説明

脂質分解酵素変異体

【課題】脂質分解酵素の基質特異性は、所望の活性のレベルを上げるように、または望ましくない活性のレベルを低下させるように、脂質分解酵素の所定の領域のアミノ酸配列を変更することによって、変えることができる。かくして、本発明者らは、特定の用途のためにああつらえることができる基質特異性を有する、修飾されたアミノ酸配列を有する脂質分解酵素変異体を開発することを目的とする。
【解決手段】本発明は、アミノ酸配列を修飾することによって脂質分解酵素の基質特異性を変える方法および、そのような修飾によって得られる脂質分解酵素変異体に関する。本発明はまた、脂質分解酵素のスクリーニング方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、アミノ酸配列を修飾することによって脂質分解酵素の基質特異性を変える方法および、そのような修飾によって得られる脂質分解酵素変異体に関する。本発明はまた、脂質分解酵素のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
脂質分解酵素(例えばリパーゼおよびホスホリパーゼ)は、基質中のカルボン酸エステル結合を加水分解して、カルボン酸を放出することができる。異なるエステル結合に対する加水分解活性は、種々の工業用途における脂質分解酵素の有用性のために重要である。
【0003】
かくして、高いホスホリパーゼ活性を有する酵素が、広範囲の用途、例えばパン焼き(米国特許第4,567,046号)、小麦粉でん粉加水分解物のろ過(米国特許第5,264,367号)およびリン脂質含量を減らすための植物油の処理(米国特許第5,264,367号)において有用である。植物油の処理のためには、酵素は、低いリパーゼ活性を有していなければならない。すなわち、トリグリセリドのエステル結合に対して低い加水分解活性を有していなければならない。
【0004】
国際特許出願公開WO98/45453号は、ジガラクトシルジグリセリド(DGDG)に対する高加水分解活性を有する酵素がパン焼きにおいて有用であることを示す。
【0005】
洗濯洗剤にリパーゼを添加して、脂汚れを除去するのを助けることはよく知られている(例えば欧州特許第258,068号)。
【0006】
遊離の脂肪酸(FFA)としての短鎖脂肪酸の放出は、食品、例えばチーズ熟成におけるフレーバー発生のために望ましくあり得る(M.ハンソン(Hanson)、ZFL, 41(10), 664-666 (1990))。
【0007】
幾つかの脂質分解酵素の三次元(3D)構造が知られており、幾つかの構造は、活性部位を覆う、開いた状態または閉じた状態にあることができる、いわゆる「ふた」を含むことが知られている。ブラディ(Brady)ら、Nature, 343, 767-770 (1990)。ブルゾゾウスキー(Brzozowski) A Mら、Nature, 351, 491 (1991)。デレベンダ(Derewenda)ら、Biochemistry, 31(5), 1532-1541 (1992)。
【0008】
F.ハラ(Hara)ら、JAOCS, 74(9), 1129-32 (1997)は、幾つかのリパーゼが、ある種のホスホリパーゼ活性を有するが、それに対して、ほとんどのリパーゼはリン脂質にほとんどまたは全く活性を有さないことを示す。かくして、ホスホリパーゼ活性は、モルモット膵臓、フサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)およびスタフィロコッカス ヒーカス(Staphylococcus hyicus)からのリパーゼにおいて記載されており、ホスホリパーゼ活性をリパーゼの構造に関連づける試みがなされた。国際特許出願公開WO98/26057号;M.D. ファン カンペン(van Kampen)ら、Chemistry and Physics of Lipids, 93 (1998), 39-45;ヒョルス(Hjorth)ら、Biochemistry 1993, 32, 4702-4707。
【0009】
従来技術は、リゾプス デレマル(Rhizopus delemar)からのリパーゼにおいてアミノ酸置換による鎖長選択性への影響を記載した。かくして、R.D.ジョージャー(Joerger)ら、Lipids, 29(6), 377-384 (1994)は、変異体F95D、F112WおよびV209Wが、C4酸およびC8酸とは異なる好ましさを有することを示す。R.R.クライン(Klein)ら、JAOCS, 74(11), 1401-1407 (1997)は、変異体V206T+F95Dが、C8酸に対するより高い選択性を有することを示す。R.R.クライン(Klein)ら、Lipids, 32(2), 123-130 (1997)は、変異体V209W+F112W、V94WおよびF95D+F214Rが、C4酸およびC8酸へのより高い加水分解活性を有することを示し、中間の鎖長特異性のための構造決定子が、アシル結合溝の遠位端にあり得ることを示唆する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明者らは、脂質分解酵素の基質特異性が、所望の活性レベルを上げるか、または望ましくない活性レベルを下げるように、脂質分解酵素の所定の領域におけるアミノ酸配列を変更することによって修飾できることを見出した。かくして、本発明者らは、特定の用途のためにあつらえることができる基質特異性を有する、修飾されたアミノ酸配列を有する脂質分解酵素(以下では、脂質分解酵素変異体または、短く変異体と呼ぶ)を開発した。
【0011】
したがって、本発明は、脂質分解酵素変異体の製造方法およびこの方法によって製造される脂質分解酵素変異体を提供する。この方法は、
a)基質および注目のエステル結合を選択すること、
b)親脂質分解酵素を選択すること、
c)以下に記載する親脂質分解酵素の活性部位の近くの領域、C-末端の近くの領域、またはふた領域に、少なくとも1つのアミノ酸残基を選択すること、
d)そのそれぞれがアミノ酸残基の挿入、欠失、または置換である変更を行うこと、
e)任意的に、c)以外の1つ以上の位置で、そのそれぞれがアミノ酸残基の挿入、欠失、または置換である変更を行うこと、
f)得られる変異体を製造すること、
g)基質中のエステル結合に対する変異体の活性を試験すること、および
h)エステル結合に対する変えられた活性を有する変異体を選択すること
を含む。
【0012】
かくして、1つの態様においては、親脂質分解酵素は、sn2位置を持つグリセロール部分を有するアルコール結合部位を有し、アミノ酸の変更は、基質トリグリセリドのグリセロール部分のsn2位置のC原子の10オングストローム以内にある。
【0013】
別の態様においては、親脂質分解酵素は、活性Ser、活性Aspおよび活性His残基からなる触媒的三つ組を含む構造を有し、変更されるべきアミノ酸は、触媒的残基の活性His残基とC-末端との間に配置されるか、または以下の工程により定義されるセットEに属する:
i) 脂質分解酵素の構造と、触媒的三つ組および阻害リン原子を含むリゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)リパーゼ構造4TGL (4TGL-inhP)とを、2つの構造の触媒的三つ組の原子間の偏差の二乗の合計を最小にするように位置を調整すること(aligning)、
ii) 4TGL-inhPに中心を有する、半径18オングストロームの球の内側にある脂質分解酵素の原子からなるセットAを規定すること、
iii) 4TGL-inhP、親脂質分解酵素の活性Ser残基のCα原子および親脂質分解酵素の活性Asp残基のCα原子により規定される第1の平面を形成し、親脂質分解酵素の活性His残基のCα原子とは第1の平面の同じ側にある原子からなる、セットAのサブセットとしてセットBを規定すること、
iv) 4TGL-inhP、親脂質分解酵素の活性Ser残基のCα原子および親脂質分解酵素の活性His残基のCα原子により規定される第2の平面を形成し、親脂質分解酵素の活性Asp残基のCα原子とは第2の平面の反対側にある原子からなる、セットAのサブセットとしてセットCを規定すること、
v)セットBとセットCとを合わせたものに属し、かつ15以上の溶媒アクセシビリティ(accessibility)を有するする原子からなるセットDを形成すること、ならびに
vi)セットDに属する原子または、セットBとセットCとを合わせたものに属し、セットDに属する原子から3.5オングストローム未満に配置される原子を含む構造中のアミノ酸残基からなるセットEを形成すること。
【0014】
第3の態様においては、脂質分解酵素は、活性His残基を含む活性部位を有し、変更は、活性His残基とC-末端との間のアミノ酸配列においてなされる。
【0015】
本発明のなお別の態様においては、アミノ酸の変更は、C-末端の10個のアミノ酸残基間でなされる。
【0016】
さらなる態様においては、親脂質分解酵素はふたを有し、変更はふたの中でなされる。
【0017】
本発明はまた、変異体をコードするDNA配列、DNA配列を含む発現ベクター、DNA配列または発現ベクターを含む形質転換された宿主細胞および、変異体を製造するように形質転換された宿主細胞を培養し、得られたブロスから変異体を回収することによって変異体を製造する方法を提供する。
【0018】
本発明者らはまた、リパーゼおよびホスホリパーゼ活性ならびに、ジガラクトシルジグリセリドへの活性を有する脂質分解酵素が、パン焼きにおける使用のために特に有効であることを見出し、これらの活性を試験することにより、脂質分解酵素のスクリーニング方法を設計した。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】リパーゼ配列のアラインメント(alignment)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
基質中の選択されたエステル結合に対する変えられた活性
親脂質分解酵素と比べて、本発明は、少なくとも1つの基質中の少なくとも1つの選択されたエステル結合に対する活性を変えること、すなわち、所望の活性を増加させ、望ましくない活性を減少させるか、または、望ましくない活性対所望の活性の比を減少させることにより基質特異性を変えることを目的とする。
【0021】
かくして、増加されたホスホリパーゼ活性を有する酵素が、例えばパン焼きまたは植物油の精製において有用であり得る。パン焼きにおける使用のために、ジガラクトシルジグリセリド(DGDG) に対する加水分解活性を増加させることが望ましくあり得る。
【0022】
リーパゼが使用される任意の工業的使用のために、リパーゼ活性を増加することが望ましくあり得る。洗剤またはパン焼きにおける使用のためには、長鎖(C16〜C20)トリグリセリドに対する活性を増加することが望ましくあり得、短鎖または中間鎖(C4〜C8)脂肪酸に対する活性対長鎖脂肪酸に対する活性の比を減少させることによって、長鎖脂肪酸についての特異性を増加させることが望ましくあり得る。
【0023】
食品における使用、または食品においてフレーバーを発生させること(例えばチーズの熟成)における使用のためには、短鎖もしくは中間鎖(C4〜C8)トリグリセリドに対するリパーゼ活性を増加させることが望ましくあり得る。
【0024】
植物油の精製におけるホスホリパーゼとしての使用のためには、長鎖(C16〜C20)トリグリセリドに対するリパーゼ活性対ホスホリパーゼ活性の比を減少させることが望ましくあり得る。
【0025】
親脂質分解酵素
本発明において使用されるべき脂質分解酵素は、エステル結合を加水分解することができるものである。そのような酵素としては、例えばリパーゼ、例えばトリアシルグリセロールリパーゼ(EC 3.1.1.3)、リポタンパク質リパーゼ(EC 3.1.1.34)、モノグリセリドリパーゼ(EC 3.1.1.23)、リゾホスホリパーゼ、フェルラ酸エステラーゼおよびエステラーゼ(EC 3.1.1.1, EC 3.1.1.2)を包含する。括弧中の数字は、酵素の酵素反応性のタイプに従って生化学国際連合の酵素委員会により割当てられた系統番号である。
【0026】
親脂質分解酵素は、原核生物、特に細菌の酵素、例えばシュードモナス(Pseudomonas)からの酵素であり得る。例は、シュードモナス(Pseudomonas)リパーゼ、例えば、P.セパシア(cepacia)(米国特許第5,290,694号、pdb ファイル10IL)、P.グルマエ(glumae)(N.フレンケン(Frenken)ら、(1992)、Appl. Envir. Microbiol. 58 3787-3791, pdb ファイル1TAHおよび1QGE)、P.シュードアルカリゲネス(pseudoalcaligenes)(欧州特許第334,462号)およびシュードモナス(Pseudomonas)種株SD 705(FERM BP-4772)(国際特許出願公開WO 95/06720、欧州特許第721,981号、WO 96/27002、欧州特許第812,910号)からのシュードモナス(Pseudomonas)リパーゼである。P.グルマエ(glumae)リパーゼ配列は、クロモバクテリウム ビスコサム(Chromobacterium viscosum)のアミノ酸配列と同一である(ドイツ国特許出願3908131 A1)。他の例は、例えばシュードモナス(Pseudomonas)、例えばP.メンドシナ(mendocina)(米国特許第5,389,536号)またはP.プティダ(putida)(国際特許出願公開WO88/09367)からの、細菌クチナーゼである。
【0027】
あるいは、親脂質分解酵素は、真核生物、例えば菌類の脂質分解酵素、例えばフミコラ(Humicola)科および接合菌網(Zygomycetes)科の脂質分解酵素および菌類クチナーゼであり得る。
【0028】
菌類クチナーゼの例は、フサリウム ソラニ ピシ(Fusarium solani pisi)(S.ロンギ(Longhi)ら、Journal of Molecular Biology, 268(4), 779-799 (1997))およびフミコラ インソレンス(Humicola insolens)(米国特許第5,827,719号)のクチナーゼである。
【0029】
フミコラ(Humicola)科の脂質分解酵素は、H.ラヌジノサ(lanuginosa)株DSM 4109からのリパーゼおよび、該リパーゼと50%より上の相同性を有するリパーゼからなる。H.ラヌジノサ(lanuginosa)からのリパーゼ(異名、サーモミセス ラヌジノサス(Thermomyces lanuginosus))は、欧州特許第258,068号および欧州特許第305,216号に記載されており、米国特許第5,869,438号のSEQ ID NO:2の位置1-269に示されたアミノ酸配列を有する。
【0030】
フミコラ(Humicola)科はまた、以下の脂質分解酵素を含む:ペニシリウム カメンベルティ(Penicillium camembertii)からのリパーゼ(P25234)、フサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)からのリパーゼ/ホスホリパーゼ(欧州特許第130064号、国際特許出願公開WO98/26057号)、F.ヘテロスポラム(heterosporum)からのリパーゼ(R87979)、アスペルギルス ホエティダス(Aspergillus foetidus)からのリゾホスホリパーゼ(W33009)、A.オリザエ(oryzae)からのホスホリパーゼA1(特開平10-155493号公報)、A.オリザエ(oryzae)からのリパーゼ(D85895)、A.ニガー(niger)からのリパーゼ/フェルラ酸エステラーゼ(Y09330)、A.ツビンゲンシス(tubingensis)からのリパーゼ/フェルラ酸エステラーゼ(Y09331)、A.ツビンゲンシス(tubingensis)からのリパーゼ(WO98/45453)、A.ニガー(niger)からのリゾホスホリパーゼ(WO98/31790)、等電点6.9および見かけ上の分子量30kDaを有する、F.ソラニイ (solanii)からのリパーゼ(WO96/18729)。
【0031】
接合菌網(Zygomycetes)科は、リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)のリパーゼ(P19515)と少なくとも50%の相同性を有するリパーゼを含む。この科はまた、アブシディア リフレキサ(Absidia reflexa)、A.スポロフォラ(sporophora)、A.コリンビフェラ(corymbifera)、A.ブラケスレーアナ(blakesleeana)、A.グリセオラ(griseola)(すべてWO96/13578およびWO97/27276に記載されている)およびリゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)からのリパーゼ(P21811)を含む。括弧中の数字は、公開番号または、EMBL、GenBank、GeneSeqpまたはSwiss-Protデータベースへの受入番号を示す。
【0032】
全くまたはほとんどホスホリパーゼ活性を有さない(例えば0.1 PHLU/LUより下または50 PHLU/mgより下の、ホスホリパーゼ活性対リパーゼ活性の比に相当する)親脂質分解酵素からホスホリパーゼ活性を有する変異体を誘導することは、特に興味深い。
【0033】
アルコール結合部位付近の変更
