説明

置換ガンマラクタムを含有する眼科用製剤およびその使用法

本発明は、明確に定義された置換ガンマラクタムを含有する眼科用製剤を提供する。本明細書に記載する製剤は、例えば緑内障といった高眼圧症に関連する様々な眼疾患の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
仮出願に基づく通常出願への優先権主張
関連出願
本出願は、2009年11月5日に提出した米国仮出願第61/258,308号の利益を主張するものであり、該仮出願は、参照によりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0002】
本発明は、一般的に、様々な眼疾患の治療に有用な眼科用製剤に関する。本発明は、詳細には、眼疾患の治療のための明確に定義された置換ガンマラクタムを含有する眼科用製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
眼圧降下薬は、外科手術後およびレーザー柵状織切除術後の高眼圧発作、緑内障のような複数の種々の高眼圧症状の治療、ならびに術前の補助薬として有用である。
【0004】
緑内障は、眼内圧の上昇により特徴付けられる眼疾患である。緑内障は、その病因論に基づき、原発性または続発性に分類されてきた。例えば、成人の原発性緑内障(先天性緑内障)は、開放隅角あるいは急性または慢性の閉塞隅角のいずれでもあり得る。続発性緑内障は、ブドウ膜炎、眼球内腫瘍または拡張白内障のような既存の眼疾患に起因する。
【0005】
原発性緑内障の原因はまだ分かっていない。眼圧の上昇は、房水流出障害に起因する。慢性開放隅角緑内障では、前眼房とその解剖学的構造は正常にみえるが、房水の流出が阻害される。急性または慢性の閉塞隅角緑内障では、前眼房は浅く、濾過隅角は狭く、そして虹彩がシュレム管の入口で小柱網を妨害することがある。瞳孔の拡張は、虹彩根部を隅角に対して前方に押しやり、および瞳孔ブロックを起こし得ることにより、急性発作を促進する。前房隅角の狭小な眼球は、様々な重度の急性閉塞隅角緑内障発作に罹り易い。
【0006】
続発性緑内障は、後眼房から前眼房への、そして結果的にシュレム管への房水流入のいかなる障害によっても引き起こされる。前眼部の炎症疾患は、膨隆虹彩で完全虹彩後癒着を起こして房水流出を妨げ、滲出物で排出経路をふさぎ得る。他の一般的な原因は、眼球内腫瘍、拡張白内障、網膜中心静脈閉塞、眼の外傷、手術処理および眼球内出血である。
【0007】
全種類を対象とすると、緑内障は40歳以上の全てのヒトの約2%に起こり、急速な視力喪失の進行前に数年にわたり漸近的であり得る。手術が適応されない場合には、局所的β‐アドレナリン受容体拮抗薬が緑内障を処置するために選択される従来の薬剤となっていた。
【0008】
特定の明確に定義された置換γ‐ラクタムが、最近、高眼圧症状の治療のために開発されてきた(例えば、米国特許第7,476,747号参照)。特定の場合、置換γ‐ラクタムは、難水溶性である。結果として、薬剤物質を眼球に局所伝達するための新規処方の需要が存在する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、明確に定義された置換ガンマラクタムを含有する眼科用製剤を提供する。本明細書に記載する製剤は、例えば緑内障といった高眼圧症に関連する様々な眼疾患の治療に有用である。
【0010】
本発明の一実施形態においては、眼科的に許容される液体ビヒクル中の0.01%から0.12%w/v(重量/容量)の濃度の治療活性剤を少なくとも1つ含む眼科用薬剤であって、該活性剤が以下の構造または薬剤的に許容できるその塩を有する前記薬剤を提供する:
【化1】

