説明

耐炎化繊維束、および、炭素繊維の製造方法

【課題】炭素繊維束の製造方法において、単繊維の構造的欠陥が少ない炭素繊維束を提供することが可能な耐炎化繊維束を製造する製造方法を得ること。また、炭素繊維束の生産時の強度安定化、特に生産スタート時強度安定化を図ることができる炭素繊維束の製造方法を提供すること。
【解決手段】糸条繊度100〜30000dtex、フィラメント数500〜70000のポリアクリロニトリル系繊維束を、酸化性気体を循環する熱処理炉内で酸化性雰囲気下で200〜300℃で加熱する耐炎化繊維束の製造方法であって、前記熱処理炉内及び/または前記熱処理炉の循環ダクト部に体積基準で97〜100%が粒径2mm〜80mmであるセラミック粒又は金属粒の集合体をその内部に充填した濾材ユニットを有する濾過装置が設置され、該濾過装置を通して酸化性気体を循環させる耐炎化繊維束の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維製造方法において強度が安定した炭素繊維を与える耐炎化繊維を製造可能な、耐炎化繊維の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維束を構成する単繊維の構造的欠陥が少ない炭素繊維を補強材として用いれば、力学的性質の優れたコンポジットが得られることが知られている。このような、単繊維の構造的欠陥が少ない炭素繊維束を提供するために、様々な技術開発が行われている。
【0003】
かかる技術の一つとして、炭素繊維製造の工程で用いられる耐炎化炉において、酸化性気体中に含まれる粉塵等を除去することにより、最終的に単繊維の構造的欠陥が少ない炭素繊維束を提供することが提案されている。例えば、目びらき1μm以下の焼結金属フィルターを用いて耐炎化炉に送風する空気をろ過し、清浄化する方法が提案されている(例えば 特許文献1)。しかしながら、本方法では、ホコリ収集による圧損が増えて耐炎化炉内の循環風速変動が起こりうるため条件のコントロールが容易ではない。また燒結金属フィルターは、熱により変形する可能性が高く、変形により目びらきが変化するため、メンテナンスが煩雑となる。
【0004】
また、同目的の別の技術として、ストランド由来のケバや粉末等の異物が蓄積し、耐炎化繊維を汚染するようになることを防ぐため、熱風循環路42内に金網等の異物除去手段を設けることが考えられる。炭素繊維製造の工程で用いられる耐炎化炉において熱風循環炉内風量を熱風風速センサーで検出し、前記検出信号の値を基準にして制御部で熱風循環手段の出力制御信号に転換し、出力制御信号で熱風循環手段の出力を制御して熱風循環手段の送風量を一定に保ち、また金網、パンチングプレート等の多孔質板などを用いて炉内異物を除去する方法が提案されている(例えば 特許文献2)。しかしながら、熱風循環送風量を一定に保つために熱風循環手段であるファンの出力を制御する方法は、金網部又はパンチングプレートが詰まることにより極端に圧損が発生したときに、ファンの回転数を制御して風速一定に保つことは現実的には難しいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−220821号公報
【特許文献2】特開2006−57222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の課題は、従来技術の上述した問題点を解決し、炭素繊維束の製造方法において、耐炎化炉内に異物が発生または混入したとしても効率的に除去することができ、上記背景技術に述べた問題も生じない製造方法を得ることを目的とする。かかる製造方法によれば、たとえ耐炎化炉内に異物が発生または混入したとしても、単繊維の構造的欠陥が少ない炭素繊維束を提供することが可能となることが期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1) 糸条繊度1000〜30000dtex、フィラメント数500〜70000のポリアクリロニトリル系繊維束を、酸化性気体を循環する熱処理炉内で酸化性雰囲気下で200〜300℃で加熱する耐炎化繊維束の製造方法であって、前記熱処理炉内(前記の、酸化性雰囲気下で200〜300℃で加熱することで耐炎化繊維束を得る熱処理炉のことを耐炎化炉とも記す。以下同じ)及び/または前記熱処理炉の循環ダクト部に体積基準で97〜100%が粒径2mm〜80mmであるセラミック粒又は金属粒の集合体をその内部に充填した濾材ユニットを有する濾過装置が設置され、該濾過装置を通して酸化性気体を循環させる耐炎化繊維束の製造方法。
