説明

耐部分放電性樹脂組成物の製造方法、耐部分放電性樹脂組成物、耐部分放電性絶縁材料、および耐部分放電性絶縁構造体

【課題】簡便な方法で、優れた耐部分放電性を有し、かつ密度が小さい耐部分放電性樹脂組成物を製造する。
【解決手段】層状粘土鉱物の層間にイオン交換処理により有機化合物を挿入することにより、層状粘土鉱物に極性溶剤および非極性溶剤の少なくともいずれか一方に対する膨潤性を付与し、膨潤性が付与された層状粘土鉱物を極性溶剤または非極性溶剤からなる膨潤用溶剤中で膨潤させた後、エポキシ樹脂を混合して混練し、得られたエポキシ樹脂、層状粘土鉱物、および膨潤用溶剤を含む混合物から膨潤用溶剤を除去し、このエポキシ樹脂と層状粘土鉱物とを含む混合物にエポキシ樹脂用硬化剤を添加して混合する。このようにして製造された耐部分放電性樹脂組成物の硬化物からなる耐部分放電性絶縁材料では、三次元網状構造を有するエポキシ樹脂の分子鎖1中に、層状粘土鉱物からなる無機ナノ粒子2が緻密に均一分散されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば発電機、回転電機、送変電機器、受配電機器等の高電圧機器に用いられる耐部分放電性樹脂組成物の製造方法、耐部分放電性樹脂組成物、耐部分放電性絶縁材料、および耐部分放電性絶縁構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
発電機や回転電機等に組み込まれる絶縁コイルは、電気を流すための導体同士間や導体と対地間を遮断するための絶縁層を具備している。また、六弗化硫黄ガス絶縁開閉装置や管路気中送電装置等の送変電機器においては、例えば金属容器内で高圧導体を絶縁支持する絶縁部材として注型部材が用いられている。このような高電圧機器の絶縁層や注型部材には、エポキシ樹脂をベース材料とする絶縁樹脂材料が用いられるのが一般的である。
【0003】
絶縁コイルの絶縁層は、硬質無焼成集成マイカや硬質焼成集成マイカ等からなるマイカ紙をエポキシ樹脂で含浸して製造されることが多く(例えば、特許文献1参照)、マイカ自体が部分放電に対して優れた耐性を有しているため、絶縁層全体としても耐部分放電性が発現している。また、代表的な注型部材の1つとして、絶縁スペーサが挙げられるが、重量でエポキシ樹脂の数倍の無機物粒子を充填することで、耐部分放電性を始めとする必要な特性を得ている(例えば、特許文献2および3参照)。
【0004】
さらに、近年、産業用低圧モーターなどでは、インバータによる可変速駆動の普及に伴い、インバータサージによりモーターが損傷するケースが発生しており、モーター巻線の絶縁被膜材料として耐部分放電性の高い材料が求められている。このような点に対して、ポリアミドイミド中にゾル−ゲル反応を用いてシリカ粒子を析出させることで、耐熱部分放電性を付与した例が報告されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
しかしながら、前述した絶縁コイルの絶縁層では、含浸用のエポキシ樹脂自体は部分放電に対する劣化耐性が低いため、エポキシ樹脂が選択的に劣化され、絶縁層全体としても徐々に劣化か進行してしまう。また、絶縁スペーサでは、無機物粒子をエポキシ樹脂の数倍充填するため、絶縁材料の密度が高くなり、高電圧機器の軽量化が困難となっている。さらに、ゾル−ゲル反応を用いてシリカ粒子を析出させる方法では、ゾル−ゲル反応を制御して均一な粒子を析出させる必要があるため、製造工程および製造装置が複雑になり、コストが高くなる。
【特許文献1】特許第3167479号公報
【特許文献2】特公昭54−44106号公報
【特許文献3】特開昭55−155512号公報
【特許文献4】特開2004−22831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、発電機や回転電機等に組み込まれる絶縁コイルの絶縁層において、含浸用エポキシ樹脂自体の部分放電劣化耐性が低いため、絶縁層全体も徐々に劣化してしまうという問題があった。また、絶縁スペーサでは、無機物粒子をエポキシ樹脂の数倍充填するため、絶縁材料の密度が高くなり、高電圧機器の軽量化が困難であった。さらに、絶縁被膜材料に耐部分放電性を付与するためゾル−ゲル反応を利用してシリカ粒子を析出させる方法は、製造工程および製造装置が複雑になり、製造コストが高くなるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような課題に対処するためになされたものであって、簡便な方法で、優れた耐部分放電性を有し、かつ密度が小さい耐部分放電性樹脂組成物を製造することができる耐部分放電性樹脂組成物の製造方法、耐部分放電性樹脂組成物、耐部分放電性絶縁材料、および耐部分放電性絶縁構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の耐部分放電性樹脂組成物の製造方法は、(A)1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂と、(B)エポキシ樹脂用硬化剤と、(C)層状粘土鉱物とを必須成分として含有する耐部分放電性樹脂組成物の製造方法であって、前記層状粘土鉱物の層間にイオン交換処理により有機化合物を挿入することにより、前記層状粘土鉱物に極性溶剤および非極性溶剤の少なくともいずれか一方に対する膨潤性を付与する工程と、膨潤性が付与された前記層状粘土鉱物を前記極性溶剤または前記非極性溶剤からなる膨潤用溶剤中で膨潤させる工程と、膨潤した前記層状粘土鉱物を含む前記膨潤用溶剤に前記エポキシ樹脂を混合して混練する工程と、前記混練する工程により得られた前記エポキシ樹脂、前記層状粘土鉱物、および前記膨潤用溶剤を含む混合物から前記膨潤用溶剤を除去する工程と、前記膨潤用溶剤が除去された前記混合物に前記エポキシ樹脂用硬化剤を混合する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の耐部分放電性樹脂組成物の製造方法は、(A)1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂と、(B)エポキシ樹脂用硬化剤と、(C)層状粘土鉱物とを必須成分として含有する耐部分放電性樹脂組成物の製造方法であって、前記層状粘土鉱物の層間にイオン交換処理により有機化合物を挿入することにより、前記層状粘土鉱物に極性溶剤および非極性溶剤の少なくともいずれか一方に対する膨潤性を付与する工程と、膨潤性が付与された前記層状粘土鉱物を前記極性溶剤または前記非極性溶剤からなる膨潤用溶剤中で膨潤させる工程と、膨潤した前記層状粘土鉱物を含む前記膨潤用溶剤に前記エポキシ樹脂用硬化剤を混合して混練する工程と、前記混練する工程により得られた前記エポキシ樹脂用硬化剤、前記層状粘土鉱物、および前記膨潤用溶剤を含む混合物から前記膨潤用溶剤を除去する工程と、前記膨潤用溶剤が除去された前記混合物に前記エポキシ樹脂を混合する工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の耐部分放電性樹脂組成物の製造方法は、(A)1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂と、(B)エポキシ樹脂用硬化剤と、(C)層状粘土鉱物とを必須成分として含有する耐部分放電性樹脂組成物の製造方法であって、前記層状粘土鉱物の層間にイオン交換処理により有機化合物を挿入することにより、前記層状粘土鉱物に極性溶剤および非極性溶剤の少なくともいずれか一方に対する膨潤性を付与する工程と、膨潤性が付与された前記層状粘土鉱物を前記極性溶剤または前記非極性溶剤からなる膨潤用溶剤中で膨潤させる工程と、膨潤した前記層状粘土鉱物を含む前記膨潤用溶剤に前記エポキシ樹脂を混合して混練し、前記エポキシ樹脂、前記層状粘土鉱物、および前記膨潤用溶剤を含む第1の混合物を得る工程と、膨潤させた前記層状粘土鉱物を含む前記膨潤用溶剤に前記エポキシ樹脂用硬化剤を混合して混練し、前記エポキシ樹脂用硬化剤、前記層状粘土鉱物、および前記膨潤用溶剤を含む第2の混合物を得る工程と、前記第1の混合物および前記第2の混合物から前記膨潤用溶剤を除去する工程と、前記膨潤用溶剤が除去された前記第1の混合物と前記第2の混合物とを混合する工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の耐部分放電性樹脂組成物は、上記した本発明の耐部分放電性樹脂組成物の製造方法により製造されたことを特徴とする。また、本発明の耐部分放電性絶縁材料は、上記した本発明の耐部分放電性樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の耐部分放電性絶縁構造体は、高電圧電流を流す導体と、前記導体同士の間を遮断する絶縁物、前記導体と対地または他の部材との間を遮断する絶縁物、および前記導体を絶縁支持する絶縁物から選ばれる少なくとも1つの機能を有する絶縁部材とを具備する耐部分放電性絶縁構造体において、前記絶縁部材は、上記した本発明の耐部分放電性絶縁材料からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、層状粘土鉱物からなる無機ナノ粒子をエポキシ樹脂中に均一に分散することができるので、優れた耐部分放電性を有し、かつ密度が小さい耐部分放電性樹脂組成物および耐部分放電性絶縁材料を得ることができる。また、複雑な製造工程や製造方法を必要としないため、優れた耐部分放電性を有する耐部分放電性樹脂組成物および耐部分放電性絶縁材料を再現性よく提供することが可能となる。さらに、このような耐部分放電性絶縁材料を用いた耐部分放電性絶縁構造体によれば、高電圧機器の特性や信頼性等を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。本発明の一実施形態による耐部分放電性樹脂組成物は、(A)1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂と、(B)エポキシ樹脂用硬化剤と、(C)層状粘土鉱物からなる無機ナノ粒子とを必須成分として含有している。
【0015】
上記した耐部分放電性樹脂組成物の必須成分のうち、(A)成分のエポキシ樹脂は1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物からなるものである。このようなエポキシ化合物としては、炭素原子2個と酸素原子1個とからなる三員環を1分子中に2個以上持ち、硬化し得る化合物であれば適宜に使用可能であり、その種類は特に限定されるものではない。
【0016】
(A)成分のエポキシ樹脂の具体例としては、エピクロルヒドリンとビスフェノール類等の多価フェノール類や多価アルコールとの縮合によって得られる、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂や、エピクロルヒドリンとガルボン酸との縮合によって得られるグリジジルエステル型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートやエピクロルヒドリンとヒダントイン類との反応によって得られるヒダントイン型エポキシ樹脂のような複素環式エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは単独もしくは2種以上の混合物として使用される。
【0017】
(B)成分のエポキシ樹脂用硬化剤としては、エポキシ樹脂と化学反応してエポキシ樹脂を硬化させ得るものであれば適宜に使用可能であり、その種類は特に限定されるものではない。このようなエポキシ樹脂用硬化剤としては、例えばアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、フェノール系硬化剤、ルイス酸系硬化剤、イソシアネート系硬化剤等が挙げられる。
【0018】
