説明

肉盛溶接方法

【課題】肉盛溶接の時間を短縮化する
【解決手段】互いに並行な多数の冷却管32と、隣接する前記冷却管を互いに連結する多数の連結部材31とからなる冷却式配管の表面に肉盛溶接を施す冷却式配管(フード3)の肉盛溶接方法であって、溶接材料を溶接する溶接トーチ21を、前記冷却管の周方向にウィービングさせながら前記肉盛溶接を行うことを特徴とする冷却式配管の肉盛溶接方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却式配管の表面に肉盛溶接を施す冷却式配管の肉盛溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工場の転炉施設においては、転炉排ガスを集めて集塵機に導くために、転炉の上部にスカート、フード、ボイラー及びダクトが設けられている。これらの構造物は、転炉から発生する腐食ガスに曝されるため、表面改質技術により構造を強化する必要がある。また、発電所のボイラー設備、ゴミ焼却設備などにおいても同様の問題が生じる。
【0003】
この種の表面改質技術として、自溶合金溶射方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。自溶合金溶射方法によって構造物の表面に形成された自溶合金層は、転炉内に投入された各種鉱石及び溶鋼から発生する高温のダストによる摺動摩耗に対して強い性質を有するが、加熱及び冷却の繰り返しによる温度変化に対しては弱いため、転炉寿命に達する前に溶射被膜に割れが発生するおそれがある。そして、この割れ目に腐食ガスが侵入して、構造物がガス腐食するおそれがある。
【0004】
他方、自溶合金溶射方法とは別の表面改質技術として肉盛溶接方法が知られている。肉盛溶接は、温度変化による伸びに強く、割れが起こりにくく、腐食ガスに対する耐腐食性に優れている。
【0005】
転炉の構造物に肉盛溶接を施す方法として、図5の方法が知られている。図5は、従来の肉盛溶接方法を説明した模式図である。
【0006】
冷却式配管100は、多数の上下方向に延びる縦型水管101と、隣接する縦型水管101を連結するセンターフィン102とからなり、冷却式配管100のハッチングで示す領域1〜6に肉盛溶接を施す場合、不図示の溶接トーチを下記のように駆動している。
【0007】
まず、溶接トーチを、縦型水管101の隅に位置決めした後、下方に等速移動させながら領域1に肉盛溶接を施す。次に、溶接トーチを元の位置、つまり領域1の上端に移動させ、そこから領域2の上端に水平移動させた後に、下方に等速移動させながら領域2に肉盛溶接を施す。領域3乃至6についても同様の方法により肉盛溶接を施す。これにより、一本の縦型水管101及びセンターフィン102を肉盛溶接することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、転炉施設などでは、転炉寿命に達する前に転炉などの稼働を一旦停止して、メンテナンスを行う必要がある。このメンテナンス期間は経済性などの観点から短期間に制限されており(例えば、10日)、構造物の補修作業に割り当てられている期間はさらに制限されるため(例えば、3日)、補修時間(肉盛溶接の時間)の短縮化が求められている。
【0009】
また、上記施設に新しい冷却式配管を納品する場合には、製造時間を短くして要求された納期期間内に確実に納品できるように肉盛溶接を施す時間を短縮化する必要がある。
【0010】
しかしながら、上述の方法では、前段の領域(例えば領域1)の下端から下段の領域(例えば領域2)の上端まで溶接トーチを移動させる必要があり、その間溶接作業を行うことができないため、補修作業に時間がかかる。
【0011】
そこで、本発明は、従来の肉盛溶接方法よりも短時間で肉盛溶接を行うことが可能な、冷却式配管の肉盛溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本願発明の冷却式配管の肉盛溶接方法は、互いに並行な多数の冷却管と、隣接する前記冷却管を互いに連結する多数の連結部材とからなる冷却式配管の表面に肉盛溶接を施す冷却式配管の肉盛溶接方法であって、溶接材料を溶接する溶接トーチを、前記冷却管の周方向にウィービングさせながら前記肉盛溶接を行うことを特徴とする。
【0013】
