強度や伸度などの物理物性への悪影響が小さく、また粒子自体の比抵抗値が高く、黒くない(明度L*が高い)という点で、錫酸化物、亜鉛酸化物、インジウム酸化物、アンチモン酸化物、アルミニウム酸化物の中から異なる元素由来の少なくとも2種選ばれてなる金属酸化物をコーティングしてなる粒子が好ましく、アンチモン酸化物を含有(ドープ)した錫酸化物をコーティングしてなる酸化チタン粒子が特に好ましい。
【0047】
本発明における導電剤は、脂肪族ポリエステルに含有せしめた場合に繊維物性を損ねないことが好ましく、また凝集しにくいことが好ましいことから、該導電剤の粒子の大きさは、平均粒径で0.1〜500nmの範囲のものが好ましい。前述で好ましいとした導電性ファーネスブラックであれば1つの粒子の最大長の平均が5〜400nmの範囲のものがより好ましく、5〜300nmの範囲のものが特に好ましい。また前述で好ましいとしたカーボンナノチューブ(CNT)であればその直径は平均で0.1〜100nmの範囲のものが好ましく、0.5〜50nmの範囲のものがより好ましい。なお該CNTの直径Dと長さLの比(アスペクト比)L/Dについては適度な大きさをもつことで本発明での脂肪族ポリエステル中でCNT同士が凝集しにくく、あるいは繊維を形成させた場合には繊維の長手方向に略配向して繊維長手方向の導電性が均質になる好ましい特性を有することから、該L/Dは10〜10000であることが好ましく、15〜5000であることがより好ましく、20〜3000であることが特に好ましい。
【0048】
そして該導電剤の脂肪族ポリエステル中における含有量は、繊維が高い導電性を有すること、および繊維の強度や伸度などの物性が安定していることなどから、導電性ファーネスブラック、導電性ケッチェンブラック、あるいは導電性アセチレンブラックの場合には15〜35重量%であることが好ましく、20〜30重量%であることがより好ましく、20〜28重量%であることが特に好ましい。導電剤がCNTまたはVGCFの場合には0.1〜25重量%であることが好ましく、0.5〜20重量%であることがより好ましく、1.0〜15重量%であることが特に好ましい。導電剤が金属、金属酸化物や金属化合物、あるいは金属や金属酸化物をコーティングした粒子などの場合には10〜90重量%であることが好ましく、20〜85重量%であることがより好ましく、40〜80重量%であることが特に好ましい。これら導電材は、含有量が高いほど導電性の斑も小さくなるため好ましい。
【0049】
本発明における脂肪族ポリエステルに導電剤を含有せしめる方法としては任意の方法が採用でき、具体的には、(A)不活性気体の雰囲気下、脂肪族ポリエステルを溶融し、次いで導電剤を添加し、エクストルーダや静置混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法、(B)通常の脂肪族ポリエステルの重合反応において、重合反応が停止する以前の任意の段階で導電剤を含有せしめて混練する方法、(C)脂肪族ポリエステルを溶融する以前の任意の段階で粉体あるいは粒体の脂肪族ポリエステルと、粉体あるいは粒体の導電剤とをあらかじめ所定の分量で混合、攪拌したものを溶融せしめて、エクストルーダや静置混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法、などが挙げられるが、簡便に混練が達成できかつ導電剤と脂肪族ポリエステル成分とがより微細に混練されることから、好ましくは(A)または(C)の方法が採用される。特にエクストルーダに関しては1軸あるいは2軸以上の多軸エクストルーダを好適に用いることができるものの、脂肪族ポリエステル成分と導電剤とを混練した際に導電剤が微細混練するという点で、2軸以上の多軸エクストルーダを採用することが好ましい。そしてエクストルーダの軸の長さ(l)および軸の太さ(w)の比l/wについては、混練性向上の点でl/wは10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であることが更により好ましい。なおポリマーの装置中の滞留時間を鑑み、該l/wは200以下であることが好ましい。この時導電剤の添加は前述の通り、エクストルーダに供給する以前の段階で乾式ブレンドしておいてもよく、あるいはエクストルーダに配設したサイドフィーダーを用いて溶融した脂肪族ポリエステルとエクストルーダ中にて混合してもよい。また特に静置混練子に関しては、例えば溶融した脂肪族ポリエステルの流路を2つあるいはそれ以上の複数に分割して再度合一するという作業(この分割から合一までの作業1回を1段とする)がなされる静置型の混練素子であれば、より混練性が優れるという点で静置混練子の段数は5段以上であることが好ましく、10段以上であることが更により好ましい。また流路の必要長さにも依るものの50段以下であることが好ましい。
【0050】
本発明の繊維の構成としては、前述の通り、アロイ成分のみで繊維を構成しうる、すなわち導電性と繊維形成性を担いうる該アロイ成分が繊維表層を全て占めることを満足すればよく、更に、優れた繊維物性を発現しうるという点で該アロイ成分と他の1種または他の複数種のポリマーとからなる複合繊維であってもよい。本発明の繊維中のアロイ成分以外の他の1種または複数種のポリマー(以下「他のポリマー成分」と略記する)は、繊維軸方向に垂直な繊維横断面中で1箇所配置されていてもよく、あるいは2箇所以上の複数箇所に配置されていてもよい(以下、1箇所であれば「芯」、2箇所以上の複数箇所であれば「島」と称することがある)。1箇所であれば通常の中心を共通とする芯鞘であっても偏心芯鞘であってもよく、また2箇所以上の複数箇所に配置されている場合には、高々100箇所配置されていることが好ましい。2箇所以上の複数箇所に配置されている場合には、繊維物性(曲げ剛性や引張強度、あるいは引張弾性率など)が均質になるという点で該他のポリマー成分は繊維軸方向に垂直な繊維横断面において繊維中心点に対して対称となるよう等しく配置されることが好ましい。そして製糸性に優れ、かつアロイ成分の補強成分として機能しうることから、前述他のポリマー成分を芯、アロイ成分を鞘とする芯鞘型複合繊維の構成が特に好ましい。ここで該他のポリマー成分は、導電剤を含まないかあるいは本発明の趣旨を損ねない範囲において少量の導電剤を含有してもよく、例えば本発明の繊維の強度や伸度といった導電性以外の他の繊維物性を担う成分であっても、あるいは、他のポリマー成分自身が別の機能を担ってもよく、あるいは機能性成分を含有することで別の機能を担わせたものであってもよい。またこの複合繊維において、他のポリマー成分の、繊維軸方向に垂直な繊維横断面における芯あるいは島の形状としては、円あるいは楕円であってもあるいは三角形や四角形、それ以上の多角形など、多種多様な形状であってもよい。三角形以上の多角形においては、通常、ポリマー自身の溶融時の挙動で角が丸みを帯びた形状となることがしばしばある。芯あるいは島が円であれば、前述繊維横断面において、曲げに対して等方的な強度(剛性)を有するが、丸以外の形状、例えば楕円や三角形においては、曲げの剛性が曲げる方向において異なるという挙動を示すことがある。特に後述するような、例えばブラシなどに用いる場合には、芯あるいは島を丸以外の三角形や四角形、それ以上の多角形の形状とすることで繊維自身の剛性を高く制御できるため、特に清掃ブラシとして非常に高性能なものとなりうる。
【0051】
そして本発明の繊維は、様々な用途に用いられるための繊維物性、特に繊維の引張強度や引張での初期弾性率が所望のレベルに設定可能で、また製糸性に優れかつ製造装置が簡便な設計となるという点で、前述のアロイ成分が繊維表層を全て占め、かつ他のポリマー成分を芯に配置した、芯鞘複合繊維であることが好ましい。ここで芯を形成する他のポリマー成分は1種であっても複数種のポリマーからなるものであってもよい。なお、繊維軸方向に垂直な繊維横断面における(換言すると繊維中の)前述のアロイ成分の割合は、目的とする用途に応じて適宜設定すればよいものの、導電剤を均質に含有して安定した導電性を具備するという点で、好ましくは5〜100体積%までの範囲で用いることができる。そして優れた導電性を保ちつつ狙いの繊維物性(例えば強度、残留伸度、初期引張弾性率、等)を達成しうるという点で、繊維中の該アロイ成分の割合は20〜100体積%であることがより好ましく、30〜100体積%であることが特に好ましい。なお前述アロイ成分の繊維中での割合は、単繊維の繊維横断面におけるアロイ成分部分の、単繊維横断面積に対する面積比率から求めることができる。
【0052】
前述の通り、本発明の繊維の構成としては、前述のアロイ成分が繊維表層を全て占め、かつ該アロイ成分と前述の他のポリマー成分とからなる複合繊維であってもよいが、その場合、該他のポリマー成分は、1種からなる場合、繊維形成能を有するポリマーであることが好ましい。また他のポリマー成分が複数種からなる場合は、少なくとも1種が、好ましくは他のポリマー成分である全ての成分が、繊維形成能を有するポリマーであることが好ましい。
【0053】
該他のポリマー成分としては、前述の非相溶ポリマーと同様の繊維形成能を有するポリマーが挙げられ、例えば、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーやその他ビニル基の付加重合により合成される例えばポリアクリロニトリル系ポリマーなどのビニル系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、シリコーン系ポリマー、芳香族あるいは脂肪族ケトン系ポリマー、天然ゴムや合成ゴムなどのエラストマー、その他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。そして湿度依存性が小さい点でポリオレフィン系ポリマーやポリエステル系ポリマーが好ましく、前述アロイ成分との接着性が良好で、海面での剥離が生じにくいという点から、ポリエステル系ポリマーであることがより好ましい。
【0054】
ポリエステル系ポリマーとしては、乳酸を主たる繰り返し構造単位とする乳酸系ポリマー(以下「PLA系ポリマー」と総称することがある)などの脂肪族ポリエステル、PET系ポリマー、PTT系ポリマー、PBT系ポリマー、PEN系ポリマー、PCMT系ポリマー、PPN系ポリマー等の芳香族ポリエステルが好ましいものとして挙げられ、個別には、まず前述の導電剤含有APEと同じ主たる繰り返し構造単位を持つという点で脂肪族ポリエステルが好ましく、特に導電剤含有APEが前述のように好ましいとされるポリ乳酸である場合には、該他のポリマー成分もPLA系ポリマーであることが非常に好ましい。また例えば前述の非相溶ポリマーで好ましいとする芳香族ポリエステルが採用される場合には、該非相溶ポリマーとの接着性が良好であることから、該他のポリマー成分もPET系ポリマー、PTT系ポリマー、PBT系ポリマー、PEN系ポリマー、PCMT系ポリマー、あるいはPPN系ポリマーが好ましく、特に導電剤含有APEと融点(Tm)が近い点で共重合成分を含むPET系ポリマー、PTT系ポリマー、PBT系ポリマー、PPN系ポリマーがより好ましく、繊維となした際に剛性が低く、後述するブラシとなした際に、様々な用途に用いられることから、PTT系ポリマーあるいはPBT系ポリマーであることが特に好ましい。なおこれら好ましいとされる他のポリマー成分には、本発明の目的を損ねない範囲で他の成分が共重合されていてもよい。
