説明

脂質レベルを哺乳動物において低下させる方法

本発明は、糖化最終産物(AGE)を阻害する化合物、LR−9、LR−74、及びLR−90を使用して、脂質レベルを哺乳動物において低下させる方法に関する。非酵素的タンパク糖化を阻害する上記化合物は、糖酸化及び脂質酸化における中間体を捕捉して、AGE及びALEの生成に重要な酸化反応を阻害することによって、標的タンパク質での脂質過酸化最終産物(ALE)の生成も阻害する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本出願は、先行出願中の米国仮特許出願番号60/514,476の利益を特許請求し、その開示はそのまま参照により本明細書に組み込まれる。
背景技術
1.技術分野
[0002] 本出願は、生物医科学の分野に関し、そして特に、脂質レベルを哺乳動物において低下させる方法に関する。ある態様は、4−(2−ナフチルカルボキサミド)フェノキシイソ酪酸;2−(8−キノリノキシ)プロピオン酸;及びメチレンビス(4,4’−(2−クロロフェニルウレイドフェノキシイソ酪酸))のような化合物を投与することを含んでなる阻害へ向けられる。
【背景技術】
【0002】
2.背景技術
[0003] 糖尿病の制御及び合併症試験(The Diabetic Control and Complications Trial)(DCCT)とUKPDS研究により、高血糖症は、糖尿病性合併症の発症の主たる危険因子として同定された。糖尿病の制御及び合併症試験研究グループ(The Diabetes Control and Complications Trial Research Group)N. Engl. J. Med. 329: 977-986, 1993; 英国後向き糖尿病研究グループ(UK Prospective Diabetes Study Group)Lancet 352: 837-853, 1998。糖化最終産物(AGE)の生成は、高血糖症と糖尿病の長期合併症の間の重要な病原性のつながりとして同定された。Makita et al., N. Eng. J. Med. 325: 836-842, 1993; Bucala and Cerami, Adv. Pharmacol 23: 1-33, 1992; Browlee, Nature 414: 813-820, 2001; Sheetz and King, J. A. M. A. 288: 2579-2588, 2002; Stith et al., Expert Opin. Invest. Drugs 11: 1205-1223, 2002。
【0003】
[0004] 非酵素的な糖化(メイラード反応としても知られている)は、還元糖とタンパク質、脂質、及びDNAのアミノ基との間の複雑な一連の反応であり、褐色化、蛍光、及び架橋結合をもたらす。Bucala et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6434-6438, 1993; Bucala et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 105-109, 1984; Singh et al., Diabetologia 44: 129-146, 2001。この複雑な縮合、転位、及び酸化のカスケードより、糖化最終産物(AGE)として知られる、不均質、不可逆、タンパク分解抵抗性、抗原性の産物が産生される。Singh et al., Diabetologia 44: 129-146, 2001; Ulrich and Cerami, Rec. Prog. Hormone Res. 56: 1-2, 2001。これらAGEの例は、Nε−(カルボキシメチル)リジン(CML)、Nε−(カルボキシエチル)リジン(CEL)、Nε−(カルボキシメチル)システイン(CMC)、arg−ピリミジン、ペントシジン、及びイミダゾリウム架橋のメチル−グロキサール−リジン二量体(MOLD)及びグリオキサール−リジン二量体(GOLD)である。Thorpe and Baynes, Amino Acids 25: 275-281, 2002; Chellan and Nagaraj, Arch. Biochem. Biophys. 368: 98-104, 1999。この種の糖化は、シッフ塩基の可逆的な生成より始まり、これが転位を受けて、安定したアマドリ生成物を生成する。
【0004】
[0005] シッフ塩基とアマドリ生成物は、ともにジカルボニル中間体を介した一連の反応をさらに受けて、AGEを生成する。アラキドン酸やリノール酸のような多価不飽和脂肪酸(PUFA)の脂質過酸化もカルボニル化合物を生じる。この中には、MG及びGOのように、炭水化物より生成するものと同一であるものもあれば、マロンジアルデヒド(MDA)、4−ヒドロキシノネナール(HNE)、及び2−ヒドロキシヘプタナール(2HH)のように、脂質を特徴的とするものもある。Baynes and Thorpe, Free Rad. Biol. Med. 28: 1708-1716, 2000; Fu et al., J. Biol. Chem. 271: 9982-9986, 1996; Miyata et al., FEBS Lett. 437: 24-28, 1998; Miyata et al., J. Am. Soc. Nephrol. 11: 1744-1752, 2000; Requena et al., Nephrol. Dial. Transplant. 11 (supp. 5): 48-53, 1996; Esterbauer et al., Free Radic. Biol. Med. 11: 81-128, 1991; Requenta et al., J. Biol. Chem. 272: 17473-17479, 1997; Slatter et al., Diabetologia 43: 550-557, 2000 を参照のこと。これらの反応性カルボニル種(RCS)は、タンパク質のリジン及びアルギニン残基と速やかに反応して、Nε−カルボキシメチルリジン(CML)、Nε−カルボキシエチルリジン(CEL)、GOLD、MOLD、マロンジアルデヒド−リジン(MDA−リジン)、4−ヒドロキシノネナール−リジン(4−HNE−リジン)、ヘキサノイル−リジン(Hex−リジン)、及び2−ヒドロキシヘプタノイル−リジン(2HH−リジン)のような、脂質過酸化最終産物(ALE)の生成をもたらす。図1を参照のこと。Thorpe and Baynes, Amino Acids 25: 275-281, 2002; Miyata et al., FEBS Lett. 437: 24-28, 1998; Miyata et al., J. Am. Soc. Nephrol. 11: 1744-1752, 2000; Uchida et al., Arch. Biochem. Biophys. 346: 45-52, 1997; Baynes and Thorpe, Free Rad. Biol. Med. 28: 1708-1716, 2000。CML、CEL、GOLD、及びMOLDは、脂質及び炭水化物の代謝より生じ得るので、組織タンパク質に対するこれらの化学修飾は、糖及び脂質の酸化より生じる酸化ストレスのバイオマーカーとして役立つ場合がある。Fu et al., J. Biol. Chem. 271: 9982-9986, 1996; Requena et al., Nephrol. Dial. Transplant. 11 (supp. 5): 48-53, 1996。しかしながら、この化学修飾と糖尿病性合併症の病理発生における「高血糖症」対「高脂血症」の相対的な役割については依然としてはっきりしない。追加的に、CML及びCELのようなタンパク修飾のいくつかのバイオマーカーは、糖又は脂質の供給源のどちらからも誘導される場合があり、実験データの解釈及び解析をさらに複雑にする。
【0005】
[0006] ヒト糖尿病患者と糖尿病の動物モデルでは、上記の非酵素的な反応が促進されて、ヘモグロビン、アルブミン、LDL関連タンパク質、及びアポプロテインに加えて、コラーゲン、フィブロネクチン、チューブリン、水晶体クリスタリン、ミエリン、ラミニン、及びアクチンのような長寿命の構造タンパク質上でのAGEの蓄積を引き起こす。細胞の機能において重要な役割をしばしば有する、影響を受ける分子の構造及び機能上の完全性は、これらの修飾により混乱されて、腎臓、眼、神経、及び微小血管のような臓器の機能に対して重篤な結果を伴い、これにより腎症、アテローム性動脈硬化症、微小血管症、神経障害、及び網膜症のような様々な糖尿病性合併症が必然的にもたらされる。Boel et al., J. Diabetes Complications 9: 104-129, 1995; Hendrick et al., Diabetologia 43: 312-320, 2000; Vlassara and Palace, J. Intern. Med. 251: 87-101, 2002。
【0006】
[0007] 現行の研究は、MGO、GO、GLA、デヒドロアスコルビン酸塩、3−デオキシグルコゾン、及びマロンジアルデヒドのような反応性カルボニル種がAGE/ALE生成とタンパク架橋結合の強力な前駆体であることを示している。Lyons and Jenkins, Diabetes Rev. 5: 365-391, 1997; Baynes and Thorpe, Diabetes 48: 1-9, 1999; Miyata et al., J. Am. Soc. Nephrol. 11: 1744-1752, 2000; Thornalley et al., Biochem. J. 344: 109-116, 1999。in vitro 研究は、これらのカルボニルが主にアスコルビン酸塩及び多価不飽和脂肪酸を起源として、グルコースそれ自身を起源としないことをさらに示唆する。Miyata et al., FEBS Lett. 437: 24-28, 1993。
【0007】
[0008] 直接の証拠は、腎臓、ラット水晶体の異なる病巣とアテローム性動脈硬化症における糖尿病性合併症の進行におけるAGE/ALEの寄与を示唆している。Horie et al., J. Clin. Invest. 100: 2995-3004, 1997; Matsumoto et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 241: 352-354, 1997; Bucala and Vlassara, Exper. Physiol. 82: 327-337, 1997;「心臓血管系機能の内分泌学(Endocrinology of Cardiovascular Function)」E. R. Levin and J. L. Nadler(監修)1998. Kluwer Acad. Publishers 中、Bucala and Rahbar, 159-180頁; Horie et al., J. Clin. Invest. 100: 2995-3004, 1997; Friedman, Nephrol. Dial. Transplant. 14(supp. 3): 1-9, 1999; Kushiro et al., Nephron 79: 458-468, 1998。いくつかの一連の証拠は、糖尿病における高血糖症が、メチルグリオキサール、グリコールアルデヒド、グリオキサール、3−デオキシグルコゾン、マロンジアルデヒド、及びヒドロキシノネナールのような反応性カルボニル種(RCS)の増加を引き起こすことを示す。「カルボニルストレス」は、反応性カルボニル中間体がタンパク質のリジン残基と付加物を生成することを介した、タンパク質及び脂質の修飾の増加をもたらし、酸化ストレスと組織損傷がこれに続く。Lyons and Jenkins, Diabetes Rev. 5: 365-391, 1997; Baynes and Thorpe, Diabetes 48: 1-9, 1999; Miyata et al., J. Am. Soc. Nephrol. 11: 1744-1752, 2000。図1を参照のこと。
