説明

繊維銀面銀付調ライニング皮革

【課題】表面に付着した水分を急速に吸収し、吸収した水分を迅速に拡散し、これにより吸収した水分を急速に蒸発させ、着用時の蒸れ感を軽減することができる速乾性のライニング皮革を提供する。
【解決手段】繊維銀面を有する銀付調人工皮革からなるライニング皮革であって、該銀付調人工皮革が極細長繊維を複数本含む繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなり、下記条件(1)〜(3):
(1)前記極細長繊維の平均繊度が0.001〜2dtexである、
(2)前記極細長繊維の繊維束の平均繊度が0.5〜10dtexである、および
(3)前記ライニング皮革を厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層を形成する極細長繊維同士は少なくとも一部融着して繊維銀面を形成しているが、基体層2、基体層3および裏面層を形成する極細長繊維同士は融着していない
を同時に満足するライニング皮革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維銀面を有する銀付調人工皮革からなるライニング皮革(以下、単に繊維銀面銀付調ライニング皮革という)に関する。さらに詳しくは、表面に付着した水分を急速に吸収、拡散するので乾燥速度が天然皮革や従来の造面銀付調人工皮革からなるライニング皮革に比べて著しく速い繊維銀面銀付調ライニング皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ライニング皮革、特に靴用のライニング皮革(内張材、中敷きなどの靴の内部表面を形成するための素材)としては、人工皮革および造面法により銀面を形成した銀付調人工皮革が用いられている。しかし、天然皮革はその表面に付着した水分の吸収速度が極めて遅く、また、吸収された水分は天然皮革内部でほとんど拡散しないため、吸収された水分は蒸発し難い。そのため、汗などにより濡れた靴の内部表面が乾燥するまでに長時間を要し、不快な「蒸れ感」が長く持続していた。
【0003】
造面法により銀面を形成した銀付調人工皮革の通気性、透湿性を改善する方法が種々提案されている。例えば、特許文献1には、繊維質または繊維と高分子弾性体とが混在する表面に銀面を形成し、この銀面に気孔を形成する方法が提案されている。特許文献2には、銀面を多孔質皮膜により形成して通気性、透湿性を改善する方法が提案されている。また、特許文献3には、繊維質、あるいは繊維質と高分子弾性体とからなる基体の片面に、連通多孔質ポリウレタン層を形成し、その表面に、仕上げポリウレタン被膜(銀面)を形成した銀付調人工皮革が記載されている。該銀付調人工皮革表面には0.5〜35μmの径の開放孔が1cm2当たり200個以上存在し、仕上げポリウレタン被膜は、その開放孔の孔壁を覆い、連通多孔質ポリウレタン層内まで達するように形成されている。
【0004】
しかし、高分子弾性体の銀面層が表面を被覆すると蒸れ感の低減には限界がある。また、上記先行技術に記載の技術はいずれも通気性、透湿性を改善することを目的としており、人工皮革内部に吸収された水分を迅速に拡散させること、吸収された水分を急速に蒸発させること、着用時の発汗などにより濡れた靴内部表面を迅速に乾燥することを何も検討していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−116479号公報
【特許文献2】特開平3−79643号公報
【特許文献3】特開平8−41786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記問題を解決し、表面に付着した水分を急速に吸収し、吸収した水分を迅速に拡散し、これにより吸収した水分を急速に蒸発させ、着用時の蒸れ感を軽減することができる速乾性のライニング皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記目的を達成するライニング皮革を見出し本発明に至った。すなわち、本発明は、繊維銀面を有する銀付調人工皮革からなるライニング皮革であって、該銀付調人工皮革が極細長繊維を複数本含む繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなり、下記条件(1)〜(3):
(1)前記極細長繊維の平均繊度が0.001〜2dtexである、
(2)前記極細長繊維の繊維束の平均繊度が0.5〜10dtexである、および
(3)前記ライニング皮革を厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層を形成する極細長繊維同士は少なくとも一部融着しているが、基体層2、基体層3および裏面層を形成する極細長繊維同士は融着していない
を同時に満足するライニング皮革に関する。
を同時に満足する銀付調皮革様シートに関する。
【0008】
さらに本発明は、下記の順次工程:
(1)海島型長繊維を用いて、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程、
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維から海成分を除去して、該極細繊維束形成性長繊維を平均繊度0.001〜2dtexの極細長繊維を複数本含む平均単繊度0.5〜10dtexの繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
(4)高分子弾性体と前記極細長繊維の質量比が0.001〜0.6となるように、前記絡合不織布に前記高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与し、熱を加えて高分子弾性体を前記絡合不織布の両表面(表面および裏面)に移行させ、凝固する工程、
(5)前記皮革様シートの少なくとも片方の表面を海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスし、繊維銀面を形成する工程、および
(6)前記繊維銀面上に高分子弾性体の水分散体または水溶液をグラビア塗布し、熱を加えて高分子弾性体を乾燥、凝固させる任意の工程、
(但し、工程(4)を工程(3)の前に行ってもよい)
含む繊維銀面を有する銀付調人工皮革からなるライニング皮革の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革は、表面層を形成する極細長繊維同士は少なくとも一部融着して繊維銀面を形成しているが、内部の極細長繊維同士は融着していない。このような構造により、繊維銀面銀付調ライニング皮革は、その表面に付着した水分の吸収速度が速く、また、吸収された水分がライニング皮革内部で迅速に拡散するので水分が速やかに蒸発する。このように、本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革は汗などの水分を吸収しても速乾性を有するので着用時の発汗による蒸れ感を著しく低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革を厚さ方向に5等分した状態を示す模式図である。
【図2】本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革の表面層における繊維束と高分子弾性体の接着状態を示す模式図である。
【図3】本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革の基体層2における繊維束と高分子弾性体の接着状態を示す模式図である。
【図4】本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革の表面層における極細長繊維同士の融着状態を示す走査型電子顕微鏡写真(300倍)である。
【図5】図4の繊維銀面銀付調ライニング皮革を手でこすった後に撮影した、表面層における極細長繊維同士の融着状態を示す走査型電子顕微鏡写真(300倍)である。
【図6】本発明の他の繊維銀面銀付調ライニング皮革の表面層における極細長繊維同士の融着状態を示す走査型電子顕微鏡写真(300倍)である。
【図7】実施例1の繊維銀面銀付調ライニング皮革の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例1の繊維銀面銀付調ライニング皮革の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例2で使用した豚革の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】比較例2で使用した豚革の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例1の繊維銀面銀付調ライニング皮革および比較例2で使用した豚革の水分吸収時間と拡散状態を示す図である。
【図12】実施例1および2の繊維銀面銀付調ライニング皮革、比較例1で使用した牛革、および比較例2で使用した豚革の乾燥速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革は、複数の極細長繊維からなる繊維束が三次元的に交絡した絡合不織布と該絡合不織布に含有された高分子弾性体から構成され、下記条件(1)〜(3)を同時に満足する。
