説明

脂環式ジエポキシ化合物、脂環式ジエポキシ化合物の製造方法、硬化用組成物および硬化物

【課題】天然物由来の原料を用いた、新規な脂環式ジエポキシ化合物、該化合物の製造方法および該化合物を含有する硬化用組成物、該組成物を硬化させた硬化物の提供。
【解決手段】天然物β−ミルセンとオレフィン化合物とをディールス・アルダー反応させ、次いで酸化剤(特に、メタクロロ過安息香酸および/または過酸化水素水)の存在下でエポキシ化して得られる下記一般式(1)で表される脂環式ジエポキシ化合物。


(式(1)中、XとXはそれぞれ、−COOR(Rは炭素数1〜20の炭化水素基を表す)またはHを表すが、XとXが同時にHである場合を除く。)さらに、該化合物を含有する硬化用組成物および該硬化用組成物を硬化させてなる硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な脂環式ジエポキシ化合物、その製造方法、当該脂環式ジエポキシ化合物を含む硬化用組成物、および当該硬化用組成物を硬化させてなる硬化物、に関する。詳細には、天然原料(ミルセン)を用いた新規脂環式ジエポキシ化合物、その製造方法、当該脂環式ジエポキシ化合物を含有する硬化用組成物、および当該硬化用組成物を硬化させてなる硬化物、に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環式ジエポキシ化合物は、各種工業材料(コーティング剤や接着剤、インキ、シーラント等)の原料として汎用されており、例えば特許文献1には、特定の脂環構造を有するジエポキシ化合物が開示されている。しかし、従来の脂環式ジエポキシ化合物は、脂環構造がシクロペンタジエンやインデン等の石油系原料に由来するものであり、原油価格の変動に伴う製品コストの高騰や、環境負荷、資源枯渇といった問題があった。
【特許文献1】特開2004−182648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、天然物由来の原料を用いた、新規な脂環式ジエポキシ化合物を提供することを主な課題とする。また、当該脂環式ジエポキシ化合物の製造方法、当該脂環式ジエポキシ化合物を含有する硬化用組成物、および当該硬化用組成物を硬化させてなる硬化物を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、天然原料由来の脂環式ジエポキシ化合物について鋭意検討を重ねた結果、
モノテルペン化合物の1種であるβ−ミルセンに由来した脂環骨格を有する脂環式ジエポキシ化合物が新規であり、かつ工業的に製造可能なことを見いだし、本発明を完成するに到った。即ち本発明は、
【0005】
1.
下記一般式(1)で表される脂環式ジエポキシ化合物;
【0006】
【化1】

【0007】
(式(1)中、XとXはそれぞれ、−COOR(Rは炭素数1〜20の炭化水素基を表す)またはHを表す(但し、XとXが同時にHである場合を除く。)。)
【0008】
2.下記一般式(1−1)
【0009】
【化2】

【0010】
で表されるβ−ミルセンに、下記一般式(1−2)
【化3】

【0011】
(式(1−2)中、XとXは、−COOR(Rは炭素数1〜20の炭化水素基を表す)またはHを表す(但し、XとXが同時にHである場合を除く。)。)で表されるオレフィン化合物をディールス・アルダー反応させて、下記一般式(1−3)
【0012】
【化4】

【0013】
(式(1−3)中、XとXは前記同様である。)で表される脂環式化合物を製造し、次いで当該脂環式化合物を酸化剤の存在下でエポキシ化することを特徴とする、下記一般式(1)
【0014】
【化5】

【0015】
(式(1)中、XとXは前記同様である。)で表される脂環式ジエポキシ化合物の製造方法;
【0016】
3.前記酸化剤がメタクロロ過安息香酸および/または過酸化水素水である、前記2.に記載の製造方法;
【0017】
4.前記1.に記載の脂環式ジエポキシ化合物を含有する硬化用組成物;
【0018】
5.前記4.に記載の硬化用組成物を硬化させてなる硬化物;に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の脂環式ジエポキシ化合物は、天然物由来の原料(ミルセン)を主原料とするので、従来の石油系原料を用いた脂環式ジエポキシ化合物と比べて、環境負荷等が小さい。
【0020】
また、本発明の脂環式ジエポキシ化合物は、分子内にエポキシ基を2個有することから、各種硬化触媒の存在下でそれ自身を硬化反応させたり、または各種の酸無水物化合物と硬化反応させたり、あるいは3次元架橋反応に供したりすることができる。
【0021】
また、本発明の脂環式ジエポキシ化合物は、アルキルエステル基を少なくとも1つ有するため、例えば、当該アルキル基の鎖長を大きくすることで、柔軟性のある硬化物が得られる等の効果が期待される。
【0022】
また、本発明の脂環式ジエポキシ化合物や、当該化合物を含有する硬化用組成物は、各種の用途に用いることができる。具体的には、各種工業材料〔塗料用バインダー、印刷インキ用バインダー、接着剤、粘着剤、歯科材料、製紙用薬品等の他、各種成形品〕、各種光学材料〔LED封止剤、光ディスク記録媒体用オーバーコート剤、ハードコート剤、溝材、レンズ等〕、各種電子材料〔層間絶縁膜、レジスト、ダイボンド剤、ダイオード・水晶振動子等の接着剤、ダイオード等の素子、モールド部材、ダイボンドフィルム、ソルダーレジスト等〕、各種医薬品および各種医療用品、各種香料等の用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る脂環式ジエポキシ化合物は、下記一般式(1)で表される。
【0024】
【化6】

