説明

能動適応ジャイロスタビライザー制御システム

歳差情報だけに基づいて海洋船舶の運動を安定化するためのジャイロスタビライザー制御システム及び方法。制御システムは自動利得制御(AGC)歳差コントローラ(60)を用いる。システムはジャイロフライホイール(12)に可能な限り大きな歳差−歳差が大きくなるほど、ロール安定化モーメントが大きくなる−を発現させるように、常に漸進的に最小化される利得因子を用いて動作する。この連続利得変化により、海況及び航行状態の変化への適応が与えられる。システムは最大歳差に到達する確度を有効に予測する。このイベントが検出されると、制動歳差トルクを与えるため、利得が急速に高められる。イベントが過ぎてしまうと、システムは再び利得を漸進的に低下させようとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール運動を生じさせる波浪及び環境的起振力によって誘起される海洋船舶の運動を安定化するためのジャイロスタビライザー制御システム及び方法に関し、さらに詳しくは、ただし排他的ではなく、能動適応ジャイロスタビライザー制御システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジャイロスタビライザーがロール運動(ローリング)を減衰させるために海洋船舶に用いられる場合、船舶のローリングがフライホイールの歳差を誘起し、この歳差が続いてローリングに対向するトルクを生じさせる。これは、誘起フライホイール歳差が(歳差が90°をこえなければ)常にローリングを減衰させるに適するフェーズにあることを意味する。回転のローリングレート(ロールレート)が、機械的構成によって生じる歳差への抗力に依存する、あるレベルをこえると、誘起歳差トルクは90°より大きい歳差(過歳差)をフライホイールに生じさせるであろう。これは、フライホイールによって生じる抗ローリングトルクを、抗ローリングトルクが瞬間的にゼロになるから、不安定にする。ピーク入力イベント中の過歳差の誘起を防止するに十分に歳差への抗力が大きければ、より普通のイベント中の安定化効果が極めて大きく制限されることになろう。したがって、歳差への抗力を変化させる、すなわちジャイロスコープのフライホイール歳差運動を能動的に制御するための、ジャイロスタビライザー制御システムを提供することが望ましい。
【0003】
レバーによって作動される手動歳差軸ブレーキから、一般には検出された船舶ロール運動及びジャイロスコープ歳差運動にしたがう歳差角の能動制御まで、多くの既知のジャイロスタビライザー制御システムがある。初め1904年にシュリック(Schlick)により提案され、1907年にホワイト(White)により設計された、手動歳差軸ブレーキには狭い設計条件範囲外の波浪環境における過歳差を防ぐために人手の介入が必要であった。
【0004】
次いで米国のスペリー(Sperry)社が、スイッチ及び主ジャイロスコープの歳差を制御するための小ジャイロスコープによって制御される電気モーターを用いることでシュリックジャイロスコープの問題点に対処するシステムを開発した。このシステムでは、歳差レートが船舶のロールレートに比例していた。これらの従来技術のシステムの性能はある程度の波浪環境においては顕著であったが(95%までのローリング低減)、そのような歳差制御システムは変動する波浪条件に適応できず、よって性能は極端に単純化された歳差トルク制御に限定されていた。船舶がフィンによる流体力学的揚力の発生を可能にする速度にあるときに十分に作用する、一層軽量で安価なフィンスタビライザーの発明により、ジャイロスタビライザーへの関心は弱まった。
【0005】
流体力学ベースシステムの効果がほとんどまたは全く無い、船舶の前進速度がゼロであるかまたは小さい場合に、ジャイロスタビライザーは特に有益である。巡視船、遊興用モーターヨット、洋上浮体生産システム及び洋上作業船を含むがこれらには限定されない、いくつかの用途は全て、低速または速度ゼロにおいて重要な作業任務を有する。これらの用途が波浪誘起船舶ローリングを制御するためのジャイロスタビライザーへの関心を復活させ、再帰させている。
【0006】
この結果、広い動作条件範囲にわたって改善された船舶運動減衰性能を提供する、ジャイロスタビライザーのための一層複雑な制御システムが提案されている。例えば、特許文献1において、ルーベンスタイン(Rubenstein)及びエイカーズ(Akers)は、船舶及びジャイロスタビライザーのいずれもがフィードフォワード成分を生成するための、姿勢センサ及び角速度センサを用いる制御方式を開示している。フィードフォワード成分は、フィードバック成分、(出航、係留または様々な速度における航行中のような現時点のイベントを示す)モード入力及び(ジャイロスタビライザー及び/またはその他の船舶安定化装置に適用される場合の)意図的制御の効果の予測とともに用いられて、ジャイロ及びその他の制御手段に対するリソース割当ベクトルを生成する。
【0007】
ジャイロスタビライザーフライホイールの歳差を能動的に制御することにより、広い範囲の動作条件にわたる安全で効率的な性能を達成することができる。歳差の能動制御にはプロセス制御変数として用いるためのセンサフィードバックが必要である。センサ誤差、システムパワーの喪失またはその他の故障によりプロセス制御変数を制御システムに利用できなくなると、能動制御システムは動作を停止するであろう。能動駆動ジャイロスタビライザーについては、この結果、ジャイロスタビライザーの安定化効果が即時に失われ、船舶の安全及び/または快適な動作が危うくなるであろう。
【0008】
海況及び船の運動の変化により良く応答し得る一層複雑なジャイロスタビライザー制御アルゴリズムを可能にするために、備えるセンサの数を増やすと、1つ以上のセンサ故障の危険が高まる。
【0009】
本発明は、広い範囲の動作条件にわたって船舶ローリングの低減を与えるために、様々な、また変化する、海況及び船舶の運動に応答でき、プロセス制御変数を得るために必要なセンサの数を最小限に抑える、ジャイロスタビライザー制御システム及び方法を提供する目的で開発された。
【0010】
