説明

耐指紋性コーティングを形成するための多孔性構造物、これを利用した耐指紋性コーティングの形成方法、これにより形成された耐指紋性コーティングを含む基材及びこれを含む製品

本発明は、基材の表面にセルフクリーニング(Self Cleaning)機能を付与することができる耐指紋性コーティングを形成するための多孔性構造物、これを利用した耐指紋性コーティングの形成方法、これにより形成された耐指紋性コーティングを含む基材及びこれを含む製品を提供する。本発明による脂質分解性酵素を含む多孔性構造物を基材の表面に形成させれば、酵素が分解した汚染源が気孔の中に吸収され、表面で識別可能な汚染を除去するのにより効果的な耐指紋性コーティングを具現することができ、これにより、ディスプレイ表面、電子製品の外観、建築用内装材などの指紋汚染を効果的に減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面にセルフクリーニング(Self Cleaning)機能を付与することができる耐指紋性コーティングを形成するための多孔性構造物、これを利用した耐指紋性コーティングの形成方法、これにより形成された耐指紋性コーティングを含む基材及びこれを含む製品に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ディスプレイ製品、ハイグロシ処理が施された電子製品や建築内装材などの場合、指紋による汚染が最も多く発生する汚染の1つである。このような汚染は、視野に確実に識別され、製品の外観不良をもたらす。特に、最近、電子機器のタッチスクリーンインターフェース技術の発展に伴い、ディスプレイ表面の指紋汚染が増加しながら、ディスプレイ表面の指紋汚染問題を解決する必要性が増大している。
【0003】
それにもかかわらず、現在まで真正な耐指紋性コーティングを具現した技術は、開発されたことがない実情であり、イージークリーニング(Easy Cleaning)概念の耐汚染コーティングが開発されていることに留まる。
【0004】
例えば、特許文献1で開示している、ポリシリケイト27.6重量部〜36.2重量部と、エポキシ及びビニル樹脂の中から選択されるいずれか1つの樹脂10.6重量部以下と、コロイダルシリカ21.2重量部〜42.6重量部と、−OH、−NH、−COOHで構成される第1群から選択される1つ以上及び−CnF2n+1、−SiRで構成される第2群から選択される1つ以上よりなる添加剤を総合で10.6重量部以下を含むことを特徴とする家電製品のステンレススチール外部ケース用耐指紋コーティングに関するものを例示することができる。
【0005】
また、特許文献2で開示している、ペルフルオロポリエーテル部分がない硬化されるかまたは架橋されたポリマー、及び流体フルオル化アルキル−またはアルコキシ−含有ポリマーまたはオリゴマーを含む防汚組成物に関するものを例示することができる。
【0006】
しかし、このような耐汚染コーティングは、主としてフッ素系コーティングを利用して汚染物質が表面に転写された時、表面の低表面エネルギーを利用してよく磨かれる現象を利用したものであって、セルフクリーニング(Self Cleaning)、すなわち能動的に指紋の転写を減少させるか、または指紋を分解させることができる機能を有していないし、汚染物を磨く前には、外観が改善されることができないという問題がある。
【0007】
また、従来の耐指紋性被膜は、その適用分野において外部ケース用として使用される鋼板に主に適用されることができ、ディスプレイ装置のように高い光透過性が要求される部分の適用には限界があった。
【0008】
一方、酵素を利用した自浄概念のコーティング液、コーティング膜、またはコーティング方法なども開発された。ところが、これは、主に船舶の底に海洋有機体が付着することを防止するためのものであって、ディスプレイ、電子製品の外観、建築用内装材などの指紋による汚染を減少させるものではない。
【0009】
例えば、特許文献3で開示している自己光沢(self−polishing)抗汚染(anti−fouling)コーティング組成物や、特許文献4で開示している海洋有機体による水中装置の汚染防止方法を例示することができる。
【0010】
すなわち、従来の酵素を利用した自浄概念のコーティング液、コーティング膜、またはコーティング方法などは、海洋有機体が船舶などの底に付着しないように、海洋有機体が生産する吸着性物質を事前に除去分解するか、または吸着性物質と一緒に脱離されるようにするメカニズムを有しているだけで、指紋汚染源を分解するものとは関系ない。
【0011】
このように、現在までディスプレイ表面に耐指紋性を付与するための用途に適用することができる自浄概念の耐指紋性コーティングに関する技術は、少なくとも本出願人が知っている限り、存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO09072738 A1
【特許文献2】US20020192181 A1
【特許文献3】US20080038241 A1
