説明

耐熱性エンドヌクレアーゼV

【課題】高温で高い活性を有する新規な耐熱性エンドヌクレアーゼVを提供する。
【解決手段】エンドヌクレアーゼV活性を有し、かつ45℃以上60℃未満の範囲内で至適活性を示す耐熱性を有し、かつ特定のアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が付加、欠損、若しくは置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質。耐熱性エンドヌクレアーゼV遺伝子であって該タンパク質のアミノ酸をコードする塩基配列を含むDNA、および該塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。該耐熱性エンドヌクレアーゼV遺伝子をベクターDNAに挿入した組換え体DNA。該組換え体DNAを含む形質転換体または形質導入体。該形質転換体または形質導入体を培養し、培養物から該耐熱性エンドヌクレアーゼVを採取する、耐熱性エンドヌクレアーゼVの製造法。該耐熱性エンドヌクレアーゼVを用いる核酸の切断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で高い活性を有する耐熱性エンドヌクレアーゼV、当該エンドヌクレアーゼVをコードする遺伝子、当該遺伝子を含む組換え体DNA、当該組換え体DNAを含む形質転換体または形質導入体、および当該エンドヌクレアーゼVの製造方法に関する。また本発明は、当該エンドヌクレアーゼVを用いる核酸の切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドヌクレアーゼV [EC 3.1.21.7] は、デオキシイノシン 3' エンドヌクレアーゼとも呼ばれ、DNA鎖中のデオキシイノシンの塩基(ヒポキサンチン)を認識し、その近傍のホスホジエステル結合(主には認識塩基の3'側の第2番目のホスホジエステル結合)を加水分解する酵素である。また本酵素はこのデオキシイノシン特異的な切断活性に加えて、DNA鎖中のデオキシウリジンの塩基(ウラシル)、APサイト(apurinic/apyrimidinic site または abasic site)、塩基のミスマッチ、塩基の挿入/欠損、フラップ構造、偽Y構造(pseudo-Y structure)などを含む広く多様なDNA構造を認識してDNA鎖を切断する活性も有している。
【0003】
最初にEscherichia coli由来のエンドヌクレアーゼVが単離、キャラクタライズされた(非特許文献1〜5)。その後Thermotoga maritima 由来(非特許文献6〜7、12)、Archaeoglobus fulgidus由来(非特許文献8)、Salmonella typhimurium由来(非特許文献9)、およびThermus thermophilus由来(非特許文献10および11)のエンドヌクレアーゼVなどが報告された。エンドヌクレアーゼVが核酸を認識して切断する酵素活性は、核酸分子の分析、検出、分解、合成、改変などを含む様々な検査技術や、診断技術、遺伝子工学技術に利用することが可能である。
【0004】
様々な生物のゲノムシーケンシングが進展した結果、既知のエンドヌクレアーゼVと有意な相同性を示すアミノ酸配列をコードするDNA配列が、真正細菌、古細菌、および真核生物などの広範囲の生物ゲノム中に存在することが分かってきた。しかしながらこれらのエンドヌクレアーゼVホモログ配列が、実際にエンドヌクレアーゼV活性を有するタンパク質をコードしているかどうかは、ほとんど明らかになっていない。実際に酵素が単離、キャラクタライズされているのは、上に例示したような限られた種類の生物由来のエンドヌクレアーゼVである(非特許文献1〜10)。
【0005】
これらの既知のエンドヌクレアーゼVが酵素活性を示す温度は、その由来となる生物の生育温度に応じて様々である。例えば、至適生育温度が約37℃であるEscherichia coliおよびSalmonella typhimurium 由来のエンドヌクレアーゼVは、37℃で好適な酵素活性を示す。一方、好熱性細菌Thermotoga maritima(生育温度70〜80℃)由来エンドヌクレアーゼVは65〜70℃、好熱性古細菌Archaeoglobus fulgidus(生育温度83℃)由来エンドヌクレアーゼVは、85℃付近でそれぞれ高い活性を示す。しかしながら約45℃〜60℃の範囲で好適な酵素活性を示すエンドヌクレアーゼVはこれまで知られていなかった。
【0006】
このような背景のもと、これまでにない新たな温度域で活性を有するエンドヌクレアーゼVが求められていた。
【0007】
【非特許文献1】Yao M, Hatahet Z, Melamede RJ, Kow YW : Purification and characterization of a novel deoxyinosine-specific enzyme, deoxyinosine 3' endonuclease, from Escherichia coli. J Biol Chem, 269, 16260-8 (1994)
【非特許文献2】Yao M, Kow YW : Strand-specific cleavage of mismatch-containing DNA by deoxyinosine 3'-endonuclease from Escherichia coli. J Biol Chem, 269, 31390-6 (1994)
【非特許文献3】Yao M, Kow YW : Interaction of deoxyinosine 3'-endonuclease from Escherichia coli with DNA containing deoxyinosine. J Biol Chem, 270, 28609-16 (1995)
【非特許文献4】Yao M, Kow YW : Cleavage of insertion/deletion mismatches, flap and pseudo-Y DNA structures by deoxyinosine 3'-endonuclease from Escherichia coli. J Biol Chem, 271, 30672-6 (1996)
