脳梗塞の処置のための非神経毒性プラスミノーゲン活性剤の静脈内注射
本発明は、ヒトの脳卒中を治療的に処置するための注射用治療剤を製造するための、例えば、Desmodus rotundus由来の非神経毒性のプラスミノーゲン活性化因子(DSPA)、または、特にヒトに由来する、遺伝子改変されたプラスミノーゲン活性剤の使用に関する。本発明の好ましい実施形態によれば、非毒性のプラスミノーゲン活性化因子であって、いわゆるシモゲントライアド(cymogene triade)の成分の少なくとも1つを含むものが用いられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子、特に、遺伝子改変されたプラスミノーゲン活性化因子およびDesmodus rotundusの唾液由来のプラスミノーゲン活性化因子(DSPA)を、ヒトの脳梗塞を治療するために静脈内適用することに関する。これらのプラスミノーゲン活性化因子による脳梗塞の治療は、国際特許出願第PCT/EP02/12204によって知られており、その開示内容はすべて、参照に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
(脳梗塞の臨床学的特徴および生化学)
さまざまな臨床像が、臨床症状に関連した「脳梗塞」という用語にまとめられている。それぞれの病因によって、まず、これらの臨床像は、いわゆる虚血発作と出血性発作に区別することが可能である。
【0003】
虚血性発作(虚血)は、動脈血の供給がなくなるために、脳における血液循環が低下または阻害されることを特徴とする。これは、しばしば、動脈硬化性の狭窄した血管の血栓によって、または、動脈・動脈性の個々の心臓塞栓症によって生じる。
【0004】
出血性発作は、とりわけ、動脈性の筋緊張亢進によって損傷された脳供給動脈の穿孔による。しかしながら、すべての脳の発作のうち約20%が出血性発作に起因するに過ぎない。したがって、血栓症による発作の方がずっと関連性が高い。
【0005】
他の組織の虚血と比較すると、神経組織の虚血は、影響を受ける細胞の壊死を広範に伴う。神経組織において壊死の発生率が高くなることは、新しく解明された「興奮毒性」という、複数の反応段階を含む複合的カスケードによって説明することができる。このカスケードは、酸素欠乏に見舞われると、即座にATPを失って脱分極する虚血ニューロンによって開始される。その結果、カチオンチャンネルを制御している膜結合型グルタミン酸レセプターを活性化する神経伝達物質であるグルタミン酸の後シナプス放出が増加する。しかし、グルタミン酸の放出の増加によって、グルタミン酸レセプターが過活性化される。
【0006】
グルタミン酸レセプターは、グルタミン酸がレセプターに結合することによって開く電圧依存型カチオンチャンネルを調節する。その結果、Na+とCa2+の細胞への流入が起こり、Ca2+依存型の細胞代謝の大規模な阻害が生じる。特に、Ca2+依存型異化酵素の活性化は、その後の細胞死の原因となりうる(Lee,Jin−Mo et al.,”The changing landscape of ischaemic brain injury mechanisms”;Dennis W.Zhol”Glutamate neurotoxicity and diseases of the nervous system”)。
【0007】
グルタミン酸媒介型神経毒性のメカニズムは、まだ完全に解明されていないが、脳虚血後の神経細胞死にかなりの程度寄与していることについては見解が一致している(Jin−Mo Lee,et al.)。
【0008】
(脳梗塞の治療法)
急性脳虚血の治療においては、生体機能の保全と生理的なパラメータを安定させること以外に、閉じた血管を再開させることが優先される。この再開は、さまざまな手段で行なうことができる。例えば、心臓発作後のPTCAなどのように、単なる機械的な再開は、今までのところ、満足の行く結果には至っていない。線維素溶解に成功することによってのみ、患者の健康状態を許容できるまで改善することができる。これは、カテーテルを用いる局所適用によって行うことができる(PROCAT、プロウロキナーゼを用いた研究)。しかしながら、最初に良好な結果が得られたにもかかわらず、この方法は薬品治療としてまだ公式には承認されていない。
【0009】
自然な線維素溶解は、セリンプロテアーゼであって、その不活性型前駆体から触媒作用によって生じるプラスミンの蛋白質分解活性によるものである。プラスミノーゲンの自然での活性化は、生体内で天然に存在するプラスミノーゲン活性化因子であるu−PA(ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子)およびt−PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)によって触媒される。u−PAとは対照的に、t−PAは、フィブリンおよびプラスミノーゲンと一緒にいわゆる活性化因子複合体を形成する。したがって、t−PAの触媒活性はフィブリン依存的であり、それが存在すると約550倍に増強される。フィブリン以外にフィビブリノーゲンも、程度は低いものの、プラスミノーゲンからプラスミンへのt−PAによる触媒を促進することができる。フィブリノーゲンが存在する場合には、t−PA活性は25倍増強するにすぎない。また、フィブリンの切断産物(フィブリン分解産物(FDP))はt−PAを促進させる。
【0010】
(既知の治療法)
(a)ストレプトキナーゼ)
急性脳梗塞を血栓溶解治療しようとした初期の試みは1950年代に遡る。β溶連菌由来の線維素溶解因子であるストレプトキナーゼを用いた最初の広範な臨床試験は1995年に始められたばかりである。ストレプトキナーゼは、プラスミノーゲンと一緒に、他のプラスミノーゲン分子をプラスミンに触媒する複合体を形成する。
【0011】
ストレプトキナーゼはバクテリアのプロテアーゼであって、生体のアレルギー反応を誘発しうることから、ストレプトキナーゼによる治療には重大な不利益が伴う。さらに、以前、連鎖球菌に感染して抗体の産生などがあると、患者は、いわゆるストレプトキナーゼ耐性を示すことがあり、治療がより困難になる。これに加えて、ヨーロッパにおける臨床試験(ヨーロッパ多施設急性脳梗塞治験(MAST−E)、イタリア多施設急性脳梗塞治験(MAST−I)およびオーストリア(オーストリアストレプトキナーゼ治験(AST))は、ストレプトキナーゼで患者を治療した後に死亡リスクが高まり、脳出血(大脳内の出血、ICH)のリスクがより高くなることを示した。これらの治験は早期に終了しなければならなかった。
【0012】
(b)ウロキナーゼ)
あるいは、古典的な線維素溶解因子でもあるウロキナーゼを適用することもできる。ストレプトキナーゼとは対照的に、これは、様々な身体組織の中に存在する酵素であるため、抗原特性は示さない。それはプラスミノーゲンの活性化因子であって、補助因子には依存しない。ウロキナーゼは腎臓培養細胞において産生される。
【0013】
(c)組換えt−PA(rt−PA))
血栓溶解療法に関する広範囲な実験結果が、組織型プラスミノーゲン活性化因子であって、組換えハムスター細胞で産生される、いわゆるrt−PA(欧州特許第0093619号、米国特許第4,766,075号)について利用可能である。90年代に、急性心筋梗塞を主な適応症として、t−PAを用いた世界規模の臨床試験がいくつか行なわれたが、一部理解できない矛盾した結果がもたらされた。いわゆる欧州急性脳梗塞試験(ECASS)では、脳梗塞の症状が発生した後6時間という時間枠内でrt−PAを静脈内に投与して患者を治療した。90日後に、患者の身体障害と治療とは無関係な生存率に関する指数として死亡率およびバーテル(Barthel)指数を調べた。生存率の有意な改善は報告されなかっただけでなく、有意とはいえなかったが、死亡率の増加が報告された。したがって、脳梗塞を発症した直後に各自の病歴によって個別に選抜された患者をrt−PAによって血栓溶解治療することが有利でありえると結論づけることができよう。しかし、脳梗塞を発症した後6時間という時間枠内でrt−PAを一般的に使用することは推奨されなかった。なぜなら、この時間内における適用が脳内出血(ICH)の危険を増加させるからである(C.Lewandowski C and Wiliam Barsan,2001:Treatment of Acute Stroke;in:Annals of Emergency Medicine 37:2; S.202ff.)。
【0014】
脳梗塞の血栓溶解治療も、米国における米国国立神経疾患・脳卒中研究所(National Institute of Neurologic Disorder and Stroke)によって行われた臨床試験(いわゆるNINDS rtPA脳梗塞試験)の課題であった。この試験は、症状が始まってから3時間以内のときにだけ静脈内からrt−PA治療を行った場合の効果に集中した。治療後3ヶ月後に患者を調査した。この治療法が患者の生存率に対して陽性の効果をもつことが観察されたため、著者らは、ICHの危険性がより高いことに気づいたにもかかわらず、この3時間という限られた時間枠内でのrt−PA治療が推奨された。
【0015】
さらに2つの研究(ECASS II試験:急性虚血性脳梗塞における非介入治療のためのアルテプラーゼ血栓溶解法(ATLANTIS))で、脳梗塞発症後3時間以内にrt−PA治療をしたときのプラスの効果が、6時間以内に治療したときにも繰り返されるか否かが調べられた。しかしながら、臨床症状の改善または死亡率のいくらかの減少が観察されなかったため、この問題に対する答えは肯定的とはいえない。ICHに対するリスクは依然そのままである。
【0016】
1997年に初めて出版され、2001年3月に改訂された、すべての脳梗塞試験の概説によれば、血栓溶解剤(ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、rt−PA、または組換えウロキナーゼ)による治療はすべて、血栓溶解剤を使用した場合には、死亡したか身体障害になった患者の総数は減少する一方で、脳梗塞後10日以内の死亡率を有意に高める結果となった。この効果は、主にICHによるものである。したがって、脳梗塞を治療するため広範に血栓溶解剤を使用することは推奨されなかった。
【0017】
それ以前から、脳梗塞患者は死ぬか身体障害になって生き残るか選択できるという単なる皮肉が言われていたのは、このような結果があったからである(SCRIP 1997:2265,26)。
【0018】
それにもかかわらず、今までのところ、rt−PAによる治療が、米国において食品医薬品局(FDA)によって承認された唯一の急性脳虚血治療法である。しかし、それは、脳梗塞発症後3時間以内にrt−PAを適用する場合に限られている。
【0019】
組換えプラスミノーゲン活性化因子は、現在、類似した薬品にアルテプラーゼまたはレテプラーゼ(reteplase)という名前が付けられて市販されている。後者は、半減期の短い、治療薬として活性をもつt−PA断片である。アルテプラーゼの薬用量は約70〜100mgであり、レテプラーゼでは2×560mgであるが、これらの場合、アルテプラーゼは主に点滴で適用され、レテプラーゼは、約30分間隔でボーラス注射を2回繰り返して適用される(Mutschler:”Arzneimittelwirkungen”,8th Edition,pages 512−513)。
【0020】
(t−PAの副作用)
(神経毒性および興奮毒性)
rt−PAの承認は1996年に得られた。その前の1995年に、t−PAのマイナスの副作用に関する最初の発表が知られるようになり、それらが、3時間という時間枠を外れて脳梗塞の治療に適用されたときの劇的効果に対する説明の根拠となっている。従って、海馬の小グリア細胞およびニューロン細胞が、グルタミン酸塩を介する興奮毒性に寄与するt−PAを生産する。このことは、t−PA欠乏マウスと野生型マウスのそれぞれの海馬にグルタミン酸アゴニストを注入したときの比較実験から結論されている。t−PA欠乏マウスは、外部から(くも膜下)に適用されたグルタミン酸に対して有意に高い抵抗性を示した(Tsirka SE et al.,Nature Vol.377,1995,”Excitoxin−induced neuronal degeneration and seizure are mediated by tissue plasminogen activator”)。これらの結果は、1998年になって、t−PAを静脈内注射するとt−PA欠乏マウスの壊死神経組織の量がほぼ2倍になることをWangらが証明できたときに確認された。野生型マウスに対する外部t−PAのこのマイナスの効果は、約33%にすぎなかった(Wang et al.,1998,Nature,”Tissue plasminogen activator(t−PA)increases neuronal damage after focal cerebral ischaemia in wild type and t−PA deficient mice”)。
【0021】
さらに、t−PAによる興奮毒性の促進に関するさらなる結果が、2001年の初頭にNicoleらによって発表された(Nicole O.,Docagne F Ali C;Margaill I;Carmeliet P;MacKenzie E T,Vivien D and Buisson A,2001:The proteolytic activity of tissue−plasminogen activator enhances NMDA receptor−mediated signaling;in: Nat Med 7,59−64)。彼らは、脱分極した皮質ニューロンによって放出されているt−PAが、NR1の切断をもたらすNMDA型グルタミン酸レセプターのいわゆるNR1サブユニットと相互作用しうることを証明することができた。これは、グルタミン酸アゴニストであるNMDAを適用すると、より高い組織損害を生じさせるレセプター活性を増加させる。NMDAアゴニストは興奮毒性を誘発した。したがって、t−PAは、NMDA型のグルタミン酸レセプターを活性化させることによって、神経毒性作用を示す。脳梗塞の間、罹患組織領域において血液脳関門が機能停止するため、フィブリノーゲンのような可溶性血漿蛋白質および治療的に適用されたt−PAが、神経組織と接触できるようになり、t−PAはフィブリノーゲンによる刺激を受けて、グルタミン酸レセプターの活性化を介して神経毒作用を示す。
【0022】
神経毒副作用と死亡率を高める効果があるにもかかわらず、t−PAはFDAによって承認された。これは、それ以外に無害で有効な代替物がないということによってしか説明できない、すなわち、非常に実際的な費用便益分析によるものである。したがって、安全な治療法に対する需要が依然としてある。しかし、それらが依然として血栓溶解剤に基づくものであったなら、すなわち、万が一、血栓溶解に代わるものを発見することが可能でなければ、神経毒性の問題を考慮しなければならない(例えば、Wang et al.a.a.O.;Lewandowski and Barson 2001 a.a.O参照)。
【0023】
したがって、基本的には、すべての血栓溶解剤は適合的である可能性を秘めていたが、DSPA(Desmodus rotundusのプラスミノーゲン活性化因子)など、既知の血栓溶解剤を、脳梗塞用の新薬を開発するためにさらに検討することは終わった。特に、DSPAの場合には、この医療適用に適合する可能性が以前から指摘されていた(Medan P;Tatlisumak T;Takano K;Carano RAD;Hadley SJ;Fisher M:Thrombolysis with recombinant Desmodus saliva plasminogen activator(rDSPA)in a rat embolic stroke model;in:Cerebrova Dis 1996:6;175−194(4th International Symposium on Thrombolic Therapy in Acute Ischaemic Stroke)。DSPAはt−PAに高い相同性(類似性)を有するプラスミノーゲン活性化因子である。したがって、(t−PAの神経毒性の副作用による失望に加えて、)DSPAが脳梗塞を治療するのに適した薬剤であるという期待はもうなかった。
【0024】
(代替的治療法)
代替的な治療法の検討は、現在、例えば、ヘパリン、アスピリン、または、マレーマムシ(Malayan pit viper)の毒から得られる活性物質であるアンクロド(ancrod)などの抗凝血剤に集中している。ヘパリンの効果を検討する、さらに2つの臨床試験(国際脳梗塞試験(IST)および急性脳梗塞治療におけるORG 10172の試験)が行われているが、有意な死亡率の改善または脳梗塞の予防を示していない。
【0025】
さらに新しい治療法は、血栓にも血液の抗凝固または抗凝血にも注目することなく、血液供給の遮断によって損傷された細胞の生存率を上げようと試みている(WO 01/51613A1号およびWO 01/51614A1号)。このことを実現するために、キノン、アミノグリコシド、またはクロラムフェニコールの群から選んだ抗生物質を適用する。同様の理由で、脳梗塞を発症した直後にまずシチコリンを適用させることが勧められている。身体の中で、シチコリンはシチジンとコリンに切断される。この切断産物は、神経細胞の膜の一部を形成して、損傷された組織の再生を助ける(米国特許第5,827,832号)。
【0026】
安全な治療法に関する最近の研究は、脳梗塞が致命的な結果となることの一部は、血液供給の阻害によっては間接的に引き起こされるにすぎず、直接的には、過剰活性化されたグルタミン酸レセプターを含む興奮毒性または神経毒性によるという新しい知見に基づいている。この作用は、t−PAによって増強される(上記参照)。したがって、興奮毒性を低下させようと考えることは、いわゆる神経保護剤を採用しようとすることである。それらは、神経毒作用を最小限に抑えるために線維素溶解剤とは別に、または併用して用いることができる。それらは、例えば、グルタミン酸レセプター・アンタゴニストとして直接的に、または、電圧依存的なナトリウムチャンネルまたはカルシウムチャンネルを阻害することによって間接的に興奮毒性を低下させることができる(Jin−Mo Lee et al. a.a.O.)。
【0027】
NMDA型のグルタミン酸レセプターの競合的阻害(アンタゴニスト作用)は、例えば、2−アミノ−5−ホスホノ吉草酸(APV)または2−アミノ−5−ホスホノヘプタン酸(APH)によって可能となる。非競合的阻害は、例えば、チャンネルのフェンシクリジン側に結合する物質によって行うことができる。このような物質としては、フェンシクリジン、MK−801、デキストロールフェン(dextrorphane)またはセタミン(cetamine)などがありうる。
【0028】
これまでのところ、神経保護剤による治療は、保護的作用を示すためには血栓溶解剤と併用しなければならず、期待された成功を収めていない。これは、他の物質についても同様である(図10)。
【0029】
t−PAと神経保護剤を併用しても、損傷を限定的なものにできるのみで、線維素溶解剤の神経毒性という短所などは避けることができない。
【0030】
(非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子)
脳梗塞を治療するためのプラスミノーゲン活性化因子は、その酵素活性がフィブリンによって、非常に選択的に何倍にも、すなわち、650倍以上に増加し、国際特許出願PCT/EP02/12204から知られている。なお、この文献の開示内容は、完全に参考文献に組み込まれる。
【0031】
これらプラスミノーゲン活性化因子の性質と投与は、組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)の神経毒性が、主に、脳梗塞によって脳内で起こる組織破壊の結果、血液脳関門が機能障害を起こすか破壊されて、血液中を循環しているフィブリノーゲンが脳の神経組織に浸透できるようになるという事実によるものであるとの知識に基づいている。そこでフィブリノーゲンがt−PAを活性化し、それが、グルタミン酸レセプターを活性化させたり、プラスミノーゲンを活性化させたりすることによって、間接的にさらなる組織損傷をもたらすのである(下記参照)。
【0032】
この作用を防ぐためには、フィブリンに対して高い選択性を示し、その逆の結果として、フィブリノーゲンによって活性化される可能性が低いプラスミノーゲン活性化因子を適用する。それによって、これらのプラスミノーゲン活性化因子は活性化されないか、または、t−PAに較べれば、血液脳関門が損傷された結果神経組織内の血液からフィブリノーゲンが浸透してきても、大きさと不可溶性によって活性化因子であるフィブリン神経組織に入り込むことはできないため、プラスミノーゲン活性化因子は非常に低度にしか活性化されないはずである。したがって、これらプラスミノーゲン活性化因子は非神経毒性である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0033】
(a)遺伝子改変されたプラスミノーゲン活性化因子)
本発明の好ましい実施形態によれば、非毒性のプラスミノーゲン活性化因子であって、いわゆるシモゲントライアド(cymogene triade)の成分の少なくとも1つを含むものが用いられる。同等のトライアドは、アスパラギン酸194、ヒスチジン40およびセリン32の相互作用するアミノ酸からなるキモトリプシンファミリーのセリンプロテアーゼの触媒活性中心から知られている。しかし、このトライアドは、セリンプロテアーゼ同様キモトリプシンファミリーに属するt−PAには存在しない。それにもかかわらず、上記アミノ酸の一つ以上を適当な位置に導入する目的で、天然型t−PAを部位特異的に変異誘発すると、フィブリン存在下でプロ酵素(一本鎖t−PA)の活性が低下し、成熟酵素(二本鎖t−PA)の活性が上昇することが知られている。したがって、トライアドの、または、トライアド中でそれぞれの機能をもつアミノ酸のアミノ酸を一つ以上導入すれば、t−PAのシモゲン性(すなわち、成熟酵素とプロ酵素の活性の比率)を上昇させることができる。その結果、フィブリンの特異性が顕著に高まる。これは、導入されたアミノ酸残基および/または野生型配列のアミノ酸残基との立体構造的な相互作用によるものである。
