説明

耐熱テープ用ポリエステルフィルム

【課題】ロールツーロール製造工程で優れた寸法安定性を有するとともに、ロールツーロール法で得られたフィルムを例えばコンデンサ製造工程で実装やマスキングを行う際の耐熱テープとして使用する場合にも高い寸法安定性を有する、高精度加工に適した耐熱テープ基材フィルムを提供する。
【解決手段】ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなる二軸配向フィルムであって、フィルムを200℃で10分間処理した際のフィルム長手方向の熱収縮率が1.2%以上3.0%以下、幅方向の熱収縮率が0.1%以上1.5%以下であり、かつ該フィルムの長手方向のヤング率が6500MPa以上およびフィルム密度が1.3580以上である耐熱テープ用ポリエステルフィルムにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなる耐熱テープ用ポリエステルフィルムに関し、さらに詳しくは、ロールツーロール法によって製造される耐熱テープの基板に適したポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年電子部品やコンデンサなど製造時に耐熱テープが使用されている。例えば、電子部品の小型化および複合化に伴い、小さな実装面積により多くの構成部品をコンパクトにかつ位置ずれすることなく実装することが要求されており、加熱による実装部品の位置ずれおよび実装不良を防ぐために耐熱テープが使用される。
【0003】
また耐熱テープの具体的使途として、コンデンサ製造時のマスキングテープ用などにも使用されており、例えば特許文献1にはコンデンサ製造用マスキングテープ基材として、ポリエステルフィルムが開示されている。また特許文献2の従来技術の説明において、パターン状の蒸着膜を基材に形成する際、テープをマスキング材として非蒸着部と蒸着部を同時に形成させるコンデンサ用金属フィルム製造方法が開示されている。しかしながら、テープをマスキング材として用いる方法において、テープが金属蒸気に繰り返し曝されるため蒸着作業中に寸法変化を生じやすく、耐熱テープを使用しても蒸着作業中に寸法変化が生じ、テープの寸法変化に伴い非蒸着部が乱れやすいことが指摘されている。
【0004】
フィルムを基材とするこれら耐熱テープの製造方法として、ロールツーロール法を用い、200℃前後の加工温度でフィルム基材に粘着加工処理などを施して製造されることがある。ロールツーロール法を用いたフィルム基材の製造方法はすでに公知であり、例えば特許文献3においてロールツーロール法に適した太陽電池基板用ポリエステルフィルムが開示されている。
【0005】
しかしながら、従来のロールツーロール法に適したフィルムとして重視されてきたのはロールツーロール工程時の耐熱寸法安定性についてだけであり、かかるフィルムを用いてさらに高温加工を行う用途、例えば耐熱テープとしてコンデンサ製造工程で用いた場合、耐熱テープの寸法変化が大きく、実装時の位置ずれなどにつながりやすいことが指摘されている。
【0006】
そこで、ロールツーロール製造工程で優れた寸法安定性を有するとともに、ロールツーロール法で得られたフィルムを実装やマスキング時の耐熱テープとして使用する際においても高い寸法安定性を発現できる耐熱テープ基材フィルムが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−79832号公報
【特許文献2】特開平6−136513号公報
【特許文献3】特開2007−273716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解決し、ロールツーロール製造工程で優れた寸法安定性を有するとともに、ロールツーロール法で得られたフィルムを例えばコンデンサ製造工程で実装やマスキングを行う際の耐熱テープとして使用する場合にも高い寸法安定性を有する、高精度加工に適した耐熱テープ基材フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステルフィルムはロールツーロール加工時にフィルム長手方向にかかる張力に対してフィルムが伸長しやすいこと、一方、その後実装やマスキングなどを行う際にはほとんど張力がかからないため、フィルムが熱収縮しやすくなる知見を得た。そして、高温・高張力に対する寸法安定性と、その後の高温・低張力に対する寸法安定性とを両立させる方法として、ロールツーロール加工時にはフィルム長手方向のヤング率が高く200℃での熱収縮率が大きいほど加工張力による寸法変化を低減できること、その後の実装やマスキングなどの加工工程での寸法変化を低減するためには、ロールツーロール加工時が可能な範囲内で熱収縮率を小さくするとともにフィルム密度を高めて十分結晶化させることにより、本発明の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなる二軸配向フィルムであって、フィルムを200℃で10分間処理した際のフィルム長手方向の熱収縮率が1.2%以上3.0%以下、幅方向の熱収縮率が0.1%以上1.5%以下であり、かつ該フィルムの長手方向のヤング率が6500MPa以上およびフィルム密度が1.3580g/cm3以上である耐熱テープ用ポリエステルフィルムによって達成される。
