説明

繊維強化樹脂構造体の成形方法

【課題】本発明は、スキン材とコア材とをむらなく一体化できる成形技術を提供することを課題とする。
【解決手段】発泡体10をコア材とし、繊維基材21と樹脂材22とを含む繊維強化樹脂20をスキン材とする繊維強化樹脂構造体1を成形する方法であって、発泡体10の発泡温度は、樹脂材22の溶融温度よりも低く設定される。このように、発泡体10の発泡による圧力によって繊維強化樹脂20の内側からテンションをかけた状態で成形する。これにより、コア材とスキン材との界面での一体化を促進でき、むらなく一体化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂構造体の成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡体をコア材とし、熱可塑性樹脂をマトリクスとする繊維強化樹脂(スキン材)をコア材の周囲にセットした状態で、発泡体の発泡温度まで加熱して、コア構造体(繊維強化樹脂構造体)を得る方法が公知である(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1には、スキン材となるプリプレグやSMCの内側に、発泡剤を内包した密閉袋体を存在させた状態で加熱し、一つの金型内でコア材とスキン材とを同時に成形して、コア構造体を得る技術が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の技術によれば、高圧注入の設備を必要とせず、一度の成形工程でコア材の発泡と、スキン材の成形を行うことができる。
しかしながら、コア材とスキン材との間に密閉袋体を介在させた状態で成形するため、境界面でのスキン材とコア材との一体化を阻害し、コア構造体の剛性・強度が劣る点、並びに、発泡にむらが生じ易く成形品の厚みに偏りが生じる点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−337966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、スキン材とコア材とをむらなく一体化できる成形技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維強化樹脂構造体の成形方法は、発泡体をコア材とし、繊維基材と樹脂材とを含む繊維強化樹脂をスキン材とする繊維強化樹脂構造体を成形する方法であって、前記発泡体の発泡温度は、前記樹脂材の溶融温度よりも低く設定される。
このように、発泡体の発泡による圧力によって繊維強化樹脂の内側からテンションをかけた状態で成形するため、コア材とスキン材との界面での一体化を促進でき、これらをむらなく一体化できる。
【0007】
前記発泡体の発泡温度と、前記樹脂材の溶融温度との差は、10℃から100℃の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スキン材とコア材とをむらなく一体化でき、高い剛性を有する繊維強化樹脂構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】繊維強化樹脂構造体を示す図である。
【図2】繊維強化樹脂構造体の成形方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の繊維強化樹脂構造体の成形方法の一実施形態について説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態における繊維強化樹脂構造体1は、発泡体10をコア材とし、繊維強化樹脂20をスキン材とするコア構造体であり、成形型30内で加熱することによって成形される。
【0011】
発泡体10は、繊維強化樹脂20の内側に配置され、繊維強化樹脂構造体1の内部層(コア層)を形成する。発泡体10は、成形型30内で加熱され、所定温度以上に昇温することによって発泡する材料、つまり所定温度での発泡性を有する材料によって形成されている。発泡体10は、発泡することによって膨張し、繊維強化樹脂20に内側から圧力を付与するとともに、繊維強化樹脂20の内周面と一体化する。
【0012】
繊維強化樹脂20は、繊維基材21と樹脂材22とを含む複合材であり、繊維強化樹脂構造体1の表面層(スキン層)を形成する(図2参照)。繊維強化樹脂20は、繊維基材21と樹脂材22とが未含浸の状態、又は、繊維基材21と樹脂材22とからなるプリプレグとして形成された状態で成形型30内に配置され、成形型30によって加熱され所定温度以上に昇温することによって、樹脂材22が溶融して繊維基材21に含浸し、繊維強化樹脂20として成形される。
【0013】
繊維基材21としては、炭素繊維、ガラス繊維、ナイロン繊維等が挙げられ、これらの構成としては、一方向材、平織物材、ブレーディング織物材、3次元織物材等が適用可能である。
樹脂材22は、熱可塑性樹脂であれば適用可能であり、例えば、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)等、並びに、これらの共重合体が挙げられる。
【0014】
成形型30は、繊維強化樹脂構造体1の形状に応じた密閉キャビティを形成し、型内に配置される発泡体10及び繊維強化樹脂20を前記キャビティ形状に成形する。
発泡体10及び繊維強化樹脂20をセットした状態で、成形型30を加熱することによって、発泡体10及び繊維強化樹脂20に熱を伝達し、加熱する。成形型30によって、発泡体10を昇温させて発泡させ、繊維強化樹脂20の樹脂材22を昇温させて溶融させる。これにより、発泡体10と繊維強化樹脂20とが一体化する。
【0015】