【0034】
Phe305をHisで置換し(F305H)、Ala292をSerで置換(A292S)することによって天然型t−PAを変異誘発すると、F305H変異体のみではすでに5倍高いシモゲン性が導かれるのに対して、シモゲン性が20倍高くなることが知られている(EL Madison,Kobe A,Gething M−J; Sambrook JF,Goldsmith EJ 1993:Converting Tissue Plasminogen Activator to a Zymogen:A regulatory Triad of Asp−His−Ser;Science:262,419−421)。フィブリン存在下で、これらのt−PA変異体は、それぞれ、30,000倍(F305H)および130,000倍(F305H,A292S)の活性増加を示す。また、これらの変異体は、プラスミンによってAug275−Ile276の切断部位で切断されるを防げるためにArg275からR275Eへの置換を含み、それによって、一本鎖t−PAは二本鎖型へと変化する。変異部位R275Eだけで、t−PAのフィブリン特異性は6,900倍増加する(K Tachias,Madison E L 1995:Variants of Tissue−type Plasminogen Activator Which Display Substantially Enhanced Stimulation by Fibrin,in:Journal of Biological Chemistry 270,31:18319−18322)。
【0035】
t−PAの305位および292位は、キモトリプシン性セリンプロテアーゼの既知のトライアドのHis40およびSer32と相同である。ヒスチジンとそれぞれにセリンを導入する対応する置換によって、これらのアミノ酸は、t−PAのアスパラギン酸477と相互作用できるようになり、t−PA変異体中に機能的なトライアドを生じさせる(Madison et al.,1993)。
【0036】
これらのt−PA変異体は、フィブリン特異性が高くなるため、神経毒性を全く示さないか、野生型t−PAに較べて有意に低い神経毒性を示す。上記t−PA変異体F305H;F305H;A292Sを、単独またはR275Eと組み合わせて開示する目的で、本発明者らは、Madison et al.,(1993)およびTachias and Madison (1995)という刊行物を参照して本明細書に組み入れる。
【0037】
プラスミノーゲン活性化因子のフィブリン特異性を高めることは、あるいはAsp194(または、相同位置)における点変異によっても実現させることができる。プラスミノーゲン活性化因子は、キモトリプシンファミリーのセリンプロテアーゼ群に属しているため、成熟プロテアーゼの触媒活性立体構造の安定性に関与する保存アミノ酸であるAsp194を含む。Asp194は、セリンプロテアーゼのシモゲン型におけるHis40と相互作用することが知られている。切断によってシモゲンが活性化されると、この特異的相互作用が阻害され、Asp194の側鎖が、Ile16と新たな塩橋を形成するために約170°回転する。この塩橋は、成熟セリンプロテアーゼの触媒中心のオキシアニオン(oxyanione)ポケットの安定性に必須に寄与する。これは、t−PAにも存在する。
【0038】
Asp194を置換する点変異が、セリンプロテアーゼの活性立体構造の形成または安定性をそれぞれ阻害することは明白である。それにもかかわらず、変異型プラスミノーゲン活性化因子が、それらの補助因子であるフィブリン存在下で、特に、成熟した野生型のものと比較しても有意に活性を上昇させることは、フィブリンとの相互作用によって触媒活性を促進させる立体構造上の変化が可能になるというふうにしか説明できない(L Strandberg,Madison EL,1995:Variants of Tissue−type Plasminogen Activator with Substantially Enhanced Response and Selectivity towards Fibrin co−factors,in:Journal of Biological Chemistry 270,40:2344−2349)。
【0039】
要するに、プラスミノーゲン活性化因子のAsp194変異体は、フィブリン存在下で高い活性上昇を示し、本発明によって利用することができる。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、Asp194が、グルタミン酸によって(D194E)、またはアスパラギンによって(D194N)置換された変異型t−PAが使用される。これらの変異体では、フィブリンが存在しないとt−PAの活性が1から2000倍低下するが、フィブリンが存在すると、498,000から1,050,000倍の活性上昇を達成することができる。さらに、これらの変異体は、Arg15からR15Eへの置換を含むため、プラスミンによってペプチド結合Arg15−Ile16において一本鎖t−PAが切断されるのが防止されるが、そのため、t−PAは二本鎖型になる。この変異のみでも、フィブリンによるt−PAの活性化が12,000倍に増強される。194位および15位におけるt−PA変異を開示するという理由で、Strandberg and Madison(1995)という刊行物を全面的に参照して組み入れる。
【0041】
プラスミノーゲン活性化因子のフィブリン依存性の増加も、いわゆる「自己分解ループ」に点変異を導入することによって実現することができる。この要素は、トリプシンから知られており、セリンプロテアーゼの相同部分においても見つけることでき、特に、3個の疎水性アミノ酸(Leu、ProおよびPhe)によって特徴づけられている。プラスミノーゲン活性化因子における自己分解ループは、プラスミノーゲンとの相互作用に関与する。この領域の点変異は、プラスミノーゲンおよびプラスミノーゲン活性化因子の間の蛋白質−蛋白質相互作用がそれ以上有効に形成されないという効果を持ちうる。これらの変異は、フィブリンが存在しないときにのみ機能的に関係する。これに対し、フィブリン存在下では、それらは、プラスミノーゲン活性化因子の活性上昇に関与する(K Song−Hua,Tachias K,Lamba D,Bode W,Madison EL,1997:Identification of a Hydrophobic exocite on Tissue Type Plasminogen Activator That Modulates Specificity for Plasminogen, in: Journal of Biological Chemistry 272;3,1811−1816)。
【0042】
好ましい実施形態において、420位から423位に点変異を示すt−PAが使用される。これらの残基が、部位特異的変異誘発によって置換されると、t−PAのフィブリン依存性が、61,000倍まで増加する(K Song−Hua et al.)。Song−Huaらは、L420A、L420E、S421G、S421E、P422A、P422G、P422E、F423AおよびF423Eという点変異を調べた。これらの刊行物は、本発明に係る使用を開示するために参照として全面的に組み込まれる。
【0043】
さらに有利な実施形態によれば、配列番号1(図13)に記載されたアミノ酸配列をもつ、改変されたプラスミノーゲン活性化因子が使用される。この改変されたt−PAは、以下のような自己分解ルーブ中の420位から423位の疎水性アミノ酸を交換しているという点で野生型のt−PAと異なる:His420、Asp421、Ala422およびCys423。このt−PAは、優先的に、194位にフェニルアラニンを含む。さらに、275位はグルタミン酸によって占められていることがある。好適には、194位がフェニルアラニンによって占められている。
【0044】
さらに、改変されたウロキナーゼを本発明によって使用することができる。本発明に係るウロキナーゼは、自己分解ループの疎水性アミノ酸がVal420、Thr421、Asp422およびSer423で置換されている配列番号2(図14)に記載されたアミノ酸配列を含むことができる。好適には、ウロキナーゼはIle275およびGlu194をもっている。この変異体は、野生型のウロキナーゼと比較して、500倍高いフィブリン特異性を示す。
【0045】
変異型ウロキナーゼおよびt−PAは、ともに半定量試験で分析され、野生型t−PAに較べて高いフィブリン特異性を示した。
【0046】
(b)Desmodus rotundus由来のプラスミノーゲン活性化因子(DSPA))
吸血コウモリ(Desmodus rotundus)の唾液由来のプラスミノーゲン活性化因子(DSPA)も、フィブリン存在下で、非常に高い活性、具体的には100,000倍の増加を示す。したがって、本発明によって優先的に使用することができる。DSPAという用語は、4種類の異なったプロテアーゼであって、Desmodus rotundusに必要な機能を充足させるもの、すなわち、獲物の傷口からの出血を長引かせるプロテアーゼを含む(Cartwringht,1974)。これら4つのプロテアーゼ(DSPAα1、DSPAα2、DSPAβ、DSPAγ)は、互いに、およびヒトt−PAに高い類似性(相同性)を示す。また、それらは、類似した生理活性を示し、総称であるDSPAに一般的に分類された。DSPAは、欧州特許第0352119A1号ならびに米国特許第6,008,019号および第5,830,849号に開示されているので、開示の目的で、その全文を本明細書に参照してと組み込む。
【0047】
今までのところ、DSPAαがこの群で一番よく解析されているプロテアーゼである。それは、既知のヒトt−PAのアミノ酸配列に対して72%よりも高い相同性をもつアミノ酸配列を有する(Kraetzchmar et al,1991)。しかし、t−PAとDSPAには2つの主要な相違点がある。第一に、DSPAはすべて、t−PAとは対照的に、二本鎖型に変わることはないので、一本鎖分子で完全なプロテアーゼ活性を有する(Gardell et al.,1989;Kraetzchmar et al,1991)。第二に、DSPAの触媒活性は、ほぼ完全にフィブリンに依存する(Gardell et al.,1989;Bringmann et al.,1995;Toschie et al.,1998)。例えば、DSPAα1の活性は、フィブリン存在下で、100,000倍に上昇するが、それに対し、t−PA活性は550倍上昇するにすぎない。これに対して、DSPA活性は、フィブリノーゲンによっては、それほど強く誘導されることはない、なぜなら、7から9倍の上昇しか示さないからである(Bringmann et al.,1995)。要するに、DSPAは、より強くフィブリンに依存し、フィブリンによっては550倍しか活性化されない野生型t−PAよりもフィブリン特異性がずっと強い。
【0048】
線維素溶解特性およびt−PAへの高い類似性があるため、DSPAは、血栓溶解を開発するための興味深い候補物質となっている。それにもかかわらず、DSPAを血栓溶解として治療に使用できるのは、過去、心筋梗塞の治療に制限されていた。なぜなら、t−PAがグルタミン酸に誘発される神経毒性に寄与するため、t−PAに関係するプラスミノーゲン活性化因子が急性脳梗塞の治療に当然に使用できるとの合理的な希望が存在しなかったからである。
【0049】
驚くべきことに、DSPAは、t−PAに高い類似性(相同性)を示すにもかかわらず、また、その分子の生理学的作用もかなりの程度同じであるにもかかわらず、神経毒性作用をもたない。上記の結論によって、結局のところ、DSPAを、神経組織損傷という重大なリスクを引き起こすことなく、血栓溶解剤として脳梗塞の治療にうまく使用できるかもしれないというアイデアがもたらされた。特に興味深いのは、DSPAは、脳梗塞症状を発症してから3時間以上たってからでも使用できるという事実である。
【0050】
(DSPAに神経毒性がないことの実験的証拠)
この新しい教示は、いわゆるカイニン酸モデルおよび線条体のNMDA誘導による損傷実験用モデルを用いて行われる、一方ではt−PAの、他方ではDSPAの神経変性作用のインビボにおける比較実験に基づいている。
【0051】
カイニン酸モデル(またはカイニン酸損傷モデル)は、カイニン酸型(KA型)グルタミン酸レセプター、ならびにNMDAおよびAMPAのグルタミン酸レセプターのアゴニストとしてカイニン酸を外部から適用することによって、神経毒性グルタミン酸カスケードを刺激することに基づいている。t−PA欠乏型マウスの脚(stem)を実験モデルに用いて、実験動物のカイニン酸に対する感受性が、外部t−PAを補助的に適用した後にやっと野生型マウスのレベルに到達することを示すことができた。これに対して、同じ実験条件下でDSPAの等モル濃度液を注入しても、カイニン酸(KA)に対する感受性を回復しない。t−PAの神経毒性作用は、DSPAによって誘導されるものではないと結論された。これらの結果の要約を図15(表1)に示す。
【0052】
このモデルに基づいた定量的実験によって、DSPAの濃度を10倍増加させても、KA処理に対するt−PA欠乏マウスの感受性を回復できなかったのに、10倍低いt−PA濃度では、KA誘導による組織損傷をすでにもたらしていたことが明らかになった。これによって、KA処理後の神経変性の促進に関して、DSPAは、t−PAよりも少なくとも100倍低い神経毒性能力を有するという結論が得られた(図11および12も参照)。
【0053】
神経変性の二番目のモデルでは、NMDA依存性真剣変性の促進に対するt−PAおよびDSPAの作用と考えられるものを野生型マウスと比較した。この目的のために、NMDA(NDMA型のグルタミン酸レセプターのアゴニストとして)を、単独またはt−PAまたはDSPAのいずれかと併用して注射した。このモデルによって、神経変性、および血液脳関門の崩壊による血漿蛋白質の流入を必ずもたらす条件下でこれらのプロテアーゼの効果を比較することができる(Chen et al.,1999)。
【0054】
このモデルで研究している最中に、NMDAを注射すると、マウスの線条体に再現可能な損傷がもたらされた。t−PAとNMDAを併用して注射すると、損傷部位の量が少なくとも50%増加した。これに対して、DSPAα1を同時に注射したときには、NMDAによって起こる損傷の増加および拡大はもたらされなかった。NMDAによって誘発される損傷領域に自由に拡散することができる血漿蛋白質が存在していても、DSPAは神経変性の増加をもたらさなかった。これらの結果をまとめたものを図16に示す(表2)。
【0055】
臨床試験の最初の結果は、ヒトの脳梗塞治療にもこれらの結果を移しうることを示している。有意な改善が、灌流に成功した後に患者の中で達成されうることが発見された(8ポイントNIHSSまたはNIHSSスコアで0から1の改善)。これを図17に示す(表3)。
【0056】
さらなる実験で、静脈注射されたとき、t−PAおよびDSPAが損傷された血液脳関門を透過できるか否か、また、その結果、脳における組織損傷が増加するか否かが調べられた。この問題に取り組むため、線条体に組織損傷を生じさせるためにマウスにNMDAを定位注射した後、NMDA注射後24時間してからt−PAまたはDSPAを静脈から適用した。陰性対照と比較すると、NMDA注射後24時間してから、注入液としてt−PAを投与したとき、実験動物では、NMDAに誘導された損傷組織領域の約30%の増加が示された。これに対して、DSPAで同様に処理すると、抗体染色の方法によって損傷組織領域への浸透が検出されたが、組織損傷のこのような増加は生じなかった(図18、19参照)。NMDA注射してから6時間後に同様の方法でt−PAまたはDSPAを静脈内に適用したところ、損傷された組織領域の増加はまだ検出されなかった。それによって、血液脳関門が、t−PAまたはDSPAを注射した時点では、まだ充分な関門として機能していたことを説明できる。
【0057】
これらの結果は、DSPAが、哺乳動物の(したがって、ヒトの)中枢神経系においてはほとんど不活性のプロテアーゼを構成し、t−PAとは対照的に、KAまたはNMDAによって誘発される神経毒性の増強作用を生じさせることを示している。この神経毒がないことが、一般の予想に反して、DSPAをして、急性脳梗塞の治療に適した血栓溶解剤とならしめている。
【0058】
(非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子の治療能力)
DSPA、およびその他の非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子に神経毒性がないこと(上記参照)は、これらのプラスミノーゲン活性化因子の使用が、野生型のt−PAとは対照的に、脳梗塞発症後最長でも3時間という短い時間に制限されないという、脳梗塞の治療における利点を提供する。それどころか、興奮毒性反応を刺激するリスクがほとんどないため、遅くなっても、例えば、6時間以上経過した後でも治療を開始することができる。DSPAによる最初の臨床試験で、脳梗塞症状が発現してから6から9時間にわたる時間的範囲でも、患者を安全に治療できることが証明される。
【0059】
非神経毒性活性化因子によって、時間的な制限なしに治療できるという選択肢が特に重要である。なぜなら、それによって、急性脳梗塞症状のある患者を、診断が遅れた場合や、充分な確実性をもって脳梗塞の発症時期を判定できない場合でも安全に治療することが初めて可能になるからである。先行技術において、この患者群は、不利なリスク評価であったため、プラスミノーゲン活性化因子による血栓溶解療法から排除されていた。したがって、脳梗塞に対する血栓溶解剤の認可された用法に対する必須の禁忌が解消される。
【0060】
(プラスミノーゲン活性化因子の適用)
すでに確立されている脳梗塞治療剤rt−PAとは対照的に、非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子による脳梗塞治療についての可能な適用方式に関して利用可能な有効な情報はまだない。
【0061】
したがって、これらの非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子に対して有利な適用方式を提供することが本発明の目的である。
【0062】
本発明によれば、フィブリン存在下でその活性が650倍よりも高くなるプラスミノーゲン活性化因子は、脳梗塞を治療するために静脈内に適用される。
【0063】
これら非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子を、脳梗塞を治療するために静脈投与することは、すでに臨床試験で評価されているが、この臨床試験では、DSPAが、この群の線維素溶解剤の一例として、これらの患者に静脈内に適用され、それによって、些細な副作用だけが生じた。
【0064】
臨床試験のこれらの結果は、t−PAおよび他の通常の線維素溶解剤を静脈内適用することは、脳内出血という重大なリスクを伴うということが充分に知られていなかったため予想外のものであった。
【0065】
脳内出血を軽減させるために、最近では、これらの物質を、静脈内ではなく、動脈内経路によって、カテーテルを用いて血栓のすぐ近くに適用する方法を開発しようと努力が払われた。組換え製造されたウロキナーゼ(プロ−ウロキナーゼによる研究としてPROKAT)については、実用経験がすでに可能になっている。この適用方式は、投薬総量をかなり少なくできるため、用量依存的な副作用を軽減させることができ、したがって、脳内出血を抑えることも分かっている。
【0066】
しかし、動脈内適用のこれら重要な利点も、考えられる2つの欠点によって打ち消される。まず、この治療は、時間をかけて患者に準備させる必要があるが、脳梗塞治療において、わずか3時間という所定の枠のなかでそれに気づくことは可能でない。他方で、より低い総投薬量を確実に達成することができる。しかしながら、薬剤濃度を高くすれば、末端の動脈に局所的に到達する。脳梗塞の場合には、血管内皮が障壁機能に障害を起こす結果、医薬物質も局所的に高い濃度で周囲の組織に到達する。すると、望ましくない副作用が生じうる。
【0067】
それに対して、静脈内適用の場合には、静脈の血流によって医薬物質の濃度が希釈される。したがって、t−PAのように組織を破壊できる薬剤の場合には、動脈内注射は問題が多い(Forth,Henschler,Rummel,Starke:”Pharmakologie und Toxikologie”,6th Edition,1992,page 29)。
【0068】
しかし、動脈内適用を面倒にするこれらの制約、すなわち、狭い時間枠および組織損傷副作用は、本発明によって適用されるプラスミノーゲン活性化因子には当てはまらない。したがって、望ましくない短所(上記参照)があることから、動脈内適用が、原則として、非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子にとって非常に有望な適用方式を構成する。したがって、これらの薬剤を適用する好ましい方式をさがす場合には、この経路に従うべきことは明らかであったろう。
【0069】
それにもかかわらず、非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子を適用する者も、かえって問題の多い静脈内適用に依存することを選択してきたが、意外にも、それが有利であることを証明したのである。
【0070】
さらに、本発明に係る適用方式も、高い免疫原能力をもつ蛋白質を投与するために、アナフィラキシー・ショックのリスクを低減させる目的で、通常の治療行為に反して、主に、筋肉内注射または静脈点滴を利用する(Mebs:”Gifttiere”,2th Edition,2000)。
【0071】