【0055】
本発明の繊維は、使用時の環境によっては高温に曝される場合もあることから、耐熱性に優れるという点で、160℃大気中で15分間保持した際の収縮率(「乾熱収縮率」と称する)が20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、6%以下であることが特に好ましい。低いほど好ましく0%までのものが好適に用いられる
本発明の繊維は、衣料用途や後述するブラシローラー用など様々な用途での使用時の変形が小さいという点で、残留伸度が5〜100%であることが好ましく、5〜60%であることが特に好ましい。
【0056】
本発明の繊維は、様々な用途に応じて適宜繊維としての物性を制御すればよいものの、それら様々な用途に広く適用できる点で、15〜90cN/dtexの初期引張弾性率を持つことが好ましく、またこの範囲で安定して製造可能である。そして特定の用途によっては更に好ましいとされる初期引張弾性率があり、例えば後述するような電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材において、トナーを掻き落とす目的で繊維が用いられるような場合には、概して剛性(初期引張弾性率と高い相関がある)の高い繊維が好まれ、トナーの掻き落とし性が良好であるという点で、初期引張弾性率が45cN/dtex以上であることがさらに好ましく、50cN/dtex以上であることが特に好ましい。ここで該初期引張弾性率を電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材として用いられるのに好ましいとされる45cN/dtex以上となすには、前述のアロイ成分が繊維表層を全て占めていれば、繊維が全てアロイ成分からなるものであっても、あるいはアロイ成分と他のポリマー成分とを組み合わせて用いた複合繊維であってもよいものの、より高い初期引張弾性率を達成しうるという点で、PET系ポリマーやPEN系ポリマーなどを他のポリマー成分として用いて繊維となすことが好ましい。またあるいは、後述するような電子写真装置の中に組み込まれている帯電装置の部材の中で、あるいは清掃装置の部材の中でトナーを吸着除去するために用いられるような場合には、概して剛性(初期引張弾性率と高い相関がある)の低い繊維が好まれることから、初期引張弾性率が15〜45cN/dtexであることがより好ましく、40cN/dtex以下であることがさらにより好ましく、35cN/dtex以下であることが特に好ましい。そして低い初期引張弾性率であるほど好ましい。ここで該初期引張弾性率を好ましいとされる45cN/dtex以下となすには、前述のアロイ成分が繊維表層を全て占めていれば、繊維が全てアロイ成分からなるものであっても、あるいはアロイ成分と他のポリマー成分とを組み合わせて用いた複合繊維であってもよいものの、より低い初期引張弾性率を達成しうるという点で、PTT系ポリマーやPBT系ポリマーなどを他のポリマー成分として用いて繊維となすことが好ましい。
【0057】
本発明の繊維は、衣料用途や後述するブラシローラー用など様々な用途で形状あるいは特性を安定して満足するために、破断強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましく、1.5cN/dtex以上であることがより好ましく、2.0cN/dtex以上であることが更により好ましい。本発明者らは、ポリエステルとして脂肪族ポリエステルを用いた場合に、導電導電剤が高濃度で含有されていたとしても、破断強度の低下が殆どないことを見出したものであるが、アロイ成分中の非相溶ポリマーによる補強効果により、高い繊維強度を持つことが可能になったのであって、そして更に、他のポリマー成分による更なる補強効果も付与しうるのである。そして該破断強度に関しては高いほど好ましいものの、生産性を考慮すると7.0cN/dtex以下のものが好適に製造される。
【0058】
本発明の繊維は、23℃湿度55%での平均抵抗率Pが1.0×1012[Ω/cm]以下であることが好ましい。該平均抵抗率Pの範囲においては、後述するような多様な用途、例えば衣料、アクチュエーター、ブラシローラー、発熱体、あるいはこれらを組み込んでなる様々な製品などにおいて好ましい導電性が付与される。23℃湿度55%での平均抵抗率Pは、小さければ小さいほど導電性が高い、すなわち電気を流しやすいため、用途によっては低い平均抵抗率Pを持つことが好ましいこともあり、繊維表層を全て占める脂肪族ポリエステルに最大限含有せしめることが可能な導電剤の量を鑑み、該平均抵抗率Pの下限としては1.0×10−3[Ω/cm]であることがより好ましい。そして1.0×10−1〜1.0×1011[Ω/cm]の範囲が安定して制御可能であるため、更により好ましい。特に、後述するような電子写真装置に組み込むブラシローラーに本発明の繊維を用いる際には1.0×10〜1.0×1012[Ω/cm]の範囲の平均抵抗率Pであることが好ましく、ブラシローラーの用いられる部材や装置の特性に応じて後述するような範囲の平均抵抗率Pの繊維が採用される。
【0059】
また本発明の繊維は、後述するような様々な用途で安定した斑のない導電性が確保されることが好ましいことから、23℃湿度55%での平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が0.4以下である。比Rが0.4以下であるということが導電性の斑が小さいことを意味し、小さい値をとるほど導電性に斑がなく優れるのである。そして0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。そして本発明の繊維の23℃湿度55%での平均抵抗率Pが1.0×10[Ω/cm]未満である場合には、該比Rは0.1以下であることが特に好ましい。また例えば後述するような電子写真装置の中に組み込まれている帯電装置の部材として用いられるような場合でも、該比Rは0.1以下であることが特に好ましい。なお、該比Rは小さければ小さいほど好ましいものの、通常達成可能な値としてRは0.001以上である。
【0060】
さらに本発明の繊維は、温湿度変化、具体的には例えば梅雨の時期のように湿った気候の場合であっても冬季のように低温で乾燥した気候であっても繊維の導電性能は何ら変わらないことが好ましい。そこで該繊維の、中温中湿度(23℃湿度55%)での平均抵抗率P[Ω/cm]と、低温低湿度(10℃湿度15%)での平均抵抗率Y[Ω/cm]との比Z(=Y/P)が、1〜5の範囲にあることが好ましく、1〜4の範囲にあることがより好ましく、1〜2の範囲にあることが特に好ましい。Zは1に近い値をとるほど中温中湿度と低温低湿度との差が小さい、すなわち温度湿度依存性が小さく優れた繊維であるということになる。
【0061】
本発明の繊維は、特に短繊維となして電気植毛加工を行う際に、より効率的に加工が行えるという点で、比抵抗値が10〜10[Ω・cm]であることが好ましく、10〜10[Ω・cm]であることがより好ましい。そしてこれら好ましいとされる比抵抗値の値を有する短繊維とせしめるために導電調製剤等で処理することが好ましい。該導電調整剤としては例えばシリカ系粒子が混合された水系溶剤あるいは有機系溶剤を挙げることができ、その際のシリカ系粒子の粒径としては通常1nm〜200μmの大きさの粒子が用いられ、3nm〜100μmの大きさの粒径が好ましい。
【0062】
本発明の繊維は、本発明の目的を損ねない、すなわち斑のない、高い導電性を保ちつつも優れた溶融紡糸性を示すという特性を損ねない範囲で艶消剤、難燃剤、滑剤、減粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤等の添加剤を少量保持してもよい。特に本発明において用いられる脂肪族ポリエステルの中で特に好ましいとされるポリ乳酸にとっては、環状アミド化合物またはその誘導体であるラクタム系減粘剤、あるいはカルボジイミド系末端基封止剤は好適に用いられうる。またこれら添加剤は、本発明の繊維が前述の通り複合繊維となす場合には導電剤を含有する脂肪族ポリエステルおよび/または導電剤を含有する脂肪族ポリエステル以外の成分のいずれに保持されていてもよい。
【0063】
以下、本発明の繊維の好ましい製造方法を例示する。
【0064】
本発明の繊維は、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸、あるいは乾湿式紡糸などの溶液紡糸など、種々の合成繊維の紡糸方法を採用して製造できるものの、繊維中に配設された脂肪族ポリエステル中の導電剤を高濃度で含有せしめることが容易かつ可能であり、また繊維形状を精密に制御可能であることから溶融紡糸により好適に製造される。そして導電剤を含有する脂肪族ポリエステルに、脂肪族ポリエステルと非相溶の繊維形成性ポリマーが分散されてなるアロイ成分を単独で、あるいは該アロイ成分が繊維表層を全て占めるように他のポリマー成分と共に複合紡糸することで繊維を得る。溶融吐出された繊維(未延伸糸)は繊維を構成するポリマーのうち、最もガラス転移温度が低いポリマーのガラス転移温度(TgL)以下に冷却され、好ましくは処理剤を付着せしめた後、100〜10000m/分の引取速度で、好ましくは7000m/分以下、より好ましくは5000m/分以下、特に好ましくは3000m/分以下の引取速度で、また生産性を考慮して下限としては好ましくは500m/分以上の引取速度で引き取る。ここで口金孔から吐出される繊維一束の本数(糸条の繊維本数)は目的とする使用方法あるいは用途に応じて適宜選択すればよく、1本のモノフィラメントの状態であっても、3000本以下の複数糸条からなるマルチフィラメントでもよいものの、諸物性の安定した繊維が得られ、各種用途に好適に採用されるという点で、4〜500本が好ましく、10〜150本が特に好ましい。また付着せしめる処理剤は繊維の用途に応じて適宜用いることができ、含水系あるいは非含水系の処理剤がここに採用されうるものの、本発明の繊維を用いてなる用途の中で、特に電子写真装置の部材として用いる場合には、感光体に接触して用いることもあるが、該感光体が劣化することを防止するために感光体を劣化せしめるような化合物が含有されていないことが好ましい。
【0065】
引き取った後、巻き取ることなくもしくは一旦巻き取った後、繊維を構成するポリマーのうち、最もガラス転移温度が低いポリマーのガラス転移温度(TgL)+100℃以下の温度に加熱して、より好ましくはTgL−20℃〜TgL+80℃の温度範囲に加熱して、延伸糸の残留伸度が5〜60%となる倍率で、好ましくは延伸糸の残留伸度が10〜50%となる倍率で延伸する。ここで一旦延伸したのち(すなわち1段目の延伸を終えた後)、さらに1倍以上2倍以下の倍率で、2段目の延伸を施してもよい。
