説明

脳およびその他の組織への治療用化合物の送達

本発明は、リソソーム蓄積障害を治療するための組換え酵素の髄腔内(IT)投与に関する。代表的な実施形態では、MPS I罹患動物におけるヒトα−L−イズロニダーゼ(rhIDU)注射の髄腔内投与は、有意な酵素取り込み、脳および髄膜内の有意なrh−イズロニダーゼ活性ならびに正常被験者と比較してMPS I被験者の細胞内でのグリコサミノグリカン(GAG)蓄積の減少を生じさせた。髄腔内投与は、MPS Iの症状を緩和することに関して静脈内処置より効果的であることが実証されており、これは本方法がリソソーム蓄積障害に対して有用な方法であることを示唆している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソソーム蓄積障害を治療するための組換え酵素の髄腔内(IT)投与に関する。組換え酵素の髄腔内投与に先行する抗原特異的寛容の誘導もさらに意図されている。
【背景技術】
【0002】
脳は、血液脳関門(BBB)によって潜在的に有害な物質から遮蔽されている。血液と脳との間の微小血管関門は、基底膜および密接に結び付いた補助細胞(周皮細胞、星状細胞)によって取り囲まれた毛細血管内皮層から作られている。脳毛細管内皮は、密着結合と呼ばれる隣接細胞の膜間を密接に結び付ける頂端帯のために他の毛細管内皮より低分子量溶質に対してはるかに低透過性である。受動的拡散の減少に加えて、脳毛細管内皮はさらに他の内皮細胞より低い流体相ピノサイトーシスも示す。脳毛細血管は、他の器官の毛細血管と比較して窓やエンドサイトーシス小胞をほとんど有していない(Pardridge,J.Neurovirol.5:556−569(1999)を参照されたい)。受容体媒介性エンドサイトーシスによって取り込まれるトランスフェリン、ラクトフェリンおよび低密度リポタンパク質などの一部の特異的タンパク質を別にすると、大きな親水性分子がBBBを越える横断をすることはほとんどない(例えば、Pardridge,J.Neurovirol.5:556−569(1999));Tsuji and Tamai,Adv.Drug Deliv.Rev.36:277−290(1999);Kusuhara and Sugiyama,Drug Discov.Today 6:150−156(2001);Dehouck,et al.J.Cell.Biol.138:877−889(1997);Fillebeen,et al.J.Biol.Chem.274:7011−7017(1999)を参照されたい)。
【0003】
血液脳関門(BBB)は、中枢神経系(CNS)組織への有益な活性物質(例、治療薬および診断薬)の接近も妨害するので、それらが横断するためには担体の使用が必要になる。血液脳関門の透過性はしばしば、薬物もしくはペプチドがCNS内へ透過するための速度限定因子である(Pardridge,J.Neurovirol.5:556−569(1999);Bickel,et al.,Adv.Drug Deliv.Rev.46:247−279(2001)を参照されたい)。例えば、リソソーム蓄積症(LSD)の精神症状の処置は、治療用酵素が脳細胞中リソソームへ接近できないことによって大きく妨害される。LSDは、細胞内リソソーム内部の未分解「蓄積物質」の蓄積、リソソームの腫脹および機能不全、そして最終的には細胞および組織損傷を生じさせる、細胞内リソソーム内部の特異的酵素の活性の欠如もしくは減少を特徴とする。静脈内酵素補充療法(ERT)は、LSD(例、MPS I、MPS II)のために有益である。しかし、BBBは血液から脳へ多数の物質が自由に移動するのを阻害し、重大な神経学的後遺症(例、MPS I、MPS III、MLD、GM1)を伴って存在するLSDは、静脈内ERTに対して応答性ではないと予想される。そのような疾患に対しては、BBBを横断して罹患細胞のリソソーム内へ代替酵素を送達する方法が非常に望ましいであろう。
【0004】
投与された活性物質の脳送達を強化するためにBBBを迂回する様々な方法には、直接脳内注射、BBBの一過性透過化、および組織分布を変化させるための活性物質の修飾が含まれる。脳組織内への活性物質の直接注射は、血管構造を完全に迂回するが、主として脳内注射および投与部位からの活性物質の不良な拡散によって被る合併症(感染症、組織損傷)のリスクが付随する。BBBの透過化は、静脈内活性物質の注射に付随して非特異的にBBBを危険にさらし、高浸透圧性ショック(例、静脈内マンニトール)による密着帯の弛緩を通して遂行される。高血漿浸透圧は、密着帯の部分的崩壊を伴う毛細血管内皮の脱水、これらの条件下で脳へ接近する血液によって運ばれる物質タイプの低い選択性、および長期治療レジメンの経過後の障害をもたらす。
【0005】
脳内への活性物質の分布は、さらにまたBBBの管腔間隙(血液側)から反管腔間隙(脳側)への所与タンパク質の能動輸送であるトランスサイトーシスによって増加させることができる。トランスサイトーシス経路は毛細血管内皮細胞内で他の小胞輸送から区別され、輸送される物質を変化させずに移動させることができる。トランスサイトーシスは、BBB内皮細胞表面上で受容体によって媒介される細胞型特異的プロセスである。トランスサイトーシスされたタンパク質(ベクターもしくは担体)への活性物質の付着は、脳への活性物質の分布を増加させると予想される。トランスサイトーシスでは、ベクターが結合対の分布へ優勢な作用を有すると予測される。ベクタータンパク質には、脳毛細血管内皮上の受容体に対する抗体(Pardridge,J.Neurovirol.5:556−569(1999))およびそのような受容体に対するリガンド(Fukuta,et al.,1994,Pharm Res.1994;11(12):1681−8;Broadwell,et al.,Exp Neurol.1996;142(1):47−65))が含まれる。抗体ベクターは、吸着性エンドサイトーシス(非特異的な、膜−相エンドサイトーシス)のプロセスによって毛細血管内皮を通して輸送され、飽和性のエネルギー依存性機序によってBBBを横断する実際的受容体リガンドよりはるかに低効率で輸送される(Broadwell,et al.,Exp Neurol.1996;142(1):47−65)。
【0006】
脳物質内へのタンパク質の直接投与は、拡散障壁および投与できる治療薬の量が限定されるために、有意な治療効果を達成していない。対流援用拡散は、緩徐な長時間注入を用いて脳実質内に留置されたカテーテルを介して試験されてきたが(Bobo,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91,2076−2080(1994);Nguyen,et al.J.Neurosurg 98,584−590(2003))、しかし、現時点において長期療法のためにこのアプローチを使用する治療法は承認されていない。さらに、脳内カテーテルの留置は極めて侵襲性であり、臨床的代替法としては余り望ましくはない。
【0007】
髄腔内(IT)注射、または脳脊髄液(CSF)へのタンパク質の投与もまた試みられてきたが、極めて少数の、CSFを介する送達例で中等度の成功が得られているに過ぎない[Dittrich et al.,Exp.Neurol.141:225−239(1996);Ochs et al.,Amyotroph.Lateral.Scler.Other Motor Neuron Disord.1:201−206(2000);Bowes et al.,Brain Res.883:178−183(2000)]。神経増殖因子(NGF)については、脳室内への因子の投与は、脳へ一部の有益な作用をもたらしたが(Koliatsos et al.,Exp.Neurol.112,161−173(1991)、脳物質内への有意な拡散は示さなかった。この治療法における主要な課題は、因子が脳室の上衣内張へ極めて密接に結合してその後の拡散を妨害する傾向であった。現在、CSFの直接の治療的投与による脳遺伝病の治療のために承認された生成物は存在しない。
【0008】
過去に研究されたこれらと他の治療薬を用いて脳を治療する際の課題は、脳表面での拡散にとっての障壁ならびに脳治療の拡散および有効性の欠如が、あらゆる疾患に対して脳内で適切な治療作用を達成するためには余りに大きな障害であることを示している。以前の証拠は、脳室内もしくは髄腔内酵素療法が有効であるというほど十分には機能しないことを示しており、実際に、近年このアプローチについてのヒト試験は公表されておらず、その経路を介する治療に良好な成功が得られたという例はない。しかし髄腔内注射は、CSFは脳および髄膜へ良好な接近を提供するという点で他の標準的治療レジメンと比較して利点を持つ。CSFは脳を被覆し、表面下6mmまで皮質ニューロンと接触する大きな表面積を提供し、脳組織内への治療薬のより効率的な透過を可能にする。
【0009】
神経系に影響を及ぼすリソソーム蓄積障害は、従来の療法を用いてこれらの疾患を治療する際の特別な課題を示す。この疾患に罹患した個体のニューロンおよび髄膜中ではグリコサミノグリカン(GAG)の大きな蓄積が発生することが多く、この疾患の軽症もしくは重症形を引き起こす。例えば、重症MPS I患者における脳疾患は、発達遅延、水頭症、重症精神遅滞、および疾患症状に起因する最終的衰弱および死亡を特徴とする。軽症MPS I脳は、血管周囲GAG蓄積、水頭症、学習能力障害ならびに蓄積症から生じる腫脹および瘢痕化に起因する脊髄圧迫を特徴とする。髄膜蓄積が影響を受けているMPS I患者では、髄膜が遮断され、CSF吸収が減少し、高血圧性水頭症がもたらされる。この異所性リソソーム蓄積は、さらにまた蓄積症の結果として生じる髄膜の肥厚化および瘢痕化をもたらす。
【0010】
リソソーム蓄積障害であるゴーシェ病では、重症形の疾患(2型および3型)を有する患者は脳疾患を有し、静脈内酵素療法は脳を効果的および適切に治療するためには不十分である。ゴーシェ病において欠損している酵素であるグルコセレブロシダーゼを用いた髄腔内および実質内酵素療法は、脳内への進入には成功したが、脳蓄積を治療することには成功しなかった(Zirzow et al.,Neurochem.Res.24,:301−305.1999)。現時点では、リソソーム障害の結果として生じる脳疾患は、現在利用できるいずれの手段によっても治療の成功が得られていない。
【0011】
そこで、当分野において、酵素補充療法の有効な投与を通してリソソーム蓄積障害を効果的に治療する方法を開発する必要がある。より詳細には、リソソーム蓄積障害を治療するために脳および中枢神経系へより効率的に活性物質を送達できる化合物および組成物のより効果的な投与方法に対する必要が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、酵素蓄積症の中枢神経系発現を治療するための方法および組成物に向けられる。より詳細には、本発明はリソソーム蓄積障害において欠損もしくは欠乏している酵素を含む組成物の髄腔内送達が、そのような疾患の中枢神経系発現が持続性であり、長期的に臨床上有用な治療的介入をもたらすという発見に基づいている。そこで、本発明は、上記治療法を必要とする被験者の脳脊髄液内への髄腔内投与による上記
疾患に対する酵素補充療法に向けられる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明の1つの態様では、リソソーム蓄積症を治療する方法であって、リソソーム蓄積症において欠損もしくは欠乏しているタンパク質を含む医薬組成物を提供するステップと、被験者の脳脊髄液内に前記医薬組成物を送達するステップと、を含み、それにより哺乳動物被験者において治療作用を提供するレベルで前記タンパク質が送達される方法が提供される。より詳細には、前記方法は一般に、哺乳動物被験者において治療作用を提供するレベルで前記被験者の脳組織へ前記タンパク質を送達するステップを含む。より詳細には、脳脊髄液への送達は、髄腔内注射によって達成される。
【0014】
特に好ましい実施形態では、本発明の方法は、MPSの治療的介入を達成するためにイズロニダーゼの髄腔内投与を提供する。この治療は、組織中のグリコーゲン蓄積顆粒を減少もしくは排除させるので、前記被験者へ有益な作用を及ぼす。さらに、新生児および成人被験者両方の脳脊髄液内への前記酵素の髄腔内注射は、脳内でのイズロニダーゼの治療レベルおよび脳組織中でのグリコサミノグリカン蓄積顆粒の減少もしくは排除を生じさせる。
【0015】
一部の実施形態は補充される酵素としてイズロニダーゼを使用するが、本発明の方法は異なる酵素の投与を必要とする他の疾患の治療的介入のために使用できることを理解されたい。例えば、本発明はさらにまた、β−グルクロニダーゼ(MPS VII)、イズロン酸スルファターゼ(MPS II)、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(MPS IIIB)、アリールスルファターゼA(MLD)、グルコセレブロシダーゼ、β−グルコシダーゼもしくはN−アセチルガラクトサミン4−スルファターゼのクモ膜下投与もまた意図している。
【0016】
さらに、酵素を取り込むための高親和性受容体が脳細胞の細胞表面上に存在することにより、前記酵素が低濃度の場合でも、CSF中での濃度勾配を引き起こし、前記酵素が運ばれて脳−CSF界面を越えて脳表面を横断することが意図されている。
【0017】
好ましい実施形態では、本発明は、哺乳動物におけるリソソーム蓄積症を治療するための方法であって、前記哺乳動物の中枢神経系内に、前記リソソーム蓄積症の症状を緩和するために有効な量で前記リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を髄腔内投与するステップを含む方法に向けられる。当業者は、病歴、理学的検査、心エコー法、心電図検査、磁気共鳴イメージング、睡眠ポリグラフ計検査、骨検索、可動域測定、角膜撮影、および皮膚生検の日常的評価を通してリソソーム蓄積症の症状について被験者を日常的に監視するであろう(米国特許第6,585,971号を参照されたい)。あらゆるそのような方法は本発明の治療方法と結び付けて使用することができる。
【0018】
好ましくは、酵素補充療法用医薬組成物は、哺乳動物の脳組織中に存在する蓄積顆粒の量を減少させるために有効な量で投与される。より詳細には、本治療は、被験者のニューロンおよび/または髄膜組織中でのGAG蓄積の減少を生じさせる。本発明の所定の好ましい方法では、治療的介入はリソソーム蓄積症に関連している高血圧性水頭症を改善する。好ましくは、本発明の酵素療法の髄腔内投与は、リソソーム蓄積症に罹患している個体において髄膜内のリソソーム蓄積顆粒が存在する結果として生じる髄膜腫脹の減少をもたらす。
【0019】
本発明の方法は、脳もしくは髄膜組織中で作用を示し、薬剤が脳もしくは髄膜へ進入することを必要とするあらゆるリソソーム蓄積症の治療のために使用できる。本出願の方法は、脳−CSF界面を横断するステップと、脳組織内でのリソソーム蓄積症の有害な作用を改善するステップと、によって治療作用を達成する。例えば、そのような疾患にはアスパルチルグルコサミン尿症、コレステロールエステル蓄積症、ウォルマン病、シスチン蓄積症、異染性白質ジストロフィー、ダノン病、ファブリ病、ファーバー脂肪肉芽腫症、ファーバー病、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシスI/II型、ゴーシェ病I/II/III型、ゴーシェ病、グロボイド細胞白質ジストロフィー、クラッベ病、グリコーゲン蓄積症II型、ポンペ病、GMlガングリオシドーシスI/II/III型、GM2ガングリオシドーシスI型、テイ・サックス病、GM2ガングリオシドーシスII型、サンドホフ病、GM2ガングリオシドーシス、α−マンノシドーシスI/II型、β−マンノシドーシス、異染性白質ジストロフィー、ムコリピドーシスI型、シアリドーシスI/II型、ムコリピドーシスII/III型I細胞病、ムコリピドーシスIIIC型偽性ハーラーポリジストロフィー、ムコ多糖症I型、ムコ多糖症II型、ハンター症候群、ムコ多糖症IIIA型、サンフィリポ症候群、ムコ多糖症IIIB型、ムコ多糖症IIIC型、ムコ多糖症IIID型、ムコ多糖症IVA型、モルキオ症候群、ムコ多糖症IVB型モルキオ症候群、ムコ多糖症VI型、ムコ多糖症VII型、スライ症候群、ムコ多糖症IX型、多発性スルファターゼ欠損症、神経性セロイドリポフスチン蓄積症、CLN1バッテン病、ニーマン・ピック病A/B型、ニーマン・ピック病、ニーマン・ピック病C1型、ニーマン・ピック病C2型、ピクノディスオストーシス、シンドラー病I/II型、シンドラー病およびシアル酸蓄積症が含まれるがそれらに限定されない。
【0020】
特に好ましい実施形態では、疾患はムコ多糖症であり、そしてより好ましくは疾患はムコ多糖症I型である。一部の実施形態では、リソソーム蓄積症を有する被験者では正常α−L−イズロニダーゼ活性が減少している。この活性は、この酵素が被験者において変化している、または欠如しているために減少する可能性がある。特定の実施形態では、哺乳動物は正常α−L−イズロニダーゼ活性の約50%以下を有する。他の実施形態では、被験者は正常α−L−イズロニダーゼ活性の75%以下を有する。この欠損症を治療するために、本発明の方法は、少なくとも約125,000単位もしくは0.5mg/kgの用量のヒトα−L−イズロニダーゼを含む医薬組成物を使用することができる。その他の好ましい用量には、約0.01mg/15〜20kg(被験者の体重)から約10mg/15〜20kg(被験者の体重)が含まれる。用量は、その治療を投与する医師によって決定されるいずれか便宜的用量およびいずれか便宜的にあけた間隔で投与することができる。一部の実施形態では、酵素補充療法は、リソソーム蓄積酵素の欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される。
