説明

繊維構造体及びその製造方法

【課題】取り扱い易いとともに、優れた形状保持性を有する繊維構造体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】互いに接着している複数本の繊維21を有する板状の繊維構造体100であって、繊維21は繊維構造体の一面側から他面側に配向しており、繊維21が、仮想軸101を中心として、年輪状に配列している。また、中空の箱状の成形型の内部に、第1底壁に形成された繊維供給口から、第1短繊維及び第2短繊維を吹き込んで供給する繊維供給工程と、第2短繊維の少なくとも一部を溶融させる溶融工程と、を備え、溶融後、冷却された第2短繊維により、第1短繊維と第2短繊維との間等が接合されて繊維構造体が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、堆積された繊維が繊維構造体の一面側から他面側に配向しており、且つ年輪状に配列されており、径方向に引張力が加わったときに伸び難く、破断し難いため、取り扱い易いとともに、繊維が堆積されてなる繊維集合体に特定の方向の押圧力が加わらないため、成形後のスプリングバック等がなく、優れた形状保持性を有する繊維構造体、及びそのような繊維構造体を、簡易な装置により、簡便な操作で得ることができる繊維構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロアトリム、ルーフトリム、ドアトリム等の車両用内装材、及び家屋、ビルディング等の建築物の床、天井、壁、カーペット等の建材などの広範な製品分野で、断熱、遮音、緩衝等を目的としてシート状等の繊維構造体が用いられている。このような繊維構造体としては不織布が用いられることが多く、ニードルパンチ法、スパンボンド法、メルトブロー法等の各種の方法により製造された不織布が用いられている。例えば、非弾性捲縮単繊維と、熱接着性複合単繊維とが、所定の重量比率で混綿され、単繊維が熱融着された固着点が散在し、各々の単繊維が厚さ方向に配列した繊維構造体であって、家屋の天井、壁及び自動車内装材等における断熱材として用いられる繊維基材(繊維構造体)が知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】登録実用新案公報第3147964号
【特許文献2】特開2008−89620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1、2に記載された繊維基材は、それぞれの短繊維を混綿し、ローラーカードにより均一なウェブとして紡出させ、その後、ウェブをアコーディオン状に折り畳みながら加熱処理し、熱融着により固着点を形成させる方法により製造されている(図15参照)。そのため、層間方向に引張力が加わったときに容易に伸長してしまい(図16参照)、層間で破断しまうこともあり(図17参照)、取り扱い難いという問題がある。また、アコーディオン状に折り畳まれたウェブを加熱、加圧して成形するときに、折り畳み方向に押圧力が加わるため、除圧後、スプリングバックし(図18参照)、形状が不安定になるという問題もある。
【0005】
本発明は前記の状況に鑑みてなされたものであり、堆積された繊維が繊維構造体の一面側から他面側に配向しており、且つ年輪状に配列されており、径方向に引張力が加わったときに伸び難く、破断し難いため、取り扱い易いとともに、繊維が堆積されてなる繊維集合体に特定の方向の押圧力が加わらないため、成形後のスプリングバック等がなく、優れた形状保持性を有する繊維構造体、及びそのような繊維構造体を、簡易な装置により、簡便な操作で得ることができる繊維構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.互いに接着している複数本の繊維を有する板状の繊維構造体であって、
前記繊維は前記繊維構造体の一面側から他面側に配向しており、
前記繊維が、仮想軸を中心として、年輪状に配列していることを特徴とする繊維構造体。
2.深絞り成形された深絞り部を備え、年輪の径方向に密な部分と粗な部分とを有し、前記密な部分が前記深絞り部に対応するように成形されている前記1.に記載の繊維構造体。
3.中空の箱状であって、第1底壁、側壁及び第2底壁を有する成形型の内部に、
前記第1底壁に形成された供給口から、第1短繊維及び第2短繊維が吹き込まれて供給され、
前記第2短繊維の少なくとも一部が溶融して得られたことを特徴とする繊維構造体。
