説明

繊維系断熱材、床断熱構造及び床断熱構造の施工方法

【課題】表面及び内部に水が溜まりにくく通水性に優れた繊維系断熱材、及び床下地板にカビ,シミ等が発生しにくく、床下地板が膨張しにくい断熱床構造、並びに該断熱床構造の施工方法を提供すること。
【解決手段】疎水処理された繊維からなる疎水層11aの片面に、親水処理された繊維からなる親水層11bが形成されている繊維系断熱材11は通水性が良好である。そして、この繊維系断熱材11を、所定間隔をおいて配置された支持部材10,10の所定高さ位置に、床下地板12側に繊維系断熱材11の親水層11bが配置されるように繊維系断熱材11を取付け、床下地板12を繊維系断熱材11の親水層11b上に敷設して断熱床構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、建築用の断熱材として用いられる繊維系断熱材、及び該繊維系断熱材を用いた床断熱構造並びにその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維の集合体は、高い空隙率を有し、更にその単繊維によって微細な空間に仕切られ、この集合体に含まれる空気を動き難くさせるので、住宅、建物、防音壁、クーリングタワーや野外設置機器等の断熱・吸音材として広く使用されている。
【0003】
また、雨水や結露等による水が、繊維の集合体に吸収されると、断熱性能が低下するばかりでなく、カビの発生や繊維集合体と接触する金属部分等の腐食を招く場合がある。
【0004】
そこで、このような水と接触するおそれのある部位には、疎水処理が施された繊維系断熱材が使用されており、更に撥水性を向上させるため、防湿フィルム等で包囲して用いることも行われている。
【0005】
例えば、下記特許文献1には、アミノ基を有するオルガノポリシロキサンと、アルデヒド縮合性熱硬化性樹脂前駆体とを含有するバインダーを無機繊維に付与し、加熱硬化して成形させた撥水性無機繊維断熱材が開示されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、アルデヒド縮合性熱硬化性樹脂前駆体と、炭素数が10〜30の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸より選択される少なくとも一種の脂肪酸のアンモニウム塩及び/又はアミン塩とを含有するバインダーを無機繊維に付与し、加熱硬化して成形させた撥水性無機繊維断熱材が開示されている。
【0007】
また、下記特許文献3には、アルデヒド縮合性熱硬化樹脂前駆体と、ポリフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物とを含有するバインダーを無機繊維に付与し、加熱硬化して成形させた撥水性無機繊維断熱材が開示されている。
【0008】
また、下記特許文献4には、熱硬化性樹脂前駆体と、水溶性ポリカルボン酸系樹脂からなる分散剤及びワックス類から選択される少なくとも1種を含む撥水剤を含む撥水性エマルジョンとを含有するバインダーを無機繊維に付与し、加熱硬化して成形させた撥水性無機繊維断熱材が開示されている。
【0009】
一方で、下記特許文献5には、グラスウールやロックウールなどのミネラルウールに基づく断熱及び/又は遮音生成品であって、前記生成品の外側表面の少なくとも一部分が少なくとも1種の界面活性剤を含有する軟化組成物によって表面処理されている断熱及び/又は遮音生成品が開示されている。
【特許文献1】特開2003−147686号公報
【特許文献2】特開2003−213557号公報
【特許文献3】特開2003−238699号公報
【特許文献4】特開2006−257595号公報
【特許文献5】特表2004−504251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、床用断熱材の施工は、剛床の普及により、上棟前に施工されるケースが増えている。しかしながら、施工時の降雨等により、断熱材と床下地板等の構造用面材との間に雨水等が浸入した場合、断熱材の表層に水が滞留して構造用面材がこの水を吸水してしまい、構造用面材にカビやシミ等が発生したり、構造用面材が膨張したりすることがあった。
【0011】
上記特許文献1〜4に開示されているような疎水処理の施された繊維系断熱材や、防湿フィルムで外周を被覆した断熱材は、吸水しにくいので、内部に水が溜まって断熱性能を損なうといった問題は生じにくいものの、該断熱材の表層に水が付着すると、そのまま長期間表層に滞留しやすいことから、上記のような問題が生じやすかった。
【0012】
また、上記特許文献5では、ミネラルウール生成品における肌触りを改善するため、該ミネラルウール生成品の表面を、界面活性剤を含有する軟化組成物によって表面処理している。上記特許文献5には、吸水性については何ら開示されていないが、この軟化組成物は、親水性の高い材料であることから、仮に、生成品の表面を軟化組成物で処理することで吸水性が向上でき、表面に水が滞留することはなく、水を該生成品の内部に吸収できたとしても、該生成品の内部に吸収した水は、外部へと通水されにくく、そのまま該生成品中に滞留してしまい、断熱性能を損ない易いという問題を有している。
