説明

耐熱超音波センサ及びその設置方法

【課題】プラント運転中においてプラントの構造部材の欠陥を精度良く検出できる耐熱超音波センサを提供する。
【解決手段】耐熱超音波センサ1は、可撓性を有する金属薄板2の上に厚みが0.5mm以下でキューリ点が200℃以上の圧電セラミックス膜3を形成している。電極である金属薄膜4が圧電セラミックス膜3の上面に取り付けられ、金属線メッシュ5が、金属薄膜4を覆って金属薄膜4の上面に取り付けられる。耐熱同軸ケーブル7の芯線9が接続点6で金属線メッシュ5に接続される。耐熱同軸ケーブル7は、グランド部である金属製の固定部材8で金属薄板2に固定される。電気絶縁カバー10が、金属薄板2に取り付けられて、圧電セラミックス膜3、金属薄膜4、金属線メッシュ5、接続点6、固定部材8、及び同軸ケーブル7の芯線9を覆っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱超音波センサ及びその設置方法に係り、特に、原子力発電プラント、火力発電プラント及び化学プラントなどのプラントにおいて運転中に高温になる構造部材を対象にした減肉、き裂進展及び構造部材の材料変化などを監視するのに好適な耐熱超音波センサ及びその設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発電プラントなどのプラントでは、運転中に高温になる構造部材の健全性を評価するため、プラントの定期検査において構造部材の検査対象部位を検査可能な温度まで低下させるか、あるいは温度の低下を予測して検査対象部位の検査を実施している。その検査においては、構造部材表面の健全性を評価する表面検査であれば目視検査及び渦電流検査を、減肉及びき裂など構造部材の内部あるいは裏面の健全性を評価する体積検査であれば、超音波検査を用いている。しかしながら、近年において、発電プラントの高経年化、検査効率の向上、さらにはプラントの稼働率向上の観点から、プラント運転時における高温環境下で、連続的に構造部材の健全性を監視したいとの要望が高まっている。
【0003】
従来の定期検査における超音波検査では、検査対象物が配管であってその減肉を検査する場合、及び検査対象物が単純な形状を有する構造部材である場合には、単一素子の超音波センサ(1つの圧電素子を有する)が用いられている。また、近年、検査対象物が複雑な形状を有する構造部材、及び構造部材の溶接部近傍の検査には、アレイ型の超音波センサ(複数の圧電素子を有する)が用いられるようになった。
【0004】
以上に述べた各超音波センサでは、その製作過程において、単結晶の圧電材料からなる圧電素子、または細い円柱状の圧電素子をエポキシ系樹脂で固化したコンポジット素子が、前面板と呼ばれる樹脂板の表面にエポキシ系接着剤で接着して固定される。また、超音波センサの内部には、圧電素子を制動し波数を制御するためにバッキング材が用いられている。このバッキング材も主成分としてエポキシ系樹脂を用いている場合が多い。このため、単一素子の超音波センサ及びアレイ型超音波センサは、一般に柔軟性がない。これらの超音波センサを、曲面の表面を有する検査対象物のその曲面に当て検査を行う場合には、前面板の先端に取付けるシューに曲面を形成することによって対応している。
【0005】
一方、曲面の表面を有する検査対象物に対して超音波検査を行うために、可撓性のある材料(ポリイミドなど)で前面板を構成し、さらにこの前面板に取り付ける圧電素子としてフレキシブルなコンポジット材を用いたシート状の超音波センサが提案されている(例えば、曲がる、そして薄〜い垂直探触子、シート探触子((有)アイ・エス・エル 技術資料)参照)。
【0006】
さらに、Proc. of 2006 IEEE Ultrasonics Symposium “A Piezoelectric Membrane Sensor for Biomedical Monitoring”pp.800-803に記載されているように、ポリイミドフィルムの上に、ゾルゲル法を用いて薄い圧電セラミックスを形成することにより、フレキシブルな圧電素子が製造できることが知られている。
【0007】
また、運転中の発電プラントなどの高温環境下で使用可能な単一型超音波センサやアレイ型超音波センサが提案されている(特許第2986581号公報、特許第4244172号公報及び特開平8−223696号公報参照)。
【0008】
特許第2986581号公報に記載された耐熱超音波センサは、SiC系またはSi系セラミックス製である前面板を有し、この前面板にPbNb系またはPbTiO系の圧電振動子を、はんだにより接合している。この耐熱超音波センサは、約250℃程度の高温で使用が可能である。
【0009】
特許第4244172号公報に記載された耐熱超音波センサは、正極電極と負極電極の間に、チタン酸バリウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、酸化亜鉛等が含まれる圧電セラミックス材料で構成された超音波振動子を配置している。この耐熱超音波センサは、700℃までは問題なく使用が可能である。
【0010】
特開平8−223696号公報に記載された耐熱超音波センサは、チタン酸鉛系セラミックを圧電材料として用いた複数の圧電体を有しており、300℃までの使用が可能である。
【0011】
また、耐熱超音波センサを検査対象物の表面に取り付ける設置方法の一例が、特開平11−304777号公報に記載されている。この設置方法では、軟質緩衝金属板を耐熱超音波センサと高温の検査対象物との間に配置し、耐熱超音波センサを検査対象物の表面に向かって押付けてその軟質緩衝金属板を塑性変形させて耐熱超音波センサを検査対象物の表面に密着させている。
【0012】
ゾルゲル膜の製作方法が、T.IEE Japan, Vol. 121-E, No.9, (2001)'Preparation of piezoelectric PZT micro-discs by sol-gel method'及びJ. Am. Ceram. Soc., 91 [7] pp.20792082 (2008) 'Low-Temperature Synthesis of Bismuth Titanate by an Aqueous SolGel Method'に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2986581号公報