4.中空の箱状であって、第1底壁、側壁及び第2底壁を有する成形型の内部に、
前記第1底壁に形成された繊維供給口から、第1短繊維及び第2短繊維を吹き込んで供給する繊維供給工程と、
前記第2短繊維の少なくとも一部を溶融させる溶融工程と、を備えることを特徴とする繊維構造体の製造方法。
5.前記繊維構造体は、仮想軸を中心として、前記第1短繊維及び前記第2短繊維の少なくとも一方が年輪状に配列している前記4.に記載の繊維構造体の製造方法。
6.前記繊維供給工程における前記第1短繊維及び前記第2短繊維の少なくとも一方の供給速度を多段階に調整する前記4.又は5.に記載の繊維構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維構造体によれば、繊維構造体を構成する複数本の繊維が繊維構造体の一面側から他面側に配向しており、且つ、仮想軸を中心として、年輪状に配列しているため、径方向に引張力が加わったときに伸び難く、破断し難いとともに、成形後のスプリングバック等も生じ難い。従って、取り扱い易く、且つ所定形状が十分に保持される。
また、深絞り成形された深絞り部を備え、年輪の径方向に密な部分と粗な部分とを有し、密な部分が深絞り部に対応するように成形されている場合は、深絞り部が薄層化することを十分に抑えることができ、全面に亘ってより均質な繊維構造体とすることができる。
本発明の繊維構造体の製造方法によれば、中空の箱状の成形型内に、繊維供給口から各々の繊維が吹き込まれて供給され、その後、一方の繊維の少なくとも一部が溶融されるため、取り扱い易く、且つ所定形状が十分に保持される繊維構造体を、簡易な装置により、簡便な操作によって容易に製造することができる。
また、繊維構造体が、仮想軸を中心として、第1短繊維及び第2短繊維の少なくとも一方が年輪状に配列している場合は、繊維供給口を中心として供給され、堆積された第1及び第2の各々の短繊維が年輪状に配列していることによって、より取り扱い易く、且つ所定形状がより十分に保持される繊維構造体をより容易に製造することができる。
更に、繊維供給工程における第1短繊維及び第2短繊維の少なくとも一方の供給速度を多段階に調整する場合は、年輪状に配列された繊維を径方向に容易に粗密化することができ、深絞り成形等を勘案して、所定の部位を密に、他の部位を粗に形成することができ、全面に亘ってより均質な繊維構造体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】成形型の一方の底壁の中心部に形成された繊維供給口から各々の短繊維が吹き込まれて供給され、成形型の側壁面から中心部の繊維供給口に向かって繊維が年輪状に順次堆積されていく様子を説明するための模式図である。
【図2】成形型の側壁面から繊維供給口までの全体に亘って、それぞれの短繊維が年輪状に堆積されて形成された予備成形体の斜視図である。
【図3】図2の予備成形体が加熱、加圧されて、所定形状に成形された繊維構造体の一部の模式的な斜視図である。
【図4】各々の短繊維とともに粒状発泡体が吹き込まれて供給され、堆積した短繊維中に粒状発泡体が散在してなる予備成形体の斜視図である。
【図5】図4の堆積した短繊維中に粒状発泡体が散在してなる予備成形体が加熱、加圧されて、所定形状に成形された繊維構造体の一部の模式的な斜視図である。
【図6】成形型の一方の底壁に形成された2個の繊維供給口から各々の短繊維が吹き込まれて供給され、成形型の側壁面及び2個の繊維供給口の中間部から2個の繊維供給口に向かって、繊維が年輪状に順次堆積されていく様子を説明するための模式図である。
【図7】成形型の側壁面及び2個の繊維供給口の中間部から各々の繊維供給口に向かって、それぞれの短繊維が年輪状に堆積され、2個の年輪状の繊維集合体が形成された予備成形体の斜視図である。
【図8】図7の予備成形体が加熱、加圧されて、所定形状に成形された繊維構造体の一部の模式的な断面図である。
【図9】年輪状に堆積された各々の短繊維が熱融着され、繋がっているため、紙面上で左右の矢印方向に引っ張ったときに伸び難い様子を説明するための模式図である。
【図10】図9のように、引張力を加えた後、除圧したときに、少し撓んでいて変形が残るものの、破断することはないことを説明するための模式図である。
【図11】図12のような深絞り部を有する繊維構造体の成形に用いる予備成形体が有する繊維集合体であって、深絞り部に対応する箇所の繊維が、他の部分に比べて密になっている様子を説明するための模式図である。
