説明

羽根車及びこれを備えた送風機

【課題】静音性と剛性に優れ、しかも軽量化が可能な羽根車、及びこれを備えた送風機を提供する。
【解決手段】羽根車29は、回転軸11の周囲に設けられた複数の羽根13を含む金属製の羽根車本体15と、各羽根13のおける回転方向前方側の縁である前縁13aに沿って当該羽根13の表面を被覆する樹脂製の前縁被覆部19aと、を備えている。この羽根車29は、複数の羽根13が回転軸11を中心として半径方向外側に放射状に延びるプロペラ形である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根車及びこれを備えた送風機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ターボファン、プロペラファンなどの送風機が種々の用途に用いられている。これらの送風機は、動力の発生源としての電動機と、この電動機の駆動軸に取り付けられて回転する羽根車とを備えている。この羽根車は、回転軸の周囲に設けられた複数の羽根を備えている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されているターボファンの羽根車は、アルミニウム製のハブ及びシュラウドと、これらの間に円周方向に間隔をあけて配置された複数の樹脂製のブレード(羽根)とを有している。また、特許文献2に開示されている羽根車は、金属製のディスクと、このディスクに取り付けられた複数の金属製スパイダー部と、各スパイダー部に一体成形された樹脂製のブレード(羽根)とを有している。
【0004】
通常、羽根車は、高速回転時に遠心力、空気抵抗などに起因して大きな力を受けるので、その力に耐えられる剛性を備えていることが要求される。また、特許文献1,2に開示されているように、通常、羽根車の各羽根は、前縁側の肉厚が厚く、後縁側の肉厚が薄くなる形状(いわゆるエアロフォイル形状)に成形されている。各羽根がこのような形状を有していることにより空力特性が向上するので、羽根車の回転時における静音性が向上することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−307390号公報
【特許文献2】特開2002−242886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2のように各羽根が樹脂により形成されている場合には、エアロフォイル形状のように複雑な3次元形状であっても容易に成形することができるという利点を有している一方で、要求される剛性を付与するためには、例えば各羽根の厚みなどの寸法を大きくする必要がある。したがって、特許文献1,2の羽根車では、要求される剛性を維持したうえで軽量化するのは困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、静音性と剛性に優れ、しかも軽量化が可能な羽根車及びこれを備えた送風機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の羽根車は、回転軸(11)の周囲に設けられた複数の羽根(13)を含む金属製の羽根車本体(15)と、各羽根(13)における回転方向前方側の縁である前縁(13a)に沿って当該羽根(13)の表面を被覆する樹脂製の前縁被覆部(19a)と、を備えている。
【0009】
この構成では、複数の羽根(13)を含む羽根車本体(15)が金属製であるので、羽根(13)を厚肉化させなくても羽根(13)の全体にわたって剛性を付与することができる。したがって、複数の羽根(13)が樹脂により形成されている場合と比較すると、羽根(13)を大幅に薄肉化することが可能になるので、結果的に羽根車を軽量化することも可能になる。しかも、羽根(13)の前縁(13a)に沿って羽根(13)の表面を被覆する樹脂製の前縁被覆部(19a)を有しているので、羽根車の空力特性が向上して羽根車の回転時の騒音を低減することができる。すなわち、本構成では、各羽根(13)の全体的な剛性は羽根車本体(15)を金属製とすることにより得る一方で、回転時の静音性は樹脂製の前縁被覆部(19a)を設けることにより得ている。したがって、本構成の羽根車は、静音性と剛性に優れ、しかも軽量化が可能である。
【0010】
