説明

耐火ダクト

【課題】火災の際に耐火ダクト内部を閉塞させることなく、かつ、火災の際に発生した炎や煙を耐火ダクト内部に侵入させない構造の耐火ダクトを提供すること。
【解決手段】
[1]金属ダクトの外周面および金属ダクトの内周面の少なくとも一方に耐火被覆層を備えるものであって、前記耐火被覆層は、熱膨張許容層、熱膨張性耐火材層および金属層の少なくとも三層が、前記金属ダクト側から熱膨張許容層、熱膨張性耐火材層および金属層の順に配置されていることを特徴とする、耐火ダクト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性に優れた耐火ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
家屋やビル等の建築物には不燃性の防火壁を用いた防火区画が設けられていて、一つの防火区画で火災が発生した場合でも他の防火区画に対する延焼を防ぐことができる工夫がなされている。
この一方、外部の新鮮な空気を取り入れたり、内部の汚れた空気を排出したりするための換気用ダクト、空調用ダクト等に代表されるダクトが前記防火区画を縦横断する様に前記建築物に設けられていて、このダクトによりそれぞれの防火区画同士や前記建築物の外部との空間が連結されている。
このため、一つの防火区画で発生した火災や煙が前記ダクト内に侵入することにより、他の防火区画へ火災や煙が広がる問題がある。
この問題に対応するために前記ダクトの外周面や内周面に熱膨張性耐火材を貼着した耐火ダクトが提案されている(特許文献1)。
この耐火ダクトであれば、前記ダクトの外周面や内周面に熱膨張性耐火材があるため、火災の熱による前記ダクト内部へ火災の炎や煙が侵入せず、他の防火区画へ火災や煙が広がる問題を防止できるとされる。
しかしながらこの提案された耐火ダクトでは、前記耐火ダクトの内周に熱膨張性耐火材を貼着した場合、前記耐火ダクト内部が火災の熱により膨張した熱膨張性耐火材によって閉塞されることがある。このため前記耐火ダクトの排煙機能等が損なわれる等の問題があった。
【特許文献1】特開2008−31800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記耐火ダクトに対して排煙等の機能を維持すること等を念頭に本発明者が検討を継続したところ、新たな問題点があることを本発明者らは見出した。
【0004】
以下、この問題点について説明する。
図1は金属ダクト1の外周に接して熱膨張性耐火材層2を設けた耐火ダクトの模式断面図である。図1(a)は火災の熱による加熱前の前記耐火ダクト100の状態を例示したものであり、図1(b)は火災の熱による加熱後の前記耐火ダクト101の状態を例示したものである。
【0005】
断面が長方形等の前記耐火ダクト101の場合、図1(b)に例示される様に長方形等の頂点3の部分は膨張後の熱膨張性耐火材層4が均質な扇状となって広がらない場合があるため、ひび割れや隙間が生じやすい。このひび割れや隙間を通じて火災の炎や熱が直接前記金属ダクト1に伝わり、前記金属ダクト1が変形して隙間が生じる等して前記耐火ダクト101内部に火災による炎や煙が侵入し、火災が発生した防火区画から他の防火区画へ延焼が生じたり、煙が拡散したりする問題が生じる可能性がある。
【0006】
図2は金属ダクト5の外周に接して熱膨張性耐火材層2を設けた耐火ダクトの模式断面図である。図2(a)は火災の熱による加熱前の前記耐火ダクト102の状態を例示したものであり、図1(b)は火災の熱による加熱後の前記耐火ダクト103の状態を例示したものである。
【0007】
先の図1の場合は前記金属ダクト1の断面が長方形であったが、図2の場合は金属ダクト5の断面が円形である点が異なる。
【0008】
図2に示される様に、前記耐火ダクト102の断面が円形である場合、前記金属ダクト5の外周に接して設けられた熱膨張性耐火材層2は火災の熱により膨張するものの、外側に向かって膨張すればするほど、膨張後の熱膨張性耐火材層4の外周は脆くひび割れやすくなる場合がある。このため、前記耐火ダクト102の設置場所や形状によっては火災の炎や熱が直接前記金属ダクト5に伝わり、先の図1の場合に説明した場合と同様に、火災が発生した防火区画から他の防火区画へ延焼が生じたり、煙が拡散したりする問題が生じる可能性もある。
【0009】
本発明の目的は、火災の際に耐火ダクト内部を閉塞させることなく、かつ、火災の際に発生した炎や煙を耐火ダクト内部に侵入させない構造の耐火ダクトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため本発明者が鋭意検討した結果、金属ダクトの外周面および内周面の少なくとも一方に、熱膨張許容層を介して熱膨張性耐火材層を備えた耐火ダクトが本発明の目的に適うことを見出し本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
[1]金属ダクトの外周面および金属ダクトの内周面の少なくとも一方に耐火被覆層を備えるものであって、
前記耐火被覆層は、熱膨張許容層、熱膨張性耐火材層および金属層の少なくとも三層が、前記金属ダクト側から熱膨張許容層、熱膨張性耐火材層および金属層の順に配置されていることを特徴とする、耐火ダクトを提供するものである。
【0012】
また本発明は、
[2]前記熱膨張許容層は、空気、不燃性発泡体および無機繊維からなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする、上記[1]に記載の耐火ダクトを提供するものである。
【0013】
また本発明は、
[3]前記熱膨張許容層は、
前記金属ダクトの外周面および金属ダクトの内周面の少なくとも一方と、
前記熱膨張性耐火材層と、
の間に存在する空気からなり、
前記熱膨張性耐火材層は、前記金属ダクトに設置された鍔フランジの外周面および前記金属ダクトに設置された金属製スぺーサの少なくとも一方により保持されていることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の耐火ダクトを提供するものである。
【0014】
また本発明は、