本明細書における従来技術の参照は説明の目的のためだけに与えられ、そのような従来技術がオーストラリアまたは他の地域において共通の一般知識の一部であることを認めているととられるべきではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2009/009074号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様にしたがえば、ロール運動を生じさせる起振力によって誘起される海洋船舶運動を安定化させるためのジャイロスタビライザー制御システムが提供され、本制御システムは、
ジャイロスタビライザーのフライホイールの歳差を検出するための第1の検出手段、
検出された歳差に基づいて、あらかじめ定められた限界を歳差がこえるであろうと推定されるまでの、ジャイロスタビライザーフライホイールの歳差の範囲の最大化を目的とする制御信号の発生のための制御手段、及び
ジャイロスタビライザーフライホイールに歳差制御トルクを印加するために制御信号に応答するアクチュエータ、
−これにより、使用時に、ジャイロスタビライザーフライホイールの歳差だけに基づいて船舶運動の適応制御を達成することができる、
を備える。
【0013】
アクチュエータはジャイロスタビライザーフライホイールに歳差制御制動トルクだけを印加することが、これによりシステムを動作させるためにアクチュエータに供給されるべき外部推進力の必要がなくなり、これはかなりの利点であるから、好ましい。したがって、歳差制御トルクは、アクチュエータが歳差軸を回る推進力をフライホイールに与えないような、抵抗性制御トルクとすることができる。あるいは、ジャイロスタビライザーフライホイールに歳差制御トルクを印加するために制御信号に応答するアクチュエータは、フライホイールの誘起歳差運動に抵抗するためだけに作用する歳差軸制動信号を供給することができる。あるいはまたはさらに、コントロール信号はフライホイール歳差軸抵抗利得とすることができ、この利得はフライホイールによる、可能な限り大きいが、あらかじめ定められた最大歳差角範囲はこえない、誘起歳差の発現を可能にするために漸進的に減じられる。あるいは歳差制御駆動トルクを印加することができる。
【0014】
一般に、制御手段には自動利得コントローラ(AGC)が用いられる。AGCは歳差レート制限コントローラ及び/または歳差角制限コントローラと直列に(または並列に)はたらくことができる。AGCは、あらかじめ定められた歳差角範囲内で可能な限り大きな歳差をジャイロスタビライザーフライホイールに発現させるように(連続的にまたは漸進的に)低下させられる歳差制動利得因子を有することが好ましい。
【0015】
(歳差角及び/またはその微分に基づいて)得られるプロセス制御変数があらかじめ定められた限界をこえるであろうと推定される場合、AGCは、定められた歳差角限界がこえられることを防止する目的でジャイロスタビライザーフライホイールに高められた歳差制御制動トルクを与えるように、設定量でまたは推定されるオーバーシュートに比例する量で、利得を増分態様で高める。制御システムは、得られたプロセス制御変数の推定される将来状態に基づくAGC利得の変化を可能にするために、得られたプロセス制御変数の予測モデルを実行することができる。
【0016】
歳差角制限制御機能が、歳差角があらかじめ定められた限界をこえることを防止するため、AGCと直列または並列にはたらくことができる。あるいはまたはさらに、歳差レート制限制御機能が、歳差レートがあらかじめ定められた限界をこえることを防止するため、AGCと直列または並列にはたらくことができる。
【0017】
AGCが利得を高めた後、AGCは、ジャイロスタビライザーフライホイールによる可能な限り大きな歳差範囲の再度の発現を可能にするように、利得を再び漸進的に低下させることが好ましい。
【0018】
第1の検出手段は歳差角を検出することができる。制御手段は別のプロセス制御変数として歳差レート及び/または歳差加速度を推定することができる。あるいはまたはさらに、制御システムは別のプロセス制御変数として歳差レートを検出する手段をさらに備えることができる。歳差レートを検出するための手段が備えられていれば、制御システムは、第1の検出手段が故障した場合に歳差角を推定するために、検出された歳差レートを用いることができ、歳差角の推定値は検出される歳差角の代わりに置き換えられる。
【0019】
本発明の第2の態様にしたがえば、ロール運動を生じさせる起振力によって誘起される海洋船舶運動を安定化させるためのジャイロスタビライザー制御方法が提供され、本方法は、
ジャイロスタビライザーのフライホイールの歳差を検出するステップ、
検出された歳差に基づいて、あらかじめ定められた限界を歳差がこえるであろうと推定されるまでの、ジャイロスタビライザーフライホイールの歳差の増大を目的とする制御信号を発生するステップ、及び
制御信号に応答してジャイロスタビライザーフライホイールに歳差制御トルクを印加するステップ、
−これにより、使用時に、ジャイロスタビライザーフライホイールの歳差だけに基づいて船舶運動の能動適応制御を達成することができる、
を含む。
【0020】
歳差制御トルクを印加するステップは、歳差軸制動トルクを与えるステップを含むことができる。この場合、歳差軸を回る推進力は与えられない。
【0021】
制御信号を発生するステップは、フライホイールによるあらかじめ定められた歳差角範囲内で可能な限り大きな誘起歳差の発現を可能にするために漸進的に減じられる因子によって動作する、自動利得制御(AGC)を用いることができる。
【0022】
AGCは、(歳差角及び/または歳差レート)の関数とすることができる導プロセス変数があらかじめ定められた限界をこえると、プロセス変数が再び限界をこえるまで利得を低下させ続ける、(制動)利得因子を高めるステップを含むことができる。本制御方法は、得られたプロセス変数の推定される将来状態に基づくAGC利得因子の変化を可能にするため、導プロセス変数の予測モデルを実行するステップを含むことができる。
【0023】