【0011】
また本発明の耐熱テープ用ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、フィルム長手方向について下記式(1)で表わされるフィルム長手方向の寸法変化率Pが3%以上6%以下であること、
寸法変化率P=((LA−LB)/Lo)×100 ・・・(1)
(式中、LoはTMA測定前の初期寸法、LAは600mN/mm2荷重をかけた状態で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重をかけた状態で室温冷却した後の寸法、LBは600mN/mm2荷重をかけた状態で昇温、冷却したサンプルを用いて再度40mN/mm2荷重下で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重下で室温冷却した後の寸法、をそれぞれ表わす)
耐熱テープがロールツーロール法によって製造される耐熱テープであること、耐熱テープがコンデンサ製造工程部材用であること、の少なくともいずれか1つを具備するものを包含する。
【0012】
また本発明は、本発明の耐熱テープ用ポリエステルフィルムを基板とする耐熱テープを包含するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の耐熱テープ用ポリエステルフィルムはロールツーロール法を用いて製造される耐熱テープの基板フィルムに適しており、本発明の耐熱テープ用ポリエステルフィルムを使用してロールツーロール法により製造される耐熱テープは、例えばコンデンサ製造工程で実装やマスキングなどの耐熱テープとして使用するに際して高い寸法安定性を発現でき、精度の高い加工を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエステル>
本発明のポリエステルフィルムは、主たる成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである。かかるポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される。「主たる成分」とは、フィルムの重量を基準として90重量%以上、好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは97重量%以上、特に好ましくは99重量%以上であることを意味する。ナフタレンジカルボン酸は、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができ、これらの中で2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは単独重合体、第三成分を共重合した共重合体のいずれでもよい。
【0015】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが共重合体の場合、共重合成分として分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができる。このような化合物として例えば、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分を用いることができる。これらの共重合成分は1種であっても、2種以上を併用してもよい。
かかる共重合成分はポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを構成する全繰返し単位の10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは3モル%以下である。
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、単独重合体であることが特に好ましい。
【0016】
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、一般に知られたポリエステルの製造方法によって製造できる。例えば、ジオールとジカルボン酸および必要に応じて共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造することができる。また、これらの原料モノマーの誘導体をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造してもよい。
【0017】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度は0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.90dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が0.40dl/g未満の場合、フィルム製膜工程や耐熱テープの製造工程でフィルム切断が多発することがある。一方固有粘度が0.90dl/gを超える場合、溶融粘度が高いため溶融押出が困難であるうえ、重合に長時間を要し生産性が悪くなることがある。なお、固有粘度はo−クロロフェノールを溶媒として用いて、35℃で測定した値(単位:dl/g)である。