【図12】繊維構造体が車両のフロアパネル上に敷設されるフロア付設材であるときの、深絞り部を説明するための模式的な断面図である。
【図13】予備成形体に、複数の予備成形部が予め形成されている様子を説明するための模式図である。
【図14】図13の予備成形体が成形され、複数の繊維成形部が形成された様子を説明するための模式図である。
【図15】繊維が堆積されて形成されたウェブが折り畳まれ、これを用いて製造された従来の繊維基材を斜め方向からみた模式図である。
【図16】図15の従来の繊維基材をウェブの折り畳み方向に引っ張ったときに、容易に伸びてしまうことを説明するための模式図である。
【図17】図15の従来の繊維基材を厚さ方向に変形させようとしたときに、折り畳みの界面で折損してしまう様子を説明するための模式図である。
【図18】折り畳まれた方向に圧縮された状態で成形される従来の繊維基材が、除圧後、スプリングバックしてしまう様子を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図1〜14を参照しながら詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
[1]繊維構造体
本発明の一実施形態の繊維構造体100は、互いに接着している複数本の繊維23を有する板状の繊維構造体100であって、繊維23が繊維構造体の一面側から他面側に配向しているとともに、各々の繊維23が、仮想軸101を中心として、年輪状に配列している(図3、5及び8参照)。
本発明の繊維構造体100における繊維23の配向は、例えば、図3における上面側から下面側に向かって、縦方向又は斜め方向である。尚、本発明の繊維構造体は横方向に配向する繊維を含んでいてもよい。
【0011】
前記「繊維」は特に限定されず、各種の合成繊維及び麻、綿等の天然繊維を用いることができる。繊維としては合成繊維が好ましい。この合成繊維は特に限定されず、各種の合成繊維を用いることができる。合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維等のポリエステル繊維、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維等のポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維及びポリメチルメタクリレート繊維等のアクリル繊維などが挙げられる。合成繊維としては、特にポリエステル繊維及びポリオレフィン繊維が好ましい。繊維としては、これらの繊維を1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
繊維構造体を構成する複数本の繊維は長さ方向の少なくとも一部で互いに接着している。このように繊維を互いに接着させ、且つ十分な引張強度等を有する繊維構造体とするためには、通常、基体用繊維と、基体用繊維が融解する温度より低温で融解するバインダ用繊維とが用いられる。このバインダ用繊維により、基体用繊維とバインダ用繊維との間、及びバインダ用繊維間が接着され、繊維構造体が形成される。この繊維の接着は、例えば、ウレタン系等の液状の接着剤を用いて行うこともできる。
【0013】
バインダ用繊維としては、より低温で融解し、基体用繊維を接着させることができる低融点ポリエステル繊維及びポリオレフィン繊維等が好ましい。また、バインダ用繊維としては、低融点の鞘部と、鞘部が溶融する温度では溶融しない高融点の芯部とからなる芯鞘繊維を用いることもできる。このような芯鞘繊維としては、鞘部が相対的に低融点のポリエステルからなり、芯部が相対的に高融点のポリエステルからなる芯鞘繊維、及び鞘部がポリエチレンからなり、芯部がポリプロピレンからなる芯鞘繊維等が挙げられる。更に、バインダ用繊維としては、ポリプロピレンとポリエチレンとのサイドバイサイド繊維等のサイドバイサイド繊維を用いることもできる。
【0014】
バインダ用繊維の質量割合は特に限定されないが、基体用繊維とバインダ用繊維との合計を100質量%とした場合に、バインダ用繊維は5〜50質量%、特に15〜25質量%であることが好ましい。バインダ用繊維の質量割合が5〜50質量%であれば、所定の引張強度等を有する繊維構造体とすることができる。
【0015】