【非特許文献5】Yao M, Kow YW : Further characterization of Escherichia coli endonuclease V. Mechanism of recognition for deoxyinosine, deoxyuridine, and base mismatches in DNA. J Biol Chem, 272, 30774-9 (1997)
【非特許文献6】Huang J, Lu J, Barany F, Cao W : Multiple cleavage activities of endonuclease V from Thermotoga maritima: recognition and strand nicking mechanism. Biochemistry, 40, 8738-48. (2001)
【非特許文献7】Hitchcock TM, Gao H, Cao W : Cleavage of deoxyoxanosine-containing oligodeoxyribonucleotides by bacterial endonuclease V. Nucleic Acids Res, 32, 4071-80 (2004)
【非特許文献8】Liu J, He B, Qing H, Kow YW : A deoxyinosine specific endonuclease from hyperthermophile, Archaeoglobus fulgidus: a homolog of Escherichia coli endonuclease V. Mutat Res, 461, 169-77 (2000)
【非特許文献9】Feng H, Klutz AM, Cao W : Active Site Plasticity of Endonuclease V from Salmonella typhimurium. Biochemistry, 44, 675-83 (2005)
【非特許文献10】井上真男、中川紀子、増井良治、倉光成紀:Thermus thermophilus HB8 タンパク質の機能発見研究:DNA 修復系酵素Endonuclease Vの機能解析、高度好熱菌丸ごと一匹プロジェクト 第6回連携研究会、2007年8月3日、ポスター[44]
【非特許文献11】井上真男、中川紀子、増井良治、倉光成紀:Thermus thermophilus HB8 タンパク質の機能発見研究:DNA 修復系酵素Endonuclease Vの機能解析、BMB2007 (第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会)、2007年12月11〜15日、3P-0459
【非特許文献12】Eisenmesser EZ, Cao W : Structural and dynamic studies of endonuclease V-DNA interactions. 米国 国立強磁場研究所(National High Magnetic Field Laboratory), 2007 Research Report, Number 106.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、高温で高い活性を有する新規な耐熱性エンドヌクレアーゼVを得ることを主たる課題とした。より詳しくは約45℃〜60℃の範囲で良好な酵素活性を示すことのできる新規な耐熱性エンドヌクレアーゼVを得ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、メタン資化細菌Methylococcus capsulatusのゲノムからエンドヌクレアーゼVホモログ遺伝子を単離し、当該遺伝子が実際にエンドヌクレアーゼV活性を有するタンパク質をコードしていることを明らかにした。さらに当該タンパク質にMethylococcus capsulatusの至適生育温度(約37℃〜45℃)を越える高い温度で高いエンドヌクレアーゼV活性を示すことのできる耐熱性を見出して、上記課題を解決しうる発明を完成させるに至った。本発明における「エンドヌクレアーゼV」とは、国際生化学分子生物学連合 (IUBMB) の酵素命名法において酵素番号EC 3.1.21.7 として分類される酵素を指す。バクテリオファージT4由来のDNA修復酵素であるT4エンドヌクレアーゼVは、類似した名前で呼ばれるが、これはE.C.3.1.25.1に分類される酵素であり、本発明で記述するエンドヌクレアーゼVとは別の酵素である。
【0010】
様々な生物のゲノムシーケンシングが進展した結果、既知のエンドヌクレアーゼVと有意な相同性を示すアミノ酸配列をコードするDNA配列が、真正細菌、古細菌、および真核生物などの広範囲の生物ゲノム中に存在すると言われている(例えば非特許文献12参照)。
【0011】
しかしながら一方で、全ゲノムの配列情報が入手可能な生物で、エンドヌクレアーゼVホモログをコードする配列が見出されない生物もかなりの種類存在し、全ての生物種がエンドヌクレアーゼVホモログ配列を有しているわけではないことを我々は見出した。
【0012】
本発明者らが課題解決のための初期に行った検討の1つの例として、表1に分類学上の広く多様な門(Phylum)に属する60種の細菌についての、ゲノム配列情報中のエンドヌクレアーゼVホモログ配列の有無を示した。表1中、全ゲノム情報中にエンドヌクレアーゼVホモログが見出されない細菌には「−」を示し、該ホモログが見出された細菌にはその配列のGenBank Protein IDを示すとともに、該ホモログのアミノ酸配列と、Escherichia coliおよびThermotoga maritimaエンドヌクレアーゼV(Eco endoV および Tma endoV)のアミノ酸配列との同一性(%)を示した。表1はゲノム情報が既知の多数の細菌の中の一部の代表的な例を示したものだが、この解析結果から、少なくとも細菌界ではエンドヌクレアーゼVホモログ配列の存在は普遍的なものではなく、むしろ該ホモログ配列を保有する細菌は少数派に近いことが分かった。