[4]前記熱膨張許容層の厚みが、前記金属ダクトの外周面と前記熱膨張性耐火材層との距離、または前記金属ダクトの内周面と前記熱膨張性耐火材層との距離を基準として、1〜15mmの範囲であることを特徴とする、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の耐火ダクトを提供するものである。
【0015】
また本発明は、
[5]前記熱膨張性耐火材層は、熱膨張性層状無機物およびリン化合物の少なくとも一つを含むことを特徴とする、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の耐火ダクトを提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の耐火ダクトによれば、前記耐火ダクトが火災の炎等にさらされた場合には前記耐火ダクトに含まれる熱膨張性耐火材層が前記金属ダクトの外周面や内周面に向かって膨張することから、膨張した熱膨張性耐火材層により火災等の炎や煙が前記耐火ダクト内部に侵入することを防止することができる。このため建物内部の一つの防火区画で火災等が発生した場合でも、その火災等による炎や煙が他の防火区画へ広がることを防止することができる。
【0017】
また本発明の耐火ダクトの場合、火災等の熱により前記熱膨張性耐火材層は前記金属ダクトの外周面や内周面に向かって膨張することから、膨張後の前記熱膨張性耐火材層に脆弱な部分が生じることを防止することができる。
【0018】
さらに本発明の耐火ダクトによれば、火災等の熱により膨張した前記熱膨張性耐火材層が前記耐火ダクトに含まれる金属ダクトの内外周面と金属層とにより挟まれているためその形状保持性に優れる。このため膨張した前記熱膨張性耐火材層は容易に崩れることはなく、前記耐火ダクト内部への火災等の炎や煙の侵入を防止することができる。
【0019】
また本発明の耐火ダクトによれば、前記熱膨張性耐火材層を前記耐火ダクトに含まれる金属ダクトの内周面側に設置した場合でも、前記熱膨張性耐火材層のさらに内側に金属層が存在するため、前記耐火ダクトに含まれる金属ダクト内部が膨張した前記熱膨張性耐火材層により閉塞されることがない。
このため、前記耐火ダクトの火災発生時の排煙機能や、避難者に対する新鮮な空気の供給機能等を阻害することがなく、火災等に伴う災害の拡大を防止することができる。
【0020】
また本発明の耐火ダクトは複雑な構成を必要としないため容易に施工することができ、単位時間当たりの施工性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の耐火ダクトについて説明するが、最初に本発明に使用する金属ダクトについて説明する。
本発明に使用する金属ダクトは、通常アルミニウム、鋼鉄、ステンレス、銅等の金属製のものが使用されるがこれに限定されるものではない。
また前記金属ダクトの形状は、その断面が正方形、長方形、円形、楕円形、多角形等の一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0022】
図3は本発明に使用する金属ダクトの具体例を例示した模式要部斜視図である。
図3に例示した金属ダクト6の形状はその断面が円形ものであり、鋼鉄により形成されている。
【0023】
前記金属ダクト6の直径は、好ましくは3cm〜5mの範囲であり、さらに好ましくは30cm〜2mの範囲である。
また図3に例示される金属ダクトユニット7の端部に設けられた鍔フランジ8同士をボルト9等の固定手段により固定することにより、前記金属ダクトユニット7同士が連結され、前記金属ダクト6が形成されている。
前記鍔フランジ8同士の間には必要に応じてリング状の耐熱パッキン、金属ワッシャー等を設置することができる。
【0024】
図4は本発明に使用する、別の金属ダクトを例示した模式要部斜視図である。
先に図3により例示した前記金属ダクト6の形状はその断面が円形であったが、図4に例示した前記金属ダクト10の形状はその断面が長方形である点が異なる。
前記金属ダクト10の断面の短辺および長辺の長さは、好ましくは3cm〜5mの範囲であり、さらに好ましくは30cm〜2mの範囲である。
【0025】
また金属ダクトユニット7同士が連結され、前記金属ダクト10が形成されている点、鍔フランジ8同士の間に必要に応じて枠状の耐熱パッキン、金属ワッシャー等を設置することができる点等は前記金属ダクト6の場合と同様である。
【0026】
次に本発明に使用する耐火被覆層について説明する。
前記耐火被覆層は、熱膨張許容層、熱膨張性耐火材層および金属層の少なくとも三層を有するものである。
【0027】
前記熱膨張許容層としては、空気、不燃性発泡体、無機繊維等を含んでなる層を挙げることができる。
前記不燃性発泡体としては、例えば、焼石膏粉末等の無機粉末とアルミニウム粉末等の金属粉末とを混合した後、フッ化水素酸を用いて反応させた無機金属系発泡体等、
フッ化ポリオレフィン等の不燃性樹脂を発泡させてなる不燃性樹脂発泡体等が挙げられる。
前記無機繊維としては、例えば、ロックウール、セラミックウール、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、セラミックブランケット等が挙げられる。
【0028】
また前記熱膨張性耐火材層としては、例えば、熱膨張性耐火材料をシート状に成形した熱膨張性耐火材シート等を挙げることができる。
【0029】
前記熱膨張性耐火シートは、前記熱膨張性耐火材料からなるものに限定されず、例えば、前記熱膨張性耐火材料と金属箔類との積層体、前記熱膨張性耐火材料と無機繊維類との積層体、前記熱膨張性耐火材料と樹脂類との積層体等を使用することができる。
前記金属箔類としては、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔、錫箔、鉛箔、錫鉛合金箔、クラッド箔、鉛アンチ箔等の金属箔等が挙げられる。
前記無機繊維類としては、例えば、ガラスクロス、シリカクロス、アルミナクロス等を挙げることができる。
前記樹脂類としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチレン等が挙げられる。