【0066】
延伸したのち、繊維は最終延伸温度以上、繊維を構成するポリマーのうち最も融点の低いポリマーの融点(TmL)以下の温度で熱処理することが好ましい。延伸後に高温で熱処理を施すことで、より耐熱性に優れ、また強度や初期引張弾性率も優れ、かつ前述したような導電性の斑の小さい繊維となすことができるのである。なお、前述の紡糸において、引取速度が4000m/分以上である場合には、延伸しなくとも該熱処理を施すことが好ましく、熱処理を施すことでやはり導電性の高い、あるいは導電性の斑の小さな繊維となすことができるのである。
【0067】
上記延伸方法あるいは延伸後の熱処理方法としては、加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バス、あるいは加熱気体、加熱蒸気、電磁波などを用いた非接触式加熱媒体などを採用することが可能であるものの、加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バスなどは装置が簡便で加熱効率が高いことから好ましく、加熱されたローラー状物が特に好ましい。熱処理された繊維は、空気中を走行中に冷却されるものの、熱処理手段の下流に−50℃〜50℃の範囲の冷却媒体にて冷却されることが好ましい。ここで該冷却媒体としては、ピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式媒体や液体を用いた接触式バス、あるいは気体、蒸気などを用いた非接触式媒体などを採用することが可能であるものの、ピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式媒体や液体を用いた接触式バスなどは装置が簡便で冷却効率が高いことから好ましく、ローラー状物が特に好ましく採用される。そして熱処理手段と冷却媒体の間は、目的とする用途や設定すべき平均抵抗率、あるいは平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)に応じて、繊維を伸長(ストレッチ)させても、収縮(リラックス)させてもよい。ここでストレッチまたはリラックスさせる割合としては、熱処理手段上での糸速度(SH)と冷却媒体上での糸速度(SC)の比(SH/SC)が、0.90≦SH/SC≦1.1であることが好ましく、0.95≦SH/SC≦1.05であることがより好ましい。当然ながらストレッチもリラックスも施す必要がない場合には、SH/SC=1、すなわちSH=SCでもよい。最終的には冷却媒体を通過した後、巻き取られて繊維を得る。
【0068】
本発明の繊維は、織物あるいは編物、さらには様々な衣料用途に用いる場合には前述の延伸の後、もしくは延伸に代えて、仮撚り加工を施してもよい。仮撚り加工において繊維は、延伸糸あるいは未延伸糸を加熱することなくもしくは加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物、あるいは非接触型のヒーターなどにより加熱した後、ディスク状物あるいはベルト状物によって仮撚り加工される。延伸仮撚り加工された繊維は、そのまま巻き取ってもよいが、前述の延伸と同様に熱処理された後に巻き取られることが好ましい。また本発明の繊維は、前述仮撚り加工の代わりに、撚糸加工を施してもよい。
【0069】
本発明の繊維は、用いられうる用途にあるいは形状に即して、少なくとも一部にあるいは全部に用いられた織物となすことができる。ここで例えば1重織物としてはブロード、ボイル、ローン、ギンガム、トロピカル、タフタ、シャンタン、デシンなどの平織、デニム、サージ、ギャバジンなどの綾織、サテン、ドスキンなどの朱子織、バスケット、パナマ、マット、ホップサック、オックスフォードなどのななこ織、グログラン、オットマン、ヘアコードなどの畝織、フランス綾、ヘリンボーン、ブロークンツイルなどの急斜文、緩斜文、山形斜文、破れ斜文、飛び斜文、曲り斜文、飾斜文や、不規則朱子、重ね朱子、拡げ朱子、昼夜朱子や、蜂巣織、ハック織、梨地織、ナイアガラなどが挙げられ、また2枚の織物を合わせて1枚の織物となした2重織物としては、ピケ、フクレ織などの経2重織、ベッドフォードコードなどの緯2重織、風通織、袋織などの経緯2重織などが挙げられ、またパイル織物としては別珍やコールテンなどの緯パイル織や、タオル、ビロード、ベルベットなどの経パイル織などが挙げられ、その他に紗織や絽織などのからみ織物、ドビー織やジャガード織などの紋織物などを挙げることができ、特に後述のブラシローラー用に織物を用いる場合にはパイル織物が好ましい。そして該織物を作製するために用いられる本発明の繊維は、生糸、撚糸、仮撚り加工糸など、また長繊維(フィラメント)、あるいは短繊維(ステープル)など、挙げられる。
【0070】
また本発明の繊維は、用いられうる用途にあるいは形状に即して、少なくとも一部にあるいは全部に用いられた編物となすことができる。ここで編物としては天竺やシングルなどの平編、ゴム編やフライスなどのリブ編、リンクスなどのパール編の他、鹿の子、梨地、アコーディオン編、スモールパターン、レース編、裏毛編、片畦編、両畦編、リップル、ミラノリブ、ダブルピケ、等の緯編、あるいはトリコット、ラッセル、ミラニーズなどの経編などを挙げることができ、特に後述のブラシローラー用に編物を用いる場合には、裏毛編やあるいはパイル状繊維を編物表面に突出させるためのベロアなど起毛処理を施した編物が好ましい。そして該編物を作製するために用いられる本発明の繊維は生糸、撚糸、仮撚り加工糸など、また長繊維(フィラメント)、あるいは短繊維(ステープル)など、挙げられる。
【0071】
また本発明の繊維は、用いられうる用途にあるいは形状に即して、少なくとも一部にあるいは全部に用いられた不織布となすことができる。ここで不織布としてはケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ(スパンレース)法、スティッチボンド法、フェルト法などの接合あるいは接着方法により形成されたものを挙げることができ、不織布を作製するために用いられる本発明の繊維は生糸、撚糸、仮撚り加工糸など、また長繊維(フィラメント)、あるいは短繊維(ステープル)など挙げられる。
【0072】
本発明の繊維が少なくとも一部に用いられてなる前述の織物あるいは編物は、常法の精練、染色、熱セット等の加工を受けてもよく、あるいは前述の不織布であれば、艶付けプレス、エンボスプレス、コンパクト加工、柔軟加工、ヒートセッティングなどの物理的処理加工や、ボンディング加工、ラミネート加工、コーティング加工、防汚加工、撥水加工、帯電防止加工、防炎加工、防虫加工、衛生加工、泡樹脂加工などの化学的処理加工や、その他にマイクロ波応用や、超音波応用、遠赤外線応用、紫外線応用、低温プラズマ応用などの応用処理がなされていてもよい。
【0073】
また本発明の繊維が少なくとも一部に用いられてなる前述の織物、編物、あるいは不織布としては、本発明の繊維と、本発明とは異なる合成繊維、半合成繊維、天然繊維など、例えばセルロース繊維、ウール、絹、ストレッチ繊維、アセテート繊維から選ばれた少なくとも1種類の繊維とを用いたものであってもよい。具体的に例を挙げると、セルロース繊維としては、綿、麻等の天然繊維、あるいは銅アンモニアレーヨン、レーヨン、ポリノジック等が挙げられ、これらセルロース繊維と混用する本発明の繊維の含有率については、セルロース繊維の風合い、吸湿性、吸水性、制電性などを生かし、かつ本発明の繊維の導電性を生かすために、0.1〜50重量%が好ましい。また該混用に用いられるウール、絹は既存のものがそのまま使用でき、これらウール、あるいは絹と混用する本発明の繊維の含有率については、ウールの風合い、暖かみ、かさ高さ、また、絹の風合い、きしみ音を生かし、かつ本発明の繊維の導電性を生かすために、0.1〜50重量%が好ましい。また混用に用いられるストレッチ繊維は、乾式紡糸または溶融紡糸されたポリウレタン繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維やポリテトラメチレングリコール共重合ポリブチレンテレフタレート繊維に代表されるポリエステル系弾性糸等が挙げられ、ストレッチ繊維を用いる混用布帛において、本発明の繊維の含有率は0.1〜50重量%程度が好ましい。また混用に用いられるアセテート繊維は、ジアセテート繊維でもトリアセテート繊維でもよく、これらアセテート繊維と混用する本発明の繊維の含有率については、アセテート繊維の風合い、鮮明性、光沢を生かし、かつ本発明の繊維の導電性を生かすために、0.1〜50重量%が好ましい。
【0074】
これら各種の混用した織物、編物、あるいは不織布について、本発明の繊維の形態、混用方法については、公知の方法を用いることができる。例えば、混用方法としては経糸または緯糸に用いる交織織物、リバーシブル織物等の織物、トリコット、ラッセル等の編物などが挙げられ、その他交撚、合糸、交絡を施してもよい。
【0075】
本発明の繊維を少なくとも一部にあるいは全部に用いた織物、編物あるいは不織布は、前述の混用したものも含め、染色されていてもよく、例えば製編、製織後あるいは不織布の場合はウェブを形成し前述の接合あるいは接着方法により形成されたあと、常法により精練、プレセット、染色、ファイナルセットの過程をとることが好ましい。また、本発明の繊維は前述のアロイ成分が繊維表層の全てを占めているが、必要な範囲に応じて、精練後、染色前に常法によりアルカリ減量処理されていてもよい。本発明は前述のアロイ成分が繊維表層を全て占めているが、該アロイ成分に含まれる脂肪族ポリエステルはアルカリ減量処理における減量速度が、従来用いられているような芳香族ポリエステル(PET系ポリマーやPBT系ポリマーなど)と比較して非常に大きいため、減量処理にかける時間やアルカリ成分(水酸化ナトリウムや、水酸化カリウムなど)の水溶液濃度には十分注意する必要がある。なお精練は40〜98℃の温度範囲で行うことが好ましい。特にストレッチ繊維との混用の場合には、布帛をリラックスさせながら精練することが弾性を向上させるのでより好ましい。染色前後の熱セットは一方あるいは両方共省略することも可能であるが、織物、編物あるいは不織布の形態安定性、染色性を向上させるためには両方行うことが好ましい。熱セットの温度としては、120〜190℃、好ましくは140〜180℃の本発明の趣旨を損ねない温度である必要があるが、熱セット時間としては10秒〜5分、好ましくは、20秒〜3分である。
【0076】