【0013】
したがって、本発明の目的は、表面及び内部に水が溜まりにくく、通水性に優れた繊維系断熱材、及び床下地板にカビ,シミ等が発生しにくく、床下地板が膨張しにくい断熱床構造、並びに該断熱床構造の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の繊維系断熱材は、疎水処理された繊維からなる疎水層の片面に、親水処理された繊維からなる親水層が形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の繊維系断熱材によれば、疎水処理された繊維からなる疎水層の片面に、親水処理された繊維からなる親水層が形成されているので、親水層から水を速やかに吸水することができる。そして、疎水処理された繊維系断熱材は、水を内部に取り込みにくいものの、一旦その内部に水が取り込まれると、通水しやすいことから、親水層で吸水された水分は、内部に溜め込むことなく、速やかに繊維系断熱材の外部へと排出させることができる。
【0016】
本発明の繊維系断熱材は、前記親水層の厚さが、前記繊維系断熱材全体の厚さの1/20〜1/2であることが好ましい。親水層の厚さが上記範囲内であれば、通水性が良好であり、親水層が吸水した水分をより速やかに繊維系断熱材の外部へと排出させることができる。
【0017】
本発明の繊維系断熱材は、床用断熱材として用いられることが好ましい。床用断熱材においては、施工条件等によっては、施工時に構造用面材(床下地板)と繊維系断熱材との間に水が入り込んでしまうことがある。本発明の繊維系断熱材は、上述したように、通水性が良好であることから、床下地板と繊維系断熱材との間に入り込んだ水を速やかに除去できるので、床下地板が吸水しにくくなり、カビやシミの発生や、床下地板の膨張等を抑制できる。
【0018】
また、本発明の床断熱構造は、所定間隔をおいて配置された支持部材と、該支持部材により支持されて所定高さ位置に取付けられた繊維系断熱材と、該繊維系断熱材上に敷設された床下地板とからなる床構造体であって、前記繊維系断熱材は、疎水処理された繊維からなる疎水層の片面に親水処理された繊維からなる親水層を有し、前記床下地板側に前記親水層が配置されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の床断熱構造によれば、疎水層の片面に親水層を有する繊維系断熱材が、床下地板側に親水層が配置されるように支持部材間に取付けられているので、支持部材間に繊維系断熱材を取付けた直後に降雨等が発生した場合や、繊維系断熱材と床下地板との間に雨水等が浸入した場合であっても、この水は繊維系断熱材の親水層によって吸水されるので、床下地板が水を吸水しにくく、床下地板は、カビやシミ等が発生しにくく、また、膨張等を生じにくい。そして、上述したように、疎水処理された繊維系断熱材は、一旦内部に水が取り込まれると、通水しやすくなるので、親水層で吸水した水分は、内部にそのまま溜め込むことなく、速やかに繊維系断熱材の外部へと排出させることができることから、断熱性能も損なわれにくい。
【0020】
本発明の床断熱構造は、前記親水層の厚さが、前記繊維系断熱材全体の厚さの1/20〜1/2であることが好ましい。親水層の厚さが上記範囲内であれば、通水性が良好であり、親水層が吸水した水分をより速やかに繊維系断熱材の外部へと排出させることができる。
【0021】
また、本発明の床断熱構造の施工方法は、所定間隔をおいて配置された支持部材の所定高さ位置に繊維系断熱材を支持させて取付けて、該繊維系断熱材上に床下地板を敷設する床断熱構造の施工方法であって、前記繊維系断熱材として、疎水処理された繊維からなる疎水層の片面に親水処理された繊維からなる親水層を有する繊維系断熱材を用い、前記床下地板側に前記繊維系断熱材の親水層が配置されるように、前記繊維系断熱材を取付けることを特徴とする。
【0022】
本発明の床断熱構造の施工方法によれば、疎水層の片面に親水層を有する繊維系断熱材を、床下地板側に繊維系断熱材の親水層が配置されるように支持構造に取付けるので、支持部材間に繊維系断熱材を取付けた直後に降雨等が発生した場合や、繊維系断熱材と床下地板との間に雨水等が浸入した場合であっても、この水は繊維系断熱材の親水層で吸水できるので、床下地板が水を吸水しにくくなり、床下地板のカビやシミの発生や、床下地板の膨張等を防止できる。そして、上述したように、疎水処理された繊維系断熱材は、一旦内部に水が取り込まれると、通水しやすくなるので、親水層で吸水した水分は、内部にそのまま水を溜め込むことなく、速やかに繊維系断熱材の外部へと排出させることができ、断熱性能も損なわれにくい。
