説明

繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形体

【課題】ポリカーボネート系樹脂で高い剛性が求められる場合において、高価なカーボン繊維(CF)の使用量を減じても高い剛性が得られるポリカーボネート系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a−1)ポリカーボネート樹脂又は(a−2)ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイからなる樹脂成分(A)40〜95質量%、繊維断面における長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.5〜6であるガラス繊維(B)4〜40質量%、及びカーボン繊維(C)1〜30質量%よりなる樹脂組成物100質量部に対し、(d−1)フェノキシ樹脂及び(d−2)エポキシ樹脂から選ばれる一種以上の官能基を有する界面改質樹脂(D)0.3〜5質量部を含むことを特徴とする繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形体に関する。より詳しくは、円筒、箱形状を有する自動車部品、電子機器、及び情報機器、あるいは鏡筒製品、鏡筒部品等の成形に適した繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物、それを成形して得られる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、その賦形性の容易さから、工業部品を初め多くの製品に重要な素材として多く用いられ、日本の産業を支えている。しかし、弾性率が金属や無機材料と比較し低いため、製品によっては製品厚みを薄くするには限界が生じている。また製品によっては、金属のサポートを必要とする場合もあり、工程の増加によるコスト上昇、製品の重量化を招いている。
熱可塑性樹脂の弾性率を向上させることを目的に、様々な無機フィラーとの複合化が検討され、多くの熱可塑性樹脂の複合材料が開発され使用されている。しかし、カーボン繊維(以下、「CF」と称することがある。)を用いたものを除く多くの複合材料は、金属材料や無機材料に比較すると未だ弾性率が不足しており、更なる薄肉化は製品剛性の面から困難な状態である。一方、カーボン繊維を用いたものは、他のフィラーと比較すると曲げ弾性率も著しく高く、そのため高い製品剛性を有する成形品が可能であるものの、コストが非常に高く、使用できる製品が大幅に制限されているのが現状である。
この高価なCFの使用量をできるだけ少なくし、成形品の製品剛性を高めることは至難の業であるが、市場においては安価でCF並みの製品剛性が得られる技術が強く望まれている。
【0003】
特許文献1では、ポリカーボネート系樹脂(以下、「PC」と称することがある。)及び無機充填材(含CF)を含み、かつリン酸エステル系化合物を含む樹脂組成物とすることで、表面外観が改善され、高い弾性率が得られることが開示されている。無機充填材は、周知の如くCFが、弾性率向上効果が最も高いが、このCF添加量を削減し、製品の剛性を高めることは、特許文献1においては、全く考えられていない。
【0004】
また、特許文献2には、特定のPCにCFを加えることで剛性を高めることができ、湿熱疲労特性や面衝撃特性に優れた組成物が開示されているが、高価なCF量を削減できる技術についての提案はされていない。
さらに、特許文献3には、PC100重量部に対して特定の熱伝導率をもつCF40〜200重量部及びその他の無機充填材(ガラス繊維を含む)0〜100重量部を配合してなる、熱放散性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が開示されているが、熱放散性に着目して、CFの配合比率が高く、製品剛性の向上とは全く目的を異にし、かつ、CF量の削減の手段等については全く提案されていない。
また、特許文献4には、PC50〜90重量%と、ゴム質重合体と芳香族ビニル単量体等をグラフト重合してなるグラフト共重合体10〜50重量%とを含む樹脂成分100重量部に対して、リン系難燃剤10〜40重量部、カーボン繊維5〜40重量部及びステンレス繊維5〜40重量部を配合してなる導電性を有する難燃性樹脂組成物が提案されている。しかし、特許文献4には、高度な難燃性を有し、耐衝撃性、高い弾性率を有する組成物が得られることが開示されているが、上記特許文献1〜3と同様に、CFを削減しつつ、製品剛性を高めることは全く困難で、かつ考慮もされていない。
【0005】
【特許文献1】特開平9−48912号公報
【特許文献2】特開2000−109671号公報
【特許文献3】特開2005−105144号公報