天然の体内物質であるt−PAとは対照的に、本発明に係るプラスミノーゲン活性化因子は、動物由来の外来蛋白質(例えば、DSPAのように)か、または、その構造的な違いによって新しいエピトープを提示する遺伝子改変された体内蛋白質のいずれかである。アナフィラキシー反応という随伴する問題、特に、静脈内適用の場合に一般的に必要とされるような、高い治療投薬量を適用するときに伴う問題が、例えばストレプトキナーゼのような外来蛋白質からなる別の線維素溶解剤にも適用される。
【0072】
特に有用な実施形態において、本発明によって適用されるプラスミノーゲン活性化因子は、ボーラス注射(静脈内への迅速な注射)という方法で投与され、全治療量を含む単回静脈内迅速注射として投与することもできる。
【0073】
臨床実験を検討する中で、驚くほど低い治療量を静脈内適用しても、有利な結果が得られることが発見された。好ましい治療結果が、例えば、90μg/kgから230μg/kgの用量で得られた。ここでの特に好ましい治療結果は、62.5μg/kgから90μg/kgの用量で得られた。調査した患者において、脳梗塞か薬剤適用までにかかった時間は3〜9時間であった。適当な検査方法を用いて、治療効果の開始を決定することができた(図20および29参照)。
【0074】
他の非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子同様、DSPAは組織損傷副作用を示さない。しかし、人体に自然に存在するグルタミン酸によって誘導される組織損傷を制限するために、脳梗塞を治療するための神経保護剤と併用してそれらを適用するのが好適かもしれない。競合的または非競合的にグルタミン酸レセプターを阻害する神経保護剤を使用することもできる。有用な組み合わせは、例えば、APV、APH、フェンシクリジン、MK−801、デキストロールフェンまたはセタミンなどのような、NMDA型、カイニン酸型、またはキスカル酸型のグルタミン酸レセプターに対する既知の阻害剤との組み合わせである。
【0075】
さらに、カチオン、特にZn−イオン陽イオンは、グルタミン酸レセプターによって調節されるカチオン・チャンネルを遮断するために神経毒作用を抑制することができるため、カチオンと組み合わせることも好適であるかもしれない。
【0076】
さらに好ましい実施形態では、非神経毒性のプラスミノーゲン活性化因子を、少なくとも一種類のさらに別の治療薬または薬学的に許容できる担体と組み合わせることもできる。細胞を活性化させることによって組織損傷の抑制を補助する治療薬と併用するのが、既に損傷された組織の再生に寄与し、または、さらなる脳梗塞が発生するのを防げるのに役立つため特に好適である。好ましい例は、キノンのような抗生物質、ヘパリンまたはヒルジンなどの抗凝血剤、また、シチコリンまたはアセチルサリチル酸との併用である。
【0077】
少なくとも一種類のトロンビン阻害剤と併用することも好適であろう。優先的には、トロンボモジュリン、および、例えばソルリン(solulin)、トリアビン(triabin)またはパリジピン(pallidipin)のようなトロンボモジュリン類似化合物を使用することもできる。さらに、抗炎症物質と併用することも、白血球による浸潤に影響を与えるため好適である。
【0078】
以下に、特徴的な治療例によって本発明に係る適用方式および処方を概説する。
【実施例】
【0079】
(t−PAとDSPAの比較試験)
(A.方法)
(1.動物)
野生型マウス(c57/Black6)およびt−PA欠乏マウス(t−PA−/−マウス)(c57/Black6)(Carmeliet et al.,1994)をベルギー国ルーバン(Leuven, Belgium)のPeter Carmeliet博士から入手した。
【0080】
(2.脳組織からの蛋白質抽出)
t−PAまたはDSPAのいずれかを注入した後の脳組織における蛋白質分解活性の測定をザイモグラフ解析によって行った(Granelli−Piperno and Reich,1974)。7日間にわたって海馬に注入した後、マウスを麻酔してから、PBSで経心臓的に灌流してから脳を切除した。海馬領域を取り出して、エッペンドルフチューブに移して、プロテアーゼインヒビターを含まない0.5%NP−40溶解用バッファーの等量液(w/v)(約30−50μm)(0.5%NP−40,10mM Tris−HCl pH7.4,10mM NaCL,3mM MgCl2,1mM EDTA)中でインキュベートした。手動式のガラス製ホモジナイザーで脳抽出物をホモジナイズし、氷上に30分間放置した。そして、サンプルを遠心分離して、上清を取り出した。存在する蛋白質の量を測定し(Bio−Rad−reagent)。
【0081】
(3.プロテアーゼのザイモグラフ解析)
Granelli,Piperno and Reich(1974)の方法に従い、ザイモグラフ解析によってサンプルおよび脳組織抽出物における蛋白質分解活性を測定した。組換え蛋白質(最大100nM)または脳組織抽出物(20μg)を含むサンプルに、非還元条件下で(10%)SDS−PAGEを行った。ゲルをプレートから取り出して、1%トリトン×100で2時間洗浄してから、重合されたフィブリノーゲンおよびプラスミノーゲンを含むアガロースゲルの上に重ねた(Granelli,Piperno and Reich,1974)。このゲルを、蛋白質分解ゾーンが現れるまで加湿チャンバーにおいて37℃でインキュベートした。
【0082】
(4.t−PA、DSPAの海馬内注入およびその後のカイニン酸注射)
カイニン酸損傷モデルは、Tsirka et al.(1995)の研究に基づいていた。動物にアトロピン(4 mg/kg)を腹腔内(i.p.)注射した後、ペントバルビタール・ナトリウム(70 mg/kg)のi.p.注射によって麻酔した。その後、マウスを定位固定式の枠に置いて、100μlのPBSまたは組換えヒトt−PA(0.12mg/ml,1.85μM)またはDSPAα1(1.85μM)のいすれかを含む小型浸透圧ポンプ(Alzet model 1007D,Alzet CA.USA)を肩胛骨の間の皮下に埋め込んだ。このポンプを、無菌チューブを経由して脳カニューレに接続してから、正中部付近にある液体を導入するため、ブレグマ方向に−2.5mm、内外方向に0.5mm、また背腹方向に1.6mmという座標で頭蓋骨に作ったギザギザの開口部を通して挿入した。カニューレを所望の位置に固定して、ポンプからそれぞれの溶液を1時間あたり0.5μlという速度で、全部で7日間注入した。
【0083】
プロテアーゼを注入してから2日後にマウスを再度麻酔して、再び固定枠に置いた。その後、0.3μlのPBS中1.5nmolのカイニン酸(KA)を海馬に片側的に注射した。座標は、ブレグマ方向に−2.5mm、内外方向に1.7mm、また背腹方向に1.6mmであった。興奮毒(KA)を30秒間送達した。カイニン酸処理の後、注射針をこれらの座標にさらに2時間残して、液体が逆流するのを防いだ。
【0084】
(5.脳の処理法)
KA注射から5日後に、動物を麻酔して、30mlのPBSで、その後70mlの4%パラホルムアルデヒド溶液で経心臓的に灌流して、同じ固定液で後固定した後、30%ショ糖液でさらに24時間インキュベートした。そして、凍結ミクロトーム上で脳の冠状断面(40μm)を切り出し、チオニン(BDH、Australia)で対比染色するか、後述するような免疫組織化学的検査を行うために処理した。
【0085】
(6.海馬内における神経細胞脱落の定量)
CA1〜CA3の海馬亜領域における神経細胞脱落の定量を既述されている通りに行った(Tsirka et al.,1995;Tsirka et al.,1996)。すべての処理群から背側海馬の連続した5つの部分を、その部位が、CA注射した場所と損傷領域を実際に含むように注意しながら調製した。これらの切片の海馬亜領域(CA1〜CA3)を、海馬のカメラルシーダ画像法によってトレースした。これら亜領域の全長を、同じ倍率下で、1mm基準で比較して測定した。生きた錐体神経(正常な形態を有する)をもつ組織の長さと、神経細胞のない(細胞がなく、チオニン染色されない)組織の長さを測定した。各海馬亜領域にわたる完全な神経細胞および神経細胞脱落を示す長さを、切片の全域について平均して、標準偏差を決定した。
【0086】
(7.t−PAまたはDSPAの有無による線条体内NMDA興奮毒性損傷)
野生型マウス(c57/Black6)を麻酔して、定位固定式の枠に入れた(上記参照)。そして、左側の線条体に50nmolのNMDAを片側的に、単独、または46μMのrt−PAまたは46μMのDSPAα1と併用して注射した。対照として、t−PAおよびDSPAも単独で注射した(どちらも濃度46μM)。注射した座標は、ブレグマ方向に−0.4mm、内外方向に2.0mm、また背腹方向に2.5mmであった。溶液(すべての処置につき全量で1μl)を5分間にわたって0.2μl/分の速度で移動させ、注射後さらに2分間、針をそのままにして、液体が逆流するのを抑えた。24時間後、マウスに麻酔をかけ、30mlのPBS、その後70mlの4%パラホルムアルデヒド溶液で経心臓的に灌流して、同じ固定液で24時間後固定した後、30%ショ糖液でさらに24時間インキュベートした。そして、凍結ミクロトーム上で脳を切り出し(40μm)、ゼラチンコートしたスライドガラスにマウントした。
【0087】
(8.NMDA注射後の損傷量の定量)
Callaway et al.(2000)によって記載された方法を用いて、線条体損傷容量の定量を行った。損傷された領域にまたがる10個の連続した冠状断面を調製した。Callaway法を用いて、損傷された領域を可視化し、マイクロコンピュータ画像化装置(MCID,Imaging Research Inc.,Brock University,Ontario,Canada)によって損傷量を定量した。
【0088】
(9.免疫組織化学法)
標準的な方法を用いて免疫組織化学法を行った。冠状断面を3%H2O2および10%メタノールの溶液に5分間浸した後、5%の正常なヤギ血清中で60分間インキュベートした。切片を、星状細胞を検出するための抗GFAP抗体(1:1,000;Dako,Carpinteria,CA.,USA)、小グリア細胞を検出するための抗MAC−1抗体(1:1,000;Serotec,Raleigh,N.C.,USA)、または、ポリクローナル抗体である抗DSPA抗体(Schering AG,Berlin)のいずれかとともに一晩インキュベートした。洗浄した後、切片を、適当なビオチン化二次抗体(Vector Laboratories,Burlingame,CA.,USA)とともにインキュベートした。その後、3,3’−ジアミンベブシジン(diaminebebcidine)/0.03%H2O2で可視化するまえに、最後にアビジン/ビオチン複合体とともに60分間インキュベートした。そして、切片をゼラチンコートしたスライドにマウントして、乾燥、脱水し、パーマウントでカバースリップをのせた。
【0089】
(10.t−PAまたはDSPAの静脈内投与による、NMDA注射によって誘発される組織損傷の促進)
線条体内に組織損傷を生じさせるために、マウスを定位固定してNMDAを注射した。NMDAを注射してから6時間後、t−PAまたはDSPA(100μl;10mg/kg)を尾静脈から注射した。対照として、100μlの0.9%NaClを注射した後、PBSを注入した。28時間後、動物を殺して損傷量を測定した。
【0090】
2回目の実験では、同様に、NMDA注射の24時間後にt−PAまたはDSPAの注射液で15匹までのマウスを含む動物群に注射し、その後組織損傷を測定した。脳内にDSPAが存在することの証拠として、常法にしたがって冠状断面を抗DSPA抗体で染色した。
【0091】
(B.結果)
(1.t−PAまたはDSPAを注入すると、t−PA−/−マウスの海馬に分散し、蛋白質分解活性を保持する)
t−PAおよびDSPAがともに、7日間の注入期間の間蛋白質分解活性を保持することを確認するために最初の実験を設計した。この目的で、t−PAおよびDSPAの等量液(100nmol)を湯浴槽中37℃および30℃でインキュベートした。蛋白質分解活性を測定するために、プローブの5倍段階希釈液について、非還元的条件下でSDS−PAGEを行って、ザイモグラフ解析によって蛋白質分解活性を測定した。7日間凍結しておいたt−PAおよびDSPAの等量液を対照として使用した。図1から分かるように、この時間内では、25℃でインキュベートしても、37℃でインキュベートしても、t−PAまたはDSPAの活性はわずかに失われただけであった。
【0092】
(2.注入後t−PA−/−マウスから調製された海馬抽出物においてt−PAまたはDSPAの活性は回復される)
まず、注入を受けた動物の脳の中に注入されたプロテアーゼが存在していて、また、このコンパートメントに存在する間、蛋白質分解活性を保持していることを確認する必要があった。この点を扱うために、t−PA−/−にt−PAまたはDSPAのいずれを7日間注入した(上記参照)。そして、マウスを、PBSで経心臓的に灌流し、脳を取り出した。同側および対側にある海馬領域と、小脳の一領域(陰性対照として)とを単離した。方法の部の記載に従って、組織サンプル(20μg)に対してSDS−PAGEおよびザイモグラフ解析を行った。図2から分かるように、t−PAおよびDSPAの活性は両方とも、海馬の同側領域で検出され、一方、対側でもいくらかの活性が検出された。このことは、注入されたプロテアーゼが、脳の中で活性を保持しただけでなく、海馬領域内にさらに分散したことを示している。対照として、小脳から調製された抽出物では活性を検出できなかった。
【0093】
(3.DSPAの免疫組織化学測定)
DSPAが海馬領域に確かに分散したことを確認するために、DSPA注入後、t−PA−/−マウスの脳の冠状断面を免疫組織化学的に解析した。DSPA抗原が、海馬領域において、注入部位領域で最も顕著な染色を示して検出された。この結果は、注入されたDSPAが可溶性であり、実際に海馬に存在することが確認するものである。
【0094】
(4.DSPAの注入によって、カイニン酸によるインビボでの神経変性は回復されない)
特徴的なことに、t−PA−/−マウス徴は、カイニン酸(KA)が介在する神経変性に耐性である。しかし、rt−PAの海馬内注入によって、KA介在型損傷に対する感受性が完全に回復される。このモデルにおいて、DSPAがt−PAに代用しうるか否かを判定するために、ミニ浸透圧ポンプを用いて、t−PA−/−マウスの海馬内にt−PAまたはDSPAを注入した。両群につき12匹のマウスをテストした。2日後、動物にカイニン酸を注射して、回復させた。5日後、動物を殺して、脳を取り出して調製した(上記参照)。対照として、t−PA−/−マウスに、KA処理する前にPBSを注入した(N=3)。
【0095】
脳の冠状断面を調製して、Nissl染色によって神経細胞を検出した。図4aおよび4bに示すように、PBSを注入されたt−PA−/−マウスは、その後のKA投与に対して耐性であった。しかし、組換えt−PAを注入すると、KA処理に対する感受性が回復された。それに対して、同じ濃度のDSPAを海馬領域に注入しても、KAに対する動物の感受性は変化しなかった。
【0096】
これらの結果の定量は、各群中の12匹のマウスからデータに基づいていた。DSPAを注入された12匹のマウスのうち2匹では、軽度の神経変性が見られた。その理由は明確でないが、おそらく、DSPAが存在したこととは無関係であったろう。まとめられたデータは、これら2匹の動物の症例で見られた些細な作用も考慮している。t−PAで処理された12匹のハツカネズミはすべて、KA処理に対して感受性であった。これらの結果は、t−PAまたはDSPAα1を等モル濃度で注入した場合には、t−PAを投与した場合にだけ、KA誘導による神経変性に対する感受性が回復する結果となることを示している。
【0097】
(5.DSPA注入は、小グリア細胞の活性化をもたらさない)
t−PA注入によってもたらされた、t−PA−/−マウスのKA感受性の回復は、小グリア活性化ももたらす(Rogove et al,1999)。t−PAまたはDSPAの注入、およびその後KA処理した後の小グリア活性化の程度を測定するために、Mac−1抗体を用いて、マウスの冠状断面に対し、活性化小グリア細胞のため免疫組織化学染色を行った。t−PA注入後にKA感受性を回復した結果、Mac−1陽性細胞が明らかに増加した。これは、DSPAを注入されたマウスでは観察されなかった。したがって、DSPAが存在しても、KA処理の後に小グリア細胞を活性化させる結果とはならない。
【0098】
(6.マウスの海馬領域におけるDSPAおよびt−PAの滴定)
注入に使用したt−PAの濃度は、Tsirka et al.(1995)に記載されている濃度(0.12mg/mlを100μl[1.85μM]).10倍低いt−PA(0.185μM)および10倍高いDSPA量(18.5μM)を用いて、KA損傷実験を反復した。低t−PA濃度でも、なお、KA処理に対する感受性を回復することができた(n=3)。特に興味があるのは、10倍高いDSPA濃度を注入すると、KA処理後わずかな神経細胞脱落が起きるという発見である。これらのデータは、DSPAが、KAに対する感受性を増強させないことを強く示している。
【0099】
(7.野生型マウスにおけるNMDA依存型神経変性に対するt−PAおよびDSPAの効果)
t−PAおよびDSPAの効果も、野生型マウスにおける神経変性のモデルにおいて調べた。これらマウスの線条体にt−PAを注入すると、グルタミン酸の類似化合物であるNMDAによって引き起こされる神経変性作用が明らかにもたらされた(Nicole et al.,2001)。
【0100】
野生型マウスの線条体領域に、t−PAまたはDSPA存在下(それぞれ46μM)、総容量1μlのNMDAを注射した。24時間後、脳を取り出して、Callaway法(Callaway et al.,2000)(上記参照)によって損傷のサイズを定量した。図7から分かるように、NMDAを単独で注射すると、すべてのマウスで再現可能な損傷が生じた(N=4)。t−PAおよびNMDAを一緒に適用すると、損傷のサイズが約50%(P<0.01、n=4)増加した。これとは明らかに対照的に、NMDA、および同じ濃度のDSPAを同時に注射すると、NMDA単独の場合と較べて損傷のサイズが増加した。
【0101】
t−PAまたはDSPA単独の注射では、検出可能な神経変性に至らなかった。単独で投与されたときにt−PAの作用がないことは、Nicole et al.(2001)の結果と一致している。これらのデータは、DSPAが存在すると、たとえ神経変性が起きている最中であっても、神経変性を促進させないことを示している。
【0102】
DSPAの注射液が海馬領域の中に実際に拡散したことを確認するために、DSPA抗体を使用して、冠状断面上で免疫組織化学法を行った。試験の結果、DSPAは、実際に線条体領域に入らなかったことが示された。
【0103】
(間接的色原体試験によるプラスミノーゲン活性化の動態解析)
t−PA活性の間接的な色原体テストを、Madisan E.L.,Goldsmith E. J., Gerard R. D., Gething M.−J., Sambrook J.F.(1989)Nature 339 721−724;Madison E.LO.,Goldsmith E.J.,Gething M.J.,Sambrook J.F.and Bassel−Duby R.S.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 87,3530−3533、また、Madison E.L.,Goldsmith E.J.,Gething M.J.,Sambrook J.F.and Gerard R.D.(1990)J.Biol.Chem 265,21423−21426に記載されている基質であるLys−プラスミノーゲン(American Diagnostica)およびスペクトロザイム(spectrocyme)PL(American Diagnostica)を用いて行った。試験は、補助因子であるDESAFIB(American Diagnostica)の存在下および非存在下で行った。DESAFIBは、非常に純度の高いヒトフィブリノーゲンをプロテアーゼであるバトロキソビンで切断して得られる可溶性フィブリンモノマー製剤である。バトロキソンビンは、フィブリノーゲンのAα−鎖中のArg16−Gly17結合およびそのためにリリースfibrinopeptid AのA.alpha。鎖の中のArg.sup.16−Gly.sup.17結合を切断して、線維素ペプチドAを放出する。その結果得られる、フィブリンIモノマーを代表するdes−AA−フィブリノーゲンは、ペプチドGly−Pro−Arg−Proがなければ可溶性である。Lys−プラスミノーゲンの濃度は、DESAFIB存在下では、0.0125から0.2μMまで変化させ、補助因子の非存在下では、0.9から16μMまで変化させた。
【0104】
(さまざまな刺激物質存在下における間接的色原体試験)
上記引用した刊行物に従って、間接的色原体試験を行った。0.25〜1ngの酵素、0.2μMのLys−プラスミノーゲン、および0.62mMのスペクトロザイムPLを含む全量で100μlのプローブを用いた。試験は、バッファー、25μg/mlのDESAFIB、100μg/mlのフィブリノーゲンの臭化シアンフラグメント(American Diagnostica)、または100μg/mlの刺激性13アミノ酸ペプチドP368のいずれかの存在下で行った。解析は、マイクロタイタープレートの中で行い、光学密度を、「Molecular Devices Thermomax」において、405nmの波長で30秒ごと、1時間測定した。反応温度は37℃であった。
【0105】
(8.静脈内適用の場合には、DSPAも神経組織損傷の増加を起こさない)