本制御方法は、歳差角があらかじめ定められた限界をこえることを防止するため、AGC利得因子を小さくするかまたは大きくするステップと直列に(または並列に、あるいはいずれかの相関関係で)、歳差角を制限するステップを含むことができる。さらにまたはあるいは、本制御方法は、歳差レートがあらかじめ定められた限界をこえることを防止するため、AGC利得因子を小さくするかまたは大きくするステップと直列に(または並列に、あるいはいずれか他の相関関係で)、歳差レートを制限するステップを含むことができる。例えば、歳差角または歳差レート(あるいは歳差角及び/または歳差レートの関数)があらかじめ定められた限界をこえると、歳差角及び/または歳差レートがあらかじめ定められた限界をこえることを防止するため、AGC利得因子に高利得信号を(直列にまたは並列に、あるいはいずれか他の相関関係で)加えることができる。これはジャイロスタビライザー機構を、過歳差からまたは過大な力の発生から保護するためであり、それ自体では大きくランダムな発生に十分迅速に応答できないAGC制御の使用を可能にする。歳差角を制限する場合、歳差角があらかじめ定められた限界に近づきつつあるときにだけ高利得信号を加えて、高利得コマンド信号によって生じる強い制動が歳差角の好ましい範囲への復帰に抗することを防止することができる。
【0024】
本発明の第3の態様にしたがえば、ジャイロスタビライザーの歳差軸を制御するための流体回路が提供され、本流体回路は、
ジャイロスタビライザーの歳差軸の周りに連結され、ジャイロスタビライザーの歳差運動を偏向させる、少なくとも1つの液圧シリンダー、
制動圧力部、
流量制御部、及び
流体供給部、
を備え、
少なくとも1つの液圧シリンダーは、液圧シリンダーから流量制御部に一方向に流体が流れるように、流体回路の制動圧力部によって流体回路の流量制御部に連結され、流体回路の流量制御部は、流量制御部から液圧シリンダーに一方向に流体が流れるように、流体回路の流体供給部によって液圧シリンダーに連結される。
【0025】
これは、歳差軸の振動運動がシリンダーに単一方向流液圧ポンプとしてはたらかせる回路を提供するから有利である。
【0026】
流量制御部は制御弁のアレイを備えることができる。制御弁アレイは少なくとも2つの平行流路を有することができる。制御弁アレイ、または平行流路の内の少なくとも1つは、比例制御弁を有することができる。回路の流量制御部を通る流量は、ジャイロスタビライザー制御システムからの制御信号にしたがって変わることができる。
【0027】
比例制御弁は電気的に(すなわち制御利得信号に応答して)制御することができる。比例制御弁に直列に常時閉タイプの流量制御弁を備えることができる。正常動作中、フロー回路内の電気制御比例流量制御弁を含む、常時閉止弁は、信号を送って開いたままにしておくことができるが、電力が喪失するかシステムエラーが検知された場合には閉じる。
【0028】
制御弁アレイ、または平行流路の内の少なくとも1つは、デフォルト流量抑制レベルを定めることを可能にするため、固定されているかまたは手動調節が可能な流量制御弁を備えることができる。固定されているかまたは手動調節が可能な流量制御弁に直列に常時開タイプ流量制御弁を備えることができる。正常動作中、固定されているかまたは手動調節が可能な流量制御弁が回路から隔離されるように、常時開放弁に信号を送って閉じたままにしておくことができる。電力が喪失するかまたは制御エラーが検知された場合には、常時開放弁が開いて、固定されているかまたは手動調節が可能な流量制御弁が回路に組み込まれるであろう。
【0029】
平行流路の内の1つは、固定されているかまたは手動調節が可能な流量制御弁または電気的に制御される弁にかけて生じる圧力降下があらかじめ定められた安全レベルをこえた場合に、流体回路に対する過圧保護を与えるため、安全弁を備えることができる。この流体回路により、センサ故障が検出されるかまたは制御システムへの電力が喪失した場合の、固定されているかまたは手動調節が可能な抑制レベルへの故障許容フォールバックが可能になる。
【0030】
本明細書を通して、そうではないことを文脈が要求しない限り、語句「含む」または「(三単現の)含む」及び「含んでいる」のような変形は、言明された整数または整数群の包含を意味するが、他のいずれの整数または整数群の排除は意味しないことは当然であろう。同様に、語句「好ましい」または「好まれる」のような変形は、言明された整数または整数群が本発明のはたらきに望ましいが本質的ではないことを意味することは当然であろう。
【0031】
本発明の本質は、ジャイロスタビライザー制御システム及び方法の、以下の、例として与えられているだけの、いくつかの特定の実施形態の、添付図面を参照する、詳細な説明から一層良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1はジャイロスタビライザー制御システムの全般的なアーキテクチャを示す略図である。
【図2】図2は本発明にしたがうジャイロスタビライザーの好ましい実施形態の上面図である。
【図3】図3は図2のジャイロスタビライザーの背面上方からの斜視図である。
【図4】図4は、ジャイロスタビライザーのいくつかのコンポーネントが明解さのために分解組立図で示されていることを除き、図3と同様である。
【図5】図5の(a),(b)及び(c)はそれぞれ、3つの異なる歳差角、すなわち、+70°,0°及び−70°にあるジャイロスタビライザーを示す、図2のジャイロスタビライザーの前面上方からの斜視図である。
【図6】図6は図2のジャイロスタビライザーのための流体制御回路の簡略な回路図である。
【図7】図7は、歳差角測定値及びその微分計算値だけをプロセス制御変数として用いる能動適応制御に基づく、本発明にしたがうジャイロスタビライザーのための制御システムの好ましい実施形態を示す制御ブロック図である。
【図8】図8は図7の能動適応制御システムに対するシミュレーションシナリオ中の適応利得の変遷を示す。
【図9】図9は、歳差角だけまたは歳差レートだけを、あるいはいずれをも、モニタ及び制限する安全/状態モニタリングシステムを組み込んでいる、図7の制御システムを示す。
【図10】図10は、角度/レート制限コントローラ無しのAGCの実施から得られた、3つのおこり得るエラーイベントタイプを示す。
【図11】図11は、安全/状態モニタリングシステムが歳差角リミッタとして有効に作用する、図9の制御システムを示す。
【図12】図12は、安全/状態モニタリングシステムが歳差角リミッタとしてもまた歳差レートリミッタとしても有効に作用する、図9の制御システムを示す。
【図13】図13はAGC適応歳差コントローラの第1の例の簡略なブロック図表示である。