すでに述べたように、親脂質分解酵素のアミノ酸配列は、基質トリグリセリドのグリセロール部分に近い位置で修飾され得る。この領域は、リパーゼの「アルコール結合部位」と称され;ブルゾゾウスキー(Brzozowski) A Mら、Nature, 351, 491 (1991);ウッペンベルグ(Uppenberg)ら、Biochemistry, 1995, 34, 16838-16851;A.スベンセン(Svendsen), Inform, 5(5), 619-623 (1994)に記載されている。
【0034】
リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)については、アルコール結合部位の範囲は、インターネット(http://www.rcsb.org/pdb/)でタンパク質の構造分類(Structural Classification of Proteins)(SCOP)において入手可能なPDBファイル「5tgl.pdb」から見出すことができ、阻害剤n-ヘキシルホスホネートエチルエステル(基質をまねる)との複合体を示している。それは、デレウェンダ(Derewenda)ら(前出)、ブルゾゾウスキー(Brzozowski) ら(前出)およびブラディら(前出)に記載されている。このモデルのsn2位置は、原子CE2である。
【0035】
変異体は典型的には、アルコール結合部位に10個以下の変更、例えば1、2、3、4、5または6個の変更を含む。
【0036】
変更は特に、C-末端の20位置以内(例えば10位置以内)にくるアルコール結合部位のその部分にあり得る。
【0037】
すでに述べたように、親脂質分解酵素のアミノ酸配列は、基質トリグリセリドのグリセロール部分のsn2位置のC原子の10オングストローム以内(例えば8オングストローム以内、特に6オングストローム以内)にある位置で修飾され得る。以下のアミノ酸位置は、リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)リパーゼのsn2位置の10オングストローム以内にある:25、28、80-84、88、143-146、175、203、205、254-255、257-259、264-267。以下は8オングストローム以内にある:81-83、144、257-258、265-267、かつ、以下は6オングストローム以内にある:82、144、257、266。
【0038】
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼにおいては、以下の位置が、sn2位置の10オングストローム以内にある:18、21、81-85、89、145-148、172、201、203、255-256、258-260、264-267。以下は8オングストローム以内にある:82-84、89、146、258-259、265-267、かつ以下は6オングストローム以内にある:83、146、258、266。
【0039】
触媒的三つ組付近の変更
すでに述べたように、1つの態様においては、親脂質分解酵素は、活性Ser、活性Aspおよび活性His残基からなる触媒的三つ組を含む構造を有し、変更されるべきアミノ酸は、上記したある種の工程により定義されるセットに属する。構造は、開いた構造または閉じた構造であることができ、基質または阻害剤を含むか、または含まないことができる。
【0040】
この工程は、ソフトウェア、例えばMSI's Insight IIを用いて簡単に行われる。それは、ジエチルp-ニトロフェニルホスフェートによって不可逆的に阻害されるリゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)からのリパーゼの結晶構造である4TGLとのアラインメントを含む。これは、インターネットでhttp://www.rcsb.org/pdb/にて、タンパク質の構造分類(Structural Classification of Proteins)(SCOP)において入手可能であり、デレウェンダ(Derewenda)ら(前出)に記載されている。リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)リパーゼは、アミノ酸残基S144、D203およびH257からなる触媒的三つ組を含む。
【0041】
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼについては、構造1tibを使用することができ;それは、インターネットで、タンパク質の構造分類(Structural Classification of Proteins)(SCOP)において入手可能である。この構造を用いると、この工程により定義されたセットは、以下の位置を含む:10-23、26、40、55-64、80-87、116-117、119、145-149、151、168、170、194、196-201、220-222、224-227および254-269。
【0042】
活性His残基のC-末端側での変更
上記したように、活性His残基と末端との間のアミノ酸配列において、特に活性HisのC-末端側で12個のアミノ酸の間で、1つ以上の変更を行い得る。
【0043】
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼは、H258に活性HisおよびL269にC-末端を有し、よって、この領域は、位置259-269を含む。P.セパシア(cepacia)リパーゼは、活性H286および、残基297にC-末端を有し、よってこの領域は、残基287-297を含む。
【0044】
C-末端付近の変更
上記したように、1つ以上の変更は、成熟タンパク質のC-末端からアミノ酸10個以内の位置で行われ得るか、
または、H. ラヌジノサ(lanuginosa)リパーゼのそのような位置に対応する位置、すなわちH. ラヌジノサ(lanuginosa)リパーゼの位置260-269で行われ得る。対応する位置は、本明細書で後に記載する2つの配列のアラインメントにより見出すことができる。
【0045】
脂質分解酵素変異体は、C-末端の最初の1、2、3、4、5または6位置に対応するアミノ酸残基を欠失することによって先端を切り取られる(truncated)ことができる。先端を切り取られた(truncated)変異体は、熱安定性が改善され得る。
【0046】
あるいは、変異体は、C-末端および/またはN-末端にペプチド伸長を含むことができる。C-末端伸長は、1〜10個のアミノ酸残基、例えばA、P、AG、DG、PG、AGG、PVGF、AGRF、PRGF、AGGFまたはAGGFSからなることができ;または、それは、40〜50個の残基、例えばフサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)リパーゼの48個のC-末端残基、AGGFSWRRYRSAESVDKRATMTDAELEKKLNSYVQMDKEYVKNNQARSからなることができる。C-末端伸長は、ホスホリパーゼ活性を増加させ得る。
【0047】
アルコール結合部位と重複する領域における幾つかの変更が、以下に記載される。
【0048】
特定の変更は、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼにおけるG266に対応する位置での、特に、中間の大きさのアミノ酸、例えばA、C、D、N、L、I、S、T、PまたはVでの置換である。そのような変更だけがホスホリパーゼ活性を増加させるのに十分であることが見出された。
【0049】
他の特定の変更は、三次構造を、例えばかさ高い側鎖の導入によって、または結合角を妨害することによって、例えばProを導入することによって、変えるといったようなものである。そのような変更は、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼの位置G263、L264、I265、T267またはL269に対応する位置でなされ得る。幾つかの特定の置換は、G263A,E,Q,R;L264A,C,P,Q;I265L,N,T;T267A,QまたはL269Nである。
【0050】
ふたにおける変更
上記したように、親脂質分解酵素のアミノ酸配列は、親脂質分解酵素のふた領域中で修飾され得る。この領域は、ブラディ(Brady)ら、Nature, 343, 1990, 767-770およびブルゾゾウスキー(Brzozowski) A Mら、Nature, 351, 491 (1991)に記載されている。H. ラヌジノサ(lanuginosa)リパーゼにおいては、ふたは、位置80-100に配置され、修飾は特に、位置82-98、例えば91-98にてなされ得る。
【0051】
変異体は典型的には、ふた領域に5個以下の変更を有する;それは、0、1、2または3個の変更を含み得る。特異的変更は、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼにおいてG91、L93、N94、D96、K98、L97および/またはE99に対応するアミノ酸の、中性または正に帯電したアミノ酸での置換、例えばG91A,T、L93K、N94D、D96S,W,G、L97Q、K98D,F,Eおよび/またはE99K,Dに対応する置換である。
【0052】
特に、ふた領域に変更を有する変異体はまた、触媒的三つ組の近く、基質結合部位の近く、またはC-末端の近くに1つ以上の変更を含む。
【0053】
脂質分解酵素変異体
本発明の脂質分解酵素変異体は、上記した任意の領域に1つ以上のアミノ酸残基変更を含む。各変更は、アミノ酸残基の欠失または置換であることができ、または、アミノ酸残基の前もしくは後への挿入であることができる。アミノ酸残基がC-末端にあるなら、挿入はC-末端伸長であり得る。挿入は典型的には、1〜5個、例えば1〜2個のアミノ酸残基からなり、C-末端伸長は、1〜50個または2〜10個のアミノ酸残基からなり得る。
【0054】
上記領域での変更の総数は典型的には20以下、例えば10以下、または5以下であり、上記領域での1または2の変更程度であり得る。
【0055】
さらに、本発明の脂質分解酵素変異体は、親酵素の他の修飾、典型的には10以下、例えば5以下のそのような修飾を任意的に含むことができる。
【0056】
変異体は一般に、少なくとも80%、たとえば少なくとも85%、典型的には少なくとも90%または少なくとも95%の、親脂質分解酵素との相同性を有する。
【0057】
本発明の変異体は、N-末端での、例えば1〜15個(特に4〜10個)のアミノ酸残基からなる、特に1、2または3個の正に帯電したアミノ酸を含むペプチド伸長をさらに含むことができる。幾つかの特定のN-末端ペプチド伸長は、AS、SPIRR、E1RP、E1SPIRPRP、E1SPPRRPおよびE1SPIRPRPである。さらに、WO97/04079およびWO97/07202に記載されている任意のペプチド伸長を使用することができる。
【0058】
特定の変異体
フミコラ(Humicola)科の脂質分解酵素の変異体を製造するために、アミノ酸変更は特に、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼの20-25、56-64、81-85または255-269に対応する位置でなされ得る。かくして、変更は、A20、Y21、G23、K24、N25、V63、R81、G82、R84、A257、W260、Y261、F262またはG266(例えば、G23C、K24C、R81Cを除外する)に対応する位置での置換、欠失または挿入、C268またはL269に対応するアミノ酸の置換であることができる。
【0059】
幾つかの特定の変更は、H. ラヌジノサ(lanuginosa)リパーゼにおける以下に対応する置換:Y21V/I/L/A/G/M/W/P/F/N/Q/S/T、V60V/I/L/A/G/M/W/P/F/N/Q/S/T、G61V/I//L/A/G/M/W/P/F/N/Q/S/T、D62E/A/V、S83T、R84K/L/W、P256A、G263E,Q,R,F、L264A,C,P,F,G,I、I265L,N,F、G266D/EもしくはT267A,Q,P,S,Eまたは、T267GSもしくはT267GLに対応する挿入である。
【0060】
トリグリセリド中の短鎖(C4〜C8)脂肪酸に対する活性を変えるために、Y21、E56、D57、V60、G61、D62、R81、S83、R84、L259、Y261またはG266に対応する位置で変更を行うことができ、例えばY21V/I、V60G、D62E/A/V、S83T、R84K/L/WまたはG266D/Eに対応する置換を行うことができる。
【0061】
DGDGに対する活性を増加させるために、Y21、G23、N26、D57、D62、R81、S83、R84、S85、G266、T267またはL269に対応する位置で変更を行うことができ、例えば2つ以上のそのような変更を、例えばふた領域での1つ以上の変更と一緒に行うことができる。ホスホリパーゼ活性を増加させるために、R81、R84、S85または263-267(例えばG266またはT267)に対応する位置で変更を行うことができる。
【0062】
シュードモナス(Pseudomonas)リパーゼの変異体を製造するために、P.セパシア(cepacia)リパーゼにおける12-13、16-34、45-52、59-66、68、86-87、107-109、111、143-153、155、157-158、207-212、228、230、242-249、264、279-280、282-297、301-302、304-305、307-308、特に、P.セパシア(cepacia)/P.グルマエ(glumae)リパーゼにおいてL17/L17、T18/A18、Y29/Y29、L287/L286、E289/E288、I290/I289、Q292/Q291またはL293/L292に対応する位置で、アミノ酸修飾を行うことができる。
【0063】
H. ラヌジノサ(lanuginosa)リパーゼの特定の変異体は、実施例に開示されている。対応する変更を、他の親脂質分解酵素において行うことができる。さらなる変異体は、位置1、106、186、225、232、237、239または274でのアミノ酸修飾を省くことによって、これらから誘導することができる。274Sを有する変異体は任意的に、完全な、または先端を切り取られた形で、WRRYRSAESVDKRATMTDAELEKKLNSYVQMDKEYVKNNQARS(F.オキシスポラム(oxysporum)リパーゼのC-末端に対応する)のさらなるC-末端伸長を有することができる。
【0064】
アミノ酸変更についての命名
変異を定義するために本明細書で使用した命名法は、基本的には、WO92/05249に記載されたものである。かくして、G91Aは、位置91でGをAで置換することを示す。T267A,Qは、位置267で、TをAまたはQで置換することを示す。E1E,D,Aは、E1はそのままか、またはDもしくはAで置換されることを示す。
【0065】
T267stopは、停止コドンを示す。すなわち、T267およびすべての以下のアミノ酸(すなわちC268およびL269)の欠失を示す。270P,271Vは、PVのC-末端伸長(すなわち、新たな位置270および271での)を示す。-G266は、位置266でのGの欠失を示す。括弧は、変更が任意であること、または実施例においては変更が不確実であることを示す。SPIRRは、N-末端伸長を示す。D266は、位置または、任意のアミノ酸(Dを除く)での置換をいう。
【0066】
E1SPPCGRRPまたはSPPCGRRP(-E)は、E1をSPPCGRRPで置換すること、すなわちN-末端でのペプチド付加を示す。T267GSは、T267をGSで置換することを示し、または、言い換えれば、置換T267GおよびG267とG268の間へのSの挿入を示す。
【0067】
相同性およびアラインメント
本発明の目的のためには、相同性の程度は、当技術分野で公知のコンピュータプログラム、例えばGCGプログラムパッケージ(ウィスコンシン パッケージのためのプログラム マニュアル(Program Manual for the Wisconsin Package)、バージョン8、1994年8月、ジェネティックス コンピュータ グループ(Genetics Computer Group)、575 サイエンス ドライブ(Science Drive)、マジソン(Madison)、ウィスコンシン(Wisconsin)、USA53711)(ニードルマン(Needleman), S. B. およびワンシュ(Wunsch), C. D., (1970), Journal of Molecular Biology, 48, 443-45)において提供されるGAPによって、ポリペプチド配列比較のための以下の設定:GAP創造ペナルティ(creation penalty)3.0およびGAP伸長ペナルティ(extension penalty)0.1を有するGAPを用いて、適当に決定され得る。
【0068】
本発明においては、リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)(rhimi)、リゾプス デレマル(Rhizopus delemar)(rhidl)、サーモミセス ラヌジノサ(thermomyces lanuginosa)(旧;フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa))(SP400)、ペニシリウム カメンベルティ(Penicillium camembertii)(Pcl)およびフサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)(FoLnp11)のリパーゼ配列における対応する(または相同の)位置は、図1に示したアラインメントによって定義される。