繊維構造体には、ポリウレタン発泡体、ポリオレフィン発泡体等の樹脂発泡体からなる粒状発泡体を含有させることもできる(予備成形体10である図4及び繊維構造体100である図5参照)。発泡体としては未使用の発泡体を用いてもよく、所定の品質の繊維構造体とすることができる限り、廃材を再利用することもできる。例えば、車両のシュレッダーダストから金属、ガラス、ワイヤハーネス等のダストを除いた残分に含まれる破砕物、及びフロアトリム、ルーフトリム、ドアトリム等の車両用内装材を製造するときのトリミングにより発生する端材等を再利用することもできる。
【0016】
粒状発泡体の形状は特に限定されず、どのような形状であってもよい。例えば、破砕物及び端材等は不定形である。粒状発泡体の寸法も特に限定されず、最大寸法が5〜18mm、特に10〜15mmである粒状発泡体を用いることができる。この粒状発泡体の最大寸法は、繊維構造体の厚さによって適宜の寸法とすることが好ましい。また、繊維と発泡体との質量割合も、バインダ用繊維により粒状発泡体を容易に脱落することがないように接着させることができる限り特に限定されない。繊維と発泡体との合計を100質量%とした場合に、発泡体は7.5〜65質量%、特に10〜60質量%とすることができる(繊維のうちの基体用繊維とバインダ用繊維との好ましい質量割合は前記のとおりである。)。更に、繊維と発泡体とを十分に均一に分散させることができる場合は、繊維がより少量であっても、粒状発泡体を容易に脱落することがないように接着させることができる。
【0017】
本発明の繊維構造体では、繊維は、仮想軸101を中心として、年輪状に配列している(図3、5及び8参照)。前記「仮想軸101」は、後記[2]繊維構造体の製造方法において記載したように、繊維構造体100の製造時、繊維が吹き込まれ、供給される繊維供給口14(図1、6参照)の中心軸を意味しており、繊維は、この中心軸から周方向に向かって供給され、成形型1の側壁13面から繊維供給口14の中心軸に向かって同心円状に順次堆積され、前記のように「略年輪状」に配列することになる。仮想軸101は1本でもよく(図3、5参照)、複数本でもよい(仮想軸が2本であるときの図8参照)。
【0018】
繊維構造体には、必要に応じて各種の添加剤が含有されていてもよい。そのような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤、軟化剤、繊維構造体の耐衝撃性及び耐熱性等を向上させるための無機又は有機の各種充填剤、帯電防止剤、着色剤、可塑剤等が挙げられる。これらの添加剤は、基体用繊維及び/又はバインダ用繊維に配合し、繊維構造体に含有させることができる。また、粒状発泡体を用いる場合は、発泡体に含有されていた添加剤であってもよい。
【0019】
本発明の繊維構造体100は、繊維23が繊維構造体の一面側から他面側に配向し、且つ仮想軸101を中心として年輪状に配列される(図3、5及び8参照)。そのため、平面方向に引張力が加わった場合に、変形し難く、容易に破断することがない。例えば、図9のように、平面方向の一方向に引張力が加わったとき、他方向に圧縮された状態となって反発し、引張力が分散されて引張力が加わった方向に伸び難く、容易に破断することがない。また、図10のように、引張力が解除された後は少し撓んだ状態で、変形が残るが、大きく変形したり、破断したりすることはない。
【0020】
[2]繊維構造体の製造方法
本発明の一実施形態の繊維構造体100の製造方法は、繊維供給工程と溶融工程とを備える。繊維供給工程では、中空の箱状であって、第1底壁11、側壁13及び第2底壁12を有する成形型1の内部に、第1底壁11に形成された繊維供給口14から、第1短繊維23及び第2短繊維23が吹き込まれて供給される。また、溶融工程では、第2短繊維23の少なくとも一部を溶融させ、第1短繊維23間等を接着させる(図1〜3参照、尚、第1短繊維と第2短繊維とは、図において特に区別する必要がないため、同符号を付する。)。
【0021】
前記「繊維供給工程」では、成形型1の内部に、第1及び第2短繊維23が吹き込まれて供給される。更に、前記のように、粒状発泡体3(この「粒状発泡体」については、前記[1]繊維構造体における粒状発泡体に係る記載をそのまま適用することができる。また、図4、5における粒状発泡体には、便宜上、同符号を付する。)を含有する繊維構造体100(図5参照、尚、粒状発泡体を含有しない繊維構造体及び粒状発泡体を含有する繊維構造体には、便宜上、同符号を付する。)は、第1及び第2短繊維23とともに粒状発泡体3を吹き込み、供給する他は、同様にして製造することができる。更に、図1、6では、第1底壁11が上方側の底壁であり、第1及び第2短繊維23等は上方から吹き込まれ、供給されるように図示されているが、第1底壁11を下方側の底壁とし、第1及び第2短繊維23等を下方から吹き込み、供給することもできる。
