説明

耐食性基材およその製造方法

耐食性基材は六価クロムを含まない耐食性2層コーティングで被覆される。基材は主としてアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金からなる。湿式化学で積層された第1の無機の不動態化層を基材上に直接配置し、第2の有機修飾ポリシロキサン層を不動態化層上に直接配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐食性基材に関し、具体的には、六価クロムを含まない耐食性コーティングを有する基材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鋼鉄及びアルミニウムから製造された金属シート及び金属部品は、腐食媒体及び酸素による腐食からシート又は部品を保護するコーティングを備えていることが多い。また、このコーティングによってシート又は部品に塗布される塗装の付着性が改善され、更にはこの部品の耐食性が改善され得る。DIN50021SSに準拠した塩水噴霧試験又は屋外曝露試験などの指定の試験条件に従って、このコーティングを組み入れて耐食性を試験した。
【0003】
幾つかの耐食性コーティングは、六価クロムを有する組成物を含む。しかし、六価クロムは毒性があるため、六価クロムを含んだコーティングはもはや望ましくない。したがって、例えば米国特許第6,375,726号に記載の六価クロムを含まない代替製品が、過去数年に亘って開発されてきた。
【0004】
容認される耐食性を有する六価クロムを含まない幾つかのコーティングが、標準的な耐食条件に対して既に存在している。しかし、これら六価クロムを含まないコーティングの耐食性は、幾つかの基材材料や高腐食環境には不十分である。
【0005】
更に別の試験から、現在市販されている六価クロムを含まないコーティングの耐食性は、酸を含んだ高腐食雰囲気では不十分であることが知られている。例えば、酸を含んだ雰囲気は、車両の排気系において、特に、排気再循環を用いる排気系及び廃ガス系において発生する。これらの用途は、コーティングが高温、例えば120℃〜最高250℃においても耐食性を必要とするという更なる要件を含む。しかし、既に開発済みの六価クロムを含まないコーティングは、このような条件において短時間で腐食の徴候を示す。
【0006】
この問題は、幾つかの金属及び合金、例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金、特にアルミニウムダイキャスト合金においては更に重大である。これらの金属及び合金は、合金成分、例えば、銅、ニッケル、亜鉛、スズ及び/又は鉄が付加されているために耐食性が劣る。また、コーティングされた金属も、塗装、ボンディング又はゴムコーティングを追加しなくても耐食性であることが望ましい。このことは、大型の装置に組み込まれて、別の部品と正確に組み合わされなければならないボルトなどのパーツで望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、高腐食雰囲気、特に酸を含んだ雰囲気においてより良い耐食性を有する六価クロムを含まない耐食性基材と、その基材を製造する方法とを提供することである。
【0008】
これは、独立請求項の構成要件によって解決される。更に有利な変形例が、従属請求項の構成要件である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、六価クロムを含まない耐食性2層コーティングを有する耐食性基材が供給される。この基材は、主としてアルミニウム又はアルミニウム合金を含む。この2層耐食性コーティングの第1の層は、湿式化学で積層された不動態化層である。この第1の層は、基材上に直接配置される。第2の層は、有機修飾ポリシロキサン層である。このポリシロキサン層は不動態化層上に直接配置される。
【0010】
したがって、本発明による耐食性コーティングは、それぞれが六価クロムを含まない2層から構成される。下部の不動態化層は無機であり、湿式化学法によって基材上に直接積層される。上部層は有機修飾ポリシロキサン層である。本発明によりこれら2層コーティングを組み合わせることで、耐食性が改善する。
【0011】
耐食性の改善を実現するために、2層コーティングは、2層の特性を別個に最適化するために実現可能な手段を提供する。表面の材料に対する第1の不動態化層の付着性は、例えば、完成した2層コーティングが基材から分離せずに、基材の表面が完全に被覆されるように、最適化され得る。
【0012】
第2の有機修飾ポリシロキサン層は、第1の不動態化層に十分に付着し、第1の不動態化層を確実に被覆するように最適化され得る。第2の層は、原理上は基材材料に対する良好な付着性を示さなくてもよい。また、第2の有機修飾ポリシロキサン層の表面は最適化されて、下部の第1の不動態化層とは異なる特性になる。
【0013】
