説明

耐震性構造物

【課題】高層ビルディング等のせん断変形が主となる構造物の耐震性能を向上させること。
【解決手段】下部構造の上に上部構造を支持させると共に、同上部構造は、主に骨組み構造で主たる鉛直荷重と水平荷重に抵抗する構造物であって、上部構造は、固定端側となる最下層階を下部構造に固定させた複数の階層からなる固定端側階層部と、同固定端側階層部の上層階を形成する折曲部形成階層と、同折曲部形成階層が形成する上層階まで複数の階層からなりかつ自由端側となる最下層階を下部構造に水平移動自在に支持させた自由端側階層部とから、一体の片持ちせん断構造体となしている。そのため、下端を固定した従来のせん断構造体に比べると、本発明の折り曲がり片持ちせん断構造体の固有周期に関係する力学上の階数は高さ方向の階数の約2倍となる。そして、せん断構造体の固有周期は階数に比例して増加するので、本発明の折り曲がり片持ちせん断構造体の固有周期は、従来のせん断構造体の固有周期の約2倍になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高層ビルディング等のせん断変形が主となる構造物の耐震性能を向上させることができる耐震性構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
地震動によって構造物に作用する地震力の大きさは、地震動の周期・振幅特性と構造物の固有周期と減衰定数などの振動特性に関係するが、特に地震動の周期特性を考慮して構造物の固有周期と減衰定数を適切に設計することは、耐震設計を経済的に行う上で重要であると考えられる(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
非特許文献1においては、構造物の耐震性能の照査に用いる設計地震動は、標準加速度応答スペクトルと減衰定数別補正係数および地域別補正係数によって規定される。非特許文献1のレベル1・レベル2地震動の標準加速度応答スペクトルによれば、約1秒を超える固有周期においては、固有周期の長周期化に応じて加速度が低減される。
【0004】
また、非特許文献2においては、地震力は固定荷重と積載荷重の和に地震層せん断力係数を乗じて計算するように規定されている。地震層せん断力係数を固有周期の関数として整理すると、約1秒を超える固有周期においては固有周期の長周期化に応じて地震層せん断力係数が低減される。
【0005】
固有周期の長周期化は構造物に作用する地震力を低減する一方で、水平方向の剛性低下による変位振幅の増加を招くので、減衰増加などの制震対策を必要とする。長周期化と高減衰化を積極的に耐震設計に取り入れた構造物は、アイソレーターとダンパーを用いた免震建築物(非特許文献3参照)として実用化されている。
【非特許文献1】 日本道路橋会:道路橋示方書・同解説V耐震設計編、pp.12−29、平成14年3月
【非特許文献2】 建築基準法施工令:昭和25年政令第三百三十八号:建築基準法施行令、第88条、最終改正平成17年11月7日政令第三百三十四号
【非特許文献3】 日本建築学会:免震構造設計指針、pp.26−56、1989年9月20日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アイソレーターとダンパーを用いた免震建築物は一般に高価であり、その適用範囲は高度な耐震性を要求される医療施設や公共施設などの低層ビルディングに限定されており、一般の高層ビルディングに適用可能な安価な耐震構造が求められている。
【0007】
また、固有周期が1秒を超える領域での長周期化は、海溝型巨大地震によって引き起こされると予想されるやや長周期の地震動との共振を引き起こす可能性が高いので、減衰装置などを用いた効果的な制震対策の重要性が高まっている(非特許文献4参照)。
【非特許文献4】 土木学会社、日本建築学会:海溝型巨大地震による長周期地震動と土木・建築構造物の耐震性向上に関する共同提言、2006年11月20日
【0008】
そこで、本発明では、高層ビルディング等のせん断変形が主となる構造体の耐震性能を向上させることを目的として、従来のせん断構造体と比較して長周期である固有振動モードを持つせん断構造体と、その構造体に適用する効率的な減衰装置の配設構造を提供するものである。
【0009】
ここで、従来のせん断構造体とは、固定端となる最下層階を下部構造に固定し、最上層階を自由端とする複数の階層からなる片持ちせん断構造体であり、水平方向の層間復元力をせん断バネで表した振動モデルにより、耐震設計に必要な構造体の固有周期と固有振動モードを工学的に十分な精度で算出できる構造体とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る本発明の耐震性構造物は、下部構造の上に上部構造を支持させると共に、同上部構造は、主に骨組み構造で主たる鉛直荷重と水平荷重に抵抗する構造物であって、上部構造は、固定端側となる最下層階を下部構造に固定させた複数の階層からなる固定端側階層部と、同固定端側階層部の上層階を形成する折曲部形成階層と、同折曲部形成階層が上層階を形成すると共に自由端側となる最下層階を下部構造に水平移動自在に支持させた複数の階層からなる自由端側階層部とから、一体の折り曲がり片持ちせん断構造体となしたことを特徴とする。
【0011】
ここで、折曲部形成階層は、少なくとも、固定端側階層部の上層階が具備する梁部と自由端側階層部の上層階が具備する梁部とを共通に構成している。
【0012】
請求項2係る本発明の耐震性構造物は、請求項1記載の耐震性構造物であって、自由端側階層部は、固定端側階層部よりも質量が大となるように形成したことを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る本発明の耐震性構造物は、請求項1又は2記載の耐震性構造物であって、下部構造に自由端側階層部の下層階を収容する収容凹部を設けて、同収容凹部内にて自由端側階層部の最下層階を水平移動自在に支持させたことを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る本発明の耐震性構造物は、請求項3記載の耐震性構造物であって、自由端側階層部の最下層階は、水平可動支持装置を介して下部構造に水平移動自在に支持させることを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る本発明の耐震性構造物は、請求項1〜4のいずれか1項記載の耐震性構造物であって、水平可動支持装置としては、摩擦係数が異なる複数の種類を設けて、これら水平可動支持装置による摩擦減衰を調整するようにしたことを特徴とする。
【0016】
請求項6に係る本発明の耐震性構造物は、請求項1〜5のいずれか1項記載の耐震性構造物であって、自由端側階層部の最下層階と下部構造との間に減衰装置を介設したことを特徴とする。
【0017】
請求項7に係る本発明の耐震性構造物は、請求項1〜6のいずれか1項記載の耐震性構造物であって、固定端側階層部と自由端側階層部との対向する階層の内、少なくとも一組の対向する階層同士間又は対向する片持ち梁部(もしく片持ち床部)同士間に減衰装置を介設して、同減衰装置により固定端側階層部と自由端側階層部を水平方向に連結したことを特徴とする。
【0018】
請求項8に係る本発明の耐震性構造物は、請求項1〜7のいずれか1項記載の耐震性構造物であって、固定端側階層部と自由端側階層部との対向する階層の内、少なくとも一組の対向する階層同士の梁部(もしくは床部)から片持ち梁部(もしくは片持ち床部)を延伸させ、対向する片持ち梁部(もしくは片持ち床部)同士間に床用伸縮装置を介設して、同床用伸縮装置により固定端側階層部と自由端側階層部との水平相対変位を吸収する間隙を水平方向に伸縮自在に閉塞したことを特徴とする。
【0019】
請求項9に係る本発明の耐震性構造物は、請求項1〜8のいずれか1項記載の耐震性構造物であって、固定端側階層部と自由端側階層部との対向する側面外壁部または側面外壁を取り付ける下地骨組部を水平方向に延伸させ、対向する側面外壁部同士間、対向する下地骨組部同士間、又は、対向する側面外壁部と下地骨組部の間に外壁用伸縮装置を介設して、同外壁用伸縮装置により固定端側階層部と自由端側階層部の水平相対変位を吸収する間隙を水平方向に伸縮自在に閉塞したことを特徴とする。
【0020】
なお、本発明は、従来のせん断構造体の支持形式とせん断構造体を構成する骨組の配置を見直すことにより、せん断構造体の水平方向の固有周期の長周期化を実現し、且つ減衰装置による減衰増加に有利となる形状を持った固有振動モードの発現を実現するものである。
【発明の効果】
【0021】
(1)請求項1記載の本発明では、下部構造の上に上部構造を支持させると共に、同上部構造は、主に骨組み構造で主たる鉛直荷重と水平荷重に抵抗する構造物であって、上部構造は、固定端側となる最下層階を下部構造に固定させた複数の階層からなる固定端側階層部と、同固定端側階層部の上層階を形成する折曲部形成階層と、同折曲部形成階層が形成する上層階まで複数の階層からなりかつ自由端側となる最下層階を下部構造に水平移動自在に支持させた自由端側階層部とから、一体の折り曲がり片持ちせん断構造体となしている。
【0022】
このように、折り曲がり片持ちせん断構造体となした本発明に係る耐震性構造物は、従来のせん断構造体の上端すなわち自由端が地面を向くように構造体を高さ方向の略1/2点で折り曲げ、自由端を水平移動自在となした構造に相当する。そのため、下端を固定した従来のせん断構造体に比べると、本発明の折り曲がり片持ちせん断構造体の固有周期に関係する力学上の階数は、高さ方向の階数の約2倍となる。そして、せん断構造体の固有周期は階数に比例して増加するので、本発明の折り曲がり片持ちせん断構造体の固有周期は、従来のせん断構造体の固有周期の約2倍になる。
【0023】
また、本発明の折り曲がり片持ちせん断構造体は、固定端側階層部と自由端側階層部の対向する階層間の大きな水平相対変位を特徴とする固有振動モードを発現する。耐震設計上最も重要な1次固有振動モードにおいては、上記の水平相対変位は上層階から下層階へ向かうにしたがって徐々に大きくなり、最下層階で最大となる。1次固有振動モードとは固有周期が最も長い固有振動モードである。
【0024】
一般的に、構造体の減衰を効率良く増加させるためには、大きな相対変位が発生する部位にクーロン摩擦力や粘性力などを作用させると良い。自由端側階層部の最下層階は下部構造に水平移動自在に支持されているので、水平移動時には当該箇所の動摩擦係数と自由端側階層部の鉛直反力との積に比例するクーロン摩擦力が自由端側階層部の最下層階と下部構造との間に発生する。1次固有振動モードの水平相対変位が最も大きな部位に鉛直反力に起因するクーロン摩擦力が作用するので、本発明の折り曲がり片持ちせん断構造体は大きな摩擦減衰を潜在的に有する。従来のせん断構造体では、このような鉛直反力に起因するクーロン摩擦力は発生しない。
【0025】
従って、請求項1記載の本発明では、従来のせん断構造体と比較して、長周期である固有振動モードを持つせん断構造体となすことができるため、固有周期の長周期化により構造体に作用する地震力を低減させることが可能であること、且つ自由端側階層部の最下層階に発生するクーロン摩擦力による大きな摩擦減衰を潜在的に有しているため、地震時の構造体の振動振幅を低減させることが可能であることから、高層ビルディング等のせん断変形が主となる構造体の耐震性能を向上させることができる。
【0026】
(2)請求項2記載の本発明では、自由端側階層部は、固定端側階層部よりも質量が大となるように形成している。
【0027】
このように、折り曲がり片持ちせん断構造体の自由端側階層部の質量を、固定端側階層部よりも質量が大となるように形成することにより、折り曲がり片持ちせん断構造体の固有周期を長周期化することができる。そして、固有周期に関係する自由端側階層部の質量は、自由端側階層部の床面積を大きくすることにより増加させることができる。例えば、自由端側階層部の質量は、自由端側階層部の階数を増加させることにより、また、部屋を大きくすることにより、また、部屋の数を多くすることにより増加させることができる。
【0028】
ここで、自由端側階層部の質量を大きくすると、逆に固定端側階層部の地震力の負担が増えることにもなるが、固定端側階層部が負担する水平方向質量(固定側の地震力の増加)を適宜増大させることで、また、大きく減衰を増やすことなどで、より大きな地震力を低減させることができる。これは、基本的な構造形態が、本発明に係る折り曲がり片持ちせん断構造体であることから、その一部を形成する固定端側階層部と自由端側階層部を上記したように適宜調整することが可能となる。その結果、大きな地震力を堅実に低減させることが可能となる。
【0029】
(3)請求項3記載の本発明では、下部構造に自由端側階層部の下層階を収容する収容凹部を設けて、同収容凹部にて自由端側階層部の最下層階を水平移動自在に支持させている。
【0030】
これは、自由端側階層部の最下層階の地上高を、固定端側階層部の最下層階の地上高より下げることを示している。また、自由端側階層部の最下層階から最上層階までの階数と高さを、固定端側階層部の最下層階から最上層階までの階数と高さに比べて、大きくすることを示している。
【0031】
本発明のせん断構造体では、固定端側階層部の階数と自由端側階層部の階数を合計した階数を増加させることにより、又は、自由端側階層部の質量を増加させることによっても固有周期を増加させることができる。よって、固定端側階層部の階数と高さに拘ることなく、自由端側階層部の階数を増加させることにより、固有周期に関係する階数および質量を増加させることにより、せん断構造体の固有周期を長周期化することができる。