【特許文献2】特許第4244172号公報
【特許文献3】特開平8−223696号公報
【特許文献4】特開平11−304777号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】曲がる、そして薄〜い垂直探触子、シート探触子((有)アイ・エス・エル 技術資料)(http://www1.kcn.ne.jp/~isl/pdf/sheet01j.pdf)
【非特許文献2】Proc. of 2006 IEEE Ultrasonics Symposium “A Piezoelectric Membrane Sensor for Biomedical Monitoring”pp.800-803
【非特許文献3】T.IEE Japan, Vol. 121-E, No.9, (2001)'Preparation of piezoelectric PZT micro-discs by sol-gel method'
【非特許文献4】J. Am. Ceram. Soc., 91 [7] pp.20792082 (2008) 'Low-Temperature Synthesis of Bismuth Titanate by an Aqueous SolGel Method'
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
運転中の発電プラントなどのプラントでは、検査対象物である高温の構造部材は、配管等の外面に曲面を有する部材が多い。特に、超音波センサを用いて検査を行いたい溶接部の表面は、曲面形状になっている。特開平11−304777号公報に記載されているように、軟質緩衝金属板を耐熱超音波センサと高温の構造部材の間に配置し、軟質緩衝金属板を塑性変形させて耐熱超音波センサを検査対象物の表面に密着させる場合には、軟質緩衝金属板を耐熱超音波センサと高温の構造部材の間に配置して塑性変形させる必要があるため、耐熱超音波センサの取り付けが面倒であり、耐熱超音波センサの構造部材の表面への取り付けに長時間を要する。
【0016】
そして薄〜い垂直探触子、シート探触子((有)アイ・エス・エル 技術資料)、及び
Proc. of 2006 IEEE Ultrasonics Symposium “A Piezoelectric Membrane Sensor for Biomedical Monitoring”pp.800-803に記載されたそれぞれの超音波センサは、エポシキ系接着剤及び樹脂、さらには前面板にポリイミドを使用しているため、上限の耐熱温度が80℃程度である。80℃を超える温度では、エポシキ系接着剤及び樹脂が熱的損傷により接着面からはく離するため、その超音波センサで超音波の送・受信ができなくなる。したがって、これらの超音波センサは、運転中において、発電プラントなどのプラントの高温の構造部材に対する検査に用いることができない。
【0017】
本発明の目的は、プラント運転中においてプラントの構造部材の欠陥を精度良く検出できる耐熱超音波センサ及びその設置方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、可撓性を有する金属板と、金属板の上に取り付けられて、厚みが0.5mm以下のキューリ点が200℃以上の圧電セラミックス部と、圧電セラミックス部の上に配置されて圧電セラミックス部に接続された電極部材とを備えたことにある。
【0019】
可撓性を有する金属板の上に、厚みが0.5mm以下のキューリ点が200℃以上の圧電セラミックス部が取り付けられているので、金属板を曲げても圧電セラミックス部にひび割れが生じない。このため、耐熱超音波センサを検査対象物である、プラントの構造部材の曲面を有する表面に取り付ける際に、耐熱超音波センサの可撓性を有する金属板を、その構造部材の曲面の曲率に合わせて曲げても、圧電セラミックス部が金属板からはがれず、前記曲率で曲げられて圧電セラミックス部が正常に取り付けられている金属板を、構造部材の曲面上にこの曲面に沿って取り付けることができる。このため、圧電セラミックス部で発生した超音波を検査対象物に効率良く入射することができ、その超音波の入射により検査対象物で生じた反射波を効率良く圧電セラミックス部で受信できる。また、金属板及びキューリ点が200℃以上の圧電セラミックス部が存在するので、プラントの運転中において高温になっている構造部材に耐熱超音波センサを取り付けることができる。したがって、プラントの運転中において高温になる構造部材の表面に曲面が形成された箇所で構造部材に生じている欠陥(き裂及び減肉等)を精度良く検出することができる。
【0020】
好ましくは、金属線メッシュが電極部材に取り付けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、プラントの運転中において高温になる構造部材に生じている欠陥を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の耐熱超音波センサの縦断面図である。
【図2】図1に示す耐熱超音波センサの電気絶縁カバーを外した状態での平面図である。
【図3】図1に示す耐熱超音波センサを、曲面を有する配管の外面に設置した状態を示す説明図である。
【図4】図1に示す耐熱超音波センサを、保温材が取り付けられた配管において、保温材と配管の間に配置してその配管の外面に設置した状態を示す説明図である。
【図5】本発明の他の実施例である実施例2の耐熱超音波センサの縦断面図である。
【図6】図5に示す耐熱超音波センサの電気絶縁カバーを外した状態での平面図である。
【図7】本発明の他の実施例である実施例3のマルチ耐熱超音波センサの縦断面図である。
【図8】図7に示すマルチ耐熱超音波センサの電気絶縁カバーを外した状態での平面図である。
【図9】本発明の他の実施例である実施例4のマルチ耐熱超音波センサの縦断面図である。