マウスの線条体では、NMDAを注射してから、6時間または24時間後にt−PAまたはDSPAを静脈内適用しても、組織損傷は誘導されなかった。陰性対照と比較して、NMDAを注射してから24時間後にt−PAを静脈内注入液として投与すると、実験動物は、NMDA注射によって、約30%の損傷組織面積の増加を示したが、これは、組織損傷をそのようには増加させなかったDSPAとは対照的であった(図18参照)。抗DSPA抗体を用いた冠状断面の染色により、NMDAを注射してから24時間後にt−PAを静脈内注入液として投与すると、損傷組織の面積内へ浸透したことを検出することは、可能であった(図19参照)。同じように、NMDAを注射してから6時間後にt−PAまたはDSPAを静脈内適用した場合には、損傷組織の面積の増加は今のところ検出されていない。これは、t−PAまたはDSPAを適用した時点では、血液脳関門が、まだ十分な障壁機能を提供していたというのが理由かもしれない。このように、静脈内適用する場合には、DSPAも神経毒副作用を示さない。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】記載なし。
【図2】記載なし。
【図4a】記載なし。
【図4b】記載なし。
【図7】記載なし。
【図9】記載なし。
【図10】記載なし。
【図11】記載なし。
【図12】記載なし。
【図13】記載なし。
【図14】記載なし。
【図15】記載なし。
【図16】記載なし。
【図17】記載なし。
【図18】記載なし。
【図19】記載なし。
【図20】記載なし。
【図21】記載なし。
【図22】記載なし。
【図23】記載なし。
【図24】記載なし。
【図25】記載なし。
【図26】記載なし。
【図27】記載なし。
【図28】記載なし。
【図29】記載なし。
【技術分野】
【0001】
本願発明は、非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子、特に、遺伝子改変されたプラスミノーゲン活性化因子およびDesmodus rotundusの唾液由来のプラスミノーゲン活性化因子(DSPA)を、ヒトの脳梗塞を治療するために静脈内適用することに関する。これらのプラスミノーゲン活性化因子による脳梗塞の治療は、国際特許出願第PCT/EP02/12204によって知られており、その開示内容はすべて、参照に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
(脳梗塞の臨床学的特徴および生化学)
さまざまな臨床像が、臨床症状に関連した「脳梗塞」という用語にまとめられている。それぞれの病因によって、まず、これらの臨床像は、いわゆる虚血発作と出血性発作に区別することが可能である。
【0003】
虚血性発作(虚血)は、動脈血の供給がなくなるために、脳における血液循環が低下または阻害されることを特徴とする。これは、しばしば、動脈硬化性の狭窄した血管の血栓によって、または、動脈・動脈性の個々の心臓塞栓症によって生じる。
【0004】
出血性発作は、とりわけ、動脈性の筋緊張亢進によって損傷された脳供給動脈の穿孔による。しかしながら、すべての脳の発作のうち約20%が出血性発作に起因するに過ぎない。したがって、血栓症による発作の方がずっと関連性が高い。
【0005】
他の組織の虚血と比較すると、神経組織の虚血は、影響を受ける細胞の壊死を広範に伴う。神経組織において壊死の発生率が高くなることは、新しく解明された「興奮毒性」という、複数の反応段階を含む複合的カスケードによって説明することができる。このカスケードは、酸素欠乏に見舞われると、即座にATPを失って脱分極する虚血ニューロンによって開始される。その結果、カチオンチャンネルを制御している膜結合型グルタミン酸レセプターを活性化する神経伝達物質であるグルタミン酸の後シナプス放出が増加する。しかし、グルタミン酸の放出の増加によって、グルタミン酸レセプターが過活性化される。
【0006】
グルタミン酸レセプターは、グルタミン酸がレセプターに結合することによって開く電圧依存型カチオンチャンネルを調節する。その結果、Na+とCa2+の細胞への流入が起こり、Ca2+依存型の細胞代謝の大規模な阻害が生じる。特に、Ca2+依存型異化酵素の活性化は、その後の細胞死の原因となりうる(Lee,Jin−Mo et al.,”The changing landscape of ischaemic brain injury mechanisms”;Dennis W.Zhol”Glutamate neurotoxicity and diseases of the nervous system”)。
【0007】
グルタミン酸媒介型神経毒性のメカニズムは、まだ完全に解明されていないが、脳虚血後の神経細胞死にかなりの程度寄与していることについては見解が一致している(Jin−Mo Lee,et al.)。
【0008】
(脳梗塞の治療法)
急性脳虚血の治療においては、生体機能の保全と生理的なパラメータを安定させること以外に、閉じた血管を再開させることが優先される。この再開は、さまざまな手段で行なうことができる。例えば、心臓発作後のPTCAなどのように、単なる機械的な再開は、今までのところ、満足の行く結果には至っていない。線維素溶解に成功することによってのみ、患者の健康状態を許容できるまで改善することができる。これは、カテーテルを用いる局所適用によって行うことができる(PROCAT、プロウロキナーゼを用いた研究)。しかしながら、最初に良好な結果が得られたにもかかわらず、この方法は薬品治療としてまだ公式には承認されていない。
【0009】
自然な線維素溶解は、セリンプロテアーゼであって、その不活性型前駆体から触媒作用によって生じるプラスミンの蛋白質分解活性によるものである。プラスミノーゲンの自然での活性化は、生体内で天然に存在するプラスミノーゲン活性化因子であるu−PA(ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子)およびt−PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)によって触媒される。u−PAとは対照的に、t−PAは、フィブリンおよびプラスミノーゲンと一緒にいわゆる活性化因子複合体を形成する。したがって、t−PAの触媒活性はフィブリン依存的であり、それが存在すると約550倍に増強される。フィブリン以外にフィビブリノーゲンも、程度は低いものの、プラスミノーゲンからプラスミンへのt−PAによる触媒を促進することができる。フィブリノーゲンが存在する場合には、t−PA活性は25倍増強するにすぎない。また、フィブリンの切断産物(フィブリン分解産物(FDP))はt−PAを促進させる。
【0010】
(既知の治療法)
(a)ストレプトキナーゼ)
急性脳梗塞を血栓溶解治療しようとした初期の試みは1950年代に遡る。β溶連菌由来の線維素溶解因子であるストレプトキナーゼを用いた最初の広範な臨床試験は1995年に始められたばかりである。ストレプトキナーゼは、プラスミノーゲンと一緒に、他のプラスミノーゲン分子をプラスミンに触媒する複合体を形成する。
【0011】
ストレプトキナーゼはバクテリアのプロテアーゼであって、生体のアレルギー反応を誘発しうることから、ストレプトキナーゼによる治療には重大な不利益が伴う。さらに、以前、連鎖球菌に感染して抗体の産生などがあると、患者は、いわゆるストレプトキナーゼ耐性を示すことがあり、治療がより困難になる。これに加えて、ヨーロッパにおける臨床試験(ヨーロッパ多施設急性脳梗塞治験(MAST−E)、イタリア多施設急性脳梗塞治験(MAST−I)およびオーストリア(オーストリアストレプトキナーゼ治験(AST))は、ストレプトキナーゼで患者を治療した後に死亡リスクが高まり、脳出血(大脳内の出血、ICH)のリスクがより高くなることを示した。これらの治験は早期に終了しなければならなかった。
【0012】
(b)ウロキナーゼ)
あるいは、古典的な線維素溶解因子でもあるウロキナーゼを適用することもできる。ストレプトキナーゼとは対照的に、これは、様々な身体組織の中に存在する酵素であるため、抗原特性は示さない。それはプラスミノーゲンの活性化因子であって、補助因子には依存しない。ウロキナーゼは腎臓培養細胞において産生される。
【0013】
(c)組換えt−PA(rt−PA))
血栓溶解療法に関する広範囲な実験結果が、組織型プラスミノーゲン活性化因子であって、組換えハムスター細胞で産生される、いわゆるrt−PA(欧州特許第0093619号、米国特許第4,766,075号)について利用可能である。90年代に、急性心筋梗塞を主な適応症として、t−PAを用いた世界規模の臨床試験がいくつか行なわれたが、一部理解できない矛盾した結果がもたらされた。いわゆる欧州急性脳梗塞試験(ECASS)では、脳梗塞の症状が発生した後6時間という時間枠内でrt−PAを静脈内に投与して患者を治療した。90日後に、患者の身体障害と治療とは無関係な生存率に関する指数として死亡率およびバーテル(Barthel)指数を調べた。生存率の有意な改善は報告されなかっただけでなく、有意とはいえなかったが、死亡率の増加が報告された。したがって、脳梗塞を発症した直後に各自の病歴によって個別に選抜された患者をrt−PAによって血栓溶解治療することが有利でありえると結論づけることができよう。しかし、脳梗塞を発症した後6時間という時間枠内でrt−PAを一般的に使用することは推奨されなかった。なぜなら、この時間内における適用が脳内出血(ICH)の危険を増加させるからである(C.Lewandowski C and Wiliam Barsan,2001:Treatment of Acute Stroke;in:Annals of Emergency Medicine 37:2; S.202ff.)。
【0014】
脳梗塞の血栓溶解治療も、米国における米国国立神経疾患・脳卒中研究所(National Institute of Neurologic Disorder and Stroke)によって行われた臨床試験(いわゆるNINDS rtPA脳梗塞試験)の課題であった。この試験は、症状が始まってから3時間以内のときにだけ静脈内からrt−PA治療を行った場合の効果に集中した。治療後3ヶ月後に患者を調査した。この治療法が患者の生存率に対して陽性の効果をもつことが観察されたため、著者らは、ICHの危険性がより高いことに気づいたにもかかわらず、この3時間という限られた時間枠内でのrt−PA治療が推奨された。
【0015】
さらに2つの研究(ECASS II試験:急性虚血性脳梗塞における非介入治療のためのアルテプラーゼ血栓溶解法(ATLANTIS))で、脳梗塞発症後3時間以内にrt−PA治療をしたときのプラスの効果が、6時間以内に治療したときにも繰り返されるか否かが調べられた。しかしながら、臨床症状の改善または死亡率のいくらかの減少が観察されなかったため、この問題に対する答えは肯定的とはいえない。ICHに対するリスクは依然そのままである。
【0016】
1997年に初めて出版され、2001年3月に改訂された、すべての脳梗塞試験の概説によれば、血栓溶解剤(ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、rt−PA、または組換えウロキナーゼ)による治療はすべて、血栓溶解剤を使用した場合には、死亡したか身体障害になった患者の総数は減少する一方で、脳梗塞後10日以内の死亡率を有意に高める結果となった。この効果は、主にICHによるものである。したがって、脳梗塞を治療するため広範に血栓溶解剤を使用することは推奨されなかった。
【0017】
それ以前から、脳梗塞患者は死ぬか身体障害になって生き残るか選択できるという単なる皮肉が言われていたのは、このような結果があったからである(SCRIP 1997:2265,26)。
【0018】
それにもかかわらず、今までのところ、rt−PAによる治療が、米国において食品医薬品局(FDA)によって承認された唯一の急性脳虚血治療法である。しかし、それは、脳梗塞発症後3時間以内にrt−PAを適用する場合に限られている。
【0019】
組換えプラスミノーゲン活性化因子は、現在、類似した薬品にアルテプラーゼまたはレテプラーゼ(reteplase)という名前が付けられて市販されている。後者は、半減期の短い、治療薬として活性をもつt−PA断片である。アルテプラーゼの薬用量は約70〜100mgであり、レテプラーゼでは2×560mgであるが、これらの場合、アルテプラーゼは主に点滴で適用され、レテプラーゼは、約30分間隔でボーラス注射を2回繰り返して適用される(Mutschler:”Arzneimittelwirkungen”,8th Edition,pages 512−513)。
【0020】
(t−PAの副作用)
(神経毒性および興奮毒性)
rt−PAの承認は1996年に得られた。その前の1995年に、t−PAのマイナスの副作用に関する最初の発表が知られるようになり、それらが、3時間という時間枠を外れて脳梗塞の治療に適用されたときの劇的効果に対する説明の根拠となっている。従って、海馬の小グリア細胞およびニューロン細胞が、グルタミン酸塩を介する興奮毒性に寄与するt−PAを生産する。このことは、t−PA欠乏マウスと野生型マウスのそれぞれの海馬にグルタミン酸アゴニストを注入したときの比較実験から結論されている。t−PA欠乏マウスは、外部から(くも膜下)に適用されたグルタミン酸に対して有意に高い抵抗性を示した(Tsirka SE et al.,Nature Vol.377,1995,”Excitoxin−induced neuronal degeneration and seizure are mediated by tissue plasminogen activator”)。これらの結果は、1998年になって、t−PAを静脈内注射するとt−PA欠乏マウスの壊死神経組織の量がほぼ2倍になることをWangらが証明できたときに確認された。野生型マウスに対する外部t−PAのこのマイナスの効果は、約33%にすぎなかった(Wang et al.,1998,Nature,”Tissue plasminogen activator(t−PA)increases neuronal damage after focal cerebral ischaemia in wild type and t−PA deficient mice”)。
【0021】
さらに、t−PAによる興奮毒性の促進に関するさらなる結果が、2001年の初頭にNicoleらによって発表された(Nicole O.,Docagne F Ali C;Margaill I;Carmeliet P;MacKenzie E T,Vivien D and Buisson A,2001:The proteolytic activity of tissue−plasminogen activator enhances NMDA receptor−mediated signaling;in: Nat Med 7,59−64)。彼らは、脱分極した皮質ニューロンによって放出されているt−PAが、NR1の切断をもたらすNMDA型グルタミン酸レセプターのいわゆるNR1サブユニットと相互作用しうることを証明することができた。これは、グルタミン酸アゴニストであるNMDAを適用すると、より高い組織損害を生じさせるレセプター活性を増加させる。NMDAアゴニストは興奮毒性を誘発した。したがって、t−PAは、NMDA型のグルタミン酸レセプターを活性化させることによって、神経毒性作用を示す。脳梗塞の間、罹患組織領域において血液脳関門が機能停止するため、フィブリノーゲンのような可溶性血漿蛋白質および治療的に適用されたt−PAが、神経組織と接触できるようになり、t−PAはフィブリノーゲンによる刺激を受けて、グルタミン酸レセプターの活性化を介して神経毒作用を示す。
【0022】
神経毒副作用と死亡率を高める効果があるにもかかわらず、t−PAはFDAによって承認された。これは、それ以外に無害で有効な代替物がないということによってしか説明できない、すなわち、非常に実際的な費用便益分析によるものである。したがって、安全な治療法に対する需要が依然としてある。しかし、それらが依然として血栓溶解剤に基づくものであったなら、すなわち、万が一、血栓溶解に代わるものを発見することが可能でなければ、神経毒性の問題を考慮しなければならない(例えば、Wang et al.a.a.O.;Lewandowski and Barson 2001 a.a.O参照)。
【0023】
したがって、基本的には、すべての血栓溶解剤は適合的である可能性を秘めていたが、DSPA(Desmodus rotundusのプラスミノーゲン活性化因子)など、既知の血栓溶解剤を、脳梗塞用の新薬を開発するためにさらに検討することは終わった。特に、DSPAの場合には、この医療適用に適合する可能性が以前から指摘されていた(Medan P;Tatlisumak T;Takano K;Carano RAD;Hadley SJ;Fisher M:Thrombolysis with recombinant Desmodus saliva plasminogen activator(rDSPA)in a rat embolic stroke model;in:Cerebrova Dis 1996:6;175−194(4th International Symposium on Thrombolic Therapy in Acute Ischaemic Stroke)。DSPAはt−PAに高い相同性(類似性)を有するプラスミノーゲン活性化因子である。したがって、(t−PAの神経毒性の副作用による失望に加えて、)DSPAが脳梗塞を治療するのに適した薬剤であるという期待はもうなかった。
【0024】
(代替的治療法)
代替的な治療法の検討は、現在、例えば、ヘパリン、アスピリン、または、マレーマムシ(Malayan pit viper)の毒から得られる活性物質であるアンクロド(ancrod)などの抗凝血剤に集中している。ヘパリンの効果を検討する、さらに2つの臨床試験(国際脳梗塞試験(IST)および急性脳梗塞治療におけるORG 10172の試験)が行われているが、有意な死亡率の改善または脳梗塞の予防を示していない。
【0025】
さらに新しい治療法は、血栓にも血液の抗凝固または抗凝血にも注目することなく、血液供給の遮断によって損傷された細胞の生存率を上げようと試みている(WO 01/51613A1号およびWO 01/51614A1号)。このことを実現するために、キノン、アミノグリコシド、またはクロラムフェニコールの群から選んだ抗生物質を適用する。同様の理由で、脳梗塞を発症した直後にまずシチコリンを適用させることが勧められている。身体の中で、シチコリンはシチジンとコリンに切断される。この切断産物は、神経細胞の膜の一部を形成して、損傷された組織の再生を助ける(米国特許第5,827,832号)。
【0026】
安全な治療法に関する最近の研究は、脳梗塞が致命的な結果となることの一部は、血液供給の阻害によっては間接的に引き起こされるにすぎず、直接的には、過剰活性化されたグルタミン酸レセプターを含む興奮毒性または神経毒性によるという新しい知見に基づいている。この作用は、t−PAによって増強される(上記参照)。したがって、興奮毒性を低下させようと考えることは、いわゆる神経保護剤を採用しようとすることである。それらは、神経毒作用を最小限に抑えるために線維素溶解剤とは別に、または併用して用いることができる。それらは、例えば、グルタミン酸レセプター・アンタゴニストとして直接的に、または、電圧依存的なナトリウムチャンネルまたはカルシウムチャンネルを阻害することによって間接的に興奮毒性を低下させることができる(Jin−Mo Lee et al. a.a.O.)。
【0027】
NMDA型のグルタミン酸レセプターの競合的阻害(アンタゴニスト作用)は、例えば、2−アミノ−5−ホスホノ吉草酸(APV)または2−アミノ−5−ホスホノヘプタン酸(APH)によって可能となる。非競合的阻害は、例えば、チャンネルのフェンシクリジン側に結合する物質によって行うことができる。このような物質としては、フェンシクリジン、MK−801、デキストロールフェン(dextrorphane)またはセタミン(cetamine)などがありうる。
【0028】
これまでのところ、神経保護剤による治療は、保護的作用を示すためには血栓溶解剤と併用しなければならず、期待された成功を収めていない。これは、他の物質についても同様である(図10)。
【0029】
t−PAと神経保護剤を併用しても、損傷を限定的なものにできるのみで、線維素溶解剤の神経毒性という短所などは避けることができない。
【0030】
(非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子)
脳梗塞を治療するためのプラスミノーゲン活性化因子は、その酵素活性がフィブリンによって、非常に選択的に何倍にも、すなわち、650倍以上に増加し、国際特許出願PCT/EP02/12204から知られている。なお、この文献の開示内容は、完全に参考文献に組み込まれる。
【0031】
これらプラスミノーゲン活性化因子の性質と投与は、組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)の神経毒性が、主に、脳梗塞によって脳内で起こる組織破壊の結果、血液脳関門が機能障害を起こすか破壊されて、血液中を循環しているフィブリノーゲンが脳の神経組織に浸透できるようになるという事実によるものであるとの知識に基づいている。そこでフィブリノーゲンがt−PAを活性化し、それが、グルタミン酸レセプターを活性化させたり、プラスミノーゲンを活性化させたりすることによって、間接的にさらなる組織損傷をもたらすのである(下記参照)。
【0032】
この作用を防ぐためには、フィブリンに対して高い選択性を示し、その逆の結果として、フィブリノーゲンによって活性化される可能性が低いプラスミノーゲン活性化因子を適用する。それによって、これらのプラスミノーゲン活性化因子は活性化されないか、または、t−PAに較べれば、血液脳関門が損傷された結果神経組織内の血液からフィブリノーゲンが浸透してきても、大きさと不可溶性によって活性化因子であるフィブリン神経組織に入り込むことはできないため、プラスミノーゲン活性化因子は非常に低度にしか活性化されないはずである。したがって、これらプラスミノーゲン活性化因子は非神経毒性である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0033】
(a)遺伝子改変されたプラスミノーゲン活性化因子)
