説明

脂環構造を有するポリアミド酸エステルの製造方法

【課題】脂環構造を有するポリアミド酸エステル又はポリアミド−ポリアミド酸エステルの製造方法及びこれを含有する液晶配向剤を提供する。
【解決手段】脂環構造を有するジカルボン酸ジエステルとジアミンとを4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−アルキルモルホリニウムハライド及び塩基の存在下に重縮合させる脂環構造を有するポリアミド酸エステルの製造方法、及び得られた脂環構造を有するポリアミド酸エステル及び/又はそれをイミド化したポリイミドを含む液晶配向剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環構造を有するポリアミド酸エステルの製造方法、より詳しくは、脂環構造を有するジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重縮合させるポリアミド酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、優れた耐熱性・機械的強度・絶縁性を有することから、エレクトロニクス材料や航空機材料など幅広く用いられている。代表的なポリイミドとしては、ポリ-4,4’-オキシジフェニレンピロメリットイミドなどの芳香族ポリイミドが知られている。このような芳香族ポリイミドは、有機溶媒に溶解せず、溶融もしないため、成型加工が困難である。そこで、有機溶媒に可溶なポリイミド前駆体の段階で成型加工した後、加熱処理または化学的手法で閉環反応させることによりポリイミドを得る方法が広く実施されている。
【0003】
ポリイミドの前駆体として、ポリアミド酸(ポリアミック酸)が知られている。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させることにより合成できる。具体的には、芳香族ジアミンをN-メチルピロリドン(NMP)のような極性溶媒に溶解させた後に、テトラカルボン酸二無水物を加えて室温攪拌することで容易に高分子量のポリアミド酸が得られ、工業的に広く利用されている。
【0004】
しかし、上記のようにして製造されたポリアミド酸は次の2つの問題点を有する。1つ目の問題点は、溶液の保存安定性が悪いことである。ポリアミド酸溶液を室温で保存しておくと、数時間から数日間で粘度が徐々に低下していくため、粘度を一定に維持するためには−20℃程度の冷凍保存が必要である。2つ目の問題点は、脱水閉環のための加熱処理時にポリアミド酸の分子量が低下することである。この2つの問題は、原因が共通しており、テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの反応は、テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合によるポリアミド酸の生成反応と、ポリアミド酸の解重合とによってテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンに戻る逆反応を有する平衡反応であるためである。
【0005】
上記のようなポリアミド酸の問題点を解決するポリイミド前駆体として、ポリアミド酸エステルが知られている。ポリアミド酸エステルは、ポリアミド酸のカルボキシル基がエステルに置き換わった構造の高分子である。この分子構造の違いにより、ポリアミド酸エステルは解重合を起こさないため、室温での保存安定性に優れ、加熱処理時にも分子量低下が起こらないといった特長を有する。
【0006】
一方、ポリアミド酸エステルの合成法は、3種類の方法に大別される。1つ目の合成法は、ジエステルジカルボン酸クロリドとジアミンとを反応させる方法である(特許文献1、2参照)。ジエステルジカルボン酸クロリドは、テトラカルボン酸二無水物よりもジアミンとの反応性が高いことから、この合成法ではポリアミド酸よりも更に短時間で高分子量のポリアミド酸エステルが得られる。しかし、その反応性の高さのために、ジエステルジカルボン酸クロリドは加水分解によってジエステルジカルボン酸へと容易に変化してしまう。そのため、重合系中に水分が混入すると、得られるポリアミド酸エステルの分子量が低下し、その結果、分子量の再現性が乏しくなる。
【0007】
2つ目の合成法は、ポリアミド酸のカルボキシル基をエステルに変換する方法である。この方法では、テトラカルボン酸二無水物とジアミンからポリアミド酸を合成した後に、所望のエステル化剤を加えて反応させることで、ポリアミド酸エステルが得られる(特許文献3参照)。しかし、問題点として、エステル化の簡便な反応追跡方法が無く、全てのカルボキシル基を定量的にエステル化させることが困難であるということが挙げられる。
【0008】
3つ目の合成法は、ジエステルジカルボン酸とジアミンとを縮合剤を用いて塩基の存在下に重縮合させる方法である。縮合剤としては、カルボニルジイミダゾールやリン系縮合剤などが知られている(非特許文献1〜4参照)。この方法では、再現性良く高分子量のポリアミド酸エステルが得られる反面、縮合剤由来の不純物を工業的に簡便な方法で除去し、高純度のポリアミド酸エステルを得るのが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
特許文献1:特開平11−315140号公報
特許文献2:特開2000−273172号公報
特許文献3:特開平10−60109号公報
【非特許文献】
【0010】
非特許文献1:Polyimides and Other High-Temperature Polymers, pp.45-50(1991)
非特許文献2:Macromolecules Vol.22, No12, p4477-4483, 1989
非特許文献3:Polyimides and Other High-Temperature Polymers, pp.19-33(1991)
非特許文献4:Makromol.Chem., 194, 511(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−アルキルモルホリニウムハライドを縮合剤とし、塩基の存在下でジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重縮合させる場合、上記縮合剤は反応系から容易に除去し得るので、製造されるポリアミド酸エステルは高純度、かつ高収率で得られることを見出し、先に、この発明を特願2010−040895号として出願した。