【図10】図9に示すマルチ耐熱超音波センサの絶縁カバーを外した状態での平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施例を、以下に説明する。
【実施例1】
【0024】
本発明の好適な一実施例である実施例1の耐熱超音波センサを、図1及び図2を用いて詳細に説明する。
【0025】
本実施例の耐熱超音波センサ1は、金属薄板(可撓性を有する金属板)2、圧電セラミックス膜3、金属薄膜(電気部材)4、金属線メッシュ5及び同軸ケーブル7を備えている。金属薄板2の形状は矩形であり、圧電セラミックス膜3、金属薄膜4及び金属線メッシュ5のそれぞれの形状は円形である。
【0026】
金属薄板2は、可撓性を有する金属板であり、例えば、ステンレス鋼で作られて0.1mmの厚みを有する。金属薄板2は、耐熱超音波センサ1を取り付ける検査対象物(例えば、図3に示す配管12)を構成する金属材料の熱膨張係数に対して±20%以内の熱膨張係数を有する金属材料で構成する。検査対象物がステンレス鋼で作られている場合には、金属薄板2としてステンレス鋼を用いることが望ましい。金属薄板2の金属材料を、検査対象物を構成する金属材料の熱膨張係数に対して±20%以内の熱膨張係数を有する金属材料にする理由は、高温状態の検査対象物とこの検査対象物の表面に取り付けた、耐熱超音波センサ1の金属薄板2との熱膨張差が大きくなると、その熱膨張差により発生する応力に起因して金属薄板2が検査対象物からはく離するのを避けるためである。
【0027】
圧電セラミックス膜3が金属薄板2の一面に形成されている。電極である金属薄膜4が圧電セラミックス膜3の上面に取り付けられる。さらに、金属線メッシュ5が、金属薄膜4の上面に取り付けられ、金属薄膜4を覆っている。同軸ケーブル7の芯線9が接続点6で金属線メッシュ5に接続されている。同軸ケーブル7は、グランド部である金属製の固定部材8で金属薄板2に固定される。電気絶縁カバー10が、金属薄板2に取り付けられて、圧電セラミックス膜3、金属薄膜4、金属線メッシュ5、接続点6、固定部材8、及び同軸ケーブル7からむき出しになった芯線9を覆っている。
【0028】
金属薄板2の厚みは、音響的な整合層の役割を果たすため、その上に形成される圧電セラミックス膜3の圧電セラミックで生じる振動の周波数に基づいて得られる厚さ以下に設定される。具体的には、金属薄板2の厚さをT、金属薄板2内の音速をV、圧電セラミックス膜3の圧電セラミックスで生じる振動の周波数をFとしたとき、金属薄板2の厚みは、式(1)を満足するように設定される。
【0029】
T≦V/4F ……(1)
例えば、金属薄板2がステンレス鋼製である場合、金属薄板2内の音速は約5800m/sである。圧電セラミックス膜3の圧電セラミックで生じる振動の周波数が5MHzである場合には、金属薄板3の厚みは、式(1)に5800m/s及び5MHzを代入することにより、0.29mm以下となる。この結果に基づいて、金属薄板2の厚みを0.2mmにした。
【0030】
また、耐熱超音波センサ1の柔軟性を向上させて可撓性を持たせる観点から、金属薄板2の柔軟性を確認してその厚みを決定し、決定したその厚み及び金属薄板2内の音速を式(1)に代入して圧電セラミックス膜3の圧電セラミックスで生じる振動の周波数Fを求めてもよい。そして、この周波数Fで振動する圧電セラミックス膜3の厚みを決める。圧電セラミックス膜3の圧電セラミックスで生じる振動の周波数Fは、圧電セラミックスの材質及び圧電セラミックス膜3の厚みに基づいて決めることができる。このため、圧電セラミックスの材質が決まれば、圧電セラミックス膜3の厚みは、その振動の周波数Fによって求めることができる。
【0031】
圧電セラミックス膜3は、200℃以上のキューリ点を有する圧電セラミックスによって形成される。この圧電セラミックスとしては、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti1−x)O)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブ酸カリウム(KNbO)、チタン酸ビスマス(BiTi12)、リン酸ガリウム(GaPO)、及びこれらの物質から選ばれた少なくとも二種類の物質の混合物の中から選択された一種類の物質を用いる。
【0032】
金属薄板2上への円形の圧電セラミックス膜3の形成は、圧電セラミックスとなる上記した物質のうち一種類の物質(例えば、チタン酸鉛)を用いて、Proc. of 2006 IEEE Ultrasonics Symposium “A Piezoelectric Membrane Sensor for Biomedical Monitoring”pp.800-803、T.IEE Japan, Vol. 121-E, No.9, (2001)'Preparation of piezoelectric PZT micro-discs by sol-gel method'、及びJ. Am. Ceram. Soc., 91 [7] pp.20792082 (2008) 'Low-Temperature Synthesis of Bismuth Titanate by an Aqueous SolGel Method'に記載されているように、ゾルゲル法により行われる。圧電セラミックス膜3の厚みは、Proc. of 2006 IEEE Ultrasonics Symposium “A Piezoelectric Membrane Sensor for Biomedical Monitoring”pp.800-803に記載されているように、ゲル化された液状圧電セラミックスの金属薄板2への塗布回数で調節できる。圧電セラミックス膜3は金属薄板2上に直接形成することができる。金属薄板2上への圧電セラミックス膜3の形成は、スプレーコート法(液状圧電セラミックスの吹き付け)、ディップ法(液状圧電セラミックス内への金属薄板2の浸漬)またはT.IEE Japan, Vol. 121-E, No.9, (2001)'Preparation of piezoelectric PZT micro-discs by sol-gel method'に記載されているように、スピンコート法によって行っても良い。
