説明

脳由来神経栄養因子の発現誘導剤および発現誘導方法

【課題】脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を誘導する低分子化合物と該低分子化合物のBDNF発現誘導剤としての利用。
【解決手段】
【化1】


一般式[1]のアセチレン型ピレスノイドは、神経細胞へ直接的に作用してBDNF発現を誘導することから、BDNF発現減少が認められている多くの神経変性疾患や精神疾患の治療剤、さらに健常人の記憶力増強剤として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳由来神経栄養因子(brain-derivedneurotrophic factor;以下、BDNFと称する。)の発現誘導剤および発現誘導方法に関し、さらに詳しくは、アセチレン型ピレスノイドのBDNF発現誘導剤としての利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
BDNFはニューロトロフィンと呼ばれるファミリーに属する分泌性タンパク質である。その生理作用は、神経細胞の生存・維持や神経突起の形態調節など多岐にわたる。最近では、BDNFが記憶固定化など長期的な神経可塑性に関わることが明らかになっており、これはBDNFがシナプス構造を成熟化させる機能性を有することと関係しているものと考えられている。また、多くの神経変性疾患や精神疾患において、BDNF発現減少が認められている。
BDNF遺伝子の発現制御系の解析から、BDNF遺伝子の発現制御系はシナプス活動の種類や強さと深く関わっており、神経回路を伝わってきた環境情報を遺伝情報に変換する上で根幹的な役割を果たしていることが明らかになってきている。従って、BDNF発現誘導剤の開発は、神経疾患治療の鍵を握る可能性が強い。
【0003】
家庭用殺虫剤として汎用されているピレスロイド系薬剤として、シクロプロピルカルボン酸とフェノキシベンズアルデヒドシアノヒドリンがエステル結合したものを基本骨格とする化合物群がある。この化合物群は、デルタメトリンに代表される分子内にシアノ基を持つことを特徴とするII型と、分子内にシアノ基を持たないI型に大別される。
II型ピレスロイド系殺虫剤は、自発的なシナプス活動が誘導されるラット大脳皮質初代神経細胞培養系において、BDNFの発現誘導を顕著に引き起こす、しかし、I型ピレスロイド系殺虫剤は、BDNF発現誘導能を示さないことが知られている(非特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】Imamura et al., J. Pham.Exp. Ther., 316: 136-143, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
動物体内に投与して脳内にBDNF発現を引き起こせる薬剤はすでに報告されているが、それら薬剤のBDNF発現誘導機構は間接的なものであり動物への効果もはっきりしない。また、初代神経細胞へ直接的に作用してBDNF発現を誘導できる薬剤としてカルシウムチャネル活性化剤(例えば、BayK8644)が挙げられるが、これらを動物に投与すると動物に強い酩酊状態が生じる。
一方、例えば、II型ピレスロイド系のデルタメトリンは、神経細胞に直接的に作用して、高いBDNF発現誘導能を示すが、ラット腹腔に20mg/kg以上で投与しても毒性を示さず、WHOの環境保護クライテリア97で低毒性の合成ピレスロイドとされている。
ところで、II型ピレスロイド系殺虫剤は、分子内にシアノ基を有することから、生体内で代謝される際にシアン化水素が生成し、ミトコンドリア膜に存在するエネルギー(ATP)合成経路を阻害する可能性があり、体への見えない影響が懸念される。
従って、II型ピレスロイドからシアノ基を除き、BDNF発現誘導能を持つピレスロイドの開発が望まれた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、課題を解決するために、デルタメトリンに代表されるII型ピレスロイドのシアノ基の代わりに、トリフルオロメチル基を導入したピレスロイド化合物を合成し、BDNF発現誘導能を検討した。その結果、該合成化合物に、BDNF発現誘導は認められなかった。このことは、電子求引性と誘導能とは関係ないことを示している。そこで、シアノ基と同じ三重結合を持つアセチレン基に換えたピレスロイド化合物を合成し、BDNF発現誘導能を検討した。その結果、アセチレン基を持つII型のピレスロイドがBDNF誘導能を有すること見出した。さらに研究を進め、アセチレン基に置換基を導入した化合物においてもBDNF誘導能が保持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明において、特に断らない限り、ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を;低級アルキル基とは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどC1-6アルキル基を;低級アルキニル基とは、ビニル、プロペニルなどC2-6アルケニル基を;アリール基とは、フェニルまたはナフチルを;それぞれ意味する。
【0008】
本発明に使用されるアセチレン型ピレスノイドは、以下の一般式[1]で表される。
【化1】