【0013】
さらに、これらのエンドヌクレアーゼVホモログ配列が、実際にエンドヌクレアーゼV活性を有するタンパク質をコードしているかどうかは、ほとんど明らかになっていなかった。ましてやこれらのエンドヌクレアーゼVホモログ配列が、約45℃〜60℃の範囲において好適な酵素活性を示すエンドヌクレアーゼVをコードしているかどうかは全く分かっていなかった。
【0014】
【表1】

【0015】
表2に既知のエンドヌクレアーゼVが好適に酵素活性を示す温度と、本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVであるMethylococcus capsulatus由来のエンドヌクレアーゼVが好適に酵素活性を示す温度を示した。また各々のエンドヌクレアーゼVの由来となっている生物の至適生育温度も同表に示した。
【0016】
【表2】

【0017】
一般的に酵素の至適活性温度は、その由来となる生物の至適生育温度とほぼ一致している場合がほとんどである。例えば、至適生育温度が約37℃であるEscherichia coliおよびSalmonella typhimurium 由来のエンドヌクレアーゼVは、37℃で好適な酵素活性を示す。一方、好熱性細菌Thermotoga maritima(生育温度70〜80℃)由来エンドヌクレアーゼVは65〜70℃、好熱性古細菌Archaeoglobus fulgidus(生育温度83℃)由来エンドヌクレアーゼVは、85℃付近でそれぞれ高い活性を示す。本発明以前には、約45℃〜60℃の範囲で好適な酵素活性を示すエンドヌクレアーゼVは知られていなかった。
【0018】
高温で活性を示すことのできる耐熱性酵素を得るための探索は、一般的には、当該温度付近において良好に生育可能な好熱性あるいは超好熱性の生物を対象に行われる。一方、Methylococcus capsulatusは、生育可能な温度範囲が約30〜50℃(至適生育温度37℃〜45℃)であり、また55℃では生育不可能であることが知られている [例えば、Foster, J.W. and Davis, R.H., J Bacteriol, 91, 1924-31 (1966); および Whittenbury, R. et al., J Gen Microbiol, 61, 205-18 (1970)]。このことから、約45℃〜60℃の範囲で好適な活性を示すことのできる耐熱性エンドヌクレアーゼVを得る目的で、当業者にMethylococcus capsulatus由来のエンドヌクレアーゼVの単離を試みる動機づけはなかった。
【0019】
しかしながら、驚くべきことに、Methylococcus capsulatus由来のエンドヌクレアーゼVは、該生物の至適生育温度(45℃)を越える高い温度範囲(約45℃以上60℃未満)で好適な活性を示すことのできる耐熱性を有していることを、本発明者らは見出したのである。さらに本発明者らは、Methylococcus capsulatus由来のエンドヌクレアーゼVが、該生物の生育可能温度の上限(50℃)を越える高い温度範囲(約50℃〜57℃)で、より好適な活性を示すことのできる耐熱性を有していることを見出した。
【0020】
すなわち、本願は以下の発明を提供するものである。
〈1〉単離されたタンパク質であって、エンドヌクレアーゼV活性を有し、かつ45℃以上60℃未満の範囲内で至適活性を示すことのできる耐熱性を有し、かつ以下の(a)または(b)の配列を有するタンパク質;
(a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列、
(b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が付加、欠損、若しくは置換されたアミノ酸配列。
〈2〉メチロコッカス カプスラタス(Methylococcus capsulatus)由来の耐熱性エンドヌクレアーゼVである〈1〉のタンパク質。
〈3〉〈1〉または〈2〉のタンパク質をコードする塩基配列を有する単離された耐熱性エンドヌクレアーゼV遺伝子。
〈4〉〈3〉の耐熱性エンドヌクレアーゼV遺伝子であって以下の(c)または(d)のDNAを有する遺伝子;
(c) 配列番号1に示される塩基配列を含むDNA、
(d) 配列番号1に示される塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〈5〉〈3〉または〈4〉の耐熱性エンドヌクレアーゼV遺伝子をベクターDNAに挿入した組換え体DNA。
〈6〉〈5〉の組換え体DNAを含む形質転換体または形質導入体。
〈7〉〈6〉の形質転換体または形質導入体を培養し、培養物から〈1〉または〈2〉の耐熱性エンドヌクレアーゼVを採取する、耐熱性エンドヌクレアーゼVの製造法。
〈8〉〈1〉または〈2〉の耐熱性エンドヌクレアーゼVを用いる核酸の切断方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、エンドヌクレアーゼV活性を有し、かつ約45℃以上60℃未満の範囲内、好ましくは50℃以上57℃以下の範囲内で至適活性を示すことのできる耐熱性を有するエンドヌクレアーゼV、当該耐熱性エンドヌクレアーゼVをコードする遺伝子、当該遺伝子を含む組換え体DNA、当該組換え体DNAを含む形質転換体または形質導入体、および当該耐熱性エンドヌクレアーゼVの製造方法が提供される。また本発明により、当該耐熱性エンドヌクレアーゼVを用いる核酸の切断方法が提供される。本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVは、核酸分子の分析、検出、分解、合成、改変などを含む様々な検査技術や、診断技術、遺伝子工学技術に利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVは、約45℃以上60℃未満の範囲内、好ましくは50℃以上57℃以下の範囲内で至適活性を示すことのできる耐熱性を有するエンドヌクレアーゼV であって、Methylococcus capsulatus由来のエンドヌクレアーゼVのアミノ酸配列または該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が付加、欠損、若しくは置換されたアミノ酸配列を有する。ここで該Methylococcus capsulatusは、例えばMethylococcus capsulatus str. Bath (ATCC 33009、NCIMB 11132)、ATCC 19069 (NCIMB 11853)、NCIMB 11922等であり、該Methylococcus capsulatus由来のエンドヌクレアーゼVのアミノ酸配列は、例えば配列番号2で示されるアミノ酸配列である。
