説明

育毛剤組成物

繊維芽細胞増殖因子5(FGF−5)作用は毛母細胞において、毛の成長を阻害し毛周期を成長期から退行期へ移行させる作用を有する。好ましくはエイジツ、ビワ、ワレモコウ、ウワウルシ、マテ、キャッツクロー、ヨモギ、カギカズラ、茶または褐藻類などから水または水以外の溶媒による抽出で得られた抽出物にはそのFGF-5作用を阻害する活性を有する。したがって、その抽出物を1種以上含有する育毛剤および化粧料は、毛母細胞の増殖を維持し、直接的に毛の成長を促進する作用する成分を含有するために、FGF−5による毛周期制御機構に基づく、優れた育毛・養毛効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維芽細胞増殖因子5作用を阻害する、新規な植物抽出物およびこれを含有する育毛剤、化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、開発されてきた育毛・養毛剤の多くは、発毛を阻害する過剰皮脂分泌を抑制したり、頭皮などの血行不良を解消したり、あるいは男性ホルモンの作用を抑制することにより発毛を促すことを狙いとしている。他方、マツエキスに見られるように古来より植物由来の発育毛剤が存在しており、その育毛作用の実体は詳らかでないが、民間療法として用いられてきた。このように多数の育毛・養毛剤が存在しているが、薄毛・脱毛に対して普遍的に効果を示すものは今のところ存在せず、薄毛・脱毛の種類による効果の個人差も大きい。
ところで毛は一定の速さで絶えず成長するのではなく、成長期と休止期を繰返しながら成長する。成長期から休止期までの毛の成長と脱毛のサイクル(毛周期)は、身体部位および人間の場合には毛1本ごとに相違する。かかる毛母細胞の毛周期に影響を与える物質の一つとして、変換成長因子(TGF)βは、毛周期を成長期から退行期、休止期へ移行させる作用を示す。その作用を抑制するアンタゴニストが見出され、新規な育毛成分として提案されている。
【0003】
本発明者らは、上記TGFβとは異なるサイトカイン、繊維芽細胞増殖因子5(以下、「FGF−5」ともいう。)の生物活性にも毛周期の制御があることを見出した。FGF−5タンパク質は、多彩な生理作用を示す繊維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーに属する。本発明者らの研究により、FGF−5は、毛の成長を阻害し、毛周期を成長期から退行期へ移行させる作用を有していることが明らかとなった。成長期の毛胞に大量に発現するFGF−5の短鎖形分子であるFGF−5Sは、FGF−5に対しアンタゴニスト活性を示すことにより、成長期から退行期への移行を遅らせ、毛成長を促進することも明らかとなった(非特許文献1〜4参照)。
このような現状から、高齢化と多ストレスの社会を反映して薄毛・脱毛に対し、普遍的に効果を発揮する育毛・養毛剤のニーズは、依然として、また今後とも高いと言える。
【非特許文献1】Ozawa K, Suzuki S, Asada Mら J.Biol.Chem. 273:29262-29271 (1998)
【非特許文献2】Suzuki S, Kato T, Takimoto Hら J. Invest. Dermatol.111:963-972(1998)
【非特許文献3】Suzuki S, Ota Y, Ozawa K, Imamura T J.Invest. Dermatol. 114: 456-463 (2000)
【非特許文献4】Ota Y, Saitoh Y, Suzuki SらBiochem. Biophys. Res. Commun. 290: 169-176(2002)
【発明の開示】
【0004】