別の実施形態では、不動態化層及び/又は有機修飾ポリシロキサン層はリン酸塩を含まない。「リン酸塩を含まない(free of phosphate)」という表現は、蛍光物質(phosphor)を含んでいないことも意味する。したがって、基材は如何なるリン酸塩処理又はリン酸塩層も含まない。したがって、本発明による2層コーティングは、表面処理をしない基材に適している。
【0014】
この無機の不動態化層は、異なる組成物を含み得る。1つの実施形態としては、この不動態化層は三価クロムを含む。また、この不動態化層は、Na及び/又はK及び/又はZrを含み得る。これらの元素は、層中ではイオンとして存在し得る。
【0015】
1つの実施形態としては、この不動態化層は変換層である。変換層は、堆積された不動態化層の成分及び基材の材料の成分の両方を含む。この変換層は、基礎となる基材とこの上に積層された変換層との化学反応から形成される。この化学反応は、不動態化層と基礎となる基材との間の付着性の改善をもたらし得る。
【0016】
多孔性を殆ど有さないか又は全く有さない良好なコーティングが、薄い不動態化層によって達成され得る。1つの実施形態としては、この不動態化層は0.2μm≦a≦2μmの厚さaを有する。約0.5μmの平均厚さが実際には有用であることが証明されており、確実に実現され得る。
【0017】
1つの実施形態としては、有機修飾ポリシロキサン層は、硬化した架橋ポリマーネットワークを含む。したがって、この実施形態によるポリシロキサン層は塗料を意味し得る。
【0018】
1つの実施形態としては、有機修飾ポリシロキサン層は、主としてブロック化イソシアネートを通してポリマーネットワークに架橋されたエポキシ基置換ポリシロキサンを含む。こういった組成物及びそれから形成された層は、例えば独国特許第10152853号に開示されている。独国特許第10152853号は、参照によってその全部を明示的に援用する。
【0019】
第2の上部のポリシロキサン層は、緻密かつ均質になるように、且つ低い表面張力による自己洗浄性をもたらすように生成される。接触角は、例えば110°である。このような高い密度及び均質性はゾル・ゲル形成手段によって実現され、この手段の中でこの層が形成される。
【0020】
積層条件及び硬化条件は、緻密で均質な層を形成するために、第2の上部のポリシロキサン層がナノスケールの成分を介して形成されるように選択され得る。これらの条件に応じて、硬化した架橋ポリシロキサン層はナノ結晶構造になり得る。この混合物の組成及び硬化条件の両方に応じて、有機修飾ポリシロキサン層がナノスケールの粒子から形成される。
【0021】
本発明の1つの実施形態としては、不動態化層は、少なくとも1つの水溶性三価クロム塩を含んだ溶液で積層される。この不動態化層は、100mg/m2〜500mg/m2の層重量を有し得る。
【0022】
本発明の1つの実施形態としては、本発明による有機修飾ポリシロキサン層は、1μm≦d≦30μm、好ましくは2μm≦d≦25μm、5μm≦d≦25μm又は5μm≦d≦15μmの厚さdを有し、別の実施形態では、1μm≦d≦3μmの厚さdを有する。層が厚いと、基材上の層の被覆率を改善するのに有利になり得る。層が厚いと耐食性が改善し、したがって、表面の寿命が延び得る。多孔性が殆どなく、約1μm〜10μmの小さな層厚dを含んだ緻密で安定した層は、ゾル・ゲル法を用いて形成され得る。これにより、材料の消費が少なくなり、したがって製造コストが低減される。
【0023】
本発明の1つの実施形態としては、基材はアルミダイキャスト合金を含む。アルミダイキャスト合金の基材として、GD−AlSi12、GD−AlSi12(Cu)、GD−AlMg3Si、GD−AlSi10Mg、GD−AlSi10Mg(Cu)、GD−AlSi9Cu3又はGD−AlMg9が供給され得る。
【0024】
本発明の別の実施形態では、基材はアルミ鍛造合金を含む。アルミダイキャスト合金の基材として、AlMg1、AlMg1.5、AlMgSi0.5又はAlZnMgCu0.5が供給され得る。
【0025】
本発明の別の実施形態では、基材はマグネシウム合金であるAZ91、AM50及びAM60のうちの1つを含む。
【0026】
1つの実施形態としては、基材は酸を含んだ雰囲気中で、約120°又は約250°までの温度で使用される。この雰囲気は、例えば廃ガスを含む。この基材は、車両の排気系の一部、特に、排気再循環を有する排気系の一部、あるいは加熱系若しくは熱系又は廃ガス系の一部であり得る。
【0027】
車両はアルミニウム、アルミニウム合金及び他の軽金属、例えばマグネシウム及びマグネシウム合金から製造された部品をますます含むようになる。これらは重量が小さいこと及びスクラップ部品の再処理が簡単なことから、いっそう使用されることになる。しかし、EUの中古車規制並びにスクラップ済みの電子部品に関する規制に沿って、六価クロムを含んだコーティングは替えられる。本発明によれば、この2層は共に六価クロムを含まないので、本発明によるコーティングの組み合わせは、現行及び将来の環境規制を満たす。したがって、本発明による耐食性基材は、車両用途に効果的に使用され得る。