本発明の繊維は導電性に優れることから繊維そのものとしても非常に有用で、繊維をそのまま長繊維として使用することができるが、繊維の一形態として前述の通り0.05〜150mmの長さの短繊維として用いられる。該短繊維はフィラメントを1つの糸条単独であるいは複数の糸条を束ねたトウになして切断されてなるものであり、特に0.1〜10mmの長さの短繊維としたものは、例えば電気植毛加工や吹きつけ加工などの多種多様な方法によって、基盤に接着して植設されてなる植毛体とすることができる。電気植毛加工により植設された繊維は、その50%以上が基盤に対し10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に接着される。ここで、該植毛体となす場合に用いる短繊維には、本発明の繊維からなる短繊維以外に、本発明の繊維ではない他の繊維からなる短繊維を混用して植設してもよい。また該植毛体は、基盤に短繊維を接着して植設してなるものであるが、接着する場合には例えばアクリル系、ウレタン系、またはエステル系の接着剤を用いて接着されることが好ましい。ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。また植設される基盤としては、前記植毛体を組み込む装置や用いる接着剤に応じて適宜採用すればよいが、合成樹脂、天然樹脂、合成繊維、天然繊維、木材、鉱物あるいは金属からなるフィルム、シート、紙、板、布帛などが好適に採用でき、あるいは各種用途の部材そのものである金属加工体、合成もしくは天然樹脂加工体もしくは成形体の基盤に直接植毛してもよい。ここで特に前記接着剤との親和性を高めるために、親水化処理してなる合成もしくは天然樹脂あるいは金属からなるシートが好ましい。そして該基盤が前記フィルム、シート、紙、板、布帛など表裏を形成している素材であれば用途あるいは目的に応じてその表面および裏面の両面に植設することができる。該植毛体は、その使用方法あるいは用途として、例えば導電性を有するため導電性のブラシローラーとして用いることができる。
【0077】
本発明の繊維を少なくとも一部に用いてなる前述の織物、編物あるいは不織布は、基盤に接着してなる布帛複合体とすることができる。この場合、織物であればパイル織りあるいは処理により織物表面に起毛や糸端があるもの、また編物であればパイル状の繊維起毛があるものもしくは起毛処理してパイルあるいは糸端が編物表面にあるものが後述するブラシローラーにおいてより機能が高められる場合があり好ましい。接着する場合には例えばアクリル系、ウレタン系、またはエステル系の接着剤を用いて接着されることが好ましい。ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。また接着される基盤としては、該布帛複合体を組み込む装置や用いる接着剤に応じて適宜採用すればよいが、合成樹脂、天然樹脂、合成繊維、天然繊維、木材、鉱物あるいは金属からなるフィルム、シート、紙、板、布帛などが好適に採用でき、あるいは各種用途の部材そのものである金属加工体、合成もしくは天然樹脂加工体もしくは成形体の基盤に直接接着してもよい。ここで特に前記接着剤との親和性を高めるために、親水化処理してなる合成もしくは天然樹脂あるいは金属からなるシートが好ましい。そして該基盤が前記フィルム、シート、紙、板、布帛など表裏を形成している素材であれば用途あるいは目的に応じてその表面および裏面の両面に前述の織物、編物あるいは不織布を接着して布帛複合体となすことができる。該布帛複合体は、その使用方法あるいは用途として、例えば導電性を有するため導電性のブラシローラーとして用いることができる。
【0078】
本発明の繊維は、少なくとも一部あるいは全部に用いてなる衣料となる。このときに繊維の長さについては、長繊維(フィラメント)であっても前述のような短繊維であってもよい。衣料となした場合に例えば導電性に優れることで冬季あるいは乾燥時の静電気発生を抑制することができるなど、より快適な着心地となるし、あるいは埃を寄せ付けにくいことから手術衣あるいは半導体製造時の作業衣など防塵衣料を形成しうる。その際には、本発明の繊維を全部に用いて衣料となしてもよいし、あるいは少なくとも一部、例えば衣料をなす織物の数本ごとにタテ糸および/またはヨコ糸として用いることが好ましい。また副次的な効果として導電剤が含有されていることで例えばカーボンブラックや金属酸化物などでは繊維の熱伝導性が向上し、着衣時に瞬時に熱を奪う接触冷感素材やあるいは冬季に寒い外部から暖かい室内に入った時すぐに体が温まる温感素材などとしても利用できる。
【0079】
本発明の繊維を用いてなる前記織物および/または編物および/または不織布は、少なくとも一部に用いるかあるいは全部に用いることにより棒状物体に接着して、ブラシローラーを形成できる。ここで用いられる織物および/または編物および/または不織布は、棒状物体に接着する際に、棒状物体の機能的に必要とされる長さ(すなわち巻き幅)分だけカットしたものを一周で巻き付け接着してもよく、あるいは棒状物体の長さの数分の一〜数十分の一の長さの幅にスリット状にカットしたものを棒状物体にスパイラル状に巻き付けて接着してもよい。ここで用いられる接着剤は、用いられる用途あるいは目的に応じて適宜採用すればよく、アクリル系、エステル系あるいはウレタン系など種々のものを採用でき、また必要に応じて接着剤中に導電性のカーボンブラックやカーボンナノチューブ、VGCF、あるいは金属、金属酸化物などの導電剤あるいは磁性制御剤などが添加されていてもよい。ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。さらに前記織物および/または編物および/または不織布は接着される以前の段階で接着面に10〜1010Ω・cmの比抵抗を有する導電処理剤もしくは導電性シートあるいは導電性膜などの素材を張り合わせてもよい。
【0080】
本発明の繊維を用いてなる前記短繊維は、少なくとも一部に用いるかあるいは全部に用いることにより棒状物体に接着して植設されてブラシローラーを形成できる。ここで用いられる短繊維は、棒状物体に接着して植設される際に、気体により短繊維を吹きつけてもよくあるいは電気植毛加工を行ってもよいが、棒状物体の表面に概ね直立したものが効率よく得られることから電気植毛加工により得られることが好ましい。このとき短繊維は、その50%以上が棒状物体の表面において10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に接着される。ここで、発明の趣旨を損ねない範囲で、用いる短繊維には本発明の繊維からなる短繊維以外に、本発明の繊維ではない他の繊維からなる短繊維を混用して植設してもよい。また接着して植設する際の接着剤は、例えばアクリル系、ウレタン系、またはエステル系の接着剤が用途あるいは目的に応じて種々選択されて用いられ、ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。また本発明の短繊維を少なくとも一部に用い、棒状物体に接着して植設してなる前記ブラシローラーのブラシローラー自体の比抵抗値は10〜1011Ω・cmであることが好ましい。
【0081】
前述の棒状物体の芯となる主たる材質は、用いられる用途あるいは目的に応じて適切なものを採用すればよく、金属、合成樹脂、天然樹脂、木材、鉱物などから単独で、もしくは複数種を組み合わせて選ばれるが、後述する電子写真装置に組み込む部材として用いる場合には、主として金属からなることが好ましい。さらに該棒状物体が金属である場合には、該金属の少なくとも一部もしくは必要とする部分の全面を中間層が覆い、その上に前記織物および/または編物および/または不織布が接着されるか、あるいは短繊維が接着して植設されることが好ましい。この中間層として用いられる素材は主としてクッション性を棒状物体に付与する、あるいはブラシ状の繊維の弾性・剛性のみでは達成し得ない場合に補助的に弾性・剛性を担うものであり、後述される例えば清掃装置におけるトナー除去性能、あるいは現像装置におけるトナー付与性能を格段に向上せしめる。そして該中間層には例えばウレタン系素材、エラストマー素材、ゴム素材あるいはエチレン−ビニルアルコール系素材などが好適に用いられる。そして該中間層の厚みは0.05〜10mmであることが好ましく、更に必要に応じて前述の導電剤あるいは磁性制御剤が添加されていてもよい。
【0082】
本発明の繊維を用いてなる前記織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用い、棒状物体に接着してなるブラシローラー、あるいは前記短繊維を少なくとも一部に用い、棒状物体に接着して植設されてなるブラシローラーは、用いている本発明の繊維の導電性に由来して、例えば電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材として好適に用いられる。ここで該清掃装置に用いられるブラシローラー用の繊維の平均抵抗率Pは、1.0×10〜1.0×10[Ω/cm]、または1.0×10〜1.0×1011.5[Ω/cm]の範囲のものが好ましく、1.0×1010〜1.0×1011[Ω/cm]の範囲のものが特に好ましく、かつ清掃装置の機構に応じて用いられる。清掃装置の中で該ブラシローラーは回転しながら、必要であれば電気を印可されながら、不要物(例えば電子写真装置の中であれば転写されなかった残存着色剤など)を捕捉して除去するのであるが、本発明の繊維を用いた場合には前述の通り温度および湿度変化がある場合にも安定した導電性能を有する繊維であることから、この除去性能が格段に優れるのである。また該ブラシローラーの清掃装置内での用いられ方としては前述の通り感光体にブラシローラーが直接接触して清掃する以外に、感光体を清掃する部材(前記の通りブラシローラーの場合もあれば、あるいは従来技術であればブレード状の部材)を清掃するためのブラシローラーとして、すなわち清掃装置自体を清掃するもの、もしくは回収した不要トナーを別の場所に移送するためのブラシローラーとしても用いられる。また本発明の清掃装置にはブラシローラーを目的効果、清掃の機構に応じて1本用いてもあるいは2本以上の複数本用いてもよい。
【0083】
本発明の繊維を用いてなる前記織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用い、棒状物体に接着してなるブラシローラー、あるいは前記短繊維を少なくとも一部に用い、棒状物体に接着して植設されてなるブラシローラーは、用いている本発明の繊維の導電性に由来して、後述する電子写真装置に用いられうる帯電装置に好適に組み込まれて用いられる。該帯電装置に組み込まれるブラシローラーの繊維の平均抵抗率は、好ましくは1.0×10〜1.0×109.5[Ω/cm]の範囲、より好ましくは1.0×10〜1.0×10[Ω/cm]の範囲のものが好適に用いられる。該ブラシローラーを用いてなる帯電装置の性能は、ブラシローラーの導電性能、すなわち本発明の繊維の性能に依存するが、本来の目的である感光体を均一に帯電できることはもとより電子写真装置内の環境変化、すなわち電子写真装置が稼働中徐々に変化する温度や湿度の変化、あるいは季節による温度、湿度変化に対してブラシローラーの導電性は全く変化しないことが求められる。それに対して本発明の繊維は、前述の環境変化に対して導電性はほとんど変化することがないため感光体の帯電斑が起こりにくく、非常に優れた帯電装置となる。加えて該電子写真装置の感光体表面に、清掃が不十分なために残存したトナーがあった場合にも該ブラシローラーはブラシ状であって清掃ローラーを兼ねることができるため、現像あるいは印刷時の汚染がない、もしくはほとんどないという点でも優れており、さらには電子写真装置を小型化する場合には前記清掃装置および帯電装置を個別に設置することなく清掃装置兼帯電装置として省スペース化を図ることも可能であるため、その点でも格段に優れている。また本発明の帯電装置中には、目的、機構に応じて前記ブラシローラーを1本あるいは2本以上の複数本用いてもよい。