【0033】
本実施例での圧電セラミックス膜3の厚みは、例えば、0.1mmである。圧電セラミックス膜3の厚みは0.5mm以下にする。圧電セラミックス膜3の厚みが0.5mmを超えると、可撓性を有する金属薄板を曲げたときに圧電セラミックス膜3にひび割れが生じて圧電セラミックス膜が金属薄板2からはがれ、耐熱超音波センサ1の機能が消失する。このような事態は、圧電セラミックス膜3の厚みを0.5mm以下にすることにより避けることができる。圧電セラミックス膜3の形成に用いられる前述した物質のうち、チタン酸鉛以外の物質で形成した圧電セラミックス膜3においても、上記した理由で、厚みを0.5mm以下にする。
【0034】
金属薄膜5の材質はニッケル(ニッケル系合金含む)、銀、金または白金であり、金属薄膜5の厚みは0.1mm〜0.2mmである。本実施例では、金属薄膜5の厚みは、例えば、0.2mmになっている。電極である金属薄膜4の圧電セラミックス膜3上への形成は、蒸着、メッキ、スパッタリングまたはスクリーンコーティングによりニッケル(ニッケル系合金含む)、銀、金及び白金のいずれかの金属を、圧電セラミックス膜3上に付着させることによって行われる。
【0035】
金属線メッシュ5が、金属薄膜4の上を覆っており、金属ペースト、ろう付け及び高温はんだのいずれかを用いて金属薄膜4に接合される。その高温はんだとしては、耐熱超音波センサ1が設置される場所の最高温度よりも高い溶融温度を有するはんだを用いる。金属線メッシュ5を構成する材料は、ニッケル(ニッケル系合金含む)、銀、金または白金などの、高温環境において、酸化及び腐食に耐性があり、さらに耐熱性がある同軸ケーブル7の心線9との接続性の良い材料を用いる。金属線メッシュ5を構成するそれぞれの金属線は、単線ではなく複数の細線を撚り合せた撚り線を用いている。金属線メッシュ5は、金属ペースト、ろう付け及び高温はんだのいずれかを用いて金属薄膜4の上面に接合されている。金属ペースト等の接合材料が金属線メッシュ5の間に入り込むため、金属線メッシュ5は、可撓性を維持しつつ高温で安定に電気的導通が得られる電極を構成する。
【0036】
固定部材8で金属薄板2に固定されている耐熱同軸ケーブル7の芯線9は、金属ペースト、ろう付け及び高温はんだのいずれかにより接続点6で金属線メッシュ5に接続される。さらに、耐熱同軸ケーブル7を金属薄板2に固定する固定部材8は、金属ペースト、ろう付け及び高温はんだのいずれかの接合材料を用いて金属薄板2に固定される。耐熱同軸ケーブル7のグランド線が、グランド部でもある固定部材8に接続される。電気絶縁カバー10は、耐熱性絶縁シート、ガラス繊維及びセラミックス繊維のいずれかで構成され、耐熱超音波センサ1の要素である圧電セラミックス膜3、金属薄膜4、金属線メッシュ5、接続点6、固定部材8、及び同軸ケーブル7からむき出しになった芯線9を電気的に外部部材から絶縁し、圧電セラミックス膜3の圧電セラミックスを破壊から保護する機能を有している。電気絶縁カバー10は、機械的に金属薄板2に固定し、または耐熱接着剤を用いて金属薄板2に接着しても良い。
【0037】
芯線9は、金属線メッシュ5に編み込まれて金属線メッシュ5に接続される。芯線9が金属線メッシュ5に編み込まれているので、芯線9は金属線メッシュ5からはがれることはない。
【0038】
本実施例の耐熱超音波センサ1は可撓性の金属薄板2の上に0.5mm以下の厚みを有する圧電セラミックス膜3を形成しているので、金属薄板2を曲げることによって、表面に曲面を形成して高温状態になる、検査対象である構造部材(例えば、配管)のその曲面の形状に合わせて、耐熱超音波センサ1の金属薄板2及び圧電セラミックス膜3を曲げることができる。このため、金属薄板2の、構造部材の曲面に対向する裏面の大部分(実質的に全面)を、構造部材のその曲面に接触させることができ、金属薄板2の裏面の、構造部材の曲面と接触する領域が、著しく増加する。具体的には、金属薄板2の裏面の実質的に全面を、構造部材の、その裏面と対向する曲面に厚みが均一な耐熱接合材の薄い層を介して接触させることができる。
【0039】
本実施例では、金属薄膜4の厚みも0.1mm〜0.2mmと薄いため、金属薄膜4によって、圧電セラミックス膜3を形成した金属薄板2を曲げることに支障が生じることはない。
【0040】
金属薄板2としてステンレス鋼を用い、キューリ点が250℃のチタン酸鉛を用いて圧電セラミックス膜3を形成している本実施例の耐熱超音波センサ1は、キューリ点よりも低い200℃の高温になる構造物に対する超音波を用いた検査を実施することができる。前述したチタン酸鉛、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、チタン酸ビスマス及びリン酸ガリウムにおいて、キューリ点が最も高い物質はニオブ酸リチウムであってこのキューリ点は1200℃であり、キューリ点が最も低い物質はチタン酸鉛であってこのキューリ点は250℃である。それらの物質のいずれかで構成した圧電セラミックス膜3を有する耐熱超音波センサ1は、その物質に対応して、200℃から1000℃の高温状態になる構造部材に対して超音波を用いた検査を実施することができる。
【0041】
圧電セラミックス膜3に含まれる圧電セラミックスとして使用できる物質を表1に示す。表1には、圧電セラミックスとして使用できる物質のキューリ点及びその物質の使用温度が示される。
【0042】
【表1】

【0043】
電極である金属薄膜4に取り付けた金属線メッシュ5に芯線9を接続しているので、本実施例では、芯線9が金属線メッシュ5から剥がれにくくなり、芯線9と金属薄膜4の電気的な接続関係が損なわれることはない。芯線9を金属ペースト等の接合剤を用いて金属薄膜4に直接接続した場合には、芯線9が金属薄膜4から剥がれ易く、圧電セラミックス膜3への電圧の印加が不能になって圧電セラミックスにおける超音波の発生ができなくなる。金属薄膜4に取り付けた金属線メッシュ5に芯線9を接続している本実施例では、芯線9と金属薄膜4との電気的な接続関係が維持されなくて圧電セラミックスにおける超音波の発生が途絶えるという事態が生じない。
【0044】
