腐食電位計測方法およびその装置
【課題】原子力プラントの運転中において異常の発生を精度良く検知でき、且つ構造部材の腐食電位を測定できる腐食電位計測方法を提供する。
【解決手段】腐食電位計測装置1は、腐食電位センサ2および信号処理装置13を有する。腐食電位センサ2において、電極1およびセンサ筺体5が絶縁体4に取り付けられ、センサ筺体5内に診断用電極9が配置される。電極3に接続された電極線7が信号線11bに接続される。診断用電極9が信号線11cに接続される。腐食電位センサ2は炉水が流れる配管20に設けられたセンサ支持用管21に設置される。信号処理装置13はポテンショスタット14、周波数解析器15およびエレクトロメーター16を有する。エレクトロメーター16が配管の腐食電位を計測する。ポテンショスタット14および周波数解析器15が、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスを測定する。
【解決手段】腐食電位計測装置1は、腐食電位センサ2および信号処理装置13を有する。腐食電位センサ2において、電極1およびセンサ筺体5が絶縁体4に取り付けられ、センサ筺体5内に診断用電極9が配置される。電極3に接続された電極線7が信号線11bに接続される。診断用電極9が信号線11cに接続される。腐食電位センサ2は炉水が流れる配管20に設けられたセンサ支持用管21に設置される。信号処理装置13はポテンショスタット14、周波数解析器15およびエレクトロメーター16を有する。エレクトロメーター16が配管の腐食電位を計測する。ポテンショスタット14および周波数解析器15が、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスを測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食電位計測方法およびその装置に係り、特に、原子力プラントに適用するのに好適な腐食電位計測方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおいて、ステンレス鋼およびニッケル基合金等は構造材料と呼ばれ、原子炉機器および配管等の構造部材に用いられる。これらの構造材料は、特定の条件下で応力腐食割れ(SCC)の感受性を示す。そこで、SCCの防止策が、原子力プラントの健全性を維持するために適用されている。また、近年では、原子力プラントの設備利用率の向上および長寿命化のような経済性向上の観点からも、SCCの予防策が適用されている。SCC防止策には、材料の耐食性向上、応力の改善、あるいは腐食環境の緩和を目的とした技術がある。
【0003】
沸騰水型原子力プラントでは、SCC防止策の1つとして、構造材料で構成された、沸騰水型原子力プラントの構造部材に接触する炉水(原子炉内に存在する冷却水)の腐食環境を改善する水素注入が、広く用いられている。水素注入の一例が、特許第2687780号公報に記載されている。原子炉内の炉水は、炉水の放射線分解により生成されて構造部材の腐食の原因となる酸素および過酸化水素を含んでいる。酸素および過酸化水素が腐食環境を形成している。水素注入は、給水配管等を介して炉水に水素を注入し、炉水に含まれている酸素および過酸化水素を注入された水素と反応させて水に戻す技術である。その反応により炉水中の酸素および過酸化水素の濃度が低下する結果、炉水に接触する構造部材の腐食電位(ECP)が低下し、構造部材のSCCが緩和される。
【0004】
水素注入時の腐食電位の低下をさらに促進させる技術として、例えば、特開平4−223299号公報に記載された白金族貴金属元素を炉水に注入する技術(貴金属注入技術)が知られている。この貴金属注入技術は、水素注入技術と併用され、白金族貴金属元素が有する水素の電気化学反応への触媒作用を利用して、水素注入による腐食電位の低減幅をさらに大きくする。
【0005】
これらの炉水の腐食環境を低減させるSCC防止策を実施するためには、構造部材の腐食電位を精度良く測定する必要がある。そこで、原子炉内あるいは原子炉に接続された配管に腐食電位センサを設置し、腐食電位センサを用いた構造部材の腐食電位の測定が行われている。腐食電位センサは、使用条件下で腐食電位測定の基準となる一定の電位(基準電位)を発生する。このため、腐食電位センサは、基準電極または参照電極と呼ばれている。沸騰水型原子力プラントの構造部材が接触する炉水の温度、炉水に含まれる酸素および過酸化水素のそれぞれの濃度、および流れている炉水の流速の条件下で有する電位と、腐食電位センサの有する基準電位との電位差を、エレクトロメータを用いて測定することによって、その構造部材の腐食電位を知ることができる。
【0006】
従来の腐食電位センサの例が、Proceedings of International Symposium on Plant Aging and Life Prediction of Corrodible Structures, May 15-18, 1995, Sapporo Japan, p413 JSCE-NACE (1995)に記載されている。腐食電位センサの他の例が、特開2000−65785号公報および特開2009−042111号公報に記載されている。
【0007】
特開平4−213052号公報は、センサの破損を検知できる電気化学センサ(例えば、pHセンサ)を記載している。特に、特開平4−213052号公報は、電気化学センサが破損されたこと、例えば、溶液がセンサ内に浸入したことを検出できることを記述している。湿分の浸入を検出するために、電解質(湿分)に接触したときに電位差を生じる異なる金属を用い、発生した電位差をpHアナライザー(電圧測定装置)により検出している。
【0008】
特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサは、半電池(センサ感知電極)、参照電池、亜鉛線および銀線を有し、亜鉛線が半電池に接続された導体に接続され、亜鉛線の近傍に配置された銀線、および参照電池(センサ照合電極)がその導体に接続された同軸ケーブルに接続されている。亜鉛線および銀線は異なる電位差を生じる。センサが破損してセンサ内に湿分が浸入したとき、亜鉛線と銀線の間に生じる電位差を電圧測定装置で測定することにより、湿分の浸入による電気化学センサの破損を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2687780号公報
【特許文献2】特開平4−223299号公報
【特許文献3】特開2000−65785号公報
【特許文献4】特開2009−42111号公報
【特許文献5】特開平4−213052号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Proceedings of International Symposium on Plant Aging and Life Prediction of Corrodible Structures, May 15-18, 1995, Sapporo Japan, p413 JSCE-NACE (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
原子力プラントにおいて構成部材の腐食電位(ECP)を測定する場合に、測定時に腐食電位センサの健全性を確認したい場合がある。例えば、腐食電位センサを設置してから1運転サイクル(国により13カ月、18カ月、または24カ月)に亘って測定するとき、いつの段階まで腐食電位センサの機能が正常であったかを判断し、測定データの妥当性を評価したい場合がある。また、原子力プラントに設置した腐食電位センサを、1運転サイクルの間、使用し、一旦、定期検査による原子力プラント停止の後、次の新たな運転サイクルでもう一度使用する場合に、腐食電位センサが使用できるかを判定したい場合もある。
【0012】
しかしながら、原子力プラントにおいて、腐食電位センサを原子炉内および原子炉に近い部位の配管に設置するときは、腐食電位センサの匡体を溶接によって測定位置に固定する。また、原子力プラントの運転中では、そのような腐食電位センサの設置位置に接近できないため、一度設置した腐食電位センサを、供用中に正常であるか否かを判断する目的で取り外すことができない。
【0013】
そこで、一つの方法として、腐食電位センサの腐食電位を測定する信号線とグランド(配管)の間のインピーダンス(または簡便には抵抗)を測定して適切な電気絶縁性が維持されているかを判断することによって、腐食電位センサの機能が正常であるかを判断することが行われる。しかしながら、センサに不具合が発生してセンサ匡体内に炉水が浸入した場合には、腐食電位を正確に測定することができなくなる。
【0014】
特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサでは、半電池(センサ感知電極)、参照電池、亜鉛線および銀線を有し、亜鉛線と亜鉛線の近傍に配置された銀線の間に生じる電位差を測定して、湿分の浸入による電気化学センサの破損を検出している。特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサを腐食電位センサとして用いた場合には、以下のような問題が生じる。特開平4−213052号公報ではセンサの内部に設置された湿分の侵入を検知するための2つの電極がそれぞれ電圧計の2つの入力に接続されているため、一方が腐食電位測定用の電極、他方が配管に接続されることになる。炉水が侵入しても、腐食電位測定用の電極と配管間の電位差と、例示されている亜鉛電極と銀線の間の電位差が混成して測定されることになるため、炉水水質の変化によって生じた電位差の変化と、炉水の侵入によって生じた電位差との区別が難しい場合が生じる。そのため、腐食電位測定用の電極と配管の間の電気的回路とは別に新たな電気的回路を設けることによって、水質変化と炉水の漏えいとを明瞭に区別する構造が望まれていた。
【0015】
本発明の目的は、プラントの運転中において異常の発生を精度良く検知でき、且つ構造部材の腐食電位を測定することができる腐食電位計測方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、プラントの、接地された構造部材に設置された金属筺体、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極、およびその金属筺体内で金属筺体から離れて配置された診断用電極を有する腐食電位センサを用い、腐食電位検出用電極と構造部材の間の電位差を測定し、診断用電極とグランドの間のインピーダンスおよびその診断用電極と腐食電位検出用電極に接続された導線の間のインピーダンスのいずれかを測定することにある。
【0017】
診断用電極とグランドの間のインピーダンスおよびその診断用電極と腐食電位検出用電極に接続された導線の間のインピーダンスのいずれかを測定することにより、金属筺体内に導電性液体が浸入したとき、そのインピーダンスが著しく低下するので、腐食電位センサでの異常の発生を精度良く検知することができる。また、構造部材の腐食電位は、腐食電位検出用電極と構造部材の間の電位差を計測することによって、把握することができる。
【0018】
好ましくは、計測されたインピーダンスおよび電位差に基づいて信号ノイズ比を求めることが望ましい。
【0019】
この信号ノイズ比を求めることによって、導電性液体の液質の変化時の過渡的な信号成分を監視することができ、金属筺体内への導電性液体の浸入を、その過度的な信号成分と区別して精度良く検知することができる。
【0020】
上記した目的は、腐食電位センサと、信号処理装置とを備え、腐食電位センサが、金属筺体と、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極と、その金属筺体内に配置されて金属筺体から離れている診断用電極と、腐食電位検出用電極に接続された第1導線と、診断用電極に接続された第2導線とを有し、信号処理装置が、第1導線に接続されて腐食電位を計測する電位計測装置と、第2導線に接続されて、診断用電極とグランドの間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有することによっても達成できる。
【0021】
腐食電位センサと、信号処理装置とを備え、腐食電位センサが、金属筺体と、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極と、その金属筺体内に配置されて金属筺体から離れている診断用電極と、腐食電位検出用電極に接続された第1導線と、診断用電極に接続された第2導線とを有し、信号処理装置が、第1導線に接続されて腐食電位を計測する電位計測装置と、第1導線および第2導線に接続されて、診断用電極と第1導線の間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有することによっても、上記した目的を達成できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、プラントの運転中において異常の発生を精度良く検知することができ、且つ構造部材の腐食電位を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の腐食電位計測装置の構成図である。
【図2】図1に示す腐食電位センサの縦断面図である。」
【図3】腐食電位センサの不具合発生時におけるインピーダンス変化を示す説明図である。
【図4】沸騰水型原子力プラントで実測した、水素注入時における炉水中の溶存酸素濃度および構造部材の腐食電位と給水中の水素濃度との関係を示す説明図である。
【図5】従来の腐食電位センサとグランド間のインピーダンスを測定している測定時におけるインピーダンス測定部を示す説明図である。
【図6】不具合が発生した従来の腐食電位センサにおけるインピーダンス測定部を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施例である実施例2の腐食電位計測装置の構成図である。
【図8】本発明の他の実施例である実施例3の腐食電位計測装置の構成図である。
【図9】腐食電位センサの想定用信号線および診断用信号線のそれぞれとグランド間の腐食電位の変化を示す特性図である。
【図10】腐食電位センサのインピーダンスと腐食電位ノイズの比の変化と不具合の発生の関係を示す特性図である。
【図11】本発明の他の実施例である実施例4の腐食電位計測装置に用いられる腐食電位センサの縦断面図である。
【図12】本発明の他の実施例である実施例5の腐食電位計測装置に用いられる腐食電位センサの縦断面図である。
【図13】腐食電位センサの不具合発生によるインピーダンスの変化を示す特性図である。