本発明の好ましい実施形態によれば、非毒性のプラスミノーゲン活性化因子であって、いわゆるシモゲントライアド(cymogene triade)の成分の少なくとも1つを含むものが用いられる。同等のトライアドは、アスパラギン酸194、ヒスチジン40およびセリン32の相互作用するアミノ酸からなるキモトリプシンファミリーのセリンプロテアーゼの触媒活性中心から知られている。しかし、このトライアドは、セリンプロテアーゼ同様キモトリプシンファミリーに属するt−PAには存在しない。それにもかかわらず、上記アミノ酸の一つ以上を適当な位置に導入する目的で、天然型t−PAを部位特異的に変異誘発すると、フィブリン存在下でプロ酵素(一本鎖t−PA)の活性が低下し、成熟酵素(二本鎖t−PA)の活性が上昇することが知られている。したがって、トライアドの、または、トライアド中でそれぞれの機能をもつアミノ酸のアミノ酸を一つ以上導入すれば、t−PAのシモゲン性(すなわち、成熟酵素とプロ酵素の活性の比率)を上昇させることができる。その結果、フィブリンの特異性が顕著に高まる。これは、導入されたアミノ酸残基および/または野生型配列のアミノ酸残基との立体構造的な相互作用によるものである。
【0034】
Phe305をHisで置換し(F305H)、Ala292をSerで置換(A292S)することによって天然型t−PAを変異誘発すると、F305H変異体のみではすでに5倍高いシモゲン性が導かれるのに対して、シモゲン性が20倍高くなることが知られている(EL Madison,Kobe A,Gething M−J; Sambrook JF,Goldsmith EJ 1993:Converting Tissue Plasminogen Activator to a Zymogen:A regulatory Triad of Asp−His−Ser;Science:262,419−421)。フィブリン存在下で、これらのt−PA変異体は、それぞれ、30,000倍(F305H)および130,000倍(F305H,A292S)の活性増加を示す。また、これらの変異体は、プラスミンによってAug275−Ile276の切断部位で切断されるを防げるためにArg275からR275Eへの置換を含み、それによって、一本鎖t−PAは二本鎖型へと変化する。変異部位R275Eだけで、t−PAのフィブリン特異性は6,900倍増加する(K Tachias,Madison E L 1995:Variants of Tissue−type Plasminogen Activator Which Display Substantially Enhanced Stimulation by Fibrin,in:Journal of Biological Chemistry 270,31:18319−18322)。
【0035】
t−PAの305位および292位は、キモトリプシン性セリンプロテアーゼの既知のトライアドのHis40およびSer32と相同である。ヒスチジンとそれぞれにセリンを導入する対応する置換によって、これらのアミノ酸は、t−PAのアスパラギン酸477と相互作用できるようになり、t−PA変異体中に機能的なトライアドを生じさせる(Madison et al.,1993)。
【0036】
これらのt−PA変異体は、フィブリン特異性が高くなるため、神経毒性を全く示さないか、野生型t−PAに較べて有意に低い神経毒性を示す。上記t−PA変異体F305H;F305H;A292Sを、単独またはR275Eと組み合わせて開示する目的で、本発明者らは、Madison et al.,(1993)およびTachias and Madison (1995)という刊行物を参照して本明細書に組み入れる。
【0037】
プラスミノーゲン活性化因子のフィブリン特異性を高めることは、あるいはAsp194(または、相同位置)における点変異によっても実現させることができる。プラスミノーゲン活性化因子は、キモトリプシンファミリーのセリンプロテアーゼ群に属しているため、成熟プロテアーゼの触媒活性立体構造の安定性に関与する保存アミノ酸であるAsp194を含む。Asp194は、セリンプロテアーゼのシモゲン型におけるHis40と相互作用することが知られている。切断によってシモゲンが活性化されると、この特異的相互作用が阻害され、Asp194の側鎖が、Ile16と新たな塩橋を形成するために約170°回転する。この塩橋は、成熟セリンプロテアーゼの触媒中心のオキシアニオン(oxyanione)ポケットの安定性に必須に寄与する。これは、t−PAにも存在する。
【0038】
Asp194を置換する点変異が、セリンプロテアーゼの活性立体構造の形成または安定性をそれぞれ阻害することは明白である。それにもかかわらず、変異型プラスミノーゲン活性化因子が、それらの補助因子であるフィブリン存在下で、特に、成熟した野生型のものと比較しても有意に活性を上昇させることは、フィブリンとの相互作用によって触媒活性を促進させる立体構造上の変化が可能になるというふうにしか説明できない(L Strandberg,Madison EL,1995:Variants of Tissue−type Plasminogen Activator with Substantially Enhanced Response and Selectivity towards Fibrin co−factors,in:Journal of Biological Chemistry 270,40:2344−2349)。
【0039】
要するに、プラスミノーゲン活性化因子のAsp194変異体は、フィブリン存在下で高い活性上昇を示し、本発明によって利用することができる。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、Asp194が、グルタミン酸によって(D194E)、またはアスパラギンによって(D194N)置換された変異型t−PAが使用される。これらの変異体では、フィブリンが存在しないとt−PAの活性が1から2000倍低下するが、フィブリンが存在すると、498,000から1,050,000倍の活性上昇を達成することができる。さらに、これらの変異体は、Arg15からR15Eへの置換を含むため、プラスミンによってペプチド結合Arg15−Ile16において一本鎖t−PAが切断されるのが防止されるが、そのため、t−PAは二本鎖型になる。この変異のみでも、フィブリンによるt−PAの活性化が12,000倍に増強される。194位および15位におけるt−PA変異を開示するという理由で、Strandberg and Madison(1995)という刊行物を全面的に参照して組み入れる。
【0041】
プラスミノーゲン活性化因子のフィブリン依存性の増加も、いわゆる「自己分解ループ」に点変異を導入することによって実現することができる。この要素は、トリプシンから知られており、セリンプロテアーゼの相同部分においても見つけることでき、特に、3個の疎水性アミノ酸(Leu、ProおよびPhe)によって特徴づけられている。プラスミノーゲン活性化因子における自己分解ループは、プラスミノーゲンとの相互作用に関与する。この領域の点変異は、プラスミノーゲンおよびプラスミノーゲン活性化因子の間の蛋白質−蛋白質相互作用がそれ以上有効に形成されないという効果を持ちうる。これらの変異は、フィブリンが存在しないときにのみ機能的に関係する。これに対し、フィブリン存在下では、それらは、プラスミノーゲン活性化因子の活性上昇に関与する(K Song−Hua,Tachias K,Lamba D,Bode W,Madison EL,1997:Identification of a Hydrophobic exocite on Tissue Type Plasminogen Activator That Modulates Specificity for Plasminogen, in: Journal of Biological Chemistry 272;3,1811−1816)。
【0042】
好ましい実施形態において、420位から423位に点変異を示すt−PAが使用される。これらの残基が、部位特異的変異誘発によって置換されると、t−PAのフィブリン依存性が、61,000倍まで増加する(K Song−Hua et al.)。Song−Huaらは、L420A、L420E、S421G、S421E、P422A、P422G、P422E、F423AおよびF423Eという点変異を調べた。これらの刊行物は、本発明に係る使用を開示するために参照として全面的に組み込まれる。
【0043】
さらに有利な実施形態によれば、配列番号1(図13)に記載されたアミノ酸配列をもつ、改変されたプラスミノーゲン活性化因子が使用される。この改変されたt−PAは、以下のような自己分解ルーブ中の420位から423位の疎水性アミノ酸を交換しているという点で野生型のt−PAと異なる:His420、Asp421、Ala422およびCys423。このt−PAは、優先的に、194位にフェニルアラニンを含む。さらに、275位はグルタミン酸によって占められていることがある。好適には、194位がフェニルアラニンによって占められている。
【0044】
さらに、改変されたウロキナーゼを本発明によって使用することができる。本発明に係るウロキナーゼは、自己分解ループの疎水性アミノ酸がVal420、Thr421、Asp422およびSer423で置換されている配列番号2(図14)に記載されたアミノ酸配列を含むことができる。好適には、ウロキナーゼはIle275およびGlu194をもっている。この変異体は、野生型のウロキナーゼと比較して、500倍高いフィブリン特異性を示す。
【0045】
変異型ウロキナーゼおよびt−PAは、ともに半定量試験で分析され、野生型t−PAに較べて高いフィブリン特異性を示した。
【0046】
(b)Desmodus rotundus由来のプラスミノーゲン活性化因子(DSPA))
吸血コウモリ(Desmodus rotundus)の唾液由来のプラスミノーゲン活性化因子(DSPA)も、フィブリン存在下で、非常に高い活性、具体的には100,000倍の増加を示す。したがって、本発明によって優先的に使用することができる。DSPAという用語は、4種類の異なったプロテアーゼであって、Desmodus rotundusに必要な機能を充足させるもの、すなわち、獲物の傷口からの出血を長引かせるプロテアーゼを含む(Cartwringht,1974)。これら4つのプロテアーゼ(DSPAα1、DSPAα2、DSPAβ、DSPAγ)は、互いに、およびヒトt−PAに高い類似性(相同性)を示す。また、それらは、類似した生理活性を示し、総称であるDSPAに一般的に分類された。DSPAは、欧州特許第0352119A1号ならびに米国特許第6,008,019号および第5,830,849号に開示されているので、開示の目的で、その全文を本明細書に参照してと組み込む。
【0047】
今までのところ、DSPAαがこの群で一番よく解析されているプロテアーゼである。それは、既知のヒトt−PAのアミノ酸配列に対して72%よりも高い相同性をもつアミノ酸配列を有する(Kraetzchmar et al,1991)。しかし、t−PAとDSPAには2つの主要な相違点がある。第一に、DSPAはすべて、t−PAとは対照的に、二本鎖型に変わることはないので、一本鎖分子で完全なプロテアーゼ活性を有する(Gardell et al.,1989;Kraetzchmar et al,1991)。第二に、DSPAの触媒活性は、ほぼ完全にフィブリンに依存する(Gardell et al.,1989;Bringmann et al.,1995;Toschie et al.,1998)。例えば、DSPAα1の活性は、フィブリン存在下で、100,000倍に上昇するが、それに対し、t−PA活性は550倍上昇するにすぎない。これに対して、DSPA活性は、フィブリノーゲンによっては、それほど強く誘導されることはない、なぜなら、7から9倍の上昇しか示さないからである(Bringmann et al.,1995)。要するに、DSPAは、より強くフィブリンに依存し、フィブリンによっては550倍しか活性化されない野生型t−PAよりもフィブリン特異性がずっと強い。
【0048】
線維素溶解特性およびt−PAへの高い類似性があるため、DSPAは、血栓溶解を開発するための興味深い候補物質となっている。それにもかかわらず、DSPAを血栓溶解として治療に使用できるのは、過去、心筋梗塞の治療に制限されていた。なぜなら、t−PAがグルタミン酸に誘発される神経毒性に寄与するため、t−PAに関係するプラスミノーゲン活性化因子が急性脳梗塞の治療に当然に使用できるとの合理的な希望が存在しなかったからである。
【0049】
驚くべきことに、DSPAは、t−PAに高い類似性(相同性)を示すにもかかわらず、また、その分子の生理学的作用もかなりの程度同じであるにもかかわらず、神経毒性作用をもたない。上記の結論によって、結局のところ、DSPAを、神経組織損傷という重大なリスクを引き起こすことなく、血栓溶解剤として脳梗塞の治療にうまく使用できるかもしれないというアイデアがもたらされた。特に興味深いのは、DSPAは、脳梗塞症状を発症してから3時間以上たってからでも使用できるという事実である。
【0050】
(DSPAに神経毒性がないことの実験的証拠)
この新しい教示は、いわゆるカイニン酸モデルおよび線条体のNMDA誘導による損傷実験用モデルを用いて行われる、一方ではt−PAの、他方ではDSPAの神経変性作用のインビボにおける比較実験に基づいている。
【0051】
カイニン酸モデル(またはカイニン酸損傷モデル)は、カイニン酸型(KA型)グルタミン酸レセプター、ならびにNMDAおよびAMPAのグルタミン酸レセプターのアゴニストとしてカイニン酸を外部から適用することによって、神経毒性グルタミン酸カスケードを刺激することに基づいている。t−PA欠乏型マウスの脚(stem)を実験モデルに用いて、実験動物のカイニン酸に対する感受性が、外部t−PAを補助的に適用した後にやっと野生型マウスのレベルに到達することを示すことができた。これに対して、同じ実験条件下でDSPAの等モル濃度液を注入しても、カイニン酸(KA)に対する感受性を回復しない。t−PAの神経毒性作用は、DSPAによって誘導されるものではないと結論された。これらの結果の要約を図15(表1)に示す。
【0052】
このモデルに基づいた定量的実験によって、DSPAの濃度を10倍増加させても、KA処理に対するt−PA欠乏マウスの感受性を回復できなかったのに、10倍低いt−PA濃度では、KA誘導による組織損傷をすでにもたらしていたことが明らかになった。これによって、KA処理後の神経変性の促進に関して、DSPAは、t−PAよりも少なくとも100倍低い神経毒性能力を有するという結論が得られた(図11および12も参照)。
【0053】
神経変性の二番目のモデルでは、NMDA依存性真剣変性の促進に対するt−PAおよびDSPAの作用と考えられるものを野生型マウスと比較した。この目的のために、NMDA(NDMA型のグルタミン酸レセプターのアゴニストとして)を、単独またはt−PAまたはDSPAのいずれかと併用して注射した。このモデルによって、神経変性、および血液脳関門の崩壊による血漿蛋白質の流入を必ずもたらす条件下でこれらのプロテアーゼの効果を比較することができる(Chen et al.,1999)。
【0054】
このモデルで研究している最中に、NMDAを注射すると、マウスの線条体に再現可能な損傷がもたらされた。t−PAとNMDAを併用して注射すると、損傷部位の量が少なくとも50%増加した。これに対して、DSPAα1を同時に注射したときには、NMDAによって起こる損傷の増加および拡大はもたらされなかった。NMDAによって誘発される損傷領域に自由に拡散することができる血漿蛋白質が存在していても、DSPAは神経変性の増加をもたらさなかった。これらの結果をまとめたものを図16に示す(表2)。
【0055】
臨床試験の最初の結果は、ヒトの脳梗塞治療にもこれらの結果を移しうることを示している。有意な改善が、灌流に成功した後に患者の中で達成されうることが発見された(8ポイントNIHSSまたはNIHSSスコアで0から1の改善)。これを図17に示す(表3)。
【0056】
さらなる実験で、静脈注射されたとき、t−PAおよびDSPAが損傷された血液脳関門を透過できるか否か、また、その結果、脳における組織損傷が増加するか否かが調べられた。この問題に取り組むため、線条体に組織損傷を生じさせるためにマウスにNMDAを定位注射した後、NMDA注射後24時間してからt−PAまたはDSPAを静脈から適用した。陰性対照と比較すると、NMDA注射後24時間してから、注入液としてt−PAを投与したとき、実験動物では、NMDAに誘導された損傷組織領域の約30%の増加が示された。これに対して、DSPAで同様に処理すると、抗体染色の方法によって損傷組織領域への浸透が検出されたが、組織損傷のこのような増加は生じなかった(図18、19参照)。NMDA注射してから6時間後に同様の方法でt−PAまたはDSPAを静脈内に適用したところ、損傷された組織領域の増加はまだ検出されなかった。それによって、血液脳関門が、t−PAまたはDSPAを注射した時点では、まだ充分な関門として機能していたことを説明できる。
【0057】
これらの結果は、DSPAが、哺乳動物の(したがって、ヒトの)中枢神経系においてはほとんど不活性のプロテアーゼを構成し、t−PAとは対照的に、KAまたはNMDAによって誘発される神経毒性の増強作用を生じさせることを示している。この神経毒がないことが、一般の予想に反して、DSPAをして、急性脳梗塞の治療に適した血栓溶解剤とならしめている。
【0058】
(非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子の治療能力)
DSPA、およびその他の非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子に神経毒性がないこと(上記参照)は、これらのプラスミノーゲン活性化因子の使用が、野生型のt−PAとは対照的に、脳梗塞発症後最長でも3時間という短い時間に制限されないという、脳梗塞の治療における利点を提供する。それどころか、興奮毒性反応を刺激するリスクがほとんどないため、遅くなっても、例えば、6時間以上経過した後でも治療を開始することができる。DSPAによる最初の臨床試験で、脳梗塞症状が発現してから6から9時間にわたる時間的範囲でも、患者を安全に治療できることが証明される。
【0059】
非神経毒性活性化因子によって、時間的な制限なしに治療できるという選択肢が特に重要である。なぜなら、それによって、急性脳梗塞症状のある患者を、診断が遅れた場合や、充分な確実性をもって脳梗塞の発症時期を判定できない場合でも安全に治療することが初めて可能になるからである。先行技術において、この患者群は、不利なリスク評価であったため、プラスミノーゲン活性化因子による血栓溶解療法から排除されていた。したがって、脳梗塞に対する血栓溶解剤の認可された用法に対する必須の禁忌が解消される。
【0060】
(プラスミノーゲン活性化因子の適用)
すでに確立されている脳梗塞治療剤rt−PAとは対照的に、非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子による脳梗塞治療についての可能な適用方式に関して利用可能な有効な情報はまだない。
【0061】
したがって、これらの非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子に対して有利な適用方式を提供することが本発明の目的である。
【0062】
本発明によれば、フィブリン存在下でその活性が650倍よりも高くなるプラスミノーゲン活性化因子は、脳梗塞を治療するために静脈内に適用される。
【0063】
これら非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子を、脳梗塞を治療するために静脈投与することは、すでに臨床試験で評価されているが、この臨床試験では、DSPAが、この群の線維素溶解剤の一例として、これらの患者に静脈内に適用され、それによって、些細な副作用だけが生じた。
【0064】
臨床試験のこれらの結果は、t−PAおよび他の通常の線維素溶解剤を静脈内適用することは、脳内出血という重大なリスクを伴うということが充分に知られていなかったため予想外のものであった。
【0065】
脳内出血を軽減させるために、最近では、これらの物質を、静脈内ではなく、動脈内経路によって、カテーテルを用いて血栓のすぐ近くに適用する方法を開発しようと努力が払われた。組換え製造されたウロキナーゼ(プロ−ウロキナーゼによる研究としてPROKAT)については、実用経験がすでに可能になっている。この適用方式は、投薬総量をかなり少なくできるため、用量依存的な副作用を軽減させることができ、したがって、脳内出血を抑えることも分かっている。
【0066】
しかし、動脈内適用のこれら重要な利点も、考えられる2つの欠点によって打ち消される。まず、この治療は、時間をかけて患者に準備させる必要があるが、脳梗塞治療において、わずか3時間という所定の枠のなかでそれに気づくことは可能でない。他方で、より低い総投薬量を確実に達成することができる。しかしながら、薬剤濃度を高くすれば、末端の動脈に局所的に到達する。脳梗塞の場合には、血管内皮が障壁機能に障害を起こす結果、医薬物質も局所的に高い濃度で周囲の組織に到達する。すると、望ましくない副作用が生じうる。
【0067】
それに対して、静脈内適用の場合には、静脈の血流によって医薬物質の濃度が希釈される。したがって、t−PAのように組織を破壊できる薬剤の場合には、動脈内注射は問題が多い(Forth,Henschler,Rummel,Starke:”Pharmakologie und Toxikologie”,6th Edition,1992,page 29)。
【0068】
しかし、動脈内適用を面倒にするこれらの制約、すなわち、狭い時間枠および組織損傷副作用は、本発明によって適用されるプラスミノーゲン活性化因子には当てはまらない。したがって、望ましくない短所(上記参照)があることから、動脈内適用が、原則として、非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子にとって非常に有望な適用方式を構成する。したがって、これらの薬剤を適用する好ましい方式をさがす場合には、この経路に従うべきことは明らかであったろう。
【0069】
