説明

脂肪酸エステルの製造方法および脂肪酸エステルの製造装置

【課題】より容易にまたより経済的に脂肪酸エステルを製造する方法等を提供する。
【解決手段】油脂類およびアルコール類を触媒としてのアニオン交換樹脂が充填された反応カラム13に導入することでエステル交換反応をさせ脂肪酸エステルを生成する生成工程と、生成した脂肪酸エステルを分離槽14により副生品と分離する分離工程と、反応カラム13を移送し複数の反応カラム13からアニオン交換樹脂を取り出し再生処理を行う再生カラムに充填する移送工程と、反応カラム13とは別の再生カラムにてアニオン交換樹脂の再生処理を行う再生工程と、再生されたアニオン交換樹脂を再生カラムから取り出し、反応カラム13へ充填し返送する返送工程と、を有することを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸エステルの製造方法等に係り、より詳しくは油脂類とアルコール類とのエステル交換反応により脂肪酸エステルを製造する製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂類とアルコール類とのエステル交換反応によって合成される脂肪酸エステルは、カーボンニュートラル(地球上の二酸化炭素増加量ゼロ)で再生可能なバイオディーゼル燃料として注目されている。この燃料は、どんな種類のディーゼルエンジンにもそのまま使用することができ、従来の石油系ディーゼル燃料(軽油)に比べ、生物分解され易い、潤滑性が高い、一酸化炭素や炭化水素、粒子状物質等の排出量が減少する、排出ガス中に硫黄酸化物や硫酸塩を含まない、など多くの利点を有する。
また、廃食油からも合成できるため、環境調和型の廃棄物有効利用技術としても注目されている。
【0003】
ここで従来の製造プロセスでは、エステル交換反応推進のために、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの均相アルカリ触媒が用いられている。反応によって得られる脂肪酸エステル中には、鹸化した脂肪酸(石鹸)や触媒であるアルカリ成分が混入することになる。このままではバイオディーゼル燃料として不適当であるため、水洗浄などの精製を行う必要がある。また、副生品であるグリセリン中にも多量のアルカリ成分が混入し、再利用する上での問題点となっている。そこで均相アルカリ触媒を使用せずに脂肪酸エステルを製造する方法が求められている。
【0004】
ここで特許文献1には、油脂類とアルコール類とのエステル交換反応による脂肪酸エステルの製造方法であって、触媒としてアニオン交換樹脂を用い、且つ、油脂類とアルコール類のモル比が1/30〜1/1であることを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−104316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、触媒としてアニオン交換樹脂を用いて脂肪酸エステルを製造する方法では、反応を行ううちにアニオン交換樹脂が失活等により触媒機能が低下するため、その再生を行う再生処理が必要である。従来この再生処理は、エステル交換反応を行う反応器をそのまま用いて行っている。そのために再生処理に使用する薬品分散機構や廃液の排出機構等を具備させる必要があり、反応器の構造や反応器周辺の配管等の配置が複雑なものとなる。そのためプラント自体が不経済なものとなり、更に運転操作も複雑であるという問題がある。
【0007】
本発明は、従来の技術が有する上記の問題点に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明の目的は、油脂類、アルコール類、および触媒としてのアニオン交換体を混合して脂肪酸エステルを生成する生成系と、この反応において失活等により触媒機能が低下したアニオン交換体を再生する再生系とに分けることで、より容易にまたより経済的に脂肪酸エステルを製造する方法を提供しようとするものである。
【0008】
