説明

育毛剤

【課題】脱毛防止作用、発毛作用等優れた育毛効果を有する育毛剤を提供すること。
【解決手段】イノシトールからなる育毛剤。さらに、前記育毛剤を有効成分として含有する育毛剤。前記育毛剤は、医薬部外品を含む化粧料、医薬品等として応用することができる。本発明においては、前記育毛剤の調製に当たって、イノシトールとリン脂質とを併用することができ、これによりイノシトールの有する育毛作用をさらに向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育毛剤に関する。さらに詳しくは、優れた脱毛防止作用や発毛作用等の育毛効果を有する育毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
育毛剤は、頭髪の発毛を促進又は脱毛を防止する製品であり、高齢化社会を迎えた今日では、社会的なストレスの増大も伴い、年々その需要は増大しつつある。一般に、頭部の禿や脱毛の原因としては、毛包や皮脂腺等の器官における男性ホルモンの活性化、毛乳頭や毛包への血流量の低下による栄養物質の供給不足、上皮組織の角化異常等によるふけの過剰発生、過剰な皮脂分泌、過酸化物の生成による頭皮の異常、栄養摂取のアンバランス、ストレス等の多様な原因が考えられている。
【0003】
従来の育毛剤は、一般に、これらの禿や脱毛等の原因と考えられる要素を取り除いたり、軽減する作用を持つ物質を配合したりしたものである。育毛剤に使用されている有効成分としては、毛包に栄養を多く補給するために血行の促進を図る血行促進剤(センブリエキス、ビタミンE又はその誘導体等)、毛包にエネルギーを供給して細胞を賦活する細胞賦活剤(ペンタデカン酸等)、余分な皮脂を抑えることによる抜け毛の防止に効果のある皮脂腺抑制剤(グリチルレチン酸等)等が使用されている。その他、グリチルリチン酸ジカリウム、ミノキシジル等の物質も育毛剤として有効であることが知られている。
【0004】
しかしながら、現在までに多くの試みがなされているにもかかわらず、脱毛防止効果や発毛効果等の育毛効果は必ずしも充分なものではなかった。この理由としては、前記の通り禿や脱毛の原因が非常に多様であり、発毛の機構自体も非常に複雑であるため、それらの原因や機構の一面のみに着目した育毛剤では十分ではないということが挙げられる。したがって、優れた育毛剤の継続的な開発が必要とされている。
【0005】
一方、イノシトールは人間の体内でも合成されるが、必要量を合成できないことからビタミンの1種として扱われており、一般に、細胞成長促進に不可欠なビタミンB群の一種として知られている。また、体内に摂取することで肝硬変や脂肪肝の予防、動脈硬化予防、成長促進作用などの効果があるといわれており、脂肪肝、肝硬変等の予防・治療薬として、また総合ビタミンドリンク、乳児の必須ビタミン剤等に幅広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。また、従来から米糠は油脂、ビタミンBおよびミネラルなどが含まれることが知られており、皮膚に油分、水分、栄養分を与え、うるおいや保湿性の向上、弾力性の低下防止効果があるものとして皮膚化粧料に添加されている。
【0006】
さらに、上記の効果を高めるため、米糠から抽出した多糖類を有効成分とすることを特徴とする化粧料(特許文献2参照)や米糠から得られた水溶性抗酸化物質を含有していることを特徴とする化粧料(特許文献3参照)などが知られている。
【0007】
さらに、イノシトールに高い保湿性、肌のうるおい効果、栄養補給効果があることを見出し、石けん、ボディーシャンプー、ハンドソープなどの皮膚洗浄剤、化粧水、乳液、ローション、クリーム、パック剤、クレンジングクリーム、発泡剤などの皮膚化粧料品、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドーなどのメイクアップ化粧料、シャンプー、リンス、ヘアトニック、トリートメント、ヘアクリーム、スプレー、発砲剤、養毛・脱毛剤などの毛髪化粧料等に配合した技術が開示されている(特許文献4参照)が、イノシトールに優れた育毛作用があることは知られていない。
【0008】
【特許文献1】特開平7−330643号公報
【特許文献2】特開昭64−66106号公報
【特許文献3】特開平2−53705号公報
【特許文献4】特開平10−114641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、脱毛防止作用、発毛作用等優れた育毛効果を有する育毛剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、イノシトールに優れた育毛活性があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、イノシトールからなる育毛剤である。
【0012】
また、本発明は、前記育毛剤を有効成分として含有する育毛剤である。
【0013】
また、本発明は、イノシトールとリン脂質とを含有する育毛剤であり、前記リン脂質はホスファチジルイノシトールであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた脱毛防止効果や発毛効果等の育毛効果を有する育毛剤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳述する。
【0016】
本発明に係るイノシトールは、1850年に牛の心筋抽出液よりはじめて単離された既知の物質である。前記イノシトールは、C66(OH)6で表される環状六価アルコールであり、9つの立体異性体が存在するが、本発明ではいずれを用いても構わない。
