説明

繊維補強コンクリート成形体およびその製造方法

【課題】
高い靭性が求められる土木構造物にも使用することのできる高強度の繊維補強コンクリート成形体をきわめて効率的に製造することができる繊維補強コンクリート成形体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
セメント、最大粒度2mm以下の骨材、1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径3〜20μmの石英粉末および金属繊維を含み、かつ減水剤の使用量が0〜15kg/mであるモルタル混練物を0.25〜1MPaの加圧量で加圧成形する。そしてその後、50〜70°Cの温度下で蒸気養生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、特に高い靭性が求められる土木構造物用構造部材として用いられる繊維補強コンクリート成形体およびその製造方法に関し、特に繊維補強コンクリート成形体の強度(靭性)等の特性の向上と当該繊維補強コンクリート成形体の効率的生産を可能にしたものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の柱や梁などの構造部材として繊維補強コンクリート成形体が広く用いられている。従来、この種の繊維補強コンクリート成形体の製造方法としては、セメント、骨材、ポゾラン系粉末ほか各種の微粒子、繊維材、減水剤、水などを混練したモルタル混練物を単に型枠に投入して成形し、成形直後のコンクリート成形体は一定時間養生工程にかけられる。
【特許文献1】特開2001−226161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、型枠成形方法の場合、成形後20度の温度下で48時間もの前養生が必要なため、型枠の回転が悪く生産効率が非常に悪い等の課題があった。
【0004】
本願発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、強度が非常に大きい上に、養生時間を短縮できて非常に効率的に製造可能な繊維補強コンクリート成形体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の繊維補強コンクリート成形体は、セメント、最大粒度2mm以下の骨材、1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径3〜20μmの石英粉末および金属繊維を含み、かつ減水剤の使用量が0〜15kg/mであるモルタル混練物から加圧成形されてなることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2記載の繊維補強コンクリート成形体は、請求項1記載の繊維補強コンクリート成形体において、モルタル混練物は促進剤を含むことを特徴とするものである。
【0007】
請求項3記載の繊維補強コンクリート成形体の製造方法は、セメント、最大粒度2mm以下の骨材、1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径3〜20μmの石英粉末および金属繊維を含み、かつ減水剤の使用量が0〜15kg/mであるモルタル混練物を0.25〜1MPaの加圧量で加圧成形した状態で、50〜70°Cの温度下で蒸気養生することを特徴とするものである。
【0008】
請求項4記載の繊維補強コンクリート成形体の製造方法は、請求項3記載の繊維補強コンクリート成形体の製造方法において、モルタル混練物は促進剤を含むことを特徴とするものである。
【0009】
本願発明は特に、減水剤の使用量を0〜15kg/m、製造方法を0.25〜1MPa量の加圧下での加圧成形、さらに養生方法を50〜70°Cの温度下で蒸気養生とすることにより、高い靭性が求められる土木構造物にも使用することのできるコンクリート成形体をきわめて効率的に製造できるようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本願発明は繊維補強コンクリート成形体の製造に際し、特に減水剤の使用量を0〜15kg/m、製造方法を0.25〜1MPaの加圧下での加圧成形、さらに養生方法を50〜70°Cの温度下での蒸気養生とすることにより、高い靭性が求められる土木構造物にも使用することのできる高強度の繊維補強コンクリート成形体をきわめて効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
最初に、本願発明の繊維補強コンクリート成形体およびその配合原料について説明すると、本願発明の繊維補強コンクリート成形体は、セメント、最大粒度が2mm以下の骨材、1次粒子粒度が1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度が1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径が3〜20μmの石英粉末、金属繊維をそれぞれ含み、かつセメントとポゾラン系反応粒子と石英粉末の合計質量に対する水の質量比率が8〜24%であり、金属繊維の長さが2mm以上で、金属繊維の直径に対する長さの比率が20以上であり、骨材粒子の最大粒度に対する金属繊維の長さの比が10以上であり、金属繊維の量が4体積%以下であるモルタル混練物の硬化体である。当該硬化体は150N/mm以上の強度を発現させることが可能であり、耐磨耗性、耐衝撃性、耐久性にもすぐれたものである。