また、撚り線で構成されている金属線メッシュ5は金属線の軸方向に伸び縮みできるので、高温状態における金属線メッシュ5と芯線9の熱膨張差を金属線メッシュ5で吸収することができる。このため、その熱膨張差によって、芯線9が金属線メッシュ5から剥がれることを防止することができる。さらに、金属線メッシュ5を用いることによって、圧電セラミックス膜3を形成した金属薄板2を、耐熱超音波センサ1を取り付ける検査対象物の曲面を有する表面に合わせて曲げるときにも、金属線メッシュ5が伸びるので、金属薄板2を曲げた後においても、芯線9と金属薄膜4との電気的な接続関係を維持することができる。
【0045】
本実施例では、撚り線を用いて金属線メッシュ5を構成しているが、単線である細線を用いて金属線メッシュ5を構成しても良い。このような単線である細線を用いて構成した金属線メッシュを用いても、撚り線により構成された金属線メッシュ5と同様な効果を得ることができる。
【0046】
本実施例の耐熱超音波センサ1を用いた発電プラント、例えば、原子力プラントの構造部材(例えば、配管)の超音波検査を、図3を用いて説明する。耐熱超音波センサ1の金属薄板2を、耐熱超音波センサ1を取り付ける検査対象物である、原子力プラントの構造部材である配管12の外面の曲率と同じ曲率になるように、曲げる。その後、金属薄板2の裏面に超音波の伝播特性の良い無機系高温接着剤11を塗布する。この無機系高温接着剤11を塗布した、金属薄板2の裏面を配管12の外面に対向させてその外面に接触させ、耐熱超音波センサ1を配管12に向かって押し付ける。このようにして、耐熱超音波センサ1が、耐熱接合材である無機系高温接着剤11により、表面に曲面を有する検査対象物である配管12の外面に取り付けられる。もし、耐熱超音波センサ1の配管12からの落下防止策が必要な場合には、耐熱超音波センサ1を、耐熱性絶縁シート、ガラス繊維またはセラミックス繊維を用いて配管12に機械的にさらに固定しても良い。また、無機系高温接着剤11の替りに、高温はんだを用いて耐熱超音波センサ1の金属薄板2を配管12の外面に取り付けても良い。金属薄板2を配管12の外面に接合する際には、無機系高温接着剤11または高温はんだの厚みを均一にする。この結果、耐熱超音波センサ1による配管12の検査精度が向上する。
【0047】
耐熱超音波センサ1を、既設の原子力発電プラントであれば、この原子力発電プラントの定期検査期間において、また、新設の原子力発電プラントであれば、最初の運転開始前において、それぞれの原子力発電プラントにおける検査対象物である、例えば、配管12に、上記したように、取り付けられる。新設及び既設のそれぞれの原子力発電プラントが運転を開始した後においても、配管12等の検査対象物に対して、耐熱超音波センサ1による超音波検査を継続して実行する。
【0048】
配管12を対象にした、耐熱超音波センサ1による超音波検査について、説明する。同軸ケーブル7の芯線9により印加された電圧は、接続点6、金属線メッシュ5及び金属薄膜4を介して圧電セラミックス膜3に印加される。圧電セラミックス膜3の圧電セラミックスは、電圧の印加により振動し、超音波を発生する。この超音波は、圧電セラミックスから送信され、金属薄板2を経て配管12に入射される。超音波の入射により、配管12で反射された反射波が圧電セラミックス膜3の圧電セラミックスで受信される。圧電セラミックスは、反射波の受信により受信信号を出力する。この受信信号は、金属薄膜4、金属線メッシュ5及び接続点6を通り、さらに、耐熱同軸ケーブル7の芯線9を経て後述の超音波送受信器に入力される。
【0049】
原子力発電プラントの運転時において、配管12は内部を流れる炉水により加熱されて100〜300℃になる。しかしながら、耐熱超音波センサ1は、金属薄板2を用いて、金属薄膜2の表面の一面にキューリ点が250℃のチタン酸鉛を用いて圧電セラミックスを形成しているので、配管12に耐熱超音波センサ1を取り付けた状態で、原子力発電プラントの運転時においても、200℃までの高温になる配管12の超音波検査を実施することができる。さらに高い温度の300℃の高温になる配管12の超音波検査を実施するためには、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、チタン酸ビスマス、リン酸ガリウム、窒化アルミニウムなど更にキューリ点の高い圧電セラミックスを形成する必要がある。耐熱超音波センサ1を、配管12等の、原子力発電プラントの構造部材に取り付けることによって、原子力発電プラントの運転中においても、その構造部材の健全性を監視することができる。また、その構造部材に減肉またはき裂が生じている場合には、原子力発電プラントの運転中において、減肉またはき裂の進展の度合いを監視することができる。
【0050】
特に、厚みが0.1mmである金属薄板(可撓性を有する金属板)2を用いてこの金属薄板2の表面の一面に厚みが0.1mmである圧電セラミックス膜3を形成しているので、圧電セラミックス膜3が割れることなく、圧電セラミックス膜3を形成した金属薄板2を自由に曲げることができる。このため、前述したように、圧電セラミックス膜3を形成した金属薄板2を、配管12の外面の曲率に合せて、すなわち、配管12外面の曲率と同じ曲率で曲げることができる。検査対象物である配管12の外面の曲面の形状に合わせて曲げた金属薄板2を、配管12の外面の曲面に沿って配置してこの曲面に取り付けることができるため、圧電セラミックス膜3の圧電セラミックスで発生した超音波を、配管12の外面の曲面から配管12内に効率よく入射させることができ、その入射された超音波が配管12に生じた欠陥(減肉及びき裂等)で反射して生じた反射波を効率良くその圧電セラミックスで受信できる。また、金属板2及びキューリ点が200℃以上の圧電セラミックス膜3が存在するので、原子力発電プラントの運転中において高温になっている配管12の曲面に、上記したように、耐熱超音波センサ1を取り付けることができる。このため、耐熱超音波センサ1は、原子力発電プラントの運転中においても、配管12に生じた欠陥(減肉及びき裂等)を精度良く検出することができ、その欠陥の進展の度合いを精度良く監視することができる。特に、金属薄板2と配管12の外面の間に存在して金属薄板2と配管12の外面に取り付けている無機系高温接着剤11の厚みを、金属薄板2の裏面の前面において均一にすることができる。このため、耐熱超音波センサ1による配管12に生じた欠陥(減肉及びき裂等)の検出精度がさらに向上する。