なお前記金属箔類、前記無機繊維類および前記樹脂類として列挙したものは例示であり、これらに限定されるものではない。
【0030】
前記熱膨張性耐火材層の厚みは、耐火性の面から0.1〜10mmの範囲のものが好ましく、経済性の面から製造が困難にならない0.3〜3mmの範囲であればさらに好ましい。
【0031】
また前記金属層としては、例えば、アルミニウム、鋼鉄、ステンレス、銅等の金属板等、
アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔、錫箔、鉛箔、錫鉛合金箔、クラッド箔、鉛アンチ箔等の金属箔類等に加えて、前記金属板と無機繊維類との積層体、前記金属箔類と無機繊維類との積層体、前記金属板、前記無機繊維類および前記金属箔類との積層体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
前記無機繊維類としては、先の場合と同様、ガラスクロス、シリカクロス、アルミナクロス等を使用することができる。
前記金属層の厚みは、取扱性の面から0.001〜5mmの範囲のものが好ましく、0.005〜2mmの範囲であればさらに好ましい。
【0032】
前記熱膨張許容層、熱膨張性耐火材層および金属層は、前記金属ダクト側からそれぞれ熱膨張許容層、熱膨張性耐火材層および金属層の順に配置されているものである。
【0033】
図5〜7は前記耐火被覆層と前記金属ダクトとの関係を説明するための模式要部断面図である。
ここで図5〜7における前記熱膨張許容層12として空気が使用されているものである。
図5では前記金属ダクト6の外周面11側に熱膨張許容層12が設けられていて、さらにその外側に熱膨張性耐火材層13および金属層14が設けられている。
【0034】
火災等の熱が前記金属層14を通して前記熱膨張性耐火材層13に伝わると、前記熱膨張性耐火材層は膨張し、前記熱膨張許容層12を閉塞させる。これにより前記金属ダクト6内部に外部からの火災等の炎や煙の侵入を防止することができると共に、火災等の熱が直接前記金属ダクト6に伝わることを防止することができ、火災等の熱による前記金属ダクト6の変形等を防止することができる。
【0035】
図6では前記金属ダクト6の内周面15側に熱膨張許容層12が設けられていて、さらにその内側に熱膨張性耐火材層13および金属層14が設けられている。
火災等の熱により前記金属ダクト6が変形したり亀裂が生じたりした場合であっても、前記熱膨張性耐火材層13が前記金属ダクト6の内周面に向かって膨張するため、外部から火災等による炎や煙が前記金属ダクト6内へ侵入することを防止することができる。
【0036】
また前記金属層14が膨張した熱膨張性耐火材層13を押しとどめる機能を有するため前記金属ダクト6内部の全てが閉塞されることはなく、前記金属ダクト6の排煙機能や換気機能等を損なうことを防止することができる。
【0037】
図7では前記金属ダクト6の外周面11および内周面15に熱膨張許容層12がそれぞれ設けられている。
また図5および図6の場合と同様に熱膨張性耐火材層13および金属層14が設けられている。
【0038】
これにより、外部からの火災等による炎や煙が前記金属ダクト6内部へ侵入することを防止することができると共に、前記金属ダクト6内部が膨張した熱膨張性耐火材層13により閉塞されることも防止することができる。
【0039】
図5〜7に例示した前記耐火被覆層200の厚みは、前記金属ダクトの外周面と前記熱膨張性耐火材層との距離、または前記金属ダクトの内周面と前記熱膨張性耐火材層との距離を基準として、1〜15mmの範囲であることが好ましい。
【0040】
また熱膨張性耐火材層13および金属層14を形成する方法としては、例えば鋼鉄製等の金属板等に熱膨張性耐火材料を溶融押出する方法、鋼鉄製等の金属板等に熱膨張性耐火材シートを貼着する方法等を挙げることができる。
【0041】
前記金属板等に熱膨張性耐火材シートを貼着する方法としては、例えば、前記金属板等と熱膨張性耐火材シートとを熱プレスにより溶融貼着する方法、前記熱膨張性耐火材シートに粘着性を持たせて前記金属板等に貼着する方法、接着剤により前記金属板等と熱膨張性耐火材シートとを貼着する方法等を挙げることができる。
【0042】
次に前記耐火被覆層200と前記金属ダクト6との関係について説明する。
図8は、前記金属ダクト6の外周面11に前記耐火被覆層200が設けられた状態を例示した模式部分断面図である。
【0043】
図8に例示する様に、前記金属ダクト6を構成する金属ダクトユニット7の端部に設けられた鍔フランジ8の外周面により熱膨張性耐火材層13および金属層14が保持されている。前記耐火被覆層200のうち、熱膨張許容層12は前記金属ダクト6の外周面と前記熱膨張性耐火材層13との間に存在する空気により構成されている。
【0044】
前記鍔フランジ8の外周面に熱膨張性耐火材層13および金属層14を保持させる方法としては、例えば、熱膨張性耐火材シートが貼着された金属板等を丸めて前記鍔フランジ8の外周面に接触させてから前記鍔フランジの外周面に溶接ピンで固定する方法、接着剤で接着する方法、
金属製の針金等により前記耐火被覆層200の外周を固定する方法、
不燃性テープにより前記耐火被覆層200の外周を接着する方法等の一種もしくは二種以上の方法により行うことができる。
【0045】
図8の場合では前記鍔フランジ8の外周面により前記熱膨張性耐火材層13および金属層14が保持されているが、この鍔フランジ8の外周面に代えて、または前記鍔フランジ8の外周面と共に、金属製スペーサを用いて前記熱膨張性耐火材層13および金属層14を保持することもできる。
【0046】
図9は前記金属製スペーサを例示した模式要部斜視図である。
図9に例示した金属製スペーサ16により、前記熱膨張性耐火材層13および金属層14が保持されている。
【0047】
前記金属製スペーサ16の形状は、前記熱膨張性耐火材層13および金属層14を保持することができれば特に限定はないが、前記金属ダクト6の外周面から、前記熱膨張性耐火材層13に前記金属製スペーサ16が接触するまでの距離が、前記金属ダクト6の外周面から前記鍔フランジ8の外周面までの距離と略等しいものであれば好ましい。