しかし、この方法の場合、目的物であるポリアミド酸エステルの生成とともに、反応系に存在する塩基が触媒となってポリアミド酸エステルのイミド化が同時に進行し、このイミド化が進行すると、得られるポリアミド酸エステルの溶解性が悪くなり、これを液晶配向剤などに使用する場合は、保存安定性などの問題を引き起こすことが見出された。
【0012】
本発明の目的は、ジエステルジカルボン酸とジアミンとを重縮合させて、高収率、高純度にて、目的物であるポリアミド酸エステルを得るとともに、一方で、上記した塩基が触媒となるポリアミド酸エステルのイミド化を抑制し得るポリアミド酸エステルを製造する方法、及び得られるポリアミド酸エステルを含有する液晶配向剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を進めたところ、縮合剤として、4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−アルキルモルホリニウムハライドを使用し、塩基の存在下に、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重縮合させる場合、原料であるジカルボン酸ジエステルとして、脂環構造を有するジカルボン酸ジエステルを使用する場合は、上記重縮合の過程におけるイミド化反応の進行が抑制され、その結果、イミド化率を極めて小さく、実質的にゼロにし得るポリアミド酸エステルを製造できることを見出した。
このイミド化率が極めて小さい脂環構造を有するポリアミド酸エステルは、これを液晶配向剤などに使用する場合、有機溶媒に対する溶解性が大きく、保存安定性に優れた液晶配向剤となる。
本発明は、上記の知見に基づくものであり、下記の要旨を有する。
(1)4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−アルキルモルホリニウムハライド及び塩基の存在下に、脂環構造を有するジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重縮合させることを特徴とするポリアミド酸エステルの製造方法。
(2)前記ジカルボン酸ジエステルが、下記の式(1−1)及び/又は式(1−2)で表わされる化合物である上記(1)に記載の製造方法。
【0014】
【化1】

(式中、Xは4価の脂環構造を有する有機基であり、Rは、炭素数1〜20のアルキル基である。)
(3)前記ジアミンが、式(2):HN−Y―NH(Yは、2価の有機基である。)で表わされる上記(1)〜(2)のいずれかに記載の製造方法。
(4)前記塩基が、7〜11のpKaを有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)前記塩基が、トリアルキルアミン又はN-アルキルモルホリンである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)温度が−20〜80℃にて重縮合させる上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法において、さらに、ジカルボン酸を存在させ、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとジカルボン酸とを重縮合させるポリアミド−ポリアミド酸エステルの製造方法。
(8)前記ジカルボン酸が、イソフタル酸又はテレフタル酸である上記(7)に記載の製造方法。
(9)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法で得られた、脂環構造を有するポリアミド酸エステル又はポリアミド−ポリアミド酸エステルをイミド化したポリイミド又はポリアミド−ポリイミド。
(10)上記(9)に記載の脂環構造を有するポリアミド酸エステル又はこれをイミド化したポリイミドを含む液晶配向剤。
本発明において、脂環構造を有するジエステルジカルボン酸を使用してジアミンとを重縮合させることにより、何故にイミド化率が極めて小
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脂環構造を有するジエステルジカルボン酸とジアミンとを重縮合させることにより、高収率、高純度にて、安定的に、かつ分離回収も容易な方法により脂環構造を有するポリアミド酸エステルを製造することができる。
本発明により得られる脂環構造を有するポリアミド酸エステルはイミド化率が極めて小さいので、これを液晶配向剤に使用する場合、有機溶媒に対する溶解性が大きく、保存安定性に優れた液晶配向剤となる。
さらに、本発明によれば、ジカルボン酸を存在させることにより、ジエステルジカルボン酸とジアミンとジカルボン酸を重縮合させることによりポリアミド−ポリアミド酸エステルも製造することができる。
なお、本発明において、脂環構造を有するジエステルジカルボン酸を使用してジアミンとを重縮合させることにより、何故に、かかる重縮合過程において塩基を触媒とする上記イミド反応が抑制されるかについては必ずしも明らかではないが、脂環構造を有するジエステルジカルボン酸は、アミドの窒素原子とエステルのカルボニル基の炭素原子との距離が比較的長く、この両者の原子が関与するイミド化反応が進行しにくい構造を有するためと推定される。しかし、この推定は、本発明の解釈を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔ジエステルジカルボン酸〕
本発明において、使用されるジエステルジカルボン酸は、脂環構造を有し、好ましくは下記の式(1−1)及び/又は式(1−2)で表される。
【0017】
【化2】

上記式中、Xは脂環構造を有する4価の有機基であり、Rは、炭素数1〜20、好ましくは1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。脂環構造は、好ましくは4員環〜6員環の単環構造、又は4員環〜6員環の好ましくは2〜3の多環構造が好ましい。
【0018】
Xの具体的な構造としては、以下のX−1〜X−25が挙げられるが、これらに限られるものではない。なかでも重合反応性、ポリマーの溶解性の観点からして、X−1、X−2、X−6、X−8、X−16、X−18、X−19、X−25が好ましい。
【0019】
【化3】

【0020】
〔ジアミン〕
本発明において、使用されるジアミンは、好ましくは、下記の式(2)で表される。
N−Y―NH・・・(2)