【0028】
例えばボルトのように、幾つかの用途では追加塗装によって部品のサイズを大きくすることは、装置の組み立てを困難にする可能性があるので好ましくない。また、塗装は、車両排ガス系又はエンジンの高温では安定しない。本発明による六価クロムを含まない2層コーティングを含んだアルミニウム又はマグネシウムをベースにした基材は、追加の塗装がなくても良好な耐食性を有しており、したがって上記用途にも効果的に利用できる。本発明は、湿式化学で積層した六価クロムを含まない無機層を、Al、Al合金、Mg又はMg合金の基材上に積層した六価クロムを含まない耐食性2層コーティングの下部層として使用することも提供する。
【0029】
本発明はまた、有機修飾ポリシロキサン層を含んだ六価クロムを含まないナノ粒子を、Al、Al合金、Mg又はMg合金の基材上の六価クロムを含まない耐食性2層コーティングの上部層としてとして使用することも提供する。
【0030】
本発明による耐食性基材を製造する方法は、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金を主として含む基材を供給するステップと、湿式化学法によって無機の不動態化層を基材上に直接積層するステップと、これに続いて、有機修飾ポリシロキサン層を不動態化層上に直接積層するステップとを含む。この有機修飾ポリシロキサン層はナノスケールの粒子を含む。
【0031】
上記2層コーティングの2層を別個のプロセスステップにより基材上に積層する。したがって、異なる原理に基づく異なる積層法を用いて2層を積層させ得る。また、2層は異なる組成物を含み得る。
【0032】
水溶性三価クロム塩及びアルカリ金属塩、特に六フッ化ジルコン酸アルカリ金属塩、例えば、六フッ化ジルコン酸ナトリウムを少なくとも含む溶液を用意し、基材の表面に積層する。この溶液は、水溶性増粘剤及び水溶性界面活性も含み得る。このような溶液は米国特許第6,375,726号、第6,521,029号及び第6,527,841号に記載されており、それら特許に記載の方法を用いて生成し得る。米国特許第6,375,726号、第6,521,029号及び第6,527,841号を、明示的かつ完全に本明細書に援用する。
【0033】
塗布した溶液を乾燥させ、熱処理を行って不動態化層を形成する。
【0034】
1つの実施形態としては、第1の不動態化層も変換層である。変換層は、処理溶液の成分が基材の表面と化学反応し、これにより処理溶液の成分と金属表面からの金属原子とが含まれる耐食層が基材上に直接形成されるという特徴を示す。
【0035】
第2のポリシロキサン層は、ゾル・ゲル法を用いて積層し得る。ゾル・ゲル法の間に、ポリマーネットワークを有する化合物がコロイド状に分散したナノ粒子を通して溶液から形成され得る。このゾル・ゲル化合物を、第1の不動態化層上に塗布してナノスケールのポリシロキサン層を形成し得る。1つの実施形態としては、この形成された架橋ポリマー層は耐食性のある疎水性を有する。
【0036】
1つの実施形態としては、有機修飾ポリシロキサン層は、エポキシ基置換ポリシロキサン及びブロック化イソシアネートを含む。硬化中、エポキシ基置換ポリシロキサンが架橋されて、主としてブロック化イソシアネートを通してポリマーネットワークを形成する。これによって、第2の層が形成される。
【0037】
車両の排気系の部品、廃ガス管又は酸を含んだ雰囲気中で最高120℃そして更に最高250℃で使用される部品が、基材として供給され得る。この基材は、加熱系又は熱系の一部となり得る。
【0038】
不動態化層は、浸漬又は吹付けを用いて積層され得る。ポリシロキサン層は、浸漬、吹付け又は微粉化(pulverization)を用いて積層され得る。これらの積層方法には、複雑な形態が完全かつ確実に短時間でコーティングできるという利点がある。
【0039】
本発明の1つの実施形態としては、まず基材を完全に洗浄する。この洗浄法は、表面の組成及び積層する層に従い選択される。基材は、アルカリ性洗浄水溶液を用いて洗浄し得る。これにより、基材上での第1の不動態化層の接着性を改善し、第1の不動態化層の被覆率も改善できる。別のステップでは、続いて基材を、酸性又はアルカリ性エッチング液と表面の酸活性化とによって洗浄し得る。
【0040】
1つの実施形態としては、不動態化層を100mg/m2〜500mg/m2の層重量で積層する。
【0041】
方法の別のステップにおいて、不動態化層を積層した後で、少なくとも不動態化層の表面を乾燥させる。第2のポリシロキサン層を積層した後では、下部の第1層の水及び/又は有機成分が蒸発されない。しかし、これによれば上部の第2のポリシロキサン層の第1の不動態化層上への接着性が改善し、信頼できるコーティングも得られる。したがって、コーティングに気泡及び穴が形成されるのが回避される。ポリシロキサン層の積層後、方法の別のステップにおいてポリシロキサン層を硬化させ得る。
【0042】
ここで添付図面及び以下の更に例示する実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