【図14】本発明の他の実施例である実施例6において、複数の腐食電位計測装置を配置した沸騰水型原子力プラントの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明者らは、腐食電位センサの不具合の発生について検討を行った。この検討内容について説明する。
【0025】
沸騰水型原子力プラントにおいて原子炉内の炉水への水素注入を実施したときの、原子炉に供給する給水の水素濃度に対する、サンプリング系によりサンプリングした炉水の溶存酸素濃度の変化、およびそのプラントの構造部材の腐食電位の変化の測定結果を、図4に示す。図4により、給水の水素濃度が上昇すると、炉水の溶存酸素濃度が低下し、それに追従して構造部材の腐食電位が低下する様子が分かる。したがって、腐食電位を精度良く測定するためには、腐食電位センサが不可欠であり、腐食電位センサが原子力プラントの運転条件で使用可能であることが求められる。
【0026】
従来の腐食電位センサによる腐食電位の測定を、図5を用いて説明する。この腐食電位センサは、絶縁体の先端部に電極を取り付け、この絶縁体をセンサ筺体に溶接にて取り付けている。電極に接続された電極線が、絶縁体を貫通して配置され、信号線に接続される。信号線は、センサ筺体を貫通してセンサ筺体の外側に取り出される。腐食電位センサは、配管に取り付けられたセンサ保持用管内に配置され、センサ筺体をセンサ保持用管に溶接することによって、配管に取り付けられる。配管は接地されている。配管は原子炉に接続されており、原子炉の運転中には炉水が配管内を流れている。
【0027】
腐食電位センサの腐食電位を測定する信号線とグランド(配管)の間のインピーダンス(または簡便には抵抗)を測定して適切な電気絶縁性が維持されているかを判定することによって、腐食電位センサの機能が正常に保持されているかを判定している。通常、沸騰水型原子力プラントの運転中において、原子炉内の炉水の導電率は室温で0.1μS/cm以下、280℃では2μS/cm程度になる。加圧水型原子力プラントでも、原子炉内の炉水の導電率は運転温度で数μS/cmになる。このため、仮に腐食電位センサの腐食電位を検知するための電極が、グランドになる配管から1mm離れていたとする。このとき、図5に示すインピーダンス測定部(上記の電極と配管の間の1mmの間隙)におけるインピーダンスは100kΩ程度の値を示すことになる。このインピーダンスの値は、電極とセンサ匡体の間に設けられた絶縁体の抵抗値(107〜1012Ω程度)に比較してはるかに小さい。
【0028】
ところが、腐食電位センサの絶縁体とセンサ筺体の溶接部に不具合が発生してこの不具合箇所からセンサ匡体内に炉水(導電性液体)が浸入すると、図5に示すように、電極と配管との間のインピーダンス測定部Aでの電位差(腐食電位)を測定しているつもりが、実際には、図6に示すように、腐食センサの信号線とセンサ匡体間のインピーダンス測定部Bでの電位を測定することになる。この場合、測定された腐食電位の測定値は、適切な腐食電位の値を示していないが、腐食電位センサに異常が生じていることが分からなければ、配管の腐食電位は電極の電位と同じ値であると判定されることになる。このとき、インピーダンスを測定したとしても、信号線とセンサ匡体の間隔もまた数mm程度であるので、腐食電位センサの健全性(不具合が生じた異常状態)をこの方法では正確に判定することができない。
【0029】
そこで、腐食電位センサの健全性を判定するために、炉水の水質を変化させ、電極と配管の間の電位差が水質の変化に対応して変動するか否かを確認することになる。電極の電位は腐食電位センサが健全であれば一定の基準電位を示すので、水質を変化させたときに配管と電極の間の電位差(配管の腐食電位に対応)が変動した場合には、腐食電位センサが健全であると判定できる。しかしながら、原子力プラントの運転中に腐食電位センサの健全性を確認するために、炉水の水質を頻繁に変化させることは好ましくない。
【0030】
発明者らは、上記した事項を考慮して、原子力プラントの運転中において異常の発生を確認することができ、且つ構造部材の腐食電位を精度良く測定することができる腐食電位測定装置について、種々の検討を行った。この結果、診断用電極とグランドの間のインピーダンス(または診断用電極と腐食電位を検出する電極に接続された信号線の間のインピーダンス)を測定することによって、腐食電位センサの導電性液体の浸入による異常の発生を精度良く検知できることを見出した。
【0031】
この新たな知見に基づいた本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0032】
本発明の好適な一実施例である実施例1の腐食電位計測装置を、図1および図2を用いて説明する。本実施例の腐食電位計測装置1は、腐食電位センサ2および信号処理装置13を備えている。
【0033】
腐食電位センサ2は、電極(腐食電位検出用電極)3、絶縁体であるジルコニア絶縁体(第2絶縁体)4、センサ筺体(金属筺体)5、電極線であるジルコニウム電極線7および診断用電極9を有する。図2を用いて、腐食電位センサ2の詳細な構成を説明する。基準電位を発生する電極1としては、金属ジルコニウムで製作されたジルコニウム電極を使用する。電極1がロウ付けにより絶縁体4に取り付けられる。このロウ付けにより生成されたロウ付け部6aが、ジルコニウム電極1と絶縁体4を接合している。電極1を保持する絶縁体4には酸化ジルコニウム(ジルコニア)が用いられる。ステンレス鋼製のセンサ筺体5がロウ付けにより絶縁体4に取り付けられる。このロウ付けにより生成されたロウ付け部6bが、絶縁体4とセンサ筺体5を接合している。ロウ付け部6bの生成は、絶縁体4のジルコニアとセンサ筺体5のステンレス鋼の中間の熱膨張率を有するコバールまたは42高ニッケル合金などを用いて行われる。これによって、接合時における絶縁体4およびセンサ筺体5の歪みおよび温度変化による歪みの影響を取り除くことができる。センサ筺体5が取り付けられた絶縁体4の端部は、電極3が取り付けられた絶縁体4の端部とは逆の端部である。ジルコニウム電極1と絶縁体4、および絶縁体4とセンサ筺体5のそれぞれの接合は、ロウ付け部の替りに機械的締結を用いてもよい。
【0034】
ジルコニウム電極線7が絶縁体4を貫通して電極3に接続されている。ジルコニウム電極線7が絶縁体4にロウ付け部6cにより固定される。信号線11b(測定用信号線)(第1導線)がジルコニウム電極線7にスポット溶接8で接続される。診断用電極9が、センサ筺体5内に配置され、センサ筺体5の内面から離れている。この診断用電極9に信号線11c(診断用信号線)(第2導線)が接続される。信号線11b、11cはセンサ筺体5の外部に達している。鉱物絶縁ケーブル6が外筒管11aおよび信号線11b、11cを含んでいる。信号線11b、11cはステンレス鋼製の外筒管11a内に配置されている。鉱物絶縁ケーブル(MIケーブル)10がセンサ筺体5を貫通して配置され、外筒管11aがセンサ筺体5に溶接によって取り付けられる。12がその溶接部である。腐食電位センサ2は、ロウ付け部6a,6bおよび溶接部12により気密性が保持される。
【0035】
ジルコニウム電極1およびジルコニウム電極線4を、それぞれ白金で構成してもよい。電極1および電極線4を白金で構成した腐食電位センサ2は、白金型腐食電位センサとして機能する。電極1はジルコニウム合金で製作してもよい。
【0036】
信号処理装置13は、ポテンショスタット14、周波数解析器15およびエレクトロメーター(電位計測装置)16を有する。ポテンショスタット14が信号線11cに接続され、エレクトロメーター16が信号線11bに接続される。周波数分析器15がポテンショスタット14に接続される。
【0037】
原子力プラント、例えば、沸騰水型原子力プラントの原子炉に接続されて内部に原子炉内の炉水が流れる配管(例えば、再循環系配管)20に、センサ支持用管(センサ支持部材)21が取り付けられている。腐食電位センサ2は、センサ支持用管21内に挿入され、センサ筺体5に取り付けられた保持部材22を、センサ支持用管21に設けられたフランジに取り付けることによって、センサ支持用管21、すなわち、配管20に取り外し可能に固定される。センサ支持用管21に保持されてセンサ支持用管21内に配置された腐食電位センサ2の電極3は、配管20の内面の位置に位置している。グランドに接続されているアース線17aがセンサ支持用管21に接続される。アース線17aは、センサ支持用管21に接続されているが、実質的には、沸騰水型原子力プラントの構造部材である配管20およびセンサ筺体に接続されている。アース線17aに接続された配線17bがポテンショスタット14に接続され、アース線17aに接続された配線17cがエレクトロメーター16に接続される。配線17b、17cは、アース線17a、センサ支持用管21および保持部材22を介してセンサ筺体5に接続されている。
【0038】
沸騰水型原子力プラントの運転時には、原子炉内の炉水(導電性液体)が配管20内を流れている。腐食電位センサ2を設置した配管20の腐食電位が、腐食電位計測装置1によって計測される。炉水と接触するジルコニウム電極1で生じた基準電位は、ジルコニウム電極線4および信号線11bを経てエレクトロメーター16に入力される。エレクトロメーター16は、配線17、アース線17aおよびセンサ支持用管21を介して配管20に接続されている。このようなエレクトロメーター16は、ジルコニウム電極1で生じた基準電位と配管20の電位との差、すなわち、配管20の腐食電位を測定する。
【0039】
腐食電位センサ2、例えば、絶縁体4とセンサ筺体5の接合部であるロウ付け部6bに不具合(例えば、き裂)が発生してセンサ筺体5内に炉水が浸入したことは、センサ匡体内に設置した診断用電極9とグランド間のインピーダンスを測定することによって知ることができる。このインピーダンスは、ポテンショスタットおよび周波数解析器を用いた2電極法により測定される。
【0040】
ポテンショスタット14は、信号線11cにより診断用電極9に、配線17b、アース線17a、センサ支持用管21および保持部材22を介してセンサ筺体5に接続されている。このため、ポテンショスタット14が診断用電極9(信号線11c)とグランドの間の電位差を計測する。周波数解析器15は、ポテンショスタット14に電位を印加し、この印加する電位を変化させる。ポテンショスタット14は、周波数解析器15からの電位が印加された状態で電流を測定する。電流の測定値は、ポテンショスタット14から周波数解析器15に入力される。周波数解析器15は、ポテンショスタット14に出力した電位、およびポテンショスタット14から入力された電流の測定値に基づいてインピーダンスを求める。このインピーダンスは以下のようにして求める。ポテンショスタット14の3つの端子、すなわち、参照電極用端子、対極用端子及び作用極用端子のそれぞれを次のように測定する。参照電極用端子及び対極用端子を診断用電極9につながる信号線11cに、作用極用端子をアース線17bにそれぞれ接続する。
【0041】
このとき、エレクトロメーター16で電極3とグランド間の電位差Eを測定する。次に、ポテンショスタット14で制御する電位を測定値Eに設定する。周波数解析器15でωの周波数を有する正弦波を発生し、ポテンショスタット14に入力する。ここでωは1〜100Hz程度にとればよい。入力した正弦波によって、ポテンショスタット14で制御しているグランドと診断用電極9の間に引加する電位Eに対して、±10mVのピーク間電位の摂動を加える。したがって、E’=E+0.01Sinωt(V)が、インピーダンス測定のためにグランドと診断用電極9の間に引加されることになる。ωの周波数でE’を与えたとき、信号線11cと配線17bの間に流れる電流Iがポテンショスタット14で測定される。測定された電流Iと引加している電位E’に関する2つの信号が周波数解析器15に出力として送られる。周波数解析器15は、入力した2つの信号を用いてインピーダンスZをZ=E’/Iにより算出し、得られたインピーダンスZを表示する。センサ匡体5内に炉水が浸入していなければ、開回路としてインピーダンスZは数百MΩなどの値を示す。一方、炉水の浸入によりセンサ匡体5と診断用電極9の間が炉水で満たされると、炉水の電気抵抗に応じ数百kΩ以下のインピーダンスを示すことになるので、腐食電位センサ2が故障していると判断することができる。
【0042】
なお、ポテンショスタット14に内蔵されたエレクトロメーターの内部抵抗が高いく(>1013Ω)差動式の構成を有する場合には、エレクトロメーター16を省略してポテンショスタット14の内蔵エレクトロメーターで測定系を構成してしてもよい。
【0043】
ポテンショスタット14および周波数解析器15は、インピーダンス測定装置を構成する。
【0044】
腐食電位センサ2のセンサ筺体5内の、診断用電極9が配置された領域には、空気またはアルゴンなどの不活性ガスが封入されている。このため、腐食電位センサ2が正常に機能している状態(炉水の浸入がない状態)では、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスは、数100MΩから数GΩの範囲内の値になる。
【0045】
ロウ付け部6bでのき裂発生等の不具合が腐食電位センサ2に発生し、沸騰水型原子力プラントの運転時における高温(例えば、280℃)の炉水がセンサ筺体5内に浸入したとする。この高温の炉水の導電率が数μS/cmであり、診断用電極9とセンサ筺体5の間の距離が数mm以下である。診断用電極9がセンサ筺体5内に浸入した炉水に浸漬され、診断用電極9とセンサ筺体5が炉水を介して電気的につながる。このため、インピーダンス測定装置(ポテンショスタット14および周波数解析器15)で測定された、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスが、数十から数100kΩの範囲の値まで低下する。
【0046】
腐食電位センサ2の接合部に不具合が生じたときにおける、そのような診断用電極9とグランドの間のインピーダンスの変化を図3に示す。例えば、ロウ付け部6b等の接合部が健全でセンサ筺体5内に炉水が浸入しない場合には、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスは、図3において実線で示すように高い値になっている。しかしながら、接合部に不具合が発生したとき、具体的には、ロウ付け部6bに貫通するき裂が発生したとき、このき裂からセンサ筺体5内に炉水が浸入し、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスが急激に低下する。
【0047】