(1)前記極細長繊維の平均繊度が0.001〜2dtexである。
(2)前記極細長繊維の繊維束の平均繊度が0.5〜10dtexである。
(3)前記ライニング皮革を厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層を形成する極細長繊維同士は少なくとも一部融着しているが、基体層2、基体層3および裏面層を形成する極細長繊維同士は融着していない。
【0012】
本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革は、下記の順次工程により製造することができる。
(1)海島型長繊維を用いて、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程、
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維から海成分を除去して、該極細繊維束形成性長繊維を平均繊度0.001〜2dtexの極細長繊維を複数本含む平均単繊度0.5〜10dtexの繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
(4)高分子弾性体と前記極細長繊維の質量比が0.001〜0.6となるように、前記絡合不織布に前記高分子弾性体の水分散体を付与し、熱を加えて高分子弾性体を前記絡合不織布の両表面(表面および裏面)に移行させ、凝固して皮革様シートを製造する工程、および
(5)前記皮革様シートの少なくとも片方の表面を海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスし、銀面を形成する工程
(6)前記繊維銀面上に高分子弾性体の水分散体または水溶液をグラビア塗布し、熱を加えて高分子弾性体を乾燥、凝固させる任意の工程、
(但し、工程(4)を工程(3)の前に行ってもよい)。
【0013】
以下、各工程および各工程で得られる繊維集合体について詳述する。
【0014】
工程(1)では、海島型長繊維を用いて、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する。海島型長繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であって、海成分ポリマー中にこれとは異なる種類の島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型長繊維は、絡合不織布構造体に形成した後、高分子弾性体を含浸させる前に海成分ポリマーを抽出または分解して除去することで、残った島成分ポリマーからなる極細長繊維が複数本集まった繊維束に変換される。
【0015】
島成分ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエステル弾性体等のポリエステル系樹脂またはそれらの変性物;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、ポリアミド弾性体等のポリアミド系樹脂またはそれらの変性物;ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂など、公知の繊維形成性の水不溶性熱可塑性ポリマーが挙げられる。これらの中でも、PET、PTT、PBT、これらの変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂は、熱処理により収縮しやすく、充実感のある風合いを有し、耐磨耗性、耐光性、形態安定性などの実用的性能が優れた人工皮革製品が得られる点で特に好ましい。また、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸湿性があってしなやかな極細長繊維が得られるので、膨らみ感のある柔らかな風合いを有し、帯電防止性などの実用的性能が良好な人工皮革製品が得られる点で特に好ましい。
【0016】
島成分ポリマーの融点は160℃以上であるのが好ましく、融点が180〜330℃であり結晶性であるのがより好ましい。なお、本発明でいうポリマーの融点とは、後述するように示差走査熱量計の所為2nd Runでの吸熱ピーク(融点ピーク)のトップ温度である。本発明で使用する島成分ポリマーは示差走査熱量計での1st Run測定において、融点ピークの他にも吸熱ピーク(以下、副吸熱ピークと称する場合がある)を有することが好ましい。副吸熱ピークを有すると、島成分ポリマーの融点以上に昇温しなくても、表面を構成する極細繊維同士が一部融着して銀面(繊維銀面)を形成し易く、良好な表面物性および天然皮革並の柔軟な風合いを兼ね備えた繊維銀面銀付調ライニング皮革が得られる。
【0017】
島成分ポリマーの副吸熱ピークの温度は、融点よりも30℃以上低いことが、風合いを損なうことなく極細繊維同士を融着処理しやすい点で好ましく、50℃以上低いことがより好ましい。副吸熱ピークの温度の下限は特に限定しないが、融点よりも160℃以上低い場合でも問題なく製造することができる。
【0018】
また、副吸熱ピークの強度は、良好な表面物性、銀付外観および風合いを兼ね備える点で、融点ピークの強度よりも小さいことが好ましい。副吸熱ピークの強度が融点ピークの強度よりも大きい場合、銀付外観は得られるものの表面物性が低下する傾向にある。そして、副吸熱ピークの強度は融点ピークの強度の1/2以下であることが、表面に存在する極細繊維の適度な融着状態が得られ易く、良好な銀付調外観、風合いおよび表面物性を兼ね備える点で好ましく、1/3以下がより好ましい。また副吸熱ピークの強度の下限は本発明の効果が得られる限り特に限定するものではないが、融点ピークの強度の1/200以上であることが銀付調外観を得易い点で好ましい。また、融点ピークと副吸熱ピークとの面積比は100/1以下が好ましく、50/1以下がより好ましく、25/1以下がさらに好ましい。
【0019】
また、副吸熱ピークの温度以上に加熱すると、副吸熱ピークの吸収熱(ピーク面積)は小さくなり、175℃以上に加熱すると島成分ポリマーの副吸熱ピーク面積は加熱前の1/2以下になる場合がある。
【0020】
このように副吸熱ピークは加熱により小さくなる傾向があるので、副吸熱ピークは島成分ポリマー原料に存在するだけでなく、極細繊維に形成した後にも存在することが、極細繊維同士を融着し易い点で好ましい。本発明では、極細化直後の極細長繊維を形成する島成分ポリマーが、示差走査熱量計での1st Run測定において上記融点ピークの他にも吸熱ピークが観測される島成分ポリマーを用いるのが好ましい。
【0021】
融点ピークと副吸熱ピークを有する島成分ポリマーとしては、前述したポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびポリウレタン系樹脂の変性物が好ましく用いられる。中でも表面物性、風合い、および極細繊維融着性を兼ね備える点で、変性ポリエステル系樹脂がより好ましく、イソフタル酸変性ポリエステル系樹脂がさらに好ましい。但し、上記変性ポリマーは公知の方法により部分配向(POY)されていることが副吸熱ピークを維持し易い点で好ましい。
【0022】
島成分ポリマーには、着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、消臭剤、防かび剤、抗菌剤、各種安定剤などが添加されていてもよい。
【0023】
海島型長繊維を極細長繊維の繊維束に変換する際に、海成分ポリマーは溶剤または分解剤により抽出または分解除去される。従って、海成分ポリマーは溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいことが必要である。海島型長繊維の紡糸安定性の点から島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいことが好ましい。このような条件を満たす限り海成分ポリマーは特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく用いられる。有機溶剤を用いることなく繊維銀面銀付調ライニング皮革を製造することができるので、海成分ポリマーに水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(水溶性PVA)を用いるのが特に好ましい。
【0024】
前記水溶性PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜500が好ましく、230〜470がより好ましく、250〜450がさらに好ましい。重合度が200以上であると、溶融粘度が適度で島成分ポリマーとの複合化が容易である。重合度が500以下であると、溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルから樹脂を吐出することが困難となる問題を避けることができる。重合度500以下のいわゆる低重合度PVAを用いることにより、熱水で溶解するときに溶解速度が速くなるという利点も有る。水溶性PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、水溶性PVAを再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。