【特許文献4】特開2002−371178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、繊維強化ポリカーボネート系樹脂で高い剛性が求められる場合において、高価なカーボン繊維の使用量を減じても高い剛性が得られる繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、特定の繊維断面形状を有するガラス繊維とカーボン繊維を併用することにより、カーボン繊維量を大幅に削減しても円筒形状、箱形状を有する成形品の製品剛性を大きく向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1)(a−1)ポリカーボネート樹脂又は(a−2)ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイからなる樹脂成分(A)40〜95質量%、繊維断面における長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.5〜6であるガラス繊維(B)4〜40質量%、及びカーボン繊維(C)1〜30質量%よりなる樹脂組成物100質量部に対し、(d−1)フェノキシ樹脂及び(d−2)エポキシ樹脂から選ばれる一種以上の官能基を有する界面改質樹脂(D)0.3〜5質量部を含むことを特徴とする繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物、
(2)ガラス繊維(B)の繊維断面における長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.5〜6であり、且つ平均短径が3〜15μmである前記(1)に記載の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物、
(3)前記ガラス繊維(B)の含有量Bと、カーボン繊維(C)の含有量Cとの質量比(B/C)が1以上である前記(1)又は(2)に記載の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物、
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物を射出成形してなり、円筒形状もしくは箱形状を有する、ことを特徴とする成形体、及び
(5)鏡筒用である前記(4)に記載の成形体、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、繊維断面が特定の長径と短径の比(長径/短径)を有するガラス繊維と、カーボン繊維を併用することにより、高価なカーボン繊維量を大幅に削減しても円筒形状、箱形状を有する成形品の製品剛性を大きく向上できることを見出した。これにより、経済的な制限を大幅に緩和でき、より多くの成形品において肉厚を従来よりも薄くすることが可能となり、製品の軽量化に大きく寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物は、(a−1)ポリカーボネート樹脂又は(a−2)ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイからなる樹脂成分(A)40〜95質量%、繊維断面における長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.5〜6であるガラス繊維(B)4〜40質量%、及びカーボン繊維(C)1〜30質量%よりなる樹脂組成物100質量部に対し、(d−1)フェノキシ樹脂及び(d−2)エポキシ樹脂から選ばれる一種以上の官能基を有する界面改質樹脂(D)0.3〜5質量部含むことを特徴とする。
樹脂成分(A)は、ガラス繊維(B)およびカーボン繊維(C)を含めた樹脂組成物中において、40〜95質量%であることを要し、50〜85質量%であることが好ましい。
(A)樹脂成分が40質量%未満では、成形性が悪くなると共に、外観が低下し、95質量%を超えると、成形品の製品剛性が不足する。
【0010】
〔(a−1)ポリカーボネート樹脂〕
本発明の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物は、樹脂成分(A)として、(a−1)ポリカーボネート樹脂、又は(a−2)ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイからなる樹脂を用い、ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂を含む組成物である。
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、特に制限はなく種々のものが挙げられる。通常、二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法あるいは溶融法により反応させて製造された芳香族ポリカーボネートを用いることができる。具体的には、二価フェノールとホスゲンの反応、二価フェノールとジフェニルカーボネート等とのエステル交換法により反応させて製造されたものを使用することができる。