また、前記複数の羽根(13)が板金を加工して成形された板状体である場合には、羽根(13)を低コストで簡単に成形することができる。その一方で、板金加工では羽根(13)の一部を厚肉化するのは困難であるので、羽根(13)は、その前縁(13a)を含む全体にわたって薄板状となり、空力特性が必ずしも高い形状ではない。このように羽根が板金加工により成形される場合であっても、本構成のように羽根(13)の前縁(13a)に沿って当該羽根(13)の表面を樹脂製の前縁被覆部(19a)により被覆することにより羽根の空力特性を向上させることができる。よって、本構成によれば、静音性と低コストを両立させることができる。
【0011】
前記複数の羽根(13)が前記回転軸(11)を中心として半径方向外側に放射状に延びるプロペラ形の羽根車は、他のタイプの羽根車と比べると静音性の点で劣る傾向にある。したがって、本発明はプロペラ形の羽根車に特に有効である。
【0012】
また、プロペラ形の前記羽根車本体(15)は、板金を加工して成形された板状体であってもよい。この場合には、前記羽根車本体(15)の表面のうち、前記複数の羽根(13)同士がつながる半径方向内側の中心領域には、この中心領域を被覆する樹脂製の中心被覆部(19b)が設けられているのが好ましい。
【0013】
この構成では、複数の羽根(13)を含む羽根車本体(15)を板金加工により低コストで簡単に成形できる一方で、板金加工では羽根(13)の一部を厚肉化するのは困難である。したがって、羽根車本体(15)は全体にわたって板状となる。また、プロペラ形の羽根車では、回転時には各羽根(13)の基端側の部分に大きな負荷がかかりやすい。特に、本構成のように板金加工により全体にわたって板状に成形された羽根車本体(15)の場合には、複数の羽根(13)同士がつながる半径方向内側の中心領域に大きな負荷がかかりやすい。したがって、本構成のように羽根車本体(15)の表面のうち、前記中心領域の表面に樹脂製の中心被覆部(19b)が被覆されていることにより、羽根車の剛性をより向上させることができる。
【0014】
また、プロペラ形の前記羽根車本体(15)は、前記回転軸(11)が通る位置に、電動機(31)の駆動軸(33)を挿入可能な貫通口(23)が設けられており、前記中心被覆部(19b)は、前記回転軸(11)が通る位置に、前記貫通口(23)に連通し前記電動機(31)の駆動軸(33)を挿入可能な軸穴(25)が設けられているとともに軸方向の厚みが周囲の部位よりも大きいボス部(27)を有していてもよい。
【0015】
この構成では、中心被覆部(19b)は樹脂製であるので、樹脂成形により厚みの大きな前記ボス部(27)を容易に設けることができる。このボス部(27)は、軸方向の厚みが周囲の部位よりも大きいので、電動機(31)の駆動軸(33)が挿入されると、羽根車(29)は駆動軸(33)に安定して支持される。
【0016】
また、前記前縁被覆部(19a)は、この前縁被覆部(19a)と前記羽根(13)を含む全体の厚みが半径方向外側に向かうほど大きくなるように前記前縁(13a)に沿って前記羽根(13)の表面を被覆していてもよい。
【0017】
プロペラ形の羽根車では、羽根(13)の前縁(13a)は回転時の速度が半径方向外側に向かうほど大きくなる。したがって、本構成のように前縁被覆部(19a)と羽根(13)を含む全体の厚みが半径方向外側に向かうほど大きくなるように前縁被覆部(19a)を設けることにより、空力特性がさらに向上して静音性をさらに高めることができる。
【0018】
本発明の送風機は、前記羽根車と、この羽根車に固定された駆動軸(33)を有する電動機(31)と、を備えているので、軽量化が可能であり、しかも静音性と剛性に優れている。これにより、羽根車を従来よりも高速で回転させることが可能になるので、大きな風量を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、静音性と剛性に優れ、しかも軽量化が可能な羽根車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態にかかる送風機を示す斜視図である。
【図2】図1の送風機の羽根車における羽根車本体を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態にかかる羽根車を示し、(a)は図1のIIIa-IIIa線断面図であり、(b)はIIIb-IIIb線断面図であり、(c)はIIIc-IIIc線断面図であり、(d)は図1のIIId-IIId線断面図であり、(e)はIIIe-IIIe線断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる羽根車を示し、(a)は図1のIIIa-IIIa線断面図であり、(b)はIIIb-IIIb線断面図であり、(c)はIIIc-IIIc線断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態にかかる羽根車を示し、図1のIIIb-IIIb線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