「式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい低級アルキル基またはアリール基を;R、R、Rは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を;R、Rは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、ハロゲノ低級アルキル基または低級アルコキシ基を;Xは、酸素原子、硫黄原子、イミノ基またはメチレン基を、それぞれ意味する。」
【0009】
一般式[1]の化合物において、好ましい化合物は、以下の一般式[1a]の化合物である。
【化2】


「式中、R1aは、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子が置換されていてもよい低級アルキル基を;R3aは、ハロゲン原子を;R4aは、ハロゲン原子を、それぞれ意味する。
【0010】
さらに、本発明は、一般式[1b]の新規なアセチレン型ピレスノイド化合物を含むものである。
【化3】


「式中、R1bは、塩素原子、臭素原子またはハロゲン原子が置換した低級アルキル基を意味する」
【0011】
一般式[1]、[2]、[3]の化合物またはそれらの塩において、異性体(例えば、光学異性体、幾何異性体および互変異性体など)が存在する場合、本発明は、それらの異性体を包含し、また、溶媒和物、水和物および種々の形状の結晶を包含するものである。
【0012】
次に、本発明の脳由来神経栄養因子の発現誘導剤に使用される一般式[1]の化合物の製造法について説明する。
一般式[1]の化合物は、自体公知の方法を組合せることにより製造できるが、例えば、以下に示す製造法により製造することができる。
(製造ルート)
【0013】
【化4】

【0014】
一般式[1]の化合物は、一般式[4]のアルコール化合物(式中、R、R、R、Xは、前記したと同様の意味を表わす。)と一般式[3]のカルボン酸(式中、R、R、Rは、前記したと同様の意味を表わす。)またはその反応性誘導体とを反応させることにより製造することができる。
カルボン酸の反応性誘導体としては、例えば、酸ハロゲン化合物または酸無水物等が挙げられる。
【0015】
反応は、必要に応じて適当な縮合剤または塩基の存在下、不活性溶媒中で行なうのが好ましい。縮合剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)または1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドハイドロクロリド(WSC)等が挙げられる。塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、ジイソプロピルエチル アミン等の有機塩基が挙げられる。溶媒は、例えばベンゼン、トルエン、ヘキサン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。
【0016】
反応は、−20℃から反応に使用する溶媒の沸点または100℃、好ましくは、−5℃から反応に使用する溶媒の沸点または100℃である。
必要に応じて用いる縮合剤または塩基は、一般式[4]のアルコール化合物1モルに対して、等モルから過剰量の割合を用いることができるが、望ましくは等モル〜5モルの割合である。
【0017】
反応終了後の反応液は、有機溶媒抽出、濃縮等の通常の後処理を行い、目的の本発明化合物を得ることができる。必要ならば、クロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の通常の操作によってさらに精製してもよい。
上で述べた製造法における一般式[3]および[4]の化合物において、異性体(例えば、光学異性体、幾何異性体、互変異性体など)が存在する場合、これらの異性体を使用することができ、また、溶媒和物、水和物および種々の形状の結晶を使用することができる。
【0018】
一般式[2]、[3]、[4]、[5]および[1]の化合物において、アミノ基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基を有する化合物は、あらかじめこれらの基を通常の保護基で保護しておき、反応後、自体公知の方法でこれらの保護基を脱離することができる。また、反応終了後、反応目的物は単離せずに、そのままつぎの反応に用いてもよい。
【0019】
次に、本発明化合物を製造するための原料である一般式[3]および[4]の化合物は、公知方法にしたがって得ることができるが、例えば、特開昭57-140739、特開昭57-150635、特開昭62-253398、Bull. Chem. Soc.Jpn., 65, 2401-2410(1992)、GB2013497、特開55-7298に記載方法またはそれに準じた方法で製造することができる。
【0020】
一般式[1]の化合物は、賦形剤、補助剤、添加剤などと組み合わせ、各種の製剤、例えば、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤、エキス剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、クリーム剤、ローション剤、ミスト剤、エアゾール剤、フォーム剤、エアゾール剤とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
アセチレン型ピレスノイドにより、BDNFエキソンIV−IX mRNAの発現が増加する。従って、BDNF発現減少が認められている多くの神経変性疾患や精神疾患疾患の治療剤、さらに健常人の記憶力増強剤として使用できる。
次に製造例、試験例で本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0022】
製造例1
1-(3-フェノキシフェニル)-3-トリメチルシリル-2-プロピン-1-オール [化合物5]
【化5】


