耐チッピング性複層塗膜の形成方法および耐チッピング性複層塗膜
【課題】耐チッピング性の高い複層塗膜を得る。
【解決手段】耐チッピング性複層塗膜の形成方法は、鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜10上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜12を形成するベース塗膜形成工程と、ベース塗膜12上にクリア塗膜14を形成するクリア塗膜形成工程と、を有する。
【解決手段】耐チッピング性複層塗膜の形成方法は、鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜10上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜12を形成するベース塗膜形成工程と、ベース塗膜12上にクリア塗膜14を形成するクリア塗膜形成工程と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐チッピング性複層塗膜の形成方法および耐チッピング性複層塗膜、特に、耐衝撃性の高い耐チッピング性複層塗膜の形成方法および耐チッピング性複層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両用外装は、通常、図11に示すように、鋼板24上に電着塗膜26、中塗塗膜10、必要に応じて着色塗膜、ベース塗膜22、クリア塗膜14が順次形成された複層塗膜からなる。複層塗膜とすることにより、平滑性、光沢鮮鋭性が優れ、意匠性の高い塗膜が得られる。
【0003】
しかしながら、例えば車両用外装として上記複層塗膜が施されている場合、車両外観の意匠性は高いものの、走行中に跳ね上げた小石や砂利などが外装塗膜に衝突し、その局所的な衝突によって、塗膜が局所的に剥がれ易くなる(いわゆる、チッピングが発生する)傾向があった。そして、上述のようなチッピングが発生すると、塗膜が破壊され、剥離して、塗面の美観が低下する。さらに、塗膜破壊が大きい場合には、被塗物の素地面が露出して錆が発生するおそれもある。
【0004】
そこで、特許文献1には、下塗塗料(A)、中塗塗料(B)、着色ベース塗料(C)、パール調のベース塗料(D)及びクリヤー塗料(E)を順次塗装して複層塗膜を形成するにあたり、微細アルミニウム粉末と酸化チタン顔料を含有させた中塗塗料(B)により中塗塗膜を形成し、主に中塗塗膜により衝撃エネルギーを吸収し、複層塗膜の耐チッピング性を向上させることが提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、チタン白顔料とアルミニウムフレークを含む着色ベースコート(A)上に、酸化チタンで被覆されたりん片状雲母粉末を配合してなるホワイトパール調又はシルバーパール調のベースコート(B)、クリヤーコート(C)を形成する複数塗膜形成方法が開示され、特許文献3には、中塗り塗膜面に、アルミニウムフレーク、金属酸化物で被覆されたアルミニウムフレーク及びチタン白顔料を含有するメタリック塗料(A)及びクリヤ塗料(B)を塗装した後加熱硬化させる複層塗膜形成方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするプライマー(A)に、Al、Mg、Cu、Au、Ag等の微小金属箔を配合してなるベースコート(B)を乾燥膜厚1〜3μmになるように形成し、さらにクリヤーコート(C)を順次塗装する複層塗膜形成方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−137677号公報
【特許文献2】特開平8−164358号公報
【特許文献3】特開2003−211071号公報
【特許文献4】特開2004−141710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年、塗膜外観の意匠をより長期的に維持することが求められている。一方、上記特許文献1に記載の中塗塗膜に含まれるアルミニウム粉末や酸化チタン顔料では、その衝撃吸収能が今一歩であるため、特許文献1に記載の複層塗膜では、近年の要求に合致する耐チッピング性を得ることが難しく、また、主に中塗塗膜によって、衝撃エネルギーを吸収させていることから、外部からの局所的な衝撃によって、複層塗膜のクリヤー塗膜、パール調のベース塗膜及び着色ベース塗膜のいずれもが破損し、塗膜外観の意匠を損ねてしまう可能性があった。
【0009】
また、特許文献2,3に記載のような複層塗膜においても、チタン白顔料、アルミニウムフレークや酸化チタンで被覆されたりん片状雲母粉末では、その衝撃吸収能が今一歩であるため、上記複層塗膜では、近年の要求に合致する耐チッピング性を得ることが難しく、やはり塗膜外観の意匠を長期的に維持することは困難であった。
【0010】
また、特許文献4に記載の複層塗膜は、耐チッピング性の向上を図るため、ベースコート(B)に微小金属箔が含有させているが、この微小金属箔の素材は、展延性はあるものの瞬間的な襲撃エネルギー吸収能の劣るAl、Mg、Cu、Au、Agであり、さらにベースコート(B)自体の膜厚も1〜3μmであることから、ベースコート(B)の耐チッピング性は、やはり近年の要求品質に対し今一歩であった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、より耐チッピング性の高い複層塗膜及びその複層塗膜を形成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法は、以下の特徴を有する。
【0013】
(1)鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、前記ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、を有する耐チッピング性複層塗膜の形成方法である。
【0014】
上記鱗片状のチタン酸顔料は、後述するように含有量PWC(pigment weight content:塗料の樹脂に対する固形分含量)15〜30%で含有されているが、従来の顔料や金属箔に比べて非常に厚みが薄いため、同PWC配合であっても、塗膜中の顔料数としては非常に多くなる(例えば、粒径、PWC、顔料比重が同じ場合、厚みが1/10であれば顔料数は10倍になる)。したがって、外部から局所的な衝撃エネルギーが複層塗膜に加わったとしても、この局所的な衝撃エネルギーは、一部クリア塗膜で吸収され、ベース塗膜まで到達したとしても、ベース塗膜内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料を上方から厚み方に沿って次々に細かく破壊(クレーズ)してゆき、消費される。その結果、主にベース塗膜において、従来に比べ格段に衝撃エネルギーを吸収することができ、複層塗膜の耐チッピング性を向上させることができる。
【0015】
例えば、車両外装に複層塗膜を形成した場合、車両の走行中に跳ね上げた小石や砂利などが外装塗膜に衝突したとしても、この衝撃エネルギーは、ベース塗膜内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料を上方から順次厚み方向に沿って細かく破壊(クレーズ)してゆくことによって消費され、これにより、従来に比べ、ベース塗膜における衝撃エネルギー吸収能を大幅に向上させることができる。塗膜中に多量存在する顔料のうち、ほんの僅かな顔料でエネルギーを吸収できるため、意匠性には全く影響がない。その結果、車両の塗装外観を長期維持することができる。
【0016】
(2)電着塗装済みの鋼板上に、鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、前記ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、を有する耐チッピング性複層塗膜の形成方法である。
【0017】
上述したように、チタン酸顔料は、従来の顔料や金属箔に比べて非常に厚みが薄いため、同PWC配合であっても、塗膜中の顔料数としては非常に多くなる。したがって、外部から局所的な衝撃エネルギーが複層塗膜に加わったとしても、この局所的な衝撃エネルギーは、一部クリア塗膜で吸収され、ベース塗膜まで到達したとしても、ベース塗膜内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料を上方から次々に細かく破壊(クレーズ)してゆき、これにより、主にベース塗膜において衝撃エネルギーを消費させることができる。その結果、上記複層塗膜は、従来に比べ格段に衝撃エネルギーを吸収することができ、電着塗膜にまでチッピングダメージを生じさせるおそれがない。
【0018】
(3)上記(1)または(2)に記載の耐チッピング性複層塗膜において、前記鱗片状のチタン酸顔料のアスペクト比は、100以上30000以下である。
【0019】
特に、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸は、極薄の鱗片状のチタン酸顔料であり、上述のアスペクト比(厚みと長手方向の長さとの比)を有する。したがって、この極薄の鱗片状のチタン酸顔料は、ベース塗膜中に非常に多くの顔料数として緻密に高配向させることができ、その結果、ベース塗膜の厚み方向の衝撃吸収能が極めて高くなり、複層塗膜の耐チッピング性が向上する。