【0069】
アラインメントに示されていないリパーゼ配列における相同の位置を見出すために、注目の配列を、図1に示した配列に対してアライニングする。GAPプログラムによって見出されたほとんどの相同配列に対するGAPアラインメントを用いて、新しい配列を、図1の本発明のアラインメントに対しアライニングする。GAPは、GCGプログラムパッケージ(ウィスコンシン パッケージのためのプログラム マニュアル(Program Manual for the Wisconsin Package)、バージョン8、1994年8月、ジェネティックス コンピュータ グループ(Genetics Computer Group)、575 サイエンス ドライブ(Science Drive)、マジソン(Madison)、ウィスコンシン(Wisconsin)、USA53711)(ニードルマン(Needleman), S. B. およびワンシュ(Wunsch), C. D., (1970), Journal of Molecular Biology, 48, 443-45)において提供される。ポリペプチド配列比較のために、以下の設定が使用される:GAP創造ペナルティ(creation penalty)3.0およびGAP伸長ペナルティ(extension penalty)0.1。
【0070】
ホスホリパーゼ活性を有する変異体
上記したように、本発明の変異体は、親脂質分解酵素より高いホスホリパーゼ活性を有することができる。本明細書において後で述べる単層法により、変異体は、pH5にて少なくとも0.1ナノモル/分のホスホリパーゼ活性を有し得る。
【0071】
本明細書において後で述べるPHLU法により、変異体は、少なくとも100 PHLU/mg(精製酵素タンパク質のmg)、特に少なくとも500 PHLU/mgのホスホリパーゼ活性を有し得る。変異体は、少なくとも0.1 PHLU/LU、例えば少なくとも0.5 PHLU/LU、特に少なくとも2 PHLU/LUのホスホリパーゼ活性対リパーゼ活性(両方共pH7で測定した)の比を有する。
【0072】
PHLU法により証明されるように、本発明の変異体は、完全なリン脂質を加水分解する能力を有し得る。本発明の変異体はA1および/またはA2活性を有することができ、それでリン脂質中の脂肪族アシル基の1つまたは両方を加水分解することができる。
【0073】
pH最適条件
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼの多くの変異体は、リパーゼ活性のためにアルカリ性pH最適条件および、ホスホリパーゼ活性のために酸性pH最適条件を有する(例えば、リパーゼのためにpH9〜10および、ホスホリパーゼのためにpH4〜6)。そのような変異体は、非常に低い付随的リパーゼ活性を有するホスホリパーゼとして、酸性pHで使用することができる(例えば、後に述べる油の脱ゴム(degumming)において)。
【0074】
しかしながら、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼの幾つかの変異体(置換G266D,Eを含む変異体)は、pH5〜6付近でリパーゼおよびホスホリパーゼの両方の活性に最適なpHを有する。そのような変異体は、リパーゼおよびホスホリパーゼの両方の活性が望ましいとき、例えばパン焼きにおいては、酸性pHで使用され得る。
【0075】
熱安定性
変異体の熱安定性は、示差走査熱量測定(DSC)によって便利に評価することができる。正確な変異に依存して、本発明の変異体は一般に、親脂質分解酵素と同様またはわずかに低い熱安定性を有する。
【0076】
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)からのリパーゼの変性ピーク(Td)の頂点温度は、pH5で90℃/時間で加熱したときには、70℃のすぐ上(=Td)である。本発明の変異体のTdは一般に、5〜10℃低い。
【0077】
変異体の使用
基質特異性に依存して、本発明の変異体は、例えばろ過の改善、植物油処理、パン焼き、洗剤またはリゾリン脂質の製造において使用することができる。
【0078】
ろ過の改善
変異体で処理することによって、炭水化物起源の水性溶液またはスラリ−のろ過性を改善するために、リゾホスホリパーゼ活性を有する変異体を使用することができる。これは、でん粉加水分解物、特に小麦でん粉の加水分解物を含む溶液またはスラリーに特に適用できる。というのは、小麦でん粉の加水分解物は、ろ過しにくく、曇ったろ液が得られる傾向があるからである。この処理は、欧州特許第219,269号(CPCインターナショナル(international))と同様にして行うことができる。
【0079】
植物油処理
ホスホリパーゼ活性を有する変異体を、食用油中のリン脂質含量を減らすためのプロセスにおいて使用することができ、このプロセスは、大部分のリン脂質を加水分解するように変異体で油を処理すること、および加水分解されたリン脂質を含む水相を油から分離することを含む。このプロセスは、リン脂質を含む任意の食用油、例えば植物油(例えば大豆油、菜種油およびヒマワリ油)の精製に適用できる。この処理は、酸性pH、例えばpH3〜5で行うことができる。有利には変異体は、2つの活性の異なるpH最適条件の故に、低pHで高いホスホリパーゼ活性および低いリパーゼ活性を有するように、選択されることができる。
【0080】
油処理のためのプロセスは、当技術分野で公知の原理に従って行うことができ、例えば米国特許第5,264,367号(メタルゲゼルシャフト(Metallgesellschaft)、ローム(Rohm));K.ダールケ(Dahlke)&H.ブホルド(Buchold), INFORM, 6(12), 1284-91 (1995);H. ブホルド(Buchold),Fat Sci. Technol., 95(8), 300-304 (1993);特開平2-153997号公報(ショーワ サンギョウ(Showa Sangyo));または欧州特許第654,527号(メタルゲゼルシャフト(Metallgesellschaft)、ローム(Rohm))と同様にして行うことができる。
【0081】
ホスホリパーゼの多方面にわたる用途
例えば、欧州特許第870840号、特開平10-42884号公報、特開平4-135456号公報または特開平2-49593号公報に記載されたようにして、対応するリン脂質を変異体で処理することによって、リゾリン脂質(例えば、リゾ-レクチン)を製造するために、ホスホリパーゼ活性を有する変異体を使用することができる。変異体はまた、例えば欧州特許第628256号、同第398666号または同第319064号に記載されているように、マヨネーズを作るために使用することができる。
【0082】
例えば欧州特許第567,662号(ネスレ(Nestle))、欧州特許第426,211号(ユニリーバー(Unilever))、欧州特許第166,284号(ネスレ(Nestle))、特開昭57-189638号公報(ヤクルト(Yakult))または米国特許第4,119,564号(ユニリーバー(Unilever))に記載されているように、乳製品および他の食品の加工において、ホスホリパーゼ活性を有する変異体を使用することができる。
【0083】
変異体は、特開平7-177884号公報(カオー(Kao))に記載されているように、皮革処理に使用することができる。
【0084】
パン焼き
パン生地、パンおよびケーキの製造において、例えば生地の安定性および生地の取扱い特性を増進するために、またはパンもしくはケーキの弾性を改善するために、ホスホリパーゼ活性および/またはDGDGアーゼ活性を有する変異体を使用することができる。かくして、変異体を、パンを作るプロセスにおいて使用することができ、このプロセスは、生地の成分に変異体を添加すること、生地をこねること、および生地を焼いてパンを作ることを含む。これは、米国特許第4,567,046号(キョウワ ハッコウ(Kyowa Hakko))、特開昭60-78529号公報(QPコーポレーション(Corp.))、特開昭62-111629号公報(QPコーポレーション(Corp.))、特開昭63-258528号公報(QPコーポレーション(Corp.))、欧州特許第426211(ユニリーバー(Unilever))または国際特許出願公開WO99/53769(ノボ ノルディスク(Novo Nordisk))と同様にして行うことができる。
【0085】
変異体を腐敗抵抗性(anti-staling)エンド-アミラーゼと一緒に使用して、任意的にまた、リン脂質を添加して、パンの腐敗を減らし、特に、焼いた後最初の24時間のパンの柔らかさを改善することが特に有利である。エンド-アミラーゼは、マルトゲン(maltogenic)α-アミラーゼ(例えば、バチルス(Bacillus)種からのもの、例えばノボ ノルディスク(Novo Nordisk)からのNovamyl(商標))または菌類もしくは細菌のα-アミラーゼ(例えば、アスペルギルス (Aspergillus)もしくはバチルス(Bacillus)、特にA.オリザエ(oryzae)、B.リチェニホルミス(licheniformis)もしくはB.アミロリクエファシエンス(amyloliquefaciens)からのもの)であり得る。
【0086】
パン焼きにおいて、変異体は、短鎖または中間鎖(C4〜C8)に対する低い活性、例えばSLU/LU比が3より上に相当する活性を有し得る。そのような変異体を使用すると、短鎖脂肪酸の放出による望ましくないフレーバーの発生を避けるかまたは抑制することができる。この変異体は、トリグリセリドおよびリン脂質ならびにDGDGに対する活性を有し得る。
【0087】
チーズフレーバー
短鎖脂肪族アシル基への活性を有する変異体は、食品におけるフレーバー発生のために、例えばチーズの熟成において、M.ハンソン(Hanson), ZFL, 41(10), 664-666 (1990)に記載されているように、遊離の脂肪酸(FFA)を放出するために使用することができる。
【0088】
乳脂肪から、長鎖脂肪酸に比べて短鎖脂肪酸の放出が増加される脂質分解酵素変異体は、例えばフレーバー増加のために、または、チェダーもしくはパルメザンのような熟成チーズの熟成時間を短くするために、チーズ製造において有用である。そのような脂質分解酵素変異体の別の用途は、プロセスチーズ、ドレッシングおよび軽食を含む種々の食品のための味付けとして使用するための、酵素変性したチーズ(EMC)のための用途である。
【0089】
酪酸のような短鎖脂肪酸の放出は、チーズフレーバーの発生のために必須であるが、それに対して、オレイン酸のような長鎖脂肪酸の放出は、異臭を生じる。チーズ用途のための脂質分解酵素変異体(EMCを含む)は、0.5未満、例えば0.25未満、最も好ましくは0.1未満のSLU/LU比を有していなければならない。
【0090】
洗剤における使用
変異体は、洗剤添加剤として、例えば0.001〜10(例えば0.01〜1)mg/g洗剤または0.001〜100(例えば0.01〜10)mg/リットル洗浄液の濃度(精製酵素タンパク質として表した)で使用することができる。
【0091】
洗剤においては、変異体は、脂汚れの除去を改善するために、長鎖トリグリセリド(C16〜C20)に対する高い活性を有し得る。変異体は、ホスホリパーゼ活性を有し得る。変異体は、トリグリセリド中の短鎖(C4〜C8)脂肪酸に対する低い活性、例えばSLU/LU比が10より上に相当する活性を有し得る。そのような変異体を使用すると、短鎖脂肪酸の発生による望ましくない臭いの発生を避けるかまたは抑制することができる。
【0092】
アルカリ性pHでリパーゼおよびホスホリパーゼの両方の活性を有する変異体は、洗剤において使用することができる。
【0093】
洗剤組成
本発明の洗剤組成物は、例えば、染色された布の前処理のために適当な洗濯添加剤組成物およびリンス剤を加えた布用柔軟剤組成物を含む、手洗いもしくは機械洗濯用の洗剤組成物として処方することができ、または一般的な家庭用の硬質表面清浄作業における使用のための洗剤組成物として処方することができる。洗濯洗剤においては、変異体は、脂汚れの除去、白色維持および黒ずみの浄化のために有効であり得る。洗濯洗剤組成物は、WO97/04079、WO97/07202、WO97/41212、PCT/DK WO98/08939およびWO97/43375に記載されているようにして、処方することができる。
【0094】
本発明の洗剤組成物は特に、例えば英国特許2,247,025号(ユニリーバー(Unilever))またはWO99/01531(プロクター&ガンブル(Procter&Gamble))に記載されているように、手または機械での食器洗い操作のために処方することができる。食器洗い組成物においては、変異体は、脂/油性汚れの除去のために、非常に着色された部品による食器および食器のプラスチック部品の着色/変色の防止のために、および食器への石灰石鹸の堆積の回避のために有効であり得る。
【0095】
本発明の洗剤組成物は、任意の便利な形態、例えば棒、錠剤、粉末、顆粒、ペーストまたは液体の形態であり得る。液体洗剤は、典型的には70%までの水および0〜30%の有機溶媒または非水性溶媒を含む、水性液体であり得る。
【0096】
洗剤組成物は、1種以上の界面活性剤を含み、これは、非イオン性(半極性を含む)および/またはアニオン性および/またはカチオン性および/または両イオン性であることができる。界面活性剤は典型的には、0.1〜60重量%、例えば0.5〜40重量%、例えば1〜30重量%、典型的には1.5〜20重量%の濃度で存在する。
【0097】
含まれるときには、洗剤は通常、約1%〜約40%のアニオン性界面活性剤、例えば直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファ-オレフィンスルホネート、硫酸アルキル(脂肪族アルコールサルフェート)、アルコールエトキシサルフェート、第2級アルカンスルホネート、アルファ-スルホ脂肪酸メチルエステル、アルキル-もしくはアルケニルコハク酸または石鹸を含む。
【0098】
含まれるときには、洗剤は通常、約0.2〜約40%の非イオン性界面活性剤、例えばアルコールエトキシレート、ノニルフェノールエトキシレート、アルキルポリグリコシド、アルキルジメチルアミン-オキシド、エトキシル化脂肪酸モノエタノール-アミド、脂肪酸モノエタノールアミド、ポリヒドロキシアルキル脂肪酸アミドまたは、グルコサミンのN-アシル誘導体(「グルカミド」)を含む。
【0099】
本発明はまた、本発明の変異体を含む洗剤添加剤を提供する。洗剤添加剤ならびに洗剤組成物は、1種以上の他の酵素、例えばプロテアーゼ、リパーゼ、クチナーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、アラビナーゼ、ガラクタナーゼ、キシラナーゼ、オキシダーゼ、例えばラッカーゼおよび/またはペルオキシダーゼを含むことができる。
【0100】
一般に、選ばれた酵素の特性は、選ばれた洗剤と適合性でなければならず(すなわち、pH最適条件、他の酵素および非酵素成分との適合性等)、酵素は有効な量で存在しなければならない。
【0101】
プロテアーゼ:適当なプロテアーゼは、動物、植物または微生物起源のものを含む。微生物起源が好ましい。化学的に変性された、またはタンパク質操作された変異体が含まれる。プロテアーゼは、セリンプロテアーゼまたはメタロプロテアーゼ、例えばアルカリ性微生物プロテアーゼまたはトリプシン様プロテアーゼであり得る。アルカリ性プロテアーゼの例は、サブチリシン、特にバチルス(Bacillus)から誘導されたもの、例えばサブチリシン ノボ(subtilisin Novo)、サブチリシン カールスバーグ(subtilisin Carlsberg)、サブチリシン309、サブチリシン147およびサブチリシン168(WO89/06279に記載されている)である。トリプシン様プロテアーゼの例は、トリプシン(例えば豚または牛起源)および、WO89/06270およびWO94/25583に記載されたフサリウム (Fusarium)プロテアーゼである。
【0102】
有用なプロテアーゼの例は、WO92/19729、WO98/20115、WO98/20116およびWO98/34946に記載された変異体、特に、以下の位置の1つ以上に置換を有する変異体である:27、36、57、76、87、97、101、104、120、123、167、170、194、206、218、222、224、235および274。
【0103】
特定の市販の入手可能なプロテアーゼとしては、Alcalase(商標)、Savinase(商標)、Primase(商標)、Duralase(商標)、Esperase(商標)およびKannase(商標)(ノボ ノルディスク(Novo Nordisk)A/S)、Maxatase(商標)、Maxacal(商標)、Maxapem(商標)、Properase(商標)、Purafect(商標)、Purafect OxP(商標)、FN2(商標)およびFN3(商標)(ジェネンコール インターナショナル(Genencor International)社)を包含する。
【0104】