【0084】
本発明の繊維を用いてなる前記織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用い、棒状物体に接着してなるブラシローラー、あるいは前記短繊維を少なくとも一部に用い、棒状物体に接着して植設されてなるブラシローラーは、用いている本発明の繊維の導電性に由来して、上記の清掃装置あるいは帯電装置の他に、現像装置や除電装置に好適に組み込まれて用いられる。
【0085】
本発明の繊維を用いてなる前記清掃装置および/または帯電装置および/または現像装置および/または除電装置を用いてなる電子写真装置、具体的にはレーザービームモノクロプリンター、レーザービームカラープリンター、モノクロ複写機、カラー複写機、モノクロまたはカラーファクシミリあるいは多機能型複合機、ワードプロセッサーなどを挙げることができるが、帯電した感光体にレーザーで潜像を描きトナーを用いて顕像化するメカニズムにより現像あるいは印刷を行う装置は、前述の通り本発明の繊維を用いていることから、電子写真装置内の環境変化、特に温度や湿度変化によらず安定した清掃・帯電・現像・除電性能を有し、得られた印刷あるいは現像物はモノクロの場合はもとより、複数種のトナーをかつ多量に用いるカラーの場合は特に非常に美しいものとなるし、さらには電子写真装置の駆動速度をより高める、すなわち単位時間あたりの印刷あるいは現像速度(枚数)を高めることが可能となる。また本発明の繊維を用いてなる電子写真装置は、前述の通り、更なる小型化、省スペース化、省電力化を図ることができ、非常に好ましい。
【0086】
本発明の繊維を少なくとも一部に用いてなる織物は、前述のとおり、非常に優れた導電性を有する繊維を用いることから、織物全体に該繊維を用いる場合はもとより、織物の一部に該繊維を用いた場合であっても優れた導電性能あるいは電気を逃がすことのできる性能(換言すれば静電性能)を有する織物となるため、各種資材用途、例えば幕やカーテン、人体の静電気が発生しやすい自動車、鉄道、航空機など乗り物のシート、壁材や敷物、布団、毛布、敷布などの寝具などに用いることができ優れている。
【0087】
本発明の繊維を少なくとも一部に用いてなる編物は、前述の織物と同様に導電性能あるいは静電性能を有する編物となるため各種資材用途、例えば建物の壁材や絨毯などの敷物、自動車、鉄道航空機などの乗り物のシート、壁材、敷物乗り物用シートあるいはその敷物、布団、毛布、敷布などの寝具などに用いることができ優れている。
【0088】
本発明の繊維を少なくとも一部に用いてなる不織布は、前述の織物や編物と同様に導電性あるいは静電性能を有する不織布となるため、前述の織物や編物の用途と同様の資材として用いることができるほかに、厚みが必要な、例えば隔壁材や梱包物、クッションなど静電気の発生を嫌う装置、部屋の周辺部材用資材として広く用いることができ優れている。
【0089】
そして本発明の繊維からなる短繊維や、織物、特にパイル織物や編物あるいは不織布の更に別の用途としては、これらを用い、基盤に植設することで、植毛体あるいは布帛複合体となすことができる。これら植毛体あるいは布帛複合体は、導電性あるいは制電性に優れることから手触りの優れるものとして様々な内装材となりうる。
【0090】
そして本発明の繊維あるいは本発明の繊維からなる短繊維は導電性に優れることから配線物を形成することができ、例えば各種動作をする例えば微弱な電気で反応しうる人工筋肉のようなアクチュエーターの回路の一部として用いることもできる。あるいは配線物から発熱体を形成することが出来、これは、導電性に優れかつ導電性斑の小さな本発明の繊維を用いていることから、所望の導電性能に制御したものを用いるだけで、発熱効率の良い発熱体が得られ優れている。また該発熱体を使用するであろう主に冬季においては低温低湿度であるが、本発明の繊維は、温湿度依存性がないもしくは非常に小さいことから、冬季においても安定した導電性能を発揮し、非常に優れた発熱体となる。
【0091】
本発明の繊維を少なくとも一部に用いてなる衣料は、導電性に優れた繊維を用いることから、着衣時の静電気発生を抑制し、体外に逃がすことができるため、特に静電気の発生を嫌う半導体産業の作業着やあるいは静電気が発生しがたいことから埃を寄せ付けないため防塵衣として用いた場合に有用であるほか、導電剤が例えばカーボンブラックや金属、あるいは金属酸化物である場合には熱伝導性に優れるため、体外に熱を放散することができる接触冷感衣類や、あるいは逆に冷えた身体にすぐに体外からの熱を取り込みうる接触温感衣類などとして、例えばこれらの機能を必要とされるスポーツ衣料(ゴルフウェア、ゲートボール、野球、テニス、サッカー卓球、バレーボール、バスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボール、ホッケー、陸上競技、トライアスロン、スピードスケート、アイスホッケーなどのユニフォーム)や幼児、婦人、年輩者の衣料、その他にもアウトドア衣料(靴、カバン、サポーター、靴下、登山着)などに好適に用いることができる。
【0092】
本発明の前記織物および/または前記編物および/または前記不織布を少なくとも一部に用いて接着してなるブラシローラーは、導電性を有する繊維を少なくとも一部に用いることから電気的作用を利用することで効率的に不要物を除去あるいは必要とされる物質を付与する機能を有するため優れている。
【0093】
本発明の前記短繊維を用いてなるブラシローラーは、導電性を有する繊維を少なくとも一部に用いることから、前述と同様に電気的作用を利用することで効率的に不要物を除去あるいは必要とされる物質を付与する機能を有するほかに、短繊維の繊維長を制御することでブラシローラーの繊維植設密度あるいはブラシローラーの前記除去性能あるいは付与性能を目的に応じて容易に制御できるため優れている。特に植設される棒状物体が主として金属からなる場合は、本発明の繊維の導電性を制御することでブラシローラー自体の導電性(比抵抗値)を制御可能であるし、さらには棒状物体が金属および金属の少なくとも一部を覆う中間層とからなる場合には中間層の材質や厚さなどを制御することでクッション性を付与しうるため、ブラシローラー自体の前記除去性能あるいは付与性能を格段に向上せしめることができ優れている。
【0094】
本発明の前記ブラシローラーを用いてなる清掃装置は、ブラシローラー自体が回転することで不要物を除去し清掃する場合には非常に除去性能に優れる。例えば後述の電子写真装置などではトナーなどを電気的に除去しうる際に電子写真装置内の環境変化、特に湿度変化などがあった場合にもブラシローラーの導電性能が変動することがないため、常に安定した除去性能を有しており優れている。また本発明の前記ブラシローラーは該清掃装置に於いて、対象となる物質、例えば後述の電子写真装置においては感光体に直接接触して清掃を行うほかにも、清掃活動を行う部材自身から不要物を除去して清掃装置自体を清掃するための部材としても有用であり、結果的に高性能な清掃装置となる。
【0095】
本発明の前記ブラシローラーを用いてなる帯電装置は、ブラシローラー自体の導電性(比抵抗値)を制御することで用いられるもので、例えば後述の電子写真装置などで感光体を一様に帯電させるブラシローラーとして用いられる際に感光体を均一に帯電できることはもとより電子写真装置内の環境変化例えば電子写真装置の稼働中あるいは季節変化による湿度変化に対してもブラシローラー自体の比抵抗値は変化しないもしくは非常に変化が小さいため、感光体の帯電斑が発現しにくいため非常に優れている。加えて該電子写真装置の前記感光体に清掃が不十分なために残存したトナーがあった場合にも該ブラシローラーは清掃ローラーとしての機能を兼ねることができるため、現像あるいは印刷時の汚染がない、もしくはほとんどなく優れているほか、電子写真装置を小型化する場合には前記清掃装置および該帯電装置を個別に設置せずに、兼用すなわち清掃装置兼帯電装置として該ブラシローラーのみで適用しうるため非常に優れている。
【0096】
本発明の前記ブラシローラーを用いてなる現像装置は、前述の帯電装置での効果と同様にブラシローラー自体の導電性を駆使して用いられるもので、例えば後述の電子写真装置等で感光体に描かれた静電潜像にトナーを付着させる際に、前述のような湿度変化などの環境変化の際のブラシローラー自体の比抵抗値斑がない、もしくはほとんどないことから、トナーが均一に感光体に供給され顕像化し、得られた現像物あるいは印刷物は汚染のない、もしくはほとんどない非常に美しいものとなり優れている。
【0097】
本発明の前記ブラシローラーを用いてなる除電装置は、繊維中に含有される導電剤の含有量を制御してブラシローラーの導電性(比抵抗値)を小さくすることで、非常に優れた除電性能を有するブラシローラーとなるため有用である。特に後述の電子写真装置に用いる際には、無数の毛(繊維)からなるブラシローラーが安定かつ均一な除電効果を有していることから除電装置のあとに配設される前記清掃装置での清掃効果をより高めることが可能であるほか、該電子写真装置を小型化する場合には該ブラシローラーを用いることで除電装置兼清掃装置として組み込むことができ非常に優れている。
【0098】
本発明の前記清掃装置および/または帯電装置および/または現像装置および/または除電装置を用いてなる電子写真装置、具体的にはレーザービームプリンター、複写機、ファクシミリ、多機能型複合機、あるいはワードプロセッサーなど帯電した感光体にレーザーで潜像を描きトナーを用いて顕像化するメカニズムにより現像あるいは印刷を行う装置は、前述の通り電子写真装置内の環境変化によらず安定した清掃・帯電・現像・除電性能を有していることから、得られた印刷あるいは現像物は非常に美しいものとなる。また前記ブラシローラーの繊維長あるいは含有する導電剤の含有量などを最適化することで、より安定した清掃・耐電・現像・除電性能を有するため、電子写真装置の駆動速度をより高める、すなわち単位時間あたりの印刷あるいは現像速度(枚数)を高めることが可能となり非常に好ましい。
【0099】