上記したアミン系硬化剤の具体例としては、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、ジプロプレンジアミン、ポリエーテルジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチル)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、アミノエチルエタノールアミン、トリ(メチルアミノ)へキサン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロへキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、m−キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0019】
酸無水物系硬化剤の具体例としては、ドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロへキセンジカルボン酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水ヘット酸、テトラブロモ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、無水ポリアゼライン酸等が挙げられる。
【0020】
イミダゾール系硬化剤の具体例としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等が挙げられる。また、ポリメルカプタン系硬化剤の具体例としては、ポリサルファイド、チオエステル等が挙げられる。上述した硬化剤は、いずれも単独もしくは2種類以上の混合物として使用することができる。
【0021】
(B)成分のエポキシ樹脂用硬化剤の配合量は、使用した硬化剤の種類等に応じて有効量の範囲内で適宜に設定されるものであるが、一般的にはエポキシ樹脂のエポキシ当量に対して、2分の1当量〜2当量の範囲とすることが好ましい。(B)成分の硬化剤の配合量が(A)成分のエポキシ当量に対して2分の1当量未満であると、(A)成分のエポキシ樹脂の硬化反応を十分に生起することができないおそれがある。一方、(B)成分の硬化剤の配合量が(A)成分のエポキシ当量に対して2当量を超えると、耐部分放電性樹脂組成物(エポキシ樹脂組成物)の硬化物の耐熱性等の基礎物性が低下する。
【0022】
さらに、(B)成分のエポキシ樹脂用硬化剤と併用して、エポキシ樹脂の硬化反応を促進あるいは制御するエポキシ樹脂用硬化促進剤を使用してもよい。特に、酸無水物系硬化剤を使用した場合、その硬化反応はアミン系硬化剤等の他の硬化剤と比較して遅いため、エポキシ樹脂用硬化促進剤を使用することが多い。酸無水物系硬化剤用の硬化促進剤としては、三級アミンまたはその塩、四級アンモニウム化合物、イミダゾール、アルカリ金属アルコキシド等を用いることが好ましい。
【0023】
(C)成分の層状粘土鉱物からなる無機ナノ粒子の配合量は、(A)成分のエポキシ樹脂100重量部に対して1〜50重量部の範囲とすることが好ましい。(C)成分の無機ナノ粒子の配合量が(A)成分100重量部に対して1重量部未満であると、エポキシ樹脂硬化物に耐部分放電特性を付与することができない。一方、(C)成分の無機ナノ粒子の配合量が(A)成分100重量部に対して50重量部を超えると、エポキシ樹脂の粘度が上がり、無機ナノ粒子のエポキシ樹脂中での均一分散が困難になる。また、エポキシ樹脂硬化物が脆くなり、耐部分放電性絶縁材料としての基本特性が低下する。
【0024】
(C)成分の層状粘土鉱物からなる無機ナノ粒子の1次粒径は、500nm以下とすることが好ましい。(C)成分の無機ナノ粒子の1次粒径が500nmよりも大きいと、(A)成分のエポキシ樹脂100重量部に対して1〜50重量部の範囲内において、エポキシ樹脂硬化物に耐部分放電性を付与することができない。
【0025】
(C)成分の層状粘土鉱物としては、例えばスメクタイト群、マイカ群、バーミキュライト群、雲母群からなる鉱物群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。スメクタイト群に属する層状粘土鉱物としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バイデライト、ステブンサイト、ノントロナイト等が挙げられる。マイカ群に属する層状粘土鉱物としては、クロライト、フロゴパイト、レピドライト、マスコバイト、バイオタイト、パラゴナイト、マーガライト、テニオライト、テトラシリシックマイカ等が挙げられる。バーミキュライト群に属する層状粘土鉱物としては、トリオクタヘドラルバーミキュライト、ジオクタヘドラルバーミキュライト等が挙げられる。雲母群に属する層状粘土鉱物としては、白雲母、黒雲母、パラゴナイト、レビトライト、マーガライト、クリントナイト、アナンダイト等が挙げられる。これらのうちでも、エポキシ樹脂への分散性等の点からスメクタイト群に属する層状粘土鉱物を用いることが望ましい。これらの層状粘土鉱物は、単独あるいは2種類以上の混合物として使用することができる。
【0026】
層状粘土鉱物はシリケート層が積層した構造を有しており、シリケート層の層間にイオン交換反応(インターカーレーション)によりイオン、分子、クラスタ等の種々の物質を保持することできる。このイオン交換処理を用いることで、各種金属イオンや有機化合物をシリケート層の層間に挿入することができる。このような性質を利用して、層状粘土鉱物のシリケート層間に挿入、保持する層間物質として、種々の有機化合物を用いることができ、この有機化合物を選択的に用いることにより、極性溶剤や非極性溶剤に対する膨潤性を示す層状粘土鉱物(C)を得ることができる。
【0027】
層状粘土鉱物のシリケート層の層間に挿入する有機化合物は、対象とする溶剤に対して膨潤性を示すものであれば特に限定されるものではないが、イオン交換処理により層間に挿入される度合を考慮すると、一級〜四級のアンモニウムイオンを用いることが望ましい。
【0028】