また他の目的は、油脂類、アルコール類、および触媒としてのアニオン交換体を混合して脂肪酸エステルを生成する際に使用する反応器の構造を簡略化することで、より容易にまたより経済的に脂肪酸エステルを製造する装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かくして本発明の脂肪酸エステルの製造方法は、触媒としてアニオン交換体を用い油脂類とアルコール類とのエステル交換反応により脂肪酸エステルを製造する脂肪酸エステルの製造方法であって、油脂類およびアルコール類をアニオン交換体が充填された反応器に導入することで脂肪酸エステルを生成する生成工程と、生成した脂肪酸エステルを副生品と分離する分離工程と、反応器を移送し複数の反応器からアニオン交換体を取り出し再生処理を行う再生器に充填する移送工程と、反応器とは別の再生器にてアニオン交換体の再生処理を行う再生工程と、再生されたアニオン交換体を再生器から取り出し、反応器へ充填し返送する返送工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
ここで、反応器は、着脱自在であり、アニオン交換体を反応器に充填したまま移送および返送を行うことが好ましい。
また再生工程は、アニオン交換体に吸着している脂肪酸を溶離し、アニオン交換体を水酸化することにより行うことが好ましい。
更に生成工程の前に、カチオン交換体を触媒とし、油脂類に含まれる遊離脂肪酸とアルコール類とのエステル化反応により脂肪酸エステルを生成することにより、遊離脂肪酸を除去する除去工程を更に有することが好ましい。
【0011】
また本発明の脂肪酸エステルの製造装置は、触媒としてアニオン交換体を用い油脂類とアルコール類とのエステル交換反応により脂肪酸エステルを製造する脂肪酸エステルの製造装置であって、油脂類、アルコール類およびアニオン交換体を混合し脂肪酸エステルを生成する着脱自在な反応器と、生成した脂肪酸エステルを副生品と分離する分離器と、反応器を再生処理を行う再生器に移送する移送手段と、アニオン交換体の再生を行う反応器とは別の再生器と、再生されたアニオン交換体を反応器へ充填し返送する返送手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
ここで、油脂類に含まれる遊離脂肪酸をカチオン交換体を使用することで除去する除去器を更に有することが好ましい。
また移送手段は、複数の反応器から取り出したアニオン交換体を貯蔵する貯蔵器に貯蔵した後に、アニオン交換体を再生器に送る手段を含み、返送手段は、再生したアニオン交換体を再生器から取り出し貯蔵器に送る手段を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より容易にまたより経済的に脂肪酸エステルを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0015】
(油脂類)
本実施の形態で使用する油脂類は特に限定されるものではなく、天然油脂でも合成油脂でも、またこれらの混合物でもよい。
例えば、大豆油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、トウモロコシ油、ラッカセイ油、ヒマワリ油、オリーブ油、サフラワー油、ココナッツ油、カシ油、アーモンド油、クログルミ油、アンズの仁油、ココアバター油、大風子油、紅花油、シナ脂、アマニ油、綿実油、ナタネ油、キリ油、ヒマシ油、綿実ステアリン、ゴマ油、コーヒー豆油、ツバキ油、米ぬか油等の植物系油脂;ラード油、ニワトリ油、バター油、タラ肝油、鹿脂、イルカ脂、イワシ油、サバ油、馬脂、豚脂、骨油、羊脂、牛脚油、ネズミイルカ油、サメ油、マッコウクジラ油、鯨油、牛脂、牛骨脂などの動物系油脂;レストラン、食品工場、一般家庭などから廃棄される廃食油等である。
またはこれらの油脂類を単独あるいは混合したもの、ジグリセリドやモノグリセリドを含んだもの、合成されたトリグリセリド、モノグリセリドやジグリセリドを含む合成トリグリセリド、更にこれらの油脂類の一部を酸化、還元等の処理をして変性した変性油脂でもよい。また更にこれらの油脂を主成分とする油脂加工品も使用することができる。
【0016】
(アルコール類)
本実施の形態で使用するアルコール類は特に限定されないが、炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜5の、飽和の直鎖または分岐鎖の炭化水素骨格を有するアルコールを使用することが好ましい。
例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどを挙げることができる。そしてこれらのアルコール類は単独あるいは2種以上混合して使用することができる。但し、入手の容易性および得られる脂肪酸エステルの利用性の観点から、メタノールまたはエタノールを使用するのが好ましい。中でも経済性の観点からメタノールが特に好ましい。
本実施の形態においてアルコール類は、油脂類とのエステル交換反応において反応基質として作用するほか、油脂類の希釈や粘度を調節するための溶媒作用も併せ有するものである。