【0022】
成形型内への第1及び第2短繊維等の供給速度は一定であってもよく、多段階に変化させて調整してもよい。供給速度を変化させることによって、年輪状に配列される繊維集合体の径方向に、より明瞭な境界部が形成される。例えば、深絞り成形される部分102を有する繊維構造体100である場合(図11、12参照)、第1及び第2短繊維23等の供給速度を大きくして、径方向に密な部分2aを形成し、供給速度を小さくして径方向に粗な部分2bを形成し、密な部分2aが深絞り部102に対応するようにして成形することができる。このようにすれば、成形時の予備成形体10の破損を防止することができ、且つ深絞り部102が薄層化することを抑えることもできる。
【0023】
前記「成形型1」は、中空の箱状であって、第1底壁11、側壁13及び第2底壁12を有する(図1、6参照)。この成形型1の内部空間は、板状の繊維構造体100(図3、5及び8参照)を製造するための予備成形体10(図2、4及び7参照)の外形と略同じ形状であり、通常、繊維構造体100の厚さより厚い平板な形状である。また、成形型1の材質は特に限定されないが、取り扱い易さ及び耐熱性等を考慮すると金属製であることが好ましい。金属の種類も特に限定されないが、ステンレス鋼、アルミニウム等を用いることができる。ステンレス鋼製であれば、十分な強度を有するとともに、発錆し難い成形型1とすることができ、アルミニウム製であれば、十分な強度を有するとともに、軽量な成形型1とすることができる。
【0024】
成形型1の底壁のうちの前記「第1底壁11」には、成形型1の内部に第1及び第2短繊維23(同時に粒状発泡体3が吹き込まれ、供給されることもある。)を吹き込んで、供給するための前記「繊維供給口14」が形成され、仮想軸101を中心として第1及び第2短繊維等が年輪状に配列されてなる繊維集合体2が形成される(図1参照、尚、例えば、図2の予備成形体10、及び図3の繊維構造体100の各々における繊維集合体にも、便宜上、同符号を付する。)。
【0025】
前記[1]繊維構造体において記載したように、仮想軸は1本でもよく(図3、5参照)、複数本でもよい(2本である場合の図8参照)。即ち、繊維供給口14は1個でもよく(図1参照)、複数個でもよい(2個である場合の図6参照)。例えば、図8のように、仮想軸101が2本の繊維構造体100は、前記[1]繊維構造体において記載したように、繊維構造体100の製造時、繊維が吹き込まれ、供給される2個の繊維供給口14の各々の中心軸を意味しており、繊維は、これらの中心軸から周方向に向かって供給され、成形型1の側壁13面及びそれぞれの繊維供給口14から供給される繊維の衝突面から各々の中心軸に向かって同心円状に順次堆積され、2個の略年輪状の繊維集合体21、22が形成されることになる。
【0026】
成形型1の型壁は通気性を有している。材質によっては、通気性を有する材料を用いてなる成形型1とすることで、通気性を有する型壁となるが、成形型1が金属製である場合は、型壁に複数個の開口を設けることにより、通気性を有する型壁とすることができる。開口の形状は特に限定されず、円形、楕円形、三角形及び四角形等の多角形、星形などとすることができる。
【0027】
また、開口の最大径(円形であるときは直径、その他の形状であるときは最大寸法)は、繊維供給口14から吹き込まれ、供給される第1及び第2短繊維23の繊維長等にもよるが、1〜10mm、特に1〜6mmとすることができる。更に、開口は成形型1の型壁の全面に略均等に設けられていることが好ましく、これによって、平面方向により均質な繊維構造体100を製造することができる。また、開口は、成形型1の型壁の全面に略等間隔に設けられていることがより好ましい。
【0028】
更に、成形型1の平面形状は、図1、6では長方形であるが、これに限られず、正方形、三角形等の多角形とすることもでき、円形、楕円形等とすることもできる。また、図14の繊維構造体用成形体100bを製造するときのように、長方形の四隅が切り欠かれた平面形状の成形型1とすることもできる。
【0029】