【0008】
(2) 前記濾材ユニットの内部に充填された前記集合体がアルミナ、鉄、アルミニウム、及び、ステンレスからなる群より選ばれる少なくとも1種の材質から形成された前記(1)に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【0009】
(3) 前記濾材ユニットの内部に充填された前記集合体の総表面積が、前記熱処理炉の酸化性気体の流れの方向に直交する断面積の7〜600倍である前記(1)または(2)に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【0010】
(4) 前記濾材ユニットを前記酸化性気体が通過するのに要する時間が0.15〜
1.0秒である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【0011】
(5) 前記熱処理炉の酸化性気体の流れの方向に直交する断面の各位置における前記酸化性気体の風速のばらつきが、その平均に対し±20%以内である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【0012】
(6) 前記循環ダクト内に、前記濾過装置の上流側となる位置にヒーターが設置されている前記(1)〜(5)のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【0013】
(7) 前記循環ダクトにバイパスラインが設けられており、そのバイパスラインに濾過装置と循環ファンが設けられていることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【0014】
(8) 前記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法で得られた耐炎化繊維束を、不活性雰囲気下300〜3000℃で焼成する炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、直径2〜50mmのセラミック又は金属の集合体をその内部に充填した濾過装置を用いて耐炎化炉内の粉塵を連続的に除去することにより、単繊維の構造的欠陥が少ない炭素繊維束を提供することが可能な耐炎化繊維束を得ることができ、たとえ耐炎化炉内に異物が発生または混入したとしても、炭素繊維束の強度を低下を抑制し安定して維持することができる。また、該製造方法を適用することにより、耐炎化炉内の風速を一定に保つことができ、防災面においても問題を起こすことなく生産することができる。
【0016】
また、このような異物の混入可能性が比較的高い、炭素繊維束の生産スタート時に、本発明を適用することにより強度安定化が短時間で図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明で用いられる耐炎化炉の一例を示す概略摸式図である。
【図2】本発明で用いられる濾材ユニットの一例を示す概略摸式図である。
【図3】本発明で用いられる耐炎化炉の他の一例を示す概略摸式図である。
【図4】本発明で用いられる耐炎化炉の他の一例を示す概略摸式図である。
【図5】比較例で用いられる耐炎化炉の一例を示す概略摸式図である。
【図6】比較例で用いられる耐炎化炉の一例を示す概略摸式図である。
【図7】比較例で用いられるフィルターの一例を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、ポリアクリロニトリル系繊維束を、酸化性気体を循環する熱処理炉内で酸化性雰囲気下で、複数本所定の間隔をおいて併走させ、熱処理を行い耐炎化繊維束を製造する。本発明が対象とするポリアクリロニトリル系繊維束1本の糸条の繊度は1000〜30000dtexである。1000dtex未満では本発明を適用しても強度改善が難しく、また、30000dtexを越えると、糸通過量が多いことから熱処理炉内粉塵発生量が増えることにより、生産中セラミック粒又は金属粒の集合体において粉塵が詰まることにより、粉塵除去などのメンテナンスを頻繁に実施する必要がある。好ましくは1500〜20000dtexであることが好ましい。なお、ポリアクリロニトリル系繊維束の糸条の繊度は、糸条が弛まないようにしながらN数5で糸長10mをサンプリングして採取した糸条重量の1mあたりの平均値を示す。