<送風機>
図1に示すように、本発明の一実施形態にかかる送風機35は、駆動源としての電動機31と、この電動機31の駆動軸33に取り付けられた羽根車29とを備えている。この羽根車29は、2つの羽根13が回転軸11を中心として放射状にそれぞれ延びるプロペラ形である。送風機35は、このプロペラ形の羽根車29を備えたプロペラファンである。
【0023】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態にかかる羽根車29は、金属製の羽根車本体15と、この羽根車本体15の表面の一部を被覆する樹脂製の被覆部19とを備えている。
【0024】
羽根車本体15は、図2に示すように、単一の板金を加工して成形された薄板状の成形体であり、全体にわたって厚みがほぼ均一である。羽根車本体15は、回転軸11の周囲に半径方向の延びるように設けられた2つの羽根13を有している。羽根車本体15は、回転軸11を含む位置に、電動機31の駆動軸33を挿入可能な貫通口23を有している。
【0025】
2つの羽根13は、回転軸11を対称軸とする回転対称となる位置にそれぞれ設けられている。
【0026】
被覆部19は、前縁被覆部19aと中心被覆部19b後縁被覆部19cとを含む。これらの前縁被覆部19a、中心被覆部19b及び後縁被覆部19cは、羽根車本体15の表面を連続的に覆っており、例えば後述する射出成形などの方法により羽根車本体15の表面に被覆される。
【0027】
前縁被覆部19aは、各羽根13における回転方向前方側の縁である前縁13aに沿って当該羽根13の表面を被覆している。図1及び図3(a)〜(d)に示すように、前縁被覆部19aは、羽根車本体15の各羽根13の前縁13aに沿って各羽根13の表面13b及び裏面13cの一部をそれぞれ帯状に被覆している。前縁被覆部19aは、各羽根13の表面13bのうち前縁13a側の部分を帯状に被覆して前縁13aにおいて折り返され、さらに裏面13cの前縁13a側の部分を帯状に被覆している。
【0028】
前縁被覆部19aの厚み及び幅は、特に限定されず、羽根車29の形状、大きさ、使用時の羽根車29の回転速度などを考慮して適宜設定すればよい。本実施形態では、前縁被覆部19aは、羽根13と前縁被覆部19aを含む全体の厚みが半径方向の全体にわたってほぼ同程度となるように設けられている。すなわち、羽根13の半径方向外側の部位の厚みt1(図3(a)参照)、羽根13の半径方向中程の部位の厚みt2(図3(b)参照)、羽根13の半径方向内側の部位の厚みt3(図3(c)参照)、及び羽根13の半径方向のさらに内側の部位の厚みt4(図3(d)参照)は、ほぼ同程度に設定されている。
【0029】
羽根13の半径方向外側の部位の幅w1及び半径方向中程の部位の幅w2は、ほぼ同程度であり、半径方向内側の幅w3は、中心被覆部19bになだらかにつながるように幅w1,w2よりも大きく、半径方向のさらに内側の幅w4は、幅w3よりもさらに大きい。この前縁被覆部19aの半径方向内側の部位は中心被覆部19bに連続的につながっている。
【0030】
中心被覆部19bは、図1及び図3(e)に示すように、羽根車本体15の表面13bのうち、2つの羽根13同士がつながる半径方向内側の中心領域21を被覆している。ここで、羽根車本体15の中心領域21とは、図2に示すように、貫通口23の周縁部から羽根車本体15の表面15bに沿って半径方向外側の全方向に所定の広がりを持った領域のことをいう。本実施形態では、中心領域21は、羽根車本体15のうち回転軸11を中心とした略円形の領域である。中心被覆部19bは中心領域21のほぼ全体を覆っている。中心被覆部19bは、裏面13cにも同様に、表面13bの中心領域21に対向する位置に設けられている。中心被覆部19bの厚みは、特に限定されず、羽根車29の形状、大きさ、使用時の回転速度などを考慮して適宜設定すればよい。本実施形態では、羽根車本体15と中心被覆部19bを含む全体の厚みt5は、前記厚みt1〜t4とほぼ同程度に設定されている。
【0031】
中心被覆部19bは、回転軸11を含む位置に、軸方向の厚みが周囲の部位よりも大きいボス部27を有している。このボス部27は、貫通口23に連通し電動機31の駆動軸33を挿入可能な軸穴25を有している。ボス部27は、その基端部分の外周に沿って補強用の複数のリブ27aを有している。この中心被覆部19bは、図1に示すように、羽根車本体15の後縁13eに沿って帯状に設けられている後縁被覆部19cと連続的につながっている。
