説明

美白剤及び皮膚化粧料

【課題】天然物の中から、美白作用を有するものを見出し、それを有効成分として含有する美白剤及び皮膚化粧料を提供する。
【解決手段】美白剤に、エビヅルからの抽出物、又はε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCからなる群より選ばれる1種若しくは2種以上のポリフェノール類化合物を含有せしめる。また、皮膚化粧料に、エビヅルからの抽出物、又はε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCからなる群より選ばれる1種若しくは2種以上のポリフェノール類化合物を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然由来成分を有効成分として含有する美白剤及び皮膚化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚においてメラニンは、紫外線から生体を保護する役目も果たしているが、過剰生成や不均一な蓄積は、皮膚の黒化やシミの原因となる。一般にメラニンは、色素細胞の中で生合成される酵素チロシナーゼの働きによって、チロシンからドーパ、ドーパからドーパキノンに変化し、ついで5,6−ジヒドロキシインドフェノール等の中間体を経て形成されるものとされている。したがって、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)を予防、治療又は改善するためには、メラニンの産生に関与するチロシナーゼの活性を阻害すること、又はメラニンの産生を抑制することが考えられる。
【0003】
従来、皮膚色素沈着症、シミ、ソバカス等の予防、治療又は改善には、ハイドロキノン等の化学合成品を有効成分とする美白剤を外用する処置が行われてきた。しかしながら、ハイドロキノン等の化学合成品は、皮膚刺激、アレルギー性等の副作用のおそれがある。そこで、安全性の高い天然原料を有効成分とする美白剤の開発が望まれており、チロシナーゼ活性阻害作用を有するものとしては、例えば、桑葉抽出物(特許文献1参照)、サウスウレア属に属する植物の抽出物(特許文献2参照)、藤茶抽出物(特許文献3参照)、ヤナギタデ抽出物(特許文献4参照)、タケノコ及びカンゾウ根抽出物(特許文献5参照)、マンゴージンジャー抽出物(特許文献6参照)等が知られている。また、メラニン産生抑制作用を有するものとしては、例えば、トウゴマ根部からの抽出物(特許文献7参照)、サウスウレア(Saussurea)属に属する植物からの抽出物(特許文献8参照)等が知られている。
【特許文献1】特開平11−246424号公報
【特許文献2】特開2002−201122号公報
【特許文献3】特開2002−370962号公報
【特許文献4】特開2004−83488号公報
【特許文献5】特開2004−352697号公報
【特許文献6】特開2005−104886号公報
【特許文献7】特開2001−213757号公報
【特許文献8】特開2002−201122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、天然物の中からチロシナーゼ活性阻害作用及び/又はメラニン産生抑制作用を有するものを見出し、それを有効成分として含有する美白剤及び皮膚化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、第1に本発明の美白剤は、エビヅルからの抽出物、又はε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCからなる群より選ばれる1種若しくは2種以上のポリフェノール類化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0006】
第2に本発明の皮膚化粧料は、エビヅルからの抽出物、又はε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCからなる群より選ばれる1種若しくは2種以上のポリフェノール類化合物を配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れたチロシナーゼ活性阻害作用及び/又はメラニン産生抑制作用を有するエビヅルからの抽出物、又はε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCからなる群より選ばれる1種若しくは2種以上のポリフェノール類化合物を有効成分として含有する美白剤及び皮膚化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について説明する。
〔美白剤〕
本発明の美白剤は、エビヅルからの抽出物、又は下記式(1)〜(3)で表されるε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCからなる群より選ばれる1種若しくは2種以上のポリフェノール類化合物を有効成分として含有する。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
ここで、本発明において「エビヅルからの抽出物」には、エビヅルを抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0013】
上記式(1)〜(3)で表されるポリフェノール類化合物(ε−ビニフェリン、アンペロプシンA又はアンペロプシンC)は、それらを含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することもできるし、合成により製造することもできる。なお、合成により製造する場合、その合成方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により合成することができる。
【0014】
上記ポリフェノール類化合物を含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって得ることができる。上記化合物を含有する植物としては、例えば、エビヅル(学名:Vitis ficifolia)が挙げられる。