本発明者らは、FGF−5作用の研究過程で、この作用を阻害する活性を持つ物質が優れた効果を発揮する育毛剤として利用できるとの着想を得て、毛成長に抑制的に働くFGF−5作用に対し、阻害作用を有するか、またはアンタゴニストとなる物質を見出すべく、鋭意研究を進めた。その結果、本発明者らは特定の植物抽出物がその目的に合致することを見出して、本発明を完成した。
【0005】
本発明は、そのような植物抽出物を含有するFGF−5阻害剤、育毛剤、化粧料を提供することを目的とする。すなわちFGF−5による毛周期制御機構に基づく優れた育毛・養毛効果を発揮し、しかもほとんど副作用のない育毛剤、化粧料を提供することにある。
発明の概要
【0006】
本発明は植物を通常、水または水以外の溶媒で抽出することにより得られ、繊維芽細胞増殖因子5(FGF−5)の作用を阻害する活性を有することを特徴とする植物抽出物である。
本発明の植物抽出物は、バラ科植物、ツツジ科植物、モチノキ科植物、アカネ科植物、キク科植物または褐藻植物に属す植物を水または水以外の溶媒で抽出することにより得ることができ、FGF−5の作用を阻害する活性を有することを特徴としている。
上記の植物抽出物において前記植物は、好ましくはエイジツ、ビワ、ワレモコウ、ウワウルシ、マテ、キャッツクロー、ヨモギおよび褐藻類よりなる群から選ばれる。
カギカズラもしくは茶を水または水以外の溶媒で抽出することにより得られ、FGF−5の作用を阻害する活性を有することを特徴とする植物抽出物も本発明に含まれる。
【0007】
本発明は、エイジツ、ビワ、ワレモコウ、ウワウルシ、マテ、キャッツクロー、ヨモギ、カギカズラ、茶または褐藻類を水または水以外の溶媒で抽出して得られる抽出物を、1種または2種以上含有することを特徴とする繊維芽細胞増殖因子5阻害剤である。
また、本発明は、上記のFGF−5の作用を阻害する植物抽出物を1種または2種以上、有効成分として含有することを特徴とする育毛剤である。
さらに、本発明は、上記のFGF−5の作用を阻害する植物抽出物を1種または2種以上、有効成分として含有することを特徴とする化粧料である。
発明の効果
【0008】
本発明の植物または海藻類から抽出して得られた植物抽出物(抽出エキス)には、FGF-5作用を阻害する活性があることが示された。そのFGF−5作用とは毛母細胞において、毛の成長を阻害し毛周期を成長期から退行期へ移行させる作用である。
発明の具体的説明
【0009】
以下、本発明を、植物抽出物、FGF−5の阻害、植物抽出物の調製、育毛剤および化粧料について詳細に説明する。
(植物抽出物)
本発明の植物抽出物は、植物から水または水以外の溶媒で抽出することにより得ることができ、繊維芽細胞増殖因子5(FGF−5)の作用を阻害する活性を有することを特徴としている。その植物抽出物は、好ましくはバラ科植物、ツツジ科植物、モチノキ科植物、アカネ科植物、キク科植物、ツバキ科植物および褐藻植物よりなる群から選ばれる植物からの抽出物もしくはそれに由来する抽出物である。よって本発明の抽出物を調製するために原料として用いられる植物として、特に好ましくは、上記の植物のうちでも、エイジツ、ビワ、ワレモコウ、ウワウルシ、マテ、キャッツクロー、カギカズラ、ヨモギ、茶、褐藻類よりなる群から選ばれる。
【0010】
本発明で用いられるエイジツは、日本自生の蔓性落葉低木であるノイバラ(バラ科、学名Rosa multiflora Thunb.)、またはその他の近縁植物(バラ科Rosaceae)の偽果または果実である。ビワ(学名Eriobotrya japonica Lindley)は、関東地方以西に野生して、好石灰岩性の常緑高木のバラ科植物である。ワレモコウ(学名Sanguisorba officinalis)は、日本全土の日照山野に自生するバラ科の多年草草本である。ウワウルシ(学名Arctostaphylos uva-urusi(Linne) Sprengel (Ericaceae))は、北半球の高山または寒冷地の原野に自生する、ツツジ科の常緑小低木である。