【0032】
後縁被覆部19cは、羽根車本体15の後縁13のうち、半径方向内側の部位にのみ設けられている。羽根車本体15の後縁13の半径方向内側の部位には、羽根車29の回転時に比較的大きな負荷がかかるので、このような後縁被覆部19cが設けられていることによって羽根車29の剛性がさらに高められ、より高速回転させることも可能になる。
【0033】
次に、羽根車29の製造方法について説明する。まず、プレス加工などの加工方法を用いて板金を加工して羽根車本体15を成形する。羽根車本体15の材料としては、アルミニウム、鉄などの種々の金属を用いることができるが、より軽量化が可能な点で、例えばアルミニウム又はその合金を用いるのがよい。アルミニウム合金としては、例えば日本工業規格で規格化されている1000〜7000番系の材料などを用いることができる。以下、アルミニウム合金を用いた場合を例に挙げて説明する。
【0034】
次に、上記で得られたアルミニウム合金からなる羽根車本体15を塩基性水溶液、酸性水溶液などの前処理液に浸漬して前処理を行う。前処理液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの塩基性水溶液、塩酸、硝酸、硫酸などの酸性水溶液が例示できる。この工程は、必要に応じて省略することもできる。前処理後には、羽根車本体15を水洗するのが好ましい。
【0035】
次に、羽根車本体15を例えばアンモニア、ヒドラジン、水溶性アミン化合物などの水溶液に浸漬して、羽根車本体15の表面に微細な凹凸を形成するとともに、その表面に窒素含有化合物を吸着させる。水溶性アミン系化合物としては、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、アリルアミン、アニリンなどが例示できる。この処理を行った後、羽根車本体15を所定時間乾燥させる。
【0036】
次に、羽根車本体15の表面のうち、上記した前縁被覆部19a、中心被覆部19b及び後縁被覆部19cが被覆される部分に、熱可塑性樹脂を射出成形などの方法により被覆して一体化する。すなわち、射出成形機の金型内に羽根車本体15を配置した状態で上記熱可塑性樹脂を金型内に射出する。これにより、羽根車29が得られる。
【0037】
上記熱可塑性樹脂としては、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)、又はこのPPSと他の樹脂との混合物などを用いることができる。他の樹脂としては、例えばポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートなどが例示できる。この熱可塑性樹脂には、フィラーなどの充填剤が添加されていてもよい。
【0038】
上記のようにして得られた羽根車29は、図1に示すように貫通口23及び軸穴25に電動機31の駆動軸33を挿入し、ボス部27から突出した駆動軸33の先端部に止め具32を嵌合させることにより、駆動軸33に固定される。
【0039】
以上説明したように、本実施形態では、複数の羽根13を含む羽根車本体15が金属製であるので、羽根13を厚肉化させなくても羽根13の全体にわたって剛性を付与することができる。したがって、複数の羽根13が樹脂により形成されている場合と比較すると、羽根13を大幅に薄肉化することが可能になるので、結果的に羽根車を軽量化することも可能になる。しかも、羽根13の前縁13aに沿って羽根13の表面を被覆する樹脂製の前縁被覆部19aを有しているので、羽根車の空力特性が向上して羽根車の回転時の騒音を低減することができる。すなわち、空力特性を向上させるために厚肉化する必要がある部分(羽根車の前縁部分)は樹脂により形成することによって、軽量化と騒音低減を両立している。
【0040】
また、本実施形態では、複数の羽根13が板金を加工して成形された板状体であるので、羽根13を低コストで簡単に成形することができる。しかも、羽根13の前縁13aに沿って当該羽根13の表面を樹脂製の前縁被覆部19aにより被覆しているので、羽根13の空力特性を向上させることができる。よって、本実施形態によれば、静音性と低コストを両立させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、羽根車本体15は、プロペラ形であり、板金を加工して成形された板状体であるので、複数の羽根13を含む羽根車本体15を板金加工により低コストで簡単に成形できる。しかも、羽根車本体15の表面のうち、複数の羽根13同士がつながる半径方向内側の中心領域21には、この中心領域21を被覆する樹脂製の中心被覆部19bが設けられているので、羽根車29の剛性をより向上させることができる。