式中、
Aは、−(CH26−、cis−CH2CH=CH−(CH23−、または−CH2C≡C−(CH23−であり、ここで1つまたは2つのCH2残基は、SまたはOと置換されていてもよく;または
Aは、−(CH2m−Ar−(CH2o−であり、ここでArは、インターアリーレンまたはヘテロインターアリーレンであり、mとoの和は1から4であり、そして1つまたは2つのCH2残基は、SまたはOと置換されていてもよく;
1は、HまたはC1ないしC6アルキルであり;そして
Bは、任意に置換されたアリール、または任意に置換されたヘテロアリールである。
【0011】
他の実施形態では、容器中の内容物を計量形態で小分けするのに適した該容器を含む製造品であって、該容器の該内容物は本発明の眼科用製剤を含んでいる製造品を提供する。
【0012】
他の実施形態では、高眼圧症の治療法を提供する。このような方法は、例えば、それを必要とする被験体に本発明の製剤を投与することにより実施することができる。
【0013】
本発明の実施形態を以下の段落に記載する。「約」という語は、米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品審査庁(EMEA)または他の規制機関により生物学的に同等であると考えられた賦形剤および活性剤の種々の濃度を含む:
1) 眼科的に許容される液体ビヒクル中の0.01%から0.12%(w/v)の濃度の治療活性剤を少なくとも1つ含む眼科用薬剤であって、該活性剤が以下の構造:
【化2】

式中、
Aは、−(CH26−、 cis−CH2CH=CH−(CH23−、または−CH2C≡C−(CH23−であり、ここで1つまたは2つのCH2残基は、SまたはOと置換されていてもよく; または
Aは、−(CH2m−Ar−(CH2o−であり、ここでArはインターアリーレンまたはヘテロインターアリーレンであり、mとoの和は1から4であり、そして1つまたは2つのCH2残基は、SまたはOと置換されていてもよく;
1は、HまたはC1ないしC6アルキルであり; そして
Bは、任意に置換されたアリール、または任意に置換されたヘテロアリールであってもよい。
または薬剤的に許容できるその塩を有する前記薬剤。
2. 少なくとも1つの有効量の緩衝剤をさらに含む段落1に記載の製剤。
3. 前記緩衝剤は、リン酸塩、クエン酸塩、またはホウ酸塩を含む段落1および2に記載の製剤。
4. 前記緩衝剤は、リン酸塩およびクエン酸塩を含む段落1、2および3に記載の製剤。
5. 前記緩衝剤は、前記製剤のpHを約6.5と約7.5の間に維持する段落2に記載の製剤。
6. 前記緩衝剤は、前記製剤のpHを約7.0と約7.4の間に維持する段落2に記載の製剤。
7. 少なくとも1つの保存剤をさらに含む段落1に記載の製剤。
8. 前記保存剤は、塩化ベンザルコニウム、二酸化塩素、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、および硝酸フェニル水銀からなる群から選択される段落1〜7に記載の製剤。
9. 前記保存剤は、塩化ベンザルコニウムである段落8に記載の製剤。
10. 約0.01から約0.05%(w/v)の塩化ベンザルコニウムを含む段落9に記載の製剤。
11. 約0.015から約0.025%(w/v)の塩化ベンザルコニウムを含む段落9〜10に記載の製剤。
12. 約0.02%(w/v)の塩化ベンザルコニウムを含む段落9〜11に記載の製剤。
13. 少なくとも1つの浸透圧調節剤をさらに含む段落1〜12に記載の製剤。
14. 前記浸透圧調節剤は、グリセリン、マンニトール、ソルビトールおよび塩化ナトリウムからなる群から選択される段落13に記載の製剤。
15. 浸透圧調節剤の全濃度が約1.20から約1.25%(w/v)からなる段落13〜14に記載の製剤。
16. 浸透圧調節剤の全濃度が1.22%(w/v)からなる段落13〜15に記載の製剤。
17. 可溶化剤をさらに含む段落1〜16に記載の製剤。
18. 前記可溶化剤は、ポリソルベート80、ヒドロキシ‐β‐シルコデキストリン、ソルトール、またはポリオキシテレンステアリン酸40(polyoxythelene 40 stearate)からなる群から選択される段落17に記載の製剤。
19. 前記可溶化剤は、ポリソルベート80である段落17に記載の製剤。
20. 濃度が約0.05から約0.1%(w/v)の治療活性剤を含む段落1〜19に記載の製剤。
21. 濃度が0.05%(w/v)の治療活性剤を含む段落1に記載の製剤。
22. 濃度が0.075%(w/v)の治療活性剤を含むか、または本質的に濃度が0.075%(w/v)の治療活性剤から成る段落1に記載の製剤。
23. 濃度が0.01%(w/v)の治療活性剤を含む段落1に記載の製剤。
24. Bがフェニルである段落1に記載の製剤。
25. Bがアルキルフェニルである段落1に記載の製剤。
26. Bがヒドロキシアルキルフェニルである段落1に記載の製剤。
27. R1がC3アルキルである段落1に記載の製剤。
28. 前記治療活性剤は、以下の構造を有する段落1に記載の製剤:
【化3】