【0008】
[0009] DCCT/EDIC、EURODIAB後向き合併症研究グループ、Hoorn研究及びUKPDSのようないくつかの最近の臨床試験は、一致して、糖尿病の人々と非糖尿病集団における、糖尿病性合併症(網膜症、腎症、心臓血管系疾患)の発症の独立した危険因子として血漿トリグリセリド濃度を同定している。Jenkins et al., Kidney Int. 64: 817-828, 2003; Chaturvedi et al., Kidney Int. 60: 219-227, 2001; van Leiden et al., Diabetes Care 25: 1320-1325, 2002; 英国後向き糖尿病研究(UKPDS:10)Diabetologia. 36: 1021-1029, 1993。これらの研究により、微小アルブミン尿症と血漿トリグリセリド及びコレステロールのレベルの間の強い相関性が確認された。さらに、ピリドキサミン(PM)及びアミノグアニジン(AG)(糖尿病及び高脂血症ラットにおいて知られる2つのAGE阻害剤)の脂質低下効果に関する最近の研究(Degenhardt et al., Kidney Int. 61: 939-950, 2002; Alderson et al., Kidney Int. 63: 2123-2133, 2003)は、これらの動物において増加した脂質過酸化が存在すること、そしてPMとAGが実際に脂質低下効果を有することを示唆した。さらに、PMの脂質低下効果と、皮膚コラーゲン中のAGEと血漿トリグリセリド及びコレステロールとの相関性は、糖尿病ラットにおいて脂質がAGEの重要な供給源であり得ることを示唆した。PMで処置した糖尿病及び高脂血症ラットの尿には、アラキドン酸及びリノール酸の脂質酸化中間体のいくつかのPM付加物が実質的により高い濃度で排出され、これらの動物における脂質酸化の増加を示唆した。Metz et al., J. Biol. Chem. [Aug 15, 公表予定], 2003。これらの結果に基づいて、著者は、糖尿病及び肥満において、特に高脂血症又は脂質異常症の存在時には、たとえ高血糖症の非存在時でも、脂質がタンパク質の化学修飾の主要な供給源であり得ると結論した。Alderson et al., Kidney Int. 63: 2123-2133, 2003; Metz et al., J. Biol. Chem. [Aug 15, 公表予定], 2003。
【0009】
[0010] ここ数年にわたり、いくつかの天然及び合成の化合物が潜在的なAGE/ALE阻害剤として提唱されて、推進されてきた。これらには、アミノグアニジン、ピリドキサミン、OPB−9195、カルノシン、メトホルミン、並びに、いくつかのアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)とアンジオテンシンIIの1型受容体ブロッカー(ARB)、アリール(及び複素環式)ウレイド及びアリール(及び複素環式)カルボキサミドフェノキシイソ酪酸の誘導体が含まれる。Rahbar et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 262: 651-656, 1999; Rahbar et al., Mol. Cell. Biol. Res. Commun. 3: 360-366, 2000; Rahbar and Figarola, Curr. Med. Chem. (Immunol. Endocr. Metabol. Agents) 2: 135-161, 2002; Rahbar and Figarola, Curr. Med. Chem. (Immunol. Endocr. Metabol.) 2: 174-186, 2002; Forbes et al., Diabetes 51: 3274-3282, 2002; Metz et al., Arch. Biochem. Biophys. 419: 41-49; Nangaku et al., J. Am. Soc. Nephrol. 14: 1212-1222, 2003; Rahbar and Figarola, Arch. Biochem. Biophys. 419: 63-79, 2003。最近、これらの化合物の中に、in vivo で有効なAGE阻害剤であり、ストレプトゾトシン誘発性糖尿病において糖尿病性腎症の発症を妨げるものがあることが見出された。
【0010】
[0011] この10年間にわたり、糖尿病性腎症と他の糖尿病の合併症の病理発生の主要因子としてAGE/ALEを示唆する証拠が蓄積されてきた。非糖尿病ラットへAGEを投与すると、糸球体硬化症及びアルブミン尿症をもたらし、糖尿病において腎損傷を引き起こすのにAGE単独で十分であり得ることを示している。Vlassara et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11704-11708, 1994。糖酸化生成物の少ない食餌で飼育した糖尿病動物は、糖酸化生成物が多い食餌で飼育した動物と比較して、糖尿病性腎症の症状をさほど発現しなかった。Zheng et al., Diabetes Metab. Res. Rev. 18: 224-237, 2002。AGE/ALEが少なくとも2つの主要な機序によって糖尿病の組織損傷の原因になることは広く受け入れられている。Browlee, Nature 414: 813-820, 2001; Stith et al., Expert Opin. Invest. Drugs 11: 1205-1223, 2002; Vlassara and Palace, J. Intern. Med. 251: 87-101, 2002。第一は、細胞外マトリックス構造と細胞内タンパク質の機能のAGE/ALE生成及びAGE/ALE−タンパク質架橋結合による、受容体非依存性の改変である。他は、様々な細胞表面受容体、特にRAGEとAGEの相互作用を介した細胞機能の受容体依存性の変調である。Wendt et al., Am. J. Pathol. 162: 1123-1137, 2003; Vlassara, Diabetes Metab. Res. Rev. 17: 436-443, 2001; Kislinger et al., J. Biol. Chem. 274: 3170-3174, 1999。
【0011】
[0012] 糖化/脂質過酸化最終産物(AGE/ALE)は、正常な老化プロセスだけでなく、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、及び慢性関節リウマチのような多様な衰弱化疾患の病理発生にも関連があるとされてきた。この病原性プロセスは、上昇した濃度の還元糖又は脂質過酸化産物が血中に、そして糖尿病で生じるような細胞内環境に存在するときに促進される。影響を受ける分子の構造及び機能の両方の完全性は、これらの修飾により混乱されて、短期及び長期において重篤な結果を生じる場合がある。高脂血症、高血糖症、糖尿病、及び「メタボリックシンドローム(代謝性症候群)」のような症候群は一般的であり、罹病及び死亡の一般的な原因であるので、これらの代謝状態の症状及び結果に対抗する方法が当該技術分野で求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明の要約
[0013] 故に、1つの態様において、本発明は、脂質レベルを哺乳動物において低下させる方法を提供し、該方法は、以下の化合物又はその医薬的に許容される塩:LR−9[4−(2−ナフチルカルボキサミド)フェノキシイソ酪酸];LR−74[2−(8−キノリノキシ)プロピオン酸];及びLR−90[メチレンビス(4,4’−(2−クロロフェニルウレイドフェノキシイソ酪酸))]のいずれかの有効量を哺乳動物へ投与することを含んでなる。
【0013】
[0014] 別の態様において、本発明は、脂質の上昇レベルより生じる、糖尿病より生じる合併症を治療する方法を提供し、該方法は、以下の化合物又はその医薬的に許容される塩:LR−9[4−(2−ナフチルカルボキサミド)フェノキシイソ酪酸];LR−74[2−(8−キノリノキシ)プロピオン酸];及びLR−90[メチレンビス(4,4’−(2−クロロフェニルウレイドフェノキシイソ酪酸))]のいずれかの有効量を投与することを含んでなる。
【0014】
[0015] なお別の態様において、本発明は、メンケス病、ウィルソン病、又はX染色体連鎖型弛緩性皮膚のある患者を治療する方法を提供し、該方法は、以下の化合物又はその医薬的に許容される塩:LR−9[4−(2−ナフチルカルボキサミド)フェノキシイソ酪酸];LR−74[2−(8−キノリノキシ)プロピオン酸];及びLR−90[メチレンビス(4,4’−(2−クロロフェニルウレイドフェノキシイソ酪酸))]のいずれかの有効量を投与することを含む。
【0015】
[0016] 3種の化合物(LR−9、LR−74、及びLR−90)のストレプトゾトシン誘発性糖尿病ラットにおける効果を検討した in vivo 試験において、本発明の化合物は、AGE生成のプロセスを阻害して、初期の腎疾患を予防することができただけでなく、脂質酸化反応の間に脂質過酸化最終産物(ALE)の生成を阻害して、トリグリセリド及びコレステロールの糖尿病ラットにおいて増加した濃度を50%より多く効率的に低下させて、糖尿病及び老化で通常認められる合併症を予防した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
好ましい態様の詳細な説明
[0017] 本明細書に考察するLR化合物(図2を参照のこと)は、LR−16より誘導される一群の新規芳香族化合物に属する。LR−16は、ヘモグロビン分子の酸素アフィニティーを高めることにおいて2,3−ビスホスホグリセリン酸塩と相乗的なアロステリックエフェクターとして作用して、そしてそれは、コレステロールの豊富な食餌で飼育したラットにおいて血清コレステロールと低密度リポタンパク質(LDL)を低下させることが示された。Lalezari et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 6117-6121, 1988。
【0017】
[0018] 本明細書に提示する研究は、この新しいLR化合物のいずれでも処置した糖尿病ラットがタンパク尿の発症とクレアチニン排出の低下に関する腎機能において統計的に有意な改善をもたらすことを示した。さらに、組織化学的な観察は、これらLR化合物での処置により、未処置糖尿病ラットと比較した腎臓における糸球体硬化症、皮質尿細管変性、及びコラーゲン沈積の出現率の低下により示されるように、腎臓の構造傷害が最小化されることを示した。追加的に、本化合物は、糖尿病ラットの腎臓の間質拡張及び基底膜肥厚化を妨げた。上記の化合物は、高血糖症に対する効果を伴わずに、糖尿病ラットのコラーゲン組織及び腎臓における血清AGEの増加と免疫反応性AGEの in situ 蓄積を有効に阻害した。LR化合物は、糖尿病ラットの高脂血症に見出されるコレステロール及びトリグリセリド濃度を低下させたが、対照の非糖尿病ラットの脂質レベルは有意に変化させなかった。
【0018】