P=([η]103/8.29)(1/0.62)
【0025】
水溶性PVAのケン化度は90〜99.99モル%が好ましく、93〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.97モル%がさらに好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。ケン化度が90モル%以上であると、熱安定性が良く、熱分解やゲル化することなく満足な溶融紡糸を行うことができ、生分解性も良好である。更に後述する共重合モノマーによって水溶性が低下することがなく、極細化が容易になる。ケン化度が99.99モル%よりも大きい水溶性PVAは安定に製造することが難しい。
【0026】
水溶性PVAの融点(Tm)は、160〜230℃が好ましく、170〜227℃がより好ましく、175〜224℃がさらに好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃以上であると、結晶性が低下して繊維強度が低くなることがなく、熱安定性が悪くなり繊維化が困難になることも避けることができる。融点が230℃以下であると、PVAの分解温度より低い温度で溶融紡糸することができ、海島型長繊維を安定に製造することができる。
【0027】
水溶性PVAは、ビニルエステル単位を主体として有する樹脂をケン化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でも水溶性PVAを容易に得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0028】
水溶性PVAは、ホモPVAであっても共重合単位を導入した変性PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、変性PVAを用いることが好ましい。共重合単量体としては、共重合性、溶融紡糸性および繊維の水溶性の観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類が好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位の量は、変性PVA構成単位の1〜20モル%が好ましく、4〜15モル%がより好ましく、6〜13モル%がさらに好ましい。さらに、共重合単量体がエチレンであると繊維物性が高くなるので、エチレン単位を好ましくは4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%含む変性PVAが好ましい。
【0029】
水溶性PVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法で製造される。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が好ましい。溶液重合の溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、a、a’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0〜150℃の範囲が適当である。
【0030】
従来の人工皮革の製造においては、極細繊維束形成性長繊維を任意の繊維長にカットして得たステープルにより繊維ウェブを製造していたが、本発明では、スパンボンド法などにより紡糸した海島型長繊維(極細繊維束形成性長繊維)をカットすることなく長繊維ウェブにする。海島型長繊維は前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーを複合紡糸用口金から押出すことにより溶融紡糸する。紡糸温度(口金温度)は海島型長繊維を構成するポリマーのそれぞれの融点よりも高く、180〜350℃が融点ピークと副吸熱ピークを存在させ易い点で好ましい。口金から吐出した溶融状態の海島型長繊維を冷却装置により冷却した後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて、目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取り速度に相当する速度の高速気流により牽引細化し、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させて実質的に無延伸の長繊維からなるウェブを形成する。必要に応じて、得られた長繊維ウェブをプレス等により部分的に圧着して形態を安定化させてもよい。このような長繊維ウェブ製造方法は、従来の短繊維を用いる繊維ウェブ製造方法では必須の原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要としないので生産上有利である。また、長繊維ウェブおよびそれを用いて得られる皮革様シートは連続性の高い長繊維からなるので、従来一般的であった短繊維ウェブおよびそれを用いて製造した皮革様シートに比べて、強度などの物性においても優れている。
【0031】
海島型長繊維の平均断面積は30〜800μm2であるのが好ましい。海島型長繊維の断面において、海成分ポリマーと島成分ポリマーの平均面積比(ポリマー体積比に相当)は5/95〜70/30が好ましい。得られた長繊維ウェブの目付は10〜1000g/m2が好ましい。
【0032】
本発明において、長繊維とは、繊維長が通常3〜80mm程度である短繊維よりも長い繊維長を有する繊維であり、短繊維のように意図的に切断されていない繊維をいう。例えば、極細化する前の長繊維の繊維長は100mm以上が好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、物理的に切れない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
【0033】
工程(2)では、前記長繊維ウェブに絡合処理を施して絡合ウェブを得る。前記長繊維ウェブを、必要に応じてクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。パンチング密度は、300〜5000パンチ/cm2の範囲が好ましく、より好ましくは500〜3500パンチ/cm2の範囲である。上記範囲内であると、充分な絡合が得られ、海島型長繊維のニードルによる損傷が少ない。該絡合処理により、海島型長繊維同士が三次元的に絡合し、厚さ方向に平行な断面において海島型長繊維が平均600〜4000個/mm2の密度で存在する、海島型長繊維が極めて緻密に集合した絡合ウェブが得られる。長繊維ウェブにはその製造から絡合処理までのいずれかの段階で油剤を付与してもよい。必要に応じて、70〜150℃の温水に浸漬するなどの収縮処理によって、長繊維ウェブの絡合状態をより緻密にしてもよい。また、熱プレス処理を行なうことで海島型長繊維同士をさらに緻密に集合させ、長繊維ウェブの形態を安定にしてもよい。ただし、本発明では、後述のように極細長繊維を構成する島成分ポリマーの副吸熱ピークを利用して低温で銀面(繊維銀面)を形成させるため、該副吸熱ピークが消失しないような温度条件を選ぶ必要がある。絡合ウェブの目付は100〜2000g/m2あるのが好ましい。
【0034】
工程(3)では、海成分ポリマーを除去することにより極細繊維束形成性長繊維(海島型長繊維)を極細化して極細長繊維の繊維束からなる絡合不織布を製造する。海成分ポリマーを除去する方法としては、島成分ポリマーの非溶剤または非分解剤であり、かつ、海成分ポリマーの溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理する方法が本発明においては好ましく採用される。島成分ポリマーがポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂である場合、海成分ポリマーがポリエチレンであればトルエン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの有機溶剤が、海成分ポリマー前記水溶性PVAであれば温水が、また、海成分ポリマーが易アルカリ分解性の変性ポリエステルであれば水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が使用される。海成分ポリマーの除去は人工皮革分野において従来採用されている方法により行えばよく、特に制限されない。本発明においては、環境負荷が少なく、また、労働衛生上好ましいので、海成分ポリマーとして前記水溶性PVAを使用し、これを有機溶媒を使用することなく85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理し、除去率が95質量%以上(100%を含む)になるまで抽出除去し、極細繊維束形成性長繊維を島成分ポリマーからなる極細長繊維の繊維束に変換するのが好ましい。
【0035】
必要に応じて、極細繊維束形成性長繊維を極細化する前または極細化と同時に、下記式:
[(収縮処理前の面積−収縮処理後の面積)/収縮処理前の面積]×100
