説明

脱臭されたアクリレート/メタクリレート系三元共重合体及びその脱臭方法

【課題】アクリレート/メタクリレート系三元共重合体に特有の臭いを低減しその使用感を向上する。
【解決手段】アクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルを構成成分とする三元共重合体を水で洗浄することを特徴とする前記三元共重合体の脱臭方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱臭されたアクリレート/メタクリレート系三元共重合体及びその脱臭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリレート/メタクリレート系三元共重合体、例えばオイドラギット(登録商標)は、所定のpHで溶解する性質を有するため、医薬品の腸溶性製剤のコーティング剤として汎用されている(特許文献1、2)。また、アクリレート/メタクリレート系三元共重合体は、義歯用裏装剤(義歯を口腔内の粘膜へ安定化させる義歯安定剤及び粘膜調整剤)の口腔粘膜からの剥離を促進する作用を有し、義歯用裏装剤の剥離性向上剤としても使用されている(特許文献3)。
【0003】
さらに、該三元共重合体は味のマスキング剤などの用途も知られている。
【0004】
しかしながら、アクリレート/メタクリレート系三元共重合体、例えばオイドラギット(登録商標)は、特有の臭いを有しており、繰り返し使用する場合や、例えば義歯用裏装剤に配合されて口腔内に長時間とどまる場合には、その臭気が問題になることがあった。
【特許文献1】特開2001−31591
【特許文献2】特開2004−35518
【特許文献3】特公平7−42210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アクリレート/メタクリレート系三元共重合体に特有の臭いを低減しその使用感を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、アクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルを構成成分とする三元共重合体を水で処理することにより、共重合体樹脂の損失を防止しつつ臭気のみを選択的に除去できることを見出した。
即ち、本発明は、以下の三元共重合体の脱臭方法、脱臭された三元共重合体及び該三元共重合体を含む義歯用裏装剤を提供するものである。
項1. アクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルを構成成分とする三元共重合体を水で洗浄することを特徴とする前記三元共重合体の脱臭方法。
項2. 前記三元共重合体が顆粒状である項1に記載の方法。
項3. 前記三元共重合体を水中で攪拌し、上澄みを分離することにより洗浄を行う項1または2に記載の方法。
項4. 項1〜3のいずれかの方法により得ることができる脱臭されたアクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルを構成成分とする三元共重合体。
項5. 実質的に不快臭のないアクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルを構成成分とする三元共重合体。
項6. 項4または5に記載の三元共重合体を配合した義歯用裏装剤。
【0007】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の脱臭対象であるアクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルを構成成分とする三元共重合体(以下、単に「三元共重合体」と記載する場合がある)は、(1)アクリル酸低級アルキルと(2)メタアクリル酸低級アルキルと(3)メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルの3種のモ
ノマーからなる共重合体である。
アクリル酸低級アルキルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸t-ブチルが挙げられ、好ましくはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、より好ましくはアクリル酸エチルが例示される。
【0008】
メタアクリル酸低級アルキルとしては、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n-プロピル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n-ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸sec-ブチル、メタアクリル酸t-ブチルが挙げられ、好ましくはメタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、より好ましくはメタアクリル酸メチルが例示される。
【0009】
本発明の最も好ましい三元共重合体は、アクリル酸エチルとメタアクリル酸メチルとメタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルの三元共重合体であり、当該三元共重合体はレームファーマ社(Rohm Pharma GmbH)からEudragit RS(登録商標)として市販されて
いる。
本発明の三元共重合体は、粉末、細粒状ないし顆粒状のものが使用でき、細粒状ないし顆粒状が好ましく、特に顆粒状が好ましい。三元共重合体の粒子径が細かすぎる場合、水中で分散し易いため、上澄みを除去する際に共重合体の損失が生じる。また、洗浄後の水を濾過により除く場合、三元共重合体粒子のサイズが小さすぎると目詰まりのために濾過が困難になるためである。
顆粒状の三元共重合体の平均粒子径は0.1〜10mm、好ましくは0.3〜5mm、より好ましくは0.5〜5mm、特に好ましくは1〜5mmである。このような範囲の粒子径であれば、濾過或いは上澄みの除去操作を容易に行うことができ、かつ、三元共重合体の損失を最小限に抑えることができる。三元共重合体の粒子径が細かすぎる場合、空中に粉塵が飛散し、共重合体の損失が生じるだけでなく、作業環境の汚染・作業環境の悪化などの問題がある。
さらに、粒子内に存在する臭気物質を洗浄水に効率的に溶出することができ、洗浄後の三元共重合体は、義歯用裏装剤のように口腔内に長時間保持されるような用途であっても臭いがほとんど或いは全く気にならない程度に臭気物質の除去を行うことができる。
洗浄水は、脱臭前の三元共重合体1重量部に対し通常2〜10重量部程度、好ましくは2〜5重量部程度使用する。
