説明

耐候性積層シ−ト及び耐候性積層シ−ト被覆金属板

【課題】 加工性と表面の耐傷入り性のバランスに優れ、耐侯性、特に耐光黄変性が玄関ドア等の用途に用いることができる程度に良好であり、且つエンボス意匠の付与を容易に行うことができ、更に印刷意匠を付与することも可能な積層シート、該積層シート被覆した金属板を提供する。
【解決手段】 下記A層10とB層20との2層を備える耐候性積層シート110を構成する。
A層:23℃に於ける引張り破断伸びが、シート製膜時の流れ方向(MD)、及びそれに直交する方向(TD)の両方向について100〜350%であるアクリル系樹脂を主成分とする樹脂層。
B層:厚み30μmで測定した波長290nmの紫外線透過率が0.00001%未満、且つ、波長300nmの紫外線透過率が0.0001%未満となるように紫外線吸収剤が含まれるとともに、厚みが30〜120μmである芳香族ポリカーボネート系樹脂を主成分とした樹脂層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純然たる屋外用途に比べると耐候性の要求は穏やかであるが、内装建材そのままでは耐候性が不足する用途に好適に用いることができる耐候性を有し、且つ表面硬度に優れる為、玄関ドア、玄関廻りの垂直面部材、エレベーター外装などの比較的人の手に触れる機会が多い部位に好適に用いることができる、エンボス意匠や印刷意匠を付与する被覆用途に好適に用いることができる耐候性積層シート及び、それを被覆した樹脂被覆金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来上記用途にはエンボス意匠を付与した軟質塩化ビニル系樹脂シート(以下において「軟質PVCシ−ト」という。)を合成樹脂成形品や合板、木質繊維板、金属板等に被覆したものや、塗装金属板などが用いられて来た。また、印刷意匠を有するものでは、紫外線吸収剤を添加した透明なアクリルフィルムを軟質PVCシートの印刷層の上に被覆した構成も用いられていた。
【0003】
軟質PVCシートは各種の優れた特徴を有するのであるが、近年塩化ビニル系樹脂の一部の安定剤に起因する重金属化合物の問題、一部の可塑剤や安定剤に起因するVOC(Volatile Organic Components:揮発性有機化合物)問題や内分泌撹乱作用の問題、燃焼時に塩化水素ガスその他の塩素含有ガスを発生する問題等から、塩化ビニル系樹脂はその使用に制限を受けるようになって来た。
【0004】
そこで、軟質PVCシートを用いずに、ポリエステル系樹脂シート、ポリオレフィン系樹脂シート、アクリル系樹脂シートなどを用いることが検討されて来た。しかし、ポリエステル系樹脂シートに関しては、加工性と表面の耐傷入り性のバランスに優れるものの、耐侯性、特に耐光黄変性が玄関ドア等の用途に用いるには充分でなく、また非結晶性のポリエステル系樹脂をカレンダー製膜してシート化する場合が多いことから、そのガラス転移点温度(Tg)の低さに起因して、使用中にカレンダー適性付与の為に添加された滑剤等の吹き出しを生ずる虞がある。同様にカレンダー適性を付与する為に添加されるMBS系架橋弾性体は、耐光黄変性を更に悪くしてしまう。
【0005】
ポリオレフィン系樹脂シートは、添加剤の工夫により玄関ドア用途に使える程度の耐侯性を付与することが可能であるが、充分な加工性を確保する為には軟質成分の添加が必要であり、その場合表面の耐傷入り性が悪くなってしまい、居住者の接触を受け易い玄関ドア等の用途には不適である。
【0006】
特許文献1にはポリエチレン(PE)シートを基材として、表層にポリカーボネート(PC)系樹脂よりなるシートを被覆する構成により耐傷入り性や耐衝撃性を付与する内容が開示されている。また、特許文献2にはポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂シートを基材として、アクリルシートを積層する構成が示されている。さらに、特許文献3は、紫外線吸収剤を含むPC樹脂と、顔料により着色されたアクリル系樹脂との積層構成とすることにより耐侯性に優れ、且つ、加工性、表面硬度、エンボス付与適性にも優れ、また生産性にも優れた意匠被覆用積層シートを提案したものである。
【特許文献1】特開2003−145702号公報
【特許文献2】特開2000−246833号公報
【特許文献3】特願2004−045257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に示された構成では、両樹脂組成は熱融着積層が困難であり接着剤層を付与する工程が必須となる。またPE系樹脂の融点がPC系樹脂のガラス転移温度(Tg)より低いことから、積層一体化後にPC層にエンボスを付与することが難しいという問題があった。更に、特許文献1には、PC層の光黄変の防止、及び下層の光劣化からの保護の手段としてPC層に紫外線吸収剤を添加することには触れられていない。
【0008】
特許文献2には、上記のとおりポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂シートを基材として、アクリルシートを積層する構成が示されている。アクリル系樹脂シートの場合は、耐侯性は良好であり、添加剤等に特に工夫しなくても玄関ドア用途等に必要な耐侯性を得ることができる。しかし、加工性と耐傷入り性を両立させることが困難であり、耐傷入り性を重視する場合は加工性の制約を受け、加工性を確保しようとすれば、耐傷入り性が悪化してしまう問題点を有している。
【0009】
また、特許文献3の発明に規定される紫外線吸収性を付与したPC樹脂では、平坦部の耐侯性付与効果は比較的充分ではあるものの、折り曲げ加工や張り出し加工等の樹脂層が伸ばされる変形を施した部分の耐侯性に関しては充分なものとは言えなかった。
【0010】
そこで本発明は、加工性と表面の耐傷入り性のバランスに優れ、耐侯性、特に耐光黄変性が玄関ドア等の用途に用いることができる程度に良好であり、且つエンボス意匠の付与を容易に行うことができ、更に印刷意匠を付与することも可能な積層シート、該積層シート被覆した金属板を提供することを課題とする。
さらに本発明は、着色層を小ロット生産に適したカレンダー製膜可能な樹脂としたこと
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0012】
請求項1に記載の発明は、下記A層(10)とB層(20)との2層を備える耐候性積層シート(110)により前記課題を解決しようとするものである。
A層:23℃に於ける引張り破断伸びが、シート製膜時の流れ方向(MD)、及びそれに直交する方向(TD)の両方向について100〜350%であるアクリル系樹脂を主成分とする樹脂層。
B層:厚み30μmで測定した波長290nmの紫外線透過率が0.00001%未満、且つ、波長300nmの紫外線透過率が0.0001%未満となるように紫外線吸収剤が含まれるとともに、厚みが30〜120μmである芳香族ポリカーボネート系樹脂を主成分とした樹脂層。
【0013】
ここで、本発明において「主成分とする」とは、それぞれの樹脂を含む層の樹脂成分を基準(100質量%)として、対応するそれぞれの樹脂を50質量%以上、好ましくは75質量%以上含むことをいう。また、上記各波長の紫外線吸収率は、透過率の検出限界が0.000001%(吸光係数で8.0)である分光光度計(例えば分光計器(株)の超高感度分光光度計)により測定したものである。また、本発明の「積層シート」には、その厚みに関して一般的には「フィルム」と呼称する範囲と「シート」と呼称する範囲の両方を含むものである。以下、本発明においては、便宜上、「シート」という単一呼称を用いる(本明細書において、以下、同様である。)。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の耐侯性積層シートにおいて、B層(20)が厚み30μmで測定した、波長290nmの紫外線透過率が0.00001%未満、且つ、波長300nmの紫外線透過率が0.0001%未満となるように紫外線吸収剤が含まれるとともに厚みが30〜50μmであるB-1(21)層と、紫外線吸収剤の添加の有無を問わないB-2層(22)と、の2層を備え、B-2層がA(10)層に近い側に配置して積層されることを特徴とする耐候性積層シート(140)を提供するものである。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の耐侯性積層シート(110、120)において、B層(20)が実厚みでの波長290nmの紫外線透過率が0.00001%未満、且つ、波長300nmの紫外線透過率が0.0001%未満となるように紫外線吸収剤が含まれるとともに層の厚みが5〜30μmであるB-3層(23)と、紫外線吸収剤の添加の有無を問わないB-4層(24)と、の2層を備え、B-4層がA層(10)に近い側に配置して積層されることを特徴とする耐候性積層シート(150)を提供するものである。