マテ(学名Ilex Paraguariensis)は、亜熱帯地域に自生するモチノキ科植物であり、キャッツクロー(学名Uncaria tomentosa)は、世界中の熱帯雨林地方に野生するアカネ科カギカズラ属の植物である。同じくアカネ科カギカズラ属の植物として、カギカズラ(学名 Uncaria rhynchophylla)は、常緑のつる植物である。茶(学名 Camellia sinensis)は、ツバキ科に属する植物であり、ヨモギ(学名Artemisia princes)は、畦や草地に普通に見られるキク科の多年生草本である。また海藻植物は、特に褐藻類(Brown algae 褐藻網 Class Phaeophyceae)が好ましい。
【0011】
ここで「植物抽出物」とは、植物体を生のまま、または乾燥して、必要ならさらに粉砕、加熱処理などの必要な加工処理した後に、水または後述の溶媒にて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液、またはその乾燥末を意味する。
本発明で使用する上記植物の抽出物とは、エイジツ、ビワ、ワレモコウ、ウワウルシ、マテ、ヨモギ、カギカズラおよびキャッツクローでは、葉、茎、樹皮、花、実、根、雄シベなどの植物体の一部、全草または樹液などから抽出されるものである。海藻からの抽出物は、褐藻の一部または全藻などから抽出されるものである。
特に好ましくはエイジツでは、偽果および果実、ウワウルシおよびビワでは葉、ワレモコウでは根茎、ヨモギでは葉および茎、褐藻では全藻から抽出されるものがよい。茶の抽出物には、茶樹から採取した茶葉などから直接抽出して得られる抽出物のほか、お茶の製品である緑茶、紅茶、ウーロン茶から抽出して得られるエキスも含まれる。
【0012】
本発明の植物抽出物は、FGF−5の作用を阻害する活性を有する。その活性は、FGF−5阻害物質と考えられる成分がおそらくこの抽出物中に1種(または複数)含有されることによる。

(繊維芽細胞増殖因子5(FGF−5)の阻害)
本発明者らの研究により、FGF−5は、毛の成長を阻害し、毛周期を成長期から退行期へ移行させる作用を有していることが初めて明らかとなった。一方、毛包の根元にある毛乳頭は、毛母細胞の増殖や分化を調節することにより毛の成長を制御している。退行期になると毛母細胞は消失してしまうが、毛乳頭細胞は活動が低下するもののその数は減らない。次の成長期には、毛乳頭細胞が再び活性化し、その作用によって毛母細胞が新たに増殖・分化し始める。毛乳頭細胞そのものは変わっていないため、前の成長期と同じ太さの毛を作ることができる。したがって、成長期から退行期・休止期に移る引き金の役割を担っているFGF−5の作用を何らかの方法で抑制すれば、成長期だけが延長される。よって、成長期をこのように長くする物質は、優れた育毛・養毛効果を発揮すると期待される。
【0013】
実際、成長期の毛胞に大量に発現するFGF−5の短鎖形分子であるFGF−5Sは、FGF−5に対しアンタゴニスト活性を示すことにより、成長期から退行期への移行を遅らせ、毛成長を促進することが、本発明者らにより報告されている。本発明者らは、さらに研究を進め、上記植物または海藻類から得られる抽出物がFGF−5作用を阻害する活性を有することを見出した。後述するように、その抽出物による阻害作用は、培養細胞を用いて、FGF−5、インターロイキン3(IL-3)による細胞増殖促進作用への影響を調べることによって確認された。
この抽出物によるFGF−5阻害の機作および活性物質の実体は、今後の研究結果に待たねばならない。本発明の抽出物あるいはその抽出物を1種または2種以上含有する繊維芽細胞増殖因子5阻害剤には、FGF−5Sに似たアンタゴニスト活性を持つ1種または複数の物質が含まれるか、あるいはFGF−5に直接阻害作用を及ぼす阻害物質が存在するかもしれない。
【0014】