一級〜四級のアンモニウムイオンとしては、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、ジヘキシルジメチルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、ヘキサトリメチルアンモニウムイオン、オクタトリメチルアンモニウムイオン、ドデシルトリメチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、ドコセニルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリエチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルアンモニウムイオン、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ジオレイルジメチルアンモニウムイオン、N-メチルジエタノールラウリルアンモニウムイオン、ジプロパノールモノメチルラウリルアンモニウムイオン、ジメチルモノエタノールラウリルアンモニウムイオン、ポリオキシエチレンドデシルモノメチルアンモニウムイオン、ジメチルヘキサデシルオクタデシルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ジメチルオクタデシルアンモニウムイオン、ジメチルドデシルアンモニウムイオン等が挙げられる。これらの一級〜四級のアンモニウムイオンは、単独もしくは2種類以上の混合物として使用することができる。
【0029】
なお、耐部分放電性樹脂組成物は上述した必須成分としての(A)〜(C)成分に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、前述した硬化促進剤や他の添加剤を必要に応じて配合してもよい。耐部分放電性樹脂組成物に配合する他の添加剤には、タレ止剤,沈降防止剤,消泡剤,レベリング剤,スリップ剤,分散剤基材湿潤剤等が挙げられる。
【0030】
上述した実施形態に係る耐部分放電性樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0031】
まず、上述した(C)成分の層状粘土鉱物の層間にイオン交換処理により有機化合物を挿入することにより、層状粘土鉱物に極性溶剤および非極性溶剤の少なくともいずれか一方に対する膨潤性を付与する。層状粘土鉱物の層間に挿入する有機化合物としては、上述の一級〜四級のアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。また、前述の理由により、1次粒径が500nm以下の層状粘土鉱物を用いることが好ましい。
【0032】
次いで、膨潤性が付与された層状粘土鉱物を、極性溶剤または非極性溶剤からなる膨潤用溶剤中に浸漬して攪拌することにより膨潤させ、その後、(A)成分のエポキシ樹脂を追加配合して混練する。ここで、前述の理由により、エポキシ樹脂100重量部に対して、層状粘土鉱物の配合量が、1〜50重量部の範囲となるようにすることが好ましい。
【0033】
また、このエポキシ樹脂追加後の混練は、高いせん断力を加えて行うことが好ましい。エポキシ樹脂中で、溶媒膨潤によりシリケート層の層間距離が広がった層状粘土鉱物に高いせん断力を加えることにより、無機ナノ粒子(層状粘土鉱物)をエポキシ樹脂中でより均一に分散させることが可能となる。
【0034】
このようにして得られたエポキシ樹脂、層状粘土鉱物からなる無機ナノ粒子、および膨潤用溶剤を含む混合物から、真空攪拌、乾燥などにより膨潤用溶剤を除去する。なお、この際、使用した膨潤用溶剤と相溶性があり、かつエポキシ樹脂と相溶性のない低沸点溶剤を用いた洗浄を予め行えば、真空乾燥により除去する溶剤量を低減することができる。
【0035】
次に、このエポキシ樹脂と層状粘土鉱物からなる無機ナノ粒子とを含む混合物に、(B)成分のエポキシ樹脂用硬化剤を添加して混合することで、目的とする耐部分放電性樹脂組成物が得られる。
【0036】
なお、上記の方法では、膨潤させた層状粘土鉱物を含む膨潤用溶剤に(A)成分のエポキシ樹脂を混合して混練し、得られたエポキシ樹脂、層状粘土鉱物、および膨潤用溶剤を含む混合物から膨潤用溶剤を除去し、このエポキシ樹脂と層状粘土鉱物とを含む混合物に、(B)成分のエポキシ樹脂用硬化剤を添加して混合したが、膨潤させた層状粘土鉱物を含む膨潤用溶剤に(B)成分のエポキシ樹脂用硬化剤を混合して混練し、得られたエポキシ樹脂用硬化剤、層状粘土鉱物、および膨潤用溶剤を含む混合物から膨潤用溶剤を除去し、このエポキシ樹脂用硬化剤と層状粘土鉱物とを含む混合物に、(A)成分のエポキシ樹脂を添加して混合することにより、目的とする耐部分放電性樹脂組成物を得るようにしてもよい。
【0037】
また、膨潤させた層状粘土鉱物を含む膨潤用溶剤に(A)成分のエポキシ樹脂を混合して混練した第1の混合物と、膨潤させた層状粘土鉱物を含む膨潤用溶剤に(B)成分のエポキシ樹脂用硬化剤を混合して混練した第2の混合物とを生成し、第1の混合物および第2の混合物から膨潤用溶剤を除去し、膨潤用溶剤が除去された第1の混合物と第2の混合物とを混合することにより、目的とする耐部分放電性樹脂組成物を得るようにしてもよい。
【0038】
上記した耐部分放電性樹脂組成物は、絶縁材料の使用用途に応じて、例えば含浸、塗布、注型、シート成形等の各種成形工程により所望形状の成形体に成形される。この成形体に硬化剤の種類に応じた硬化処理を施して硬化させることによって、耐部分放電性絶縁材料が得られる。なお、上記した耐部分放電性樹脂組成物の製造工程において、前述したような任意成分は必要に応じて適宜に添加、混合される。
【0039】
このようにして得られる耐部分放電性絶縁材料は、例えば図1に示すように、(A)エポキシ樹脂成分と(B)エポキシ樹脂用硬化剤との反応により形成される三次元網状構造を有するエポキシ樹脂の分子鎖(硬化物)1中に、(C)層状粘土鉱物からなる無機ナノ粒子2が緻密に均一分散されている。したがって、無機ナノ粒子2に基づいて耐部分放電性を向上させたエポキシ樹脂硬化物、すなわち耐部分放電性絶縁材料を提供することができる。
【0040】