【0016】
請求項4に記載の発明は、下記A層とB層との2層を備える耐候性積層シートにより前記課題を解決しようとするものである。
A層:23℃に於ける引張り破断伸びが、シート製膜時の流れ方向(MD)、及びそれに直交する方向(TD)の両方向について100〜350%であるアクリル系樹脂を主成分とする樹脂層。
B層:トリアジン系の紫外線吸収剤が樹脂成分の全量を100として、3.5〜12質量部含まれるとともに、厚みが30〜120μmである芳香族ポリカーボネート系樹脂を主成分とする樹脂層。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の耐侯性積層シートにおいて、B層(20)がトリアジン系の紫外線吸収剤が樹脂成分の全量を100として、3.5〜12質量部含まれるとともに、厚みが30〜50μmであるB-5層(25)と、紫外線吸収剤の添加の有無を問わないB-6層(26)と、の2層を備え、B-6層がA層(10)に近い側に配置して積層されることを特徴とする耐候性積層シート(160)を提供するものである。
【0018】
請求項6の発明は、請求項4又は5に記載の耐侯性積層シート(110、120)において、B層(20)がトリアジン系の紫外線吸収剤を添加した厚み5〜30μmであるB-7層(27)と、紫外線吸収剤の添加の有無を問わないB-8(28)層と、の2層を備えるとともに、B-7層の紫外線吸収剤の添加量Q(質量部)が下記式(1)によって定められる量であり、且つ、B-8層がA層(10)に近い側に配置して積層されることを特徴とする耐候性積層シート(170)を提供するものである。
(105/B-3層の厚み(μm))<Q<12 (1)
【0019】
請求項1及び4に記載の発明では、下記特徴を有するA層、及びB層の少なくとも2層よりなる積層シートであり、A層がアクリル系樹脂を主成分としてなることから耐侯性の良好な基材シートとして機能し、また顔料を添加することにより、着色意匠層としても機能するものである。
【0020】
また、B層は表面硬度と加工性のバランスに優れる芳香族ポリカーボネート系樹脂であることから、A層のアクリル系樹脂シートとして加工性の良好な柔軟なアクリルを用いた場合も、積層シートの表面硬度は高いものとなり、アクリル系樹脂を基材としながらも、加工性と耐傷入り性の両立したシートを得ることができる。更にB層に紫外線吸収剤を添加することでB層の光黄変が抑制されていると同時にA層のアクリル系樹脂の着色に耐侯性のあまり良くない顔料を用いた場合等にも、B層で紫外線の透過を減衰することによりA層での紫外線劣化を防止する効果を有するものである。
【0021】
請求項1に記載の発明においては、B層の紫外線透過率を指標として、B層を構成する樹脂への好ましい紫外線吸収剤の添加量を規定した。また請求項4に記載の発明は、B層を構成する樹脂への好ましい紫外線吸収剤の添加量を直接的に規定したものである。
【0022】
さらに、B層への紫外線吸収剤添加の目的が、機材層であるA層や印刷層(C層)を紫外線から保護することのみで無く、B層自体の光黄変の抑制にもあることから、請求項1に記載の発明では、B層の特定の厚みでの紫外線透過率を指標として用い好ましい紫外線吸収剤の添加量を規定した。また請求項4に記載の発明では、B層の特定の厚みでの好ましい紫外線吸収剤の添加量を直接的に規定したものである。
【0023】
B層の厚みが厚い場合は、より少ない量の紫外線吸収剤の添加で等価の紫外線吸収性を得ることができる為、A層・C層に対する保護効果は変わらないのであるが、この場合、B層の紫外線吸収剤の濃度が比較的希薄なものとなることから、B層自体の光黄変を防止する効果が不充分になることによる。その為に本発明では、30μmより厚いB層を用いる場合も30μmで測定した紫外線透過率が特定の値を超えないようにする為、必要な紫外線吸収剤の添加量を変えずに厚みのみを増大させたB層を用いるものである。
【0024】
請求項2に記載の発明は、芳香族ポリカーボネート系樹脂層を、紫外線吸収剤を添加した厚みが30〜50μmであるB-1層と、紫外線吸収剤の添加の有無を問わないB-2層の少なくとも2層から形成し、B-1層に最低限必要な紫外線吸収剤の添加量を紫外線透過率により規定したものである。また、請求項5に記載の発明は、芳香族ポリカーボネート系樹脂層を、紫外線吸収剤を添加した厚みが30〜50μmであるB-5層と、紫外線吸収剤の添加の有無を問わないB-6層の少なくとも2層から形成し、B-5層に最低限必要な紫外線吸収剤の添加量を直接的に規定したものである。請求項2に記載の発明におけるB-1層、あるいは請求項5に記載の発明におけるB-5層が積層シートの外表面となるように積層シートとなすことにより、B層の外表面側で効率的に紫外線を吸収しB層自体の光黄変を抑制する効果が向上すると同時に、B層全体に均一濃度で紫外線吸収剤を添加した場合に比べて、低コスト化を図ることができるものである。
【0025】
請求項3の発明は、紫外線吸収剤を必須成分として含むB-3層の厚みが、請求項2に記載の発明より更に薄い場合であり、同様の効果を得ることができる。また請求項6の発明は、紫外線吸収剤を必須成分として含むB-7層の厚みが、請求項5に記載の発明より更に薄い場合であり、同様の効果を得ることができる。
【0026】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐侯性積層シート(110)において、A層(10)とB層(20)との積層一体化が熱融着積層によってなされていることを特徴とする。
【0027】
本発明の積層シートに於いては、A層のアクリル系樹脂と、B層のポリカーボネート系樹脂が、元来熱融着可能な特徴を有することから、シート同士の積層一体化に際して、熱融着積層によることができる。これにより、接着剤層の付与等によるコスト上昇を抑制することができ、また、A層とB層の界面に接着剤層等を別途設けることによる耐侯性の低下、即ち使用中の同界面の剥離の危険を排除するものである。
【0028】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の耐候性積層シートにおいて、A層(10)とB層(20)との間に印刷層(C層)(30)が配置されていることを特徴とする耐候性積層シート(120、130、140、150、160、170)を提供するものである。
【0029】
この積層シートにおいては、B層に添加された紫外線吸収剤は印刷層であるC層を紫外線劣化から保護する効果も有するものである。
【0030】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の耐侯性積層シートにおいて、印刷層(C層)(30)を施したA層(10)とB層(20)との積層一体化、及び/又は印刷層(C層)(30)を施したB層とA層との積層一体化が熱融着積層によってなされていることを特徴とする。
【0031】
この発明のように、A層とB層との間に印刷層(C層)を設ける場合は、C層のバインダー樹脂をアクリル系などのA層、及びB層の双方と熱融着性を有する樹脂とすることが好ましい。
【0032】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の耐侯性積層シートにおいて、B層(20)のA層(10)とは反対側の表面に、立体的凹凸意匠が付与されていることを特徴とする耐候性積層シート(130〜170)を提供するものである。
【0033】
ここでの「立体的凹凸意匠」とは、いわゆるエンボス意匠をさす。この場合、着色意匠、印刷意匠に加えて、立体的なエンボス意匠を有する積層シートを得ることができるものである。
【0034】