【0023】
本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVは、Methylococcus capsulatus菌体由来材料から、当業者が通常行う酵素採取手段によって単離・精製してもよいし、本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVをコードする遺伝子を用いて、組換えタンパク質として調製してもよい。
【0024】
本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVをコードする遺伝子は、本明細書の配列番号1に記載の塩基配列に基づき、当業者に公知のクローニング手法等によって調製される。例えば該遺伝子は、Methylococcus capsulatusの菌体またはゲノムDNAを材料として調製することができる。例えば該遺伝子は実施例1に記載の方法によって調製される。
【0025】
また、配列番号1に記載の耐熱性エンドヌクレアーゼVをコードする遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAも本発明の遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件とは、核酸配列間に90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上の相同性があるときにハイブリダイゼーションが起こる条件を指す。ストリンジェントな条件は、当業者ならば公知の方法に基づき、温度や塩濃度、あるいはホルムアミドの有無や濃度などによって調整できるが、例えば、ナトリウム濃度が15〜300 mM、好ましくは15〜75 mMであり、温度が50〜70℃、好ましくは60〜65℃での条件などが挙げられる。
【0026】
また、生物由来材料から耐熱性エンドヌクレアーゼV遺伝子を調製する方法の他に、確定した耐熱性エンドヌクレアーゼVの塩基配列情報を基に、有機合成法や酵素合成法、あるいはそれらを適宜組み合わせた方法により、直接的に所望する耐熱性エンドヌクレアーゼV遺伝子を合成することもできる。
【0027】
本発明の組換え体DNAは、適当なベクターに本発明の遺伝子を連結(挿入)することにより得ることができる。本発明の遺伝子を挿入するベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド DNA、ファージ DNA等が挙げられる。プラスミド DNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC8、pUC9、pUC118、pUC119、pET (Novagen社製)、pGEX (Amersham Biosciences社製)、pQE (QIAGEN社製)、pMAL (New England Biolabs社製) 等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、 pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0028】
ベクターに本発明の遺伝子を挿入するには、例えば、精製された本発明の遺伝子を含むDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。ベクターには、プロモーター、本発明の遺伝子のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを連結することができる。選択マーカーの例としては、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。本発明の遺伝子には、後で本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVの精製や検出を容易にするために、あるいは発現した耐熱性エンドヌクレアーゼVが細胞内で不溶化してしまうのを防ぐために、GSTタグやヒスチジンタグなどのタグ配列等をコードする配列を付加してもよい [例えばTerpe K (2003) Appl Microbiol Biotechnol, 60, 523-533]。
【0029】
本発明の形質転換体・形質導入体は、本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。ここで用いる宿主としては、本発明の遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、エッシェリヒア属(Escherichia coli等)、シュードモナス属(Pseudomonas putida 等)、バチルス属(Bacillus subtilis等)、リゾビウム属(Rhizobium meliloti等)などに属する細菌が挙げられ、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe等の酵母が挙げられ、COS細胞、CHO細胞等の動物細胞が挙げられ、またあるいはヨトウガ細胞(Sf9、Sf21等)やカイコ細胞(BmN4等)などの昆虫細胞が挙げられる。
【0030】
