説明

腫瘍細胞増殖抑制剤とこれを含有する医薬品組成物、化粧料組成物及び食品組成物

【課題】新規な植物由来の抗腫瘍成分の提供。
【解決手段】乾燥地由来塩生植物であるタマリクス・ガリカ(Tamarix gallica)の抽出物が細胞増殖抑制作用を有することを新規に見出したことから、タマリクス・ガリカ抽出物を有効成分として含有する腫瘍細胞増殖抑制剤と、この腫瘍細胞増殖抑制剤を含有する抗腫瘍医薬品組成物、さらにはタマリクス・ガリカ抽出物を含有する化粧料組成物及び食品組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍細胞増殖抑制剤とこれを含有する医薬品組成物、化粧料組成物及び食品組成物に関する。より詳しくは、タマリクス・ガリカの抽出物を有効成分として含有する腫瘍細胞増殖抑制剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
抗腫瘍活性、発癌抑制活性、腫瘍細胞増殖抑制活性等の作用を有する種々の植物が知られており、抗腫瘍剤(抗癌剤、制癌剤とも呼ばれる)、癌の予防用の健康食品等として広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、琉球ヨモギ、ウコンイソマツ及びボタンボウフウの乾燥粉末又はその抽出物を有効成分とする抗腫瘍剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−179193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な植物由来の抗腫瘍成分を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題解決のために鋭意検討した結果、高温、塩及び渇水等の幅広い環境ストレスに対して耐性を有する乾燥地由来塩生植物であるタマリクス・ガリカ(Tamarix gallica)の抽出物が腫瘍細胞増殖抑制作用を有することを新規に見出し、本願発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、タマリクス・ガリカ(Tamarix gallica)の抽出物を有効成分として含有する腫瘍細胞増殖抑制剤と、この腫瘍細胞増殖抑制剤を含有する抗癌あるいは抗腫瘍医薬品組成物を提供する。
また、本発明は、タマリクス・ガリカ(Tamarix gallica)の抽出物を含有する化粧料組成物及び食品組成物をも提供する。
【0007】
本発明において、「タマリクス・ガリカ抽出物」には、タマリクス・ガリカの植物体全体、又は葉、茎、花並びにこれらを含む地上部、あるいは果実、種子、根茎、根などから選択される一以上の部位を圧搾または粉砕等することにより得られる液体成分が含まれるものとする。また、「タマリクス・ガリカ抽出物」には、タマリクス・ガリカの植物体全体、又は葉、茎、花並びにこれらを含む地上部、あるいは果実、種子、根茎、根などから選択される一以上の部位から適当な溶媒を用いて抽出される溶出成分も含まれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、新規な腫瘍細胞増殖抑制剤が提供される。この腫瘍細胞増殖抑制剤の有効成分は、タマリクス・ガリカ抽出物由来であるため、副作用が少なく安全性に優れたものである可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】タマリクス・ガリカ抽出物の腫瘍細胞増殖抑制活性の評価結果を示す図面代用グラフである(試験例2)。
【図2】タマリクス・ガリカ抽出物の細胞周期制御因子への影響を評価した結果を示す図面代用グラフである(試験例4)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、実施例において詳しく後述するように、ヒト由来結腸がん細胞を用いた検討により、タマリクス・ガリカ抽出物が腫瘍細胞増殖抑制作用を有することを初めて見出した。このタマリクス・ガリカ抽出物の腫瘍細胞増殖抑制作用は、細胞周期のG2/M期停止を引き起こすことで発現されるものと考えられた。
【0011】
従って、タマリクス・ガリカ抽出物を有効成分とする本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制剤は、癌(特に大腸癌)あるいは腫瘍の治療のため、患者に有効に適用され得る。また、健常者に適用して、癌あるいは腫瘍を予防するためにも用いられ得る。さらに、産業動物に適用して、癌あるいは腫瘍を予防又は治療するためにも用いられ得る。
【0012】
本発明において、タマリクス・ガリカは、生のままでも乾燥したものでも使用することができる。使用するタマリクス・ガリカの部位は、本発明の目的を損なわなければ特に限定されず、植物体全体、又は葉、茎、花並びにこれらを含む地上部、あるいは果実、種子、根茎、根などから選択される一以上の部位とでき、これらを適宜組み合わせて用いることができる。タマリクス・ガリカの部位は、高い腫瘍細胞増殖抑制活性を示す抽出物を得るため、地上部、花又は葉を用いることが好ましく、花又は葉を用いることが特に好ましい。