上記式中、Yは、2価の有機基である。具体的な構造の例としては、以下のY−1〜Y−98が挙げられるが、これらに限られるものではない。ジアミンの反応性、ポリマーの溶解性の観点から、Y-7、Y-8、Y-20、Y-21、Y-22、Y-28、Y-29、Y-30、Y-31、Y-40、Y-41、Y-43、Y-46、Y-48、Y-61、Y-64、Y-65、Y-66、Y-68、Y-72、Y-76、Y-79、Y-98が好ましい。
【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
【化6】

【0024】
【化7】

【0025】
【化8】

【0026】
【化9】

【0027】
〔ジカルボン酸〕
本発明において、ジカルボン酸を存在させて、ポリアミド−ポリアミド酸エステルを製造する場合に使用されるジカルボン酸は、好ましくは、以下の式(3)で表わされる。
HOOC−Z―COOH・・・(3)
上記式(3)中、Zは、2価の有機基である。
上記式(3)の具体的な構造は、マロン酸、蓚酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ムコン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライイン酸、セバシン酸およびスベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,1−シクロプロパンジカルボン酸、1,2−シクロプロパンジカルボン酸、1,1−シクロブタンジカルボン酸、1,2−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、3,4−ジフェニル−1,2−シクロブタンジカルボン酸、2,4−ジフェニル−1,3−シクロブタンジカルボン酸、3,4−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−1,2−シクロブタンジカルボン酸、2,4−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−1,3−シクロブタンジカルボン酸、1−シクロブテン−1,2−ジカルボン酸、1−シクロブテン−3,4−ジカルボン酸、1,1−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,1−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−(2−ノルボルネン)ジカルボン酸、ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−1,4−ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3−ジカルボン酸、2,5−ジオキソ−1,4−ビシクロ[2.2.2]オクタンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸、4,8−ジオキソー1,3−アダマンタンジカルボン酸、2,6−スピロ[3.3]ヘプタンジカルボン酸、1,3−アダマンタン二酢酸、カンファー酸ジハライド等の脂環式ジカルボン酸;
【0028】
o−フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−tert−ブチルイソフタル酸、5−アミノイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、テトラメチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−アントラセンジカルボン酸、1,4’−アントラキノンジカルボン酸、2,5−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、1,5−ビフェニレンジカルボン酸、4,4''−ターフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルプロパンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルヘキサフルオロプロパンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ビベンジルジカルボン酸、4,4’−スチルベンジルカルボン酸、4,4’−トランジルカルボン酸、4,4’−カルボニル二安息香酸、4,4’−スルホニル二安息香酸、4,4’−ジチオ二安息香酸、p−フェニレン二酢酸、3,3’−p−フェニレンジプロピオン酸、4−カルボキシ桂皮酸、p−フェニレンジアクリル酸、3,3’−(4−4’−(メチレンジ−p−フェニレン))ジプロピオン酸、4,4’−(4,4’−(オキシジ−p−フェニレン))ジプロピオン酸、4,4’−(4,4’−(オキシジーp−フェニレン))二酪酸、(イソプロピリデンジ−p−フェニレンジオキシ)二酪酸、ビス(p−カルボキシフェニル)ジメチルシラン、1,5−(9−オキソフルオレン)ジカルボン酸、3,4−フランジカルボン酸、4,5−チアゾールジカルボン酸、2−フェニル−4,5−チアゾールジカルボン酸、1,2,5−チアジアゾール−3,4−ジカルボン酸、1,2,5−オキサジアゾール−3,4−ジカルボン酸、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、6−ピリジンジカルボン酸、
などが挙げられる。
中でも、重合反応性ポリマーの溶解性の観点からして、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましい。
【0029】
〔重縮合反応〕
本発明では、上記脂環構造を有するジエステルジカルボン酸と上記ジアミンとを、4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−アルキルモルホリニウムハライド及び塩基の存在下において、重縮合反応させることによりポリアミド酸エステルが製造される。この場合、さらに、上記ジカルボン酸を存在させて重縮合反応させることにより、ポリアミド-ポリアミド酸エステルが製造される。
以下、本発明では、重縮合反応で製造される脂環構造を有するポリアミド酸エステル及びポリアミド-脂環構造を有するポリアミド酸エステルを総称して単にポリマーということがある。
【0030】