【0018】
<その他成分>
本発明のポリエステルフィルムは、本発明の寸法安定性を損なわない範囲内で少量のその他樹脂、粒子などを含んでもよい。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート以外の成分の含有量は、フィルムの重量を基準として好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、特に好ましくは3重量%以下、最も好ましくは1重量%以下の範囲内である。なお、透明性が求められる場合には粒子は含まないことが好ましい。粒子の種類は特に特定されず、例えば炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、シリカ、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子が挙げられる。
【0019】
<熱収縮率>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、200℃の温度で10分間加熱処理したときのフィルム長手方向の熱収縮率が1.2%以上3.0%以下であることが必要である。ここで本発明の熱収縮率は、フィルムに30cm間隔で標点をつけ、荷重をかけずに200℃のオーブンで10分間熱処理を実施し、熱処理後の標点間隔を測定して下記式(2)にて算出した値で表わされる。
熱収縮率(%)=((T0−T1)/T0)×100 ・・・(2)
(式中、T0は熱処理前の標点間距離、T1は熱処理後の標点間距離をそれぞれ表わす)
【0020】
フィルム長手方向の熱収縮率の上限値は2.8%であることが好ましく、2.6%であることがさらに好ましい。またフィルム長手方向の熱収縮率の下限値は2.0%であることが好ましく、2.2%であることがさらに好ましい。
フィルム長手方向の熱収縮率が1.2%に満たない場合、ロールツーロール加工時にかかる高温度・高張力によりフィルムが伸長してしまい、フィルム厚みムラが生じる。またフィルム長手方向の熱収縮率が1.2%以上であっても2.0%未満の場合は、フィルム厚みムラは低減するもののポリエステルフィルム上に粘着加工など施す際、依然として一定の範囲でフィルムが伸びて粘着剤が均一に塗れないことがあり、得られた耐熱テープをコンデンサ製造工程などで使用した後、耐熱テープを剥離する際に剥離むらが生じることがある。一方、フィルム長手方向の熱収縮率が上限値を超える場合、ロールツーロール工程時の問題はないものの、コンデンサ製造工程などでの熱収縮が大きく、十分な耐熱寸法安定性が発現しない。
【0021】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、200℃の温度で10分間加熱処理したときのフィルム幅方向の熱収縮率が0.1%以上1.5%以下であることが必要である。フィルム幅方向の熱収縮率の上限値は1.2%であることが好ましく、1.0%であることがさらに好ましい。またフィルム幅方向の熱収縮率の下限値は0.2%であることが好ましく、0.3%であることがさらに好ましい。
【0022】
フィルム幅方向の熱収縮率が上限値を超える場合、ロールツーロール法を用いた200℃前後での加工工程でフィルムが幅方向において収縮してしまい、粘着剤の塗布が均一でなくなったり、シワが寄ることがあり、十分な機能を発揮できなくなる。フィルム幅方向の熱収縮率は、かかる範囲内においてより小さい方が好ましい。一方、フィルム幅方向の熱収縮率が下限値に満たない場合、フィルム長手方向との熱収縮率差が大きすぎてしわやたるみがはいりやすくなる。
【0023】
かかる熱収縮率を達成する方法として、長手方向の熱収縮率は長手方向に3.8〜4.8倍、好ましくは4.2〜4.8倍の延伸倍率で延伸を行い、235〜250℃、好ましくは240を超え250℃以下で熱固定を行うことによって達成される。さらに長手方向の熱収縮率を2.0%以上3.0%以下にするためには、上述の延伸、熱固定処理の後、縦方向には熱弛緩処理を施さないことによって達成される。
また幅方向の熱収縮率は、幅方向に4.0〜4.5倍、好ましくは4.2〜4.4倍の延伸倍率で延伸を行い、235〜250℃、好ましくは240〜250℃で熱固定を行った後、さらに0.5〜2%の範囲で幅方向に弛緩処理(トーイン)を行うことによって達成される。幅方向の延伸倍率が高い場合はトーインを大きくすることが好ましい。
【0024】
<ヤング率>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム長手方向のヤング率が6500MPa以上であることが必要である。フィルムの長手方向のヤング率は6700MPa以上であることが好ましく、7000MPa以上であることがさらに好ましい。なおヤング率の上限はフィルム長手方向の熱収縮率との関係で7500MPa以下であることが好ましい。
【0025】