【0015】
エビヅル(Vitis ficifolia)は、本州、四国、九州等に分布しているブドウ科ブドウ属に属する木本性つる植物であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、茎部、蔓部、種子部、果実部、花部、地上部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは蔓部である。
【0016】
エビヅルからの抽出物は、エビヅルを乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0017】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0018】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0019】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0020】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90質量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40質量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して多価アルコール1〜90質量部を混合することが好ましい。
【0021】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0022】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物から上記ポリフェノール類化合物を単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、エビヅルからの抽出物を濃縮し、液−液分配抽出、イオン交換樹脂、多孔性樹脂(例えば、シリカゲル等)を用いたカラムクロマトグラフィーに付し、約1時間ごとに溶出液を回収する。このようにして回収した溶出液を、さらに高速液体クロマトグラフィー等に付して分画し、必要に応じて結晶化することにより、上記ポリフェノール類化合物を単離・精製することができる。
【0023】
上述のようにして得られるエビヅルからの抽出物又は上記ポリフェノール類化合物は、美白作用を有しているため、その作用を利用しては美白剤の有効成分として用いることができる。
【0024】
エビヅルからの抽出物又は上記ポリフェノール類化合物が有する美白作用は、例えば、チロシナーゼ活性阻害作用及び/又はメラニン産生抑制作用に基づいて発揮される。ただし、エビヅルからの抽出物又は上記ポリフェノール類化合物が有する美白作用は、これらの作用に基づいて発揮される美白作用に限定されるものではない。なお、エビヅルからの抽出物又は上記ポリフェノール類化合物は、チロシナーゼ活性阻害作用又はメラニン産生抑制作用を有するため、これらの作用を利用して、チロシナーゼ活性阻害剤又はメラニン産生抑制剤の有効成分として利用することもできる。
【0025】
なお、本発明においては、ε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCのうちのいずれか1種のポリフェノール類化合物を上記有効成分として用いてもよいし、それらのうちの2種以上のポリフェノール類化合物を混合して上記有効成分として用いてもよい。また、エビヅルからの抽出物と、ε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCのうちの少なくとも1種のポリフェノール類化合物とを混合して上記有効成分として用いてもよい。ε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCのうちの2種以上のポリフェノール類化合物を混合して上記有効成分として用いる場合、又はエビヅルからの抽出物と、ε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCのうちの少なくとも1種のポリフェノール類化合物とを混合して上記有効成分として用いる場合、その配合比は、それらの作用の程度に応じて適宜決定すればよい。
【0026】
本発明の美白剤は、エビヅルからの抽出物又は上記ポリフェノール類化合物のみからなるものであってもよいし、エビヅルからの抽出物又は上記ポリフェノール類化合物を製剤化したものであってもよい。
【0027】
エビヅルからの抽出物、又は上記ポリフェノール類化合物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。また、エビヅルからの抽出物、又は上記ポリフェノール類化合物は、他の組成物(例えば、後述する皮膚化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0028】
なお、本発明の美白剤は、必要に応じて、美白作用を有する他の天然抽出物を配合して有効成分として用いることができる。
【0029】
本発明の美白剤は、エビヅルからの抽出物、又は上記ポリフェノール類化合物が有する美白作用(例えば、チロシナーゼ活性阻害作用、メラニン産生抑制作用等)を通じて、皮膚の黒化、シミ、ソバカス等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明の美白剤は、これらの用途以外にも美白作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0030】
〔皮膚化粧料〕
エビヅルからの抽出物又は上記ポリフェノール類化合物は、皮膚に適用した場合の使用感と安全性とに優れているため、皮膚化粧料に配合するのに好適である。この場合、エビヅルからの抽出物又は上記ポリフェノール類化合物を配合してもよいし、エビヅルからの抽出物又は上記ポリフェノール類化合物から製剤化した美白剤を配合してもよい。エビヅルからの抽出物、上記ポリフェノール類化合物又は上記美白剤を皮膚化粧料に配合することによって、皮膚化粧料に美白作用を付与することができる。