アルゴン雰囲気下、トリメチルシリルアセチレン(982.2mg、12mmol)の乾燥テトラヒドロフラン(25mL)溶液を、−78℃に冷却し、n-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液)(6.25mL、10mmol)を加え、15 分攪拌する。3-フェノキシベンズアルデヒド(2022.7mg、10mmol)の乾燥テトラヒドロフラン(25mL)溶液を加え、室温まで昇温して20分攪拌する。反応液に、飽和塩化アンモニウム液(250mL)を加え、ジクロロメタン(125mL)で3回抽出する。その有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、3081.2mgの化合物5を得た。
【0023】
1H NMR (270MHz, CDCl3) δ 7.20-6.79 (9H, m), 5.24 (1H, s), 1.77 (1H, s), 0.00(9H, s);
13C NMR(75MHz, CDCl3) δ 157.61, 156.77, 142.23, 129.94, 129.85, 123.59,121.41, 119.30, 118.58, 116.86, 104.66, 91.91, 64.77, 0.072;
IR (neat) 3354, 2173 cm-1;
MS m/z 296;
HRMS Calcd for C18H20O2Si296.1238, found 296.1233
【0024】
製造例2
1-オキソ-1-(3-フェノキシフェニル)-3-トリメチルシリル-2-プロピン [化合物6]
【化6】


アルゴン雰囲気下、化合物5 (100mg、0.337mmol)のジクロロメタン溶液(2mL)に、モレキュラー・シーブ4A (100mg)、二クロム酸ピリジニウム(389mg、1.01mmol)を順に加え、室温で120分攪拌する。セライト濾過により固形物を除去し、その濾液を減圧下濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、93mgの化合物6を得た。
【0025】
1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.63-7.23 (9H, m), 0.47 (9H, s);
13C NMR(75MHz, CDCl3) δ 176.90, 157.97, 156.14, 138.10, 130.05, 130.01,124.25, 124.22, 124.14, 119.64, 118.64, 100.99, 100.70, -0.462;
IR (neat) 2152, 1649 cm-1;
MS m/z 294;
HRMS Calcd for C18H18O2Si294.1094, found 294.1076
【0026】
製造例3
(1S)-1-(3-フェノキシフェニル)-3-トリメチルシリル-2-プロピン-1-オール [化合物7]
【化7】

【0027】
アルゴン雰囲気下、水素化ホウ素・テトラヒドロフラン(5.095mL、5.095mmol)のテトラヒドロフラン溶液(8mL)を氷冷し、(S)-2-メチル-CBS-オキサザボロリジンの1Mテトラヒドロフラン溶液(0.340mL、0.340mmol)を加えて、15分攪拌する。氷冷下、化合物6 (1000mg、3.397mmol)の乾燥テトラヒドロフラン溶液(9mL)を加え、室温で70分攪拌する。その後、メタノール(10 mL)をゆっくりと加え、ジエチルエーテル(100 mL)で希釈し、10%塩酸、飽和食塩液(各100mL)で洗浄する。その有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、858.7mgの化合物7を得た。
[α]D -9.41° (c=0.780, CHCl3)
【0028】
製造例4
(1R)-1-(3-フェノキシフェニル)-2-プロピン-1-オール [化合物8]
【化8】