フィルム長手方向のヤング率が下限値に満たない場合、フィルム長手方向の熱収縮率特性を満たしていても、ロールツーロール加工工程における高張力により高温で変形してフィルムが伸びてしまい、耐熱テープにしわが発生したり、耐熱テープの熱収縮率が大きくなる。
フィルム長手方向のヤング率特性を達成する方法として、フィルム長手方向に4.2〜4.8倍の延伸倍率で延伸を行うことによって達成される。
【0026】
<密度>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのフィルム密度は1.3580g/cm3以上であることが必要である。フィルム密度は1.3585g/cm3以上であることが好ましい。かかるフィルム密度が下限値に満たない場合は、ロールツーロール加工で得られたフィルムをコンデンサ製造工程などといった工程で使用した際の熱収縮が大きく、高精度な加工を施すことが困難である。
フィルム密度をかかる範囲にするためには、240℃を超え250℃以下の温度範囲で熱固定を施す方法が挙げられる。
【0027】
<寸法変化率>
(寸法変化率R)
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム長手方向について下記式(3)で表わされるフィルム長手方向の寸法変化率Rが2%以上6%以下であることが好ましい。かかる寸法変化率Rは2%以上5%以下であることがより好ましく、3%以上5%以下であることがさらに好ましい。
寸法変化率R=((LA−Lo)/Lo)×100 ・・・(3)
(式中、LoはTMA測定前の初期寸法、LAは600mN/mm2荷重をかけた状態で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重をかけた状態で室温冷却した後の寸法、をそれぞれ表わす)
【0028】
本発明のTMA測定は、セイコーインスツルメンツ(株)製のTMA/SS120Cを用いて測定を行ったものである。かかる寸法変化率Rは、本発明のフィルムをロールツーロール法を用いて耐熱テープに加工する際の寸法安定性を示すものであり、LAで表わされる600mN/mm2荷重をかけた状態での寸法は、ロールツーロール法工程で600mN/mm2荷重を受けた後のフィルム寸法に相当する。
【0029】
式(3)で表わされる寸法変化率Rがかかる範囲内にあることにより、ロールツーロール加工時にかかる高温度・高張力によるフィルム厚みムラが生じることなく、工程が安定化する。また得られた耐熱テープをコンデンサ製造工程などで使用した際に高精度加工が可能となる。
さらに該寸法変化率Rが5.0%以下である場合には、ロールツーロール法を用いてポリエステルフィルム上に粘着加工など施す際の粘着剤の塗り斑が低減する効果も有しており、得られた耐熱テープをコンデンサ製造工程などで使用した後、耐熱テープを剥離する際に剥離むらが生じにくくなる効果も奏する。
【0030】
かかる寸法変化率Rを達成する方法として、長手方向の熱収縮率は長手方向に4.2〜4.8倍、好ましくは4.5〜4.7倍の延伸倍率で延伸を行い、235〜250℃、好ましくは240℃を超え250℃以下の範囲で熱固定を行うことによって達成される。また、かかる寸法変化率Rを5.0倍以下にするためには、上述の延伸、熱固定処理の後、縦方向には熱弛緩処理を施さないことが好ましい。
【0031】
(寸法変化率P)
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム長手方向について下記式(1)で表わされるフィルム長手方向の寸法変化率Pが3%以上6%以下であることが好ましい。かかる寸法変化率Pは3.0%以上5.7%以下であることがより好ましく、4.0%以上5.7%以下であることがさらに好ましい。
寸法変化率P=((LA−LB)/Lo)×100 ・・・(1)
(式中、LoはTMA測定前の初期寸法、LAは600mN/mm2荷重をかけた状態で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重をかけた状態で室温冷却した後の寸法、LBは600mN/mm2荷重をかけた状態で昇温、冷却したサンプルを用いて再度40mN/mm2荷重下で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重下で室温冷却した後の寸法、をそれぞれ表わす)
【0032】
TMA測定にあたり、寸法変化率Rと同様、セイコーインスツルメンツ(株)製のTMA/SS120Cを用いて測定を行ったものである。かかる寸法変化率Pは、ロールツーロール法を用いた耐熱テープを例えばコンデンサ製造工程部材として使用し、200℃前後の温度下で実装処理などを行う際の寸法安定性を示すものである。LAで表わされる600mN/mm2荷重をかけた状態での寸法は、ロールツーロール法工程で600mN/mm2荷重を受けた後のフィルム寸法に相当する。また、かかるフィルムについて、耐熱テープとして加工工程で使用される無荷重または低荷重を受けた後の寸法がLBに相当する。なお40mN/mm2荷重はTMA測定装置における最低荷重である。
【0033】