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに制限されるものではない。なお実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
【実施例】
【0100】
A.繊度[dtex]および単糸繊度[dtex]の測定
繊維(マルチフィラメント)を長さ100m分カセ取りし、そのカセ取りした繊維の重量(g)を測定して得た値に100を掛ける。同様に測定して得た3回の平均値をその繊維の繊度とした。単糸繊度については、前述の繊度をフィラメントを構成する単繊維の本数で割った値を単糸繊度[dtex]とした。
【0101】
B.繊維の初期引張弾性率、残留伸度、破断強度の測定
オリエンテック社製テンシロン引張試験機(TENSIRON UCT−100)を用い、未延伸糸であれば初期試料長50mm、引張速度400mm/分で、延伸糸であれば初期試料長200mm、引張速度200mm/分でそれぞれ初期引張弾性率(延伸糸のみ)、強度および残留伸度を測定し、5回測定した平均値をそれぞれの測定値とした。初期引張弾性率は、チャート紙にチャート速度100cm/分、応力フルレンジ500gとして記録して、引張初期の曲線の傾きから求めた。
【0102】
C.23℃湿度55%での平均抵抗率Pの測定および抵抗率の標準偏差Qと、平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)の算出
中温中湿度(23℃湿度55%)で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。送糸ローラーと巻取ローラーからなる1対の鏡面ローラーで糸を走行させる際に、ローラー間に、東亜DKK(株)製絶縁抵抗計SM−8220に接続された2本の棒端子からなるプローブに走行糸が接するように設置した装置で、棒の太さφ5mm、棒端子間で接する糸の端子間測定長2.0cm、印可電圧100V、送糸速度100cm/分、ローラー間の糸張力が0.05〜0.1cN/dtexの範囲となるようにして(この範囲であれば測定値に差はない)、絶縁抵抗計でのサンプリングレート0.2秒で200cmの長さ分、抵抗値を測定して、得られた値の平均抵抗値[Ω]を棒端子間で接する糸の距離(2.0cm)で割った値を平均抵抗率P[Ω/cm]とした。また同時に得られた全ての値に対する標準偏差Qを算出し、平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)を算出した。
【0103】
D.中温中湿度(23℃湿度55%)での平均抵抗率Pと低温低湿度(10℃湿度15%)での平均抵抗率Yとの平均抵抗率の比Z(温湿度変化Z;Z=Y/P)
中温中湿度における平均抵抗率についてはC.項の測定方法を採用し(平均抵抗率P)、また低温低湿度における平均抵抗率においてもC.項と同様に測定して平均抵抗率Yを求め、それぞれ得た平均抵抗率P,Yの比Z(Z=Y/P)を求めた。
【0104】
E.比抵抗値の測定方法
測定は前記中温中湿度で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。測定物が長さ100mm以上の繊維状のものである場合には、繊維束を1000dtexの束にして50mmの長さに切断し(この時、繊維端面は斜めにカットする)、端面に導電性ペーストを塗布してから電極を取り付けて500Vで測定した。また測定物が長さ100mm未満の繊維状物あるいは粉体状のものである場合は、長さ10cm、幅2cm、深さ1cmの、両端面に電極を有する絶縁体の箱形容器に、50kgf/cmの圧力で充填して密封したのち500Vで測定して、単位体積当たりの比抵抗値[Ω・cm]に換算して求めた。ガット状のものについては、1回の測定において、直径D(0.2〜0.3cmの範囲の直径のもの)で長さ12cmのガットについて、テスターを用いてテスターの2本の端子を任意の10cmの間隔でガットに押しつけ、その抵抗値R[Ω]を測定し、(比抵抗値)=R×(D/2)×π/10の式から該ガットの比抵抗値を求めた。そして5本の異なるガットについて各々1回ずつ比抵抗値を測定し、5回の平均値を比抵抗値とした。
【0105】
F.溶融粘度の測定
(株)東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下、バレル径9.55mm、ノズル長10mm,ノズル内径1mmで、ポリマー押出ピストン速度1mm/分(剪断速度12.16sec−1)あるいは100mm/分(剪断速度1216sec−1)で、サンプル充填直後から10分経過したのち測定した。5回測定した値の平均値を各剪断速度での溶融粘度とした。
【0106】
G.160℃大気中で15分間の収縮率(乾熱収縮率)の算出
延伸糸1mの輪を5本枷取りした束にクリップを1つ留め、束の長さL1を測る(この時、約500mmの長さ)。次に160℃の大気中にゆっくりと下ろして15分間静置し、15分後に取り出して1時間以上風乾する。風乾したのち再度束の長さL2を測定する。収縮率(%)を下式で算出する。
乾熱収縮率(%)={(L1−L2)÷L1}×100
H.ガラス転移点(Tg)および融点(Tm)の測定
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−2)を用いて試料10mgで、昇温速度16℃/分で測定した。Tm、Tgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、約(Tm+20)℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷し、(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をTgとし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度をTmとした。
【0107】
I.短繊維の繊維長の測定
長さ20mm以上の短繊維は0.1g/dtexの荷重をかけてノギスを用いて、また20mm未満の短繊維はNIPPON KOGAKU K.K製SHADOW GRAPH Model6を用いて20倍で、短繊維50本の長さを測定し、その平均値を繊維長とした。
【0108】
J.カーボンナノチューブ(CNT)の直径D、および該Dと長さLの比(アスペクト比)L/Dの測定、導電剤の平均粒径の測定
CNTをそのまま繊維エポキシ樹脂中に包埋したブロック(以下CNTブロック)、あるいは繊維中に存在するCNTであればその繊維をエポキシ樹脂中に包埋したブロック(以下繊維ブロック)を、ウルトラミクロトームにて、CNTブロックであれば任意の場所をそのまま切削してCNTの超薄切片を、繊維ブロックであれば繊維軸方向と平行方向に繊維中心付近を切削して単繊維縦断面の超薄切片を、各々作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所製 H−7100FA型)にて、加速電圧75kVで、倍率10万〜50万倍の任意の倍率で観察を行った。観察においてデジタル化した写真として得て、該写真上で任意のCNTを100本選び、CNTの直径D及び長さLを三谷商事株式会社製WinROOFにおいて画像解析することによって測定し、各々のCNTのD,およびL/Dを算出して100本の平均値を求め、その平均値で、CNTの平均直径D、およびアスペクト比L/Dとした。また導電剤の平均粒径についても、CNTと同様の装置および倍率で観察を行い、導電剤粒子100個を選び、これら100個の平均粒径を三谷商事株式会社製WinROOFにおいて画像解析することによって求めた。
【0109】
K.単繊維直径の測定
FEI Company社製 走査型電子顕微鏡(SEM) STRATA DB235を用いて、加速電圧2kVで、白金−パラジウム蒸着(蒸着膜圧:25〜50オングストローム)処理を行った後、繊維外径が全て視野に入る倍率(単繊維直径が25μm〜50μmであれば5千倍、15μm〜25μmであれば1万倍、5μm〜15μmであれば2万倍)で確認した。なおこの際、単繊維直径は少なくとも該測定を同一繊維において3cm以上の間隔をおいた任意の5点について観察、測定して得た平均値を単繊維直径とする。
【0110】
L.数平均分子量の測定
Waters社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー2690を用い、次の条件で測定した。カラム:Shodex GPC K−805L(8mmID*300mmL)2本連結使用,溶媒:クロロホルム(和光純薬工業株式会社製、高速液体クロマトグラム用),温度:40℃,流速:1mL/分,試料濃度:10mg/4mL,濾過:マイショリディスク0.5μ−TOSOH,注入量:200μL,検出器:示差屈折計RI(Waters2410),スタンダード:ポリスチレン(濃度:サンプル0.15mg/溶媒1mL),測定時間:40分。
【0111】
M.繊維中のアロイ成分の割合の算出
割合を算出する繊維のフィラメントをエポキシ樹脂中に包埋したブロックを、ミクロトームにて繊維軸方向に垂直な繊維横断面方向に切削して薄切片をつくり、光学顕微鏡200倍で透過光で観察・撮影したのち、得られた繊維横断面写真について、三谷商事株式会社製WinROOFにおいてアロイ成分部分と、他のポリマー成分との面積を画像解析することによってそれぞれ求めて割合を算出した。
【0112】
N.導電剤の脂肪族ポリエステル中における含有量
導電剤を含有する樹脂組成物、あるいは導電剤を含有した脂肪族ポリエステルのみからなる繊維で導電剤の含有量を求める場合は、(株)日立ハイテクノロジーズ社の分光光度計U−3010を用いて、あらかじめ導電剤の濃度が判っている、異なる濃度の溶液(脂肪族ポリエステルを溶解する溶媒;例えばポリ乳酸であればクロロホルム)5種類を用いて検量線を作成した後、導電剤を含有した脂肪族ポリエステル中での導電剤の含有量を求めた。複合繊維である場合は、前述M.項で求めた脂肪族ポリエステルの割合から、脂肪族ポリエステル中における導電剤の含有量を算出した。溶媒に溶けないもしくは溶けにくい脂肪族ポリエステルの場合は、1Nの水酸化ナトリウム水溶液30℃で24時間撹拌して、遠心分離したのち、導電剤の量を秤量して求めた。
【0113】
O.高温耐熱性の評価
得られた繊維を緯糸および経糸の両方に用いた平織物(織密度:経糸100本/2.54cm×緯糸100本/2.54cm)を作製し、該織物からなる10cm×10cmの試験片を6つ作成し、100℃,120℃,140℃,160℃,180℃,200℃の温度でそれぞれの試験片にアイロンをそれぞれ当てて、目視による織物の外観変化(収縮あるいは溶融)が生じる温度を耐熱限界温度として求めた。収縮は布帛の縦方向および横方向ともに10%以上縮んだ場合に収縮と見なした。そして高温耐熱性を評価するにあたり、外観変化が生じた温度として、140℃以下を高温耐熱性が悪い(×)、160℃で高温耐熱性がやや劣る(△;使用には耐えうる)、180℃で高温耐熱性が良好(○)、200℃で初めて外観変化が生じる、あるいは200℃でも外観変化が生じない場合、高温耐熱性が優れる(2重丸)とした。