本発明において、4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−アルキルモルホリニウムハライドが縮合剤として使用されるが、かかる化合物における、アルコキシ基及びアルキル基の炭素数としては、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2、特には1が好ましい。
かかる化合物の好ましい具体例は、4−(4,6−ジメトキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−メチルモルホリニウムハライド、4−(4,6−ジエトキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−エチルモルホリニウムハライドである。
上記4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−アルキルルホリニウムハライドの使用量は、ジエステルジカルボン酸に対して過剰量で使用するのが好ましいため、ジエステルジカルボン酸に対して好ましくは、1.8倍モル〜4倍モル、より好ましくは2.2倍モル〜3.5倍モル、とりわけ好ましくは2.5倍モル〜3倍モルが好適である。
【0031】
上記塩基としては、反応性の観点からpKaが好ましくは6〜13、より好ましくは6.5〜12、特に好ましくは7〜11である。好ましい塩基としては、トリエチルアミン(pKa=10.7)などのトリアルキルアミン、N−メチルモルホリン(pKa=7.4)などのN−アルキルモルホリンが好ましい。
上記塩基の使用量は、少量であると分子量が上がりにくいため、ジエステルジカルボン酸に対して好ましくは、0.5モル〜3モル、より好ましくは0.7モル〜2モル、とりわけ好ましくは1.0モル〜1.5モルが好適である。
重縮合反応は、有機溶媒を使用して行うのが好ましい。有機溶媒としては、モノマーであるジエステルジカルボン酸、ジアミン及びジカルボン酸に対する溶解性の観点から、N−メチルー2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシドが好ましい。これらは1種または2種以上用いてもよい。
【0032】
本発明における重縮合反応は、過度に高温になると、4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−アルキルモルホリニウムハライドの分解が起こるので、好ましくは−20℃〜80℃、より好ましくは−10℃〜60℃、とりわけ好ましくは0℃〜40℃で行うのが好適である。重縮合反応は、通常、0.5時間〜48時間、好ましくは1.5時間〜24時間、とりわけ好ましくは3時間〜12時間にて行われる。
【0033】
本発明におけるジエステルジカルボン酸、ジアミン、さらに、ジカルボン酸(以下、これらを総称して単にモノマーという場合がる。)との重縮合におけるモノマーの濃度は、使用するモノマーが十分に溶解し、また、生成するポリマーが析出しないようにするのが好ましい。モノマーの濃度が高すぎると、ポリマーが析出してしまい、一方、濃度が低すぎるとポリマーの分子量が上がらない。
本発明において、重縮合反応液中におけるモノマーの濃度は、反応液の合計重量に対して2質量%〜15質量%が好ましく、より好ましくは3質量%〜12質量%であり、特に好ましくは4質量%〜10質量%である。
【0034】
上記のようにして、ジエステルジカルボン酸とジアミン、さらにはジカルボン酸とを重縮合させることにより、生成したポリマーを含む溶液を、好ましくは、貧溶媒に撹拌下に加えることによりポリマーを析出させて容易に分離、回収することができる。
上記の貧溶媒は特に限定されず、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられるが、減圧乾燥などによって除去しやすいため、特に、メタノール、エタノールが好ましく用いられる。貧溶媒の使用量は、ポリマー含む溶液量に対して3倍重量〜12倍重量が好ましく、より好ましくは4倍重量〜10倍重量、とりわけ好ましくは5倍重量〜8倍重量である。
【0035】
本発明では、析出したポリマーは、好ましくは濾取した後、好ましくは上記析出に使用した貧溶媒を用いて洗浄する。かかる洗浄により、使用した4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−アルキルモルホリニウムハライドや塩基由来の不純物を容易により取り除くことができる。洗浄に用いる貧溶媒の量は、ポリマーに対し、0.8倍重量〜5倍重量が好ましく、より好ましくは1.2倍重量〜4倍重量であり、とりわけ好ましくは1.5倍重量〜3.5倍重量である。
【0036】
ポリマーの洗浄回数は多いほど、より不純物の少ないポリマー粉末を得ることができる。洗浄回数としては、2回〜10回が好ましく、より好ましくは3回〜8回、とりわけ好ましくは4回〜6回である。
【0037】
ポリマーは、洗浄後に好ましくは20℃〜140℃、より好ましくは40℃〜100℃好ましくは真空下で、乾燥することにより、ポリアミド酸エステルまたはポリアミド-ポリアミド酸エステル共重合体の粉末が得られる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではないことはもちろんである。
本実施例で使用した化合物の略号と構造を以下に示す。
DMT-MM:4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド
CBDE:2,4-ビス(メトキシカルボニル)シクロブタン-1,3-ジカルボン酸
BODE:3,6-ビス(メトキシカルボニル)オクタヒドロペンタレン-1,4-ジカルボン酸
PMDE:2,5-ビス(メトキシカルボニル)ベンゼン-1,4-ジカルボン酸
DDE:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
p-PDA:パラフェニレンジアミン
DA-3MG:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン
DA-5MG:1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン
DDM:4,4’-ジアミノジフェニルメタン
DA-4:1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
DA-4P:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
4APhA:2-(4-アミノフェニル)エチルアミン
BAPU:1,3-ビス(4-アミノフェネチル)ウレア
