説明

置換めっき層の剥離方法

【課題】半導体装置用部材のリード線に、電解めっき層と置換めっき層とが同時に析出した後、置換めっき層のみ剥離する方法を提供する。
【解決手段】半導体装置用部材10のステム12に装着された複数のリード線18の各一端部を治具30内に挿入して、前記一端部の端面が治具30内に設けられた陰極としての第1電極24に当接した後、陽極としての第2電極が浸漬された電解金めっき液に浸漬し、第1電極24と第2電極との間に電流を印加して、第1電極18aの各露出面に電解金めっき層を形成する。その際リード線18aより短いリード線18bの露出面には置換めっき層が析出する。次いで治具30に装着された半導体装置用部材10を、金めっきを剥離する剥離液に浸漬して、第1電極24を陰極とし、陽極42との間に直流電流を印加すると、置換めっき層のみが剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は置換めっき層の剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品用部材として、図3に示す半導体装置用部材が知られている。図3に示す半導体装置用部材10は、本体部材としての金属製のステム12に貫通孔14,14が形成されている。かかる貫通孔14,14の各々には、絶縁層としての低融点ガラス層16が充填されて金属部材としてのリード線18,18が挿通されている。リード線18,18は、ステム12と電気的に絶縁されて、両端部がステム12から突出している。
かかるステム12の一面側には、金属製のヒートシンク20が装着されている。このヒートシンク20の一面側20aに半導体素子が搭載される。
更に、半導体装置用部材10のヒートシンク20の搭載面側に突出しているリード線18,18の一端部17,17は、ヒートシンク20の一面側20aに搭載される半導体素子とワイヤボンディングされて、電気的に接続される。
【0003】
図3に示す半導体装置用部材10では、リード線18,18のステム12の両面側に突出する突出部には、通常、電解金めっきが施される。
かかる電解金めっきは、例えば下記特許文献1に提案されている図4に示す治具30を用いて施す。
図4に示す治具30は、絶縁基板22の一面側に配設された第1電極24上に、ゴム等の弾性材料から成る複数本の細長い棒状部材26,26・・が配列されているものである。かかる治具30に半導体装置用部材10を装着する際には、リード線18,18の各他端部を棒状部材26,26間に挿入し、その端面を第1電極24に当接する。
次いで、半導体装置用部材10を装着した治具30を、図5に示す様に、電解金めっき液28に浸漬し、治具30の第1電極24を陰極とすると共に、電解金めっき液に浸漬されている第2電極32を陽極として、第1電極24と第2電極32との間に直流電源34から直流電流を印加して電解金めっきを施す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−336564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5示す電解金めっきでは、半導体装置用部材10のリード線18,18のみに通電がなされるため、リード線18,18のステム12から突出する突出部のみに電解金めっきが施される。
しかし、多数の半導体装置用部材10の全てにおいて、リード線18,18の長さを常に一定長に切断することは至難のことであり、図6に示す様に、リード線18,18の長さが異なる半導体装置用部材10′が混在することがある。
かかる半導体装置用部材10′のリード線18a,18bを治具30に装着すると、図6に示す様に、治具30の第1電極24には、リード線18aよりも短いリード線18bの端面は非接触状態となる。
かかる図6に示す様に、長さが揃ったリード線18,18を具備する半導体装置用部材10と、長さが異なるリード線18a,18bを具備する半導体装置用部材10′とが装着された治具30を、図5に示す様に、電解金めっき液28に浸漬して電解金めっきを施すと、リード線18bには給電されず電解金めっきを施すことはできないが、置換金めっき層が形成される。
【0006】
この置換金めっき層は、電解金めっき層よりも密着強度が低いため、置換めっき層がリード線18bに形成された半導体装置用部材10′は不良品である。このため、不良品である半導体装置用部材10′と、長さが等しく電解金めっき層が形成されたリード線18,18を具備する良品の半導体装置用部材10とを区別することが必要である。
しかしながら、電解金めっき層と置換金めっき層とは同一色であるため色調で判別することは困難である。このため、従来は、熟練者がリード線18の端面等を顕微鏡検査して置換金めっき層が形成されていなか検査していた。
