説明

胃を原発巣とする消化管間質腫瘍の悪性化の診断法

【課題】胃を原発巣とする消化管間質腫瘍の悪性化の判定法の提供。
【解決手段】胃を原発巣とする消化管間質腫瘍が悪性であるか否かを判定する方法であって、(a)患者から得られた、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍において、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子が発現しているか否かを決定する工程、および(b)工程(a)においてジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子が発現していた場合に、その腫瘍が悪性であると判定する工程を含んでなる方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍の悪性化の診断法、および同腫瘍を治療するための医薬組成物に関する。
【0002】
背景技術
消化管間質腫瘍(GIST; gastrointestinal stromal tumor)は消化管に発生する間葉系腫瘍のほとんどを占め、カハール介在細胞(ICC; Interstitial cells of Cajal)と同様にc-kit受容体型チロシンキナーゼやCD34を発現しており、ICC由来の腫瘍である可能性を示している。GISTは高頻度にc-kitをコードするKITあるいはPDGFRα遺伝子の機能獲得性突然変異を有しており、チロシンキナーゼレセプター活性阻害薬(例えば、メシル酸イマチニブ;商品名:グリベック)による分子標的治療がGIST患者に対して有効であるとされている。
【0003】
しかしながら、GISTは、外科切除のみで治癒する良性のものから予後不良な悪性のものまで幅広いスペクトルを持ち、グリベックに対する反応性も一部の腫瘍だけに認められるなど、臨床的には必ずしも一様ではない。そのためGISTの予後を適切に予測できる新たなバイオマーカーが求められている。
【0004】
また、c-Kit陽性症例におけるメシル酸イマチニブの奏効率は46.5%と充分でなく、さらには比較的軽症の副作用がほぼ100%の症例で発生するうえ、骨髄抑制、出血(脳、硬膜下、消化管)、腫瘍出血・消化管穿孔、間質性肺炎・肺線維症、肝機能障害、重篤な皮膚症状、麻痺性イレウスなどの重篤な副作用も5〜10%の頻度で報告されている。さらに、長期投与例ではKIT遺伝子の二次変異による耐性獲得が生じる症例が報告されている。よって、メシル酸イマチニブとは作用機序の異なる別の分子標的治療薬の開発が期待されている。
【0005】
ジペプチジルペプチダーゼIV(dipeptidyl peptidase IV、以下「DPP IV」ともいう)(EC.3.4.14.5)は、T細胞と特定のがん細胞に強く発現する膜貫通型糖タンパク質(セリンジペプチジル・ペプチダーゼ)である。ジペプチジルペプチダーゼIVは、白血病細胞、ならびに前立腺がん、腎細胞がんなどの固形がん細胞株においてその存在が確認されており、腫瘍の細胞運動と浸潤性に関与するだけではなく、細胞周期にも関与することが報告されている(非特許文献1:血液・免疫・腫瘍, Vol.6, No. 3, 2001-7, pp.61(283)-64(286))。さらに、抗DPP IV抗体の投与によりDPP IV陽性白血病細胞の増殖が抑制され、白血病細胞株を移植したSCIDマウスにおいて、抗DPP IV抗体投与により長期生存を示したとの報告がある(非特許文献2:Clinical Cancer Research, Vol. 7, pp.2031-2040, 2001)。
【0006】
また、DPP IV阻害薬はインスリン分泌を高めるホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)を分解する酵素を阻害するため、種々のDPP IV阻害薬(例えばSYR-322、TA-6666、KRP-104など)が既に開発され、糖尿病治療薬として臨床に使用されている。
【0007】
【非特許文献1】血液・免疫・腫瘍, Vol.6, No. 3, 2001-7, pp.61(283)-64(286)
【非特許文献2】Clinical Cancer Research, Vol. 7, pp.2031-2040, 2001
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍(GIST)において、予後の悪い悪性のGISTでは、そうでないGISTに比べ、顕著にジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の発現が増加していることを見出した。本発明は、この知見に基づくものである。
【0009】
従って、本発明は、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍の悪性化の判定法、および同腫瘍を治療するための医薬組成物を提供することを目的とする。
【0010】
そして、本発明による判定法は、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍が悪性であるか否かを判定する方法であって、(a)患者から得られた、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍において、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子が発現しているか否かを決定する工程、および(b)工程(a)においてジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子が発現していた場合に、その腫瘍が悪性であると判定する工程を含んでなる方法である。
【0011】
さらに、本発明による医薬組成物は、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤および医薬上許容される担体を含んでなる、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍を治療するための医薬組成物である。
【0012】