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明の遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。宿主大腸菌としては、例えば Escherichia coli K12、DH1、BL21(DE3) などが挙げられる。プロモーターとしては、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよいが、例えばtrpプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、tacプロモーターなどの、大腸菌やファージに由来するプロモーターなどを用いることができる。
【0031】
かようにして本発明の形質転換体・形質導入体が得られたならば、その培養物から本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVを採取するには、当業者が通常行う酵素採取手段を用いることができる。本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVが菌体内あるいは細胞内に生産される場合には、菌体あるいは細胞を破砕することにより当該酵素を抽出できる。例えば、常法により菌体を、超音波破砕処理、磨砕処理などするか、あるいはリゾチーム等の溶菌酵素を用いて本発明の酵素を抽出するか、またはトルエン等の存在下で振盪もしくは放置して自己消化を行なわせ本発明の酵素を菌体外に排出させるなどの方法でこれを行うことができる。
【0032】
前記のごとくして得られた本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVを含む調製物から、さらに本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVを精製し、精製酵素標品を得る場合には、当業者がタンパク質の単離精製に用いる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独あるいは適宜組み合わせて用いることにより、前記酵素溶液から本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVを単離精製することができる。
【0033】
本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVに、GSTタグやヒスチジンタグなどのタグ配列等を付加して発現させた場合、このような付加配列は、当該酵素の精製途中あるいは精製後に、当業者が通常行う適当な酵素処理等によって取り除いてもよいし、付加配列によって本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVの活性が損なわれない場合はそのままでもよい。
【0034】
このようにして、所望する本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVを得ることができ、また本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVの製造法が提供される。
【0035】
本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVを用いることで、当該酵素を用いた核酸の切断方法が提供される。本発明の耐熱性エンドヌクレアーゼVを用いる核酸の切断方法における、反応液組成や反応条件は、当業者が目的に応じて適宜選択することができる。例えば実施例3〜実施例5に示した反応液組成および反応条件を使用することができるが、これらに限定されるものではない。反応温度は、例えば45℃以上60℃未満の範囲、または50℃〜57℃の範囲から選択することができる。pHは、例えば6.0〜9.5の範囲から選択することができる。金属イオン濃度は、例えばMg2+濃度として 1 mM以上、または2 mM以上の範囲から選択することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>エンドヌクレアーゼV遺伝子の作製
Methylococcus capsulatus str. Bath (NCIMB 11132)菌体凍結乾燥品を、株式会社テクノスルガより購入した。菌体凍結乾燥品10 mgを100 μlの純水に溶解して、菌溶液とした。
【0038】
次に以下の手順に示すPCRにより、Methylococcus capsulatus由来エンドヌクレアーゼV(以下Mca endoVと呼ぶ)遺伝子を増幅した。以下を含むPCR反応液(全量50 μl)を調製した;1 μlの菌溶液、1.0ユニットのKOD plus DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)、5 μlの10×KOD−PCR buffer(KOD plus製品に付属のもの)、終濃度各0.2 mMのdNTP、濃度1 mMのMgSO4、終濃度0.3 μMの上流プライマー5'- TGA ATT ACA TAT GGG CCT GGC GCT CC-3' (配列番号3)、終濃度0.3 μMの下流プライマー5'- CGG GAT CCT CAG GCG GAA GCC AGA CG-3'(配列番号4)。上流プライマーはNde I認識配列を有し、下流プライマーはBam HI認識配列を有する。上流プライマーは、Mca endoV遺伝子の塩基配列(配列番号1)の最初のコドンの1番目の塩基であるグアニンがアデニンに置換された増幅産物を得ることができるように設計した。この塩基置換によって、大腸菌タンパク質発現系を用いて発現する際、Mca endoVの1番目のアミノ酸がメチオニンとして発現される。
【0039】
サーマルサイクリングは、GeneAmp PCR System 9600(Perkin Elmer 社製)を使用し、94℃で2 分間の熱処理を1回、続いて94℃で15秒間、64℃で30秒間、68℃で1分間の温度サイクルを30回繰り返した。その反応液をアガロースゲル電気泳動に供し、エチジウムブロマイド染色を行いUV照射で増幅断片を可視化した。Mca endoV遺伝子を含む増幅産物(686 bp)をMinElute PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。精製操作の手順は、当該精製キットに付属の仕様書に従った。