【0013】
タマリクス・ガリカ抽出物は、タマリクス・ガリカを圧搾または粉砕等することにより液体成分として得ることができ、あるいはタマリクス・ガリカを適当な溶媒を用いて抽出することにより溶出成分として得ることもできる。
【0014】
溶媒抽出は、従来公知の手法によって行うことができる。溶媒抽出は、例えば、タマリクス・ガリカの植物体全体あるいは一以上の部位を低温ないし加温下で溶媒中において所定時間浸漬したり加熱還流したりすることによって行い得る。得られた溶媒抽出物は、必要に応じてろ過や濃縮、イオン交換樹脂や液体クロマトグラフィーなどを用いた精製・分離、凍結乾燥等を行ってもよい。
【0015】
溶媒には、通常、植物抽出に用いられる溶媒を1種または2種以上選択して用いることができる。溶媒としては、例えば、水、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭素類などを挙げることができる。アルコール類としては、エタノール、メタノールおよびプロパノールなどが挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコールおよびプロピレングリコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチルなどが挙げられる。
【0016】
タマリクス・ガリカ抽出物は、液状(ジュース)、ペースト状、ゲル状等いずれの形態で用いることもできる。タマリクス・ガリカ抽出物は、乾固させて固体状としてもよく、あるいは凍結乾燥やスプレードライ等により乾燥させて粉末状としてもよい。
【0017】
タマリクス・ガリカ抽出物を有効成分とする本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制剤、およびこれを含有する医薬品組成物、化粧料組成物及び食品組成物は、次のような優位性を有する。
【0018】
すなわち、本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制剤は天然物由来成分であるため、その医薬品組成物は長期にわたって連続的に適用できる可能性が高く、副作用も少ない可能性が高い。また、本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制剤は、例えば、健康補助食品(機能性食品)や化粧品などとして長期間、連続的に適用することにより、腫瘍細胞の増殖を抑制して癌や腫瘍の発症を予防できる可能性がある。さらに、本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制剤を産業動物の飼料に配合すれば、癌や腫瘍の発生を予防できる可能性がある。
【0019】
本発明に係る医薬品組成物は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。医薬品組成物は、上記細胞増殖抑制剤を、生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造される。錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。
【0020】
医薬品組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、投与対象(動物を含む)の年齢や体重、症状等を考慮して決定されるものである。
【0021】
本発明に係る化粧料組成物は、タマリクス・ガリカ抽出物と公知の化粧品成分とを混合し、例えば、化粧水、ローション、クリーム、パック等として調製ができる。タマリクス・ガリカ抽出物は、腫瘍細胞増殖抑制活性とともに高い抗酸化作用を示したことから、美白作用及び抗老化作用を有する化粧品として利用できる可能性がある。
【0022】
化粧品成分として、具体的には、流動パラフィン、イソパラフィン、ワセリン、スクワラン、ミツロウ、カルナウバロウ、ラノリン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソパルミチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソオクチル酸セチル、トリイソオクチル酸グリセリル、トリカプリル酸グリセリル、カプリル酸およびカプリン酸の混合脂肪酸のトリグリセリド、ジイソオクチル酸ネオペンチルグリコールエステル、リンゴ酸ジイソステアリル、イソノナン酸イソノニル、12−ヒドロキシステアリン酸コレステリル、イソステアリン酸ジペンタエリスリトールエステル、オリーブ油、ホホバ油、月見草油、ユーカリ油、大豆油、菜種油、サフラワー油、パーム油、ゴマ油、米胚芽油、タートル油、ミンク油、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ステアリルアルコール、セタノール、ベヘニルアルコール等の油性成分、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリステアレート、グリセリルモノオレエート、グリセリルモノステアレート、レシチン、リゾレシチン、ポリグリセリンやショ糖と前記脂肪酸とのモノ、ジ、トリまたはテトラエステル等の界面活性剤、多価アルコール類、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、天然保湿因子(NMF)、ピロリドンカルボン酸ソーダ、スフィンゴ脂質、リン脂質、コレステロール等の保湿剤、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナン等の増粘剤、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、安息香酸ナトリウム等の防腐剤、タルク、カオリン、マイカ、ベントナイト、雲母、雲母チタン、酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄等の顔料、クエン酸−クエン酸ナトリウム等のpH、BHT、BHA、ビタミンA類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩、ビタミンC類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩、ビタミンE類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩等の抗酸化剤、ベンゾフェノン誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、メトキシケイ皮酸誘導体、ウロカニン酸等の紫外線吸収剤などが挙げられる。タマリクス・ガリカ抽出物にこれらの成分を組み合わせて適量配合し、加温もしくは非加温状態で、混合、分散、乳化あるいは溶解させ、液状、ペースト状、ゲル状、クリーム状(半固形状を含む)または固形状とし、化粧料組成物を得る。
【0023】
また、本発明に係る食品組成物は、タマリクス・ガリカあるいはその抽出物に、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等の通常食品原料として使用されているものを適宜配合することにより製造できる。また、一般に食品材料として使用される米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、スイートポテト、大豆、昆布、ワカメ、テングサなどと混合してもよい。
【0024】
食品組成物としては、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品等を挙げることができる。さらに、これらの食品組成物は、動物に給餌するための飼料をも包含する。
【0025】
飼料は、タマリクス・ガリカあるいはその抽出物と、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、わら類、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、わら類等と混合することにより得ることができる。
【0026】
一般に、家畜の飼料は、粗飼料、濃厚飼料、および特殊飼料の3種類に大別される。このうち、粗飼料は相対的に粗繊維含量が多く、容積が多い割には可消化栄養分が少ない飼料を指す。粗飼料には、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、根菜類、わら類などが用いられている。また、濃厚飼料は比較的養分含量が高く、水分や粗繊維含量の低い飼料を指す。濃厚飼料には、トウモロコシ、マイロ、大麦、エンバク、米、アワ、ヒエ、キビ、コーリャンなどの穀類や、米糠、ふすま類などの穀物副産物(糠類)、落花生粕、綿実粕、ヒマワリ粕、菜種粕、胡麻粕、亜麻仁粕などの油粕類などが用いられている。
【0027】
飼料は、これらの飼料に、タマリクス・ガリカの植物体全体、又は葉、茎、花並びにこれらを含む地上部、あるいは果実、種子、根茎、根を、生の状態であるいは乾燥物として添加することにより製造できる。この場合、タマリクス・ガリカは、切断あるいは粉砕して添加すればよい。また、飼料は、市販の飼料に、タマリクス・ガリカ抽出物を添加することによっても製造できる。
【実施例】
【0028】
<試験例1>
1.タマリクス・ガリカ抽出物における抗酸化物質と抗酸化活性の評価
タマリクス・ガリカ抽出物に含まれる抗酸化物質量及び抗酸化活性を明らかにするために、タマリクス・ガリカの異なる器官から各々抽出物を回収し、解析を行った。
【0029】
まず、本試験例に使用するタマリクス・ガリカ抽出物を得るために、地上部(Shoot)、花及び葉の各器官を生殖生長期に回収した。得られた試料は各々1週間室温に置き、その後1時間50℃で乾燥させた。抽出は、乾燥物20gに対して80%メタノール溶液を200ml用いて、ソックスレー抽出器を用いて行った。抽出物はフィルターでろ過し、4℃に保存した。
【0030】