コンデンサ製造工程などにおいて耐熱テープとして使用する際、テープへの荷重は無荷重かまたはほとんど無荷重に近い低荷重である。そのため本発明のフィルムの式(1)で表わされる寸法変化率Pがかかる範囲内であることにより、例えばコンデンサ製造工程において耐熱テープとして使用する際、精度の高いマスキングや実装を行うことができる。
フィルム長手方向の寸法変化率Pが上限値を超える場合、耐熱テープをコンデンサ製造工程などで使用した際に熱収縮率が大きくなり、コンデンサ製造時に精度の高いマスキングや実装ができないことがある。フィルム長手方向の寸法変化率Pはより小さい方が好ましいが、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムを用いて下限値よりさらに小さい寸法変化率にすることは困難である。
かかる寸法変化率Pを達成する方法として、長手方向の熱収縮率は長手方向に4.2〜4.8倍、好ましくは4.5〜4.7倍の延伸倍率で延伸を行い、240℃を超え250℃以下の範囲で熱固定を行うことによって達成される。
【0034】
<フィルム厚み>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの厚みは、耐熱テープ基材として使用する場合に必要な強度とテープの薄膜化のために5〜100μmの範囲であることが好ましい。フィルム厚みは、さらに好ましくは7〜50μmであり、特に好ましくは10〜30μmである。
【0035】
<基材フィルム構成>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの層構成は、単層、積層のいずれでもよい。また、粘着剤との接着性を向上させるため、少なくとも一方の面にアクリル樹脂を含有する易接着層が積層されていてもよい。
【0036】
<フィルム製膜方法>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、通常の溶融押出法により得た未延伸フィルムを二軸延伸したのち熱固定し、さらにフィルム幅方向に弛緩処理(トーイン)を行うことによって製造することができる。
【0037】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、十分に乾燥させたポリエチレンナフタレンジカルボキシレートをTm〜(Tm+70)℃の温度でTダイを通じて溶融押出し、フィルム状溶融物を冷却ロール(キャスティンクドラム)上で急冷して未延伸フィルムとし、次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸する。二軸延伸は逐次二軸延伸が好ましく、未延伸フィルムを長手方向に延伸し、次いでステンターにて幅方向に延伸する方法が挙げられる。長手方向の延伸は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのTg以上170℃以下の温度範囲で3.8〜4.8倍、好ましくは4.2〜4.8倍、さらに好ましくは4.5〜4.7倍の範囲で延伸倍率で行う。また幅方向の延伸はポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのTg以上170℃以下の温度範囲で、4.0〜4.5倍、好ましくは4.2〜4.4倍の範囲で延伸倍率を行う。ここで、Tgはポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのガラス転移温度、Tmはポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの融点を表わす。
【0038】
二軸方向の延伸により二軸配向されたポリエステルフィルムは、続いて235〜250℃、好ましくは240℃を超え250℃以下の温度条件で、緊張下又は制限収縮下で10〜30秒熱固定を行い、その後0.5〜2%の範囲で幅方向に弛緩処理(トーイン)を行う。幅方向の延伸倍率が高い場合はトーインを大きくすることが好ましい。本発明においては、上述の延伸、熱固定処理の後、縦方向に熱弛緩処理を施さないことがロールツーロール加工時の粘着層厚み斑を低減する観点からさらに好ましい。
塗布層を設ける場合は、一方向に延伸した一軸配向フィルムに水性塗液を塗布し、次いで乾燥後もう一方に延伸し、更に熱固定することで得られる。なお乾燥は、延伸製膜工程の熱を利用して行うものであってもよい。
【0039】
<耐熱テープ用途>
このようにして得られた二軸配向ポリエステルフィルムは、耐熱テープ用フィルムとして好適に用いられる。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、具体的にはロールツーロール法を用いて製造される耐熱テープの基板フィルムに適しており、本発明の耐熱テープ用ポリエステルフィルムを使用してロールツーロール法により製造される耐熱テープは、該工程で高温・高張力を受けるにも係らず該工程で優れた寸法安定性を有するのみならず、例えばコンデンサ製造工程で実装やマスキングなどの耐熱テープとして使用する際に高い寸法安定性を発現でき、精度の高い加工を行うことができる。