【0019】
また、本発明に用いるポリアクリロニトリル系繊維束は、1本の糸条のフィラメント数500〜70000である。フィラメント数が500未満ではフィラメント数が少なく、欠陥のある単糸の割合が増える可能性があるため、本発明を適用しても強度改善が難しく、また70000より多くなると、熱処理炉内粉塵発生量が増えることにより、生産中セラミック粒又は金属粒の集合体において粉塵が詰まることにより、粉塵除去などのメンテナンスを頻繁に実施する必要が生じるためである。フィラメント数が1000〜60000本であることがより好ましい。
【0020】
本発明の耐炎化繊維束の製造方法において同時に処理されるポリアクリロニトリル系繊維束の糸条の本数については特に限定されるものではないが、10〜2000本であることが望ましい。10本未満の場合、原糸起因で生成する粉塵量が少ないため、本願を適用するまでもなく、また2000本を越えると逆に粉塵量が多くなることにより、濾過装置への目詰まりが顕著となりプロセスが安定しない場合がある。かかる点から、より好ましくは20〜1500本である。
【0021】
本発明の耐炎化繊維束の製造方法において糸条の走行速度は、特に限定されるものではないが、0.5〜40m/分であることが望ましい。0.5m/分より遅いと耐炎化炉内を通過する時間が長くなることにより、本発明を適用したとしても炉内に舞っている微量の粉塵が走行糸に付着して、ローラーなどの圧着により走行糸に欠陥をつくり強度低下する場合があり、また、40m/分より速ければ、糸切れ処置に対応することが困難な場合があり、生産管理の難易度が高くなることから好ましくない。かかる観点から、1.0〜30m/分であれば、より好ましい。
【0022】
本発明の耐炎化繊維束の製造方法において熱処理炉の処理温度は200〜300℃である。200℃未満では熱処理が不十分なため高温炉にて糸切れが発生し、300℃を越えると走行糸が蓄熱して暴走反応を起こし火災発生するためである。好ましくは220〜290℃である。
【0023】
本発明の耐炎化繊維束の製造方法に適用する熱処理炉及び熱処理炉の循環ダクト部の材質は上記処理温度に耐えられるものであれば、特に限定されるものではないが、金属粉塵を発生し難いことからステンレス鋼(SUS)が望ましい。
【0024】
本発明の耐炎化繊維束の製造方法では、前記熱処理炉内及び/または前記熱処理炉の循環ダクト部に濾過装置が設置され、該濾過装置を通して酸化性気体を循環させる。該濾過装置内の濾材ユニットには、粒径の範囲が2mm〜80mmの大きさのセラミック粒又は金属粒の集合体がその内部に全粒子中の体積基準で97〜100%の割合で充填されている。セラミック粒又は金属粒の形状としては、空隙を確保する点から球であることが好ましい。粒径が2mmより小さい粒子が、全粒子中で体積基準で3%を超えると、熱処理炉内粉塵が集合体に堆積した際圧損を受けやすく風速が下がり防災上危険になる。また、粒径が80mmより大きい粒子が、全粒子中で体積基準で3%を超えると、炉内粉塵を捕集しにくく、濾過効果が発揮できない。粒径のより好ましい範囲は3mm〜30mmである。また、該範囲であれば粒径の異なった集合体を混合しても構わない。なお、ここでいう粒径とは、(i) 体積同等球の直径を代表径とし、(ii) 個別粒子の径を表すものとする。
【0025】
前記濾材ユニットに充填されたセラミック粒又は金属粒の集合体がアルミナや鉄、アルミニウム、ステンレス等耐熱性に優れた物質が好ましく用いることができるが、腐食に強いという観点からステンレスが、好ましく、粉塵の主成分であるシリカの捕集だけでなくシリカ発生源となるシリコンを吸着して粉塵発生を抑えることができるという観点ではシリコン吸着に優れたアルミナを用いるのが好ましい。尚、濾材ユニット以外にシリコン吸着を目的としてハニカム状、発泡状、パウダー状、フィルター状のアルミナおよび/またはセラミックを熱処理炉内に設置することも好ましい。
【0026】