【0048】
また前記金属製スペーサ16は、例えば、アルミニウム、鋼鉄、ステンレス、銅等の金属等の一種もしくは二種以上からなるものである。
【0049】
前記金属製スペーサ16は前記金属ダクト6に対して着脱可能に固定されている。
前記金属製スペーサ16を前記金属ダクト6に対して着脱可能に固定する方法としては、例えば、半円状の二つの前記金属スペーサ本体をヒンジ等により組み合わせて開閉可能とした金属スペーサ等を利用する方法等を挙げることができる。
【0050】
図10は、前記金属ダクト6の内周面に前記耐火被覆層200が設けられた状態を例示した模式部分斜視図である。
前記金属ダクト6の内周に接して設置することのできる金属スペーサ16の内側に、熱膨張性耐火材層13を外側に向けると共に金属層14を内側に向けて、それぞれ前記熱膨張性耐火材層13および金属層14が配置されている。
【0051】
図9および図10により説明した様に、前記鍔フランジ8や前記金属スペーサ16等を使用することにより、前記金属ダクト6の外周面や内周面と、前記熱膨張性耐火材層13との間に空間を設けることができ、空気による前記熱膨張許容層12を設けることができる。
【0052】
なお、前記熱膨張許容層12の空気に代えて、もしくは空気と共に、前記熱膨張性耐火材層13の膨張を阻害しない範囲で不燃性発泡体、無機繊維等を設けることもできる。
【0053】
次に本発明の耐火ダクトに使用する熱膨張性耐火材料について説明する。
前記熱膨張性耐火材料としては、例えば、具体的には熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂成分、熱膨張性層状無機物、リン化合物、無機充填材等を含む樹脂組成物からなるもの等を挙げることができる。
【0054】
前記樹脂組成物の各成分のうち、まず前記樹脂成分について説明する。
【0055】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂類、
天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
【0056】
これらの合成樹脂類及び/又はゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0057】
前記合成樹脂類及び/又はゴム物質の中でも、ハロゲン化されたものは、それ自体難燃性が高く、熱による脱ハロゲン化反応により架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する点において好ましい。
【0058】
前記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、エチレン単独重合体、エチレンを主成分とするエチレンと他のα−オレフィンとの共重合体、エチレンとα−オレフィン以外のモノマーとの共重合体及びこれらの共重合体や重合体の混合物等が挙げられる。
【0059】
前記エチレンを主成分とするエチレンと他のα−オレフィンとの共重合体におけるα−オレフィンとしては、例えば、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ブテン、1−ペンテン等が挙げられる。
【0060】
また、前記エチレンとα−オレフィン以外のモノマーとの共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0061】
前記エチレン単独重合体又はエチレンと他のα−オレフィンとの共重合体としては、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、バナジウム触媒、4価の遷移金属を含むメタロセン化合物等を重合触媒として重合されたものが挙げられるが、中でも、4価の遷移金属を含むメタロセン化合物等を触媒として得られるポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0062】
前記合成樹脂類及び/又はゴム物質には、更に、本発明における発泡断熱材の耐火性能を阻害しない範囲で、架橋や変性が施されてもよい。
【0063】
前記合成樹脂類及び/又はゴム物質の架橋や変性を行う時期については、特に限定されず、予め架橋、変性した前記合成樹脂類及び/又はゴム物質を用いてもよく、後述するリン化合物や無機充填材等の他の成分を配合する際に同時に架橋や変性を行ってもよい。
【0064】
また、前記合成樹脂類及び/又はゴム物質に他の成分を配合した後に架橋や変性してもよく、上記架橋や変性は、いずれの段階で行ってもよい。
【0065】
前記の架橋方法については特に限定されず、前記合成樹脂類及び/又はゴム物質について通常行われる架橋方法により実施することができる。例えば、各種架橋剤、過酸化物等を使用する架橋方法、電子線照射による架橋方法が挙げられる。
【0066】
また、本発明に使用する樹脂成分のうち、先に示したエポキシ樹脂としては、特に限定はないが、例えば、エポキシ基を持つモノマーと硬化剤とを反応させて得られる樹脂等を挙げることができる。
【0067】
前記エポキシ基を持つモノマーとしては、例えば、2官能のグリシジルエーテル型として、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型、ネオペンチルグリコール型、1,6−ヘキサンジオール型、トリメチロールプロパン型、プロピレンオキサイド−ビスフェノールA、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等のモノマーが挙げられる。
【0068】
また、グリシジルエステル型として、ヘキサヒドロ無水フタル酸型、テトラヒドロ無水フタル酸型、ダイマー酸型、p−オキシ安息香酸型等のモノマーが挙げられる。
【0069】
更に多官能のグリシジルエーテル型として、フェノールノボラック型、オルトクレゾール型、DPPノボラック型、ジシクロペンタジエン、フェノール型等のモノマーが挙げられる。
【0070】