【0021】
所定の代表的実施形態では、前記医薬組成物は、哺乳動物では少なくとも約0.01mg/15cc(CSF)から約5.0mg/15cc(CSF)の用量のヒトα−L−イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される。好ましくは、前記医薬組成物は、哺乳動物では約1mg/15cc(CSF)の用量のヒトα−L−イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される。典型的な医薬組成物は、100mMリン酸ナトリウム、150mM NaClおよび0.001%ポリソルベート80を含む緩衝液中に0.58mg/mLのイズロニダーゼを含む緩衝液中で調製される。
【0022】
本発明の方法において使用するための医薬組成物は、さらにまた例えばヒトアルブミンなどの他の成分を含有していてよい。特定の実施形態では、本組成物は少なくとも約1mg/mLの濃度でヒトアルブミンを含有する。本組成物は、例えば約10〜50mMの濃度でリン酸ナトリウム緩衝液を含む緩衝液中などのように、緩衝液の形状であってよい。
【0023】
特定の実施形態では、リソソーム蓄積障害はMPS Iであり、酵素は体重1kg当たり約0.5μgから約20mgの量で髄腔内投与される組換えイズロニダーゼである。特定の実施形態では、この量は体重1kgにつき約0.5μgから約0.5mgである。より詳細には、組換えイズロニダーゼは体重1kg当たり約1.0μgから100μg、2.0μgから50μg、もしくは10μgから100μgの用量で投与される。これらはイズロニダーゼの代表的な量に過ぎず、当業者であればこれらの用量が被験者の年齢、被験者のサイズ、疾患の病期などに依存して変動する可能性があることを理解するであろう。好ましい実施形態では、組換えイズロニダーゼは約1.0μgから15mg、2.0μgから10mg、もしくは10μgから5mgの用量で投与される。
【0024】
補充療法のための酵素は、該酵素を調製するために一般に使用されるあらゆる起源から調製できる。一部の実施形態では、酵素はヒトイズロニダーゼをコードするDNA配列を用いてトランスフェクトされた培養液中に哺乳動物細胞から分泌および精製されたイズロニダーゼである。
【0025】
本発明の髄腔内治療方法で送達される酵素は、髄腔内投与のために一般に使用されるあらゆる便宜的経路を通して投与されてよい。例えば、髄腔内投与は、約1時間にわたり少なくとも0.5mg/kgの緩徐な注入を介してであってよい。しかし、用量は、類似の注入速度と比較して約0.01mg/15〜20kg(被験者の体重)から約10mg/15〜20kg(被験者の体重)までで変動してよいことを理解されたい。有益にも、髄腔内酵素補充療法を投与するステップは、上述のような被験者のニューロンおよび/または髄膜組織中でのリソソーム蓄積顆粒の正常化を生じさせる。特に好ましい実施形態では、ニューロンおよび神経膠細胞組織からの蓄積顆粒の沈着が改善され、それによってリソソーム蓄積症に罹患している個体において所見される発達遅延および退行を緩和することが意図されている。その他の好ましい実施形態は、リソソーム蓄積症におけるその存在が高血圧性水頭症を生じさせるクモ膜顆粒の近位での脳脊髄膜内のリソソーム蓄積顆粒の正常化を生じさせる。このため、本発明の方法は、リソソーム蓄積症に関連しているそのような高血圧性水頭症の治療に向けられる。本発明の方法は、C1〜C5での脊髄近位にある脳脊髄膜内または脊髄内のいずれかでのリソソーム蓄積顆粒の存在の結果として生じる脊髄圧迫を治療する際にも使用できる。本発明の方法は、脳血管の周囲でのリソソーム蓄積顆粒の血管周囲蓄積によって惹起される嚢胞の治療にさらに向けられる。
【0026】
他の実施形態では、本治療は有益にも肝体積および尿グリコサミノグリカン排出の正常化、脾臓サイズおよび無呼吸/呼吸低下事象の減少、思春期前被験者における身長および成長速度の上昇、肩の屈曲および肘や膝の伸展の増加、ならびに三尖弁逆流もしくは肺動脈弁逆流の減少を生じさせることもできる。そのような作用を監視するための方法について、具体的には特に米国特許第6,585,971号の実施例5に挙げられており、これは、特に実施例5の教示、そしてより一般的には組換えイズロニダーゼを調製する方法および組成物の教示を参照して本明細書に組み込まれている。
【0027】
好ましい実施形態では、本出願における治療薬を投与するステップは、リソソーム蓄積症を有する個体の少なくとも脳組織中のリソソーム蓄積を減少させる、ヒト組換えα−L−イズロニダーゼの投与を含む。イズロニダーゼがCSF内へ髄腔内投与される本発明のそれらの好ましい態様では、本組成物はイズロニダーゼ約1mg/20kg(MPSに対して治療される哺乳動物の体重)を含む。特定の実施形態では、上記の用量は15ccのCSFへ送達される。該濃度では、酵素濃度は18,000単位/mL(CSF)であろうと意図される。上記の用量は単に典型的な用量に過ぎないと理解すべきであり、当業者であれば、この用量を変化させてよいことを理解するであろう。
【0028】
本発明の髄腔内投与は、前記医薬組成物を脳室内へ導入するステップを含んでもよい。あるいは、髄腔内投与は、前記医薬組成物を腰椎領域内へ導入するステップを含んでもよい。さらにまた別の実施形態では、髄腔内投与は、前記医薬組成物を大槽内へ導入するステップを含む。いずれかのそのような投与は、好ましくはボーラス注射を介する。症状の重症度および治療に対する被験者の応答性に依存して、そのようなボーラス注射は週1回、月1回、2カ月毎に1回、3カ月毎に1回、6カ月毎に1回または年1回投与することができる。他の実施形態では、髄腔内投与は注入ポンプの使用によって達成される。前記医薬品は少なくとも数日間にわたり継続的に髄腔内投与もできるか、あるいは、髄腔内投与は少なくとも4週間にわたり継続的に行う。もちろん、前記投与が継続的注入を介する場合は、酵素補充療法の投与速度は、ボーラス注射投与と比較して大きく低下させることができよう。
【0029】
一部の実施形態では、治療レジメンは、髄腔内投与が、疾患において欠損している前記酵素を含む医薬組成物の全身投与と関連して併用されるようなレジメンであってよい。好ましいそのような実施形態では、髄腔内投与は月1回ベースで実施されてよいが、投与間の他の時間間隔もまた意図されている。好ましくは、そのような併用投与レジメンにおける全身投与は、静脈内投与である。特定の実施形態では、本発明の方法は、CNS内へ作用送達するためにrh−IDUなどの酵素を髄腔内投与するステップと、非CNS部位におけるリソソーム蓄積症の作用を改善するために全身投与するステップと、によるリソソーム蓄積症の治療を意図している。例えば、特定の実施形態では、rh−IDUは月1回のベースで髄腔内投与され、そして2週間毎、週1回、1日1回、または2日に1回のベースで静脈内投与される。一部の実施形態では、被験者は治療レジメンを開始する前に免疫抑制寛容化レジメンを用いて髄腔内および/またはrh−IDU投与に対して寛容化されることができる。
【0030】
本発明の方法は、好ましくはリソソーム蓄積症に罹患しているヒトの治療的介入のためである。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、脳脊髄液へ送達される酵素は、高親和性受容体による酵素の取り込みを可能にする成分を自然に含んでいるか、または含むように遺伝子組換えされている。例えば、酵素は、前記酵素がマンノース−6−リン酸受容体、メラノトランスフェリン受容体、およびLRP受容体または脳細胞の表面上で偏在的に発現するその他の受容体から選択された受容体へ結合するのを可能にする成分を含んでいる、または含むように遺伝子組換えされている。好ましい実施形態では、酵素は、該酵素がマンノース−6−リン酸受容体を発現する細胞によって取り込まれることを可能にするマンノース−6−リン酸成分を含む。また別の実施形態では、酵素は、GAGに結合する、またはGAG結合能力を有するように遺伝子組換えされている。また別の実施形態では、酵素はp97、RAP、トランスフェリンもしくはIGF2を含む。
【0032】
本発明の所定の態様では、リソソーム蓄積症に対して酵素補充療法を用いて治療される被験者は、寛容化レジメンを用いてそのような療法に対して寛容化にさせられる。
【0033】
本発明の一部の実施形態では、リソソーム蓄積症における酵素補充療法のために使用される酵素は、前記酵素の高度の取り込みを促進する成分を自然に含む、またはその成分へ融合されている酵素である。好ましい実施形態では、該酵素はイズロニダーゼであり、組換えか野生型かのどちらかある。前記酵素の取り込みを促進する成分は、治療法の標的とされる細胞の表面上で発現するリガンドもしくは受容体の結合パートナーなどのいずれかの成分であってよい。特別に好ましい実施形態では、該成分は、マンノース−6−リン酸残基、RAPポリペプチド、およびp97ポリペプチドからなる群から選択される。本発明の他の態様は、酵素補充療法の前に抗原特異的寛容を誘導するステップをさらに含む方法を規定する。そのような療法に対する寛容の誘導は、単独もしくは抗増殖および/または同時刺激性シグナル遮断作用を有する可能性があるアザチオプリンなどの物質と併用して、例えばサイクロスポリンなどの免疫抑制剤の投与を使用できる。
【0034】
本発明の特定の実施形態は、リソソーム蓄積症を有する被験者の脳細胞中でのグリコサミノグリカン(GAG)の崩壊を促進する方法であって、前記方法は、被験者へリソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、投与前に細胞内に存在するGAGの量と比較して脳細胞内に存在するGAGの量を減少させるために有効な量で髄腔内投与するステップを含む方法を意図している。
【0035】
本明細書を通して特定の実施形態では、本発明の方法を使用すると、GAGの異常な蓄積を有するいずれかの脳細胞中でのGAG蓄積を減少させる、および/またはGAG崩壊を促進することができると理解されたい。脳細胞は、ニューロン、神経膠細胞、もしくは脳室上衣細胞であってよい。特定の実施形態では、脳細胞は、ニューロン、神経膠細胞、小神経膠細胞、星状細胞、乏突起神経膠細胞、血管周囲細胞、血管周皮細胞、髄膜細胞、脳室上衣細胞、クモ膜顆粒細胞、クモ膜、硬膜、軟膜および脈絡膜叢細胞からなる群の少なくとも1つから選択されてよい。好ましい実施形態では、脳細胞は髄膜細胞である。一部の実施形態では、被験者は高血圧性水頭症を有し、投与するステップは前記被験者の髄膜組織中でのCSF液の量を減少させることが意図されている。他の実施形態では、被験者は脊髄圧迫を有し、投与するステップは前記圧迫の症状を減少させる、さもなければ緩和することが意図されている。好ましい実施形態では、本発明の治療方法は、髄腔内投与の不在下で類似細胞内に存在するリソソーム蓄積顆粒の数と比較して細胞内のリソソーム蓄積顆粒の数を減少させる。
【0036】
本発明のまた別の実施形態は、リソソーム蓄積症を有する被験者における髄膜腫脹を減少させる方法であって、該方法が、前記リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、投与する前に前記被験者の髄膜のサイズと比較して被験者の髄膜炎症を減少させるために有効な量で前記被験者へ髄腔内投与するステップを含む方法を意図している。前記被験者は、ヒト被験者であってよい。
【0037】
本発明の他の有益な態様は、リソソーム蓄積症を患う被験者における脊髄圧迫を減少させる方法であって、前記方法が、前記リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、投与前の被験者の髄膜のサイズと比較して被験者の髄膜炎症を減少させるために有効な量で前記被験者へ髄腔内投与するステップを含む方法を意図している。本発明のこれらやその他の方法では、被験者の運動技能は、好ましくは前記医薬組成物を投与する前の前記動物の運動技能と比較して前記医薬組成物の投与により改善される。
【0038】
上記の段落は、本発明の各態様を規定することを意図しておらず、追加の態様は、「課題を解決するための手段」などの他のセクションに記載されている。
【0039】
上記に加えて、本発明は、追加の態様として、上記の特定段落によって規定された変更より多少なりとも狭い範囲で本発明の全ての実施形態を含む。例えば、本発明の所定の態様は1つの属として記載されているが、1つの属の各一員は、個別の本発明の1つの態様であると理解されたい。本出願人らは、本明細書に記載の本発明の全範囲を生み出したが、本出願人らは他の研究者の先行技術の研究に記載された主題を請求することを意図していない。このため、法的先行技術が請求項の範囲内に含まれることが特許庁またはその他の実体もしくは個人によって出願人に気付かされた場合には、本出願人らはそのような法定先行技術もしくはそのような請求の範囲から法定先行技術の明白な変形を詳細に排除するためにそのような請求項の主題を再規定するために適用可能な特許法下で補正権を行使する権利を保有する。
【0040】
そのように補正された請求項によって規定された本発明の変形もまた、本発明の態様であると意図されている。
【0041】
以下の図面は本明細書の一部を形成しており、本発明の態様を詳細に説明するために含まれている。本発明は、本明細書に提示した特定の実施形態についての詳細な説明と組み合わせて図面を参照することによって明確に理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明は、治療される特定の疾患において欠損している酵素の髄腔内注射を使用したりリソソーム蓄積障害を治療するための方法に関する。本方法は、被験者により有効な治療を提供するための寛容誘導レジメンと結合することができる。
【0043】
本出願は、リソソーム蓄積障害のための酵素補充療法の髄腔内送達は、そのような疾患の中枢神経系発現の持続性の、長期的に臨床的に有用な治療的介入を生じさせるという発見に基づいている。溶解度および基質への結合などの酵素の特性は、酵素の脳組織内への透過およびCSF−脳界面を越える治療薬の横断に影響を及ぼすことができる。
【0044】
そこで、本明細書は初めて、組換えイズロニダーゼを用いた脳および髄膜内のリソソーム蓄積症に対する治療の成功について詳述しており、それにより例えばMPS Iなどの蓄積症における脳および髄膜疾患を治療することが可能であることを証明した。MPS Iに対する末梢酵素療法が2003年にヒトにおいて使用するために承認されたことを前提として、本発明は、現在末梢療法のために承認されているものと同一の組換えイズロニダーゼ組成物を用いる臨床試験におけるヒトMPS I患者の治療への直接転換を可能にする。リソソーム蓄積症の脳発現はこれまで難治性であったので、これはリソソーム蓄積症の治療における重要な進歩を意味する。本明細書に記載の代表的方法の多くはMPS Iについて実施された試験を例示しているが、本発見は、それに対する酵素療法が現在開発中である他のリソソーム蓄積症の治療に拡張することが可能であることが意図されている。
【0045】
特定の実施形態では、酵素のイズロニダーゼがこれまで試みられてきた他の酵素より良好に脳へ透過できることを本明細書で初めて詳述している。特定の好ましい実施形態では、イズロニダーゼは、MPS障害を治療するために使用される。イズロニダーゼの髄腔内投与は、この酵素が脳組織内の、組織液腔内へ酵素を引き入れるための結合部位を提供することができるGAGへ結合する能力のために意図されている。イズロニダーゼ上のマンノース−6−リン酸成分の存在は、CSFからのこの酵素の高親和性取り込みを可能にし、それによってCSF中の低濃度の酵素が臨床的治療作用を有することを可能にした。マンノース−6−リン酸成分がほぼ全ての細胞表面上の高親和性受容体へ結合するという事実は、イズロニダーゼが少量であっても脳および髄膜に取り込まれ、それらの部位でリソソーム蓄積症にとって修正することを可能にする。
【0046】
イズロニダーゼは、約1ナノモル(12単位/mL)の濃度で、このレセプターに対する最大結合の1/2の極めて高い親和性を示し、さらに、約1ピコモルでのその欠陥の最大補正の1/2を示すことを前提にすると、わずかな量の酵素をCSF腔内へ添加することでも脳内に酵素を送り込む大きな勾配を作り出すであろう。代表的な治療レジメンでは、15ccのCSFを有する20kgのイヌにおいて1mgの用量では、CSF中の酵素濃度は約18,000単位/mLであると予想される。この濃度は、取り込みを観察するために必要とされる濃度の1,000倍より高く、そして最大補正の1/2のために必要とされる濃度の1,000,000倍である。このため、酵素のわずか1%しか脳に透過しない非効率なプロセスでさえ、効率的取り込みを促進するはずの濃度である取り込み定数の10倍、すなわち最大補正濃度の1/2の約10,000倍のレベルを生じさせるであろう。この容易に達成可能な勾配、酵素の特性が拡散に及ぼす作用、および取り込みおよび補正のために必要とされる低い濃度を前提にして、本明細書ではイズロニダーゼがインビボでのMPS Iの症状の治療に成功することが証明されている。MPS Iを治療する際の髄腔内イズロニダーゼ療法を使用することの追加の長所は、MPS I疾患が酵素療法にとっての脳表面の透過性を強化し、これが髄腔内療法をMPS Iを治療するための魅力的方法にする点にある。
【0047】