【0020】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の耐チッピング性複層塗膜において、少なくとも前記ベース塗膜を体積収縮させるプレヒート工程を有する。
【0021】
ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するために、プレヒートを行いベース塗膜中の水分を気化し、体積収縮させることで、ベース塗膜中のチタン酸顔料がより緻密に高配向して固定される。これにより、衝撃吸収能の高いベース塗膜を形成することができ、複層塗膜の耐チッピング性が向上する。
【0022】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の耐チッピング性複層塗膜の形成方法において、前記鱗片状のチタン酸顔料は、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸である。
【0023】
本発明の耐チッピング性複層塗膜は、以下の特徴を有する。
【0024】
上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の耐チッピング性複層塗膜の形成方法により形成された耐チッピング性複層塗膜である。
【0025】
また、鱗片状のチタン酸顔料が非常に多くの顔料数として高配向で且つ緻密に並んだ状態で存在する塗膜を少なくとも1層含む耐チッピング性複層塗膜である。
【0026】
鱗片状のチタン酸顔料が非常に多くの顔料数として高配向で緻密に並んだ状態で存在する塗膜を有することにより、外部より複層塗膜に局所的な衝撃が加わったとしても、この衝撃エネルギーは、非常に多くの顔料数として高配向している鱗片状のチタン酸顔料が次々に細かく破壊されていくことにより、消費されてゆき、その結果、鱗片状のチタン酸顔料を含有する塗膜において、ほとんどの衝撃エネルギーを吸収することができる。これにより、複層塗膜の耐チッピング性は向上する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、主にベース塗膜によって局所的な衝撃エネルギーを吸収することができ、耐チッピング性の高い複層塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0029】
[耐チッピング性複層塗膜の形成方法]
本発明の好適な実施の形態の耐チッピング性複層塗膜の形成方法は、図1,図2,図3に示すように、鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を図1に示す中塗塗膜10上あるいは図2に示す着色ベース塗膜11上に塗布してベース塗膜12を形成するベース塗膜形成工程と、ベース塗膜12上にクリア塗膜14を形成するクリア塗膜形成工程と、を有する。
【0030】
上記鱗片状のチタン酸顔料は、図4の走査電子顕微鏡写真のように、ベース塗膜12中に高配向で緻密に並んだ状態で存在する。その結果、ベース塗膜12は強靱となり、塗膜としての形状維持性が増大する。さらに、チタン酸顔料は、従来の顔料や金属箔に比べて非常に厚みが薄いため、同PWC配合であっても、塗膜中の顔料数としては非常に多くなる。したがって、外部から局所的な衝撃エネルギーが複層塗膜に加わったとしても、この局所的な衝撃エネルギーは、一部クリア塗膜14で吸収され、ベース塗膜12まで到達したとしても、ベース塗膜12内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料を上方から厚み方に沿って次々に細かく破壊(クレーズ)してゆき、消費される。その結果、主にベース塗膜において、従来に比べ格段に衝撃エネルギーを吸収することができ、複層塗膜の耐チッピング性を向上させることができる。
【0031】
さらに詳細に説明すると、例えば、図5に示すように、中塗塗膜10、ベース塗膜12、クリア塗膜が積層されている複層塗膜が、車両外装として形成されている場合、車両の走行中に跳ね上げた小石30などが外装塗膜に衝突したとしても、図5におけるベース塗膜12とクリア塗膜14の拡大図にしめすように、この局所的な衝撃エネルギーは、ベース塗膜12内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料16を上方から順次厚み方向に沿って細かく破壊、すなわちクレーズ40してゆくことにより消費される。したがって、従来に比べ、ベース塗膜12における衝撃エネルギー吸収能を大幅に向上させることができ、その結果、中塗塗膜10までの破損を大幅に減少させる。また、エネルギー吸収によって破壊(クレーズ)される顔料は、塗膜中に含まれる多量の顔料のごく一部であり、意匠性に全く影響を与えない。ゆえに、車両の塗装外観を長期維持することができる。
【0032】
特に、電着塗装済みの鋼板上に、鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成し、さらに、前記ベース塗膜上にクリア塗膜を形成してもよい。
【0033】
上記形成方法により形成された複層塗膜も、上述同様に、鱗片状のチタン酸顔料は、従来の顔料や金属箔に比べて非常に厚みが薄いため、同PWC配合であっても、塗膜中の顔料数としては非常に多くなる。したがって、外部から局所的な衝撃エネルギーが複層塗膜に加わったとしても、この局所的な衝撃エネルギーは、一部クリア塗膜で吸収され、ベース塗膜まで到達したとしても、ベース塗膜内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料を上方から次々に細かく破壊(クレーズ)してゆくことによって消費され、これにより、主にベース塗膜において衝撃エネルギーを消費させることができる。その結果、上記複層塗膜は、従来に比べ格段に衝撃エネルギーを吸収することができ、中塗塗膜への損傷も大幅に軽減できるとともに、さらに下層の電着塗膜にまでチッピングダメージを生じさせるおそれがない。これにより、鋼板面が露出して錆を発生させるおそれはほとんどなく、外装外観を長期的に維持することができる。
【0034】
さらに、本実施の形態の耐チッピング性複層塗膜の形成方法では、少なくともベース塗膜を体積収縮させるプレヒート工程を有する。
【0035】
ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するために、プレヒートを行いベース塗膜を硬化させることによって、ベース塗膜中のチタン酸顔料がより緻密に高配向して固定される。その結果、衝撃吸収能の高いベース塗膜を形成することができ、複層塗膜の耐チッピング性が向上する。
【0036】
また、本実施の形態では、図1から図3に示すように、ベース塗膜12上にクリア塗膜14を形成したのち、焼き付けを行うことが望ましく、すなわち、中塗塗膜10あるいは着色ベース塗膜11、ベース塗膜12、クリア塗膜14において、3コート2ベークが好ましい。ベース塗料が水性塗料の場合には、中塗塗装を行ったのち中塗塗膜10を焼き付け、次いでベース塗装を行った後ベース塗膜12をプレヒートし、さらにクリア塗装によりクリア塗膜14を形成し焼き付ける、3コート1プレヒート2ベークが望ましい。
【0037】
上記チタン酸顔料は、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸からなるチタン酸顔料から選択される顔料である。
【0038】
特に、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸は、極薄の鱗片状のチタン酸顔料であるため、ベース塗膜中により緻密に高配向して存在することになる。
【0039】
電着塗膜は、鋼板表面に下塗り塗料としてカチオン電着塗料を用い塗装することにより得られる。ここで、カチオン電着塗料としては、カチオン性高分子化合物の塩の水溶液もしくは水分散液に、必要に応じて架橋剤、顔料や各種添加剤を配合してなるそれ自体既知のものを使用することができ、その種類は特に限定されない。カチオン性高分子化合物としては、例えば、架橋性官能基を有するアクリル樹脂またはエポキシ樹脂にアミノ基などのカチオン性基を導入したものが挙げられ、これは有機酸または無機酸などで中和することによって水溶化もしくは水分散化することができる。これらの高分子化合物を硬化するための架橋剤としては、ブロックポリイソシアネート化合物、脂環式エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0040】
電着塗膜は、硬化塗膜を基準にして、通常、10〜40μmの範囲が好ましく、塗膜は140〜220℃で10〜40分間加熱硬化させることができる。
【0041】