【0011】
二価フェノールとしては、様々なものが挙げられるが、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。特に好ましい二価フェノールとしては、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、特にビスフェノールAを主原料としたものである。
【0012】
また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、ハロホルメート等であり、具体的にはホスゲン、二価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等である。この他、二価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール等が挙げられる。これらの二価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
炭酸エステル化合物としては、上記のジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートやジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
ポリカーボネート樹脂の製造においては、通常末端停止剤が用いられる。
この末端停止剤としては、一価フェノール化合物を使用すればよく、具体的には、フェノール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、ドコシルフェノール、テトラコシルフェノール、ヘキサコシルフェノール、オクタコシルフェノール、トリアコンチルフェノール、ドトリアコンチルフェノール、テトラトリアコンチルフェノール等を挙げることができる。これらは1種でもよく、2種以上を混合したものでもよい。
また、これらのアルキルフェノールは、効果を損ねない範囲で他のフェノール化合物等を併用しても差し支えない。
なお、上記の方法によって製造されるポリカーボネート樹脂は、実質的に分子の片末端又は両末端に末端基を有するものである。
【0014】
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α”−トリス(4−ビドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸、イサチンビス(o−クレゾール)等がある。
【0015】
この(a−1)成分又は(a−2)成分の一方として用いるポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量が、通常10,000〜40,000である。
この粘度平均分子量が10,000以上であると、得られるポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性や機械的性質が充分であり、又この粘度平均分子量が40,000以下であると、得られるポリカーボネート樹脂組成物の成形加工性が向上するからである。
このポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、より好ましくは14,000〜25,000であり、更に好ましくは15,000〜22,000である。
なお、粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、[η]=1.23×10-5Mv0.83の式により算出した値である。
【0016】
〔(a−2)ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイ〕
また、本発明の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイ(混合物)からなる樹脂成分によっても構成される。
アロイ成分のポリカーボネート樹脂は、前記のポリカーボネート樹脂同様のものが用いられる。
アロイ成分のスチレン系樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン等のモノビニル系芳香族単量体20〜100質量%、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体0〜60質量%、及びこれらと共重合可能なマレイミド、(メタ)アクリル酸メチル等の他のビニル系単量体0〜50質量%からなる単量体又は単量体混合物を重合して得られる重合体を挙げることができる。