これらは、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0071】
また、前記硬化剤としては、例えば、重付加型硬化剤、触媒型硬化剤等が挙げられる。
前記重付加型硬化剤としては、例えば、ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン等が挙げられる。
前記触媒型硬化剤としては、例えば三級アミン類、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が挙げられる。
これらエポキシ樹脂の硬化方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができる。
【0072】
なお、前記樹脂成分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、二種以上の樹脂成分をブレンドしたものを使用することができる。
【0073】
次に前記樹脂組成物の各成分のうち、前記熱膨張性層状無機物について説明する。
【0074】
前記熱膨張性層状無機物は加熱時に膨張するものであるが、かかる熱膨張性層状無機物に特に限定はなく、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等を挙げることができる。
【0075】
前記熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。
【0076】
上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和したものを使用するのが好ましい。
【0077】
前記脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
【0078】
前記アルカリ金属化合物および前記アルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
【0079】
前記熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュの範囲のものが好ましい。
【0080】
粒度が20メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さく、充分な耐火断熱層が得られにくく、また、粒度が200メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きいという利点はあるが、前記熱可塑性樹脂又はエポキシ樹脂と混練する際に分散性が悪くなり、物性が低下し易い。
【0081】
上記中和された熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、UCAR CARBON社製の「GRAFGUARD#160」、「GRAFGUARD#220」、東ソー社製の「GREP−EG」等が挙げられる。
【0082】
次に先の樹脂組成物の各成分のうち、前記無機充填材について説明する。
【0083】
前記無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカリウム塩、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セビオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、無機系リン化合物、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維等が挙げられる。
【0084】
これらは、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0085】
前記無機充填材は骨材的役割を果たして、加熱後に生成する膨張断熱層強度の向上や熱容量の増大に寄与する。
【0086】
このため、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛で代表される金属炭酸塩、骨材的役割の他に加熱時に吸熱効果も付与する水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムで代表される含水無機物が好ましく、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び周期律表IIbの金属炭酸塩又はこれらと前記含水無機物との混合物が好ましい。
【0087】
また、リン化合物は、難燃性を向上させるため、または窒素化合物、アルコール類等と組み合わせて熱膨張性機能を発現するために用いられる。
【0088】
前記リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;化学式1で表される化合物等が挙げられる。
【0089】
これらのリン化合物は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0090】
これらのうち、耐火性の観点から、赤リン、下記の化学式で表される化合物、及び、ポリリン酸アンモニウム類が好ましく、性能、安全性、費用等の点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
【0091】
【化1】

上記化学式中、R及びRは、水素、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を表す。
【0092】
は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜1
6の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0093】
前記化学式で表される化合物としては、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。
【0094】
中でも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。
【0095】