【0029】
化合物7 (119.6mg、0.404mmol)をメタノール 6mLに溶解し、炭酸カリウム(111mg、0.808mmol)を加え、室温にて30分攪拌する。その後、水(50mL)で希釈し、ジクロロメタン(30mL)で3回抽出する。その有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮する。92.5mgの化合物8を得た。
【0030】
1H NMR (270MHz, CDCl3) δ 7.30-6.88 (9H, m), 5.36 (1H, s), 2.57 (1H, s), 2.07(1H, s);
[α]D -10.36° (c=2.15, C6H6)
【0031】
製造例5
【0032】
(1S)-3-ヨード-1-(3-フェノキシフェニル)-2-プロピン-1-オール [化合物9]
【化9】

【0033】
化合物8 (100mg、0.446mmol)をメタノール2.2mLに溶解し、1M水酸化カリウム(1.116mL)、ヨウ素(124.6mg、0.491mmol)を加え、室温にて80分攪拌する。その後、水(50mL)で希釈し、ジクロロメタン(30mL)で3回抽出する。その有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、61.5mgの化合物9を得た。
【0034】
1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.39-6.94 (9H, m), 5.55 (1H, d, J=6.0 Hz), 2.36(1H, d, J=6.0 Hz);
13C NMR (300MHz, CDCl3) δ 157.48, 156.62, 141.90, 129.91, 129.71, 123.45,121.12, 119.05, 118.55, 116.82, 93.78, 65.69, 4.73;
IR (neat) 3375, 2184 cm-1;
MS m/z 349, 351;
HRMS Calcd for C15H11127IO2349.9804, found 349.9799
【0035】
製造例6
(1S)-3-ブロモ-1-(3-フェノキシフェニル)-2-プロピン-1-オール [化合物10]
【化10】

【0036】
アルゴン雰囲気下、化合物7 (50mg、0.169mmol)をアセトンに溶かし、アルミ箔で遮光する。N-ブロモスクシンイミド(35.9mg、0.202mmol)、硝酸銀(1.91mg、0.011mmol)を加え、室温にて70分攪拌する。その後、水(20mL)で希釈し、ジエチルエーテル(30mL)で3回抽出する。その有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、35.2mgの化合物10を得た。
【0037】
1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.38-6.94 (9H, m), 5.45 (1H, d, J=6.0 Hz), 2.24(1H, d, J=6.0 Hz);
13C NMR (300MHz, CDCl3) δ 157.48, 156.62, 141.72, 129.91, 129.70, 123.44,121.07, 119.02, 118.57, 116.79, 79.49, 65.09, 47.63;
IR (neat) 3358, 2213 cm-1;
MS m/z 301, 303;
HRMS Calcd for C15H1179BrO2301.9942, found 301.9925
【0038】
製造例7
(1R)-1-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-1-(3-フェノキシフェニル)-2-プロピン [化合物11]
【化11】

【0039】
アルゴン雰囲気下、化合物8 (200mg、0.893mmol)の乾燥ジクロロメタン(5mL)溶液を氷冷し、2,6-ルチジン(191.3mg、1.786mmol)の乾燥ジクロロメタン溶液、tert-ブチルジメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート(354.0mg、1.339mmol) の乾燥ジクロロメタン溶液を順に加え、氷冷下60min攪拌する。その後、乾燥ジクロロメタン(50 mL)で希釈し、10%塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム、飽和食塩液(各30mL)で1回ずつ洗浄する。その有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、275.6mgの化合物11を得た。
【0040】
1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.36-6.91 (9H, m), 5.45 (1H, s), 2.55 (1H, d, J=2.1Hz), 0.90 (9H, s), 0.16 (3H, s), 0.12 (3H, s);
IR (neat) 3307, 2124 cm-1;
MS m/z 338;
HRMS Calcd for C21H26O2Si338.1702, found 338.1704
【0041】
製造例8
(1S)-1-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-3-クロロ-1-(3-フェノキシフェニル)-2-プロピン [化合物12]
【化12】