【0025】
(式(1)中、XとXはそれぞれ、−COOR(Rは炭素数1〜20の炭化水素基を表す)またはHを表す(但し、XとXが同時にHである場合を除く。)。)
【0026】
なお、前記官能基−COORは所謂アルキルエステル基を意味する。また、当該Rの構造は特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。また、当該Rには、アルキル基や、シクロアルキル基、芳香族基から選ばれる少なくとも1種の基がペンダント状に結合していてもよい。
【0027】
当該脂環式ジエポキシ化合物は、より具体的には、下記一般式(1a)〜(1c)で表される。なお、各式中のRは、前記一般式(1)中のXまたはXにおけるRと、同様である。
【0028】
【化7】

(なお、式(1a)において、各Rは同一または異なっていてもよい)
【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

【0031】
該脂環式ジエポキシ化合物の製造方法は特に限定されないが、具体的には、下記一般式(1−1)
【0032】
【化10】

【0033】
で表されるβ−ミルセンに、下記一般式(1−2)
【化11】

【0034】
(式(1−2)中、XとXは、−COOR(Rは炭素数1〜20の炭化水素基を表す)またはHを表す(但し、XとXが同時にHである場合を除く。)。)で表されるオレフィン化合物をディールス・アルダー反応させて、下記一般式(1−3)
【0035】
【化12】