それにもかかわらず、非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子を適用する者も、かえって問題の多い静脈内適用に依存することを選択してきたが、意外にも、それが有利であることを証明したのである。
【0070】
さらに、本発明に係る適用方式も、高い免疫原能力をもつ蛋白質を投与するために、アナフィラキシー・ショックのリスクを低減させる目的で、通常の治療行為に反して、主に、筋肉内注射または静脈点滴を利用する(Mebs:”Gifttiere”,2th Edition,2000)。
【0071】
天然の体内物質であるt−PAとは対照的に、本発明に係るプラスミノーゲン活性化因子は、動物由来の外来蛋白質(例えば、DSPAのように)か、または、その構造的な違いによって新しいエピトープを提示する遺伝子改変された体内蛋白質のいずれかである。アナフィラキシー反応という随伴する問題、特に、静脈内適用の場合に一般的に必要とされるような、高い治療投薬量を適用するときに伴う問題が、例えばストレプトキナーゼのような外来蛋白質からなる別の線維素溶解剤にも適用される。
【0072】
特に有用な実施形態において、本発明によって適用されるプラスミノーゲン活性化因子は、ボーラス注射(静脈内への迅速な注射)という方法で投与され、全治療量を含む単回静脈内迅速注射として投与することもできる。
【0073】
臨床実験を検討する中で、驚くほど低い治療量を静脈内適用しても、有利な結果が得られることが発見された。好ましい治療結果が、例えば、90μg/kgから230μg/kgの用量で得られた。ここでの特に好ましい治療結果は、62.5μg/kgから90μg/kgの用量で得られた。調査した患者において、脳梗塞か薬剤適用までにかかった時間は3〜9時間であった。適当な検査方法を用いて、治療効果の開始を決定することができた(図20および29参照)。
【0074】
他の非神経毒性プラスミノーゲン活性化因子同様、DSPAは組織損傷副作用を示さない。しかし、人体に自然に存在するグルタミン酸によって誘導される組織損傷を制限するために、脳梗塞を治療するための神経保護剤と併用してそれらを適用するのが好適かもしれない。競合的または非競合的にグルタミン酸レセプターを阻害する神経保護剤を使用することもできる。有用な組み合わせは、例えば、APV、APH、フェンシクリジン、MK−801、デキストロールフェンまたはセタミンなどのような、NMDA型、カイニン酸型、またはキスカル酸型のグルタミン酸レセプターに対する既知の阻害剤との組み合わせである。
【0075】
さらに、カチオン、特にZn−イオン陽イオンは、グルタミン酸レセプターによって調節されるカチオン・チャンネルを遮断するために神経毒作用を抑制することができるため、カチオンと組み合わせることも好適であるかもしれない。
【0076】
さらに好ましい実施形態では、非神経毒性のプラスミノーゲン活性化因子を、少なくとも一種類のさらに別の治療薬または薬学的に許容できる担体と組み合わせることもできる。細胞を活性化させることによって組織損傷の抑制を補助する治療薬と併用するのが、既に損傷された組織の再生に寄与し、または、さらなる脳梗塞が発生するのを防げるのに役立つため特に好適である。好ましい例は、キノンのような抗生物質、ヘパリンまたはヒルジンなどの抗凝血剤、また、シチコリンまたはアセチルサリチル酸との併用である。
【0077】
少なくとも一種類のトロンビン阻害剤と併用することも好適であろう。優先的には、トロンボモジュリン、および、例えばソルリン(solulin)、トリアビン(triabin)またはパリジピン(pallidipin)のようなトロンボモジュリン類似化合物を使用することもできる。さらに、抗炎症物質と併用することも、白血球による浸潤に影響を与えるため好適である。
【0078】
以下に、特徴的な治療例によって本発明に係る適用方式および処方を概説する。
【実施例】
【0079】
(t−PAとDSPAの比較試験)
(A.方法)
(1.動物)
野生型マウス(c57/Black6)およびt−PA欠乏マウス(t−PA−/−マウス)(c57/Black6)(Carmeliet et al.,1994)をベルギー国ルーバン(Leuven, Belgium)のPeter Carmeliet博士から入手した。
【0080】
(2.脳組織からの蛋白質抽出)
t−PAまたはDSPAのいずれかを注入した後の脳組織における蛋白質分解活性の測定をザイモグラフ解析によって行った(Granelli−Piperno and Reich,1974)。7日間にわたって海馬に注入した後、マウスを麻酔してから、PBSで経心臓的に灌流してから脳を切除した。海馬領域を取り出して、エッペンドルフチューブに移して、プロテアーゼインヒビターを含まない0.5%NP−40溶解用バッファーの等量液(w/v)(約30−50μm)(0.5%NP−40,10mM Tris−HCl pH7.4,10mM NaCL,3mM MgCl2,1mM EDTA)中でインキュベートした。手動式のガラス製ホモジナイザーで脳抽出物をホモジナイズし、氷上に30分間放置した。そして、サンプルを遠心分離して、上清を取り出した。存在する蛋白質の量を測定し(Bio−Rad−reagent)。
【0081】
(3.プロテアーゼのザイモグラフ解析)
Granelli,Piperno and Reich(1974)の方法に従い、ザイモグラフ解析によってサンプルおよび脳組織抽出物における蛋白質分解活性を測定した。組換え蛋白質(最大100nM)または脳組織抽出物(20μg)を含むサンプルに、非還元条件下で(10%)SDS−PAGEを行った。ゲルをプレートから取り出して、1%トリトン×100で2時間洗浄してから、重合されたフィブリノーゲンおよびプラスミノーゲンを含むアガロースゲルの上に重ねた(Granelli,Piperno and Reich,1974)。このゲルを、蛋白質分解ゾーンが現れるまで加湿チャンバーにおいて37℃でインキュベートした。
【0082】
(4.t−PA、DSPAの海馬内注入およびその後のカイニン酸注射)
カイニン酸損傷モデルは、Tsirka et al.(1995)の研究に基づいていた。動物にアトロピン(4 mg/kg)を腹腔内(i.p.)注射した後、ペントバルビタール・ナトリウム(70 mg/kg)のi.p.注射によって麻酔した。その後、マウスを定位固定式の枠に置いて、100μlのPBSまたは組換えヒトt−PA(0.12mg/ml,1.85μM)またはDSPAα1(1.85μM)のいすれかを含む小型浸透圧ポンプ(Alzet model 1007D,Alzet CA.USA)を肩胛骨の間の皮下に埋め込んだ。このポンプを、無菌チューブを経由して脳カニューレに接続してから、正中部付近にある液体を導入するため、ブレグマ方向に−2.5mm、内外方向に0.5mm、また背腹方向に1.6mmという座標で頭蓋骨に作ったギザギザの開口部を通して挿入した。カニューレを所望の位置に固定して、ポンプからそれぞれの溶液を1時間あたり0.5μlという速度で、全部で7日間注入した。
【0083】
プロテアーゼを注入してから2日後にマウスを再度麻酔して、再び固定枠に置いた。その後、0.3μlのPBS中1.5nmolのカイニン酸(KA)を海馬に片側的に注射した。座標は、ブレグマ方向に−2.5mm、内外方向に1.7mm、また背腹方向に1.6mmであった。興奮毒(KA)を30秒間送達した。カイニン酸処理の後、注射針をこれらの座標にさらに2時間残して、液体が逆流するのを防いだ。
【0084】
(5.脳の処理法)
KA注射から5日後に、動物を麻酔して、30mlのPBSで、その後70mlの4%パラホルムアルデヒド溶液で経心臓的に灌流して、同じ固定液で後固定した後、30%ショ糖液でさらに24時間インキュベートした。そして、凍結ミクロトーム上で脳の冠状断面(40μm)を切り出し、チオニン(BDH、Australia)で対比染色するか、後述するような免疫組織化学的検査を行うために処理した。
【0085】
(6.海馬内における神経細胞脱落の定量)
CA1〜CA3の海馬亜領域における神経細胞脱落の定量を既述されている通りに行った(Tsirka et al.,1995;Tsirka et al.,1996)。すべての処理群から背側海馬の連続した5つの部分を、その部位が、CA注射した場所と損傷領域を実際に含むように注意しながら調製した。これらの切片の海馬亜領域(CA1〜CA3)を、海馬のカメラルシーダ画像法によってトレースした。これら亜領域の全長を、同じ倍率下で、1mm基準で比較して測定した。生きた錐体神経(正常な形態を有する)をもつ組織の長さと、神経細胞のない(細胞がなく、チオニン染色されない)組織の長さを測定した。各海馬亜領域にわたる完全な神経細胞および神経細胞脱落を示す長さを、切片の全域について平均して、標準偏差を決定した。
【0086】
(7.t−PAまたはDSPAの有無による線条体内NMDA興奮毒性損傷)
野生型マウス(c57/Black6)を麻酔して、定位固定式の枠に入れた(上記参照)。そして、左側の線条体に50nmolのNMDAを片側的に、単独、または46μMのrt−PAまたは46μMのDSPAα1と併用して注射した。対照として、t−PAおよびDSPAも単独で注射した(どちらも濃度46μM)。注射した座標は、ブレグマ方向に−0.4mm、内外方向に2.0mm、また背腹方向に2.5mmであった。溶液(すべての処置につき全量で1μl)を5分間にわたって0.2μl/分の速度で移動させ、注射後さらに2分間、針をそのままにして、液体が逆流するのを抑えた。24時間後、マウスに麻酔をかけ、30mlのPBS、その後70mlの4%パラホルムアルデヒド溶液で経心臓的に灌流して、同じ固定液で24時間後固定した後、30%ショ糖液でさらに24時間インキュベートした。そして、凍結ミクロトーム上で脳を切り出し(40μm)、ゼラチンコートしたスライドガラスにマウントした。
【0087】
(8.NMDA注射後の損傷量の定量)
Callaway et al.(2000)によって記載された方法を用いて、線条体損傷容量の定量を行った。損傷された領域にまたがる10個の連続した冠状断面を調製した。Callaway法を用いて、損傷された領域を可視化し、マイクロコンピュータ画像化装置(MCID,Imaging Research Inc.,Brock University,Ontario,Canada)によって損傷量を定量した。
【0088】
(9.免疫組織化学法)
標準的な方法を用いて免疫組織化学法を行った。冠状断面を3%H2O2および10%メタノールの溶液に5分間浸した後、5%の正常なヤギ血清中で60分間インキュベートした。切片を、星状細胞を検出するための抗GFAP抗体(1:1,000;Dako,Carpinteria,CA.,USA)、小グリア細胞を検出するための抗MAC−1抗体(1:1,000;Serotec,Raleigh,N.C.,USA)、または、ポリクローナル抗体である抗DSPA抗体(Schering AG,Berlin)のいずれかとともに一晩インキュベートした。洗浄した後、切片を、適当なビオチン化二次抗体(Vector Laboratories,Burlingame,CA.,USA)とともにインキュベートした。その後、3,3’−ジアミンベブシジン(diaminebebcidine)/0.03%H2O2で可視化するまえに、最後にアビジン/ビオチン複合体とともに60分間インキュベートした。そして、切片をゼラチンコートしたスライドにマウントして、乾燥、脱水し、パーマウントでカバースリップをのせた。
【0089】
(10.t−PAまたはDSPAの静脈内投与による、NMDA注射によって誘発される組織損傷の促進)
線条体内に組織損傷を生じさせるために、マウスを定位固定してNMDAを注射した。NMDAを注射してから6時間後、t−PAまたはDSPA(100μl;10mg/kg)を尾静脈から注射した。対照として、100μlの0.9%NaClを注射した後、PBSを注入した。28時間後、動物を殺して損傷量を測定した。
【0090】
2回目の実験では、同様に、NMDA注射の24時間後にt−PAまたはDSPAの注射液で15匹までのマウスを含む動物群に注射し、その後組織損傷を測定した。脳内にDSPAが存在することの証拠として、常法にしたがって冠状断面を抗DSPA抗体で染色した。
【0091】
(B.結果)
(1.t−PAまたはDSPAを注入すると、t−PA−/−マウスの海馬に分散し、蛋白質分解活性を保持する)
t−PAおよびDSPAがともに、7日間の注入期間の間蛋白質分解活性を保持することを確認するために最初の実験を設計した。この目的で、t−PAおよびDSPAの等量液(100nmol)を湯浴槽中37℃および30℃でインキュベートした。蛋白質分解活性を測定するために、プローブの5倍段階希釈液について、非還元的条件下でSDS−PAGEを行って、ザイモグラフ解析によって蛋白質分解活性を測定した。7日間凍結しておいたt−PAおよびDSPAの等量液を対照として使用した。図1から分かるように、この時間内では、25℃でインキュベートしても、37℃でインキュベートしても、t−PAまたはDSPAの活性はわずかに失われただけであった。
【0092】
(2.注入後t−PA−/−マウスから調製された海馬抽出物においてt−PAまたはDSPAの活性は回復される)
まず、注入を受けた動物の脳の中に注入されたプロテアーゼが存在していて、また、このコンパートメントに存在する間、蛋白質分解活性を保持していることを確認する必要があった。この点を扱うために、t−PA−/−にt−PAまたはDSPAのいずれを7日間注入した(上記参照)。そして、マウスを、PBSで経心臓的に灌流し、脳を取り出した。同側および対側にある海馬領域と、小脳の一領域(陰性対照として)とを単離した。方法の部の記載に従って、組織サンプル(20μg)に対してSDS−PAGEおよびザイモグラフ解析を行った。図2から分かるように、t−PAおよびDSPAの活性は両方とも、海馬の同側領域で検出され、一方、対側でもいくらかの活性が検出された。このことは、注入されたプロテアーゼが、脳の中で活性を保持しただけでなく、海馬領域内にさらに分散したことを示している。対照として、小脳から調製された抽出物では活性を検出できなかった。
【0093】
(3.DSPAの免疫組織化学測定)
DSPAが海馬領域に確かに分散したことを確認するために、DSPA注入後、t−PA−/−マウスの脳の冠状断面を免疫組織化学的に解析した。DSPA抗原が、海馬領域において、注入部位領域で最も顕著な染色を示して検出された。この結果は、注入されたDSPAが可溶性であり、実際に海馬に存在することが確認するものである。
【0094】
(4.DSPAの注入によって、カイニン酸によるインビボでの神経変性は回復されない)
特徴的なことに、t−PA−/−マウス徴は、カイニン酸(KA)が介在する神経変性に耐性である。しかし、rt−PAの海馬内注入によって、KA介在型損傷に対する感受性が完全に回復される。このモデルにおいて、DSPAがt−PAに代用しうるか否かを判定するために、ミニ浸透圧ポンプを用いて、t−PA−/−マウスの海馬内にt−PAまたはDSPAを注入した。両群につき12匹のマウスをテストした。2日後、動物にカイニン酸を注射して、回復させた。5日後、動物を殺して、脳を取り出して調製した(上記参照)。対照として、t−PA−/−マウスに、KA処理する前にPBSを注入した(N=3)。
【0095】
脳の冠状断面を調製して、Nissl染色によって神経細胞を検出した。図4aおよび4bに示すように、PBSを注入されたt−PA−/−マウスは、その後のKA投与に対して耐性であった。しかし、組換えt−PAを注入すると、KA処理に対する感受性が回復された。それに対して、同じ濃度のDSPAを海馬領域に注入しても、KAに対する動物の感受性は変化しなかった。
【0096】
これらの結果の定量は、各群中の12匹のマウスからデータに基づいていた。DSPAを注入された12匹のマウスのうち2匹では、軽度の神経変性が見られた。その理由は明確でないが、おそらく、DSPAが存在したこととは無関係であったろう。まとめられたデータは、これら2匹の動物の症例で見られた些細な作用も考慮している。t−PAで処理された12匹のハツカネズミはすべて、KA処理に対して感受性であった。これらの結果は、t−PAまたはDSPAα1を等モル濃度で注入した場合には、t−PAを投与した場合にだけ、KA誘導による神経変性に対する感受性が回復する結果となることを示している。
【0097】
(5.DSPA注入は、小グリア細胞の活性化をもたらさない)
t−PA注入によってもたらされた、t−PA−/−マウスのKA感受性の回復は、小グリア活性化ももたらす(Rogove et al,1999)。t−PAまたはDSPAの注入、およびその後KA処理した後の小グリア活性化の程度を測定するために、Mac−1抗体を用いて、マウスの冠状断面に対し、活性化小グリア細胞のため免疫組織化学染色を行った。t−PA注入後にKA感受性を回復した結果、Mac−1陽性細胞が明らかに増加した。これは、DSPAを注入されたマウスでは観察されなかった。したがって、DSPAが存在しても、KA処理の後に小グリア細胞を活性化させる結果とはならない。
【0098】
(6.マウスの海馬領域におけるDSPAおよびt−PAの滴定)
注入に使用したt−PAの濃度は、Tsirka et al.(1995)に記載されている濃度(0.12mg/mlを100μl[1.85μM]).10倍低いt−PA(0.185μM)および10倍高いDSPA量(18.5μM)を用いて、KA損傷実験を反復した。低t−PA濃度でも、なお、KA処理に対する感受性を回復することができた(n=3)。特に興味があるのは、10倍高いDSPA濃度を注入すると、KA処理後わずかな神経細胞脱落が起きるという発見である。これらのデータは、DSPAが、KAに対する感受性を増強させないことを強く示している。
【0099】
(7.野生型マウスにおけるNMDA依存型神経変性に対するt−PAおよびDSPAの効果)
t−PAおよびDSPAの効果も、野生型マウスにおける神経変性のモデルにおいて調べた。これらマウスの線条体にt−PAを注入すると、グルタミン酸の類似化合物であるNMDAによって引き起こされる神経変性作用が明らかにもたらされた(Nicole et al.,2001)。
【0100】
野生型マウスの線条体領域に、t−PAまたはDSPA存在下(それぞれ46μM)、総容量1μlのNMDAを注射した。24時間後、脳を取り出して、Callaway法(Callaway et al.,2000)(上記参照)によって損傷のサイズを定量した。図7から分かるように、NMDAを単独で注射すると、すべてのマウスで再現可能な損傷が生じた(N=4)。t−PAおよびNMDAを一緒に適用すると、損傷のサイズが約50%(P<0.01、n=4)増加した。これとは明らかに対照的に、NMDA、および同じ濃度のDSPAを同時に注射すると、NMDA単独の場合と較べて損傷のサイズが増加した。
【0101】
t−PAまたはDSPA単独の注射では、検出可能な神経変性に至らなかった。単独で投与されたときにt−PAの作用がないことは、Nicole et al.(2001)の結果と一致している。これらのデータは、DSPAが存在すると、たとえ神経変性が起きている最中であっても、神経変性を促進させないことを示している。
【0102】
DSPAの注射液が海馬領域の中に実際に拡散したことを確認するために、DSPA抗体を使用して、冠状断面上で免疫組織化学法を行った。試験の結果、DSPAは、実際に線条体領域に入らなかったことが示された。
【0103】
(間接的色原体試験によるプラスミノーゲン活性化の動態解析)
t−PA活性の間接的な色原体テストを、Madisan E.L.,Goldsmith E. J., Gerard R. D., Gething M.−J., Sambrook J.F.(1989)Nature 339 721−724;Madison E.LO.,Goldsmith E.J.,Gething M.J.,Sambrook J.F.and Bassel−Duby R.S.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 87,3530−3533、また、Madison E.L.,Goldsmith E.J.,Gething M.J.,Sambrook J.F.and Gerard R.D.(1990)J.Biol.Chem 265,21423−21426に記載されている基質であるLys−プラスミノーゲン(American Diagnostica)およびスペクトロザイム(spectrocyme)PL(American Diagnostica)を用いて行った。試験は、補助因子であるDESAFIB(American Diagnostica)の存在下および非存在下で行った。DESAFIBは、非常に純度の高いヒトフィブリノーゲンをプロテアーゼであるバトロキソビンで切断して得られる可溶性フィブリンモノマー製剤である。バトロキソンビンは、フィブリノーゲンのAα−鎖中のArg16−Gly17結合およびそのためにリリースfibrinopeptid AのA.alpha。鎖の中のArg.sup.16−Gly.sup.17結合を切断して、線維素ペプチドAを放出する。その結果得られる、フィブリンIモノマーを代表するdes−AA−フィブリノーゲンは、ペプチドGly−Pro−Arg−Proがなければ可溶性である。Lys−プラスミノーゲンの濃度は、DESAFIB存在下では、0.0125から0.2μMまで変化させ、補助因子の非存在下では、0.9から16μMまで変化させた。
【0104】
(さまざまな刺激物質存在下における間接的色原体試験)
上記引用した刊行物に従って、間接的色原体試験を行った。0.25〜1ngの酵素、0.2μMのLys−プラスミノーゲン、および0.62mMのスペクトロザイムPLを含む全量で100μlのプローブを用いた。試験は、バッファー、25μg/mlのDESAFIB、100μg/mlのフィブリノーゲンの臭化シアンフラグメント(American Diagnostica)、または100μg/mlの刺激性13アミノ酸ペプチドP368のいずれかの存在下で行った。解析は、マイクロタイタープレートの中で行い、光学密度を、「Molecular Devices Thermomax」において、405nmの波長で30秒ごと、1時間測定した。反応温度は37℃であった。
【0105】