また、複雑な製造工程や製造方法を必要としないため、優れた耐部分放電性を有する耐部分放電性樹脂組成物および耐部分放電性絶縁材料を再現性よく提供することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態では、ナノメートルサイズの無機ナノ粒子を用いることで、エポキシ樹脂に対して少ない無機物粒子の充填で、優れた耐部分放電特性が発現し、かつ、充填量が少なくて済むことで、耐部分放電性樹脂組成物および耐部分放電性絶縁材料の密度を低く抑えることができる。
【0042】
本実施形態の耐部分放電性絶縁材料は、例えば発電機や回転電機等の高電圧機器に用いられる絶縁コイルの絶縁層、産業用モーター等に用いられるエナメル線の絶縁被膜、ガス絶縁開閉装置や管路気中送電装置等の送変電機器(高電圧機器)に用いられる高圧導体の絶縁支持部材等に好適に使用されるものである。発電機や回転電機等に用いられる絶縁コイルは、高電圧電流を流すコイル導体と、これらコイル導体同士間およびコイル導体−対地間を遮断する絶縁層とを具備する。絶縁コイルの絶縁層は、例えばマイカ紙に絶縁樹脂組成物を含浸塗布し、これを硬化させることで得ることができる。また、送変電機器等の高電圧機器に用いられる高圧導体の絶縁支持部材は、金属容器内で高圧導体を絶縁支持するものであり、例えば絶縁樹脂組成物を注型、硬化させた注型絶縁物が用いられる。さらに、産業用モーター等に用いられるエナメル線は、高電圧電流を流す素線と、これら素線導体同士間および素線導体−対地間を遮断する絶縁被膜とを具備する。エナメル線の絶縁被膜は、耐部分放電性樹脂組成物をコーティングし、これを硬化させることで得ることができる。
【0043】
なお、耐部分放電性絶縁材料は、上記した絶縁コイルの絶縁層、エナメル線の絶縁被膜、高圧導体の絶縁支持部材(注型絶縁物)等に限らず、発電機用タービンエンド部の仕上げワニス、遮断器用絶縁ロッド、絶縁塗料、成形絶縁部品、FRP用含浸樹脂、ケーブル被覆材料等の各種用途に使用することが可能である。また、場合によっては、パワーユニット絶縁封止材用高熱伝導絶縁シート、IC基板、LSI素子用層間絶縁膜、積層基板、半導体用封止材等に適用することもできる。
【0044】
このように、本発明の耐部分放電性絶縁材料は、各種の用途に適用可能である。すなわち、近年、産業・重電機器および電気・電子機器の小型化、大容量化、高周波帯域化、大電圧化、使用環境の過酷化等に伴い、注型絶縁物や含浸絶縁物等において、耐部分放電特性の改善など、高性能化、高信頼性化、高品質化、並びに品質の安定化等が求められている。本発明の耐部分放電性絶縁材料はこれらの要求に合致するものであり、上述したような構成材料を選択的に使用することによって、エポキシ注型絶縁物、エポキシ含浸絶縁物、エポキシ樹脂絶縁被膜等として、種々の産業・重電機器および電気・電子機器に適用することが可能である。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0046】
(実施例1)
層状粘土鉱物(クニミネ工業(株)製、商品名:クニピアF)の層間に、インターカーレーション処理によりオクタデシルアミン(ライオンアクゾ(株)製、商品名:アーミン18D)を挿入したもの10重量部を、50重量部のジメチルアセトアミドに添加し、攪拌して膨潤させた後に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピコート828)100重量部を添加して予備攪拌した後、三本ロールミルを用いて高せん断力で混練した。この混練物を多量の蒸留水で洗浄してジメチルアセトアミドを除去した後、減圧乾燥により残留する蒸留水を除去することで、無機ナノ粒子を均一に分散したエポキシ樹脂の混練物を得た。この混練物にエポキシ樹脂用酸無水物系硬化剤(新日本理化社製、商品名:リカシッド MH−700)を86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤(日本油脂社製、商品名:M2−100)1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って耐部分放電性樹脂組成物を調製した。この絶縁樹脂組成物を予め100℃に加熱した金型に流し込み、真空脱泡後に100℃×3時間(一次硬化)+150℃×15時間(二次硬化)の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする耐部分放電性絶縁材料を作製した。この耐部分放電性絶縁材料を後述する特性評価に供した。
【0047】
(比較例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピコート828)100重量部に、1次粒径が12μmのシリカ粒子(龍森社製、商品名:クリスタライトA1)10重量部を添加し混練した。この混練物にエポキシ樹脂用酸無水物系硬化剤(新日本理化社製、商品名:リカシッド MH−700)86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤(日本油脂社製、商品名:M2−100)1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って耐部分放電性樹脂組成物を調製した。この絶縁樹脂組成物を予め100℃に加熱した金型に流し込み、真空脱泡後に100℃×3時間(一次硬化)+150℃×15時間(二次硬化)の条件で硬化処理を施すことによって絶縁材料を作製した。この絶縁材料を後述する特性評価に供した。
【0048】
(比較例2)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピコート828)100重量部に、1次粒径が12μmのシリカ粒子(龍森社製、商品名:クリスタライトA1)200重量部を添加し混練した。この混練物にエポキシ樹脂用酸無水物系硬化剤(新日本理化社製、商品名:リカシッド MH−700)を86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤(日本油脂社製、商品名:M2−100)1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って耐部分放電性樹脂組成物を調製した。この耐部分放電性樹脂組成物を予め100℃に加熱した金型に流し込み、真空脱泡後に100℃×3時間(一次硬化)+150℃×15時間(二次硬化)の条件で硬化処理を施すことによって絶縁材料を作製した。この絶縁材料を後述する特性評価に供した。