【0040】
得られた増幅産物を常法に従って、His−tag配列を有する大腸菌組換えタンパク質発現用ベクターpET16b(Novagen社製)へ挿入した。得られた組換え体DNA(以下pET16 McaEVと呼ぶ)中のMca endoV遺伝子の塩基配列をDNAシーケンサーによって解読し、解読した配列が目的とする塩基配列と一致することを確認した。以上のようにしてMca endoV遺伝子を作製した。
【0041】
<実施例2>エンドヌクレアーゼVの作製
大腸菌組換えタンパク質発現系を用い、以下の手順で組換えMca endoVの発現を行った。まず、実施例1で作製したベクター pET16 McaEVを用いて、宿主大腸菌株BL21(DE3)(Novagen社製)を常法によって形質転換した。得られた形質転換体を、アンピシリン(終濃度50 μg/ml)を含むLB培地48 ml(ペプトン10 g/l、酵母エキス5 g/l、NaCl 10 g/l)に接種し、培地のOD600が0.6になるまで37℃で振とう培養を行った。続いて、その培養液を、アンピシリン(終濃度50 μg/ml)と消泡剤(終濃度0.25 μl/ml、和光純薬社製)を含むLB培地4.8 Lに接種し、培地のOD600が0.6になるまで37℃で振とう培養を行った。その後、イソプロピル−β−チオガラクトピラノシドを終濃度が1 mMとなるように培養液に添加することによって目的タンパク質の発現を誘導し、30℃で6時間振とう培養を行った。
【0042】
その培養液を18,800×gで20分間遠心分離した。沈殿した菌体を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma社製)を含む緩衝液A[10 mM HEPES(pH7.4)、200 mM NaCl、1 mM 2-mercaptoethanol] に懸濁した。懸濁の割合は、湿菌体1 gに対して10 mlの緩衝液とした。当該懸濁液を超音波破砕処理した後、14,000×gで20分間遠心分離し上清を回収した。得られた上清を孔径0.45 μmのフィルターでろ過し、分子量の大きなタンパク質を除去した。その後、His−tag融合タンパク質精製用カラムHisTrap HP(GE Healthcare社製)を用いて組換えMca endoVを精製した。このとき緩衝液として、真空脱気した緩衝液B[10 mM HEPES(pH7.4)、200 mM NaCl、1 mM 2-mercaptoethanol、20 mM imidazole]および緩衝液C[10 mM HEPES(pH7.4)、200 mM NaCl、1 mM 2-mercaptoethanol、500 mM imidazole]を用いて、グラジエント溶出を行った。得られた溶出画分についてSDS−PAGEを行い、予測分子量(約27 kDa)に一致する単一のタンパク質バンドが観測されることを確認した。以上のようにして組換えMca endoV酵素標品を得た。
【0043】
<実施例3>エンドヌクレアーゼVの核酸切断活性
(1)基質DNAの合成
エンドヌクレアーゼVの核酸切断活性を評価するために用いるデオキシイノシン含有DNA基質(S−I1およびS−I2)をPCRによって合成した。このとき、合成されるDNA鎖中にある割合でデオキシイノシンが取り込まれるよう、反応液中のヌクレオチド基質の組成を調整した。PCR用プライマーとして、5'-GAC CTC GGT TTA GTT CAC AGA-3'(配列番号5)および5'-CAC ACG CTG ACG CTG ACC A-3'(配列番号6)を使用した。これらは、大腸菌mal遺伝子領域(GenBank Accession J01648)を標的とし、585 bp のDNA断片を増幅するプライマーセットである。調製したPCR反応液(100μl)は次のものを含む;165 ngの鋳型DNA(大腸菌JM109株の染色体DNA)、0.2 μMの各プライマー、2.5ユニットのTaKaRa Taq(タカラバイオ社製)、1×PCR Buffer (Mg2+ plus)(TaKaRa Taq付属品)、各0.2 mMのdNTPs(dATP、dTTP、dGTP、およびdCTP)、0.02 mMまたは0.2 mMのdITP。サーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9600を使用し、94℃で60秒間の熱処理を行い、続いて94℃で30秒間、56℃で30秒間、72℃で30秒間の温度サイクルを30回繰り返した。0.02 mM dITP存在下のPCRによって合成されたデオキシイノシン含有DNA断片をS−I1、0.2 mM dITP存在下で合成されたものをS−I2とした。
【0044】
上記と同様のPCRを、dNTPsを含むがdITPを含まない反応液で実施し、通常のヌクレオチド(dA、dT、dG、dC) で構成される同じ長さのDNA断片も合成した。これをS−Nとした。
【0045】
さらに、デオキシウリジン含有DNA基質(S−U1およびS−U2)も上記と同様のPCR反応で合成した。ただしこの場合は、合成されるDNA鎖にデオキシウリジンが取り込まれるように、ヌクレオチド基質の組成を変更した。S−U1の合成では、各0.2 mMのdATP、dGTP、dCTP、および 0.1 mM dTTP、0.1 mM dUTPを含む反応液でPCRを行った。S−U2の合成では、各0.2 mMのdATP、dGTP、dCTP、dUTPを含む反応液でPCRを行った。また、両DNA合成のためのPCRの温度サイクル数は35回とした。
【0046】
上記の各PCRで得られた増幅産物は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製し、TE緩衝液50 μlで溶出させた。精製操作の手順は、当該キットに付属の仕様書に従った。溶出液の波長260 nmの吸光度を測定することによって、溶出液中に含まれる増幅産物の核酸濃度を測定した。全ての増幅産物は、アガロースゲル電気泳動において予測DNA断片長(585 bp)に一致する単一のバンドを示すことを確認した。精製した各DNAは最終的に、核酸濃度43.4 ng/μlとなるように調製した。