式中、X1およびX2は、独立してCH2、O、またはSである。
29. 前記治療活性剤は、以下の構造を有する段落1に記載の製剤:
【化4】

または
【化5】


30. 前記化合物は、以下の構造を有する段落1に記載の製剤:
【化6】

または
【化7】


31. 容器中の内容物を計量形態で小分けするのに適した該容器を含む製品であって、該容器の該内容物は段落1〜30に記載の眼科用製剤を含む前記製品。
32. ヒト患者における高眼圧症の治療法であって、治療上有効量の段落1〜30に記載の製剤を、それを必要とする被験体に投与することを含む前記方法。
33. IOP(眼圧)上昇を患う患者におけるIOPの低下法であって、治療有効量の段落1〜30に記載の製剤を、それを必要とする被験体に投与することを含む前記方法。
34. IOP(眼圧)上昇を患う患者における緑内障の治療法であって、治療有効量の段落1〜30に記載の製剤を、それを必要とする被験体に投与することを含む前記方法。
35. ヒト患者でのIOP上昇または緑内障の治療に使用するための医薬の調整における段落1〜30に記載の化合物の使用。
36. 下表から選択される下記製剤の1つを含む、患者の眼圧低下または緑内障治療のための製剤:


37. 下表から選択される下記製剤の1つを含む、ヒト患者の眼圧低下または緑内障治療のための製剤:

【発明を実施するための形態】
【0014】
以上の一般的記載および以下の詳細な説明は、どちらも例示的および説明的であるだけであり、特許請求の範囲に記載した本発明を限定しないことは理解されるべきである。本明細書中で使用される単数形は、特に別段の記述がなければ、複数形の使用を含む。本明細書中で使用される「または」は、特に別段の記述がなければ、「および/または」を意味する。さらに、用語「含んでいる」ならびに、他形式の「含む」および「含まれた」のような用語の使用は、限定を設けないものである。本明細書中で使用されるセクション見出しは、組織立てる目的のみのものであり、記載対象を限定すると解釈されるべきでない。
【0015】
特に定義がなされなければ、本明細書中に記載された分析化学、有機合成および無機化学の実験工程および技術ならびに連結して用いられる術語は、当該技術分野で既知のものである。標準化学記号は、その記号を表す正式名と互換的に使用される。従って、例えば、用語「水素」と「H]は同一の意味を有すると理解される。化学合成、化学分析、および製剤のために標準的技術が使用されてもよい。
【0016】
本明細書中で使用される「アルキル」は、1個から約100個までの炭素原子を有する直鎖または分岐鎖ヒドロカルビル基を指す。本明細書中に現れる、「1ないし100」または「C1〜C100」のような数値範囲は、常に与えられた範囲内の各整数を指す;例えば、「C1〜C100アルキル」は、アルキル基がただ1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子、等、100を含む100個までの炭素原子を含み得ることを意味する。しかしながら、用語「アルキル」は、炭素原子数の数値範囲を指定しない例も含む。「置換アルキル」は、置換基を有するアルキル残基を指し、該置換基は、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヒドロキシ、オキソ、アルコキシ、メルカプト、シクロアルキル、置換シクロアルキル、複素環、置換複素環、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールオキシ、置換アリールオキシ、ハロゲン、ハロアルキル、シアノ、ニトロ、ニトロン、アミノ、低級アルキルアミノ、低級アルキルジアミノ、アミド、アジド、−C(O)H、−C(O)R7、−CH2OR7、−C(O)−、−C(O)−、−S−、−S(O)2、−OC(O)−O−を含む。ここでR7は、H、または低級アルキル、アシル、オキシアシル、カルボキシル、カルバメート、スルフォニル、スルフォンアミド、スルフリル等である。本明細書中で使用される「低級アルキル」は、1個から約6個の炭素原子を有するアルキル残基を指す。
【0017】
本明細書中で使用される「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素間二重結合を有し、約2個から約100個までの範囲内の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖ヒドロカルビル基を指す。そして「置換アルケニル」は、1つまたは複数の上記のような置換基をさらに有するアルケニル基を指す。本明細書中で使用される「低級アルケニル」は、2個から約6個の炭素原子を有するアルケニル残基を指す。
【0018】
本明細書中で使用される「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素間三重結合を有し、約2個から約100個までの範囲内の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖ヒドロカルビル基を指す。そして「置換アルキニル」は、1つまたは複数の上記のような置換基をさらに有するアルキニル基を指す。本明細書中で使用される「低級アルキニル」は、2個から約6個の炭素原子を有するアルキニル残基を指す。
【0019】
本明細書中で使用される「シクロアルキル」は、典型的には、約3つから約8つまでの範囲内の炭素原子を含む環状(すなわち、環含有)アルキル残基を指す。そして「置換シクロアルキル」は、1つまたは複数の上記のような置換基をさらに有するシクロアルキル基を指す。
【0020】
本明細書中で使用される「アリール」は、5つから14までの範囲内の炭素原子を含む芳香族基を指し、そして「置換アリール」は、1つまたは複数の上記のような置換基をさらに有するアリール基を指す。
【0021】
本明細書中で使用される「ヘテロアリール」は、環構造の一部として1つまたは複数のヘテロ原子(例えば、N、O、S、等)を含有し、かつ全部で5つから14までの範囲内の原子(すなわち、炭素原子およびヘテロ原子)を環構造中に有する芳香族基を指す。「置換複素環」は、1つまたは複数の上記のような置換基をさらに有する複素環基を指す。
【0022】
本明細書中で使用される「複素環」は、環構造の一部として1つまたは複数のヘテロ原子(例えば、N、O、S、等)を含有し、かつ全部で3つから14までの範囲内の原子を有する非芳香族環状(すなわち、環含有)基を指す。そして「置換複素環」は、1つまたは複数の上記のような置換基をさらに有する複素環基を指す。
【0023】
本明細書中で使用される「ハロゲン」または「ハライド」は、フッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物を指す。「フッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物」は「フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード」とも称され得る。
【0024】
本明細書中で使用される「インターアリーレン」または「ヘテロインターアリーレン」は、分子の2つの他の部分をつなぐ、すなわち、2つの該部分は環の2つの異なる位置で該環に結合する、アリール環または環系あるいはヘテロアリール環または環系を指す。インターアリーレンまたはヘテロインターアリーレンは、置換されていても、置換されていなくてもよい。非置換インターアリーレンまたは非置換ヘテロインターアリーレンは、それが結合する分子の2つの部分以外には置換基を有しない。置換インターアリーレンまたは置換ヘテロインターアリーレンは、それが結合する分子の2つの部分以外にも置換基を有する。
【0025】
本発明のいくつかの治療活性剤は、1つまたは複数の不斉中心を含むことがあり、従って化合物はエナンチオマーならびにジアステレオマー形態で存在することがあることは、当業者には容易に明らかであろう。特に別段の記述がなければ、本発明の範囲には、全てのエナンチオマー、ジアステレオマーおよびラセミ混合物が含まれる。本発明のいくつかの治療活性剤は、薬剤的に許容される酸または塩基と塩を形成してもよく、本明細書に記載する化合物の薬剤的に許容される塩も本発明の範囲内である。
【0026】
「薬剤的に許容される塩」は、親化合物の活性を保持し、かつ、それが投与される被験体において、またそれが投与される状況において、親化合物と比較し、追加のいかなる有害な影響または悪影響も与えない任意の塩である。薬剤的に許容される塩は、酸、他の塩、または酸あるいは塩に転換される前駆薬剤の投与の結果として生体内で形成し得る任意の塩も指す。
【0027】
酸性官能基の薬剤的に許容される塩は、有機または無機塩基から誘導され得る。塩は、単価または多価イオンを含み得る。特に注目するものは、無機イオンであって、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムである。有機塩は、アミン、特にモノアルキルアミン、ジアルキルアミンおよびトリアルキルアミンまたはエタノールアミンのようなアンモニウム塩で生成され得る。塩類は、カフェイン、トロメタミンおよび同様の分子から形成してもよい。塩酸または他のいくつかの薬剤的に許容される酸は、アミンまたはピリジン環といった塩基性基を含む化合物と塩を形成し得る。
【0028】
本発明は、眼科的に許容される液体ビヒクル中の0.01%から0.12%(w/v)の濃度の治療活性剤を少なくとも1つ含む眼科用薬剤であって、該活性剤が以下の構造または薬剤的に許容できるその塩を有する前記薬剤を提供する:
【化8】