【特許文献4】US5998200 B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本出願人は、基材の表面にセルフクリーニング(Self Cleaning)機能を付与することができる耐指紋性コーティングの形成方法、これにより形成された耐指紋性コーティングを含む基材及びこれを含む製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、単純にイージークリーニング(Easy Cleaning)機能を提供する耐汚染コーティングではなく、セルフクリーニング(Self Cleaning)機能を提供することができる耐指紋コーティングを形成するための方法について研究した。より具体的に、本発明者らは、指紋の成分の大部分が脂質であるという点に着目し、脂質分解性酵素を基材にコーティングすれば、上記酵素により転写された指紋を減少させることができると仮定し、脂質分解性酵素がコーティングされた基材に転写された指紋の物性変化を観測することによって、このようなコーティングが耐指紋性を示すことを確認した[韓国特許出願10−2009−0088587号]。
【0015】
指紋の構成成分は、大部分が汗と皮脂であり、皮膚から剥離した角質及び外部から付いたほこりなどの汚染物質も含まれている。これらのうち電子製品のような製品の外観に跡を残す主な要因は、皮脂(sebum)であり、皮脂の構成成分は、トリグリセリド(triglycerides)、ワックスモノエステル(wax monoesters)、脂肪酸(fatty acids)、スクアレン(squalene)、微量のコレステロール、コレステリルエステル(cholesteryl esters)などのような脂質であると知られている(P.W.Wertz、Int.J Cosmet.Sci.2009、31:21−25)。このような皮脂の構成成分のうちトリグリセリド及びワックスモノエステルは、全体の70%に近い比率を占め、この物質は、エステル結合により様々な脂肪酸が結合した構造である。このエステル結合を切る場合、皮脂成分は、大部分が脂肪酸、それらのうち特にオレイン酸(oleic acid)の形態を呈するようになり、均質性が増大し、さらに低分子量の物質に転換されることができる。窮極的には、オレイン酸をさらに低分子の物質に分解したり変形させて、揮発性を増加させることによって、製品から完全に離脱させることができる。
【0016】
上記脂質分解性酵素を基材の表面にそのままコーティングする場合であっても、外部に誘発された各種汚染をある程度分解させて汚染を減少させることができるが、本発明者らは、このような汚染源除去効果をさらに向上させることができる方案について研究したところ、脂質分解性酵素を含む多孔性構造物を形成する場合、酵素が分解した汚染源が気孔の中に吸収され、表面で識別可能な汚染を除去するのに効果的であるこという点に着目した。実験結果、図1に示されたように、指紋汚染源は、脂質分解性酵素との相互作用により多孔性構造物に吸収されることができる低分子物質への転換が可能であり、これにより、上記低分子物質は、迅速に表面から除去される。この際、相互作用というのは、脂質分解性酵素による指紋成分の分解作用のような化学的作用以外に、指紋分子の気孔内吸収のような物理的作用を含む。その後、一部分解したか、または分解せずに気孔内に移動した指紋汚染源は、気孔内に含まれた酵素により完全に分解し、除去されることもできる。このように、上記多孔性構造物は、酵素と指紋汚染源との接触面積を広げて、指紋汚染源の分解を助けると共に、その自体でも酵素と作用した指紋汚染源が表面から除去される空間を提供することによって、表面から指紋汚染を迅速に除去する機能をする。また、上記多孔性構造物は、酵素を保護し、酵素の安定性を高めることができ、耐スクラッチ性、耐汚染性などのように機能性被膜としての役目をするこどができる。
【0017】
したがって、本発明は、基材の表面に耐指紋性コーティングを形成するための、脂質分解性酵素を含む多孔性構造物を提供する。
【0018】
耐指紋性コーティングの効能向上のために多孔性構造物を形成させようとするものなので、このような多孔性構造物の形態は、特に限定されないが、孔隙率が5〜60%であることが好ましい。孔隙率が5%以下の場合、所望の効果を得にくいし、80%以上の場合、コーティング膜の強度が低下する問題がある。多孔性構造物を形成する材質も、特に限定されないが、耐指紋性コーティングの適用用途によってその材質が限定されることができる。例えば、タッチスクリーンインターフェースが具備されたディスプレイ前面に介在され、指紋による画面汚染を防止しようとする目的を有する場合、上記多孔性構造物は、光透過度が高いことが好ましい。特に、本発明の多孔性構造物を形成することができる材料の例示として、大韓民国特許庁に登録された特許KR10−0226979号のシロキサン系組成物及び大韓民国登録特許KR10−0569754号のシリカ粒子が含まれたハードコーティング剤組成物を挙げることができる。多孔性構造物の形成方法や多孔性構造物に脂質分解性酵素を導入する方法も特に限定されず、具体的な例については後述する。