で表される面積収縮率が好ましくは25%以上、より好ましくは25〜75%、さらに好ましくは30〜75%になるように収縮処理を行って高密度化してもよい。収縮処理により形態保持性がより良好になり、繊維の素抜けが防止され、また、後述する微細空隙を所定数形成することが容易になる。
【0036】
極細化前に行う場合、水蒸気雰囲気下で絡合ウェブを収縮処理するのが好ましい。水蒸気による収縮処理は、例えば、絡合ウェブに海成分に対して30〜200質量%の水分を付与し、次いで、相対湿度が70%以上、より好ましくは90%以上、温度が60〜130℃の加熱水蒸気雰囲気下で60〜600秒間加熱処理することが好ましい。上記条件で収縮処理すると、水蒸気で可塑化された海成分ポリマーが島成分ポリマーにより構成される長繊維の収縮力で圧搾・変形するので緻密化が容易になる。次いで、収縮処理した絡合ウェブを85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理して海成分ポリマーを溶解除去する。また、海成分ポリマーの除去率が95質量%以上になるように、水流抽出処理してもよい。水流の温度は80〜98℃が好ましく、水流速度は2〜100m/分が好ましく、処理時間は1〜20分が好ましい。
【0037】
収縮処理と極細化を同時に行う方法としては、例えば、絡合ウェブを65〜90℃の熱水中に3〜300秒間浸漬した後、引き続き、85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理する方法が挙げられる。前段階で、極細繊維束形成性長繊維が収縮すると同時に海成分ポリマーが圧搾される。圧搾された海成分ポリマーの一部は繊維から溶出する。そのため、海成分ポリマーの除去により形成される空隙がより小さくなるので、より緻密化した絡合不織布が得られる。
【0038】
任意に行われる収縮処理および海成分ポリマー除去により、好ましくは140〜3000g/m2の目付を有する絡合不織布が得られる。前記絡合不織布中の繊維束の平均繊度は0.5〜10dtex、好ましくは0.7〜5dtexである。極細長繊維の平均繊度は0.001〜2dtex、好ましくは0.002〜0.2dtexである。前記範囲内であると、得られる皮革様シートの緻密性、その表層部の不織布構造の緻密性が向上する。極細長繊維の平均繊度および繊維束の平均繊度が上記範囲内である限り繊維束中の極細長繊維の本数は特に制限されないが、一般的には5〜1000本である。
【0039】
前記絡合不織布の湿潤時の剥離強力は4kg/25mm以上であることが好ましく、4〜15kg/25mmであることがより好ましい。剥離強力は極細長繊維の繊維束の三次元絡合の度合いの目安である。上記範囲内であると、絡合不織布および得られる繊維銀面銀付調ライニング皮革の表面摩耗が少なく、形態保持性および充実感が良好である。後述するように、高分子弾性体を付与する前に絡合不織布を分散染料で染色してもよい。湿潤時の剥離強力が上記範囲内であると、染色時の繊維の素抜けやほつれを防止することができる。
【0040】
前記絡合不織布を構成する極細繊維束形成性長繊維を極細繊維束に変換する工程(3)から工程(6)の間で、極細繊維がポリエステル系繊維の場合には、必要に応じて、絡合不織布を分散染料で染色してもよい(工程(7))。分散染料による染色は過酷な条件(高温、高圧)で行われるため、高分子弾性体を付与する前に染色(先染め)すると極細繊維の破断などが生じることが多い。本発明では極細繊維が長繊維であるので先染めが可能となる。前記した収縮処理により極細長繊維は高収縮して分散染色条件に十分耐える強度を持つので、先染めする場合には収縮処理することが好ましい。通常、高分子弾性体を含む絡合不織布を染色した場合、高分子弾性体に付着した分散染料を除去して染色堅牢度を向上させるために強アルカリ条件下での還元洗浄工程と中和工程が必要であった。本発明では、工程(4)(高分子弾性体付与)の前に染色することが可能であるので、これらの工程が不要になる。また、染色中に高分子弾性体が脱落するなどの問題があったが、先染めによりこの問題が回避されると共に高分子弾性体の選択範囲が広がる。先染めした場合、余分な染料は湯や中性洗剤液等を使用した洗浄で除去できる。従って、極めてマイルドな条件で染色の摩擦堅牢度、特に、湿摩擦堅牢度を向上させることができる。また、高分子弾性体が染色されていないので、繊維と高分子弾性体との染料吸尽性の違いに起因する色斑を防止することもできる。
【0041】
使用する分散染料としては、分子量が200〜800の、モノアゾ系、ジスアゾ系、アントラキノン系、ニトロ系、ナフトキノン系、ジフェニルアミン系、複素環系等のポリエステル染色に通常使用される分散染料が好ましく、用途や色相に応じて単独あるいは配合して使用する。染色濃度は要求される色相に応じて異なるが、30%owfを超える高濃度で染色した場合には湿潤時の摩擦堅牢度が悪化するので、30%owf以下が好ましい。浴比は特に制限はないが、1:30以下の低浴比が、コスト、環境への影響の観点で好ましい。染色温度は、70〜130℃が好ましく、95〜120℃がより好ましい。また、染色時間は30〜90分が好ましく、淡色では30〜60分、濃色では45〜90分がより好ましい。染色後の還元洗浄は染色濃度が10%owf以上の場合は3g/L以下の低濃度の還元剤を使用しても良いが、中性洗剤を使用して40〜60℃の温水で洗浄するのが好ましい。
【0042】
工程(4)では、前記絡合不織布に高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与し、熱を加えながら高分子弾性体を表面および裏面に移行させ、その後、凝固させて皮革様シートを製造する。高分子弾性体としては、人工皮革製造に従来用いられているポリウレタン弾性体、アクリロニトリル系高分子弾性体、オレフィン系高分子弾性体、ポリエステル弾性体、(メタ)アクリル系高分子弾性体などから選ばれる少なくとも1種の弾性体を用いることができるが、ポリウレタン弾性体及び/又は(メタ)アクリル系高分子弾性体が特に好ましい。
【0043】
ポリウレタン弾性体としては、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、及び、必要に応じて鎖伸長剤を所望の割合で、溶融重合法、塊状重合法、溶液重合法などにより重合して得られる公知の熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
【0044】
高分子ポリオールは用途や必要性能に応じて公知の高分子ポリオールから選択される。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)、ポリメチルペンタンジオールなどのポリエーテル系ポリオール及びその共重合体;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン アジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン セバケート)ジオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステル系ポリオール及びその共重合体;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(ポリへキシレンカーボネートジオール)、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン カーボネート)ジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、などのポリカーボネート系ポリオール及びその共重合体;ポリエステルカーボネートポリオールなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。高分子ポリオールの平均分子量は500〜3000であるのが好ましい。得られる繊維銀面銀付調ライニング皮革の耐光堅牢性、耐熱堅牢性、耐NOx黄変性、耐汗性、耐加水分解性などの耐久性をより良好にする場合には、2種以上の高分子ポリオールを使用することが好ましい。
【0045】
有機ジイソシアネートは用途や必要性能に応じて公知のジイソシアネート化合物から選択すればよい。例えば、芳香環を有しない脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート(無黄変型ジイソシアネート)、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添メチレンジイソシアネートなどや、芳香環ジイソシアネート、例えば、フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなど挙げることができる。特に、光や熱での黄変が起こりにくいことから、無黄変型ジイソシアネートを使用することが好ましい。
【0046】