耐熱テープ用基材フィルム上に載せる粘着剤は特に問わないが、公知の耐熱テープに用いるゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤などが好ましい。粘着剤を基材フィルム上に堆積させる方法として、ロールツーロール法を用いることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0041】
(1)フィルム厚み
電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
【0042】
(2)フィルム密度
JIS−K7112に規定するD法(密度こうばい管法)で測定した。
【0043】
(3)熱収縮率
フィルムサンプルに30cm間隔で標点をつけ、荷重をかけずに200℃のオーブンで10分間熱処理を実施し、熱処理後の標点間隔を測定して、フィルム長手方向(MD方向)と、フィルム幅方向(TD方向)において、下記式(2)にて熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)=((T0−T1)/T0)×100 ・・・(2)
(式中、T0は熱処理前の標点間距離、T1は熱処理後の標点間距離をそれぞれ表わす)
【0044】
(4)ヤング率
オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用いて、温度20℃、湿度50%に調節された室内において、フィルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、長さ方向を測定方向として、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分で引張り、得られる荷重―伸び曲線の立ち上り部の接線よりヤング率を計算する。なおフィルムは、フィルム長手方向(MD方向)が測定方向となるように作成した。各ヤング率は10回測定し、その平均値を用いた。
【0045】
(5)荷重負荷後の寸法変化率R
セイコーインスツルメンツ(株)製のTMA/SS120Cを用い、フィルム長手方向を測定長とし、600mN/mm2荷重をかけた状態で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重をかけた状態で室温冷却した後の寸法(LA)を求め、下記式(3)より寸法変化率Rを算出し、下記の基準によりロールツーロール加工時の寸法安定性を評価した。また寸法変化率Rはn数3の平均値より求めた。
寸法変化率R=((LA−Lo/Lo)×100 ・・・(3)
(式中、LoはTMA測定前の初期寸法、LAは600mN/mm2荷重をかけた状態で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重をかけた状態で室温冷却した後の寸法、をそれぞれ表わす)
〇: 2.0%≦寸法変化率R≦5.0
△: 5.0%<寸法変化率R≦6.0
×: 寸法変化率R<2.0% または 6.0%<寸法変化率R
【0046】
(6)荷重負荷後の寸法変化率P
セイコーインスツルメンツ(株)製のTMA/SS120Cを用い、フィルム長手方向を測定長とし、600mN/mm2荷重をかけた状態で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重をかけた状態で室温冷却した後の寸法(LA)、600mN/mm2荷重をかけた状態で昇温、冷却したサンプルを用いて再度40mN/mm2荷重下で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重下で室温冷却した後の寸法(LB)を求め、下記式(1)より寸法変化率Pを算出し、下記の基準により耐熱テープとしての寸法安定性を評価した。また寸法変化率Pはn数3の平均値より求めた。
寸法変化率P=((LA−LB)/Lo)×100 ・・・(1)
(式中、LoはTMA測定前の初期寸法、LAは600mN/mm2荷重をかけた状態で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重をかけた状態で室温冷却した後の寸法、LBは600mN/mm2荷重をかけた状態で昇温、冷却したサンプルを用いて再度40mN/mm2荷重下で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重下で室温冷却した後の寸法、をそれぞれ表わす)
○: 3.0%≦寸法変化率P≦5.7%
△: 5.7%<寸法変化率P≦6.0%
×: 寸法変化率P<3.0% または 6.0%<寸法変化率P
【0047】
(7)剥離むら
ポリエステルフィルムに600mN/mm2荷重を負荷した状態で200℃の温度条件で市販のゴム系粘着剤をフィルム上に塗布した。その後、負荷のかからない状態でいったん室温に冷却した。得られたフィルムと市販のコンデンサ基板とを200℃で貼り合せた後、200℃の温度下で張力をかけずに5分静置し、その後室温冷却した。かかる貼り合せサンプルを用い、耐熱テープとコンデンサ基板との間の剥離力について、フィルム幅方向に5箇所、長さ方向に4箇所の合計20箇所について測定を行った。測定には東洋精機株式会社製ストログラフ−M1を用いて行った。