【0019】
一方、上記多孔性構造物の厚さは、20nm〜200μmであることができるが、必ずこれに限定されるものではない。但し、多孔性構造物の厚さは、基材で要求される光学的特性を阻害しない水準で調節しなければならない。すなわち、上記多孔性構造物の厚さが20nm未満の場合には、指紋成分の分解が制限されるという問題が発生することができ、200μmを超過する場合には、光学的透過度が低下する問題が発生することができる。
【0020】
本発明において、脂質分解性酵素(lipolytic enzyme)は、トリグリセリド(triglycerides)、ワックスモノエステル(wax monoesters)、脂肪酸(fatty acids)、スクアレン(squalene)、コレステロール、コルレステリルエステル(cholesteryl esters)などのような指紋の脂質成分を加水分解することができる特性を有する酵素なら、いずれも使用可能である。
【0021】
常温でエステル結合の加水分解活性を有する酵素の代表的な例は、リパーゼである。リパーゼの種類や由来は、特に限定されず、どんなリパーゼであっても、本発明の脂質分解性酵素として使用されることができる。皮脂の主成分であるトリグリセリド及びワックスモノエステル(wax monoester)に対して高い加水分解度を得るために、位置上、非特異的なリパーゼが好ましいことができる。現在、微生物を利用して生産した多様なリパーゼをNovozymes社やAmano enzyme社などで市販していて、リパーゼの構造的遺伝子が挿入された形質転換体によってもリパーゼを生産することもできる。
【0022】
リパーゼ以外にも、脂質分解活性を有している酵素は、当業界においてよく知られている。例えば、プロテアーゼの相当数は、脂質分解活性を有している脂質分解性酵素として知られていて、その以外にも、クチナーゼなどが脂質分解活性を有しているものと知られている。
【0023】
耐指紋性コーティングを形成するための脂質分解性酵素を含む多孔性構造物は、その以外にも、プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ及びラクターゼよりなる群から選択される1種以上の酵素をさらに含むことができる。例えば、指紋で付け出す各種タンパク質類の分解のためにプロテアーゼを表面に一緒に固定して利用することができる。プロテアーゼは、タンパク質とペプチド結合を分解し、汚染を除去するのに利用される。また、汗として分泌する構成成分及び各種外部汚染源から由来した成分を除去するために、アミラーゼ、セルラーゼ及びラクターゼなどの酵素が追加に利用されることができる。
【0024】
また、本発明は、基材の表面に脂質分解性酵素を含む多孔性構造物を形成することを含む耐指紋性コーティングの形成方法を提供する。このような多孔性構造物を基材上に形成する方法も特に限定されない。
【0025】
例えば、TMOS(tetramethoxysilane)、TEOS(tetraethoxysilane)、GPTMS(glycidoxypropyl trimethoxysilane)などを利用してゾル−ゲル(sol−gel)方法で多孔性コーティング層を製造することができる。ポリエチレングリコールジアクリレート(polyethylene glycol diacrylate)のような長鎖構造の有機物をコーティングした後、硬化させ、これにクロスリンキングエージェントを添加し、機械的強度を強化させて、二重ネットワーク(double network)を形成したハイドロゲル(hydrogel)をコーティングし、多孔性コーティング層を形成することもできる。または、アクリレート基盤の有機混合物にシリカナノ粒子を添加してコーティングすることによって、有機混合物を単独でコーティングする時より、多孔性(porous)構造を形成することができる。
【0026】
また、前述したように形成した多孔性構造物の空隙のサイズをさらに大きくするために、追加的な処理を必要とすることができる。例えば、ゾル−ゲル方法で多孔性コーティング層を製造する時、コーティング液に界面活性剤を添加し、コーティング及び硬化した後、加熱、プラズマ処理などの方法で界面活性剤を除去し、空隙のサイズを大きくすることができる。また、アクリレートとシリカ粒子を混合して形成した多孔性コーティング層についても、HF溶液でエッチングし、アクリレートに添加したシリカ粒子を除去するか、またはプラズマ処理または熱処理を通じてアクリレートを除去し、シリカ粒子層を残すことによって、さらに大きい空隙のサイズを有する多孔性構造物を形成することができる。
【0027】
本発明の耐指紋性被膜の製造のために脂質分解性酵素を多孔性構造物に導入させる順序は、特に限定されない。例えば、脂質分解性酵素は、多孔性構造物の形成後に導入されるか、または多孔性構造物の形成と同時に導入されることができる。酵素を固定化する方法については、当業界においてよく知られている。例えば、脂質分解性酵素は、吸着、共有結合またはカプセル化(encapsulation)により基材の表面に導入されることができる。