鎖伸長剤は、用途や必要性能に応じて公知のウレタン樹脂の製造に鎖伸長剤として用いられている活性水素原子を2個有する低分子化合物から選択すれば良い。例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;トリエチレンテトラミン等のテトラミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパン等のトリオール類;ペンタエリスリトール等のペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。中でも、ヒドラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびその誘導体、エチレントリアミンなどのトリアミンの中から2〜4種類を併用することが好ましい。特に、ヒドラジン及びその誘導体は酸化防止効果を有するので、耐久性が向上する。また、鎖伸長反応時に、鎖伸長剤とともに、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノアミン類;4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などのカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのモノオール類を併用してもよい。
【0047】
熱可塑性ポリウレタンのソフトセグメント(ポリマージオール)の含有量は90〜15質量%であることが好ましい。
【0048】
(メタ)アクリル系高分子弾性体としては、例えば、軟質成分、架橋形成性成分、硬質成分と前記いずれの成分にも属さないその他の成分からなる水分散性または水溶性のエチレン性不飽和モノマーの重合体が挙げられる。
【0049】
軟質成分とは、その単独重合体のガラス転移温度(Tg)が−5℃未満、好ましくは−90℃以上で−5℃未満である成分であり、非架橋性(架橋を形成しない)であることが好ましい。軟質成分を形成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸誘導体などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0050】
硬質成分とは、その単独重合体のガラス転移温度(Tg)が50℃を越え、好ましくは50℃を越えて250℃以下である成分であり、非架橋性(架橋を形成しない)であることが好ましい。硬質成分を形成するモノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸誘導体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびそれらの誘導体;ビニルピロリドンなどの複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミドなどのビニル化合物;エチレン、プロピレンなどで代表されるα−オレフィンなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0051】
架橋形成性成分とは、架橋構造を形成し得る単官能または多官能エチレン性不飽和モノマー単位、または、ポリマー鎖に導入されたエチレン性不飽和モノマー単位と反応して架橋構造を形成し得る化合物(架橋剤)である。単官能または多官能エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどのトリ(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等などのテトラ(メタ)アクリレート類;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンなどの多官能芳香族ビニル化合物;アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸不飽和エステル類;2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、ペンタエリスリトールトリアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、グリセリンジメタクリレートとトリレンジイソシアネートの2:1付加反応物などの分子量が1500以下のウレタンアクリレート;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類およびそれらの誘導体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有するビニル化合物;ビニルアミドなどのアミド基を有するビニル化合物などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0052】
架橋剤としては、例えば、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、エポキシ基含有化合物、ヒドラジン誘導体、ヒドラジド誘導体、ポリイソシアネート系化合物、多官能ブロックイソシアネート系化合物などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0053】
(メタ)アクリル系高分子弾性体のその他の成分を形成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレート、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
【0054】
前記高分子弾性体の融点は130〜240℃であるのが好ましく、130℃での熱水膨潤率は好ましくは10%以上、より好ましくは10〜100%であり、損失弾性率のピーク温度は好ましくは10℃以下、より好ましくは−80〜10℃である。一般に、熱水膨潤率が大きい程高分子弾性体は柔軟であるが、分子内の凝集力が弱い為、後の工程や製品の使用時に剥落することが多く、バインダーとしての作用が不十分になる。上記範囲内であるとこのような不都合を避けることができる。熱水膨潤率は後述する方法により求めた。損失弾性率のピーク温度が10℃以下であると、繊維銀面銀付調ライニング皮革の風合いが良好であり、また、耐屈曲性等の力学的耐久性も良好である。損失弾性率は後述する方法で求めた。
【0055】
前記高分子弾性体は水溶液または水分散体として前記絡合不織布に含浸させる。水溶液または水分散体中の高分子弾性体含量は0.1〜60質量%が好ましい。高分子弾性体の水溶液または水分散体は、凝固後の高分子弾性体と極細長繊維の質量比が0.001〜0.6、好ましくは0.005〜0.6、より好ましくは0.01〜0.5になるように含浸させる。高分子弾性体の水溶液または水分散体には、得られる繊維銀面銀付調ライニング皮革の性質を損なわない範囲で、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、発泡剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料などを添加してもよい。
【0056】
高分子弾性体の水溶液または水分散体を絡合不織布に含浸させる方法は特に制限されないが、例えば、浸漬などにより絡合不織布内部に均一に含浸する方法、表面と裏面に塗布する方法などが挙げられる。従来の人工皮革の製造においては、感熱ゲル化剤などを使用して、含浸した高分子弾性体が絡合不織布の表面と裏面に移行(マイグレーション)するのを防止し、高分子弾性体を絡合不織布中で均一に凝固させている。しかし、本発明においては、含浸した高分子弾性体を絡合不織布の表面と裏面に移行(マイグレーション)させ、その後凝固させて、高分子弾性体の存在量を厚み方向に略連続的に勾配させるのが好ましい。すなわち、本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革において、高分子弾性体は厚み方向中央部では疎に、両表層部では密に存在するのが好ましく、表面層の存在量が裏面層よりも密であることがより好ましい。このような分布勾配を得るために、本発明では、高分子弾性体の水溶液または水分散体を含浸させた後、マイグレーション防止手段を講じることなく、絡合不織布の表面と裏面を好ましくは110〜150℃で、好ましくは0.5〜30分間加熱する。このような加熱により水分が表面と裏面から蒸散し、それに伴って高分子弾性体を含む水分が両表層部に移行し、高分子弾性体が表面と裏面近傍で凝固する。マイグレーションのための加熱は、乾燥装置中などにおいて熱風を表面および裏面に吹き付けることにより行うのが好ましい。
【0057】
工程(5)では、工程(4)で得た皮革様シート(凝固した高分子弾性体を含有する絡合不織布)の少なくとも片方の表面を、前記海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスする。これにより銀面が形成される。銀面が形成される限り特に限定されないが、加熱温度は130℃以上であるのが好ましい。熱プレスは、例えば、加熱した金属ロールによって行われ、1〜1000N/mmの線圧で熱プレスするのが好ましい。なお、熱プレス温度が上記温度(海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低い温度)よりも高い場合は、極細長繊維を構成するポリマー同士の融着が大きくなり、表面層より内部、例えば基体層2(後述する)を構成する極細長繊維同士が融着するため、板状の非常に硬いものになってしまう。一方、熱プレス温度が前記高分子弾性体の融点以上の場合は、高分子弾性体が溶融し、プレス機に接着するため、平滑な銀面は得られず、また、生産性も不良となる。なお、表面付近のウエット感を低減させ、水分を内部に効率的に拡散・蒸散させるには、該熱プレスを表面層の断面に存在する空隙孔の面積が、基体層3(後述する)と裏面層の断面に存在する空隙孔の面積の80%以下になるように行うことが好ましく、5〜80%になるように行うことがより好ましい。そのためには、表面層のみの熱プレスか、両面熱プレス後に2分割(スライス処理)することが好ましい。