しかも、長さが異なるリード線18a,18bを具備する半導体装置用部材10′の混在は、不特定に発生するため、半導体装置用部材10の全数を検査することが必要であった。
他方、リード線18に形成された置換金めっき層は、金めっきの剥離液によって剥離して、リード線18の下地めっきや地肌を露出することによって、電解金めっき層が形成されたリード線18と容易に区別ができる。
しかしながら、金めっきの剥離液には、電解金めっき層からも金が溶出する。このため、リード線18,18の突出部に形成する電解金めっき層を、必要厚さよりも厚付けすることが必要である。
かかる電解金めっき層の厚付けは、電解金めっき時間を長くし、且つ資源の無駄となって、最終製品の製造コストが高くなる。
そこで、本発明は、置換めっき層を剥離する際に、電解めっき層も同時に剥離する従来の置換めっき層の剥離方法の課題を解決し、電解めっき層を実質的に剥離せずに置換めっき層を選択的に剥離できる置換めっき層の剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討した結果、図6に示す長さが揃ったリード線18,18を具備する半導体装置用部材10と、長さが異なるリード線18a,18bを具備する半導体装置用部材10′が装着された治具30を、図5に示す様に、電解金めっき液28に浸漬して電解金めっきを施した後、金めっきの剥離性能を有し、且つ電解質が添加された剥離液に浸漬して、治具30の第1電極32を陰極にして直流電流を給電する電解剥離を試みた。
かかる電解剥離によれば、治具30の第1電極32に非接触状態のリード線18bに形成されていた置換金めっき層は剥離され、リード線18bに施した下地めっきが露出し、第1電極32に接触している他のリード線18等と明らかに色調が異なり、且つ他のリード線18に形成された電解金めっき層の厚さは殆ど変わらないことを見出した。
【0008】
すなわち、本発明者等は、前記課題を解決する手段として、電子部材用部材を構成する本体部材の表面を形成する金属と電気的に絶縁されて装着された複数の金属部材の各一端部を治具内に挿入して、前記一端部の各々の少なくとも一部が前記治具内に設けられた陰極としての第1電極に接触状態とした後、陽極としての第2電極が浸漬された電解めっき液に前記電子部材用部材及び治具を浸漬し、前記第1電極と第2電極との間に電流を印加して、前記金属部材の各露出面に電解めっき層を形成し、次いで、前記治具に一端部が挿入された電子部材用部材を、前記電解めっき層を形成するめっき金属を剥離する剥離性能を有し、且つ電解質が添加された剥離液に浸漬して、前記電解めっきの際に、前記第1電極と接触することなく非通電状態となった金属部材の表面に形成された置換めっき層を選択的に剥離するように、前記治具内の陰極としての第1電極と前記剥離液に浸漬された陽極としての第3電極との間に、直流電流を印加する置換めっき層の剥離方法を提供できる。
本発明者等が提供した課題を解決する手段において、下記の好ましい態様を上げることができる。
電子部品用部材としては、本体部材としての金属製のステムに形成された複数の貫通孔の各々に挿通された金属部材としてのリード線が、前記貫通孔の各々に充填された絶縁層によって、前記ステムと電気的に絶縁されている電子部品用部材を好適に用いることができる。
また、電解めっきとして、電解金めっきを採用し、剥離液として金めっき用の剥離液を好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明者等が提案した置換めっき層の剥離方法によれば、電解めっきを施した電子部品用部材を、電解めっき層を形成するめっき金属を剥離する剥離性能を有し、且つ電解質が添加された剥離液に浸漬して給電する。このため、金属部材に形成した電解めっき層を形成するめっき金属の溶出を防止できる。
一方、電解めっきの際に、給電されなかった非通電状態の金属部材には、剥離液中でも給電されず、非通電状態の金属部材に形成された置換めっき層は剥離液の剥離機能によって剥離される。置換めっき層が剥離された金属部材の下地めっき又は地肌が露出し、電解めっき層が形成された金属部材と色調が異なる。
このため、下地めっき又は地肌が露出した金属部材を具備する電子部品用部材は、全ての金属部材が通電状態で電解めっき層が形成されている電子部品用部材とは明確に区別でき、その選別を容易に行うことができる。
また、置換めっき層の剥離の際に、金属部材に形成した電解めっき層を形成するめっき金属の溶出を防止できるため、電解めっき層を厚付けすることを要せず、電解めっき時間を短縮でき、且つ省資源を図ることができる結果、最終製品の製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明者等が提案した置換めっき層の剥離方法で採用する電解めっき工程を説明する説明図である。