式中、
Aは、−(CH26−、 cis−CH2CH=CH−(CH23−、または−CH2C≡C−(CH23−であり、ここで1つまたは2つのCH2残基は、SまたはOと置換されていてもよく; または
Aは、−(CH2m−Ar−(CH2o−であり、ここでArはインターアリーレンまたはヘテロインターアリーレンであり、mとoの和は1から4であり、そして1つまたは2つのCH2残基は、SまたはOと置換されていてもよく;
1は、HまたはC1ないしC6アルキルであり; そして
Bは、任意に置換されたアリール、または任意に置換されたヘテロアリールである。
いくつかの実施形態では、Bは、フェニル、アルキルフェニルまたはヒドロキシアルキルフェニルである。一実施形態では、Bは、1−ヒドロキシヘキシルである。
いくつかの実施形態では、R1は、C1−C3アルキルである。一実施形態では、R1は、イソプロピルである。
いくつかの実施形態では、治療活性剤は、以下の構造を有する:
【化9】

式中、X1およびX2は、独立してCH2、OまたはSである。
【0029】
本発明の実施での使用が企図される例示的な治療活性薬剤は、これに限定されないが、
【化10】

【化11】

【化12】

または、
【化13】

が、挙げられる。
【0030】
本明細書に記載の眼科用製剤での少なくとも1つの治療活性薬剤の有効量は、治療活性薬剤が存在しないことを除いて、それ以外はその製剤と同じであるプラシーボ製剤と比較した場合の治療効果を観察するのに有用な量である。投与する治療活性薬剤の量は、目的とする治療効果、治療を必要とする特定の哺乳類、その哺乳類の症状の重症度と性質、投与方法、特定の化合物の有効性と薬理学性、および処方医師の判断などの因子に依る。本発明のいくつかの実施形態では、治療活性薬剤は0.01〜0.12%w/vの濃度で存在する。他の実施形態では、治療活性薬剤は0.05〜0.1%(w/v)の濃度で存在する。特定の実施形態では、治療活性薬剤は0.05%、0.075%、または0.01%(w/v)の濃度で存在する。
【0031】
眼科的に許容される(ophthalmically acceptable)液体は、眼に局所的に投与し得るように調剤される。調剤検討(formulation consideration)(例えば薬剤安定性)は最適な心地よさを満たさないことを余儀なくされる場合もありうるが、心地よさは出来る限り最大限であるべきである。心地よさを最大限にできない場合、液体は、患者が局所的に眼に使用するのに耐えられるように調剤すべきである。
【0032】
眼科用途に関しては、主要媒体として生理食塩水を用いて溶液または薬剤がよく調製される。眼科用溶液は、好適な緩衝系で心地よいpHを好ましくは維持すべきである。製剤はまた、医薬的に許容される保存剤、安定剤、および界面活性剤を含有してもよい。本発明の製剤または組成物は、溶液、エマルジョン、逆相エマルジョンの形態であってもよく、または生体侵食性(bioerodable)または非生体侵食性(non-bioerodable)デバイスまたは眼用インプラントにより送達してもよい。
【0033】
当該技術分野で周知のように、緩衝液は通常、pHを眼科用途のため所望の範囲まで調整するのに使用される。一般におよそ6〜8のpHが望ましいが、これは治療活性薬剤または他の賦形剤の安定性または溶解性などの配慮により調整する必要があり得る。本発明のいくつかの実施形態では、緩衝液はpHを6.5から7.5に維持する。他の実施形態では、緩衝液はpHを7.0から7.4に維持する。リン酸塩、ホウ酸塩、および硫酸塩などの無機酸の塩を含む多くの緩衝液が知られている。本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載の製剤にリン酸塩/リン酸緩衝液が使用される。「リン酸塩/リン酸」という用語は、pHを所望の範囲に調整する、リン酸と1またはそれ以上の共役塩基とのあらゆる組み合わせを示す。他の実施形態では、ホウ酸塩/ホウ酸緩衝液が使用される。さらに他の実施形態では、クエン酸塩/クエン酸緩衝液が本明細書に記載の製剤に使用される。特定の実施形態では、リン酸塩/リン酸緩衝液とクエン酸塩/クエン酸緩衝液との組み合わせが、本明細書に記載の製剤に使用される。
【0034】
眼科的に許容される液体では、等張化剤が製剤の組成物を所望の等張範囲(isotonic range)まで調整するためによく使用される。等張化剤は当該技術分野でよく知られており、いくつかの例としてグリセリン、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム、および他の電解質が挙げられる。本発明のいくつかの実施形態では、等張化剤は製剤中に1.20〜1.25%w/vの濃度で存在する。一実施形態では、等張化剤は1.22%w/vの濃度で存在する。