【0036】
(式(1−3)中、XとXは前記同様である。)で表される脂環式化合物を製造し、次いで当該脂環式化合物を酸化剤の存在下でエポキシ化することにより、容易に得ることができる。
【0037】
前記一般式(1−1)で表されるβ−ミルセンは、植物の精油成分から抽出される天然化合物であり、本発明では、高純度の市販品(通常70%以上)をそのまま利用することができる。なお、当該β−ミルセンには、他の環式または非環式のモノテルペン化合物(例えばβ−フェランドレン、β-テルピネン、γ-テルピネン、α−ピネン、o−シメン等)等が不純物として混在していてもよい。
【0038】
前記一般式(1−2)で表されるオレフィン化合物は、XとXがそれぞれ−COOR(Rは炭素数1〜20の炭化水素基を表す)で表される官能基またはHを表す(但し、XとXが同時にHである場合を除く。)。)ものであれば、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。なお、当該Rの構造は特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。また、当該Rには、アルキル基や、シクロアルキル基、芳香族基から選ばれる少なくとも1種の基がペンダント状に結合していてもよい。
【0039】
当該一般式(1−2)で表されるオレフィン化合物としては、具体的には、例えば、α,β−不飽和カルボン酸類(マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸等)と各種公知のモノアルコール類とのエステル化合物が挙げられる。なお、エステル化反応は特に限定されず、各種公知の方法を利用することができる。また、当該エステル化合物は市販品として入手することができる。
【0040】
該モノアルコール類としては、直鎖状モノアルコール類〔メタノール、エタノール、ブタノール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、エイコシルアルコール等〕、分岐状モノアルコール類〔イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール,イソステアリルアルコール等〕、脂環式モノアルコール類〔シクロペンタノール、シクロヘキサノール等〕、芳香族モノアルコール類〔ベンジルアルコール、シンナミルアルコール等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
前記ディールス・アルダー反応は特に限定されず、各種公知の方法を利用できる。具体的には、例えば、前記一般式(1−1)のβ−ミルセン1モルに、これに対し通常0.8〜1.2モル程度となる前記一般式(1−2)のオレフィン化合物を、通常、室温〜200℃程度の温度で、0.5〜12時間程度反応させる方法が挙げられる。なお、当該ディールス・アルダー反応で得られる前記一般式(1−3)の脂環式化合物(中間体)の着色を考慮して、反応容器は密閉構造とするのが好ましく、更には窒素等の不活性ガスでパージするのが好ましい。
【0042】
また、当該ディールス・アルダー反応の際には、必要に応じて各種公知の溶媒を特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、芳香族系溶剤〔ベンゼン、トルエン、キシレン等〕、脂肪族系溶剤〔n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ペンタン、ヘキサン等〕、脂環族系溶剤〔シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタン等〕、エステル系溶剤〔酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル等〕、ハロアルカン系溶剤〔ジクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、トリフルオロエタン等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
なお、前記一般式(1−3)で表される脂環式化合物は、各種精製手段〔減圧蒸留、水蒸気蒸留、溶媒抽出、再結晶、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等〕で精製することもできる。
【0044】
次いで、前記一般式(1―3)で表される脂環式化合物を、酸化剤の存在下でエポキシ化することにより、目的とする前記一般式(1)で表される脂環式ジエポキシ化合物を得ることができる。
【0045】
当該エポキシ化は特に限定されず、各種公知のオレフィン酸化反応により行うことができる。具体的には、例えば、前記一般式(1−3)で表される脂環式化合物を、各種公知の酸化剤の存在下で、通常、0〜20℃程度の温度で1〜5時間程度、反応させればよい。
【0046】
該酸化剤としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、有機過カルボン酸類〔過酢酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過イソ酪酸、メタクロロ過安息香酸、トリフルオロ過酢酸、ターシャリーブチルヒドロパーオキサイド等〕や、過酸化水素、ジメチルジオキソラン、分子状酸素などが挙げられ、これらは1種を単独で、または必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、安全性および安定性の観点より、メタクロロ過安息香酸および/または過酸化水素が特に好ましい。なお、該酸化剤の使用量は特に限定されないが、通常は、前記一般式(1−3)で表される脂環式化合物に対して、1.8〜2.4モル当量程度の範囲とすればよい。
【0047】
また、該オレフィン酸化反応の際には、必要に応じて各種酸化触媒を用いることができる。具体的には、例えば、ゼオライト系触媒、ポリオキソメタレート系触媒、金属酸化物系触媒、担体担持金属酸化物系触媒などが挙げられ、これらは1種を単独で、または必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、該酸化触媒の使用量は特に限定されないが、通常は、前記一般式(1−3)で表される脂環式化合物に対して、0.01〜0.1モル%程度の範囲とすればよい。
【0048】
また、該オレフィン酸化反応の際には、必要に応じて各種溶媒を用いることができる。具体的には、例えば、前記一般式(1−3)の脂環式化合物の製造に用いたものと同一のものが挙げられるが、特に、オレフィン酸化反応を阻害しないようなもの(例えば、ジクロロメタン)が好ましい。なお、該溶媒の使用量は特に限定されないが、通常は、反応系の固形分濃度が通常1〜100重量%程度となる範囲とすればよい。特に、反応系の溶媒量の比率を上げた場合には、オレフィン酸化反応の際に発生する有機酸量の比率が下がることにより、該有機酸によるエポキシ基の開環反応を抑制しやすくなるため、好ましい。
【0049】