【0049】
(比較例3)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピコート828)100重量部に、層間にナトリウムイオンを保持した層状粘土鉱物(クニミネ工業(株)製、商品名:クニピアF)を10重量部添加し混練した。この混練物にエポキシ樹脂用酸無水物系硬化剤(新日本理化社製、商品名:リカシッド MH−700)を86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤(日本油脂社製、商品名:M2−100)1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って耐部分放電性樹脂組成物を調製した。この耐部分放電性樹脂組成物を予め100℃に加熱した金型に流し込み、真空脱泡後に100℃×3時間(一次硬化)+150℃×15時間(二次硬化)の条件で硬化処理を施すことによって絶縁材料を作製した。この絶縁材料を後述する特性評価に供した。
【0050】
上述した実施例1および比較例1〜3で使用した無機ナノ粒子の違いを表1にまとめて示す。また、実施例1および比較例1〜3による耐部分放電性絶縁材料および絶縁材料中における無機ナノ粒子の分散状態を透過型電子顕微鏡(TEM)或いはX線回折測定(XRD)により観察・調査し、その分散状態の模式図を図2(a)〜(d)に示す。
【表1】

【0051】
次に、実施例1による耐部分放電性絶縁材料および比較例1〜3による絶縁材料について、耐部分放電性特性の評価を行った。図3に示すように、30mm×30mm×1mmの試験片7の表面を研磨した後、平板電極8に載置し、棒電極(IEC(b))9を用いて6kVの電圧を印加し、試験片7の表面において部分放電を発生させた。48時間課電後、棒電極9から外側に1mmの位置において、1mm×1mmの範囲の平均表面粗さをレーザー顕微鏡(キーエンス社製、製品名:VK−8550)で測定した。実施例1および比較例1〜3における測定結果として平均表面粗さを図4に示す。
【0052】
図4の表面粗さの測定結果に示されるように、実施例1による耐部分放電性絶縁材料は、比較例1〜3による絶縁材料に比べて、放電による表面の荒れが小さく、優れた耐部分放電特性を有していることが分かる。以下に、実施例1と各比較例とを比較参照することで、本発明の具体的な作用・効果を示す。
【0053】
まず、実施例1と比較例1とを比較する。実施例1による耐部分放電性絶縁材料では、無機ナノ粒子として、インターカーレーション処理により層間にオクタデシルアミンイオンを保持した、1次粒径が100nmの層状粘土鉱物10重量部を、予め有機溶剤(ジメチルアセトアミド)で膨潤した後にエポキシ樹脂に充填し、高せん断力で混練した後に有機溶剤を除去している。一方、比較例1では、1次粒径が12μmのシリカ粒子10重量部をエポキシ樹脂に充填している。
【0054】
図4の表面粗さの測定結果から、無機物粒子の充填量が同じ場合、1次粒径の違いは耐部分放電特性に大きな影響を与えることが分かる。図2(a)に示すように、実施例1による耐部分放電性絶縁材料では、エポキシ樹脂3中にナノメートルサイズの層状粘土鉱物4が緻密に分散しているため、図5(a)に示すように、部分放電による侵食をブロックして抑制することができる。これに対し、比較例1による絶縁材料では、図2(b)に示すように、エポキシ樹脂3中にマイクロメートルサイズのシリカ粒子5が分散しているが、図5(b)に示すように、シリカ粒子5間のエポキシ樹脂3が部分放電により侵食される。
【0055】
このように実施例1による耐部分放電性絶縁材料では、ナノメートルサイズの無機ナノ粒子を用いていることで部分放電に対する優れた耐性が付与されている。
【0056】
次に、実施例1と比較例2とを比較する。実施例1では、層間にオクタデシルアミンイオンを保持した1次粒径が100nmの層状粘土鉱物10重量部をエポキシ樹脂に充填している。一方、比較例2では、1次粒径が12μmのシリカ粒子200重量部をエポキシ樹脂に充填しており、図2(c)に示すように、エポキシ樹脂3中にマイクロメートルサイズのシリカ粒子5が緻密に分散している。
【0057】
図4に示す部分放電劣化後の表面粗さの程度は、実施例1による耐部分放電性絶縁材料と比較例2による絶縁材料の間において、大きな差がないことを確認できる。しかしながら、実施例1による耐部分放電性絶縁材料の密度と比較例2による絶縁材料の密度とを比較した場合、実施例1による耐部分放電性絶縁材料の密度は1.12(g/cm)、比較例2による絶縁材料の密度は1.68(g/cm)であり、比較例2による絶縁材料は実施例1による耐部分放電性絶縁材料の1.5倍となっており、密度が大きいことが分かった。
【0058】
以上のような、実施例1による耐部分放電性絶縁材料では、ナノメートルサイズの無機ナノ粒子を用いることで、僅か10重量部の無機物粒子の充填で、ミクロンサイズの無機物粒子を200重量部充填した場合と同様の耐部分放電特性が発現し、かつ、充填量が少なくて済むことで、材料の密度を小さく抑えることができ、最終的には絶縁コイル、エナメル線、注型絶縁物の軽量化を図ることができる。
【0059】
次に、実施例1と比較例3とを比較する。実施例1では、層間にオクタデシルアミンイオンを保持した層状粘土鉱物10重量部を、有機溶剤(ジメチルアセトアミド)で膨潤させた後にエポキシ樹脂に混合し、高せん断力で混練した後に有機溶剤を除去する事で充填しているが、比較例3では、層間にナトリウムイオンが存在する層状粘土鉱物10重量部をエポキシ樹脂に混合し、高せん断力で混練して充填している。この違いは層状粘土鉱物のエポキシ樹脂中における分散状態に大きな影響を与える。エポキシ樹脂中における層状粘土鉱物の分散状態を把握するために、実施例1による耐部分放電性絶縁材料と比較例3による絶縁材料の表面を紙やすり(#240)で削った後、測定用フォルダに絶縁材料を固定し、X線回折装置(理学社製、型式:XRD−B,CuKα線)により2θ=0〜10度の範囲で測定した結果を図6に示す。