セルラーゼ:適当なセルラーゼは、細菌または菌類起源のものを含む。市販の変性された、またはタンパク質操作された変異体が含まれる。適当なセルラーゼとしては、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、フミコラ(Humicola)属、フサリウム(Fusarium)属、チエラビア(Thielavia)属、アクレモニウム(Acremonium)属からのセルラーゼ、例えば、米国特許第4,435,307号、同第5,648,263号、同第5,691,178号、同第5,776,757号およびWO89/09259に開示された、フミコラ インソレンス(Humicola insolens)、ミセリオフトラ サーモフィラ(Myceliophthora thermophilla)およびフサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)から生成された菌類セルラーゼを包含する。
【0105】
特に適当なセルラーゼは、カラー ケア ベネフィット(colour care benefit)を有するアルカリ性または中性セルラーゼである。そのようなセルラーゼの例は、欧州特許第0,495,257号、欧州特許第0,531,372号、WO96/11262、WO96/29397、WO98/08940に記載されたセルラーゼである。他の例は、WO94/07998、欧州特許第0,531,315号、米国特許第5,457,046号、同第5,686,593号、同第5,763,254号、WO95/24471、WO98/12307およびPCT/DK98/00299に記載されたようなセルラーゼ変異体である。
【0106】
市販の入手可能なセルラーゼとしては、Celluzyme(商標)およびCarezyme(商標)(ノボ ノルディスク(Novo Nordisk)A/S)、Clazinase(商標)およびPuradax HA(ジェネンコール インターナショナル(Genencor International)社)ならびにKAC-500(B) (商標)(カオー コーポレーション(Kao Corporation))を包含する。
【0107】
ペルオキシダーゼ/オキシダーゼ:適当なペルオキシダーゼ/オキシダーゼは、植物、細菌または菌類起源のものを含む。化学的に変性された、またはタンパク質操作された変異体が含まれる。有用なペルオキシダーゼの例としては、コプリナス(Coprinus) 、例えばC.シネレウス(cinereus)からのペルオキシダーゼおよび、WO93/24618、WO95/10602およびWO98/15257に記載されたようなその変異体を包含する。
【0108】
市販の入手可能なペルオキシダーゼとしては、Guardzyme(商標)(ノボ ノルディスク(Novo Nordisk)A/S)を包含する。
【0109】
洗剤酵素は、1種以上の酵素を含む別々の添加剤を加えることによって、または、これらの酵素をすべて含む、一緒にした添加剤を加えることによって、洗剤組成物中に含まれることができる。本発明の洗剤添加剤(すなわち、別々の添加剤または一緒にした添加剤)は、例えば顆粒、液体、スラリー等として処方されることができる。特定の洗剤添加剤処方物は、顆粒、特に粉塵の出ない(nondusting)顆粒、液体、特に安定化された液体またはスラリーである。
【0110】
粉塵の出ない(nondusting)顆粒は、例えば米国特許第4,106,991号および同第4,661,452号に開示されたようにして製造することができ、任意的に当技術分野で公知の方法によってコーティングされることができる。蝋質コーティング材料の例は、平均分子量1000〜20000を有するポリ(エチレンオキシド)製品(ポリエチレングリコール、PEG);16〜50個のエチレンオキシド単位を有するエトキシル化ノニルフェノール;エトキシル化脂肪族アルコール(アルコールが12〜20個の炭素原子を有し、かつ15〜80個のエチレンオキシド単位がある);脂肪族アルコール;脂肪酸;ならびに、脂肪酸のモノ-およびジ-およびトリグリセリドである。流動床技術による適用のために適当な膜形成コーティング材料の例は、英国特許第1483591号に与えられている。液体酵素調製物は、例えば、確立された方法に従って、ポリオール、例えばプロピレングリコール、糖もしくは糖アルコール、乳酸またはホウ酸を添加することによって安定化され得る。保護された酵素は、欧州特許第238,216号に開示された方法に従って製造することができる。
【0111】
洗剤は、0〜65%の洗剤ビルダーまたは錯化剤、例えばゼオライト、ジホスフェート、トリホスフェート、ホスホネート、カーボネート、シトレート、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、アルキル-もしくはアルケニルコハク酸、可溶性シリケートまたは層をなす(layered)シリケート(例えばヘキスト(Hoechst)からのSKS-6)を含むことができる。
【0112】
洗剤は、1種以上のポリマーを含むことができる。例は、カルボキシメチルセルロース、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピリジン-N-オキシド)、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリカルボキシレート、例えばポリアクリレート、マレイン酸/アクリル酸コポリマーおよびラウリルメタクリレート/アクリル酸コポリマーである。
【0113】
洗剤は、漂白系を含むことができ、これは、H22源、例えばパーボレートまたはパーカーボネートを含むことができ、過酸生成漂白活性化剤、例えばテトラアセチルエチレンジアミンまたはノナノイルオキシベンゼンスルホネートと組合せることができる。あるいは、漂白系は、アミド、イミドまたはスルホンタイプのペルオキシ酸を含むことができる。
【0114】
本発明の洗剤組成物の酵素は、慣用の安定化剤、例えばポリオール、例えばプロピレングリコールまたはグリセロール、糖もしくは糖アルコール、乳酸、ホウ酸もしくはホウ酸誘導体、例えば芳香族ホウ酸エステルまたはフェニルホウ酸(boronic acid)誘導体、例えば4-ホルミルフェニルホウ酸(boronic acid)を用いて安定化することができ、組成物は、例えばWO92/19709およびWO92/19708に記載されたようにして処方することができる。
【0115】
洗剤はまた、他の慣用の洗剤成分、例えばクレーを含む布用コンディショナー、発泡促進剤、泡立ち抑制剤、腐食防止剤、汚れ懸濁剤(soil-suspending agent)、汚れ再沈積防止剤(anti-soil redeposition agent)、染料、殺菌剤、蛍光漂白剤、屈水性誘発物質、曇り防止剤または香料を含むことができる。
【0116】
洗剤組成物においては、任意の酵素、特に本発明の変異体が、洗浄液1リットル当たり0.01〜100mgの酵素タンパク質、例えば洗浄液1リットル当たり0.05〜5mgの酵素タンパク質、特に洗浄液1リットル当たり0.1〜1 mgの酵素タンパク質に相当する量で添加され得ることが目下予想される。
【0117】
本発明の変異体は追加的に、WO97/07202に開示された洗剤処方中に組み込まれ得る。この公報は、参照することによって本明細書に組入れられる。
【0118】
酵素変異体の製造方法 本発明の酵素変異体は、例えばWO97/04079(ノボ ノルディスク(Novo Nordisk))に記載されているような当技術分野で公知の方法によって製造することができる。以下は、酵素をコードするDNA配列のクローニング方法、次いで酵素をコードする配列内の特定部位に変異を生じさせる方法を記載する。
【0119】
酵素をコードするDNA配列のクローニング 親酵素をコードするDNA配列を、問題の酵素を生成する任意の細胞または微生物から、当技術分野でよく知られている種々の方法を用いて、分離することができる。まず、研究されるべき酵素を生成する生物からの染色体DNAまたはメッセンジャーRNAを用いて、ゲノムDNAおよび/またはcDNAライブラリーを構築しなければならない。次に、酵素のアミノ酸配列が知られているなら、標識したオリゴヌクレオチドプローブを合成し、問題の生物から調製したゲノムライブラリーから、酵素をコードするクローンを同定するのに使用することができる。あるいは、別の公知の酵素遺伝子に相同の配列を含む標識したオリゴヌクレオチドプローブを、ハイブリダイゼーションおよび低いストリンジェンシー(stringency)の洗浄条件を用いて、酵素をコードするクローンを同定するためにプローブとして使用することができる。
【0120】
酵素をコードするクローンを同定するためのなお別の方法は、ゲノムDNAの断片を発現ベクター、例えばプラスミドへ挿入すること、得られるゲノムDNAライブラリーを用いて酵素なしの細菌を形質転換すること、および次いで、酵素のための基質(すなわち、マルトース)を含む寒天上で形質転換した細菌を培養し、それによって酵素を発現するクローンを同定することを可能にすることを含む。
【0121】
あるいは、確立された標準の方法、例えばS.L.ビューケージ(Beaucage)およびM.H.カルサーズ(Caruthers)(1981), Tetrahedron Letters 22, p.1859-1869に記載されているホスホルアミダイト法または、マセス(Matthes)ら、(1984), EMBO J. 3, p. 801-805に記載された方法によって、酵素をコードするDNA配列を合成的に製造することができる。ホスホルアミダイト法においては、オリゴヌクレオチドが、例えば自動DNA合成機で合成され、精製され、アニールされ、連結され、そして適当なベクター中でクローン化される。
【0122】
最後に、混合されたゲノムおよび合成の起源、混合された合成およびcDNAの起源、または混合されたゲノムおよびcDNAの起源のDNA配列が、標準の技術に従って、合成、ゲノムまたはcDNAの起源の断片(適当には、全DNA配列の種々の部分に対応する断片)を連結することによって製造される。DNA配列はまた、例えば米国特許第4,683,202号またはR.K.サイキ(Saiki)ら、(1988)Science 239, 1988, pp. 487-491に記載されたような特定のプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって製造することができる。
【0123】
部位特異的変異誘発
酵素をコードするDNA配列が分離され、変異のために望ましい部位が同定されたら、合成オリゴヌクレオチドを用いて、変異を導入することができる。これらのオリゴヌクレオチドは、所望の変異部位を攻撃するヌクレオチド配列を含む。特定の方法においては、DNAの単鎖ギャップ(酵素をコードするDNA配列)が、酵素遺伝子を含むベクター中で作られる。次に、合成ヌクレオチド(所望の変異を有する)が、単鎖DNAの相同部分にアニールされる。残ったギャップは次に、DNAポリメラーゼI(クレノウフラグメント)を用いて満たされ、構築物は、T4リガーゼを用いて連結される。この方法の特定の例は、モリナガ(Morinaga)ら、(1984), Biotechnology 2, p. 646-639に記載されている。米国特許第4,760,025号は、カセットの小さい変更を行うことによる、多重変異をコードするオリゴヌクレオチドの導入を開示する。しかしながら、モリナガ(Morinaga)の方法によって、任意の一時に、非常に多くの種類の変異さえもが導入され得る。というのは、多重の種々の長さを有するオリゴヌクレオチドが導入され得るからである。
【0124】
酵素をコードするDNA配列に変異を導入するための別の方法は、ネルソン(Nelson)およびロング(Long)、(1989), Analytical Biochemistry 180, p. 147-151に記載されている。それは、化学的に合成されたDNA鎖を、PCR反応におけるプライマーの1つとして用いて導入された所望の変異を含むPCR断片の3段階生成を含む。PCRで生成された断片から、変異を含むDNA断片が、制限エンドヌクレアーゼを用いる開裂によって分離され、発現プラスミドへ再挿入され得る。
【0125】
さらに、シールクス(Sierks)ら、(1989)「アスペルギルス アワモリのグルコアミラーゼの活性部位Trp120における部位特異的変異誘発(Site-directed mutagenesis at the active site Trp 120 of Aspergillus awamori glucoamylase)」、Protein Eng., 2, 621-625;シールクス(Sierks)ら、(1990)、「アスペルギルス アワモリからの酵素におけるAsp176、Glu179およびGlu180の変異誘発により規定される菌類グルコアミラーゼの触媒メカニズム(Catalytic mechanism of fungal glucoamylase as defined by mutagenesis of Asp176, Glu179 and Glu180 in the enzyme from Aspergillus awamori)」、Protein Eng., 3巻、193-198;はまた、アスペルギルス(Aspergillus)のグルコアミラーゼにおける部位特異的変異誘発について記載する。
【0126】
酵素変異体の発現
本発明に従って、上記した方法により、または当技術分野で公知の任意の代替的方法によって製造される変異体をコードするDNA配列は、酵素形態で、発現ベクターを用いて発現されることができ、発現ベクターは、典型的には、プロモーター、オペレーター、リボソーム結合部位、翻訳開始シグナルおよび任意的にリプレッサー遺伝子または種々のアクチベーター遺伝子をコードする調節配列を含む。
【0127】
発現ベクター
本発明の酵素変異体をコードするDNA配列を有する組換え発現ベクターは、組換えDNA操作に便利に供されることができる任意のベクターであることができ、ベクターの選択はしばしば、それが導入されるべき宿主細胞に依存する。ベクターは、宿主細胞に導入されるときに、宿主細胞ゲノムへ組み込まれ、それが組み込まれた染色体と共に複製されるものであり得る。適当な発現ベクターの例は、pMT838を含む。
【0128】
プロモーター
ベクターにおいては、DNA配列は、適当なプロモーター配列に操作可能に接続されていなければならない。プロモーターは、選択される宿主細胞において転写活性を示す任意のDNA配列であることができ、宿主細胞に相同または非相同のタンパク質をコードする遺伝子から誘導されることができる。
【0129】
本発明の酵素変異体をコードするDNA配列の転写を指示するのに適当なプロモーターの例は、特に細菌宿主においては、大腸菌(E. coli) のlacオペロンのプロモーター、ストレプトミセス コエリカラー(Streptomyces coelicolor)のアガラーゼ遺伝子dagAプロモーター、バチルス リチェニホルミス(Bacillus licheniformis)のα-アミラーゼ遺伝子(amyL)のプロモーター、バチルス ステロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)のマルトゲンアミラーゼ遺伝子(amyM)のプロモーター、バチルス アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)のα-アミラーゼ遺伝子(amyQ)のプロモーター、バチルス サブチリス(Bacillus subtilis)のxylAおよびxylB遺伝子のプロモーター等である。菌類宿主における転写のためには、有用なプロモーターの例は、A.オリザエ(oryzae)のTAKAアミラーゼをコードする遺伝子から誘導されたもの、S.セレビシエ(cerevisiae)(アルバー(Alber)ら、(1982), J. Mol. Appl. Genet. 1, p. 419-434)、リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)のアスパラギン酸プロテイナーゼ、A.ニガー(niger)の中性α-アミラーゼ、A.ニガー(niger)の酸性の安定α-アミラーゼ、A.ニガー(niger)のグルコアミラーゼ、リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)のリパーゼ、A.オリザエ(oryzae)のアルカリプロテアーゼ、A.オリザエ(oryzae)のトリオースホスフェートイソメラーゼまたはA.ニドゥランス(nidulans)のアセトアミダーゼからのTPI(トリオースホスフェートイソメラーゼ)プロモーターである。
【0130】
発現ベクター
本発明の発現ベクターはまた、適当な転写ターミネーターおよび、真核生物においては、本発明のα-アミラーゼ変異体をコードするDNA配列に操作可能に接続されたポリアデニル化配列を含むことができる。終止およびポリアデニル化配列は、プロモーターと同じ供給源から適当に誘導され得る。
【0131】
ベクターはさらに、問題の宿主細胞においてベクターの複製を可能にするDNA配列を含み得る。そのような配列の例は、プラスミドpUC19、pACYC177、pUB110、pE194、pAMB1およびpIJ702の複製の起源である。
【0132】