【0035】
界面活性剤は、賦形剤または治療活性薬剤の溶解、組成物中の固体または液体の分散、ぬれの向上、滴径の調節、または複数の他の目的の補助に使用してもよい。有用な界面活性剤として、これに限定されないが、ソルビタンエステル類、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ステアリン酸塩、ステアリン酸グリセル、ステアリン酸イソプロピル、ステアリン酸ポリオキシル、ステアリン酸プロピレングリコール、ステアリン酸スクロース、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドコポリマー、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、アルキルグリコシド、ポリグリコシド、脂肪アルコール、ホスファリピッド(phosphalipid)、ホスファチジルクロリン(phosphatidyl chloline)、ホスファチジルセリンなどが挙げられる。
【0036】
眼科用調製物に含まれ得る他の賦形剤成分は、キレート剤である。有用なキレート剤はエデト酸2ナトリウムであるが、他のキレート剤もまたエデト酸2ナトリウムの代わりにまたはそれと併用して使用してもよい。
【0037】
保存剤は、包装を開封した後の組成物の微生物汚染を防ぐために複数回使用用の(multi-use)眼科用組成物に使用される。多くの保存剤が開発されており、塩化ベンザルコニウムなどの第4級アンモニウム塩;酢酸フェニル水銀やチメロサールなどの水銀化合物;クロロブタノールやベンジルアルコールなどのアルコール類が挙げられる。本発明の一実施形態では、保存剤は塩化ベンザルコニウムである。塩化ベンザルコニウムは、本発明の製剤中に0.01〜0.05%(w/v)存在する。他の実施形態では、その濃度は0.015〜0.025%(w/v)である。特定の実施形態では、その濃度は0.02%(w/v)である。
【0038】
以下の実施例は本発明を例示するためにのみ意図され、決して発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0039】
【化14】

化合物1
【0040】
化合物1は緑内障の治療で眼に局所的に送達することを目的とする水難溶性治療活性薬剤である。賦形剤はこの薬剤分子の水媒体中での溶解性を向上させることができ、その眼圧(IOP)低下効果に十分な用量強度(dose strength)でこの物質を調剤するために利用する必要がある。使用される主要な可溶化剤は、水性媒体での化合物1の溶解性を十分に向上するポリソルベート80であった。評価された他の可溶化剤として、ヒドリキシ−β−シルコデキストリン(hydroxy-beta-cylcodextrin)、ソルトール(solutol)、およびポリオキシテレンステアリン酸40(polyoxythelene 40 stearate)が挙げられた。保存処理製剤および保存剤非含有製剤の両方を、複数回用量用ドロッパーボトル(dropper bottle)または単回用量バイアルでの包装のいずれかの使用のために開発した。塩化ベンザルコニウム(BAK)を抗菌性保存剤として使用し、複数回用量の包装仕様が可能となった。
【0041】
実施例1
保存処理製剤を表1に示し、保存剤非含有製剤を表2に示す。
【0042】
表1の製剤を次のように調製した。精製水(ロットサイズの約80%)を好適なサイズの混合容器に計りいれた。オーバーヘッド撹拌機(overhead mixer)(Rotosolver)を用いて勢いよく撹拌を開始して激しい渦を形成した。以下の構成成分を、次の添加の前に各成分が溶解する順に、すなわち塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸、および塩化ベンザルコニウムの順に渦中に添加した。pHを確認して、必要に応じて希塩酸溶液または水酸化ナトリウム溶液でpH7.3に調整した。化合物1を激しい撹拌中に添加し、撹拌を30〜35分間持続させて溶液を透明にした。精製水を添加し最終体積を補正した。溶液を0.2μm膜が装着された無菌化濾過(sterile filtration)装置を通過させることにより無菌化した。
表1:化合物1に関する保存処理製剤の実施例