【0058】
このように本発明の銀面の形成方法は、高分子弾性体を含浸後の絡合不織布表面に高分子弾性体をさらに塗布し凝固する方法または高分子弾性体のフィルムを貼付する従来の方法とは異なる。すなわち、本発明においては、絡合不織布に高分子弾性体の水溶液または水分散体を含浸し、高分子弾性体を表面及び裏面にマイグレーションさせた後凝固し、高分子弾性体を中心部より表面及び裏面近傍により密に存在させ、次いで、表面を熱プレスすることにより銀面を形成する。或は、両面を熱プレスした後に厚み方向に分割して銀面を形成したライニング皮革を2枚製造することも効率的に製造可能な点で好ましい。これらの方法によれば、銀面をより低温で形成することができるが、その理由は極細長繊維に存在する副吸熱ピークによる極細繊維の部分的な融着に起因していると考えられる。塗布または貼付により形成した銀面はプラスチック感、ゴム感が強く、また、表面に付着した水分の吸収速度を低下させるが、本発明の方法により得られた銀面は天然皮革用の外観、低反発性、充実感を有するのみならず、表面に付着した水分を急速に吸収、拡散させる。上記のようにして得られた繊維銀面銀付調ライニング皮革の厚さは100μm〜6mmであることが好ましい。
【0059】
必要に応じて、前記繊維銀面上に高分子弾性体の水分散体または水溶液をグラビア塗布し、熱を加えて高分子弾性体を乾燥、凝固させる任意の工程(6)を行うのが好ましい。特に、表面層に選択的に塗布した場合、エンボス模様の固定性が良好となり、製品の使用中にその模様が消失し難い傾向がある。工程(6)では、繊維銀面上に、上記した高分子弾性体の水溶液または水分散体を固形分として2〜30g/m2グラビア塗布し、90〜140℃の熱風を吹きつけて乾燥、凝固させて銀擦り調の外観を付与することが好ましい。
【0060】
更に、前記工程(6)の後で、グラビア塗布面を70〜250℃の平滑面に接触させる工程(8)を行うことが、表面のツヤ出し及び2色感を付与させる点で好ましい。接触時間は特に限定しないが、70〜250℃の金属ロールに0.1〜300秒接触させることが上記効果を発現し易い点で好ましい。高分子弾性体、およびその水溶液または水分散体の詳細は上記した通りである。
【0061】
図4および6に示すように、上記方法により製造された繊維銀面銀付調ライニング皮革の表面層を形成する極細長繊維同士は、工程(5)の加圧加熱により少なくとも一部融着している。ただし、融着状態を観察しやすくするために高分子弾性体を付与せずに繊維銀面銀付調ライニング皮革を作製した。図5は、図4の繊維銀面銀付調ライニング皮革を手でこすり、集合した極細長繊維をばらばらに分離した後に撮影した走査型電子顕微鏡写真であり、極細長繊維が確かに融着していることを示す。このように、本発明では、極細長繊維の融着により銀面が形成され、高分子弾性体がその形態を保持している。一方、基体層2を形成する極細長繊維同士は融着していない。「一部融着」とは、図4〜6に示すように、極細長繊維同士が長さ方向に部分的に融着している状態、および、図2に示すように、繊維束のある断面において一部の極細長繊維同士が融着している状態を表す。
【0062】
また、図2に示すように、表面層の繊維束2の内部は高分子弾性体3で充填されており、かつ、繊維束2の外周は高分子弾性体3で完全に覆われている。極細繊維の一部は融着している(参照番号4)。図3に示すように、基体層2が高分子弾性体を含む場合、極細長繊維1同士、繊維束2同士、および極細長繊維1と繊維束2が高分子弾性体3を介して接着しているが、繊維束2の内部は高分子弾性体3で充填されておらず、また、繊維束2の外周は高分子弾性体3により完全には覆われておらず一部が覆われているだけである。
【0063】
本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革は、上記条件(1)〜(3)に加えて、下記条件(4)と(5)を満足することが好ましい。
(4)極細繊維で囲まれた最大幅0.1〜50μm、最小幅10μm以下の微細空隙が表面1cm2当り8000個以上である。
(5)押圧荷重12kPa(gf/cm2)、摩耗回数5万回で測定したマーチンデール法での表面磨耗減量が30mg以下である。
【0064】
微細空間が上記範囲より広いと表面感が良くなく、凸凹が目立ってしまう。上記の構成であると、0.2cc/cm2/sec以上の通気性、および、30℃、80%RHで1000g/m2・24hr以上の通湿度が得られるので好ましい。上記微小空隙は、8000〜100000個であることが良好な通気性および通湿度を得る上で好ましい。微小空隙のサイズや個数は、電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0065】
前記極細繊維で囲まれた最大幅0.1〜50μm、最小幅10μm以下の微細空隙が表面1cm2当り8000個以上存在するように、海島型長繊維の島の数を12〜1000とすることが好ましい。
【0066】
また、押圧荷重12kPa、摩耗回数5万回で測定したマーチンデール法での表面磨耗減量が30mg以下であると、実使用時の表面磨耗量が少なく、外観変化も少なく、耐久性が良好になるので好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中で記載される部および%は、特にことわりのない限り質量基準である。なお各特性は以下の方法で測定した。
【0068】
(1)極細長繊維の平均繊度
繊維銀面銀付調ライニング皮革を形成している極細長繊維(20個)の断面積を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)により測定し平均断面積を求めた。この平均断面積と繊維を形成するポリマーの密度から平均繊度を計算した。
【0069】
(2)繊維束の平均繊度
絡合不織布を形成している繊維束の中から選び出した平均的な繊維束(20個)を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)で観察し、その外接円の半径を測定して平均断面積を求めた。この平均断面積が繊維を形成するポリマーで充填されているとし、該ポリマーの密度から繊維束の平均繊度を計算した。
【0070】
(3)融点
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温からポリマー種類に応じて300〜350℃まで昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したとき(2nd Run)に得られた吸熱ピーク(融点ピーク)のピークトップ温度を求めた。
【0071】
(4)副吸熱ピーク温度
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したとき(1st Run)に得られた吸熱ピークの内、上記融点ピークよりも低温側のピークのトップ温度を求めた。
【0072】
(5)損失弾性率のピーク温度
厚さ200μmの高分子弾性体フィルムを、130℃で30分間熱処理し、粘弾性測定装置(レオロジ社製FTレオスペクトラー「DVE−V4」)を用いて周波数11Hz、昇温速度3℃/分で測定を行い、損失弾性率のピーク温度を求めた。
【0073】
(6)130℃での熱水膨潤率
厚さ200μmの高分子弾性体フィルムを加圧下130℃で60分間熱水処理し、50℃に冷却後、ピンセットで取り出した。過剰な水をろ紙でふき取り、重量を測定した。浸漬前の重量に対する増加した重量の割合を熱水膨潤率とした。
【0074】
(7)湿潤時の剥離強力
たて15cm、幅2.7cm、厚さ4mmのゴム板の表面を240番のサンドペーパーでバフ掛けし、表面を十分に粗くした。溶剤系の接着剤(US−44)と架橋剤(ディスモジュールRE)の100:5の混合液を該ゴム板の粗面とたて(シート長さ方向)25cm、幅2.5cmの試験片の片面に12cmの長さにガラス棒で塗布し、100℃の乾燥機中で4分間乾燥した。その後、ゴム板と試験片の接着剤塗布部分同士を貼り合わせ、プレスローラーで圧着し、20℃で24時間キュアリングした。蒸留水に10分浸漬した後に、ゴム板と試験片の端をそれぞれチャックで挟み、引張試験機で引張速度50mm/分で剥離した。得られた応力−ひずみ曲線(SS曲線)の平坦部分から湿潤時の平均剥離強力を求めた。結果は、試験片3個の平均値で表した。
【0075】
(8)微細空隙の幅と個数、表面層の断面に存在する空隙孔の面積と基体層3および裏面層の断面に存在する空隙孔の面積の比率