【0031】
エビヅルからの抽出物、上記ポリフェノール化合物又は上記美白剤を配合し得る皮膚化粧料としては、特に限定されるものではなく、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディーシャンプー等が挙げられる。
【0032】
エビヅルからの抽出物、上記ポリフェノール類化合物又は上記美白剤を皮膚化粧料に配合する場合、その配合量は、皮膚化粧料の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.0001〜10質量%であり、特に好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.001〜1質量%である。
【0033】
本発明の皮膚化粧料は、エビヅルからの抽出物又は上記ポリフェノール類化合物が有する美白作用を妨げない限り、通常の皮膚化粧料の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0034】
なお、本発明の美白剤又は皮膚化粧料は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0035】
以下、製造例、試験例及び配合例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0036】
〔製造例1〕エビヅル抽出物の製造
乾燥したエビヅルの蔓部を粉砕し、その粉砕物100gに抽出溶媒1000mLを加え、穏やかに攪拌しながら80℃の温度条件下にて3時間加熱抽出し、熱時濾過した。濾液を40℃で減圧下にて濃縮し、さらに減圧乾燥機で乾燥してエビヅル抽出物(試料1〜3)を得た。抽出溶媒として水、50容量%エタノール(水とエタノールとの容量比=1:1)及びエタノールを用いたときの各抽出物収量(g)を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
〔製造例2〕ε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCの製造
製造例1で得られたエビヅル蔓部エタノール抽出物(試料3)5.7gを、クロロホルム:メタノール:水=10:3:1(容量比)の混合溶媒に溶解し、シリカゲル(商品名:シリカゲル60,メルク社製)を充填したガラス製カラムの上部から流入して、シリカゲルに吸着させた。
【0039】
移動相として、クロロホルム:メタノール:水=10:3:1(容量比)の混合溶媒を上記カラム上部から注入し、1時間経過後ごとに溶出液を回収し、脱溶媒することで、画分1(312mg)、画分2(715mg)及び画分3(933mg)を得た。
【0040】
上述のようにして得られた画分1を、下記の高速液体クロマトグラフィー条件1のリサイクルHPLCを用いて分画し粗精製物1を得て、次いで高速液体クロマトグラフィー条件2のリサイクルHPLCを用いて分画し、精製物1(149mg)を得た。
【0041】
<高速液体クロマトグラフィー条件1>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)を2本連結
カラム径:20mm
カラム長:500mm(250mm×2本)
移動相:メタノール
移動相流量:5mL/min
検出:RI
【0042】
<高速液体クロマトグラフィー条件2>
固定相:YMC−Pack ODS−A(YMC社製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相:アセトニトリル:水=2:5
移動相流量:9mL/min
検出:RI
【0043】
また、上述のようにして得られた画分2を、下記の高速液体クロマトグラフィー条件3のリサイクルHPLCを用いて分画し粗精製物2を得て、次いで高速液体クロマトグラフィー条件4のリサイクルHPLCを用いて分画し、精製物2(715mg)を得た。
【0044】
<高速液体クロマトグラフィー条件3>
固定相:YMC−Pack ODS−A(YMC社製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相:アセトニトリル:水=3:10
移動相流量:9mL/min
検出:RI
【0045】
<高速液体クロマトグラフィー条件4>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)を2本連結
カラム径:20mm
カラム長:500mm(250mm×2本)
移動相:メタノール
移動相流量:5mL/min
検出:RI
【0046】
さらに、上述のようにして得られた画分3を、下記の高速液体クロマトグラフィー条件5のリサイクルHPLCを用いて分画し、精製物3(111mg)を得た。
【0047】
上述のようにして得られた各精製物(精製物1〜3)をESI−マススペクトル及び13C−NMRにより分析した結果を下記に示す。
【0048】
<精製物1のESI−マススペクトル>
m/z 455(M+H)+
【0049】
<精製物1の13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):>
162.5(3-C),159.8(11'-C),159.6(13'-C),158.2(12-C,4'-C),147.4(9'-C),136.4(1-C),133.9(1'-C),130.1(8-C),129.9(9-C),128.7(10-C,14-C),127.9(2'-C,6'-C),123.5(7-C),119.8(2-C),116.3(11-C,13-C),116.1(3'-C,5'-C),107.0(10'-C,14'-C),104.2(6-C),102.1(12'-C),96.8(4-C),93.9(7'-C),57.1(8'-C)
【0050】
<精製物2のESI−マススペクトル>
m/z 471(M+H)+
【0051】
<精製物2の13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):>
