説明

老眼の治療における使用のための、副交感神経興奮薬及び抗炎症薬を含む眼科用組成物

【課題】外科的介入なしに老眼を薬理学的に治療する薬剤の提供。
【解決手段】副交感神経様作動薬及び非ステロイド系抗炎症薬を含む老眼の処置のための眼科用組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老眼の治療における使用のための、副交感神経興奮薬及び非ステロイド系抗炎症薬を含む眼科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼球調節の異常である老眼は、従来から矯正レンズを使用することにより対処されている。
【0003】
近年、強膜拡張バンド、前毛様体強膜切開術、多焦点眼内レンズ、又は強膜レトロリンバレ(sclera retrolimbare)のレーザー切除術(特許文献1及び2)などの外科的方法が老眼を矯正するものとして提案されている。しかし、これらの技術はいずれも、眼球調節のメカニズムに関する問題点を解決するものではないので、議論の余地を残している(非特許文献1)。
【0004】
老眼の処置に関する出版物は、このようなメカニズムについて考慮しておらず、近見視力を外科的に矯正することを目的としている。
【0005】
Lin−Kadambiは、外科手術の結果を安定化させるのを薬理学的に助けるために、アドレナリン作動薬及びコリン作動薬を用いて交感神経及び副交感神経を刺激することを提案している。ヒトにおいて眼球調節を薬理学的に処置することが先に論文報告されている。
【0006】
Rosenfieldによると、αアドレナリン作動性アンタゴニストの処置が、眼球調節力を1.5D上昇させたことを報告している。しかしこの作用の継続時間はわずか2時間である(非特許文献2)。
【0007】
Nyberg,van Alphenらによると、老眼患者におけるαアドレナリン作動薬を用いた療法は、満足できるものではなかった。
【0008】
Nolan(特許文献3)が報告するところによれば、アセチルコリン及びフィゾスチグミンの老眼患者への局所適用は、良くない結果しか与えず遠見のぼやけを解決していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6263879号明細書
【特許文献2】米国特許第6258082号明細書
【特許文献3】米国特許第6273092号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Mathews S.,Scleral Expansion Surgery does not Restore Accommodation in Human Presbyopia.Ophthalmology 1999年,106巻,p.873−877
【非特許文献2】Rosenfield M. The influence of Alpha−adrenergic−agents on tonic accommodation. Current Eye Research,1990年,9巻,3号,p.267−272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、外科的介入なしでの老眼の薬理学的治療に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実際に、視覚調節の変質を、副交感神経様作動薬の使用によって、近見の調節をもたらす交感神経支配を刺激することで治療することができ、この結果を非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を用いた処置で経時で維持できることを見出した。
【0013】
本発明によれば、非ステロイド系抗炎症薬は、ジクロフェナク(diclofenac)、ケトロラク(ketorolac)、ブロムフェナク(bromfenac)、フルルビプロフェン(flurbiprofen)、スプロフェン(suprofen)、プラノプロフェン(pranoprofen)、オキシフェンブタゾン(oxyphenbutazone)、ベンダザック(bendazac)、及びインドメタシン(indomethacin)からなる群から選択できる。
【0014】
従って本発明は、老眼の治療のための、副交感神経様作動薬及び非ステロイド系抗炎症薬の組合せを含む眼科用組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の組合せにおける副交感神経様作動薬は、毛様体筋の収縮/弛緩強度に作用することにより、眼球調節レベルを安定に保つ。一方、NSAIDsは、このような作用を経時で維持し、老眼患者に通常経時で生じているような生理学的退行を防止する。本発明の組合せは、毛様体筋−小帯複合体中の如何なる組織学的変質及び身体的変質(線維症及び固縮)も防止する。
【0016】
本発明は、正視患者及び遠視患者において少なくとも5年間、良好で安定した結果をもたらしている。一方で、レンズの形状変化がその剛性のために妨げられる場合には、本発明は成功裏には行われない。
【0017】
より詳細には、本発明は、老眼の治療における使用のための、ピロカルピン(pilocarpine)及びNSAIDを含む眼科用組成物に関する。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、ピロカルピンはその塩酸塩であり、NSAIDはジクロフェナクナトリウムである。
【0019】
本発明の組成物は、副交感神経様作動薬を0.5%〜4%の範囲の量で含有し、NSAIDを0.01mg〜0.1mgの範囲の量で含有する。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、前記組成物は塩酸ピロカルピンを1%〜2%の範囲の濃度で含有し、ジクロフェナクナトリウムを0.1%〜0.5%の範囲の量で含有する。
【0021】
前記眼科用組成物は、例えば「Remington’s Pharmaceutical Handbook」,第18版(1995年6月),Mack Publishing Co.,N.Y.,USAに記載されているようなよく知られた手順と技術によって、製薬技術の分野においてよく知られている従来の添加剤を使用して、局所性投与用に適切に調製される。前記添加剤の例としては、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、ソルビトール、マンニトールなどの等張化剤;ホウ酸、リン酸、酢酸、炭酸、クエン酸などの緩衝液;エチレンジアミン四酢酸、亜硫酸水素ナトリウムなどの安定化剤;クエン酸、リン酸、塩酸、酢酸、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどのpH調整剤;ポリソルベート、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マクロゴール4000などの可溶化剤;及びセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドンなどの増粘剤及び分散剤が挙げられる。