本実施例は、ポテンショスタット14および周波数解析器15を用いて診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスを測定するので、図3に実線で示すように、腐食電位センサ2に不具合が発生し、炉水の浸入により腐食電位センサ2が異常状態になったことを精度良く検知することができる。
【0048】
図5に示す従来の腐食電位センサは、電極(測定用信号線)とグランドの間のインピーダンスを測定している。このような腐食電位センサでは、図6に示すように絶縁体と線さ筺体の接合部にき裂が発生して炉水がセンサ筺体内に浸入しても、電極(測定用信号線)とグランドの間のインピーダンスは、図3に破線で示すように、僅かしか低下しない。このため、図5に示す腐食電位センサでは、不具合が生じてセンサ筺体内に炉水が浸入したことを精度良く検知することができない。本実施例では、センサ筺体内に炉水が浸入したとき、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスが、図3に示すように、大幅に低下するので、炉水が浸入する不具合を精度良く短時間に検出することができる。
【0049】
本実施例の腐食電位計測装置1は、電気化学センサの一種である腐食電位センサ2を用いているが、以下の点で特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサと異なっている。
【0050】
特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサは、異なる電位を生じる亜鉛線および銀線を有し、電気化学センサの損傷により電気化学センサ内に湿分が浸入したとき、亜鉛線と銀線の間に生じる電位差を電圧測定装置で測定している。
【0051】
これに対し、本実施例では、腐食電位センサ2のセンサ筺体5内に配置された診断用電極9が、沸騰水型原子力プラントの配管(または機器)と電気的に接続されていない。このような診断用電極9に係る構成が、特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサと異なっている。
【0052】
沸騰水型原子力プラントで使用される本実施例の腐食電位センサ2は、高温高圧(280℃、7MPa)の環境で使用され、炉水の漏えいを防ぐためにセンサ匡体5がステンレス鋼(または高ニッケル合金)で構成される。また、信号線11b、11cも、被覆がステンレス鋼製のMIケーブルに含まれている。センサ匡体5とMIケーブルは溶接部12で接合され、センサ匡体5は配管20に設けられたセンサ支持用管21に取り付けられている。この結果、センサ匡体5と配管20は電気的に接続される。ここで、特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサを原子炉に適用すると次の問題がある。
【0053】
特開平4−213052号公報ではpH測定時の回路構成が示されており、ガラス電極と参照電極間の電位差を測定することが、特開平4−213052号公報に記載されたセンサの基本機能である。ガラス電極内に水が浸入した場合には、ガラス電極内に設置された2つの電極間に電位差が生じ、2つの電極がそれぞれガラス電極と参照電極に接続されているため、測定時に電圧計に異常な電圧信号として表示、検出されることになる。このような構成を有する特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサを本実施例の腐食電位センサに適用すると、ガラス電極が電極3に、参照電極が配管20に相当する。センサ内に炉水が浸入しても、腐食電位測定用の電極6と配管20間の電位差と、例示されている腐食電位センサに内包された亜鉛電極と銀線の間の電位差が混成して測定されることになる。このため、腐食電位センサの使用条件及び炉水の浸入量によって、炉水の水質変化に起因して生じた電位差の変化、及び炉水の浸入に起因して生じた電位差との区別が難しい場合が生じると想定される。したがって、腐食電位測定用の電極と配管の間の電気的回路とは別に新たな電気的回路を設けることが、水質変化と炉水の漏えいとを明瞭に区別するために必要である。さらに、特開平4−213052号公報に記載された構造でインピーダンスを測定する場合には、信号線11cとセンサ匡体5が電気的に接続されている構成となるので、両者は等電位となり、信号線11cとセンサ匡体5の間でのインピーダンス測定による、腐食電位センサ内への水の浸入が検知できなくなる。このため、信号線11bと配管の間でインピーダンスを測定する必要があるが、これは従来の構造と電気的に同等であるため、課題の解決とならない。
【0054】
本実施例では、腐食電位センサ2内への水の浸入を検知するために、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスを測定するので、診断用電極9の材料は任意に選ぶことができる。このため、センサ匡体5に用いられる、ステンレス鋼などの耐食性の高い材料を、診断用電極9の材料として用いることができる。
【0055】
特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサのように、異なる電位を生じる導体(例えば、亜鉛線および銀線)の間に生じる電位差を測定する場合には、腐食電位の測定対象である構造部材(たとえば、配管20)の材料に対して、大きく異なる電圧を生じる材料をそれらの導体に用いる必要がある。本実施例は、上記したように、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスを測定するので、診断用電極9の材料として任意の材料を用いることができる。
【0056】
特開平4−213052号公報では、使用環境中の電解質液が侵入することによってセンサ内部に設置した電極と測定電極との間に一定の電圧が発生することで漏えいを検出する。これに対し、本実施例では、炉水の浸入によって腐食電位センサ2内部の診断用電極9とセンサ匡体3の間のインピーダンス(抵抗)が変化することを利用して漏えい検出する。また、特開平4−213052号公報では、ON−OFF(電位は解放状態から数Vに変化)の応答をすると考える。センサ内部に設置する金属の組み合わせで一定の電位差が生じることになる。特開平4−213052号公報に記載された構造では、センサ匡体をガラス高温水中で使用するために、センサ匡体を金属で構成した場合には、センサ匡体で発生する電位が混成するか、センサ匡体でシールドされて正確な電圧が測定できない可能性がある。本実施例では、このような問題が生じません。
【0057】
さらに、特開平4−213052号公報の電気化学センサは、電解質の塩を発生する亜鉛線を用いているので、電気化学センサにき裂が発生して炉水が浸入したとき、電気化学センサから外部の炉水に塩が放出され炉水の水質に影響を与える可能性がある。本実施例ではこのような問題が生じない。
【実施例2】
【0058】
本発明の他の実施例である実施例2の腐食電位計測装置を、図7を用いて説明する。本実施例の腐食電位計測装置1Aも腐食電位センサ2および信号処理装置13を備えている。腐食電位計測装置1Aは、ポテンショスタット14に信号線11bおよび11cを接続し、腐食電位計測装置1のように配線17bをポテンショスタット14に接続していない。ポテンショスタット14は、診断用電極9(信号線11c)と信号線11bの間の電位差を計測する。本実施例は、実施例1と同様に、この電位差を用いて、ポテンショスタット14および周波数解析器15により、診断用電極9(信号線11c)と信号線11bの間のインピーダンスが求められる。このインピーダンスは、腐食電位センサ2のロウ付け部6bにき裂が発生して配管20内を流れる炉水がセンサ筺体5内に浸入したとき、図3に示された実線と同様に、大幅に低下する。
【0059】
本実施例も、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【実施例3】
【0060】
本発明の他の実施例である実施例3の腐食電位計測装置を、図8を用いて説明する。本実施例の腐食電位計測装置1Bは、腐食電位計測装置1において信号処理装置13を信号処理装置13Aに替えた構成を有する。信号処理装置13Aは信号処理装置13にノイズ比演算装置31を追加した構成を有する。腐食電位計測装置1Bは、ノイズ比演算装置31以外では、腐食電位計測装置1と同じ構成を有する。ノイズ比演算装置31はポテンショスタット14および周波数解析器15にそれぞれ接続される。
【0061】
腐食電位計測装置1Bにおいても、診断用電極9とセンサ匡体5(グランド)(または診断用電極9と信号線11b(測定用信号線))の間のインピーダンスは、腐食電位センサ2が健全な状態では、測定環境中においてほとんど変化しない。一方、電極3(信号線11b)とグランドの間の腐食電位は、例えば、図9に実線で示すように、構造部材(例えば、配管)の表面の腐食に伴うゆらぎによって生じるノイズにより、絶えず変動している。また、炉水の水質切り替えによっても、その腐食電位(信号)に変化が生じる。このような電極3(信号線11b)とグランドの間の腐食電位の変動および変化は、炉水の浸入により腐食電位センサの機能が失われた場合に計測される腐食電位と区別することが難しい。
【0062】
本実施例では、信号処理装置13Aに設けたノイズ比演算装置31によって、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスに対する、ジルコニウム電極3と配管20(グランド)の間の電位差の信号ノイズ比を求める。本実施例では、この信号ノイズ比を監視することによって、炉水の温度変化などの共通要因を打ち消し、構造部材(例えば、配管20)の腐食の揺らぎおよび水質切り替え時の過渡的な信号成分(図10参照)のみを監視することができる。
【0063】
ノイズ比演算装置31は、エレクトロメーター16で測定した腐食電位を入力し、周波数解析器15で求めた、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスを入力する。ノイズ比演算装置31は、このインピーダンスに対する腐食電位の比、すなわち、前述の信号ノイズ比を算出する。算出された信号ノイズ比の一例を図10に示す。
【0064】
腐食電位センサ2の接合部に不具合が生じてセンサ筺体5内に炉水が浸入することによって腐食電位センサ2の健全性が損なわれた場合には、実施例1と同様に、インピーダンス測定装置(ポテンショスタット14および周波数解析器15)で計測された、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスが大きく低下する。このため、信号ノイズ比の経時変化のパターンが、腐食電位センサ2への炉水の浸入前と大きく変化すると共に、信号ノイズ比が大きく低下する(図10参照)。この結果、腐食電位センサ2に不具合が生じて水が浸入したことを精度良く検知することができる。
【0065】
本実施例においても、実施例2と同様に、配線17bによるアース線17aとポテンショスタット14の接続を取り止め、ポテンショスタット14に信号線11b、11cを接続してもよい。
【実施例4】
【0066】
本発明の他の実施例である実施例4の腐食電位計測装置を、図11を用いて説明する。本実施例の腐食電位計測装置は、実施例1の腐食電位計測装置1において腐食電位センサ2を腐食電位センサ2Aに替えた構成を有する。本実施例の腐食電位計測装置の他の構成は、腐食電位計測装置1と同じである。
【0067】
腐食電位センサ2Aは、電極、絶縁体4A、センサ筺体5および診断用電極9を備える。絶縁体4Aは、酸化ジルコニウム(ジルコニア)で作られ、一端が開放されて一端が閉じられた管状の形状(試験管状の形状)を有している。絶縁体4Aは、内部の銀ワイヤ26が外部と炉水と直接接触することを防止している。しかし、同時に、絶縁体4Aは酸素イオンに対しては固体電解質として作用し、酸素イオンを介して外部と腐食電位センサ2Aの内部は平衡が成立する。絶縁体4Aの開放端部が、センサ筺体5内に挿入されてセンサ筺体5にロウ付け部6bにより接合されている。腐食電位センサ2Aの基準電位を発生する電極は、白金粉末25、銀ワイヤ26および酸化銀粉末27を有する。白金粉末25、銀ワイヤ26および酸化銀粉末27は、一端が閉じられた絶縁体4A内に配置され、白金粉末25が絶縁体4Aの閉じられた端部に配置され、酸化銀粉末27の充填層が白金粉末25の充填層の隣に配置される。
【0068】
酸化銀粉末27は腐食電位センサ2A内で酸素分圧を一定に保つために用いられている。高温で酸化銀の一部が銀と酸素に分解する。腐食電位センサ2A内は体積が一定であるため、ある酸素分圧で銀と酸素が結合して酸化銀が形成される反応が無視できない速度となって平衡となる。この結果、酸化銀、銀及び酸素は使用温度の下で平衡となって酸素分圧が一定に保たれる。このような酸素分圧を一定にする作用は、酸化銀の他、ニッケル/酸化ニッケル、鉄/酸化鉄、水銀/酸化水銀などの金属と金属酸化物の組み合わせによっても得られる。酸素分圧の高い系が好ましいが、分解しやすいと腐食電位センサが不安定となる。
【0069】
また、白金粉末25は絶縁体4Aを通じて腐食電位センサ2A内に入ってきた酸素イオンが速やかに電子を得て酸素イオンとなる触媒作用と、酸素イオンと電子を反応させることによってその位置で電流を集める集電作用とを担っている。
【0070】
白金粉末25および酸化銀粉末27のそれぞれの充填層は、絶縁体4Aの内面に接触している。絶縁体4Aの開放端部が、絶縁体4A内に挿入されたサファイヤピストン(封鎖部材)35によって封鎖される。サファイヤピストン28は、絶縁体4Aに固定され、白金粉末25の充填層および酸化銀粉末27の充填層を保持する。銀ワイヤ26は酸化銀粉末27の充填層内に配置される。サファイヤピストン28を貫通して酸化銀粉末27の充填層に達した銀電極線34は、銀ワイヤ26に接続され、ロウ付け部6cによりサファイヤピストン28に固定される。
【0071】
信号線11b、11cを外筒管11aに配置して構成される鉱物絶縁ケーブル10がセンサ筺体5を貫通している。信号線11bが銀電極線34に接続され、信号線11cがセンサ筺体5内に配置した診断用電極9に接続される。
【0072】
腐食電位センサ2Aも、腐食電位センサ1と同様に、構造部材、例えば、炉水が流れる配管20に取り付けられたセンサ支持用管21に取り付けられる。
【0073】
構造部材の腐食電位が信号線11bおよび配線17cに接続されるエレクトロメーター16によって計測され、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスが、インピーダンス測定装置(ポテンショスタット14および周波数解析器15)で計測される。
【0074】