前記濾材ユニットの内部に充填されたセラミック粒又は金属粒の集合体の表面積が、前記熱処理炉の酸化性気体の流れの方向に直交する断面積の7〜600倍であることが望ましい。7倍を下回ると十分粉塵が取れないため効果を発揮しない場合がある。逆に600倍を越えると圧損を受けやすく熱処理炉内風速が下がり防災上危険である場合がある。より好ましくは10〜350倍である。ここでセラミック粒又は金属粒の集合体の表面積の測定方法は、球状の粒集合体の中からランダムサンプリングして得られた100個を1つ1つ直径を測定して球体の表面積として計算し、その平均値を粒径全体の表面積代表値とした。尚、濾材ユニットの形状や取り付け方法については、風向きに対して充填されたセラミック粒又は金属粒の集合体の表面積を大きく設置することにより、粉塵を効率良く捕集できる構造であれば、円柱形、直方体又はその集合体等、特に限定するものでないが、例えば、図2のように長さ1000mm、幅200mmの直方体の濾材ユニットを、熱処理炉内風速に対し45°の角度に傾けた状態で設置して、熱処理炉内の粉塵を捕集する態様が、好ましい方法として挙げられる。
【0027】
本発明の耐炎化繊維束の製造方法において、熱処理炉内の酸化性気体が濾材ユニット内のセラミック粒又は金属粒の集合体と接触する時間は0.15秒以上であることが好ましい。これは0.15秒未満であると粉塵の捕集効率が下がり、熱処理炉内を循環する酸化性気体内の粉塵を十分に捕集することができない場合があるためであり、設備サイズと分解効率の上限を考慮して、酸化性気体と濾材ユニット内のセラミック粒又は金属粒の集合体との接触時間は1.0秒以下が好ましい。ここで濾材ユニット内のセラミック粒又は金属粒の集合体と酸化性気体との接触時間とは、濾材ユニット内のセラミック粒又は金属粒の集合体の充填体積すなわち内部空隙部を含んだ見かけの体積[m3]を酸化性気体の流量[Nm3/秒]で割った値のことである。
【0028】
本発明の耐炎化繊維束の製造方法に用いられる熱処理炉において、前記熱処理炉の酸化性気体の流れの方向に直交する断面の各位置における前記酸化性気体の風速のばらつきが、その平均に対し±20%以内となるよう風速を制御することが好ましい。風速斑が±20%を越えると、風速斑により濾過装置の局所部分において粉塵を捕集することになり圧損を受けやすくなる恐れがある。風速斑を改善するために整流板を熱処理炉内へ設置する方法が考えられるが、整流板の形状は濾過装置を設置する位置に応じて形状を設定すれば良く、濾過装置の手前での各地点風速が均一になるように、風速の高い地点に整流板を入れるように設計すれば形状等は特に限定されるものではない。例えば、図1のように斜線部濾過装置の上流側に整流板を設置して、機幅方向の風速斑を一定になるように設置するのが好ましい。
【0029】
循環ダクト内に濾過装置を設置するときは、粉塵の発生源であるヒーターの下流側に濾過装置を設置することが好ましく、ヒーター部で発生した粉塵を濾過装置で捕集することができる。
【0030】
本発明の耐炎化繊維束の製造方法に用いられる熱処理炉において、熱処理炉内の粉塵を長期間に渡って捕集するために、前記循環ダクトにバイパスラインが設け、そのバイパスラインに濾過装置と循環ファンを設けることもまた、好ましい。かかる場合、圧損による風速変化を受けにくくするため、バイパスラインの分岐部分に圧力を調整できるダンパーを設けて、圧力を一定に管理するのが好ましい。
【0031】
本発明の耐炎化繊維束の製造方法で得られた耐炎化繊維束を、不活性雰囲気下で300〜3000℃の範囲で焼成して炭素繊維の製造することができる。このとき、上記温度において、2つの工程または3つの工程に分けて焼成することが好ましい。例えば、3つの工程に分けて焼成する場合、300〜1000℃の不活性雰囲気中で焼成する工程と、1000℃〜2000℃の不活性雰囲気中で焼成する工程と、2000〜3000℃の不活性雰囲気中で焼成する工程の3つに分けて焼成する。2つの工程に分けて焼成する場合は、前記の300〜1000℃の不活性雰囲気中で焼成する工程と、1000℃〜2000℃の不活性雰囲気中で焼成する工程を行う。前記2つの工程、3つの工程のいずれを適用するかは、炭素繊維の要求特性によって選択される。これらの2つないし3つの工程を担う装置を炭素化炉と呼ぶが、炭素化炉は、不活性雰囲気中で熱処理する熱処理室と、該熱処理室前後の入口部および出口部に、前記熱処理室の不活性雰囲気を保つためのシール室を具備する。かかるシール室と熱処理室とを備えた炭素化炉によって耐炎化繊維束の炭素化処理を連続的に行い、炭素繊維束の連続生産を可能にしている。炭素化炉で焼成した後薬液中での通電処理、および/または、樹脂によるサイジング処理を行うことで炭素繊維束が得られる。
【実施例】
【0032】