(8.静脈内適用の場合には、DSPAも神経組織損傷の増加を起こさない)
マウスの線条体では、NMDAを注射してから、6時間または24時間後にt−PAまたはDSPAを静脈内適用しても、組織損傷は誘導されなかった。陰性対照と比較して、NMDAを注射してから24時間後にt−PAを静脈内注入液として投与すると、実験動物は、NMDA注射によって、約30%の損傷組織面積の増加を示したが、これは、組織損傷をそのようには増加させなかったDSPAとは対照的であった(図18参照)。抗DSPA抗体を用いた冠状断面の染色により、NMDAを注射してから24時間後にt−PAを静脈内注入液として投与すると、損傷組織の面積内へ浸透したことを検出することは、可能であった(図19参照)。同じように、NMDAを注射してから6時間後にt−PAまたはDSPAを静脈内適用した場合には、損傷組織の面積の増加は今のところ検出されていない。これは、t−PAまたはDSPAを適用した時点では、血液脳関門が、まだ十分な障壁機能を提供していたというのが理由かもしれない。このように、静脈内適用する場合には、DSPAも神経毒副作用を示さない。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】記載なし。
【図2】記載なし。
【図4a】記載なし。
【図4b】記載なし。
【図7】記載なし。
【図9】記載なし。
【図10】記載なし。
【図11】記載なし。
【図12】記載なし。
【図13】記載なし。
【図14】記載なし。
【図15】記載なし。
【図16】記載なし。
【図17】記載なし。
【図18】記載なし。
【図19】記載なし。
【図20】記載なし。
【図21】記載なし。
【図22】記載なし。
【図23】記載なし。
【図24】記載なし。
【図25】記載なし。
【図26】記載なし。
【図27】記載なし。
【図28】記載なし。
【図29】記載なし。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスミノーゲン活性化因子の使用であって、該プラスミノーゲン活性化因子の活性が、脳梗塞を治療するための静脈内適用可能な薬物を製造するためにフィブリン存在下で少なくとも650倍増強される、プラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項2】
Desmodus rotundusのプラスミノーゲン活性化因子(DSPA)またはその薬学的に受容可能な塩の使用を特徴とする、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項3】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、アスパラギン酸残基とともに、シモゲントライアドの少なくとも一部を形成する、少なくともヒスチジン残基またはセリン残基を含む、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項4】
前記セリン残基が、t−PAの292位と少なくとも部分的に相同な位置に位置し、前記ヒスチジン残基が、t−PAの305位と少なくとも部分的に相同な位置に位置し、そして前記アスパラギン酸残基が、t−PAの447位と少なくとも部分的に相同な位置に位置している、請求項3に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項5】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、以下のt−PA変異体:t−PA/R275E;t−PA/R275E、F305H;t−PA/R275E、F305H、A292Sの群から選択される、請求項4に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項6】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Asp194または相同な位置にあるアスパラギン酸の点変異を有し、該点変異が、フィブリンの非存在下でプラスミノーゲン活性化因子の触媒活性立体構造の安定性を低下させる、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項7】
Asp194が、グルタミン酸またはアスパラギンによって置換されている、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
ASP194の、Glu194またはAsn194による置換を含む、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、その自己分解ループの中に少なくとも1つの変異を含み、該変異が、フィブリンの非存在下でプラスミノーゲンとプラスミノーゲン活性化因子との間の機能的な相互作用を低下させる、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項10】
前記自己分解ループにおける少なくとも1つの変異が、野生型t−PAのアミノ酸位置420〜423または相同な位置に影響を与える、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記変異が、以下の変異体:L420A、L420E、S421G、S421E、P422A、P422G、P422E、F423AおよびF423Eからなる群から選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を含むシモゲンである、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項13】
前記点変異が、t−PAの15位もしくは275位、またはそれと相同な位置に位置する、請求項11に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項14】
グルタミン酸が、前記15位または275位に位置する、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記プラスミノーゲン活性化が、His420、Asn421、Ala422およびCys423を含む自己分解ループを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項16】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、フィブリンの非存在下で該プラスミノーゲン活性化因子の触媒活性立体構造の安定性を低下させる194位における点変異を特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項17】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Phe194を特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項18】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項19】
前記プラスミノーゲン活性化因子がGlu275を含む、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項21】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Val420,Thr421,Asp422およびSer423を含む自己分解ループを有するウロキナーゼである、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記ウロキナーゼが、フィブリンの非存在下でウロキナーゼの触媒活性立体構造の安定性を低下させる194位における点変異を特徴とする、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
前記ウロキナーゼが、Glu194を含む、請求項21に記載の使用。
【請求項24】
前記ウロキナーゼが、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を特徴とする、請求項20〜22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
前記プラスミノーゲン活性剤が、配列番号2に記載の配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項26】
点滴を特徴とする、請求項1〜25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
ボーラス注射を特徴とする、請求項1〜26のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
単回ボーラス注射を特徴とする、請求項26に記載の使用。
【請求項29】
脳梗塞を治療するための薬物を製造するためにILE275を含むウロキナーゼの使用であって、該ウロキナーゼが静脈内注射される、使用。
【請求項30】
脳梗塞発症の少なくとも3時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜29のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
脳梗塞発症の少なくとも6時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜30の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項32】
脳梗塞発症の少なくとも9時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜31の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項33】
前記脳梗塞の発症が時間的には正確に決められない脳梗塞患者を治療的処置するための、請求項1〜32の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項34】
野生型t−PAの神経毒性を回避しつつ脳梗塞を治療するための、請求項1〜33の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項35】
請求項1〜34の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子、および少なくとも1つのさらなる薬学的活性成分またはその薬学的に受容可能な塩を含有する薬学的組成物。
【請求項36】
神経保護剤を特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項37】
グルタミン酸レセプターアンタゴニストを特徴とする、請求項35に記載の薬学的組成物。
【請求項38】
競合的アンタゴニストまたは非競合的アンタゴニストを特徴とする、請求項36に記載の薬学的組成物。
【請求項39】
以下の物質:トロンボモジュリン、トロンボモジュリンアナログ、トリアビン、パリジピン、またはソルリンの群から優先的に選択される、少なくとも1つのトロンビンインヒビターを特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項40】
以下の抗凝血剤:ヒルジン、ヘパリン、アセチルサリチル酸またはアンクロドの群から優先的に選択される、少なくとも1つの抗凝血剤を特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項41】
抗炎症物質を特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項42】
抗生剤を特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項43】
シチコリンを特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスミノーゲン活性化因子の使用であって、該プラスミノーゲン活性化因子の活性が、脳梗塞を治療するための静脈内適用可能な薬物を製造するためにフィブリン存在下で少なくとも650倍増強される、プラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項2】
Desmodus rotundusのプラスミノーゲン活性化因子(DSPA)またはその薬学的に受容可能な塩の使用を特徴とする、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項3】
投薬量が、62.5〜230μg/kgである、請求項2に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項4】
投薬量が、62.5〜90μg/kgである、請求項3に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項5】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、アスパラギン酸残基とともに、シモゲントライアドの少なくとも一部を形成する、少なくともヒスチジン残基またはセリン残基を含む、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項6】
前記セリン残基が、t−PAの292位と少なくとも部分的に相同な位置に位置し、前記ヒスチジン残基が、t−PAの305位と少なくとも部分的に相同な位置に位置し、そして前記アスパラギン酸残基が、t−PAの447位と少なくとも部分的に相同な位置に位置している、請求項5に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項7】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、以下のt−PA変異体:t−PA/R275E;t−PA/R275E、F305H;t−PA/R275E、F305H、A292Sの群から選択される、請求項6に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項8】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Asp194または相同な位置にあるアスパラギン酸の点変異を有し、該点変異が、フィブリンの非存在下でプラスミノーゲン活性化因子の触媒活性立体構造の安定性を低下させる、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項9】
Asp194が、グルタミン酸またはアスパラギンによって置換されている、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
ASP194の、Glu194またはAsn194による置換を含む、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、その自己分解ループの中に少なくとも1つの変異を含み、該変異が、フィブリンの非存在下でプラスミノーゲンとプラスミノーゲン活性化因子との間の機能的な相互作用を低下させる、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項12】
前記自己分解ループにおける少なくとも1つの変異が、野生型t−PAのアミノ酸位置420〜423または相同な位置に影響を与える、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記変異が、以下の変異体:L420A、L420E、S421G、S421E、P422A、P422G、P422E、F423AおよびF423Eからなる群から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を含むシモゲンである、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項15】
前記点変異が、t−PAの15位もしくは275位、またはそれと相同な位置に位置する、請求項14に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項16】
グルタミン酸が、前記15位または275位に位置する、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記プラスミノーゲン活性化が、His420、Asn421、Ala422およびCys423を含む自己分解ループを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項18】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、フィブリンの非存在下で該プラスミノーゲン活性化因子の触媒活性立体構造の安定性を低下させる194位における点変異を特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項19】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Phe194を特徴とする、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項21】
前記プラスミノーゲン活性化因子がGlu275を含む、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項23】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Val420,Thr421,Asp422およびSer423を含む自己分解ループを有するウロキナーゼである、請求項1に記載の使用。
【請求項24】
前記ウロキナーゼが、フィブリンの非存在下でウロキナーゼの触媒活性立体構造の安定性を低下させる194位における点変異を特徴とする、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記ウロキナーゼが、Glu194を含む、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記ウロキナーゼが、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を特徴とする、請求項23〜25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記プラスミノーゲン活性剤が、配列番号2に記載の配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項28】
点滴を特徴とする、請求項1〜27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
ボーラス注射を特徴とする、請求項1〜28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
単回ボーラス注射を特徴とする、請求項26に記載の使用。
【請求項31】
脳梗塞を治療するための薬物を製造するためにILE275を含むウロキナーゼの使用であって、該ウロキナーゼが静脈内注射される、使用。
【請求項32】
脳梗塞発症の少なくとも3時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜31のいずれか一項に記載の使用。
【請求項33】
脳梗塞発症の少なくとも6時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜32の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項34】
脳梗塞発症の少なくとも9時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜33の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項35】
前記脳梗塞の発症が時間的には正確に決められない脳梗塞患者を治療的処置するための、請求項1〜34の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項36】
野生型t−PAの神経毒性を回避しつつ脳梗塞を治療するための、請求項1〜35の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項37】
請求項1〜36の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子、および少なくとも1つのさらなる薬学的活性成分またはその薬学的に受容可能な塩を含有する薬学的組成物。
【請求項38】
神経保護剤を特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項39】
グルタミン酸レセプターアンタゴニストを特徴とする、請求項38に記載の薬学的組成物。
【請求項40】
競合的アンタゴニストまたは非競合的アンタゴニストを特徴とする、請求項39に記載の薬学的組成物。
【請求項41】
以下の物質:トロンボモジュリン、トロンボモジュリンアナログ、トリアビン、パリジピン、またはソルリンの群から優先的に選択される、少なくとも1つのトロンビンインヒビターを特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項42】
以下の抗凝血剤:ヒルジン、ヘパリン、アセチルサリチル酸またはアンクロドの群から優先的に選択される、少なくとも1つの抗凝血剤を特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項43】
抗炎症物質を特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項44】
抗生剤を特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項45】