本実施例においても、実施例2と同様に、配線17bによるアース線17aとポテンショスタット14の接続を取り止め、ポテンショスタット14に信号線11b、11cを接続してもよい。
【0075】
実施例1の腐食電位センサ2は、構造が単純で堅牢であるため長期的な使用に適している。ただし、電極3に金属ジルコニウムを使用する場合は、腐食電位センサ2においては、予め発生する基準電位を測定によって確認しておく必要がある。また、電極3を白金製とした場合には、その電極は水素電極として機能するため、炉水を、水素が酸化剤よりも十分に過剰な環境にする必要がある。一方、本実施例の腐食電位センサ2Aは、センサの内部と外部の使用環境の間に平衡が成立するので、発生する基準電位を理論計算することが可能である。このため、腐食電位センサ2Aは、他の腐食電位センサを校正するための一次電極として使用することができる。実施例1の腐食電位センサ2の電極3を白金で構成し、炉水中に水素が十分に存在する場合には、同様に一次電極として使用することができる。ただし、十分な水素の存在という制約を受けない点で、実施例4の腐食電位センサ2Aが優れている。一方、腐食電位センサ2Aの構造は腐食電位センサ2に比べて堅牢性で劣ることが弱点である。使用環境によって使い分けたり、構造の異なる複数の腐食電位センサを同時に設置して信頼性を上げたりすることが適切である。
【実施例5】
【0076】
本発明の他の実施例である実施例5の腐食電位計測装置を、図12を用いて説明する。本実施例の腐食電位計測装置は、実施例1の腐食電位計測装置1において腐食電位センサ2を腐食電位センサ2Bに替えた構成を有する。本実施例の腐食電位計測装置の他の構成は、腐食電位計測装置1と同じである。
【0077】
腐食電位センサ2Bは、腐食電位センサ2に絶縁体30を追加した構成を有する。絶縁体30は、センサ筺体5内に配置され、センサ筺体5の内面に取り付けられている。診断用電極9が絶縁体(第1絶縁体)30に接触している。絶縁体30は、水(導電性液体)を吸収しやすい物質(例えば、紙または多孔質のセラミックス)で構成されており、水を吸収することによって電気抵抗が小さくなる。本実施例では、絶縁体30は多孔質のセラミックスで構成される。
【0078】
沸騰水型原子力プラントの運転中において、腐食電位センサ2Bが健全な状態である場合には、腐食電位センサ2Bのセンサ筺体5内に炉水が浸入しないので、診断用電極9が絶縁体30によってセンサ筺体5に電気的に接続されない状態になっている。このため、インピーダンス測定装置(ポテンショスタット14および周波数解析器15)で計測される、診断用電極9とグランド間のインピーダンスは、絶縁体30である多孔質のセラミックスの電気絶縁性によって高い値となる。絶縁体30として誘電率の既知の物質を用いることによって、そのインピーダンスは、絶縁体30を構成する物質の値を示す。
【0079】
接合部に不具合が生じてセンサ筺体5内に炉水が浸入した場合には、この炉水(導電性液体)が多孔質のセラミックスに吸収される。多孔質のセラミックスに炉水が染込むことによって、診断用電極9とセンサ筺体5の間の電気絶縁性が破壊され、水を含んだ多孔質のセラミックス(絶縁体30)の電気抵抗が小さくなる。このため、診断用電極9とセンサ筺体5が電気的に接続されて診断用電極9とグランド間のインピーダンスが著しく低下し(図13に示された実線を参照)、腐食電位センサ2B内への炉水の浸入を即時に精度良く検知することができる。本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【0080】
多孔質のセラミックとしては、例えば、焼結したジルコニアおよびサファイアなどがある。
【0081】
本実施例においても、実施例2と同様に、配線17bによるアース線17aとポテンショスタット14の接続を取り止め、ポテンショスタット14に信号線11b、11cを接続してもよい。
【実施例6】
【0082】
本発明の他の実施例である実施例6の、複数の腐食電位計測装置を配置した沸騰水型原子力プラントを、図14を用いて説明する。
【0083】
沸騰水型原子力プラントは、原子炉、原子炉格納容器、タービン46、再循環系、原子炉浄化系および複数の腐食電位計測装置を備えている。原子炉格納容器内に設置された原子炉は、原子炉圧力容器40を有し、原子炉圧力容器40内に複数の燃料集合体(図示せず)を装荷した炉心41を配置している。2系統の再循環系は、それぞれ、再循環系配管43および再循環系配管43に設けられた再循環ポンプ44を有する。原子炉圧力容器40に接続された主蒸気配管45が、タービン46に接続される。タービン46に連絡される復水器47が、給水配管48により原子炉圧力容器40に接続される。オフガス系配管49が復水器47に接続される。水素注入装置52が給水配管48に接続され、線量率モニタ53が主蒸気配管45に設置される。
【0084】
原子炉浄化系は、再循環系配管43に接続された浄化系配管50を有し、浄化装置(図示せず)が浄化系配管50に設けられる。浄化系配管50は給水配管48に接続される。原子炉圧力容器40の底部に接続されたドレン配管51が、浄化系配管50に接続される。
【0085】
水質測定装置54aがサンプリング配管55aによってドレン配管51に接続され、水質測定装置54bがサンプリング配管55bによって浄化系配管50に接続される。水質測定装置54cがサンプリング配管55cによって給水配管48に接続され、水質測定装置54dがサンプリング配管55dによって主蒸気配管45に接続される。
【0086】
複数の腐食電位計測装置1のそれぞれの腐食電位センサが、沸騰水型原子力プラントの該当箇所に設置される。腐食電位センサ2Fは、炉心41内に設置された中性子計装管(図示せず)内に設置される。腐食電位センサ2Cは、再循環系配管43に取り付けられたセンサ支持用管21内に挿入され、このセンサ支持用管21に図1に示すように取り付けられる。腐食電位センサ2Dは、ドレン配管51に取り付けられたセンサ支持用管21内に挿入され、このセンサ支持用管21に図1に示すように取り付けられる。腐食電位センサ2Eは、浄化系配管50に取り付けられたセンサ支持用管21内に挿入され、このセンサ支持用管21に図1に示すように取り付けられる。
【0087】
沸騰水型原子力プラントの運転中、原子炉圧力容器40内で炉心41の周囲に形成されたダウンカマ42内の炉水が、再循環ポンプ44の駆動により再循環系配管43内に流入し、原子炉圧力容器40内に設置されたジェットポンプ(図示せず)に供給される。ジェットポンプから吐出された炉水は、炉心41に供給される。この炉水は、燃料集合体に含まれた核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部の炉水が蒸気になる。上記は、主蒸気配管45を通してタービン46に供給され、発電機(図示せず)が連結されたタービン46が回転される。発電機も回転するので、電力が発生する。
【0088】
タービン46から排気された蒸気は、復水器47で凝縮されて水になる。この水は、給水として、復水器47から給水配管48を通って原子炉圧力容器40に供給される。再循環系配管43内を流れる炉水の一部は、浄化系配管50内に流入し、浄化系配管50に設けられた浄化装置で浄化される。浄化された炉水は、浄化系配管50および給水配管48により原子炉圧力容器40に戻される。
【0089】
炉水の水質は、サンプリング配管55a及び55bで採取した炉水を減圧及び冷却して、水質測定装置54a及び54bによりオンラインで測定される。水素注入装置52から給水配管48内を流れる給水に水素を注入し、水素を含む給水が原子炉圧力容器40内に供給される。結果として、水素が原子炉圧力容器40内の炉水に注入される。炉水の水質変化が水質測定装置54a及び54bによりオンラインで測定される。
【0090】
腐食電位センサ2C,2D,2E,2Fを有するそれぞれの腐食電位計測装置が、水素注入時における各位置での腐食電位の変化を測定する。炉心41に設置した腐食電位センサ2Fが炉心41内あるいは近傍に置かれた構造部材の腐食電位を測定するので、この構造部材が置かれた腐食環境を知ることができる。再循環系配管43に設置した腐食電位センサ2Cが再循環系配管43の腐食電位を計測するので、再循環系配管43内の腐食環境を知ることができる。ドレン配管51に設置した腐食電位センサ2Dがドレン配管51の腐食電位を計測するので、原子炉圧力容器40の下部領域の腐食環境を知ることができる。炉浄化系16に設置した腐食電位センサ2Eが浄化系配管50の腐食電位を計測するので、再循環系配管43内を流れる炉水とドレン配管51内を流れる炉水が混合した後の炉水の腐食環境を知ることができる。
【0091】
これらの腐食電位の測定により、各部位での腐食電位が目標とする値にまで低下するように、水素注入装置52から給水に注入する水素量を調節すればよい。原子炉圧力容器40内の炉水に注入した水素の余剰分は、主蒸気配管45、タービン46および復水器47を経てオフガス系配管49に排気され、オフガス系配管49に設けられた再結合器(図示せず)で酸素と結合されて処理される。給水の水素濃度は、サンプリング配管55cでサンプリングされた給水を水質測定装置54cで測定することによって得られる。また、水素注入時の主蒸気系配管45の線量率は線量率モニタ53で監視される。
【0092】
各腐食電位計測装置1のそれぞれの腐食電位センサの健全性を確認するために、腐食電位を測定していない時期に、実施例1と同様に、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスをインピーダンス測定装置(ポテンショスタット14および周波数解析器15)で測定する。このインピーダンスの測定により、腐食電位センサ2C,2D,2E,2Fのそれぞれにおいて接合部に不具合が生じてそれぞれのセンサ筺体5内に炉水が浸入した場合には、それを短持間に精度良く検知することができる。
【0093】
複数の腐食電位センサを上記したように沸騰水型原子力プラントの複数の箇所に設置することによって、沸騰水型原子力プラントの構造部材に応力腐食割れ(SCC)または流動加速腐食(FAC)などが発生する腐食環境を把握することができ、原子力プラントの長期的な安全性、健全性および信頼性を確保するための保全策を提供することができる。特に、沸騰水型原子力プラントの腐食環境は、プラント内の領域によって異なるため、SCCの発生を抑制したい部位の近くに腐食電位センサを設置することにより、その部位での腐食環境をより正確に精度良く把握することができる。また、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスを測定することによって、上記したように、個々の腐食電位センサの健全性を確認することができる。
【0094】
腐食電位計測装置1の替りに、実施例2〜5の腐食電位計測装置を用いてもよい。実施例1〜5の各腐食電位計測装置は、加圧水型原子力プラントに適用することができる。加圧水型原子力プラントにおいては、腐食電位計測装置は、炉心内、および炉水が流れる配管、さらには蒸気発生器に接続される給水配管に設置される。
【0095】
実施例1〜5の各腐食電位計測装置は、高温水に曝される配管、機器を有する種々のプラント、例えば、原子力プラント以外に、火力発電プラント及び化学プラントに適用することができる。
【符号の説明】
【0096】
1,1A,1B…腐食電位計測装置、2,2A〜2F…腐食電位センサ、3…ジルコニウム電極、4,4A,30…絶縁体、5…センサ筺体、7…ジルコニウム電極線、9…診断用電極、10…鉱物絶縁ケーブル、11b、11c…信号線、13,13A…信号処理装置、14…ポテンショスタット、15…周波数分析器、16…エレクトロメーター、17a…アース線、17b、17c…配線、20…配管、21…センサ支持用管、25…白金粉末、26…銀ワイヤ、27…酸化銀粉末、28…サファイヤピストン、31…ノイズ比演算装置、34…銀電極線、40…原子炉圧力容器、41…炉心、43…再循環系配管、45…主蒸気配管、48…給水配管、50…浄化系配管、51…ドレン配管、52…水素注入装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食電位計測方法およびその装置に係り、特に、原子力プラントに適用するのに好適な腐食電位計測方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおいて、ステンレス鋼およびニッケル基合金等は構造材料と呼ばれ、原子炉機器および配管等の構造部材に用いられる。これらの構造材料は、特定の条件下で応力腐食割れ(SCC)の感受性を示す。そこで、SCCの防止策が、原子力プラントの健全性を維持するために適用されている。また、近年では、原子力プラントの設備利用率の向上および長寿命化のような経済性向上の観点からも、SCCの予防策が適用されている。SCC防止策には、材料の耐食性向上、応力の改善、あるいは腐食環境の緩和を目的とした技術がある。
【0003】
沸騰水型原子力プラントでは、SCC防止策の1つとして、構造材料で構成された、沸騰水型原子力プラントの構造部材に接触する炉水(原子炉内に存在する冷却水)の腐食環境を改善する水素注入が、広く用いられている。水素注入の一例が、特許第2687780号公報に記載されている。原子炉内の炉水は、炉水の放射線分解により生成されて構造部材の腐食の原因となる酸素および過酸化水素を含んでいる。酸素および過酸化水素が腐食環境を形成している。水素注入は、給水配管等を介して炉水に水素を注入し、炉水に含まれている酸素および過酸化水素を注入された水素と反応させて水に戻す技術である。その反応により炉水中の酸素および過酸化水素の濃度が低下する結果、炉水に接触する構造部材の腐食電位(ECP)が低下し、構造部材のSCCが緩和される。
【0004】
水素注入時の腐食電位の低下をさらに促進させる技術として、例えば、特開平4−223299号公報に記載された白金族貴金属元素を炉水に注入する技術(貴金属注入技術)が知られている。この貴金属注入技術は、水素注入技術と併用され、白金族貴金属元素が有する水素の電気化学反応への触媒作用を利用して、水素注入による腐食電位の低減幅をさらに大きくする。
【0005】
これらの炉水の腐食環境を低減させるSCC防止策を実施するためには、構造部材の腐食電位を精度良く測定する必要がある。そこで、原子炉内あるいは原子炉に接続された配管に腐食電位センサを設置し、腐食電位センサを用いた構造部材の腐食電位の測定が行われている。腐食電位センサは、使用条件下で腐食電位測定の基準となる一定の電位(基準電位)を発生する。このため、腐食電位センサは、基準電極または参照電極と呼ばれている。沸騰水型原子力プラントの構造部材が接触する炉水の温度、炉水に含まれる酸素および過酸化水素のそれぞれの濃度、および流れている炉水の流速の条件下で有する電位と、腐食電位センサの有する基準電位との電位差を、エレクトロメータを用いて測定することによって、その構造部材の腐食電位を知ることができる。