酵素の髄腔内送達の結果として生じる大きな濃度勾配の意義は、小さいとはいえ重要である酵素の脳内へ透過と合わせて考えると、いかなるリソソーム蓄積障害においても治療効果を達成するためには十分であろう。イズロニダーゼの高取り込み受容体結合特性によって生成するこの大きな濃度勾配の作用は、本発明の以前には評価されておらず、脳がどのようにして上衣層を越えて酵素を強制循環させることができるのか、そして多数の酵素がどのように血液脳関門を越えて拡散するのかを理解する際に重要である。以下では、リソソーム蓄積症に対するイズロニダーゼならびに他の酵素を用いてそのような補正を達成するための方法および組成物をより詳細に考察する。
【0048】
定義
本方法について説明する前に、本発明は本明細書に記載の特定方法には限定されず、それ自体が、当然ながら変化する可能性があることが理解されなければならない。さらにまた、本明細書で使用した用語は、本発明の範囲は添付の請求項によってのみ限定されるので、特定の実施形態を説明することだけを目的としており、限定的であることは意図されていない。
【0049】
ある範囲の価値が提供される場合は、その間に挟まれた各数値は、その状況が明確に指示しない限り下限単位の10分の1、その範囲の上限と下限の間およびいずれか他の記述された、もしくは記載された範囲内の挟まれた数値が本発明に含まれると理解されたい。これらのより小さな範囲の上限および下限は、記載された範囲内の詳細に排除された限界までの対象であるより小さな範囲内に独立して含まれてよい。
【0050】
他に規定されない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者が一般に理解している意味と同一の意味を有する。本発明の実践もしくは試験においては本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料を使用することができるが、以下では好ましい方法および材料について記載する。本明細書に言及した全ての出版物は、それについて出版物が言及したものと結び付けて方法および材料を開示および記載するために参照して組み込まれる。
【0051】
本明細書および添付の特許請求項において使用する単数形「1つの」および「その」には、その状況が他を明確に指示しない限り複数の対象が含まれる。
【0052】
「リソソーム蓄積症」は、天然高分子を代謝するために必要な1種以上のリソソーム酵素の欠損の結果として生じる任意の疾患を意味する。これらの疾患は、典型的には、リソソーム内での未分解分子の蓄積をもたらし、その結果、多数の蓄積顆粒(蓄積小胞とも呼ばれる)が増加する。これらの疾患について以下により詳細に記載する。
【0053】
「被験者」は、本発明の方法を用いて治療すべきあらゆる動物を含むことが意図されている。好ましくは、被験者は、制限なく、ヒトならびにチンパンジーおよび他の類人猿およびサル種などの非ヒト霊長類;ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマなどの家畜;イヌおよびネコなどの愛玩動物;マウス、ラットおよびモルモットなどの齧歯類を含む実験用動物などを含む哺乳動物被験者である。この用語は、特定の年齢または性別を示さない。そこで、成熟および新生児被験者、ならびに胎児は、雄性であっても雌性であっても、用語「被験者」の範囲内に含まれる。
【0054】
「治療効果のある」については、本明細書は本発明の治療法の結果として生じる任意の治療有益性を意味することを意図している。例えば該効果は、適切な標的組織中で発現する、当該リソソーム障害において欠乏もしくは欠損している酵素の有益な効果であってもよく、このような有益な生理作用は酵素補充療法を実施しない場合に測定される生理的パラメータと比較される。そのような治療作用は、当該疾患の1つ以上の臨床的もしくは亜臨床的発現の減少もしくは排除であってよい。例えば、蓄積小胞(蓄積顆粒とも呼ばれる)の数の減少、またはその排除は、治療される被験者にとって治療有益性を提供するであろう。当該の組織中の蓄積顆粒の存在を検出する方法は当分野において周知であり、以下の実施例で詳細に記載する。そのような方法は、組織切片の顕微鏡検査を必要とする。例えば、Vogler et al.(1990)Am J Pathol 136:207−217を参照されたい。さらに、問題の特定酵素欠損症に起因する物質の蓄積における減少は、治療された被験者における治療有益性も付与するであろう。そのような物質は、知られているアッセイ法を用いて容易に検出できる。例えば、MPS VIIは、未分解グリコサミノグリカン(GAG)の蓄積を生じさせる。GAGレベルは、Farndale et al.(Farndale et al.(1982)Con Tissue Res 9:247−248)およびPoorthuis et al.(Poorthuis et al.(1994)Pediatr Res 36:187−193)によって開発された方法を用いて容易に測定できる。
【0055】
本発明の方法
本発明は、リソソーム蓄積症を治療するための新規方法であって、そのようなリソソーム蓄積障害において欠損もしくは欠乏している酵素の髄腔内投与を提供するステップと、それにより治療される被験者の脳組織中で欠損もしくは欠乏している酵素の補充を提供するステップと、による方法に向けられる。脳標的組織への送達は、髄腔内投与経路を通して行なわれる。これらの方法は、治療される被験者の脳組織中での蓄積顆粒の排除もしくは減少を効果的に提供する。
【0056】
本発明の方法を用いて治療できるリソソーム蓄積症には、1、2および3型を含むゴーシェ病(例えば、Barranger et al.Neurochemical Res.(1999)24:601−615およびNIH Technology Assessment Conference Statement,Feb.27,1995−Mar.1,1995を参照されたい)、ファブリ病(例えば、Takanaka et al.Exp.Hem.(1999)27:1149−1159,Ziegler et al.Hum.Gene Ther.(1999)10:1667−1682 and Takanaka et al.Hum.Gene Ther.(1999)10:1931−1939を参照されたい)、テイ・サックス病(例えば、Guidotti et al.Hum.Mol.Gen.(1999)8:831−838およびDaly et al.Proc.Natl.Acad.Sci USA(1999)96:2296−2300を参照されたい)、ニーマン・ピック病A、BおよびC型、オルニチン−δ−アミノトランスフェラーゼ(OAT)欠損症(例えば、Jensen et al.Hum.Gene Ther.(1997)8:2125−2132,Locrazza et al.Gene Ther.(1995)2:22−28,Rivero et al.Hum.Gene Ther.(1994)5:701−707を参照されたい)、遺伝性ホモシステイン血症(例えば、McGill et al.Am.J.Med.Gen.(1990)36:45−52,Eikelboom et al.Ann.Int.Med.(1999)131:363−365,Watanabe et al.Proc.Nat’l Acad.Sci.USA(1995)92:1585−1589.を参照されたい)、マンノシドーシス、フコシドーシス、シアロドーシス、例えばI細胞病(II型ムコリピドーシス)および偽性ハーラーポリジストロフィー(III型ムコリピドーシス)などのムコリピドーシス、例えばウォルマン病およびコレステロールエステル蓄積症などの酸性リパーゼ欠損症、異染性ジストロフィーおよび多発性スルファターゼ欠損症(MPS I)(ハーラー病)(例えば、Lutzko et al.Hum.Gene Ther.(1999)10:1521−1532,Hartung et al.Hum.Gene Ther.(1999)10:2163−2172を参照されたい)、MPS II(ハンター症候群)(例えば、Rathmann et.al.Am.J:Hum.Genet.(1996)59:1202−1209,Stronicek et al.Transfusion(1999)39:343−350,Li et al.J.Med.Genet.(1999)36:21−27)、MPS III(サンフィリポ症候群)(例えば、Scott et al.Nat.Genet.(1995)11:465−467,Jone et al.J.Neuropath.Exp.Neur.(1997)56(10):1158−1167を参照されたい)、MPS IV(モルキオ症候群)(例えば、Nothover et al.J.Inherit.Metab.Dis.(1996)19:357−365を参照されたい)、MPS V(シャイエ症候群)(例えば、Dekaban et al.Arch.Pathol.Lab.Med.(1976)100:231−245を参照されたい)、MPS VI(Maroteaux−Lamy症候群)(例えば、Hershovitz et al.J.Inherit.Metab.Dis.(1999)22:50−62,Villani et al.Biochim.Biophys.Acta.(1999)1453:185−192,Yogalingam et al.Biochim.Biophys.Acta.(1999)1453:284−296を参照されたい)、およびMPS VII(スライ症候群)(例えば、Watson et al.Gene Ther.(1998)5:1642−1649,Elliger et al.Gene Ther.(1999)6:1175−1178,Stein et al.J.Virol.(1999)73(4):3424−3429,Daly et al.PNAS(1999)96:2296−2300,Daly et al.Hum.Gene Ther.(1999)10:85−94を参照されたい)を含むスルファチドリピドーシス;およびサンドホフ病が含まれるが、それらに限定されない。
【0057】
リソソーム蓄積症の遺伝的病因、臨床的発現、および分子生物学に関する詳細な精査は、Scriver et al.,eds.,The Metabolic and Molecular Basis of Inherited Disease,7th Ed.,Vol.II,McGraw Hill,(1995)に詳述されている。そこで、上記の疾患において欠損している酵素は当業者には知られており、以下ではこれらの一部を表で例示する。
【0058】
【表1A】

【表1B】

【0059】
そこで、本発明の方法を用いて治療または予防できるリソソーム蓄積症には、ムコ多糖症I型(MPS I)、MPS II、MPS IIIA、MPS IIIB、異染性白質ジストロフィー(MLD)、クラッベ病、ポンペ病、セロイドリポフスチン蓄積症、テイ・サックス病、ニーマン・ピック病AおよびB型、ならびに上記に列挙したその他のリソソーム疾患が含まれるが、それらに限定されない。特定の好ましい実施形態では、酵素は、α−L−イズロニダーゼ、イズロネート−2−スルファターゼ、ヘパランN−スルファターゼ、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ、アリールスルファターゼA、ガラクトシルセラミダーゼ、酸性−α−グルコシダーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、ヘキソサミニダーゼα、酸性スフィンゴミエリナーゼ、α−ガラクトシダーゼなどのリソソーム蓄積酵素、または任意の他のリソソーム蓄積酵素である。
【0060】
さらに好ましい実施形態では、治療すべき疾患はMPS Iであり、補充される酵素はイズロニダーゼである。当業者であれば、イズロニダーゼを含む組成物を知っているが、例えば、米国特許第6,585,971号;米国特許第6,569,661号;米国特許第6,524,835号;米国特許第6,426,208号;第6,238,662号;米国特許第6,149,909号を参照されたい。上記特許の各々は、本発明の方法において使用できるイズロニダーゼ組成物の教示を提供するために、参照して本明細書に組み込まれる。イズロニダーゼは、さらにALDURAZYME(商標)として市販でも入手できる。イズロニダーゼは、動物起源から単離されている天然型イズロニダーゼであってよい、または上記に参照した特許に記載された代表的方法によって生成される、組換え生成イズロニダーゼであってよい。一部の実施形態では、イズロニダーゼは、哺乳類細胞(上記の特許に記載のように)または植物細胞(米国特許第5,929,304号に記載のように)中で組換え生成されてよい。
【0061】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、リソソーム蓄積症を発現している個体の髄膜および/またはニューロン組織中でのリソソーム蓄積顆粒を減少させる。このためある意味では、本発明は、リソソーム蓄積症を有する被験者の髄膜および/またはニューロン組織のサイズを減少させるステップを含み、前記方法は、リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を前記被験者へ髄腔内投与するステップを含む。他の実施形態では、本発明はさらにまた、リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物の髄腔内投与を被験者へ提供するステップにより、前記被験者におけるリソソーム蓄積症関連性高血圧性水頭症を減少させる方法に向けられる。好ましくは、該酵素はイズロニダーゼである。これらの状況における治療有効量のイズロニダーゼは、リソソーム蓄積顆粒における検出可能な減少を生じさせる、髄膜および/またはニューロン質量を減少させる、リソソーム障害関連性水頭症などに罹患している個体の髄膜中に存在するCSFに関連した腫脹を減少させるあらゆる量のイズロニダーゼである。被験者の髄膜が腫脹しているかどうかを決定する方法は当業者に周知であり、例えばCATスキャンを含んでもよい。
【0062】
特定の実施形態では、本明細書で考察する髄腔内投与は、動物のニューロン、神経膠細胞もしくはその他の脳組織中におけるリソソーム蓄積顆粒の結果として生じる症状を治療するために使用される。該蓄積顆粒は、前記疾患に罹患している被験者の発達において発達遅延および/または退行として現れる。本明細書で意図された治療方法を用いたこれらの症状およびその緩和は、運動指数および発達指数を監視するステップを含む例えば乳児発達用ベーリー尺度II(Bayley’s Scales of Infant Development II)を用いて臨床的に評価することができる。発達は、さらに言語もしくはその他の知識および運動の発達を監視するステップによって評価することもできる。治療が発達遅延および/または退行に及ぼす作用を評価するためには、聴覚などの誘発電位試験または他の誘発電位試験もまた使用できる。
【0063】
本発明の他の実施形態は、クモ膜顆粒の近位の脳脊髄膜内の蓄積顆粒の存在によって惹起される高血圧性水頭症の治療を意図している。そのような治療は、腰椎穿刺および/または脳室内カテーテルを介してCSF圧を決定するための当分野において認められている方法を用いて監視および評価することができる。本発明の治療レジメンの結果としてのCSF圧における解放もしくは低下は、本発明の治療有益性であると見なされるであろう。
【0064】
本発明の治療方法はさらに、C1−C5での脊髄の近位もしくは脊髄に沿ったいずれかの場所での脳積髄膜内でのリソソーム蓄積の作用を改善することに向けられる。該蓄積により、CSFの高血圧に関連している症状およびさらに脊髄圧迫に関連している他の症状が生じる。該蓄積により、下肢衰弱、腸および膀胱の制御消失ならびに感覚欠損を伴う進行性圧迫性脊髄圧迫が生じる。そのような症状は、例えば異常なバビンスキー反射、深部腱反射、運動機能もしくは感覚についての神経学的検査を用いて監視することができる。脊髄圧迫の神経生理学的欠損は、体感覚性誘発電位を用いて評価できる。あるいは、造影剤を使用する、もしくは使用しない磁気共鳴イメージングを用いると、圧迫の解剖学的位置ならびに圧迫部位での浮腫もしくは脊髄損傷の他の指標の評価を同定することができる。CSFによって加えられた高圧は、頭痛、浮腫などの生理学的発現を導くであろう。治療レジメンの投与の結果として観察されるCSFによって加えられる圧力の減少、浮腫の減少、または神経生理学的欠損、腱反射、運動機能もしくは感覚における任意の改善は、本発明の方法の治療的に有益な作用であると見なされるであろう。被験者に対して、詳細には脊髄圧迫に関連する下肢衰弱、腸および膀胱の制御ならびに感覚欠損における改善レベルについて監視することができる。
【0065】
脳血管の周囲でのリソソーム蓄積顆粒の血管周囲蓄積は嚢胞を生成することができる。そのような嚢胞およびそのような嚢胞に対する本出願の治療レジメンの有効性は、そのような嚢胞のサイズおよび数を決定するためにMRIスキャンを用いてさらに評価することができる。嚢胞のサイズおよび/または数における減少は、本発明の方法の治療的に有益な作用であると見なされるであろう。
【0066】
本発明の治療レジメンの結果としての、CSF圧の解放もしくは減少、嚢胞のサイズおよび/または数の減少、またはリソソーム蓄積顆粒の存在によって惹起された任意の他の症状の減少は、本発明の治療的に有益な作用であると見なされるであろう。そのような減少は、好ましくは投与前のそのような症状のレベルと比較しておよそ少なくとも5%である。当然ながら、より大きな減少、例えば10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%以上が好ましいであろう。最も好ましくは、症状は、性別、年齢および身体的特徴などの正常被験者において観察される同一指数から被験者における症状を識別可能にできるような程度まで減少/改善される。
【0067】
動物モデルにおける評価方法