[0019] 理論により束縛されることを望まなければ、糖尿病性腎症を予防することにおけるLR化合物の有益な効果について提唱される2つの機序は、その脂質低下活性そのもの、又はそのAGE阻害剤及び抗酸化特性である。スタチンのような脂質低下化合物での処置による血漿脂質の低下は、非糖尿病性肥満ラットにおいて腎症に抗する防護をもたらすことが示されている。O'Donnell et al., Am. J. Kidney Dis. 22: 83-89, 1993; Oda and Keane, Kidney Int. Suppl. 71: S2-S5, 1999。一方、AGE/ALE阻害剤のピリドキサミンも、おそらくは脂質酸化からのAGE/ALE生成の様々な反応性カルボニル中間体に干渉することによって、糖尿病ラットと非糖尿病性肥満ラットの両方で高脂血症及び腎症を矯正することが示されている。Degenhardt et al., Kidney Int. 61: 939-950, 2002; Alderson et al., Kidney Int. 63: 2123-2133, 2003。脂質過酸化に対してほとんど効果がないピリドキサミンと違って、3つのLR化合物は、いずれも in vitro でLDL酸化の強力な阻害剤であった。
【0019】
[0020] 従って、糖尿病ラットでの腎臓に対するその保護効果に加えて、上記の新規化合物は、アテローム性動脈硬化症と糖尿病の他の血管合併症の治療に使用することができる。そのような追加の有益な効果は、予想外であった。糖尿病ラットで見られる脂質過酸化の増加は、非糖尿病ラットに比べてこれらの動物では基質レベルがより高い(血漿脂質レベルが増加している)ことに相関しているという可能性があったが、非糖尿病と糖尿病対照ラットの両方において、血漿コレステロール又はトリグリセリド濃度と血漿脂質ヒドロペルオキシドのレベルとの間に有意な相関性はなかった。これらの結果は、脂質過酸化が血漿中の利用可能な全脂質とは無関係であり得ることを示唆し、このことは、ヒトや動物の研究における初期の観察事実と一致している。Griesmacher et al., Am. J. Med. 98: 469-475, 1995; Ihm et al., Metabolism 48: 1141-1145, 1999。より重要にも、上記の知見は、脂質過酸化産物の上昇が糖尿病ラットでの増加したAGE/ALE生成の結果としての酸化ストレスの増加と関連し得ることを示している。
【0020】
[0021] アミノグアニジン、ピリドキサミン、及びOPB−9195のような腎保護効果のある既知のAGE阻害剤は、高反応性RCSと相互作用してカルボニルトラップとして作用して、AGE/ALE生成を妨げることによってAGE/ALE蓄積を防ぐと考えられている。しかしながら、これらAGE阻害剤の金属キレート化特性は、AGE生成を in vivo で妨げることでその有効性に貢献する可能性がある。上記LR化合物の作用機序は依然として不明であるが、このLR化合物は、Cu2+の強力な(AG及びPMより強力な)キレート化剤であり、アスコルビン酸の酸化の効果的な阻害剤である。さらに、上記の化合物は、ヒドロキシルラジカル生成を強く阻害して、LR−90は、スーパーオキシド産生も妨げる可能性がある。あるAGE及びALEの生成に重要なタンパク質カルボニル及びアマドリ生成物の生成及び産生に関与する様々な経路では、フリーラジカル、遷移金属、又はその両方が必要とされる場合がある。Miyata et al., J. Am. So. Nephrol. 13: 2478-2487, 2002; Voziyan et al., J. Biol. Chem. (2003 Sep 15)[掲載予定]。しかしながら、主にRCSを捕捉することによって作用するアミノグアニジン及びピリドキサミンと違って、上記の新規LR化合物は、酸化代謝に干渉することによって、例えば、ヒドロキシラジカルの生成を低下させて、糖/脂質酸化反応をさらに促進し得る金属イオンと相互作用することによって、RCSの生成も抑制する。
【0021】
[0022] 注目すべきことに、化合物LR−9、−74、及び−90は、アスコルビン酸の銅触媒酸化の強力な阻害剤である。この観察事実より、LR−9、−74、又は−90のいくつかの追加の使用が指摘され、銅が関与する状態、症候群、又は疾患における治療薬としての使用が含まれる。体内で、銅イオンは、第一銅(Cu)又は第二銅(Cu++)の状態で見出し得る。一般に、銅が関与する疾患は、2つの主要なカテゴリー:(1)過剰レベルの銅が含まれる、銅への環境曝露に関連した疾患、及び(2)酵素又は生物学的プロセスにおける銅の関与が含まれる、銅代謝、銅の体内分布、及び生物学的プロセスにおける銅の役割に関連した疾患へ分類される。疾患における関連が示唆される銅関連酵素には、スーパーオキシドジスムターゼ(Cu/Zn SOD)(筋萎縮性側索硬化症に関連する);ドパミン及びノルエピネフリンのようないくつかの脳神経伝達物質を生成又は異化する、チロシンヒドロキシラーゼ及びドパミン−β−ヒドロキシラーゼ;神経伝達物質のノルエピネフリン、エピネフリン、及びドパミンの代謝においてある役割を担い、神経伝達物質のセロトニンの分解にも機能するモノアミンオキシダーゼ(MAO);コラーゲン及びエラスチンの架橋結合に必要とされるリジルオキシダーゼ;及び、ニューロンのミエリン鞘のような構造を含むリン脂質の合成に関与するチトクロムcオキシダーゼが含まれる。
【0022】
[0023] 銅結合タンパク質であるセルロプラスミンは、フリーの銅イオンが酸化傷害を触媒することを妨げると考えられている。セルロプラスミンはフェロキシダーゼ活性(第一鉄の酸化)を有し、これにより鉄をその輸送タンパク質上へロードすることが促進される。この移送により、フリー第一鉄イオン(Fe2+)がフリーラジカルの産生を促進することが妨げられる可能性がある。このように、血清銅のレベル、及び/又はセルロプラスミンの銅ローディング状況は、鉄代謝を変調させる可能性がある。銅依存型転写因子は、Cu/Zn SOD、カタラーゼ(別の抗酸化酵素)、及び銅の細胞保存に関連するタンパク質の遺伝子が含まれる、特定の遺伝子の転写に影響を及ぼす可能性がある。銅代謝が関与するさらに特定の疾患状態には、それぞれOMIN参照番号#309400、#277900、及び#304150により収載される、メンケス病(メンケスよじれ毛症候群としても知られる)、ウィルソン病、及びX染色体連鎖型弛緩性皮膚(IX型エーラース・ダンロス症候群又は後角症候群としても知られる)が含まれる。これらの病態で見られる特別の症状(例えば、骨粗鬆症、メンケス患者において血管の破裂又は閉塞をもたらす、脳損傷した脳動脈の灰色物質における神経変性)は、脳血管梗塞、血管破裂、等のような症状又は疾患プロセスにおける銅のより一般的な役割を示す可能性がある。
【0023】
[0024] このように、銅は、正常又は疾患状態に存在するいくつかの生物学的経路において広汎な役割を担うので、ここでは、銅を変調させる化合物を使用する治療介入が有利であろう。そのような化合物の望ましい活性には、限定されないが、溶液中フリーな銅のキレート化、担体タンパク質からの銅の可動化、好ましい生物学的コンパートメントへの銅の最適な分配、生物学的コンパートメントへの銅の最適な封鎖、及び/又は銅排出の促進が含まれる場合がある。
【0024】
[0025] 投与の有効な投与量及び形式は、個々の被検者の臨床状態(例えば、疾患の重症度及び経過)、投与の部位及び方法、投与のスケジューリング、患者の年齢、性別、体重、並びに医療従事者に知られている他の要因を考慮に容れる、受容された医療実践に従ってなされる。故に、被検者の治療用の本発明の組成物の投与量は、個々の被検者で増減すべきである。例えば、mg/m(体表面積)に基づいた、様々な大きさ及び種の動物とヒトへの投与量の相互関係については、Freireich et al., Cancer Chemother. Rep. 50(4): 219-244 (1966) により記載されている。「有効量」は、当該技術分野で知られた手順により決定することができて、疾患状態における識別可能な変化を達成するようなものでなければならない。
【0025】
[0026] AGE生成と脂質代謝に対するその効果に加えて、LR治療は、組織損傷をもたらす炎症経路中のいくつかの工程にも影響を及ぼす可能性がある。LR−90はまた、糖尿病ラットの腎間質組織において細胞浸潤を妨げた。実際、未処置の糖尿病ラットに数多くあって密集した集合体になっている好中球が、LR−90処置した糖尿病ラットでは検出されなかったが、このことは、組織損傷の部位でのCML生成が好中球による酵素的触媒作用により促進されるので、重要である。活性化された好中球は、ミエロペルオキシダーゼ−過酸化水素−塩化物系を使用して、ヒドロキシ−アミノ酸を、CMLの前駆体であるGLAや他の反応性アルデヒドへ変換する。Anderson et al., J. Clin. Invest. 104: 103-113, 1999。そのようなCML前駆体の in vivo 産生は、タンパク質のCML付加物がAGEのリガンドであり、細胞シグナル伝達経路を活性化して遺伝子発現を変調させるので、損傷の部位での追加のAGE産生を生じることによって、ここで観察される腎臓病理に主要な役割を担う可能性がある。in vitro 及び in vivo の研究は、CMLや他のAGEが反応性酸素種の生成を亢進し、近位内皮細胞においてNF−κB活性化を誘導して、いずれも腎傷害へ貢献し得る好炎症性遺伝子産物、サイトカイン、付着分子、及びROSの増加を存続させ得ることを示す。Morcos et al., Diabetes 51: 3532-3544, 2002; Boulanger et al., Kidney Int. 61: 148-156, 2002; Basta et al., Circulation 105: 816-822, 2002。
【0026】
[0027] LR−90処置は、腎皮質におけるニトロチロシン生成により示されるように、腎組織への全体的な酸化傷害を減らした。最近の研究は、ニトロチロシン濃度の増加が初期の糖尿病性尿細管傷害と腎疾患の進行に重要な役割を担うことを示している。Thuraisingham et al., Kidney Int. 57: 968-972, 2002。近位尿細管細胞は、一酸化窒素(NO)を産生して、これがスーパーオキシドと反応すると、強力な酸化体であるペルオキシナイトライト(ONOO)を生成し得る。ペルオキシナイトライトは、タンパク質のチロシン部分をニトロシル化して、ニトロチロシンを産生する。Beckman and Koppenol, Am. J. Physiol. 271 (5 Pt 1): C1424-C1437, 1996; Reiter et al., J. Biol. Chem. 275: 32460-32466, 2000。in vitro 研究は、糖化それ自体が遷移金属を介したスーパーオキシド及びヒドロキシルラジカルの産生をもたらし得ることを示唆した。Sakurai et al., FEBS Lett. 236: 406-410, 1988; Yim et al., J. Biol. Chem. 270: 28228-28233, 1995; Ortwerth et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 245: 161-165, 1998。糖尿病性腎症のラットでのCML−AGE及びニトロチロシン染色の増加は、ラミプリルとアミノグアニジンにより弱めることができて、ACE阻害とAGE生成の遮断がROS生成のような共通の経路に関与する可能性があることを示している。Forbes et al., Diabetes 51: 3274-3282, 2002。
【0027】