【0051】
本実施例の耐熱超音波センサ1は、前述のように、金属薄板2、金属薄膜4及び金属線メッシュ5などを用いて、薄くかつ可撓性を有する構造にしているため、耐熱超音波センサ1の自重を軽くすることができる。このため、耐熱超音波センサ1の取り扱いが容易になり、耐熱超音波センサ1の配管12等の、検査対象物である構造部材への取り付けも容易になる。また、耐熱超音波センサ1の配管12等の、検査対象物である構造部材への取り付けには、特開平11−304777号公報に記載されたような軟質緩衝金属板を塑性変形させるような大きな押しつけ力が不要である。また、本実施例はシューの使用が不要である。
【0052】
発電プラント及び化学プラントにおいては、保温材が、高温状態になる配管及び容器等の外面に取り付けられているケースが多い。本実施例の耐熱超音波センサ1を保温材に取り囲まれている配管または容器等の外面に取り付け、プラントの運転時において、その配管または容器の欠陥(減肉及びき裂等)を検出し、その欠陥の進展を監視することができる。
【0053】
保温材で取り囲まれた配管または容器等の外面への耐熱超音波センサ1の取り付けを、配管を対象に、図4を用いて説明する。
【0054】
例えば、原子力発電プラントでは、保温材13が、配管12の外面を取り囲んで配置され、配管13に取り付けられている。このような配管12に対しては、耐熱超音波センサ1を配管12と保温材13の間に配置して、耐熱超音波センサ1を配管12の曲面を有する外面の曲面に、前述したように、取り付ける。耐熱超音波センサ1の配管12の外面への取り付けに際しては、取り付ける箇所の保温材13を配管12から取り外し、前述したように、耐熱超音波センサ1の金属薄板2を配管12の外面の曲率に合わせて曲げ、例えば、無機系高温接着剤11によって、曲げた金属薄板2を配管12の外面に取り付ける。耐熱超音波センサ1の無機系高温接着剤11による配管12の外面への取り付けが終了した後、耐熱性絶縁シート、ガラス繊維、セラミックス繊維などの予備固定具14を用いて、耐熱超音波センサ1を配管12に固定する。その後、取り外した保温材13を配管12に取り付ける。このとき、耐熱超音波センサ1は保温材13で覆われている。耐熱超音波センサ1の配管12への取り付けには、予備固定具14を用いなくても良い。
【0055】
耐熱超音波センサ1の金属線メッシュ5に芯線9が接続されている耐熱同軸ケーブル7は、配管12と保温材13の間を通して、配管12の軸方向における保温材13の合わせ目から保温材13の外部に取り出され、超音波送受信器15に接続される。超音波送受信器15はデータ収録装置16に接続される。
【0056】
前述したように、圧電セラミックス膜3が形成された金属薄板2を、配管12の外面の曲率に合わせて曲げることができるので、厚みの薄い耐熱超音波センサ1を配管12と保温材13の間に容易に配置することができる。したがって、高温状態になる、保温材13に覆われた配管12における欠陥(減肉及びき裂等)の検出、及びその欠陥の監視を、耐熱超音波センサ1を用いて原子力発電プラントの運転中に行うことができる。
【0057】
前述したように、圧電セラミックス膜6の圧電セラミックスで発生した超音波は、配管12に入射される。この超音波の入射によって配管12で生じた反射波は、圧電セラミックスで受信され、反射波の受信信号が出力される。この受信信号が、耐熱同軸ケーブル7の芯線9を通って、超音波送受信器15に入力される。超音波送受信器15は、入力した受信信号を処理し、配管12に欠陥(減肉及びき裂等)が生じているかを検出する。超音波送受信器15は、入力した受信信号、及び欠陥が生じている部分の情報を、データ収録装置605に格納する。
【0058】
配管12に生じている減肉は、以下のようにして検出することができる。超音波受信器15は、配管12の内面で反射された反射波(底面反射エコー)の受信信号を入力し、この反射波の受信時間とこの反射波を発生させるために配管12に入射した超音波の入射時間の差、及び配管12を伝わる音速に基づいて配管12の肉厚を算出する。算出された肉厚の時間変化を計測することによって、配管12の減肉を監視することができる。
【0059】
また、配管12内に生じているき裂の検出は、き裂が生じる可能性の高い、配管12の部位に耐熱超音波センサ1を設置し、配管12において、底面反射エコーよりも時間的に早い位置(配管12の外面に近い位置)でエコーが発生したかを確認することによって行われる。このき裂の深さ(き裂の高さ)は、配管12の内面(底面)からのエコーとき裂の上端で生じるエコーの時間差を求め、この時間差に配管12内での音速を掛けて求めることができる。
【0060】
耐熱超音波センサ1の圧電セラミック膜3に用いる物質は、耐熱超音波センサ1を取り付ける、プラントの構造部材の温度に対応して設定しても良い。例えば、沸騰水型原子力発電プラントにおいて、原子炉に接続される給水配管の、高圧給水加熱器の最終段よりも下流では給水配管の温度が運転中で210℃になるので、給水配管のこの部分の外面に取り付ける耐熱超音波センサ1の圧電セラミックス膜3にはチタン酸ジルコン酸鉛を用いる。また、沸騰水型原子力発電プラントにおいて、原子炉に接続される再循環系配管及び主蒸気配管は運転中で約280℃になるので、これらの配管の外面に取り付ける耐熱超音波センサ1の圧電セラミックス膜3にはチタン酸ビスマスを用いる。加圧水型原子力発電プラントにおいて、原子炉及び蒸気発生器に接続される一次冷却水配管は運転中で320℃になるので、一次冷却水配管の外面に取り付ける耐熱超音波センサ1の圧電セラミックス膜3にはチタン酸ビスマスを用いる。火力発電プラントにおいて、ボイラに接続される主蒸気配管の温度が運転中で600℃になるので、主蒸気配管の外面に取り付ける耐熱超音波センサ1の圧電セラミックス膜3にはニオブ酸リリウムを用いる。