【実施例】
【0022】
本発明の組成物を用いた薬理学的実験の結果を以下に報告する。
【0023】
(材料及び方法)
40歳から65歳までの老眼患者男女100名を、本発明の組成物を用いて処置した。なお、1ジオプトリより高い近視及び乱視を有する患者、3ジオプトリより高い遠視を有する患者、並びに角膜、レンズ、及びガラス体が混濁している者、慢性一般病理を有する者は除外されている。
老眼患者集団を4種のグループに分けた。
グループ1:他の症状を伴わない老眼(Pure presbyopics)
グループ2:遠視を伴った老眼
グループ3:斜位を伴った老眼
グループ4:緑内障を伴った老眼
【0024】
全グループの患者を、眼交感神経支配に作用する薬剤を種々の濃度及び組合せで含有する点眼薬で治療した。
【0025】
他の症状を伴わない老眼患者(グループ1)には、1%塩酸ピロカルピン+0.5%ジクロフェナクナトリウムを、日中に6時間間隔で局所的に処置し、夜は処置を停止した。
【0026】
遠視を伴った老眼患者(グループ2)には、2%塩酸ピロカルピン+0.5%ジクロフェナクナトリウムを、日中に6時間間隔で局所的に処置した。
【0027】
斜位を伴った老眼患者(グループ3)には、融像及び調節収斂を刺激することを目的とする視野訓練処置と共に、1%塩酸ピロカルピンを日中に6時間間隔で局所的に処置した。この視野訓練処置は、訓練ソフトウェアの使用方法につき患者をトレーニングすることによって実施し、次に患者は専門家による補助を必要とすることなく訓練ソフトウェアを使用した。毎日3分間のセッションを15日間行い、これを毎年繰り返した。
【0028】
緑内障を伴った老眼患者(グループ4)には、2%塩酸ピロカルピン+0.5%ジクロフェナクナトリウムを、夜間を含めた24時間に6時間間隔で局所的に処置した。患者が常用する降圧薬剤の投与は継続した。
【0029】
全ての患者を、1週間の処置後、最初の3ヶ月間毎月モニターし、投薬量及び副作用の評価を行った。
以下について調整を行った。
近見及び遠見の鮮明さ
縮瞳
結膜
眼圧
眼精疲労
寛容
望ましい視覚の鮮明さが得られなかった場合、投薬量を変更し、眼球調節について検査した。
患者が縮瞳に耐えられなかった場合、角膜括約筋中360°に亘るスポットにアルゴンレーザーを照射し角膜形成を行った。レーザーの強度及びスポットのサイズは、角膜色素沈着の強度に適合させた。
結膜炎症が生じた場合は、局所処置は変更した。
眼圧が理想的でなかった場合、老眼処置の前の降圧薬剤投与を変更した。
患者が眼精疲労に陥った場合、視野訓練処置を修正した。
患者が薬剤に対する過敏症を示した場合、処置を保留にした。
【0030】
(結果及び結論)
患者100人を処置した:2人の患者が塩酸ピロカルピンに対する過敏症を示し(下痢及び消化不良)、2人の患者(遠視を伴った老眼)において視覚の鮮明さの望ましい改善が見られなかった。
6年間処置下にあった患者は10人で、
5年間処置下にあった患者は20人で、
4年間処置下にあった患者は30人で、
3年間処置下にあった患者は40人で、
2年間処置下にあった患者は80人で、
1年間処置下にあった患者は96人であった。
【0031】
(結果)
グループ1:患者の100%が老眼が矯正されるのを経験した。
【0032】
グループ2:患者の48%が眼鏡の使用をやめ、44%だけが、元々あった遠視のために処置前に必要とされたものより2ジオプトリ〜3ジオプトリ低い近見用眼鏡を使用するようになり、そして8%の患者が処置を受けるのをやめた。
【0033】
グループ3:患者の89.47%が眼鏡の使用をやめかつ良好な近見視力を有しており、10.53%が近見視力が改善されるのを経験しなかった。
【0034】
グループ4:患者の100%が眼鏡なしで良好な近見視力を有しており、眼内圧高進の制御は継続して行った。
【0035】
処置を受けるのをやめた患者は、視覚の鮮明さが処置前の状態に戻ることを経験した。これらの患者では老眼の悪化は観察されず、眼球調節が処置開始前より改善された患者もいた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
副交感神経様作動薬及び非ステロイド系抗炎症薬の組み合わせを含むことを特徴とする老眼の処置のための眼科用組成物。
【請求項2】
副交感神経様作動薬がピロカルピン(pilocarpine)及びその塩のいずれかである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
非ステロイド系抗炎症薬がジクロフェナク、ケトロラク、ブロムフェナク、フルルビプロフェン、スプロフェン、プラノプロフェン、オキシフェンブタゾン、ベンダザック、及びインドメタシンからなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
非ステロイド系抗炎症薬がジクロフェナク及びその塩のいずれかである請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
塩酸ピロカルピンを1%〜2%の範囲の濃度で含み、ジクロフェナクナトリウムを0.1%〜0.5%の範囲の量で含む請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
老眼処置の薬剤の調製のための副交感神経様作動薬及び非ステロイド系抗炎症薬を組み合わせたことを特徴とする使用。
【請求項7】
副交感神経様作動薬がピロカルピン及びその塩のいずれかである請求項6に記載の使用。
【請求項8】
非ステロイド系抗炎症薬がジクロフェナク、ケトロラク、ブロムフェナク、フルルビプロフェン、スプロフェン、プラノプロフェン、オキシフェンブタゾン、ベンダザック、及びインドメタシンからなる群から選択される請求項6に記載の使用。
【請求項9】
非ステロイド系抗炎症薬がジクロフェナク及びその塩のいずれかである請求項8に記載の使用。


【公表番号】特表2010−513454(P2010−513454A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542246(P2009−542246)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/IB2007/003780
【国際公開番号】WO2008/075149
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(509170785)
【Fターム(参考)】