【0023】
本発明の床断熱構造の施工方法は、前記親水層の厚さが、繊維系断熱材全体の厚さの1/20〜1/2である繊維系断熱材を用いることが好ましい。親水層の厚さが上記範囲内であれば、通水性が良好であり、親水層が吸水した水分をより速やかに繊維系断熱材の外部へと排出させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の繊維系断熱材は、疎水処理された繊維からなる疎水層上に、親水処理された繊維からなる親水層が形成されているので、親水層から水を速やかに吸水することができる。そして、疎水処理された繊維系断熱材は、水を内部に取り込みにくいものの、一旦その内部に水が取り込まれると、通水しやすいことから、親水層で吸水された水分は、内部に溜め込むことなく、速やかに繊維系断熱材の外部へと排出させることができる。
【0025】
そして、この繊維系断熱材を、床下地板側に親水層が配置されるように支持部材に取付けて床断熱構造とすることで、支持部材間に繊維系断熱材を取付けた直後に降雨等が発生した場合や、繊維系断熱材と床下地板との間に雨水等が浸入した場合であっても、入り込んだ水を繊維系断熱材の親水層で吸水して速やかに外部へと排出でき、床下地板のカビやシミの発生や、床下地板の膨張等を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
[繊維系断熱材]
本発明の繊維系断熱材は、疎水処理された繊維からなる疎水層の片面に、親水処理された繊維からなる親水層が形成され、疎水層と親水層とが一体となった繊維系断熱材である。なお、本発明の繊維系断熱材において、疎水層と親水層との界面は、疎水処理された繊維と親水処理された繊維とが一部混在していることもある。
【0027】
本発明の繊維系断熱材における疎水層とは、疎水処理剤によって処理された繊維で構成されている繊維層である。
【0028】
上記疎水処理に用いる疎水処理剤としては、特に限定は無く、従来公知の疎水処理剤が使用できる。例えば、アミノ変性シリコーン、脂肪酸のアンモニウム塩及び/又はアミン塩、フッ素化合物、ワックス類等が好ましく挙げられ、これらの疎水処理剤を、目的や用途に応じて適宜選択することができる。
【0029】
アミノ変性シリコーンとしては、オルガノポリシロキサンの末端にアミノ基が導入されたものであってもよく、側鎖にアミノ基が導入されたものであってもよく、末端と側鎖の両方にアミノ基が導入されたものであってもよい。なかでも、側鎖にエチレン基、プロピレン基あるいはブチレン基を介して、アミノ基をペンダント状に付加したものがより好ましい。また、必要に応じて、アミノ基以外の官能基がオルガノポリシロキサンに結合していてもよい。このようなアミノ基以外の官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシル基、オキシメチレン基等が挙げられる。
【0030】
脂肪酸のアンモニウム塩としては、炭素数が10〜30の脂肪酸(デカン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等)と、アンモニアとの中和塩等が挙げられる。
【0031】
脂肪酸塩のアミン塩としては、上述した10〜30の脂肪酸と、アミン(エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、プロピルアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、2−エチルヘキシルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、3−エトキシプロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、トリ−n−オクチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、N,N’−ジエチルエタノールアミン、N,N’−ジメチルエタノールアミン、N,N’−ジブチルエタノールアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等)との中和塩等が挙げられる。
【0032】
フッ素化合物としては、水酸基、アミノ基、エポキシ基、メチロール基、カルボキシル基、イソシアネート基から選ばれる官能基と、ポリフルオロアルキル基とを有する化合物等が挙げられる。
【0033】
ワックス類としては、蜜ろう、ラノリンワックス及びセラックワックス等の動物系ワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス及びキャンデリラワックス等の植物系ワックス、モンタンワックス及びオゾケライト等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリカーボネートワックス、やし油脂肪酸エステル、牛脂脂肪酸エステル、ステアリン酸アミド、ジペプタデシルケトン及び硬化ひまし油等の合成ワックス等が挙げられる。