【0060】
層状粘土鉱物はSiO四面体および八面体が二次元状に配列したシート(シリケート層)からできており、このシートが積層した構造を有する微細な粒子である。X線回折測定において、2θ=2〜20度の範囲にある反射ピークは、層状粘土鉱物の層間で起こる回折に由来するピークであり、層状粘土鉱物が層構造を維持したまま樹脂中に存在することを意味する。また、2θ=0〜10度の範囲に明瞭な反射ピークが存在しない場合、層状粘土鉱物はその層間で剥離し、剥離した各層が均一に分散していることを示している。実施例1のXRD測定結果では2θ=2〜10度の範囲に反射ピークが存在しない。
【0061】
つまり、実施例1による耐部分放電性絶縁材料中では、図2(a)に示すように、層状粘土鉱物4がその層間で剥離し、均一に分散している。一方、比較例3では、2θ=7度に強い反射ピークが確認できる。これは、図2(d)に示すように、エポキシ樹脂3中に混合した層状粘土鉱物6が層構造を維持したままエポキシ樹脂3中に存在していることを示している。
【0062】
層間にオクタデシルアミンイオンが存在する層状粘土鉱物は、オクタデシルアミンイオンによりシリケート層の表面エネルギーが低減され、かつ、層間が親油性雰囲気となることから、有機溶剤に対する膨潤性やエポキシ樹脂に対する親和性が高くなる。このようなオクタデシルアミンイオンの効果により、予め溶剤膨潤させることで層間距離を広げた後に、高いせん断応力を加えてエポキシ樹脂と混合することで、層状粘土鉱物は層間で剥離して、各層が絶縁材料中で均一に分散する。一方、比較例3では、層状粘土鉱物の層間にナトリウムイオンが存在しているため、エポキシ樹脂に対する親和性が低い。このため、高いせん断応力を加えて混合しても、層状粘土鉱物を絶縁材料中に均一に分散させることができない。
【0063】
実施例1のようにエポキシ樹脂中に均一に分散した層状粘土鉱物は、部分放電による劣化を抑制するため、優れた耐部分放電特性をエポキシ樹脂に付与でき、図4に示す部分放電劣化後の表面粗さが小さくなっている。
【0064】
図7〜図9は、それぞれ本発明に係る耐部分放電性絶縁構造体の例を示す。
【0065】
図7は、発電機や回転電機等の高電圧機器に用いられる絶縁コイルを示す図である。図7において、高電圧電流を流すコイル導体11の周囲には、コイル導体11同士間およびコイル導体11−対地間を遮断する絶縁層12が設けられている。ここで、絶縁層12は、例えばマイカ紙に本発明に係る耐部分放電性樹脂組成物を含浸塗布し、これを硬化させたものからなる。
【0066】
図8は、ガス絶縁開閉装置に用いられる絶縁部材を示す図である。図8において、高電圧電流を流す導体13は、絶縁ガス(六弗化硫黄ガス)が封入された金属容器14内で絶縁部材15によって絶縁支持されている。ここで、絶縁部材15は、本発明に係る耐部分放電性樹脂組成物を注型、硬化させた注型絶縁物からなる。
【0067】
図9は、産業用モーター等に用いられるエナメル線を示す断面図である。高電圧電流を流す素線導体16の周囲には、素線導体16同士間および素線導体16−対地間を遮断する絶縁被膜17が設けられ、さらに、絶縁被膜17の周囲には、絶縁性の保護被膜18が設けられている。ここで、絶縁被膜17は、本発明に係る耐部分放電性樹脂組成物をコーティングし、これを硬化させることで得ることができる。
【0068】
図7〜図9に示すような本発明に係る耐部分放電性絶縁材料を用いた耐部分放電性絶縁構造体によれば、高電圧機器の特性や信頼性を向上させることができる。
【0069】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態による耐部分放電性絶縁材料の微細構造を模式的に示す図である。
【図2】実施例1の耐部分放電性絶縁材料および比較例1〜3の絶縁材料における無機ナノ粒子の分散状態を示す模式図である。
【図3】耐部分放電特性の評価に使用した電極構成を示す模式図である。
【図4】実施例1の耐部分放電性絶縁材料および比較例1〜3の絶縁材料の部分放電劣化後の表面粗さを示す図である。
【図5】実施例1および比較例1における部分放電による劣化の様子を模式図である。
【図6】実施例1および比較例3における層状粘土鉱物のエポキシ樹脂中での状態を表すX線回折測定の測定結果を示す図である。
【図7】本発明に係る耐部分放電性絶縁構造体の概略的な斜視図である。
【図8】本発明に係る他の耐部分放電性絶縁構造体の説明図である。
【図9】本発明に係るさらに他の耐部分放電性絶縁構造体の断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 エポキシ樹脂の分子鎖
2 無機ナノ粒子
3 エポキシ樹脂
4,6 層状粘土鉱物
5 シリカ粒子
7 試験片
8 平板電極
9 棒電極
11 コイル導体
12 絶縁層
13 導体
14 金属容器
15 絶縁部材
16 素線導体
17 絶縁被膜
18 保護被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂と、(B)エポキシ樹脂用硬化剤と、(C)層状粘土鉱物とを必須成分として含有する耐部分放電性樹脂組成物の製造方法であって、
前記層状粘土鉱物の層間にイオン交換処理により有機化合物を挿入することにより、前記層状粘土鉱物に極性溶剤および非極性溶剤の少なくともいずれか一方に対する膨潤性を付与する工程と、
膨潤性が付与された前記層状粘土鉱物を前記極性溶剤または前記非極性溶剤からなる膨潤用溶剤中で膨潤させる工程と、
膨潤した前記層状粘土鉱物を含む前記膨潤用溶剤に前記エポキシ樹脂を混合して混練する工程と、
前記混練する工程により得られた前記エポキシ樹脂、前記層状粘土鉱物、および前記膨潤用溶剤を含む混合物から前記膨潤用溶剤を除去する工程と、