[0028] AGE/ALE生成は、触媒として作用する微量の鉄又は銅の存在下に、フリーラジカルが含まれる酸化中間体の産生による脂質の酸化を促進する場合がある。フリーラジカルの生成は、糖尿病では、グルコース酸化(糖酸化)、タンパク質の非酵素的糖化、糖化タンパク質の酸化的分解、及びAGE/ALEのRAGEとの相互作用により亢進される。異常に高いレベルのフリーラジカルと、同時の抗酸化防御機構の低落は、酸化ストレスの増加と後続の脂質過酸化をもたらす場合がある。今回の研究に示すように、糖尿病動物は、腎臓の尿細管及び糸球体において亢進したニトロチロシン染色と、血漿において増加した脂質ヒドロペルオキシドにより示されるように、腎臓と血漿の両方でより高いレベルの酸化ストレスを明示した。実験研究と臨床試験の両方での証拠は、高血糖症誘発性の酸化ストレスが糖尿病の脂質代謝において重要な役割を担う可能性があることを示唆する。
【0028】
[0029] グルコース酸化と糖化は、ともに細胞膜のPUFA過酸化を触媒する可能性がある。高グルコース環境において、組織内で捕捉されたタンパク質及びリポタンパク質は、糖化を受けて、ROSと脂質過酸化産物を産生する場合がある。しかしながら、今回の研究の結果に基づけば、未処置及びLR処置の糖尿病ラットは、グルコース及びHbA1cの濃度において差異を示さず、高血糖症単独では、脂質過酸化のレベルに対して限定された影響しか及ぼさないことを示唆した。対照的に、未処置及びLR処置の糖尿病動物のコラーゲンと腎臓では、AGE/ALEのレベルに有意差があり、LR処置後に脂質及び脂質過酸化産物の濃度の減少が付随した。まとめると、上記のデータは、AGE/ALE生成の阻害により、糖尿病動物において酸化ストレスと後続の傷害を防ぎ得ることを示唆する。
【0029】
[0030] 正常血糖性Zucker肥満及び高脂血症ラットにおいてAGE/ALE阻害剤のPMを用いた最近の研究は、炭水化物とAGEではなく、脂質とALEが、糖尿病におけるほとんどの化学修飾と組織傷害の原因であるかどうかについていくつかの興味深い疑問を提起した。Mert et al., J. Biol. Chem. 278: 42012-42019, 2003; Januszewski et al., Biochem. Soc. Trans. B1: 1413-1415, 2003; Alderson et al., Kidney Int. 63: 2123-2133, 2003。これらラットにおける酸化ストレスは、脂質過酸化産物の最初の出現と抗酸化酵素活性の低下と同時に、腎臓病変及び腎機能不全の発症の引き金になり得る。Poirier et al., Nephrol. Dial. Transplant. 15: 467-476, 2000 を参照のこと。全体的に、上記の研究は、高脂血症と脂質過酸化が、高血糖症の非存在下に腎障害を独立的に引き起こす場合があることを示唆する。追加的に、高コレステロール血症と高トリグリセリド血症は、いずれも、腎疾患の発現の独立した危険因子として認知され、糖尿病と無関係なネフローゼ症候群とも関連がある。脂質低下薬(例えば、スタチン)による血漿脂質のさらなる低下は、糖尿病性腎症に抗する腎保護を成功裏にもたらした。本研究に記載されるように、LR−9とLR−74は、脂質過酸化反応を阻害し、それ故に全般的な抗酸化特性を保有する。これらの化合物は、いずれも、AG、PM、及びLR−90と比較してより弱いカルボニル捕捉活性を有するが、ヒドロキシルラジカル生成の強い阻害剤であり、必然的に、これら原型のAGE阻害剤と比較して、異なるAGE/ALE阻害機序で作用している可能性がある。
【0030】
[0031] 酸素、レドックス活性遷移金属、及びROSは、AGE及びALE生成の触媒である。従って、ある種のAGE及びALEの生成に重要な、RCS及びアマドリ生成物の生成及び産生に関与する様々な経路には、フリーラジカル、遷移金属、又はその両方が必要とされる可能性がある。しかしながら、主にRCSを捕捉することによって作用するAG及びPMと異なり、本明細書で論じるLR化合物には、おそらくはフリーラジカルの生成を阻害して、糖/脂質酸化反応をさらに促進し得る金属イオンと相互作用することにより酸化代謝に干渉することによってRCSの産物を低下させる可能性もある。今回、LR化合物は、CML及びCELのようなAGE/ALEのレベルを低下させ、コラーゲンの化学修飾を阻害して、糖尿病動物の血漿及び腎臓における全体的な酸化ストレスを減少させた。すべてのこれらの効果は、血管壁の肥厚化と弾性の消失、膜透過性、及び炎症プロセス(RAGE相互作用を介した)に影響を及ぼす場合があり、これは、脂質異常症の予防をもたらす可能性がある。
【0031】
[0032] LR化合物が血漿脂質を低下させて脂質過酸化反応を in vivo で阻害する方法がどうであれ、そのような効果は、これら化合物のあり得る治療適用を広げるものである。脂質過酸化物の分解は、AGE及びALEを産生し得る様々なRCSと、血管壁の形態(form)細胞における脂質及びリポタンパク質の蓄積をもたらし得る様々な脂質付加物を産生する一連の反応を始動させる。LDLは、血漿中の脂質ヒドロペルオキシドの主要な担体として同定されて、LDLの酸化修飾は、アテローム性動脈硬化症の発現における原因の工程として示唆されている。レドックス活性の遷移金属及びフリーラジカルは、AGE生成及び糖酸化と同様に、このプロセスとの関連が示唆されてきた。LDLを in vivo で修飾することにおける遷移金属の実際の関与については相反する証拠があるが、ヒトのアテローム性動脈硬化巣は、上昇レベルのレドックス活性の銅及び鉄を含有して、ヒト及び動物のモデルでは、様々な抗酸化薬がLDL酸化を阻害して、アテローム性動脈硬化症の発現を遅延させることが示されている。金属キレート化療法は、冠動脈疾患のある患者の内皮機能を改善するのに有効である。このように、AGE/ALE生成を阻害して酸化ストレスを抑えることができる薬剤は、糖尿病被検者においてアテローム性動脈硬化症の発現を妨げることができる。本研究におけるLR化合物の銅をキレート化する能力は、in vitro 及び in vivo で観察される脂質過酸化反応の阻害についての機序の1つになり得る。なぜなら、脂肪酸(リノール酸)と本化合物との間で形成される付加物がRP−HPLCを使用しても検出されず、上記の化合物は脂質酸化反応において消費されなかったからである。さらに、どの化合物にもリポソームキシゲナーゼ仲介性LDL酸化の効果はなかった。これらの知見は、上記LR化合物が、主としてその抗酸化/金属キレート化特性により、AGE/ALE生成と、少なくともある程度は脂質過酸化反応を阻害するという主張をさらに強める。今回の研究におけるLR−74の、LR−9に比べて全体的に優れた腎保護、脂質低下、及び抗脂質過酸化効果は、前者の化合物のより優れた抗酸化及びヒドロキシルラジカル捕集特性を反映するものであり得る。Figarola et al., Diabetologia 46: 1140-1152。しかしながら、両薬物を50mg/Lで与えた場合、LR−74はLR−9用量の約1.5倍で投与された(LR−9の約0.15ミリモル/Lに対してLR−74は0.23ミリモル/L)。バイオアベイラビリティと薬物動態が同様であると仮定すると、動物に投与した投与量にこれだけの違いがあるにもかかわらず、LR−9の効果は、LR−74と同じくらい印象的である。
【0032】
[0033] 要約すると、我々は、AGE/ALE生成を in vivo で阻害して、糖尿病動物における初期の腎機能不全の進行を遅延又は阻害することもできる化合物を同定した。上記の化合物はまた、上記の動物において高脂血症を防いで、酸化ストレス全般を阻害する。本明細書に記載するLR化合物は、AGE/ALEと中間化合物の蓄積が主要な貢献因子である初期の腎疾患と他の糖尿病性合併症に有効な治療モダリティになり得る。そのAGE阻害特性とは別に、上記の化合物は、糖尿病性腎疾患とアテローム性動脈硬化症のいずれの発現にも影響し得る脂質低下特性を保有する。遷移金属をキレート化する本化合物の能力、RCSとの相互作用、及び/又はRCS生成への介入は、フリーラジカル産生を阻害することとともに、上記化合物の腎保護及び脂質低下効果に仲介する可能性がある。
【0033】
【化1】

【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
【化9】

【0042】
【化10】

【0043】
【化11】

【0044】
【化12】

【0045】
【化13】

【実施例】
【0046】
実施例
実施例1.糖尿病及び対照ラットの処置
[0034] 雄性スプリーグ・ドーリーラット(約175〜200g)を処置前の1週間馴化してから、一晩絶食の後でSTZ(クエン酸緩衝液(pH4.5)中65mg/kg)の腹腔内注射により糖尿病にした。対照(非糖尿病)動物には緩衝液だけを注射した。ストレプトゾトシン(STZ)注射から7日後に血漿グルコース濃度を測定することによって糖尿病を確認した。20ミリモルより高い血漿グルコース濃度のある動物だけを糖尿病として分類して、本試験に使用した。これらの糖尿病ラットを未処置糖尿病対照群と糖尿病処置群へ無作為に分けた。処置群には、本試験の期間(LR−90では32週;LR−9及びLR−74では30週)を通して、LR化合物をその飲料水中50mg/lで与えた。すべての動物を個別に収容して、食餌と水を自由に摂取させた。
【0047】
[0035] ラットより血液(尾静脈より)と尿の試料を血糖対照分析とアルブミン尿測定用に採取した。血漿グルコースと糖化ヘモグロビンを測定することによって、血糖を8週ごとにモニタリングした。血漿又は血清についても、全コレステロール及び全トリグリセリドを検査した。尿アルブミン対クレアチニン比(UA/Cr)と血清又は血漿クレアチニンを測定することによって、腎機能不全の進行を評価した。尿アルブミン及びクレアチニン濃度の測定には、ラットを代謝ケージに24時間収容して、尿を採取ビーカーに採取して、細菌の増殖を阻害するために数滴のトルエンを加えた。
【0048】
[0036] 本試験の最後に、ラットを秤量して、イソフルレンで麻酔し、心臓穿刺により血液を吸引して、氷上のヘパリン添加及び非ヘパリン添加した Vaculainer 管へ移した。次いで、これらの血液試料を血漿及び血清採取のためにそれぞれ遠心分離して、分析のときまで−70℃で保存した。ラットを過剰麻酔と心臓穿刺により殺して、すぐに腎臓を取り出し、秤量し、被膜剥離して、PBS緩衝液に濯いだ。この腎臓の切片を後続の顕微鏡検査と免疫組織化学のために10% NBFに保存した。各個別ラットの尾を切断し、除去して、50mLコニカル管に−70℃で保存した。
【0049】
[0037] 糖尿病ラットは、対照ラットと比較して、有意に増加した血漿グルコース及び糖化ヘモグロビン濃度を有した(p<0.01)。表I及びIIを参照のこと。糖尿病は、体重増加の抑制にも関連した。化合物LR−9、LR−74、及びLR−90での糖尿病ラットの処置は、血漿グルコースと糖化ヘモグロビンに影響を及ぼさなかったが、糖尿病対照ラットに比較して、体重の適度な増加をもたらした(LR−90処置だけが統計学的有意差を示した)。LR化合物で処置した数匹の糖尿病ラットが試験期間の最後に達しなかったが、その発生率は、糖尿病対照と比較して増加しなかった。追加的に、非糖尿病対照ラットとすべてのLR化合物で処置した非糖尿病ラットより死亡は記録されなかった。
【0050】
[0038] 本実施例と以下の実施例に提示するデータの統計解析は、はじめにANOVAにより解析して、不対Studentのt検定を使用して、群平均値間の事後比較を解析した。0.05未満のp値を統計学的に有意とみなした。データは、平均±SDとして提示する。
【0051】
表I.STZ糖尿病ラットの体重及び血糖に対するLR−90の効果(32週の処置)
【0052】
【表1】

【0053】
a ND=非糖尿病;D=糖尿病
b 非糖尿病対照ラットに対してp<0.05
c 糖尿病ラットに対してp<0.05