タマリクス・ガリカから得られた抽出物について、抗酸化物質(総ポリフェノール、フラボノイド、タンニン)の濃度を測定した。総ポリフェノール量はフォーリン・チオカルト(Folin ・Ciocalteu)法に従って行い、没食子酸を検量線作成に用い、没食子酸相当量(mg GAE (gallic acid equivalents) /g DW (Dry Weight) として算出した。フラボノイド及びタンニンはカテキンで検量線を作成し、カテキン相当量(mg CE (Catechin equivalents) /g DW)として算出した。
【0031】
タマリクス・ガリカ抽出物における抗酸化活性の測定は以下の方法で行った。抗ラジカル活性は、DPPH(1,1-Diphenyl-2- Picrylhydrazyl)法に従い、50%阻害濃度(IC50)を算出した。抽出物の抗酸化力については、常法に従いリンモリブデンを用いて没食子酸で検量線を作成し、没食子酸相当量として算出した。抽出物の還元力については、Fe3+からFe2+への還元を指標に、EC50(efficient concentration 50)として算出した。
【0032】
地上部由来のタマリクス・ガリカ抽出物における抗酸化物質の濃度及び活性を「表1」及び「表2」に示す。「表1」には、本試験例で得られた地上部由来のタマリクス・ガリカ抽出物について、抗酸化物質として、総ポリフェノール、フラボノイド、タンニンの各濃度を示す。また「表2」には、抗ラジカル活性、抗酸化力、還元力について算出された値を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
「表1」及び「表2」の結果から、タマリクス・ガリカ抽出物には抗酸化物質が含まれ、抗酸化活性を有していることが示された。
【0036】
<試験例2>
2.腫瘍細胞増殖抑制活性の評価
タマリクス・ガリカ抽出物の癌細胞への効果を検証するために、ヒト結腸癌由来のCaco‐2細胞を用いて、腫瘍細胞増殖抑制活性について評価を行った。
【0037】
本試験例では、試験例1に記した方法と同様にタマリクス・ガリカの地上部、花及び葉を乾燥させた。粉末状にした各器官の乾燥物10gに対して80%メタノール溶液を100ml用いて、1週間室温に置いてタマリクス・ガリカ抽出物を得た。抽出物はフィルター滅菌を行い、乾固後DMSOに特定の濃度に溶解し、使用まで−80℃に保存した。
【0038】
Caco‐2細胞は、常法に従い培養を行い、一定の細胞密度に達した時点で各器官由来の抽出物を添加し、添加後72時間においてMTTアッセイを行い細胞の増殖率を測定した。
【0039】
図1は、タマリクス・ガリカ抽出物を添加していないコントロール(CTR)の細胞増殖率を100として、抽出物を0.01〜100μg/ml濃度で添加した細胞の増殖率を相対的に示す。(A)は地上部由来の抽出物、(B)は花由来の抽出物、(C)は葉由来の抽出物について示し、各グラフにおいて縦軸は細胞増殖率を、横軸はタマリクス・ガリカ抽出物の各濃度を示す。
【0040】
Caco‐2細胞の増殖は、各器官由来のタマリクス・ガリカ抽出物の添加によって抑制されることが示された。また、抑制の効果は何れの器官由来の抽出物についても濃度依存的であったが、特に花と葉由来の抽出物において顕著であった。
【0041】
<試験例3>
3.細胞周期への影響の評価
試験例1において、タマリクス・ガリカ抽出物がヒト直腸癌由来の癌細胞に対し増殖抑制効果を示したことから、癌細胞の細胞周期へ抽出物が与える影響について検証を行った。
【0042】
一定の細胞密度に達したCaco‐2細胞に各器官由来のタマリクス・ガリカ抽出物を100μg/mlの濃度で添加した。添加後72時間における細胞培養容器内の浮遊状態および接着状態の両方の細胞を回収し、70%エタノールで固定し、解析に使用するまで−20℃に保存した。回収した細胞は常法に従い、cell cycle reagent(Guava technologies)で処理し、フローサイトメーターを用いて細胞核DNA量を指標として、細胞周期を解析した。
【0043】
【表3】

【0044】
「表3」は抽出物を添加していないコントロール(CTR)及び各器官由来の抽出物添加した細胞の各々の試験群における細胞周期の解析結果を示す。何れの器官由来の抽出物を添加した細胞においても、コントロールに比べG/M期の細胞の割合が高く、一方で、S期とG/G期の細胞の割合が低かった。この結果から、各器官由来のタマリクス・ガリカ抽出物はいずれも、Caco‐2細胞をG/M期に停止させる効果を有し、細胞周期に影響を及ぼすことが確認された。
【0045】
<試験例4>
4.細胞周期制御因子への影響の評価
試験例3の結果から、タマリクス・ガリカ抽出物は、Caco‐2細胞の細胞周期へ影響を与えることが示された。細胞周期の進行は、プロテインキナーゼ複合体のファミリーとこれらの活性化に関与するCyclinや、チェックポイントキナーゼによって調節されている。そこで、タマリクス・ガリカ抽出物を添加後のCaco‐2細胞において細胞周期の制御に関連するタンパク質の発現量及び活性化の変化を、ウェスタンブロッティングにより検証した。
【0046】