【0006】
従来の腐食電位センサの例が、Proceedings of International Symposium on Plant Aging and Life Prediction of Corrodible Structures, May 15-18, 1995, Sapporo Japan, p413 JSCE-NACE (1995)に記載されている。腐食電位センサの他の例が、特開2000−65785号公報および特開2009−042111号公報に記載されている。
【0007】
特開平4−213052号公報は、センサの破損を検知できる電気化学センサ(例えば、pHセンサ)を記載している。特に、特開平4−213052号公報は、電気化学センサが破損されたこと、例えば、溶液がセンサ内に浸入したことを検出できることを記述している。湿分の浸入を検出するために、電解質(湿分)に接触したときに電位差を生じる異なる金属を用い、発生した電位差をpHアナライザー(電圧測定装置)により検出している。
【0008】
特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサは、半電池(センサ感知電極)、参照電池、亜鉛線および銀線を有し、亜鉛線が半電池に接続された導体に接続され、亜鉛線の近傍に配置された銀線、および参照電池(センサ照合電極)がその導体に接続された同軸ケーブルに接続されている。亜鉛線および銀線は異なる電位差を生じる。センサが破損してセンサ内に湿分が浸入したとき、亜鉛線と銀線の間に生じる電位差を電圧測定装置で測定することにより、湿分の浸入による電気化学センサの破損を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2687780号公報
【特許文献2】特開平4−223299号公報
【特許文献3】特開2000−65785号公報
【特許文献4】特開2009−42111号公報
【特許文献5】特開平4−213052号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Proceedings of International Symposium on Plant Aging and Life Prediction of Corrodible Structures, May 15-18, 1995, Sapporo Japan, p413 JSCE-NACE (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
原子力プラントにおいて構成部材の腐食電位(ECP)を測定する場合に、測定時に腐食電位センサの健全性を確認したい場合がある。例えば、腐食電位センサを設置してから1運転サイクル(国により13カ月、18カ月、または24カ月)に亘って測定するとき、いつの段階まで腐食電位センサの機能が正常であったかを判断し、測定データの妥当性を評価したい場合がある。また、原子力プラントに設置した腐食電位センサを、1運転サイクルの間、使用し、一旦、定期検査による原子力プラント停止の後、次の新たな運転サイクルでもう一度使用する場合に、腐食電位センサが使用できるかを判定したい場合もある。
【0012】
しかしながら、原子力プラントにおいて、腐食電位センサを原子炉内および原子炉に近い部位の配管に設置するときは、腐食電位センサの匡体を溶接によって測定位置に固定する。また、原子力プラントの運転中では、そのような腐食電位センサの設置位置に接近できないため、一度設置した腐食電位センサを、供用中に正常であるか否かを判断する目的で取り外すことができない。
【0013】
そこで、一つの方法として、腐食電位センサの腐食電位を測定する信号線とグランド(配管)の間のインピーダンス(または簡便には抵抗)を測定して適切な電気絶縁性が維持されているかを判断することによって、腐食電位センサの機能が正常であるかを判断することが行われる。しかしながら、センサに不具合が発生してセンサ匡体内に炉水が浸入した場合には、腐食電位を正確に測定することができなくなる。
【0014】
特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサでは、半電池(センサ感知電極)、参照電池、亜鉛線および銀線を有し、亜鉛線と亜鉛線の近傍に配置された銀線の間に生じる電位差を測定して、湿分の浸入による電気化学センサの破損を検出している。特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサを腐食電位センサとして用いた場合には、以下のような問題が生じる。特開平4−213052号公報ではセンサの内部に設置された湿分の侵入を検知するための2つの電極がそれぞれ電圧計の2つの入力に接続されているため、一方が腐食電位測定用の電極、他方が配管に接続されることになる。炉水が侵入しても、腐食電位測定用の電極と配管間の電位差と、例示されている亜鉛電極と銀線の間の電位差が混成して測定されることになるため、炉水水質の変化によって生じた電位差の変化と、炉水の侵入によって生じた電位差との区別が難しい場合が生じる。そのため、腐食電位測定用の電極と配管の間の電気的回路とは別に新たな電気的回路を設けることによって、水質変化と炉水の漏えいとを明瞭に区別する構造が望まれていた。
【0015】
本発明の目的は、プラントの運転中において異常の発生を精度良く検知でき、且つ構造部材の腐食電位を測定することができる腐食電位計測方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、プラントの、接地された構造部材に設置された金属筺体、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極、およびその金属筺体内で金属筺体から離れて配置された診断用電極を有する腐食電位センサを用い、腐食電位検出用電極と構造部材の間の電位差を測定し、診断用電極とグランドの間のインピーダンスおよびその診断用電極と腐食電位検出用電極に接続された導線の間のインピーダンスのいずれかを測定することにある。
【0017】
診断用電極とグランドの間のインピーダンスおよびその診断用電極と腐食電位検出用電極に接続された導線の間のインピーダンスのいずれかを測定することにより、金属筺体内に導電性液体が浸入したとき、そのインピーダンスが著しく低下するので、腐食電位センサでの異常の発生を精度良く検知することができる。また、構造部材の腐食電位は、腐食電位検出用電極と構造部材の間の電位差を計測することによって、把握することができる。
【0018】
好ましくは、計測されたインピーダンスおよび電位差に基づいて信号ノイズ比を求めることが望ましい。
【0019】
この信号ノイズ比を求めることによって、導電性液体の液質の変化時の過渡的な信号成分を監視することができ、金属筺体内への導電性液体の浸入を、その過度的な信号成分と区別して精度良く検知することができる。
【0020】
上記した目的は、腐食電位センサと、信号処理装置とを備え、腐食電位センサが、金属筺体と、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極と、その金属筺体内に配置されて金属筺体から離れている診断用電極と、腐食電位検出用電極に接続された第1導線と、診断用電極に接続された第2導線とを有し、信号処理装置が、第1導線に接続されて腐食電位を計測する電位計測装置と、第2導線に接続されて、診断用電極とグランドの間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有することによっても達成できる。
【0021】
腐食電位センサと、信号処理装置とを備え、腐食電位センサが、金属筺体と、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極と、その金属筺体内に配置されて金属筺体から離れている診断用電極と、腐食電位検出用電極に接続された第1導線と、診断用電極に接続された第2導線とを有し、信号処理装置が、第1導線に接続されて腐食電位を計測する電位計測装置と、第1導線および第2導線に接続されて、診断用電極と第1導線の間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有することによっても、上記した目的を達成できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、プラントの運転中において異常の発生を精度良く検知することができ、且つ構造部材の腐食電位を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の腐食電位計測装置の構成図である。
【図2】図1に示す腐食電位センサの縦断面図である。」
【図3】腐食電位センサの不具合発生時におけるインピーダンス変化を示す説明図である。
【図4】沸騰水型原子力プラントで実測した、水素注入時における炉水中の溶存酸素濃度および構造部材の腐食電位と給水中の水素濃度との関係を示す説明図である。
【図5】従来の腐食電位センサとグランド間のインピーダンスを測定している測定時におけるインピーダンス測定部を示す説明図である。
【図6】不具合が発生した従来の腐食電位センサにおけるインピーダンス測定部を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施例である実施例2の腐食電位計測装置の構成図である。
【図8】本発明の他の実施例である実施例3の腐食電位計測装置の構成図である。
【図9】腐食電位センサの想定用信号線および診断用信号線のそれぞれとグランド間の腐食電位の変化を示す特性図である。
【図10】腐食電位センサのインピーダンスと腐食電位ノイズの比の変化と不具合の発生の関係を示す特性図である。
【図11】本発明の他の実施例である実施例4の腐食電位計測装置に用いられる腐食電位センサの縦断面図である。
【図12】本発明の他の実施例である実施例5の腐食電位計測装置に用いられる腐食電位センサの縦断面図である。
【図13】腐食電位センサの不具合発生によるインピーダンスの変化を示す特性図である。
【図14】本発明の他の実施例である実施例6において、複数の腐食電位計測装置を配置した沸騰水型原子力プラントの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明者らは、腐食電位センサの不具合の発生について検討を行った。この検討内容について説明する。
【0025】
沸騰水型原子力プラントにおいて原子炉内の炉水への水素注入を実施したときの、原子炉に供給する給水の水素濃度に対する、サンプリング系によりサンプリングした炉水の溶存酸素濃度の変化、およびそのプラントの構造部材の腐食電位の変化の測定結果を、図4に示す。図4により、給水の水素濃度が上昇すると、炉水の溶存酸素濃度が低下し、それに追従して構造部材の腐食電位が低下する様子が分かる。したがって、腐食電位を精度良く測定するためには、腐食電位センサが不可欠であり、腐食電位センサが原子力プラントの運転条件で使用可能であることが求められる。
【0026】
従来の腐食電位センサによる腐食電位の測定を、図5を用いて説明する。この腐食電位センサは、絶縁体の先端部に電極を取り付け、この絶縁体をセンサ筺体に溶接にて取り付けている。電極に接続された電極線が、絶縁体を貫通して配置され、信号線に接続される。信号線は、センサ筺体を貫通してセンサ筺体の外側に取り出される。腐食電位センサは、配管に取り付けられたセンサ保持用管内に配置され、センサ筺体をセンサ保持用管に溶接することによって、配管に取り付けられる。配管は接地されている。配管は原子炉に接続されており、原子炉の運転中には炉水が配管内を流れている。
【0027】
腐食電位センサの腐食電位を測定する信号線とグランド(配管)の間のインピーダンス(または簡便には抵抗)を測定して適切な電気絶縁性が維持されているかを判定することによって、腐食電位センサの機能が正常に保持されているかを判定している。通常、沸騰水型原子力プラントの運転中において、原子炉内の炉水の導電率は室温で0.1μS/cm以下、280℃では2μS/cm程度になる。加圧水型原子力プラントでも、原子炉内の炉水の導電率は運転温度で数μS/cmになる。このため、仮に腐食電位センサの腐食電位を検知するための電極が、グランドになる配管から1mm離れていたとする。このとき、図5に示すインピーダンス測定部(上記の電極と配管の間の1mmの間隙)におけるインピーダンスは100kΩ程度の値を示すことになる。このインピーダンスの値は、電極とセンサ匡体の間に設けられた絶縁体の抵抗値(107〜1012Ω程度)に比較してはるかに小さい。
【0028】
ところが、腐食電位センサの絶縁体とセンサ筺体の溶接部に不具合が発生してこの不具合箇所からセンサ匡体内に炉水(導電性液体)が浸入すると、図5に示すように、電極と配管との間のインピーダンス測定部Aでの電位差(腐食電位)を測定しているつもりが、実際には、図6に示すように、腐食センサの信号線とセンサ匡体間のインピーダンス測定部Bでの電位を測定することになる。この場合、測定された腐食電位の測定値は、適切な腐食電位の値を示していないが、腐食電位センサに異常が生じていることが分からなければ、配管の腐食電位は電極の電位と同じ値であると判定されることになる。このとき、インピーダンスを測定したとしても、信号線とセンサ匡体の間隔もまた数mm程度であるので、腐食電位センサの健全性(不具合が生じた異常状態)をこの方法では正確に判定することができない。
【0029】
そこで、腐食電位センサの健全性を判定するために、炉水の水質を変化させ、電極と配管の間の電位差が水質の変化に対応して変動するか否かを確認することになる。電極の電位は腐食電位センサが健全であれば一定の基準電位を示すので、水質を変化させたときに配管と電極の間の電位差(配管の腐食電位に対応)が変動した場合には、腐食電位センサが健全であると判定できる。しかしながら、原子力プラントの運転中に腐食電位センサの健全性を確認するために、炉水の水質を頻繁に変化させることは好ましくない。
【0030】
発明者らは、上記した事項を考慮して、原子力プラントの運転中において異常の発生を確認することができ、且つ構造部材の腐食電位を精度良く測定することができる腐食電位測定装置について、種々の検討を行った。この結果、診断用電極とグランドの間のインピーダンス(または診断用電極と腐食電位を検出する電極に接続された信号線の間のインピーダンス)を測定することによって、腐食電位センサの導電性液体の浸入による異常の発生を精度良く検知できることを見出した。
【0031】