【0034】
そして、疎水処理剤の繊維への付与量は、疎水処理剤の種類によって異なるので特に限定はしないが、繊維に対して固形分換算で0.025〜1.5質量%付与することが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0035】
上記疎水処理剤は、そのまま単独又は水等の溶媒で希釈して繊維に付与してもよく、熱硬化性樹脂前駆体を主体としたバインダーと混合して用いてもよい。
【0036】
上記バインダーに用いる熱硬化性樹脂前駆体としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フラン樹脂等のアルデヒド縮合性熱硬化性樹脂前駆体、あるいは、例えば、特開平6−184285号公報にあるような、エチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、グリコース、1,4−ヘキサンジオール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のいずれかのポリオールと、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、2−メチルマレイン酸、イタコン酸、2−メチルイタコン酸、α−β−メチレングルタル酸、マレイン酸モノアルキル、フマル酸モノアルキル、無水マレイン酸、無水アクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸のいずれかを含むポリカルボン酸系樹脂の混合物、更に、WO2004−085729号公報にあるような、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ノボラックフェノールポリグリシジルエーテル等のエポキシ樹脂と、上記ポリカルボン酸系樹脂の混合物が挙げられる。この熱硬化性樹脂前駆体は水に溶解又は分散して用いることが好ましい。
【0037】
ここで、前駆体とは、加熱による反応で樹脂を各々生成する、もととなる化合物を意味する。この場合、各々の樹脂の前駆体中に含まれる単量体、二量体等の比率、あるいは単量体当たりの官能基数、あるいは各成分の分子量は特に限定されない。
【0038】
また、上記バインダーは、シランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤を含むことでバインダーと繊維の接着性を高めることができる。そして、シランカップリング剤としては、バインダーの主成分である熱硬化性樹脂前駆体との反応性あるいは相溶性のよさから、アミノシランカップリング剤又はエポキシシランカップリング剤を使用するのが好ましい。アミノシランカップリング剤としては、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられ、エポキシシランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0039】
また、上記バインダーは、防塵剤、硬化促進剤、着色剤等を更に含むものであってもよい。上記硬化促進剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0040】
本発明の繊維系断熱材における親水層とは、親水処理剤によって処理された繊維で構成されている繊維層である。
【0041】
上記親水処理に用いる親水処理剤としては、特に限定は無く、従来公知の親水処理剤を用いることができ、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤等が好ましく挙げられ、これらの親水処理剤を、目的や用途に応じて適宜選択することができる。
【0042】
上記アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる、
上記ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ショ糖脂肪酸エステルソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0043】
上記両性イオン界面活性剤としては、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0044】
そして、親水処理剤の繊維への付与量は、親水処理剤の種類によって異なるので特に限定はしないが、繊維に対し、固形分換算で0.02〜1.0質量%付与することが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0045】
上記親水処理剤は、そのまま単独又は水等の溶媒で希釈して繊維に付与してもよく、上述したバインダーと混合して用いてもよい。