得られた20箇所の測定値をもとに、以下の式(4)より剥離むらを求め、下記の基準にしたがって剥離むらを評価した。
剥離むら(%)=((剥離力最大値―剥離力最小値)/剥離力平均値)×100
・・・(4)
○:剥離むらが10%以内
△:剥離むらが10%を超える
【0048】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%、平均粒径0.2μmの球状シリカ粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%を含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた。それぞれの滑剤はフィルム重量に対する配合量を示す。その後、トリエチルホスホノアセテート0.042重量部を添加し実質的にエステル交換反応を終了させた。ついで、三酸化アンチモン0.024重量部を添加し、引き続き高温、高真空下で常法にて重合反応を行い、固有粘度0.60dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEMN/ Tg=121℃)を得た。
【0049】
このポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートのペレットを170℃で6時間乾燥後、押出機ホッパーに供給し、溶融温度300℃で溶融してダイスリットより表面温度60℃の回転冷却ドラム上に押出し、急冷して未延伸フィルムを得た。
このようにして得られた未延伸フィルムを140℃で縦方向に4.5倍に延伸した。続いてテンターに供給し、145℃にて横方向に4.3倍に延伸し、さらに245℃で5秒間熱固定処理及び幅方向に1.3%収縮(トーイン)させ、厚み20μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。測定方法(7)の方法で得られたフィルムをマスキングテープとしてコンデンサ基板の端部に貼り合せ、金属蒸着加工を行ったところ、マージン部の幅方向の寸法乱れは見られなかった。
【0050】
[実施例2〜5、比較例1〜3]
フィルムの製膜条件を表1に示すように変える以外は実施例1と同様の操作を行った。得られたポリエステルフィルムの特性を表1に示す。なお実施例5は縦方向にも熱弛緩処理を行った。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の耐熱テープ用ポリエステルフィルムはロールツーロール法を用いて製造される耐熱テープの基板フィルムに適しており、本発明の耐熱テープ用ポリエステルフィルムを使用してロールツーロール法により製造される耐熱テープは、例えばコンデンサ製造工程で実装やマスキングなどの耐熱テープとして使用するに際して高い寸法安定性を発現でき、精度の高い加工を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなる二軸配向フィルムであって、フィルムを200℃で10分間処理した際のフィルム長手方向の熱収縮率が1.2%以上3.0%以下、幅方向の熱収縮率が0.1%以上1.5%以下であり、かつ該フィルムの長手方向のヤング率が6500MPa以上およびフィルム密度が1.3580g/cm3以上であることを特徴とする耐熱テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
フィルム長手方向について下記式(1)で表わされるフィルム長手方向の寸法変化率Pが3%以上6%以下である請求項1に記載の耐熱テープ用ポリエステルフィルム。
寸法変化率P=((LA−LB)/Lo)×100 ・・・(1)
(式中、LoはTMA測定前の初期寸法、LAは600mN/mm2荷重をかけた状態で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重をかけた状態で室温冷却した後の寸法、LBは600mN/mm2荷重をかけた状態で昇温、冷却したサンプルを用いて再度40mN/mm2荷重下で30℃から200℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させた後に該荷重下で室温冷却した後の寸法、をそれぞれ表わす)
【請求項3】
耐熱テープがロールツーロール法によって製造される耐熱テープである請求項1または2に記載の耐熱テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
耐熱テープがコンデンサ製造工程部材用である請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱テープ用ポリエステルフィルムを基板とする耐熱テープ。

【公開番号】特開2011−16899(P2011−16899A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161821(P2009−161821)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】