成形型の平面形状が円形であれば、中心部に1個の繊維供給口を形成し、第1及び第2短繊維等を吹き込み、供給することで、全体に繊維が年輪状に配列された繊維構造体を容易に製造することができる。また、長方形の四隅が切り欠かれた平面形状である場合も、同様にすることで、繊維構造体の全体に亘って繊維を年輪状に配列させ易くなる。更に、成形型の平面形状が楕円形であれば、長径方向に2個の繊維供給口を、繊維供給口と側壁との間、及び2個の繊維供給口の間、がそれぞれ略等間隔になるように形成し、第1及び第2短繊維等を吹き込み、供給することで、年輪状に配列された繊維集合体を2個有する繊維構造体を容易に製造することができる。
【0030】
前記「第1短繊維」は、前記[1]繊維構造体に記載された基体用繊維となる繊維であり、前記「第2短繊維」は、前記[1]繊維構造体に記載されたバインダ用繊維となる繊維である。第1及び第2短繊維としては、前記の各種の天然繊維及び合成繊維が挙げられ、これらのうちでは合成繊維が好ましく、特にポリエステル繊維及びポリオレフィン繊維が好ましい。また、バインダ用繊維となる繊維である第2短繊維としては、前記のように、より低温で融解し、基体用繊維となる第1短繊維と容易に接着する低融点ポリエステル繊維及びポリオレフィン繊維等が好ましい。また、前記の芯鞘繊維及びサイドバイサイド繊維を用いることもできる。
【0031】
第1短繊維及び第2短繊維のそれぞれの繊度及び繊維長は特に限定されないが、平均繊度が1〜10デシテックス、特に3〜6デシテックスであり、平均繊維長が5〜20mm、特に7〜13mmであることが好ましい。尚、第1及び第2短繊維の各々の平均繊維長は、JIS L1015に準拠する直接法により、単繊維を無作為に1本ずつ取り出し、伸張させずに真っ直ぐに延ばし、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値である。
【0032】
前記「溶融工程」では、第2短繊維の少なくとも一部が溶融する。この溶融工程では、第1短繊維は全く溶融せず、少なくとも一部が溶融した第2短繊維により、第1短繊維と第2短繊維との間、及び第2短繊維間が接着され、その後、冷却することにより、繊維構造体が形成される。第2短繊維が溶融するときの加熱温度は、第1及び第2短繊維の各々の材質及び融点等を勘案し、第1短繊維は全く溶融せず、第2短繊維のみが少なくとも一部が溶融してバインダ用繊維として機能する所定の温度とすることができる。更に、加熱時間は、第1及び第2短繊維の各々の材質、及び加熱温度にもより、特に限定されないが、第2短繊維のほぼ全体が溶融し、繊維形状を失ってしまうほど加熱するのは好ましくなく、第1短繊維と第2短繊維との間等が十分に接着される限り、短時間の加熱とすることが好ましい。
【0033】
溶融工程で第2短繊維23の少なくとも一部が溶融し、第1短繊維23と第2短繊維23との間等が接着されて繊維構造体100が製造されるが、繊維構造体100は、例えば、成形型1内で形成された予備成形体10(図2、4及び7参照)を、第1及び第2短繊維23の各々の融点により設定される所定温度で加熱し、必要に応じて加圧することにより製造することができる。より具体的には、繊維構造体100は、予備成形体10を、加熱炉を通過させる、遠赤外線ヒータにより加熱する等の方法で加熱して第2短繊維23を軟化、溶融させ、その後、一対の冷却ロール間を挿通させる、又は冷却用プレス板間で加圧し、冷却するなどの方法によって製造することができる。
【0034】
また、上記のようにして製造された繊維構造体は平板状であり、用途等によってはそのまま用いることができるが、成形型により、所定の形状を有する繊維構造体、例えば、車両のフロアトリム、ルーフトリム、ドアトリム等の各種の内装材の意匠面と反対側の面(裏面)と車体パネルとの間に配設され、内装材又は車体パネルの形状に沿うように成形されて使用されることも多い。尚、繊維構造体は正確に所定形状に成形されたものである必要はなく、内装材又は車体パネルの形状に沿った形状であればよい。このように平板状の予備成形体を型成形する方法は特に限定されず、予め所定温度に加熱された平板状の予備成形体を、雰囲気温度又は必要に応じて所定温度に冷却された成形型により加圧することにより、所定形状の繊維構造体を製造することができる。また、成形型を使用し、所定温度に調温された型内に平板状の予備成形体を載置し、加熱、加圧し、その後、冷却することにより、所定形状の繊維構造体を製造することもできる。
【0035】
更に、繊維供給工程において成形型1内に吹き込まれ、供給された第1及び第2短繊維23(同時に粒状発泡体3が吹き込まれ、供給されることもある。)は、通常、成形型1に充填されたままの状態で加熱され、予備成形体10が形成される。このときの加熱で第2短繊維23の一部が軟化、溶融し、第1短繊維23と第2短繊維23の各々の一部が接着され、予備成形体10が形成される(図2、4及び7参照)。