この新たな知見に基づいた本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0032】
本発明の好適な一実施例である実施例1の腐食電位計測装置を、図1および図2を用いて説明する。本実施例の腐食電位計測装置1は、腐食電位センサ2および信号処理装置13を備えている。
【0033】
腐食電位センサ2は、電極(腐食電位検出用電極)3、絶縁体であるジルコニア絶縁体(第2絶縁体)4、センサ筺体(金属筺体)5、電極線であるジルコニウム電極線7および診断用電極9を有する。図2を用いて、腐食電位センサ2の詳細な構成を説明する。基準電位を発生する電極1としては、金属ジルコニウムで製作されたジルコニウム電極を使用する。電極1がロウ付けにより絶縁体4に取り付けられる。このロウ付けにより生成されたロウ付け部6aが、ジルコニウム電極1と絶縁体4を接合している。電極1を保持する絶縁体4には酸化ジルコニウム(ジルコニア)が用いられる。ステンレス鋼製のセンサ筺体5がロウ付けにより絶縁体4に取り付けられる。このロウ付けにより生成されたロウ付け部6bが、絶縁体4とセンサ筺体5を接合している。ロウ付け部6bの生成は、絶縁体4のジルコニアとセンサ筺体5のステンレス鋼の中間の熱膨張率を有するコバールまたは42高ニッケル合金などを用いて行われる。これによって、接合時における絶縁体4およびセンサ筺体5の歪みおよび温度変化による歪みの影響を取り除くことができる。センサ筺体5が取り付けられた絶縁体4の端部は、電極3が取り付けられた絶縁体4の端部とは逆の端部である。ジルコニウム電極1と絶縁体4、および絶縁体4とセンサ筺体5のそれぞれの接合は、ロウ付け部の替りに機械的締結を用いてもよい。
【0034】
ジルコニウム電極線7が絶縁体4を貫通して電極3に接続されている。ジルコニウム電極線7が絶縁体4にロウ付け部6cにより固定される。信号線11b(測定用信号線)(第1導線)がジルコニウム電極線7にスポット溶接8で接続される。診断用電極9が、センサ筺体5内に配置され、センサ筺体5の内面から離れている。この診断用電極9に信号線11c(診断用信号線)(第2導線)が接続される。信号線11b、11cはセンサ筺体5の外部に達している。鉱物絶縁ケーブル6が外筒管11aおよび信号線11b、11cを含んでいる。信号線11b、11cはステンレス鋼製の外筒管11a内に配置されている。鉱物絶縁ケーブル(MIケーブル)10がセンサ筺体5を貫通して配置され、外筒管11aがセンサ筺体5に溶接によって取り付けられる。12がその溶接部である。腐食電位センサ2は、ロウ付け部6a,6bおよび溶接部12により気密性が保持される。
【0035】
ジルコニウム電極1およびジルコニウム電極線4を、それぞれ白金で構成してもよい。電極1および電極線4を白金で構成した腐食電位センサ2は、白金型腐食電位センサとして機能する。電極1はジルコニウム合金で製作してもよい。
【0036】
信号処理装置13は、ポテンショスタット14、周波数解析器15およびエレクトロメーター(電位計測装置)16を有する。ポテンショスタット14が信号線11cに接続され、エレクトロメーター16が信号線11bに接続される。周波数分析器15がポテンショスタット14に接続される。
【0037】
原子力プラント、例えば、沸騰水型原子力プラントの原子炉に接続されて内部に原子炉内の炉水が流れる配管(例えば、再循環系配管)20に、センサ支持用管(センサ支持部材)21が取り付けられている。腐食電位センサ2は、センサ支持用管21内に挿入され、センサ筺体5に取り付けられた保持部材22を、センサ支持用管21に設けられたフランジに取り付けることによって、センサ支持用管21、すなわち、配管20に取り外し可能に固定される。センサ支持用管21に保持されてセンサ支持用管21内に配置された腐食電位センサ2の電極3は、配管20の内面の位置に位置している。グランドに接続されているアース線17aがセンサ支持用管21に接続される。アース線17aは、センサ支持用管21に接続されているが、実質的には、沸騰水型原子力プラントの構造部材である配管20およびセンサ筺体に接続されている。アース線17aに接続された配線17bがポテンショスタット14に接続され、アース線17aに接続された配線17cがエレクトロメーター16に接続される。配線17b、17cは、アース線17a、センサ支持用管21および保持部材22を介してセンサ筺体5に接続されている。
【0038】
沸騰水型原子力プラントの運転時には、原子炉内の炉水(導電性液体)が配管20内を流れている。腐食電位センサ2を設置した配管20の腐食電位が、腐食電位計測装置1によって計測される。炉水と接触するジルコニウム電極1で生じた基準電位は、ジルコニウム電極線4および信号線11bを経てエレクトロメーター16に入力される。エレクトロメーター16は、配線17、アース線17aおよびセンサ支持用管21を介して配管20に接続されている。このようなエレクトロメーター16は、ジルコニウム電極1で生じた基準電位と配管20の電位との差、すなわち、配管20の腐食電位を測定する。
【0039】
腐食電位センサ2、例えば、絶縁体4とセンサ筺体5の接合部であるロウ付け部6bに不具合(例えば、き裂)が発生してセンサ筺体5内に炉水が浸入したことは、センサ匡体内に設置した診断用電極9とグランド間のインピーダンスを測定することによって知ることができる。このインピーダンスは、ポテンショスタットおよび周波数解析器を用いた2電極法により測定される。
【0040】
ポテンショスタット14は、信号線11cにより診断用電極9に、配線17b、アース線17a、センサ支持用管21および保持部材22を介してセンサ筺体5に接続されている。このため、ポテンショスタット14が診断用電極9(信号線11c)とグランドの間の電位差を計測する。周波数解析器15は、ポテンショスタット14に電位を印加し、この印加する電位を変化させる。ポテンショスタット14は、周波数解析器15からの電位が印加された状態で電流を測定する。電流の測定値は、ポテンショスタット14から周波数解析器15に入力される。周波数解析器15は、ポテンショスタット14に出力した電位、およびポテンショスタット14から入力された電流の測定値に基づいてインピーダンスを求める。このインピーダンスは以下のようにして求める。ポテンショスタット14の3つの端子、すなわち、参照電極用端子、対極用端子及び作用極用端子のそれぞれを次のように測定する。参照電極用端子及び対極用端子を診断用電極9につながる信号線11cに、作用極用端子をアース線17bにそれぞれ接続する。
【0041】
このとき、エレクトロメーター16で電極3とグランド間の電位差Eを測定する。次に、ポテンショスタット14で制御する電位を測定値Eに設定する。周波数解析器15でωの周波数を有する正弦波を発生し、ポテンショスタット14に入力する。ここでωは1〜100Hz程度にとればよい。入力した正弦波によって、ポテンショスタット14で制御しているグランドと診断用電極9の間に引加する電位Eに対して、±10mVのピーク間電位の摂動を加える。したがって、E’=E+0.01Sinωt(V)が、インピーダンス測定のためにグランドと診断用電極9の間に引加されることになる。ωの周波数でE’を与えたとき、信号線11cと配線17bの間に流れる電流Iがポテンショスタット14で測定される。測定された電流Iと引加している電位E’に関する2つの信号が周波数解析器15に出力として送られる。周波数解析器15は、入力した2つの信号を用いてインピーダンスZをZ=E’/Iにより算出し、得られたインピーダンスZを表示する。センサ匡体5内に炉水が浸入していなければ、開回路としてインピーダンスZは数百MΩなどの値を示す。一方、炉水の浸入によりセンサ匡体5と診断用電極9の間が炉水で満たされると、炉水の電気抵抗に応じ数百kΩ以下のインピーダンスを示すことになるので、腐食電位センサ2が故障していると判断することができる。
【0042】
なお、ポテンショスタット14に内蔵されたエレクトロメーターの内部抵抗が高いく(>1013Ω)差動式の構成を有する場合には、エレクトロメーター16を省略してポテンショスタット14の内蔵エレクトロメーターで測定系を構成してしてもよい。
【0043】
ポテンショスタット14および周波数解析器15は、インピーダンス測定装置を構成する。
【0044】
腐食電位センサ2のセンサ筺体5内の、診断用電極9が配置された領域には、空気またはアルゴンなどの不活性ガスが封入されている。このため、腐食電位センサ2が正常に機能している状態(炉水の浸入がない状態)では、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスは、数100MΩから数GΩの範囲内の値になる。
【0045】
ロウ付け部6bでのき裂発生等の不具合が腐食電位センサ2に発生し、沸騰水型原子力プラントの運転時における高温(例えば、280℃)の炉水がセンサ筺体5内に浸入したとする。この高温の炉水の導電率が数μS/cmであり、診断用電極9とセンサ筺体5の間の距離が数mm以下である。診断用電極9がセンサ筺体5内に浸入した炉水に浸漬され、診断用電極9とセンサ筺体5が炉水を介して電気的につながる。このため、インピーダンス測定装置(ポテンショスタット14および周波数解析器15)で測定された、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスが、数十から数100kΩの範囲の値まで低下する。
【0046】
腐食電位センサ2の接合部に不具合が生じたときにおける、そのような診断用電極9とグランドの間のインピーダンスの変化を図3に示す。例えば、ロウ付け部6b等の接合部が健全でセンサ筺体5内に炉水が浸入しない場合には、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスは、図3において実線で示すように高い値になっている。しかしながら、接合部に不具合が発生したとき、具体的には、ロウ付け部6bに貫通するき裂が発生したとき、このき裂からセンサ筺体5内に炉水が浸入し、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスが急激に低下する。
【0047】
本実施例は、ポテンショスタット14および周波数解析器15を用いて診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスを測定するので、図3に実線で示すように、腐食電位センサ2に不具合が発生し、炉水の浸入により腐食電位センサ2が異常状態になったことを精度良く検知することができる。
【0048】
図5に示す従来の腐食電位センサは、電極(測定用信号線)とグランドの間のインピーダンスを測定している。このような腐食電位センサでは、図6に示すように絶縁体と線さ筺体の接合部にき裂が発生して炉水がセンサ筺体内に浸入しても、電極(測定用信号線)とグランドの間のインピーダンスは、図3に破線で示すように、僅かしか低下しない。このため、図5に示す腐食電位センサでは、不具合が生じてセンサ筺体内に炉水が浸入したことを精度良く検知することができない。本実施例では、センサ筺体内に炉水が浸入したとき、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスが、図3に示すように、大幅に低下するので、炉水が浸入する不具合を精度良く短時間に検出することができる。
【0049】
本実施例の腐食電位計測装置1は、電気化学センサの一種である腐食電位センサ2を用いているが、以下の点で特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサと異なっている。
【0050】
特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサは、異なる電位を生じる亜鉛線および銀線を有し、電気化学センサの損傷により電気化学センサ内に湿分が浸入したとき、亜鉛線と銀線の間に生じる電位差を電圧測定装置で測定している。
【0051】
これに対し、本実施例では、腐食電位センサ2のセンサ筺体5内に配置された診断用電極9が、沸騰水型原子力プラントの配管(または機器)と電気的に接続されていない。このような診断用電極9に係る構成が、特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサと異なっている。
【0052】
沸騰水型原子力プラントで使用される本実施例の腐食電位センサ2は、高温高圧(280℃、7MPa)の環境で使用され、炉水の漏えいを防ぐためにセンサ匡体5がステンレス鋼(または高ニッケル合金)で構成される。また、信号線11b、11cも、被覆がステンレス鋼製のMIケーブルに含まれている。センサ匡体5とMIケーブルは溶接部12で接合され、センサ匡体5は配管20に設けられたセンサ支持用管21に取り付けられている。この結果、センサ匡体5と配管20は電気的に接続される。ここで、特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサを原子炉に適用すると次の問題がある。
【0053】
特開平4−213052号公報ではpH測定時の回路構成が示されており、ガラス電極と参照電極間の電位差を測定することが、特開平4−213052号公報に記載されたセンサの基本機能である。ガラス電極内に水が浸入した場合には、ガラス電極内に設置された2つの電極間に電位差が生じ、2つの電極がそれぞれガラス電極と参照電極に接続されているため、測定時に電圧計に異常な電圧信号として表示、検出されることになる。このような構成を有する特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサを本実施例の腐食電位センサに適用すると、ガラス電極が電極3に、参照電極が配管20に相当する。センサ内に炉水が浸入しても、腐食電位測定用の電極6と配管20間の電位差と、例示されている腐食電位センサに内包された亜鉛電極と銀線の間の電位差が混成して測定されることになる。このため、腐食電位センサの使用条件及び炉水の浸入量によって、炉水の水質変化に起因して生じた電位差の変化、及び炉水の浸入に起因して生じた電位差との区別が難しい場合が生じると想定される。したがって、腐食電位測定用の電極と配管の間の電気的回路とは別に新たな電気的回路を設けることが、水質変化と炉水の漏えいとを明瞭に区別するために必要である。さらに、特開平4−213052号公報に記載された構造でインピーダンスを測定する場合には、信号線11cとセンサ匡体5が電気的に接続されている構成となるので、両者は等電位となり、信号線11cとセンサ匡体5の間でのインピーダンス測定による、腐食電位センサ内への水の浸入が検知できなくなる。このため、信号線11bと配管の間でインピーダンスを測定する必要があるが、これは従来の構造と電気的に同等であるため、課題の解決とならない。