【0017】
イノシトールは、米糠から抽出、例えば、米糠中にフィチン酸のカルシウム、マグネシウム混合塩(フィチン)の形で多量に存在し、抽出したフィチンをさらに分解、精製することによって製造される。また、化学合成により、入手することが可能である。また、発酵法により得られたものも用いることができる。本発明においてはこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明に係るイノシトールは、後で証明するように優れた育毛作用を有する。したがって、本発明の育毛剤は前記イノシトールからなる。
【0019】
本発明においては、本発明に係る育毛剤であるイノシトールを有効成分として含有して育毛剤に調製される。前記育毛剤は外用投与等により育毛効果を発揮する。
【0020】
本発明の育毛剤は、例えば、医薬部外品を含む化粧料、医薬品等として応用される。
【0021】
本発明に係る前記イノシトールを有効成分として含有した育毛剤を調製する場合のイノシトールの含有量としては育毛剤全量中0.00001〜15質量%が好ましい。さらに好ましくは、0.0001〜10質量%である。
【0022】
前記育毛剤の調製にあたっては、イノシトールとリン脂質とを併用することができ、これによりイノシトールの有する育毛作用を向上させることができる。
【0023】
前記リン脂質としては、化粧料、医薬部外品、医薬品等に使用されるものであれば特に限定されない。なお、本発明においてリン脂質とは、いわゆる広義のレシチンであり、天然リン脂質、水素添加リン脂質等のリン脂質誘導体、合成リン脂質等を含めた概念のものである。リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン等の天然リン脂質、天然リン脂質中の不飽和炭素鎖を水素により飽和とした水素添加リン脂質、ジオレイルホスファチジルコリン等の合成リン脂質等が挙げられる。本発明においては、これらリン脂質の1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を混合して使用してもよいが、混合されたものを用いることが一般的である。本発明においては、前記リン脂質の中でもホスファチジルイノシトールを用いることが好ましく、特に本発明の効果を発揮する。ホスファチジルイノシトールはリン脂質として単品で用いても構わないが、前記同様他のリン脂質との混合物の形態で用いられるのが一般的である。
【0024】
本発明のリン脂質は、市販されているので、市販品を用いることが可能である。市販品の例としては、例えば日光ケミカルズ社製のレシノールS−PIE、同WS−50、同S−10、同S−10E、同S−10EX、同S−10M、同SH50、同LL−20等が挙げられる。本発明においては、ホスファチジルイノシトールを含有するレシノールS−PIE、同WS−50を用いることが好ましい。
【0025】
イノシトールとリン脂質を併用して育毛剤を調製する場合のリン脂質の含有量は、育毛剤全量中0.001〜10質量%が好ましい。
【0026】
また、前記育毛剤の調製にあたっては、すでに育毛、発毛、発毛促進、養毛効果を有することが公知の他の発毛、育毛成分を前記本発明に係る成分と併わせて用いることもできる。また、経皮吸収剤として知られている成分を併用することもでき、好ましい態様である。
【0027】
さらに、前記育毛剤の調製にあたっては、本発明の効果を損なわない範囲で通常化粧料、医薬品等に用いられる成分を配合することができる。
【0028】
例えば、化粧料については、例えば、油分、界面活性剤、保湿剤、多価アルコール、増粘剤、水溶性高分子、皮膜形成剤、粉末、顔料、染料、低級アルコール、糖類、紫外線吸収剤、アミノ酸類、ビタミン類、皮膚賦活剤、植物抽出物、有機酸、有機アミン、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、酸化防止剤、清涼剤、香料、水等が挙げられる。
【0029】
また、医薬品については、例えば、賦形剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、吸収促進剤、pH調整剤、界面活性剤、稀釈剤、溶解助剤、保存剤、芳香剤、着色剤等の種々の添加成分が挙げられる。
【0030】
本発明の育毛剤は前記成分を配合して常法にしたがって調製することができる。
【実施例】
【0031】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、配合量は質量%である。
【0032】
[実施例1]育毛活性
以下に述べる方法で育毛活性を評価した。
【0033】
(試験法)
C3Hマウスを用いて、背部の毛を電気バリカンで刈った後、各試料の1質量%水溶液(イノシトール+リン脂質の場合はそれぞれ1質量%水溶液)を週5日間4週間投与した。投与終了後、除毛部位の皮膚色の明度を色彩色差計を用いて測定した。皮膚色の明度は発毛に伴い低下することが分かっており、明度の低下は発毛の信号である。なお、リン脂質は市販のレシノールS−PIE(日光ケミカルズ社製)を用いた。
【0034】
(結果)
皮膚色の明度の測定結果を表1に示した。表1から明らかなように、イノシトールはミノキシジル等他の育毛剤と比較しても優れた明度の低下が認められた。特に、効果が優れていることが知られているミノキシジルよりもさらに優れた効果が見られた。また、リン脂質を併用した系ではより明度の低下が観察された。
【0035】
【表1】