上記の例示に限らず、それぞれの配管の温度よりも高い温度のキューリ点を有する物質で構成された圧電セラミックス膜3を有する耐熱超音波センサ1であれば、そのキューリ点よりも低い温度の複数の配管に設置することができる。
【実施例2】
【0061】
本発明の他の実施例である実施例2の耐熱超音波センサを、図5及び図6を用いて説明する。
【0062】
本実施例の耐熱超音波センサ1Aは、実施例1の耐熱超音波センサ1において、圧電セラミックス膜3を、小片である複数の結晶性圧電セラミックス17Aを含む圧電セラミックス集合体17に替えた構成を有している。耐熱超音波センサ1Aの他の構成は耐熱超音波センサ1と同じである。
【0063】
小片の結晶性圧電セラミックス17Aは、市販されている単結晶の圧電セラミックスを割って使用する。各結晶性圧電セラミックス17Aは、無機系高温接着剤によって、底面が金属薄板2の表面の一面に、上面が金属薄膜4の下面にそれぞれ接着される。結晶性圧電セラミックス17Aの底面を金属薄板2の上面に接合している無機系高温接着剤の接合部18が、金属薄板2の上面に形成される。各結晶性圧電セラミックス17Aは、無機系高温接着剤の替りに、金属ペースト、ろう付けまたは高温はんだによって金属薄板2及び金属薄膜4に接着しても良い。複数の結晶性圧電セラミックス17Aを含む圧電セラミックス集合体17の高さ(実施例1における圧電セラミックス膜3の厚みに相当)、すなわち、各結晶性圧電セラミックス17Aの高さは、実施例1における圧電セラミックス膜3の厚みと同じである0.5mmである。圧電セラミックス集合体17の高さ、すなわち、各結晶性圧電セラミックス17Aの高さは0.5mm以下にする。
【0064】
小片の結晶性圧電セラミックス17Aの寸法(小片の直径)は、耐熱超音波センサ1Aを取り付ける設置対象物の曲面を有する表面の曲率半径に応じて決定する。小片の結晶性圧電セラミックス17Aの代表寸法(小片の直径)は、設置対象物の曲面の曲率半径の5分の1以下の大きさ、例えば、1.0mmとする。小片の結晶性圧電セラミックス17Aの直径を設置対象物の曲面の曲率半径の5分の1以下の大きさにしているので、多数の小片の結晶性圧電セラミックス17Aが接着された金属薄板2を、設置対象物の曲面に沿って曲げた場合でも、それらの結晶性圧電セラミックス17Aが金属薄板2から剥がれることを防止できる。
【0065】
結晶性圧電セラミックス17Aは、250℃以上のキューリ点を有する圧電セラミックスである、チタン酸鉛(PbTiO、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti1−x)O)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブ酸カリウム(KNbO)、チタン酸ビスマス(BiTi12)、リン酸ガリウム(GaPO)、及び窒素化アルミニウム(AlN)のいずれかの単結晶の小片である。
【0066】
結晶性圧電セラミックス17Aの相互間は、なにも詰めないで空間の状態にする。また、各結晶性圧電セラミックス17Aを取り付けた金属薄板2の可撓性を妨げない程度に、結晶性圧電セラミックス17Aの相互間に非導電性無機系接着剤を流し込んで、その相互間を非導電性無機系接着剤で埋めても良い。
【0067】
本実施例の耐熱超音波センサ1Aは、原子力発電プラントの配管または容器等の曲面を有する表面に、図3または図4に示すように、取り付ける。この耐熱超音波センサ1Aによって、配管または容器に生じている欠陥(減肉及びき裂等)の検出、及びその欠陥の監視を行う。
【0068】
本実施例の耐熱超音波センサ1Aによれば、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【実施例3】
【0069】
本発明の他の実施例である実施例3の耐熱超音波センサを、図7及び図8を用いて説明する。
【0070】
本実施例の耐熱超音波センサ1Bは、実質的に、実施例1の耐熱超音波センサ1を複数用いたものである。換言すれば、耐熱超音波センサ1Bは、複数の耐熱超音波センサ1、例えば、3個の耐熱超音波センサ1において、金属薄板2及び電気絶縁カバー10を共有した構成を有する。具体的には、複数(例えば、3つ)の耐熱圧電素子部19を、可撓性を有して厚みが例えば0.2mmである金属薄板2の上面に並べて配置し、それぞれの耐熱圧電素子部19を金属薄板2の上面に設けている。
【0071】
それぞれの耐熱圧電素子部19は、実施例1の耐熱超音波センサ1と同様に、圧電セラミックス膜3、金属薄膜4、金属線メッシュ5及び同軸ケーブル7を備えている。円形の圧電セラミックス膜3は、実施例1と同様に、ゾルゲル法により金属薄板2の上面に形成される。本実施例では、3つの耐熱圧電素子部19が設けられる関係上、円形で厚みが例えば0.5mmである3つの圧電セラミックス膜3が金属薄板2の上面に所定の間隔をおいて形成される。厚み0.2mmの金属薄膜4が圧電セラミックス膜3の上に設けられ、金属線メッシュ5が金属薄膜5の上面に取り付けられる。固定部材8で金属薄板2に固定された耐熱同軸ケーブル7の芯線9が、接続点6で金属線メッシュ5に接続される。
【0072】
電気絶縁カバー10が、金属薄板2に取り付けられて、各耐熱圧電素子部19を覆っている。
【0073】
本実施例の耐熱超音波センサ1Bも、金属薄板2を検査対象物である構造部材の配管12の外面の曲率に合わせて曲げ、図3に示すように、原子力発電プラントの配管12の外面に取り付ける。また、この耐熱超音波センサ1Bは、保温材13で囲まれた配管12に対しては、金属薄板2を配管12の外面の曲率で曲げた状態で、図4に示すように、配管12の外面に取り付けられて保温材13と配管12の間に配置される。
【0074】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。また、本実施例は、耐熱超音波センサ1Bが複数(例えば、3つ)の耐熱圧電素子部19を有しているので、配管12等の検査対象物である構造部材に対して、複数個所での欠陥(減肉及びき裂等)の検出、及びその欠陥の監視を、原子力発電プラントの運転中に行うことができる。
【0075】