本発明の方法は、当業者において知られているリソソーム蓄積症のモデルを用いて評価することができる。例えば、MPS Iのイヌモデルは、以下に記載する実施例において記載のように使用できる。MPSの他のモデルもまた使用できる。多数の前臨床試験は、所与の疾患に対してはマウスモデルに基づいている。そのようなモデルの1つは、両親が常にGusmPs/aであり、子孫がmps/a、a/aもしくはmps/mpsの対立遺伝子の組み合わせを有していた繁殖コロニーのためのGusmPs/a子孫を生成するためにコンジェニック系統B6Gusa(Pfister et al.(1982)Biochem Genet 20:519−535)を用いてオリジナルのC57BL/6(B6)バックグラウンド(Jackson Laboratory,Bar Harbor,Me.,USA)におけるGusmPs/+マウスの異種交配を詳述している米国特許第6,582,692号の実施例1に記載されたMPSモデルである。GUS活性についてのパラメータは、上記特許において記載のように監視することができる。
【0068】
本発明の方法を評価するために有用である可能性があるまた別のモデルは、イズロニダーゼ欠損症についてのトランスジェニックマウスモデルである米国特許第6,002,067号に例示されているモデルである。当然ながら、当業者であれば、本発明の方法を評価する際に使用できる他のモデルを知っているであろう。前記方法がそのような動物モデルにおいて評価されると、前記方法は霊長類および好ましくはヒト被験者などの他の哺乳動物被験者を治療するために容易に規模が拡大され、適合させられる。
【0069】
MPS疾患の最も劇的な特徴の1つは、組織切片の顕微鏡検査によって明白になる、大きな、細胞質蓄積液胞の外観である(Vogler et al.(1990)Am J Pathol 136:207−217)。MPSマウスモデルを用いる1つの実施例では、イズロニダーゼもしくは生理食塩液単独のいずれかを含む組成物が髄腔内注射されたMPSマウスは投与4週間後に屠殺、下記のとおりに組織学的に検査される。マウスは、頸椎脱臼によって屠殺され、左室を介して、最初は食塩液、次は10%中性緩衝ホルマリンを用いて直ちにかん流される。内臓を露出させて固定した動物は、次に組織病理学的評価の前にホルマリン中へ浸漬させられる。選択された組織は、ルーチン技術を用いて処理され、パラフィン中に包埋され、約5ミクロンに切片作製され、ヘマトキシリンおよびエオシンを用いて染色され、そして顕微鏡で検査される。詳細には、動物の髄膜細胞および/またはニューロン細胞についてのそのような組織病理学的評価を実施するのが望ましい。
【0070】
MPSコントロール動物からの脳切片は、髄膜および/またはニューロン細胞中での中等度から重症の拡散性細胞質液胞形成を示すはずである。処置されたマウス由来の該細胞は、正常組織構造を生じさせる蓄積液胞の実質的減少を有する。
【0071】
脳内の蓄積顆粒の存在を評価するために、マウスは頸椎脱臼によって屠殺され、脳は切除され、半球は10%中性緩衝ホルマリン中で固定された。5μM切片は、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)を用いて染色された。
【0072】
上述のように、新生児および成熟動物はどちらもイズロニダーゼの髄腔内投与により処置することができる。マウスモデルでは、注射時点に3日齢の新生児マウスおよび例えば7〜13週齢の成熟マウスを0.01μgから約5μgの酵素により処置することができる。用量は、イヌなどのより大きな哺乳動物のために必要とされる用量の1000分の1であると思われることを留意されたい。新生児へ髄腔内投与するためには、ハロタンの吸入によってマウスに麻酔をかけ、そして30μL食塩液(2%色素を含む)中のイズロニダーゼは30ゲージの注射針を用いて第6腰椎および第2仙椎の間に注射できる。脳脊髄液腔内への導入の成功は、脊髄から伸びて脳内へ拡散する緑色線条として直ちに検出される。成体へ髄腔内投与するためには、MPSマウスにavertin(トリブロモエタノール)で麻酔をかけ、個々の脊椎の位置を見ることができるように脊椎へ平行に1cmの皮膚切開部を作製した。次に2%色素を含むイズロニダーゼを一番下の胸椎と第2腰椎との間に注射することができる。
【0073】
処置後の増加する時点に、マウスを屠殺し、組織をイズロニダーゼレベルについて分析した。イズロニダーゼ酵素の治療レベルは、蓄積液胞における検出可能な減少を生じさせた任意のレベルとしてスコア付けした。当然ながら、上記のモデル試験は、本明細書で以下の実施例に記載した他の代表的モデル試験とともに、単なる例として提示したものであり、これらのモデル試験は、本発明の範囲から逸脱せずに容易に修飾することができる。
【0074】
改良された取り込みを促進するための酵素の修飾
本発明の方法では、好ましくは、髄腔内投与により被験者に投与される酵素が、脳細胞の表面上の高親和性取り込み受容体によって容易に取り込める成分を含む酵素であることを保証することができる。例えば、そのような受容体はマンノース−6−リン酸受容体であってよく、該酵素は一酵素に付き平均しておよそ少なくとも20%までのビス−ホスホリル化オリゴ糖を含む。他の実施形態では、該酵素は、酵素に付き10%、15%、18%、20%、25%、30%、35%、40%、45%のビス−ホスホリル化オリゴ糖を含んでもよい。そのようなビス−ホスホリル化オリゴ糖は該酵素上に天然に存在していてよいが、酵素がそのようなオリゴ糖を有するように修飾されてよいことに留意されたい。例えば、当業者であれば、UDP−GlcNAcからリソソーム酵素上のα−1,2−結合マンノースの6’位置へのN−アセチルグルコサミン−L−リン酸の移動を触媒できる酵素を知っている。そのような酵素を生成および使用するための方法および組成物は、各々が参照して本明細書に組み込まれる、例えばCanfield et al.の米国特許第6,537,785号、および米国特許第6,534,300号によって記載されている。
【0075】
他の実施形態では、本発明において使用するためのリソソーム酵素は、脳細胞上に存在する可能性があるLRP受容体へ選択的に結合するRAPおよびRAPポリペプチドへコンジュゲートすることができる。したがって、これらのRAP分子は、血液脳関門を越えるリソソーム酵素の輸送を増加させるため、および/またはCNS内の細胞のリソソームへ薬剤を送達するために機能するであろう。それに付着したRPA成分を含む酵素組成物を調製するための方法および組成物は、各々が参照して本明細書に組み込まれる2002年7月25日に出願された米国特許出願第10/206,448号、および2003年6月20日に出願された米国特許出願第10/600,862号に記載されている。
【0076】
さらにまた別の実施形態では、当業者は、各々参照して本明細書に組み込まれる、例えば、米国特許第6,455,494号および第5,981,194号に記載されたメラノトランスフェリン(p97)へコンジュゲートした酵素の送達を使用することができる。当然ながら、脳組織への治療薬の送達および/または取り込みを強化する上述の薬剤は単なる例示であり、当業者であれば、類似の状況において脳−CSF界面またはBBBさえ越えて治療薬を送達するために使用できる他の受容体、リガンドまたは他の物質を知っているであろう。
【0077】
被験者を酵素補充療法へ寛容化させるための併用療法
組換えタンパク質および他の治療薬などの物質の投与中は、被験者は、これらの物質に対する免疫応答を開始する可能性があり、これにより、結合して治療活性を抑制するだけでなく急性もしくは慢性免疫学的応答を誘発する抗体が産生されることが見出されている。この問題は、タンパク質が複雑な抗原であり、そして多くの場合に、該被験者が免疫学的に該抗原投与を受けていないために、タンパク質である治療薬にとって最も重要である。そこで、本発明の所定の態様では、治療酵素を摂取している被験者を酵素補充療法に対して寛容化させることが有用かもしれない。この状況では、酵素補充療法は、寛容化レジメンとの併用療法として被験者に投与することができる。
【0078】
本出願人らの共同所有の同時係属米国特許出願第10/141,668号(参照して本明細書に組み込まれる)は、免疫寛容誘導を用いるリソソーム蓄積障害の治療を開示している。つまり、そのような寛容化レジメンの使用は被験者が酵素補充療法に対する免疫応答を増加させ、それによって酵素補充療法の潜在的に有益な作用を減少させる、さもなければ無効にさせるのを防止するために有用なことがある。
【0079】
好ましい方法では、本発明は、イズロニダーゼがクモ膜下投与される場合に、ムコ多糖症I型(MPS I)を治療するために使用される組換えヒトα−L−イズロニダーゼに対する臨床的に重大な抗原特異的免疫応答を減少もしくは防止することを意図している。本方法は、週1回の低用量イズロニダーゼの髄腔内注入と併用した、サイクロスポリンA(CsA)などのT細胞免疫抑制剤およびアザチオプリン(Aza)などの抗増殖剤の初期30〜60日間レジメンを使用する。イズロニダーゼの週1回の注入に対する典型的な強度のIgG応答は、週1回の低用量rhIDUの髄腔内注入と併用して、免疫抑制剤であるサイクロスポリンA(CsA)およびアザチオプリン(Aza)の60日間レジメンを使用すると大きく減少する、もしくは防止される。そのような寛容化レジメンを使用すると、イズロニダーゼに対する抗体力価の上昇を生じさせずに、またはリソソーム蓄積症に対する酵素補充のために使用できるいずれか他の酵素を必要とせずに、6カ月までより高い治療量のイズロニダーゼに対して被験者を寛容にさせることが可能であろう。そのような寛容化レジメンは、参照して本明細書に組み込まれる米国特許出願第10/141,668号に記載されている。
【0080】
医薬上許容される製剤の髄腔内投与
上述のように、本発明は、リソソーム蓄積症に対する酵素補充療法の髄腔内投与を使用する治療有効性についての驚くべき発見に基づいている。1つの実施形態では、前記酵素は、被験者の中枢神経内、例えば被験者の脳脊髄内液への導入によって投与される。本発明の所定の態様では、前記酵素は、髄腔内、例えば腰椎領域内、または小脳延髄槽内もしくは脳室腔内へ脳室内投与される。
【0081】
当業者であれば、治療組成物の髄腔内投与を実施するために使用できる器具を知っている。例えば、治療は髄膜癌腫症のための薬物を髄腔内投与するために一般に使用されるオマヤレザバー(Ommaya reservoir)を使用して実施されてよい(Lancet 2:983−84,1963)。より詳細には、本方法では、脳室用チューブが前角に形成された穴を通して挿入され、頭皮下に据え付けたオマヤレザバーへ接続され、そしてレザバー内に注入される補充される特定酵素を髄腔内送達するためにレザバーが皮下穿刺される。個体へ治療用組成物を髄腔内投与するための他の器具は、本明細書に参照して組み込まれる米国特許第6,217,552号に記載されている。あるいは、薬物は例えば単回注射、もしくは持続注入によって髄腔内投与されてよい。投与治療は、単回投与もしくは複数回投与の形態であってよいと理解されたい。
【0082】
本明細書で使用する用語「髄腔内投与」は、穿頭孔または大槽穿刺もしくは腰椎穿刺などを通しての側脳室内注射を含む技術(それらの内容が参照して本明細書に組み込まれる、Lazorthes et al.Advances in Drug Delivery Systems and Applications in Neurosurgery,143−192およびOmaya et al.,Cancer Drug Delivery,1:169−179に記載されている)によって被験者の脳脊髄液内へ医薬組成物を直接送達することを含むことを意図する。用語「腰椎領域」は、第3および第4腰椎の間の領域(腰)、およびより包括的には、脊椎のL2−S1領域を含めることが意図されている。用語「大槽」は、頭蓋と脊椎上部との間の開口部を通る小脳の周囲および下方の腔への入口を含むことが意図されている。用語「脳室」は、脊髄の中心管と連続している脳内の窩洞を含むことが意図されている。上記で言及した部位のいずれかへの本発明による医薬組成物の投与は、組成物の直接注射によって、または注入ポンプの使用によって達成できる。注射のためには、本発明の組成物は溶液中で、好ましくはハンクス液、リンガー液もしくはリン酸緩衝液などの生理的に適合する緩衝液中で調製することができる。さらに、酵素は、固形で調製でき、使用直前に再溶解もしくは懸濁させることができる。凍結乾燥形もまた含まれる。注射は、例えば、酵素のボーラス注射もしくは持続注入(例、注入ポンプを用いて)の形態であってよい。
【0083】
本発明の1つの実施形態では、酵素は、被験者の脳内への側脳室注射によって投与される。注射は、例えば被験者の頭蓋に作製した穿頭孔を通して行われてよい。また別の実施形態では、酵素および/または他の医薬調製物は、被験者の脳室内への外科的に挿入されたシャントを通して投与される。例えば、注射は、より大きな側脳室内へ行うことができるが、第3および第4の小さな脳室内への注射でも行うことができる。
【0084】
さらにまた別の実施形態では、本発明において使用される医薬組成物は、被験者の大槽内、または腰椎領域内への注射によって投与される。
【0085】
本発明の方法のまた別の実施形態では、医薬上許容される調製物は、医薬上許容される調製物が被験者へ投与された後の少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間以上の期間にわたる被験者への持続性送達、例えば本発明において使用される酵素もしくは他の医薬組成物の「持続放出」を提供する。
【0086】
本明細書で使用する用語「持続性送達」は、本発明の医薬組成物のインビボでの投与後のある期間に渡る、好ましくは少なくとも数日間、1週間もしくは数週間の持続的送達を含めることが意図されている。本組成物の持続性送達は、例えば、酵素の経時的な持続性治療作用によって証明できる(例、酵素の持続性送達は、被験者における持続的に減少した量の蓄積顆粒によって証明できる)。あるいは、酵素の持続性送達は、経時的なインビボでの酵素の存在を検出するステップによって証明することができる。
【0087】
本発明の方法において使用される医薬調製物は、リソソーム蓄積疾患の酵素補充療法に使用するための治療有効量の酵素を含有する。そのような治療有効量は、所望の結果を達成するために、必要な用量および期間にわたり有効な任意の量である。好ましい実施形態では、本組成物は治療有効量のイズロニダーゼを含む。治療有効量のイズロニダーゼは、被験者の疾患状態、年齢、および体重、ならびに酵素が(単独で、もしくは1種以上の他の物質と併用して)被験者における所望の応答を引き出す能力などの因子にしたがって変動する可能性がある。投与レジメンは、最適治療応答を提供するように調整できる。治療有効量は、治療的に有益な作用が組成物の毒性もしくは有害な作用を上回る量でもある。イズロニダーゼの治療有効濃度についての非限定的範囲は、0.001μg(酵素)/mLから約150μg(酵素)/mLである。用量値は軽減すべき状態の重症度に伴って変化させてもよいことを留意されたい。いずれか特定の被験者については、特定投与レジメンは、個々の必要および酵素補充療法を投与するもしくは投与を監督する人の専門的判断によって経時的に調整すべきであること、そして本明細書に記載の用量範囲は代表例に過ぎず、本発明の範囲もしくは実践を限定することは意図されていないことを理解されたい。
【0088】
酵素組成物は、好ましくは単回注射剤状である。そのような注射剤を調製するために使用できる担体もしくは希釈剤の例には、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシイソステアリルアルコールおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの希釈剤、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよびリン酸ナトリウムなどのpH調整剤もしくは緩衝液、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸およびチオ乳酸などの安定剤、塩化ナトリウムおよびグルコースなどの等張剤、塩酸プロカインおよび塩酸リドカインなどの局所麻酔薬が含まれる。さらに、通常の可溶化剤および鎮痛剤もまた添加できる。注射剤は、当業者には周知の手法にしたがって、酵素もしくは他の有効成分へそのような担体を添加するステップによって調製できる。医薬上許容される賦形剤についての徹底的な考察はREMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub.Co.,N.J.1991)から入手できる。
【0089】
医薬上許容される調製物は、水性溶剤に容易に懸濁させ、従来型の皮下注射針を通して、または注入ポンプを用いて導入することができる。導入前に、調製物は、好ましくはγ放射線もしくは電子線滅菌を用いて滅菌することができる。
【0090】
本発明の方法において使用するためのキット
本発明の方法において利用される物質はキットに入れて提供することができ、そのキットはさらに取扱説明書を含むことができる。そのようなキットは、通例は宿主に投与するために適合する用量および形態でリソソーム蓄積症の治療において使用するための酵素を含むであろう。本キットは、通例は、酵素を髄腔内送達するための器具を含むであろう。本キットは、投与のために適合する形態にあるT細胞免疫抑制剤をさらに含んでいてよく、そしてその薬剤の血中レベルを監視するため、および/またはT細胞活性の抑制を測定するためのアッセイ用試薬をさらに含んでもよい。抗増殖剤もまた、投与のために適合する形態で含まれてよい。
【0091】