【図14】図14はAGC適応歳差コントローラの第2の例の簡略なブロック図表示である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書を通して、語句「船舶」は、ロール運動を生じさせる環境的に誘起された起振力による振動運動を受ける、洋上浮遊プラットフォーム、一般には、汽船、ヨット、はしけ、艦船または潜水艦を指す。語句「ロール運動」は、そのいずれかのまたは全ての微分も含む船舶のローリングを指すが、より広くは、減衰されることが望ましい船舶のいずれの振動も指す。図1は、プロセス制御変数として船舶運動及び歳差軸の測定値を利用する、ジャイロスタビライザー制御システムの代表的アーキテクチャを簡略な形態で示す。船舶2の運動がジャイロスタビライザー10のフライホイール12に伝達され、フラーホイール12の歳差作用が、波浪によって誘起されるモーメントに反作用するジャイロスコープ安定化モーメントを生じさせる。ジャイロスコープフライホイールはスピン及び歳差の2つの自由度を有する。スピン及び船体の場所による角運動量の保存によって、フライホイール12はフライホイールのスピン角運動量(慣性×角速度)と歳差レートの積に比例するジャイロスコープロールモーメントを生じさせる。スピン速度は一般に一定であるが、これも制御することができる。したがって、フラーホイールの歳差レートが大きくなるほど、船舶に生じるジャイロスコープ安定化モーメントは大きくなる。しかし、歳差は、最大機械的負荷及びその他の物理的拘束条件がこえられないことを保証し、実効安定化トルクは減じられるが他の平面における利用されないトルクが有意になる過歳差角を防止するため、制限されなければならない。歳差の制限はジャイロアクチュエータ22によって達成される。ジャイロアクチュエータ22は一般に、歳差軸を回るトルクを与える、液圧利用システム、機械システム、電気システムまたは組合せシステムである。
【0034】
ジャイロアクチュエータ22の作用はモニタリング/制御システム6によって調整される。船舶モニタセンサ4がロール角またはロールレートの測定値をモニタリング/制御システム6に供給する。ジャイロモーションセンサ8が歳差角測定値をモニタリング/制御システム6に供給する。モニタリング/制御システム6は測定値情報を処理し、ロールを最大限に抑制しながら歳差レートを制限するに適切な、ジャイロアクチュエータ22への制御コマンドを生成する。
【0035】
本発明にしたがうジャイロスタビライザー10の好ましい実施形態が図1〜4に示される。ジャイロスタビライザー10は、垂直スピン軸を有する、(密閉容器内に封入することができる)フライホイール12を備える。スピン軸はフライホイール12に上下に配置されたスピンベアリング14によって保持される。フライホイール12及びスピンベアリング14は適する構造のフライホイールケージ16内に取り付けられ、フライホイールケージ自体は単軸(歳差軸)回転自由度を与える一組のジンバルベアリング18上に取り付けられる。ジャイロスタビライザー10は、フライホイール回転軸がゼロ歳差角においては垂直であり、減衰されるべきロール運動を含む(船体を横切る)平面に歳差軸があるようにスピン軸が合わせられるように、あるいは、フライホイール回転軸がゼロ歳差角においては水平であり、歳差軸が減衰されるべきロール運動を含む(ロール運動がジャイロスタビライザーによって減衰させられているときに船体に垂直な)平面にあるように回転軸が合わせられるように、船体上に取り付けられる。いずれの配置も、本明細書に説明される方法によって制御することができる。フライホイール12の回転速度は電気モーターコントローラによって制御される。ジャイロスタビライザー10の回転体力学により、船舶のローリングがフライホイールケージ16の「歳差運動」を誘起する。誘起された歳差運動は船舶のローリングと同位相にある。ケージ16が歳差運動すると、回転しているフライホイール12によって、歳差軸及び回転軸を含む平面に垂直なトルクが発生する。このトルクは「ジャイロトルク」と称される。上述したように、ジャイロトルクはフライホイールの極性慣性モーメント、回転速度及び歳差レートの積に比例する。
【0036】
船舶のローリング周期によって定められる与えられた運動周期に対し、歳差範囲が大きくなると最大歳差レートが大きくなり、したがって最大ジャイロトルクが大きくなることは当然である。歳差回転がゼロ歳差角を通り過ぎると、ジャイロトルクは完全に船舶のロール運動と反対の方向に作用する。ジャイロトルクはロール運動を抑制するように作用するであろう。しかし、ケージ16がゼロ歳差角から離れる方向に歳差運動するにつれて、ジャイロトルクはロール運動の平面において、また直交平面(ローリング抑制のために構成された垂直軸フライホイールに対してはヨー面において、またローリング抑制のために構成された水辺軸フライホイールに対してはピッチ面)においても、作用する成分を有することになろう。歳差運動が制御されていないかまたは不十分にしかされていなければ、いくつかの状況において、ヨー軸に作用する成分はローリング抑制に寄与せず、船舶の方向制御に逆らう効果を有し、または望ましくないピッチングをおこさせることができる。
【0037】
いくつかの状況において、歳差振動の範囲は±90°をこえるであろう。歳差角が90°に達すると、歳差運動しているフライホイール12によって発生されるトルクは完全にヨー軸において作用し、したがって波浪及び船舶に作用している誘起ローリングトルクに対抗することはない。よって、ロール運動に対抗する方向での最大トルクの達成と、ジャイロトルクの有意な成分が船舶のローリングに対抗するように作用することを保証するための歳差角範囲の制限の間に妥協点があることが分かる。ジャイロスタビライザー10のための制御システムの肝要な任務の1つは、あらかじめ設定された限界内に歳差運動角度範囲を制限し、歳差レートがあらかじめ設定された値をこえないことを保証するために、歳差軸制御トルクを印加することである。
【0038】
フライホイール12の歳差を検出するための、ジャイロモーションセンサ8は、誘導型角位置センサ20の形態で備えられる。歳差シャフト端に磁気変換器が取り付けられ、センサ20はシャフト端に軸方向に取り付けられる。
【0039】