これらの重合体としては、ポリスチレン(GPPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル−アクリル酸メチル−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−(エチレン/プロピレン/ジエン共重合体)−スチレン共重合体(AES樹脂)等がある。
【0017】
また、スチレン系樹脂としてはゴム変性スチレン系樹脂を好ましく用いることができる。
このゴム変性スチレン系樹脂としては、好ましくは、少なくともスチレン系単量体がゴムにグラフト重合した耐衝撃性スチレン系樹脂である。
ゴム変性スチレン系樹脂としては、例えば、ポリブタジエン等のゴムにスチレンが重合した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリブタジエンにアクリロニトリルとスチレンとが重合したABS樹脂、ポリブタジエンにメタクリル酸メチルとスチレンが重合したMBS樹脂等があり、ゴム変性スチレン系樹脂は、二種以上を併用することができるとともに、前記のゴム未変性であるスチレン系樹脂との混合物としても用いることができる。
【0018】
スチレン系樹脂において、HIPS、AS樹脂、ABS樹脂、MS樹脂、MBS樹脂、AAS樹脂及びAES樹脂が好ましく、HIPS、AS樹脂及びABS樹脂が特に好ましい。
ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイにおける、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂の質量比率は、概ね、〔ポリカーボネート樹脂/スチレン系樹脂〕を〔100/5〜50〕とすればよい。
【0019】
ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイ化は、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂が所定の質量比率となるよう計量し、これと、要すれば各種安定剤等の他の成分を他の成分を配合し、混練することによって得ることができる。
この配合、混練は、通常用いられている方法、例えば、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等を用いる方法により行うことができる。
【0020】
〔ガラス繊維(B)〕
本発明で使用するガラス繊維は、繊維断面における長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.5〜6であることに特徴がある。
本発明のガラス繊維の繊維断面における長径と短径の比(長径/短径)は、繊維断面の長径Lと短径Dの比、(L/D)の平均値を表すものである。
長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.5未満では、カーボン繊維との併用による製品の剛性向上効果が低減されると共に、成形品の反り変形が生じ、円筒形状の場合、真円度が悪化する。また、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が6を超えると、成形品のウェルド強度が低下する。
ガラス繊維の配合量は、4〜40質量%であり、好ましくは10〜30質量%である。ガラス繊維の配合量が4質量%未満では、成形品の製品剛性が不足し、40質量%を超えると流動性が低下し、成形品の外観が悪くなる。
【0021】
本発明に使用できるガラス繊維の市販品としては、例えば、「CSG 3PA−820」
〔(長径/短径)比の平均値が4、平均長径=32μm、平均短径=8μm、平均繊維長=3mm、日東紡績株式会社製〕、「CSG 3PA−830」〔(長径/短径)比の平均値が4、平均長径=32μm、平均短径=8μm、平均繊維長=3mm、日東紡績株式会社製〕等が挙げられる。
【0022】
本発明で使用するガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス等のガラス組成を特に限定するものでなく、場合によりTiO2、Zr2O、BeO、CeO2、SO3、P25等の成分を含有するものであってもよい。但しより好ましくは、Eガラス(無アルカリガラス)が芳香族ポリカーボネート樹脂に悪影響を及ぼさない点で好ましい。
ガラス繊維の表面は、現在公知のエポキシ系、ウレタン系、アクリル系などの各種化合物により集束処理することができ、またシランカップリング剤等で表面処理されたものが好ましい。
【0023】
本発明において、ガラス繊維は、繊維断面における長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.5〜6であり、且つ平均短径が3〜15μmが好ましい。平均短径が3μm以上であれば、成形加工性が損なわれることもなく、平均短径が15μm以下であれば外観が損なわれることもなく、十分な補強効果が得られる。
ガラス繊維の繊維長に特に制限はないが、製造上の利便性の観点から、平均繊維長が1〜5mmであることが好ましい。