【0032】
また、収容凹部と収容凹部に収納される自由端側階層部の下層階をそれぞれ水密構造とすると共に収容凹部に液体を充填することにより、液体に没した自由端側階層部の下層階の浮力を利用して、自由端側階層部の最下層階ならびに下層階を水平移動自在に支持することも可能である。また、液体の粘性を利用して振動エネルギーを吸収させ、せん断構造体の振動を減衰させることも可能である。
【0033】
また、自由端側階層部と固定端側階層部の各階層の地上高を整合させる調整作業を、収容凹部の深さ調整により容易に行うこができる。
【0034】
(4)請求項4記載の本発明では、自由端側階層部の最下層階を、水平可動支持装置を介して下部構造に水平移動自在に支持させるようにしている。
【0035】
これは、自由端側階層部の最下層階を水平移動自在に支持すると共に、自由端側階層部の最下層階と下部構造との間の摩擦係数の大きさを調整する手段として、水平可動支持装置を用いることを示したものである。
【0036】
水平可動支持装置は、その摩擦機構の違いにより非接触型ところがり摩擦型およびすべり摩擦型に大別できる。非接触型は、例えば圧縮空気流の動圧を利用して物体を浮上させる水平可動支持装置であり、原理的に接触部は無いので摩擦力は発生しないが、圧縮空気を発生する装置などが別途必要である。ころがり摩擦型は、多数の転動体を上下の平面版又は曲面板で挟んだ支持装置であり、転動体又は曲面板の曲率半径、転動体と平面板又は球面板の表面粗さと材質、および接触面の支圧応力などを適宜組み合わせることにより所要の摩擦係数を持つ水平可動支持装置を作ることができる。すべり摩擦型は、二つの摺動平板からなる支持装置であり、摺動平板の材質、表面粗さ、潤滑油の有無・種類、支圧応力などを適宜組み合わせることにより所要の摩擦係数を持つ水平可動支持装置を作ることができる。一般的に、非接触型、ころがり摩擦型、すべり摩擦型の順に摩擦係数は大きくなる。
【0037】
水平可動支持装置は自由端側階層部の最下層階と下部構造の間に設置されているので、所要の摩擦係数を有する水平可動支持装置を用いることにより、自由端側階層部の最下層階と下部構造との摩擦係数を調整することができる。
【0038】
(5)請求項5記載の本発明では、水平可動支持装置として、摩擦係数が異なる複数の種類を設けて、これら水平可動支持装置による摩擦減衰を調整するようにしている。
【0039】
水平可動支持装置の摩擦機構や材質などの諸元を適宜組み合わせることにより所要の摩擦係数を持つ水平可動支持装置を作ることは可能である。しかし、本発明の摩擦係数が異なる複数の種類の水平可動支持装置を設ける方法によっても、せん断構造体の摩擦係数を耐震設計上必要な値に設定することができる。この方法では、得られる摩擦係数の範囲は限定されるが、摩擦係数が既知で使用実績のある水平可動支持装置を僅かの設計変更により使用することができるので、所要の摩擦係数を有する水平可動支持装置を新規に開発する場合に比べて、水平可動支持装置の設置に関する費用を大幅に縮減することができる。
【0040】
例えば、非特許文献5では、ころがり摩擦型の鋼製ローラー支承の摩擦係数は0.05、すべり摩擦型のふっ素樹脂とステンレス板の摩擦係数は0.1として設計することを推奨している。これらの二つの種類の水平可動支持装置の使用総数を一定として、各種類の個数の比率を変えることにより、0.05〜0.1の範囲で摩擦係数の大きさを調整することができる。
【非特許文献5】 日本道路橋会:道路橋示方書・同解説I共通編 II鋼橋編、pp.86−89、平成14年3月
【0041】
(6)請求項6記載の本発明では、自由端側階層部の最下層階と下部構造との間に減衰装置を介設している。
【0042】
自由端側階層部の最下層階と下部構造との間で発生するクーロン摩擦力によって消費される振動エネルギーは、最下層階と下部構造の水平相対振幅に比例して増減する。これに対して構造体の持つ振動エネルギーは当該箇所の水平相対振幅の二乗に比例して増減する。従って、当該箇所の水平相対振幅が大きくなるとつまりせん断構造体の振動振幅が大きくなると、クーロン摩擦力による摩擦減衰の効果は減少する。
【0043】
振動振幅の増加に伴う摩擦減衰の効果の減少を補うための方法として、例えば、振幅の二乗に比例して振動エネルギーが消費される粘性減衰装置を装着することが考えられる。粘性減衰装置の能力を最大限に発揮するためには、相対速度が最も大きくなる部位に粘性減衰装置を装着する必要がある。相対速度が最大となる部位と相対変位が最大となる部位は一致する。
【0044】
本発明の折り曲がり片持ちせん断構造体においては、耐震設計上最も重要な1次固有振動モードの水平相対変位は、自由端側階層部の最下層階で最大となる。よって、自由端側階層部の最下層階と下部構造との間に減衰装置を介設することにより、せん断構造体の減衰性能を最も効率的に向上させることが可能である。
【0045】
(7)請求項7記載の本発明では、固定端側階層部と自由端側階層部との対向する階層の内、少なくとも一組の対向する階層同士間又は対向する片持ち梁部(もしく片持ち床部)同士間に減衰装置を介設して、同減衰装置により固定端側階層部と自由端側階層部を水平方向に連結している。
【0046】
ここで、本発明の折り曲がり片持ちせん断構造体は、固定端側階層部と自由端側階層部の対向する階層間の大きな水平相対変位を特徴とする固有振動モードを発現する。この水平相対変位は、1次固有振動モードでは上層階から下層階に向かって徐々に大きくなり自由端側階層部の最下層階で最大となるが、2次以降の固有振動モードにおいては上層階と下層階の中間である中層階あるいは上層階付近又は下層階付近で最大となる。
【0047】
一方、階層が多数となる超高層ビルディングにおいては、階層の増加に比例して固有周期が長くなるので、1次固有振動モードに加えて2次以降の固有振動モードの振動を制御することが耐震設計上重要となる場合がある。
【0048】
1次固有振動モードに加えて2次以降の固有振動モードを対象として最も効率良く減衰を増加させるためには、減衰増加の対象とする次数の固有振動モードにおいて、固定端側階層部と自由端側階層部の対向する階層間の水平相対変位が最大となる階層同士間を減衰装置により水平方向に連結すれば良い。
【0049】
よって、本発明の減衰装置の介設方法は、減衰装置の性能を最大限に発揮できて、1次に加えて2次以降の固有振動モードを対象として効率的にせん断構造体の減衰性能を向上させることが可能である。
【0050】
なお、請求項6と7に記載する減衰装置は、流体の粘性抵抗を利用する粘性減衰装置、流体の乱流による圧力降下を利用するオイルダンパー、金属の塑性変形を利用した履歴型ダンパー、クーロン摩擦を利用する摩擦型減衰装置などの振動エネルギーを消費することのできる装置である。さらに、磁性流体を利用した減衰係数をリアルタイムで制御できる可変型オイルダンパーなどを使用して、振動振幅の大きさに応じて可変型オイルダンパーの減衰係数を変化させることによりせん断構造体の減衰性能をリアルタイムで制御する方法を取り入れることも可能である。
【0051】
(8)請求項8に記載の発明では、固定端側階層部と自由端側階層部との対向する階層の内、少なくとも一組の対向する階層同士の梁部(もしくは床部)からそれぞれ片持ち梁部(もしくは片持ち床部)を延伸させ、対向する片持ち梁部(もしくは片持ち床部)同士間に床用伸縮装置を介設して、同床用伸縮装置により固定端側階層部と自由端側階層部との水平相対変位を吸収する間隙を水平方向に伸縮自在に閉塞している。
【0052】
本発明の対象とする高層ビルディングを建設する目的は、安全且つ快適且つ安価な居住空間および収納空間を提供することである。よって、限られた空間の中で居住空間および収納空間を最大限に確保することは、安価な空間を提供する上で重要である。
【0053】
本発明のせん断構造体においては、固定端側階層部と自由端側階層部との対向する空間に、居住空間および収納空間に利用するための床部を設置することとした。この床部を設置するために、固定端側階層部と自由端側階層部の梁部から片持ち梁部を延伸すると共に同片持ち梁部を利用して片持ち床部を構成することとした。ただし、互いに相対する固定端側階層部と自由端側階層部には水平相対変位が発生するので、相対する片持ち梁部および片持ち床部には同水平相対変位を吸収する隙間を設けるものとした。さらに、片持ち床部の同隙間は安全管理上適当でないので、同間隙を容易に変形する床用伸縮装置で塞ぐことにより、片持ち床部を居住空間および収納空間として利用できるようにした。
【0054】
また、互いに相対する固定端側階層部と自由端側階層部の水平相対変位により生じる床用伸縮装置の復元力は、せん断構造体の固有周期に影響を及ぼさない程度の小さなものとする。
【0055】
なお、片持ち床部は、片持ち床部の中間や端部を必要に応じて床梁などにより補強を行うこととする。また、床用伸縮装置で発生する摩擦力などが経年的に一定で且つ定量的である場合は、同摩擦力をせん断構造体の摩擦減衰として考慮しても良い。
【0056】
(9)請求項9に記載の発明では、固定端側階層部と自由端側階層部との対向する側面外壁部または側面外壁を取り付ける下地骨組部を水平方向に延伸させ、対向する側面外壁部同士間、対向する下地骨組部同士間、又は、対向する側面外壁部と下地骨組部の間に外壁用伸縮装置を介設して、同外壁用伸縮装置により固定端側階層部と自由端側階層部の水平相対変位を吸収する間隙を水平方向に伸縮自在に閉塞している。
【0057】
本発明の対象とする高層ビルディングを建設する目的は、安全且つ快適且つ安価な居住空間および収納空間を提供することである。よって、安全且つ快適な空間を提供することは重要である。
【0058】
本発明のせん断構造体では、固定端側階層部と自由端側階層部に水平相対変位が発生するので、互いに相対する固定端側階層部と自由端側階層部の境界では、互いの階層部に設置した側面外壁の端部同士間に同水平相対変位を吸収する隙間を設けるものとした。この隙間は、風雨の侵入などの原因となるので快適な空間を提供する目的に適当でないので、同隙間を容易に変形する外壁用伸縮装置で塞ぐこととした。
【0059】
同隙間の寸法を最小限にすると共に外壁用伸縮装置を取り付けるために、固定端側階層部と自由端側階層部の側面外壁部または側面外壁を取り付ける下地骨組を水平方向に延伸し、側面外壁の端部同士間の隙間を容易に変形する外壁用伸縮装置で塞ぐこととした。ここで、下地骨組とは、外壁などを取り付けるために設置される一般的に間柱や胴縁と呼称されるようなものである。
【0060】
また、互いに相対する固定端側階層部と自由端側階層部の水平相対変位により生じる外壁用伸縮装置の復元力は、せん断構造体の固有周期に影響を及ぼさない程度の小さなものとする。同水平相対変位により発生する外壁用伸縮装置の塑性変形などに起因する振動エネルギー消費が、経年的に一定且つ定量的であるときは、同振動エネルギー消費をせん断構造体の減衰として考慮しても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
本実施形態では、先ず、本発明に係るせん断構造体の骨組と下部構造としての基礎による支持形式の特徴を述べ、同せん断構造体の運動方程式と非減衰系の固有値問題を定式化し、固有振動モードの固有周期と形状および減衰定数を理論的に解明する。次に振動理論により得られた固有振動モードの形状に着目した粘性減衰装置の効率的な配置について述べ、粘性減衰装置の設置による減衰定数の増加を理論的に明らかにする。振動理論により得られた固有振動モードの固有周期と形状および減衰定数は縮小模型を用いた振動実験により具体的に検証する。最後に、振動理論と振動実験によって明らかになった本発明に係るせん断構造体の特徴をまとめる。
【0062】
[本発明に係る折り曲がりせん断構造体の振動理論]
【0063】
(1)従来の片持ちせん断構造体
図1に高層ビルディングの平面振動モデルの一つである下端が基部に固定されたせん断構造体を示す。この振動モデルはn個の梁とそれらに剛結された等断面の2本の柱とn個のダッシュポットで構成され,各層の動力学特性が全て等しいn層のせん断振動体をする。この振動モデルをSystem−CSと呼ぶ。
【0064】
各層の高さはhとし,構造体の高さはhtotal=nhとする。よって、層数を表すnは構造体の幾何学的高さを表すパラメーターを兼ねる。柱は弾性体とし、梁は剛体とする。柱と梁の質量は各層の梁に集中させる。図1中の記号kとmおよびcは各層のせん断バネ定数と質量およびダッシュポットの粘性減衰係数とする。ダッシュポットは構造体の構造減衰または従来の上下の梁を連結する(以後、鉛直面配置と略す。)粘性減衰装置による減衰を表すものとする。基部が水平変位z(t)を生じたときの梁の水平変位を図1のごとくx,x,…,xと定義する。ここに、tは時間を表す。なお、図1は変形時のイメージであり、変形前の柱は真っ直ぐである。
【0065】
図2に片持ちせん断構造体としてのSystem−CSの各層の動力学特性を定義する振動モデルを示す。図のごとく梁に水平力pが作用したときの梁の水平変位をxとするとき、せん断バネ定数kについてはp=kxの関係があるものとする。質量を梁に集中させると、この振動系はせん断バネ定数kと粘性減衰係数cおよび質量mからなる1自由度振動モデルとなる。よって、この振動モデルの非減衰系の固有円振動数ωと固有周期Tおよび粘性減衰定数ζはそれぞれ次式で表される。
【数1a】