シチコリンを特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項1】
プラスミノーゲン活性化因子の使用であって、該プラスミノーゲン活性化因子の活性が、脳梗塞を治療するための静脈内適用可能な薬物を製造するためにフィブリン存在下で少なくとも650倍増強される、プラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項2】
Desmodus rotundusのプラスミノーゲン活性化因子(DSPA)またはその薬学的に受容可能な塩の使用を特徴とする、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項3】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、アスパラギン酸残基とともに、シモゲントライアドの少なくとも一部を形成する、少なくともヒスチジン残基またはセリン残基を含む、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項4】
前記セリン残基が、t−PAの292位と少なくとも部分的に相同な位置に位置し、前記ヒスチジン残基が、t−PAの305位と少なくとも部分的に相同な位置に位置し、そして前記アスパラギン酸残基が、t−PAの447位と少なくとも部分的に相同な位置に位置している、請求項3に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項5】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、以下のt−PA変異体:t−PA/R275E;t−PA/R275E、F305H;t−PA/R275E、F305H、A292Sの群から選択される、請求項4に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項6】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Asp194または相同な位置にあるアスパラギン酸の点変異を有し、該点変異が、フィブリンの非存在下でプラスミノーゲン活性化因子の触媒活性立体構造の安定性を低下させる、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項7】
Asp194が、グルタミン酸またはアスパラギンによって置換されている、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
ASP194の、Glu194またはAsn194による置換を含む、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、その自己分解ループの中に少なくとも1つの変異を含み、該変異が、フィブリンの非存在下でプラスミノーゲンとプラスミノーゲン活性化因子との間の機能的な相互作用を低下させる、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項10】
前記自己分解ループにおける少なくとも1つの変異が、野生型t−PAのアミノ酸位置420〜423または相同な位置に影響を与える、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記変異が、以下の変異体:L420A、L420E、S421G、S421E、P422A、P422G、P422E、F423AおよびF423Eからなる群から選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を含むシモゲンである、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項13】
前記点変異が、t−PAの15位もしくは275位、またはそれと相同な位置に位置する、請求項11に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項14】
グルタミン酸が、前記15位または275位に位置する、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記プラスミノーゲン活性化が、His420、Asn421、Ala422およびCys423を含む自己分解ループを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項16】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、フィブリンの非存在下で該プラスミノーゲン活性化因子の触媒活性立体構造の安定性を低下させる194位における点変異を特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項17】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Phe194を特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項18】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項19】
前記プラスミノーゲン活性化因子がGlu275を含む、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項21】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Val420,Thr421,Asp422およびSer423を含む自己分解ループを有するウロキナーゼである、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記ウロキナーゼが、フィブリンの非存在下でウロキナーゼの触媒活性立体構造の安定性を低下させる194位における点変異を特徴とする、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
前記ウロキナーゼが、Glu194を含む、請求項21に記載の使用。
【請求項24】
前記ウロキナーゼが、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を特徴とする、請求項20〜22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
前記プラスミノーゲン活性剤が、配列番号2に記載の配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項26】
点滴を特徴とする、請求項1〜25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
ボーラス注射を特徴とする、請求項1〜26のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
単回ボーラス注射を特徴とする、請求項26に記載の使用。
【請求項29】
脳梗塞を治療するための薬物を製造するためにILE275を含むウロキナーゼの使用であって、該ウロキナーゼが静脈内注射される、使用。
【請求項30】
脳梗塞発症の少なくとも3時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜29のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
脳梗塞発症の少なくとも6時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜30の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項32】
脳梗塞発症の少なくとも9時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜31の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項33】
前記脳梗塞の発症が時間的には正確に決められない脳梗塞患者を治療的処置するための、請求項1〜32の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項34】
野生型t−PAの神経毒性を回避しつつ脳梗塞を治療するための、請求項1〜33の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項35】
請求項1〜34の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子、および少なくとも1つのさらなる薬学的活性成分またはその薬学的に受容可能な塩を含有する薬学的組成物。
【請求項36】
神経保護剤を特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項37】
グルタミン酸レセプターアンタゴニストを特徴とする、請求項35に記載の薬学的組成物。
【請求項38】
競合的アンタゴニストまたは非競合的アンタゴニストを特徴とする、請求項36に記載の薬学的組成物。
【請求項39】
以下の物質:トロンボモジュリン、トロンボモジュリンアナログ、トリアビン、パリジピン、またはソルリンの群から優先的に選択される、少なくとも1つのトロンビンインヒビターを特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項40】
以下の抗凝血剤:ヒルジン、ヘパリン、アセチルサリチル酸またはアンクロドの群から優先的に選択される、少なくとも1つの抗凝血剤を特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項41】
抗炎症物質を特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項42】
抗生剤を特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【請求項43】
シチコリンを特徴とする、請求項34に記載の薬学的組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスミノーゲン活性化因子の使用であって、該プラスミノーゲン活性化因子の活性が、脳梗塞を治療するための静脈内適用可能な薬物を製造するためにフィブリン存在下で少なくとも650倍増強される、プラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項2】
Desmodus rotundusのプラスミノーゲン活性化因子(DSPA)またはその薬学的に受容可能な塩の使用を特徴とする、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項3】
投薬量が、62.5〜230μg/kgである、請求項2に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項4】
投薬量が、62.5〜90μg/kgである、請求項3に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項5】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、アスパラギン酸残基とともに、シモゲントライアドの少なくとも一部を形成する、少なくともヒスチジン残基またはセリン残基を含む、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項6】
前記セリン残基が、t−PAの292位と少なくとも部分的に相同な位置に位置し、前記ヒスチジン残基が、t−PAの305位と少なくとも部分的に相同な位置に位置し、そして前記アスパラギン酸残基が、t−PAの447位と少なくとも部分的に相同な位置に位置している、請求項5に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項7】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、以下のt−PA変異体:t−PA/R275E;t−PA/R275E、F305H;t−PA/R275E、F305H、A292Sの群から選択される、請求項6に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項8】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Asp194または相同な位置にあるアスパラギン酸の点変異を有し、該点変異が、フィブリンの非存在下でプラスミノーゲン活性化因子の触媒活性立体構造の安定性を低下させる、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項9】
Asp194が、グルタミン酸またはアスパラギンによって置換されている、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
ASP194の、Glu194またはAsn194による置換を含む、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、その自己分解ループの中に少なくとも1つの変異を含み、該変異が、フィブリンの非存在下でプラスミノーゲンとプラスミノーゲン活性化因子との間の機能的な相互作用を低下させる、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項12】
前記自己分解ループにおける少なくとも1つの変異が、野生型t−PAのアミノ酸位置420〜423または相同な位置に影響を与える、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記変異が、以下の変異体:L420A、L420E、S421G、S421E、P422A、P422G、P422E、F423AおよびF423Eからなる群から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を含むシモゲンである、請求項1に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項15】
前記点変異が、t−PAの15位もしくは275位、またはそれと相同な位置に位置する、請求項14に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項16】
グルタミン酸が、前記15位または275位に位置する、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記プラスミノーゲン活性化が、His420、Asn421、Ala422およびCys423を含む自己分解ループを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項18】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、フィブリンの非存在下で該プラスミノーゲン活性化因子の触媒活性立体構造の安定性を低下させる194位における点変異を特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項19】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Phe194を特徴とする、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項21】
前記プラスミノーゲン活性化因子がGlu275を含む、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項23】
前記プラスミノーゲン活性化因子が、Val420,Thr421,Asp422およびSer423を含む自己分解ループを有するウロキナーゼである、請求項1に記載の使用。
【請求項24】
前記ウロキナーゼが、フィブリンの非存在下でウロキナーゼの触媒活性立体構造の安定性を低下させる194位における点変異を特徴とする、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記ウロキナーゼが、Glu194を含む、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記ウロキナーゼが、プラスミンによる触媒を防げる少なくとも1つの点変異を特徴とする、請求項23〜25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記プラスミノーゲン活性剤が、配列番号2に記載の配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項28】
点滴を特徴とする、請求項1〜27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
ボーラス注射を特徴とする、請求項1〜28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
単回ボーラス注射を特徴とする、請求項26に記載の使用。
【請求項31】
脳梗塞を治療するための薬物を製造するためにILE275を含むウロキナーゼの使用であって、該ウロキナーゼが静脈内注射される、使用。
【請求項32】
脳梗塞発症の少なくとも3時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜31のいずれか一項に記載の使用。
【請求項33】
脳梗塞発症の少なくとも6時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜32の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項34】
脳梗塞発症の少なくとも9時間後に、ヒトにおいて脳梗塞を治療的処置するための、請求項1〜33の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項35】
前記脳梗塞の発症が時間的には正確に決められない脳梗塞患者を治療的処置するための、請求項1〜34の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項36】
野生型t−PAの神経毒性を回避しつつ脳梗塞を治療するための、請求項1〜35の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子の使用。
【請求項37】
請求項1〜36の少なくとも一項に記載のプラスミノーゲン活性化因子、および少なくとも1つのさらなる薬学的活性成分またはその薬学的に受容可能な塩を含有する薬学的組成物。
【請求項38】
神経保護剤を特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項39】
グルタミン酸レセプターアンタゴニストを特徴とする、請求項38に記載の薬学的組成物。
【請求項40】
競合的アンタゴニストまたは非競合的アンタゴニストを特徴とする、請求項39に記載の薬学的組成物。
【請求項41】
以下の物質:トロンボモジュリン、トロンボモジュリンアナログ、トリアビン、パリジピン、またはソルリンの群から優先的に選択される、少なくとも1つのトロンビンインヒビターを特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項42】
以下の抗凝血剤:ヒルジン、ヘパリン、アセチルサリチル酸またはアンクロドの群から優先的に選択される、少なくとも1つの抗凝血剤を特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項43】
抗炎症物質を特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項44】
抗生剤を特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【請求項45】
シチコリンを特徴とする、請求項37に記載の薬学的組成物。
【図1】
【図2】
【図4a】
【図4b】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図4a】
【図4b】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公表番号】特表2006−525270(P2006−525270A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505347(P2006−505347)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004626
【国際公開番号】WO2004/096268
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(505081191)パイオン ドイチュラント ゲーエムベーハー (11)
【氏名又は名称原語表記】PAION Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】Martinstrasse 10−12, 52062 Aachen, Deutschland
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004626
【国際公開番号】WO2004/096268
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(505081191)パイオン ドイチュラント ゲーエムベーハー (11)
【氏名又は名称原語表記】PAION Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】Martinstrasse 10−12, 52062 Aachen, Deutschland
【Fターム(参考)】
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