本発明に係る阻害剤は、好ましくはエイジツ、ビワ、ワレモコウ、ウワウルシ、マテ、キャッツクロー、ヨモギ、カギカズラ、茶または褐藻類を水または水以外の溶媒で抽出して得られる抽出物を、1種または2種以上含有することを特徴とする繊維芽細胞増殖因子5阻害剤である。このような阻害剤は、育毛剤、化粧料に配合すれば発育毛効果が発揮され、有用である。
【0015】
(植物抽出物の調製)
本発明の植物抽出物を調製するために原料として用いられる植物として、特に好ましくは、上記の植物のうちでも、エイジツ、ビワ、ワレモコウ、ウワウルシ、マテ、キャッツクロー、ヨモギ、カギカズラ、茶、褐藻類よりなる群から選ばれる。
エイジツ、ビワ、ワレモコウ、ウワウルシ、マテ、キャッツクロー、ヨモギの植物、カギカズラ、褐藻は、生のまま抽出工程に供してもよいが、抽出効率を考慮すると、細切、乾燥、粉砕などの処理を行なった後に抽出を行なうことが望ましい。茶の場合は、茶樹から採取した生の茶葉などを原料とするか、茶葉から加工された緑茶、発酵茶、半発酵茶などの茶製品を原料として用いるのがよい。抽出は、抽出溶媒に浸漬して行なう。効率を上げるために、連続的または間歇的な撹拌をするか、あるいは抽出溶媒中でホモジナイズしてもよい。抽出温度は、通常5℃から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが適切である。抽出時間は、抽出原体の性状、抽出溶媒の種類、抽出温度などによっても異なるが、一般に1〜14日程度とするのが適当である。抽出操作は、ソックスレー抽出器などの抽出器具を使用して連続抽出してもよい。
【0016】
その抽出方法は、特に限定されず、通常の方法、例えば加熱抽出したものであってもよいし、常温抽出であってもよい。さらに常圧下の他に、加圧下で抽出を行なってもよい。
抽出に使用する溶媒として、水の他に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール系溶媒、ポリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール系溶媒、エチルエーテル、プロピルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒などの極性有機溶媒を用いることができる。特に、物質の溶解性に優れ、かつ凝固点および沸点が比較的低い溶媒が好ましく用いられる。上記の溶媒から1種または2種以上を選択して抽出に用いられる。抽出する植物の種類、部位、性状などに応じて、抽出溶剤を適宜選択すればよい。例えば、皮膚炎を起こすシュウ酸カルシウムなどが多く含まれる植物の場合には、水と上記有機溶媒とを組み合わせた複数溶剤の交互の使用による抽出により、あるいは混合溶媒を用いる分配による抽出により、不適切な成分を選択的に除去した抽出物を得ることもできる。
【0017】
あるいは、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水などを用いることもできる。必要ならば、例えば特開昭62-172096号公報に開示されている二酸化炭素の超臨界状態の流体による方法を採用してもよい。
このようにして得られた粗抽出物は、そのままでも本発明に係る阻害剤、育毛剤、化粧料に有効成分として含有させることは可能である。保存、育毛剤の形態など、製剤化の要件を考慮すると、さらに減圧濃縮、希釈、ろ過などの処理を適宜行なって用いてもよい。あるいは、抽出した溶液を、濃縮、噴霧乾燥、凍結乾燥などの処理を行なって乾燥物としてもよい。
濃縮、乾燥、または水もしくは極性溶媒への再溶解といった操作、あるいはこれらの生理作用を損なわない範囲で、公知の方法により脱色、脱臭、脱塩などの精製処理、カラムクロマトグラフィーなどによる分画処理による精製をさらに行なってもよい。

(育毛剤および化粧料)