また、本願発明の冷却式配管の肉盛溶接方法は、別の観点として、互いに並行な多数の冷却管と、隣接する前記冷却管を互いに連結する多数の連結部材とからなる冷却式配管の表面に肉盛溶接を施す冷却式配管の肉盛溶接方法であって、溶接材料を溶接する溶接トーチを、前記冷却管の周方向に対して傾斜する傾斜方向にウィービングさせながら前記肉盛溶接を行うことを特徴とする。
【0014】
ここで、前記冷却式配管と前記溶接トーチとの間隔を一定にした状態で、前記溶接トーチをウィービングさせるとよい。
【0015】
また、前記ウィービング幅を、前記冷却管の外径よりも大きくするとよい。
【0016】
また、前記冷却管の流路方向視において、前記連結部材は、連結する各冷却管の中心点を結ぶ線上に配置するとよい。
【0017】
また、前記溶接トーチを一方のウィービング端まで移動させてから、下方に移動させた後に、他方のウィービング端に移動させるとよい。
【0018】
前記ウィービング端に対応した位置に前記連結部材が配置されるようにするとよい。
【0019】
前記冷却式配管として、転炉施設に用いられるフードを例示できる。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば、冷却管の長手方向に沿って肉盛溶接を行う従来の冷却式配管の肉盛溶接方法よりも、肉盛溶接を行う時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
【0022】
図1は、転炉施設の全体構成を図示した転炉施設全体図である。
同図において、1は転炉であり、不図示の高炉において生成された銑鉄からカーボンを取り除くために、大量の酸素を炉内に取り込みながら銑鉄を加熱する。転炉1からは、高温の排ガスが排出される。
【0023】
この排ガス内には、転炉1内に鋼および副原料として投入される各種鉱石から発生する高温のダスト、鉱石から発生する硫黄、塩素、フッ素ガス、転炉1内に副原料として投入されるタイヤから発生する硫化ガスなどの腐食性ガスが含まれている。
【0024】
この転炉1から排出された高温の排ガスは、スカート2(冷却式配管)、フード3(冷却式配管)、ボイラー4、ダクト5を経由して集塵機6に導入される。
【0025】
転炉1を稼働してから所定期間(寿命時間よりも短い所定期間)経過すると、スカート2、フード3は、腐食ガスによって摩耗して肉厚が薄くなるため、転炉1の稼働を停止して、補修する必要がある。
【0026】
この補修作業は、溶接トーチを用いた肉盛溶接によって行う。
【実施例1】
【0027】
溶接トーチを用いてフード3の内周面に肉盛溶接を施す実施例について、図2及び図3を用いて説明する。
【0028】
ここで、図2は溶接トーチの駆動回路を図示したブロック図であり、図3は溶接トーチの動作説明図であり、(a)は第1及び第2の駆動回路による溶接トーチの各移動軌跡をそれぞれ矢印で示しており、(b)はこれらの移動軌跡を合成した溶接トーチの全体としての移動軌跡を矢印で示している。
【0029】
溶接トーチ21は、第1〜第3駆動部22〜24からなる3つの駆動部により駆動される。なお、溶接トーチ21には、図示しない角度調整部が設けられており、この角度調整部を駆動することにより溶接面に対して垂直方向に溶射方向は設定されている。
【0030】
ここで、第1駆動部22は、溶接トーチ21をYZ平面内にて略8の字状に等速移動させるウィービング用の駆動回路であり、冷却管32の中心軸に対応した位置を中心として、左右両側に溶接トーチ21をウィービングさせる。
【0031】
第2駆動部23は、溶接トーチ21をZ軸方向に駆動し、フード3の内周面と溶接トーチ21との間隔、つまりエクステンションを一定間隔に保持する。
【0032】
第3駆動部24は溶接トーチ21をY軸方向に駆動し、溶接トーチ21を等速で下動させる。
【0033】
ここで、第1駆動部22及び第3駆動部24による溶接トーチ21のY軸方向の移動速度は同じで、駆動方向は反対方向に設定されている。
【0034】
したがって、溶接トーチ21は、図3(b)に図示する軌跡にしたがって移動する。具体的には、下記の通りである。
【0035】
初期状態において、溶接トーチ21は冷却管32及びセンターフィン31の境界部に対応した初期位置(一方のウィービング端)に配置されている。溶接機の電源をONにすると、第1〜第3駆動部22〜24が駆動され、溶接トーチ21の先端部から溶接材料が供給されるとともに、初期位置から他方のウィービング端に向けて溶接トーチ21が水平移動を開始する。
【0036】