以下に示す実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。本実施例では、炭素繊維の前駆体繊維であるポリアクリロニトリル系繊維束(単繊維繊度:1.1dtex、単繊維数:12,000本を20本併走させた。機幅0.5m、長さ3mで耐炎化ローラー段数を4段とした以外は図1に示されるのと同様の、炉外ローラー耐炎化炉を用い、炉内温度250℃で酸化処理を行い耐炎化繊維束を製造した。耐炎化炉内平均風速が1.0m/secになるように設定し、酸化処理時間はトータル60分とした。また、耐炎化炉内に強制的にホコリを飛散させるため、実施例毎に東ソー(株)製のシリカ型式VN3を100g耐炎化炉内に入れて循環させた。尚、実施例が終了する毎に耐炎化炉内をイオン交換水で洗浄してシリカを排出した。得られた耐炎化繊維はその後前炭化炉において最高700℃で焼成した後、炭化炉において最高1400℃で焼成した。その後、希硫酸にて通電処理し、サイジング処理後に乾燥し巻き上げて炭素繊維パッケージとした。該炭素繊維は耐炎化炉内でシリカを循環開始してから5時間後に耐炎化炉を通過した走行糸を用いてストランド引張強度を測定した。尚、ストランド引張強度とは次のようにして測定したものである。ERL4221(ダウケミカル日本(株)製)/三フッ化ホウ素モノエチルアミン(BF3 ・MEA)/アセトン=100/3/4部からなる樹脂を炭素繊維束に含浸し、得られた樹脂含浸ストランドを130℃で30分間加熱して硬化させた後、JIS R 7608(2007)に規定する樹脂含浸ストランド試験法に従って測定した。また、耐炎化炉内で前記シリカを循環開始してから5時間後の耐炎化炉内のホコリ数をモニタリングするために静電容量タイプパーティクルカウンター(関西オートメーション株式会社製型式DT270)を用いた。
(実施例1)
図1に示す通り、耐炎化炉1の循環ダクト2のヒーター3の下流側に図2に示すような厚み200mm、長さ1000mm、角度45°のV字型を組み合わせた形状の濾材ユニットを設置して、濾材ユニットの中に粒径5mmのアルミナの集合体を入れた。集合体の表面積は酸化性気体の流れの方向に直交する断面積の100倍であり、濾材ユニットを酸化性気体が通過するのに要する時間は0.2秒である。循環ダクトを作動させながらポリアクリロニトリル繊維の酸化処理を実施した。その後、上記記載のとおり前炭化処理、炭化処理を実施した。このときの炭素繊維のストランド物性評価結果及び耐炎化炉内のホコリ量を表1に示す。
(実施例2)
図3に示す通り、耐炎化炉1の下部に図2で示したV字型を組み合わせた形状の濾材ユニットを設置して、濾材ユニットの中に直径5mmのアルミナの集合体を入れた。集合体の表面積は酸化性気体の流れの方向に直交する断面積の100倍であり、濾材ユニットの酸化性気体が通過するのに要する時間は1.0秒である。循環ダクトを作動させながらポリアクリロニトリル繊維の酸化処理を行った。このときの炭素繊維のストランド物性評価結果および耐炎化炉内のホコリ量を表1に示す。
(実施例3)
図4に示すとおり、耐炎化炉1の循環ダクト2のヒーター3の下流側および耐炎化炉1の下部に図2に示すような厚み200mm、長さ1000mm、角度45°のV字型を組み合わせた形状の濾材ユニットを設置して、濾材ユニットの中に直径5mmのアルミナの集合体を入れた。尚、耐炎化炉1の酸化性気体の流れの方向に直交する断面の各位置における前記酸化性気体の風速ばらつきが、ダクト部についてはその平均に対し最大で±5%、耐炎化炉内については、その平均に対し最大で±20%であった。また、集合体の表面積は酸化性気体の流れの方向に直交する断面積の100倍であり、濾材ユニットの酸化性気体が通過するのに要する時間はダクト部に設置した濾過装置においては0.2秒、耐炎化炉に設置した濾過装置においては1.0秒である。循環ダクトを作動させながらポリアクリロニトリル繊維の酸化処理を行った。このときの炭素繊維のストランド物性評価結果および耐炎化炉内のホコリ量を表1に示す。
(比較例1)
図5に示す通り、耐炎化炉1に図2に示すような濾材ユニットを有する濾過装置を設置せずに循環ダクトを作動させながらポリアクリロニトリル繊維の酸化処理を実施した。その後、上記記載のとおり前炭化処理、炭化処理を実施した。このときの炭素繊維のストランド物性評価結果および耐炎化炉内のホコリ量を表1に示す。
(比較例2)