ジャイロアクチュエータ22は歳差軸を回るトルクをフライホイールケージ16に印加するために備えられる。本実施形態において、ジャイロアクチュエータ22は、歳差シャフトに取り付けられたコードラントとジャイロスタビライザー10のための基礎支持体の間に連結された一対の液圧シリンダー24を有する液圧システムである。2つの液圧シリンダー24には、ケージ16が歳差軸の周りを振動している間、一対のシリンダー24が、液流に圧力をかけて流体制御回路を巡らせる、流体ポンプとして作用するように、弁が設けられる。流量制御弁の絞りを制御することにより、弁にかけて流体をポンプで送るに必要な歳差軸へのトルク負荷が変わる。液体制御マニホールド26が液体流量を制御するために備えられ、2つの電気制御弁を有する。流量制御設定を変えることにより、歳差軸制動を変えることができる。
【0040】
図6はジャイロスタビライザーのための流体制御回路の簡略な回路図である。流体制御回路は、液圧シリンダー24がポンプ作用で流体に回路内を矢印で示される方向に巡らせるように、構成される。(電圧が印加されていない状態では)常時閉である、電気制御比例(またはサーボ)流量制御弁28がインラインで配置される。正常動作において、液圧油は、歳差への可変抗力を生じるために油流量を制限する、比例流量制御弁28にかけてポンプで送られる。ジャイロスタビライザー10の正常動作中、比例制御弁28はコントローラによって定められた量だけ開くように電圧が印加されるであろう。弁28への流量設定を変えることにより、流量が制限され、フライホイールの歳差が制動される。比例流量制御弁28は専用増幅器によって制御される。
【0041】
フェイルセーフ手段として、制御システムから電力が失われた場合(またはシステムがエラー状態にある場合)、比例制御弁28が閉じて弁28の流過を阻止する。同時に、電気作動方向性流量制御弁(開/閉)30が開いて、油の手動調節可能圧力補償比例流量制御弁32の流過を可能にする。方向性流量制御弁30は手動調節可能比例流量制御弁32と直列に連結され、いずれの弁も電気制御比例流量制御弁28と並列にインラインで連結される。方向制御弁30は(電圧が印加されていない状態で)常時開である。正常なジャイロスタビライザーの動作に対してこの弁を閉じたままにしておくためには、ソレノイドコイルに電圧を印加することが必要である。
【0042】
制御弁にかかる圧力降下が液圧システム設計圧力をこえないことを保証するため、手動設定圧力リリーフ弁34も電気制御比例流量制御弁28と並列にインラインで備えられる。この圧力リリーフ弁の設定点が、歳差軸に印加される歳差制御トルクの上限を実効的に定める。圧力フィルタ36が回路内の液圧流体から不純物を除去する。必要であれば、液圧流体熱交換器38及び液圧流体蓄圧器40を備えることができる。さらに、液圧システムの初期充填を、また必要に応じてシステム流体の補充または交換を可能にするため、必要に応じて、フィルタ内蔵手動液圧流体ポンプシステム42を液圧制御流体貯槽44に連結することができる。
【0043】
本実施形態において、歳差軸制動トルクの制御はミニPLC(または等価な)プロセッサモジュール内で実行される。電気IOはコントローラプロセッサモジュールに接続されたIOモジュールによって管理される。比例液圧流量制御弁は、ロール角及び/または歳差角をフィードバックとして用いることが好ましいハルシオン(Halcyon)歳差制御アルゴリズムを内蔵するIOモジュールによって駆動されることが好ましい。
【0044】
次に、本発明にしたがうジャイロスタビライザー制御システム及び方法の第1の実施形態を図1〜9を参照して説明する。いくつかの状況においては、船舶ロール情報を制御システムで利用することができない。図7は、ジャイロスタビライザー制御がジャイロ歳差情報だけをフィードバックとして用いて維持される能動適応制御システムの略図である。フライホイール歳差角及びその微分計算値だけを測定されたプロセス制御変数として利用することによって、制御システムは環境条件を表す情報を必要としない。これは、優れた運動減衰性能を維持しながら、故障点数を制限し、生産を簡易化し、生産コストを低減する。機械的構成によって生じる歳差への抗力に依存して、回転のローリングレート(ロールレート)があるレベルをこえたときに、誘起される歳差トルクが90°をこえる歳差運動(過歳差)をフライホイールにおこさせるであろう、これは、フライホイールによって生じる抗ロールトルクが瞬間的にゼロになるから、抗ロールトルクに不安定性をもたらす。本発明の好ましい制御システム及び方法は、適切な抗歳差軸トルクだけを印加することによってフライホイール歳差を制御する。これは、歳差軸回転を制御するアクチュエータへの推進力の供給の必要を無くすから、重要である。これにより、ジャイロスタビライザーに供給される所要電力が低減され、よってジャイロスタビライザーの効率が高められる。
【0045】
図7の制御システムは自動利得制御(AGC)歳差コントローラ60を用いる。AGCは、最大歳差レートの推定を可能にするため、固定周期(一般には何らかの保全性を与えるために因数分解された船舶のロール運動の自然周期)をもつ正弦運動を想定する。これは、AGCが中程度の利得の推定には適しているが、使用において運動が純粋な調和運動ではなく、実際上狭い周期帯内のランダム運動である場合のサイクル毎の推定にはそれほど適していないことを意味する。例えば、船舶が方位または速度を変えた場合、あるいは波高及び/または波の周期が変わった場合に、ロール運動が変わり、その結果ランダムな歳差運動がおこる。使用において存在するランダムな歳差運動に適応するかまたは反応するため、AGC歳差コントローラ60は歳差レートに比例する歳差トルク制御利得を生成する一方で、波浪ベースでこの利得を波浪に適応させるために歳差角及び/または歳差レートが用いられる。
【0046】