ポリリン酸アンモニウム類としては、特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、難燃性、安全性、コスト、取扱性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。
【0096】
市販品としては、例えば、クラリアント社製の「商品名:EXOLIT AP422」及び「商品名:EXOLIT AP462」等が挙げられる。
【0097】
前記リン化合物は、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛等の金属炭酸塩と反応して、金属炭酸塩の膨張を促すと考えられ、特に、リン化合物として、ポリリン酸アンモニウムを使用した場合に、高い膨張効果が得られる。
【0098】
また、有効な骨材として働き、燃焼後に形状保持性の高い残渣を形成する。
【0099】
前記窒素化合物としては、特に限定はないが、メラミン系化合物等であれば好ましい。
また前記アルコール類としては、特に限定はないが、ペンタエリスリトール等の多価アルコール等であれば好ましい。
【0100】
本発明に使用する無機充填材が粒状の場合には、その粒径としては、0.5〜200μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは、1〜50μmの範囲のものである。
【0101】
無機充填材の添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため、粒径の小さいものが好ましいが、粒径0.5μm未満では二次凝集が起こり、分散性が悪くなることがある。
【0102】
また、無機充填材の添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることによって樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、上記範囲の中でも粒径の大きいものが好ましい。
【0103】
なお、粒径が200μmを超えると、成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性が低下することがある。
【0104】
前記無機充填材の中でも、特に骨材的役割を果たす炭酸カルシウム、炭酸亜鉛等の金属炭酸塩;骨材的役割の他に加熱時に吸熱効果を付与する水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の含水無機物が好ましい。
【0105】
前記含水無機物及び金属炭酸塩を併用することは、燃焼残渣の強度向上や熱容量増大に大きく寄与すると考えられる。
【0106】
前記無機充填材の中で、特に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる点、及び、燃焼残渣として酸化物が残存し、これが骨材となって働くことで燃焼残渣の強度が向上する点で好ましい。
【0107】
また、水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広くなり、より効果的な温度上昇抑制効果が得られることから、併用することが好ましい。
【0108】
前記含水無機物の粒径は、小さくなると嵩が大きくなって高充填化が困難となるので、脱水効果を高めるために高充填するには粒径の大きなものが好ましい。
【0109】
具体的には、粒径が18μmでは、1.5μmの粒径に比べて充填限界量が約1.5倍程度向上することが知られている。
【0110】
さらに、粒径の大きいものと小さいものとを組み合わせることによって、より高充填化が可能となる。
【0111】
前記含水無機物の市販品としては、例えば、水酸化アルミニウムとして、粒径1μmの「商品名:ハイジライトH−42M」(昭和電工社製)、粒径18μmの「商品名:ハイジライトH−31」(昭和電工社製)等が挙げられる。
【0112】
前記炭酸カルシウムの市販品としては、例えば、粒径1.8μmの「商品名:ホワイトンSB赤」(白石カルシウム社製)、粒径8μmの「商品名:BF300」(備北粉化社製)等が挙げられる。
【0113】
冒頭に説明したとおり、本発明に使用する熱膨張性耐火材としては、上記に説明した熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂成分、前記熱膨張性層状無機物、前記無機充填材等を含む樹脂組成物からなるもの等を挙げることができるが、次にこれらの配合について説明する。
【0114】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂成分100重量部に対し、前記熱膨張性層状無機物を20〜350重量部及び前記無機充填材を50〜400重量部の範囲で含むものが好ましい。
【0115】
また、前記熱膨張性層状無機物および前記無機充填材の合計は、200〜600重量部の範囲が好ましい。
【0116】
かかる樹脂組成物は加熱によって膨張し耐火断熱層を形成する。この配合によれば、前記熱膨張性耐火材は火災等の加熱によって膨張し、必要な体積膨張率を得ることができ、膨張後は所定の断熱性能を有すると共に所定の強度を有する残渣を形成することもでき、安定した防火性能を達成することができる。
【0117】
前記熱膨張性層状無機物の量が20重量部未満であると、膨張倍率が不足し、充分な耐火、防火性能が得られないことがある。
一方、熱膨張性層状無機物の量が350重量部を超えると、擬集力が不足するため、成形品としての強度が得られないことがある。
【0118】
また前記無機充填材の量が50重量部未満であると、燃焼後の残体積量が減少するため、充分な耐火断熱層が得られないことがある。
さらに可燃物の比率が増加するため、難燃性が低下することがある。
【0119】
一方、無機充填材の量が400重量部を超えると樹脂成分の配合比率が減少するため、凝集力が不足して成形品としての強度が得られにくい。
【0120】
前記樹脂組成物における熱膨張性層状無機物及び無機充填材の合計量は、200重量部未満では燃焼後の残渣量が不足して十分な耐火性能が得られにくく、600重量部を超えると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなることがある。