【0012】
ここで配合されたセメントは、特に限定されるものではなく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、その他ポリマーセメント、カラーセメント、エコセメント等、いずれも使用することができる。特に、早期強度の発現が必要な場合には早強ポルトランドセメント、長期強度の発現が求められる場合には中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等を用いるのが望ましい。
【0013】
また、骨材としては、一般に入手可能な川砂、陸砂、海砂、砕破、珪砂またはこれらの混合物を使用することができ、特に最大粒径2mm以下のものを使用する。粒径が2mmを越えると、強度が低下するため好ましくない。好ましい最大粒径は、強度発現性の観点から1.5mm以下、より好ましくは1.2mm以下である。
【0014】
また、骨材の配合量は原料配合物の混練性など、硬化後にあっては強度、クラックに対する抵抗性などの観点からセメント100質量部に対し50〜250質量部が好ましく、80〜180質量部がより好ましい。
【0015】
ポゾラン系微粉末は、配合することによってマイクロフィラー効果、およびセメント分散効果が生じ、コンクリート成形体を緻密化し、強度を向上させる等の効果を有する。このような作用効果を有するポゾラン系微粉末としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ等が挙げられる。細かさは特に限定されないが、細かいほうが望ましい。中でも、シリカフュームとシリカダストは、それ自体の1次粒子粒度(平均粒径)が1μm以下であり、粉砕等の処理を要さずそのままでも使用できるためコスト上からも好ましい。
【0016】
また、ポゾラン系微粉末の配合量は、モルタルの混練性、硬化体の強度、耐磨耗性、耐久性などの点からセメント100質量部に対し5〜50質量部が好ましく、特に15〜35質量部より好ましい。
【0017】
針状粒子としては、ウォラストナイト、ボーキサイト、ムライト等が挙げられ、また薄片状粒子としては、マイカフレーク、タルクフレーク、バーミキュライトフレーク、アルミナフレーク等が挙げられる。これらの粒子は、単独配合してもまたは併用してもよく、またその配合量は、硬化体の強度や靭性などの点からセメント100質量部に対して4〜25質量部が好ましい。
【0018】
石英粉末としては、石英や非晶質石英などの粉末、あるいはオパール質やクリストパライト質などのシリカ含有粉末が挙げられ、細かさは、平均粒径が3〜20μmの範囲のものである必要があり、その範囲外では、強度が低下するので好ましくない。一般に、4〜10μmのものが強度の点から好ましい。また、配合量は、原料配合物の混練性、硬化後の強度などの観点から、セメント100質量部に対し20〜35質量部が好ましい。
【0019】
金属繊維としては、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス繊維などが挙げられ、中でも、鋼繊維は強度の点で優れており、またコストや入手のし易さ等の点からも好ましいものである。金属繊維は長さが2〜30mm、繊維長/繊維直径の比が20〜200のものが好ましい。
【0020】
水の配合量は、セメントとポゾラン系反応粒子と石英粉末の合計質量に対する水の質量比率が8〜24%の範囲内とするのが原料配合物の混練性と強度保持の点から好ましい。
【0021】
本願発明では、減水剤を使用することができる。減水剤としては、リグニン系、リグニンスホル酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、メラミンスルホン酸系、アルキルアリルスホル酸系、ポリカルボン酸系、オキシカルボン酸系の各種減水剤、AE減水剤、高性能減水剤または高性能AE減水剤などが挙げられる。
【0022】
これらのうち、減水効果の大きな高性能減水剤または高性能AE減水剤が好ましく、特にポリカルボン酸系の高性能減水剤または高性能AE減水剤が好ましい。また、これらの減水剤の配合量は、配合物の流動性や硬化体の強度などから0〜15kg/mが好ましい。なお、減水剤は液状または粉末状どちらでも使用可能である。
【0023】
本願発明で促進剤を使用することは、養生時間を短縮でき好ましい。促進剤にはカルシウム塩を用い、カルシウム塩としては、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、蟻酸カルシウム、チオシアン酸カルシウム、酢酸カルシウム等が挙げられる。それらの中でも、入手の容易性や、セメントスラリーの作業性などの面から、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウムが好ましい。
【0024】
また配合量は、セメント100質量部に対して、酸化カルシウム換算で0.6質量部以下であり、好ましくは0.02〜0.55質量部である。配合量が0.6質量部を超えると、セメントスラリーの流動性が急激に低下するため好ましくない。
【0025】
次に、本願発明の繊維補強コンクリート成形体の製造方法について説明すると、最初に、上記した各原料を適宜選択し、配合し混練してセメント配合物を製造する。
【0026】
この場合の配合材の混練方法は、特に限定されるものではなく、次のような方法がある。