なお、オレフィン酸化反応が終了した後は、反応系から前記酸化剤や酸化触媒を除去するために、ろ過(自然ろ過法、吸引ろ過法等)や洗浄(アルカリ洗浄等)を行うことができる。該ろ過は、用いる酸化剤の種類によっては省略してもよい。また、該洗浄としては、例えば、反応系に残存する未反応の酸化剤(過酸)を、各種公知の手段で還元してカルボン酸とした後、更にアルカリ水溶液(チオ硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属塩水溶液)で該カルボン酸を中和した後に、水洗する方法が挙げられる。
【0050】
また、一般式(1)で表される脂環式エポキシ化合物の純度を高める目的で、前記した各種精製手段を適用することもできる。特に、当該脂環式エポキシ化合物の沸点が高いことを考慮すると、減圧蒸留が好ましい。
【0051】
また、当該脂環式エポキシ化合物の純度を更に高めたい場合には、例えば、精留塔を用いた精密蒸留法や、分子蒸留法を採用することもできる。蒸留が困難な場合などは、再結晶法やカラムクロマトグラフィー法を採用するのが好ましい。
【0052】
本発明に係る硬化用組成物は、前記一般式(1)で表される脂環式ジエポキシ化合物を含有するものであり、他に酸無水物系硬化剤や硬化触媒を含有することができる。また、必要に応じて、他の(ポリ)エポキシ化合物を含有することもできる。なお、当該硬化用組成物における、前記一般式(1)で表される脂環式ジエポキシ化合物の含有量は特に限定されないが、一般的には、1〜50重量%程度の範囲とすればよい。
【0053】
前記酸無水物系硬化剤としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水フタル酸、無水アルケニル琥珀酸、無水マレイン酸、無水琥珀酸、無水グルタル酸または無水フマル酸などが挙げられ、これらは1種を単独で、または必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、当該硬化用組成物における、該酸無水物系硬化剤の含有量は特に限定されないが、一般的には、当該硬化用組成物のエポキシ基1当量に対し0.9〜1.5モル当量程度となる範囲とすればよい。
【0054】
また、前記硬化促進剤としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、3級アミン類〔2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザ−ビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7、ベンジルジメチルアミン等〕、イミダゾール類〔2−メチルイミダゾール、2−メチル−4−エチルイミダゾール等〕、有機ホスフィン類〔トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等〕、テトラフェニルボレート類〔テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、当該硬化用組成物における、該硬化促進剤の含有量は特に限定されないが、一般的には、当該硬化用組成物のエポキシ基1当量に対し0.01〜0.05モル当量程度となる範囲とすればよい。
【0055】
前記した(ポリ)エポキシ化合物としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、モノエポキシ化合物〔フェニルグリシジルエーテル、グリシジルエーテル、シクロアルケンオキシド、シクロヘキセンオキシド等〕、ジエポキシ化合物〔エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジグリシジルエーテル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニルジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−(β−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパンジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、p−オキシ安息香酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等〕、トリエポキシ化合物〔トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートトリグリシジルエーテル等〕、テトラエポキシ化合物〔1,1,2,2−テトラ(4−ヒドロキシフェニル)エタンテトラグリシジルエーテル等〕、その他ポリエポキシ化合物〔ソルビトールポリグリシジルエーテル、フェノールノボラック型樹脂のポリグリシジルエーテル〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、当該硬化用組成物における、該(ポリ)エポキシ化合物の含有量は特に限定されないが、一般的には、本発明に係る脂環式ジエポキシ化合物に対して、10〜90モル%程度の範囲とすればよい。
【0056】
その他、本発明に係る硬化用組成物には、各種公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、溶剤、充填剤、その他添加剤等を任意に含有させることができる。該酸化防止剤としては、例えばフェノール系、硫黄系、リン系酸化防止剤が挙げられる(特開2004−339319号等参照)。また、該紫外線吸収剤としては、例えばサリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系のものが挙げられる(特開2004−339319号等参照)。また、該溶剤としては、前記溶媒が挙げられる。また、該充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、酸化チタンなどが挙げられる。その他の添加剤としては、例えば、顔料、消泡剤、分散剤、耐擦傷性付与剤(シリコーン樹脂、フッ素樹脂類等)などが挙げられる。なお、当該硬化組成物における、これらの任意成分の使用量は、目的に応じて適宜設定することができる。
【0057】
本発明に係る硬化物は、前記硬化用組成物を硬化させたものである。硬化条件は目的とする硬化組成物の形状に応じて適宜設定すればよいが、通常は100〜200℃程度、通常5〜24時間程度である。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら限定されるものではない。なお、スペクトル測定には次の装置を使用した。
H−NMR、13C−NMR:VARIAN GEMINI−300(Varian社製)
IR:AVATAR―330(ThermoNicolet社製)
ガスクロマトグラフィー(GC):Agilent6890(Agilent社製)
【0059】
〔脂環式ジエポキシ化合物の製造〕
実施例1