一定の細胞密度に達したCaco−2細胞を各器官由来の抽出物(濃度:100μg/ml)の存在下で72時間培養した。培養後、細胞をPBSで洗浄し、RIPA緩衝液で溶解し、遠心後、上清を回収した。上清のタンパク質濃度を測定し、各試験群について20μgをSDS−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)によって分離し、ニトロセルロース膜に転写した。
【0047】
解析対象であるCyclin B1、Extracellular signal−regulated kinase(Erk)1/2、Chk1、Chk2、p38 MAPK、の各々のタンパク質に対する抗体を用いて、常法に従いウェスタンブロッティングにより各タンパク質の発現量を試験群間で比較した。また前記タンパク質の活性化量を調べるために、リン酸化(phosphorylation、p)修飾を受けたpErk1/2、pChk1、pChk2、pp38 MAPKについてもウェスタンブロッティングによる検出を行い、試験群間で比較した。
【0048】
図2は、コントロール(CTR)及びタマリクス・ガリカ抽出物を添加した各試験群の、DNA合成を制御する各タンパク質の発現量及び活性化(リン酸化)量についてのウェスタンブロッティングの結果を示す。花及び葉由来のタマリクス・ガリカ抽出物を添加した試験群においては、腫瘍細胞の成長を促進するErk1/2の活性化の抑制と、細胞の成長を阻害するp38 MAPKの活性化が認められた。花及び葉由来の抽出物を添加した細胞においては、Erk1/2とp38 MAPKの均衡の変化を介して細胞周期の停止が誘導されることが示唆された。
【0049】
一方、地上部由来の抽出物を添加した試験群においては、Chk2の活性化が認められた。これは、花由来の抽出物を添加した試験群においても同様に認められたが、葉由来の抽出物を添加した試験群では認められなかった。この結果は、同じタマリクス・ガリカ由来の抽出物であっても用いる器官によって、細胞周期へ働く機構が異なることを示している。
【0050】
なお、G2期からM期への移行に重要なタンパク質であるCyclin B1の発現量はタマリクス・ガリカ抽出物を添加した各試験群において変化が認められなかった。また、細胞周期においてチェックポイント機構を担い、細胞周期を停止へと導くチェックポイントキナーゼであるChk1の活性化についても各試験群間で変化が認められなかった。
【0051】
以上の各試験例の結果から、タマリクス・ガリカ抽出物には抗酸化物質が含まれ、抗酸化活性を有していることが示された。また、地上部、花及び葉の各器官由来のタマリクス・ガリカ抽出物は、何れも結腸癌由来の癌細胞に対して増殖抑制効果を有し、その効果は癌細胞における細胞周期の停止を介していることが明らかとなった。特に、花と葉由来の抽出物では、濃度依存的な細胞増殖抑制効果が認められた。一方、花及び葉由来の抽出物と地上部由来の抽出物とでは、細胞周期を制御するタンパク質の活性化に差異が認められた。これは、タマリクス・ガリカ抽出物が細胞に効果をもたらす機構は複数であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制剤は、ヒトおよび動物の癌又は腫瘍の治療又は予防のための医薬品組成物、化粧料組成物及び食品組成物として好適に利用できる。特に、本発明に係る腫瘍細胞増殖抑制剤は、ヒト由来結腸がん細胞に対して細胞増殖抑制作用を示すことが確認されていることから、大腸癌の治療又は予防のために利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タマリクス・ガリカ(Tamarix gallica)の抽出物を有効成分として含有する腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
請求項1記載の腫瘍細胞増殖抑制剤を含有する抗癌あるいは抗腫瘍医薬品組成物。
【請求項3】
大腸癌の予防又は治療のために用いられる請求項2記載の医薬品組成物。
【請求項4】
タマリクス・ガリカ(Tamarix gallica)の抽出物を含有する化粧料組成物。
【請求項5】
タマリクス・ガリカ(Tamarix gallica)の抽出物を含有する食品組成物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−75852(P2013−75852A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216214(P2011−216214)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度〜平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業・地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(506123092)センター オブ バイオテクノロジー オブ ボルジュセドリア ザ ミニストリー オブ ハイヤー エデュケーション,サイエンティフィック リサーチ アンド テクノロジー (3)
【Fターム(参考)】