【0036】
予備成形体形成時の加熱温度及び加熱時間は特に限定されず、溶融工程に供するときに、予備成形体の形状が十分に保持され、取り扱いが容易であればよい。また、加熱方法も特に限定されず、第1及び第2短繊維等が充填された成形型を、加熱炉内に静置する、加熱炉内を通過させる等の方法でもよく、開口が設けられた成形型に熱風を吹き込み加熱することもできる。
【0037】
[3]繊維構造体の用途等
本発明の繊維構造体の用途は特に限定されず、車両、建材等の広範な製品分野で用いることができ、特に車両の内装材として有用である。例えば、フロアトリム、ルーフトリム、ドアトリム等の各種の内装材の意匠面と反対側の面(裏面)と車体パネルとの間に配設され、内装材又は車体パネルの形状に沿うように成形されて使用される。
【0038】
繊維構造体は、前記のように各種の用途において用いられるため、その厚さも特に限定されず、用途等によって適宜の厚さとすることができる。繊維構造体の厚さは、通常、5〜200mm、特に5〜80mmとすることができ、繊維構造体の厚さが5〜200mmであれば、多くの用途において十分な強度等を有し、且つ軽量な部材として用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
第1短繊維として、ポリエチレンテレフタレート繊維(高安社製、商品名「SD150」、平均繊度;3.3デシテックス、平均繊維長;10mm)を40質量%、第2短繊維として、芯部の材質がポリエチレンテレフタレート(融点;260℃)、鞘部の材質が共重合ポリエステル(融点;110℃)である芯鞘型熱融着性短繊維(東レ社製、商品名「T9611」、平均繊度;2.2デシテックス、平均繊維長;10mm)を40質量%、粒状ポリウレタン発泡体(塊状の軟質ポリウレタン発泡体を破砕してなる破砕物を用いた。密度;0.015〜0.030g/cm、最大寸法;15mm)を20質量%使用した。
【0040】
前記の第1及び第2短繊維と、粒状ポリウレタン発泡体とをドライブレンドし、混合物を、図1に記載の形状のステンレス鋼製の成形型1(内寸法は、縦900mm、横900mm、厚さ100mm、型壁に円形の開口が設けられている。)内に50g/秒の速度で30秒間空送し、その後、40g/秒の速度で15秒間空送し、次いで、20g/秒の速度で15秒間空送し、合計2400g供給した。その後、型壁に設けられた開口から熱風を吹き込み、第2短繊維の一部を軟化、溶融させて、第1短繊維と第2短繊維との間等を接着させ、図11のような、径方向に密な部分2aと粗な部分2bとが形成され、繊維23が年輪状に配列している予備成形体10を形成した。この予備成形体10の寸法は、成形型の内寸法と略同じであった。
【0041】
前記のようにして形成した予備成形体10を180℃で30秒間加熱し、その後、予備成形体10を所定形状のキャビティを有する成形型内に載置し、室温(25〜30℃)で0.5〜1秒間、100MPaの圧力で加圧し、次いで、型内の冷却媒体の流路に室温の水を流通させて冷却し、図12のように、車両のフロアパネル上に敷設され、フロアパネルの形状に沿うように深絞り部102を有する車両用フロア付設材(繊維構造体100)を製造した。また、前記の予備成形体10では、第1及び第2短繊維等の供給速度を調整することにより、図11のように、年輪状に配列された繊維23を密な部分2aと粗な部分2bとにすることができる。更に、このような予備成形体10を用いることにより、図12のような、深絞り部102を有する車両用フロア付設材(繊維構造体100)を製造する場合に、伸び易い密な部分2aが深絞り部102に対応するようにして成形することにより、成形時の破損を防止することができ、且つ深絞り部102が薄層化することを十分に抑えることもできる。
【0042】
実施例2
第1短繊維を20質量%、第2短繊維を20質量%、粒状ポリウレタン発泡体を60質量%とし、これらをドライブレンドしてなる混合物を50g/秒の一定速度で、予備成形部10aの形状に沿う型面を有する成形型に空送し、供給して、図13のように、4個の予備成形部10aを有する予備成形体10を形成した。その後、この4個の予備成形部10aが形成された予備成形体10を用いて、実施例1の場合と同様にして、図14のように、4個の繊維成形部100aが形成された繊維構造体用成形体100bを製造した(尚、図14では、煩雑さを避けるため年輪状の破線は省略した。)。