【数1b】

本実施形態では、T、ωおよびζをそれぞれ層固有周期、層固有円振動数、および層粘性減衰定数と呼ぶ。
【0066】
System−CSにおいて基部が水平変位z(t)を生じる時の運動方程式は次式で示される。
【数2】

【0067】

ルとする。
【数3a】

【数3b】

【数3c】

【0068】
ベクトルの上付・括弧付添え字(n)はベクトルまたは正方行列のサイズがnであることを示す。上付き添え字Tは行列の転置を示す。
【0069】
数2のK(n)とC(n)およびM(n)はそれぞれ次式で示す剛性行列と減衰行列および質量行列とする。
【数4a】

【数4b】

【数4c】

【0070】
ここに、I(n)は単位行列、A(n)は次式の三重対角行列とする。
【数5】

【0071】
System−CSの非減衰系の固有値問題は次式となる。
【数6】

【0072】
ここに、ωとψ(n)は固有円振動数とそれに対応する固有ベクトルである。数(4a)と数(4c)を用いると数(6)は次式の標準固有値問題に変形される。
【数7】

【0073】
ここにλは固有値である。固有円振動数ωと層固有円振動数ωの比、固有周期Tと層固有周期Tの比、および固有値λには次式の関係がある。
【数8】

【0074】

【数9】

【数10a】

【数10b】

【0075】

する。
【数11a】

【数11b】

【0076】
数8と数9より、固有周期Tと層固有周期Tの比は次式で表される。
【数12】

【0077】
数12より片持ちせん断構造体、System−CSの固有周期は層固有周期Tと層数nによって決まり、層固有周期を一定として層数を増加させると固有周期は増加することが分かる。
【0078】

交条件より、ζとζの比は次式で表される。
【数13】

【0079】
数13より、System−CSの粘性減衰定数は層粘性減衰定数ζと層数nによって決まり、層粘性減衰定数を一定として層数を増加させると粘性減衰定数は減少することが分かる。
【0080】
(2)折り曲がり片持ちせん断構造体
a)固有周期と固有振動モード
ここではせん断構造体の高さhtotalを変えることなく、数12に基づいて固有周期に関係するところの層数nを2倍にすることにより、構造体の1次固有周期を約2倍にすることを考える。図3に示す振動モデルは、下端を基部に固定したせん断構造体Fと、下端を基部上のローラーで鉛直方向に支持したせん断構造体Rを、互いに上端で結合した折り曲がり片持ちせん断構造体である。せん断構造体Rは、せん断構造体Fの下端を基部から切り離し、その下端にローラーで鉛直方向に支持され且つ水平方向に移動が可能な梁を追加したものである。なお、図3は変形時のイメージであり、変形前の柱は真っ直ぐである。
【0081】
せん断構造体Fの梁の番号を下端から上端に向かって1,2,…,nとし、せん断構造体Rの梁の番号を上端から下端に向かってn,n+1,…,2nとする。梁nはせん断構造体FとRに共通な梁であり、梁2nはローラーで鉛直方向に支持された梁である。柱と梁の質量は各層の梁に集中させ、梁1から梁(n−1)および梁(n+1)から梁(2n−1)の質量をmとする。梁nと梁2nの質量はそれぞれ、(1+α)mと(1+β)mとする。αとβはそれぞれせん断構造体FとRの上端の梁nを結合するための質量の増加およびローラー上の梁2nを可動とするための質量の増加を表す質量係数とする。各層のダッシュポットの粘性減衰係数とせん断バネ定数は全て等しく、それぞれcとkする。梁iの水平変位を図3に示すようにxとする。
【0082】
図3の振動モデルをSystem−FRと呼ぶ。System−FRの単層の動力学特性はSystem−CSと相似であり、数1aと数1bが成り立つものとして、mとkおよびcには次数の関係があるものとする。
【数14】

ここに、σは比例定数とする。
【0083】
System−FRにおいて基部が水平変位z(t)を生じるときの運動方程式は次式で示される。
【数15】

【0084】
ここに、fは梁2nの水平移動に対するローラーの転がり抵抗力をモデル化したクーロン

質量行列とする。
【数16a】

【数16b】

【数16c】

【数16d】

ここで、数16dの行列B(2n)はn番目と2n番目の対角要素の値がそれぞれαとβであり、他の要素の値が全てゼロである2n次の行列とする。
【0085】
System−FRにおいてクーロン摩擦力と粘性減衰力を無視した非減衰系の固有値問題は次式となる。
【数17】