芳香族ポリカーボネート系樹脂はガラス転移温度が比較的高く、その前後で弾性率が顕著に変化することから積層シートの過熱軟化によるエンボス意匠の付与と、冷却によるエンボス柄の固定が容易であり、転写性が良好で、且つ耐熱性も良く沸騰水に浸漬してもエンボス戻りを発生する虞の無いエンボス意匠を得られる点も本発明の構成の有利な点である。
【0035】
カレンダー製膜したアクリル系樹脂が最表層となる構成では、そのガラス転移温度が100℃付近であることからエンボス耐熱が不足となりやすく、またゴム弾性が強いことから、良好なエンボス意匠の転写も得難い等の問題点が有るのに対し、本発明のB層にエンボス意匠を付与するには、軟質PVC系シートへのエンボス付与に用いられて来たエンボス付与機を用いることができる。
【0036】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の耐侯性積層シートにおいて、シートの総厚みが60〜300μmであることを特徴とする。
【0037】
該範囲の総厚みを有する積層シートを形成することにより、被覆する基材に対する保護効果を十分なものとし、かつ軟質PVC樹脂被覆金属板の折り曲げ加工などの成形加工に用いて来た成形金型の使用が容易となる。
アクリル系樹脂シートを用いることにより、積層シートに於いて良好な加工性と耐傷入り性を確保することができる。
【0038】
請求項12に記載の発明は請求項1〜11のいずれか1項に記載の耐侯性積層シートにおいて、A層(10)を構成するアクリル系樹脂が、アクリル樹脂系架橋ゴム弾性体成分を核にして、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂をグラフト重合して得られるコア・シェル型の共重合組成物を含むアクリル系樹脂であるであることを特徴とする。
【0039】
架橋ゴム弾性体成分を含有することでシートに溶融張力が付与され、カレンダー製膜時に溶融張力の不足からドローダウンで製膜困難となる虞が少なくなる。また、架橋ゴム弾性体成分は金属ロールからの離型性を付与する機能も有し、滑剤等に特別な工夫をしなくとも容易にカレンダー製膜が可能となる。また、エンボス意匠を付与する際も加熱されたシートの幅縮み、皺入り、破断等を防止できる。
【0040】
請求項13に記載の発明は、請求項1〜12のいずれか1項に記載の耐侯性積層シートにおいて、A層(10)は着色されているとともに、B層(20)は透明であることを特徴とする。
【0041】
A層を構成する樹脂として請求項12に規定する組成のアクリル樹脂を用いることにより、他の物性を犠牲にせずに好ましい引張り破断伸びを得ることが容易である。また、該組成のアクリル樹脂はカレンダー製膜適性を有することから、同層を着色層として、カレンダー製膜法により小ロットで各種色味のシートを効率的に製膜することができる。一方、B層は、現状のカレンダー製膜設備での製膜には適さないが、実質的に透明であり顔料を含まないものとして、押出し製膜法により大量に同一品種を製膜することができる。そして、これらA層、B層を積層一体化させることにより、各種色味の積層シートを小ロットで効率的に生産できるものである。
【0042】
請求項14に記載の発明は、請求項1〜13に記載の耐候性積層シートをA層(10)側の表面を接着面として、接着剤を用いて金属板(50)上にラミネートしたことを特徴とする耐候性積層シート被覆金属板(180)により前記課題を解決しようとするものである。
【0043】
請求項14に記載の発明によれば、請求項1〜13に記載の耐候性積層シートの特徴を有する積層シートを被覆した樹脂被覆金属板とすることで、耐侯性が良好であり、加工性と耐傷入り性に優れ、着色意匠に加えてエンボス意匠、及び印刷意匠を有する樹脂被覆金属板が得られるものである。
【0044】
請求項15に記載の発明は、請求項14の耐侯性積層シート被覆金属板(180)を用いた玄関ドアにより前記課題を解決しようとするものである。
【発明の効果】
【0045】
加工性と表面の耐傷入り性のバランスに優れ、耐侯性、特に耐光黄変性が玄関ドア等の用途に用いることができる程度に良好であり、且つエンボス意匠の付与を容易に行うことができ、更に印刷意匠を付与することも可能な積層シートを得られ、それを被覆した積層シート被覆金属板が得られる。また、着色層を小ロット生産に適したカレンダー製膜可能な樹脂としたことで、透明層を押出し製膜とした場合も小ロットでの効率的な生産が可能であり、既存のエンボス付与機で容易にエンボス意匠を付与できることは、付与するエンボス意匠に関しても小ロット対応が可能なものである。
【0046】
本発明のこのような作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1(a)は本発明の第一実施形態にかかる耐候性積層シート110の模式的な断面図である。本実施形態の耐候性積層シート110は、本発明の耐候性積層シートの基本構成をなすものである。図示の積層シ−ト110は、アクリル系樹脂を主成分とする樹脂層10(A層)と、芳香族ポリカーボネート系樹脂を主成分とする樹脂層20(B層)よりなる構成を基本とする。
【0048】
図1(b)では、図1(a)の構成に加えて、樹脂層10(A層)と樹脂層20(B層)との間に印刷層30(C層)が設けられ、本発明の第二実施形態にかかる耐候性積層シート120が形成されている。
【0049】
図1(c)では、図1(b)の積層シ−ト120の構成に加えて、樹脂層20(B層)の樹脂層10(A層)の側の面とは反対側の表面にエンボス意匠が付与され、本発明の第三実施形態にかかる耐候性積層シート130が形成されている。
【0050】
図1(d)は、図1(c)の積層シート130の構成に於いて、樹脂層20(B層)が、厚み30μmで測定した、波長290nmの紫外線透過率が0.00001%未満、且つ、波長300nmの紫外線透過率が0.0001%未満となるように紫外線吸収剤が含まれるとともに厚みが30〜50μmであるB-1層21と、B-2層22の2層より構成されている本発明の第四実施形態にかかる耐候性積層シート140の模式的な断面図が示されている。図1(a)の耐候性積層シート110、図1(b)の耐候性積層シート120の構成で樹脂層20(B層)が同様に2層より構成されていても良い。
【0051】
図1(e)は、図1(c)の積層シート130の構成に於いて、樹脂層20(B層)が、実厚みでの波長290nmの紫外線透過率が0.00001%未満、且つ、波長300nmの紫外線透過率が0.0001%未満となるように紫外線吸収剤が含まれるとともに厚み30〜50μmであるB-3層23と、B-4層24の2層より構成されている本発明の第五実施形態にかかる耐候性積層シート150の模式的な断面図が示されている。図1(a)、図1(c)の構成で樹脂層20B層が同様に2層より構成されていても良い。
【0052】
図1(f)は、図1(c)の積層シート130の構成に於いて、樹脂層20(B層)が、トリアジン系の紫外線吸収剤が樹脂成分の全量を100として、3.5〜12質量部含まれるとともに、厚みが30〜50μmであるB-3層23と、B-4層24の2層より構成されている本発明の第六実施形態にかかる耐候性積層シート160の模式的な断面図が示されている。
【0053】
図1(g)は、図1(c)の積層シート130の構成に於いて、樹脂層20(B層)が、トリアジン系の紫外線吸収剤を添加した厚み5〜30μmであるB-7層27と、紫外線吸収剤の添加の有無を問わないB-828層と、の2層を備えるとともに、B-7層の紫外線吸収剤の添加量Q(質量部)が下記式(1)によって定められる量である本発明の第七実施形態にかかる耐候性積層シート170の模式的な断面図が示されている。
(105/B-3層の厚み(μm))<Q<12 (1)
【0054】
図1(h)は、耐侯性積層シートを被覆した樹脂被覆金属板180の一例を示す。図1(c)に示す構成の積層樹脂シート130が接着剤層40を介して金属板50上に積層されている。また、図1(a)、図1(b)、図1(d)、図1(e)、図1(f)、図1(g)に示す構成の積層樹脂シート110、120、140、150、160、170が同様に金属板50上に積層されていても良い。
【0055】