また、発泡体10の発泡温度は、樹脂材22の溶融温度よりも低い温度となるように設定されており、成形型30による加熱によって、まず発泡体10が発泡し、その後樹脂材22が溶融する。言い換えれば、発泡体10及び樹脂材22の材料は、発泡体10の発泡温度が樹脂材22の溶融温度よりも小さくなるように選択されている。
発泡体10と樹脂材22とが上記の関係性を有することで、繊維強化樹脂構造体1を成形する際、発泡体10が樹脂材22の溶融よりも早く発泡する。つまり、発泡体10の発泡(体積膨張)によって繊維強化樹脂20に内側から圧力をかけつつ、樹脂材22が溶融する。これにより、発泡体10と繊維強化樹脂20とがむらなく一体化し、繊維強化樹脂構造体1の剛性が強化される。
また、繊維基材21に内側からテンションをかけつつ、樹脂材22を含浸させることとなるため、繊維基材21の強度が増し、繊維強化樹脂20の剛性を向上できる。
【0016】
以下、図2を参照して、繊維強化樹脂構造体1を成形する工程について説明する。
本成形工程では、繊維強化樹脂20として、シート状の繊維基材21と、同じくシート状の樹脂材22とを未含浸の状態で交互に複数枚積層させたものを用いることとする。また、発泡体10は、硬質発泡体として一度発泡させた物理的に安定な発泡剤を用いることとし、係る場合の「発泡温度」の代わりに「再発泡温度」を用いて実施する。
【0017】
図2(a)に示すように、成形型30に、発泡体10を内包した繊維強化樹脂20を配置する。本実施形態では、発泡体10は硬質発泡体として安定した形状を有し、この発泡体10を中間素材として形成される繊維強化樹脂20の内側に入れた状態で成形型30にセットする。
このとき、繊維強化樹脂20の外周形状(周長)は、成形型30のキャビティの内周形状(周長)よりも小さい又は同等に設定される。また、樹脂材22は未含浸(未溶融)の状態で配置される。
【0018】
図2(b)に示すように、成形型30を加熱し、発泡体10及び繊維強化樹脂20を発泡体10の発泡温度(再発泡温度)まで昇温させる。これにより発泡体10が発泡して膨張し、繊維強化樹脂20に内面側から圧力をかけて、成形型30の壁面に押し付ける。
発泡体10の膨張により、繊維基材21にテンションがかかる。このように、繊維基材21にテンションをかけた状態で成形することによって、繊維基材21の強度を向上することができる。
【0019】
図2(c)に示すように、成形型30による加熱を続けて、発泡体10及び繊維強化樹脂20を樹脂材22の溶融温度まで昇温させる。これにより、繊維強化樹脂20が発泡体10により成形型30の壁面に押し付けられた状態で樹脂材22が溶融し、繊維基材21に含浸するとともに、内側から発泡して膨張する発泡体10と、溶融する樹脂材22及び繊維基材21とが混ざり合い、発泡体10と繊維強化樹脂20との界面で均一に一体化する。
このように、内側から発泡体10の発泡圧がかかった状態で樹脂材22を溶融させることにより、界面付近での一体化を促進している。
【0020】
図2(d)に示すように、成形型30の加熱を止めて、発泡体10の発泡温度以下となるまで温度を下げる、又は適宜の冷却手段により冷却する。これにより、発泡体10が再度安定した状態となり、発泡体10をコア材とし、繊維強化樹脂20をスキン材とするコア構造体が成形される。
その後、成形型30を開型し、繊維強化樹脂構造体1を取り出す。
【0021】
以上の工程を経て成形される繊維強化樹脂構造体1は、発泡体10と繊維強化樹脂20とが均一に一体化されているとともに、繊維基材21にテンションをかけながら成形しているため、強度の点で非常に優れる。
【0022】
なお、発泡温度と溶融温度との間には、10℃〜100℃の差があることが好ましい。発泡材10の発泡のタイミングは早ければ早いほど、発泡度合いが進み、体積膨張が大きくなるため、繊維基材21にかかるテンションが大きくなる。このように、発泡体10の発泡タイミングが早ければ強度的な貢献が大きくなるが、発泡温度と溶融温度との差が大きすぎると、冷却時に発泡温度以下になるまでの時間が長くなり生産性に劣ってしまう。以上のことから、発泡体10の発泡温度と、樹脂材22の溶融温度との差は、10℃〜100℃程度であることが好ましい。
【0023】
成形型30の温度制御の誤差範囲、つまり加熱温度のばらつきを考慮すると、最低でも10℃程度の差があれば、発泡体10の発泡開始タイミングが樹脂材22の溶融タイミングよりも早くなることはないが、20℃程度の差があればより好ましく、十分な発泡時間を確保することも可能となる。
また、繊維強化樹脂構造体1の成形工程にかかるサイクルタイムを短縮し、生産性を向上するという観点からは、発泡温度と溶融温度との間に、最大でも100℃以上の差がないことが好ましい。さらに、30℃程度の差に留めることが特に好ましく、これによって、発泡体10の発泡が止まるまでにかかる時間を短くでき、サイクルタイムを短くできる。
【符号の説明】
【0024】
1 繊維強化樹脂構造体
10 発泡体
20 繊維強化樹脂
21 繊維基材
22 樹脂材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体をコア材とし、繊維基材と樹脂材とを含む繊維強化樹脂をスキン材とする繊維強化樹脂構造体を成形する方法であって、
前記発泡体の発泡温度は、前記樹脂材の溶融温度よりも低いことを特徴とする繊維強化樹脂構造体の成形方法。
【請求項2】
前記発泡体の発泡温度と、前記樹脂材の溶融温度との差は、10℃から100℃の範囲内である請求項1に記載の繊維強化樹脂構造体の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−96519(P2012−96519A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248747(P2010−248747)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】