【図2】本発明者等が提案した置換めっき層の剥離方法で採用する剥離工程を説明する説明図である。
【図3】本発明者等が提案した置換めっき層の剥離方法を適用する電子部品用部材としての半導体装置用部材10についての斜視図である。
【図4】図3に示す半導体装置用部材10を治具30に装着した状態を説明する部分断面図である。
【図5】治具30に装着した半導体装置用部材10のリード線18,18に電解金めっきを施す工程を説明する説明図である。
【図6】長さが異なるリード線18a,18bを具備する半導体装置用部材10′を装着した状態を説明する部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者等が提案した置換めっき層の剥離方法では、電子部品用部材として、図3に示す半導体装置用部材10を好適に用いることができる。この半導体装置用部材10については、前述しているため省略する。
かかる半導体装置用部材10では、その全表面に必要に応じて下地めっきとしてのニッケルめっきを施した後、半導体装置用部材10を、そのリード線18,18の一方の端面が、図6に示す様に、治具30に設けられた第1電極24に当接するように装着する。図6に示す治具30には、長さが異なるリード線18a,18bを具備する半導体装置用部材10′も装着されている。半導体装置用部材10′のリード線18aよりも短いリード線18bの端面は、治具30の第1電極24に当接することができない。
この様に、治具30に装着された半導体装置用部材10,10′は、図1に示す様に、電解金めっき液28に浸漬して電解金めっきを施す。この電解金めっきでは、治具30の第1電極24を陰極とすると共に、電解金めっき液に浸漬されている第2電極32を陽極として、第1電極24と第2電極32との間に直流電源34から直流電流を印加して電解金めっきを施す。
かかる電解金めっきの際に、半導体装置用部材10′のリード線18bは、治具30の第1電極24と非接触状態にあって、非通電状態である。このため、リード線18bには、置換金めっき層が形成される。この置換金めっき層は、電解金めっき層と同一色調であって肉眼では区別できない。
尚、電解金めっき液としては、従来から公知の電解金めっき液を使用でき、その電解条件も公知の条件を採用できる。
【0012】
次いで、治具30に半導体装置用部材10,10′を装着した状態で、図2に示す様に、電解質が添加された金めっきの剥離液40に浸漬する。
この剥離液40としては、金めっきを剥離し得る剥離液であればよく、シアン化カリウム等の錯化剤とp−ニトロ安息香酸等の酸化剤とが配合されている剥離液を好適に用いることができる。かかる剥離液40に添加される電解質としては、水酸化カリウムを好適に用いることができる。
【0013】
剥離液40に浸漬された半導体装置用部材10,10′を装着した治具30の第1電極24を、図2に示す様に、電解めっきの際と同様に、陰極となるように直流電源44と結線し、且つ剥離液40に浸漬されている第3電極42が陽極となるように直流電源44と結線して、直流電源44から第1電極24と第3電極42との間に直流電流を印加する。かかる電解剥離によって、半導体装置用部材10のリード線18,18には、第1電極24から通電され、その露出面に形成された電解金めっき層は剥離されない。
一方、治具30の第1電極24と非接触状態である。このため、半導体装置用部材10′のリード線18bに形成された置換金めっき層には、剥離液40の剥離作用が直接作用し、置換金めっき層を選択的に剥離できる。
【0014】
ここで、実施例として、図1に示す様に、電解金めっき液に浸漬した治具30の第1電極24(陰極)と第2電極32との間に直流電流を印加して、半導体装置用部材10のリード線18,18及び半導体装置用部材10′のリード線18aに0.2〜0.15μm(平均0.17μm)の電解金めっき層を形成した。電解金めっきが終了したリード線18,18,18a,18bは略同一色調であった。
次いで、半導体装置用部材10,10′を装着した治具30を図2に示す剥離液40に浸漬した。この剥離液40には、水酸化カリウム(80g/L)、シアン化カリウム(20g/L)及びp−ニトロ安息香酸(15g/L)が添加されている。
かかる剥離液40に浸漬されている第1電極24(陰極)と第3電極42との間に直流電流を印加したところ、半導体装置用部材10′のリード線18bのみが、その下地めっきとしてのニッケルめっき層が露出し、リード線18,18,18aとは、その色調が明確に異なる。