【0121】
さらに本発明に使用する前記樹脂組成物は、それぞれ本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
また本発明に使用する熱膨張性耐火材層の力学的強度向上のためにガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、ステンレス繊維、スラグ繊維等を使用することもできる。
【0122】
次に前記樹脂組成物の製造方法について説明する。
前記樹脂組成物の製造方法に特に限定はないが、例えば、前記樹脂組成物に含まれる前記樹脂分が熱可塑性樹脂である場合は、前記樹脂組成物の各成分を押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー等公知の混練装置に供給して溶融混練する方法や、前記樹脂組成物の各成分を有機溶剤に懸濁さたり、加温して溶融させたりして塗料状にしたり、溶剤に分散してスラリーを調製する等の方法により、前記樹脂組成物を得ることができる。
【0123】
また、前記樹脂組成物に含まれる前記樹脂分が前記エポキシ樹脂である場合は、例えば、前記樹脂組成物を有機溶剤に懸濁させたり、加温して溶融させたりして塗料状とする方法や、溶剤に分散してスラリーを調製する等の方法、また前記樹脂組成物を加熱下に溶融させる等の方法により前記樹脂組成物を得ることができる。
【0124】
前記樹脂組成物は、上記各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、遊星式撹拌機等公知の装置を用いて混練することにより得ることができる。
【0125】
また、エポキシ基をもつモノマーと硬化剤とに別々に充填材を混練しておき、成形直前にスタティックミキサー、ダイナミックミキサー等で混練して得ることもできる。
以上の様に混練した前記樹脂組成物は押出成形、射出成形、鋳型成形、プレス成形等の公知の成形技術により適宜必要な形状に成形することができる。
【0126】
以上説明した方法により、本発明に使用する前記熱膨張性耐火材料を得ることができる。
【0127】
前記熱膨張性耐火材料は市販品として入手可能であり、例えば、住友スリ―エム社製のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーミキュライトを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛を含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)、積水化学工業社製フィブロック(ブチルゴムを含む熱膨張性耐火材)等の熱膨張性耐火材料等も挙げられる。
【0128】
前記熱膨張性耐火材料は、火災時などの高温にさらされた際にその膨張層により断熱し、かつその膨張層の強度があるものであれば特に限定されないが、50kW/mの加熱条件下で30分間加熱した後の体積膨張率が3〜50倍のものであれば好ましい。前記体積膨張率が3倍を下回ると、膨張体積が前記樹脂成分の焼失部分を十分に埋めきれず防火性能が低下することがある。また50倍を超えると、膨張層の強度が下がり、火炎の貫通を防止する効果が低下することがある。より好ましくは、体積膨張率が5〜40倍の範囲であり、さらに好ましくは8〜35倍の範囲である。
【0129】
前記膨張層が自立するためには、前記膨張層は強度の大きいことが必要であり、その強度としては、圧縮試験器にて0.25cmの圧子を用いて、前記膨張層のサンプルを0.1m/sの圧縮速度で測定した場合の破断点応力が0.05kgf/cm以上であれば好ましい。破断点応力が0.05kgf/cmを下回ると、断熱膨張層が自立できなくなり防火性能が低下することがある。より好ましくは、0.1kgf/cm以上である。
【0130】
次に本発明に耐火ダクトの実施態様について実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0131】
図11は、実施例1に使用する金属ダクトを例示した模式要部斜視図である。
実施例1では金属ダクトとして鋼鉄製のスパイラルダクト20が使用されている。このスパイラルダクト20の破線Aにより囲んだ鍔フランジ21を拡大した模式要部断面図が図12である。
図12により例示される様に、前記スパイラルダクト20の鍔フランジ21は鋼鉄板を折り返すことにより形成されている。
【0132】
図13は前記金属ダクトに耐火被覆層が設置された状態を説明するための模式要部断面図である。
厚さが1mmのアルミニウム板22に厚さ3mmの熱膨張性耐火材シート23が積層された積層板24を、前記熱膨張性耐火シート23が前記スパイラルダクト20の外周面側となるように丸めて設置する。
【0133】
粘着テープで前記積層板24を固定した後、タッカー等の固定手段を用いて前記熱膨張性耐火材シート23が前記鍔フランジ21の外周面に接する様に固定する。この施工により実施例1の耐火ダクト300が得られる。
【0134】
前記耐火被覆層25は、前記スパイラルダクト20の外周面と前記熱膨張性耐火材シート23との間に存在する空気からなる熱膨張許容層12、前記熱膨張性耐火材シート23からなる前記熱膨張性耐火材層および前記アルミニウム板22からなる金属層の三層から構成されている。
【0135】
実施例1の耐火ダクトは前記金属ダクトの外周に対して金属板および熱膨張性耐火材シートが積層されてなる積層板を配置することにより得ることができ、簡便に施工することができ、単位時間当たりの生産性に優れる。
また耐火ダクトの外部で火災等が発生した場合には前記熱膨張性耐火材層が膨張して前記熱膨張許容層を閉塞させるため、外部で発生した火災等による炎や煙が前記金属ダクト内部に侵入することを防止することができる。また、膨張した前記熱膨張性耐火材層は脆弱な部分がないため形状保持性に優れる。
【実施例2】
【0136】
図14は、実施例2に使用する金属ダクトを例示した模式要部斜視図である。
実施例2では金属ダクトとして、断面が長方形の鋼鉄製の角形ダクト30が使用されている。