160.1(11-C),159.9(13-C,13'-C),158.5(4-C),157.3(4'-C),156.1(11'-C),143.0(9'-C),140.3(9-C),132.6(1'-C),130.9(1-C),129.9(2'-C,6'-C),118.3(10-C),116.2(10'-C),116.0(3'-C,5'-C),115.4(3-C,5-C),110.5(14-C),105.5(14'-C),101.6(12'-C),97.1(12-C),88.4(7'-C),71.2(8-C),49.5(8'-C),43.9(7-C)
【0052】
<精製物3のESI−マススペクトル>
m/z 681(M+H)+
【0053】
<精製物3の13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):>
159.5,159.2*2,158.6,156.8:2,155.9,155.8,154.7,146.8,144.1,141.7,133.3,132.8,130.8,130.5*2,130.2*2,130.0*2,124.8,121.0,116.1*2,116.0*2,115.8,115.5*2,107.4*2,105.9,101.8,101.7,96.6,90.6,62.1,57.4,52.5,48.8,37.5
【0054】
以上の結果から、得られた精製物1及び精製物2が、それぞれ下記式(1)で表されるε−ビニフェリン(試料2)及び下記式(2)で表されるアンペロプシンA(試料3)であることが確認された。また、上記精製物3の分析結果と、Yoshiteru Oshima et al., "AMPELOPSINS A, B AND C, NEW OLIGOSTILBENES OF AMPELOPSIS BREVIPEDUNCULATA VAR. HANCEI", Tetrahedron, Vol. 46, No. 15, pp.5121-5126, 1990に記載されているアンペロプシンCのマススペクトル解析結果及び13C−NMRケミカルシフトとを対比した結果、得られた精製物3が、下記式(3)で表されるアンペロプシンC(試料4)であることが確認された。
【0055】
【化4】

【0056】
【化5】

【0057】
【化6】

【0058】
〔試験例1〕チロシナーゼ活性阻害作用試験
製造例1で得られた各エビヅル抽出物(試料1〜3)、並びに製造例2で得られたε−ビニフェリン(試料4)、アンペロプシンA(試料5)及びアンペロプシンC(試料6)について、以下のようにしてチロシナーゼ活性阻害作用を試験した。
【0059】
48ウェルプレートに、Mcllvaine緩衝液(pH6.8)0.2mL,0.3mg/mLのチロシン溶液0.06mL、試料(試料1〜4,試料濃度は下記表2を参照)の25%DMSO溶液0.18mLを加え、37℃で10分間静置した。これに、800units/mLのチロシナーゼ溶液0.02mLを加え、引き続き37℃で15分間反応させた。反応終了後、波長475nmにおける吸光度を測定した。また、同様の方法で空試験を行った。得られた測定結果から、下記式によりチロシナーゼ活性阻害率(%)を算出した。
【0060】
チロシナーゼ活性阻害率(%)={1−(St−Sb)/(Ct−Cb)}×100
式中、Stは「酵素溶液添加・試料溶液添加時の吸光度」を、Sbは「酵素溶液無添加・試料溶液添加時の吸光度」を、Ctは「酵素溶液添加・試料溶液無添加時の吸光度」を、Cbは「酵素溶液無添加・試料溶液無添加時の吸光度」を示す。
結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すように、エビヅル抽出物、ε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCは、いずれも優れたチロシナーゼ活性阻害作用を有することが確認された。また、アンペロプシンA及びアンペロプシンCのチロシナーゼ活性阻害作用の程度は、濃度により調整可能であることが確認された。
【0063】
〔試験例2〕B16メラノーマ細胞に対するメラニン産生抑制作用試験
製造例1で得られた各エビヅル抽出物(試料1〜3)、並びに製造例2で得られたε−ビニフェリン(試料4)、アンペロプシンA(試料5)及びアンペロプシンC(試料6)について、以下のようにしてB16メラノーマ細胞に対するメラニン産生抑制作用を試験した。
【0064】
B16メラノーマ細胞を、10%FBS含有ダルベッコMEMを用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を10%FBS及び1mmol/Lテオフィリン含有ダルベッコMEMで25.0×10cells/mLの細胞密度に希釈した後、48wellプレートに1wellあたり300μLずつ播種し、6時間培養した。
【0065】
培養終了後、10%FBS及び1mmol/Lテオフィリン含有ダルベッコMEMで溶解した試料溶液(試料1〜4,試料濃度は下記表3を参照)を各wellに300μL添加し、4日間培養した。培養終了後、各wellから培地を取り除き、2mol/LのNaOH溶液200μLを添加して超音波破砕器により細胞を破壊し、波長475nmにおける吸光度を測定し、メラニン産生量とした。
【0066】
また、単位細胞あたりのメラニン産生抑制作用を評価するために、上記と同様にして培養した後、培養液を除去し、終濃度0.05mg/mLで10%FBS含有ダルベッコMEMに溶解したニュートラルレッドを各wellに200μL添加し、2.5時間培養した。培養後、ニュートラルレッド溶液を捨て、エタノール・酢酸溶液(エタノール:酢酸:水=50:1:49)を各wellに200μL添加し、色素を抽出した。抽出後、波長540nmにおける吸光度を測定した。
【0067】
さらに、空試験として、試料を添加せずに上記と同様にして培養した細胞について、波長475nmにおける吸光度及び540nmにおける吸光度を測定した。得られた結果から、下記式により単位細胞あたりのメラニン産生抑制率(%)を算出した。
【0068】