【0017】
(アニオン交換体)
本実施の形態で触媒として使用するアニオン交換体としては、アニオン交換樹脂、アニオン交換膜等が使用できるが、中でもアニオン交換樹脂が好ましい。アニオン交換樹脂は、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂などに分類できるが、強塩基性アニオン交換樹脂であることがより好ましい。更にアニオン交換樹脂を架橋度又は多孔度から分類した場合、ゲル型、ポーラス型、ハイポーラス型等が挙げられるが、ポーラス型、ハイポーラス型であることがより好ましい。
具体的には、例えば、三菱化学株式会社製のダイヤイオンPA−306、ダイヤイオンPA−306S、ダイヤイオンPA−308、ダイヤイオンHPA−25;ダウ・ケミカル日本株式会社製のダウエックス1−X2;オルガノ株式会社製のアンバーライトIRA−45、アンバーライトIRA−94等を用いることができる。
【0018】
上記の市販されているアニオン交換樹脂は、通常Cl形となっているため、本実施の形態ではOH基に置換しOH形にしてから使用する。この置換方法としては、例えば、処理前のアニオン交換樹脂をカラムに充填し、置換剤として0.5モル/dm〜2モル/dmのNaOH水溶液を通液することで行うことができる。この場合通液速度を、アニオン交換樹脂1ml当たり、2ml〜10ml−NaOH/分程度とすることが好ましい。また通液量は、アニオン交換樹脂1ml当たり5ml〜20mlとすることが好ましい。そして置換終了後は、カラムから樹脂を取り出し、置換剤が残留しないように蒸留水で十分洗浄する。
【0019】
(カチオン交換体)
本実施の形態で油脂類に含まれる遊離脂肪酸を除去するために使用するカチオン交換体としては、カチオン交換樹脂やカチオン交換膜等が使用できるが、中でもカチオン交換樹脂が好ましい。カチオン交換樹脂としては、強酸性カチオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂等に分類できるが、強酸性カチオン交換樹脂であることがより好ましい。強酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、スルホン基を持つ酸性イオン交換樹脂が挙げられる。また本実施の形態で使用するカチオン交換樹脂を架橋度または多孔度で分類した場合には、ゲル型、ポーラス型、ハイポーラス型等が挙げられるが、いずれも使用可能である。
具体的には、三菱化学株式会社製のダイヤイオンPK208LH、ダイヤイオンPK216LH、ダイヤイオンPK228LH;オルガノ株式会社製のアンバーリスト15DRY、アンバーリスト16DRY、アンバーリスト31DRY等を用いることができる。
【0020】
次に、図面に基づき、本実施の形態が適用される脂肪酸エステルの製造装置の一例を具体的に説明する。本実施の形態において脂肪酸エステルの製造装置は、脂肪酸エステルを生成する生成系と、失活等により触媒機能が低下したアニオン交換体を再生する再生系とに大別される。
【0021】
図1は、本実施の形態による生成系の一例を示す図である。
図1に示す生成系としての脂肪酸エステル生成装置10は、油脂類を貯蔵する油脂類貯蔵槽11aと、アルコール類としてのメタノールを貯蔵するメタノール貯蔵槽11bと、油脂類に含まれる遊離脂肪酸を除去するためのカチオン交換樹脂が充填された除去器としての遊離脂肪酸除去カラム12と、遊離脂肪酸が除去された油脂類とメタノールを導入して油脂類、メタノール、アニオン交換樹脂を混合しエステル交換反応により脂肪酸エステルを生成する反応器としての反応カラム13と、生成した脂肪酸エステルと副生品であるグリセリンとを静置分離する分離器としての分離槽14と、グリセリンから分離した脂肪酸エステルを貯蔵する脂肪酸エステル貯蔵槽15と、副生品のグリセリンを貯蔵するグリセリン貯蔵槽16とを備えている。
【0022】
そして油脂類貯蔵槽11a,メタノール貯蔵槽11bと遊離脂肪酸除去カラム12とが油脂およびメタノールのそれぞれの供給ポンプを介して配管により接続されている。また、遊離脂肪酸除去カラム12,反応カラム13,分離槽14が直列に配管等により接続されている。更に分離槽14と脂肪酸エステル貯蔵槽15,グリセリン貯蔵槽16とが配管により接続されている。配管としては、テフロン(登録商標)等の材料よりなるものが使用できる。
また遊離脂肪酸除去カラム12と、反応カラム13には、各カラムを加温することで反応を促進させると共に各カラムの保温を行うためのヒータ17a,17bがそれぞれ備えられている。