【0028】
吸着は、脂質分解性酵素が物理的結合力により基材または多孔性構造物に付くことを意味する。酵素を構成しているタンパク質は、その自体で物体の表面に吸着する性質が非常に強い。したがって、別途の追加的な処理工程なしも吸着により脂質分解性酵素が基材または多孔性構造物に固定されることができる。下記実施例では、このような吸着による脂質分解性酵素の固定が優れた安定性を有するという点を示す。
【0029】
多孔性構造物に脂質分解性酵素を導入するために多孔性構造物と酵素との間に共有結合を形成する方法としては、臭化シアン(cyanogen bromide)、酸アジド誘導体(Acid azide derivatives)、コンデンシング試薬(condensing reagent)、ジアゾカップリング(diazo coupling)、アルキル化(alkylation)、キャリアクロス−リンキング(carrier crosslinking)などの多様な公知技術が存在する。
【0030】
例えば、キャリアクロスリンキング方法は、二作用基性クロス−リンカー(bifunctional cross−linker)を利用して多孔性構造物に存在する作用基と脂質分解性酵素に存在する作用基との間に共有結合を形成させる方法である。脂質分解性酵素には、アミノ基、カルボキシル基以外にも多様な作用基が存在するので、これら作用基と共有結合することができる作用基が多孔性構造物に存在すれば、二作用基性クロス−リンカーを利用して容易に共有結合を形成させることができる。この際、多孔性構造物に存在する作用基は、本来から多孔性構造物が有している作用基であるか、または酵素との共有結合形成のために多孔性構造物に導入されたものであることができる。例えば、多孔性構造物がアクリレートのような有機混合物の硬化により形成された場合、有機混合物に硬化作用に参加しない作用基を有する物質を混合して使用することができる。ゾル−ゲル反応で製造する多孔性構造物の場合には、ゾル−ゲル反応に参加しない作用基を有する有機シロキサン物質を混合して使用するなどの方法で作用基を導入することができる。または、多孔性構造物を基材の表面に導入(コーティング)した後、プライマー処理、SAM(self assembly monolayer)処理などのような後処理過程を通じて作用基を導入することもできる。
【0031】
酵素との共有結合形成のための作用基としては、アミノ基(amine)、アミド基(amide)、カルボキシル基(carboxyl)、アルデヒド基(aldehyde)、ヒドロキシ基(hydroxyl)、チオール基(thiol)などが含まれ、多孔性構造物に存在するかまたは導入される作用基は、多孔性構造物を成す材質の種類によって異なることができる。
【0032】
1つの具体例で、共有結合は、a)表面にアミノ基(amine)、アミド基(amide)、カルボキシル基(carboxyl)、アルデヒド基(aldehyde)、ヒドロキシ基(hydroxyl)及びチオール基(thiol)よりなる群から選択される1つ以上の作用基を有する多孔性構造物を含む基材に二作用基性クロス−リンカー(bifunctional cross−linker)を含む溶液を処理し;b)脂質分解性酵素を含む緩衝溶液の中に上記基材を浸漬することを含む過程を通じて形成されることができる。
【0033】
共有結合の誘導のために使用される二作用基性(bifunctional)クロス−リンカー(cross−linker)としては、ビス−イミドエステル(bis−imidoester)、ビス−スクシンイミジル誘導体(bis−succinimidyl derivative)、二作用基性アリールハライド(bifunctional arylhalide)、二作用基性アクリレーティング試薬(bifunctional acrylating agent)、ジアルデヒド(dialdehyde)、ジケトン(diketone)などを例示することができるが、これに限定されるものではない。本発明の一実施例では、ジアルデヒド(dialdehyde)であるグルタルアルデヒドを利用して共有結合を誘導した例を示す。
【0034】
他の具体例で、共有結合は、エポキシ基(epoxy)を有する多孔性構造物を含む基材を、脂質分解性酵素を含む緩衝溶液に浸漬することを含む過程を通じて形成されることができる。さらに、上記過程を経た基材に酵素の活性を劣化させない水準の熱処理またはUV処理を加えることによって、酵素の固定をさらに向上させることができる。
【0035】
上記のように、共有結合を利用して酵素を固定する方法については、後述する実施例により具体的に説明した。
【0036】