図2は、軟質PVCシートへのエンボス柄の付与に用いられて来たエンボス付与機100である。エンボス付与機100において、加熱ロール1上に樹脂層(A層)10、樹脂層(B層)20の順に巻き取られて積層加熱されたシート材料7は、テイクオフロール2を経て、赤外線ヒーター3により所定の処理をされ、さらに、ニップロール4、エンボスロール5、冷却ロール6へと送られる。本発明の樹脂層(A層)10と樹脂層(B層)20との積層一体化は、基本的にはこのエンボス付与機100での加熱ロール1部分等を用いて熱融着積層により行うことが可能である。このように、樹脂層(A層)10と樹脂層(B層)20とを積層することが、工程増や使用原料の増加を伴わないため、コスト的にも好ましい。また、該設備を用いて、A層10とB層20との熱融着積層一体化と、積層シートのB層20側表面へのエンボス付与を同時に行うことができる。
【0056】
図3は、加工部の耐侯性促進試験評価に供する試験片の作成法、及び試験片形状を示したものである。以下、本発明の各構成について、それぞれに項分けして詳しく説明する。
【0057】
(1)アクリル系樹脂を主成分とする樹脂層(A層)
本発明のA層10に用いられるアクリル系樹脂は、アクリル酸エステル系樹脂、或いはメタアクリル酸エステル系樹脂と総称される樹脂種の中から選ぶことができる。このアクリル系樹脂は、積層シートとしての、或いは積層シート被覆金属板としての加工性を確保する為に、23℃での引張り破断伸びが、シート製膜時の流れ方向(MD)、及びそれに直交する方向(TD)の両方向について100〜350%であることが必須である。また、小ロット対応性の点からカレンダー製膜性を有することが好ましい。
【0058】
23℃での引張り破断伸びが小さすぎると、アクリル系樹脂によりシートを形成した場合は、積層シートの構成に於いても加工性が充分なものとならず好ましくない。逆に23℃での引張り破断伸びが大きすぎるアクリル系樹脂によりシートを形成した場合は、B層20として表面硬度の高いポリカーボネート系樹脂を積層しても充分な耐傷入り性を得難くなる為好ましくない。
【0059】
これらの要求を満たすアクリル系樹脂としては、架橋アクリルゴム弾性体を核として、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂をグラフト重合した所謂コア・シェル型の共重合体組成物を含有する(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を好ましく用いることができる。これらのアクリル系樹脂は、ソフトアクリル、軟質アクリル、柔軟性アクリル等の呼称で市販されている。また、最近カレンダーアクリルなどの呼称でも市販されているものである。
【0060】
架橋弾性体成分を含有することでシートに溶融張力が付与されており、カレンダー製膜時に溶融張力の不足からドローダウンで製膜困難となる虞が少ない。また、架橋弾性体成分は金属ロールからの離型性を付与する機能も有し、滑剤等に特別な工夫をしなくとも容易にカレンダー製膜が可能であるという利点がある。
【0061】
この、溶融張力が高く、加熱された金属に対して粘着性が低いという特徴は、本発明の積層シートに対し、図2に示すエンボス付与機100でエンボス意匠を付与する際も加熱されたシートの幅縮み、皺入り、破断等を防止できる点から好ましいものである。
【0062】
ただし、A層10に用いることのできるアクリル系樹脂は、これに限定されるものでは無く、前述の引っ張り破断伸びとカレンダー適性が得られ、通常のアクリル系樹脂の耐侯性の概念から著しく逸脱しないものであれば用いることができる。
【0063】
A層10には、必要に応じて意匠性の付与、金属板など積層シートが被覆される材料の視覚的隠蔽効果の付与、印刷層(C層)30の発色の向上等の目的で顔料が添加される。使用される顔料は上記目的の為に一般的に用いられているもので良い。その添加量に関しても上記目的の為に一般的に添加される量で良い。白系の着色を行う場合、たとえば、隠蔽効果が高く、且つ粒径が微細であることから積層シートの加工性に与える影響の少ない酸化チタン顔料をベースとして、色味の調整を有彩色の有機、無機の顔料を少量添加すればよい。下地の視覚的隠蔽効果に関しては、用途によって重要度が異なる。一つの目安としては内装建材用途の樹脂被覆金属板に於いては、JIS K5600−4−1:1999(塗料一般試験方法―第4部:塗膜の視覚特性―第1節:隠ぺい力(淡彩色塗料用))に準拠して測定した隠蔽率が0.98以上あることを求められる場合が多い。ただし、逆に下地の有する色彩や模様の意匠を反映させる為、敢えてA層10の着色隠蔽性を低下させることも考えられる。
【0064】
また、A層10には、その性質を損なわない範囲に於いて、各種添加剤を適宜な量添加しても良い。一般的な添加剤としては、燐系、フェノール系他の各種酸化防止剤、ラクトン系他のプロセス安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系ラジカル補足剤、衝撃改良剤、加工助剤、金属不活化剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料分散性改良剤、充填・増量剤等を挙げることができる。
【0065】
A層10の製膜方法に関しても特に制限は無く、Tダイ製膜法、インフレーション法その他の押出し製膜法を採用することができる。また、A層10とB層20との間にC層(印刷層)30を含まない場合は、B層20との共押出し製膜を行っても良い。これらの中でも、小ロット対応性に優れるカレンダー製膜法によって製膜することが特に好ましい。
【0066】
A層10の厚みは、45μm以上であることが好ましい。これより薄い場合は、下地の視覚的隠蔽確保の為に多量の顔料添加を必要とし、その結果加工性の低下を来す虞が有る。或いは複合酸化物系の焼成顔料等の特殊な顔料を添加する必要が生じ、コストの上昇を招く為好ましくない。
【0067】
更にA層10をカレンダー法で製膜する場合の製膜安定性や、図2に示すエンボス付与機100で加熱された積層シートにエンボス意匠を付与する際に、A層10が張力付与層として作用すること等を考慮すると、70μm以上の厚みがあることが更に好ましい。
【0068】
逆にA層10の厚みは270μm以下であることが好ましく、200μm以下であることが更に好ましい。これ以上厚みを増やしても、エンボス付与機100でのA層10の張力付与層としての機能は飽和するのに対し、厚みのあるシートを加熱するためにエネルギーを余分に必要とする。加えて、下記に示すように積層シートの総厚みを300μm以下とするのが好ましいことから、A層10の厚みをあまり厚くするとB層20の厚みを薄くする必要が生じて、その結果B層20に必要な機能を充分に付与できなくなるからである。
【0069】
積層シートの総厚みは、60〜300μmとするのが好ましい。厚みがこれより薄すぎると被覆する基材に対する保護効果が不十分になる。厚みが厚すぎると従来から軟質PVC樹脂被覆金属板の折り曲げ加工などの成形加工に用いて来た成形金型の使用が困難になるなど、積層シートの加工設備適応性が低下する。
【0070】
(2)芳香族ポリカーボネート系樹脂を主成分とする樹脂層(B層)
B層20は芳香族ポリカーボネート系樹脂を主成分とする層であり、紫外線吸収剤を必須成分として含む。典型的な実施形態においては、B層20は実質的に透明である。ここで「実質的に透明」とは、必ずしも光学的定義に従って透明性を規定したものではなく、B層20を通してA層10の着色意匠、或いはC層30の印刷意匠が視認できると言う意味である。
【0071】
B層20は紫外線吸収剤添加により光黄変が抑制されていると同時に、A層10に添加されている着色顔料や印刷層(C層)30の光劣化を防止する役割も有する。更に、エンボス付与機100でエンボス意匠が付与される層でもある。
【0072】
B層20の主成分となる芳香族ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールAとホスゲンを原料とする、或いはホスゲンは使用しないものの同一の分子構造を有する最も汎用的なポリカーボネート樹脂を用いることができる。該ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂としては原料の粘度平均分子量が20000〜30000の範囲のものを用いることが好まし。分子量がこれより低すぎる場合は低温衝撃強度が不足することが知られており、樹脂被覆金属板の構成に於いても低温での加工性が悪化する為好ましくない。逆に分子量が高すぎる場合には、このような樹脂を安定的・安価に得ることが難しくなる。