【0114】
P.アロイ成分における導電剤含有APEと非相溶ポリマーとの非相溶性、非相溶ポリマーの平均直径サイズ、および導電剤含有APEと非相溶ポリマーとの体積比率の確認
繊維をエポキシ樹脂中に包埋したブロックに酸化ルテニウム溶液を用いて染色を施し、ウルトラミクロトームにて繊維軸と垂直方向に切削して単繊維横断面の超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所製 H−7100FA型)にて、加速電圧75kVで、倍率5万倍で横断面観察を行い、得られた写真を白黒にデジタル処理した。該断面写真をコンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)において画像解析することによって導電剤含有APEと非相溶ポリマーとの非相溶性、非相溶ポリマーの平均直径サイズ、および導電剤含有APEと非相溶ポリマーとの体積比率について確認した。平均直径サイズについては単繊維横断面写真上に存在する島状の非相溶ポリマーの各々の面積を計算し、該面積値から略円形と判断して計算した直径の平均値によって算出した。また導電剤含有APEと非相溶ポリマーとの体積比率については、画面上の前述島状の非相溶ポリマーの総面積と、導電剤含有APE部分(海)の面積を算出して、その面積比率を体積比率とした。更に非相溶性については、前述の算出した平均直径サイズが10nm以上であれば非相溶であると判断した。
【0115】
比較例1
(ポリエチレンテレフタレートの製法、カーボンブラックを添加したポリエチレンテレフタレートの調製、繊維の製造):テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部からの通常のエステル化反応によって得た低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行い、通常用いられるIV0.66、溶融粘度126[Pa・秒](測定温度290℃、12.16sec−1)、融点(Tm)256℃のポリエチレンテレフタレート(以下PET)のペレットを得た。
【0116】
このPETペレットを150℃10時間真空乾燥して、窒素雰囲気下で粉粒体とした後、2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=45)を用いて溶融混練する前に、窒素雰囲気下でカーボンブラックとしてデグサジャパン株式会社製ファーネスブラック(Printex(登録商標),タイプLSQ、比抵抗0.45[Ω・cm]、平均粒径23nm、以下FCB)を粉体同士で混ぜ合わせた後、溶融して該2軸エクストルーダで混練した。ここでFCBは混練終了後に得られるPETとFCBとの樹脂組成物においてFCBが20重量%となるように調製し、また280℃で混練した。混練した後、吐出されたガット状の樹脂組成物を15℃の水道水で冷却したのちカッターで切断し、溶融粘度861[Pa・秒](測定温度290℃、12.16sec−1)のPETとFCBとの樹脂組成物(以下PET−FCB)のペレットを得た。
【0117】
このPET−FCBを用いて2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を備えたエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度290℃で孔径が0.3mm、孔数が36個の丸形の孔形状の口金および濾層の目の細かさが20μのフィルタを設置して溶融紡糸を行い、実効成分として1重量%の付着量となるよう水系処理剤(実効成分20重量%濃度)を付着せしめた後、1500m/分の引取速度で引き取る溶融紡糸を試みた。しかし1500m/分の引取速度では断糸が激しく全く引き取りができなかったため500m/分の引取速度としたがそれでも断糸が激しく、結果として紡糸性は非常に悪いもので巻き取り糸は得られなかった。
【0118】
比較例2
(カーボンブラックを含有した脂肪族ポリエステルの調製、繊維の製造):光学純度99.5%のL−乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)を存在させて窒素雰囲気下180℃でそれぞれ280分、415分と重合時間を変え、分子量の異なる2種類のポリ乳酸(以下PLA−1,PLA−2)を得た。引き続いて180℃減圧下で脱ラクチド処理した。なお、重合時に安定剤としてGE社製「Ultranox 626」をラクチド対比0.15重量%加えた。得られたPLA−1,PLA−2各々の数平均分子量は、それぞれ15万、22万でともに融点(Tm)174℃であった。続いてPLA−1のペレットを120℃10時間真空乾燥した後、比較例1と同様の混練において、230℃で混練した以外は同じ装置で同じFCB種、FCB添加量(20重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度982[Pa・秒](測定温度230℃、12.16sec−1)のPLAとFCBとの樹脂組成物(以下PLA1−FCB)のペレットを得た。
【0119】
このPLA1−FCBを用いて比較例1で用いた同じエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度230℃とした以外は同様の条件で紡糸実験を行ったところ、1500m/分の引取速度で全く問題なく総繊度288dtex、フィラメント数36本の未延伸糸を巻き取って得た。紡糸性に全く問題はなく24時間の連続紡糸においても全く断糸は見られなかった。
【0120】
そして得られたマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは70℃で送糸速度320m/分、第2ローラーは110℃で送糸速度800m/分、第3ローラーは室温で送糸速度800m/分として、前述の未延伸糸を2本合糸して、繊維に延伸および熱処理を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下に冷却した後に巻き取って、繊度230dtex、フィラメント数72本からなる繊維断面が丸の延伸糸を得た。延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生せず延伸性は優れていた。糸物性について表1に示す。安定して糸は得られたものの、高温耐熱性に劣るものであった。
【0121】
実施例1〜5および比較例3
<ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)の製造>
テレフタル酸ジメチル130部(6.7モル部)、1,3−プロパンジオール114部(15モル部)、酢酸カルシウム1水和塩0.24部(0.014モル部)、酢酸リチウム2水和塩0.1部(0.01モル部)を仕込んでメタノールを留去しながらエステル交換反応を行うことにより得た低重合体に、トリメチルホスフェート0.065部とチタンテトラブトキシド0.134部を添加して、1,3−プロパンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、さらに220℃、窒素気流下で固相重合を行い、IV1.49、溶融粘度673[Pa・秒](測定温度260℃、12.16sec−1)、融点(Tm)229℃のPTTペレットを得た。このPTTペレットを溶融紡糸に用いる場合には150℃で10時間真空乾燥して用いた。
【0122】
比較例2と同様の溶融紡糸を行う際に、アロイ成分については前述PTTペレットとPLA1−FCBのペレットとを[PTTペレット]:[PLA1−FCB]=30:70となるような体積比率でドライブレンドして(ただしFCBの密度は1.95g/cmとして、PLAの密度は1.24g/cm、PTTの密度は1.34g/cmとして算出)、またPLA1−FCBにおけるFCB量は表1記載の量となるよう、比較例1と同様の方法でPLA1−FCBを調製して、比較例2と同様の製糸条件にて、紡糸工程においては同一吐出量(単位時間あたりに同一の容積量[cc/分])となるようにして繊維を得た。糸物性について表1に示す。比較例3においては、23℃湿度55%での平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が0.4より大きくなり必要とする導電性能の発現が見られなかった。
【0123】
【表1】

【0124】
実施例6〜9
実施例1において、表2の通りに脂肪族ポリエステル中のFCB量、およびアロイ成分における導電剤含有APEの体積分率(アロイ量)、延伸によって得られる繊維の単繊維繊度を6dtexとなるように溶融紡糸におけるフィラメント数を18本とした以外は、実施例1と同様の製糸条件にて、表2に記載のアロイ成分の体積分率となるよう、東レ株式会社製ポリブチレンテレフタレート(タイプ1300S、融点(Tm)225℃、以後PBTと称する)をアロイ成分とドライブレンドしてエクストルーダに投入して、紡糸工程においては同一吐出量(単位時間あたりに同一の容積量[cc/分])となるようにして、また延伸条件に関しては、実施例1と同様にして繊維を得た。導電剤含有APEに対する非相溶ポリマーの量が小さい場合(実施例9)でやや高温耐熱性が低い値が得られた。
【0125】
実施例10〜12
<イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(PET/I)の製造>
比較例1において、テレフタル酸166重量部の代わりに、テレフタル酸150重量部およびイソフタル酸16重量部を併用した以外は比較例1と同様の方法によりIV0.71、溶融粘度205[Pa・秒](測定温度290℃、融点(Tm)222℃、12.16sec−1)のPET/Iのペレットを得た。このPET/Iペレットを溶融紡糸に用いる場合には130℃で24時間真空乾燥して用いた。
【0126】
導電剤種および含有量(実施例10:電気化学工業株式会社製のデンカブラック粒状物(アセチレンブラック,以後ACB)、実施例11:カーボンナノチューブ、以後CNT,実施例12:アンチモン酸化物を含有(ドープ)した錫酸化物をコーティングしてなる酸化チタン粒子、以後白色粒子)、延伸糸の繊度を3dtexとなるよう、それぞれ変更した以外は、実施例6と同様の製糸条件にて、表2に記載のアロイ成分の体積分率となるよう前述のPET/Iペレットをアロイ成分とドライブレンドしてエクストルーダに投入して、紡糸工程においては同一吐出量(単位時間あたりに同一の容積量[cc/分])となるようにして、また延伸条件に関しては、実施例1と同様にして繊維を得た。ここでCNTの製造は酢酸第1鉄および酢酸コバルトで処理したチタノシリケート粉末をゼオライト触媒として用い、900℃のアルゴンガス雰囲気下、超高純度アセチレンガスを10ml/分で供給することによって得た。導電剤の種類や繊度が変わっても製糸性は問題なく、導電性や高温耐熱性など、良好な糸物性を有する繊維を得た。糸物性について表2に示す。