繊維銀面銀付調ライニング皮革の表面を走査型電子顕微鏡(倍率:800倍〜2000倍程度)により観察し極細繊維で囲まれた不定形(20個)空隙の巾を計測し、最大巾と最小幅を求めた。ついで、一定面積(100μm×100μm)中に存在する微細空隙の個数を計測して表面1cm2当りに換算した。また、繊維銀面銀付調ライニング皮革の表面層、基体層3および裏面層の断面を走査型電子顕微鏡(倍率:800倍〜2000倍程度)により観察し、任意20箇所(表面層20箇所、基体層3の10箇所、裏面層10箇所)を抽出し、一定面積(100μm×100μm)中に存在する極細繊維および高分子弾性体以外の空間で囲まれた空隙孔の面積を求めその比を求めた。
【0076】
(9)見掛け密度
試料を縦16cm×横16cmに切り取り、天秤にて重量を少数第3位まで秤量し、目付(g/m2)を求めた。次に厚さをJISに準拠して圧接子径8mm、圧荷重240g/m2で測定し、該目付けと厚さから見かけ密度を計算した。
【0077】
(10)吸水拡散速度
15cm×15cmの繊維銀面銀付調ライニング皮革と市販の天然皮革(ライニング用豚革)の中央部に水を0.3ccスポット状に滴下し、温度:27℃、湿度:52%の温調室に放置して吸水時間と吸水後の拡散面積(単位:cm2)を測定した。
【0078】
(11)乾燥速度
繊維銀面銀付調ライニング皮革と市販の天然皮革(ライニング用牛革と豚革)のサンプル(7cm×7cm)に水1ccを吸水させ、温度:27℃、湿度:52%の温調室に放置して各時間での重量を測定し、残存水分率を計算した。
【0079】
(12)着用試験
繊維銀面銀付調ライニング皮革と市販の天然皮革(ライニング用牛革と豚革)をそれぞれ用いてスポーツシューズを作製した。このシューズを素足で履き、30分(約3000歩)歩いた時の蒸れの有無を判定した。
【0080】
製造例1
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂の製造
攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に、酢酸ビニル29.0kgおよびメタノール31.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9kgf/cm2となるようにエチレンを導入した。2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(開始剤)をメタノールに溶解して濃度2.8g/Lの開始剤溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mLを注入し重合を開始した。重合中、エチレンを導入して反応槽圧力を5.9kgf/cm2に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を610mL/hrで連続添加した。10時間後に重合率が70%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。
次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しエチレン変性ポリ酢酸ビニル(変性PVAc)のメタノール溶液を得た。該溶液にメタノールを加えて調製した変性PVAcの50%メタノール溶液200gに、NaOHの10%メタノール溶液46.5gを添加してケン化を行った(NaOH/酢酸ビニル単位=0.10/1(モル比))。NaOH添加後約2分で系がゲル化した。ゲル化物を粉砕器にて粉砕し、60℃で1時間放置してケン化を更に進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するNaOHを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和したことを確認後、濾別して白色固体を得た。白色固体にメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液し、乾燥機中70℃で2日間放置乾燥してエチレン変性ポリビニルアルコール(変性PVA)を得た。得られた変性PVAのケン化度は98.4モル%であった。また該変性PVAを灰化した後、酸に溶解して得た試料を原子吸光光度計により分析した。ナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.03質量部であった。
【0081】
また、上記変性PVAcのメタノール溶液に、n−ヘキサンを加え、次いで、アセトンを加える沈殿−溶解操作を3回繰り返した後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製変性PVAcを得た。該変性PVAcをd6−DMSOに溶解し、80℃で500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて分析したところ、エチレン単位の含有量は10モル%であった。上記の変性PVAcをケン化した後(NaOH/酢酸ビニル単位=0.5(モル比))、粉砕し、60℃で5時間放置して更にケン化を進行させた。ケン化物を3日間メタノールソックスレー抽出し、抽出物を80℃で3日間減圧乾燥を行って精製変性PVAを得た。該変性PVAの平均重合度をJIS K6726に準じて測定したところ330であった。該精製変性PVAを5000MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)により分析したところ、1,2−グリコール結合量は1.50モル%および3連鎖水酸基の含有量は83%であった。さらに該精製変性PVAの5%水溶液から厚み10μmのキャストフィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥した後に、前述の方法により融点を測定したところ206℃であった。
【0082】
実施例1
上記変性PVA(水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール:海成分)と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(島成分)を、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃で溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)より吐出した。紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度が2.0デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集し、目付37g/m2の長繊維ウェブを得た。
上記長繊維ウェブに油剤を付与し、クロスラッピングにより8枚重ねて総目付が296g/m2の重ね合わせウェブを作製し、更に針折れ防止油剤をスプレーした。次いで、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmにて両面から交互に2400パンチ/cm2でニードルパンチし、絡合ウェブを作成した。このニードルパンチ処理による面積収縮率は80%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は375g/m2であった。
絡合ウェブを巻き取りライン速度10m/分で70℃熱水中に20秒間浸漬して面積収縮を生じさせた。ついで95℃の熱水中で繰り返しディップニップ処理を実施して変性PVAを溶解除去し、極細長繊維を25本含む、平均繊度2.4デシテックスの繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布を作成した。乾燥後に測定した面積収縮率は50〜55%であり、目付は520g/m2、見掛け密度は0.47g/cm3であった。また、剥離強力は、10.0kg/25mmであった。次いで、5%owfの分散染料により茶色に染色した。工程通過性(染色時の繊維の素抜けやほつれ、バフィング時の繊維の抜け等がない)は良好で、発色の良好な極細長繊維からなる絡合不織布を得た。該絡合不織布を構成する極細長繊維の副吸熱ピークを測定した結果、118℃に観測され、融点ピーク(232℃)と副吸熱ピークの面積比は14:1であった。
該絡合不織布をバフィングにより厚みを1.00mmに調整した後、ソフトセグメントがポリへキシレンカーボネートジオールとポリメチルペンタンジオールの70:30の混合物からなり、ハードセグメントが主として水添メチレンジイソシアネートからなるポリウレタン(融点が180〜190℃、損失弾性率のピーク温度が−15℃、130℃での熱水膨潤率が35%の高分子弾性体)を用いて固形分濃度が10質量%の水分散体を調製した。この水分散体を高分子弾性体と極細長繊維の質量比が0.4:99.6となるように上記の染色された絡合不織布に含浸した後、120℃の熱風を表面から吹きつけて乾燥すると同時に高分子弾性体を表面および裏面に移行させ、凝固させた。
得られた絡合不織布の表面を表面に毛穴シボ模様を有する172℃の金属ロールを用いて線圧100N/mmで熱圧着し(裏面は非加熱のゴムロールに接触)、表面層の繊維の一部を融着させて毛穴シボ模様を有する銀面を形成し、繊維銀面に上記組成の水系ポリウレタンをグラビアにて固形分付着量で10g/m2転写し、110℃の熱風を表面から吹きつけて乾燥し、凝固させて繊維銀面銀付調ライニング皮革を得た。繊維銀面銀付調ライニング皮革の表面と断面の走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ図7と8に示した。