また、かかる剥離処理終了したリード線18,18,18aについて、その電解金めっき層の厚さを測定したところ、0.2〜0.15μm(平均0.17μm)であって、剥離処理前と同一値であった。
このため、図2に示す置換金めっきの剥離処理によれば、半導体装置用部材10のリード線18,18に最終的に要求される厚さの金めっき層を形成しておくことで足りる。
【0015】
一方、比較例として、電解金めっきによって、半導体装置用部材10のリード線18,18,18aに0.29〜0.25μm(平均0.27μm)の電解金めっき層を形成した後、治具30から取り外した半導体装置用部材10,10′を、シアン化カリウム(20g/L)及びp−ニトロ安息香酸(15g/L)が添加された剥離液40に浸漬して、置換金めっき層の剥離処理を施した。
かかる置換金めっき層の剥離処理後の金めっき層の厚さは、0.19〜0.15μm(平均0.17μm)に低下していた。
この様に、比較例では、置換金めっき層の剥離処理を施す半導体装置用部材10のリード線18,18には、置換金めっき層の剥離処理で剥離される厚さを予定して電解金めっき層を厚付けすることが必要である。
【0016】
図2に示す置換金めっきの剥離処理では、電解金めっき層を剥離することなく置換金めっき層を選択的に除去できる理由は、次のように考えられる。
一端面が治具30の第1電極24に当接している半導体装置用部材10のリード線18,18には、図1に示す電解金めっきと同様に陰極として直流電流を給電する。このため、リード線18,18に形成された電解金めっき層の金の溶出を防止できる。
一方、電解金めっきの際に、給電されなかった非通電状態の半導体装置用部材10′のリード線18bには、剥離液中でも給電されない非通電状態である。このため、リード線18bの表面には、剥離液40の剥離作用が直接作用し、リード線18bの表面に形成された置換金めっき層の金が溶出する。
【0017】
以上、半導体装置用部材10,10′のリード線に電解金めっきを施した際に、非通電状態の半導体装置用部材10′のリード線18bの表面に形成される、置換金めっき層の剥離について説明しているが、電解金めっきに代えて、電解銅めっきや電解ニッケルめっきについても同様に、半導体装置用部材10′のリード線18bに形成される置換銅めっき層、置換銀めっき、置換ニッケルめっき層を剥離する際にも適用できる。
【符号の説明】
【0018】
10,10′ 半導体装置用部材(電子部品用部材)
12 ステム
14 貫通孔
16 低融点ガラス層
18,18,18a,18b リード線
20 ヒートシンク
22 絶縁基板
24 第1電極
26,26 棒状部材
28 電解金めっき液
30 治具
32 第2電極
34,44 直流電源
40 剥離液
42 第3電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部材用部材を構成する本体部材の表面を形成する金属と電気的に絶縁されて装着された複数の金属部材の各一端部を治具内に挿入して、前記一端部の各々の少なくとも一部が前記治具内に設けられた陰極としての第1電極に接触状態とした後、
陽極としての第2電極が浸漬された電解めっき液に前記電子部材用部材及び治具を浸漬し、前記第1電極と第2電極との間に電流を印加して、前記金属部材の各露出面に電解めっき層を形成し、
次いで、前記治具に一端部が挿入された電子部材用部材を、前記電解めっき層を形成するめっき金属を剥離する剥離性能を有し、且つ電解質が添加された剥離液に浸漬して、前記電解めっきの際に、前記第1電極と接触することなく非通電状態となった金属部材の表面に形成された置換めっき層を選択的に剥離するように、前記治具内の陰極としての第1電極と前記剥離液に浸漬された陽極としての第3電極との間に、直流電流を印加することを特徴とする置換めっき層の剥離方法。
【請求項2】
電子部品用部材として、本体部材としての金属製のステムに形成された複数の貫通孔の各々に挿通された金属部材としてのリード線が、前記貫通孔の各々に充填された絶縁層によって、前記ステムと電気的に絶縁されている電子部品用部材を用いる請求項1記載の置換めっき層の剥離方法。
【請求項3】
電解めっきとして、電解金めっきを採用し、剥離液として金めっき用の剥離液を用いる請求項1又は請求項2記載の置換めっき層の剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−52258(P2011−52258A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201261(P2009−201261)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000190688)新光電気工業株式会社 (1,516)
【Fターム(参考)】