前記膨潤用溶剤が除去された前記混合物に前記エポキシ樹脂用硬化剤を混合する工程と
を含むことを特徴とする耐部分放電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
(A)1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂と、(B)エポキシ樹脂用硬化剤と、(C)層状粘土鉱物とを必須成分として含有する耐部分放電性樹脂組成物の製造方法であって、
前記層状粘土鉱物の層間にイオン交換処理により有機化合物を挿入することにより、前記層状粘土鉱物に極性溶剤および非極性溶剤の少なくともいずれか一方に対する膨潤性を付与する工程と、
膨潤性が付与された前記層状粘土鉱物を前記極性溶剤または前記非極性溶剤からなる膨潤用溶剤中で膨潤させる工程と、
膨潤した前記層状粘土鉱物を含む前記膨潤用溶剤に前記エポキシ樹脂用硬化剤を混合して混練する工程と、
前記混練する工程により得られた前記エポキシ樹脂用硬化剤、前記層状粘土鉱物、および前記膨潤用溶剤を含む混合物から前記膨潤用溶剤を除去する工程と、
前記膨潤用溶剤が除去された前記混合物に前記エポキシ樹脂を混合する工程と
を含むことを特徴とする耐部分放電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
(A)1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂と、(B)エポキシ樹脂用硬化剤と、(C)層状粘土鉱物とを必須成分として含有する耐部分放電性樹脂組成物の製造方法であって、
前記層状粘土鉱物の層間にイオン交換処理により有機化合物を挿入することにより、前記層状粘土鉱物に極性溶剤および非極性溶剤の少なくともいずれか一方に対する膨潤性を付与する工程と、
膨潤性が付与された前記層状粘土鉱物を前記極性溶剤または前記非極性溶剤からなる膨潤用溶剤中で膨潤させる工程と、
膨潤した前記層状粘土鉱物を含む前記膨潤用溶剤に前記エポキシ樹脂を混合して混練し、前記エポキシ樹脂、前記層状粘土鉱物、および前記膨潤用溶剤を含む第1の混合物を得る工程と、
膨潤させた前記層状粘土鉱物を含む前記膨潤用溶剤に前記エポキシ樹脂用硬化剤を混合して混練し、前記エポキシ樹脂用硬化剤、前記層状粘土鉱物、および前記膨潤用溶剤を含む第2の混合物を得る工程と、
前記第1の混合物および前記第2の混合物から前記膨潤用溶剤を除去する工程と、
前記膨潤用溶剤が除去された前記第1の混合物と前記第2の混合物とを混合する工程と
を含むことを特徴とする耐部分放電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記層状粘土鉱物は、スメクタイト群、マイカ群、バーミキュライト群および雲母群からなる鉱物群から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の耐部分放電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記膨潤性を付与する工程において前記層状粘土鉱物の層間に挿入する有機化合物は、一級〜四級のアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の耐部分放電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記層状粘土鉱物を、前記エポキシ樹脂100重量部に対して、1〜50重量部の割合で配合することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の耐部分放電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記層状粘土鉱物の1次粒径が500nm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の耐部分放電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項記載の耐部分放電性樹脂組成物の製造方法により製造されたことを特徴とする耐部分放電性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8記載の耐部分放電性樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする耐部分放電性絶縁材料。
【請求項10】
高電圧電流を流す導体と、前記導体同士の間を遮断する絶縁物、前記導体と対地または他の部材との間を遮断する絶縁物、および前記導体を絶縁支持する絶縁物から選ばれる少なくとも1つの機能を有する絶縁部材とを具備する耐部分放電性絶縁構造体において、
前記絶縁部材は、請求項9記載の耐部分放電性絶縁材料からなることを特徴とする耐部分放電性絶縁構造体。
【請求項11】
前記絶縁部材は、前記導体同士間および前記導体と対地間を遮断する絶縁層を有する絶縁コイルであることを特徴とする請求項10記載の耐部分放電性絶縁構造体。
【請求項12】
前記絶縁部材は、金属容器内で前記導体を絶縁支持する注型絶縁物を具備することを特徴とする請求項10記載の耐部分放電性絶縁構造体。
【請求項13】
前記絶縁部材は、前記導体同士間および前記導体と対地間を遮断する絶縁被膜を有するエナメル線であることを特徴とする請求項10記載の耐部分放電性絶縁構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−191239(P2009−191239A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36469(P2008−36469)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテク・先端部材実用化研究開発事業 環境調和型電力機器実現のためのナノコンポジット絶縁材料の研究開発、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】