キットは、寛容原組成物を生成するための、抗原、詳細にはポリペプチド抗原を高取り込み成分へコンジュゲートさせるためにも提供されてよい。例えば、上述のように、糖を結合するために適合するリンカーおよびポリペプチドのいずれかへコンジュゲートしたマンノース−6−リン酸基などの成分もまた提供されてよい。高取り込み成分は、適合するリンカー、および取扱説明書と組み合わせて、非コンジュゲート形態で提供されてもよい。
【0092】
また別のキットは、治療用組成物に加えて、本発明の治療用組成物を髄腔内投与するための取扱説明書を含んでもよい。一部の実施形態では、本発明のキットは、本発明の治療用組成物が事前に装填されている、酵素補充療法を髄腔内投与するためのカテーテルもしくはその他の器具を含んでもよい。例えば、医薬上許容される調製物中に0.001mg、0.005mg、0.01mg、0.015mg、0.02mg、0.03mg、0.04mg、0.05mg、0.06mg、0.07mg、0.08mg、0.09mg、0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、もしくは1.0mg以上のイズロニダーゼが事前に装填されているカテーテルが特に意図されている。リソソーム蓄積症において使用するための他の酵素もまた、髄腔内投与用の事前に装填されたカテーテルで同様に提供することができる。代表的なカテーテルは、使用後に廃棄できる使い捨てカテーテルであってよい。あるいは、事前に装填されたカテーテルは再補充可能であってもよく、そのようなカテーテルに再補充するための適切な量の酵素を有するキットに入れて提供されてよい。
【0093】
本発明の追加の態様および詳細は、限定的ではなく例示的であることが意図されている以下の実施例から明白になるであろう。
【実施例1】
【0094】
脳への組換えヒトイズロニダーゼの直接注射を評価するためのプロトコール
当業者は、リソソーム蓄積症のために周知のイヌモデルについても知っている。1つの実施形態では、MPS Iイヌを使用して本発明の方法の有効性が評価される。そのような測定のためには、正常イヌおよびMPS Iイヌを同時に評価するのが望ましい。以下の実施例では、本明細書に記載の方法に結び付けて使用するための代表的プロトコルを提供する。
【0095】
正常イヌの脳への酵素透過を評価するために、正常ビーグル犬(例、最初の計画時は2匹であるが、4匹まで可能)を麻酔および無菌性のために準備する。側脳室内へ脳室カテーテルを留置して、オマヤレザバーもしくは同等の器具を埋植する。CSFレザバーおよび腰椎カテーテルもまた腰椎領域内に埋植することができる。開存性を確証するためにCSFを抜き出す。酵素投与およびCSFサンプリングは、1匹のビーグル犬の側脳室で実施する。このビーグル犬の腰椎領域に配置したシステムは、万一最初のアクセス部位で不可逆性の問題が発生した場合のバックアップシステムとして機能する。2匹目のビーグル犬は、腰椎領域で酵素を摂取してCSFサンプリングを行なうために準備する。この2匹目のビーグル犬の側脳室に配置したシステムは、万一最初のアクセス部位で不可逆性の問題が発生した場合のバックアップシステムとして機能する。酵素は、4週間にわたり週1回の注射として投与する。イズロニダーゼのCSFクリアランスについてのPK試験は、注射の第1週および最終週での1セットの定期的サンプリングを用いて評価する。入手した全CSFサンプルを安全性、PKおよび酵素透過の薬物動態について解析する。正常ビーグル犬に脳室システムを留置する間に合併症が発生した場合は、本発明の方法は腰椎領域にのみ留置した投与システムを用いて評価することができる。したがって、酵素投与およびCSFサンプリングは腰椎領域でのみ行なう。処置の終了時には、妥当性が検証されたアッセイ法を用いてイズロニダーゼ活性を評価するために脳組織を採取することができる。脳組織は、さらに光線顕微鏡および共焦点免疫蛍光顕微鏡を用いて蓄積について分析される。脳室透過部位の近位および遠位両方の組織を酵素透過について評価することができる。
【0096】
リソソーム蓄積症のモデル動物における酵素透過を測定するために、MPS Iイヌを用いて上記のプロトコールを繰り返す。
【0097】
処置への動物の応答を評価するためには、様々なパラメータを監視することができる。ベースライン時評価を入手するには、身体状態、生命徴候および体重を評価するための臨床検査を実施するのが望ましいことがある。この評価には、好ましくは全血球算定(CBC)およびSuperchemプロファイルを決定するための臨床検査分析ならびに動物の尿分析を補うべきである。尿標本は、グリコサミノグリカンの存在について分析されなければならず、血清分析は、投与すべきイズロニダーゼの量に影響を及ぼす可能性があるので、抗イズロニダーゼ抗体の存在を評価するために実施しなければならない。血漿中イズロニダーゼ活性もまた評価しなければならない。ベースライン時評価はさらに、標準CSF検査分析(血球数、タンパク質、グルコースおよび細胞診断)のためのCSFの分析、GAG、抗イズロニダーゼ抗体についてのELISA、およびイズロニダーゼ分析も含めるべきである。CSF中に存在する細胞は、単一染色を用いて蓄積顆粒の存在について評価すべきである。これらのパラメータは、全治療期間を通して定期的に評価すべきである。分析期間の終了時には、脳組織を入手して、詳細に分析することができる。そのような分析は、イズロニダーゼアッセイおよび組織中GAGレベル測定を実施するための脳生検を含むことができる。MPS I動物の病理は、光線顕微鏡および電子顕微鏡を用いて評価することができ、そして抗イズロニダーゼ抗体を用いた共焦点免疫蛍光顕微鏡検査もまた実施できる。
【0098】
以下は、上述した評価を実施するために使用する一般的方法についての考察である。
【0099】
臨床検査:動物の身体状態を評価するために、一般身体検査では、好ましくは実験の全期間を通して1日1回ベースで姿勢、活動、態度および全体的外観を注目すべきであり、検査では特に各注射後の、動物の生命徴候(心拍数、体温、および呼吸数)に注目すべきである。成長は、定期的に体重測定を行なうことによって評価することができる。
【0100】
CSFおよび血漿中α−L−イズロニダーゼレベル:酵素レベルは、各週にCSFへ酵素を投与する直前に血漿およびCSF中で測定することができる。CSFはCSFポートの無菌調製後、無菌注射針を用いてアクセスして入手する。血液サンプル中の酵素は、10分の1量の100mM NaPO4/クエン酸塩(pH4.0)を添加することによって安定化させる。酵素は、人工基質4−メチルウンベリフェリル−α−1−イズロニドを用いる、妥当性が検証されたアッセイ法を用いてイズロニダーゼについてアッセイする。正味蛍光は365nmでの励起および440nmでの発光により蛍光分析法によって測定する。1単位のイズロニダーゼは、37℃のアッセイ条件において1分に付き開裂した基質のマイクロモル数と同等である。
【0101】
脳組織中α−L−イズロニダーゼ:酵素レベルは、入手した生検標本中で測定できる。MPS Iイヌでは、生検標本は灌流前に入手されてよい。脳サンプルは液体窒素中の標識バイアル内で急速冷凍する。解凍後、標本を直ちに計量し、3容積のPAD(10mMリン酸緩衝液(pH5.8)、0.02%アジ化物および0.1mMジチオスレイトール)+0.1% Triton X−100。組織サンプルは、氷上で最小10行程によりDounceすりガラス製ホモジナイザー中で粉砕し、ホモジネートを数秒間にわたりマイクロフュージ内で回転させることにより大きな粒子を取り除く。抽出物を急速冷凍により保存する。酵素は、人工基質4−メチルウンベリフェリル−α−1−イズロニドを用いる、妥当性が検証されたアッセイ法を用いてイズロニダーゼについてアッセイする。好ましくは、必要なアッセイ回数および希釈が必要かどうかを決定するために、パイロットアッセイを実施すべきである。正味蛍光は365nmでの励起および440nmでの発光により蛍光分析法によって測定する。1単位のイズロニダーゼは、37℃のアッセイ条件において1分に付き開裂した基質のマイクロモル数と同等である。
【0102】
GAG分析:治療の終了時には、イヌを安楽死させ、脳組織サンプルを生検により採取して、その後の組織中グリコサミノグリカン分析のために液体窒素を用いて急速冷凍されてよい。組織中GAG分析のためには、公表されたBjornssonの修正アルシアンブルー法を用いて硫酸化グリコサミノグリカンをアッセイできるであろう(Kakkis et al.,Biochem Mol Med.1996;58(2):156−67)。GAG量は、硫酸デルマタンの標準値と比較することによって決定できる。尿およびCSF GAG定量は、尿およびCSFサンプルについて実施した組織中GAG含量を定量するために使用した方法とほぼ同一の方法で実施される。
【0103】
CSF蓄積:CSFからの細胞破片は単純染色を用いて同定することができ、そして細胞をGAG蓄積について容易に評価できる。
【0104】
CSF薬物動態試験:薬物動態試験は、注射後にCSFからのα−L−イズロニダーゼのクリアランスを監視するために、酵素補充療法の第1週から最終週の間に処置された各イヌについて実施できる。脳室ポートを介してのCSFへの酵素の投与1、2、4時間後に、酵素投与と同一部位からサンプルを採取する。サンプルを抜き出し、CSFサンプルについてのセクションに記載したとおりに準備する。データは、時間対CSF中イズロニダーゼ活性としてプロットする。循環中のイズロニダーゼの半減期を測定できる。
【0105】
CBC、Superchemプロファイルおよび尿分析:血液サンプルは、CBCおよびSuperchemプロファイルのために2週間毎に採取する。さらに試薬ストリップを用いた尿分析は、タンパク尿および血尿などの項目を監視するために新鮮尿サンプルについて2週間毎に実施する。
【0106】
α−L−イズロニダーゼ特異的抗体についてのELISA:後で実施する抗体分析のために血清サンプルを採取し、−20℃で冷凍する。イズロニダーゼに特異的な抗体は、二次抗体としてアルカリホスファターゼを用いて標識したヤギ抗イヌIgGを用いて標準ELISAプロトコルによって検出する。CSF中の抗体も同一方法を用いて測定するが、より小さい希釈率が必要になると予想される。
【0107】
送達される酵素の組成:組換えヒトα−L−イズロニダーゼは、BioMarin Pharmaceutical社によって、ヒト使用のために提供されてよい、もしくは出荷されてはいけないバルクロットから供給される。この酵素は、好ましくは酵素療法、ならびに通過開存性、活性、無菌性、および内毒素レベルを含む安全な投与のために必要とされる全ての重要な規定を満たさなければならない。本製剤は、調製緩衝液(100mM NaPO4(pH5.8)、150mM NaCl(pH5.3〜5.8))中において100,000単位/mLの酵素から構成される。
【0108】
脳室内留置用器具の配置:脳室システムによりサンプリングするための手順については記載されている(McCully et al;Poplack et al;Moir and Dow et al;Kusumi and Plouffe;Haslberger and Gaab)。これらの一部は脳への外傷を生じさせ、送達システムの精確なポジショニングを許容しない。本発明者らは、研究者が複数の無菌CSFサンプルを入手すること、または最小量のトランキライザーを用いて抑制されている麻酔を施していない動物のCSF内への複数回の注射を実施することを可能にする技術を使用する。この方法は、側脳室内ならびに腰椎領域の髄腔間隙内への留置用カテーテルの配置を含む。
【0109】
本明細書で考察する実施例では、動物、例えば2匹の正常雄性成熟実験用飼育ビーグル犬およびムコ多糖症I型を有する2匹の雄性イヌを使用する。イヌにアトロピン(0.045mg/kg)を投与し、効果が出るまで滴定した静脈内プロポフォール(1〜6mg/kg)を用いて麻酔を誘導する。これらのイヌに気管内挿管し、酸素を用いるイソフルラン麻酔で維持し、正常体温を維持するために手術中には加熱パッド上に配置する。体液を維持するためには生理食塩液を投与する。感染症を防止するために、術前および術中には抗生物質を投与してよい。
【0110】
イヌは、気道が開存したままであることを保証するために頭部を支持しながら腹臥位に配置する。後頭および背部中線の毛を刈り取り、外科的にスクラブ洗浄し、ドレーピングする。全方法を通して、無菌技術およびルーペによる拡大を使用する。カテーテルの適切な長さは、最初から2個の頸椎(C1およびC2)の太さ、C2からの距離および脳槽までの距離を測定することによって事前に決定する。カテーテルおよびレザバー(死腔)の容積を充填するために必要な液体量を計算する。
【0111】
大後頭孔、C1と後頭との接合部、および環椎後頭膜を露出させるために後頭突出部から背部中線に沿って中線上で皮膚を切開する。皮下筋肉を鮮鋭に解剖し、頚索を分割する。エアドリルおよびスカルペルを用いてC1のposteruir ekenebts内に小さな栓穴を作製し、クモ膜下槽に進入させるために硬膜内に2mmの水平スリットを作製する。外科用フックを用いて、スタイレットを含有する事前に測定した長さの穿孔Spetzler腰椎用シリコンカテーテルを脳室腔内へねじ入れ、開存性を確証するためにCSFを抜き出す。カテーテルは、レザバーの近くで筋肉に固定する。バイポーラ電気焼灼装置を用いて止血を実施する。オマヤレザバーを収容するために、後頭領域に皮下帽状腱膜下嚢を作製する。このレザバーは、非吸収性縫合糸を用いて前頭頭蓋骨膜に固定する。カテーテルの残りの外部部分を皮下ポケットへ伸長させ、金属製ステップダウンコネクタを用いてカテーテルをオマヤレザバーへ取り付け、絹縫合糸を使用すると確実に接続することができる。
【0112】
カテーテルの開存性を測定するために、1ccシリンジへ固定した25ゲージ、5/8インチの注射針を用いて、カテーテルおよびレザバーの結合死腔をちょうど越える少量のCSFを静かに抜き出す。レザバーは、非吸収性縫合糸を用いて前頭頭蓋骨膜に固定する。システムを漏れについて試験し、手術部位は切断した3.0のVicryl縫合糸を用いて解剖学的層内で閉鎖する。次に皮膚をナイロン縫合糸で閉鎖する。
【0113】
CSFの抜き取りまたはレザバー内への注射は、1ccシリンジへ固定した25ゲージ、5/8インチの注射針を用いて、無菌技術(皮膚の外科的スクラブおよび無菌グラブの着用)を用いて実施する。CSFは静かにかつ着実に抜き取らなければならない。
【0114】
術後、イヌを監視し、イヌが立って、食べ、そして飲むことができるようになるまで必要に応じて静注点滴を実施する。不快感を緩和するためには必要に応じて鎮痛用ブプレノルフィン(12時間間隔で0.01mg/kg)を投与することができる。抗生物質は、術後10日間にわたり投与されてよい。イヌは、1日1回臨床的に検査すべきである。
【0115】
開存性を維持するために、システムは週1回フラッシュすべきである。これは、CSFのサンプリングおよび酵素の投与を可能にするであろう。酵素を投与する、またはCSFを抜き取るために、イヌは0.1mg/kgのアセプロマジンを用いて抑制し必要に応じて増量する。レザバー上方の皮膚から毛を刈り取り、外科的にスクラブ洗浄する。無菌グラブを装着し、耳の後方でレザバーの位置を決定し、1mLシリンジへ取り付けた25ゲージの注射針を用いて挿入する。外因性汚染を最小限に抑えるために、皮膚穿刺の領域から数ミリメートル離れた場所でレザバーのドームを穿刺するためには特別の注意を払わなければならない。カテーテルにレザバーを加えた容積に等しい容積のCSFを抜き出し、シリンジを取り外して、その内容物を押し出すことによって廃棄する;次に、所望量のCSFを抜き取る、またはレザバー内へ酵素を投与する。酵素を投与する場合(18,000単位/mL CSF)、カテーテルおよびレザバーの死腔容積に同等量の生理食塩液を用いて酵素を「追い出す」のが好ましい。これは、酵素が脳室システム内へ直接的に投与されることを保証する。CSFサンプリングおよび酵素投与は、カテーテルの取り付けについて上記で考察したように持続する。
【0116】
組織分析のためには、8週間にわたる酵素療法後に、イヌに過量のペントバルビタールナトリウムを用いて深部麻酔(足指ピンチおよび眼瞼反射の消失)を施し、ヘパリン化食塩液を用いて心臓内をフラッシュする。前頭領域に小さな頭蓋開口部を作製し、脳の小切片を除去する。次に、4%パラホルムアルデヒドを用いてイヌの心臓内に灌流させる。
【0117】
上記の全処置プロトコル中、酵素投与中および酵素投与の直後におけるアナフィラキシー反応の徴候についてイヌを厳密に監視しなければならない。反応の徴候には、落ち着きのなさ、被刺激性、もしくは極度の静止などの挙動変化、ならびに嘔吐、排便、および粘膜における退色が含まれる。これらの症状もしくはその他の有害症状のいずれかが発生したら、投与を停止しなければない。ジフェンヒドラミンを投与し、その後に食塩液ドリップおよび酸素の投与を続ける。反応が沈静化したら、注入を継続してよい。
【0118】
さらにまた体外に置かれたカテーテルに起因する感染症についてイヌを監視し、適切な手段(カテーテルの抜去、感染の局所的制御、全身性抗生物質)によって治療する。脳室炎などの感染症が発生したら、感染症がゲンタマイシンを用いて適正に治療されるまで、酵素療法は延期する。
【0119】
以下の実施例では、上記の実施例で記載した方法の一部または全部を用いてMPS I動物へのイズロニダーゼの髄腔内投与について実施した試験の結果について説明する。
【実施例2】
【0120】
脳室内注射を介して投与された酵素は血液脳関門を透過し、脳組織中で検出される。