水洗時の温度は5〜60℃程度、好ましくは10〜50℃程度であり、水中での処理時間は水の使用量、処理温度、三元共重合体の粒径などにより異なるが、通常1分から48時間程度、好ましくは8時間から24時間程度である。
水洗は、水中に三元共重合体を加えて放置してもよいが、通常は、攪拌、振盪ないし超音波などにより行う。水としては、水道水を使用できるが、蒸留水、イオン交換水、精製水などを使用してもよい。攪拌は、例えばホモミキサー、ディスパーミキサーなどにより行うことができる。なお、三元共重合体の粒子径が大きすぎる場合には、攪拌と同時に三元共重合体の粉砕を行い、上記の適切な平均粒子径に調整してもよい。従って、脱臭処理後の平均粒子径が上記の範囲に入っていれば、脱臭処理前の三元共重合体の平均粒子径は、より大きく(例えば10mm超)てもよい。
水洗は1回のみでもよく、2回以上繰り返してもよい。
水洗後に三元共重合体に由来する臭気物質を含む水は、上澄みをデカント、或いはポンプなどにより吸引して除去することもでき、濾過により除去してもよい。濾過は、金網メッ
シュなどを使用することができる。上澄みを除去する場合には、攪拌等の操作の後しばらく静置し、粒子が沈降した状態で行うのが好ましい。例えば、脱臭した三元共重合体を義歯用裏装剤(義歯を口腔内の粘膜へ安定化させる義歯安定剤および粘膜調整剤)の口腔粘膜からの剥離を促進する剥離性向上剤として使用する場合、上澄みの除去後、水を含む三元共重合体を次の製造工程に供し、実質的に臭いの気にならない義歯用裏装剤を製造できるために好ましい。
顆粒状の三元共重合体を使用した場合、洗浄による三元共重合体の損失は通常0.2重量%以下、好ましくは0.1重量%以下であり、しかも損失のバラツキが小さい。一方、粉末状の三元共重合体を使用した場合、洗浄による三元共重合体の損失量は平均値で0.5重量%程度であり、しかも最大で1重量%の損失があり、損失量のバラツキも大きく、必要量の三元共重合体を配合するためには、脱臭前の三元共重合体を1重量%程度多く使用する必要がある。
三元共重合体の臭気は、例えば該共重合体をエタノールなどの溶剤に溶解後溶剤を除去し、残渣の臭いをパネラーなどのヒトによる官能試験により評価できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水洗という簡単な操作で、三元共重合体の臭気を効率的に除去することができ、水洗時の三元共重合体の損失も少なく抑えることができる。
【0011】
特に、本発明により脱臭した三元共重合体を義歯用裏装剤に配合した場合であっても、臭いが気にならないため、本発明により脱臭された三元共重合体は義歯用裏装剤の剥離性向上剤として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されなことは言うまでもない。
実施例1
容量60Lのプラスチック容器中において、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルの三元共重合体(オイドラギットRS100(登録商標)、レームファーマ社製;平均粒子径2mm)11重量部を精製水40重量部に分散し、50℃で20分間攪拌後一晩静置し、フィルター付きエアーポンプで上澄みを注意深く除去した。
【0013】
得られた脱臭後の三元共重合体を乾燥し、重量を測定して、洗浄による損失率を算出した。
【0014】
10回この操作を繰り返した後の最大損失率と平均損失率、並びに、得られた脱臭共重合体をエタノールに溶解後に溶媒を除去し、臭気をパネラー5人により評価した結果を表1に示す。
【0015】
上記の顆粒状の三元共重合体に代えて粉末状の三元共重合体(オイドラギットRSPO(登録商標)、レームファーマ社製;粒子径2.75μm〜704μm)を使用した以外は、上記と同様にして、脱臭共重合体を得た。
【0016】
結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1に示すように、顆粒状の三元共重合体を使用した場合、洗浄(脱臭)による損失が少なく、かつ臭気も十分に除去することができる。
【0019】
また、本発明者は実施例1で得られた脱臭後のオイドラギットRSを義歯用裏装剤に剥離性向上剤として配合し、口内に24時間保持させた場合であっても臭気はほとんど気にならないことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル及びアクリル酸t−ブチルからなる群から選ばれるアクリル酸低級アルキルと、
(2)メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸sec−ブチル及びメタアクリル酸t−ブチルからなる群から選ばれるメタアクリル酸低級アルキルと、
(3)メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルを
構成成分とする義歯用裏装剤用三元共重合体を水で洗浄することを特徴とする前記義歯用裏装剤用三元共重合体の脱臭方法。
【請求項2】
前記三元共重合体が顆粒状である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記三元共重合体が平均粒子径0.1〜10mmの顆粒状である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
水での洗浄温度が5〜60℃であり、洗浄時間が1分から48時間である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記三元共重合体を水中で攪拌し、上澄みを分離することにより洗浄を行う請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記三元共重合体を水中で攪拌し、その後しばらく静置し、粒子が沈降した状態で上澄みを分離することにより洗浄を行う請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの方法により得ることができる脱臭されたアクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸低級アルキルとメタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルを構成成分とする義歯用裏装剤用三元共重合体。

【公開番号】特開2011−178791(P2011−178791A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85331(P2011−85331)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【分割の表示】特願2004−107659(P2004−107659)の分割
【原出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】