基材1はアルミニウム合金から成り、例えば排気系の一部である。基材1の少なくとも1つの表面2が第1の不動態化層3で被覆されている。不動態化層3は、リン酸塩も六価クロムも含まない無機である。不動態化層3は、積層溶液の金属イオンと基材材料の金属イオンとから形成された変換層でもある。この実施形態では、第1の不動態化層3は基材からのアルミニウム及びマグネシウムのほか、基材上に堆積させた溶液からのCr、Zr及びNaも含む。この組成は、図5の質量スペクトルにおいて明らかである。この第1の不動態化層3は約500nmの厚さを有する。
【0044】
第2の層4が不動態化層3上に位置する。この第2の層4は架橋ポリマー層であり、硬化中にエポキシ基置換ポリシロキサンが主としてブロック化イソシアネートを通して架橋される。第2の層4の組成は、図2及び図3の質量スペクトルにおいて明らかである。この第2の層4もまた、リン酸塩も六価クロムも含まない。第2の層4は、2〜2.5μmの厚さを有する。これら2つの層3及び4が耐食性コーティングを形成する。
【0045】
アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金から成る基材を用意し、市販のアルカリ性洗浄水溶液を用いて洗浄した。六価クロムを含まない不動態化層を浸漬によって基材の表面上に直接積層した。
【0046】
水溶性三価クロム塩及びアルカリ金属塩、特に六フッ化ジルコンアルカリ金属酸塩、例えば、六フッ化ジルコン酸ナトリウムを少なくとも含む溶液を用意し、基材1の表面2に塗布する。この溶液は水溶性増粘剤であってもよいし、水溶性界面活性を含んでもよい。このような溶液は、米国特許第6,375,726号、第6,521,029号及び第6,527,841号に記載されており、それらに開示された方法を用いて生成し利用し得る。
【0047】
これに基づく実用の溶液は、SurTec Deutschland GmbH社から市販されている。SurTec Deutschland GmbH(ドイツ国ツヴィンゲンベルク所在)の三価クロム含有製品であるSurTec650及びSurTec651の一方を用いて、第1の不動態化層を生成した。
【0048】
また、MacDermid社(米国デンバー州所在)の全くクロムを含まない製品であるIridite NCPを用いて、第1の不動態化層を生成した。
【0049】
製造業者の仕様に従って、基材の洗浄済み表面に上記の市販製品を塗布した。第1の不動態化層を総重量250mg/m2で積層し、乾燥させた。
【0050】
図4から図7に示した試験結果は、不動態化層が、基材表面の金属イオンと該表面上に塗布した溶液の金属イオンとを含み、塗布した溶液から湿式化学で形成されることを示している。したがって、不動態化層3が変換層であることを意味し得る。変換層は、処理溶液の成分と基材表面との化学反応によって特徴付けられ、これによって基材上に、処理溶液の成分及び金属表面からの金属原子又は金属イオンの両方が取り込まれた耐食性層が直接形成される。
【0051】
ポリシロキサン層4を生成するために第2の溶液を用意する。この第2の溶液は、官能基としてエポキシ基を有する有機シランの加水分解生成物を少なくとも含むとともに、ブロック化ポリイソシアネートを少なくとも含む硬化性組成物である。このような溶液は独国特許第1052853号に開示されている。
【0052】
これに基づく適した溶液が、NTC Nano Tech Coatings GmbHから市販されている。NTC Nano Tech Coatings GmbH(ドイツ国トーレイ所在)の製品Clearcoat U−Sil 120BW及びClearcoat U−Sil 110を用いて、第2の上部のポリシロキサン層を生成した。吹付け工程を用いて、第2の溶液を第1の不動態化層上に塗布し、続いて硬化させて第2のポリシロキサン層を形成した。
【0053】
製造業者によって示された仕様を用いて第2のポリシロキサン層を積層し、この積層を硬化させた。硬化工程中、エポキシ基置換ポリシロキサンが主としてブロック化イソシアネートを通して架橋される。第2の層は、ナノ粒子を介して緻密なポリマーネットワークを形成する。第2の層の厚さdは、1μm≦d≦30μmの範囲にされ得る。この実施形態では、以下の試験に係る厚さは2μm〜2.5μmである。耐食性の改善は、1μm〜2μmの層厚で既に達成され得る。2μm≦d≦25μmの範囲の2層コーティング全体の層厚もまた、適していることが証明されている。
【0054】
本発明に従って被覆した基材の耐食性を、高腐食性雰囲気中で試験した。本発明による湿式化学で積層した第1の不動態化層と、ナノスケールの第2の上部のポリシロキサン層とを含んだアルミニウム基材を用意した。高腐食性雰囲気中におけるこの基材の耐食性を、二酸化硫黄雰囲気中で凝縮水による耐候性試験(DIN ISO 3231)によって試験した。30回の試験サイクルを実施した。
【0055】