【0073】
このようなオーバーレイ用途には従来透明なアクリルシートを用いることが一般的であり、A層10に用いることができるアクリル系樹脂として前述したものに比べてやや硬質の組成のものが用いられて来た。樹脂自体の耐候性はポリカーボネート系樹脂よりもアクリル系樹脂のほうが優れるのであるが、該アクリルシートをA層10に積層して用いた場合は加工性に問題が生じる。即ち、積層シートを金属板等に接着積層して、密着曲げ等の加工を行うと割れを生じてしまうのである。これに対して、ポリカーボネート樹脂を用いた場合は加工性が良好な積層シートを得ることができる。また、表面硬度も高く、更に適宜な量の紫外線吸収剤を添加することにより、玄関ドア等の垂直面材の用途に於いて必要な耐候性を充分に満たすことができる。
【0074】
アクリルシートもアクリルゴムの量を増やして加工性を確保することは可能である。B層20に対しても、A層10が備えるべき程度の引張り破断伸びを有する透明アクリルシートを適用することが考えられる。しかし、その場合、耐傷入り性として問題となる表面硬度が著しく低下し、実用に耐えなくなる。
【0075】
B層20にビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂以外の樹脂をブレンドする場合は、該ポリカーボネート系樹脂と相溶性を有し、且つ耐侯性を顕著に低下させることの無い樹脂種を用いることができる。例えば図2に示すエンボス付与機100での設備能力上の問題(ヒーターの過熱能力不足)から、ガラス転移温度(Tg)が約150℃であるポリカーボネート系樹脂に対して良好なエンボス転写を得られない場合は、非結晶性・低結晶性のポリエステル樹脂をブレンドしてガラス転移温度(Tg)を下げ、より低温で良好なエンボス転写が得られるようにしても良い。この場合ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂のジオール成分であるエチレングリコールの一部を1・4−シクロヘキサンジメタノールで置換した構造の共重合ポリエステル樹脂を用いることができる。中でもポリカーボネート系樹脂との相溶性に優れるイーストマンケミカル社のPCTG・5445(ジオール成分の約65%が1・4−シクロヘキサンジメタノールである。)を好ましく用いることができる。また、他の組成範囲の共重合ポリエステル樹脂を用いても良い。例えば、やや相溶性に劣りヘイズが増大するが、エンボス意匠との兼ね合いでそれが問題にならない場合等は、イーストマンケミカル社のイースターPETG・6763等も用いることができる。
【0076】
また、ポリカーボネート系樹脂の光黄変性を低減する目的で、相溶性を有する脂肪族ポリエステル系樹脂をブレンドしても良い。
【0077】
B層20は必須成分として紫外線吸収剤を含む。紫外線吸収剤添加の主目的は、B層20自体の光黄変を抑制することであるが、同時にA層10に添加された着色顔料の光劣化防止や、印刷層(C層)30の褪色・変色防止効果も有することになる。
【0078】
ビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂それ自体は光黄変を生ずるものであるが、紫外線吸収剤を添加することにより黄変を大幅に抑制することができるものである。
【0079】
更に、B層20の厚みを120μm以下と比較的薄くすること、及び、B層20の紫外線透過率を指標としてB層20への好ましい紫外線吸収剤の添加量を規定することにより、又は、B層20を構成する樹脂中への紫外線吸収材の種類、及び添加率を直接規定することにより、積層シートが玄関ドア等の用途に供せられた場合にも、問題となることの無い耐光黄変性を付与した。上記のように紫外線吸収剤の添加量を規定することによって、平坦部のみでなく、折り曲げ加工や張り出し加工等を施してB層20の厚みが減少している部分に対しても充分な耐侯性を付与できる。
【0080】
B層20に添加する紫外線吸収剤としては各種市販のものを使用できるが、芳香族ポリカーボネート系樹脂への添加用としてメーカーが推奨するものを用いることが好ましい。一例としては、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)の「チヌビン1577FF」を挙げることができる。
【0081】
紫外線吸収剤の添加量は、B層の30μmの厚みでの波長290nmの紫外線透過率が0.00001%を超えることが無く、且つ、波長300nmの紫外線透過率が0.0001%を超えない量を下限として、樹脂成分100質量部に対して、12質量部を超えない量とするのが好ましい。添加量が少ない場合はB層自体の光黄変抑制効果が充分では無く、また、下地に対しての紫外線遮蔽効果も不充分である。添加量が多すぎるとシート外表面からの吹き出しによる外観の悪化を生じ易く好ましくない。
【0082】
波長290nm、及び、波長300nmの紫外線透過率を特定値以下と規定したのは、ポリカーボネート系樹脂の光劣化が太陽光や各種促進試験器の光源に含まれる紫外線の波長分布のうち300nm以下の短波長の紫外線で顕著に発生し、特に290nm付近の紫外線の影響が大きいからである(ポリカーボネート樹脂ハンドブック・1992年・日刊工業新聞社発行)。
【0083】
従って、A層10に添加された顔料の光劣化の防止や、印刷層(C層)30の光変色・光褪色をも防止する観点からは、該波長だけでなく波長300〜350nmの範囲の紫外線もある程度吸収する紫外線吸収剤の種類・量とすることが好ましい。すなわち、厚み30μmで測定した、波長290〜350nmの範囲の紫外線透過率が0.01%を超えない量であることが好ましい。30μmより厚いB層20を用いる場合も、上記厚み30μmで測定した紫外線透過率を波長290nmで0.00001%を超えず、且つ、波長300nmで0.0001%を超えない為に必要な紫外線吸収剤の添加濃度をそのままに、厚みのみを増大させて用いることが好ましい。
【0084】
本発明の第四実施形態にかかる耐候性積層シート140は、B層20を2層構成として表面層側に特定の値以上の紫外線吸収性を有する層(B-1層)21を30〜50μmの厚みで配置し、その下層として紫外線吸収剤の添加の有無を問わない層(B-2層)22を配置するものである。これは、第一実施形態の構成にかかる積層シート110によると、B層20の厚みが増大しても、紫外線吸収剤の添加量を下げることができない為、コストの上昇を招く点を解決する為のものである。かかる構成によって、B-1層21に於いて、PC層の光黄変防止に必要な充分な量の紫外線吸収剤の濃度が得られており、更に、その下に位置する層(B-2層22、A層10、及びC層30)に対する透過紫外線の影響も排除できる構成であり好ましく用いることができる。本発明の第六実施形態にかかる耐候性積層シート160についても、同様の趣旨の構成をとっている。
【0085】
上記第四、及び第六実施形態にかかる積層シート140、160において、B-1層21、B-5層25の紫外線吸収剤の添加量は、30μmの厚みでの波長290nmの紫外線透過率が0.00001%を超えず、且つ、波長300nmで0.0001%を超えない量を下限とし、樹脂成分100質量部に対して、12質量部を超えないようにするのが好ましい。
【0086】
またB-1層21、B-5層25の好ましい厚みは、30〜50μmの範囲である。これより厚みが薄い場合は、第三実施形態の積層シート130、あるいは第六実施形態の積層シート160の如く、実厚みに則した紫外線吸収剤の添加量を規定するのが好ましく、これより厚みが厚い場合は、単層よりなるB層20を用いた場合と比較してコスト等のメリットが少なくなる。
【0087】
B-1層21、及びB-2層22、並びにB-5層25、及びB-6層26に関しても、使用することができる芳香族ポリカーボート樹脂の種類、好ましい紫外線吸収剤の種類その他に関しては、単層のB層20に用いる場合と同様である。
【0088】