【0046】
そして、本発明の繊維系断熱材は、親水層の厚さが、繊維系断熱材全体の厚さの1/20〜1/2であることが好ましく、1/10〜1/4がより好ましい。親水層の厚さが、繊維系断熱材全体の厚さの1/20未満であると、親水層での吸水が不十分となり、繊維系断熱材全体の厚さの1/2を超えると、水が長期間繊維系断熱材の内部に保持され易くなり、断熱性能が損なわれることがある。
【0047】
本発明の繊維系断熱材は、材質としては、特に限定されず、例えば、グラスウールやロックウール等の無機繊維系断熱材、ポリエステルウール(PETウール)やセルロースマットなどの有機繊維系断熱材、羊毛等の天然繊維系断熱材等が挙げられ、材料コストや難燃性等の点から、特に無機繊維系断熱材が好ましい。
【0048】
本発明の繊維系断熱材の厚さは、材質によって異なるが、一般的には25〜150mmが好ましく、30〜120mmがより好ましい。また、繊維系断熱材の密度は、材質によって異なるが、一般的には10〜100Kg/mが好ましい。
【0049】
具体的には、繊維系断熱材がグラスウールの場合おいては、厚さ30〜80mm、密度24〜48Kg/mが好ましい。また、繊維系断熱材がロックウールの場合においては、厚さ30〜80mm、密度40〜80Kg/mが好ましい。
【0050】
上記構成からなる本発明の繊維系断熱材は、疎水処理された繊維からなる疎水層上に、親水処理された繊維からなる親水層が形成されているので、繊維系断熱材に水が付着しても、親水層で速やかに吸水できる。したがって、この繊維系断熱材に床下地板等の構造用面材を取付けて使用する場合であっても、繊維系断熱材の構造用面材に隣接する側の面を親水層とすることで、構造用面材が水を吸水しにくくなり、構造用面材にカビやシミが発生しにくく、更には構造用面材の膨張等を防止できる。また、疎水処理された繊維系断熱材は、水を内部に取り込みにくいものの、一旦その内部に水が取り込まれると、通水しやすいものであることから、親水層で吸水された水分は、内部に溜め込むことなく、速やかに排出させることができるので、断熱性能も損なわれにくい。このため、本発明の繊維系断熱材は、床用、内壁用、外壁用、屋根用等幅広く使用できるが、本発明の繊維系断熱材は、通水性が良好であり、構造用面材と繊維系断熱材との間に入り込んだ水が入り込んでしまった場合であっても、速やかに水を除去でき、カビやシミの発生や構造用面材の膨張等を抑制できることから、特に床用断熱材として好適である。
【0051】
[繊維系断熱材の製造方法]
次に、この繊維系断熱材の製造方法について、無機繊維系断熱材の場合を例にとって説明する。図1は、本発明の繊維系断熱材の製造方法の一例を示す概略工程図である。
【0052】
まず、繊維化装置1により、グラスウール等の無機繊維3を紡出させる繊維化工程が行われる。繊維化装置1による繊維化の方法としては、従来公知の遠心法、火焔法、吹き飛ばし法等が例示でき、特に限定されない。また、繊維化装置1は、目的とする最終製品の無機繊維系断熱材7の密度、厚さ、及び巾方向の長さに応じて複数設けることも可能である。
【0053】
次いで、付与装置2aによって、繊維化装置1から紡出された無機繊維3aに、バインダー及び疎水処理剤を付与して、コンベア4a上に堆積させる。
【0054】
コンベア4aは、未硬化のバインダーが付着した無機繊維3aを有孔のコンベア上に積層する装置であり、繊維を均一に積層させるために、コンベア4aは下面に図示しない吸引装置を有する有孔のコンベアとなっている。
【0055】
バインダー及び疎水処理剤の付与方法としては、従来公知のスプレー法等を用いることができる。また、無機繊維3aに、バインダー及び疎水処理剤を付与するタイミングは、繊維化後であればいつでも良いが、効率的に付与させるために繊維化直後に付与した方が好ましい。また、疎水処理剤は、バインダーと混合して無機繊維3aに付与してもよく、バインダーの付与装置と、疎水処理剤の付与装置とをそれぞれ別個に設け、疎水処理剤を含まないバインダーを付与する前後に、別途疎水処理剤を無機繊維3aに付与してもよい。
【0056】
無機繊維3aへのバインダーの付与量は、目的とする無機繊維系断熱材7の密度や用途によって異なり、無機繊維3aの質量を基準として、固形分量で2.0〜15.0質量%の範囲が好ましく、3.0〜10.0質量%の範囲がより好ましい。
【0057】
また、無機繊維3への疎水処理剤の付与量は、無機繊維3aの質量を基準として、固形分量で0.025〜1.5質量%の範囲が好ましく、0.05〜0.5質量%の範囲がより好ましい。
【0058】
次に、上記と同様の方法で、付与装置2bによって、繊維化装置1から紡出された無機繊維3bに、バインダー及び親水処理剤を付与して、バインダー及び疎水処理剤が付与された無機繊維の積層体(以下、「疎水繊維積層体5a」という)の上に積層させる。そして、バインダー及び親水処理剤が付与された無機繊維の積層体(以下、「親水繊維積層体5b」という)を、疎水繊維積層体5aの上面に形成させて、嵩高い無機繊維中間体6を形成する。なお、疎水繊維積層体5aと親水繊維積層体5bとの界面では、疎水処理剤の付与された繊維と、親水処理剤の付与された繊維とがそれぞれ混在している場合がある。