中塗塗膜10を形成する中塗り塗料としては、ビヒクル成分として使用される熱硬化性樹脂組成物は、基本的に、基体樹脂と架橋剤とからなり、基体樹脂としては、例えば、水酸基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボキシル基のような架橋性官能基を1分子中に2個以上有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などが挙げられ、また、架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂などのようなアミノ樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物、カルボキシル基含有化合物などが挙げられる。
【0042】
また、中塗塗膜10は、膜厚30〜40μmで塗装される。必要に応じて、中塗塗膜10には、例えば酸化チタン顔料、アルミニウムフレークなどの顔料を含むことができる。
【0043】
また、ベース塗膜12を形成するベース塗料としては、溶剤系ベース塗料と水性ベース塗料とがある。そして、水性ベース塗料、特に熱硬化型水性塗料は、鱗片状のチタン酸顔料と、水に溶解又は分散可能な樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶媒である水とを含有する。水に溶解又は分散可能な樹脂としては、例えば、1分子中にカルボキシル基等の親水基と水酸基等の架橋性官能基とを含有する樹脂であって、具体的に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。架橋剤としては、例えば、疎水性又は親水性のアルキルエーテルメラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物等を挙げることができる。一方、溶剤系ベース塗料は、鱗片状のチタン酸顔料と、上記同様の樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶剤とを含有する。
【0044】
また、ベース塗膜12は、水性ベース塗料を用いた場合には膜厚10〜15μmで塗装され、溶剤系ベース塗料を用いた場合には、膜厚12〜18μmで塗装される。
【0045】
クリア塗膜14を形成するクリア塗料は、本実施の形態では無色透明の塗膜を形成可能な熱硬化性塗料が好ましく、熱硬化性樹脂と有機溶剤と、必要に応じて、紫外線吸収剤等が含有されている。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、エポキシ基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などの樹脂と、これらの架橋性官能基に反応しうるメラミン樹脂、尿素樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂などの架橋剤とからなる。
【0046】
また、クリア塗膜14は、20〜50μmの膜厚で塗装される。
【0047】
上述したチタン酸顔料としては、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸を得ることができる。
【0048】
以下に、極薄鱗片状チタン酸顔料の製造方法の一例を図6を用いて説明する。
【0049】
層状チタン酸塩K0.8Li0.27Ti1.73O4を酸処理し、交換可能な金属カチオンを水素イオンまたはヒドロニウムイオンで置換することにより層状チタン酸(例えば、H1.07Ti1.73O4・nH2O)が得られる。この層状チタン酸に有機塩基性化合物を作用させ、層間を剥離することにより、薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゾル)が得られる。有機塩基性化合物としては、ジメチルエタノールアミン(DMEA)が望ましい。
【0050】
好ましくは、次いで、上記剥離ゾルに炭酸セシウムを添加して有機塩基性化合物をセシウムイオンで置換し、遠心洗浄で過剰炭酸セシウムおよび生成アミン炭酸塩を除去し、さらに炭酸ガスのバブリングにより、チタン酸の中和ゾルを形成する。得られた薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゾル)は、耐光性が向上する。
【0051】
得られた水性媒体分散液(剥離ゾル)の薄片状チタン酸は、図7に示すように、1枚約1nmのチタン酸が、単層あるいは複数枚積層された鱗片状チタン酸として得られる。この鱗片状チタン酸顔料16は、鱗片状の長手方向の長さ(粒径)が10〜30μmのものが用いられ、この鱗片状チタン酸顔料のアスペクト比(厚みと長手方向の長さとの比)は、塗膜中ではその厚みが1〜100nmであることから、100〜30000であり、好ましくは100〜600である。この鱗片状のチタン酸の顔料は、上述した塗膜形成方法を用いることにより、ベース塗膜中で、図4に示すベース塗膜断面の走査電子顕微鏡写真のように、高配向で緻密に並ぶ。
【0052】
<薄片状チタン酸分散液の合成>
(合成例1)
酸化チタン67.01g、炭酸カリウム26.78g、塩化カリウム12.04gおよび水酸化リチウム5.08gを乾式で粉砕混合した原料を1020℃にて4時間焼成した。得られた粉末の10.9%の水スラリー7.9kgを調製し、10%硫酸水溶液470gを加えて2時間撹拌し、スラリーのpHを7.0に調製した。分離、水洗したものを110℃で乾燥した後、600℃で12時間焼成した。得られた白色粉末は層状チタン酸塩K0.6Li0.27Ti1.73O3.9であり、平均長径15μmであった。
【0053】
この層状チタン酸塩65gを3.5%塩酸5kgに分散撹拌し、40℃で2時間反応させた後、吸引濾過で分離し、水洗した。得られた層状チタン酸のK2O残量は2.0%であり、金属イオン交換率は94%であった。
【0054】
得られた層状チタン酸全量を脱イオン水1.6kgに分散して撹拌しながら、ジメチルエタノールアミン34.5gを脱イオン水0.4kgに溶解した液を添加し、40℃で12時間撹拌してpH9.9の薄片状チタン酸分散液を得た。10000rpmで10分間遠心することにより濃度5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液は長時間静置しても固形分の沈降は見られず、それを110℃で12時間乾燥した固形分は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が14.7重量%、XRD分析により層間距離が10.3Åであった。
【0055】
(合成例2)
合成例1の薄片状チタン酸分散液200gを脱イオン水で濃度1.7重量%に調製し、撹拌しながら5重量%炭酸セシウム水溶液120gを添加し、室温で1時間撹拌して、薄片状チタン酸の層間イオンをジメチルエタノールアンモニウムからセシウムイオンに置換した。10000rpmで10分間遠心して上澄みを分取後、沈降した濃縮薄片状チタン酸分散液を脱イオン水で再希釈する操作を3回繰り返すことにより、過剰の炭酸セシウムおよび脱離ジメチルエタノールアミンを上澄みとともに除去した。その後、炭酸ガスをバブリングすることによりpHを7.9に調製し、再遠心することにより濃度を5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液を長時間静置しても固形分の沈降は見られず、110℃で12時間乾燥した固形分は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が1.8重量%、XRD分析により層間距離が9.3Å、蛍光X線分析によりCs2Oの含有量が20.2重量%であった。
【0056】
本実施の形態において、上述した製造方法で得られた鱗片状のチタン酸顔料は、主に、厚さ50nmでその長手方向の長さ(粒径)が15μmのものが用いられ、この鱗片状チタン酸顔料のアスペクト比(厚みと長手方向の長さとの比)は100〜600である。このように極薄の鱗片状チタン酸顔料は、他の顔料に比べ、超高アスペクト比であり、したがって、ベース塗膜中に非常に多くの顔料数として緻密に高配向させることができ、これにより、この衝撃エネルギーをこの緻密で高配向の、且つ非常に多くの顔料数である鱗片状チタン酸顔料のクレーズによって消費させ、ベース塗膜の衝撃吸収能を著しく向上させることができる。
【0057】
また、上記鱗片状のチタン酸顔料、上述のベース塗料に、含有率PWC(pigment wright content:塗料の樹脂に対する固形分含量)15〜30%で含有されている。
【0058】
[耐チッピング性複層塗膜]
本実施の形態の耐チッピング性複層塗膜は、上述の耐チッピング性複層塗膜の形成方法により形成された塗膜であり、図1および図2に示すように、上述した鱗片状のチタン酸顔料が非常に多くの顔料数として高配向で且つ緻密に並んだ状態のベース塗膜12を有する複層塗膜である。
【0059】
鱗片状のチタン酸顔料が非常に多くの顔料数として高配向で緻密に並んだ状態で存在する塗膜を有することにより、外部より複層塗膜に局所的な衝撃が加わったとしても、この衝撃エネルギーは、非常に多くの顔料数として高配向している鱗片状のチタン酸顔料が次々に細かく破壊されていくことにより、消費されてゆき、その結果、鱗片状のチタン酸顔料を含有する塗膜において、ほとんどの衝撃エネルギーを吸収することができる。これにより、複層塗膜の耐チッピング性は向上する。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法について、実施例を用いて説明する。
【0061】
実施例1.