【0042】
アルゴン雰囲気下、化合物11(100mg、0.296mmol)の乾燥テトラヒドロフラン(1mL)溶液を、−78℃に冷却し、n-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液)(0.277mL、0.444mmol)を加え、15分攪拌する。N-クロロスクシンイミド(79.0mg、0.592mmol)の乾燥テトラヒドロフラン溶液(1mL)を加え、室温まで昇温して70分攪拌する。反応液に、飽和塩化アンモニウム液 (50mL)を加え、ジクロロメタン(30mL)で3回抽出する。その有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、75.7mgの化合物12を得る。
【0043】
1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.37-6.91 (9H, m), 5.45 (1H, s), 0.89 (9H, s), 0.149(3H, s), 0.107 (3H, s);
IR (neat) 2236 cm-1;
MS m/z 371, 373;
HRMS Calcd for C21H2535ClO2Si372.1312, found 372.1278
【0044】
製造例9
(1S)-3-クロロ-1-(3-フェノキシフェニル)-2-プロピン-1-オール [化合物13]
【化13】

【0045】
アルゴン雰囲気下、化合物12(40mg、0.108mmol) の乾燥テトラヒドロフラン(1mL)溶液を氷冷し、フッ化テトラブチルアンモニウムの1Mテトラヒドロフラン溶液(0.215mL、0.215mmol)を加え、氷冷下30分攪拌する。その後、ジクロロメタン(50mL)で希釈し、飽和食塩液(30mL)で洗浄する。その有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、11.8mgの化合物13を得た。
【0046】
1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.38-6.97 (9H, m), 5.44 (1H, d, J=3.0 Hz), 2.21(1H, d, J=6.0 Hz);
IR (neat) 3335, 2238 cm-1;
MS m/z 258, 260;
HRMS Calcd for C15H1135ClO2258.0448, found 258.0424
【0047】
製造例10
(R)-1-(3-フェノキシフェニル)-2-プロピン-1-イル
(1R,3R)-3-(2,2-ジブロモエチル)-2,2-ジメチルシクロプロパン-1-カルボキシレート [化合物14]
【化14】

【0048】
アルゴン雰囲気下、(1R,3R)-3-(2,2-ジブロモエチニル)-2,2-ジメチルシクロプロパン酸(6.4mg)を乾燥ジクロロメタンに溶解し、1,1’-カルボニルジイミダゾール(3.5mg、0.021mmol)の乾燥ジクロロメタン(0.1mL)溶液に加え、60分攪拌する。化合物8 (5.2mg、0.023mmol)の乾燥ジクロロメタン溶液を加え、次いで触媒量の水素化ナトリウムを加え、室温で70分攪拌する。その後、ジクロロメタン(40mL)で希釈し、10%塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩液 (各25mL)で1回ずつ洗浄する。その有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、4.2mgの化合物14を得た。
【0049】
1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.39-6.96 (9H, m), 6.76 (1H, d, J=8.4 Hz), 6.41(1H, s), 2.00 (1H, dd, J=8.7, 8.1 Hz), 1.89 (1H, d, J=8.4 Hz),1.29-1.19 (6H, m);
13C NMR(300 MHz, CDCl3) δ 168.92, 157.48, 156.52, 138.29, 132.97, 129.96,129.75, 123.57, 122.03, 119.07, 118.97, 117.66, 89.88, 65.64, 48.62, 36.03,31.67, 28.35, 28.12, 15.13;
IR (neat) 3055, 2221, 1731 cm-1
MS m/z 579, 581, 583, 585;
HRMS Calcd for C23H1979Br3O3579.8884, found 579.8863
【0050】
製造例11
(S)-3-ヨード-1-(3-フェノキシフェニル)-2-プロピン-1-イル
(1R,3R)-3-(2,2-ジブロモエチル)-2,2-ジメチルシクロプロパン-1-カルボキシレート [化合物15]
【化15】