DADPA:4,4’-ジアミノジフェニルアミン
Me-DADPA:4,4’-ジアミノジフェニルメチルアミン
【0039】
【化10】

【0040】
以下に、粘度、分子量の各測定方法を示す。
[粘度]
合成例において、ポリアミド酸エステル溶液の粘度はE型粘度計TVE−22H(東機産業株式会社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE−1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
[分子量]
また、ポリアミド酸エステルの分子量はGPC(常温ゲル浸透クロマトグラフィー)装置によって測定し、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド換算値として数平均分子量(以下、Mnとも言う。)と重量平均分子量(以下、Mwとも言う。)を算出した。
GPC装置:(株)Shodex社製 (GPC−101)
カラム:Shodex社製 (KD803、KD805の直列)
カラム温度:50℃
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム−水和物(LiBr・H2O)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o-リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10ml/L)
流速:1.0ml/分
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(重量平均分子量(Mw) 約900,000、150,000、100,000、30,000)、及び、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp) 約12,000、4,000、1,000)。
測定は、ピークが重なるのを避けるため、900,000、100,000、12,000、1,000の4種類を混合したサンプル、および150,000、30,000、4,000の3種類を混合したサンプルの2サンプルを別々に測定。
【0041】
(合成例1) CBDE/DDE
撹拌子を入れた500mL四つ口フラスコにCBDE 11.5g(44.2mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン278gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン2.38g(23.5mmol)、およびDDE 9.41g(47.0mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)39.0g(141mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン49.8gを加え、室温で4時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は17.8mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液のうちの128gをメタノール(768g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=10,900、Mw=27,000であった。
【0042】
(合成例2) CBDE/DDE
合成例1の反応溶液を更に20時間攪拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は18.6mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液のうちの128gをメタノール(768g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=11,400、Mw=27,300であった。
【0043】
(合成例3) CBDE/DDE
合成例2の反応溶液を更に18時間攪拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は18.5mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(768g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=12,500、Mw=27,900であった。
【0044】
(合成例4) CBDE/p-PDA
撹拌子を入れた100mL四つ口フラスコにCBDE 2.94g(11.3mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン56.2gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン2.43g(24.0mmol)、およびp-PDA 1.30g(12.0mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)8.63g(31.2mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン10.1gを加え、室温で4時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は33.5mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(449g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=11,300、Mw=32,000であった。
【0045】
(合成例5) CBDE/DA-3MG
撹拌子を入れた200mL四つ口フラスコにCBDE 4.75g(18.2mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン127gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン0.96g(9.50mmol)、およびDA-3MG 4.91g(19.0mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)18.9g(68.4mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン22.8gを加え、室温で7時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は21.9mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(1075g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。