初期化時に、図7のシステムは、最大歳差角をこえることからジャイロスタビライザーを保護するために高レベルに設定された、あらかじめ設定された利得因子をもって始動する。しかし、使用において図7のシステムは、可能な限り大きな歳差をジャイロフライホイール12に発現させる−歳差が大きいほどロール安定化モーメントが大きくなる−ように、常時漸進的に最小化される(または徐々に減じられる)利得因子をもって動作する。この連続的利得変化は海況及び航行状態の変化への適応を提供する。システムは最大歳差角に到達する確度を有効に予測する。AGC歳差コントローラ60によってこのイベントが検出されると、利得は歳差制動トルクを与えるために急速に高められる。イベントが過ぎてしまうと、システムは再び利得を漸進的に減じようとする。この結果、図8に示される鋸歯状特性が得られる。おこり得る最大許容歳差角(一般に60°〜70°)の検出は、歳差レートをモニタし、これを閾値と比較することによってなされる。歳差レートは角度より進相するから、これはおこり得る歳差拘束条件背反のイベントに対する予測機構を達成する。閾値に達し、オーバーシュートがおこれば、どれだけ閾値をオーバーシュートしたかに比例して制御システムの利得が高められる。しかし、AGC歳差コントローラ60内の歳差レート閾値が、歳差角が最大許容歳差角をこえることを避けるため(例えば、図6のシリンダー24の行程端への到達からジャイロスタビライザー機構を保護するため)、保全的低レベルに設定されていれば、使用中の実歳差角は極めて限定され、ジャイロスタビライザーによって与えられる運動減衰の大きさを制限する。
【0047】
さらに、図7に示されるジャイロスタビライザー制御システムの実施形態において、AGCコントローラはイベント発生の確度を、歳差フィードバック情報を用いて予測するだけであることに注意すべきである。コントローラの性能は、ジャイロスタビライザー10による船舶2の挙動の修正を考慮しない。すなわち、システムのフィードバック構造の影響が考慮されない。これらの効果を無視すると、偽警報及び失検出の2つのタイプのエラーの確度が高まる。
【0048】
(a)可能であればより大きな運動減数を与えるため、AGCコントローラ60の歳差レート閾のさらに緩和された高いレベルへの設定を可能にする、及び
(b)偽警報及び/または失検出のようなエラーをモニタする、
ため、図9に示されるように安全/状態モニタリングシステム62が備えられる。安全/状態モニタリングシステムは、歳差角だけまたは歳差レートだけを、あるいはいずれも、モニタ及び制限することができる。
【0049】
図10は、偽警報及び失検出のエラーを含む、少なくともレート閾または角度閾をそれぞれがこえる、3つのタイプのイベントを示す。イベントタイプ1において、レート及び角度のいずれもがそれぞれの閾をオーバーシュートする。
【0050】
偽警報の場合のイベントタイプ2において。レートは閾をオーバーシュートするが角度はせず、よって安全/状態モニタリングシステム62が歳差レートだけをモニタしていれば、利得が無用に高められるであろう。これはロール抑制に関するシステムの性能を一時的に減じるであろう。しかし、ピークトルクを制限し、過負荷からジャイロスタビライザーを保護するため、歳差レートのモニタ及び制限はやはり望ましいことであり得る。
【0051】
しかし、イベントタイプ3において、(レートは閾をオーバーシュートしないが、角度がする)失検出エラーはジャイロフライホイールを歳差行程限界に至らせ得る。したがって、安全/状態モニタリングシステム62は、この状態を検出し、制御コマンド利得を高めて、ジャイロの歳差に制動を与えるため、図11に示されるように少なくとも歳差角をモニタすべきである。この構成により、安全/状態モニタリングシステムは実効的に歳差角リミッタ62として作用する。安全/状態モニタリングシステム62は図12に示されるように歳差角及び歳差レートのいずれもモニタし、したがって実効的に歳差角リミッタ62aとしても歳差レートリミッタ62bとしても作用することが好ましい。
【0052】
角度及びレートを制限する制御機能ブロックはこれらのエラーを捕捉し、AGC制御機能ブロックとともに,ロバスト適応コントローラを構成する。
【0053】
安全/状態モニタリングシステム62は、歳差角が高速で最大値(70°)に近づいていて、AGC歳差コントローラ60がアクチュエータコマンドを必要なレベルまで高めていない場合(失検出エラー時)にだけ、ジャイロアクチュエータ22に作用する。安全/状態モニタはAGCと一体化することができ、あるいは、安全/状態モニタは一般に、要求されたときに高利得信号を発生するであろうから、直列に、または図示されるように並列に(少なくとも実効的に)動作することができ、高利得信号は、AGCからのコマンド利得と(例えば和算ブロックにより)和算されたときに歳差制御トルクの増大を信号で指令する、高利得を生成する。
【0054】
センサ/フィルタ64は歳差角の測定値だけを与える。これらの測定値は、雑音を低減するため、及び必要に応じて信号の微分及び積分を推定するためにも、フィルタリングされる。ジャイロスタビライザーが歳差軸の制動(だけ)で制御される場合、本明細書に論じられる能動適応制御は、入力として歳差運動だけを用いて達成することができる。しかし、歳差軸が駆動されていれば、一般にロール角及び/またはロールレートのような船舶運動の特性を測定することが必要である。
【0055】
図13はAGC能動適応歳差コントローラ(図11及び図12のブロック60)の第1の例を簡略に表すブロック図である。歳差レートがレート閾より小さいときは、角度のオーバーシュートが負になるであろう。この場合、積分器は負フィードバックループに接続され、利得は指数的に減衰するであろう。しかし、歳差レートが閾をオーバーシュートすれば、レートがオーバーシュートしている間、積分器は正フィードバックループに接続される。これは、積分器の入力を計算するための因子としてオーバーシュートの大きさを用いることで達成される。正フィードバックにより、ジャイロの歳差を遅くし、歳差の歳差角限界への到達を防止する、制動利得(B)の非常に速い増大が保証される。理想的には、コントローラは、歳差角が限界に近づいている間の高(制動)利得のために正フィードバックを用いるだけであり、歳差角が限界から後退している間は(制動)利得の減少または低下に反転する。
【0056】
図14は、歳差レートの代わりに歳差角及び/または歳差レートの関数である導プロセス変数を用い、歳差レート閾の代わりにプロセス変数閾を用いる、AGC能動適応歳差コントローラ60の第2の例の同様のブロック図を示す。この場合、AGCは、導プロセス変数があらかじめ定められたプロセス変数閾をこえたときに利得因子を大きくする。必要に応じて、制御システムは、導プロセス変数の推定される将来状態に基づくAGC利得因子の変更を可能にするため、導プロセス変数の予測モデルを実行する。
【0057】