【0023】
以下、このように構成された脂肪酸エステル生成装置10により脂肪酸エステルを生成する生成系について、その工程の説明を行う。
【0024】
(除去工程)
本実施の形態において、触媒としてアニオン交換樹脂を用い、油脂類とメタノールとのエステル交換反応により脂肪酸エステルを生成する生成工程の前処理として、油脂類に含まれる遊離脂肪酸をカチオン交換樹脂により除去する除去工程を設けることが好ましい。即ち、カチオン交換樹脂を触媒とし、油脂類に含まれる遊離脂肪酸とメタノールとのエステル化反応により脂肪酸エステルを生成することにより、遊離脂肪酸を除去する。
本実施の形態では、この遊離脂肪酸は、次の生成工程でエステル交換反応の場において鹸化反応を生じず不純物となることはない。そのためカチオン交換樹脂により遊離脂肪酸を除去する除去工程は必須ではないが、脂肪酸エステルの収率が落ちることになる。また油脂類として廃食油等を使用した場合、その中に含まれる遊離脂肪酸の量に変動が生じやすい。よってその変動を緩和し、品質の安定した脂肪酸エステルを製造するという観点からも除去工程を設けることは有効である。
【0025】
具体的な手順としては、まず油脂類貯蔵槽11aとメタノール貯蔵槽11bより油脂類とメタノールを図示しないポンプにより送出し、遊離脂肪酸除去カラム12内に導入する。そして遊離脂肪酸除去カラム12内には予めカチオン交換樹脂が充填されており、このカチオン交換樹脂と、油脂類、メタノールが混合することにより上述した反応が生じる。その結果油脂類に含まれる遊離脂肪酸は、除去される。またヒータ17aにより、適切な温度に遊離脂肪酸除去カラム12内は加温され、反応が効率的に行われる。遊離脂肪酸除去カラム12内の温度としては、例えば60℃とすることができる。
【0026】
(生成工程)
次に遊離脂肪酸が除去された油脂類、メタノールは、反応カラム13に導入される。反応カラム13への導入は、ポンプ等を使用してもよいが、遊離脂肪酸除去カラム12からの残圧により、反応カラム13に導入することもできる。
反応カラム13内には予めアニオン交換樹脂が充填されており、油脂類およびメタノールをアニオン交換樹脂が充填された反応カラム13に導入することで、エステル交換反応が生じ脂肪酸エステルが生成する。また副生品としてグリセリンが生成する。
ここで生じるエステル交換反応の反応式は下記の通りである。なおここでは油脂類としてトリグリセリドを例として、またメタノールは一般的なアルコール類として説明を行っている。
【0027】
【化1】

【0028】
また上記エステル交換反応は、反応カラム13に取り付けられたヒータ17bにより、適切な温度に加温され、反応が効率的に行われる。反応温度としては、好ましくは30℃〜90℃、より好ましくは、40℃〜60℃で行なう。
また反応圧力としては、好ましくは0.05MPa〜10MPa、より好ましくは、0.05MPa〜1MPaであるが、通常は大気圧下で行われる。
【0029】
またこの反応は、可逆反応であるため平衡収率が存在する。そのため脂肪酸エステルが含まれる脂肪酸エステル相には脂肪酸エステルの他に未反応のトリグリセリド、中間生成物であるジグリセリド、モノグリセリドが残留することが多い。脂肪酸エステルの用途であるディーゼルエンジン用燃料という観点からは、これらの他の生成物はエンジン系フィルタの目詰まりを誘発し、エンジントラブルの原因となる。これを防ぐため原料であるアルコール類を化学量論比よりも過剰に(例えば、トリグリセリドの5モル当量〜10モル当量)加えるのが好ましい。
【0030】
なお、図1に示した脂肪酸エステル生成装置10の反応カラム13は、1つであっても複数であってもよい。反応カラム13を例えば直列に複数設けることでエステル交換反応を段階的に行うことができ、高純度の脂肪酸エステルを生成しやすくなる。
また、上述した例では、遊離脂肪酸除去カラム12と反応カラム13の加温や保温を行うため、ヒータ17a,17bを使用したが、加温機能や保温機能を有するものであればこれに限られるものではない。例えば、遊離脂肪酸除去カラム12や反応カラム13にジャケット付きのものを用い、熱水または蒸気などで加温する方法も採ることもできる。
【0031】
(分離工程)
上記エステル交換反応後は、生成した脂肪酸エステルとグリセリンとは、分離槽14に送られる。これらの分離槽14への導入は、ポンプ等を使用してもよいが、反応カラム13からの残圧により、分離槽14に導入してもよい。