表II.STZ糖尿病ラットの体重及び血糖に対するLR−9及びLR−74の効果(30週の処置)
【0054】
【表2】

【0055】
a ND=非糖尿病;D=糖尿病
b 非糖尿病対照ラットに対してp<0.05
c 糖尿病ラットに対してp<0.05
実施例2.脂質代謝に対する効果
[0039] 糖尿病ラットは、非糖尿病ラットと比較して、全血漿/血清トリグリセリドとコレステロールの両方の上昇レベルを示した(p<0.001)。図3を参照のこと。LR化合物のいずれかで処置した糖尿病ラットは、トリグリセリド及びコレステロールの両方の濃度において有意な低下を示した。LR−90は、血清トリグリセリドと血清コレステロールを非糖尿病動物のレベルの方へ50%低下させた(図3)。同様に、糖尿病ラットの血漿トリグリセリド及びコレステロールのレベルも、LR−9とLR−74の両方によりそれぞれ60%及び50%より多く低下した(図4)。
【0056】
実施例3.腎機能に対する効果
[0040] 腎機能の指標として、尿アルブミン、血漿クレアチニン濃度、及び尿アルブミン/クレアチニン比を使用した。非糖尿病対照ラットと比べて、尿アルブミン排出、血漿クレアチニン濃度、及びUA/Crは、糖尿病動物において有意に増加した。表III及びIVを参照のこと。糖尿病ラットのLR化合物での処置は、尿アルブミン排出及びUA/Crの上昇を阻害して、未処置糖尿病ラットに比較して約50%の濃度の低下を伴った。さらに、糖尿病動物において観察される血漿クレアチニン濃度の上昇は、LR−9、LR−74、又はLR−90のいずれの処置でも50%ほど有意に減少した。
【0057】
表III.STZ糖尿病ラットの腎機能パラメータに対するLR−90の効果
【0058】
【表3】

【0059】
a ND=非糖尿病;D=糖尿病
b 非糖尿病対照ラットに対してp<0.05
c 糖尿病ラットに対してp<0.05
表IV.STZ糖尿病ラットの腎機能パラメータに対するLR−9及びLR−74の効果
【0060】
【表4】

【0061】
a ND=非糖尿病;D=糖尿病
b 非糖尿病対照ラットに対してp<0.05
c 糖尿病ラットに対してp<0.05
実施例4.血清AGEに対する効果
[0041] Al-Abed et al., Meth. Enzymol 309: 152-172, 1999 の方法に従って血清AGEを測定して、Rahbar et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 262: 651-656, 1999 の方法を使用して、ポリクローナルR6/9抗AGE RNAアーゼ抗体で定量した。1AUを1μg/ml AGE−BSAに等しいと仮定した。
【0062】
[0042] 糖尿病ラットは、非糖尿病ラットに比較して、血清AGEのレベルの約5倍増加を有した(p<0.05)。図5及び6を参照のこと。LR化合物で処置した糖尿病ラットでは、AGE濃度が50%も顕著に低下した。
【0063】
実施例5.コラーゲン架橋結合、蛍光、及び酸溶解性
[0043] Kochakian et al., Diabetes 45: 1694-1700, 1996 に従って、尾腱コラーゲンの単離及び調製を実施した。コラーゲン中の架橋結合及びAGE生成の相対度をペプシン消化と酸溶解性により評価した。ペプシン消化は、Stefek et al., Biochim. Biophys. Acta 1502: 398-404, 2000 により既報のように実施した。簡潔に言えば、個々のラットからの10mgのコラーゲン試料を37℃で24時間、ペプシン(酢酸0.5モル/L中50μg/mL)で消化した。消化後、試料を4℃で30分間、3000rpmで遠心分離して、消化されたコラーゲンを含有する澄明な上清を採取した。上清の100マイクロリットルのアリコートを、365nm励起と418nm放射での試料の蛍光の測定のために、900μL PBS緩衝液と混合した。酸加水分解に続いて既知の方法(Creemers et al., Biotechniques 22: 656-658, 1997)によるマイクロアッセイ法を使用して、上清のヒドロキシプロリン含量を算出した。
【0064】
[0044] 尾腱コラーゲンの酸溶解性は、Yang et al., Arch. Biochem. Biphys. 412: 42-46, 2003 に概説される方法の変法により測定した。簡潔に言えば、約2mgのコラーゲンの試料を秤量して、0.05M酢酸に4℃で一晩可溶化した。この懸濁液を4℃で60分間、20,000gで遠心分離して、上清とペレットを、酸加水分解に続くヒドロキシ含量の分析のために分離した。酸溶解性は、上清中のヒドロキシプロリンをペレット及び上清中の全ヒドロキシプロリン含量で割った百分率として算出した。
【0065】
[0045] 尾コラーゲン中の蛍光AGEのレベルは、非糖尿病動物に比較して、糖尿病ラットで約4倍増加した。LR処置した糖尿病ラットは、未処置糖尿病ラットと比較して、蛍光及び架橋結合の有意な低下を示した(図7A:LR−90;図7B:LR−9及びLR−74)。同様に、尾腱コラーゲンを弱酢酸に可溶化するとき、糖尿病ラットのコラーゲンは、この酸溶液においてごく低い溶解性を示した。LR化合物を受けた糖尿病ラットは、尾腱コラーゲンの酸溶解性を有意に増加させた(図8)。
【0066】
実施例6.腎臓の解剖学及び組織病理学に対するLR化合物の効果
[0046] 糸球体硬化症(糸球体基底膜の肥厚化、糸球体間質肥大、及び毛細管閉塞として定義される)を定量するために、腎臓切片を過ヨウ素酸シッフ(PAS)試薬で染色した。各ラット腎臓(各処置につき4つの異なる腎臓)より全部で150の糸球体を無作為に選択して、盲検の評価者により、硬化症を慎重に等級付けた。各糸球体における硬化症の度合いは、以下のように、1〜4のスケールで主観的に等級付けた:等級1、硬化症領域が25%未満;等級2、硬化症領域が25〜50%;等級3、硬化症領域が51〜75%;及び、等級4、硬化症領域が75%より多い。次いで、以下の式を使用して、糸球体硬化症指標(GSI)を算出した:GSI=Σi=1Fi(i)(ここでFiは、(I)のスコアを与えられたラットにおける糸球体の百分率である)。Wilkinson-Berka et al., Diabetes 51: 3283-3289, 2002 を参照のこと。糸球体硬化症を定量するために、腎臓切片を過ヨウ素酸シッフ(PAS)試薬で染色した。
【0067】
[0047] PASで染色した5μm厚の腎臓切片由来の腎間質において細胞浸潤を認めた。各腎臓試料中の浸潤を、やはり盲検のやり方で以下のように等級付けた:+(斑点状で希薄)、++(斑点状で濃厚)、+++(広汎性で、好中球の凝集物が尿細管又は間質に密集している)。腎臓中のコラーゲン沈積染色では、各処置群由来の腎臓よりパラフィン切片を無作為に選択して、マッソン・トリクロームで染色した。簡潔に言えば、この切片を脱パラフィン化し、水で水和させて、Boiuin溶液中のMordantに10分間浸した。次いで、切片を水で濯ぎ、Mayerのヘマトキシリンで6分間染色した。水中で濯いだ後で、ビーブリッヒ赤−酸性フクシンを2分間加え、濯ぎ、リンモリブデン−リンタングステン溶液を15分間加えた後で、アニリンブルー溶液を10分間加えた。切片を水で濯いだ後で、氷酢酸を20秒間加えてから、スライドを95%エタノールで脱水した。この方法で、青色と赤色は、コラーゲンと細胞質の染色をそれぞれ示す。変性した尿細管は、細胞質の非存在により同定した。ピクロシリウスレッド染色を使用して、糸球体中のコラーゲン線維沈積についての追加染色を実施した。
【0068】
[0048] 腎形態計測の検査では、各群からの腎臓試料をカコジル酸塩緩衝液中2%グルタルアルデヒドで一晩後固定した。切片を1μ厚へ切って、トルイジンブルーで染色した。次いで、80nm切片をダイアモンドナイフで切断し、Formvarコート、カーボンコートしたスロット銅グリッドに拾い上げて、5%酢酸ウラニル水溶液で15分間染色した後で、1滴のクエン酸鉛を加えて2分間インキュベートした。このグリッドを観察し、高解像の透過型電子顕微鏡で撮影した。この映像を使用して、糸球体の基底膜及び間質の拡大の幅を決定した。
【0069】
[0049] 平均の腎臓重量は、絶対重量においても、全体重の分数としても、非糖尿病動物に比較して、糖尿病ラットで有意に増加したが、LR処置と未処置糖尿病対照ラットの腎臓重量の間で統計学的有意差は検出されなかった。糖尿病対照動物の腎臓に偶然の嚢胞が観察されたが、これらは、LR処置ラットにおいてさほど頻繁ではなかった。さらに、未処置とLR処置糖尿病動物の両方からの他の主要臓器(心臓、肝臓、腸)において腫瘍増殖の証拠はなかった。
【0070】
[0050] 非糖尿病ラットでは、ほとんど肥厚化していない基底膜と少数例の糸球体硬化症を除けば、考慮すべき超微細構造の異常を腎臓に検出しなかった(図9)。ほとんどの糸球体は、TEMにより明らかにされるような正常な細胞充実性、正常な糸球体間質、及び約150nmの基底膜がある正常な超微細構造の外観を示した(図10)。上記の動物では、腎間質において細胞浸潤を検出しなかった。未処置糖尿病ラットでは、多くの糸球体が顕著に増加した細胞充実性と増加した糸球体間質細胞及びマトリックスのある肥厚化した基底膜(約270nm)を示すことをTEMデータが示し(図10)、このことは、GSIの増加に反映された(図9)。また、リンパ球及び好中球の濃密な凝集体が含まれる、数多くの細胞浸潤も観察された(データ示さず)。
【0071】
[0051] LR化合物で処置した糖尿病ラットも細胞充実性の増加を示したが、未処置糖尿病動物のそれほど顕著ではなかった。腎間質にはリンパ球だけが観察された。さらに、未処置糖尿病ラットより少ない糸球体傷害、より薄い基底膜(約220nm)、そして有意に低いGSIがあった(p<0.05,図9及び10)。さらに、尿細管間質及び糸球体におけるコラーゲン沈積(青色)と変性尿細管(細胞質の非存在又は赤みがかった色により同定される)の数は、非糖尿病対照ラットと比較して糖尿病ラットでいずれも増加し、LR処置は、コラーゲン染色の量と変性尿細管の頻度を非糖尿病対照ラットのそれとほとんど同様の程度まで低下した(図11)。腎臓をピクロシリウスレッドで染色したとき、同様の結果を観察した:LR−90処置は、糸球体及び尿細管間質の内部に沈積するコラーゲンの量を低下させた(図12)。
【0072】
実施例7.AGE免疫組織化学
[0052] 免疫組織化学的なAGE染色のために、ホルマリン固定したパラフィルム埋込み切片(厚さ2μm)を、2−アミノプロピルトリエトキシシランでコートしたスライドに載せて、58℃で3時間焼き、脱パラフィン化し、3%過酸化水素水で濯いで、プロテイナーゼK(0.5mg/mL)とともに室温で5分間インキュベートした。上記の切片をリンス緩衝液で洗浄し、タンパク遮断剤で5分間遮断して、引き続き、CMLに特異的な6D12抗AGEマウスモノクローナル抗体とともに室温で30分間インキュベートした。リンス緩衝液で洗浄後、この切片を標識ポリマーペルオキシダーゼ共役マウス抗IgGのあるEnVisionTMとともに室温で30分間インキュベートし、続いて色素原としての3,3’−ジアミノベンチジン四塩酸塩溶液と対比染色としての50%ヘマトキシリンで検出した。
【0073】
ラット腎臓におけるAGEの免疫組織化学染色は、非糖尿病対照ラットと比較して、糖尿病ラットでは腎臓糸球体と皮質尿細管にAGEの広汎な染色があることを示した。LR−90処置は、AGEがこれらの領域に沈積することを明瞭に抑制した(図13)。LR−9又はLR−74で処置したラットの腎臓でも、AGE染色の同様の低下を観察した。
【0074】
実施例8.ニトロチロシン染色