【0051】
化合物9を用い、製造例10と同様にして、12.8mgの[化合物15]を得た。
1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.39-6.96 (9H, m), 6.75 (1H, d, J=8.4 Hz), 6.52(1H, s), 1.99 (1H, dd, J=8.1, 8.7 Hz), 1.89 (1H, d, J=8.7 Hz),1.56-1.18 (6H, m);
13C NMR (300MHz, CDCl3) δ 168.90, 157.48, 156.51, 138.47, 133.00, 129.94,129.75, 123.57, 122.08, 119.08, 118.95, 117.68, 89.86, 66.16, 36.03, 31.68,28.35, 28.12, 23.58, 15.13;
IR (neat) 3055, 2191, 1731 cm-1;
MS m/z 626, 628, 630;
HRMS Calcd for C23H1979Br2127IO3627.8746, found 627.8723
【0052】
製造例12
(S)-3-ブロモ-1-(3-フェノキシフェニル)-2-プロピン-1-イル
(1R,3R)-3-(2,2-ジブロモエチル)-2,2-ジメチルシクロプロパン-1-カルボキシレート [化合物16]
【化16】

【0053】
アルゴン雰囲気下、(1R,3R)-3-(2,2-ジブロモエチニル)-2,2-ジメチルシクロプロパン酸(17.3mg)を乾燥ジクロロメタンに溶解し、1,1’-カルボニルジイミダゾール(9.4mg、0.058mmol)の乾燥ジクロロメタン(0.1mL)溶液に加え、60分攪拌する。化合物10 (35.2mg、0.116mmol)の乾燥ジクロロメタン溶液を加え、次いで触媒量の水素化ナトリウムを加え、室温で70分攪拌する。その後、ジクロロメタン(40mL)で希釈し、10%塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩液 (各25mL)で1回ずつ洗浄する。その有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、15.8mgの化合物16を得た。
【0054】
1H NMR (270MHz, CDCl3) δ 7.31-6.90 (9H, m), 6.69 (1H, d, J=8.3) , 6.34,(1H, s),2.59 (1H, s), 1.92 (1H, t, J=8.6 Hz), 1.83 (1H, d, J=8.6Hz), 1.19 (6H, s);
13C NMR (75MHz, CDCl3) δ 169.14, 157.61, 138.47, 133.13,130.03, 129.84, 123.60, 122.19, 119.10, 117.85, 89.83, 79.90, 76.53, 75.66, 64.81, 35.91, 31.67, 29.70, 28.27, 27.99, 15.04;
MS m/z 502, 506;
HRMS Calcd for C23H2081BrO3505.9760, found 505.9780
【0055】
製造例13
(S)-3-クロロ-1-(3-フェノキシフェニル)-2-プロピン-1-イル
(1R,3R)-3-(2,2-ジブロモエチル)-2,2-ジメチルシクロプロパン-1-カルボキシレート [化合物17]
【化17】

【0056】
化合物13を用い、製造例12と同様にして、9.0mgの[化合物17]を得た。
1H NMR (300MHz, CDCl3) δ 7.38-6.95 (9H, m), 6.75 (1H, d, J=8.4 Hz), 6.39(1H, s), 1.99 (1H ,t, J=8.4 Hz), 1.88 (1H, d, J=8.4 Hz),1.29-1.19 (6H, m);
13C NMR (300MHz, CDCl3) δ 168.93, 157.49, 156.52, 138.35, 132.97, 129.96,129.75, 123.57, 122.00, 119.05, 118.97, 117.64, 89.88, 70.97, 65.16, 36.02,31.68, 28.35, 28.11, 15.13;
IR (neat) 3056, 2245, 1732 cm-1;
MS m/z 534, 536, 538;
HRMS Calcd for C23H1979Br235ClO3535.9390, found 535.9378
【0057】
製造例14
製造法10と同様にして以下の化合物を得た。
・(S)-1-(3-フェノキシフェニル)-2-ブチン-1-イル
(1R,3R)-3-(2,2-ジブロモエチル)-2,2-ジメチルシクロプロパン-1-カルボキシレート [化合物18]
【化18】