【0086】

である。数16aと数16cを用いると数17は次式に変形される。
【数18】

【0087】

【数19】

【数20a】

【数20b】

【0088】
また、固有円振動数ωFR,iと層固有円振動数ωの比、固有周期TFR,iと層固有周期Tの比、および固有値λFR,iには次式の関係がある。
【数21】

【0089】
なお、数14で示した構造体の質量とせん断バネ定数および粘性減衰定数の大きさを表す比例定数σは数21で表す固有周期と層固有周期の比に影響を及ぼさない。
α=β=0の条件では、数18の固有値と固有ベクトルはそれぞれ数9と数10bにおいてnを2nに置き換えたものに等しいので、System−FRの固有周期はSystem−CSの固有周期の約2倍となることが分かる。
【0090】
図4はSystem−CSとSystem−FRにおける1次から3次までの固有周期と層数nの関係を数8と数21で調べたものである。ここでの層数nは構造体の幾何学的な高さhtotalも表している。System−FRはα=β=0とα=2,β=1の二つの条件で計算した固有周期の比を示している。前者の条件の固有周期は数8と数9を用いて計算し、後者の条件では固有値λFRを数値計算により数18から求めて数21で整理したものである。固有値問題の数値解法にはハウスホルダー法とQR法を併用した解法を用いた。図4より層固有周期Tが一定であれば、System−FRの固有周期はSystem−CSの固有周期の約2倍となり、層数nに比例して増加することが分かる。System−FRにおけるα=2,β=1の条件では固有周期はα=β=0に比べて若干大きくなることが分かる。
【0091】
図5はα=β=0とn=10の条件のSystem−FRの1次から4次までの非減衰系の固有ベク

ため、固定側のせん断構造体Fの梁を●印で、ローラー側のせん断構造体Rの梁を○印で表示する。1次モードは梁2nと梁nが同方向に変位する逆V字形、2次モードは梁2nと梁nが反対方向に変位する細長い0字形、3次モードはl字形、4次モードは「く」の字に曲がった8字形の振動モードとなることが分かる。
【0092】
b)粘性減衰定数

る粘性減衰定数ζFR−c,iとクーロン摩擦力fによる減衰を評価する等価粘性減衰定数ζFR−f,iに分けて考える。数20aと数20bの固有ベクトルの直交条件より、ζFR−c,iと層粘性層粘性減衰定数ζの比は数22で表される。
【数22】

なお、数14で示した構造体の質量とせん断バネ定数および減衰定数の大きさを表す比例定数σは数22の関係に影響を及ぼさない。
【0093】
図6はSystem−CSとSystem−FRの1次から3次までの粘性減衰定数と層数の関係を数22で調べたものである。System−FRの条件は図4の条件と同じである。層粘性減衰定数ζが一定であれば、System−FRの減衰定数はSystem−CSの減衰定数の約1/2となり、層数の増加に反比例して減少することが分かる。

ベて若干小さくなるものの、>10においては大きな違いは見られない。
【0094】
c)クーロン摩擦力と等価粘性減衰定数
クーロン摩擦力fが作用する振動系の1周期の間に消滅するエネルギーの量が等価粘性減衰係数を持つ減衰振動系の1周期の間に消滅するエネルギーの量に等しいと仮定し、固

e,iは次式で表される。
【数23】


であり、着目する梁jの振幅をaとすると、次式で近似できる。
【数24】

【0095】

【数25a】

【数25b】

【0096】

【数26a】

【0097】
数(26a)に数(23)と数(24)を適用すると次式を得る。
【数26b】

【0098】
ローラーに制動機能を持たせるとクーロン摩擦力fを任意の大きさに調整できるが、本実施形態では、fをローラーに作用する鉛直力に比例する力と考える。すなわちSystem−FRのローラーに作用する鉛直力をpν、ローラーの動摩擦係数をμとすると、fは次式で表される。
【数27】

【0099】
鉛直力pνは、梁nの質量の1/2および梁n+1から梁2nの質量の和に重力加速度gを掛けたものとし、次式で表す。
【数28a】

【数28b】

ここに、γはローラーに作用する鉛直力の大きさを表す係数である。ローラーの動摩擦係数が与えられれば、数26bによりクーロン摩擦力による減衰を等価粘性減衰定数として評価することが可能と考えられる。
【0100】

【数29】

【0101】
(3)ダッシュポットの水平面配置による減衰増加対策
前節では自由端をローラーで鉛直方向に支持された折り曲がり片持ちせん断構造体の固有周期は通常の片持ちせん断構造体の固有周期の約2倍になるものの、粘性減衰定数は約1/2となることを示した。約1秒を超える領域での固有周期の長周期化は地震力の低減をもたらす一方で、水平方向の剛性低下による変位振幅の増加をもたらす。また、粘性減衰定数の減少は変位振幅の増加につながるので、変位振幅を減少させる対策が必要である。
【0102】
一般に低次の固有振動モードは変位への寄与が大きいので、低次の固有振動モードに着目して、減衰装置としてのダッシュポットの設置による減衰増加を考える。ダッシュポットの性能を最大限に発揮させるためには、相対変位が大きい箇所にダッシュポットを設置する必要がある。図5のSystem−FRの1次・2次固有振動モードの形状より、高さが等しい箇所の構造体Fの梁と構造体Rの梁では大きな相対変位が生じるので、図7に示すように左右の隣接する梁をダッシュポットcで連結することにより減衰を増加させることが可能と考えられる。この減衰装置の配置を水平面配置と呼ぶ。cはダッシュポットの粘性減衰係数とし、既に存在するダッシュポットの粘性減衰係数cと次の関係があるものとする。
【数30】

【0103】
ここに、τは比例定数である。図7の振動モデルをSystem−DFRと呼ぶ。System−DFRにおいて基部が水平変位z(t)を生じる時の運動方程式は次式で示される。
【数31】


【数32a】

【数32b】

【0104】
数32bの行列D(2n)の配列特性により、System−DFRは非比例減衰振動系となるので、

有値解析5)により評価できるが、System−DFRではクーロン摩擦力が非線形項として作用するので、複素固有値解析においてもこの非線形項の影響は考慮できない。本実施形態で

【数33】

数33には、減衰係数cの大きさを表す比例係数σは影響を及ぼさない。
【0105】
図8は、System−DFRの粘性減衰定数ζFR−d,iと層数nの関係を、α=β=0、τ=1の条件で調べたものである。比較のために図6で示したSystem−FRのζFR−c,i(α=β=0)とSystem−CSのζも併記している。層粘性減衰定数ζを一定とすると、ζFR−c,iとζは層数nの増加に反比例して減少するのに対して、ζFR−d,iは層数nの増加に比例して増加することが分かる。τ=1の条件は粘性減衰係数がcのダッシュポットを設置することを意味しているので、ダッシュポットcの鉛直面配置に比べてダッシュポットcの水平面配置は効率的に減衰を増加させると考えられる。
【0106】