本発明によれば、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍において、その予後を予測し、適切な治療法を選択することが可能となる。また、その腫瘍が悪性であってもこれを治療する手段が提供される。特に、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤は糖尿病の治療薬として患者に長期投与されているものであるため、副作用が少ないという利点を有する。
【発明の具体的説明】
【0013】
本明細書において、ジペプチジルペプチダーゼIVの発現が胃を原発巣とする消化管間質腫瘍の予後不良因子であることが実証されている。よって、患者から摘出された腫瘍または生検標本におけるジペプチジルペプチダーゼIVの発現の有無を調べることにより、その腫瘍が悪性であるか否か、例えば再発および/または転移が起きる可能性を判定することが可能である。以上のような知見から、本発明によれば、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍が悪性であるか否かを判定または診断する方法が提供される。
【0014】
本明細書において「消化管間質腫瘍」とは、消化管に発生する間葉系腫瘍(gastrointestinal mesenchymal tumor; GIMT)であって、紡錘形細胞を主体とする充実性腫瘍をいう。この消化管間質腫瘍は、食道、胃、小腸、大腸などの消化管の壁にできる腫瘍であり、粘膜下腫瘍を構成する腫瘍の一種である。
【0015】
本明細書において「悪性」との用語は、腫瘍などの新生物について用いられる場合と同じ意味を有し、一般的に、その腫瘍が局部的浸潤性、破壊的増殖性または転移性を有することを意味する。本発明の好ましい態様によれば、「悪性」は、その腫瘍が再発性または転移性を有することを意味する。
【0016】
本発明による判定法は、患者から得られた、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍において、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子が発現しているか否かを決定する工程を含む。その結果、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子が発現していた場合には、その腫瘍が悪性であると判定(診断)される。
【0017】
判定の対象とする消化管間質腫瘍は、患者から外科手術により摘出された手術サンプルであってもよいし、内視鏡などによって得られる生検サンプルであってもよい。例えば、消化管間質腫瘍を外科的に摘出すべきか否かの判断も含めて治療計画を検討する上では、患者からの生検サンプルを判定の対象とすることが有利である。
【0018】
ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の発現の有無の決定には、当技術分野において公知の標準的な方法を用いることができる。ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の配列およびこれによりコードされるアミノ酸配列は当技術分野において周知であり、例えば、配列番号1および配列番号2(NCBIアクセス番号:X60708)に示されるヒト由来のジペプチジルペプチダーゼIVの配列が挙げられる。当業者であれば、これらの配列を参照することにより、標準的な方法を用いてその遺伝子発現の有無を決定することができる。
【0019】
本発明の好ましい実施態様によれば、遺伝子発現の有無を決定する工程は、前記腫瘍内のジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質を検出することを含んでなる。ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質は、当技術分野において周知の方法により検出することができる。例えば、ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質のアミノ酸配列として配列番号2で表されるものを挙げることができ、当業者であればこの配列を参照することによって適切に同タンパク質を検出することが可能である。
【0020】
ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質は、例えば、同タンパク質に結合する抗体を用いることによって好適に検出することができる。このような抗体は、好ましくはジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質に特異的な抗体とされる。抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体とされる。ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質に特異的なモノクローナル抗体は商業的に入手することができる。ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質の検出は、好ましくはこのような特異的抗体を用いる免疫組織化学染色によって行われる。あるいは、腫瘍細胞から得られるタンパク質抽出物を電気泳動した後に特異的抗体を用いてこれを検出するイムノブロット法等を用いてもよい。
【0021】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、遺伝子発現の有無を決定する工程は、前記腫瘍内のジペプチジルペプチダーゼIVのmRNAを検出することを含んでなる。例えば、ジペプチジルペプチダーゼIVのmRNAとして、配列番号1で表されるヌクレオチド配列(ただし、配列中のtはuに変換されている)を含むものを挙げることができ、当業者であればこの配列を参照することによって適切にジペプチジルペプチダーゼIVのmRNAを検出することが可能である。検出のための具体的な方法としては、例えば、特異的なプライマーペアを用いるRT−PCRによる増幅の後に電気泳動を行なう方法等が挙げられる。
【0022】