必要に応じて、歳差センサ故障対応のための機構を提供するため、ロール角に関する情報を図7の制御システムに供給することもできる。正常動作においては、センサ64によって与えられる歳差角及び推定歳差レートだけが用いられる。このセンサが故障すると、観測員は、歳差運動をモデル化し、推定するためにロール角及びロールレートに関する情報を用いることができ、推定値をAGC歳差コントローラ60において用いることができる。この場合、ロールセンサは歳差情報を再構成するためにだけ用いられ、予測のための数学モデルの構築には用いられない。しかし、好ましくは、単にセンサ冗長性により、すなわち複数の歳差センサを備えることにより、耐センサ故障能力を与えることができる。
【0058】
ジャイロスタビライザー制御システム及び方法の好ましい実施形態を詳細に説明したから、説明した実施形態が、
(i) 能動適応制御モジュールは歳差角信号だけに基づいて優れた歳差軸制御を提供し、船舶運動センサの必要を排除する。これにより、システムから故障点が除去され、システムが簡略化されて、コストが低減される;
(ii) 歳差角限界または歳差レート限界をこえさせずに船舶のローリングと同相で歳差角を最大化する制御方式により、不安定化ローリングと違相の不要トルクは導入されずに最大ジャイロトルクが発生されることが保証される。これにより、環境条件(波浪、風迎え角等)が変化したときに、また船舶の負荷条件及び速度が変化したときに、ジャイロスタビライザーが適応して、最大可能運動減衰トルクを与え、同時に、違相加速、90°に近づく位相角における不連続性及び制御システム不安定性のような、望ましくない効果は回避することが保証される;
(iii) 歳差角限界または歳差レート限界をこえさせずに船舶のローリングと同相で歳差角を最大化する制御方式は複雑な数値予測を用いずに達成され、広範な低コスト数値プロセッサに実装することができる、ロバストで高性能な解法を提供する;
を含む、従来技術に優る多くの利点を提供することは明らかであろう。
【0059】
本発明の基本的発明概念を逸脱せずに上述した実施形態に様々な改変及び改善が、既述に加えて、なされ得ることが当業者には容易に明らかであろう。
【符号の説明】
【0060】
2 船舶
4 船舶モニタセンサ
6 モニタリング/制御システム
8 ジャイロモーションセンサ
10 ジャイロスタビライザー
12 フライホイール
14 スピンベアリング
16 フライホイールケージ
18 ジンバルベアリング
20 誘導型角位置センサ
22 ジャイロアクチュエータ
24 液圧シリンダー
26 流体制御マニホールド
28 電気制御比例(またはサーボ)流量制御弁
30 電気作動方向性流量制御弁(開/閉)
32 手動調節可能圧力補償比例流量制御弁
34 手動設定圧力リリーフ弁
36 圧力フィルタ
38 液圧流体熱交換器
40 液圧流体蓄圧器
42 手動液圧流体ポンプシステム
44 液圧制御流体貯槽
60 自動利得制御(AGC)歳差コントローラ
62 安全/状態モニタリングシステム
62a 歳差角リミッタ
62b 歳差レートリミッタ
64 センサ/フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波浪の作用によって誘起される浮動船舶の運動を安定化させるためのジャイロスタビライザー制御システムにおいて、前記制御システムが、
ジャイロスタビライザーのフライホイールの歳差を検出するための第1の検出手段、
前記検出された歳差に基づいて、あらかじめ定められた限界を前記歳差がこえるであろうと推定されるまでの、前記ジャイロスタビライザーフライホイールの前記歳差の増大を目的とする制御信号を発生するための制御手段、及び
前記ジャイロスタビライザーフライホイールに歳差制御トルクを印加するために前記制御信号に応答し、これにより、使用時に、前記ジャイロスタビライザーフライホイールの前記歳差だけに基づいて前記船舶運動の適応制御を達成することができるアクチュエータ、
を備えることを特徴とするジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項2】
前記歳差制御トルクが、前記アクチュエータが前記フライホイールに歳差軸を回る推進力を与えないような、抵抗性制御トルクであることを特徴とする請求項1に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項3】
前記ジャイロスタビライザーフライホイールに歳差制御トルクを印加するために前記制御信号に応答する前記アクチュエータが、前記フライホイールの前記誘起歳差運動に抗するためだけに作用する、歳差軸制動制御信号を供給することを特徴とする請求項1に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項4】
前記制御信号がフライホイール歳差軸抵抗利得であり、前記フライホイールによる可能な限り大きな誘起歳差の発現を、前記誘起歳差にあらかじめ定められた最大歳差角範囲をこえさせずに可能にするように、前記利得が漸進的に減じられることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項5】
前記制御手段が自動利得コントローラを用いることを特徴とする請求項1に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項6】
あらかじめ定められた歳差角範囲内で可能な限り大きな歳差を前記ジャイロスタビライザーフライホイールに発現させるように徐々に低められる歳差制動利得因子を前記自動利得コントローラが有することを特徴とする請求項5に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項7】
(歳差角及び/またはその微分に基づく)導プロセス制御変数があらかじめ定められた限界をこえるであろうと推定されたときに、あらかじめ定められた歳差角限界がこえられることを防止する目的で、高められる制動歳差制御トルクを前記ジャイロスタビライザーフライホイール歳差軸に与えるため、設定された大きさで、または推定されるオーバーシュートに比例する大きさで、前記自動利得コントローラが前記歳差制動利得因子を増分態様で増大させることを特徴とする請求項6に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項8】