また、カプセル化は、脂質分解性酵素を他の物質を利用してこれら物質の間に閉じ込めることによって酵素を固定化する方法を意味する。一具体例で、上記カプセル化は、基材の表面にゲルマトリックス(gel matrix)、マイクロカプセル(microcapsule)、ホローファイバー(hollow fiber)またはメンブレインをコーティングし、脂質分解性酵素を導入する過程を通じて行われることができる。例えば、セルロースナイトレートやセルロースアセテートのようなセルロース系(cellulose)、ポリカーボネート(poly carbonate)、ナイロン(nylon)、PTFE(Polytetrafluoroethylene)のようなフルオル樹脂(fluoro resin)よりなるメンブレインなどが使用可能である。
【0037】
ゲルマトリックス(gel matrix)、マイクロカプセル(microcapsule)、ホローファイバー(hollow fiber)またはメンブレインをコーティングする過程と脂質分解性酵素を導入する過程は、同時にまたは順次に行われることができる。すなわち、基材の表面にゲルマトリックス(gel matrix)、マイクロカプセル(microcapsule)、ホローファイバー(hollow fiber)またはメンブレインをまずコーティングした後、脂質分解性酵素を含む緩衝溶液に上記基材を浸漬するか、または基材の表面にマトリックス(gel matrix)、マイクロカプセル(microcapsule)、ホローファイバー(hollow fiber)またはメンブレインをコーティングすると同時に、脂質分解性酵素を導入することが可能である。例えば、ゲルマトリックスを利用したカプセル化方法において、ゲルメトリックスをコーティングして硬化した後、酵素を吸着させる方法だけでなく、ゾル−ゲル反応を進行する段階でゾル溶液を製造する時、酵素を添加して混合溶液を作った後、これを基材にコーティングし硬化させる方法も使用可能である。
【0038】
上記方法のうちゲルマトリックス(gel matrix)を利用してカプセル化(encapsulation)する方法の場合、酵素の活性保存及び促進にさらに有利である。機械的強度及び光学的特性が保証されるゲル(gel)類は、いずれでも適用可能である。例えば、TMOS(tetramethoxysilane)、TEOS(tetraethoxysilane)、GPTMS(glycidoxypropyltrimethoxysilane)などを利用してゾル−ゲル(sol−gel)法で製造したコーティング層や、PEG(polyethyleneglycol)に機械的強度を強化させて二重ネットワーク(double network)を形成したヒドロゲル(hydrogel)などを利用して1次コーティングした後、これに酵素をカプセル化(encapsulation)することができる。より具体的な説明は、後述する実施例に示した。
【0039】
一方、上記方法で使用される脂質分解性酵素を含む緩衝溶液としては、PBS(phosphate buffered saline)緩衝溶液、リン酸カリウム(potassium phosphate)緩衝溶液、リン酸ナトリウム(sodium phosphate)緩衝溶液などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。緩衝溶液に含まれる脂質分解性酵素は、固定しようとする基材の表面を単一層(monolayer)でカバーすることができる量を固定することを原則にする。商用脂質分解性酵素は、大部分デキストリン、ラクトースなどのようなエクステンダー(extender)過量と安定剤などのような添加物に少量の酵素が含まれた形態なので、これらのうちタンパク質の含量のみを考慮して酵素添加量を決定する。共有結合の場合、基材表面の作用基に相当する量のタンパク質量を計算して酵素添加量を決定し、吸着とカプセル化の場合、基材表面をカバーすることができる蛋白質量の3〜10倍数に該当する量を緩衝溶液に溶かして使用することが好ましい。
【0040】
一方、このような耐指紋性コーティングが形成される基材は、特に限定されず、いずれでも適用可能である。例えば、耐指紋コーティングの形成が要求される製品は、ディスプレイ製品、電子製品の外観、建築内装材など日常生活で手の接触が多い製品である。このような製品は、大部分が各種プラスチック、ガラスなどを含む表面を有しているか、または、UVコーティングのような各種光沢コーティングまたは保護コーティングが施されている表面を有している。一具体例で、上記基材は、プラスチックまたはガラスであることができる。例えば、上記基材は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、オレフイン共重合体及びポリメチルメタクリレートの中から選択された1種以上のポリマーまたはガラスを含むことができる。また、上記基材には、ポリマーまたはガラスを含む基材の表面に光沢コーティング、保護コーティング、塗装コーティング、ヒドロゲルコーティングなどの各種コーティングが形成されている基材をも含まれる。
【0041】
また、本発明は、前述した方法によって形成された多孔性構造物を含む基材を提供する。下記実施例を通じて確認することができるように、上記方法により形成された脂質分解性酵素を含む多孔性構造物を含む基材は、指紋分解及び指紋転写減少によって優れた耐指紋特性を示す。