【0036】
[実施例2]毛乳頭細胞増殖性試験
毛乳頭細胞の増加を調べることにより育毛効果の有効性を評価した。
【0037】
(試験法)
ラット毛乳頭細胞を、10%FCS(ウシ胎児血清)配合DMEA(Dulbecco変法Eagle培養液)にて培養した。次に、各試料を10μg/mlDMEA培地に溶解させ、毛乳頭細胞の培地を除きリン酸緩衝液[PBS(−)]で洗浄後、各試料の溶解培地を添加し、37℃で3日間培養した。その後、ホルマザン抽出液100μLずつ添加し振とうした。これをマイクロプレートリーダーを用いて570nmの吸光度を測定した。コントロール培地の細胞増殖度を100として各試料の細胞増殖度を算出した。なお、リン脂質は市販のレシノールS−PIE(日光ケミカルズ社製)を用いた。
【0038】
(結果)
細胞増殖度の測定結果を表2に示した。表2から明らかなように、毛乳頭細胞の増加はイノシトールが優れており、リン脂質を併用した系においてその効果はさらに向上された。
【0039】
【表2】

【0040】
[実施例3]ヒト頭髪毛成長促進効果
男性型脱毛症患者である被試験者15名の頭部の耳の上5cmの位置の頭髪を左右2ヵ所において直径1cmの円形状に剃毛した被試験部位に、ミノキシジル及びイノシトール製剤(いずれも1質量%水溶液)、並びにイノシトール+リン脂質製剤(それぞれの濃度が1質量%になる濃度の水溶液)をそれぞれ5名の左側に毎朝夕2回、約3ml塗布し、無処置の右側と比較した。効果の判定は、試験開始後28日目に、左右の試験部位の毛髪各々20本ずつを剃毛し、左側(ミノキシジル及びイノシトール製剤を塗布)の毛20本の長さの平均値(B)を右側(無処置)の毛20本の長さの平均値(A)で除した値を求めて評価した。判定結果は、被試験者それぞれ5名の(B)/(A)の平均値で示した。なお、リン脂質は市販のレシノールS−PIE(日光ケミカルズ社製)を用いた。結果を表3に示した。
【0041】
【表3】