前記導プロセス変数の推定される将来状態に基づいて前記自動利得コントローラ歳差制動利得因子を変化させることを可能にするため、前記制御システムが前記導プロセス変数の予測モデルを実行することを特徴とする請求項7に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項9】
歳差角があらかじめ定められた限界をこえることを防止するため、歳差角制限制御機能が前記自動利得コントローラと直列または並列に作用することを特徴とする請求項6に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項10】
歳差レートがあらかじめ定められた限界をこえることを防止するため、歳差レート制限制御機能が前記自動利得コントローラと直列または並列に作用することを特徴とする請求項6に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項11】
前記第1の検出手段が歳差角を検出することを特徴とする請求項1に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項12】
前記制御手段が歳差レート及び/または歳差加速度を追加のプロセス制御変数として推定することを特徴とする請求項11に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項13】
前記制御システムが前記歳差レートを追加のプロセス制御変数として検出するための手段をさらに備えることを特徴とする請求項11に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項14】
前記制御システムが、前記歳差加速度を追加のプロセス制御変数として検出するための手段をさらに備えることを特徴とする請求項11に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項15】
前記第1の検出手段の故障の場合に、前記制御システムが前記歳差角を推定するために前記検出された歳差レートを用い、前記歳差角の前記推定値が前記検出される歳差角の代わりに置き換えられることを特徴とする請求項13に記載のジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項16】
波浪の作用によって誘起される浮動船舶の運動を安定化させるためのジャイロスタビライザー制御方法において、前記制御方法が、
ジャイロスタビライザーのフライホイールの歳差を検出するステップ、
前記検出された歳差に基づいて、あらかじめ定められた限界を前記歳差がこえるであろうと推定されるまでの、前記ジャイロスタビライザーフライホイールの前記歳差の増大を目的とする制御信号を発生するステップ、及び
前記ジャイロスタビライザーフライホイールに前記制御信号に応答する歳差制御トルクを印加し、これにより、使用時に、前記ジャイロスタビライザーフライホイールの前記歳差だけに基づいて前記船舶運動の能動適応制御を達成することができるステップ、
を含むことを特徴とするジャイロスタビライザー制御方法。
【請求項17】
歳差制御トルクを印加する前記ステップが、歳差軸制動トルクを与えるステップを含み、前記歳差軸を回る推進力を与えるステップは含まないことを特徴とする請求項16に記載のジャイロスタビライザー制御方法。
【請求項18】
制御信号を発生する前記ステップが、あらかじめ定められた範囲内で可能な限り大きな歳差を前記フライホイールに発現させるよう漸進的に低下される利得因子を用いて動作する自動利得制御を用いることを特徴とする請求項16に記載のジャイロスタビライザー制御方法。
【請求項19】
前記自動利得コントローラが、導プロセス変数があらかじめ定められた限界をこえると前記利得因子を増大させ、次いで前記プロセス変数が再び前記限界をこえるまで前記利得因子を徐々に低下させ続けるステップを含むことを特徴とする請求項18に記載のジャイロスタビライザー制御方法。
【請求項20】
前記導プロセス変数の推定される将来状態に基づいて前記自動利得コントローラ利得因子を変化させることを可能にするため、前記導プロセス変数の予測モデルを実行するステップをさらに含むことを特徴とする請求項19に記載のジャイロスタビライザー制御方法。
【請求項21】
歳差角を制限するステップを、前記歳差角があらかじめ定められた限界をこえることを防止するために前記自動利得コントローラ利得因子を低下させるかまたは増大させるステップと直列に含むことを特徴とする請求項18または19に記載のジャイロスタビライザー制御方法。
【請求項22】
歳差レートを制限するステップを、前記歳差レートがあらかじめ定められた限界をこえることを防止するために前記自動利得コントローラ利得因子を低下させるかまたは増大させるステップと直列に含むことを特徴とする請求項18または19に記載のジャイロスタビライザー制御方法。
【請求項23】
ジャイロスタビライザー制御システムにおいて、実質的に、添付図面の内のいずれか1つ以上を参照して本明細書に説明され、添付図面の内の前記いずれか1つ以上に示されているジャイロスタビライザー制御システムであることを特徴とするジャイロスタビライザー制御システム。
【請求項24】
ジャイロスタビライザー制御方法において、実質的に、添付図面の内のいずれか1つ以上を参照して本明細書に説明され、添付図面の内の前記いずれか1つ以上に示されているジャイロスタビライザー制御方法であることを特徴とするジャイロスタビライザー制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2013−519886(P2013−519886A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553150(P2012−553150)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際出願番号】PCT/AU2011/000168
【国際公開番号】WO2011/100796
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(512215060)ヴィーム リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】VEEM LTD
【Fターム(参考)】