【0042】
また、本実施形態では、羽根車本体15は、回転軸11が通る位置に、電動機31の駆動軸33を挿入可能な貫通口23が設けられている。また、中心被覆部19bは、回転軸11が通る位置に、貫通口23に連通し電動機31の駆動軸33を挿入可能な軸穴25が設けられているとともに軸方向の厚みが周囲の部位よりも大きいボス部27を有していてもよい。中心被覆部19bは樹脂製であるので、樹脂成形により厚みの大きなボス部27を容易に設けることができる。このボス部27は、軸方向の厚みが周囲の部位よりも大きいので、電動機31の駆動軸33が挿入されると、羽根車29は駆動軸33に安定して支持される。
【0043】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態にかかる羽根車29を示し、(a)は図1のIIIa-IIIa線断面図であり、(b)はIIIb-IIIb線断面図であり、(c)はIIIc-IIIc線断面図である。なお、第1実施形態と同じ構成の部位については、第1実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0044】
この第2実施形態の羽根車29は、羽根13を被覆する前縁被覆部19bの厚みが場所によって異なっている点が第1実施形態と相違している。図4(a)〜(c)に示すように、前縁被覆部19aは、この前縁被覆部19aと羽根13を含む全体の厚みが半径方向外側に向かうほど大きくなるように前縁13aに沿って羽根13の表面を被覆している。すなわち、半径方向外側の部位の厚みt1は、半径方向中程の部位の厚みt2よりも大きく、この厚みt2は、半径方向内側の部位の厚みt3よりも大きい。
【0045】
プロペラ形の羽根車では、羽根13の前縁13aは回転時の速度が半径方向外側に向かうほど大きくなる。したがって、この第2実施形態のように前縁被覆部19aと羽根13を含む全体の厚みが半径方向外側に向かうほど大きくなるように前縁被覆部19aを設けることにより、空力特性がさらに向上して静音性をさらに高めることができる。
【0046】
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態にかかる羽根車29を示し、図1のIIIb-IIIb線断面図である。なお、第1実施形態と同じ構成の部位については、第1実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0047】
この第3実施形態の羽根車29は、羽根13の表面13bにのみ前縁被覆部19aが被覆されている点が第1実施形態と相違している。図5には図示していないが、この第3実施形態では、中央被覆部19b及び後縁被覆部19cは、羽根車本体15の裏面には被覆されておらず、表面にのみ被覆されている。
【0048】
また、前縁被覆部19aは、図5に示すように、前縁13a側の厚みが大きく、前縁13aが遠ざかるほど厚みが小さくなるように設けられている。これにより、羽根13の空力特性がより向上する。
【0049】
この第3実施形態のように、羽根車29の形状、大きさ、使用時の回転速度などによっては、羽根車本体15の表面又は裏面にのみ被覆部19を設けるだけでよい。これにより、被覆部19の樹脂の使用量を削減してコストを低減することができる。
【0050】
<その他の実施形態>
本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記実施形態では、複数の羽根13が板金を加工して成形された板状体である場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。羽根13は、例えば鋳造、鍛造などの他の加工方法を用いて形成されたものであってもよい。
【0051】
また、前記実施形態では、羽根車本体15が、板金を加工して一体的に成形された板状体である場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。羽根車本体15は、各羽根13を別々に成形したものであってもよい。具体的には、例えば、電動機31の駆動軸33が取り付けられる図略の円筒状のハブを別途成形し、このハブの外周部分に、別途成形された各羽根13を溶接、接着、ねじ止めなどの接合手段により接合してもよい。
【0052】