ζDFR,i=ζDF,i+ζDF−d,iとなるので、数29より次式で評価する。
【数34】

【実施例】
【0107】
以下に、本発明に係る実施例について、図面を参照しながら説明する。図9は、本実施例にかかる耐震性構造物STの模式的正面説明図、図10(a)(b)(c)は、それぞれ同9図のI−I線断面説明図、II−II線断面説明図、III−III線断面説明図である。
【0108】
耐震性構造物STは、図9に示すように、基礎又は地下構造物等の下部構造10の上に、主に骨組み構造で主たる鉛直荷重と水平荷重に抵抗する上部構造11を支持させて構成した構造物である。そして、上部構造11は、図10に示すように、固定端側せん断構造体F(以下、単に「せん断構造体F」と称する場合がある。)と自由端側せん断構造体R(以下、単に「せん断構造体R」と称する場合がある。)とから、上方へ突状に折り曲げた一体の折り曲がり片持ちせん断構造体DFR(以下、単に「片持ちせん断構造体DFR」と称することがある。)となしており、本実施例では、左右一対の片持ちせん断構造体DFR,DFRを左右対称位置に配設して、一対の固定端側せん断構造体F,Fを配設し、両せん断構造体F,Fの間に両自由端側せん断構造体R,Rを配設すると共に、両自由端側せん断構造体R,Rを一体となして構成している。
【0109】
すなわち、片持ちせん断構造体DFRは、図9及び図10に示すように、固定端側となる最下層階を下部構造10に固定させた複数の階層(本実施例では10階層)からなる固定端側階層部12と、同固定端側階層部12の上層階(本実施例では最上層階)を形成する折曲部形成階層13とで固定端側せん断構造体Fを形成し、上層階を形成すると折曲部形成階層13と、自由端側となる最下層階を下部構造10に水平移動自在に支持させた複数の階層(本実施例では10階層)からなる自由端側階層部14とで自由端側せん断構造体Rを形成している。
【0110】
そして、固定端側階層部12は、上下方向(図10に示すZ方向)に伸延する柱部15と、左右及び前後方向(図10に示すX方向及びY方向)に伸延する梁部(もしくは床部)16とを組み立てて形成する各階層部を、上下方向に積層状態に構築して構成している。同様に、自由端側階層部14は、上下方向に伸延する柱部17と、左右及び前後方向に伸延する梁部(もしくは床部)18とを組み立てて形成する各階層部を、上下方向に積層状態に構築して構成している。折曲部形成階層13は、固定端側階層部12の最上階層を形成する柱部15と、自由端側階層部14の最上階層を形成する柱部17との間に、梁部(もしくは床部)19を介設して構成している。
【0111】
しかも、本実施例では、自由端側階層部14を、固定端側階層部12よりも質量が大となるように形成して、片持ちせん断構造体DFRの固有周期が長周期化するようにしている。具体的には、固有周期に関係する自由端側階層部14の質量は、自由端側階層部14の床面積を大きくすることにより増加させている。そして、床面積は、部屋を大きくすることにより、また、部屋の数を多くすることにより増加させている。また、自由端側階層部14の階数を増加させることによっても床面積を大きくすることができる。
【0112】
ここで、自由端側階層部14の質量を大きくすると、逆に固定端側階層部12の地震力の負担が増えることにもなるが、固定端側階層部12が負担する水平方向質量(固定側の地震力の増加)を適宜増大させることで、また、大きく減衰を増やすことなどで、より大きな地震力を低減させるようにしている。本実施例では、基本的な構造形態が、片持ちせん断構造体DFRであることから、その一部を形成する固定端側階層部12と自由端側階層部14を上記したように適宜調整することができる。その結果、大きな地震力を堅実に低減させることができる。
【0113】
さらに、本実施例では、下部構造10に自由端側階層部14の下層階を収容する収容凹部29を段付き凹状に形成して設け、同収容凹部29にて自由端側階層部14の最下層階の床部28を水平移動自在に支持させると共に、固定端側階層部12と自由端側階層部14との各階層の梁部16,18の地上高レベルを整合させている。
【0114】
また、かかる収容凹部29は、その内部の空間を有効に利用することができるものであり、適宜、自由端側階層部14の最下層階を収容凹部29内に収容して、同最下層階の地上高を、固定端側階層部12の最下層階の地上高より下げることができる。従って、自由端側階層部14の最下層階から最上層階までの階数と高さを、固定端側階層部12の最下層階から最上層階までの階数と高さに比べて、大きくすることもできる。
【0115】
この点からも、本実施例に係る片持ちせん断構造体DFRでは、固定端側階層部12の階数と自由端側階層部14の階数を合計した階数を増加させることにより、又は、前記したように自由端側階層部14の質量を増加させることによっても、固有周期を増加させることができる。よって、固定端側階層部12の階数と高さに拘ることなく、自由端側階層部14の階数を増加させることにより、固有周期に関係する階数および質量を増加させて、片持ちせん断構造体DFRの固有周期を長周期化することができる。
【0116】
自由端側階層部14の最下層階には、複数の水平可動支持装置Mを設けて、下部構造10に設けた前記収容凹部29に、これらの水平可動支持装置Mを介して自由端側階層部14を図10に示すX方向及びY方向に水平移動自在に支持させている。ここで、水平可動支持装置Mは、図11に示すように、下部構造10上に配置する水平板状の下沓部20の上に、多数の炭素鋼製の球状ローラー21aを具備するローラー部21を左右及び前後方向(図10に示すX方向及びY方向)に転動自在に載置し、同ローラー部21の上に上沓部22を載設して、同上沓部22を自由端側階層部14の最下層階の床部28に連設して構成している。
【0117】
また、片持ちせん断構造体DFRの摩擦減衰を調整するために、一部の水平可動支持装置Mを、図12に示すような、すべり摩擦型水平可動支持装置Lに置き換えることも可能である。
【0118】
すべり摩擦型水平可動支持装置Lは、図12に示すように、摺動板53aが固着又は固定された下沓部53を下部構造10に固定し、上沓部55を自由端側階層部14の最下層階に固定し、摺動板54aが固着又は固定された中沓部54を摺動板53aと摺動板54aが接し且つ上沓部55と中沓部54の中心が一致するように載設する。
【0119】
クーロン摩擦力は摺動板55aと摺動板56aの接触面で発生するので、ころがり摩擦型である水平可動支持装置Mに比べてすべり摩擦型水平可動支持装置Lの摩擦係数は大きい。これより、摩擦係数の異なる種類の水平可動支持装置MとLを併用することにより、片持ちせん断構造体DFRの摩擦減衰を調整することができる。
【0120】
下部構造10に形成した前記収容凹部29内には、水平可動支持装置Mを水平移動自在に収容している。また、自由端側階層部14の最下層階の床部28と下部構造10の収容凹部29との間には複数の減衰装置Naを介設している。
【0121】
ここで、減衰装置Naは、平面視的には互いに隣接する水平可動支持装置Mの中間に配置され、すなわち最下層階の床部28の全面に減衰力が作用するように配置されている。(図9および図10(c)参照)よって、減衰装置Naとしては、床部28と下部構造10の間の未利用の空間を有効に利用できる大型の減衰装置を使用できる。また、1次固有振動モードの水平相対変位は床部28と下部構造10の間で最大となるので、減衰装置Naは最も効率良く1次固有振動モードの減衰定数を増加させる。また、床部28は図10に示すX方向とY方向の各方向に変位するので、減衰装置NaはX方向とY方向の各方向の変位に有効である必要がある。
【0122】
具体的には、減衰装置Naは、図13(a)(b)に平面説明図と側面説明図を示すように、平面視円形で上面を開口させて扁平円筒型に形成して側端部に連結部25aを有する粘性流体ケース25と、同粘性流体ケース25内に収容した粘性流体(図示せず)と、同粘性流体ケース25内の水平面上を図10に示すX方向とY方向に上記オイルを介してスライド自在に収容したスライド体26を具備している。スライド体26は上端に連結部26aを具備している。そして、減衰装置Naを配設する際には、下部構造10又は高さ調整のために下部構造10上に設けた台座10aの減衰対象物の一方に粘性流体ケース25の連結部25aを連結し、梁部や床部等の減衰対象物の他方に連結部26aを連結するようにしている。25b,26bはそれぞれ連結孔である。粘性流体としては、所要の粘度のある流体であるオイル等を使用することができ、流体の粘度およびスライド体26と流体ケース25の流体を介在する間隔を適宜設定することにより、せん断構造体の減衰の増加に必要な粘性減衰係数を得ることができる。よって、減衰装置Naは床部28の全ての水平変位に対して有効な減衰力を発生できるようにしている。
【0123】
固定端側階層部12と自由端側階層部14との対向する階層の内、少なくとも一組の対向する階層(本実施例では1階層〜8階層まで)同士間には、図9及び図10に示すように、複数の減衰装置Nbを介設して階層同士を水平方向に連結している。すなわち、固定端側階層部12の梁部16から片持ち梁部23を自由端側階層部14側に張り出し状に伸延させて形成する一方、自由端側階層部14の梁部18から片持ち梁部24を固定端側階層部12側に張り出し状に伸延させて形成して、両片持ち梁部23,24を略同一水平面上にて対向状態に配置すると共に、両片持ち梁部23,24間に減衰装置Nbと床用伸縮装置FEを介設している。かかる床用伸縮装置FEは、図9における符号FEが示すところの片持ち梁部23,24の間隙を塞ぐ装置であり、図では符号FEのみを記載している。
【0124】
両片持ち梁部23,24を形成する目的は、図15に示すように、それらの片持ち梁部を利用して固定側階層部12と自由端階層部14の間に床部61,63を形成することにより、居住空間と収容空間を増加させることにある。同床部61,63は、片持ち梁部23または片持ち梁部24の上に床を増設し、必要に応じてその床の端部や中間部を、床梁などを用いて補強することにより、既往の技術にて簡単に設置することができる。よって、同床部61,63の形成法の詳細は説明を省略する。先ず、減衰装置Nbの型式と配置および取りつけ方法を図14を参照しながら説明し、床用伸縮装置FEの構造について図15を参照しながら説明する。
【0125】
減衰装置Nbを設置する目的は、1次固有振動モードに加えて2次以降の固有振動モードの減衰定数を効率的に増加させることである。減衰装置Nbは、床部61,63の下面とその下の天井の間の空間に設置することが望ましいので、外形がコンパクトな減衰装置の使用が便利である。また、固定端側階層部12と自由端側階層部14は、それぞれ図10に示すX方向とY方向の各方向に変位するので、減衰装置Nbは全ての水平相対変位に対して有効でなければならない。
【0126】
ここで、減衰装置Nbは、流体の乱流による圧力低下を利用する高性能で且つ形状がコンパクトなオイルダンパーを使用するものとして、その配置を、図14の断面側面説明図(a)と底面説明図(b)に示す。底面説明図(b)は減衰装置Nbが取り付けられる床部61,63下面を下から見上げたときの減衰装置Nbの配置を示す。減衰装置Nbは、両端に連結部64aと64bを具備する2個の本体64で構成する。連結部64aはブラケット65aを介設して床部61に設置された床梁60に連結され、連結部64bはブラケット65bを介設して床部63に設置された床梁62に連結される。床部61は、片持ち梁部23または片持ち梁部24のいずれか一方に設置された床部であり、床部63は残りの一方の片持ち梁部に設置された床部とする。また、床梁60,62の断面形状は、充実断面、薄肉断面、開断面、閉断面等の任意形状の断面で良い。ブラケット65a,65bは床梁60,62ではなく、床部61,63に直接取り付けても良い。なお、減衰装置本体の構造、減衰装置の連結部とブラケットの連結方法、ブラケットと床梁の固定方法の説明は省略する。
【0127】
また、図中のX方向とY方向の各変位に対応するために、隣り合う2本の本体64と床梁60の一部は、2個のブラケット65aとブラケット65bを頂点とする三角形の各辺となるように配置する。減衰装置Nbの本体64の作動方向は連結部64aと連結部64bを結ぶ方向であり、その方向は図中のX方向とY方向の何れとも交差しているので、あらゆる方向の変位に対して減衰装置Nbは有効に作動する。X方向とY方向の所要減衰性能が異なる場合には、二つの本体64の角度を調整する。
【0128】
三角形の二辺となる二つの本体64を一組として、減衰増加に必要な組数を設置する。必要組数が少数の場合は、減衰力をY方向に分散させ且つ効率的に作用させるために、少なくとも二組を使用すると共に互いの組はブラケットを共有せずにつまりY方向に対して離して設置するのが良い。
【0129】
ここで、減衰装置Naと減衰装置Nbの型式と配置は、この実施例で示したような粘性減衰装置とオイルダンパーおよびそれらの配置に限定する必要はなく、他の型式の減衰装置とその性能を最大限に発揮できる配置とすることもできる。
【0130】
床用伸縮装置FEを設置する目的は、図15に示すように、固定端側階層部12の片持ち梁部23と自由端側階層部14の片持ち梁部24の間隙Gaを塞ぐことにより、片持ち梁部23,24に設置された床部61,63を居住空間または収納空間として支障がないようにすることである。また、床用伸縮装置FEには、固定端側階層部12と自由端側階層部14との間の水平相対変位に対してせん断構造体の固有周期を短くするような復元力を固定端側階層部12と自由端側階層部14に作用させないことが求められる。
【0131】
床用伸縮装置FEは、図15の平面説明図(a)と断面側面説明図(b)に示すように、床部61に容易に変形する粘弾性材71と連結板70を収納し且つ摺動材72を固定する収納凹部61aを設け、床部61と相対する床部63に連結板70を固定する収納凹部63aを設け、連結板70を収納凹部63aに固定し、連結板70の先端部70bを、収納凹部61aに固定された摺動材72上に乗せ掛けた構造であり、且つ連結板の先端部70bの前方と側方の収納凹部61に容易に変形する粘弾性材71を充填したものである。床部61と床部63の水平相対変位に応じて連結板の先端部70bの前方および側方の粘弾性材71は変形するので、例えば粘弾性材71としてシリコン系シール材などを用いることにより、粘弾性材71の変形により生じる復元力をせん断構造体の固有周期に影響しない程度に小さくすることができる。
【0132】
摺動材72と連結板70の材料の組み合わせは、例えばふっ素樹脂板とステンレス板とすることができる。あるいは連結板の材料費を縮減するために、摺動材72と接する連結板70の表面のみに摺動材72と適合する別の摺動材を固着または固定しても良い。なお、摺動材72と連結板70との間の摩擦係数が経年的に一定で且つ定量的であれば、摺動材72と連結板70で発生するクーロン摩擦力を、せん断構造体の減衰として考慮しても良い。
【0133】
次に、本発明のせん断構造体を覆う外壁の構造について説明する。図9に示す断面II−IIから下方の相対する片持ち梁部23と片持ち梁部24の間隙Gaすなわち符号FEが示す間隙では、固定端側階層部12と自由端側階層部14の水平相対変位に起因する大きな間隙Gaの変化が生じ、また、図9の骨組面と平行なせん断構造体の側面全体は風雨の浸入等を防ぐために側面外壁で覆わなければならないので、断面II−II付近とそれより下方の同側面外壁においては、固定端側階層部12に設置する側面壁面と、この側面外壁に相対する自由端側階層部14に設置する側面外壁との間に、固定端側階層部12と自由端側階層部14の水平相対変位を吸収する間隙Gaを設けると共に、同間隙Gaを図16に示す外壁用伸縮装置WEで塞ぐものとした。
【0134】
外壁用伸縮装置WEは、図16の内側から外側を見た側面説明図(a)と断面底面説明図(b)に示すように、相対する固定端側階層部と自由端側階層部から互いの側面外壁82を水平方向に延伸させると共に、水平相対変位を吸収する間隙Gaを設け、または相対する固定端側階層部と自由端側階層部から側面外壁81を取り付ける互いの下地骨組83を水平方向に延伸させると共に、水平相対変位を吸収する間隙Gaを設け、延伸させた側面外壁82同士または延伸させた下地骨組83同士を、容易に変形できるように形成した伸縮材80を介設して連結するものである。
【0135】
また、図16は下地骨組83と側面外壁82を連結する例を取り上げて、下地骨組83との連結方法と側面外壁82との連結の方法を同時に説明したものである。下地骨組83と伸縮材80との連結は、下地骨組83に上下に延伸して取りつけたブラケット83aに固定された袋ナット83bと伸縮材80の連結孔80aを、押さえ板84とボルト等(図省略)などを介設して連結する。袋ナット83aではなくスタッドボルトなどを用いて連結することも可能である。側面外壁82と伸縮材80との連結は、側面外壁82に埋め込まれた袋ナット82aと伸縮材80の連結孔80aを押さえ板84とボルト等(図省略)を介設して連結する。袋ナット82aではなく埋め込みボルトなどを用いて連結することも可能である。
【0136】
伸縮材80は弾性係数が小さな弾性材料または粘弾性材料を用いると共に容易に変形することが可能な断面形状例えば図16(b)に示す断面形状のように形成する。よって、伸縮材80の材料と断面形状を適宜選択することにより、伸縮材80の図中のX方向とY方向の変形によって生じる復元力は、せん断構造体の固有周期に影響しない程度に小さくすることができる。
【0137】
なお、水平相対変位に伴い発生する伸縮材80の塑性変形などに起因する振動エネルギー吸収が経年的に一定で且つ定量的であれば、これによる減衰をせん断構造体の減衰として考慮しても良い。
【0138】
以上に説明してきた本実施例のように、左右一対の折り曲がり片持ちせん断構造体DFR,DFRを、固定端側階層部12が外方で、自由端側階層部14が内方に位置するように、左右対称に配設した構成に限らず、折り曲がり片持ちせん断構造体DFRを前方及び又は後方に増設して構成することもできる。また、多数の折り曲がり片持ちせん断構造体DFRを、固定端側階層部12が外方で、自由端側階層部14が内方に位置するように、放射状に配設して構成することもできる。この際、周方向に隣接する固定端側階層部12同士を一体に連設して、自由端側階層部14を囲繞する筒状となして構成することもできる。このように構成した場合にも、長周期で高減衰の耐震性構造物となすことができる。
【0139】
なお、上部構造11は、主に骨組み構造で主たる鉛直荷重と水平荷重に抵抗する構造物であって、局所的な大きなせん断力に抵抗するためのせん断壁51または斜材52を部分的に有しても良い(図9参照)。
【0140】
[実験例]
以下に、本実施例としての耐震性構造物STの縮小模型を用いて行った振動実験の結果について説明する。
【0141】
(1)実験の目的
本実施例としての構造体DFRで実現しようとする固有振動モードの長周期化と、その構造体DFRに適用する粘性減衰装置Bの水平面配置による減衰の増加を検証するために、縮小模型を用いて振動実験を行った。振動実験では、振動理論により得られた固有周期と減衰定数の算定式を検証する自由振動実験と固有振動モードの形状を検証する振動台加震実験を実施した。自由振動実験では、手で加振した後の縮小模型の自由振動を観測し、その観測された自由振動の波形から固有周期と粘性減衰定数を算出し、振動理論による計算値と比較した。振動台加震実験では、振動台の正弦波加震による縮小模型の定常振動を観測し、その定常振動の記録から固有振動モードの形状と位相のずれを算出し、振動理論の形状と比較した。ただし、位相のずれについては理論式を示していないので、実験により得られた定性的な性状を説明する。
【0142】
なお、振動計測にはレーザー変位計(測定範囲±10mm、分解能0.002mm)を用い、振動台実験には熊本大学の導電式振動発生機を用いた。
【0143】
(2)縮小模型の諸元
a)折り曲がりせん断構造体模型の諸元
図17は、折り曲がり片持ちせん断構造体DFRの外観説明図であり、同構造体DFRは、基板30上に左右一対のせん断構造体F,Fを立設し、両せん断構造体F,F間にせん断構造体Rを配置して、二つのせん断構造体F,Fの上端の梁部31,31をせん断構造体Rの上端の梁部32を、左右方向に伸延するボルト33により連結している。この模型は、水平荷重の矢印の方向の剛性が矢印と直角方向の剛性に比べて小さく、矢印の方向に振動する平面振動模型である。せん断構造体Rの下端にはローラー43を具備する水平可動支持装置34を設けている。水平可動支持装置34の詳細は後述する。
【0144】
図17は、折り曲がり片持ちせん断構造体DFRの自由端に水平荷重を作用させた時の変形の様子を誇張して描写したものである。せん断構造体Fとせん断構造体Rの位置関係と変形の方向を分かり易くするために、梁部31,32と柱部35,36およびローラー43を強調し、他の部材は省略して描いている。この図では、固定端を基準として、せん断構造体FとRの上端の梁部31,31,32の水平変位xと、せん断構造体Rの下端の梁部37すなわち自由端の水平変位x10を図示している。この変形は図5に示す1次固有振動モードに良く似たものとなる。この図の水平変位の方向が模型の振動方向となることに注意が必要である。
【0145】
模型の柱部35,36にはアルミニューム合金製平角棒FB20×2×894mm(A6063)を、梁部31,32にはみがき平角鋼FB44×19×240mm(SS400)を用いた。模型の柱部35,36は一箇所当たり2本のボルト(M8、強度区分10.9)を用いて梁部31,32の端面に固定した。図18及び19に示す粘性減衰装置Aと粘性減衰装置Bの詳細は後述する。
【0146】
表1に、主に固有周期に関係する構造体模型の諸元を示す。表1に記載するせん断バネ定数と層固有周期は、模型の静的載荷試験により求めた値である。詳細については次節で詳述する。
【0147】
b)水平可動支持装置の諸元
水平可動支持装置34は、図20に示すように、下レール38とローラー車体39と上レール40とを具備している。上・下レール40,38はみがき平角鋼50×16(SS400)とした。ローラー車体39は、アルミニューム合金製フレーム41にシャフト42を介して4個の直径20mmのフランジ付きローラー43を取り付けている。シャフト42とローラー43の材質は炭素鋼(SC450)である。シャフト間隔は180mm、レール幅は50mmである。上レール40はボルト(図示せず)でせん断構造体Rの下端の梁部37に固定する。
【表1】