また前記角形ダクト30の内部には鋼鉄製フレーム31が金属製スペーサとして複数挿入されている。
【0137】
図15は、前記金属ダクトに耐火被覆層が設置された状態を説明するための模式要部断面図である。
【0138】
2mmのステンレス板32に厚さ3mmの熱膨張性耐火材シート33が積層された積層板34を、前記鋼製フレーム31に挿入する。
【0139】
必要に応じてタッカー等の固定手段により前記積層板34を固定する。この施工により耐火被覆層35を備えた実施例2の耐火ダクト400が得られる。
【0140】
前記耐火被覆層35は、前記角形ダクト30の内周面と前記熱膨張性耐火材シート33との間に存在する空気からなる熱膨張許容層12、前記熱膨張性耐火材シート33からなる前記熱膨張性耐火材層およびステンレス板32からなる金属層の三層から構成されている。さらには前記熱膨張性耐火材層である前記熱膨張性耐火材シート33は熱膨張性耐火材からなる層36およびアルミラミネートガラスクロス層37を含む。
【0141】
実施例2の耐火ダクトは、前記金属製スペーサを用いて、金属板および熱膨張性耐火材シートを含んでなる積層板を配置することにより得ることができ、簡便に施工することができ、単位時間当たりの生産性に優れる。
【0142】
また耐火ダクトの外部で火災等が発生した場合には前記熱膨張性耐火材層が膨張して前記熱膨張許容層を閉塞させるため、外部で発生した火災等による炎や煙が前記金属ダクト内部に侵入することを防止することができる。また、膨張した前記熱膨張性耐火材層は脆弱な部分がないため形状保持性に優れる。さらには前記金属ダクト内部では前記金属板を越えて前記熱膨張性耐火材層が膨張しないため、前記金属ダクト内部全体が閉塞されることはなく、耐火ダクトの排気機能、換気機能等を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】金属ダクトの外周に接して熱膨張性耐火材層を設けた耐火ダクトの模式断面図である。
【図2】金属ダクトの外周に接して熱膨張性耐火材層を設けた耐火ダクトの模式断面図である。
【図3】本発明に使用する金属ダクトの具体例を例示した模式要部斜視図である。
【図4】本発明に使用する、別の金属ダクトを例示した模式要部斜視図である。
【図5】耐火被覆層と金属ダクトとの関係を説明するための模式要部断面図である。
【図6】耐火被覆層と金属ダクトとの関係を説明するための模式要部断面図である。
【図7】耐火被覆層と金属ダクトとの関係を説明するための模式要部断面図である。
【図8】金属ダクトの外周面に耐火被覆層が設けられた状態を例示した模式部分断面図である。
【図9】金属製スペーサを例示した模式要部斜視図である。
【図10】金属ダクトの内周面に耐火被覆層が設けられた状態を例示した模式部分斜視図である。
【図11】実施例1に使用する金属ダクトを例示した模式要部斜視図である。
【図12】実施例1に使用する金属ダクトの鍔フランジを拡大して例示した模式要部断面図である。
【図13】金属ダクトに耐火被覆層が設置された状態を説明するための模式要部断面図である。
【図14】実施例2に使用する金属ダクトを例示した模式要部斜視図である。
【図15】金属ダクトに耐火被覆層が設置された状態を説明するための模式要部断面図である。
【符号の説明】
【0144】
1、5、6、10 金属ダクト
2、13 熱膨張性耐火材層
3 頂点
4 膨張後の熱膨張性耐火材層
7 金属ダクトユニット
8、21 鍔フランジ
9 ボルト
11 金属ダクトの外周面
12 熱膨張許容層
14 金属層
15 金属ダクトの内周面
16 金属製スペーサ
20 スパイラルダクト
22 アルミニウム板
23、33 熱膨張性耐火材シート
24、34 積層板
30 鋼鉄製の角形ダクト
31 鋼鉄製フレーム
32 ステンレス板
36 熱膨張性耐火材からなる層
37 アルミラミネートガラスクロス層
100、102、300 耐火ダクト
101、103 加熱後の耐火ダクト
25、35、200 耐火被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ダクトの外周面および金属ダクトの内周面の少なくとも一方に耐火被覆層を備えるものであって、
前記耐火被覆層は、熱膨張許容層、熱膨張性耐火材層および金属層の少なくとも三層が、前記金属ダクト側から熱膨張許容層、熱膨張性耐火材層および金属層の順に配置されていることを特徴とする、耐火ダクト。
【請求項2】
前記熱膨張許容層は、空気、不燃性発泡体および無機繊維からなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の耐火ダクト。
【請求項3】
前記熱膨張許容層は、
前記金属ダクトの外周面および金属ダクトの内周面の少なくとも一方と、
前記熱膨張性耐火材層と、
の間に存在する空気からなり、
前記熱膨張性耐火材層は、前記金属ダクトに設置された鍔フランジの外周面および前記金属ダクトに設置された金属製スぺーサの少なくとも一方により保持されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の耐火ダクト。
【請求項4】
前記熱膨張許容層の厚みが、前記金属ダクトの外周面と前記熱膨張性耐火材層との距離、または前記金属ダクトの内周面と前記熱膨張性耐火材層との距離を基準として、1〜15mmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の耐火ダクト。
【請求項5】
前記熱膨張性耐火材層は、熱膨張性層状無機物およびリン化合物の少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の耐火ダクト。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−249976(P2009−249976A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101957(P2008−101957)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】