第五実施形態の積層シート150は、やはりB層20を2層構成として表層に比較的高濃度で紫外線吸収剤を含有するが、その厚みが30μmより薄い層(B-3層)23が配置されるものであり、目的は第四実施形態にかかる積層シート140と同一である。この場合は被覆積層シートに用いる実厚みでの紫外線吸収性を規定する。厚みに関わらず紫外線吸収剤の添加濃度が同一であれば、B層20自体の光黄変防止効果はほぼ同一である。しかし、厚みが30μmより減少した分A層10・及びC層30、加えてB-3層23に対する紫外線透過率が増加し、保護効果が弱くなる。よって、その分を紫外線吸収剤の増量により補う必要があるからである。第七実施形態の積層シート170についても、同様の趣旨の構成をとっている。
【0089】
B-3層23、B-7層27の厚みがこれより薄くなると、必要な紫外線カット性を得る為に添加すべき紫外線吸収剤の量が極めて多量となり、押出し製膜性や表面物性等に問題が発生しやすくなる為好ましくない。B層20の厚みが30μmよりも厚い場合は第四実施形態、あるいは第六実施形態にかかる積層シート140、160の如く紫外線吸収剤の添加量を規定するのが好ましい。B-3層23、及びB-4層24、並びにB-7層27、及びB-8層28に関しても、使用することができる芳香族ポリカーボート樹脂の種類、好ましい紫外線吸収剤の種類その他に関しては、単層のB層20に用いる場合と同様である。
【0090】
これら少なくとも2層よりなるB層20を用いる場合も、波長290〜350nmの範囲の紫外線透過率が0.01%を超えない量であることが更に好ましい。
【0091】
B層20には紫外線吸収剤以外の添加成分として、各種添加剤を適宜な量添加しても良い。添加剤としては、A層10に用いることができる添加剤と同様なものを用いることができる。また、B層20にも意匠性付与の目的で染料系などの透明着色剤、蛍光剤、青み付与剤などで着色を行っても良く、ホログラム箔、表面修飾処理を施した光輝性マイカ、光輝性ガラスフレーク等の透明層への添加によって一層の効果を発現することができる粒子状物を添加しても良い。
【0092】
意匠性付与の目的で、B層20に染料、顔料、光輝性顔料等を添加する場合は、B層20として2層よりなるものを用いて、B-2層又は、B-4層にこれらを添加することが好ましい。下層を紫外線から保護する効果を充分に付与されたB-1層又は、B-3層が存在することによって、これら添加剤成分が紫外線から保護されることによる。
【0093】
B層20の厚みは、30〜120μmであることが必須である。B層20の厚みが薄すぎると、如何に表面硬度が良好な芳香族ポリカーボネート系樹脂を用いているとは言え、A層10に充分な加工性を有する柔軟性のあるアクリル系樹脂を用いた場合、表面硬度が不足する為好ましくない。B層20の表面硬度を確実に確保する点からは、40μm以上の厚みであることが更に好ましい。また、比較的深いエンボス意匠を付与したい場合などは、B層20の厚みは50μm以上あることが好ましい。B層20の厚みを厚くしすぎても、表面硬度の確保に対する効果は飽和し好ましくない。耐侯性確保の要素のうち、B層20の耐黄変性の確保の点からは、厚みが105μm以下とすることが更に好ましい。
【0094】
B層20の製膜方法は特に制限を受けることが無く、各種製膜方法を用いることが可能だが、ポリカーボネート系樹脂は現行の軟質PVC用のカレンダー製膜設備では製膜が難しく、押出し製膜法を用いることが好ましい。B層は実質的に透明な樹脂層であり、顔料により着色されるA層にカレンダー製膜可能なアクリル樹脂を用い、これらを積層することで、積層シートとしての生産性も煩雑な色替えや小ロット生産に適合したものとなる。
【0095】
(3)印刷層(C層)
印刷層(C層)30は、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷他公知の印刷の方法で施される。印刷層(C層)30の絵柄は石目調、木目調、或いは幾何学模様、抽象模様等任意である。部分印刷でも全面ベタ印刷でも良く、部分印刷層とベタ印刷層の両方が施されていても良い。
【0096】
A層10のB層20と積層する側の表面に印刷を付与して後、B層20と積層しても良く、或いはB層20のA層10と積層する側の表面に印刷を施してからA層10と積層しても良い。
【0097】
本来的に、A層10とB層20とを印刷層(C層)30を介さずに積層する場合は、熱融着積層が可能であることから、印刷層(C層)30を付与した場合に関しても熱融着積層が可能であることが好ましく、その場合は印刷層(C層)30の樹脂バインダーとしてアクリル系樹脂を含むものを好ましく用いることができる。一例として、アクリル・ウレタン系の印刷インクバインダー等を挙げることができる。
【0098】
(4)金属板
積層シートを金属板に積層した構成に用いる金属板50としては熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、ステンレス鋼板等の各種鋼板やアルミニウム板、アルミニウム系合金板が使用でき、通常の化成処理を施した後に使用しても良い。基材金属板50の厚さは、樹脂被覆金属板180の用途等により異なるが、0.1〜10mmの範囲で選ぶことができる。
【0099】
[シートの積層一体化とエンボス付与]
カレンダー製膜法によって得られたA層10と、押出し製膜法によって得られたB層20の積層一体化は、熱融着積層による場合は、図2に示すエンボス付与機100でシートを余熱するエリアを利用して行うことができる。これは、A層10とB層20とを印刷層(C層)30無しで積層する場合、及び、印刷層(C)層30にポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂との熱融着性を有する樹脂バインダーを用いた場合、A層10とC層30との間、或いは、B層20とC層30との間に別途熱融着性の樹脂層を設けた場合などに適用できる。図2に示すエンボス付与機100は、加熱された金属ロール1によりシート7を接触させて余熱した後、非接触式のヒーター3により更にシート温度を上げ、しかる後、エンボス版ロール5と押圧ロール4の間に通すことによりエンボス柄がシート7に転写され、更にシート7が冷却されて、付与されたエンボス柄が固定される構造になっている。
【0100】
A層10とB層20との熱融着積層に関しては、一例として、加熱金属ロール1への供給部でA層10とB層20とを積層し加熱金属ロール1の熱によりこれら2種のシートが積層一体化される方法を示すことができる。
【0101】
エンボス柄の付与に関しては、B層20のガラス転移温度(Tg)より15℃以上高い温度にシートを加熱して実施する。B層20単体であれば、該温度域ではシートの弾性率が温度に対して鋭敏に変化することで、シートの伸び・皺入り等の問題を生じ易いが、架橋弾性体成分を含むカレンダーアクリルからなるA層10が基材シートとして機能し、安定してエンボス付与することができる。
【0102】
ただし、積層一体化の方法はこれに限定されるものでは無く、ドライラミ接着剤等を用いて湿式のラミネートを行うなどしても良い。
【0103】
[耐候性積層シート被覆金属板の製造方法]
次に本発明のエンボス意匠シ−ト被覆金属板180の製造方法について説明する。エンボス付与装置100によりエンボス柄が付与された積層シ−ト110、又は120を基材金属板50にラミネートする際に用いる接着剤Dとしては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等一般的に使用される熱硬化型接着剤を挙げることができる。A層10がアクリル系樹脂であることからアクリル系接着剤を用いることが良好な密着性を得る点から好ましいが、特にこれに限定されるものでは無い。
【0104】
樹脂被覆金属板180を得る方法としては、金属板50にリバースコーター、キスコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用する。積層一体化されたシートを貼り合せる金属面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜10μm程度になるように、先出のアクリル系、エポキシ系、ウレタン系、ポリエステル系等の熱硬化型接着剤を塗布する。
【0105】
次いで、赤外線ヒーター3及び、又は熱風加熱炉により塗布面の乾燥及び加熱を行い、金属板50の表面温度を、190℃〜250℃程度の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネータを用いて積層シ−トのA層10側が接着面となるように被覆、冷却することにより樹脂被覆金属板180を得る。