【0058】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 7.38-6.95 (9H,m), 6.78 (1H, d, J=8.4 Hz), 6.38 (1H, d, J=2.4 Hz), 1.97 (1H, dd,J=8.7, 8.1 Hz), 1.92-1.87 (4H, m), 1.28-1.19 (6H, m);
13C-NMR (75 MHz, CDCl3) δ 169.13, 157.30,156.65, 139.47, 133.19, 129.75, 129.66, 123.40, 122.08, 118.97, 118.68, 117.74,89.51, 84.22, 75.59, 65.55, 35.89, 31.83, 28.36, 27.93, 15.13, 3.95;
IR (neat) 3055, 2240,1730 cm-1;
MS (EI) m/z 516 (M+),518, 520;
HRMS (EI) Calcd for C24H2279Br3O3515.9936 (M+), found 515.9955;
[α]D -9.38° (c=0.67, C6H6)
【0059】
・(S)-1-(3-フェノキシフェニル)-2-ペンチン-1-イル
(1R,3R)-3-(2,2-ジブロモエチル)-2,2-ジメチルシクロプロパン-1-カルボキシレート [化合物19]
【化19】

【0060】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 7.37-6.95 (9H,m), 6.77 (1H, d, J=8.1 Hz), 6.41 (1H, s), 2.28 (2H, dq, J=7.6,2.4 Hz), 1.97 (1H, t, J=8.4 Hz), 1.89 (1H, d, J=8.4 Hz),1.28-1.11 (9H, m);
13C-NMR (75 MHz, CDCl3) δ 169.13, 157.33,156.64, 139.49, 133.24, 129.75, 129.68, 123.42, 122.13, 119.03, 118.71, 117.69,89.92, 89.46, 75.71, 65.55, 35.89, 31.89, 28.38, 27.93, 15.13, 13.61, 12.65;
IR (neat) 3055 2239, 1729cm-1;
MS (EI) m/z 530 (M+),532, 534;
HRMS (EI) Calcd for C25H2479Br2O3530.0093 (M+), found 530.0059;
[α]D -11.22° (c=0.45, C6H6)
【0061】
・(S)-1-(3-フェノキシフェニル)-4-トリフルオロメチル-2-ブチン-1-イル
(1R,3R)-3-(2,2-ジブロモエチル)-2,2-ジメチルシクロプロパン-1-カルボキシレート [化合物20]
【化20】

【0062】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 7.39-6.96 (9H,m), 6.75 (1H, d, J=8.4 Hz), 6.52 (1H, s), 1.99 (1H, t, J=8.4 Hz),1.89 (1H, d, J=8.4 Hz), 1.29-1.18 (6H, m);
13C-NMR (75 MHz, CDCl3) δ 168.88, 157.46,156.49, 138.45, 132.97, 129.92, 129.73, 123.55, 122.06, 119.07, 118.94, 117.77,117.66, 90.35, 89.85, 66.14, 36.02, 31.67, 29.77, 28.33, 28.11, 15.13, 5.99;
IR (neat) 3055, 2191,1731 cm-1;
MS (EI) m/z 502 (M+-83),504, 506;
HRMS (EI) Calcd for C23H2079Br2O3502.9858 (M+-83), found 502.9860;
[α]D -19.92° (c=0.42, C6H6)
【0063】
試験例
(ラット大脳皮質神経細胞の初代培養)
ラット大脳皮質初代培養は、胎生17日齢ラット(Sprague-Dawley ラット)胎児脳から調製した。トリプシン(DIFCO)およびデオキシリボヌクレアーゼI(DNaseI、Sigma)処理で分離した細胞は、10%の牛胎児血清、1mMピルビン酸ナトリウム、100ユニット/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含むダルベッコ・イーグル培地(Dalbecco’s modified Eagle medium; DMEM,Invitrogen)に、2.5 x 106 の細胞数をポリエチレンイミン(Sigma)コーテイングした35mm培養デイッシュに撒いた。この培養条件では、自発的なカルシウム振動が同調的に複数ニューロンで記録される(Kato-Negishi et al. 2004)。これは、活性型のシナプスが形成されることを示している。mRNA定量においては、細胞は培養5日目にジメチルスルホキシドに溶解した試験化合物で刺激を与えた。対照には、ジメチルスルホキシドを加えた。
【0064】
(RNA調製とmRNA定量)
全細胞RNAは塩酸グアニジン/フェノール・クロロホルム法(ISOGEN; Nippon gene)で調製し、回収したRNA量をベックマン吸光度計で測定した。1μgRNAを用いて、0.5μMoligo(dT)15 primer、100unit SuperScript II reversetranscriptase (Invitrogen)、500μMdNTP mixture、5unit RNase inhibitor (Invitrogen)を含む10μL 溶液中で逆転写反応を行い、cDNA溶液としてPCRに用いた。
定量的RT-PCRには、Brilliant SYBR GreenQ PCR Master Mix (Stratagene)を用いて、Mx3000P Real-Time PCR system (Stratagene)により解析を行った。PCR反応は、2μLのcDNA溶液と0.5μMプライマーペアーを含む20 μLの1 x Brilliant SYBRGreenQ PCR Master Mix 中で行った。また、目的の遺伝子を増幅したPCR産物を挿入したプラスミドを検量用として、同様にPCR反応を行った。また、内部標準として、glyceraldehyde-3-phosphatedehydrogenase (GAPDH)についても同様の解析を行った。
ラットBDNFエキソンIV-IXcDNAの増幅には、BDNF エキソンIVのセンスプライマー(5’-TCGGCCACCAAAGACTC-3’)とBDNFエキソンIXのアンチセンスプライマー(5’-GCCCATTCACGCTCTCTCCA-3’)を用いた。内部標準用のラットGAPDHのcDNAの増幅には、センスプライマー(5’-TCCATGACCAACTTTGGCATCGTGG-3’)とアンチセンスプライマー(5’-GTTGCTGTTGAAGTCACAGGAGAC-3’)を用いた。表1および表2に被験物(10μM)でのBDNFエキソンIV-IX mRNAの発現増加率を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
参考化合物
【化21】