【0046】
(合成例6) CBDE/DA-5MG
撹拌子を入れた100mL四つ口フラスコにCBDE 2.47g(9.50mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン70.9gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン2.02g(20.0mmol)、およびDA-5MG 2.86g(10.0mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)7.19g(26.0mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン12.7gを加え、室温で18時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は28.3mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(589g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=17,800、Mw=40,900であった。
【0047】
(合成例7) CBDE/DDM
撹拌子を入れた200mL四つ口フラスコにCBDE 6.31g(24.3mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン150gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン1.26g(12.5mmol)、およびDDM 4.96g(25.0mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)20.8g(75.0mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン26.8gを加え、室温で16時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は24.2mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(1259g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=20,400、Mw=48,500であった。
【0048】
(合成例8) CBDE/DA-4
撹拌子を入れた100mL四つ口フラスコにCBDE 2.45g(9.40mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン71.3gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン2.02g(20.0mmol)、およびDA-4 2.92g(10.0mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)7.19g(26.0mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン12.8gを加え、室温で6時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は21.6mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(543g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=14,400、Mw=37,900であった。
【0049】
(合成例9) CBDE/DA-4P
撹拌子を入れた100mL四つ口フラスコにCBDE 2.01g(7.70mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン57.3gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン1.62g(16.0mmol)、およびDA-4P 2.34g(8.00mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)5.76g(20.8mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン10.3gを加え、室温で39時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は23.1mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(397g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=23,400、Mw=56,400であった。
【0050】
(合成例10) CBDE/4APhA
撹拌子を入れた200mL四つ口フラスコにCBDE 6.63g(25.5mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン132gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン1.32g(13.0mmol)、および4APhA 3.54g(26.0mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)25.9g(93.6mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン23.7gを加え、室温で7時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は15.0mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(1351g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。
【0051】
(合成例11) CBDE/DA-5MG(70),BAPU(30)