【0054】
本実施例では、腐食電位センサ2内への水の浸入を検知するために、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスを測定するので、診断用電極9の材料は任意に選ぶことができる。このため、センサ匡体5に用いられる、ステンレス鋼などの耐食性の高い材料を、診断用電極9の材料として用いることができる。
【0055】
特開平4−213052号公報に記載された電気化学センサのように、異なる電位を生じる導体(例えば、亜鉛線および銀線)の間に生じる電位差を測定する場合には、腐食電位の測定対象である構造部材(たとえば、配管20)の材料に対して、大きく異なる電圧を生じる材料をそれらの導体に用いる必要がある。本実施例は、上記したように、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスを測定するので、診断用電極9の材料として任意の材料を用いることができる。
【0056】
特開平4−213052号公報では、使用環境中の電解質液が侵入することによってセンサ内部に設置した電極と測定電極との間に一定の電圧が発生することで漏えいを検出する。これに対し、本実施例では、炉水の浸入によって腐食電位センサ2内部の診断用電極9とセンサ匡体3の間のインピーダンス(抵抗)が変化することを利用して漏えい検出する。また、特開平4−213052号公報では、ON−OFF(電位は解放状態から数Vに変化)の応答をすると考える。センサ内部に設置する金属の組み合わせで一定の電位差が生じることになる。特開平4−213052号公報に記載された構造では、センサ匡体をガラス高温水中で使用するために、センサ匡体を金属で構成した場合には、センサ匡体で発生する電位が混成するか、センサ匡体でシールドされて正確な電圧が測定できない可能性がある。本実施例では、このような問題が生じません。
【0057】
さらに、特開平4−213052号公報の電気化学センサは、電解質の塩を発生する亜鉛線を用いているので、電気化学センサにき裂が発生して炉水が浸入したとき、電気化学センサから外部の炉水に塩が放出され炉水の水質に影響を与える可能性がある。本実施例ではこのような問題が生じない。
【実施例2】
【0058】
本発明の他の実施例である実施例2の腐食電位計測装置を、図7を用いて説明する。本実施例の腐食電位計測装置1Aも腐食電位センサ2および信号処理装置13を備えている。腐食電位計測装置1Aは、ポテンショスタット14に信号線11bおよび11cを接続し、腐食電位計測装置1のように配線17bをポテンショスタット14に接続していない。ポテンショスタット14は、診断用電極9(信号線11c)と信号線11bの間の電位差を計測する。本実施例は、実施例1と同様に、この電位差を用いて、ポテンショスタット14および周波数解析器15により、診断用電極9(信号線11c)と信号線11bの間のインピーダンスが求められる。このインピーダンスは、腐食電位センサ2のロウ付け部6bにき裂が発生して配管20内を流れる炉水がセンサ筺体5内に浸入したとき、図3に示された実線と同様に、大幅に低下する。
【0059】
本実施例も、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【実施例3】
【0060】
本発明の他の実施例である実施例3の腐食電位計測装置を、図8を用いて説明する。本実施例の腐食電位計測装置1Bは、腐食電位計測装置1において信号処理装置13を信号処理装置13Aに替えた構成を有する。信号処理装置13Aは信号処理装置13にノイズ比演算装置31を追加した構成を有する。腐食電位計測装置1Bは、ノイズ比演算装置31以外では、腐食電位計測装置1と同じ構成を有する。ノイズ比演算装置31はポテンショスタット14および周波数解析器15にそれぞれ接続される。
【0061】
腐食電位計測装置1Bにおいても、診断用電極9とセンサ匡体5(グランド)(または診断用電極9と信号線11b(測定用信号線))の間のインピーダンスは、腐食電位センサ2が健全な状態では、測定環境中においてほとんど変化しない。一方、電極3(信号線11b)とグランドの間の腐食電位は、例えば、図9に実線で示すように、構造部材(例えば、配管)の表面の腐食に伴うゆらぎによって生じるノイズにより、絶えず変動している。また、炉水の水質切り替えによっても、その腐食電位(信号)に変化が生じる。このような電極3(信号線11b)とグランドの間の腐食電位の変動および変化は、炉水の浸入により腐食電位センサの機能が失われた場合に計測される腐食電位と区別することが難しい。
【0062】
本実施例では、信号処理装置13Aに設けたノイズ比演算装置31によって、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスに対する、ジルコニウム電極3と配管20(グランド)の間の電位差の信号ノイズ比を求める。本実施例では、この信号ノイズ比を監視することによって、炉水の温度変化などの共通要因を打ち消し、構造部材(例えば、配管20)の腐食の揺らぎおよび水質切り替え時の過渡的な信号成分(図10参照)のみを監視することができる。
【0063】
ノイズ比演算装置31は、エレクトロメーター16で測定した腐食電位を入力し、周波数解析器15で求めた、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスを入力する。ノイズ比演算装置31は、このインピーダンスに対する腐食電位の比、すなわち、前述の信号ノイズ比を算出する。算出された信号ノイズ比の一例を図10に示す。
【0064】
腐食電位センサ2の接合部に不具合が生じてセンサ筺体5内に炉水が浸入することによって腐食電位センサ2の健全性が損なわれた場合には、実施例1と同様に、インピーダンス測定装置(ポテンショスタット14および周波数解析器15)で計測された、診断用電極9(信号線11c)とグランドの間のインピーダンスが大きく低下する。このため、信号ノイズ比の経時変化のパターンが、腐食電位センサ2への炉水の浸入前と大きく変化すると共に、信号ノイズ比が大きく低下する(図10参照)。この結果、腐食電位センサ2に不具合が生じて水が浸入したことを精度良く検知することができる。
【0065】
本実施例においても、実施例2と同様に、配線17bによるアース線17aとポテンショスタット14の接続を取り止め、ポテンショスタット14に信号線11b、11cを接続してもよい。
【実施例4】
【0066】
本発明の他の実施例である実施例4の腐食電位計測装置を、図11を用いて説明する。本実施例の腐食電位計測装置は、実施例1の腐食電位計測装置1において腐食電位センサ2を腐食電位センサ2Aに替えた構成を有する。本実施例の腐食電位計測装置の他の構成は、腐食電位計測装置1と同じである。
【0067】
腐食電位センサ2Aは、電極、絶縁体4A、センサ筺体5および診断用電極9を備える。絶縁体4Aは、酸化ジルコニウム(ジルコニア)で作られ、一端が開放されて一端が閉じられた管状の形状(試験管状の形状)を有している。絶縁体4Aは、内部の銀ワイヤ26が外部と炉水と直接接触することを防止している。しかし、同時に、絶縁体4Aは酸素イオンに対しては固体電解質として作用し、酸素イオンを介して外部と腐食電位センサ2Aの内部は平衡が成立する。絶縁体4Aの開放端部が、センサ筺体5内に挿入されてセンサ筺体5にロウ付け部6bにより接合されている。腐食電位センサ2Aの基準電位を発生する電極は、白金粉末25、銀ワイヤ26および酸化銀粉末27を有する。白金粉末25、銀ワイヤ26および酸化銀粉末27は、一端が閉じられた絶縁体4A内に配置され、白金粉末25が絶縁体4Aの閉じられた端部に配置され、酸化銀粉末27の充填層が白金粉末25の充填層の隣に配置される。
【0068】
酸化銀粉末27は腐食電位センサ2A内で酸素分圧を一定に保つために用いられている。高温で酸化銀の一部が銀と酸素に分解する。腐食電位センサ2A内は体積が一定であるため、ある酸素分圧で銀と酸素が結合して酸化銀が形成される反応が無視できない速度となって平衡となる。この結果、酸化銀、銀及び酸素は使用温度の下で平衡となって酸素分圧が一定に保たれる。このような酸素分圧を一定にする作用は、酸化銀の他、ニッケル/酸化ニッケル、鉄/酸化鉄、水銀/酸化水銀などの金属と金属酸化物の組み合わせによっても得られる。酸素分圧の高い系が好ましいが、分解しやすいと腐食電位センサが不安定となる。
【0069】
また、白金粉末25は絶縁体4Aを通じて腐食電位センサ2A内に入ってきた酸素イオンが速やかに電子を得て酸素イオンとなる触媒作用と、酸素イオンと電子を反応させることによってその位置で電流を集める集電作用とを担っている。
【0070】
白金粉末25および酸化銀粉末27のそれぞれの充填層は、絶縁体4Aの内面に接触している。絶縁体4Aの開放端部が、絶縁体4A内に挿入されたサファイヤピストン(封鎖部材)35によって封鎖される。サファイヤピストン28は、絶縁体4Aに固定され、白金粉末25の充填層および酸化銀粉末27の充填層を保持する。銀ワイヤ26は酸化銀粉末27の充填層内に配置される。サファイヤピストン28を貫通して酸化銀粉末27の充填層に達した銀電極線34は、銀ワイヤ26に接続され、ロウ付け部6cによりサファイヤピストン28に固定される。
【0071】
信号線11b、11cを外筒管11aに配置して構成される鉱物絶縁ケーブル10がセンサ筺体5を貫通している。信号線11bが銀電極線34に接続され、信号線11cがセンサ筺体5内に配置した診断用電極9に接続される。
【0072】
腐食電位センサ2Aも、腐食電位センサ1と同様に、構造部材、例えば、炉水が流れる配管20に取り付けられたセンサ支持用管21に取り付けられる。
【0073】
構造部材の腐食電位が信号線11bおよび配線17cに接続されるエレクトロメーター16によって計測され、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスが、インピーダンス測定装置(ポテンショスタット14および周波数解析器15)で計測される。
【0074】
本実施例においても、実施例2と同様に、配線17bによるアース線17aとポテンショスタット14の接続を取り止め、ポテンショスタット14に信号線11b、11cを接続してもよい。
【0075】
実施例1の腐食電位センサ2は、構造が単純で堅牢であるため長期的な使用に適している。ただし、電極3に金属ジルコニウムを使用する場合は、腐食電位センサ2においては、予め発生する基準電位を測定によって確認しておく必要がある。また、電極3を白金製とした場合には、その電極は水素電極として機能するため、炉水を、水素が酸化剤よりも十分に過剰な環境にする必要がある。一方、本実施例の腐食電位センサ2Aは、センサの内部と外部の使用環境の間に平衡が成立するので、発生する基準電位を理論計算することが可能である。このため、腐食電位センサ2Aは、他の腐食電位センサを校正するための一次電極として使用することができる。実施例1の腐食電位センサ2の電極3を白金で構成し、炉水中に水素が十分に存在する場合には、同様に一次電極として使用することができる。ただし、十分な水素の存在という制約を受けない点で、実施例4の腐食電位センサ2Aが優れている。一方、腐食電位センサ2Aの構造は腐食電位センサ2に比べて堅牢性で劣ることが弱点である。使用環境によって使い分けたり、構造の異なる複数の腐食電位センサを同時に設置して信頼性を上げたりすることが適切である。
【実施例5】
【0076】
本発明の他の実施例である実施例5の腐食電位計測装置を、図12を用いて説明する。本実施例の腐食電位計測装置は、実施例1の腐食電位計測装置1において腐食電位センサ2を腐食電位センサ2Bに替えた構成を有する。本実施例の腐食電位計測装置の他の構成は、腐食電位計測装置1と同じである。
【0077】
腐食電位センサ2Bは、腐食電位センサ2に絶縁体30を追加した構成を有する。絶縁体30は、センサ筺体5内に配置され、センサ筺体5の内面に取り付けられている。診断用電極9が絶縁体(第1絶縁体)30に接触している。絶縁体30は、水(導電性液体)を吸収しやすい物質(例えば、紙または多孔質のセラミックス)で構成されており、水を吸収することによって電気抵抗が小さくなる。本実施例では、絶縁体30は多孔質のセラミックスで構成される。
【0078】
沸騰水型原子力プラントの運転中において、腐食電位センサ2Bが健全な状態である場合には、腐食電位センサ2Bのセンサ筺体5内に炉水が浸入しないので、診断用電極9が絶縁体30によってセンサ筺体5に電気的に接続されない状態になっている。このため、インピーダンス測定装置(ポテンショスタット14および周波数解析器15)で計測される、診断用電極9とグランド間のインピーダンスは、絶縁体30である多孔質のセラミックスの電気絶縁性によって高い値となる。絶縁体30として誘電率の既知の物質を用いることによって、そのインピーダンスは、絶縁体30を構成する物質の値を示す。
【0079】
接合部に不具合が生じてセンサ筺体5内に炉水が浸入した場合には、この炉水(導電性液体)が多孔質のセラミックスに吸収される。多孔質のセラミックスに炉水が染込むことによって、診断用電極9とセンサ筺体5の間の電気絶縁性が破壊され、水を含んだ多孔質のセラミックス(絶縁体30)の電気抵抗が小さくなる。このため、診断用電極9とセンサ筺体5が電気的に接続されて診断用電極9とグランド間のインピーダンスが著しく低下し(図13に示された実線を参照)、腐食電位センサ2B内への炉水の浸入を即時に精度良く検知することができる。本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【0080】
多孔質のセラミックとしては、例えば、焼結したジルコニアおよびサファイアなどがある。
【0081】
本実施例においても、実施例2と同様に、配線17bによるアース線17aとポテンショスタット14の接続を取り止め、ポテンショスタット14に信号線11b、11cを接続してもよい。
【実施例6】
【0082】
本発明の他の実施例である実施例6の、複数の腐食電位計測装置を配置した沸騰水型原子力プラントを、図14を用いて説明する。
【0083】
沸騰水型原子力プラントは、原子炉、原子炉格納容器、タービン46、再循環系、原子炉浄化系および複数の腐食電位計測装置を備えている。原子炉格納容器内に設置された原子炉は、原子炉圧力容器40を有し、原子炉圧力容器40内に複数の燃料集合体(図示せず)を装荷した炉心41を配置している。2系統の再循環系は、それぞれ、再循環系配管43および再循環系配管43に設けられた再循環ポンプ44を有する。原子炉圧力容器40に接続された主蒸気配管45が、タービン46に接続される。タービン46に連絡される復水器47が、給水配管48により原子炉圧力容器40に接続される。オフガス系配管49が復水器47に接続される。水素注入装置52が給水配管48に接続され、線量率モニタ53が主蒸気配管45に設置される。