【0042】
指紋成分の広がり効果を極大化するためには、上記多孔性構造物を含む基材の表面エネルギーが20〜50mN/mであることが好ましい。上記多孔性構造物を含む基材の表面エネルギーが20mN/m未満の場合は、指紋成分が広がらないことがあり、50mN/mを超過する場合、指紋の除去が容易ではないことがある。ここで、酵素の一例として、リパーゼをコーティングした場合、表面エネルギー測定結果、30〜50mN/mを示し、この範囲では、指紋の広がり効果が極大化され、その結果として、指紋転写が減少するので、好ましい。
【0043】
本発明は、上記多孔性構造物を含む基材を含む製品を提供する。本発明による上記多孔性構造物を含む基材を含む製品は、日常生活で手の接触が多い製品であることができ、その種類は、特に限定されない。例えば、このような製品としては、ディスプレイ装置、電子装置、建築内装材などを含む。例えば、上記ディスプレイ装置は、液晶ディスプレイ(LCD)、有機発光ディスプレイ(OLED)、及びプラズマディスプレイパネル(PDP)よりなる群から選択されるものであることができる。現在普及されている携帯用ディスプレイ装置は、タッチスクリーン方式のインターフェースを有していて、本発明による耐指紋性コーティングが導入される場合、製品の美観を大きく向上させることができる。
【0044】
上記製品に耐指紋性コーティングを導入する方法も特に限定されない。すなわち、上記ディスプレイ装置などの製品の基材表面に上記多孔性構造物を直接形成させることもでき、上記多孔性構造物を含むフィルム形態の基材を上記製品の表面に付着することもできる。
【発明の効果】
【0045】
本発明による脂質分解性酵素を含む多孔性構造物を基材の表面に形成する場合、酵素が分解した汚染源が気孔の中に吸収され、表面で識別可能な汚染を除去するのにさらに効果的な耐指紋性コーティングを具現することができ、これにより、ディスプレイ表面、電子製品の外観、建築用内装材などの指紋汚染を効果的に減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の耐指紋性被膜の汚染源分解メカニズムを示す概略図である。
【図2】本発明による実施例の方法で製造されたスライドガラス表面の時間による指紋汚染状態を顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の利点及び特徴、そしてそれらを達成する方法は、詳細に後述されている実施例を参照すれば明確になる。しかし、本発明は、以下で開示される実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態に具現され、但し、本実施例は、本発明の開示を完全にし、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に通知するために提供されるものであり、本発明は、請求項の範疇によって定義される。
【0048】
[実施例]
実施例1−シロキサン系組成物及びリパーゼを利用した耐指紋性被膜の製造
3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン250g、テトラエトキシシラン100g及びメタノール146gをフラスコに入れて撹拌した。収得した混合物にアルミニウムイソプロポキシド7.3gを添加した後、清い溶液になるまで再び撹拌した。撹拌した混合物を25℃に冷却しながらpH2.5の酢酸水溶液80gを滴加した後、数時間反応させた。また、別に過量のイソプロピルアルコール及びチタンイソプロポキシド及び微量の酢酸水溶液を還流条件の下で反応させて製造したチタンイソプロポキシドの中間誘導体60gを添加し、約3時間反応させた後、アセチルアセトン145gを添加し、充分に撹拌した。次に、メタノールで分散したコロイドシリカ200gを添加し、数時間熟成させて、シロキサン系組成物を製造した。
【0049】
上記製造されたシロキサン酸系組成物にスライドガラスを浸漬してコーティングした後、110℃で2時間硬化させて、上記スライドガラス上に多孔性構造物を製造した。
【0050】
上記スライドガラスをLipase PS”Anano”SD(23,000U/g)(リパーゼ)が100mg/ml濃度で含まれたPBSバッファー(phosphate buffered saline)に浸し、4℃で24時間静置させた後、蒸留水に浸し、20分間3回洗浄した後、窒素を吹きついて乾燥させた。
【0051】
実施例2−シリカ粒子が含まれたハードコーティング剤組成物及びリパーゼを利用した耐指紋性被膜の製造
反応性アクリレートオリゴマーとしてEB1290(線径UCB)7重量%、多官能性アクリレートモノマーとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)29重量%、メチルイソブチルケトン及びメタノールに分散した平均粒径15〜20nmのシリカ分散液(固形分の含量30%)11重量%、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)9重量%及びイソプロピルアルコール(IPA)12重量%、メチルエチルケトン(MEK)29重量%、開始剤としてIRG 184 2重量%、及び添加剤としてBYK 300 1重量%を均一に混合し、ハードコーティング液を製造した。