【0148】
図21は傾斜法によって求めたローラー車体39の動摩擦係数の頻度分布図である。これは、表1に示すせん断構造体Fの自重すなわち鉛直力pν=259Nに相当する重りを載せたローラー車体39が僅かに傾斜させた斜面を運動する様子を、レーザー変位計で計測し、その運動の軌跡から動摩擦係数を推定したものである。実験で得られた動摩擦係数は0.1〜0.3×10−3に分布し、その分布は概ね正規分布に近い形状であった。動摩擦係数の平均値は0.2×10−3である。なお、静止摩擦係数は0.4〜0.5×10−3に分布し、平均値は4.5×10−3である。
【0149】
c)粘性減衰装置の諸元
【0150】
図3で示すSystem−FRのダッシュポットcに相当する粘性減衰装置Aの外観を図22に示す。粘性減衰装置Aは透明アクリル板製の粘性流体ケースとしてのオイルケーシング44とスライド体としての平行板45とを具備している。
【0151】
図7で示したSystem−DFRのダッシュポットcに相当する粘性減衰装置Bの外観を図23に示す。粘性減衰装置Bは、アルミニューム合金製(A6063)の粘性流体ケースとしてのオイルケーシング46とスライド体としての平行板47と連結体48とを具備している。これらの二つの粘性減衰装置A,Bは共にオイルケーシング44,46内に充填したジメチルシリコーンオイルのせん断変形を利用する粘性型・平行板方式の減衰装置である。
【0152】
図18は、模型の振動方向と垂直な横断面における粘性減衰装置AとBの配置図である。この図では減衰装置の配置を分かり易く説明するために、せん断構造体Rとせん断構造体Fは切り離して表している。実際の構造ではせん断構造体Rの基準線CLとせん断構造体Fの基準線CLは重なる。粘性減衰装置Aは、せん断構造体Fの上下方向に隣接する梁部31,31の間に介設すると共に、せん断構造体Fの外側に設置する。粘性減衰装置Bは、せん断構造体Fとせん断構造体Rの左右方向に隣接する梁部31,32同士の間に介設する。
【0153】
図19は、図18のa部の拡大図であり、この図を用いて粘性減衰装置A,Bの配置を詳細に説明する。粘性減衰装置Aはせん断構造体Fの上下の梁部31,31の相対速度を利用するので、スライド体45の上端は上側の梁部31に固定された連結板49に固定し、スライド体45の下端を下側の梁部31の外面に固定したケーシングオイル44内に挿入する。この構造を全ての階層で繰り返す。ただし、System−FRのダッシュポットcの配置を再現するためにはせん断構造体Rに粘性減衰装置Aを設置する必要があるが、構造体模型内に設置スペースが足りないため、せん断構造体Rには粘性減衰装置Aを設置できなかった。
【0154】
粘性減衰装置Bはせん断構造体Rの梁部32とせん断構造体Fの梁部31の相対速度を利用するので、平行板47に取り付けた連結体48を、せん断構造体Fの左右方向に隣接する梁部31,31同士の間に横架状に架設した横連結フレーム50の中途部に固定し、平行板47の下端をせん断構造体Rの左右一対の梁部32,32間に配設したオイルケーシング46内に挿入する。横連結フレーム50と連結体48は、両方共にアルミニューム合金製(A6063)である。
【0155】
粘性減衰装置A,Bの粘性減衰係数は、次式により算定する。
【数35】