【0024】
〔カーボン繊維(C)〕
本発明で使用するカーボン繊維は、特に制限がなく公知の各種カーボン繊維、例えばポリアクリロニトリル、ピッチ、レーヨン、リグニン、炭化水素ガス等を用いて製造される炭素質繊維や黒鉛質繊維であり、特に繊維強度に優れるポリアクリロニトリル(PAN)系のカーボン繊維が好ましい。またカーボン繊維は繊維表面をオゾン、プラズマ、硝酸、電解等に代表される現在公知の方法により酸化処理することも可能であり、樹脂成分との密着性を増加するため好ましく行われる。カーボン繊維は通常チョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどの形状であるが、本発明には、チョップドストランド又はミルドファイバーが好適に使用できる。
【0025】
本発明において、カーボン繊維(C)は1〜30質量%、好ましくは、3〜25質量%配合される。1質量%未満では、成形品の製品剛性が不足し、30質量%を超えると、流動性が低下し成形品の外観が悪くなると共に、経済的に高コストとなり、経済的に安価で製品剛性の高い樹脂組成物という本発明の目的が達成できない。
【0026】
ガラス繊維とカーボン繊維との比率は、ガラス繊維(B)の含有量Bと、カーボン繊維(C)の含有量Cとの質量比(B/C)が1以上とすることができる。ガラス繊維の量をカーボン繊維の量より多くすれば、高価なカーボン繊維の使用量を効率的に低減でき、且つ、製品剛性が高く、円筒形状の場合、真円度の良好な製品を得ることができる。
【0027】
本発明の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物において、(d−1)フェノキシ樹脂及び(d−2)エポキシ樹脂から選ばれる一種以上の官能基を有する界面改質樹脂(D)としては、以下に記載のフェノキシ樹脂及びエポキシ樹脂を挙げることができる。
フェノキシ樹脂としては、例えば、一般式(1)
【0028】
【化1】

(式中、Xは
【0029】
【化2】

などで表わされる二価の基、Yは水素原子又は水酸基と反応する化合物の残基、nは重合度を示す。)
で表わされるフェノキシ樹脂などが挙げられる。
エポキシ樹脂としては、例えば、一般式(2)
【0030】
【化3】

(式中、X及びnは上記に同じ。)
【0031】
で表わされるエポキシ樹脂などが挙げられる。
上記一般式(1)において、水酸基と反応する化合物としては、エステル、カーボネート、エポキシ基などを有する化合物、カルボン酸無水物、酸ハライド、イソシアナート基などを有する化合物等を挙げることができる。
エステルとしては、特に分子内エステルが好ましく、例えばカプロラクトン等が挙げられる。
上記一般式(1)で表わされるフェノキシ樹脂において、Yが水素原子である化合物は、二価のフェノール類とエピクロルヒドリンから容易に製造することができる。
また、Yが水酸基と反応する化合物の残基である化合物は、二価のフェノール類とエピクロルヒドリンから製造したフェノキシ樹脂と上記水酸基と反応する化合物を加熱下で混合することにより、容易に製造することができる。
上記一般式(2)で表わされるエポキシ樹脂は、二価のフェノール類とエピクロルヒドリンから容易に製造することができる。
二価フェノール類としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン又は4,4'−ジヒドロキシビフェニルなどが用いられる。
フェノキシ樹脂及びエポキシ樹脂として、市販品を用いることもできる。フェノキシ樹脂(ビスフェノールA型)の市販品としては、PKHB(InChem社製、Mw=13,700)、PKHH(InChem社製、Mw=29,000)、PKFE(InChem社製、Mw=36,800)、YP−50(東都化成社製、Mw=43,500)等が挙げられる。
また、エポキシ樹脂(ビスフェノールA型)の市販品としては、EPICLON HM−101(大日本インキ化学工業社製、Mw=48,000)、エピコート1256(ジャパンエポキシレジン社製、Mw=26,600)等が挙げられる。
【0032】
官能基を有する界面改質樹脂の重量平均分子量としては特に限定されるものではないが、通常5,000〜100,000、好ましくは8,000〜80,000、更に好ましくは10,000〜50,000である。重量平均分子量が5,000から100,000の範囲であると、特に機械的物性が良好である。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が16,000以上であることが、機械的物性性を維持する上で好ましい。
本発明の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物において、樹脂組成物(A)100質量部に対して、官能基を有する界面改質樹脂(D)は、0.3〜5質量部、好ましくは、0.5〜4質量部、更により好ましくは、0.7〜3.5質量部の割合で含有される。