表2:化合物1に関する保存剤非含有(単回用量用)製剤の実施例

【0043】
実施例2
保存処理製剤の開発中、ポリソルベート80の存在で、BAKの抗菌効果が著しく減少することが観察された。この影響は製剤中に存在する可溶化剤のレベルに比例し、ポリソルベート80のレベルが低いほどBAKの効果の向上が見られた(表3)。しかしポリソルベート80のより低いレベルは、臨床研究や毒性研究で必要とされる濃度の化合物1を可溶性にするには不十分である。
表3:塩化ナトリウムの存在でのBAKの抗菌効果に対するポリソルベート80の影響を示す抗菌性保存剤有効性試験(APET)結果

【0044】
実施例4
等張化剤として製剤中の塩化ナトリウムをマンニトールまたはグリセリンに置き換えたところ、BAKの抗菌効果が著しく向上した。これらの薬剤を製剤に使用すると、抗菌性保存剤有効性試験(APET)の公定書基準を満たすことができた。これらの製剤に関するAPET結果の例を表4に提供する。エチレンジアミン4酢酸(EDTA)の添加はさらに、特にシュードモナス属の微生物に関してBAKの抗菌効果を向上させた。
表4:塩化ナトリウムをグリセリンおよび/またはマンニトールに置き換えた場合のBAKの抗菌効果に対するポリソルベート80の影響を示す抗菌性保存剤有効性試験(APET)結果

【0045】
実施例5
化合物1の例示的な発明製剤はしたがって、可溶化剤としてのポリソルベート80、リン酸塩類およびクエン酸塩類からなる緩衝液、10mMに制限された緩衝液濃度、等張化剤としてのグリセリンおよび/またはマンニトール、ならびに抗菌性保存剤としての170ppm超レベルのBAKを含有する水性媒体中に溶解した治療活性薬剤(化合物1)から成る。EDTAは、BAKの抗菌有効性を増強させるので、製剤中に含有される。臨床研究および毒性研究の使用に選定される製剤組成物を表5に列挙する。
表5:保存処理製剤

【0046】
実施例6
単回用量製品を目的とする保存剤非含有製剤の組成物を表6に列挙する。
表6:単回用量用製剤としての使用を意図する保存剤非含有製剤

実施例7
インビボデータ
イヌIOP低下試験での製剤の効果
表7:イヌIOP低下試験での製剤組成物の実施例

観察された製剤の良好なIOP低下効果
表8:0.05%化合物1、製剤L対製剤M、および1日1回投与でのイヌ眼圧の効果



【0047】
実施例8
緑内障を患う44歳の白人男性は表5の製剤Fを眼に一日1回45日間投与する。各日とも0.05%の活性薬剤組成物の適用数時間後、30%の眼圧(IOP)の低下が観察される。
【0048】
実施例9
緑内障を患う53歳のアフリカ系アメリカ人男性は表5の製剤Gを眼に一日1回30日間投与する。各日とも0.075%の活性薬剤組成物の適用数時間後、36%の眼圧(IOP)の低下が観察される。
【0049】
実施例10
緑内障を患う47歳のヒスパニック系女性は表5の製剤Hを眼に一日1回25日間投与する。各日とも0.1%の活性薬剤組成物の適用数時間後、42%の眼圧(IOP)の低下が観察される。
【0050】
本発明はこれらの特定の実施例について説明してきたがその一方で、他の改良や変更が本発明の精神から逸脱することなく可能であることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科的に許容される液体ビヒクル中の0.01%から0.12%(w/v)の濃度の治療活性剤を少なくとも1つ含む眼科用薬剤であって、該活性剤が以下の構造:
【化1】