【0156】
ここに、εは粘性流体の粘度であり、lとwおよびsはそれぞれ図24に示す平行板47の長さと流体の接触深さおよび平行板47とオイルケーシング46の側壁との隙間である。粘性減衰装置Aの粘性減衰係数cdeviceに一層あたりの粘性減衰装置Aの設置個数を掛けたものがSystem−FRのダッシュポットcの粘粘性減衰係数となる。同様に、粘性減衰装置Bの粘性減衰係数cdeviceに一層あたりの粘性減衰装置Bの設置個数を掛けたものがSystem−FRDのダッシュポットcの粘性減衰係数となる。
【0157】
実験に使用したジメチルシリコーンオイルの標準温度25℃における設計粘度は9.75N/m・sであるが、実験時の振動模型の温度30〜38℃とシリコーンオイルの製造メーカーが公表している粘度−温度曲線を考慮して、粘性減衰係数は温度34℃における粘度8.3N/m・sを用いて計算を行った。粘性減衰装置A,Bの粘性減衰係数とダッシュポットの粘性減衰係数を表2にまとめる。
【表2】

【0158】
d)縮小模型における振動系の定義
自由振動実験と振動台加震実験は、折り曲がりせん断構造体模型に粘性減衰装置AとBおよびローラーガイドを装着したSystem−DFR、System−DFRの減衰装置Bを無効にしたSystem−FR、System−FRからローラー車体を取り外した振動系であるSystem−Fについて行う。また、構造体模型の構造減衰を計測するために、System−Fの粘性減衰装置Aを無効にした振動系であるSystem−F0の自由振動実験を行う。
【0159】
(3)静的載荷試験
構造体模型のせん断バネ定数を計測するために、図17に示す自由端に作用する水平荷重と模型の上端および自由端の水平変位の関係を静的載荷試験により調べた。
【0160】
図25は、Syatem−FRとSyatem−Fの1サイクルの荷重−変位曲線の一例である。図25(a)のSyatem−FRの履歴には、クーロン摩擦力が作用する構造系の特徴すなわち載荷と除荷時の荷重のギャップが顕著に現れている。通常、ギャップの大きさは静止摩擦力の2倍となるので、ローラーガイドの静止摩擦係数0.45×10−3とローラーに作用する鉛直力pν=259Nによりギャップの大きさを計算すると0.23Nとなり、図中のギャップの大きさに概ね一致する。上端(x)と自由端(x10)の履歴曲線の傾きはそれぞれ2700N/mと1360N/mであるので、これよりせん断バネ定数kを計算するとそれぞれ13.5kN/mと13.6kN/mとなる。
【0161】
一方、図25(b)のSyatem−Fの履歴には、載荷と除荷時の荷重のギャップは見られず、荷重と変位の関係は線形である。上端(x)と自由端(x10)の履歴曲線の傾きはそれぞれ2200N/mと1260N/mであるので、これらよりせん断バネ定数kを計算するとそれぞれ11.0kN/mと12.6kN/mとなる。Syatem−Fに比べてSyatem−FRのせん断バネ定数が大きい理由は、Syatem−FRではローラーが柱の軸方向変形を拘束するためと考えられる。表1のせん断バネ定数k=13.5kN/mは、Syatem−FRの上端(x)の履歴曲線から計算したものである。
【0162】
(4)固有周期と粘性減衰定数に着目した自由振動実験
a)構造体模型の構造減衰
折り曲がりせん断構造体模型の構造減衰を計測するためにSystem−F0の自由振動記録から算出した1次固有振動の1波形の粘性減衰定数と振幅の関係および1波形の固有周期と振幅の関係を図26に示す。着目点は模型の上端の梁5である。ここでの1波形の粘性減衰定数と固有周期とはそれぞれ変位応答時刻歴の隣り合うピークの振幅とピークの発生時刻から算出した粘性減衰定数と周期である。図では、煩雑さを避けるために波形の10個のピーク毎に実験値を示す。System−F0の減衰定数は振幅に関わらず一定であり、構造減衰は約0.2%であることが分かる。
【0163】
また、固有周期は振幅に関わらず一定であり、模型は弾性体として振動することが確認される。前節よりSyatem−F0とSyatem−Fのせん断バネ定数として11.0kN/mを採用すると、この二つの振動系の層固有周期はT=0.123sと計算される。この層固有周期とSystem−FRの固有値λFR,1=0.01949を用いると、System−F0とSystem−Fの1次固有周期はTF,1=0.88sと計算される。この固有周期は図26の実験結果とよく一致する。固有周期の計算に必要な縮小模型System−FRの1次と2次の固有値とそれに対応する固有ベクトルを表3に示す。
【表3】

【0164】
b)固有周期
図27は、System−DFRとSystem−FRおよびSysem−Fの自由振動記録から算出した1次固有振動モードの1波形の固有周期と振幅の関係を比較したものである。着目点は模型の上端の梁5とローラー上の梁10である。表1の層固有周期T=0.111sと表4の固有値λFR,1=0.01949を用いると、数21によりSystem−DFRとSystem−FRの1次固有周期はTFR,1=0.795sと計算される。前項で示したようにSystem−Fの1次固有周期はTF,1=0.88sと計算される。図より、これらの2つの固有周期は実験結果を良く一致することが分かる。
【0165】
c)ダッシュポットによる粘性減衰定数
前節の粘性減衰装置の諸元で述べたが、模型のせん断構造体Fには粘性減衰装置Aを設置できるが、せん断構造体Rには減衰装置Aを設置できないので、模型においてはSystem−DFRとSystem−FRのダッシュポットcの配置を再現できない。模型のダッシュ

【数36a】

【数36b】

【0166】

の粘性減衰定数ζFR−c,iと層粘性減衰定数ζの比を次式で近似する。
【数37】


【0167】
表4は縮小模型におけるSystem−FRとSystem−DFRの粘性減衰定数を振動理論に基づいて計算するために必要な諸量と計算結果をまとめたものである。
【表4】

【0168】
層粘性減衰定数ζはm=4.2kgとk=13.5kN/mおよびc=50.4Ns/mの条件で計算した。粘

と梁の接合部で失われるエネルギー起因する構造減衰は含まれていない。よって、図26で示したSystem−F0の振動実験により得られた粘性減衰定数ζFO,1=0.002を構造減衰として考慮し、これを表4に併記する。
【0169】
図28は、System−DFRとSystem−FRおよびSystem−Fについて、振動模型の自由振動記録から算出した1波形毎の粘性減衰定数と振幅の関係を、模型の構造減衰を考慮した理論値と比較したものである。着目点は模型の上端の梁5とローラー上の梁10である。System−Fの粘性減衰定数は振幅に関わらず約1.9%である。構造減衰は約0.2%なので、ダッシュポットcによる粘性減衰定数は約1.7%である。System−FRの減衰定数は無次元振幅が1/100程度において約2%であり、振幅が小さくなるに従い徐々に減衰定数が大きくなる。これはクーロン摩擦力を含む振動系の特徴が現れたものである。理論値と実験値は一致しているので、本実施形態のせん断構造体においては、ローラーの転がり抵抗による減衰は、クーロン摩擦力を用いた数26bによる等価粘性減衰として評価することが可能であると考えられる。ただし、実験で用いたローラーガイドの動摩擦係数は非常に小さいので、動摩擦係数が大きくなる場合には検討が必要と考えられる。System−DFRの減衰定数は10%から7%に分布しているが、振幅が小さいところでは減衰が大きく、振幅が大きくなると減衰が小さくなる傾向が見られる。実験値は理論値に比べて約10〜15%小さいものの、減衰定数と振幅の関係は定性的に一致している。理論値が実験値を下回る理由は、非比例減衰を対角近似により比例減衰とする粘性減衰定数の評価法にあると考えられる。
【0170】
図28において、System−DFRとSystem−FRの減衰定数の差は約5%であり、これはダッシュポットcの水平面配置により増加した減衰である。System−DFRのダッシュポットcとSystem−FRのダッシュポットcの粘性減衰係数の比はτ=0.223であるが、減衰定数の増