リソソーム蓄積障害を有する被験者の脳内におけるリソソーム蓄積誘発性損傷部位への酵素の直接的投与は、現時点では困難であることが証明されている。これらの疾患を治療するために必要とされる大きな酵素複合体は、典型的には血液脳関門を透過することができない。脳−CSF界面を越えてこれらの酵素を引き入れるために有効な方法を決定するために、リソソーム蓄積障害であるMPS Iのラットおよびイヌモデルにおいて2種の酵素投与経路について試験した。
【0121】
酵素を脳室内投与するために、定位固定誘導を用いて、5〜10μLの組換えヒトイズロニダーゼ(rhIDU)もしくはコントロールタンパク質のどちらかをラットの側脳室へ注射した。注射24時間後に動物を致死させ、脳切片を入手した。
【0122】
脳切片は、抗イズロニダーゼ抗体を用いて共焦点顕微鏡を使用してrhIDUの存在について分析した。免疫組織化学的分析は、注射された酵素が脳ニューロンに取り込まれたこと、そしてさらにイズロニダーゼがニューロン細胞内のリソソームへ局在することを証明した。抗IDU染色は、この酵素が数ミリメートルにわたり脳組織を透過することを示しているが、酵素勾配は減少しており、これは注射部位から遠くへ離れるほど、脳内で検出される酵素が少なくなることを意味している。染色は、さらにこの酵素の半減期がおよそ7日間であることも示した。
【0123】
脳切片は、rhIDU活性についても分析された。
【実施例3】
【0124】
髄腔内注射を介して投与された酵素は脳組織へ透過し、脳組織中で検出される。
リソソーム蓄積障害に関係する酵素の髄腔内注射が血液脳関門を効果的に、または脳室内注射と比較してより効果的に横断できるかどうかを判定するために、CSFの髄腔内注射をイヌ被験者において実施した。
【0125】
動物(n=2/群)に、クモ膜下槽内への注射を介して、0.33mg、1mg、もしくは3mgの総タンパク質含量を含む、1ccのrh−イズロニダーゼを投与した。このプロトコルを計4週間にわたり、週1回繰り返した。分析のための脳切片は、最終注射48時間後に採取した。分析のために、脳の右半分は頭側方向に切片作製し、別々の切片を酵素活性、脳中での酵素の免疫組織化学的定位および脳切片中のグリコサミノグリカン含量について分析した。脳の左半分は冠状方向に切片作製し、光線顕微鏡および電子顕微鏡によってアッセイした。
【0126】
髄腔内注射後における被験者の脳内酵素レベルの分析(図1)は、0.33mgのイズロニダーゼが投与された動物が、コントロール動物(平均値、65±28単位/mg(タンパク質))と比較して脳内酵素の5倍の増加を示し、1mg/注射を受けた動物が酵素の7倍の増加を示すが(平均酵素レベル89±62単位/mg)、他方3mg(酵素)/注射を受けた動物は酵素レベルの17倍の上昇を示し、平均イズロニダーゼレベルがおよそ224±32単位/mgであることを証明した。したがって、被験者に投与するイズロニダーゼの用量を増量すると、脳内で検出されるイズロニダーゼのレベルが増加する。
【0127】
類似の実験において、6匹のイヌを4週間にわたり1週1回、クモ膜下槽を介して投与される低用量(0.46mg/注射)、中用量(1.08/1.38mg/注射)および高用量(4.14mg/注射)のrh−イズロニダーゼにより処置し、最終投与の48時間後に脳のイズロニダーゼ含量をアッセイした(詳細な用量については表1を参照)。各用量レベルで髄腔内注射を受けた2匹のイヌを、2匹の非処置正常イヌにおけるイズロニダーゼ酵素レベルと比較した。IT処置イヌは、低用量、中用量、および高用量各々について、非処置もしくは溶剤処置動物の5.6、7.5および18.9倍の酵素レベルを有していた(表1)。酵素の矯正濃度が正常値の2〜5%と低いことを前提にすると、これらのレベルは必要とされる酵素の矯正レベルより極めてはるかに高い濃度を表していた。
【0128】
【表2】

【0129】
rh−イズロニダーゼのレベルを酵素0.33mg、1mgもしくは3mgのいずれかが投与された動物の深部の脳および表面の脳組織においても測定した(図2)。同様に、分析結果は、酵素の用量が高用量であるほど、脳組織中で検出されるイズロニダーゼの量が多くなることを証明しており、3mg/注射群は深部の脳組織中で5倍の増加を示した。脳組織の表面で測定したイズロニダーゼは、0.33mg(タンパク質)/注射を受けた動物において8倍の差で検出されたが、3mg/注射を受けた動物は、正常コントロールと比較してイズロニダーゼの表面発現において27倍の増加を示した。そこで、イズロニダーゼの大半は表面の脳組織上で検出されるが、有意な量が深部脳組織内へ透過し、これはこのタイプの治療が深部脳組織のリソソーム蓄積障害における酵素投与にとって有用な療法であることを示唆している。低用量、中用量、高用量が各々0.46mg;1.08/1.38mg;および4.14mgであった追加の実験は、深部脳標本がこれらの各用量で正常活性の2.7、4.4および5.9倍の活性を有することを証明した。
【0130】
共焦点顕微鏡による免疫組織化学的分析は、皮質表面ならびに海馬の内側細胞上で大量のrh−イズロニダーゼを検出できることを証明した。詳細には、記憶に関係する脳の部分である海馬内の神経膠細胞が有意な量の酵素を取り込んだ。染色もまた、この酵素が脳内に拡散し、一部の神経膠細胞が抗イズロニダーゼを用いると明るく染色することを証明した。これ以降の試験でMPS Iイヌを処置するためにはおよそ1mgの用量を選択したが、これはより高用量が脳の深部領域内での実質的により高いα−L−イズロニダーゼを生じさせないためである。
【0131】
これらの結果は、rh−イズロニダーゼの髄腔内注射が血液脳関門を越えてタンパク質を投与するための効率的方法を提供することを示している。このタンパク質は、髄腔内注射がリソソーム蓄積障害に関係する酵素を輸送するための効果的な手段であることを示している実施例2で証明されたように、脳細胞の表面上および脳細胞のリソソーム内の両方において検出可能であり、髄腔内投与することができ、前記疾患に罹患した被験者に治療有益性を提供できることを証明している。
【実施例4】
【0132】
Rh−イズロニダーゼの髄腔内注射はMPS Iの症状を改善する
最初の実験は、髄腔内注射を介して投与されたイズロニダーゼが血液脳関門を効果的に横断し、脳皮質細胞表面上におけるニューロンのリソソーム内で有意な量で検出でき、さらに深部の脳組織中に透過できることを証明した。これらの結果に基づくと、脳の機能を損傷させるリソソーム蓄積障害を酵素補充療法の髄腔内注射によって治療できる可能性が高いと思われる。
【0133】
リソソーム蓄積障害に関係する酵素の髄腔内注射の有効性を評価するために、リソソーム蓄積障害MPS Iに罹患した、および酵素イズロニダーゼが欠損しているイヌ被験者をrh−イズロニダーゼの髄腔内注射によって処置した。脳および中枢神経系組織内のイズロニダーゼレベルは処置4週間後に評価した。
【0134】
上述のように、1mgのrh−イズロニダーゼ/注射の用量を選択した。MPS Iに罹患した動物4匹は、4週間にわたり週1回の髄腔内注射を介して1mgのrh−イズロニダーゼ/注射により処置し、最終処置投与の48時間後に酵素レベルを測定した。髄腔内注射は、脳、脊髄、および髄膜内へのこの酵素の広範な分布を生じさせた。MPS I動物における酵素活性の検出により、コントロール群と比較してこれらの動物におけるイズロニダーゼレベルの平均21倍の上昇が明らかになった。MPS I動物の深部の脳および表面の脳組織における酵素活性の分析は、酵素活性における各々平均11倍および37倍の上昇を示した。
【0135】
また別の1組の実験では、4匹の処置群イヌにおける全脳中酵素活性が、非処置正常イヌにおける11.9単位/mgの平均レベルと比較して平均277単位/mgに達し、平均すると正常イヌの23倍となり、その範囲は正常レベルの17〜34倍であった。正常イヌの場合と同様に、α−L−イズロニダーゼ活性は、その内部領域より脳の表面における方が高かった(3〜4倍)(474.0±257.7対138.7±93.5)。それでも、深部の脳におけるレベルは正常イヌと比較してまだ11倍であった。
【0136】
タンパク質の髄腔内投与は、全中枢神経系を浸すCSF内へタンパク質を直接に配置するので、この経路を介して注射された任意のタンパク質はCNSの全領域で検出できる可能性が高い。上記で使用したMPS I動物を使用して、実施例1で上記の処置群動物の脊髄および髄膜内でのイズロニダーゼの存在を評価した。
【0137】
脊髄および髄膜サンプルをMPS I動物から入手し、上述のようにイズロニダーゼ活性(頸椎、胸椎および腰椎領域の平均値)を測定した。MPS I動物におけるイズロニダーゼ活性の脊髄中濃度は、コントロール群動物と比較して平均13倍高かったが、他方MPS I動物の脊髄膜内での酵素レベルはおよそ300倍高かった。反復実験において、髄腔内投与処置したMPS Iイヌにおける脊髄中rh−イズロニダーゼレベルは平均160単位/mgに達した、もしくは11.7単位/mgの正常レベルの約13倍に達した(p=0.022、表2)。酵素の透過は腰椎におけるより頸椎および胸椎領域における方が良好であったが、これはおそらく大槽注射部位からの酵素の分布が不完全なためであった。処置MPS IイヌにおけるRhIDUレベルは、頸椎内では正常イヌの17倍、胸椎内では18倍、そして腰椎内では約5倍であった。脊髄膜内では、rh−イズロニダーゼレベルは平均4,780単位/mg、または15.4単位/mgの正常レベルより300倍以上に達した(p=0.0018、表2)。平均して最小レベルの酵素透過を示した動物においてさえ、髄膜内でのイズロニダーゼレベルは2,160単位/mgまたは正常レベルの140倍に達した。
【0138】
【表3】

【実施例5】
【0139】
イズロニダーゼの髄腔内処置はMPS I動物におけるGAGレベルを減少させる
MPS Iなどのリソソーム蓄積障害を含む被験者の衰弱における重大な要素は、細胞のリソソーム内のグリコサミノグリカンの蓄積を生じさせる高分子崩壊の欠如である。髄腔内注射を介する酵素補充療法はGAGの崩壊を強化し、GAGレベルを正常個体に匹敵するレベルへ復帰させると仮説を立てた。
【0140】
組換えイズロニダーゼ処置がMPS I被験者におけるGAG蓄積を改善する能力を試験するために、上述のように処置したMPS Iイヌをグリコサミノグリカンの脳リソソーム中レベルについてアッセイした。rh−イズロニダーゼを摂取したMPS I動物における脳中レベルは正常もしくは正常レベル以下へ減少したが、非処置MPS I動物は正常被験者のレベルのほぼ2倍のGAGレベルを示した。脊髄膜内で測定したGAGレベルは非処置MPS I動物においては正常レベルの7倍であったが、髄腔内イズロニダーゼを摂取したMPS I動物においては正常レベルの57%から3倍へ減少した。
【0141】
rh−イズロニダーゼを用いた髄腔内もしくはIV(単回ボーラス、週1回ボーラス、月1回ボーラス、年4回ボーラス、6カ月毎に投与するボーラス、年1回ボーラス、あるいは持続的投与のいずれか)処置を受けたMPS I処置動物においてもGAGレベルを比較した(図4)。IVイズロニダーゼ処置を受けたMPS I動物におけるGAGレベルは、非処置MPS I動物において観察されたレベルと類似であるか、またはわずかに高かった(それぞれ約8μg/mgと比較して、約10μg/mg)。イズロニダーゼの髄腔内投与は脳中GAGレベルを正常以下へ低下させ、これは約4μg/mg(タンパク質)もしくは非処置MPS I動物と比較して2倍未満を示した。
【0142】
また別の実験では、さらにまた処置MPS Iイヌの脳におけるrh−イズロニダーゼ活性の正常レベルに比した数倍の増加は、非処置コントロールMPS Iイヌと比較してGAGレベルの有意な減少をもたらし、正常GAGレベルに達することも同様に証明された(表3)。rh−イズロニダーゼにより髄腔内処置されたMPS Iイヌの脳内のGAGの平均レベルは、非処置MPS Iイヌについての8.26±1.23μg/mgと比較して4.47±0.69μg/mgであった(p=0.0017)。髄腔内注射されたイヌの脳内GAGレベルは、非処置正常イヌのレベルと統計的有意に相違しなかった(5.43±1.95、n=8、p=0.37)。髄腔内処置されたMPS Iイヌにおける脳中GAGレベルもまた、rhIDUのIV注入による以前の試験で処置されたMPS Iイヌにおけるレベルより相当に低かった(10.4±2.14、n=12、表3)。年齢の上昇は蓄積の増加を生じさせる可能性があるので、脳中GAG含量についてもコントロール群、IV処置群およびIT処置群のイヌについてイヌの年齢に対してプロットした。このプロットはさらに、匹敵する年齢のコントロール群とIV−処置群のイヌを比較したときに、IT処置群のイヌについて全GAGの正常化を確証している。
【0143】
髄膜中GAGレベルについても、頸椎、胸椎および腰椎領域由来のサンプル中で分析した(表3)。総合すると、IT処置群のイヌの平均脊髄膜中GAGレベルは、非処置群のイヌの平均35.9μg/mgと比較して57%である15.3μg/mg(範囲:9.33から22.5μg/mg)へ減少した。これは、非処置MPS Iイヌにおける正常値の7倍のレベルから処置群動物における正常値の3倍への減少を表しており、統計的有意であった(p=0.009)。頸椎および胸椎髄膜からのサンプルは、しばしばより遠位の腰椎髄膜より良好なGAGクリアランスを有した。IT処置MPS Iイヌの脊髄中での平均総GAGレベルは非処置MPS Iイヌについての5.04μg/mgと比較して3.43μg/mgへ減少したが、総レベルは相当に低く、その変化は統計的有意ではなかった。
【0144】
【表4A】

【表4B】

【0145】
これらの結果は、MPS Iの髄腔内処置が、組織中リソソーム内での高分子蓄積などのこれらのリソソーム蓄積障害において衰弱させる蓄積を減少させるための効率的手段であり、GAGレベルを減少させることに関してイズロニダーゼ酵素補充療法の標準的IV投与より効果的であることを証明している。
【実施例6】
【0146】
髄腔内rhIDU投与後のリソソーム性病理的状態の減少
イヌMPS Iでは、脳組織学検査で最も顕著なリソソーム蓄積は、血液脳関門によって血流から分離されている脳毛細血管の近位に存在する血管周囲間葉細胞内に存在する。MPS I罹患動物における蓄積症の程度を決定するために、脳組織中へのGAG沈着物を検出するために電子顕微鏡によって病理学的分析を実施した。MPS I動物を、上記の実施例1に記載のように、週1回1mgのイズロニダーゼ(4×)により処置した。
【0147】
血管周囲マクロファージ疾患を含む非処置MPS I動物から採取した組織は周皮細胞における明白なGAG蓄積を示しているが、他方処置動物はGAG蓄積を伴わず、蓄積血管周囲の間隙を示している(図5および図6)。MPS I動物におけるニューロン疾患病理の分析は、非処置動物がGAGおよびガングリオシドの層状蓄積を示すが、他方イズロニダーゼ処置動物は高分子の蓄積をほんのわずかしか伴わずに密な顆粒を示すことを明らかにしている(図7)。電子顕微鏡写真では、非処置MPS Iイヌにおけるニューロン内の蓄積の総量は超微細構造的に少量であった。処置MPS Iイヌでは、膜結合、顆粒状、綿状、膜性、細胞質性およびゼブラ小体ニューロン蓄積が減少した。しかし、処置MPS I動物において高電子密度の複雑なリポフスシン様物質の凝集物は残留したままであった。処置もしくは非処置MPS I動物における髄膜疾患について評価した脳切片は、非処置動物の髄膜内での大きな泡沫細胞の存在を証明したが、他方イズロニダーゼ処置動物の髄膜にはGAGを含有するうっ積性泡沫細胞が見られなかった(図8)。MPS I処置動物の脳切片は髄膜内へのわずかなリンパ球性浸潤を示した(図9)。そこで、髄腔内処置MPS Iイヌは、脳の表面および脳の深部領域の両方において血管周囲細胞蓄積の劇的な減少を示した(図5および6)。GAG蓄積は、さらにまた髄腔内処置MPS Iイヌの脳の神経膠細胞内でも減少した。新皮質GAG蓄積における局所的減少は、IT処置MPS Iイヌ4匹中3匹においても見られた。GAG蓄積は、トルイジンブルー染色した厚切り切片上で処置動物の脊髄膜内でも減少した。脊髄膜泡沫細胞は、非処置MPS IイヌにおけるよりrhIDUによって処置した4匹のMPS Iイヌの方が所見されることが少なかったが、クリアランスパターンにはある程度のむらが見られた。
【0148】
全体の表示は、イズロニダーゼの髄腔内投与は、処置された被験者の脳および髄膜についてのグリコサミノグリカンのクリアランスを促進し、正常被験者において観察されるレベルへ減少させることである。さらにまた、酵素の髄腔内送達は髄膜内へのリンパ球浸潤を引き起こし、おそらくは不適切な物質の蓄積を取り除くことに有効である免疫応答を発生させることも観察された。リソソーム蓄積障害の臨床症状についての分析は、MPS I動物の髄腔内イズロニダーゼ処置が脊髄圧迫誘発性衰弱を減少させ、そしてこれらの動物における眼振を消散させることを証明した。
【0149】
標準IV技術に優る髄腔内イズロニダーゼ処置の効果は、この酵素補充療法の方法がMPS I被験者の症状を緩和するために有効であり、上述した他の一般的リソソーム蓄積障害に容易に適用できることを示している。
【実施例7】
【0150】
免疫応答およびその他の有害作用