ベクターはまた、選択可能なマーカー、例えばその生成物が宿主細胞において欠陥を補完する遺伝子、例えばB. サブチリス(subtilis)もしくはB. リチェニホルミス(licheniformis)からのdel遺伝子、または抗生物質抵抗性、例えばアンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコールもしくはテトラサイクリン抵抗性を与える遺伝子を含むことができる。さらには、ベクターは、アスペルギルス (Aspergillus)選択マーカー、例えばamdS、argB、niaDおよびsC、ヒグロマイシン抵抗性を生じるマーカーを含むことができるか、または選択は、例えばWO91/17243に記載されたようにして、共-形質転換(co-transformation)によって達成され得る。
【0133】
酵素変異体、プロモーター、ターミネーターおよび他の要素をそれぞれコードする本発明のDNA構築物を連結し、かつそれらを、複製のために必要な情報を含む適当なベクターに挿入するのに使用される手順は、当業者によく知られている(例えばサムブルック(Sambrook)ら、分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual), 第2版、コールド スプリング ハーバー(Cold Spring Harbor), 1989参照)。
【0134】
宿主細胞
本発明の細胞(先に定義した本発明のDNA構築物または発現ベクターを含む)は有利には、本発明の酵素変異体の組換え製造において宿主細胞として使用される。細胞は、便利には、宿主の染色体にDNA構築物(1つ以上のコピーで)を組み込むことによって、変異体をコードする本発明のDNA構築物を用いて形質転換されることができる。DNA配列が多分細胞中に安定に維持されるので、この組み込みは一般に有利であると考えられる。宿主染色体へのDNA構築物の組み込みは、慣用の方法に従って、例えば相同または非相同の組換えによって行うことができる。あるいは、細胞は、異なるタイプの宿主細胞と共に、上記した発現ベクターを用いて形質転換されることができる。
【0135】
本発明の細胞は、より高等な生物、例えば哺乳動物または昆虫の細胞であることができるが、微生物細胞、例えば細菌もしくは菌類(酵母を含む)細胞であり得る。
【0136】
適当な細菌の例としては、グラム陽性菌、たとえばバチルス サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス リチェニホルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス レンタス(Bacillus lentus)、バチルス ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス ステロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス アルカロフィルス(Bacillus alkalophilus)、バチルス アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス コアギュランス(Bacillus coagulans)、バチルス サーキュランス(Bacillus circulans)、バチルス ラウタス(Bacillus lautus)、バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス スリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)もしくはストレプトミセス リビダンス(Streptomyces lividans)もしくはストレプトミセス ムリナス(Streptomyces murinus)または、グラム陰性菌、例えば大腸菌(E. coli)である。細菌の形質転換は、例えば、自体公知のやり方で、原形質体の形質転換によって、または完全な細胞を用いて行うことができる。
【0137】
酵母生物体は、サッカロミセス(Saccharomyces)またはシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)の種、例えばサッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から、好ましく選択され得る。
【0138】
宿主細胞はまた、糸状菌類、例えばアスペルギルス (Aspergillus)種に属する株、例えばアスペルギルス オリザエ (Aspergillus oryzae)もしくはアスペルギルス ニガー (Aspergillus niger)または、フサリウム (Fusarium)の株、例えばフサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フサリウム グラミネラム(Fusarium graminearum)(完全な状態で、グリベレラ ゼアエ(Gribberella zeae)と呼び、以前には、スフェリア ゼアエ(Sphaeria zeae)であり、ギベレラ ロゼウム(Gibberella roseum)およびギベレラ ロゼウム(Gibberella roseum)f.sp.セレアリス(cerealis)の別名)またはフサリウム サルフレウム(Fusarium sulphureum)(完全な状態でギベレラ プリカリス(Gibberella puricaris)と呼び、フサリウム トリコセシオイデス(Fusarium trichothecioides)、フサリウム バクトリディオイデス(Fusarium bactridioides)、フサリウム サムブシウム(Fusarium sambucium)、フサリウム ロゼウム(Fusarium roseum)およびフサリウム ロゼウム(Fusarium roseum)var.グラミネアラム(graminearum)の別名)、フサリウム セレアリス(Fusarium cerealis)(フサリウム クロックウェルンセ(Fusarium crokkwellnse)の別名)またはフサリウム ベネナタム(Fusarium venenatum)の株であることができる。
【0139】
本発明の特定の実施態様においては、宿主細胞は、プロテアーゼマイナス株のプロテアーゼ欠乏体である。
【0140】
これは、例えば、「alp」と呼ばれるアルカリ性プロテアーゼ遺伝子が欠損した、プロテアーゼ欠乏株アスペルギルス オリザエ (Aspergillus oryzae)のJaL125であることができる。この株は、WO97/35956(ノボ ノルディスク(Novo Nordisk))に記載されている。
【0141】
糸状菌類細胞は、自体公知のやり方で、原形質体形成および原形質体の形質転換、次いで細胞壁の再生を含むプロセスによって形質転換することができる。宿主微生物としてのアスペルギルス (Aspergillus)の使用は、欧州特許第238,023号(ノボ ノルディスク(Novo Nordisk))に記載されており、その内容は、参照することによって本明細書に組入れられる。
【0142】
本発明の酵素変異体の製造方法 本発明の酵素変異体は、変異体の製造を行う条件下で宿主細胞を培養することならびに、細胞および/または培養培地から変異体を回収することを含む方法によって製造することができる。
【0143】
細胞を培養するのに使用される培地は、問題の宿主細胞を増殖させ、本発明の酵素変異体の発現を得るのに適当な任意の慣用の培地であることができる。適当な培地は、販売業者から入手可能であるか、または公開されている処方に従って製造することができる(例えば、ザ アメリカン タイプ カルチャー コレクション(the American Type Culture Collection)のカタログに記載されている)。
【0144】
宿主細胞から分泌された酵素変異体は、よく知られた手順によって、培養培地から便利に回収することができ、そのような手順としては、遠心分離またはろ過によって培地から細胞を分離すること、および塩、例えば硫酸アンモニウムによって培地のタンパク質成分を沈殿させること、次いでクロマトグラフィー法、例えばイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の使用を含む。
【0145】
植物における変異体の発現
本発明はまた、回収可能な量でこの酵素を発現し、製造するように、本発明の変異体をコードするDNA配列を用いて形質転換された、トランスジェニック植物、植物の一部または植物細胞に関する。酵素は、植物または植物の一部から回収され得る。あるいは、組換え酵素を含む植物または植物の一部をそれ自体使用することができる。
【0146】
トランスジェニック植物は、双子葉植物または単子葉植物(短くは、dicotまたはmonocot)であることができる。単子葉植物の例は、草、例えばメドウグラス(meadow grass)(ブルーグラス(blue grass)、ポー(Poa))、飼草、例えばフェストゥカ(festuca)、ロリウム(lolium)、温帯性の草(temperate grass)、例えばアグロスティス(Agrostis)および穀物、例えば小麦、オーツ麦、ライ麦、大麦、コメ、モロコシ類(sorghum)およびメイズ(maize)(コーン)である。
【0147】
双子葉植物の例は、タバコ、マメ科植物(legum)、例えばルピナス(lupin)、ジャガイモ、テンサイ、エンドウ、豆(bean)および大豆ならびに、アブラナ(ブラッシカセアエ(Brassicaceae)科)、例えばカリフラワー、菜種(oil seed rape)および近縁のモデル生物であるアラビドプシス タリアナ(Arabidopsis thaliana)である。
【0148】
植物の一部の例は、茎、カルス、葉、根、果実、種子および塊茎である。本発明においては、特定の植物組織、例えば葉緑体、アポプラスト、ミトコンドリア、液胞、ペルオキシソームおよび細胞質体がまた、植物の一部と考えられる。さらに、いずれの組織起源にせよ、どのような植物細胞でも、植物の一部と考えられる。
【0149】
そのような植物、植物の一部および植物細胞の子孫がまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0150】
本発明の変異体を発現するトランスジェニック植物または植物細胞は、当技術分野で公知の方法に従って構成することができる。簡単には、本発明の変異体をコードする1つ以上の発現構築物を植物宿主ゲノムに組み込むこと、および得られた修飾された植物または植物細胞をトランスジェニック植物または植物細胞へと増殖させることによって、植物または植物細胞が構成される。
【0151】
便利には、発現構築物は、選択された植物または植物の一部において遺伝子を発現するのに必要とされる適当な調節配列と操作可能に関連して本発明の変異体をコードする遺伝子を含むDNA構築物である。さらには、発現構築物は、発現構築物が組み込まれた宿主細胞を同定するのに有用な選択可能なマーカーおよび、問題の植物へ構築物の導入のために必要なDNA配列を含み得る(後者は、使用されるべきDNA導入方法に依存する)。
【0152】
調節配列、例えばプロモーターおよびターミネータ配列ならびに任意的にシグナルもしくはトランジット配列の選択は、例えば酵素がいつ、どこに、かつどのようにして発現されるのが好ましいかに基づいて、決定される。例えば、本発明の変異体をコードする遺伝子の発現は、構成性もしくは誘導性であることができ、または、発達上の段階または組織特異的であることができ、遺伝子産物は、特定の組織もしくは植物の一部、例えば種子もしくは葉に対して標的にされることができる。調節配列は、例えばタグ(Tague)ら、Plant, Phys., 86, 506, 1988により記載されている。
【0153】
構成性発現のために、35S-CaMVプロモーターを使用することができる(フランク(Franck)ら、1980, Cell 21: 285-294)。器官特異的プロモーターは、例えば貯蔵シンク(sink)組織、例えば種子、ジャガイモの塊茎および果実からのプロモーター(エドワーズ(Edwards)&コルツィ(Coruzzi), 1990. Annu. Rev. Genet. 24: 275-303)または代謝シンク(sink)組織、例えば分裂組織からのプロモーター(イトウ(Ito)ら、1994, Plant Mol. Biol. 24: 863-878)、種子特異的プロモーター、例えばコメからのグルテリン、プロラミン、グロブリンまたはアルブミンプロモーター(ウー(Wu)ら、Plant and Cell Physiology 第39巻、No.8, pp.885-889 (1998))、コンラッドU.ら、Journal of Plant Physiology 第152巻、No.6 pp. 708-711 (1998)により記載されたビシア ファバ(Vicia faba) からのレグミン(legumin)B4および未知の種子タンパク質遺伝子からのビシア ファバ(Vicia faba)プロモーター、種子油体タンパク質(seed oil body protein)からのプロモーター(チェン(Chen)ら、Plant and Cell Physiology 第39巻、No.9 pp. 935-941 (1998))、ブラッシカ ナパス(Brassica napus)からの貯蔵タンパク質napAプロモーターまたは、任意の他の、当技術分野で公知の、例えばWO91/14772に記載されているような種子特異性プロモーターであり得る。さらには、プロモーターは、葉特異的プロモーター、例えばコメまたはトマトからのrbcsプロモーター(キョウズカ(Kyozuka)ら、Plant Physiology 第102巻、No.3 pp. 991-1000 (1993)、クロレラウィルスアデニンメチルトランスフェラーゼ遺伝子プロモーター(ミトラ(Mitra), A.およびヒギンス(Higgins), DW, Plant Molecular Biology 第26巻、No.1 pp. 85-93 (1994))またはコメからのaldP遺伝子プロモーター(カガヤ(Kagaya)ら、Molecular and General Genetics第248巻、No.6 pp. 668-674 (1995))、または傷誘導性プロモーター、例えばジャガイモpin2プロモーター(スー(Xu)ら、Plant Molecular Biology 第22巻、No.4 pp. 573-588 (1993))であり得る。
【0154】
植物における酵素のより高い発現を達成するために、プロモーターエンハンサー要素を使用することができる。例えば、プロモーターエンハンサー要素は、プロモーターと、酵素をコードするヌクレオチド配列との間に置かれるイントロンであり得る。例えば、スー(Xu)ら(前述)は、発現を増大するために、コメのアクチン1遺伝子の第1のイントロンの使用を開示する。
【0155】
選択可能なマーカー遺伝子および、発現構築物の任意の他の部分を、当技術分野で入手可能なものから選択することができる。
【0156】
DNA構築物は、当技術分野で公知の慣用の技術に従って、植物ゲノムへ組み込まれ、そのような技術としては、アグロバクテリウム(Agrobacterium)が仲介する形質転換、ウィルスが仲介する形質転換、ミクロ注入、粒子衝撃(particle bombardment)、生物分解的(biolistic)形質転換およびエレクトロポレーションを包含する(ガッサー(Gasser)ら、Science, 244, 1293;ポトリカス(Potrykus), Bio/Techn. 8, 535, 1990;シマモト(Shimamoto)ら、Nature, 338, 274, 1989)。
【0157】
目下、アグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)が仲介する遺伝子転移が、トランスジェニック双子葉植物を生成するための選択方法である(概説のためには、フーイカス(Hooykas)&シルペルールト(Schilperoort), 1992, Plant Mol. Biol. 19: 15-38)。しかしながら、それを単子葉植物を形質転換するのに使用することができる(他の形質転換法が一般にこれらの植物のために使用されるけれど)。目下、トランスジェニック単子葉植物を生成するための選択方法は、胚カリ(calli)または発生中の胚の粒子衝撃(形質転換DNAでコーティングされた微細な金またはタングステン粒子)である(クリストウ(Christou)、1992, Plant J. 2: 275-281;シマモト(Shimamoto)、1994, Curr. Opin. Biotechnol. 5: 158-162;バジル(Vasil)ら、1992, Bio/Technology 10: 667-674)。単子葉植物の形質転換のための代替の方法は、オミルレー(Omirulleh)S.ら、Plant Molecular Biology 第21巻、No.3 pp.415-428 (1993)により記載されるような原形質体形質転換に基づく。
【0158】
形質転換後、当技術分野でよく知られた方法に従って、発現構築物を組み込んだ形質転換体が選択され、完全な植物へと再生される。
【0159】
材料および方法
トリブチリンに対するリパーゼ活性(LU)
乳化剤としてアラビアゴムを用いてトリブチリン(グリセリントリブチレート)を乳化することによって、リパーゼのための基質を調製する。30℃、pH7でのトリブチリンの加水分解を、pHスタット滴定実験で追跡する。1単位のリパーゼ活性(1LU)は、標準条件下で1分当たり1μモルの酪酸を放出することができる酵素の量に等しい。
【0160】
トリオレインに対するリパーゼ活性(SLU)
脂質分解活性を、基質としてオリーブ油を用いて測定することができる。