以上のような本発明による判定/診断法を実施するために、必要な試薬をまとめてキットとすることができる。従って、本発明によれば、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍が悪性であるか否かを判定するためのキットが提供され、該キットは、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の発現を検出することのできる試薬を含んでなる。本発明によるキットに含まれる検出試薬は、実施しようとする具体的方法に応じて選択される。このような検出試薬としては、腫瘍内のジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質を検出するための試薬、例えば、ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質に特異的に結合する抗体(好ましくはモノクローナル抗体)を好適に用いることができる。あるいは、このような検出試薬は、腫瘍内のジペプチジルペプチダーゼIVのmRNAを検出するための試薬、例えば、ジペプチジルペプチダーゼIVのmRNAを鋳型とするRT−PCRに用いられる特異的プライマーおよびRT−PCR用試薬としてもよい。本発明によるキットはさらに、実施しようとする具体的方法に応じて、他の試薬類、反応容器、説明書等を含んでいてもよい。
【0023】
本明細書においては、上述のように、ジペプチジルペプチダーゼIVの発現が胃を原発巣とする消化管間質腫瘍の予後不良因子であることが実証されている。さらに、ジペプチジルペプチダーゼIVを含有するCD26に対するモノクローナル抗体が未分化大細胞T細胞リンパ腫に対して抗腫瘍効果を有することが報告されている(Clinical Cancer Research, Vol. 7, pp.2031-2040, 2001)。これらの知見を併せて考慮すると、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍の悪性化においてジペプチジルペプチダーゼIVは必須のタンパク質であり、よって、ジペプチジルペプチダーゼIVを阻害することによって胃を原発巣とする消化管間質腫瘍の悪性化を防ぎ、その治療が可能となるものと考えられる。
【0024】
従って、本発明によれば、治療上有効な量のジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤を被検者に投与することを含んでなる、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍を治療または予防する方法が提供される。さらに、本発明によれば、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍を治療するための薬剤の製造における、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤の使用が提供される。
【0025】
胃を原発巣とする消化管間質腫瘍は、悪性であることが判明しているものであっても、そうでないものであってもよいが、好ましくは悪性の腫瘍とされる。また、腫瘍の治療には、例えば、該腫瘍の悪性化、再発または転移の予防が含まれる。さらに、治療または予防の対象となる被検者は、好ましくは哺乳動物、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物とされる。
【0026】
本発明の好ましい実施態様によれば、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤は薬物などの小分子とされる。このような小分子は糖尿病治療薬として既に開発されており、例えば、SYR-322(武田薬品工業)、TA-6666(田辺製薬)、KRP-104(杏林製薬)などが挙げられる。また、このような小分子は、ジペプチジルペプチダーゼIVの阻害活性を指標として、当技術分野において公知の方法によりスクリーニングすることによって得ることもできる。
【0027】
本発明の好ましい実施態様によれば、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤は、ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質に特異的に結合する抗体とされる。抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体とされる。ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質に特異的なモノクローナル抗体は商業的に入手することができる。
【0028】
本発明の好ましい実施態様によれば、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤は、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の発現を特異的に抑制するアンチセンス核酸分子とされる。アンチセンス法は、特定の遺伝子の発現を抑制するための周知の技術である。一つの具体例では、前記アンチセンス核酸分子は、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の5’コード領域の配列に基づいて設計された、約10〜40塩基長のアンチセンスRNAとされる。他の具体例では、前記アンチセンス核酸分子は、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の転写に関与する領域の配列に相補的となるように設計されたDNAオリゴヌクレオチドとされる。このようなアンチセンス核酸分子は、配列番号1に示されるようなジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の配列に基づいて、容易に設計することができる。
【0029】