このとき、第2駆動部23によるZ軸方向への駆動により、溶接トーチ21とフード3とのエクステンションは一定間隔に保持される。これにより、溶接トーチ21は、平面視弧状の軌跡を描きながら水平移動する。なお、肉盛溶接に用いられる溶接材料としては、ニッケル合金、ステンレス鋼を例示できる。
【0037】
このようにエクステンションを一定間隔に保持することにより、フード3の内周面を均等に肉盛溶接することができる。
【0038】
第1〜第3駆動部22〜24は、肉盛溶接を施した面積が所定面積に達したときに駆動が停止されるようになっている。たとえば、所定面積を肉盛溶接するのに必要な各駆動部22〜24の必要駆動数(例えば、パルスモータであればパルス数)を予めメモリに記憶させておき、計測した駆動数がこの必要駆動数に達したときに、各駆動部22〜24を停止させる方法が考えられる。
【0039】
本実施例によれば、冷却管32の長手方向一方向に肉盛溶接を行い、前段の領域(例えば領域1)の下端から下段の領域(例えば領域2)の上端まで溶接トーチを移動させる間、肉盛溶接を停止させていた従来の補修方法に比べて、フード3の補修時間を短くできる。
【0040】
また、上側から肉盛溶接を施すことにより、フード3の上側領域及び下側領域における溶け込み量のバラツキを抑制することができる。すなわち、下側から肉盛溶接を施した場合には、伝熱によりフード3の上側領域の温度が高くなり、溶け込み量が増大するが、上側から肉盛溶接を施すことにより、フード3の全領域における溶け込み量を均一化することができる。
【0041】
また、溶接方向を冷却管32の周方向斜め方向としている後述の実施例2よりも、溶接方向を冷却管32の周方向としている本実施例のほうが、溶接のむらを少なくすることができる。
【0042】
また、従来の方法では、R形状の冷却管32やグランドラインにたして傾斜した冷却管32に対して手作業で肉盛溶接を施していたが、本実施例では駆動部22〜24によって自動化されているため、溶接の精度及び効率化を図ることができる。
【0043】
なお、センターフィン31を肉盛溶接する場合には、第2駆動部23のみを駆動して、矢印Y方向に溶接トーチを等速で下動させるとよい(つまり、従来と同様)。
【実施例2】
【0044】
図4を参照しながら、本実施例の溶接トーチ21の駆動方法を説明する。ここで、図4は、本実施例の溶接トーチ21の駆動方法を矢印で示したフード3の内周面の部分斜視図である。
【0045】
本実施例は、実施例1と溶接トーチの駆動方法が異なっている。具体的には、第1駆動部22による溶接トーチ21の駆動方向を水平方向としている。
【0046】
したがって、第1〜第3駆動部22〜24によって駆動される溶接トーチは、図4に図示する駆動軌跡、すなわち、ウィービング端間を冷却管32の周方向斜め下方に移動する。
【0047】
これにより、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、溶接トーチ21を8の字状に駆動している実施例1の第1駆動部22よりも、駆動部の構成を簡素化することができる。
【0048】
上述の実施例1及び2では、フード3に肉盛溶接を施しているが、他の転炉構造部(スカート2など)、発電所のボイラ設備、ゴミ焼却設備にも適用することができる。
【0049】
また、フード3の構造を冷却管が上下方向に延びる縦型冷却管構造としているが、本願発明は冷却管が水平方向に延びる横型冷却管にも適用することができる。
【0050】
さらに、本願発明は、補修作業のみならず新しいフード3を製造する場合にも適用することができる。
【実施例3】
【0051】
以下、実施例を示して、本発明について具体的に説明する。
【0052】
上下方向に延びる縦型冷却管32をセンターフィン31によって接続した冷却式配管の表面に肉盛溶接を施した。冷却管の径を38.1mmとし、管ピッチを50mmとした。冷却管32及びセンターフィン31(各一本)を管路方向に1000mm(以下、「基準溶接領域」という)肉盛溶接するのに要した時間を発明例1と比較例1とで比較した。
【0053】
その結果を表示に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
なお、表1のパス数とは、溶接トーチを下動させた回数を意味している。また、パス替え作業時間とは、溶接動作を停止した時間、つまり、溶接トーチを1000mm下降させた後に、溶接動作を停止して、次の溶接位置まで上動させるのに要した時間を意味している。