[0053] タンパク酸化のマーカーであるニトロチロシンを、反応性窒素種により引き起こされる酸化的組織傷害の指標として使用した。ニトロチロシンの免疫組織化学的な検出は、既報(Forbes et al., Diabetes 51: 3274-3282, 2002)のように実施して、本研究では、ほとんど変更を加えずに従った。簡潔に言えば、各処置群からの代表的なラットより32週で採取した、ホルマリン固定した腎臓切片(厚さ5μm)をスライドに載せて、脱ワックスして、水和させた。プロテイナーゼKと10分間のインキュベーション後、切片を3%過酸化水素水において20分間インキュベートし、ブタ正常血清で20分間遮断してから、市販のウサギポリクローナル抗ニトロチロシン抗体で1時間染色した。DAKOリンス緩衝液で濯いだ後で、切片をビオチニル化抗ウサギIgGとともに25分間インキュベートし、アビジン−ビオチン西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体との25分間のインキュベーションを続けた。ペルオキシダーゼコンジュゲートの位置決定は、ジアミノベンチジン四塩酸塩(DAB)溶液を色素原として、50%ヘマトキシリンを対比染色として使用して明らかにした。
【0075】
[0054] ニトロチロシンは、腎尿細管に主に検出され、糸球体にはほとんど染色が見えなかった。図14を参照のこと。糖尿病ラットの腎尿細管では、非糖尿病動物と比較して増加したニトロチロシン染色を観察し、LR−化合物のいずれかで処置したラットは、皮質尿細管において、顕著に低下したニトロチロシン染色を示した。図14を参照のこと。
【0076】
実施例9.in vitro 試験
[0055] アスコルビン酸の銅触媒酸化の阻害の動態の in vitro 測定を、Price et al. J. Biol. Chem. 276: 48967-48972, 2001 の方法に従って実施した。簡潔に言えば、CuClと様々な濃度の阻害化合物を、Chelex処理した20ミリモル/Lリン酸緩衝液(pH7.4)において5分間プレインキュベートした。次いで、アスコルビン酸(水中10ミリモル/Lの50μL)を加えて、反応を開始させた(全体の反応量:1mL)。CuClとアスコルビン酸の反応物中での最終濃度は、それぞれ500ナノモル/Lと500マイクロモル/Lであった。アリコート(135μL)を0及び60分で取り出して、15μLの10ミリモル/l DTPAを含有する自動注入バイアルへ移した。自動注入器とMillenium(登録商標)32ソフトウェアが装備したWaters(登録商標)2690 Separator Moduleを使用して、XTerraTM RP18 5μmガードカラム付きXTerraTM RP18カラム(250mm x 4.6mm,5μm)での逆相HPLCにより試料を分析した。溶媒と勾配液は、いずれも Dillon et al., Life Sci. 72: 1583-1594, 2003 に記載のように使用した。アスコルビン酸の吸光度を244nmで測定し、ピーク面積を得て、時間に対して残存するアスコルビン酸の百分率を推定した。それぞれの阻害化合物について、AA酸化の速度を50%阻害する濃度(IC50)を、PrismTMソフトウェアを使用して、対照に関連して計算した。
【0077】
[0056] 3種のLR化合物、アミノグアニジン(AG)、及びピリドキサミン(PM)のCu2+キレート化活性を図15に示す。このアッセイにおいて、LR−9、LR−74、LR−90、PM、及びAGのIC50値は、それぞれ200、50、275、1250、及び2750μMであった。上記の結果は、in vitro ではLR−74がLR化合物の中で最も強力な金属キレート化剤であり、上記のすべての新規化合物が既知のAGE阻害剤、AG及びPMのいずれよりも優れた金属キレート化剤であったことを示す。
【0078】
[0057] 脂質過酸化を阻害するLR化合物の能力について、タンパク質の脂質酸化修飾に関する研究の一般的な in vitro モデルである、Cu++仲介性脂質酸化を使用して試験した。LDLのCu++仲介性酸化を使用して、脂質過酸化に対するLR化合物の効果を試験した。Chelex処理PBS緩衝液単独、又は5μM CuCl、又は5μM CuCl+様々な濃度の阻害化合物(10〜250μM)の存在下にヒトLDL(50μgのタンパク質/mL)を37℃でインキュベートした。5時間のインキュベーション後、反応混合物に産生されるチオバルビツール酸反応性物質の量(マロンジアルデヒド(MDA)当量として表す)を、Dillon et al., Life Sci. 72: 1583-1594, 2003 に記載の方法に従って計算した。簡潔に言えば、各試料からのアリコートを20%トリクロロ酢酸で沈殿させ、遠心分離し、上清へ等量の1%チオバルビツール酸を加えた。次いで、この試料を95℃まで10分間加熱し、冷却後、吸光度を532nmで読み取った。加水分解したテトラエトキシプロパンをMDA当量計算用の標準品として使用した。
【0079】
[0058] 図16に示すように、LR化合物は、いずれも濃度依存的なやり方でLDL酸かを阻害した。LR−74及びLR−90の阻害活性は、AGより優れていた。PMには、脂質過酸化に対する効果がなかった。
【0080】
[0059] フリーラジカル産生に対する上記化合物の効果を無細胞系で評価した。Giardino et al., Diabetes 47: 1114-1120, 1998 に記載のように、Hによる安息香酸塩のヒドロキシル化によって、in vitro ヒドロキシルラジカル産生を定量した。簡潔には、PBS緩衝液(pH7.4)中30ミリモル/Lの安息香酸ナトリウムを10ミリモル/LのHと、単独で、そして様々な量の阻害化合物の存在下に37℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後、各試料からのアリコートについて蛍光(305nm励起、408nm放射)を分析した。安息香酸塩のヒドロキシル化により産生されるサリチル酸当量の量(μM)として結果を表した。既知のヒドロキシルラジカル捕集剤であるマンニトールを対照としてこの実験に含めた。
【0081】
[0060] 化合物のスーパーオキシドラジカル捕集活性は、Ukeda et al., Anal. Sci. 18: 1151-1154, 2002 に記載のWST−1法を使用して評価した。簡潔に言えば、0.05M Chelex処理リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)において、様々な濃度の阻害化合物の存在下に、N−α−アセチル−リジンの有無でメチルグリオキサールをインキュベートした。スーパーオキシドの産生を438nmで分光光度法によりモニタリングして、2つの既知のスーパーオキシドラジカル捕集剤であるスーパーオキシドジスムターゼ及びTironと比較した。
【0082】
[0061] 3つのLR化合物は、いずれも安息香酸ナトリウムと過酸化水素の反応より生成するOHラジカルを濃度依存的なやり方で阻害し、既知のOHラジカル捕集剤であるマンニトールより高い阻害活性であった。図17Aを参照のこと。WST−1アッセイを使用して、実際の糖化反応より産生されるスーパーオキシドをモニタリングすると、>1mMでのLR−90だけが、この反応より産生されるスーパーオキシドに対して有意な効果を示した。図17Bを参照のこと。LR−74は、AGE阻害剤のアミノグアニジンと同様に、スーパーオキシド産生に対してほとんど、又は全く効果がなかった。
【0083】
実施例10.糖尿病ラットのLR化合物処置
[0062] 雄性スプリーグ・ドーリーラットにおいて、一晩絶食後のSTZ(65mg/kg,クエン酸緩衝液(pH4.5)中)の単回i.p.注射により、糖尿病を誘導した。非糖尿病動物には、クエン酸緩衝液だけを注射した。STZ注射の1週後、>20ミリモル/Lの血漿グルコースを有する動物だけを糖尿病として分類して、本試験に含めた。糖尿病ラットを以下の処置群:糖尿病未処置(D);及び、LR−9(D+LR−9)又はLR−74(D+LR−74)のいずれかを飲料水中50mg/Lで摂取する2つの糖尿病処置群へ無作為に分けた。3つの非糖尿病群:1つの未処置非糖尿病群(ND)と、飲料水中50mg/LのLR−9(ND+LR−9)又はLR−74(ND+LR−74)のいずれかで処置する2つの非糖尿病群も同時に試験した。
【0084】
[0063] 薬物の投与前に血漿グルコースと体重をともに検査したが、3つの糖尿病処置群の間にも、3つの非糖尿病群の間にも差を検出しなかった。動物はすべて個別に収容して、食餌と水を自由に摂らせた。血糖コントロールと体重を定期的にモニタリングした。高血糖症を制限して、動物が体重を維持することを確実にするために、糖尿病動物には、3IUのUltralente(持続型)テインスリンを週2〜3回与えた。本試験は、32週にわたって行った。腎機能不全の進行は、既知の方法に従って、尿アルブミン及び血漿クレアチニンの濃度を測定することによって評価した。Figarola et al., Diabetologia 46; 1140-1152, 2003。
【0085】
[0064] 糖尿病動物は、非糖尿病ラットより高いグルコース及びHbA1c濃度と、より低い体重を有した(P<0.001)。LR−9又はLR−74のいずれかでの処置は、ND又はDラットのいずれでも、高血糖症及び体重増加に対して効果を及ぼさなかった。すべての糖尿病動物は、はじめは、各群で9匹の動物を含んだ。この試験の終了時に、この数は、糖尿病対照(n=5)、LR−9(n=6)、及びLR−74(n=6)処置糖尿病ラットにおいて低下した。非糖尿病群では死亡が観察されなかった。
【0086】
[0065] 糖尿病は、尿アルブミン排出と血漿クレアチニン濃度の増加と関連した(非糖尿病対照に対してP<0.001)。表Vを参照のこと。糖尿病ラットをいずれかのLR化合物で処置すると尿アルブミン排出の上昇が阻害され、未処置糖尿病ラットに比較して濃度の約50%の低下を伴った。糖尿病動物で観察される血漿クレアチニン濃度の上昇も、LR−9又はLR−74のいずれかの処置でほぼ50%有意に減少した。追加的に、糖尿病ラットは、非糖尿病動物と比較してより高い腎臓重量を有し(P<0.05)、腎肥大症を示唆した。いずれかのLR化合物での処置は、これらの変化をやや減弱させた。表Vを参照のこと。
【0087】
表V.ラットの身体及び代謝パラメータ
【0088】
【表5】

【0089】
左及び右腎臓重量の体重に対する比
NDに対してP<0.05;**Dに対してP<0.05;***Dに対してP<0.01。
【0090】
実施例11.AGE免疫組織化学染色
[0066] 本試験の32週目に、イソフルレンでの過剰麻酔と心臓穿刺によりラットを殺した。各動物より血液試料を採取し、ヘパリン添加した Vaculainer 管へ移してから、血漿単離のために遠心分離した。これら血漿試料のアリコートを分析のときまで−70℃で保存した。すぐに腎臓を取り出し、被膜剥離して、PBS緩衝液中で濯いだ。左腎臓の切片を後続の顕微鏡検査とAGE免疫組織化学のために10%中性緩衝化ホルマリンに保存した。各個別ラットの腹皮及び尾の切片を取り出し、PBS緩衝液中で濯ぎ、後続のAGE定量と架橋結合分析のために−70℃で保存した。
【0091】
[0067] ラット腎臓中のAGEについての免疫組織化学染色は、非糖尿病対照ラットと比較して、糖尿病ラットの腎臓糸球体及び皮質尿細管にCML−AGEの広汎な染色があることを証明した。いずれかのLR化合物での処置は、明らかに、上記の領域において、特に糸球体において沈積するCML−AGEの増加を妨げた。図18を参照のこと。
【0092】
実施例12.コラーゲン中のAGE生成