式中、
Aは、−(CH26−、cis−CH2CH=CH−(CH23−、または−CH2C≡C−(CH23−であり、ここで1つまたは2つのCH2残基は、SまたはOと置換されていてもよく;または≡
Aは、−(CH2m−Ar−(CH2o−であり、ここでArはインターアリーレンまたはヘテロインターアリーレンであり、mとoの和は1から4であり、そして1つまたは2つのCH2残基は、SまたはOと置換されていてもよく;
1は、HまたはC1ないしC6アルキルであり;そして
Bは、任意に置換されたアリール、または任意に置換されたヘテロアリールである,
または薬剤的に許容できるその塩を有する前記薬剤。
【請求項2】
少なくとも1つの有効量の緩衝剤をさらに含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記緩衝剤は、リン酸塩、クエン酸塩、またはホウ酸塩を含む、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記緩衝剤は、リン酸塩およびクエン酸塩を含む、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
前記緩衝剤は、前記製剤のpHを6.5と7.5の間に維持する、請求項2に記載の製剤。
【請求項6】
前記緩衝剤は、前記製剤のpHを7.0と7.4の間に維持する、請求項2に記載の製剤。
【請求項7】
少なくとも1つの保存剤をさらに含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
前記保存剤は、塩化ベンザルコニウム、二酸化塩素、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、および硝酸フェニル水銀からなる群から選択される、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
前記保存剤は、塩化ベンザルコニウムである、請求項8に記載の製剤
【請求項10】
0.01から0.05%(w/v)の塩化ベンザルコニウムを含む、請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
0.015から0.025%(w/v)の塩化ベンザルコニウムを含む、請求項9に記載の製剤。
【請求項12】
0.02%(w/v)の塩化ベンザルコニウムを含む、請求項9に記載の製剤。
【請求項13】
少なくとも1つの浸透圧調節剤をさらに含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項14】
前記浸透圧調節剤は、グリセリン、マンニトール、ソルビトールおよび塩化ナトリウムからなる群から選択される、請求項13に記載の製剤。
【請求項15】
浸透圧調節剤の全濃度が1.20から1.25%(w/v)からなる、請求項13に記載の製剤。
【請求項16】
浸透圧調節剤の全濃度が1.22%(w/v)からなる、請求項13に記載の製剤。
【請求項17】
可溶化剤をさらに含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項18】
前記可溶化剤は、ポリソルベート80、ヒドロキシ‐β‐シルコデキストリン、ソルトール、またはポリオキシテレンステアリン酸40(polyoxythelene 40 stearate)かである、請求項17に記載の製剤。
【請求項19】
前記可溶化剤は、ポリソルベート80である、請求項17に記載の製剤。
【請求項20】
濃度が0.05から0.1%(w/v)の治療活性剤を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項21】
濃度が0.05%(w/v)の治療活性剤を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項22】
濃度が0.075%(w/v)の治療活性剤を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項23】
濃度が0.01%(w/v)の治療活性剤を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項24】
Bがフェニルである、請求項1に記載の製剤。
【請求項25】
Bがアルキルフェニルである、請求項1に記載の製剤。
【請求項26】
Bがヒドロキシアルキルフェニルである、請求項1に記載の製剤。
【請求項27】
1がC3アルキルである、請求項1に記載の製剤。
【請求項28】
前記治療活性剤は、以下の構造を有する請求項1に記載の製剤:
【化2】

式中、X1およびX2は、独立してCH2、O、またはSである。
【請求項29】
前記治療活性剤は、以下の構造を有する、請求項1に記載の製剤:
【化3】

または
【化4】


【請求項30】
前記化合物は、以下の構造を有する請求項1に記載の製剤:
【化5】

または
【化6】


【請求項31】
容器中の内容物を計量形態で小分けするのに適した該容器を含む製造品であって、該容器の該内容物は請求項1に記載の眼科用製剤を含む、前記製造品。
【請求項32】
高眼圧症の治療する方法であって、治療上有効量の請求項1に記載の製剤を、それを必要とする被験体に投与することを含む、前記方法。

【公表番号】特表2013−510172(P2013−510172A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538041(P2012−538041)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/055685
【国際公開番号】WO2011/057108
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(390040637)アラーガン インコーポレイテッド (117)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】