【0161】
このSLU法においては、40mMのNaClおよび5mMの塩化カルシウムを含む5mM Tris緩衝液中で、基質として安定化されたオリーブ油エマルジョン(シグマ(Sigma)カタログNo.800-1)を用いて、30℃およびpH9でリパーゼ活性が測定される。2.5mlの基質を12.5mlの緩衝液と混合し、pHを9に調整し、0.5mlの希釈したリパーゼ試料を添加し、そして形成されたオレイン酸の量を、pHスタットを用いた滴定により追跡する。
【0162】
1SLUは、これらの条件下で1分当たり1モルの滴定可能なオレイン酸を遊離させるリパーゼの量である。
【0163】
ホスホリパーゼ活性 ホスホリパーゼ活性の定性または定量測定のために、以下のアッセイ法を使用した。
【0164】
ホスホリパーゼ活性(PHLU)
ホスホリパーゼ活性(PHLU)は、レシチンからの遊離の脂肪酸の放出として測定される。50mMのHEPES、pH7中の50μlの4%L-アルファ-ホスファチジルコリン(アバンティ(Avanti)からの植物レシチン)、4%Triton X-100、5mMのCaCl2を、50mMのHEPES、pH7中で適当な濃度に希釈した50μlの酵素溶液に添加する。試料を30℃にて10分間インキュベートし、遠心分離(7000rpmにて5分)の前に、反応を95℃にて5分間停止する。ワコー ケミカルズ(Wako Chemicals)社からのNEFA Cキットを用いて、遊離の脂肪酸を測定し;25μlの反応混合物に250μlの試薬Aを添加し、37℃で10分間インキュベートする。次に、500μlの試薬Bを添加し、試料を再び37℃で10分間インキュベートする。HP 8452Aダイオードアレイ分光光度計を用いて、550nmでの吸収を測定する。試料は、少なくとも二重でランする。基質および酵素の結合(予備加熱された酵素試料(95℃で10分間)+基質)が含まれる。脂肪酸標準として、オレイン酸を使用する。1PHLUは、これらの条件下で1分当たり1μモルの遊離脂肪酸を放出することができる酵素の量に等しい。
【0165】
ホスホリパーゼ活性(LEU)
一定のpHおよび温度下で、レシチンを加水分解し、遊離された脂肪酸の中和中の滴定剤(0.1N NaOH)消費速度として、ホスホリパーゼ活性を測定する。
【0166】
基質は、大豆レシチン(L-α-ホスファチジル-コリン)であり、条件は、pH8.00、40.0℃、反応時間2分間である。単位は、標準に対して定義される。
【0167】
ホスホリパーゼ単層アッセイ
緩衝溶液(10mMのグリシン、pH9.0または10mMのNaOAc、pH5.0;1mMのCaCl2、25℃)の徹底的に浄化した表面上に、ジ-デカノイルホスファチジルコリン(DDPC)の単層をクロロホルム溶液から広げる。単層を放置(クロロホルムの蒸発)後、表面圧を15mN/m(DDPCの平均分子面積(mean molecular area)約63オングストローム2/分子に相当する)に調整する。約60μg(マイクログラム)の酵素を含む溶液を、単層を通して、「ゼロ-次トラフ(zero-order trough)」内の反応区画の副相(subphase)(表面積2230mm2および反応体積56570mm3を有する注射器)に注入する。不溶性の基質分子がより水溶性の反応生成物へと加水分解されるので、一定の表面圧を維持するために、単層を圧迫する可動バリヤ(mobile barrier)の速度によって、酵素活性が表される。反応生成物(カプリン酸およびMDPC)の水溶性は、DDPCより著しく高いことが実証されているので、酵素によって1分当たり加水分解されたDDPC分子の数が、DDPCの平均分子面積(mean molecular area)(MMA)から見積られる。結果は、加水分解の最初の5分間にわたる平均バリヤ速度に基づいて計算される。
【0168】
バリヤが、2mm/分未満で動くなら、結果はホスホリパーゼ陽性であると考えられる。
【0169】
プレートアッセイ1
A)精製水中の2%アガロース50mlを、5分間溶解/撹拌し、60〜63℃に冷却する。
B) 30分間60℃にした、0.2MNaOAc、10mM CaCl2、pH5.5の中の2%植物L-α-ホスファチジル-コリン95%50mlを、ウルトラソラックス(ultrathorax)を用いて15秒間ブレンドする。
【0170】
等体積の2%アガロースおよび2%レシチン(AおよびB)を混合し、等体積の1%Triton X-100をこの混合物に添加する。250μlの、精製水中のクリスタルバイオレット4mg/mlを、指示薬として添加する。混合物を、適当なペトリ皿に注ぎ(例えば14cm径の皿に30ml)、酵素溶液を施用するために寒天中に適当な穴(3〜5mm)をあける。
【0171】
酵素試料を、OD280=0.5に相当する濃度に希釈し、10マイクロリットルを、アガロース/レシチンマトリックス中の穴に施用する。プレートを30℃にてインキュベートし、プレート中の反応帯域を、約4〜5時間のインキュベーション後、および/または約20時間のインキュベーション後に同定する。フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼを対照として使用し、対照より大きい清掃帯域(clearing zone)の存在を、ホスホリパーゼ活性の正の結果として採用する。
【0172】
このアッセイの変形においては、Triton X-100の添加が削除される。
【0173】
プレートアッセイ2
10gのアガロースを、電子レンジ中で沸騰させることによって550mlのH2O中に溶解させる。60〜70℃に冷却後、以下の成分を添加する:
250mlの0.4Mクエン酸塩緩衝液(pH4.5またはpH7.1)
200mlの、2% Triton X-100中3%レシチン(アバンティ(Avanti)からの)
2mlの2%クリスタルバイオレット
30mlの混合物を14cm径のペトリ皿に注ぐ。
【0174】
酵素試料を施用後、プレートをインキュベートし、結果をプレートアッセイ1についてと同様に解釈する。
【0175】
ジガラクトシルジグリセリド加水分解(DGDGアーゼ)活性
単層アッセイ1
緩衝溶液(10mMのNaOAc、pH5.5;1mMのCaCl2、25℃;10mMのベータ-シクロデキストリン(シグマ(Sigma)C-4767))の徹底的に浄化した表面上に、DGDG(シグマ(Sigma)(D4651))の単層をクロロホルム溶液から広げる。単層を放置(クロロホルムの蒸発)後、表面圧を15mN/mに調整する。約60μg(マイクログラム)の酵素を含む溶液を、単層を通して、「ゼロ-次トラフ(zero-order trough)」内の反応区画の副相(subphase)(表面積2230mm2および反応体積56570mm3を有する注射器)に注入する。(ベータ-シクロデキストリンの存在下で)不溶性の基質分子がより水溶性の反応生成物へと加水分解されるので、一定の表面圧を維持するために、単層を圧迫する可動バリヤの増加する速度によって、酵素活性が表される。
【0176】
バリヤが、1mm/分未満で動くなら、結果はDGDGアーゼ陽性であると考えられる。
【0177】
単層2
緩衝溶液(約75ml、10mMのNaOAc、pH5.5;1mMのCaCl2、25℃;10mMのベータ-シクロデキストリン(シグマ(Sigma)C-4767))の徹底的に浄化した表面上に、DGDG(シグマ(Sigma)(D4651))の単層をクロロホルム溶液から広げて、表面圧約30mN/mにする。単層を放置(クロロホルムの蒸発)後、約30μg(マイクログラム)の精製酵素を含む溶液を、単層を通して、表面圧を連続して測定しながら、75mlの副相へと注入する。(ベータ-シクロデキストリンの存在下で)DGDGが水溶性の反応生成物へと加水分解されるので、表面圧低下の増加する速度によって、酵素活性が表される。
【0178】
酵素添加後の表面圧の最大低下(dπ/dt)が-0.5 mN/分を超えるなら、結果はDGDGアーゼ陽性であると考えられる。リポラーゼ(Lipolase)の多数の変異体が試験され、DGDGアーゼ活性を有することが見出されたが、それに対して親酵素(リポラーゼ(Lipolase))のみは、非常に限られた活性しか有していなかった(dπ/dt>-0.5 mN/分)。
【0179】
酵母株
WO97/04079およびWO97/07205に記載された、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)YNG318:MATa leu2-D2 ura3-52 his4-539 pep4-D1[cir+]。
【0180】
酵母株の形質転換
DNA断片および開いたベクター(opened vector)を混合し、標準の方法によって、酵母サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)YNG318へ形質転換する。
【0181】
酵母形質転換のためのベクター
pJSO026(S. セレビシエ(cerevisiae)発現プラスミド)は、WO97/07205および、J.S.オッケルズ(Okkels)、(1996)「pYESベクターにおけるURA3-プロモーター欠失は、サッカロミセス セレビシエにおける菌類リパーゼの発現レベルを増加させる(A URA3-promoter deletion in a pYES vector increases the expression level of a fungal lipase in Saccharomyces cerevisiae) 」 組換えDNAバイオテクノロジーIII:生物および工学科学の統合(Recombinant DNA Biotechnology III: The Integration of Biological and Engineering Sciences),ニューヨーク アカデミー オブ サイエンシーズ(New York Academy of Sciences)の会誌第782巻に記載されている。それは、pYES 2.0の誘導性GAL1-プロモーターを、構成的に発現されたサッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からのTPI(トリオースホスフェートイソメラーゼ)-プロモーターで置換し(アルバート(Albert)およびカルワサキ(Karwasaki)、(1982)、J. Mol. Appl. Genet., 1, 419-434)、かつURA3プロモーターの一部を欠失することによって、pYES 2.0から誘導される。
【0182】
部位特異的変異誘発
H.ラヌジノサ(lanuginosa)脂質分解酵素の変異体の構成のために、市販のキット(カメレオン(Chameleon)二重鎖部位特異的変異誘発キット)を、製造業者の使用説明書に従って使用することができる。
【0183】
問題となる脂質分解酵素をコードする遺伝子が、プラスミドpHD414に挿入される。製造業者の使用説明書に従って、以下のプライマーの使用によって、pHD414のアンピシリン遺伝子のScal部位が、Mlul部位に変えられる: プライマー3:AGAAATCGGGTATCCTTTCAG。
【0184】
問題となる脂質分解の遺伝子を含むpHD414ベクターは次に、DNAポリメラーゼおよびオリゴ7258および7770のための鋳型として使用される。
【0185】
7258:5'p gaa tga ctt ggt tga cgc gtc acc agt cac 3'(かくして、アンピシリン抵抗性遺伝子で見出され、切断のために使用されたScal部位をMlul部位へと変える)。
プライマーno.7770を、選択プライマーとして使用した。
7770:5'p tct agc cca gaa tac tgg atc aaa tc 3'(アミノ酸配列を変えることなしに、H.ラヌジノサ(lanuginosa)リパーゼ遺伝子で見出されたScal部位を変える)。
【0186】
所望の変異(例えば、脂質分解の遺伝子のN-末端における、またはシステイン残基の導入)が、所望の変異を含む適当なオリゴの添加によって、問題となる脂質分解の遺伝子中へ導入される。
【0187】
PCR反応が、製造業者の推奨に従って行われる。
【0188】
スクリーニング法
酵母ライブラリーを、SC-ura寒天プレートのセルロースフィルター上に広げ、30℃で3〜4日間インキュベートする。
【0189】
次に、フィルターをレシチンプレートに移し、37℃で2〜6時間インキュベートする。活性ホスホリパーゼを含む酵母細胞は、コロニーの周りに白色清浄帯域を発生させる。次に、陽性の変異体がさらに精製され、試験されることができる。
【0190】
培地
SC-ura培地
酵母窒素(アミノ酸なし) 7.5g
コハク酸 11.3g
NaOH 6.8g
カザアミノ酸(ビタミンなし) 5.6g
トリプトファン 0.1g
寒天、メルク(Merck) 20g
蒸留水 1000mlにした。
【0191】
121℃で20分間オートクレーブに入れた。
5%スレオニンの滅菌ストック溶液から4mlを、滅菌20%グルコース100mlと一緒に900mlの体積に添加する。
【0192】
実施例
実施例1:フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼからの主鎖およびフサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)ホスホリパーゼからのC-末端を用いた、PCR反応による変異体の構成
以下の変異体を、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼからの主鎖のための鋳型として使用した:E1A +G91A +D96W +E99K +Q249R およびSPIRR +G91A +D96W +E99K +Q249R。親リパーゼを、Q249RのないC-末端において断片を生成させるために使用した。C-末端ホスホリパーゼのための鋳型は、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼの変異体と同じベクターでクローン化した、フサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)ホスホリパーゼであった。
【0193】
PCR反応1:5'プライマーとしての4244(SEQ ID NO:1)および3'プライマーとしてのH7(SEQ ID NO:6)および、上記した2つの鋳型のうちの1つ。
PCR反応2:5'プライマーとしてのFOL14(SEQ ID NO:3)および3'プライマーとしてのFOL15(SEQ ID NO:4)および鋳型としてのフミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼ(pos 249に変異なし)。
【0194】
PCR反応3:5'プライマーとしてのFOL16(SEQ ID NO:5)および3'プライマーとしてのAP(SEQ ID NO:2)および鋳型としてのF.o.ホスホリパーゼ。
PCR反応4を行って、5'プライマーとしてのFOL14(SEQ ID NO:3)および3'プライマーとしてのAP(SEQ ID NO:2)および鋳型としてのPCR反応2および3を用いることによって、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼ変異体と、ホスホリパーゼからのC-末端との間の結合を作った。
【0195】
5'プライマーとしての4244(SEQ ID NO:1)および3'プライマーとしてのKBoj14(SEQ ID NO:7)および鋳型としてのPCR反応1および4を用いて、最終的PCRを行った(反応2において鋳型としてフミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼを用いることによって、位置249における変異を省略する可能性が生じた)。
【0196】
最終のPCR断片を、制限酵素を用いて切断したpJSO026と一緒に、酵母におけるイン ビボ(in vivo)組換えに使用した。Smal(またはBamHI)およびXbal(コード領域を除去し、同時に、各末端に約75bpの重複を作って組換えの発生を可能にするため)。この最終処理はまた、以下の実施例において使用された。
【0197】
プライマーFOL14(SEQ ID NO:3)およびプライマー15/16をオリゴと混合して、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼおよびホスホリパーゼ鋳型の両方と結合する可能性を与え、同時に両方の鋳型からのアミノ酸を異なる位置に導入する可能性を与える。幾つかの位置について、新しいアミノ酸をまた導入することができた。
【0198】
プライマーFOL14(SEQ ID NO:3)
H. ラヌジノサ(lanuginosa) リパーゼにおける位置205:75%R、25%S プライマーFOL15(SEQ ID NO:4)/FOL16(SEQ ID NO:5)
H. ラヌジノサ(lanuginosa) リパーゼにおける位置256:50%P、50%A
H. ラヌジノサ(lanuginosa) リパーゼにおける位置260:25%R、12.5%Q、12.5%H、12.5%C、12.5%Y、12.5%W、12.5%stop。
【0199】
得られる変異体の配列を決定し、以下の変更を有して、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼに対応することを見出した。括弧中の変更は、不確実である。
【0200】
【表1】