官能基を有する界面改質樹脂が、0.3〜5質量部であれば、ガラス繊維及びカーボン繊維との界面改質効果により、製品強度や製品剛性の改良効果が得られ、また、添加効果の飽和化や、製品強度や製品剛性の低下などの問題がない。
なお、本発明においては、官能基を有する界面改質樹脂として、フェノキシ樹脂とエポキシ樹脂を適宜の比率で混合して使用することができる。
【0033】
本発明の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物には、性能を損なわない程度で各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、エステル系等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系等の光安定剤、難燃化剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、耐候剤、離型剤、及び滑剤等が挙げられる。
添加剤成分の配合量は、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物の特性が維持される範囲であれば特に制限はない。
【0034】
本発明の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物は、前述の樹脂成分(A)、ガラス繊維(B)、カーボン繊維(C)及び官能基を有する界面改質樹脂(D)成分、さらには所望により用いられる他の添加剤成分を所定の割合で配合し、230〜300℃程度の温度で混練することにより得られる。このときの配合および混練は、通常用いられている機器、例えばリボンブレンダー、ドラムタンブラーなどで予備混合して、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等を用いる方法で行うことができる。混練の際の加熱温度は、通常240〜280℃の範囲で選択することが好ましい。
【0035】
本発明の円筒形状もしくは箱形形状を有する成形体は、上記で得られたペレットを原料として、射出成形法により成形体とすることができる。
本発明の成形体は、特に円筒形状や、電子機器、情報機器、及び自動車部品等のハウジング及び筐体などの箱形形状であれば、薄肉成形品として、特に製品剛性を有し、軽量化を図ることができる点で特徴を発揮できる。
円筒形状の成形体としては、鏡筒用が好ましく、特に各種光学機器の鏡筒、例えば望遠鏡鏡筒、顕微鏡鏡筒、カメラ鏡筒などにおいて、良好な真円度である特徴を発揮できる。
【実施例】
【0036】
表1及び表2に示す繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物に、以下の組成物を用いた。
(A)成分
(a−1)成分:PC;粘度平均分子量22,000のビスフェノールAポリカーボネート(商品名:タフロン FN2200、出光興産株式会社製)
(a−2)アロイ成分:ABS;アクリロニトリル−ブタジエンースチレン共重合樹脂(商品名:SANTAC AT−05、日本エイアンドエル社製)
PC:前記に同じ
(B)ガラス繊維
GFI:平均短径が8μmで(長径/短径)比の平均が4、平均繊維長が3mmのガラス繊維(商品名:CSG 3PA−820S、日東紡績株式会社製)
GFII:平均短径が6μmで(長径/短径)比の平均値が5、平均繊維長が3mmのガラス繊維(日東紡績株式会社製)
GFIII:平均短径が13μmで(長径/短径)比の平均値が1.5、平均繊維長が3mmのガラス繊維(日東紡績株式会社製)
GFIV:平均短径(繊維断面が丸型)が13μmで(長径/短径)比の平均値が1.0、平均繊維長が3mmのガラス繊維(商品名:CS03 MA409C 旭ファイバーグラス社製)
(C)カーボン繊維
CF:平均繊維径8μm、平均繊維長3mmのPAN系カーボン繊維(商品名:パイロフィル TR06U、三菱レーヨン株式会社製)
(D)成分
(d−1)成分:フェノキシ樹脂(商品名:PKHB、In Chem社製)
(d−2)成分:エポキシ樹脂(商品名:EPICLON HM−101、大日本インキ化学工業株式会社製)
【0037】
表1及び表2に示す各成分をドライブレンドした後、二軸混練機(TEX44:日本製鋼所製)を用い、設定温度280℃とし、溶融混練を行い目的とするペレットを得た。
得られたペレットを120℃で6時間以上乾燥した後、射出成形機を用いて、3点ゲートの金型を用いて、長さ30mm、内径50mm、肉厚2mmの鏡筒を作製した。射出成形温度は、320℃、金型温度は120℃とし、成形サイクルは20秒とした。
【0038】
各実施例及び比較例から得られた鏡筒のサンプルについて、以下の方法で製品剛性及び真円度を測定した。