本実施例では、以下の塗料を用いた。すなわち、中塗塗料として、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂とを基材樹脂とする塗料を用いた。また、ベース塗料として、アクリル樹脂とメラミン樹脂とを基材樹脂とし、上述した平均厚さ50nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が15μmである鱗片状チタン酸顔料を含有率PWC20%で含有する塗料を用いた。さらに、クリア塗料として、アクリル樹脂・メラミン樹脂・酸アクリル樹脂/エポキシアクリル樹脂の2液型ウレタン樹脂からなる基材樹脂を含有する塗料を用いた。
【0062】
図3を用いて、本実施例の塗膜形成方法を説明する。まず、電着済みの鋼板に顔料を含まない中塗り塗料を膜厚35μmとなるように塗装し、最高到達温度140℃で18分間焼き付けを行った。次いで、鱗片状チタン酸顔料含有ベース塗料を、ベース塗料が水性ベース塗料である場合、膜厚13μmで塗装し、ベース塗料が溶剤系ベース塗料の場合には、膜厚15μmで塗装した。ここで、水性ベース塗料を用いた場合、最高到達温度80℃で10分間プレヒートを行い、溶剤系ベース塗料を用いた場合には、フラッシュタイムを1分間設けた。ここで、フラッシュタイムとは、ベース塗料を塗布した後、クリア塗料を塗布するまでの時間をいう。その後、ベース塗膜上に膜厚35μmとなるようにクリア塗料を塗布し、最高到達温度140℃で18分間保持して焼き付けを行った。これにより、水性および溶剤系のベース塗料を用いた2種類の複層塗膜が形成された2つの試験板を得た。
【0063】
実施例2.
ベース塗料に含有される鱗片状のチタン酸顔料として、平均厚さ50nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が30μmである顔料を用いた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0064】
実施例3.
ベース塗料に含有される鱗片状のチタン酸顔料として、平均厚さ100nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が10μmである顔料を用いた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0065】
比較例1.
ベース塗料に含有される顔料として、平均厚さ400〜500nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が20μmである酸化チタン被覆アルミナ顔料を用い、ベース塗料中に、この酸化チタン被覆アルミナ顔料を含有率PWC9%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0066】
比較例2.
ベース塗料に含有される顔料として、平均厚さ400〜500nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が20μmである酸化チタン被覆アルミナ顔料を用い、ベース塗料中に、この酸化チタン被覆アルミナ顔料を含有率PWC20%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0067】
比較例3.
ベース塗料に含有される顔料として、平均厚さ300〜500nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が20μmであるアルミニウムフレーク顔料を用い、ベース塗料中に、このアルミニウムフレーク顔料を含有率PWC12%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0068】
比較例4.
ベース塗料に含有される顔料として、平均厚さ300〜500nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が20μmであるアルミニウムフレーク顔料を用い、ベース塗料中に、このアルミニウムフレーク顔料を含有率PWC20%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0069】
比較例5.
ベース塗料に含有される顔料として、粒径5〜6μmの球状のタルク顔料を用い、ベース塗料中に、このタルク顔料を含有率PWC5%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0070】
比較例6.
ベース塗料に含有される顔料として、粒径5〜6μmの球状のタルク顔料を用い、ベース塗料中に、このタルク顔料を含有率PWC20%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0071】
[複層塗膜形成試験板の耐チッピング性評価方法]
以下に示す耐チッピング性評価試験は、試験板温度を極めて低い温度(−20℃)とし、試験板に形成された複層塗膜を極低温で超硬化させた状態での過酷なチッピング試験とした以外は、ASTM−D−3170に準拠して行った。
【0072】
また、耐チッピング性評価装置は、図8から図10に示すように、試験装置100内に、試験板20を固定するためのチューブ22が設けられ、これにより、試験板が試験装置100内に載置される。一方、試験装置100には、石を投入する石投入口32が設けられ、この石投入口32の下方には、投入された石が試験板20の表面に対して直交して衝突するように、空気を注入する空気注入管34が設けられている。したがって、空気の量および圧力は、ゲージの表示に基づき、空気注入管34に設けられている開閉バルブ、調節子によって調節され、これにより、空気注入管34から供給された空気は、石投入口32より投入された石を、所定の注入速度および射出圧力で試験板20の表面に直交させて衝突させる。
【0073】
<耐チッピング性試験の条件>
試験装置:低温飛石試験機「JA−400LB」(スガ試験機株式会社製)
試験板のサイズ:150×70mm
チップ材:玄武岩7号で粒径が2.4〜4.8mmの石粒
チップ材の量:100g
チップ材の吹き付けエアー圧:50g/s
チップ材の射出圧力:0.3MPa
チップ材の射出口から試験板までの距離:35cm
チップ材の射出方向と載置された試験板の表面との角度:90°
試験板の温度:−20℃
【0074】
<評価方法>
上記条件により、チップ材を試験板に噴射し、150×70mmの面積における衝突によって生じた剥離部分の平均直径(mm)と1mm以上の剥離個数を測定し、以下の表1に示す基準に基づいて、耐チッピング性をランク分けした。その結果を表2に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示すように、アスペクト比の高い鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗膜を有する複合塗膜は、他の酸化チタン被覆アルミナ顔料、アルミニウムフレーク顔料やタルク顔料を含有するベース塗膜に比べ、格段に耐チッピング性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法および耐チッピング性複層塗膜は、局所的な衝撃を受ける可能性のある塗膜が形成される用途であれば、いかなる用途にも有効であるが、例えば車両用塗膜の形成に供することができ、特に車両用塗膜としては、車両外装の塗膜形成に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法の一態様を説明する図である。
【図2】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法の他の態様を説明する図である。
【図3】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法の一態様の工程のフロー図である。
【図4】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法を用いて形成されたチタン酸顔料含有ベース塗膜の断面を撮影した走査電子顕微鏡写真である。
【図5】耐チッピング性向上のメカニズムを説明する図である。
【図6】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法に供するチタン酸顔料の製造方法の一例を説明する図である。
【図7】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法に用いるチタン酸顔料の一例を説明する図である。
【図8】耐チッピング性試験装置の外観を説明する図である。
【図9】図8に示す耐チッピング性試験装置の内部の構成を説明する図である。
【図10】図8に示す耐チッピング性試験装置におけるチップ材の射出手段の構成と射出される石と試験板との位置関係を説明する図である。
【図11】従来の複層塗膜の一例を示す塗膜の断面図である。
【符号の説明】
【0080】
10 中塗塗膜、11 着色ベース塗膜、12 ベース塗膜、14 クリア塗膜、16 チタン酸顔料。