2匹のMPS IイヌおよびrhIDUにより処置された1匹の正常イヌの血清(202単位/μL)およびCSF(82.0単位/Lまで)の両方でrh−イズロニダーゼに対する中等度の抗体レベルが検出された(表4)。これらの動物全3匹は、試験に入る数カ月間前に静脈内rhIDUへ事前に曝露させた。残りの処置動物については、血清中で低レベルのrhIDUに対する抗体が検出され(試験終了時に3.61から40.9単位/μL)、およびCSF中で低レベルが検出された(1.39から2.28単位/μL)。処置イヌでは、CSF中白血球数の穏当な増加が見られた。IT rhIDUを用いて処置した全部のイヌ(正常およびMPS1)において、脊髄膜、脊髄硬膜の領域および脳の周囲でのBリンパ球、形質細胞およびその他のリンパ球の様々な蓄積が見られた。これらの硬膜浸潤は、典型的には脊髄神経根の周囲で最も強度であり、より重度に罹患した症例では、隣接する硬膜外脂肪および結合組織内に伸展していた。そのような場合の1つでは、中等度の局所性硬膜外リンパ球性動脈炎も見られた。非処置動物においては、溶剤を摂取した1匹の正常イヌを除いて、髄膜炎もしくは炎症は見られなかった。rhIDUにより処置した正常イヌ2匹は軽度の髄膜炎を発生した。CNS炎症反応の程度はイヌ間で変動し、用量関連性であるように見えた。免疫応答の臨床的に明白な作用は生じなかった。イヌは健康で活動的に見えた。
【0151】
【表5】

【0152】
タンパク質製剤の投与は、慢性抗体産生または炎症反応のいずれかの形態にある免疫応答のリスクを有する。上記から明らかなように、髄腔内rh−イズロニダーゼにより処置されたイヌにおいて免疫応答が観察された。α−L−イズロニダーゼに対する抗体は、試験に入る前に静脈内酵素へ曝露させられていた3匹のイヌの血清およびCSF中で見いだされた。リンパ形質細胞性浸潤以外には、この免疫応答の明白な臨床的有害作用は見られなかった。
【0153】
本明細書に記載のMPSおよびその他の障害に対する髄腔内処置は、有益にも送達される物質に対する免疫寛容を生じさせるレジメンと組み合わせて投与することができる。特に意図されている免疫寛容方法には、例えば各々が参照して全体を本明細書に組み込む米国特許公報第20030211113号および第20040009906号に記載された方法が含まれる。免疫寛容方法のその他の実施例は、実施例9に提供されている。
【実施例8】
【0154】
組換えイズロニダーゼを用いたMPS I被験者の処置
組換えヒトイズロニダーゼを用いたMPS Iイヌの処置の成功は、髄腔内酵素補充療法がMPS Iを含むヒト被験者の効果的治療を提供することを示唆している。
【0155】
rh−イズロニダーゼを用いてヒトMPS I患者を治療するためには、治療のためにムコ多糖症I型患者を選択する。被験者をベースライン時および6、10、14、18、22、26週間後、および少なくとも52週間後までは月1回、精密な臨床検査、腹部および脳の磁気共鳴イメージング、心エコー法、可動域測定、睡眠ポリグラフ計検査、臨床検査室評価、白血球中α−L−イズロニダーゼ活性、ならびに尿中グリコサミノグリカン排出によって評価する。被験者は、脳中のリソソーム蓄積顆粒の結果としてのCNS症状についても評価されなければならない。そのような症状には、前記疾患に罹患している被験者の発達における発達遅延および/または退行が含まれ、これらは、例えば乳児発達用ベーリー尺度II(Bayley’s Scales of Infant Development II)(運動および発達指数を監視することを含む)、言語または他の知識および運動発達を監視すること、聴覚もしくは他の誘発電位試験などの誘発電位試験を監視することを用いて臨床的に評価できる。クモ膜顆粒の近位での脳脊髄膜内の蓄積顆粒の存在によって誘発される高血圧性水頭症であるまた別の症状は、腰椎穿刺および/または脳室内カテーテルを介してCSF圧を測定するための当分野において認識された方法を用いて臨床的に監視および評価することができる。C1〜C5での脊髄の近くまたは脊髄に沿った他の場所での脳脊髄膜内のリソソーム蓄積は、下肢衰弱、腸および膀胱制御の消失を伴う進行性圧縮性脊髄圧迫として発現するので、臨床的に評価することができ、こ感覚欠損もまた監視できよう。そのような症状は、例えば異常なバビンスキー反射、深部腱反射、運動機能もしくは感覚についての神経学的検査を用いて監視することができる。脊髄圧迫の神経生理学的欠損は、体感覚性誘発電位を用いて評価できる。造影剤を用いる、もしくは用いない磁気共鳴イメージングを使用すると、圧迫の解剖学的位置ならびに圧迫部位での浮腫もしくは脊髄損傷の他の指標の評価を同定することができる。リソソーム蓄積顆粒の血管周囲蓄積は血管周囲の嚢胞の存在を決定することによって評価することができ、これはさらにまたそのような嚢胞のサイズおよび数を決定するためにMRIスキャンを用いて評価することもできる。処置の前後にこれらの症状を監視すると、治療的介入の有効性の評価が可能になる。
【0156】
イズロニダーゼは、例えば週1回送達される動物の体重20kgに付き1mgのイズロニダーゼの用量(0.1%のヒト血清アルブミンを含む正常食塩液中で希釈する)で、髄腔内注入を介して被験者に投与する。髄腔内投与は、CSF中への直接注射を介して、またはPenn et al.,(Neurosurgery.40:94−9.1997)に記載のように、腰椎クモ膜下腔内へ埋植された薬剤ポンプ、例えばMedtronic製SYNCHROMED(登録商標)ポンプもしくは髄腔内送達用の類似の器具を介して実施する。ポンプは、製造業者の取扱説明書にしたがって埋植するが、治療下の被験者もしくは疾患に対して適切なあらゆるレベルに埋植されてよい。例えば、ポンプのカテーテルチップは脊椎のT−10レベルへ配置することができる。被験者には、ジフェンヒドラミン(体重1kg当たり0.5から1.25mg)を前投薬する。
【0157】
初期の療法では、イズロニダーゼを4週間にわたり週1回罹患被験者へ投与する。投与は、治療される被験者におけるMPS I疾患の重症度ならびに被験者の年齢、体重、もしくは性別に依存して長期間にわたり継続することができる。用量および投与期間は、主治医が決定することができる。
【0158】
被験者を上述した時点での運動技能試験、GAG組織沈着物のMRI分析、および尿中のGAGレベルを用いてMPS Iの症状における変化について評価される。例えば、MPS I被験者における尿中GAGレベルは正常排出値と比較する。非処置MPS I被験者においては広範囲の尿中GAG値が存在する。rh−イズロニダーゼを用いた療法後に未分解GAGの排出における50%を超える減少は、治療に対する個体の応答を測定するための妥当な尺度である。例えば、データはMPS I被験者における治療前後の白血球中イズロニダーゼ活性および口腔中イズロニダーゼ活性を測定することで収集する。
【0159】
運動能力の上昇もしくは脳中のGAG沈着物もしくは尿中のGAGレベル減少の証拠は、rh−イズロニダーゼ処置が治療された被験者において過剰なGAGを崩壊させ、疾患の症状を緩和することに成功したという指標である。
【実施例9】
【0160】
リソソーム蓄積障害における抗原特異的寛容および髄腔内酵素補充療法
上述のように、MPS I罹患動物の髄腔内イズロニダーゼ処置は、処置された動物の髄膜内へのリンパ球浸潤を生じさせた。これは、動物に送達された大量の異種抗原の存在に対する免疫系による過剰反応に起因する可能性がある。これらのタイプの反応を克服するために、免疫系を良好に抑制するために免疫特異的寛容の方法が使用されてきた。本出願人らの共同所有の同時係属米国特許出願は、抗原特異的寛容の誘導およびイズロニダーゼ補充療法の静脈内投与を伴うMPS Iイヌを治療するレジメンについて記載している。脳内でのGAG蓄積を減少させ、そしてMPS Iの臨床症状を緩和することに髄腔内酵素投与が静脈内注射より有効であることを証明している本明細書に記載の結果に基づくと、抗原特異的寛容と結合した髄腔内注射の使用はMPS I 被験者へより大きな緩和を提供するであろう。
【0161】
治療のためにはムコ多糖症I型を有する被験者を選択する。被験者をベースライン時および6、12、14、26、および52週間後に、精密な臨床検査、腹部および脳の磁気共鳴イメージング、心エコー法、可動域測定、睡眠ポリグラフ計検査、臨床検査室評価、白血球中α−L−イズロニダーゼ活性、および尿中グリコサミノグリカン排出によって評価する。
【0162】
サイクロスポリンA(NeoralもしくはSandimmune)およびアザチオプリン(Imuran)は市販入手源から入手する。どちらの薬剤も次に記載する用量および頻度で経口投与する。CsA Neoral(登録商標)1日2回に分けて経口で毎日12.5mg/kg/日で;Aza Imuran(登録商標)2週間のコンディショニング期間にわたり1日4回経口で5mg/kg。これらの薬物は次に、寛容原の存在下でさらに2週間にわたりその用量で投与する。初回寛容原注入後の各2週間については、用量を全薬剤について半分にする。被験者を有害反応、およびCsAピークおよびトラフレベルについて監視する。CsAは、好ましくは400ng/mLより高いレベルにある。
【0163】
組換えα−L−イズロニダーゼは、バイオリアクターおよび標準カラムクロマトグラフィーを使用してチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞中で産生させ、安全性および純度について広範囲に分析する。α−L−イズロニダーゼの活性は、上記のShull et al.の方法によって、またはその結果がSI単位で報告されているアッセイ法を用いて測定する(Kakkis et al.,Mol Genet Metab.2001,72(3):199−208;Kakkis et al.,N Engl J Med.2001;344(3):182−8)。後者のアッセイを使用する場合は、1kg当たり125,000単位のα−L−イズロニダーゼの用量は1kg当たり100SI単位と同等である。尿中グリコサミノグリカン排出は、Bjomssonの方法の翻案によって測定する。α−L−イズロニダーゼに対する抗体についての酵素結合免疫吸着検定法は、Shull et al.の方法の変形を使用し、そして標準方法によってウェスタンブロッティング法を実施する。
【0164】
寛容原は、週1回送達する0.056mg/kgの用量で静脈内注入(0.1%のヒト血清アルブミンを含む生理食塩液中で希釈されている)によって投与する。イズロニダーゼへの寛容化後、酵素組成物を用いた髄腔内処置は、本明細書に記載のように影響を受ける。好ましい実施形態では、本実施例の方法を寛容原としてのrh−イズロニダーゼの1g注射を用いて月1回処置したイヌについて試験した。3カ月間にわたる4回の注射後、これらの動物の脳中でのGAGレベルは正常であると観察された。この投与プロトコルは、好ましくは1mgの注射が年4回または6カ月間毎に投与されるように有効である。
【0165】
本方法において使用するための髄腔内投与は、CSF中への直接注射を介して、またはPenn et al.,(Neurosurgery.40:94−9.1997)に記載のように、腰椎クモ膜下腔内へ埋植された薬剤ポンプ、例えばMedtronic製SYNCHROMED(登録商標)ポンプもしくは髄腔内送達用の類似の器具を介して実施する。ポンプは、製造業者の取扱説明書にしたがって埋植するが、治療される被験者もしくは障害のために適切なあらゆるレベルに埋植されてよい。例えば、ポンプのカテーテルチップは脊椎のT−10レベルへ配置することができる。初回投与は、2週間のコンディショニング期間の完了後に実施され、その後は週1回投与する。被験者には、ジフェンヒドラミン(体重1kg当たり0.5から1.25mg)を前投薬する。
【0166】
好ましくは調整期間の開始12週間後である寛容の誘導後、用量を週1回、体重1kg当たり0.58mgへ増量する。
【0167】
被験者を組換えイズロニダーゼを用いた処置後にリソソーム蓄積症に結び付いた脳疾患の症状の1つ以上の指標における変化について評価する。そのような指標には、組換えイズロニダーゼを用いた処置後の発達における変化、運動機能、CSF圧の減少、病訴もしくは検査による神経症状の減少、頸椎もしくは脊椎のMRI分析によって検査される脊髄圧迫の減少および体性感覚誘発電位の減少が含まれるが、それらに限定されない。イズロニダーゼ処置が、罹患した個体の脳および脊髄内の過剰なGAGの崩壊を増加させ、脊髄に加えられる圧力を解放することが予測される。運動能力における改善は、イズロニダーゼ処置の結果としての脊髄圧迫の減少の指標である。
【実施例10】
【0168】
他のリソソーム蓄積症の髄腔内処置
上記の方法は、あらゆるリソソーム酵素の欠損症の臨床表現型を発現しているヒト患者の治療において有用である。全被験者は、様々な程度の機能不全を伴うグリコサミノグリカンもしくは他の高分子の内臓および軟組織蓄積についての臨床的証拠を発現する。本発明の方法を用いて治療または予防できる疾患は、ムコ多糖症II(MPS II)、MPS IIIA、MPS IIIB、異染性白質ジストロフィー(MLD)、クラッベ病、ポンペ病、セロイドリポフスチン蓄積症、テイ・サックス病、ニーマン・ピック病AおよびB型、ならびに上記に列挙したその他のリソソーム疾患である。
【0169】
各疾患に対して、髄腔内酵素補充療法中もしくは寛容化レジメン中に投与される酵素は特異的化合物もしくは酵素を含むであろう。MPS IIに関する方法のために好ましい化合物もしくは酵素は、イズロネート−2−スルファターゼである。MPS IIIAに関する方法のために好ましい化合物もしくは酵素は、ヘパランN−スルファターゼである。MPS IIIBに関する方法のために好ましい化合物もしくは酵素は、α−N−アセチルグルコサミニダーゼである。異染性白質ジストロフィー(MLD)に関する方法のために好ましい化合物もしくは酵素は、アリールスルファターゼAである。クラッベ病に関する方法のために好ましい化合物もしくは酵素は、ガラクトシルセラミダーゼである。ポンペ病に関する方法のために好ましい化合物もしくは酵素は、酸性α−グルコシダーゼである。CLNに関する方法のために好ましい化合物もしくは酵素は、トリペプチジルペプチダーゼである。テイ・サックス病に関する方法のために好ましい化合物もしくは酵素は、ヘキソサミニダーゼαである。ニーマン・ピック病A型およびB型に関する方法のために好ましい化合物もしくは酵素は、酸性スフィンゴミエリナーゼである。
【0170】
これらの酵素は治療される被験者のために適切な用量で投与することができ、一般には「課題を解決するための手段」の項に記載のようにmg/kgの比率に基づいて送達する。酵素を摂取する被験者を血液および組織サンプル中での酵素レベルについて、そして治療されるリソソーム蓄積障害に特定の他の症状について監視する。例えば、異常な脂質蓄積に起因する減少した運動技能もしくはミオクローヌス発作を示すゴーシェ病(3型)を有する患者については、グルコセレブロシダーゼ補充療法の髄腔内投与後における運動技能の改善および発作頻度の減少について監視する。
【0171】
リソソーム蓄積障害において欠損している酵素の髄腔内投与後のリソソーム蓄積障害の1つ以上の症状における改善は、この投与経路がヒト被験者が罹患するリソソーム蓄積障害を治療するために新規かつ有用な方法であることを証明している。
【実施例11】
【0172】
月1回の髄腔内治療レジメン
本明細書を通して考察したように、rhIDUの髄腔内投与はCNSへ効果的に透過することが証明されている。所定の代表的試験では、髄腔内投与される約1mgのrhIDUの週1回投与がCNSへ透過し、そしてイヌムコ多糖症I型(MPS I)においてグリコサミノグリカン(GAG)蓄積を減少させることを証明している。本実施例に記載したまた別の試験は、週1回の治療よりむしろ月1回の治療の方が有効であることを証明している。
【0173】
3匹のMPS Iイヌに、週1回のIV rhIDUと併用して、約1mgのIT rhIDUの4回にわたる月1回の投与を実施した。この併用レジメンでは、イズロニダーゼレベルが、週1回髄腔内rhIDU投与だけで処置されたイヌ4匹では23倍、13倍、および300倍であるのに比して、月1回の処置を受けたイヌの脳中では正常レベルの23倍、脊髄中では7倍、そして髄膜内では423倍に達することが所見された。脳中GAGは、どちらのレジメンにおいても正常レベルに達した。月1回の処置を用いると、4匹の非処置MPS Iイヌと比較して、脳GAG蓄積における51%減少(週1回IT投与を用いた場合の46%と比較して;図10A)、脊髄中GAGの22%減少(週1回IT投与を用いた場合の32%と比較して;図10B)、および髄膜中GAGの57%減少(週1回IT投与を用いた場合の57%と比較して;図10C)が観察された。週1回IT rhIDUと比較して月1回を用いた場合のイズロニダーゼもしくはGAGレベルにおける統計的有意差は見られなかった。したがって、月1回の髄腔内投与を使用できる。
【0174】
動物を炎症反応および寛容の誘導について試験した。1匹のイヌは髄膜内でのリンパ形質細胞性浸潤ならびに血液およびCSF中での軽度の抗体反応を発生した。1匹の犬は処置開始時に神経学的徴候(下記の表を参照)を有していたが、これらの徴候は同時に週1回IV rhIDUを併用する月1回IT rhIDUの4回の投与後に改善した。
【0175】
【表6】

【0176】
2匹目のイヌは、新規方法(例えば、2002年5月6日に出願された共同所有の米国特許出願第10/141,668号および2003年5月5日に出願された第10/429,314号(各々参照して本明細書に全体として組み込まれる米国特許公報第20030211113号および米国特許公報第20040009906号)を用いてrhIDUへ寛容にされており、血液中およびCSF中において検出できる免疫応答をほとんどもしくは全く示さず、極めて軽度の髄膜炎しか有していなかった。処置されたイヌは、組織学的に減少した軟膜およびGAG蓄積を有していた。IT処置イヌにおける血管周囲細胞、神経膠細胞、および新皮質軟膜中ではGAG蓄積が目に見えて減少するという事実は、図11A(非処置群が腫脹した、泡沫性のGAG負荷細胞を示している)および11B(処置群:顕著に少ないGAG蓄積を伴う薄い細胞)に描出されている。寛容の誘導に関しては、図12A〜12Dに示したデータは、免疫抑制レジメンを用いてコンディショニングされていてrhIDUへ寛容になった動物がrhIDU療法に対してはるかに軽度の免疫応答を示すことを示している。図12Aおよび12Cは、rhIDU単独で処置した動物ではリンパ球性および形質球性浸潤が発生することを示している(図12Aおよび12c)。他方、免疫寛容を誘導するレジメンを用いてのプレコンディショニングはこの応答を大きく減少させる(図12Bおよび図12D)。