【0047】
このようにして、585 bp長のデオキシイノシン含有DNA(S−I1およびS−I2)、通常DNA(S−N)、およびデオキシウリジン含有DNA(S−U1およびS−U2)試料をそれぞれ調製した。
【0048】
(2)エンドヌクレアーゼVによるDNA切断
Mca endoVのDNA切断活性を示す実験を行った。酵素は、実施例2の方法によって調製した組換えMca endoVを用いた。上記の方法で調製した各種の基質DNA(S−N、S−I1、S−I2、S−U1、およびS−U2)を、該酵素と反応させ、その切断の有無を示した。1つの反応液は、全量50μlとし、以下を含むよう調製した;1.9 μMの組換えMca endoV、11 nMの基質DNA(S−N、S−I1、S−I2、S−U1、またはS−U2のいずれか)、1 mM DTT、2 mM MgCl2、10 mM Tris-HCl バッファー (pH7.5)。また同様の組成で酵素を含まない溶液も陰性コントロールサンプルとして調製した。各反応液を55℃でインキュベートし、10分後、30分後、1時間後、および2時間後にサンプリングを行った。サンプリングした反応液10 μlを、1.5%アガロースゲル電気泳動にかけ、エチジウムブロマイドによって染色した後、UV照射下で基質DNAバンドの有無および濃淡を比較した。Mca endoVによる通常のDNA(S−N)およびデオキシイノシン含有DNA(S−I1およびS−I2)の切断結果を示す電気泳動写真を図1に示した。
【0049】
図1中、レーン1および17は、100 bp DNAラダーマーカーである。基質S−Nを使用した場合の、酵素無添加、反応時間10分、30分、1時間、および2時間のサンプルは、それぞれレーン2、5、8、11、および14である。基質S−I1を使用した場合の、酵素無添加、反応時間10分、30分、1時間、および2時間のサンプルは、それぞれレーン3、6、9、12、および15である。基質S−I2を使用した場合の、酵素無添加、反応時間10分、30分、1時間、および2時間のサンプルは、それぞれレーン4、7、10、13、および16である。
【0050】
基質S−I2は、反応時間10分(レーン7)で、酵素無添加の場合(レーン4)と比較してバンド強度の低下が認められ、Mca endoVによる分解が進んでいる。基質S−I2のバンドはさらに反応時間が30分、1時間と経過するに従い弱くなり、2時間後にはほぼ完全に消失している(レーン16)。また、よりデオキシイノシン含有量が少ないと考えられる基質S−I1でも、反応2時間後にはバンドがやや薄くなっている(レーン15)。一方、デオキシイノシンを含有しない通常のDNA 基質S−Nの結果では、反応時間10分から2時間までを通じて(レーン5、8、11、および14)、酵素無添加の場合のバンド強度(レーン2)と有意な差異は観測されず、通常のDNAはMca endoVによって分解されないことが示された。
【0051】
これらのことから、Mca endoVが、既知の他のエンドヌクレアーゼV同様に、デオキシイノシン含有DNAを特異的に切断することが示された。本実施例の結果は、Methylococcus capsulatusのエンドヌクレアーゼVホモログをコードする配列番号1に示されるDNAが、実際にエンドヌクレアーゼV活性を有するタンパク質をコードしていることを初めて示すものである。また本実施例の結果は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質がエンドヌクレアーゼV活性を有することを初めて示すものである。
【0052】
一方、デオキシウリジン含有DNA(S−U1およびS−U2)を使用した場合、それらのバンドは反応後2時間経過しても、ほとんど強度の低下が認められなかった(data not shown)。よって、少なくともここで実験した条件においては、Mca endoVがデオキシウリジン含有DNAをほとんど切断しないことが示された。従って、Mca endoVは、既知のEscherichia coli(非特許文献5)やThermotoga maritima(非特許文献6)由来のエンドヌクレアーゼVとは異なり、そして既知のArchaeoglobus fulgidus(非特許文献8)やThermus thermophilus(非特許文献10および11)由来のエンドヌクレアーゼVと同様に、デオキシウリジン含有DNAを切断する能力が極めて低いか欠けていることが示唆された。
【0053】
<実施例4>エンドヌクレアーゼVの耐熱性
Mca endoVの耐熱性を示す実験を行った。酵素は、実施例2の方法によって調製した組換えMca endoV酵素を用いた。基質DNAとしてS−I2を含む実施例3と同様の反応液を調製した。反応液を25℃から70℃の間の一定温度(25℃、37℃、45℃、50℃、51℃、53℃、55℃、57℃、59℃、60℃、62℃、64℃、65℃、および70℃)でインキュベートし、10分後、30分後、1時間後、および2時間後にサンプリングを行った。サンプリングした反応液10 μlを、1.5%アガロースゲル電気泳動にかけ、エチジウムブロマイドによって染色した後に、UV照射下で基質DNAバンドの電気泳動像をFAS−III mini(東洋紡社製)によってデジタル撮影した。画像解析ソフトウェアDoc It 1D Analysis(UVP社)を用いて各サンプルにおける基質DNAバンドの強度を数値化し、酵素を加えなかった場合の同濃度の基質DNAバンド強度との比較から基質分解率を求めた。図2は、反応時間10分の時点の基質分解率から求めた各温度における相対活性を示す。この結果、Mca endoVが、57℃において最も高い活性を示し、45℃〜60℃未満の間の広い温度範囲において高い活性(相対活性が約80%以上)を示すことのできる熱安定性を有することを示した。またこの結果は、Mca endoVがより好ましく活性を示すことのできる温度範囲(相対活性が約90%以上)が、50℃〜57℃の範囲であることを示す。本実験条件下において、Mca endoVは60℃を越えると急速な活性の低下を示し、この温度付近で不活性な変性状態への転移が起こっていることが示唆された。
【0054】