【実施例】
【0106】
本発明をより具体的かつ詳細に説明するために、次に実施例を示すが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例に示したシート及び樹脂被覆金属板の物性の測定規格、試験法は以下の通りである。
【0107】
(A)評価用積層シート及びシート被覆金属板の作成
1)A層の製膜
A層としては、表1に記載の各種市販アクリル原料と緑色着色顔料とを用い、前工程に予備混練ロールを有する、金属ロール4本からなるカレンダー製膜装置を用いて、ロール温度170℃〜185℃の条件下でシート圧延を行い、厚み150μm、幅1200mmの淡緑色(L、a、b色座標でL値=75、a値=−37、b値=8)シートを製膜した。更に、a−6に関しては、グラビアーコーターにより濃緑色のアクリル・ウレタン系のインクを用いてA層表面に抽象柄の模様印刷を施した。
【0108】
【表1】

【0109】
A層に用いた樹脂組成、及び添加剤は以下のものである。
メタブレンW−377:三菱レイヨン(株)製、アクリル系架橋弾性体成分を多く含むアクリル系樹脂。
メタブレンH−660:三菱レイヨン(株)製、アクリル系架橋弾性体成分を含まないポリメチルメタクリレート樹脂である。
パラペットSA :クラレ(株)製、軟質アクリル原料
パラペットGR−F :クラレ(株)製、オーバーレイ用途に適した柔軟性を有するアクリル系架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂。
【0110】
2)B層の製膜
B層としては、表2に記載の各種市販原料、及び紫外線吸収剤を用い、口径65mmのベント付き単軸押出機にTダイを接続し、キャスティングロールによる引き取りで、表2に示す各種厚みの幅1100mmの透明シートを得た。尚、b−13〜b−22は、共押出し製膜による2層構成のシートであり、積層シートでの最表面側となるB-1層、B-3層、B-5層、又はB-7層にのみ紫外線吸収剤を添加している。
【0111】
【表2】

【0112】
B層に用いた樹脂組成、及び添加剤は以下のものである。
ノバレックス7025A:三菱エンジニアリングプラスチック(株)製、粘度平均分子量25000のビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂。
チヌビン1577FF:チバ・スペシャリティ・ケミカル(株)製、トリアジン型紫外線吸収剤
LA−31 :旭電化工業(株)製、ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤
【0113】
3)A層とB層との積層一体化とエンボス意匠の付与
図2に示す軟質塩化ビニル系シートへのエンボス付与に一般的に使用されている連続法によるエンボス付与機にてA層とB層(或いは印刷層(C)が施されたA層とB層)の熱融着積層一体化、及び、エンボス意匠の付与を行った。加熱ドラムは140℃に設定し、A層、及びB層を図2に示すように2本の巻きだし軸から供給し、加熱ドラムへの接触部分で熱融着積層により一体化している。引き続き積層一体化されたシートを非接触式のヒーターで、シート表面温度が180℃になる迄加熱し、エンボスロールにより梨地のエンボス意匠を付与している。エンボス版ロールはRmax=50μmの梨地ロールで、温度は温水循環機により100℃に保持した。
【0114】
4)樹脂被覆金属板の作成
次にポリ塩化ビニル被覆金属板用として一般的に用いられているアクリル系熱硬化型接着剤を、金属面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜4μm程度になる様に塗布し(接着剤層(D))、次いで熱風加熱炉及び赤外線ヒーターにより塗布面の乾燥及び加熱を行い、亜鉛めっき鋼板(金属板(E):厚み0.45mm)の表面温度を225℃に設定し、直ちにロールラミネータを用いて積層シートを被覆、水冷にて冷却することによりエンボス意匠性樹脂被覆鋼板を作製した。
【0115】
(B)評価試験方法、及びその結果
(1)紫外線透過率の測定
透過率の検出限界が0.000001%(吸光係数で8.0)である分光光度計(分光計器(株)の超高感度分光光度計)により、B層の紫外線透過率を測定し、波長290nmで、紫外線透過率が0.00001%(吸光係数で7.0)を超えず、且つ、波長300nmで紫外線透過率が0.0001%(吸光係数で6.0)を超えない場合を「○」、それ以上の紫外線透過がある場合を「×」とした。実施例及び、比較例の各B層を押出し製膜する際には、単層よりなるB層を用いているものに関しては、紫外線吸収剤の添加量は変えずに厚みのみを30μmとした測定用のサンプルを作成し、これを用いて測定している。また、B層が2層よりなり、紫外線吸収剤を添加した層(例えばB-1層)が30μm以上の厚みを有する場合は、同様に厚み比はそのままに、B-1層の厚みが30μmとなるように総厚みを調整したサンプルを採取している。B層が2層よりなり、紫外線吸収剤を添加した層(例えばB-3層)の厚みが30μm未満の場合は、実際に被覆する厚み比、総厚みを変えずにそのままサンプルを採取している。
【0116】
(2)23℃での引張り破断伸び
23℃の恒温室内に設置した万能材料試験機((株)インテスコ製)を用いて、JIS K7127−1999(プラスチック―引張特性の試験方法―第3部:フィルム及びシートの試験条件)に準拠した試験片形状により引っ張り試験を行い、破断伸びを測定した。試験速度(引張り速度)200mm/分で、積層一体化シートを作成する前のA層単体に対し実施し、測定方向は製膜時の流れ方向(MD)、及び、それに直交する方向(TD)で、施行数(n=5)で実施し平均値を示した。
【0117】
(3)加工性評価
樹脂被覆金属板に衝撃密着曲げ試験を行い、曲げ加工部の積層シートの面状態を目視で判定し、樹脂層に割れが発生し実用的な加工性を有しないと判断されたものを「×」、ごく微細なクラックが発生したもの、目視ではクラックと確認できないが白化を生じたものを「△」、これらの異常が認められないものを「○」と判断した。
尚、衝撃密着曲げ試験は以下のようにして実施した。樹脂被覆金属板の長さ方向(MD)、及び、幅方向(TD)からそれぞれ50mm×150mmの試料を切り出し、23℃の恒温室内に1時間以上静置した後、手動式折り曲げ試験器を用いて180°(内半径2mm)に折り返したものを作成、その試料に直径75mm、質量5kgの円柱形の重錘を50cmの高さから自由落下させた。
【0118】
(4)表面硬度
HB、Bの鉛筆を用いて、JIS K5600−5−4:1999(塗料一般試験方法―第5部:塗膜の機械的性質―第4節:引っかき硬度(鉛筆法))に従い、80mm×60mmに切り出した樹脂被覆金属板の樹脂シート面に対し45°の角度を保ちつつ1kgの加重を掛けた状態で線引きをできる治具を使用して線引きを行い、該部分の樹脂シートの面状態を目視で判定し、HBの鉛筆で全く傷が付かなかったものを「○」、HBでは傷が入るが、Bの鉛筆では全く傷が付かなかったものを「△」、Bの鉛筆でも傷が付いたものを「×」として表示した。
【0119】
(5)耐侯性促進試験
60mm×50mmに切り出した樹脂被覆金属板に「JIS K6744:1992(ポリ塩化ビニル被覆金属板)」で引用するJIS B7729(エリクセン試験機)に規定されるエリクセン試験装置を用いて、図3に示すように樹脂被覆側が凸になるように6mmの張り出しを設けた後、サンシャインウェザーメーター耐侯性促進試験機((株)スガ試験機製)を用いて耐侯性促進試験を実施した。条件はブラックパネル温度63℃で、照射102分、スプレー18分の120分サイクルである。
曝露3000時間後の試料と曝露前の試料との色差を色差計で測定し、色差が3以下のものを「○」、3を超えるが10以下であるものを「△」、10を超えるものを「×」とした。色差の測定はミノルタ(株)製、「色彩色差計CR−200」を用いて行った。色差の測定はエリクセン加工によって形成された山状の張り出しの5合目付近で行った。
【0120】
前記した各項目を評価した。結果を表3及び表4にまとめて示した。
【0121】