発毛・育毛の生理メカニズムを担う毛乳頭細胞機能とこれを制御する分子の作用に立脚する育毛物質を有効成分に含む育毛・養毛剤でなければ、満足すべき発育毛効果を得られない。かかる観点から完成された本発明の育毛剤は、上記のFGF−5の作用を阻害する植物抽出物を1種または2種以上、有効成分として含有する。同様に、本発明の化粧料は、当該植物抽出物を1種または2種以上、有効成分として含有する。本発明の育毛剤および化粧料は、含有する有効成分の作用が発毛の分子的機作に裏づけられており、しかもその成分が天然素材に由来するという特徴を有している。
【0018】
本発明の育毛剤および化粧料は、有効成分として選択された上記植物抽出物、1種または2種以上とともに、下記の成分を所定量、常法に従って混合などの操作を施すことにより製造することができる。
育毛剤全量に対する上記植物抽出物の添加量は、用いる植物の種類、抽出溶媒および抽出条件、抽出後の処理などにより異なる。液状の育毛剤全量に対するその量は、植物を粉砕処理後に抽出溶媒に浸漬し抽出して得られる上清の状態で、好適には0.001〜5.0重量%、より好ましくは0.1〜1重量%である。ここで上清の状態とは、後述のように、乾燥植物体100gに対して、抽出溶媒1リットルを使用して抽出し、抽出液を静置した上清または遠心分離後の上清を基準とする。0.001%未満では、所期の発育毛促進効果が得られず、逆に5%を超えると、その効果は頭打ちであるにもかかわらず、コストが上昇するだけである。育毛剤が、乳状、ゼリー状、ペースト状など半固形または流動状の場合には、植物抽出物末などを上記上清の量に基づいて換算した割合で添加すればよい。
【0019】
本発明に係る育毛剤および化粧料は、液剤状、乳剤状、ゲル状、クリーム状、軟膏状、フォーム状、ミスト状、ジェル状など、種々の剤型をとり得る。
具体的には育毛剤は、ヘアトニック、ヘアジェル、ヘアクリーム、ヘアトリーメントローション、ヘアフォーム、ヘアミスト、ヘアシャンプー、ヘアリンスなどの形態で提供される。
本発明の育毛剤および化粧料には、上記必須成分の他に上記抽出物の作用を損なわない範囲で、油性成分、ヒアルロン酸、セラミドなどの保湿剤、α−トコフェロール、アスコルビン酸誘導体などの抗酸化剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、局所刺激剤、毛包賦活剤、香料、色素、防菌防黴剤、pH調整剤、増粘剤、賦形剤、清涼剤などの一般的な育毛剤用添加物を任意に組み合わせて適宜、含有させることができる。さらにキレート化剤などの安定化剤、経皮吸収促進剤なども加えてもよい。
【0020】
また、頭皮状態の正常化に有効とされる他の育毛促進成分を併用することにより、育毛・養毛効果の相乗作用を図ることもできる。この目的には、常用の血行促進剤、抗脂漏剤、角質溶解剤などがある。
本発明の育毛剤は、症状や体質にかかわらず育毛を促進し、著しい抜毛の改善、治療、種々の脱毛症にも著効を発揮する。また適用の主な対象は、ヒトの頭髪であるが、イヌ、ネコ、カナリヤ、インコといった愛玩動物の毛並み改善などにも使用できる。さらに毛を採取するか、毛皮を利用するメンヨウ、カシミヤ山羊、アルパカ、アンゴラウサギ、ミンク、キツネなどの動物にも適用して発育毛を促進し毛の色つやを良くすることで、毛または毛皮製品の品質を高める一助となる。
本発明の化粧料は、一般皮膚化粧料のほか、医薬部外品、薬用化粧料等を包含するもので、油/水型、水/油型の乳化化粧料、クリーム、化粧乳液、油性化粧料、化粧水、ファンデーション、パック剤など、種々の形態および用途で用いることができる。
【0021】
化粧料全量に対し、本発明の上記抽出物を添加する量は、用いる植物の種類、抽出溶媒および抽出条件、抽出後の処理などにより異なるが、抽出して得られる上清状態の抽出液について、上記育毛剤の場合の濃度に準ずる。すなわち、液状化粧料全量に対し、0.001〜5.0重量%、好ましくは0.1〜1重量%とする。化粧料が、乳状、ゼリー状、ペースト状など半固形または流動状の場合には、植物抽出物末などを前記上清量に基づき換算した割合で添加する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、FR-Ba/F3培養細胞のFGF-5依存的、ならびにIL-3依存的な増殖に及ぼす、各種の植物または海藻からの抽出物の阻害作用を示す。横軸は、培地中の抽出物の濃度(単位:%(V/V))である。