撹拌子を入れた200mL四つ口フラスコにCBDE 4.89g(18.8mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン142gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン1.01g(10.0mmol)、DA-5MG 4.01g(14.0mmol)、およびBAPU 1.79g(6.00mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)19.9g(72.0mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン25.5gを加え、室温で4時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は26.2mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(1195g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=13,000、Mw=37,100であった。
【0052】
(合成例12) CBDE/DADPA
撹拌子を入れた300mL四つ口フラスコにCBDE 8.47g(32.6mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン205gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン1.77g(17.5mmol)、およびDADPA 6.97g(35.0mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)34.9g(126mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン36.8gを加え、室温で20時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は30.8mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(1764g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=14,800、Mw=35,300であった。
【0053】
(合成例13) CBDE/Me-DADPA(50),DADPA(30),DDM(20)
撹拌子を入れた500mL四つ口フラスコにCBDE 15.0g(57.6mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン359gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン12.1g(120mmol)、Me-DADPA 6.40g(30.0mmol)、DADPA 3.59g(18.0mmol)およびDDM 2.38g(12.0mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)43.2g(156mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン64.4gを加え、室温で8時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は21.2mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(2530g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=16,100、Mw=37,600であった。
【0054】
(合成例14) BODE/DA-3MG
撹拌子を入れた100mL四つ口フラスコにBODE 3.11g(9.90mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン75.7gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン0.51g(5.00mmol)、およびDA-3MG 2.58g(10.0mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)8.30g(30.0mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン13.6gを加え、室温で24時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は7.6mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(622g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=5,700、Mw=10,000であった。
【0055】
(比較合成例1) PMDE/DDE
撹拌子を入れた500mL四つ口フラスコにPMDE 12.5g(44.2mmol)を取り、N-メチル-2-ピロリドン291gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン2.38g(23.5mmol)、およびDDE 9.41g(47.0mmol)を加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながらDMT-MM(15±2重量%水和物)39.0g(141mmol)を添加し、更にN-メチル-2-ピロリドン52.1gを加え、室温で4時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は24.0mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液のうちの137gをメタノール(822g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=13,000、Mw=31,600であった。
【0056】
(比較合成例2) PMDE/DDE
比較合成例1の反応溶液を更に20時間攪拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は23.8mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液のうちの137gをメタノール(822g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=13,000、Mw=32,100であった。