脂肪酸エステルとグリセリンとの分離は遠心分離機などの分離装置を別途使用してもよいが、脂肪酸エステルとグリセリンは比重差があり、通常は反応終了後に静置すると重力により二層に分離する。よって分離槽14内で、静置を行うことで脂肪酸エステルとグリセリンとは分離することができる。
本実施の形態では、グリセリンより脂肪酸エステルの方が比重が小さいため、脂肪酸エステルが上層となり、グリセリンは下層となって分離する。
【0032】
そして脂肪酸エステルとグリセリンが十分に分離するのを待ち、脂肪酸エステルは、脂肪酸エステル貯蔵槽15へ送られ、グリセリンは、グリセリン貯蔵槽16へ送られて、それぞれ貯蔵される。
【0033】
なお、上述した脂肪酸エステル生成装置10において、油脂類に含まれる固形分を除去するために遊離脂肪酸除去カラム12の前に図示しないフィルタ(図示せず)を設けてもよい。また、破砕されたカチオン交換樹脂やアニオン交換樹脂を除去するために反応カラム13の後に同様にフィルタ(図示せず)を設けてもよい。
【0034】
ここで、上述した反応カラム13内に充填されたアニオン交換樹脂は、反応を行ううちに失活等により、その触媒としての機能が低下していく。そこで触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を再生する必要がある。本実施の形態では、触媒機能が低下したアニオン交換樹脂の再生は、以下に説明を行う再生系で行う。
【0035】
図2は、本実施の形態による再生系の一例を示す図である。
図2に示す再生系としてのアニオン交換樹脂再生装置20は、失活等により触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を貯蔵すると共に再生したアニオン交換樹脂を貯蔵する貯蔵器としてのアニオン交換樹脂貯蔵槽21と、触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を再生する再生器としての再生カラム22と、触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を再生するための薬液である酸溶液とアルカリ溶液を貯蔵する酸溶液貯蔵槽23aおよびアルカリ溶液貯蔵槽23bと、アニオン交換樹脂を再生するために使用した後の廃液となった酸溶液を貯蔵する酸廃液槽24aと、同様に廃液となったアルカリ溶液を貯蔵するアルカリ廃液槽24bと、再生したアニオン交換樹脂を洗浄する上水を貯蔵する上水貯蔵槽25と、アニオン交換樹脂貯蔵槽21に貯蔵された触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を再生カラム22に送る手段であり再生したアニオン交換樹脂を再生カラム22から取り出しアニオン交換樹脂貯蔵槽21に送る手段としての水エゼクター26とを備えている。ここで再生カラム22は、反応カラム13(図1参照)とは別のものである。
【0036】
そしてアニオン交換樹脂貯蔵槽21と再生カラム22とは、水エゼクター26を介して配管により接続している。同様に、酸溶液貯蔵槽23a,アルカリ溶液貯蔵槽23b,上水貯蔵槽25と再生カラム22とが、また再生カラム22と酸廃液槽24a,アルカリ廃液槽24bとが配管により接続している。配管としては、ポリ塩化ビニル等の材料よりなるものが使用できる。
【0037】
以下、このように構成されたアニオン交換樹脂再生装置20により失活等により触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を再生する工程の説明を行う。
【0038】
(移送工程)
まず、触媒機能が低下したアニオン交換樹脂の入った反応カラム13を、アニオン交換樹脂が充填されたまま取り外す。反応カラム13は着脱自在であり、いわゆるカートリッジ式になっている。そして、触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を反応カラム13に充填したまま移送させることができる。実際にはアニオン交換樹脂再生装置20のある場所まで移送を行う。
触媒機能が低下したアニオン交換樹脂が充填された反応カラム13をアニオン交換樹脂再生装置20のある場所まで移送した後は、反応カラム13から触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を取り出し、いったんアニオン交換樹脂貯蔵槽21に貯蔵される。ここでアニオン交換樹脂貯蔵槽21は、複数の反応カラム13からアニオン交換樹脂を取り出し貯蔵することができる大きさを有する。