1.水、分散剤以外の各原料を予め混合しておき(プレミックス)、この混合物と水、減水剤をミキサに投入し、混練する方法、
2.水以外の材料を予め混合しておき(プレミックス、ただし減水剤は粉末タイプのものを使用する)、この混合物と水をミキサに投入し、混練する方法、
などが挙げられる。
【0027】
また、この場合の混練に用いるミキサは通常のコンクリートの混練に用いられるどのタイプのものでもよく、例えば揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等を用いることができる。
【0028】
次に、このモルタル混練物を目的に応じた加圧成形用型枠に投入し、0.25〜1MPaの加圧量で加圧し、そして50〜70°Cの高温下で蒸気養生する。この場合の成形用型枠は機械的に加圧可能に構成されていればよく、既存のものを使用することができる。
【0029】
次に、本願発明の繊維補強コンクリート製造方法における配合決定を目的に、
(1) 減水剤使用量の影響、
(2) 蒸気養生温度の確認、
(3) 加圧量の検討、
(4) 強度促進剤の検討
の各課題に対して行った実験的検証について説明する。
【0030】
最初に、上記した配合原料を用いてモルタル混練物を製造した(表−1のNO,4)。その際、モルタル混練物のフレッシュ性状はフロー値が250mm程度あり加圧成形用の固練り配合を検討する必要があった。また加圧成形法では、減水剤使用量によって初期強度の発現性に影響を受ける場合があった。このことにより、減水剤使用量を調整し、目標フロー値150mmとなる加圧成形用の固練り配合を決定した。
【0031】
表−1は、加圧成形用の固練り配合の例(NO,1〜3)と標準配合(NO,4)を示したものであり、配合は加圧成形用の固練り配合を基本とし、以下の条件のもとで実施した。
蒸気養生温度 ;40、50、60、70、および90°Cの5水準
脱型時間 ;5、6および7時間
加圧量 ;0、0.25、0.5、0.75および1.0 MPa
促進剤 ; 0、5および10 kg/m3
【0032】
【表1】

【0033】
配合物の配合割合は、低熱ポルトランドセメント100質量部、シリカフューム32質量部、珪砂5号120質量部、石英粉末(平均粒径7μm)30質量部、ウォラストナイト(平均長さ0.3mm)24質量部である。
【0034】
次に、このモルタル混練物を加圧成形用型枠に投入し、加圧成形してφ60×120mmの円柱供試体を成形した。そして、この円柱供試体を用いてJISA1108に準じた圧縮強度試験を行った。
【0035】
図1は、単位水量と減水剤使用量との関係を示し、図に示すように、フロー値が150mmでモルタル混練物の基本配合の単位水量180kg/mに相当する減水剤使用量は15kg/mになることがわかった。また、図2は圧縮強度と養生時間との関係を示し、図に示すように、標準配合では圧縮強度が0.25N/mm程度で変化は見られないが、加圧配合(表−1のNO,3)では若干ではあるが強度発現性が確認された。そして、図3は、加圧配合(表−1のNO,3)の圧縮強度との関係を示し、図に示すように、養生温度の条件の中で60°Cが最も強度発現性があることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本願発明は、非常に短期間の前養生により脱型可能な強度発現を有するコンクリート成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】単位水量と減水剤使用量との関係を示す図である。
【図2】圧縮強度と養生時間との関係を示す図である。
【図3】圧縮強度と養生温度との関係を示す図である。
【図4】圧縮強度と加圧量との関係を示す図である。
【図5】圧縮強度と促進剤との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、最大粒度2mm以下の骨材、1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径3〜20μmの石英粉末および金属繊維を含み、かつ減水剤の使用量が0〜15kg/mであるモルタル混練物から加圧成形されてなることを特徴とする繊維補強コンクリート成形体。
【請求項2】
モルタル混練物は促進剤を含むことを特徴とする請求項1記載の繊維補強コンクリート成形体。
【請求項3】
セメント、最大粒度2mm以下の骨材、1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径3〜20μmの石英粉末および金属繊維を含み、かつ減水剤の使用量が0〜15kg/mであるモルタル混練物を0.25〜1MPaの加圧量で加圧成形した状態で、50〜70°Cの温度下で蒸気養生することを特徴とする繊維補強コンクリート成形体の製造方法。
【請求項4】
モルタル混練物は促進剤を含むことを特徴とする請求項3記載の繊維補強コンクリート成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−89295(P2006−89295A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273238(P2004−273238)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000230010)ジオスター株式会社 (77)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】