【0067】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0068】
アセチレン型ピレスノイドは、BDNFの発現を誘導することから、BDNFが関与する各種の疾患、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS) 、制癌剤中毒性ニューロパチー、糖尿病性ニューロパチー、網膜色素変性症、緑内障、ハンチントン病、パーキンソン病、アルツハイマー病、末期癌疼痛、鬱病、総合失調症、肥満等対する治療剤、さらに健常人の記憶力増強剤として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】


「式中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい低級アルキル基またはアリール基を;R2、R3、R4は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を;R5、R6は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、ハロゲノ低級アルキル基または低級アルコキシ基を;Xは、酸素原子、硫黄原子、イミノ基またはメチレン基を、それぞれ意味する。」
で表されるアセチレン型ピレスノイドを用いることを特徴とする脳由来神経栄養因子の発現誘導剤
【請求項2】
Xが酸素原子であるアセチレン型ピレスノイドを用いる請求項1に記載の脳由来神経栄養因子の発現誘導剤。
【請求項3】
1が水素原子、ハロゲン原子または置換されていてもよい低級アルキル基、R2が水素原子、R3およびR4がハロゲン原子、R5およびR6が水素原子であるアセチレン型ピレスノイドを用いる請求項1または2に記載の脳由来神経栄養因子の発現誘導剤。
【請求項4】
一般式
【化2】


「式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい低級アルキル基またはアリール基を;R、R、Rは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を;R、Rは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、ハロゲノ低級アルキル基または低級アルコキシ基を;Xは、酸素原子、硫黄原子、イミノ基またはメチレン基を、それぞれ意味する。」
で表されるアセチレン型ピレスノイドを用いることを特徴とする脳由来神経栄養因子の発現誘導方法。
【請求項5】
Xが酸素原子であるアセチレン型ピレスノイドを用いる請求項4に記載の脳由来神経栄養因子の発現誘導方法。
【請求項6】
1が水素原子、ハロゲン原子または置換されていてもよい低級アルキル基、R2が水素原子、R3およびR4がハロゲン原子、R5およびR6が水素原子であるアセチレン型ピレスノイドを用いる請求項4または5に記載の脳由来神経栄養因子の発現誘導方法。
【請求項7】
一般式
【化3】


「式中、R1bは、塩素原子、臭素原子またはハロゲン原子で置換された低級アルキル基を意味する」
で表されるアセチレン型ピレスノイド。



【公開番号】特開2009−84271(P2009−84271A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227728(P2008−227728)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】