次に、水エゼクター26により、アニオン交換樹脂貯蔵槽21に貯蔵されていた触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を再生カラム22に送り、再生カラム22に移送し充填する。ここで再生カラム22は、複数の反応カラム13から取り出されたアニオン交換樹脂を充填するのに十分な大きさを有し、一度に多くのアニオン交換樹脂の再生処理を行うことができる。
【0039】
(再生工程)
次に、酸溶液貯蔵槽23aから図示しないポンプ等を用いて、再生カラム22内に所定の酸溶液を供給する。本実施の形態では酸溶液として塩酸水溶液を使用する。これにより触媒機能が低下したアニオン交換樹脂に吸着している脂肪酸を溶離することができる。そしてこのときアニオン交換樹脂の交換基は塩素基に置換されて塩素形となる。このようにしてアニオン交換樹脂の酸処理を行った後、使用した塩酸水溶液は、酸廃液として再生カラム22の下部から抜き取られ、酸廃液槽24aに送られる。
【0040】
次に、アルカリ溶液貯蔵槽23bから図示しないポンプ等を用いて、再生カラム22内に所定のアルカリ溶液を供給する。本実施の形態ではアルカリ溶液として水酸化ナトリウム水溶液を使用する。これによりアニオン交換樹脂は水酸化され、交換基として結合していた塩素基は水酸基に置換されて水酸形となる。このようにしてアニオン交換樹脂のアルカリ処理を行った後、使用した水酸化ナトリウム水溶液は、アルカリ廃液として再生カラム22の下部から抜き取られ、アルカリ廃液槽24bに送られる。
再生カラム22は、このように酸溶液やアルカリ溶液を使用するため内面にゴムライニングを施した鋼板製のものを使用することが好ましい。
【0041】
そして、上水貯蔵槽25から図示しないポンプ等を用いて、上水を再生カラム22内に供給する。これにより前述した酸やアルカリ溶液の所定濃度への希釈およびアニオン交換樹脂に残存する水酸化ナトリウム水溶液を除去するための洗浄を行うことができる。
【0042】
以上の工程により触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を再生することができる。この再生工程は、反応カラム13に充填されるアニオン交換樹脂の量よりも大きいバッチサイズで行うことができるため、より効率的にアニオン交換樹脂の再生を行うことができる。
【0043】
(返送工程)
そして、前述した水エゼクター26により、再生したアニオン交換樹脂を再生カラム22からアニオン交換樹脂貯蔵槽21に送り、貯蔵する。アニオン交換樹脂貯蔵槽21にはアニオン交換樹脂と水を分離するメッシュ状のろ布が具備されており、槽下部の弁(図示せず)を開けることにより水切りが可能な構造を有している。アニオン交換樹脂をアニオン交換樹脂貯蔵槽に受け入れた後は前述した弁を開けて十分な時間放置し、同伴水を切ると、乾燥状態に達する。そして、乾燥状態とした再生したアニオン交換樹脂は、再び反応カラム13に充填される。このとき、反応カラム13を真空発生装置(図示せず)などで負圧にすると、そこに生ずる気流に乗ってアニオン交換樹脂は容易に反応器に吸い込まれ、アニオン交換樹脂は移動に水を用いずに乾燥状態が保たれたまま反応カラム13に充填される。なお、真空発生装置と反応カラム13との間にはアニオン交換樹脂を通さないメッシュ状のろ布が具備されている。
【0044】
そして、再生したアニオン交換樹脂は反応カラム13に充填したまま脂肪酸エステルを生成する場所である脂肪酸エステル生成装置10(図1参照)まで返送され、再び脂肪酸エステル生成装置10に取り付けられる。
【0045】
このように反応カラム13にアニオン交換樹脂を充填したまま、脂肪酸エステル生成装置10からアニオン交換樹脂再生装置20への移送とアニオン交換樹脂再生装置20から脂肪酸エステル生成装置10への返送を行うことにより、より容易にまた安全にアニオン交換樹脂の運搬を行うことが可能となる。
【0046】
また、脂肪酸エステル生成装置10とアニオン交換樹脂再生装置20とを別系統とすることで、脂肪酸エステル生成装置10に付帯して同一場所にアニオン交換樹脂再生装置20を設置する必要がない。そのため脂肪酸エステル生成装置10を設置する場所の制約を受けにくい。即ち、狭い場所や、酸溶液、アルカリ溶液の入手、取り扱い、廃液処理等が困難な場所においても脂肪酸エステルの製造を行うことができる。
【0047】
更に、アニオン交換樹脂再生装置20で大量のアニオン交換樹脂の再生をまとめて行うことができるため、酸溶液、アルカリ溶液等の薬液のロスが少なくなりやすい。更に再生処理を行う回数を減少させることができるため、労力の節約を行いやすくなる。