【0059】
親水繊維積層体5bは、無機繊維中間体6の厚さの1/20〜1/2なるように疎水繊維積層体5aの上面に形成することが好ましく、1/10〜1/4がより好ましい。上記厚さとなるように親水繊維積層体5bを形成することで、最終製品となる無機繊維系断熱材7における親水層の厚さを、無機繊維系断熱材7全体の厚さの1/20〜1/2とすることができる。
【0060】
無機繊維3bにバインダー及び親水処理剤を付与するタイミングは、繊維化後であればいつでも良いが、効率的に付与させるために繊維化直後に付与した方が好ましい。また、親水処理剤は、バインダーと混合して無機繊維3bに付与してもよく、バインダーの付与装置と、親水処理剤の付与装置とをそれぞれ別個に設け、親水処理剤を含まないバインダーを付与する前後に別途親水処理剤を無機繊維3bに付与してもよい。
【0061】
また、バインダーの付与量は、無機繊維3bの質量を基準として、固形分量で2.0〜15.0質量%の範囲が好ましく、3.0〜10.0質量%の範囲がより好ましい。
【0062】
また、親水処理剤の付与量は、無機繊維3bの質量を基準として、固形分量で0.02〜1.0質量%の範囲が好ましく、0.05〜0.5質量%の範囲がより好ましい。
【0063】
そして、この無機繊維中間体6を、コンベア4aで運ばれて、コンベア4b上に所定間隔で対向配置されたコンベア4cによって、所定の厚さに圧縮されてマット状に成形される。
【0064】
その後、コンベア4bの位置に配設された重合反応炉8に入り、無機繊維に付与された、バインダーが重合反応炉8内で加熱重合硬化されて無機繊維系断熱材7を形成する。そして、形成された無機繊維系断熱材7は、コンベア4dの部分に設置された切断機9によって所定の製品寸法に切断された後、運ばれ、包装、梱包される。
【0065】
[床断熱構造及びその施工方法]
次に、この繊維系断熱材を用いた、本発明の床断熱構造及びその施工方法について、図2に基づいて説明する。
【0066】
本発明の床断熱構造の施工方法は、まず、支持部材10,10間に、上記本発明の繊維系断熱材11(疎水処理された繊維からなる疎水層11aの片面に、親水処理された繊維からなる親水層11bが形成されている繊維系断熱材)を、繊維系断熱材11の親水層11bが、床下地板12を敷設する側に配置して、支持部材10の所定高さ位置に繊維系断熱材11を取付ける。
【0067】
繊維系断熱材11の支持部材10への取付け方法としては特に限定は無く、従来公知の方法によって取付けることができる。例えば、受け具を用いて取付けを行った場合を例にとって説明すると、図1に示すように、支持部材10,10のそれぞれ向かい合った側面に受け具13を固定する。受け具13は、ビスなどを用いて支持部材10の所定の位置に取付ける。そして、受け具13の受け面13aに、繊維系断熱材11の端部をそれぞれ保持させて支持部材10、10間に繊維系断熱材11を取付ける。
【0068】
そして、支持部材10、10間に取付けられた繊維系断熱材11の親水層11b側に、床下地板12を敷設することで本発明の床断熱構造とすることができる。
【0069】
床下地板12としては、特に限定は無く、例えば合板、オリエンテッド・ストランド・ボ−ド(OSB)、中比重繊維板(MDF)等が好ましく挙げられる。また、床下地板12の厚さは、9〜50mmが好ましく、20〜35mmがより好ましい。
【0070】
このように施工して得られる本発明の床断熱構造によれば、疎水層11aの片面に親水層11bを有する繊維系断熱材11が、床下地板12側に親水層11bが配置されて支持部材10,10間に取付けられているので、支持部材10、10間に繊維系断熱材11を取付けた直後に降雨等が発生した場合や、繊維系断熱材11と床下地板12との間に雨水等が浸入した場合であっても、この水は繊維系断熱材11の親水層11bによって吸水されるので、床下地板12はカビやシミ等が発生しにくく、また、膨張等も生じにくい。そして、疎水処理された繊維系断熱材は、一旦内部に水が取り込まれると、通水しやすくなるので、親水層11bで吸水した水分は、繊維系断熱材11の内部にそのまま水を溜め込むことなく、速やかに排出させることができ、断熱性能も損なわれにくい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例及び比較例によって更に詳細に説明する。
【0072】
(実施例1)