【0057】
(比較合成例3) PMDE/DDE
比較合成例2の反応溶液を更に18時間攪拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は26.7mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(822g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=13,500、Mw=32,000であった。
【0058】
[イミド化率]
ポリアミド酸エステルのイミド化率は、1H-NMR(核磁気共鳴)の測定結果より算出した。
1H-NMR装置:Varian社製 400MHz
測定溶媒:重DMSO(ジメチルスルホキシド)
【0059】
比較合成例1〜3については、PMDE由来のベンゼン環プロトンピークの積分比からイミド化率を算出した。それぞれのピークの化学シフトを以下に示す。
両側がイミド化していないベンゼン環プロトン:8.09ppm
片側がイミド化しているベンゼン環プロトン:8.25ppm
両側がイミド化しているベンゼン環プロトン:8.39ppm
また、比較合成例1〜3について、10.66ppmのアミド結合プロトンピークがイミド化反応の進行と共に一部低磁場シフトしていくことを確認した。一方、合成例1〜14については、9-11ppm付近のアミド結合プロトンピークが低磁場側に全くシフトしていないことから、イミド化率は0%であると判断した。以下に、合成例1〜14および比較合成例1〜3の重合反応条件およびイミド化率を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
(実施例1)
合成例6で得られたポリアミド酸エステル粉末2.28gを撹拌子の入った50mL三角フラスコに分取し、N−メチル−2−ピロリドン20.6gを加え、マグネチックスターラーで室温6時間撹拌して溶解させた。続いて、N−メチル−2−ピロリドン2.12g、ブチルセロソルブ10.7gを加え、室温2時間撹拌して本発明の液晶配向剤を得た。
この液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、透明電極付きガラス基板上にスピンコートし、温度80℃のホットプレート上で5分間の乾燥、温度220℃で20分間の焼成を経て膜厚100nmのポリイミド膜を得た。このポリイミド膜をレーヨン布でラビング(ロール径120mm、回転数1000rpm、移動速度30mm/sec、押し込み長0.3mm)し、純水中にて1分間超音波照射をして洗浄を行い、エアーブローにて水滴を除去した後、80℃で15分間乾燥して液晶配向膜付き基板を得た。このような液晶配向膜付き基板を2枚用意し、一方の基板の液晶配向膜面に6μmの球状スペーサーを散布した後、2枚の基板のラビング方向が逆平行になるように組み合わせ、液晶注入口を残して周囲をシールし、セルギャップが6μmの空セルを作製した。この空セルに液晶(MLC−2041、メルク株式会社製)を常温で真空注入し、注入口を封止してアンチパラレル液晶セルとした。この液晶セルの配向状態を偏光顕微鏡にて観察したところ、欠陥のない均一な配向をしていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により製造される脂環構造を有するポリアミド酸エステルは、優れた耐熱性・機械的強度・絶縁性を有することから、エレクトロニクス材料や航空機材料など幅広く用いられている。
特に、得られたポリアミド酸エステルはイミド化が抑制され、イミド化率が極めて小さいので溶解度が大きい保存安定性が優れた液晶配向剤となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−アルキルモルホリニウムハライド及び塩基の存在下に、脂環構造を有するジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重縮合させることを特徴とするポリアミド酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記脂環構造を有するジカルボン酸ジエステルが、下記の式(1−1)及び/又は式(1−2)で表わされる化合物である請求項1に記載の製造方法。
【化1】

(式中、Xは4価の脂環構造を有する有機基であり、Rは、炭素数1〜20のアルキル基である。)
【請求項3】
前記ジアミンが、式(2):HN−Y―NH(Yは、2価の有機基である。)で表わされる請求項1〜2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
前記塩基が、7〜11のpKaを有する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記塩基が、トリアルキルアミン又はN-アルキルモルホリンである請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
温度が−20〜80℃にて重縮合させる請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法において、ジカルボン酸を存在させ、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとジカルボン酸とを重縮合させるポリアミド−ポリアミド酸エステルの製造方法。
【請求項8】
前記ジカルボン酸が、イソフタル酸又はテレフタル酸である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法で得られた、脂環構造を有するポリアミド酸エステル又はポリアミド−ポリアミド酸エステルをイミド化したポリイミド又はポリアミド−ポリイミド。
【請求項10】
請求項9に記載の脂環構造を有するポリアミド酸エステル又はこれをイミド化したポリイミドを含む液晶配向剤。

【公開番号】特開2011−256351(P2011−256351A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134399(P2010−134399)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】