凝縮水による耐候性試験の後、基材を検査した。軽い変色のみで2層コーティングの腐食も剥離も観察されなかった。これらの試験結果から、本発明による2層コーティングを含む基材は、本発明によるコーティングの組み合わせの中の単一層のみを含む基材よりも、上記試験条件下において実質的に長時間にわたって耐食性があることがわかる。本発明による六価クロムを含まない2層コーティングを含むAl基材及びMg基材は、高温であっても、排ガス及び廃ガスなどの高腐食性媒体に対して長期の耐食性がある。
【0056】
レーザ脱離質量分析(LAMMA)及び二次中性粒子質量分析(SNNS)を用いて、本発明による基材の組成物及び層厚を含んだ層構造を試験した。本発明による第1の無機の不動態化層及びその上のイソシアネート架橋ポリマー層による2層コーティングを含む基材と、単層のイソシアネート架橋ポリマー層を含む比較用基材とを試験した。製品SurTec650を用いて第1の不動態化層を生成し、製品Clearcoat U−Sil 120BWを用いて第2の層を生成した。
【0057】
各試料の表面の約20地点にレーザを用いて照射した。異なる場所において、表面からアルミニウムを主成分とする材料の深さまで質量スペクトルを記録した。レーザパルス当たりの分析した試料領域は約1〜20μmとした。試験チャンバ内の残留ガス圧は0.5nbarであった。分析は、深さ方向プロファイルが各地点にて生成されるように行った。レーザパルス当たりのほぼ一定の磨耗は、約80〜1209ナノメートルであった。
【0058】
Nd:YAGレーザを用いてコーティング構造の表面に照射し、質量分析法を用いて、上部のゾル・ゲル層(有機修飾ポリシロキサン)から変換層を通ってアルミニウム基材に達するまでの深さ方向のプロファイルにより、層毎にコーティングを分析した。
【0059】
図2及び図3は、ゾル・ゲル法を用いて生成した第2の有機修飾ポリシロキサン層の質量スペクトルを示している。この質量スペクトルは、有機修飾ポリシロキサン層のイソシアネート断片及びシロキサン断片を示す。図2は0〜140までの質量数を示す。140〜360までの質量数は図3に示す。
【0060】
図4は第2の有機修飾ポリシロキサン層と第1の不動態化層との間の界面層の質量スペクトル(a)と不動態化層の質量スペクトル(b)とを示している。この図では、不動態化層の主要な成分並びにゾル・ゲル層のジルコニウム、クロム、ポリシロキサン断片及びイソシアネート断片の双方を見ることができる。
【0061】
図5は層内における第1の不動態化層の質量スペクトル(a)と、基材材料との界面層の質量スペクトル(b)とを示している。ジルコニウム及びクロムなどの不動態化溶液の成分に加え、不動態化層はアルミニウム、シリコン及びマグネシウムなどの基材材料の成分も含む。したがって、不動態化層が基材材料の層成分及び不動態化溶液の層成分を含んでおり、変換層であることを示している。
【0062】
比較測定を行った。図2〜図5の基材と一緒に用いた溶液を使用して、Al合金及びポリシロキサン層から成る基材を生成した。これらの比較用基材は不動態化層を含まなかった。したがって、ポリシロキサンは、基礎となる基材上に直接配置される。図6は、ポリシロキサン層(質量スペクトル(a))を含むが不動態化層を含まない、この比較用基材の質量スペクトルを示している。
【0063】
図7は、本発明による基材と基材の不動態化層との間の界面層(質量スペクトル(b))と、基材と該基材上に直接設けたポリシロキサン層との間の界面層(質量スペクトル(a))との比較を示している。不動態化層を含んでいない比較用基材の界面層中には非常に多くの酸素が存在していることがわかる。
【0064】
このことは、基礎となる基材の表面の腐食を促すであろう。
【0065】
要約すると、LAMMA試験は、分析した領域全体に亘って表面組成が一定であることを示す。ゾル・ゲル法を用いて生成した第2のポリシロキサン層は断絶されない。不均質性、マイクロホール又は異物の埋め込みは一切認められなかった。シロキサン及びイソシアネートによる第2の上部カバー層は伝導性ではなく、不動態化層及びその下に設けた変換層それぞれよりも著しく厚い。不動態化層のアルミニウムへの重複幅は、ポリシロキサン層へのものより幅広である。ジルコニウムは少なくとも一部分が酸化ジルコニウムとして存在している。
【0066】
不動態化層を含まない基材との比較から、この比較用の1層コーティングは2層コーティングよりも薄いことがわかる。比較用基材のポリシロキサン層とアルミニウム基材との間の界面の酸素含有量は、2層コーティングを有する本発明による基材の不動態化層とアルミニウム基材との間の界面の酸素含有量よりも高い。
【0067】
Alダイキャスト合金であるAlSi12、AlMg3Si、AlSi10Mg、AlSi9Cu3及びAlMg9から製造した基材及びAl鍛造合金であるAlMg1、AlMg1.5、AlMgSi0.5及びAlZnMgCu0.5から製造した基材、並びにマグネシウム合金であるAN50、AN60及びAZ91から製造した基材も同様に、本発明による2層コーティングで被覆できる。これらの基材も、高温の酸を含んだ環境で良好な耐食性を示す。この結果は、二酸化硫黄雰囲気中で凝縮水による耐候性試験(DIN ISO 3231)によって実証されている。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明による層構造を示す概略図である。