主成分としてレゾール型フェノール樹脂を含むバインダーの付与量が3.5質量%となるようにガラス繊維に付与して、厚さ42mm、密度32Kg/mのグラスウール製断熱材を得た。この断熱材は、シリコーン系疎水処理剤(ジメチルポリシロキサン水分散体)をガラス繊維に対して0.3質量%付与されたガラス繊維からなる厚さ34mmの疎水層の片面に、親水処理剤(アニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル)をガラス繊維に対して0.3質量%付与されたガラス繊維からなる厚さ6mmの親水層が形成されていた。
【0073】
(比較例1)
実施例1において、ガラス繊維として、親水処理剤の付与されたガラス繊維の代わりに親水処理剤の付与されていない未処理のガラス繊維を用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ42mm、密度32Kg/mのグラスウール製断熱材を得た。
【0074】
(比較例2)
実施例1において、ガラス繊維として、シリコーン系疎水処理剤及び親水処理剤の付与されていない未処理のガラス繊維を用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ42mm、密度32Kg/mのグラスウール製断熱材を得た。
【0075】
(比較例3)
厚さ40mm、密度35Kg/mの発泡ポリスチレン製断熱材(押出発泡3種)を断熱材として用いた。
[水抜け性試験]
実施例1、比較例1〜3の各断熱材を直径10cmの円筒状に加工し、塩ビ製の円柱容器の内側にそれぞれ取付け、断熱材と円柱容器との間(上面部及び下面部)をシリコーン系シーリング剤で防水処理して、試験体をそれぞれ5個作製した。なお、実施例1のグラスウールについては、親水層が上面に配置されるように円柱容器に取付け、比較例1のグラスウールについては、疎水層が下面に配置されるように円柱容器に取付けた。各試験体の円柱容器の上方、即ち、各断熱材の上面から水を60g供給した後、合板で試験体の上部に蓋をした。水を供給してから、所定時間経過後に、各断熱材の上部に残った水の量を測定して、水抜け性を評価した。
【0076】
上記結果を表1にまとめて記す。
【0077】
【表1】

【0078】
上記結果から、実施例1の繊維系断熱材は比較例1〜3の断熱材よりも水抜け性が優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の繊維系断熱材の製造方法の一例を示す概略工程図である。
【図2】本発明の床断熱構造の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1:繊維化装置
2a,2b:付与装置
3a,3b:無機繊維
4a〜4d:コンベア
5a:疎水繊維積層体
5b:親水繊維積層体
6:無機繊維中間体
7:無機繊維系断熱材
8:重合反応炉
9:切断機
10:支持部材
11:繊維系断熱材
11a:疎水層
11b:親水層
12:床下地板
13:受け具
13a:受け面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水処理された繊維からなる疎水層の片面に、親水処理された繊維からなる親水層が形成されていることを特徴とする繊維系断熱材。
【請求項2】
前記親水層の厚さが、前記繊維系断熱材全体の厚さの1/20〜1/2である請求項1に記載の繊維系断熱材。
【請求項3】
床用断熱材として用いられる請求項1又は2に記載の繊維系断熱材。
【請求項4】
所定間隔をおいて配置された支持部材と、該支持部材により支持されて所定高さ位置に取付けられた繊維系断熱材と、該繊維系断熱材上に敷設された床下地板とからなる床構造体であって、
前記繊維系断熱材は、疎水処理された繊維からなる疎水層の片面に親水処理された繊維からなる親水層を有し、前記床下地板側に前記親水層が配置されていることを特徴とする床断熱構造。
【請求項5】
前記親水層の厚さが、前記繊維系断熱材全体の厚さの1/20〜1/2である請求項4に記載の床断熱構造。
【請求項6】
所定間隔をおいて配置された支持部材の所定高さ位置に繊維系断熱材を支持させて取付けて、該繊維系断熱材上に床下地板を敷設する床断熱構造の施工方法であって、
前記繊維系断熱材として、疎水処理された繊維からなる疎水層の片面に親水処理された繊維からなる親水層を有する繊維系断熱材を用い、
前記床下地板側に前記繊維系断熱材の親水層が配置されるように、前記繊維系断熱材を取付けることを特徴とする床断熱構造の施工方法。
【請求項7】
前記親水層の厚さが、繊維系断熱材全体の厚さの1/20〜1/2である繊維系断熱材を用いる請求項6に記載の床断熱構造の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−150717(P2008−150717A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336759(P2006−336759)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【Fターム(参考)】