【図2】図2は、FR-Ba/F3培養細胞のFGF-5依存的、ならびにIL-3依存的な増殖に及ぼす、カギカズラからの抽出物の阻害作用を示す。横軸は、培地中の抽出物の濃度(単位:%(V/V))である。
【図3】図3は、FR-Ba/F3培養細胞のFGF-5依存的、ならびにIL-3依存的な増殖に及ぼす、「茶エキス」および「緑茶エキス」の阻害作用を示す。横軸は、培地中の抽出物の濃度(単位:%(V/V))である。
【図4】図4は、毛周期が成長期にあるマウスの皮膚切片像を示す写真である。各切片像において、毛胞は真皮にある嚢状の毛球部から表皮へ向かって伸びる構造物であり、その中に成長中の毛が包まれている。像の下部には、皮下(脂肪)組織が見られる。ベヒクルの50%エタノールを塗布した群(写真中のスケールは0.1mmを示す。他の写真も同様の倍率である。)では、皮下投与したFGF−5の作用により、毛包は短小で成長が抑制されたままであった。これに対し、本発明の植物抽出物を塗布した群、すなわちビワ、エイジツ、褐藻類、マテ、キャッツクロー、ワレモコウ、ウワウルシおよびヨモギの群では、それぞれ毛包は脂肪組織の方向へ伸長してその成長は回復していることが示された。
【図5】図5は、図2-1に示された実験と同様の実験においてカギカズラからの抽出物、「茶エキス」または「緑茶エキス」を塗布した効果を示す写真である。
【図6】図6は、キャッツクロー、ヨモギまたは茶エキスを塗布したマウスにおける毛包の全長をベヒクル群と比較することにより、その育毛効果を示す。
【図7】図7は、毛周期が成長期の末期にあるマウスの皮膚切片像を示す写真である。切片中の毛包の形態および大きさから、ベヒクルである50%エタノールを塗布した群(写真中のスケールは0.1mmを示す。他の写真も同様の倍率である。)では、退行期に移行していたが、植物抽出物塗布群、すなわちウワウルシ、褐藻類、ワレモコウまたはエイジツの抽出液を塗布した群ではそれぞれ成長期が持続し、毛包は長く維持されていた。以下、本発明について図面とともに実施例を挙げてさらに説明を加えるが、本発明がこのような実施例にのみに限定されるものではない。なお特にことわらない限り、%は、重量%である。
【実施例1】
【0023】
(植物抽出物の調製)
エイジツ(ノイバラRosa multiflora Thunb.の偽果および果実)、ビワ(Eriobotrya japonica Lindley)の葉、ワレモコウ(Sanguisorba officinalis)の根茎、ウワウルシ(Arctostaphylos uva-urusi(Linne) Sprengel(Ericaceae))の葉、マテ(学名Ilex Paraguariensis)、キャッツクロー(学名Uncaria tomentosa)、ヨモギ(学名Artemisia princes)、カギカズラ(学名 Uncaria rhynchophylla)の葉および茎、褐藻類(Brown algae 褐藻網 Class Phaeophyceae)の全藻について、いずれも乾燥重量100gに対し、50%エタノール水溶液、1リットルの割合で、室温にて1〜10日間浸漬して、可溶性成分を抽出した。抽出液と抽出残渣との分離は、遠心分離またはろ過によった。得られた上清を被験材料とした。また、茶の抽出物については「化粧品種別配合成分規格(粧配規)」に収録され市販されている、「茶エキス」((株)常盤植物化学研究所、商品名「茶エキスS」)および「緑茶エキス」((株)常磐植物化学研究所、商品名「緑茶抽出物MF」)をそのまま適宜希釈して用いた。
【実施例2】