の比は約13となる。これは図8で示したダッシュポットcとダッシュポットcによる粘性減衰定数の差にほぼ等しい。また、模型実験におけるダッシュポットcとcの設置数は等しいことから、ダッシュポットに関する提案の水平面配置は、従来の鉛直面配置に比べて、効率的にせん断構造体の減衰を増加させられると考えられる。
【0171】
(5)固有振動モードに着目した振動台加震実験
図29と図30および図31は、それぞれSystem−DFRとSystem−FRおよびSystem−Fの各々の振動系について、振動台による正弦波加震時の振動模型の定常振動を計測して得られた1次と2次の固有振動モードを、表4の非減衰系の固有ベクトルと比較したものである。この3つの振動系は共に非比例減衰振動系であるため、梁の振幅aで表される振動モードの形状に加えて、振動台の動きを基準とした位相のずれも示している。正の角度が位相の遅れを表し、負の角度が位相の進みを表す。振動台による正弦波加震時

【0172】
1次固有撮動モードの形状を比較すると、何れの振動系も理論値と良く一致する。表4の固有ベクトルは非減衰振動系であるから、理論上は、粘性減衰装置Bとローラーの影響が無いSystem−Fが表4に示すところの理論値に近くなるものと考えられるが、実験結果はSystem−DFR、System−FR、System−Fの順に理論値との差が大きくなった。1次固有振動モードの位相を比較すると、System−DFRが65〜80°、System−FRが57〜70°、Syetem−Fが169〜175°の位相の遅れを示した。
【0173】
2次固有振動モードの振幅を比較すると、何れの振動系も理論値と概ね一致するが、System−Fでは理論値との差が大きい。2次モードの位相は梁の位置により複雑な位相のずれを示し、構造体の固定端から自由端すなわちローラー車体上の梁部に近づくにつれて位相のずれが大きくなる傾向が見られる。しかし、振動系の違いと位相のずれの違いには明確な関係は見出せなかった。なお、2次固有振動モードの固有周期の理論値はTFR,2=0.27sec.である。
【0174】
[まとめ]
高層ビルディング等のせん断変形が主となる構造体の耐震性能を向上させるために、下端を基礎に固定した片持ちせん断構造体と下端を基礎上の水平可動支持装置で支持したせん断構造体を互いに上端で結合した長周期の固有振動モードを持つ折り曲がり片持ちせん断構造体と、これを構成する二つのせん断構造体の隣り合う梁・床を互いに水平方向に連結する粘性減衰装置の水平面配置とした。粘性減衰装置を水平面に配置した提案の折り曲がり片持ちせん断構造体の運動方程式と非減衰系の固有値問題を定式化し、非減衰系の固有振動モードの固有周期と形状および粘性減衰定数を理論的に導いた。また、これらの自由振動特性は、小規模で限られた条件の実験の範囲であるが、具体的に模型を用いた振動実験により検証した。その結果、本実施形態のせん断構造体と粘性減衰装置の水平面配置について以下の知見が得られた。
【0175】
(a)本折り曲がり片持ちせん断構造体の1次固有振動モードの固有周期は、同じ階数の下端を固定した従来の片持ちせん断構造体の固有周期の約2倍となる。
(b)粘性減衰装置の水平面配置により、1次固有振動モードの粘性減衰定数は、粘性減衰装置の従来の鉛直面配置に比べて、約13倍に増加した。
(c)模型実験で確認された粘性減衰装置の水平面配置による1次固有振動モードの減衰定数は、対角近似による粘性減衰定数に比べて約10〜15%小さい。
(d)ローラーの転がり抵抗が小さい場合は、これによる減衰をクーロン摩擦力による等価粘性減衰として評価できる。
【0176】
本折り曲がりせん断構造体では、せん断構造体の骨組と基礎による支持形式の変更により固有振動モードの長周期化を達成できるが、水平方向の剛性低下よる変位振幅の増加を伴なう。変位振幅は粘性減衰装置の設置による減衰定数の増加により低減が可能であり、提案の粘性減衰装置の水平面配置は従来の鉛直面配置に比べて効率良く減衰定数を増加することができる。
【0177】
よって、本実施形態の構造体を用いた長周期化による地震力の低減と粘性減衰装置の水平面配置を用いた高減衰化を適切に耐震設計に取り入れることにより、耐震性能の高い構造物を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0178】
【図1】片持ちせん断構造体(System−CS)の概念説明図。
【図2】層の動力学特性を定義する振動モデル。
【図3】由端をローラーで支持された折り曲がり片持ちせん断構造体(System−FR)の概念説明図。
【図4】System−CSとSystem−FRにおける非減衰系の固有周期と層数nの関係を示す図。
【図5】System−FRの非減衰系固有振動モードの一例(α=β=0,n=10)。
【図6】System−CSとSystem−FRにおける粘性減衰定数と層数nの関係を示す図。
【図7】ダッシュポットを水平面に配置する折り曲がり片持ちせん断構造体(System−DFR)の概念説明図。
【図8】System−DFRにおける粘性減衰定数と層数nの関係(α=β=0,τ=1)説明図。
【図9】本実施例に係る耐震性構造物の概念的正面説明図。
【図10】図9のI−I線断面説明図(a)、図9のII−II線断面説明図(b)、図9のIII−III線断面説明図(c)。
【図11】水平可動支持装置の平面説明図(a)、同装置の側面説明図(b)。
【図12】減衰装置の平面説明図(a)、同装置の側面説明図(b)。
【図13】すべり摩擦型水平可動支持装置の平面説明図(a)、同装置の側面説明図(b)。
【図14】減衰装置の断面側面説明図(a)、同装置の底面説明図(b)。
【図15】床用伸縮装置の平面説明図(a)、同装置の断面側面説明図(b)。
【図16】外壁用伸縮装置の内側から外側を見た側面説明図(a)、同装置の断面底面説明図(b)。
【図17】折り曲がり片持ちせん断構造体模型の外観説明図(自由端に水平荷重が作用する時の変形の様子を示す)。
【図18】粘性減衰装置の横断面配置説明図。
【図19】図14のa部拡大説明図。
【図20】水平可動支持装置の分解説明図。
【図21】ローラー車体の動摩擦係数のグラフ。
【図22】粘性減衰装置Aの拡大説明図。
【図23】粘性減衰装置Bの拡大説明図。
【図24】粘性減衰装置の基本寸法説明図。
【図25】自由端に作用する水平荷重と水平変位の関係を示す図。
【図26】System−F0の1次固有周期と粘性減衰定数の関係を示す図。
【図27】ダッシュポットとローラーに着目した固有周期の比較。
【図28】ダッシュポットとローラーに着目した粘性減衰定数の比較。
【図29】System−DFRの固有振動モード。
【図30】System−FRの固有振動モード。
【図31】System−Fの固有振動モード。
【符号の説明】
【0179】
ST 耐震性構造物
DFR 折り曲がり片持ちせん断構造体
F 固定端側せん断構造体
R 自由端側せん断構造体
L すべり摩擦型水平可動支持装置
M 水平可動支持装置
Na 減衰装置(粘性減衰装置)
Nb 減衰装置(オイルダンパー)
FE 床用伸縮装置
WE 外壁用伸縮装置
A,B 粘性減衰装置
10 下部構造
11 上部構造
12 固定端側階層部
13 折曲部形成階層
14 自由端側階層部
15 柱部
16 梁部(もしくは床部)
17 柱部
18 梁部(もしくは床部)
19 梁部(もしくは床部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造の上に上部構造を支持させると共に、同上部構造は、主に骨組み構造で主たる鉛直荷重と水平荷重に抵抗する構造物であって、
上部構造は、固定端側となる最下層階を下部構造に固定させた複数の階層からなる固定端側階層部と、同固定端側階層部の上層階を形成する折曲部形成階層と、同折曲部形成階層が上層階を形成すると共に自由端側となる最下層階を下部構造に水平移動自在に支持させた複数の階層からなる自由端側階層部とから、一体の折り曲がり片持ちせん断構造体となしたことを特徴とする耐震性構造物。
【請求項2】
自由端側階層部は、固定端側階層部よりも質量が大となるように形成したことを特徴とする請求項1記載の耐震性構造物。
【請求項3】
下部構造に自由端側階層部の下層階を収容する収容凹部を設けて、同収容凹部内にて自由端側階層部の最下層階を水平移動自在に支持させたことを特徴とする請求項1又は2記載の耐震性構造物。
【請求項4】
自由端側階層部の最下層階は、水平可動支持装置を介して下部構造に水平移動自在に支持させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の耐震性構造物。
【請求項5】
水平可動支持装置としては、摩擦係数が異なる複数の種類を設けて、これら水平可動支持装置による摩擦減衰を調整するようにしたことを特徴とする請求項4記載の耐震性構造物。
【請求項6】
自由端側階層部の最下層階と下部構造との間に減衰装置を介設したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の耐震性構造物。
【請求項7】
固定端側階層部と自由端側階層部との対向する階層の内、少なくとも一組の対向する階層同士間又は対向する片持ち梁部(もしく片持ち床部)同士間に減衰装置を介設して、同減衰装置により固定端側階層部と自由端側階層部を水平方向に連結したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の耐震性構造物。
【請求項8】
固定端側階層部と自由端側階層部との対向する階層の内、少なくとも一組の対向する階層同士の梁部(もしくは床部)からそれぞれ片持ち梁部(もしくは片持ち床部)を延伸させ、対向する片持ち梁部(もしくは片持ち床部)同士間に床用伸縮装置を介設して、同床用伸縮装置により固定端側階層部と自由端側階層部との水平相対変位を吸収する間隙を水平方向に伸縮自在に閉塞したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の耐震性構造物。
【請求項9】
固定端側階層部と自由端側階層部との対向する側面外壁部または側面外壁を取り付ける下地骨組部を水平方向に延伸させ、対向する側面外壁部同士間、対向する下地骨組部同士間、又は、対向する側面外壁部と下地骨組部の間に外壁用伸縮装置を介設して、同外壁用伸縮装置により固定端側階層部と自由端側階層部の水平相対変位を吸収する間隙を水平方向に伸縮自在に閉塞したことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の耐震性構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2009−281125(P2009−281125A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160969(P2008−160969)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所 社団法人 土木学会 西部支部 刊行物名 平成19年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集 該当頁 第147−148頁 発行日 平成20年2月21日
【出願人】(594158150)学校法人君が淵学園 (12)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】