【0052】
上記製造されたハードコーティング組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにコーティングした後、UV硬化させて、PETフィルム上に多孔性構造物を製造した。
【0053】
上記スライドガラスをLipase PS”Anano”SD(23,000U/g)が100mg/ml濃度で含まれたPBSバッファー(phosphate buffered saline)に浸し、4℃で24時間静置させた後、蒸留水に浸し、20分間3回洗浄した後、窒素を吹きついて乾燥させた。
【0054】
実施例3−シロキサン系組成物及びリパーゼ、プロテアーゼを利用した耐指紋性被膜の製造
上記実施例1のように準備したシロキサン系多孔性構造物がコーティングされたスライドガラスを、Lipase PS”Anano”SD(23,000U/g)(リパーゼ)50mg/mlとNovozymes社のEsperase(プロテアーゼ)が50mg/ml濃度で含まれたPBSバッファー(phosphate buffered saline)に浸し、4℃で24時間静置させた後、蒸留水に浸し、20分間3回洗浄した後、窒素を吹きついて乾燥させた。
【0055】
比較例1−リンカーを利用した共有結合によりリパーゼを導入した耐指紋性被膜の製造
次の方法としてガラス基板の上にリパーゼをコーティングした。アミノアルキルシラン(Amino alkyl silane)で表面コーティングされたスライドガラスをグルタルアルデヒド(glutaraldehyde)10%溶液に2時間反応させた。次に、スライドガラスを蒸留水で軽く洗浄した後、リパーゼ(Amano Enzyme社、Lipase PS”Anano”SD、Burkholderia cepacia由来)が100mg/mL濃度で含まれたPBSバッファーに浸し、常温で24時間静置させた。そして、リパーゼが固定されたスライドガラスを流れる蒸留水で充分に洗浄し、さらに蒸留水に入れ、弱く振って40分間洗浄した。その後、スライドガラスを取り出し、圧縮窒素で吹きついて常温で乾燥させ、リパーゼがコーティングされたガラス基板の製造を完了した。
【0056】
実験例1−耐指紋性テスト
実施例1の方法で製造したスライドガラスに指紋を取った後、50℃、30%恒温恒湿器に入れ、時間別にヘイズ(haze)を測定し、表面の汚染が減少することを確認した。実験は、指紋の転写度によって総4回にわたって行われた。
【0057】
その結果を下記表1(指紋の転写度によるヘイズ経時変化表)に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
上記表1に示されたように、実施例1の方法で製造したスライドガラスは、時間が経つにつれて汚染源が除去されることを、ヘイズ値が時間が経つにつれて徐々に低くなることを確認することを通じて、数値的に確認することができた。
【0060】
一方、実施例1の方法で製造したスライドガラスの時間による指紋除去現象を顕微鏡観察し、その写真を、耐指紋性被膜がないスライドガラスである比較例(reference)のそれと比較し、図2に示す。顕微鏡観察は、75倍の倍率で観察した。
【0061】
図2に示されたように、実施例の方法で製造したスライドガラスは、時間が経つにつれて表面から汚染源が除去されることを視覚的に確認することができた。
【0062】
実験例2−耐指紋性テスト
実施例2の方法で製造したPETフィルムに指紋を取った後、50℃、30%恒温恒湿器に入れ、時間別にヘイズ(haze)を測定し、表面の汚染が減少することを確認した。
【0063】
その結果を下記表2(指紋の転写度によるヘイズ経時変化表)に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
上記表2に示されたように、実施例2の方法で製造したPETフィルムは、時間が経つにつれて表面から汚染源が除去されることを、ヘイズ値が時間が経つにつれて徐々に低くなることを確認することを通じて、数値的に確認することができた。
【0066】
実験例3−耐指紋性テスト
実施例1、及び実施例3の方法で製造したスライドガラスに指紋を取った後、50℃、30%恒温恒湿器に入れ、時間別にヘイズ(haze)を測定し、表面の汚染が減少することを確認した。その結果を下記表3(指紋の転写度によるヘイズ経時変化表)に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
上記表3に示されたように、実施例3の方法で製造したスライドガラスは、時間が経つにつれて汚染源が除去されることを、ヘイズ値が時間が経つにつれて徐々に低くなることを確認することを通じて、数値的に確認することができた。また、プロテアーゼを一緒に使用することによって、リパーゼを単独使用する場合より性能が向上することを確認することができた。