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐チッピング性複層塗膜の形成方法および耐チッピング性複層塗膜、特に、耐衝撃性の高い耐チッピング性複層塗膜の形成方法および耐チッピング性複層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両用外装は、通常、図11に示すように、鋼板24上に電着塗膜26、中塗塗膜10、必要に応じて着色塗膜、ベース塗膜22、クリア塗膜14が順次形成された複層塗膜からなる。複層塗膜とすることにより、平滑性、光沢鮮鋭性が優れ、意匠性の高い塗膜が得られる。
【0003】
しかしながら、例えば車両用外装として上記複層塗膜が施されている場合、車両外観の意匠性は高いものの、走行中に跳ね上げた小石や砂利などが外装塗膜に衝突し、その局所的な衝突によって、塗膜が局所的に剥がれ易くなる(いわゆる、チッピングが発生する)傾向があった。そして、上述のようなチッピングが発生すると、塗膜が破壊され、剥離して、塗面の美観が低下する。さらに、塗膜破壊が大きい場合には、被塗物の素地面が露出して錆が発生するおそれもある。
【0004】
そこで、特許文献1には、下塗塗料(A)、中塗塗料(B)、着色ベース塗料(C)、パール調のベース塗料(D)及びクリヤー塗料(E)を順次塗装して複層塗膜を形成するにあたり、微細アルミニウム粉末と酸化チタン顔料を含有させた中塗塗料(B)により中塗塗膜を形成し、主に中塗塗膜により衝撃エネルギーを吸収し、複層塗膜の耐チッピング性を向上させることが提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、チタン白顔料とアルミニウムフレークを含む着色ベースコート(A)上に、酸化チタンで被覆されたりん片状雲母粉末を配合してなるホワイトパール調又はシルバーパール調のベースコート(B)、クリヤーコート(C)を形成する複数塗膜形成方法が開示され、特許文献3には、中塗り塗膜面に、アルミニウムフレーク、金属酸化物で被覆されたアルミニウムフレーク及びチタン白顔料を含有するメタリック塗料(A)及びクリヤ塗料(B)を塗装した後加熱硬化させる複層塗膜形成方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするプライマー(A)に、Al、Mg、Cu、Au、Ag等の微小金属箔を配合してなるベースコート(B)を乾燥膜厚1〜3μmになるように形成し、さらにクリヤーコート(C)を順次塗装する複層塗膜形成方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−137677号公報
【特許文献2】特開平8−164358号公報
【特許文献3】特開2003−211071号公報
【特許文献4】特開2004−141710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年、塗膜外観の意匠をより長期的に維持することが求められている。一方、上記特許文献1に記載の中塗塗膜に含まれるアルミニウム粉末や酸化チタン顔料では、その衝撃吸収能が今一歩であるため、特許文献1に記載の複層塗膜では、近年の要求に合致する耐チッピング性を得ることが難しく、また、主に中塗塗膜によって、衝撃エネルギーを吸収させていることから、外部からの局所的な衝撃によって、複層塗膜のクリヤー塗膜、パール調のベース塗膜及び着色ベース塗膜のいずれもが破損し、塗膜外観の意匠を損ねてしまう可能性があった。
【0009】
また、特許文献2,3に記載のような複層塗膜においても、チタン白顔料、アルミニウムフレークや酸化チタンで被覆されたりん片状雲母粉末では、その衝撃吸収能が今一歩であるため、上記複層塗膜では、近年の要求に合致する耐チッピング性を得ることが難しく、やはり塗膜外観の意匠を長期的に維持することは困難であった。
【0010】
また、特許文献4に記載の複層塗膜は、耐チッピング性の向上を図るため、ベースコート(B)に微小金属箔が含有させているが、この微小金属箔の素材は、展延性はあるものの瞬間的な襲撃エネルギー吸収能の劣るAl、Mg、Cu、Au、Agであり、さらにベースコート(B)自体の膜厚も1〜3μmであることから、ベースコート(B)の耐チッピング性は、やはり近年の要求品質に対し今一歩であった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、より耐チッピング性の高い複層塗膜及びその複層塗膜を形成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法は、以下の特徴を有する。
【0013】
(1)鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、前記ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、を有する耐チッピング性複層塗膜の形成方法である。
【0014】
上記鱗片状のチタン酸顔料は、後述するように含有量PWC(pigment weight content:塗料の樹脂に対する固形分含量)15〜30%で含有されているが、従来の顔料や金属箔に比べて非常に厚みが薄いため、同PWC配合であっても、塗膜中の顔料数としては非常に多くなる(例えば、粒径、PWC、顔料比重が同じ場合、厚みが1/10であれば顔料数は10倍になる)。したがって、外部から局所的な衝撃エネルギーが複層塗膜に加わったとしても、この局所的な衝撃エネルギーは、一部クリア塗膜で吸収され、ベース塗膜まで到達したとしても、ベース塗膜内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料を上方から厚み方に沿って次々に細かく破壊(クレーズ)してゆき、消費される。その結果、主にベース塗膜において、従来に比べ格段に衝撃エネルギーを吸収することができ、複層塗膜の耐チッピング性を向上させることができる。
【0015】
例えば、車両外装に複層塗膜を形成した場合、車両の走行中に跳ね上げた小石や砂利などが外装塗膜に衝突したとしても、この衝撃エネルギーは、ベース塗膜内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料を上方から順次厚み方向に沿って細かく破壊(クレーズ)してゆくことによって消費され、これにより、従来に比べ、ベース塗膜における衝撃エネルギー吸収能を大幅に向上させることができる。塗膜中に多量存在する顔料のうち、ほんの僅かな顔料でエネルギーを吸収できるため、意匠性には全く影響がない。その結果、車両の塗装外観を長期維持することができる。
【0016】
(2)電着塗装済みの鋼板上に、鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、前記ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、を有する耐チッピング性複層塗膜の形成方法である。
【0017】
上述したように、チタン酸顔料は、従来の顔料や金属箔に比べて非常に厚みが薄いため、同PWC配合であっても、塗膜中の顔料数としては非常に多くなる。したがって、外部から局所的な衝撃エネルギーが複層塗膜に加わったとしても、この局所的な衝撃エネルギーは、一部クリア塗膜で吸収され、ベース塗膜まで到達したとしても、ベース塗膜内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料を上方から次々に細かく破壊(クレーズ)してゆき、これにより、主にベース塗膜において衝撃エネルギーを消費させることができる。その結果、上記複層塗膜は、従来に比べ格段に衝撃エネルギーを吸収することができ、電着塗膜にまでチッピングダメージを生じさせるおそれがない。
【0018】
(3)上記(1)または(2)に記載の耐チッピング性複層塗膜において、前記鱗片状のチタン酸顔料のアスペクト比は、100以上30000以下である。
【0019】
特に、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸は、極薄の鱗片状のチタン酸顔料であり、上述のアスペクト比(厚みと長手方向の長さとの比)を有する。したがって、この極薄の鱗片状のチタン酸顔料は、ベース塗膜中に非常に多くの顔料数として緻密に高配向させることができ、その結果、ベース塗膜の厚み方向の衝撃吸収能が極めて高くなり、複層塗膜の耐チッピング性が向上する。
【0020】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の耐チッピング性複層塗膜において、少なくとも前記ベース塗膜を体積収縮させるプレヒート工程を有する。
【0021】
ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するために、プレヒートを行いベース塗膜中の水分を気化し、体積収縮させることで、ベース塗膜中のチタン酸顔料がより緻密に高配向して固定される。これにより、衝撃吸収能の高いベース塗膜を形成することができ、複層塗膜の耐チッピング性が向上する。
【0022】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の耐チッピング性複層塗膜の形成方法において、前記鱗片状のチタン酸顔料は、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸である。
【0023】
本発明の耐チッピング性複層塗膜は、以下の特徴を有する。
【0024】