【0084】
原子炉浄化系は、再循環系配管43に接続された浄化系配管50を有し、浄化装置(図示せず)が浄化系配管50に設けられる。浄化系配管50は給水配管48に接続される。原子炉圧力容器40の底部に接続されたドレン配管51が、浄化系配管50に接続される。
【0085】
水質測定装置54aがサンプリング配管55aによってドレン配管51に接続され、水質測定装置54bがサンプリング配管55bによって浄化系配管50に接続される。水質測定装置54cがサンプリング配管55cによって給水配管48に接続され、水質測定装置54dがサンプリング配管55dによって主蒸気配管45に接続される。
【0086】
複数の腐食電位計測装置1のそれぞれの腐食電位センサが、沸騰水型原子力プラントの該当箇所に設置される。腐食電位センサ2Fは、炉心41内に設置された中性子計装管(図示せず)内に設置される。腐食電位センサ2Cは、再循環系配管43に取り付けられたセンサ支持用管21内に挿入され、このセンサ支持用管21に図1に示すように取り付けられる。腐食電位センサ2Dは、ドレン配管51に取り付けられたセンサ支持用管21内に挿入され、このセンサ支持用管21に図1に示すように取り付けられる。腐食電位センサ2Eは、浄化系配管50に取り付けられたセンサ支持用管21内に挿入され、このセンサ支持用管21に図1に示すように取り付けられる。
【0087】
沸騰水型原子力プラントの運転中、原子炉圧力容器40内で炉心41の周囲に形成されたダウンカマ42内の炉水が、再循環ポンプ44の駆動により再循環系配管43内に流入し、原子炉圧力容器40内に設置されたジェットポンプ(図示せず)に供給される。ジェットポンプから吐出された炉水は、炉心41に供給される。この炉水は、燃料集合体に含まれた核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部の炉水が蒸気になる。上記は、主蒸気配管45を通してタービン46に供給され、発電機(図示せず)が連結されたタービン46が回転される。発電機も回転するので、電力が発生する。
【0088】
タービン46から排気された蒸気は、復水器47で凝縮されて水になる。この水は、給水として、復水器47から給水配管48を通って原子炉圧力容器40に供給される。再循環系配管43内を流れる炉水の一部は、浄化系配管50内に流入し、浄化系配管50に設けられた浄化装置で浄化される。浄化された炉水は、浄化系配管50および給水配管48により原子炉圧力容器40に戻される。
【0089】
炉水の水質は、サンプリング配管55a及び55bで採取した炉水を減圧及び冷却して、水質測定装置54a及び54bによりオンラインで測定される。水素注入装置52から給水配管48内を流れる給水に水素を注入し、水素を含む給水が原子炉圧力容器40内に供給される。結果として、水素が原子炉圧力容器40内の炉水に注入される。炉水の水質変化が水質測定装置54a及び54bによりオンラインで測定される。
【0090】
腐食電位センサ2C,2D,2E,2Fを有するそれぞれの腐食電位計測装置が、水素注入時における各位置での腐食電位の変化を測定する。炉心41に設置した腐食電位センサ2Fが炉心41内あるいは近傍に置かれた構造部材の腐食電位を測定するので、この構造部材が置かれた腐食環境を知ることができる。再循環系配管43に設置した腐食電位センサ2Cが再循環系配管43の腐食電位を計測するので、再循環系配管43内の腐食環境を知ることができる。ドレン配管51に設置した腐食電位センサ2Dがドレン配管51の腐食電位を計測するので、原子炉圧力容器40の下部領域の腐食環境を知ることができる。炉浄化系16に設置した腐食電位センサ2Eが浄化系配管50の腐食電位を計測するので、再循環系配管43内を流れる炉水とドレン配管51内を流れる炉水が混合した後の炉水の腐食環境を知ることができる。
【0091】
これらの腐食電位の測定により、各部位での腐食電位が目標とする値にまで低下するように、水素注入装置52から給水に注入する水素量を調節すればよい。原子炉圧力容器40内の炉水に注入した水素の余剰分は、主蒸気配管45、タービン46および復水器47を経てオフガス系配管49に排気され、オフガス系配管49に設けられた再結合器(図示せず)で酸素と結合されて処理される。給水の水素濃度は、サンプリング配管55cでサンプリングされた給水を水質測定装置54cで測定することによって得られる。また、水素注入時の主蒸気系配管45の線量率は線量率モニタ53で監視される。
【0092】
各腐食電位計測装置1のそれぞれの腐食電位センサの健全性を確認するために、腐食電位を測定していない時期に、実施例1と同様に、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスをインピーダンス測定装置(ポテンショスタット14および周波数解析器15)で測定する。このインピーダンスの測定により、腐食電位センサ2C,2D,2E,2Fのそれぞれにおいて接合部に不具合が生じてそれぞれのセンサ筺体5内に炉水が浸入した場合には、それを短持間に精度良く検知することができる。
【0093】
複数の腐食電位センサを上記したように沸騰水型原子力プラントの複数の箇所に設置することによって、沸騰水型原子力プラントの構造部材に応力腐食割れ(SCC)または流動加速腐食(FAC)などが発生する腐食環境を把握することができ、原子力プラントの長期的な安全性、健全性および信頼性を確保するための保全策を提供することができる。特に、沸騰水型原子力プラントの腐食環境は、プラント内の領域によって異なるため、SCCの発生を抑制したい部位の近くに腐食電位センサを設置することにより、その部位での腐食環境をより正確に精度良く把握することができる。また、診断用電極9とグランドの間のインピーダンスを測定することによって、上記したように、個々の腐食電位センサの健全性を確認することができる。
【0094】
腐食電位計測装置1の替りに、実施例2〜5の腐食電位計測装置を用いてもよい。実施例1〜5の各腐食電位計測装置は、加圧水型原子力プラントに適用することができる。加圧水型原子力プラントにおいては、腐食電位計測装置は、炉心内、および炉水が流れる配管、さらには蒸気発生器に接続される給水配管に設置される。
【0095】
実施例1〜5の各腐食電位計測装置は、高温水に曝される配管、機器を有する種々のプラント、例えば、原子力プラント以外に、火力発電プラント及び化学プラントに適用することができる。
【符号の説明】
【0096】
1,1A,1B…腐食電位計測装置、2,2A〜2F…腐食電位センサ、3…ジルコニウム電極、4,4A,30…絶縁体、5…センサ筺体、7…ジルコニウム電極線、9…診断用電極、10…鉱物絶縁ケーブル、11b、11c…信号線、13,13A…信号処理装置、14…ポテンショスタット、15…周波数分析器、16…エレクトロメーター、17a…アース線、17b、17c…配線、20…配管、21…センサ支持用管、25…白金粉末、26…銀ワイヤ、27…酸化銀粉末、28…サファイヤピストン、31…ノイズ比演算装置、34…銀電極線、40…原子炉圧力容器、41…炉心、43…再循環系配管、45…主蒸気配管、48…給水配管、50…浄化系配管、51…ドレン配管、52…水素注入装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの、接地された構造部材に設置された金属筺体、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極、および前記金属筺体内で前記金属筺体から離れて配置された診断用電極を有する腐食電位センサを用い、
前記腐食電位検出用電極と前記構造部材の間の電位差を測定し、
前記診断用電極とグランドの間のインピーダンスおよび前記診断用電極と前記腐食電位検出用電極に接続された導線の間のインピーダンスのいずれかの前記インピーダンスを測定することを特徴とする腐食電位計測方法。
【請求項2】
前記インピーダンスおよび前記電位差に基づいて信号ノイズ比を求める請求項1に記載の腐食電位計測方法。
【請求項3】
腐食電位センサと、信号処理装置とを備え、
前記腐食電位センサが、金属筺体と、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極と、前記金属筺体内に配置されて前記金属筺体から離れている診断用電極と、前記腐食電位検出用電極に接続された第1導線と、前記診断用電極に接続された第2導線とを有し、
前記信号処理装置が、前記第1導線に接続されて腐食電位を計測する電位計測装置と、前記第2導線に接続されて、前記診断用電極とグランドの間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有することを特徴とする腐食電位計測装置。
【請求項4】
腐食電位センサと、信号処理装置とを備え、
前記腐食電位センサが、金属筺体と、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極と、前記金属筺体内に配置されて前記金属筺体から離れている診断用電極と、前記腐食電位検出用電極に接続された第1導線と、前記診断用電極に接続された第2導線とを有し、
前記信号処理装置が、前記第1導線に接続されて腐食電位を計測する電位計測装置と、前記第1導線および前記第2導線に接続されて、前記診断用電極と前記第1導線の間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有することを特徴とする腐食電位計測装置。
【請求項5】
前記信号処理装置が、前記インピーダンスおよび前記腐食電位に基づいて信号ノイズ比を求めるノイズ比演算装置を有する請求項3または4に記載の腐食電位計測装置。
【請求項6】
前記金属筺体内への導電性液体の浸入によって抵抗が低下する第1絶縁体が前記金属筺体の内面に設置され、前記診断用電極が前記第2絶縁体に接触している請求項3ないし5のいずれか1項に記載の腐食電位計測装置。
【請求項7】
前記腐食電位センサが第2絶縁体を有し、この第2絶縁体が前記金属筺体の一端部に取り付けられ、前記腐食電位検出用電極が前記第2絶縁体の外面に取り付けられている請求項3ないし6のいずれか1項に記載の腐食電位計測装置。
【請求項8】
前記腐食電位センサが、一端部が閉じられて他端部が開放された管状の第2絶縁体を有し、前記腐食電位検出用電極が前記第2絶縁体内に配置されて前記第2絶縁体の内面に接触しており、前記第2絶縁体の前記他端部が封鎖部材で封鎖され、前記第2絶縁体の前記他端部が前記金属筺体の一端部に取り付けられている請求項3ないし6のいずれか1項に記載の腐食電位計測装置。
【請求項9】
前記腐食電位検出用電極が、触媒層である請求項8に記載の腐食電位計測装置。
【請求項1】
プラントの、接地された構造部材に設置された金属筺体、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極、および前記金属筺体内で前記金属筺体から離れて配置された診断用電極を有する腐食電位センサを用い、
前記腐食電位検出用電極と前記構造部材の間の電位差を測定し、
前記診断用電極とグランドの間のインピーダンスおよび前記診断用電極と前記腐食電位検出用電極に接続された導線の間のインピーダンスのいずれかの前記インピーダンスを測定することを特徴とする腐食電位計測方法。
【請求項2】
前記インピーダンスおよび前記電位差に基づいて信号ノイズ比を求める請求項1に記載の腐食電位計測方法。
【請求項3】
腐食電位センサと、信号処理装置とを備え、
前記腐食電位センサが、金属筺体と、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極と、前記金属筺体内に配置されて前記金属筺体から離れている診断用電極と、前記腐食電位検出用電極に接続された第1導線と、前記診断用電極に接続された第2導線とを有し、
前記信号処理装置が、前記第1導線に接続されて腐食電位を計測する電位計測装置と、前記第2導線に接続されて、前記診断用電極とグランドの間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有することを特徴とする腐食電位計測装置。
【請求項4】
腐食電位センサと、信号処理装置とを備え、
前記腐食電位センサが、金属筺体と、この金属筺体に対して電気的に絶縁された状態で配置された腐食電位検出用電極と、前記金属筺体内に配置されて前記金属筺体から離れている診断用電極と、前記腐食電位検出用電極に接続された第1導線と、前記診断用電極に接続された第2導線とを有し、
前記信号処理装置が、前記第1導線に接続されて腐食電位を計測する電位計測装置と、前記第1導線および前記第2導線に接続されて、前記診断用電極と前記第1導線の間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置とを有することを特徴とする腐食電位計測装置。
【請求項5】
前記信号処理装置が、前記インピーダンスおよび前記腐食電位に基づいて信号ノイズ比を求めるノイズ比演算装置を有する請求項3または4に記載の腐食電位計測装置。
【請求項6】
前記金属筺体内への導電性液体の浸入によって抵抗が低下する第1絶縁体が前記金属筺体の内面に設置され、前記診断用電極が前記第2絶縁体に接触している請求項3ないし5のいずれか1項に記載の腐食電位計測装置。
【請求項7】
前記腐食電位センサが第2絶縁体を有し、この第2絶縁体が前記金属筺体の一端部に取り付けられ、前記腐食電位検出用電極が前記第2絶縁体の外面に取り付けられている請求項3ないし6のいずれか1項に記載の腐食電位計測装置。
【請求項8】
前記腐食電位センサが、一端部が閉じられて他端部が開放された管状の第2絶縁体を有し、前記腐食電位検出用電極が前記第2絶縁体内に配置されて前記第2絶縁体の内面に接触しており、前記第2絶縁体の前記他端部が封鎖部材で封鎖され、前記第2絶縁体の前記他端部が前記金属筺体の一端部に取り付けられている請求項3ないし6のいずれか1項に記載の腐食電位計測装置。
【請求項9】
前記腐食電位検出用電極が、触媒層である請求項8に記載の腐食電位計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−37364(P2012−37364A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177323(P2010−177323)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】
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