【0048】
また更に、従来のように反応カラム13と再生カラム22を兼用する場合に比べ、反応カラム13の構造を簡略化することができる。即ち、反応カラム13に酸溶液、アルカリ溶液等の薬液の供給口を設ける必要がない。また再生のため酸溶液やアルカリ溶液を反応カラム13内に導入する必要があり、酸溶液やアルカリ溶液による腐食を防止するため内面にゴムライニングを施したものを使用する必要があったが、本実施の形態では、不必要である。即ち、内面にゴムライニングを施さない通常のステンレス製のカラムを反応カラム13として使用することができる。また運転操作も簡単になるため、運転員の熟練を必ずしも要しない。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限りこれらの実施例により限定されるものではない。
【0050】
〔生成系〕
本実施例では、生成系として図1に示した脂肪酸エステル生成装置10を用いた。
そして、油脂類として廃食油を、またアルコール類としてメタノールを使用し、廃食油/メタノールのモル比が1/6.3になるように調整しつつ、油脂類貯蔵槽11aおよびメタノール貯蔵槽11bから遊離脂肪酸除去カラム12内に導入を行った。なお遊離脂肪酸除去カラム12に導入される直前で、3μmの濾過精度を有する糸巻きフィルタを通して、廃食油に含まれる固形分の除去をおこなった。
【0051】
次にカチオン交換樹脂である三菱化学株式会社製のダイヤイオンPK208LHを充填した遊離脂肪酸除去カラム12を通し、廃食油中の遊離脂肪酸をメタノールとのエステル化反応により脂肪酸エステルにすることで除去した。このとき反応は大気圧下で行い、ヒータ17aにより、遊離脂肪酸除去カラム12内の温度が60℃になるようにした。
【0052】
次にアニオン交換樹脂である三菱化学株式会社製のダイヤイオンPA−306Sの交換基をOH基に置換し、充填した反応カラム13で、アニオン交換樹脂を触媒として、廃食油とメタノールとをエステル交換反応させた。その結果、脂肪酸エステルとグリセリンが生成された。このとき反応は大気圧下で行い、ヒータ17bにより、反応カラム13内の温度が50℃になるようにした。
【0053】
次に、生成した脂肪酸エステルとグリセリンを、分離槽14に導入し、静置を行い脂肪酸エステルとグリセリンの分離を行った。分離後、脂肪酸エステルは、脂肪酸エステル貯蔵槽15に送り、またグリセリンは、グリセリン貯蔵槽16に送ってそれぞれ貯蔵を行った。
【0054】
〔再生系〕
本実施例では、再生系として図2に示したアニオン交換樹脂再生装置20を用いた。
まず反応カラム13(図1参照)を失活により触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を充填したまま脂肪酸エステル生成装置10(図1参照)から取り外し、アニオン交換樹脂再生装置20のある場所まで移動を行った。
【0055】
そして、反応カラム13から、触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を取り出し、アニオン交換樹脂貯蔵槽21に貯蔵した。
次に水エゼクター26を使用して、触媒機能が低下したアニオン交換樹脂を再生カラム22に導入した。本実施の形態では、反応カラム13中に充填されていた触媒機能が低下したアニオン交換樹脂の量の4倍の量を再生カラム22内に導入した。
【0056】
次に酸溶液貯蔵槽23aから5%の塩酸水溶液を、またアルカリ溶液貯蔵槽23bから4%の水酸化ナトリウム水溶液を順に再生カラム22内に供給し、通液を行うことでアニオン交換樹脂の再生を行った。使用後の塩酸水溶液は酸廃液槽24aへ、また使用後の水酸化ナトリウム水溶液は、アルカリ廃液槽24bに送り貯蔵した。
上水貯蔵槽25から上水を再生カラム22内に供給し、前述の塩酸水溶液および水酸化ナトリウム水溶液の希釈に供すると共に、再生したアニオン交換樹脂を洗浄した。なお以上の再生カラム22内での反応等は大気圧下で常温にて行った。
【0057】
洗浄が終了後、再生したアニオン交換樹脂は、再び水エゼクター26を用いて、アニオン交換樹脂貯蔵槽21に戻し貯蔵を行った。
【0058】