【表3】

【0122】
【表4】

【0123】
本発明の実施例1〜23、及び比較例1〜15のいずれの構成に関しても、エンボス付与機によるエンボス意匠の付与は支障なく行うことができた。
【0124】
比較例1〜4、及び、比較例7は本発明の範囲より紫外線透過率の高い単層のB層を用いた場合であり、印刷層の有無に関わらず耐侯性促進試験の結果が不充分な結果となった。 比較例5は、B層の厚みが本発明の範囲より薄い場合であり、積層シートを被覆した樹脂被覆金属板の鉛筆硬度として充分なものが得られなかった。
【0125】
比較例6は、厚み30μmで測定したB層の紫外線透過率が本発明の範囲内にあるものであるが、耐侯性促進試験の結果が悪い。B層の厚みが本発明の範囲より厚いことで、B層の黄変が目立ってしまったことによると考えられる。
【0126】
比較例8は、B層が2層からなり、厚みが30μm以上であるB-1層を有する構成であるが、B-1層の紫外線透過率が本発明の範囲より多い場合であり、やはり耐侯性促進試験の結果が悪い。
【0127】
比較例10〜12は、B層が2層からなり、厚みが30μm未満であるB-3層を有する構成であるが、実際に被覆する厚みでのB-3層の紫外線透過率が本発明の範囲より多く、この場合も耐侯性促進試験の結果が悪い。
【0128】
比較例13は、A層の破断伸びが大きい場合で、積層シートを被覆した樹脂被覆金属板の鉛筆硬度として充分なものが得られなかった。
【0129】
比較例14、及び比較例15は、逆にA層の破断伸びが不充分な場合であり、B層として比較的厚みの薄いものを用いた比較例14でも加工性に問題が出る結果となった。
【0130】
これらに対して、本発明の実施例1〜23に於いては、樹脂被覆金属板としての加工性と表面硬度に優れ、耐侯性促進試験の結果も良好である。
【0131】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う耐候性積層シート、及び該耐候性積層シート被覆金属板もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明の耐候性積層シートの各種態様を示す概略断面図である。
【図2】エンボス付与機を概略的に示す側面図である。
【図3】加工部の耐侯性促進試験評価に供する試験片の作成法、及び試験片形状を示した図である。
【符号の説明】
【0133】
1 加熱ロール
2 テイクオフロール
3 赤外線ヒーター
4 ニップロール
5 エンボスロール
6 冷却ロール
7 シート材料
10 アクリル系樹脂層
20、21、22、23、24、25、26、27、28 芳香族系ポリカーボネート系樹脂層
30 印刷層
40 接着剤層
50 金属板
100 エンボス付与機
110、120、130、140、150、160、170 耐候性積層シート
180 耐候性積層シート被覆金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A層とB層との2層を備える耐候性積層シート。
A層:23℃に於ける引張り破断伸びが、シート製膜時の流れ方向(MD)、及びそれに直交する方向(TD)の両方向について100〜350%であるアクリル系樹脂を主成分とする樹脂層。
B層:厚み30μmで測定した波長290nmの紫外線透過率が0.00001%未満、且つ、波長300nmの紫外線透過率が0.0001%未満となるように紫外線吸収剤が含まれるとともに、厚みが30〜120μmである芳香族ポリカーボネート系樹脂を主成分とした樹脂層。
【請求項2】
前記B層が、
厚み30μmで測定した、波長290nmの紫外線透過率が0.00001%未満、且つ、波長300nmの紫外線透過率が0.0001%未満となるように紫外線吸収剤が含まれるとともに、厚みが30〜50μmであるB-1層と、
紫外線吸収剤の添加の有無を問わないB-2層と、
の2層を備え、前記B-2層が前記A層に近い側に配置して積層されることを特徴とする請求項1に記載の耐侯性積層シート。
【請求項3】
前記B層が、
実厚みでの、波長290nmの紫外線透過率が0.00001%未満、且つ、波長300nmの紫外線透過率が0.0001%未満となるように紫外線吸収剤が含まれるとともに、層の厚みが5〜30μmであるB-3層と、
紫外線吸収剤の添加の有無を問わないB-4層と、
の2層を備え、前記B-4層が前記A層に近い側に配置して積層されることを特徴とする請求項1に記載の耐侯性積層シート。
【請求項4】
下記A層とB層との2層を備える耐候性積層シート。
A層:23℃に於ける引張り破断伸びが、シート製膜時の流れ方向(MD)、及びそれに直交する方向(TD)の両方向について100〜350%であるアクリル系樹脂を主成分とする樹脂層。
B層:トリアジン系の紫外線吸収剤が樹脂成分の全量を100として、3.5〜12質量部含まれるとともに、厚みが30〜120μmである芳香族ポリカーボネート系樹脂を主成分とする樹脂層。
【請求項5】
前記B層が、
トリアジン系の紫外線吸収剤が樹脂成分の全量を100として、3.5〜12質量部含まれるとともに、厚みが30〜50μmであるB-5層と、
紫外線吸収剤の添加の有無を問わないB-6層と、
の2層を備え、前記B-6層が前記A層に近い側に配置して積層されることを特徴とする請求項4に記載の耐侯性積層シート。
【請求項6】
前記B層が、
トリアジン系の紫外線吸収剤を添加した厚み5〜30μmであるB-7層と、
紫外線吸収剤の添加の有無を問わないB-8層と、
の2層を備えるとともに、前記B-7層の紫外線吸収剤の添加量Q(質量部)が下記式(1)によって定められる量であり、且つ、前記B-8層が前記A層に近い側に配置して積層されることを特徴とする請求項4に記載の耐侯性積層シート。
(105/B-3層の厚み(μm))<Q<12 (1)
【請求項7】
前記A層とB層との積層一体化が熱融着積層によってなされていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐侯性積層シート。
【請求項8】
前記A層とB層との間に印刷層(C層)が配置されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の耐候性積層シート。
【請求項9】
前記印刷層(C層)を施した前記A層と、前記B層との積層一体化、
及び/又は前記印刷層(C層)を施した前記B層と、前記A層との積層一体化が、熱融着積層によってなされていることを特徴とする請求項8に記載の耐侯性積層シート。
【請求項10】
前記B層の前記A層とは反対側の表面に、立体的凹凸意匠が付与されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の耐侯性積層シート。
【請求項11】
総厚みが60〜300μmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の耐侯性積層シート。
【請求項12】
前記A層を構成するアクリル系樹脂が、アクリル樹脂系架橋ゴム弾性体成分を核にして、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂をグラフト重合して得られるコア・シェル型の共重合組成物を含むアクリル系樹脂であるであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の耐侯性積層シート。
【請求項13】
前記A層は着色されているとともに、前記B層は透明であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の耐侯性積層シート。
【請求項14】
請求項1〜13に記載の耐候性積層シートを前記A層側の表面を接着面として、接着剤を用いて金属板上にラミネートしたことを特徴とする耐候性積層シート被覆金属板。
【請求項15】
請求項14の耐侯性積層シート被覆金属板を用いた玄関ドア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−1022(P2007−1022A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180310(P2005−180310)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】