[0068] 実施例11の各ラットより尾腱コラーゲンを単離して、コラーゲン中のAGE生成の度合いを、酵素消化後の蛍光AGEの測定により評価した。Figarola et al., Diabetologia 46: 1140-1152。皮膚コラーゲンの単離及び還元は、Shaw et al., Methods Mol. Biol. 186: 129-137, 2002 に記載のように実施した。AGE/ALEのレベルをコラーゲン試料のリジン含量に対して正規化した。
【0093】
[0069] 尾コラーゲン中の蛍光AGEのレベルは、未処置非糖尿病動物に比較して、未処置糖尿病ラットにおいて約5倍増加した。図19を参照のこと。
[0070] Micromass QuatroTM Ultima三重四重極(Triple Quadripole)質量分析計へインターフェース連結したAgilent TechnologiesTM LC1100シリーズシステムを使用して、イオン対逆相液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法の分析を実施した。Phenomenex C18ガードカラムを先付けしたPhenomenex SynergiTM Hydro−RP 4μm 80A 150x2.0mmカラムを使用して、HPLC分離を行った。カラム温度を25℃に維持して、流速は、0.2mL/分であった。一定比の移動相は、水中10%アセトニトリル及び0.1%ヘプタフルオロ酪酸からなった。全ランタイムは、12分であり;注入量は、20μLであった。自動注入器の温度は、5℃であった。質量分光光度計のエレクトロスプレーイオン化源は、190L/時間のコーンガス流速と550L/時間の脱溶媒和ガス流速の陽イオンモードで操作した。毛管電圧は2.7kVへ設定した。コーン電圧及び衝突槽電圧は、それぞれ、CMLについて25V及び13eV、dCMLについて33V及び12eV、CELについて24V及び14eV、dCELについて29kV及び14eV、そしてリジンについて29kV及び16eVへ最適化した。電源温度は、125℃であった。脱溶媒和温度を300℃へ高めて、溶媒遅延プログラムを0〜3分と10〜20分に使用した。上記化合物の断片化は、衝突解離条件下の酸性移動相で誘導することができる。前駆体→生成物イオンのm/zでの組合せ(CMLについて205.1→130.11、dCMLについて209.12→134.12、CELについて219.11→130.11、dCELについて227.18→138.16、リジンについて147.15→84.21、そしてDL−dリジンについて151.27→88.23)を多重反応モニタリング(MRM)モードで使用して、上記の化合物を定量した。データの獲得及び処理には、MassLynxTMバージョン3.5ソフトウェアを使用した。
【0094】
[0071] 標準品及び内部標準のすべての溶液を水で調製した。CMLとCELの両方を含有する標準溶液は、6つの濃度(CMLについては4、10、20、40、100、及び200ピコモル/mL、CELについては2、5、10、20、50、及び100ピコモル/mL)で調製した。品質保証(Quality Control)溶液は、2つの濃度(CMLについては7.5及び150ピコモル/mL、CELについては3.75及び75ピコモル/L)で調製した。重標識内部標準(dCML及びdCEL)のストック溶液は、800ピコモル/mLで調製した。標準曲線の作成には、130μLの標準溶液を10μL 0.1M重炭酸アンモニウム、10μL 0.05% HFBA、及び10μL内部標準ストック溶液と用時混合して、較正液(a caliber)を得た。次いで、このキャリブレータを同一2検体で検定して、CML及びCELの標準曲線を確定した。較正曲線は、標準品の濃度(X)に対して、標準ピーク面積の内部標準ピーク面積に対する比(Y)でプロットした。標準曲線は、線形回帰により決定されるように、試験する範囲にわたって良好な直線性を表示した(r>0.99)。処置試料については、各試料を水で1:16にさらに希釈した後で、内部標準溶液と混合した。次いで、この希釈した試料の130μLを10μL 0.1M重炭酸アンモニウム、10μL 0.05% HFBA、及び10μL内部標準ストック溶液と用時混合した。
【0095】
[0072] リジン含量の定量では、L−リジンの標準溶液を5つの濃度(0.4、0.8、1.6、3.2、及び6.4ナノモル/mL)で調製した。品質保証溶液は、2つの濃度(0.6及び5nm)で調製した。内部標準(DL−dリジン)のストック溶液を1μg/mLで調製し、標準曲線の作成のために、100μLの標準溶液を10μL 0.05% HFBA及び20μL内部標準ストック溶液と用時混合して、キャリブレータを得た。次いで、このキャリブレータを同一2検体で検定して、標準曲線を確定した。較正曲線は、標準品の濃度(X)に対して、標準ピーク面積の内部標準ピーク面積に対する比(Y)でプロットした。標準曲線は、線形回帰により決定されるように、試験する範囲にわたって良好な直線性を表示した(r>0.99)。それぞれの再水和コラーゲン試料を水で1:3000にさらに希釈した後で、内部標準溶液と混合した。次いで、この希釈した試料の100μLを10μL 0.05% HFBA及び20μL内部標準ストック溶液と用時混合した。
【0096】
[0073] 全体のLC−ESI/MS/MS技術を使用すると、1日内の変動係数(CV)は、CMLとCELでそれぞれ4.1%未満と5.9%未満であった。日間のCVは、CMLで8.3%未満であり、CELで5.6%未満であった。皮膚コラーゲンのAGE/ALE含量の分析は、未処置非糖尿病動物に対して未処置糖尿病動物において、CML及びCELの両方の濃度で有意な増加を示した。LR−9及びLR−74処置は、CML及びCELの両方の濃度の増加を有意に制限した。図20を参照のこと。
【0097】
実施例13.血漿脂質
[0074] 糖尿病ラットは、非糖尿病ラットと比較して、上昇レベルの血漿脂質を示した。図21を参照のこと。血漿トリグリセリドは、未処置非糖尿病対照の86±14mg/dLに比較して、糖尿病ラットでは598±110mg/dLへ増加した(P<0.001)。血漿コレステロール濃度は、糖尿病動物において同様の増加を示した(非糖尿病の61±7mg/dLに対して、糖尿病ラットでは136±13mg/dL)(P<0.001)。非糖尿病動物の脂質代謝には、いずれの化合物も効果がなかった。しかしながら、いずれかのLR化合物で処置した糖尿病ラットは、トリグリセリド及びコレステロールの両方の濃度で有意な低下を示した。LR−9は、血漿トリグリセリド及びコレステロールをそれぞれ60%及び30%ほど低下させた(それぞれ、239±50及び96±5mg/dLの平均/SEM)。LR−74処置は、未処置糖尿病動物と比較して、血漿グリセリドのほとんど70%の低下(161±29mg/dL)とコレステロールレベルのほぼ30%の減少(93±2mg/dL)をもたらした。血漿脂質ヒドロペルオキシド濃度は、非糖尿病動物と比較して、糖尿病対照ラットでほぼ5倍高かった(5.6±0.5μMに対して26.3±2.7μM)。図21を参照のこと。LR−9又はLR−74での処置は、糖尿病動物の血漿脂質ヒドロペルオキシドをそれぞれ35%と45%実質的に低下させた。図21を参照のこと。
【0098】
実施例14.STZ糖尿病ラットの体重及び血糖に対するLR−9及びLR−74の効果
[0075] 実施例10に記載のようにラットを処置して、処置群へ分けた。薬物の投与前に血漿グルコースと体重をともに検査したが、3つの糖尿病処置群の間にも、3つの非糖尿病群の間にも差を検出しなかった。動物はすべて個別に収容して、食餌と水を自由に摂らせた。血糖コントロールと体重を定期的にモニタリングした。高血糖症を制限して、動物が体重を維持することを確実にするために、糖尿病動物には、3IUのUltralenteインスリンを週2〜3回与えた。本試験は、32週にわたって行った。
【0099】
[0076] 上記の記載のように、糖尿病動物は、非糖尿病ラットより高いグルコース及びHbA1c濃度と、より低い体重を有した(P<0.001)。LR−9又はLR−74のいずれかでの処置は、ND又はDラットのいずれでも、高血糖症及び体重増加に対して効果を及ぼさなかった。すべての糖尿病動物は、はじめは、各群で9匹の動物を含んだ。この試験の終了時に、この数は、糖尿病対照(n=5)、LR−9(n=6)、及びLR−74(n=6)処置糖尿病ラットにおいて低下した。表VIを参照のこと。非糖尿病群では死亡が観察されなかった。実施例1及び10を参照のこと。
【0100】
表VI.STZ糖尿病ラットの体重及び血糖
【0101】
【表6】

【0102】
a ND=非糖尿病;D=糖尿病
NDラットに対してP<0.05を示す
実施例15.糖尿病ラットでは、ニトロチロシン生成が増加する
[0077] ホルマリン固定したパラフィルム埋込み腎臓切片(厚さ2μm)をスライドに載せて、既知の方法に従って、ポリクローナル抗ニトロチロシン抗体で染色した。Figarola et al., Diabetologia 46; 1140-1152, 2003 を参照のこと。ニトロチロシン生成は、反応性窒素種より生じるタンパク質の酸化傷害の指標であり、糖尿病動物において、具体的には近位尿細管細胞において亢進していた。図22を参照のこと。この増加した染色は、いずれかのLR化合物の処置によって減弱した。
【0103】
実施例16.ヒト試料に対する in vitro 脂質過酸化の効果
[0078] 健常ドナーの血漿より、1回の垂直スピン遠心分離によりヒトLDLを単離し(Chung et al., Methods Enzymol. 128: 181-209, 1986 を参照のこと)、調製の24〜48時間以内に使用した。50mM Chelex処理リン酸塩緩衝液(pH7.4)単独、又は5μM CuCl、又は5μM CuCl+様々な濃度のLR化合物の存在下にLDL(50μg/mL)を37℃でインキュベートした。5時間のインキュベーション後、各反応混合物からのアリコートを、Satoh, Clin. Chim. Acta 90: 37-43, 1978 に記載のようなチオバルビツール酸反応性物質(TBARS)の測定のために取り出した。簡潔に言えば、500μLの試料アリコートへ250μLの20%トリクロロ酢酸に続いて、750μLの1% TBARSを加えた。次いで、この試料を激しく撹拌し、沸騰水浴において10分間インキュベートした。冷却後、試料を5000rpmで5分間遠心分離した。上清の吸光度を532nmで読み取り、1,1,3,3−テトラメトキシプロパンを標準品として使用して、MDA当量として表した。脂肪酸酸化の試験では、リノール酸(5mM)を200nMリン酸塩緩衝液(pH7.4)において単独で、又は1mM LR化合物の存在下に37℃で7日間インキュベートした。上記のようなTBARSの測定のために、各反応混合物よりアリコートを定期的に吸引した。アミノグアニジン(AG)とピリドキサミン(PM)を比較対照として250μMで使用した。
【0104】
[0079] 結果を図23Aに示すが、ここでは、2回の独立した実験(各処置につきn=4)の平均±SDとして数値を提供する。別の実験で、250μM化合物の存在時のCu++によるLDLの酸化的修飾の時間経過を5時間追跡して、各時間間隔のアリコートについてTBARSをアッセイした。図23Bを参照のこと。図23Bの数値は、2回の独立した実験(各処置につきn=4)の平均±SDである。
【0105】
[0080] 図23Aに示すように、LR化合物は、ヒト低密度リポタンパク質(LDL)の酸化を濃度依存的なやり方でAG及びPMより多く阻害した。LDLのCu++仲介性酸化動態は、約2時間のラグ相と進行相の2相を特徴とする。LR−74又はLR−90のいずれかの存在は、観察し得る進行相がないような度合いまでラグ相を引き伸ばした。図23Bを参照のこと。金属に触媒されるLDL酸化に対してPMが無効である一方で、LR−9は、対照に比較して、2時間後の酸化速度を有意に阻害した。