また、前記実施形態では、羽根13に樹脂製の被覆部19を被覆する方法として射出成形を用いる場合を例に挙げて説明したが、これに限定されず、例えば被覆部19を接着剤などにより羽根車本体15に接合する方法などを用いることもできる。
【0053】
また、前記実施形態では、羽根車本体15の中心領域21を被覆する中心被覆部19b及び羽根車本体15の後縁に沿って被覆する後縁被覆部19cを備えている場合を例に挙げて説明したが、これらの中心被覆部19b及び後縁被覆部19cは必須ではなく、省略することもできる。
【0054】
また、前記実施形態では、前縁被覆部19a、中心被覆部19b及び後縁被覆部19cが連続的(一体的)につながっている場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。前縁被覆部19a、中心被覆部19b及び後縁被覆部19cは、それぞれの被覆部位に別体で被覆されていてもよい。
【0055】
また、前記実施形態では、中心被覆部19bが、電動機31の駆動軸33を挿入するボス部27を有している場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。ボス部27は、前記実施形態のように樹脂製ではなく、例えば金属などの他の材料により形成されていてもよい。例えば、ボス部27が金属製である場合には、羽根車本体15に溶接などにより接合すればよい。
【0056】
また、前記実施形態では、送風機35がプロペラファンである場合を例に挙げて説明したが、本発明はターボファン、シロッコファンなどの他の送風機にも適用することができる。例えば、ターボファンの場合には、電動機31の駆動軸33に固定される図略のハブ部と、このハブ部の周方向に沿って配置される複数の羽根とを備えた羽根車が用いられる。これらの複数の羽根は別体で成形されたものである。
【符号の説明】
【0057】
11 回転軸
13 羽根
13a 羽根の前縁
15 羽根車本体
19 被覆部
19a 前縁被覆部
19b 中心被覆部
21 中心領域
23 貫通口
25 軸穴
27 ボス部
29 羽根車
31 電動機
33 電動機の駆動軸
35 送風機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(11)の周囲に設けられた複数の羽根(13)を含む金属製の羽根車本体(15)と、
各羽根(13)における回転方向前方側の縁である前縁(13a)に沿って当該羽根(13)の表面を被覆する樹脂製の前縁被覆部(19a)と、を備えた羽根車。
【請求項2】
前記複数の羽根(13)は、板金を加工して成形された板状体である、請求項1に記載の羽根車。
【請求項3】
前記複数の羽根(13)が前記回転軸(11)を中心として半径方向外側に放射状に延びるプロペラ形である、請求項1又は2に記載の羽根車。
【請求項4】
前記羽根車本体(15)は、板金を加工して成形された板状体であり、
前記羽根車本体(15)の表面のうち、前記複数の羽根(13)同士がつながる半径方向内側の中心領域には、この中心領域を被覆する樹脂製の中心被覆部(19b)が設けられている、請求項3に記載の羽根車。
【請求項5】
前記羽根車本体(15)は、前記回転軸(11)が通る位置に、電動機(31)の駆動軸(33)を挿入可能な貫通口(23)が設けられており、
前記中心被覆部(19b)は、前記回転軸(11)が通る位置に、前記貫通口(23)に連通し前記電動機(31)の駆動軸(33)を挿入可能な軸穴(25)が設けられているとともに軸方向の厚みが周囲の部位よりも大きいボス部(27)を有している、請求項4に記載の羽根車。
【請求項6】
前記前縁被覆部(19a)は、この前縁被覆部(19a)と前記羽根(13)を含む全体の厚みが半径方向外側に向かうほど大きくなるように前記前縁(13a)に沿って前記羽根(13)の表面を被覆している、請求項3〜5のいずれかに記載の羽根車。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の羽根車(29)と、
この羽根車(29)に固定された駆動軸(33)を有する電動機(31)と、を備えている送風機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−74763(P2011−74763A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223910(P2009−223910)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】