本発明の好ましい実施態様によれば、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤は、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の発現を特異的に抑制するsiRNA核酸分子とされる。本明細書において、「siRNA核酸分子」とは、siRNAそのものだけでなく、標的細胞中にsiRNAを導入しうる、より長い二本鎖RNA分子をも意味する。siRNA核酸分子は、RNA干渉(RNAi)によって特定遺伝子の発現を抑制することができる、周知のツールである(Elbashir, S.M. et al., Nature 411, 494-498, 2001)。siRNAは、典型的には、標的遺伝子のmRNAに特異的な配列に相同な、19〜21塩基対のヌクレオチド配列を含んでなる。上記の二本鎖RNA分子は、典型的には、標的遺伝子のmRNAに特異的な配列に相同な、より長いヌクレオチド配列を含んでなる。このようなsiRNA核酸分子は、配列番号1に示されるようなジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の配列に基づいて、容易に設計することができる。さらに、前記siRNA核酸分子は、細胞中に送達された適切なベクターによって発現させることもできる。従って、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤は、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の発現を特異的に抑制するsiRNA核酸分子を発現するベクターとしてもよい。このようなベクターは、当技術分野において周知の標準的な手順により、容易に構築することができる(Bass, B.L., Cell 101, 235-238, 2000;Tavernarakis, N. et al., Nat. Genet. 24, 180-183, 2000;Malagon, F. et al., Mol. Gen. Genet. 259, 639-644, 1998;Parrish, S. et al., Mol. Cell 6, 1077-1087, 2000)。
【0030】
ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤は、局所、静脈内、皮下、筋肉内、経口、直腸、粘膜など、適切な経路で投与することができる。また、その治療上の有効量は、症状の重篤度、被検者の年齢、用いられる具体的な薬物の有効性、投与経路、投与の頻度などに従って、医師または獣医によって適宜決定される。一般的には、前記治療上有効量は、一日当たり、約0.001〜約1000mg/体重kg、好ましくは約0.01〜約10mg/体重kg、より好ましくは約0.01〜約1mg/体重kgである。
【0031】
ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤は、医薬上許容される担体とともに投与することができる。従って、本発明によれば、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤および医薬上許容される担体を含んでなる、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍を治療するための医薬組成物が提供される。医薬上許容される担体、例えば、ベヒクル、賦形剤、希釈剤等は、投与経路、用いられる具体的な薬物の性質などに応じて、当業者により適宜選択される。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0033】
例1:胃を原発巣とする消化管間質腫瘍の悪性度とジペプチジルペプチダーゼIV発現との関連
胃を原発巣とする消化管間質腫瘍のサンプルは、1972年から2005年までに国立がんセンター中央病院で外科的に切除された152症例とした。その内訳は、男性が83症例、女性が69症例であり、初診時の年齢は28歳〜83歳(平均59歳)、追跡期間は4〜352か月で平均117か月であった。これらの症例の切除標本のホルマリン固定パラフィン切片を用い、アビジン・ビオチン複合体(Avidin-Biotin Complex)法を用いるABC法で免疫染色を行った。一次抗体としてはR&D Systems社のDPP IV抗体(Anti-human Dipeptidyl Peptidase IV Antibody. Catalog number: AF1180)を用いた。免疫染色の判定は、腫瘍内に存在するマクロファージや血管内皮をインターナルコントロールとして行った。
【0034】
免疫組織染色の結果を図1に示す。図1において、上段はHE染色を示し、下段はそれぞれの症例のDPP IV免疫組織染色(ペロシキダーゼ法)を示す。左側の2症例はDPP IV発現陽性であり、紡錘形細胞にも上皮様細胞にも細胞膜と細胞質に強い染色が認められる。右側の1症例はDPP IV陰性である。同一標本内の炎症細胞(点線の矢印)や血管内皮(実線の矢印)はDPP IV陽性を示し、染色手技が適切であったと評価できる。全サンプルについての免疫組織染色の結果、152症例中50症例(33%)はDPP IV陽性であり、残り102症例(67%)は陰性であった。
【0035】
次に、Kaplan-Meier法により全生存率と無病生存率の生存曲線を作成し、Log-rank検定により検討した。その結果を図2に示す。図2の左右に示すそれぞれのグラフにおいて、DPP IV発現陰性群(102症例、上側の線)と陽性群(50症例、下側の線)の生存曲線を比較している。左側のグラフは全生存率を、右側のグラフは無病生存率を表す。いずれのグラフにおいても、DPP IV陰性群に比べて、陽性群は統計学的な有意差をもって予後不良であることが示されている(p<0.00001とp<0.00001)。
【0036】
さらに、DPP IV染色と腫瘍の臨床・病理学的パラメータとの相関関係を、フィッシャーの正確確率検定によって調べた。その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1において、組織学的悪性度およびリスクグループの分類にも用いられるMIB−1指数(増殖指数)は、標準的な方法(例えば、Hum. Pathol., Vol. 28, pp.160-165, 1997参照)によって決定されたものである。表1に示すように、DPP IV染色の結果は、患者年齢、腫瘍の大きさ、組織学的悪性度およびリスクグループとの間で有意な相関関係が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍におけるジペプチジルペプチダーゼIVの発現を示す顕微鏡写真である。