そして、再生したアニオン交換樹脂は、前述のようなアニオン交換樹脂貯蔵槽21でのアニオン交換樹脂乾燥操作および真空発生装置などによる空気輸送手段で以ってアニオン交換樹脂貯蔵槽21から、再び反応カラム13に充填し、反応カラム13に充填された状態で脂肪酸エステル生成装置10まで移動した。そして再び脂肪酸エステル生成装置10に取り付けた。この再生したアニオン交換樹脂を使用し、反応カラム13で、油脂類とメタノールとのエステル交換反応を行うと再び触媒として作用し、脂肪酸エステルが生成することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施の形態による生成系の一例を示す図である。
【図2】本実施の形態による再生系の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
10…脂肪酸エステル生成装置、12…遊離脂肪酸除去カラム、13…反応カラム、14…分離槽、20…アニオン交換樹脂再生装置、21…アニオン交換樹脂貯蔵槽、22…再生カラム、26…水エゼクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒としてアニオン交換体を用い、油脂類とアルコール類とのエステル交換反応により脂肪酸エステルを製造する脂肪酸エステルの製造方法であって、
前記油脂類および前記アルコール類をアニオン交換体が充填された反応器に導入することで、前記脂肪酸エステルを生成する生成工程と、
生成した前記脂肪酸エステルを副生品と分離する分離工程と、
前記反応器を移送し、複数の前記反応器から前記アニオン交換体を取り出し、再生処理を行う再生器に充填する移送工程と、
前記反応器とは別の再生器にて前記アニオン交換体の再生処理を行う再生工程と、
再生された前記アニオン交換体を前記再生器から取り出し、前記反応器へ充填し返送する返送工程と、
を有することを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記反応器は、着脱自在であり、前記アニオン交換体を当該反応器に充填したまま前記移送および前記返送を行うことを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記再生工程は、前記アニオン交換体に吸着している脂肪酸を溶離し、当該アニオン交換体を水酸化することにより行うことを特徴とする請求項1または2に記載の脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記生成工程の前に、カチオン交換体を触媒とし、前記油脂類に含まれる遊離脂肪酸と前記アルコール類とのエステル化反応により脂肪酸エステルを生成することにより、当該遊離脂肪酸を除去する除去工程を更に有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】
触媒としてアニオン交換体を用い、油脂類とアルコール類とのエステル交換反応により脂肪酸エステルを製造する脂肪酸エステルの製造装置であって、
前記油脂類、前記アルコール類および前記アニオン交換体を混合し、前記脂肪酸エステルを生成する着脱自在な反応器と、
生成した前記脂肪酸エステルを副生品と分離する分離器と、
前記反応器を再生処理を行う再生器に移送する移送手段と、
前記アニオン交換体の再生を行う前記反応器とは別の再生器と、
再生された前記アニオン交換体を前記反応器へ充填し返送する返送手段と、
を有することを特徴とする脂肪酸エステルの製造装置。
【請求項6】
前記油脂類に含まれる遊離脂肪酸をカチオン交換体を使用することで除去する除去器を更に有することを特徴とする請求項5に記載の脂肪酸エステルの製造装置。
【請求項7】
前記移送手段は、複数の前記反応器から取り出した前記アニオン交換体を貯蔵する貯蔵器に貯蔵した後に、当該アニオン交換体を前記再生器に送る手段を含み、前記返送手段は、再生した当該アニオン交換体を当該再生器から取り出し当該貯蔵器に送る手段を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の脂肪酸エステルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−195938(P2010−195938A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42752(P2009−42752)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(505388713)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000232863)日本錬水株式会社 (75)
【Fターム(参考)】