【0024】
(培養細胞を用いるFGF−5阻害物質の検出)
FGF−5およびインターロイキン−3(IL-3)に応答性のあるFR-Ba/F3細胞を、10%ウシ胎児血清を含む培養液中で培養した。IL−3は、FGF-5と同様に幅広い細胞の増殖を促進する別種のサイトカインである。96穴培養用プレート(ファルコン社製)に、10,000細胞/ウェルで播き換え、培養液に1μg/mlのFGF−5または10ng/mlのIL−3、さらに適当に希釈した被験物質(実施例1の植物抽出液)およびベヒクルである50%エタノールを添加して3日間培養した。その後、各ウェルにセルカウンティングキット(和光純薬製)を添加し、3時間培養した後、マイクロプレートリーダーを用いて細胞増殖を調べた。その結果を図1、図2および図3に示す。エイジツ、ビワ、ワレモコウ、ウワウルシ、マテ、キャッツクロー、ヨモギ、カギカズラ、褐藻からのいずれの抽出物、あるいは「茶エキス」もしくは「緑茶エキス」は、IL-3依存的な増殖に比べて、FGF-5依存的なFR-Ba/F3細胞増殖をいずれも低濃度で阻害した。これらの結果から上記の植物抽出物は、選択的にFGF−5阻害活性を持つことが示された。
【実施例3】
【0025】
(成長期誘導後のマウス塗布実験)
毛周期が休止期にある8週齢のC3H/Heマウス(日本SLC社より購入)の背部を抜毛し、成長期を誘導した。誘導翌日から7日間、5μgのFGF-5を毎回同じ部位に皮下注射し、さらにその注射部位周辺に、実施例1に記載したエイジツなどからの植物抽出物(50%エタノール溶液)、「茶エキス」および「緑茶エキス」を、1日1回、0.02ml/cm2ずつ塗布した。対照群とするマウスには、50%エタノールを1日1回、同様に塗布した。同時に別のマウス群には、FGF−5皮下投与群に対する対照として、リン酸緩衝生理食塩水を投与する群も設けた。
最終塗布の翌日、上記マウスを頸椎脱臼により屠殺して、塗布部位の皮膚を採取した。採取した皮膚は10%ホルマリン水溶液で固定した後、エタノール脱水系列による処理、キシレンによる透徹を行ない、パラフィン包埋した。ミクロトーム(ヤマト社製)を用いて、毛包が上部から下部まで完全に見える方向に4μmの皮膚切片を作成し、シランコートしたスライドグラス(マツナミ社製)上で伸展させた。キシレンによる脱パラフィン処理、エタノール親水系列による処理後、ヘマトキシリンおよびエオシンにより、上記切片を染色し、エタノール脱水系列による処理、キシレンによる透徹を行なった後、カナダバルサムを用いて封入した。
【0026】
光学顕微鏡下にて観察した皮膚切片像は、コンピュータへの画像データの取り込みおよび写真撮影を行なって、切片中の毛包の形態および大きさを比較した。その像を図4および図5に示す。FGF-5を皮下投与した群は、リン酸緩衝生理食塩水投与群(FGF-5皮下投与に対する対照)よりも毛包の成長が抑制されていた。上記植物抽出物塗布群では、50%エタノール(ベヒクル)を塗布した対照群と比べると、明らかに毛包成長は回復していた。したがってこれらの抽出物は、毛周期がFGF−5の作用により退行期へ移行するのを阻止して育毛活性を有することが示された。
【実施例4】
【0027】
(毛包の全長の比較)
育毛活性を定量的に確認するため、実施例3に従い、FGF−5を皮下投与したマウスに実施例1に記載した植物エキスおよび「茶エキス」を塗布し、投与部皮膚の顕微鏡観察用切片を作製した。これらの切片から、全長が確認できる毛包を1個体当り、50〜100本選んでその長さを測定し、それぞれのベヒクル投与群と比較した。1群当り8匹のマウスを用いて試験を行った。その結果、図6に示すとおり、キャッツクロー、ヨモギ、茶エキスを塗布したマウスでは、それぞれのベヒクル群よりも有意に毛包が長かった。
【実施例5】
【0028】
(成長期後半のマウス塗布実験)