温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器に、マレイン酸ジメチル(和光純薬工業(株)製)156.7gを仕込み、系内を窒素置換しながらオイルバスで加熱し、140℃まで昇温した。次いで、攪拌下にβ−ミルセン199.8g(和光純薬工業(株)製、純度74.3%)を、系内の温度を140℃程度に保ちながら、4時間かけて滴下した。滴下終了後、140℃で加熱しながら6時間攪拌した。その後、減圧蒸留(沸点;157〜158℃/2hPa)により精製を行い、268.9gの脂環式中間体を得た。このものの純度は96.8%、収率は85.3%であった。得られた脂環式中間体のH−NMR、13C−NMR分析によるシグナルは以下のとおりである。
【0060】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):1.57、1.60、1.68、2.00、2.42、2.53、3.01、3.72、5.18、5.38
13C−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):17.62、25.61、25.79、28.67、37.33、39.63、40.20、51.68、51.71、118.69、123.90、131.44、135.99、173.69
【0061】
温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器に、前記脂環式中間体を100g、溶媒としてジクロロメタン300mLを加え、攪拌しながら系内を窒素置換した。次に、メタクロロ過安息香酸(和光純薬工業(株)製、純度69.0%)204.2gをジクロロメタン1600mLに溶解し、系内温度が15℃以下を維持するよう氷水浴で冷却しながら、攪拌下に4時間かけて滴下した。滴下終了後、15℃以下で1時間攪拌し、GCにて原料の消失を確認した上で、攪拌を停止した。攪拌停止後、反応副生成物であるメタクロロ安息香酸をろ別し、ジクロロメタン層をチオ硫酸ナトリウム水溶液、および飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で順次洗浄した。洗浄後、有機層を硫酸マグネシウム上で充分に乾燥し、ジクロロメタンを減圧留去することで脂環式ジエポキシ化合物105.0gを製造した。このものの純度は89.2%、収率は85.7%であった。得られた脂環式ジエポキシ化合物のH−NMR、13C−NMR、IR分析によるシグナルおよび吸収は以下のとおりである。
【0062】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):1.27、1.67、2.73、3.01、3.69
13C−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):18.62、23.91、24.74、27.68、33.76、34.03、37.66、38.34、51.89、57.35、57.67、59.57、63.65、173.31
IR(neat、波数(cm−1)):474.07、676.01、734.56、794.39、861.61、903.02、1030.37、1198.82、1249.07、1285.00、1377.42、1435.31、1730.33、2953.03
【0063】
実施例2
〔硬化用組成物の調製〕
実施例1で得た脂環式ジエポキシ化合物と、市販の脂環式エポキシ化合物である3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製「セロキサイド2021P」)とを、モル比で2対8となるように混合した。
次いで、当該混合物に、当該混合物のエポキシ基1当量に対して1モル当量となる酸無水物系硬化剤(無水ヘキサヒドロメチルフタル酸(新日本理化(株)製「リカシッドMH−700」))を、また、0.05モル当量となる硬化促進剤(2−メチルイミダゾール(東京化成工業(株)製))を加え、十分に混合することにより、硬化用組成物を調製した。
【0064】
〔硬化物の作製〕
前記硬化用組成物をアルミカップに注入し、100℃のオーブン中で2時間加熱し、更に130℃で17時間加熱することにより、板状の硬化物を作製した。次いで、当該硬化物(厚さ1mm)を幅10mm、長さ40mmに裁断し、動的粘弾性測定に供した。なお、動的粘弾性測定装置としては、「DMS EXTRA6100」(セイコーインスツル(株)製)を用いた。また、測定条件は温度範囲−100℃〜270℃、昇温速度3℃/分とし、正弦波1Hzの引張測定とした。結果を図1に示す。
【0065】
参照例
脂環式エポキシ化合物として前記セロキサイド2021Pのみを用いた以外は実施例2と同様にして硬化組成物を作製し、動的粘弾性測定に供した。結果を図1に示す。
【0066】
図1で示す動的粘弾性の結果より、本発明に係る硬化組成物(実施例2)は、本発明の脂環式エポキシ化合物を用いない硬化組成物(参照例)と対比して、貯蔵弾性率が低下し、またガラス転移温度が低下していることがわかる。このことより、本発明の脂環式エポキシ化合物には、例えば、得られる硬化物に柔軟性を付与する機能があると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例2および参照例の各硬化物の、動的粘弾性のチャートを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される脂環式ジエポキシ化合物。
【化1】

(式(1)中、XとXはそれぞれ、−COOR(Rは炭素数1〜20の炭化水素基を表す)またはHを表す(但し、XとXが同時にHである場合を除く。)。)
【請求項2】
下記一般式(1−1)
【化2】

で表されるβ−ミルセンに、下記一般式(1−2)
【化3】

(式(1−2)中、XとXは、−COOR(Rは炭素数1〜20の炭化水素基を表す)またはHを表す(但し、XとXが同時にHである場合を除く。)。)で表されるオレフィン化合物をディールス・アルダー反応させて、下記一般式(1−3)
【化4】

(式(1−3)中、XとXは前記同様である。)で表される脂環式化合物を製造し、次いで当該脂環式化合物を酸化剤の存在下でエポキシ化することを特徴とする、下記一般式(1)
【化5】

(式(1)中、XとXは前記同様である。)で表される脂環式ジエポキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤がメタクロロ過安息香酸および/または過酸化水素水である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の脂環式ジエポキシ化合物を含有する硬化用組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化用組成物を硬化させてなる硬化物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−127348(P2008−127348A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315592(P2006−315592)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】