耐熱超音波センサ1Bの各耐熱圧電素子部19において、圧電セラミックス膜3の替りに、実施例2の耐熱超音波センサ1Aに用いられる、小片である複数の結晶性圧電セラミックス17Aを含む圧電セラミックス集合体17に替えても良い。
【実施例4】
【0076】
本発明の他の実施例である実施例4の耐熱超音波センサを、図9及び図10を用いて説明する。
【0077】
本実施例の耐熱超音波センサ1Cは、実施例3の耐熱超音波センサ1Bのように、複数(例えば、7つ)の耐熱圧電素子部19Aを有する。耐熱圧電素子部19Aは耐熱超音波センサ1Bに用いられた円形の耐熱圧電素子部19を矩形にしただけであり、耐熱圧電素子部19Aの構成は耐熱圧電素子部19と同じである。すなわち、耐熱圧電素子部19Aも、圧電セラミックス膜3、金属薄膜4、金属線メッシュ5及び同軸ケーブル7を有する。それぞれの耐熱圧電素子部19Aの圧電セラミックス膜3は、ゾルゲル法により、金属薄板2の上面に間隔をおいて形成されている。これらの耐熱圧電素子部19Aは、金属薄板2に取り付けられた電気絶縁カバー10で覆われている。本実施例では、圧電セラミックス膜3、金属薄膜4及び金属線メッシュ5のそれぞれの形状は矩形である。7つの耐熱圧電素子部19Aが並列に金属薄板2の上面に配置されている。
【0078】
本実施例の耐熱超音波センサ1Cも、金属薄板2を検査対象物である構造部材の配管12の外面の曲率に合わせて曲げ、図3に示すように、原子力発電プラントの配管12の外面に取り付ける。また、この耐熱超音波センサ1Cは、保温材13で囲まれた配管12に対しては、金属薄板2を配管12の外面の曲率で曲げた状態で、図4に示すように、配管12の外面に取り付けられて保温材13と配管12の間に配置される。
【0079】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。また、本実施例は、耐熱超音波センサ1Cが複数(例えば、7つ)の耐熱圧電素子部19Aを有しているので、配管12等の検査対象物である構造部材に対して、複数個所での欠陥(減肉及びき裂等)の検出、及びその欠陥の監視を、原子力発電プラントの運転中に行うことができる。さらには、フェーズドアレイ法、または波形の合成法である開口合成法により、検査対象物の内部を画像化して欠陥の進展等を監視することができる。
【0080】
耐熱超音波センサ1Bの各耐熱圧電素子部19において、圧電セラミックス膜3の替りに、実施例2の耐熱超音波センサ1Aに用いられる、小片である複数の結晶性圧電セラミックス17Aを含む圧電セラミックス集合体17に替えても良い。
【0081】
実施例1から実施例4の耐熱性超音波センサは、沸騰水型原子力発電プラント及び加圧水型原子力発電プラント等の原子力発電プラントだけでなく、火力発電プラント及び化学プラントの、運転中に高温になり局面を表面に有する構造部材に適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1,1A,1B,1C…耐熱超音波センサ、2…金属薄板、3…圧電セラミックス膜、4…金属薄膜、5…金属線メッシュ、6…接続点、7…耐熱同軸ケーブル、9…芯線、10…電気絶縁カバー、12…配管、13…保温材、15…超音波送受信器、16…データ収録装置、17…圧電セラミックス集合体、17A…結晶性圧電セラミックス、19,19A…耐熱圧電素子部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する金属板と、前記金属板の上に取り付けられて、厚みが0.5mm以下のキューリ点が200℃以上の圧電セラミックス部と、前記圧電セラミックス部の上に配置されて前記圧電セラミックス部に接続された電極部材と、前記金属板に取り付けられ、前記圧電セラミックス部及び前記電極部材を覆っている電気絶縁カバーとを備えたことを特徴とする耐熱超音波センサ。
【請求項2】
金属線メッシュが前記電極部材に取り付けられている請求項1に記載の耐熱超音波センサ。
【請求項3】
前記圧電セラミックス部が前記金属板の上に形成された圧電セラミックス膜である請求項1または2に記載の耐熱超音波センサ。
【請求項4】
前記圧電セラミックス膜がゾルゲル法で形成された圧電セラミックス膜である請求項3に記載の耐熱超音波センサ。
【請求項5】
前記圧電セラミックス部が前記金属板に接合された複数の結晶性圧電セラミックス片で形成されている請求項1または2に記載の耐熱超音波センサ。
【請求項6】
ケーブルの芯線が前記金属線メッシュに接続されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の耐熱超音波センサ。
【請求項7】
前記芯線が前記金属線メッシュに編み込まれている請求項6に記載の耐熱超音波センサ。
【請求項8】
前記圧電セラミックス部及び前記電極部材を含む複数の圧電素子部を有し、それぞれの前記圧電素子部の前記圧電セラミックス部が前記金属板の上に取り付けられており、前記電気絶縁カバーが前記複数の圧電素子部を覆っている請求項1ないし7のいずれか1項に記載の耐熱超音波センサ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項の耐熱超音波センサの前記金属板を、プラントの構造部材の曲面を有する表面の前記曲面に合わせて曲げ、前記曲げられた金属板を前記構造部材の前記曲面に沿って配置して前記曲げられた金属板を前記曲面に取り付けることを特徴とする耐熱超音波センサの設置方法。
【請求項10】
前記構造部材が保温材で覆われている場合には、前記構造部材の、前記耐熱超音波センサの前記金属板を取り付ける部分に存在する前記保温材を取り外し、前記曲げられた金属板を前記曲面に取り付けて保温材を、前記金属板が取り付けられた前記耐熱超音波センサを覆った状態で前記構造部材に取り付ける請求項9に記載の耐熱超音波センサの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−244369(P2012−244369A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111967(P2011−111967)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】