【0043】
前記のように、特に繊維構造体の最終形状がより複雑である場合は、最終形状に対応する形状の予備成形部10aを予め形成し、繊維構造体用成形体100bを製造することもできる。このようにすることで、より複雑な形状の繊維構造体であっても、凸部及び凹部等の密度に大差のない均質な繊維構造体とすることができる。また、特に比較的小型の繊維構造体であるときは、本例のように、一時に複数の繊維構造体となる繊維成形部100aを形成し(図14では4個の繊維成形部100aが形成されている。)、その後、繊維構造体用成形体100bから所定の繊維構造体を切り出して複数の製品とする、所謂、多数個取りも可能である。
【0044】
尚、前述の記載は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施態様を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく、説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その態様において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施態様を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、寧ろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、車両及び建材等の広範な製品分野で利用することができ、本発明の繊維構造体は、変形し難く、容易に折損せず、前記の製品分野における各種部材、特に車両のフロアトリム、ルーフトリム、ドアトリム等の内装材と車体パネルとの間に配置される大型の繊維構造体として有用である。
【符号の説明】
【0046】
100;繊維構造体、101;仮想軸、102;深絞り部、103;車体パネル、100a;繊維成形部、100b;繊維構造体用成形体、10;予備成形体、10a;予備成形部、1;成形型、11;第1底壁、12;第2底壁、13;側壁、14;繊維供給口、2;繊維集合体、2a;密な部分、2b;粗な部分、V;未充填部、21;第1繊維集合体、22;第2繊維集合体、23;繊維(第1及び第2短繊維)、3;粒状発泡体、4;繊維基材、41;折り畳み構造、42;折損部、43;スプリングバック部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接着している複数本の繊維を有する板状の繊維構造体であって、
前記繊維は前記繊維構造体の一面側から他面側に配向しており、
前記繊維が、仮想軸を中心として、年輪状に配列していることを特徴とする繊維構造体。
【請求項2】
深絞り成形された深絞り部を備え、年輪の径方向に密な部分と粗な部分とを有し、前記密な部分が前記深絞り部に対応するように成形されている請求項1に記載の繊維構造体。
【請求項3】
中空の箱状であって、第1底壁、側壁及び第2底壁を有する成形型の内部に、
前記第1底壁に形成された繊維供給口から、第1短繊維及び第2短繊維が吹き込まれて供給され、
前記第2短繊維の少なくとも一部が溶融して得られたことを特徴とする繊維構造体。
【請求項4】
中空の箱状であって、第1底壁、側壁及び第2底壁を有する成形型の内部に、
前記第1底壁に形成された繊維供給口から、第1短繊維及び第2短繊維を吹き込んで供給する繊維供給工程と、
前記第2短繊維の少なくとも一部を溶融させる溶融工程と、を備えることを特徴とする繊維構造体の製造方法。
【請求項5】
前記繊維構造体は、仮想軸を中心として、前記第1短繊維及び前記第2短繊維の少なくとも一方が年輪状に配列している請求項4に記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項6】
前記繊維供給工程における前記第1短繊維及び前記第2短繊維の少なくとも一方の供給速度を多段階に調整する請求項4又は5に記載の繊維構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−256481(P2011−256481A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131513(P2010−131513)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】