【0201】
実施例2:先端を切り取られた(truncated)配列の製造
アミノ酸269、270、271、272、(273および274)後に停止して、変異体を作った。
【0202】
以下の鋳型を用いて、以下のPCR反応を行った:E1A、G91A、D96W、E99K、P256A、W260H、G263Q、L264A、I265T、G266D、T267A、L269N、270A、271G、272G、273F、(274S)。
【0203】
反応1:5'プライマー4244(SEQ ID NO:1)および3'プライマーKBoj36(269後に停止)
反応2:5'プライマー4244(SEQ ID NO:1)および3'プライマーKBoj37(270後に停止)
反応3:5'プライマー4244(SEQ ID NO:1)および3'プライマーKBoj38(271後に停止)
反応4:5'プライマー4244(SEQ ID NO:1)および3'プライマーKBoj39(272後に停止)
得られる変異体の配列を決定し、以下の変更を有して、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼに対応することを見出した。
【0204】
【表2】

【0205】
実施例3:ふた領域における変異の除去
ホスホリパーゼ活性を失うことなく、G91AまたはE99Kを除去することができる。得られる変異体の配列を決定し、以下の変更を有して、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼに対応することを見出した。
【0206】
【表3】

【0207】
実施例4:ホスホリパーゼ活性を導入するための、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼのC-末端領域におけるドーピング(doping)
位置256および位置263〜269での変異についての可能性を有する3つの異なるライブラリーを構築した。同時に、1、2、3または4個のアミノ酸でのC-末端の伸長の可能性が含まれていた。
【0208】
ドーピング、wt配列は下線が引かれている:
【0209】
【表4】

【0210】
ライブラリーA:5'プライマーとして4244(SEQ ID NO:1)および3'プライマーとしてKBoj33および鋳型としてE1A +G91A +D96W +E99K +Q249R またはE1A +G225Rを用いたPCR反応。このライブラリーからの変異体は伸長なしである。
ライブラリーB:5'プライマーとして4244(SEQ ID NO:1)および3'プライマーとしてKBoj32(SEQ ID NO:8)および鋳型としてE1A +G91A +D96W +E99K +Q249R またはE1A +G225Rを用いたPCR反応。このライブラリーからの変異体は、おそらくC-末端伸長を含むが、伸長の前に停止コドンを含むことができる。
【0211】
ライブラリーC:5'プライマーとして4244(SEQ ID NO:1)および3'プライマーとしてKBoj34および鋳型としてE1A +G91A +D96W +E99K +Q249R またはE1A +G225Rを用いたPCR反応。このライブラリーからの変異体は、おそらく位置269に変異およびC-末端伸長を含むが、伸長の前に停止コドンを含むことができる。
以下の変異体が得られた:
【0212】
【表5】

【0213】
実施例5:上記の変異体の幾つかについて、リパーゼおよびホスホリパーゼのpH最適条件を、種々のpH値でLUおよびPHLU法を用いて決定した。結果は、pH最適なホスホリパーゼ活性は、pH4〜6の範囲にあることを示した。リパーゼ活性についての最適条件は、約pH6〜約pH10で変化した。
pH5および9にて、上記した単層アッセイによって、実施例5に挙げた8つの変異体を、ホスホリパーゼ活性について分析した。結果は、すべての変異体がpH5および9でホスホリパーゼ活性を有することを示したが、それに対して、親リパーゼ(フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼ)は、pH5または9で活性を示さなかった。変異体に依存して、pH5での活性は、pH9のときより高いかまたは低かった。
【0214】
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼの従来の変異体は、pH5でホスホリパーゼ活性を有さないことがわかった:SPIRR +N94K +F95L +D96H +N101S +F181L +D234Y +I252L +P256T +G263A +L264Q。
【0215】
実施例5:ホスホリパーゼ活性を有するフミコラ (Humicola)リパーゼの変異体
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)からの親リパーゼの変異体を製造し、上記したようにしてホスホリパーゼ活性を試験した。以下の変異体は、ホスホリパーゼ活性を有することがわかったが、それに対して、親リパーゼは、同じ方法によって、ホスホリパーゼ活性を有していなかった。
【0216】
【表6】

【0217】
【表7】

【0218】
【表8】

【0219】
【表9】

【0220】
【表10】

【0221】
【表11】

【0222】
上記表において、(+274S)は、C-末端でのこのアミノ酸残基の存在が不確実であることを示す。1つのそのような変異体については、少量画分のみがこの残基を含むことがわかった。
【0223】
上記変異体のいくつかは、リパーゼおよびホスホリパーゼの両方の活性を有することが知られているF.オキシスポラム(oxysporum)からの従来の酵素より高い、ホスホリパーゼ(PHLU)対リパーゼ(LU)の比を有していた。
【0224】
上記変異体のいくつかについて、リパーゼおよびホスホリパーゼのpH最適条件を、種々のpH値にてLUおよびPHLU法を用いて決定した。結果は、pH最適なホスホリパーゼ活性は、pH4〜6の範囲にあることを示した。リパーゼ活性についての最適条件は、約pH6〜約pH10で変化した。
【0225】
pH5および9にて、上記した単層アッセイによって、実施例5に挙げた8つの変異体を、ホスホリパーゼ活性について分析した。結果は、すべての変異体がpH5および9でホスホリパーゼ活性を有することを示したが、それに対して、親リパーゼ(フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼ)は、pH5または9で活性を示さなかった。変異体に依存して、pH5での活性は、pH9のときより高いかまたは低かった。
【0226】
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼの従来の変異体は、pH5でホスホリパーゼ活性を有さないことがわかった:SPIRR +N94K +F95L +D96H +N101S +F181L +D234Y +I252L +P256T +G263A +L264Q。
【0227】
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)からの親リパーゼの以下の変異体がまた、ホスホリパーゼ活性を有し得る:
【0228】
【表12】

【0229】
【表13】

【0230】
実施例6:ホスホリパーゼ活性を有するリゾムコール (Rhizomucor)リパーゼの変異体
リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)からの親リパーゼの以下の2つの変異体を製造し、上記したようにしてホスホリパーゼ活性を試験した。変異体は、ホスホリパーゼ活性を有することがわかったが、それに対して、親リパーゼは、同じ方法によって、ホスホリパーゼ活性を有していなかった。
G266N
G266V
【0231】
実施例7:長鎖脂肪酸について増加した特異性を有するフミコラ (Humicola)リパーゼの変異体
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)からの親リパーゼの変異体を製造し、異なる鎖長を有する2つのトリグリセリド基質:トリブチリン(C4:0)およびトリオレイン(C18:1)に対する加水分解活性について試験した。試験は、上記したLUおよびSLU法によって、pH9にて行った。以下の変異体が、親酵素(フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa) リパーゼ)より高い、トリオレイン活性対トリブチリン活性の比を有することがわかった:
【0232】
【表14】

【0233】
【表15】

【0234】
【表16】

【0235】
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)からの親リパーゼの以下の変異体がまた、長鎖脂肪酸に対する増加した特異性を有し得る:
【0236】
【表17】

【0237】
【表18】

【0238】
実施例8:長鎖脂肪酸に対して増加した特異性を有するフサリウム (Fusarium)リパーゼの変異体
フサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)からの親リパーゼの変異体を製造し、先の実施例におけるように試験した。以下の変異体が、親酵素より高い、トリオレイン活性対トリブチリン活性の比を有することがわかった:
Y23S
Y260L
フサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)からの親リパーゼの以下の変異体がまた、長鎖脂肪酸に対する増加した特異性を有し得る:
R80H +S82T
S82T +A129T
【0239】
実施例9:長鎖脂肪酸に対する増加した特異性を有するリゾムコール (Rhizomucor)リパーゼの変異体
リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)からの親リパーゼの以下の変異体は、長鎖脂肪酸に対する増加した特異性を有し得る:
Y260W
Y28L
Y28C +H217N
【0240】
実施例10:短鎖脂肪酸に対する増加した特異性を有するフミコラ (Humicola)リパーゼの変異体
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa) からの親リパーゼの変異体を製造し、先の実施例におけるように試験した。以下の変異体は、親酵素より高い、トリブチリン活性対トリオレイン活性の比(より低いSLU/LU比)を有することがわかった:
【0241】
【表19】