【0069】
実験例4−耐指紋性テスト
実施例1及び比較例1の方法で製造したスライドガラスに指紋を取った後、50℃、30%恒温恒湿器に入れ、時間別にヘイズ(haze)を測定し、表面の汚染が減少することを確認した。その結果を下記表4(指紋の転写度によるヘイズ経時変化表)に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
上記表4に示されたように、実施例1の方法で製造したスライドガラスは、比較例1の方法で製造したスライドガラスに比べて時間が経つにつれて汚染源が除去される程度が顕著に優れていることを確認することができた。したがって、多孔性構造物による汚染源の除去性能が、多孔性構造物がない時に比べて顕著に向上することを確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に耐指紋性コーティングを形成するための、脂質分解性酵素を含む多孔性構造物。
【請求項2】
上記脂質分解性酵素は、リパーゼである請求項1に記載の多孔性構造物。
【請求項3】
上記多孔性構造物が、プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ及びラクターゼよりなる群から選択される1種以上の酵素をさらに含むものである請求項2に記載の多孔性構造物。
【請求項4】
上記多孔性構造物の厚さは、20nm〜200μmである請求項1に記載の多孔性構造物。
【請求項5】
基材の表面に脂質分解性酵素を含む多孔性構造物を形成することを含む耐指紋性コーティングの形成方法。
【請求項6】
上記脂質分解性酵素は、リパーゼである請求項5に記載の耐指紋性コーティングの形成方法。
【請求項7】
上記多孔性構造物が、プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ及びラクターゼよりなる群から選択される1種以上の酵素をさらに含むものである請求項6に記載の耐指紋性コーティングの形成方法。
【請求項8】
上記基材は、プラスチックまたはガラスを含むものである請求項5に記載の耐指紋性コーティングの形成方法。
【請求項9】
上記プラスチックは、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、オレフイン共重合体及びポリメチルメタクリレートの中から選択された1種以上のポリマーを含むものである請求項8に記載の耐指紋性コーティングの形成方法。
【請求項10】
上記脂質分解性酵素は、吸着、共有結合またはカプセル化により多孔性構造物に導入されるものである請求項5に記載の耐指紋性コーティングの形成方法。
【請求項11】
上記共有結合は、a)アミノ基(amine)、アミド基(amide)、カルボキシル基(carboxyl)、アルデヒド基(aldehyde)、ヒドロキシ基(hydroxyl)及びチオール基(thiol)よりなる群から選択される1つ以上の作用基を有する多孔性構造物を含む基材に二作用基性クロス−リンカー(bifunctional cross−linker)を含む溶液を処理し;b)脂質分解性酵素を含む緩衝溶液の中に上記基材を浸漬することを含む過程を通じて形成されるものである請求項10に記載の耐指紋性コーティングの形成方法。
【請求項12】
上記共有結合は、エポキシ基(epoxy)を有する多孔性構造物を含む基材を、酵素を含む緩衝溶液に浸漬することを含む過程を通じて形成されるものである請求項10に記載の耐指紋性コーティングの形成方法。
【請求項13】
上記カプセル化は、基材の表面にゲルマトリックス(gel matrix)、マイクロカプセル(microcapsule)、ホローファイバー(hollow fiber)またはメンブレインをコーティングし脂質分解性酵素を導入する過程を通じて行われるものである請求項10に記載の耐指紋性コーティングの形成方法。
【請求項14】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の多孔性構造物を含む基材。
【請求項15】
請求項14に記載の基材を含む製品。
【請求項16】
上記製品は、ディスプレイ装置、電子製品または建築内装材である請求項15に記載の製品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−505321(P2013−505321A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529690(P2012−529690)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国際出願番号】PCT/KR2010/006444
【国際公開番号】WO2011/034388
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】