上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の耐チッピング性複層塗膜の形成方法により形成された耐チッピング性複層塗膜である。
【0025】
また、鱗片状のチタン酸顔料が非常に多くの顔料数として高配向で且つ緻密に並んだ状態で存在する塗膜を少なくとも1層含む耐チッピング性複層塗膜である。
【0026】
鱗片状のチタン酸顔料が非常に多くの顔料数として高配向で緻密に並んだ状態で存在する塗膜を有することにより、外部より複層塗膜に局所的な衝撃が加わったとしても、この衝撃エネルギーは、非常に多くの顔料数として高配向している鱗片状のチタン酸顔料が次々に細かく破壊されていくことにより、消費されてゆき、その結果、鱗片状のチタン酸顔料を含有する塗膜において、ほとんどの衝撃エネルギーを吸収することができる。これにより、複層塗膜の耐チッピング性は向上する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、主にベース塗膜によって局所的な衝撃エネルギーを吸収することができ、耐チッピング性の高い複層塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0029】
[耐チッピング性複層塗膜の形成方法]
本発明の好適な実施の形態の耐チッピング性複層塗膜の形成方法は、図1,図2,図3に示すように、鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を図1に示す中塗塗膜10上あるいは図2に示す着色ベース塗膜11上に塗布してベース塗膜12を形成するベース塗膜形成工程と、ベース塗膜12上にクリア塗膜14を形成するクリア塗膜形成工程と、を有する。
【0030】
上記鱗片状のチタン酸顔料は、図4の走査電子顕微鏡写真のように、ベース塗膜12中に高配向で緻密に並んだ状態で存在する。その結果、ベース塗膜12は強靱となり、塗膜としての形状維持性が増大する。さらに、チタン酸顔料は、従来の顔料や金属箔に比べて非常に厚みが薄いため、同PWC配合であっても、塗膜中の顔料数としては非常に多くなる。したがって、外部から局所的な衝撃エネルギーが複層塗膜に加わったとしても、この局所的な衝撃エネルギーは、一部クリア塗膜14で吸収され、ベース塗膜12まで到達したとしても、ベース塗膜12内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料を上方から厚み方に沿って次々に細かく破壊(クレーズ)してゆき、消費される。その結果、主にベース塗膜において、従来に比べ格段に衝撃エネルギーを吸収することができ、複層塗膜の耐チッピング性を向上させることができる。
【0031】
さらに詳細に説明すると、例えば、図5に示すように、中塗塗膜10、ベース塗膜12、クリア塗膜が積層されている複層塗膜が、車両外装として形成されている場合、車両の走行中に跳ね上げた小石30などが外装塗膜に衝突したとしても、図5におけるベース塗膜12とクリア塗膜14の拡大図にしめすように、この局所的な衝撃エネルギーは、ベース塗膜12内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料16を上方から順次厚み方向に沿って細かく破壊、すなわちクレーズ40してゆくことにより消費される。したがって、従来に比べ、ベース塗膜12における衝撃エネルギー吸収能を大幅に向上させることができ、その結果、中塗塗膜10までの破損を大幅に減少させる。また、エネルギー吸収によって破壊(クレーズ)される顔料は、塗膜中に含まれる多量の顔料のごく一部であり、意匠性に全く影響を与えない。ゆえに、車両の塗装外観を長期維持することができる。
【0032】
特に、電着塗装済みの鋼板上に、鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成し、さらに、前記ベース塗膜上にクリア塗膜を形成してもよい。
【0033】
上記形成方法により形成された複層塗膜も、上述同様に、鱗片状のチタン酸顔料は、従来の顔料や金属箔に比べて非常に厚みが薄いため、同PWC配合であっても、塗膜中の顔料数としては非常に多くなる。したがって、外部から局所的な衝撃エネルギーが複層塗膜に加わったとしても、この局所的な衝撃エネルギーは、一部クリア塗膜で吸収され、ベース塗膜まで到達したとしても、ベース塗膜内に非常に多くの顔料数として緻密に高配向しているチタン酸顔料を上方から次々に細かく破壊(クレーズ)してゆくことによって消費され、これにより、主にベース塗膜において衝撃エネルギーを消費させることができる。その結果、上記複層塗膜は、従来に比べ格段に衝撃エネルギーを吸収することができ、中塗塗膜への損傷も大幅に軽減できるとともに、さらに下層の電着塗膜にまでチッピングダメージを生じさせるおそれがない。これにより、鋼板面が露出して錆を発生させるおそれはほとんどなく、外装外観を長期的に維持することができる。
【0034】
さらに、本実施の形態の耐チッピング性複層塗膜の形成方法では、少なくともベース塗膜を体積収縮させるプレヒート工程を有する。
【0035】
ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するために、プレヒートを行いベース塗膜を硬化させることによって、ベース塗膜中のチタン酸顔料がより緻密に高配向して固定される。その結果、衝撃吸収能の高いベース塗膜を形成することができ、複層塗膜の耐チッピング性が向上する。
【0036】
また、本実施の形態では、図1から図3に示すように、ベース塗膜12上にクリア塗膜14を形成したのち、焼き付けを行うことが望ましく、すなわち、中塗塗膜10あるいは着色ベース塗膜11、ベース塗膜12、クリア塗膜14において、3コート2ベークが好ましい。ベース塗料が水性塗料の場合には、中塗塗装を行ったのち中塗塗膜10を焼き付け、次いでベース塗装を行った後ベース塗膜12をプレヒートし、さらにクリア塗装によりクリア塗膜14を形成し焼き付ける、3コート1プレヒート2ベークが望ましい。
【0037】
上記チタン酸顔料は、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸からなるチタン酸顔料から選択される顔料である。
【0038】
特に、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸は、極薄の鱗片状のチタン酸顔料であるため、ベース塗膜中により緻密に高配向して存在することになる。
【0039】
電着塗膜は、鋼板表面に下塗り塗料としてカチオン電着塗料を用い塗装することにより得られる。ここで、カチオン電着塗料としては、カチオン性高分子化合物の塩の水溶液もしくは水分散液に、必要に応じて架橋剤、顔料や各種添加剤を配合してなるそれ自体既知のものを使用することができ、その種類は特に限定されない。カチオン性高分子化合物としては、例えば、架橋性官能基を有するアクリル樹脂またはエポキシ樹脂にアミノ基などのカチオン性基を導入したものが挙げられ、これは有機酸または無機酸などで中和することによって水溶化もしくは水分散化することができる。これらの高分子化合物を硬化するための架橋剤としては、ブロックポリイソシアネート化合物、脂環式エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0040】
電着塗膜は、硬化塗膜を基準にして、通常、10〜40μmの範囲が好ましく、塗膜は140〜220℃で10〜40分間加熱硬化させることができる。
【0041】
中塗塗膜10を形成する中塗り塗料としては、ビヒクル成分として使用される熱硬化性樹脂組成物は、基本的に、基体樹脂と架橋剤とからなり、基体樹脂としては、例えば、水酸基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボキシル基のような架橋性官能基を1分子中に2個以上有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などが挙げられ、また、架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂などのようなアミノ樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物、カルボキシル基含有化合物などが挙げられる。
【0042】
また、中塗塗膜10は、膜厚30〜40μmで塗装される。必要に応じて、中塗塗膜10には、例えば酸化チタン顔料、アルミニウムフレークなどの顔料を含むことができる。
【0043】
また、ベース塗膜12を形成するベース塗料としては、溶剤系ベース塗料と水性ベース塗料とがある。そして、水性ベース塗料、特に熱硬化型水性塗料は、鱗片状のチタン酸顔料と、水に溶解又は分散可能な樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶媒である水とを含有する。水に溶解又は分散可能な樹脂としては、例えば、1分子中にカルボキシル基等の親水基と水酸基等の架橋性官能基とを含有する樹脂であって、具体的に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。架橋剤としては、例えば、疎水性又は親水性のアルキルエーテルメラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物等を挙げることができる。一方、溶剤系ベース塗料は、鱗片状のチタン酸顔料と、上記同様の樹脂と、必要に応じて架橋剤と、溶剤とを含有する。