【図2】第2の有機修飾ポリシロキサン層の質量スペクトルを示す図である。
【図3】第2の有機修飾ポリシロキサン層の質量スペクトルを示す図である。
【図4】第2の有機修飾ポリシロキサン層と第1の不動態化層との間の界面層の質量スペクトルを示す図である。
【図5】層内及び基材材料との界面層における第1の不動態化層の質量スペクトルを示す図である。
【図6】不動態化層を有していない比較用基材の質量スペクトルを示す図である。
【図7】本発明による基材と基材の不動態化層との間の界面層と、基材と該基材上に直接設けたポリシロキサン層との間の界面層との比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六価クロムを含まない耐食性2層コーティングを有する耐食性基材であって、基材は主としてアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金からなり、湿式化学で積層された無機の不動態化層を前記基材上に直接配置すること、及び有機修飾ポリシロキサン層を前記不動態化層上に直接配置することを特徴とする耐食性基材。
【請求項2】
前記不動態化層がリン酸塩を含まないことを特徴とする請求項1に記載の耐食性基材。
【請求項3】
前記有機修飾ポリシロキサン層がリン酸塩を含まないことを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食性基材。
【請求項4】
前記不動態化層が酸化クロムを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項5】
前記不動態化層がNa又はKを更に含むことを特徴とする請求項4に記載の耐食性基材。
【請求項6】
前記不動態化層が、堆積された前記不動態化層の成分及び前記基材の成分の両方を含む変換層であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項7】
前記不動態化層が100mg/m2〜500mg/m2の範囲の層重量を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項8】
前記不動態化層が0.2μm≦a≦2μmの厚さを有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項9】
前記有機修飾ポリシロキサン層が、1μm≦d≦35μm、好ましくは2μm≦d≦25μm、5μm≦d≦25μmの厚さdを有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項10】
前記有機修飾ポリシロキサン層が、1μm≦d≦3μmの厚さdを有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項11】
前記有機修飾ポリシロキサン層が、エポキシ基置換ポリシロキサン及びブロック化イソシアネートを含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項12】
前記有機修飾ポリシロキサン層が、硬化した架橋ポリマーネットワークを含むことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項13】
前記有機修飾ポリシロキサン層が、ナノ結晶であることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項14】
前記有機修飾ポリシロキサン層が、ナノスケールの粒子からなることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項15】
前記基材が、Alダイキャスト合金を含むことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項16】
前記Alダイキャスト合金として、AlSi12、AlSi12(Cu)、AlMg3Si、AlSi10Mg、AlSi10Mg(Cu)、AlSi9Cu3又はAlMg9が供給されることを特徴とするAlダイキャストに関する請求項15に記載の耐食性基材。
【請求項17】
前記基材がAl鍛造合金を含むことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項18】
前記Al鍛造合金として、AlMg1、AlMg1.5、AlMgSi0.5又はAlZnMgCu0.5が供給されることを特徴とするAl鍛造合金に関する請求項17に記載の耐食性基材。
【請求項19】
前記基材が、マグネシウム合金のAZ91、AM50及びAM60のうちのいずれか1つを有することを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項20】