【0042】
表3から分かるように、イノシトール製剤及びイノシトール+リン脂質製剤はいずれもミノキシジル製剤に比べて優れた育毛効果が得られた。特に、イノシトール+リン脂質製剤は優れた効果が得られた。
【0043】
[実施例4]実用試験
男性型脱毛症患者である被試験者10名に対して、毎朝夕2回、連続3ヶ月間実施例3のイノシトール製剤及びイノシトール+リン脂質製剤を各5名の頭部に塗布した後の効果を評価した。試験結果は、いずれも育毛効果、脱毛予防効果の各項目に対して、「生毛が剛毛化したあるいは増加した」、「脱毛が少なくなった」と有効な答えが得られた。なお、リン脂質は市販のレシノールS−PIE(日光ケミカルズ社製)を用いた。
【0044】
以下に、本発明の育毛剤の処方例を実施例として示す。
【0045】
[実施例5]育毛剤
成分 配合量(質量%)
イノシトール 5.0
リン脂質(注) 1.0
ジプロピレングリコール 7.0
ビタミンE 0.1
塩酸ジフェンヒドラミン 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
メチルパラベン 0.2
メントール 0.1
エタノール 50.0
香料 適量
精製水 残量
合計100.0
【0046】
(注)レシノールS−PIE(日光ケミカルズ社製)
【0047】
[実施例6]育毛剤
成分 配合量(質量%)
イノシトール 0.1
リン脂質(注) 0.1
プロピレングリコール 3.0
1,3−ブチレングリコール 2.0
ビタミンE 0.3
トウガラシチンキ 0.1
塩酸ジフェンヒドラミン 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
メチルパラベン 0.2
メントール 0.1
エタノール 50.0
香料 適量
精製水 残量
合計100.0
【0048】
(注)レシノールS−PIE(日光ケミカルズ社製)
【0049】
[実施例7]育毛剤
成分 配合量(質量%)
イノシトール 1.0
リン脂質(注) 5.0
メチルフェニルポリシロキサン 1.0
流動パラフィン 5.0
ステアリルアルコール 2.0
プロピレングリコール 3.0
1,3−ブチレングリコール 2.0
グリセリン 1.0
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 0.5
ビタミンE 0.3
コラーゲン加水分解物 1.0
トウガラシチンキ 0.1
塩酸ジフェンヒドラミン 0.1
メチルパラベン 0.2
メントール 0.1
香料 適量
精製水 残量
合計100.0
【0050】
(注)レシノールS−PIE(日光ケミカルズ社製)
【0051】
[実施例8]育毛剤
成分 配合量(質量%)
イノシトール 3.0
リン脂質(注1) 0.8
メチルフェニルポリシロキサン 1.0
塩酸ピリドキシン 0.05
プラセンタエキス 1.0
酵母エキス 0.1
エタノール 30.0
メントール 0.1
1,3−ブチレングリコール 3.0
アスコルビン酸 1.0
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンコポリマー(注2)
1.0(実分0.05)
香料 適量
精製水 残量
合計100.0
【0052】
(注1)レシノールS−PIE(日光ケミカルズ社製)
(注2)リピジュア−PMB(5%水溶液)(日本油脂株式会社製)を配合
【0053】
[実施例9]育毛剤
成分 配合量(質量%)
イノシトール 2.0
リン脂質(注1) 0.7
水素添加大豆リン脂質 0.5
1,3−ブチレングリコール 3.0
1,2−ヘキサンジオール 1.0
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンコポリマー(注2)
1.0(実分0.05)
1,1’−メチレン−ビス(4−イソシアナトシクロヘキサン)・ポリエチレングリコール共重合体(注3) 0.5
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.1
塩酸ピリドキシン 0.05
プラセンタエキス 0.2
酵母エキス 0.1
エタノール 20.0
メントール 0.1
アスコルビン酸 0.5
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
香料 適量
精製水 残量
合計100.0
【0054】
(注1)レシノールS−PIE(日光ケミカルズ社製)
(注2)リピジュア−PMB(5%水溶液)(日本油脂株式会社製)を配合
(注3)表示名称;(PEG−8/SMDI)コポリマー(分子量1800)
【0055】
[実施例10]育毛剤
成分 配合量(質量%)
イノシトール 1.5
1,3−ブチレングリコール 3.0
1,2−ヘキサンジオール 1.0
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンコポリマー(注)
3.0(実分0.15)
エタノール 20.0
ビタミンE 0.3
プラセンタエキス 1.0
フェノキシエタノール 0.4
香料 適量
精製水 残量
合計100.0
【0056】
(注)リピジュア−PMB(5%水溶液)(日本油脂株式会社製)を配合

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イノシトールからなる育毛剤。
【請求項2】
請求項1記載の育毛剤を有効成分として含有する育毛剤。
【請求項3】
イノシトールとリン脂質とを含有することを特徴とする育毛剤。
【請求項4】
リン脂質が、ホスファチジルイノシトールである請求項3記載の育毛剤。

【公開番号】特開2006−28026(P2006−28026A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204780(P2004−204780)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(502024694)ドクタープログラム株式会社 (8)
【Fターム(参考)】