【0177】
これらの試験は、月1回のIT rhIDUが、イヌMPSの脳および髄膜中でのリソソーム蓄積を矯正する際に週1回IV rhIDUと同等に有効な可能性があることを証明している。
【0178】
上記は本発明を記載して具体的に例示しているが、添付の請求項によって規定される本発明を限定することは意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】髄腔内注射後のイヌ被験者の脳中酵素レベルを示している。
【図2】イヌにおける深部脳および表面脳組織中で測定されたrh−イズロニダーゼのレベルを記載している。
【図3】イズロニダーゼ処置MPS I動物の脊髄および脊髄膜中でのイズロニダーゼ活性のレベルを示している。
【図4】イズロニダーゼの髄腔内もしくはIV投与いずれかを受けたMPS I処置動物におけるグリコサミノグリカン(GAG)レベルの比較を示している。
【図5】イズロニダーゼ処置および非処置MPS I動物の血管周囲マクロファージ疾患における(脳切片中での)GAG蓄積の電子顕微鏡検査。
【図6】処置MPS I動物におけるGAG蓄積が見られない血管周囲細胞を示している、イズロニダーゼ処置および非処置MPS I動物の血管周囲マクロファージ疾患における(脳切片中での)GAG蓄積の電子顕微鏡拡大写真を示している。
【図7】処置動物に層状GAG蓄積が見られないことを示している、イズロニダーゼ処置および非処置MPS I動物におけるニューロン疾患病理の比較を示している。
【図8】処置動物の髄膜中で大きなGAG充填泡沫細胞が見られないことを示している処置もしくは非処置MPS I動物における髄膜疾患について評価した、コントロールと比較した脳切片を示している。
【図9】処置MPS I動物の脳切片が髄膜内へのわずかなリンパ球性浸潤しか示さないことを示している。
【図10】rhIDUの月1回対週1回の髄腔内投与の作用の比較を提供している図である。図10Aは、脳中のGAGレベルが治療により正常値へ減少したことを示している(*p=0.003)。図10Bは、脊髄中のGAGレベルが治療により減少したことを示している(p=0.22)。図10Cは、脊髄膜中のGAGレベルが治療により減少したことを示している(*p=0.02)。
【図11】非処置および髄腔内処置されたイヌ間でのGAGの比較を示している図である。GAG蓄積は、血管周囲細胞、神経膠細胞および新皮質性軟膜中では目に見えるほど減少した。非処置サンプル(図11A)は、顕著に少ない蓄積を伴う薄い細胞である図11Bに示した処置サンプルとは対照的に、泡沫性の腫脹したGAG負荷細胞を示している。
【図12】免疫寛容が髄腔内投与されたrhIDUに対する炎症性反応を減少させることを示している図である。処置されたイヌにおいてリンパ球性および形質球性浸潤が発生した(図12Aおよび12C)。免疫寛容を誘導するレジメンによるプレコンディショニングはこの反応を減少させた(図12Bおよび12D)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物においてリソソーム蓄積症を治療するための方法であって、前記リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、前記リソソーム蓄積症の症状を改善するために有効な量で前記哺乳動物の中枢神経系に髄腔内投与するステップを含む方法。
【請求項2】
前記医薬組成物が、前記哺乳動物の脳組織内に存在する蓄積顆粒の量を減少させるために有効な量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記医薬組成物が、前記哺乳動物の髄膜組織内に存在する蓄積顆粒の量を減少させるために有効な量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記症状が、病歴、理学的検査、心エコー法、心電図検査、磁気共鳴イメージング、睡眠ポリグラフ計検査、骨検索、可動域測定、角膜撮影、および皮膚生検の日常的評価を通して監視される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リソソーム蓄積症が、アスパルチルグルコサミン尿症、コレステロールエステル蓄積症、ウォルマン病、シスチン蓄積症、ダノン病、ファブリ病、ファーバー脂肪肉芽腫症、ファーバー病、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシスI/II型、ゴーシェ病I/II/III型、ゴーシェ病、グロボイド細胞白質ジストロフィー、クラッベ病、グリコーゲン蓄積症II型、ポンペ病、GMlガングリオシドーシスI/II/III型、GM2ガングリオシドーシスI型、テイ・サックス病、GM2ガングリオシドーシスII型、サンドホフ病、GM2ガングリオシドーシス、α−マンノシドーシスI/II型、β−マンノシドーシス、異染性白質ジストロフィー、ムコリピドーシスI型、シアリドーシスI/II型、ムコリピドーシスII/III型I細胞病、ムコリピドーシスIIIC型偽性ハーラーポリジストロフィー、ムコ多糖症I型、ムコ多糖症II型、ハンター症候群、ムコ多糖症IIIA型、サンフィリポ症候群、ムコ多糖症IIIB型、ムコ多糖症IIIC型、ムコ多糖症IIID型、ムコ多糖症IVA型、モルキオ症候群、ムコ多糖症IVB型モルキオ症候群、ムコ多糖症VI型、ムコ多糖症VII型、スライ症候群、ムコ多糖症IX型、多発性スルファターゼ欠損症、神経性セロイドリポフスチン蓄積症、CLN1バッテン病、ニーマン・ピック病A/B型、ニーマン・ピック病、ニーマン・ピック病C1型、ニーマン・ピック病C2型、ピクノディスオストーシス、シンドラー病I/II型、シンドラー病およびシアル酸蓄積症からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記疾患がムコ多糖症である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記疾患がムコ多糖症I型である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記リソソーム蓄積症を有する前記哺乳動物が、約50%以下の正常α−L−イズロニダーゼ活性を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記医薬組成物が、約0.001mg/kg(体重)から0.5mg/kg(体重)の用量の前記ヒトα−L−イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記医薬組成物が、少なくとも約0.01mg/kg(体重)の用量の前記ヒトα−L−イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記医薬組成物が、哺乳動物では少なくとも約0.01mg/15cc(CSF)から約5.0mg/15cc(CSF)の用量の前記ヒトα−L−イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記医薬組成物が、哺乳動物では約1mg/15cc(CSF)の用量のヒトα−L−イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記医薬組成物が、100mMリン酸ナトリウム、150mM NaClおよび0.001%ポリソルベート80を含む緩衝液中に0.58mg/mLのイズロニダーゼを含む緩衝液中で調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記医薬組成物が、少なくとも約1mg/mLの濃度でヒトアルブミンを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記医薬組成物が、約10〜50mMの濃度でリン酸ナトリウム緩衝液を含む緩衝溶液中にある、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記リソソーム蓄積障害がMPS Iであり、前記酵素が体重1kg当たり約0.5μgから約0.5mgの量で髄腔内投与される組換えイズロニダーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記組換えイズロニダーゼが、体重1kg当たり約1.0μgから100μg、2.0μgから50μg、または10μgから100μgの用量で投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記酵素が、ヒトイズロニダーゼをコードするDNA配列を用いてトランスフェクトされた培養中で哺乳動物細胞から分泌および精製されたイズロニダーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記髄腔内投与が、前記被験者における発達遅延および退行の正常化、高血圧性水頭症の減少、前記被験者における脊髄圧迫の減少、ならびに前記被験者の脳血管周囲の血管周囲嚢胞の数および/またはサイズの減少を生じさせる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
ヒト組換えα−L−イズロニダーゼを用いた前記投与するステップがリソソーム蓄積を減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記髄腔内投与が、前記医薬組成物を脳室内へ導入するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記髄腔内投与が、前記医薬組成物を腰椎領域へ導入するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記髄腔内投与が、前記医薬組成物を大槽内へ導入するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記髄腔内投与が注入ポンプの使用によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記医薬組成物が、少なくとも数日間の期間にわたり持続的に髄腔内投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記医薬組成物が、少なくとも4週間にわたり持続的に髄腔内投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記方法が、前記髄腔内投与と組み合わせて前記疾患において欠損している前記酵素を含む医薬組成物の全身投与をさらに含み、前記髄腔内投与が月1回ベースで実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記全身投与が静脈内投与である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記酵素が、前記酵素の高摂取量を促進する成分を自然に含む、または該成分と融合している、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記酵素がイズロニダーゼである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記成分が、マンノース−6−リン酸残基、RAPポリペプチド、トランスフェリンポリペプチド、およびIGF2ポリペプチドからなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記方法が、酵素補充療法の前に抗原特異的寛容を誘導するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記抗原特異的寛容が免疫抑制剤の投与を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記免疫抑制剤がサイクロスポリンAである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記抗原特異的寛容が、抗増殖剤の投与をさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記抗増殖剤が、ヌクレオチドアナログもしくは代謝拮抗物質からなる群から選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
抗増殖剤がアザチオプリンである、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
リソソーム蓄積症を有する被験者の脳細胞中でのグリコサミノグリカン(GAG)の崩壊を促進する方法であって、該方法が、該リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、該投与前に該細胞内に存在するGAGの量と比較して該脳細胞内に存在するGAGの量を減少させるために有効な量で前記被験者に髄腔内投与するステップを含む方法。
【請求項40】
前記脳細胞がニューロンである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記脳細胞が神経膠細胞である、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記脳細胞が上衣細胞である、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記脳細胞が、ニューロン、神経膠細胞、小神経膠細胞、星状細胞、乏突起神経膠細胞、血管周囲細胞、血管周皮細胞、髄膜細胞、脳室上衣細胞、クモ膜顆粒細胞、クモ膜、硬膜、軟膜および脈絡膜叢細胞からなる群の少なくとも1つから選択される脳細胞である、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記脳細胞が髄膜細胞である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記被験者が高血圧性水頭症を有し、前記投与するステップが前記被験者の髄膜組織中でのCSF液の量を減少させる、請求項39に記載の方法。
【請求項46】
前記細胞中のリソソーム蓄積顆粒の数が、前記髄腔内投与の不在下で類似細胞内に存在するリソソーム蓄積顆粒の数と比較して減少させられる、請求項39に記載の方法。
【請求項47】
前記細胞中のリソソーム蓄積顆粒のサイズが、前記髄腔内投与の不在下で類似細胞内のリソソーム蓄積顆粒のサイズと比較して減少させられる、請求項39に記載の方法。
【請求項48】
リソソーム蓄積症を有する被験者における髄膜腫脹を減少させる方法であって、該方法が、該リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、投与前の該被験者の髄膜のサイズと比較して該被験者の髄膜炎症を減少させるために有効な量で該被験者へ髄腔内投与するステップを含む方法。
【請求項49】
前記被験者がヒト被験者である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
リソソーム蓄積症に罹患している被験者における脊髄圧迫を減少させる方法であって、該方法が、該リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、該投与前の該被験者の髄膜のサイズと比較して前記被験者の髄膜炎症を減少させるために有効な量で該被験者へ髄腔内投与するステップを含む方法。
【請求項51】
前記被験者の運動技能が、前記医薬組成物の投与により前記医薬組成物の前記投与前の前記動物の運動技能と比較して改善させられる、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記被験者がヒト被験者である、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
実質的に本明細書に記載および例示したとおりである、請求項1、39、48、または50のいずれかに記載の方法。
【請求項54】
前記哺乳動物におけるリソソーム蓄積症を治療するために、該リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物の、前記哺乳動物の中枢神経系への髄腔内投与の使用であって、該髄腔内投与の使用が前記リソソーム蓄積症の症状を改善する使用。
【請求項55】
実質的に実施例を参照して本明細書に記載および例示したとおりである、請求項54に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A−12D】
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【公表番号】特表2007−504166(P2007−504166A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524936(P2006−524936)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/028135
【国際公開番号】WO2005/021064
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(502170153)バイオマリン ファーマシューティカル インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】