前記基材が、酸を含んだ雰囲気中において約250°までの温度で使用されることを特徴とする請求項1から19のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項21】
前記基材が、車両の排気系の一部又は排気再循環を有する排気系の一部であることを特徴とする請求項1から20のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項22】
前記基材が、加熱系若しくは熱系又は廃ガス系の一部であることを特徴とする請求項1から20のいずれか1項に記載の耐食性基材。
【請求項23】
Al、Al合金、Mg又はMg合金の基材上における六価クロムを含まない耐食性2層コーティングの下部層としての、湿式化学で積層された六価クロムを含まない無機層の使用。
【請求項24】
Al、Al合金、Mg又はMg合金の基材上における六価クロムを含まない耐食性2層コーティングの上部層としての、六価クロムを含まない有機修飾ポリシロキサン層の使用。
【請求項25】
六価クロムを含まない耐食性2層コーティングで被覆された耐食性基材を製造する方法であって、該方法が、
主としてアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材を供給するステップと、
湿式化学法によって六価クロムを含まない無機の不動態化層を前記基材上に直接積層するステップと、
六価クロムを含まない有機修飾ポリシロキサン層を前記不動態化層上に直接積層するステップとを含む方法。
【請求項26】
前記基材が、車両の排気系の一部、加熱系の一部、熱系の一部又は廃ガス系の一部であることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記不動態化層を浸漬又は吹付けを用いて積層することを特徴とする請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記有機修飾ポリシロキサン層を浸漬、吹付け又は微粉化(pulverization)を用いて積層することを特徴とする請求項25から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記基材をまずアルカリ性洗浄水溶液を用いて洗浄することを特徴とする請求項25から28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
続いて前記基材を、酸性又はアルカリ性エッチング液と表面の酸活性化とによって洗浄することを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記不動態化層を100mg/m2〜500mg/m2の層重量で積層することを特徴とする請求項25から30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記不動態化層を積層した後で、少なくとも前記不動態化層の表面を乾燥させることを特徴とする請求項25から30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
積層した前記不動態化層は、前記基材とその上に塗布した溶液との間で生じる化学反応により形成されることを特徴とする請求項25から30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記有機修飾ポリシロキサン層を積層後、前記有機修飾ポリシロキサン層を硬化させることを特徴とする請求項25から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記硬化の間に、エポキシ基置換ポリシロキサンがブロック化イソシアネートを介してポリマーネットワークに架橋されることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項36】
有機修飾ポリシロキサン層が、硬化工程においてナノスケールの粒子を介して形成されることを特徴とする請求項25から35のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−527641(P2009−527641A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555618(P2008−555618)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際出願番号】PCT/DE2007/000339
【国際公開番号】WO2007/095927
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508257522)ゲルハルト ハイチェ ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】