毛周期が休止期にある8週齢のC3H/Heマウス(日本SLC社より購入)の背部を抜毛し、成長期を誘導した。誘導17日後、抜毛部位に生えた毛をバリカン除毛し、直後から3日間ないしは4日間、実施例1に記載した植物抽出物(50%エタノール溶液)を、1日1回、0.05ml/cm2ずつ塗布した。対照群のマウスには、50%エタノールを1日1回、同様に塗布した。
最終塗布の翌日、実施例3に記載した方法にて各群マウスの皮膚を採取して組織切片を同様に作成し、毛包の形態、大きさを比較した。その結果を図7に示す。対照群であるエタノール(ベヒクル)塗布群では、毛包が短く既に退行期に移行しているのに対し、上記植物抽出物の塗布群では、毛包は長く成長期が持続していた。これらの結果は、本発明の植物抽出物が、毛周期の成長期を延長しており、明らかに育毛活性を有することが示している。
【実施例6】
【0029】
(ヘアートニック剤の調製)
エタノール55重量部、ポリオキシエチレン(8)オレイルアルコールエーテル2重量部、精製水36重量部に実施例1で得た植物抽出物(上清)、1重量部を混合配合する。さらに常法に従い、メントール等の香料、酢酸トコフェロール等の抗酸化剤、サリチル酸等の保存剤、着色剤、pH調整剤を適量配合し、ヘアトニックタイプの育毛剤を形成する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の上記抽出物を含有する育毛剤、化粧料は、毛母細胞増殖に直接的に作用する成分を含有するために、優れた育毛・養毛効果および脱毛予防効果を発揮する。その有効成分が植物からの抽出物であるため、安全に使用できてほとんど副作用がない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維芽細胞増殖因子5(FGF−5)の作用を阻害する活性を有することを特徴とする植物抽出物。
【請求項2】
バラ科植物、ツツジ科植物、モチノキ科植物、アカネ科植物、キク科植物または褐藻植物に属す植物を水または水以外の溶媒で抽出することにより得られ、繊維芽細胞増殖因子5(FGF−5)の作用を阻害する活性を有することを特徴とする植物抽出物。
【請求項3】
上記の植物が、エイジツ、ビワ、ワレモコウ、ウワウルシ、マテ、キャッツクロー、ヨモギおよび褐藻類よりなる群から選ばれる請求項2に記載の植物抽出物。
【請求項4】
カギカズラまたは茶を水または水以外の溶媒で抽出することにより得られ、繊維芽細胞増殖因子5(FGF−5)の作用を阻害する活性を有することを特徴とする植物抽出物。
【請求項5】
エイジツ、ビワ、ワレモコウ、ウワウルシ、マテ、キャッツクロー、ヨモギ、カギカズラ、茶または褐藻類を水または水以外の溶媒で抽出して得られる抽出物を、1種または2種以上含有することを特徴とする繊維芽細胞増殖因子5(FGF−5)阻害剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のFGF−5の作用を阻害する植物抽出物を1種または2種以上、有効成分として含有することを特徴とする育毛剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のFGF−5の作用を阻害する植物抽出物を1種または2種以上、有効成分として含有することを特徴とする化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【国際公開番号】WO2005/034894
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514558(P2005−514558)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014483
【国際出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(503167042)株式会社アドバンジェン (4)
【Fターム(参考)】