【0242】
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa) からの親リパーゼの以下の変異体がまた、より高いトリブチリン活性対トリオレイン活性の比を有し得る:
【0243】
【表20】

【0244】
実施例11:短鎖脂肪酸に対する増加した特異性を有するフサリウム (Fusarium)リパーゼの変異体
フサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)からの親リパーゼの変異体を製造し、先の実施例におけるように試験した。以下の変異体は、親酵素より高い、トリブチリン活性対トリオレイン活性の比を有することがわかった:
Y23W
Y260D
Y260R
Y260C
Y260N
【0245】
実施例12:短鎖脂肪酸に対する増加した特異性を有するリゾムコール (Rhizomucor)リパーゼの変異体
リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei) からの親リパーゼの以下の変異体は、短鎖脂肪酸に対する増加した特異性を有し得る:
Y260C
Y260G
Y260V
【0246】
実施例13:DGDGアーゼ活性を有するフミコラ (Humicola)リパーゼの変異体 フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa) からの親リパーゼの変異体を製造し、DGDG(ジ-ガラクトシル-ジ-グリセリド)に対する加水分解活性を、上記したようにして測定した。以下の変異体は、DGDGアーゼ活性を有することがわかったが、それに対して、親リパーゼは、負の結果を与えた。
【0247】
【表21】

【0248】
実施例14:増加したpH最適条件を有するフミコラ (Humicola)リパーゼの変異体
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa) からの親リパーゼの変異体を製造し、LU法により、pH7および9にてリパーゼ活性を測定した。以下の変異体は、親リパーゼより高い、pH9での活性対pH7での活性の比を有することがわかった:
R84L
R84W
Y21I
Y21V
Y261I
【0249】
実施例15:減少したpH最適条件を有するフミコラ (Humicola)リパーゼの変異体
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa) からの親リパーゼの変異体を製造し、LU法により、pH7および9にてリパーゼ活性を測定した。以下の変異体は、親リパーゼより低い、pH9での活性対pH7での活性の比を有することがわかった:
Y261D
G266D/E
Y261W
【0250】
実施例16:植物油の脱ゴムにおけるフミコラ (Humicola)リパーゼ変異体の使用
本質的にWO98/18912(ノボ ノルディスク(Novo Nordisk))の実施例6に記載されたようにして、菜種油を、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa) からのリパーゼの2つの変異体で処理した。
【0251】
1つの変異体を、油1kg当たり酵素タンパク質0.6mgの酵素投与量で試験した。種々のpHおよび温度での試験の結果は、pH5.7、35〜45℃で最適性能を示し、ここで、最終的P含量4ppmが達成された。45℃、pH6での別の実験は、最終的P含量4ppmが、0.15mg/kgという低い酵素投与量で達成できたことを示した。
【0252】
別のフミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼ変異体を用いた同様の実験は、40℃、pH5.0〜5.5での最適性能を示した。酵素投与量は、0.3 mg/kgであった。
【0253】
第3のフミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼ変異体を用い、45℃、pH5、1.8mg酵素/kg油にて菜種油を使用して、脱ゴム実験を行った。比較のために、親リパーゼ(フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼ)を18 mg/kgで用いて、同様の実験を行った。結果は、変異体を用いて良好な脱ゴム(<10ppmの残留P含量)が、3.4時間で得られた。
【0254】
親リパーゼ(フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼ)は、10倍高い酵素投与量でさえ、非常にわずかの脱ゴム効果しか有さないことがわかった。
【0255】
実施例17:パン焼きにおけるリパーゼ変異体の使用
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)からのリパーゼの変異体を、以下のようにして、パン焼き試験において評価した。
【0256】
40ppmのアスコルビン酸を用いて、ヨーロッパ純生地法(European straight dough method)(ABF-SP-1201.01)に従って、メネバ(Meneba)小麦粉から生地を製造した。以下の投与量で種々の組み合わせの添加剤を使用した:リパーゼ変異体0、0.25、0.5または1.5mg/kg;リン脂質(レシチン)0または10g/kg;およびエンド-アミラーゼ0または750MANU/kg。
【0257】
エンド-アミラーゼは、B. ステロサーモフィルス(stearothermophilus)からのマルトゲンアミラーゼ(商品名Novamyl(商標))であった。1MANU(マルトゲン アミラーゼ ノボ 単位(Maltogenic Amylase Novo Unit)は、pH5.0、37℃にて30分間、0.1Mクエン酸塩緩衝液1ml当たり10mgのマルトトリオース基質の濃度で、1分当たり1μモルのマルトースを放出するのに必要とされる酵素の量として定義される。
【0258】
パン焼き後、焼いたパン(loaf)を冷やし、パン体積(loaf volume)、パン片(crumb)の固さおよび軟らかさを、約2時間後に評価した。2重のプラスチックバッグ中に包んで、22℃で1、3および7日間貯蔵後に、評価を繰り返した。
【0259】
ステーブル ミクロ システムズ(Stable Micro Systems)からのテクスチャー アナライザー(texture analyzer)TA-XT2(探触子(probe)直径40mm)を用いて、パン片の固さを測定した。
【0260】
25mm厚に切ったパン片中へ探触子を6.25mm押す(25%貫通)のに必要な力として、グラムで表した軟らかさを測定した。
【0261】
結果は、変異体1.5mgの添加により、パン体積(loaf volume)が増加することを示した。固さおよび弾性についての結果は、変異体が、有意に軟らかいパン片および有意に良好な弾性を、0日から7日まで与えることを示す。
【0262】
実施例18:パン焼きにおける生地安定性のためのリパーゼ変異体の使用
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼの変異体を、パン焼き試験で評価して、生地の寝かせ(proofing)時間の延長に対するそれの耐性を評価した。
【0263】
30ppmのアスコルビン酸、菌類α-アミラーゼ(10FAUのFungamyl)およびペントサナーゼ(100FXUのPentopan Mono)を用いて、ヨーロッパ純生地法(European straight dough method)(347-SP-1217)に従って、ペリカン(Pelikan)小麦粉から生地を製造した。0.2、0.4および0.6mg酵素タンパク質/kg小麦粉の変異体投与量を、1000LUの親リパーゼと比較した。
【0264】
生地をロールに作った。ロールの半分を45分間寝かせ(proof)(正常な寝かせ時間)、他半分を70分間寝かせた(過度の寝かせ時間)。
【0265】
パンを焼いた後、冷却し、ロールの体積および立ち(standing)を、約2時間後に評価した。立ち(standing)は、ロールの形状の尺度であり、10ロールの幅で割った10ロールの高さとして定義され、これは、良好な丸みのパン塊(loaf)は高い立ち値(standing value)を有するが、それに対して平たいロールは、低い立ち値(standing value)を有することを意味する。
【0266】
結果は、正常な寝かせ時間では、変異体0.4 mgおよび0.6mgの体積は、親リパーゼの場合の体積より良く、ロールの立ちは、すべての投与量の変異体について、親リパーゼの場合より良かった。ロールを過度に寝かせたときには、体積および立ちの両方が、すべての投与量の変異体について、親リパーゼの場合より良かった。
【0267】
実施例19:異臭発生へのリパーゼ変異体の影響
異なる鎖長特異性を有するリパーゼからの異臭の発生を、全乳で評価した。発生した酪酸/酸敗臭を、加熱後に試料の匂いを嗅ぐことによって評価した。
【0268】
25mlの全乳を、32℃の水浴中の100mlのブルーカップフラスコ(カップ付き)に入れた。以下に挙げたリパーゼのそれぞれについて、0.2mg酵素タンパク質/牛乳1リットルをフラスコに加えた。温度を45℃に上げ、15分後および105分後に評価を行った。
【0269】
試験したリパーゼは、フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼおよびその変異体であった。各リパーゼについて、鎖長特異性は、トリオレイン(SLU)およびトリブチリン(LU)に対する活性の比として表される。
【0270】
3人が試料を評価し、以下に示した格付けに同意した。
+ 検出可能な臭い
++ 明らかでかつ特徴的な酪酸および/または酸敗臭
+++ 強い酪酸および/または酸敗臭
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼより高いSLU/LU比を有するフミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼの3つの変異体は、親リパーゼより少ない悪臭を有することがわかった。
【0271】
実施例20:洗濯後の布における悪臭に対するリパーゼ変異体の影響
汚し
綿布を、本明細書に記載した乳製品で汚した。50mgのバターを、一様な点にして、約30cm2の面積にわたって施用した。汚れた布を、環境条件下で24時間放置した。
【0272】
洗濯工程
Terg-O-tometerにて、リパーゼを入れたおよび入れない(1250および5000LU/リットル)市販の洗剤(5g/リットル)を使用して、汚れた布の洗濯を行った。洗濯は、30℃で20分間100rpmにて行った。洗濯後、布を1晩放置して環境条件下で乾燥させた。
【0273】
官能分析
次の日、少なくとも10人の訓練した査定者からなる官能検査パネルによって、異臭を査定した。試料を、堅く閉まったガラスびん中に保持し、悪臭の蓄積のために、各評価の間少なくとも30分間あけた。布を取出し、布の悪臭を査定した。酪酸の悪臭を、以下の等級に従って評点を付けた。対照として、リパーゼなしで洗濯した試料を使用した。
【0274】
0. 対照より弱い臭い
1. 対照と同様
2. 対照より少し強い
3. 対照より明確に強い
4. 3より強い。
【0275】
増加したトリオレイン/トリブチリン活性の比(増加したSLU/LU比)を有するフミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼの変異体は、親リパーゼ(フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)リパーゼ)より弱いバター汚れからの臭いを与えることがわかった。別の洗濯実験は、変異体が、親酵素と同様に、ラード汚れの除去に有効であることを示した。
【0276】
代替方法
布の乳製品の汚れからの酪酸の強度はまた、器具による分析によって評価することができる:
1.ヘッドスペースガスクロマトグラフィーによるか、または
2.布からの臭いの抽出、次いでガスクロマトグラフィーによる。
【0277】
実施例21:バターと共に焼いたパンの匂いへのリパーゼ変異体の影響
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)からのリパーゼの6つの変異体を製造し、3%のバターを添加して、ヨーロッパ純生地法(European straight dough procedure)(347-SP-1217)によって焼いたパンにおいて評価した。0.2mgの酵素タンパク質/kg小麦粉を、変異体のそれぞれについて使用した。
【0278】
変異体の鎖長特異性をまた、トリオレイン/トリブチリン活性の比(上記したSLU/LU)を測定することによって決定した。フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa)からの親リパーゼおよび、フサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)からのホスホリパーゼ活性を有する従来のリパーゼをまた、比較のために試験した。
【0279】
結果を以下にまとめる。
+ 検出可能な臭い
++ 明らかでかつ特徴的な酪酸および/または酸敗臭
+++ 強い酪酸および/または酸敗臭。
【0280】
【表22】

【0281】
結果は、3以上のSLU/LU比(すなわち、長鎖脂肪酸についての高い特異性)を有するリパーゼ変異体は、バターと一緒のレシピで焼いたパンにおいてさえ、不快な臭いを与えないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フミコラ ラヌジノサ(Humicola lanuginosa) の株DSM 4109から誘導された親リパーゼの変異体であり、かつ、以下:
a)表1;
b)表2;
c)表3;または
d)表4
に記載された変異体のうちのいずれか1つであり、ここで、表1〜4は、
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【表1−5】

【表1−6】

【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【表3】

【表4】

である、脂質分解酵素。
【請求項2】
請求項1記載の脂質分解酵素をコードするDNA。
【請求項3】
請求項2記載のDNAを含むベクター。
【請求項4】
請求項2記載のDNAまたは請求項3記載のベクターを含む形質転換された宿主細胞。
【請求項5】
請求項1記載の脂質分解酵素を製造する方法であって、
a)脂質分解酵素を発現するように、請求項4記載の細胞を培養し、そして
b)脂質分解酵素を回収すること
を含む方法。
【請求項6】
前記a)脂質分解酵素の発現が脂質分解酵素の分泌である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
生地または生地から製造される焼いた製品を製造する方法であって、請求項1記載の脂質分解酵素を生地に添加することを含む方法。
【請求項8】
前記脂質分解酵素が、請求項1の(a)および/または(d)に記載の脂質分解酵素であり、ならびにホスホリパーゼ活性および/またはジガラクトシルジグリセリド活性を有する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
食用油中のリン脂質含量を減らすための方法であって、大部分のリン脂質を加水分解するように、油を請求項1の(a)に記載の脂質分解酵素で処理し、そして加水分解されたリン脂質を含む水性相を油から分離することを含む方法。
【請求項10】
リン脂質を含む炭水化物起源の水性溶液またはスラリーのろ過性を改善する方法であって、溶液またはスラリーを請求項1記載の脂質分解酵素で処理することを含む方法。
【請求項11】
前記溶液またはスラリーがでん粉加水分解物又は小麦でん粉加水分解物を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
界面活性剤および請求項1記載の脂質分解酵素を含む洗剤組成物。
【請求項13】
乳脂肪を含む食品のフレーバーを増加させる方法であって、遊離の脂肪酸を放出させるように、食品を請求項1の(c)に記載の脂質分解酵素で処理することを含む方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−83285(P2011−83285A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276410(P2010−276410)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【分割の表示】特願2000−585389(P2000−585389)の分割
【原出願日】平成11年11月29日(1999.11.29)
【出願人】(500586299)ノボザイムス アクティーゼルスカブ (164)
【Fターム(参考)】