【0056】
比較例1では、背景技術で説明した従来の方法と同様の方法で、肉盛溶接を行なった。溶接トーチの下降速度は、400mm/minに設定した。
【0057】
発明例1では、実施例1と同様の方法で、肉盛溶接を行なった。冷却管32へのアーク時間が比較例1と同じになるように、第1及び第2の駆動部22、23の駆動速度を設定した。具体的には、1パスあたりのアーク時間を、比較例1が2.5(min)、発明例1が12.5(min)とした。
【0058】
比較例1及び発明例1において、パス数はそれぞれ6パス及び2パスであり、パス替え作業時間はそれぞれ12(min)、4(min)であった。したがって、全作業時間は、比較例1が27(min)で、発明例1が19(min)であり、発明例1では、比較例1よりも作業時間を約30%短縮できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】転炉施設の全体図である
【図2】溶接トーチの駆動回路を示したブロック図である。
【図3】溶接トーチの動きを模式的に図示した動作説明図であり、(a)は第1及び第2の駆動回路による溶接トーチの各移動軌跡をそれぞれ矢印で示しており、(b)はこれらの移動軌跡を合成した溶接トーチの全体としての移動軌跡を矢印で示している。
【図4】実施例2の溶接トーチの全体としての移動軌跡を矢印で示したフード内周面の部分斜視図である。
【図5】従来の肉盛溶接方法を図示した模式図である。
【符号の説明】
【0060】
1 転炉
2 スカート
3 フード
4 ボイラー
5 ダクト
6 集塵機
21 溶接トーチ
22 第1駆動部
23 第2駆動部
24 第3駆動部
31 センターフィン
32 冷却管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに並行な多数の冷却管と、隣接する前記冷却管を互いに連結する多数の連結部材とからなる冷却式配管の表面に肉盛溶接を施す冷却式配管の肉盛溶接方法であって、
溶接材料を溶接する溶接トーチを、前記冷却管の周方向にウィービングさせながら前記肉盛溶接を行うことを特徴とする冷却式配管の肉盛溶接方法。
【請求項2】
互いに並行な多数の冷却管と、隣接する前記冷却管を互いに連結する多数の連結部材とからなる冷却式配管の表面に肉盛溶接を施す冷却式配管の肉盛溶接方法であって、
溶接材料を溶接する溶接トーチを、前記縦型冷却管の周方向に対して傾斜する傾斜方向にウィービングさせながら前記肉盛溶接を行うことを特徴とする冷却式配管の肉盛溶接方法。
【請求項3】
前記冷却式配管と前記溶接トーチとの間隔を一定にした状態で、前記溶接トーチをウィービングさせることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却式配管の肉盛溶接方法。
【請求項4】
前記ウィービング幅は、前記縦型冷却管の外径よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の冷却式配管の肉盛溶接方法。
【請求項5】
前記縦型冷却管の流路方向視において、前記連結部材は、連結する各縦型冷却管の中心点を結ぶ線上に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一つに記載の冷却式配管の肉盛溶接方法。
【請求項6】
前記溶接トーチを一方のウィービング端まで移動させてから、下方に移動させた後に、他方のウィービング端に移動させることを特徴とする請求項1に記載の冷却式配管の肉盛溶接方法。
【請求項7】
前記ウィービング端に対応した位置には前記連結部材が配置されていることを特徴とする請求項6に記載の冷却式配管の肉盛溶接方法。
【請求項8】
前記冷却式配管は、転炉施設に用いられるフードであることを特徴とする請求項1乃至7に記載の冷却式配管の肉盛溶接方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−105033(P2008−105033A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287441(P2006−287441)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(390030823)日鉄ハード株式会社 (15)
【Fターム(参考)】