【0106】
[0081] LDLの主要な脂肪酸であるリノール酸(LA)の酸化の動態試験において、LR化合物は、脂質過酸化産物、特にMDAと関連アルデヒドの生成を妨げた。図24を参照のこと。リノール酸(5mM)を上記のように単独で、又は1mM LR化合物又はピリドキサミン(PM)の存在下に、200mMリン酸塩緩衝液(pH7.4)において37℃で7日間インキュベートした。アリコートを定期的に吸引して、上記のTBARS法によりアッセイした。標準品に基づいて、MDA当量を評価した。
【0107】
[0082] LA酸化は、インキュベーションの3日以内に増加してそのピークに達してから、その期間の後で徐々に低下した。LR−9とLR−90は、7日のインキュベーション期間を通してLA酸化を完全に妨げた。LR−74は、この酸化を完全には妨げなかったが、それは、3日目に観察される最大酸化を阻害した。一方、LDL酸化での観察と同様に、AGE/ALE阻害剤のPMは、LA酸化に対して効果がなかった。図24を参照のこと。
【図面の簡単な説明】
【0108】
[0083]
【図1】図1は、反応性カルボニル種及びカルボニルストレスの代謝供給源を示す図解である。図中の星印は、LR化合物がその効果を発揮する仮説の経路を表す。 [0084]
【図2】図2は、化合物、LR−9[4−(2−ナフチルカルボキサミド)フェノキシイソ酪酸];LR−74[2−(8−キノリノキシ)プロピオン酸];及びLR−90[メチレンビス(4,4’−(2−クロロフェニルウレイドフェノキシイソ酪酸))]の化学構造を示す。
【0109】
[0085]
【図3】図3は、非糖尿病動物(ND)、糖尿病動物(D)、及びLR−90で32週間処置した糖尿病動物において測定した、全血清トリグリセリド(3B)及びコレステロール(3A)を示す(は、非糖尿病対照に対してp<0.05を示し;★★=糖尿病対照に対してp<0.05)。
【0110】
[0086]
【図4】図4は、非糖尿病動物(ND)、糖尿病動物(D)、及びLR−9又はLR−74で30週間処置した糖尿病動物において測定した、全血漿トリグリセリド(4A)及びコレステロール(4B)を示す(は、非糖尿病対照に対してp<0.05を示し;★★=糖尿病対照に対してp<0.05)。
【0111】
[0087]
【図5】図5は、32週間のLR−90処置後の血清AGEに対するLR化合物の効果を示す。抗AGE RNAアーゼポリクローナル抗体を使用して、血清AGE濃度を免疫学的に測定した。は、非糖尿病対照に対してp<0.05であり;★★=糖尿病対照に対してp<0.05。
【0112】
[0088]
【図6】図6は、30週間のLR−9又はLA−74処置後の血清AGEに対するLR化合物の効果を示す。抗AGE RNAアーゼポリクローナル抗体を使用して、血清AGE濃度を免疫学的に測定した。=非糖尿病対照に対してp<0.05;★★=糖尿病対照に対してp<0.05。
【0113】
[0089]
【図7】図7は、ペプシン消化により(蛍光)測定した、ラット尾腱架橋結合に対するLR化合物の効果を示す。は、非糖尿病対照に対してp<0.05を示し;★★は、糖尿病対照に対してp<0.05を示す。
【0114】
[0090]
【図8】図8は、弱酸中の溶解性により測定した、ラット尾腱架橋結合に対するLR化合物の効果を示す。は、非糖尿病対照に対してp<0.05を示し;★★は、糖尿病対照に対してp<0.05を示す。
【0115】
[0091]
【図9】図9は、糖尿病ラットにおける糸球体硬化症の度合いに対するLR−90の効果を示す。糸球体硬化症指標(GSI)は、各ラット中150の糸球体より計算した。は、非糖尿病対照に対してp<0.05を示し;★★は、糖尿病対照に対してp<0.05を示す。
【0116】
[0092]
【図10】図10は、LR−90が基底膜肥厚化を抑えたことを示す一連の写真である。腎臓切片を切断し、高解像TEMを使用して写真撮影して、基底膜の拡張及び肥厚化を示した。
【0117】
[0093]
【図11】図11は、非糖尿病ラット、糖尿病ラット、及びLR−90で処置した糖尿病ラット由来の腎臓におけるコラーゲン沈積及び皮質尿細管変性を示す、トリクローム染色した腎臓切片の一連の写真である。32週での各処置群由来ラットのホルマリン固定腎臓切片をスライドに載せて、トリクロームで染色した。(A)非糖尿病;(B)糖尿病;(C)糖尿病+LR−90。
【0118】
[0094]
【図12】図12は、腎臓におけるコラーゲン沈積を示す、ピクロシリウスレッド染色した腎臓切片の一連の写真である。32週での各処置群由来ラットのホルマリン固定腎臓切片をスライドに載せて、ピクロシリウスレッドで染色した。(A)非糖尿病;(B)糖尿病;(C)糖尿病+LR−90。
【0119】
[0095]
【図13】図13は、AGEの免疫組織化学染色を示す。32週での各処置群由来ラットのホルマリン固定腎臓切片をスライドに載せて、CMLに特異的な6D12モノクローナル抗AGE抗体で染色した。(A)非糖尿病;(B)糖尿病;(C)糖尿病+LR−90。
【0120】
[0096]
【図14】図14は、ニトロチロシンの免疫組織化学染色を示す。32週での各処置群由来ラットのホルマリン固定腎臓切片をスライドに載せて、抗ニトロチロシンポリクローナル抗体で染色した。(A)非糖尿病;(B)糖尿病;(C)糖尿病+LR−90。
【0121】
[0097]
【図15】図15は、アスコルビン酸のCu++触媒酸化のLR化合物による阻害に関するデータを既知のAGE阻害剤と比較して提供する。点線の水平線は、AAの50%損失を示す。
【0122】
[0098]
【図16】図16は、Cu++仲介性脂質過酸化のLR化合物による阻害についてのデータを提供する。 [0099]
【図17】図17は、フリーラジカル産生に対するLR化合物の効果を示す。安息香酸塩のHによるヒドロキシル化よりヒドロキシルラジカルを測定して、サリチル酸標準品より得られるサリチル酸塩当量として表した(17A)。メチルグロキサールとN−α−アセチル−L−リジンとの反応よりスーパーオキシド産生をモニタリングして、WST−1アッセイにより検出した(17B)。
【0123】
[0100]
【図18】図18は、腎臓のCML−AGE蓄積に対する糖尿病とLR処置の効果を示す。倍率 200x。18A:ND;18B:D;18C:D+LR−9;18D:D+LR−74。
【0124】
[0101]
【図19】図19は、尾腱コラーゲン中の蛍光AGEのレベルに対する糖尿病とLR処置の効果を示す。(A)尾腱コラーゲンをペプシンで消化して、上清について蛍光AGEとOH−プロリン含量を分析した(は、NDに対してp<0.01を示し、★★は、Dに対してp<0.05を示す)。
【0125】
[0102]
【図20】図20は、皮膚コラーゲン中のAGE/ALEのレベルに対する糖尿病とLR処置の効果を示す。皮膚コラーゲンについて、LC−ESI/MS/MSを使用して、CML(20A)及びCEL(20B)の濃度を分析した。は、NDに対してp<0.01を示し;★★は、Dに対してp<0.05を示す。
【0126】
[0103]
【図21】図21は、STZ糖尿病ラットにおける(A)血漿脂質及び(B)血漿脂質ヒドロペルオキシドの濃度に対する糖尿病とLR処置の効果を示す。は、NDに対してp<0.01を示し;★★は、Dに対してp<0.05を示し;★★★は、Dに対してp<0.01を示す。
【0127】
[0104]
【図22】図22は、腎臓のタンパク質酸化に対する糖尿病とLR化合物の効果を示す一連の写真である。22A:非糖尿病対照;22B:糖尿病対照;22C:糖尿病+LR−9;22D:糖尿病+LR−74。倍率は200xである。
【0128】
[0105]
【図23】図23は、Cu++仲介性LDL酸化のLR化合物による阻害を示す。 [0106]
【図24】図24は、リノール酸酸化の動態に対するLR化合物の効果を示す。標準品に基づいて、MDA当量を評価した。数値は、各処置につきn=4である2回の独立した実験の平均±SDである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質レベルを哺乳動物において低下させる方法であって、化合物又は前記化合物の医薬的に許容される塩の有効量を前記哺乳動物へ投与することを含んでなり、ここで前記化合物は:
LR−9[4−(2−ナフチルカルボキサミド)フェノキシイソ酪酸];
LR−74[2−(8−キノリノキシ)プロピオン酸];及び
LR−90[メチレンビス(4,4’−(2−クロロフェニルウレイドフェノキシイソ酪酸))]からなる群より選択される、前記方法。
【請求項2】
前記化合物がLR−9[4−(2−ナフチルカルボキサミド)フェノキシイソ酪酸]である、請求項1の方法。
【請求項3】
前記化合物がLR−74[2−(8−キノリノキシ)プロピオン酸]である、請求項1の方法。
【請求項4】
前記化合物がLR−90[メチレンビス(4,4’−(2−クロロフェニルウレイドフェノキシイソ酪酸))]である、請求項1の方法。
【請求項5】
糖尿病より生じる合併症を治療する方法であって、ここで前記合併症は、脂質の上昇レベルより生じ、化合物又は前記化合物の医薬的に許容される塩の有効量を哺乳動物へ投与することを含んでなり、ここで前記化合物は:
LR−9[4−(2−ナフチルカルボキサミド)フェノキシイソ酪酸];
LR−74[2−(8−キノリノキシ)プロピオン酸];及び
LR−90[メチレンビス(4,4’−(2−クロロフェニルウレイドフェノキシイソ酪酸))]からなる群より選択される、前記方法。
【請求項6】
前記化合物がLR−9[4−(2−ナフチルカルボキサミド)フェノキシイソ酪酸]である、請求項5の方法。
【請求項7】
前記化合物がLR−74[2−(8−キノリノキシ)プロピオン酸]である、請求項5の方法。
【請求項8】
前記化合物がLR−90[メチレンビス(4,4’−(2−クロロフェニルウレイドフェノキシイソ酪酸))]である、請求項5の方法。
【請求項9】
メンケス病、ウィルソン病、又はX染色体連鎖型弛緩性皮膚のある患者を治療する方法であって、化合物又は前記化合物の医薬的に許容される塩の有効量を前記患者へ投与することを含み、ここで前記化合物は:
LR−9[4−(2−ナフチルカルボキサミド)フェノキシイソ酪酸];
LR−74[2−(8−キノリノキシ)プロピオン酸];及び
LR−90[メチレンビス(4,4’−(2−クロロフェニルウレイドフェノキシイソ酪酸))]からなる群より選択される、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図18D】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図22C】
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【図22D】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2007−509946(P2007−509946A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538169(P2006−538169)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/035440
【国際公開番号】WO2005/044251
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(598004424)シティ・オブ・ホープ (15)
【氏名又は名称原語表記】City of Hope
【住所又は居所原語表記】1500 East,Duarte Road,Duarte,California 91010−0269,United States of America
【Fターム(参考)】