【0127】
実施例13
グリコール酸に0.1重量%のトリフェニルホスファイトと、0.01重量%の3酸化アンチモンを加え、窒素ガス雰囲気下、200℃で約1.5時間加熱して、脱水した。次いで、45分かけて撹拌しながら0.1〜0.6kPaにまで減圧しつつ220℃まで昇温した。220℃に到達したあとは、できるだけ減圧度を上げて10時間継続した。その間、ポリマーが固化すると245℃まで昇温して溶融した。得られたポリマーは一旦冷却・粉砕したのち、加熱して再溶融し、真空下で攪拌しながら220℃で24時間加熱処理して残存グリコリドを除去し、融点(Tm)220℃のポリグリコール酸(以後、PGA)を得た。そして実施例1と同様の方法で導電剤含有APEを調製するにあたり、250℃で混練した以外は同じ装置で同じFCB種、FCB添加量(25重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度2031[Pa・秒](測定温度250℃、12.16sec−1)のPGAとFCBとの樹脂組成物(以下PGA−FCB)のペレットを得た。
【0128】
そしてこのPGA−FCBを用いて、紡糸温度250℃、延伸時の第1ローラー温度80℃、第2ローラー温度120℃とした以外は実施例2と同様の条件で紡糸および延伸を行い、繊度230dtex、フィラメント数72本からなる延伸糸を得た。紡糸性に全く問題はなく24時間の連続紡糸においても全く断糸は見られなかった。また延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生せず延伸性も優れていた。糸物性について表2に示す。
【0129】
【表2】

【0130】
実施例14〜19
<複合繊維の製造>
2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機で、鞘成分が実施例1で用いた同じアロイ成分を用いて(実施例14〜16)または実施例8で用いたアロイ成分を用いて(実施例17〜19)、またそれぞれの芯成分は表3に示す各種繊維形成能を有するポリマー(実施例14:PLA−2,実施例15:PTT,実施例16:PET/I,実施例17〜19:東レ株式会社製ポリブチレンテレフタレート(タイプ1200S、融点(Tm)225℃、以後PBTと称する)からなる、表3に記載の複合比率(鞘;アロイ成分の割合を記載)の芯鞘型の複合繊維を得る複合紡糸を、紡糸温度は265でそれぞれ溶融紡糸を行った以外は、実施例1と同様の方法で同心の芯鞘複合溶融紡糸を行い、繊維を巻き取って得た。得られた繊維を更に延伸するに際し、実施例14〜19全てで第1ローラーを80℃、第2ローラーを130℃とした以外は実施例1と同様の延伸条件で2本の未延伸糸を合糸して延伸を行って、表3に示す物性を有する、繊維横断面が丸の繊維を得た。なおフィラメント数はいずれも72本であった。実施例1〜5と同様に、導電性や高温耐熱性など、糸物性の優れた(実施例14については良好な)繊維が得られた。
【0131】
実施例20〜22
実施例14〜19と同様に2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機で溶融紡糸を行うに際し、図1に示すようにアロイ成分中に繊維形成能を有するポリマーとして前述実施例17〜19で用いたPBT(タイプ1200S)を4箇所配設して複合紡糸を行った鞘に実施例11で用いたアロイ成分を用いて(実施例20)、または鞘に実施例12で用いたアロイ成分を用いて(実施例21)、または鞘に実施例13で用いたアロイ成分を用い(実施例22)た以外は、同心の芯鞘複合溶融紡糸を行い、実施例1と同様の方法で繊維を巻き取って得た。得られた繊維を更に実施例1と同様の延伸条件で延伸を行って、表3に示す物性を有する、繊維断面が丸の繊維を得た。実施例14〜19と同様に、高濃度で導電剤を含有する脂肪族ポリエステルを含むアロイ成分によって、得られた繊維は高い導電性および優れた糸物性を有するものであった。
【0132】
比較例4
実施例14と同様に2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機で溶融紡糸を行うに際し、特許文献3記載の実施例(本願添付の図2)と類似の製糸検討を行った。すなわち、実施例1と同じアロイ成分を本願添付の図2のように繊維表層の一部に露出するように配置し、繊維表層のそれ以外の部分をPLA−2で覆うような繊維断面とし、それ以外は実施例14と同様の紡糸および延伸を行って、表3に示す物性を有する、繊維断面が丸の繊維を得た。繊維は安定して得られたものの、実施例14と比較して非常に大きい導電性斑を有する、また高温耐熱性の劣る繊維であった。
【0133】
【表3】

【0134】
実施例23
実施例1〜22において得られた繊維を用いて、それぞれ平均繊維長が2.0mmの長さの短繊維に切断したのち、日産化学工業株式会社製コロイダルシリカ「スノーテックスOS(登録商標)」で処理したのち、東レ株式会社製ポリエステルフィルム「ルミラー(登録商標)QT33(厚さ100μm)」に大日本インキ化学工業株式会社製アクリル酸エステル系接着剤DICNAL K−1500(K−1500の100重量%に対し、増粘剤としてDICNAL VS−20を2重量%使用;以下「接着剤A」と称することがある)を約100μmの厚さでフィルムの片面に塗布し、接着剤を塗布したフィルムの片面に電気植毛加工を施し、植毛体状のブラシを作製した。また同様にして、SUS304からなる金属棒状物体AおよびSUS304からなるウレタン製中間層(厚さ1.5mmで金属棒端部2cmを残して覆った物)を設けた金属棒状物体Bにもそれぞれ電気植毛加工を施して(金属棒状物体Bには中間層部分のみに施して)、未接着短繊維を各々棒状物体から掃きとった後、植毛体状のブラシローラーA,Bをそれぞれ作製して得た。
【0135】
植毛性(植毛の成功の度合い)については、ほぼ直立している(2重丸)、寝ている繊維が少し見られる(○)、半数程度繊維が寝ている(△)、直立しているものが少ない(×)と視覚的に判断して評価したところ、全ての実施例がいずれも2重丸と優れていた。
【0136】
また実施例1〜22および比較例4において得られた繊維それぞれを用いて撚糸加工を施したのち、パイル織物を作製した後起毛処理したものをそれぞれ作製し、前記同様接着剤Aを用いて前述の金属棒状物体Aに接着して、それぞれブラシローラーCを作製した。起毛性は全て優れていた。
【0137】
実施例24
実施例3,4,6において得られたそれぞれの繊維を用いて、1つは緯糸のみに用いて平織りした物からYシャツを作製した(衣料Y3,Y4,Y6)。もう1つは経糸および緯糸全てに実施例3,4,6において得られた繊維を用いてYシャツを作製した(衣料YY3,YY4,YY6)。無作為に選んだ男性10名のモニター着衣テストを行ったところ、衣料Y3,Y4,Y6およびYY3,YY4,YY6全てにおいて、全員が「着衣すると冷たく感じる(接触冷感がある)」と回答し、衣料YY3,YY4,YY6の3つについては、全員が「着衣すると非常に冷たく感じる(接触冷感を強く感じる)」と回答した。
【0138】
実施例25
比較例3および実施例1〜5で得た繊維を用いて、これら繊維が10重量%含まれるナイロン6から主として形成されるカーペット(大きさ1m×1m)を作製し、その上で導電加工等を施していない合成皮革からなる革靴を履いて23℃湿度55%の雰囲気下で足踏みを100回行った後、カーペットの上に乗ったまま金属製のドアノブに触れる実験を行ったところ、比較例3のみ静電気発生による放電が発生したものの、実施例1〜5で得た繊維の場合は、静電気の放電は起こらなかった。
【0139】
実施例26
実施例23において得られたブラシローラーCのうち、実施例2、実施例19、および比較例4にて得られた繊維を持って作製したローラーC2,ローラーC19、ローラーC比4を、清掃装置にそれぞれ組み込んで配設したモノクロレーザープリンターを長時間連続印刷(1分間あたり10枚印刷・排出)を行い、プリンター中の湿度変化と共に印刷性を確認したところ、印刷開始1000枚程度でプリンター中の湿度は初期の65%から31%まで低下し、さらに10000枚程度印刷した時点では25%まで低下したものの、印刷枚数が20000枚を越えた時点であっても印刷の鮮明性、トナー清掃性などはローラーC2およびC19では優れていたが、ローラーC比4は初期の頃からトナー清掃斑が発現していて性能が劣っていた
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明の実施例20〜22により得られる繊維の横断面図である。
【図2】本発明の比較例4により得られる繊維の横断面図である。
【符号の説明】
【0141】
1:導電剤を含有する脂肪族ポリエステルに、脂肪族ポリエステルと非相溶の繊維形成性ポリマーが分散されてなるアロイ成分
2:繊維形成能を有するポリマー
0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電剤を含有する脂肪族ポリエステルに、脂肪族ポリエステルと非相溶の繊維形成性ポリマーが分散されてなるアロイ成分が、繊維表面を全て占めてなる、23℃湿度55%での平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が、0.4以下の繊維。
【請求項2】
脂肪族ポリエステルが乳酸を主たる繰り返し構造単位とするポリ乳酸系ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
引張弾性率が15〜90cN/dtexであることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維。
【請求項4】
23℃湿度55%での平均抵抗率Pが1.0×1012[Ω/cm]以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項5】
繊維の、23℃湿度55%での平均抵抗率P[Ω/cm]と、10℃湿度15%での平均抵抗率Y[Ω/cm]との比Z(Z=Y/P)が1〜5であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする繊維製品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする繊維ブラシ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−214807(P2008−214807A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54538(P2007−54538)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】