【図2】図2は、ジペプチジルペプチダーゼIVの発現と胃を原発巣とする消化管間質腫瘍の患者の生命予後との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃を原発巣とする消化管間質腫瘍が悪性であるか否かを判定する方法であって、
(a)患者から得られた、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍において、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子が発現しているか否かを決定する工程、および
(b)工程(a)においてジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子が発現していた場合に、その腫瘍が悪性であると判定する工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記工程(a)が、前記腫瘍内のジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質を検出することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質が、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質の検出が、特異的抗体を用いる免疫組織化学染色によって行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(a)が、前記腫瘍内のジペプチジルペプチダーゼIVのmRNAを検出することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ジペプチジルペプチダーゼIVのmRNAが、配列番号1で表されるヌクレオチド配列(ただし、配列中のtはuに変換されている)を含むものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記腫瘍が、患者からの手術サンプルまたは生検サンプルである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
胃を原発巣とする消化管間質腫瘍が悪性であるか否かを判定するためのキットであって、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の発現を検出することのできる試薬を含んでなる、キット。
【請求項9】
前記試薬が、前記腫瘍内のジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質を検出するための試薬である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質を検出するための試薬が、ジルペプチダーゼIVタンパク質に特異的に結合する抗体である、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記試薬が、前記腫瘍内のジペプチジルペプチダーゼIVのmRNAを検出するための試薬である、請求項8に記載のキット。
【請求項12】
ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤および医薬上許容される担体を含んでなる、胃を原発巣とする消化管間質腫瘍を治療するための医薬組成物。
【請求項13】
前記腫瘍が悪性の腫瘍である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
腫瘍の治療が、該腫瘍の悪性化、再発または転移の予防を含んでなる、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤が小分子である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項16】
ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤が、ジペプチジルペプチダーゼIVタンパク質に特異的に結合する抗体である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項17】
ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤が、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の発現を特異的に抑制するアンチセンス核酸分子である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項18】
ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤が、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の発現を特異的に抑制するsiRNA核酸分子である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項19】
ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤が、ジペプチジルペプチダーゼIV遺伝子の発現を特異的に抑制するsiRNA核酸分子を発現するベクターである、請求項12に記載の医薬組成物。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−11249(P2009−11249A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177522(P2007−177522)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】