(1)製品剛性:長さ30mm、内径50mmの鏡筒を用い、圧縮速度10mm/分の速度で圧縮試験を行い、その荷重―変位曲線を作成し、その曲線の傾きを製品剛性として求めた。値はN/mmで示した。
(2)真円度:真円度測定装置(テーラーボブソン社製:タリドン300型)を用い、鏡筒の反ゲート側の端部の内接面を測定した。10サンプルの測定値の平均を真円度とした。
【0039】
実施例1及び2
(a−1)ポリカーボネート樹脂として、PC 70質量%と、(B)ガラス繊維としてGFI 20質量%とカーボン繊維として、(C)CF 10質量%をブレンドした樹脂組成物100質量部に対して、更に(d−1)フェノキシ樹脂を1質量部(実施例1)および3質量部(実施例2)加え、二軸混練機にて溶融混練しペレットを得た。更にこのペレットを120℃で8時間乾燥後、射出成形により鏡筒成形品ならびに曲げ試験片を得た。得られた成形品および曲げ試験片を用い、製品剛性および真円度を測定した。
参考のために、厚み3.2mm、幅12.7mm、長さ127mmの試験片を用い、スパン間隔60mm、曲げ速度5mm/分で曲げ試験を実施した。曲げ弾性率(MPa)はJIS K 7171に記載の方法に準拠して測定した。
【0040】
実施例3
PC 50質量%、GFI 30質量%、及びCF 20質量%をブレンドした樹脂組成物100質量部に対して、更にフェノキシ樹脂を2質量部加えた他は、実施例1と同様にしてペレットを得、更にこのペレットを実施例1と同様に乾燥後、射出成形により鏡筒成形品ならびに曲げ試験片を得た。
【0041】
比較例1
PC 70質量%とGFI 20質量%とカーボン繊維10質量%をブレンドした樹脂組成物100質量部に対して、フェノキシ樹脂を加えない他は、実施例1と同様にしてペレットを得、さらに実施例1と同一条件で乾燥後、射出成形により鏡筒成形品ならびに曲げ試験片を得た。
【0042】
比較例2
PC 75質量%とCF 25質量%をブレンドし、フェノキシ樹脂を加えない他は実施例1と同様にしてペレットを得、さらに実施例1と同一条件で乾燥後、射出成形により鏡筒成形品ならびに曲げ試験片を得た。
【0043】
比較例3
PC60質量%と平均(長径/短径)比の平均が1のGFIV 40質量%をブレンドし、フェノキシ樹脂を加えない他は実施例1と同様にしてペレットを得、さらに実施例1と同一条件で乾燥後、射出成形により鏡筒成形品ならびに曲げ試験片を得た。
【0044】
比較例4
PC 70質量%と(長径/短径)比の平均が1のGFIV 20質量%とCF10質量%をブレンドし、フェノキシ樹脂を1質量部とした他は実施例1と同様にしてペレットを得、さらに実施例1と同一条件で乾燥後、射出成形により鏡筒成形品ならびに曲げ試験片を得た。
【0045】
実施例4及び5
PC 65質量%、(長径/短径)比の平均が5のGFII 30質量%、及びCF 20質量%をブレンドした樹脂組成物100質量部に対して、エポキシ樹脂を1質量部(実施例4)又は3質量部(実施例5)加えた他は、実施例1と同様にしてペレットを得、更にこのペレットを実施例1と同様に乾燥後、射出成形により鏡筒成形品ならびに曲げ試験片を得た。
【0046】
実施例6
PC 80質量%、(長径/短径)比の平均が5のGFII 15質量%、CF 5質量%からなる樹脂組成物100質量部に対して、エポキシ樹脂1質量部を加えた他は、実施例1と同様にしてペレットを得、更にこのペレットを実施例1と同様に乾燥後、射出成形により鏡筒成形品ならびに曲げ試験片を得た。
【0047】
実施例7
(A)樹脂成分において、PC 55質量%とABS樹脂15質量%のアロイを用い、(長径/短径)比の平均が4のGFI 20質量%とCF 10質量%をブレンドした樹脂成分100質量部に対して、エポキシ樹脂2質量部を加えた他は、実施例1と同様にしてペレットを得、更にこのペレットを実施例1と同様に乾燥後、射出成形により鏡筒成形品ならびに曲げ試験片を得た。
【0048】
比較例5及び6
PC 65質量%、CF 5質量%、ガラス繊維として平均(長径/短径)比の平均が1.5のGFIII 30質量%(比較例5)、(長径/短径)比の平均値が1のGFIV 30質量%(比較例6)を樹脂成分100質量部として、これに(D)官能基を有する界面改質樹脂を加えない他は、実施例1と同様にしてペレットを得、更にこのペレットを実施例1と同様に乾燥後、射出成形により鏡筒成形品ならびに曲げ試験片を得た。
【0049】
比較例7
実施例7において、(D)官能基を有する界面改質樹脂としてのエポキシ樹脂を加えない他は、実施例1と同様にしてペレットを得、更にこのペレットを実施例1と同様に乾燥後、射出成形により鏡筒成形品ならびに曲げ試験片を得た。
上記実施例1〜3及び比較例1〜4の結果をまとめて、表1に示す。なお、表1には、参考のために測定した曲げ弾性率も併せて示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1の結果より、実施例1および実施例2の曲げ弾性率は、それぞれ10,800MPaと11,400MPaであるのに対し、カーボン繊維を多く用いた比較例2の曲げ弾性率は12,100MPaと高い値を示す。実施例1の曲げ弾性率は、従来の丸形のガラス繊維を40質量%と多量に充填した比較例3の曲げ弾性率10,500MPaと略同じ程度となる。