次に、酵素を高温で長時間保持した場合の熱に対する耐性を示す実験を行った。基質DNA以外の全てを含む同様の酵素反応液を4反応分調製し、その後、各反応液を55℃に加熱した。1つの反応液には、昇温後すぐに基質DNA(S−I2)を加え、他の3つはそれぞれ1時間、2時間、および4時間55℃で保持した後に基質DNAを添加し、反応を開始させた。基質DNAの添加量は前述の実験と同様、終濃度11 nMとなるようにした。基質DNAを添加後、10分後、30分後、1時間後、および2時間後にサンプリングを行い、前述と同様に、基質DNAの電気泳動バンドの強度から基質分解率を求めた。各酵素による基質分解率の経時変化を図3に示した。保持時間なしの酵素では、反応開始後10分で80%以上の基質DNAが分解されており、2時間後にはほとんど全ての基質が分解されていた(―●―)。一方で、1時間保持した後の酵素を用いた場合でも、活性の低下は見られたものの、基質添加2時間後には50%を越える基質DNAを分解していた(―□―)。また、55℃で2時間あるいは4時間保持した後でさえも、酵素はまだDNA切断能力を保っており、基質添加後2時間で約30%の基質を分解してなおその分解率曲線は上昇傾向にあった(―△― および ―○―)。この結果は、Mca endoVが長時間高温に曝された後も、残存活性を保持し続ける耐熱性を有することを示す。
【0055】
<実施例5>エンドヌクレアーゼVの反応条件
Mca endoVが好適に活性を示すことのできるpH範囲および金属イオン濃度範囲の例を示す。酵素は、実施例2の方法によって調製した組換えMca endoV酵素を用いた。基質DNAとしてS−I2を含む実施例3と同様の反応液で、pHを変えた反応液およびMg2+濃度を変えた反応液をそれぞれ作製し、55℃で基質DNAの切断反応を行った。pHの異なる反応液は、pH 6.0から9.5まで0.5ごとに調整した。Mg2+濃度の異なる反応液は、MgCl2濃度を0.2、0.5、1、2、4、6、および8 mMとして調製した。またそれぞれの条件について、同じ組成で酵素を添加しないサンプルを陰性コントロールとして調製した。インキュベーション開始後から所定の時間(10分、30分、1時間、および2時間)が経過した時点でサンプリングを行い、実施例4と同様に、基質DNAの電気泳動バンドの強度から基質分解率および相対活性を求めた。
【0056】
図4は、反応時間10分の時点の基質分解率から求めた各pHにおける相対活性を示す。実験した全てのpHにおいて、酵素は相対活性90%以上の高い活性を示した。また同条件の陰性コントロールサンプルでは、基質DNAの分解は全く認められなかった。この結果は、Mca endoVが、少なくともpH 6.0〜9.5の範囲を包含する広いpH範囲で高い特異的活性を有することを示す。
【0057】
図5は、反応時間10分の時点の基質分解率から求めた各Mg2+濃度における相対活性を示す。試験した範囲では、酵素の特異的活性は、Mg2+濃度依存的に高くなり、1 mM Mg2+存在下で約80%、2 mM Mg2+存在下で約90%の相対活性を示し、また4 mM Mg2+以上の濃度では活性はほとんど変わらなかった。このことは、Mca endoVが、既知の他のエンドヌクレアーゼVと同様に、二価カチオン要求性の酵素であることを示す。この結果は、Mca endoV が好ましい活性を示すことができるMg2+濃度は、1 mM以上または2 mM以上であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のエンドヌクレアーゼVの核酸切断活性を示す電気泳動図である。
【図2】本発明のエンドヌクレアーゼVの様々な温度条件下における活性を示す図である。
【図3】本発明のエンドヌクレアーゼVの耐熱性を示す図である。
【図4】本発明のエンドヌクレアーゼVの様々なpH条件下における活性を示す図である。
【図5】本発明のエンドヌクレアーゼVの様々なMg2+濃度条件下における活性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたタンパク質であって、エンドヌクレアーゼV活性を有し、かつ45℃以上60℃未満の範囲内で至適活性を示すことのできる耐熱性を有し、かつ以下の(a)または(b)の配列を有するタンパク質;
(a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列、
(b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が付加、欠損、若しくは置換されたアミノ酸配列。
【請求項2】
メチロコッカス カプスラタス(Methylococcus capsulatus)由来の耐熱性エンドヌクレアーゼVである請求項1のタンパク質。
【請求項3】
請求項1または2のタンパク質をコードする塩基配列を有する単離された耐熱性エンドヌクレアーゼV遺伝子。
【請求項4】
請求項3の耐熱性エンドヌクレアーゼV遺伝子であって以下の(c)または(d)のDNAを有する遺伝子;
(c) 配列番号1に示される塩基配列を含むDNA、
(d) 配列番号1に示される塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項5】
請求項3または4の耐熱性エンドヌクレアーゼV遺伝子をベクターDNAに挿入した組換え体DNA。
【請求項6】
請求項5の組換え体DNAを含む形質転換体または形質導入体。
【請求項7】
請求項6の形質転換体または形質導入体を培養し、培養物から請求項1または2の耐熱性エンドヌクレアーゼVを採取する、耐熱性エンドヌクレアーゼVの製造法。
【請求項8】
請求項1または2の耐熱性エンドヌクレアーゼVを用いる核酸の切断方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−29089(P2010−29089A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193547(P2008−193547)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【Fターム(参考)】