【0044】
また、ベース塗膜12は、水性ベース塗料を用いた場合には膜厚10〜15μmで塗装され、溶剤系ベース塗料を用いた場合には、膜厚12〜18μmで塗装される。
【0045】
クリア塗膜14を形成するクリア塗料は、本実施の形態では無色透明の塗膜を形成可能な熱硬化性塗料が好ましく、熱硬化性樹脂と有機溶剤と、必要に応じて、紫外線吸収剤等が含有されている。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、エポキシ基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などの樹脂と、これらの架橋性官能基に反応しうるメラミン樹脂、尿素樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂などの架橋剤とからなる。
【0046】
また、クリア塗膜14は、20〜50μmの膜厚で塗装される。
【0047】
上述したチタン酸顔料としては、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸を得ることができる。
【0048】
以下に、極薄鱗片状チタン酸顔料の製造方法の一例を図6を用いて説明する。
【0049】
層状チタン酸塩K0.8Li0.27Ti1.73O4を酸処理し、交換可能な金属カチオンを水素イオンまたはヒドロニウムイオンで置換することにより層状チタン酸(例えば、H1.07Ti1.73O4・nH2O)が得られる。この層状チタン酸に有機塩基性化合物を作用させ、層間を剥離することにより、薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゾル)が得られる。有機塩基性化合物としては、ジメチルエタノールアミン(DMEA)が望ましい。
【0050】
好ましくは、次いで、上記剥離ゾルに炭酸セシウムを添加して有機塩基性化合物をセシウムイオンで置換し、遠心洗浄で過剰炭酸セシウムおよび生成アミン炭酸塩を除去し、さらに炭酸ガスのバブリングにより、チタン酸の中和ゾルを形成する。得られた薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゾル)は、耐光性が向上する。
【0051】
得られた水性媒体分散液(剥離ゾル)の薄片状チタン酸は、図7に示すように、1枚約1nmのチタン酸が、単層あるいは複数枚積層された鱗片状チタン酸として得られる。この鱗片状チタン酸顔料16は、鱗片状の長手方向の長さ(粒径)が10〜30μmのものが用いられ、この鱗片状チタン酸顔料のアスペクト比(厚みと長手方向の長さとの比)は、塗膜中ではその厚みが1〜100nmであることから、100〜30000であり、好ましくは100〜600である。この鱗片状のチタン酸の顔料は、上述した塗膜形成方法を用いることにより、ベース塗膜中で、図4に示すベース塗膜断面の走査電子顕微鏡写真のように、高配向で緻密に並ぶ。
【0052】
<薄片状チタン酸分散液の合成>
(合成例1)
酸化チタン67.01g、炭酸カリウム26.78g、塩化カリウム12.04gおよび水酸化リチウム5.08gを乾式で粉砕混合した原料を1020℃にて4時間焼成した。得られた粉末の10.9%の水スラリー7.9kgを調製し、10%硫酸水溶液470gを加えて2時間撹拌し、スラリーのpHを7.0に調製した。分離、水洗したものを110℃で乾燥した後、600℃で12時間焼成した。得られた白色粉末は層状チタン酸塩K0.6Li0.27Ti1.73O3.9であり、平均長径15μmであった。
【0053】
この層状チタン酸塩65gを3.5%塩酸5kgに分散撹拌し、40℃で2時間反応させた後、吸引濾過で分離し、水洗した。得られた層状チタン酸のK2O残量は2.0%であり、金属イオン交換率は94%であった。
【0054】
得られた層状チタン酸全量を脱イオン水1.6kgに分散して撹拌しながら、ジメチルエタノールアミン34.5gを脱イオン水0.4kgに溶解した液を添加し、40℃で12時間撹拌してpH9.9の薄片状チタン酸分散液を得た。10000rpmで10分間遠心することにより濃度5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液は長時間静置しても固形分の沈降は見られず、それを110℃で12時間乾燥した固形分は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が14.7重量%、XRD分析により層間距離が10.3Åであった。
【0055】
(合成例2)
合成例1の薄片状チタン酸分散液200gを脱イオン水で濃度1.7重量%に調製し、撹拌しながら5重量%炭酸セシウム水溶液120gを添加し、室温で1時間撹拌して、薄片状チタン酸の層間イオンをジメチルエタノールアンモニウムからセシウムイオンに置換した。10000rpmで10分間遠心して上澄みを分取後、沈降した濃縮薄片状チタン酸分散液を脱イオン水で再希釈する操作を3回繰り返すことにより、過剰の炭酸セシウムおよび脱離ジメチルエタノールアミンを上澄みとともに除去した。その後、炭酸ガスをバブリングすることによりpHを7.9に調製し、再遠心することにより濃度を5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液を長時間静置しても固形分の沈降は見られず、110℃で12時間乾燥した固形分は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が1.8重量%、XRD分析により層間距離が9.3Å、蛍光X線分析によりCs2Oの含有量が20.2重量%であった。
【0056】
本実施の形態において、上述した製造方法で得られた鱗片状のチタン酸顔料は、主に、厚さ50nmでその長手方向の長さ(粒径)が15μmのものが用いられ、この鱗片状チタン酸顔料のアスペクト比(厚みと長手方向の長さとの比)は100〜600である。このように極薄の鱗片状チタン酸顔料は、他の顔料に比べ、超高アスペクト比であり、したがって、ベース塗膜中に非常に多くの顔料数として緻密に高配向させることができ、これにより、この衝撃エネルギーをこの緻密で高配向の、且つ非常に多くの顔料数である鱗片状チタン酸顔料のクレーズによって消費させ、ベース塗膜の衝撃吸収能を著しく向上させることができる。
【0057】
また、上記鱗片状のチタン酸顔料、上述のベース塗料に、含有率PWC(pigment wright content:塗料の樹脂に対する固形分含量)15〜30%で含有されている。
【0058】
[耐チッピング性複層塗膜]
本実施の形態の耐チッピング性複層塗膜は、上述の耐チッピング性複層塗膜の形成方法により形成された塗膜であり、図1および図2に示すように、上述した鱗片状のチタン酸顔料が非常に多くの顔料数として高配向で且つ緻密に並んだ状態のベース塗膜12を有する複層塗膜である。
【0059】
鱗片状のチタン酸顔料が非常に多くの顔料数として高配向で緻密に並んだ状態で存在する塗膜を有することにより、外部より複層塗膜に局所的な衝撃が加わったとしても、この衝撃エネルギーは、非常に多くの顔料数として高配向している鱗片状のチタン酸顔料が次々に細かく破壊されていくことにより、消費されてゆき、その結果、鱗片状のチタン酸顔料を含有する塗膜において、ほとんどの衝撃エネルギーを吸収することができる。これにより、複層塗膜の耐チッピング性は向上する。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法について、実施例を用いて説明する。
【0061】
実施例1.
本実施例では、以下の塗料を用いた。すなわち、中塗塗料として、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂とを基材樹脂とする塗料を用いた。また、ベース塗料として、アクリル樹脂とメラミン樹脂とを基材樹脂とし、上述した平均厚さ50nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が15μmである鱗片状チタン酸顔料を含有率PWC20%で含有する塗料を用いた。さらに、クリア塗料として、アクリル樹脂・メラミン樹脂・酸アクリル樹脂/エポキシアクリル樹脂の2液型ウレタン樹脂からなる基材樹脂を含有する塗料を用いた。
【0062】
図3を用いて、本実施例の塗膜形成方法を説明する。まず、電着済みの鋼板に顔料を含まない中塗り塗料を膜厚35μmとなるように塗装し、最高到達温度140℃で18分間焼き付けを行った。次いで、鱗片状チタン酸顔料含有ベース塗料を、ベース塗料が水性ベース塗料である場合、膜厚13μmで塗装し、ベース塗料が溶剤系ベース塗料の場合には、膜厚15μmで塗装した。ここで、水性ベース塗料を用いた場合、最高到達温度80℃で10分間プレヒートを行い、溶剤系ベース塗料を用いた場合には、フラッシュタイムを1分間設けた。ここで、フラッシュタイムとは、ベース塗料を塗布した後、クリア塗料を塗布するまでの時間をいう。その後、ベース塗膜上に膜厚35μmとなるようにクリア塗料を塗布し、最高到達温度140℃で18分間保持して焼き付けを行った。これにより、水性および溶剤系のベース塗料を用いた2種類の複層塗膜が形成された2つの試験板を得た。
【0063】
実施例2.