これに対し、鏡筒の圧縮試験による製品剛性の値を比較して見ると、驚くべきことに、比較例2のカーボン繊維25質量%に対し、実施例1及び実施例2はカーボン繊維を10質量%と大幅に低減させているにも拘らず、比較例2よりも製品剛性が向上していることがわかる。
曲げ弾性率が略等しい実施例1と比較例3の製品剛性と比較すると、実施例1の製品剛性が大幅に高いことも確認される。
また、カーボン繊維とガラス繊維を同量併用した実施例1と比較例4と比べると、曲げ弾性率は、大差ないものの、製品剛性は大きく異なり、カーボン繊維と(長径/短径)比の平均値が4のガラス繊維GFIの併用系が、特異的に製品剛性を高めることができ、(長径/短径)比の平均値が1のGFIVでは、製品剛性を高めることはできないことがわかる。
更に、比較例1と、実施例1及び実施例2の比較から、官能基を有する界面改質樹脂(D)としてフェノキシ樹脂を少量添加することにより、製品剛性を向上できることがわかる。
【0052】
上記実施例4〜7及び比較例5〜7の結果をまとめて、表2に示す。
【表2】

【0053】
表2において、(長径/短径)比の平均値が5のGFIIを用いた実施例4、5と、(長径/短径)比の平均値が1.5のGFIIIを用いた比較例5との結果から判るように、(長径/短径)比が低過ぎると製品剛性を大きく向上させることは困難で、真円度も悪いことが理解できる。このことは、実施例6と(長径/短径)比の平均値が1で従来の丸形の繊維断面のGFIVを使用した比較例6の対比からも十分支持される。
この効果は、ポリカーボネート樹脂だけでなく、PCとABSのアロイにおいても同様に発現されることが、実施例7と比較例7の対比より確認される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、繊維断面が特定の(長径/短径)比を有するガラス繊維と、カーボン繊維を併用することにより、高価なカーボン繊維量を大幅に削減できるので、電子機器、情報機器、及び自動車部品等の箱形形状や円筒状を有する部品、より具体的には、ハウジング及び筐体などの箱形形状の薄肉成形品、あるいはカメラ等の鏡筒として利用できる。本発明のポリカーボネート系樹脂組成物を射出成形することにより得られる成形品は、高い製品剛性を有するが、カーボン繊維量が少ないので低コスト化が可能で、各種部品の軽量化、とコストダウンに寄与できる成形品として有効に利用できる。
本発明により得られる鏡筒は、真円度が高いので、寸法精度の高い鏡筒として、各種光学機器の鏡筒、例えば望遠鏡鏡筒、顕微鏡鏡筒、各種カメラ鏡筒等に有効に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a−1)ポリカーボネート樹脂又は(a−2)ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂のアロイからなる樹脂成分(A)40〜95質量%、繊維断面における長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.5〜6であるガラス繊維(B)4〜40質量%、及びカーボン繊維(C)1〜30質量%よりなる樹脂組成物100質量部に対し、(d−1)フェノキシ樹脂及び(d−2)エポキシ樹脂から選ばれる一種以上の官能基を有する界面改質樹脂(D)0.3〜5質量部を含むことを特徴とする繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ガラス繊維(B)の繊維断面における長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.5〜6であり、且つ平均短径が3〜15μmである請求項1に記載の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ガラス繊維(B)の含有量Bと、カーボン繊維(C)の含有量Cとの質量比(B/C)が1以上である請求項1又は2に記載の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化ポリカーボネート系樹脂組成物を射出成形してなり、円筒形状もしくは箱形状を有することを特徴とする成形体。
【請求項5】
鏡筒用である請求項4に記載の成形体。

【公開番号】特開2009−292953(P2009−292953A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148539(P2008−148539)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】