図6に示す通り、耐炎化炉1に図7に示すような目開き1μmを有する金属製フィルターを耐炎化炉ダクト部に設置して循環ダクトを作動させながらポリアクリロニトリル繊維の酸化処理を実施した。その後、上記記載のとおり前炭化処理、炭化処理を実施した。しかしながら、フィルター部での詰まりにより、耐炎化炉内平均風速が0.5m/secを下回ったため、防災上危険であり試験を中止した。
(参考例)
強制的にシリカを耐炎化炉内へ投入しない他は、比較例1と同じ条件で、前炭化処理、炭化処理を実施した。炭化処理を開始してから5時間後に、炭素繊維をサンプリングし、ストランド物性評価結果および耐炎化炉内のホコリ量を表1に示す。なお、サンプリングのタイミングの炭化処理を開始してから5時間後は、運転が安定した時点である。
【0033】
【表1】

【0034】
本発明の炭素繊維束の製造方法を適用すれば、生産スタート時に耐炎化炉または/およびダクト内に集塵機を設置して耐炎化炉内のホコリを連続的に除去することにより、走行糸への粉塵付着を抑えることができ、高温炉において粉塵起因の欠陥ができなくなり安定した強度を維持することができる。また、同時に粉塵成分の大部分を占めるSiOを除去することにより、大気に排出するSiOを大幅に削減することができ、環境対策の面からも非常に有効である。
【符号の説明】
【0035】
1:耐炎化炉
2:循環ダクト
3:ヒーター
4:濾過装置
5:循環ファン
6:排気ライン
7:新鮮給気ライン
8:走行糸
9:粒状のアルミナ
10:目開き1μmを有する金属製フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条繊度1000〜30000dtex、フィラメント数500〜70000のポリアクリロニトリル系繊維束を、酸化性気体を循環する熱処理炉内で酸化性雰囲気下で200〜300℃で加熱する耐炎化繊維束の製造方法であって、前記熱処理炉内及び/または前記熱処理炉の循環ダクト部に体積基準で97〜100%が粒径2mm〜80mmであるセラミック粒又は金属粒の集合体をその内部に充填した濾材ユニットを有する濾過装置が設置され、該濾過装置を通して酸化性気体を循環させる耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項2】
前記濾材ユニットの内部に充填された前記集合体がアルミナ、鉄、アルミニウム、及び、ステンレスからなる群より選ばれる少なくとも1種の材質から形成された請求項1に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項3】
前記濾過装置の濾材ユニット内部に充填された前記集合体の総表面積が、前記熱処理炉の酸化性気体の流れの方向に直交する断面積の7〜600倍である請求項1または2に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項4】
前記濾材ユニットを前記酸化性気体が通過するのに要する時間が0.15〜1.0秒である請求項1〜3のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理炉の酸化性気体の流れの方向に直交する断面の各位置における前記酸化性気体の風速のばらつきが、その平均に対し±20%以内である請求項1〜4のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項6】
前記循環ダクト内に、前記濾過装置の上流側となる位置にヒーターが設置されている請求項1〜5のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項7】
前記循環ダクトにバイパスラインが設けられており、そのバイパスラインに濾過装置と循環ファンが設けられている請求項1〜6のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法で得られた耐炎化繊維束を、不活性雰囲気下300〜3000℃で焼成する炭素繊維の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−222723(P2010−222723A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69580(P2009−69580)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】