メラニン産生抑制率(%)={1−(B/D)/(A/C)}×100
式中、Aは「試料無添加時の475nmにおける吸光度」を表し、Bは「試料添加時の475nmにおける吸光度」を表し、Cは「試料無添加時の540nmにおける吸光度」を表し、Dは「試料添加時の540nmにおける吸光度」を表す。
結果を表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
表3に示すように、エビヅル抽出物、ε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCは、いずれも優れたメラニン産生抑制作用を有することが確認された。
【0071】
〔配合例1〕
下記組成の乳液を常法により製造した。
エビヅル50容量%エタノール抽出物(製造例1) 0.01g
ホホバオイル 4.0g
黄杞エキス 0.1g
オリーブオイル 2.0g
スクワラン 2.0g
セタノール 2.0g
モノステアリン酸グリセリル 2.0g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O) 2.5g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O) 2.0g
グリチルレチン酸ステアリル 0.1g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
ヒノキチオール 0.15g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0072】
〔配合例2〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
ε−ビニフェリン(製造例2) 0.05g
クジンエキス 0.1g
オウゴンエキス 0.1g
流動パラフィン 5.0g
サラシミツロウ 4.0g
スクワラン 10.0g
セタノール 3.0g
ラノリン 2.0g
ステアリン酸 1.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O) 1.5g
モノステアリン酸グリセリル 3.0g
油溶性甘草エキス 0.1g
1,3−ブチレングリコール 6.0g
パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
香料 0.1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0073】
〔配合例3〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
アンペロプシンA(製造例2) 0.05g
エイジツエキス 0.1g
ワレモコウエキス 0.1g
モノステアリン酸ポリエチレングリコール 2.0g
自己乳化型モノステアリン酸グリセリン 5.0g
ステアリン酸 2.0g
セタノール 2.0g
スクワラン 12.0g
マカダミアナッツ油 3.0g
メチルポリシロキサン 0.2g
香料 0.01g
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
油溶性甘草エキス 0.1g
1,3−ブチレングリコール 7.0g
キサンタンガム 0.2g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0074】
〔配合例4〕
下記組成の美容液を常法により製造した。
アンペロプシンC(製造例2) 0.01g
カミツレエキス 0.1g
ニンジンエキス 0.1g
キサンタンガム 0.3g
ヒドロキシエチルセルロース 0.1g
カルボキシビニルポリマー 0.1g
1,3−ブチレングリコール 4.0g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
グリセリン 2.0g
水酸化カリウム 0.25g
香料 0.01g
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
エタノール 2.0g
精製水 残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の美白剤又は皮膚化粧料は、メラニンの過剰生成や不均一な蓄積に伴う皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の予防、治療又は改善に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エビヅルからの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする美白剤。
【請求項2】
前記抽出物が、チロシナーゼ活性阻害作用及び/又はメラニン産生抑制作用を有することを特徴とする請求項1に記載の美白剤。
【請求項3】
ε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCからなる群より選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール類化合物を有効成分として含有することを特徴とする美白剤。
【請求項4】
前記ポリフェノール類化合物が、チロシナーゼ活性阻害作用及び/又はメラニン産生抑制作用を有することを特徴とする請求項3に記載の美白剤。
【請求項5】
エビヅルからの抽出物を配合したことを特徴とする皮膚化粧料。
【請求項6】
ε−ビニフェリン、アンペロプシンA及びアンペロプシンCからなる群より選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール類化合物を配合したことを特徴とする皮膚化粧料。

【公開番号】特開2010−111645(P2010−111645A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287197(P2008−287197)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】