また、表面の電子顕微鏡観察の結果、表面には極細繊維で囲まれた最大幅0.1〜50μm、最小幅10μm以下の微細空隙が1cm2当り35000個以上存在し、表面層の断面に存在する空隙孔の断面積は、基体層3と裏面層の断面に存在する空隙孔の断面積の25%の比率であった。押圧荷重12kPa(gf/cm2)、摩耗回数5万回で測定したマーチンデール法での表面磨耗減量は0mgであった。
得られた繊維銀面銀付調ライニング皮革は銀擦り調で意匠性に優れ、天然皮革様の低反発性、充実感および柔軟性を有しており、また、折り曲げたときに生じる折れシワ感が細かく天然皮革と見間違うほどであった。さらに表面の染料マイグレーションおよび摩擦堅牢度も良好なものであった。
得られた繊維銀面銀付調ライニング皮革の吸水拡散速度と乾燥速度を測定した結果を図11と12に示した。図11から、繊維銀面銀付調ライニング皮革は表面に付着した水滴を迅速に吸収し拡散させることが分かる。また、図12から乾燥速度が非常に速いことが分かる。
得られた繊維銀面銀付調ライニング皮革を靴のライニング(靴の中敷き・靴の中貼り)に使用してスポーツシューズを作製し、着用試験を行った。ライニング表面はドライ感に優れ、足の裏や側面部分はいつもサラリとして、蒸れ感を殆ど感じない履き心地であった。
実施例2
実施例1で得られた繊維銀面銀付調ライニング皮革の表面を170℃の金属ロールに2秒接触させて、表面にツヤと2色感のある繊維銀面銀付調ライニング皮革を得た。図12から明らかなように、乾燥速度は非常に速かった。得られた繊維銀面銀付調ライニング皮革を靴のライニング(靴の中敷き・靴の中貼り)に使用してスポーツシューズを作製し、着用試験を行った。ライニング表面はドライ感に優れ、足の裏や側面部分はいつもサラリとして、蒸れ感を殆ど感じない履き心地であった。
【0083】
比較例1
牛革(腰裏)を用いて乾燥速度を測定した。図12に示した結果から明らかなように、乾燥速度が遅く、速乾性とはいい難かった。
前記牛革をライニング材に用いて実施例1と同様にしてスポーツシューズを作製し、着用試験を行った。乾燥速度が遅いので、足の裏や側面部分が湿っぽく汗で不快であった。
【0084】
比較例2
豚革を用いて吸水拡散速度と乾燥速度を測定した。図11に示した結果から明らかなように、表面に付着した水滴の吸収に35分要し、実施例1(29秒)と比べて完全に吸収するまでに約70倍の時間を要した。また、吸収した水分は殆ど拡散せず、実施例1の繊維銀面銀付調ライニング皮革に比べて拡散性が著しく悪かった。また、図12に示した結果から明らかなように、乾燥速度が遅く、速乾性とはいい難かった。豚革の表面と断面の走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ図9と10に示した。
前記豚革をライニング材に用いて実施例1と同様にしてスポーツシューズを作製し、着用試験を行った。乾燥速度が遅いので、足の裏や側面部分が湿っぽく汗で不快であった。
【0085】
比較例3
離型紙にポリウレタン溶液(ME−8115LP(大日精化工業(株)製)を塗布、乾燥し乾燥後厚み50μmのフィルム(最終的に銀面となる)を形成した。このフィルムにポリウレタン(2液型)接着剤(TA−105(DIC(株)製)を乾燥後の厚みが100μmになるように塗布し接着層を形成した。接着層が半乾燥、粘着性が残っている状態で、実施例1と同様の方法で得た高分子弾性体含浸、染色絡合不織布の一方の表面に接着層を介して貼り合わせた。さらに40〜50℃の雰囲気中で3日間のエージングを行った後、離型紙を剥離し、造面法により銀面を形成した銀付き調人工皮革からなるライニング皮革を得た。得られたライニング皮革の表面に付着した水滴は全く吸収されず、水滴のまま残る状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革は天然皮革様の低反発性、充実感および柔軟性を有し、また、折り曲げたときに天然皮革様の細かい折れシワを生じるだけでなく、人工皮革および造面法により銀面を形成した銀付調人工皮革に比べて、表面に付着した水分の吸収速度が速く、また、吸収した水分の拡散速度も速い。そのため、本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革は速乾性を示し、水分が付着しても表面のドライ感を維持することが出来る。本発明の繊維銀面銀付調ライニング皮革は特に靴のライニング材(内張り材、中張り材、中敷きなどの靴の内部表面を形成するための素材)として有用であり、これをライニング材として用いた靴は蒸れ感を殆ど感じない履き心地を与える。
【符号の説明】
【0087】
1 極細長繊維
2 繊維束
3 高分子弾性体
4 融着した極細長繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維銀面を有する銀付調人工皮革からなるライニング皮革であって、該銀付調人工皮革が極細長繊維を複数本含む繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなり、下記条件(1)〜(3):
(1)前記極細長繊維の平均繊度が0.001〜2dtexである、
(2)前記極細長繊維の繊維束の平均繊度が0.5〜10dtexである、および
(3)前記ライニング皮革を厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層を形成する極細長繊維同士は少なくとも一部融着して繊維銀面を形成しているが、基体層2、基体層3および裏面層を形成する極細長繊維同士は融着していない
を同時に満足するライニング皮革。
【請求項2】
前記高分子弾性体の130℃での熱水膨潤率が10%以上であり、かつ、損失弾性率のピーク温度が10℃以下である請求項1に記載のライニング皮革。
【請求項3】
前記極細長繊維が、海成分が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールであり、島成分が水不溶性熱可塑性ポリマーである海島型断面長繊維から該海成分を除去して得られる請求項1又は2に記載のライニング皮革。
【請求項4】
前記繊維銀面上に、グラビア塗布された高分子弾性体を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のライニング皮革。
【請求項5】
前記極細長繊維が染色されている請求項1〜4のいずれか1項に記載のライニング皮革。
【請求項6】
表面層の断面に存在する空隙孔の面積が、基体層3と裏面層の断面に存在する空隙孔の面積の80%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載のライニング皮革。
【請求項7】
下記の順次工程:
(1)海島型長繊維を用いて、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程、
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維から海成分を除去して、該極細繊維束形成性長繊維を平均繊度0.001〜2dtexの極細長繊維を複数本含む平均単繊度0.5〜10dtexの繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
(4)高分子弾性体と前記極細長繊維の質量比が0.001〜0.6となるように、前記絡合不織布に前記高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与し、熱を加えて高分子弾性体を前記絡合不織布の両表面(表面および裏面)に移行させ、凝固する工程、
(5)前記皮革様シートの少なくとも片方の表面を海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスし、繊維銀面を形成する工程、および
(6)前記繊維銀面上に高分子弾性体の水分散体または水溶液をグラビア塗布し、熱を加えて高分子弾性体を乾燥、凝固させる任意の工程、
(但し、工程(4)を工程(3)の前に行ってもよい)
含む繊維銀面を有する銀付調人工皮革からなるライニング皮革の製造方法。
【請求項8】
前記工程(3)から工程(6)の間で、下記工程(7):
(7)前記極細長繊維を染色する工程
を行う請求項7に記載の繊維銀面を有する銀付調人工皮革からなるライニング皮革の製造方法。
【請求項9】
前記工程(6)の後で下記工程(8):
(8)グラビア塗布面を70〜250℃の平滑面に接触させる工程
を行う請求項7または8に記載の繊維銀面を有する銀付調人工皮革からなるライニング皮革の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−74540(P2011−74540A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228429(P2009−228429)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】