ベース塗料に含有される鱗片状のチタン酸顔料として、平均厚さ50nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が30μmである顔料を用いた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0064】
実施例3.
ベース塗料に含有される鱗片状のチタン酸顔料として、平均厚さ100nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が10μmである顔料を用いた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0065】
比較例1.
ベース塗料に含有される顔料として、平均厚さ400〜500nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が20μmである酸化チタン被覆アルミナ顔料を用い、ベース塗料中に、この酸化チタン被覆アルミナ顔料を含有率PWC9%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0066】
比較例2.
ベース塗料に含有される顔料として、平均厚さ400〜500nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が20μmである酸化チタン被覆アルミナ顔料を用い、ベース塗料中に、この酸化チタン被覆アルミナ顔料を含有率PWC20%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0067】
比較例3.
ベース塗料に含有される顔料として、平均厚さ300〜500nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が20μmであるアルミニウムフレーク顔料を用い、ベース塗料中に、このアルミニウムフレーク顔料を含有率PWC12%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0068】
比較例4.
ベース塗料に含有される顔料として、平均厚さ300〜500nmでその長手方向の平均長さ(粒径)が20μmであるアルミニウムフレーク顔料を用い、ベース塗料中に、このアルミニウムフレーク顔料を含有率PWC20%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0069】
比較例5.
ベース塗料に含有される顔料として、粒径5〜6μmの球状のタルク顔料を用い、ベース塗料中に、このタルク顔料を含有率PWC5%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0070】
比較例6.
ベース塗料に含有される顔料として、粒径5〜6μmの球状のタルク顔料を用い、ベース塗料中に、このタルク顔料を含有率PWC20%で含有させた以外は、実施例1に準拠して複層塗膜を形成した。
【0071】
[複層塗膜形成試験板の耐チッピング性評価方法]
以下に示す耐チッピング性評価試験は、試験板温度を極めて低い温度(−20℃)とし、試験板に形成された複層塗膜を極低温で超硬化させた状態での過酷なチッピング試験とした以外は、ASTM−D−3170に準拠して行った。
【0072】
また、耐チッピング性評価装置は、図8から図10に示すように、試験装置100内に、試験板20を固定するためのチューブ22が設けられ、これにより、試験板が試験装置100内に載置される。一方、試験装置100には、石を投入する石投入口32が設けられ、この石投入口32の下方には、投入された石が試験板20の表面に対して直交して衝突するように、空気を注入する空気注入管34が設けられている。したがって、空気の量および圧力は、ゲージの表示に基づき、空気注入管34に設けられている開閉バルブ、調節子によって調節され、これにより、空気注入管34から供給された空気は、石投入口32より投入された石を、所定の注入速度および射出圧力で試験板20の表面に直交させて衝突させる。
【0073】
<耐チッピング性試験の条件>
試験装置:低温飛石試験機「JA−400LB」(スガ試験機株式会社製)
試験板のサイズ:150×70mm
チップ材:玄武岩7号で粒径が2.4〜4.8mmの石粒
チップ材の量:100g
チップ材の吹き付けエアー圧:50g/s
チップ材の射出圧力:0.3MPa
チップ材の射出口から試験板までの距離:35cm
チップ材の射出方向と載置された試験板の表面との角度:90°
試験板の温度:−20℃
【0074】
<評価方法>
上記条件により、チップ材を試験板に噴射し、150×70mmの面積における衝突によって生じた剥離部分の平均直径(mm)と1mm以上の剥離個数を測定し、以下の表1に示す基準に基づいて、耐チッピング性をランク分けした。その結果を表2に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示すように、アスペクト比の高い鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗膜を有する複合塗膜は、他の酸化チタン被覆アルミナ顔料、アルミニウムフレーク顔料やタルク顔料を含有するベース塗膜に比べ、格段に耐チッピング性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法および耐チッピング性複層塗膜は、局所的な衝撃を受ける可能性のある塗膜が形成される用途であれば、いかなる用途にも有効であるが、例えば車両用塗膜の形成に供することができ、特に車両用塗膜としては、車両外装の塗膜形成に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法の一態様を説明する図である。
【図2】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法の他の態様を説明する図である。
【図3】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法の一態様の工程のフロー図である。
【図4】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法を用いて形成されたチタン酸顔料含有ベース塗膜の断面を撮影した走査電子顕微鏡写真である。
【図5】耐チッピング性向上のメカニズムを説明する図である。
【図6】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法に供するチタン酸顔料の製造方法の一例を説明する図である。
【図7】本発明の耐チッピング性複層塗膜の形成方法に用いるチタン酸顔料の一例を説明する図である。
【図8】耐チッピング性試験装置の外観を説明する図である。
【図9】図8に示す耐チッピング性試験装置の内部の構成を説明する図である。
【図10】図8に示す耐チッピング性試験装置におけるチップ材の射出手段の構成と射出される石と試験板との位置関係を説明する図である。
【図11】従来の複層塗膜の一例を示す塗膜の断面図である。
【符号の説明】
【0080】
10 中塗塗膜、11 着色ベース塗膜、12 ベース塗膜、14 クリア塗膜、16 チタン酸顔料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、
前記ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、
を有することを特徴とする耐チッピング性複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
電着塗装済みの鋼板上に、鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、
前記ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、
を有することを特徴とする耐チッピング性複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の耐チッピング性複層塗膜において、
前記鱗片状のチタン酸顔料のアスペクト比は、100以上30000以下であることを特徴とする耐チッピング性複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の耐チッピング性複層塗膜において、
少なくとも前記ベース塗膜を体積収縮させるプレヒート工程を有することを特徴とする耐チッピング性複層塗膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の耐チッピング性複層塗膜の形成方法において、
前記鱗片状のチタン酸顔料は、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸であることを特徴とする耐チッピング性複層塗膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の耐チッピング性複層塗膜の形成方法により形成された耐チッピング性複層塗膜。
【請求項7】
鱗片状のチタン酸顔料が高配向で且つ緻密に並んだ状態で存在する塗膜を少なくとも1層含むことを特徴とする耐チッピング性複層塗膜。
【請求項1】
鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、
前記ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、
を有することを特徴とする耐チッピング性複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
電着塗装済みの鋼板上に、鱗片状のチタン酸顔料を含有するベース塗料を中塗塗膜上あるいは着色ベース塗膜上に塗布してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、
前記ベース塗膜上にクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、
を有することを特徴とする耐チッピング性複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の耐チッピング性複層塗膜において、
前記鱗片状のチタン酸顔料のアスペクト比は、100以上30000以下であることを特徴とする耐チッピング性複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の耐チッピング性複層塗膜において、
少なくとも前記ベース塗膜を体積収縮させるプレヒート工程を有することを特徴とする耐チッピング性複層塗膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の耐チッピング性複層塗膜の形成方法において、
前記鱗片状のチタン酸顔料は、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸であることを特徴とする耐チッピング性複層塗膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の耐チッピング性複層塗膜の形成方法により形成された耐チッピング性複層塗膜。
【請求項7】
鱗片状のチタン酸顔料が高配向で且つ緻密に並んだ状態で存在する塗膜を少なくとも1層含むことを特徴とする耐チッピング性複層塗膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−305515(P2006−305515A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133966(P2005−133966)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】
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