説明

腸管M細胞マーカーとしてのGP2の使用

【課題】従来のM細胞マーカーであるUEA−1よりも汎用性に優れた、汎M細胞マーカーとして使用できる分子、及びそれを利用した医薬及び医薬の開発に有用な手段などの提供。
【解決手段】GP2の発現を測定することを含む、M細胞の検出又は同定方法;1以上のGP2測定用手段を含む、M細胞の検出又は同定用試薬又はキット;GP2ターゲティング分子を含む薬物送達媒体;GP2ターゲティング分子及び医薬としての有効成分を含む医薬;GP2の発現又は機能を調節し得る物質を含む、粘膜免疫の調節剤;GP2の発現が調節されたM細胞又はそれを含む組織;M細胞又はそれを含む組織においてGP2の発現又は機能を測定することを含む、M細胞におけるエンドサイトーシスの評価方法;分泌形態のGP2を含む、微生物に対する結合剤;GP2及び微生物又はその成分を含む複合体;哺乳動物における粘膜免疫の評価方法など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、M細胞の検出又は同定方法、M細胞の検出又は同定用試薬又はキット、GP2ターゲティング分子を含む薬物送達媒体及び医薬などを提供する。
【背景技術】
【0002】
パイエル板(PP)は、腸関連リンパ組織(gut-associated lymphoid tissue:GALT)の一つであり、粘膜免疫の重要な開始部位である。粘膜リンパ濾胞は、管腔抗原の取り込み及び経上皮輸送を媒介するM細胞を含む特殊な濾胞関連上皮(follicle-associated ephithelium:FAE)により覆われている。M細胞は、管腔抗原の取り込み及び経上皮輸送を媒介することにより粘膜免疫において重要な役割を果たすと考えられているが、抗原の取り込み及び輸送の分子機構は、依然として明らかではない。特に、M細胞の頂端膜上のエンドサイトーシスレセプターの同定は、この問題の興味深い主題である。
【0003】
M細胞のマーカー分子としては、マウスPPのM細胞に発現するα−L−フコースを認識する種類のレクチンであるUlex europaeusアグルチニン−I(UEA−1)が知られているものの、UEA−1は、盲腸リンパ濾胞、大腸リンパ濾胞等の他のGALT及びヒトのM細胞を認識し得ないという問題がある。
【0004】
ところで、糖タンパク質2(glycoprotein 2:GP2)は、1)脂質マイクロドメインに局在しているGPIアンカー型タンパク質であること、2)外分泌膵臓の腺房細胞の分泌顆粒膜に発現すること、3)自己オリゴマー化の分子特性を有すること、4)腺房細胞から消化管管腔内に分泌されることが知られている(非特許文献1〜4)。また、GP2のノックアウト動物も報告されているが、特に表現型の異常は認められず、その機能は全く不明のままである(非特許文献2及び5)。
【0005】
また、哺乳動物の尿における最も豊富なタンパク質であり、かつGP2と高い相同性(アミノ酸レベルで約51%の相同性)を有する、腎上皮細胞から分泌されるTamm−Horsfallタンパク質(THP)が、大腸菌に対する結合能を有することが報告されている(非特許文献6)。
【0006】
本発明者らはまた、マウス由来の濾胞関連上皮(FAE)及び腸上皮細胞(IEC)を用いてトランスクリプトーム解析を行っている(非特許文献7)。
【0007】
しかしながら、上記先行文献には、GP2がM細胞に特異的に発現している分子であること、特に、GP2がヒトM細胞についての特異的なマーカー分子として使用可能なこと、並びにGP2が任意の種類の組織中のM細胞で共通して発現し得ることは記載も示唆もされていない。
【非特許文献1】Schmidt, K. et al., J. Biol. Chem. 2001, 276, 14315-23.
【非特許文献2】Yu, S. et al., J. Biol. Chem., 2004, 279, 50274-9.
【非特許文献3】Fukuoka, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 1992, 89,1189-93.
【非特許文献4】Beaudoin, A. R. et al., J. Histochem. Cytochem., 1991, 39, 575-88.
【非特許文献5】Kobayashi, K. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2004, 322, 659-64.
【非特許文献6】Pak, J. et a., J. Biol. Chem., 2001, 276, 9924-30.
【非特許文献7】Hase, K. et al., DNA Res., 2005, 12, 127-37.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一つの目的は、従来のM細胞マーカーであるUEA−1よりも汎用性に優れた、汎M細胞マーカーとして使用できる分子を提供することである。本発明の別の目的は、M細胞における管腔抗原の取り込み及び経上皮輸送の機構を解明することにより得られた知見に基づき、医薬及び医薬の開発に有用な手段などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、1)GP2がヒト及びマウスの双方のM細胞において特異的に発現していること、2)GP2が、パイエル板におけるM細胞のみならず、盲腸リンパ濾胞、大腸リンパ濾胞等の他の組織におけるM細胞でも共通して発現していること、3)GP2が、M細胞の頂端原形質膜に局在していること、4)GP2が微生物に結合し得ること、5)GP2が、M細胞における微生物抗原の経上皮輸送に関与し得ることなどを見出した。即ち、本発明者らは、種(例、ヒト、マウス)及び組織を超える汎M細胞マーカーとして使用できる分子(GP2)を初めて同定することに成功した。本発明者らはまた、GP2がエンドサイトーシスレセプターとして腸内微生物を取り込むことにより粘膜免疫に関与し得ることなどを明らかにした。
以上に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記の通りである。
〔1〕GP2の発現を測定することを含む、M細胞の検出方法。
〔2〕ヒトM細胞の検出方法である、上記〔1〕の検出方法。
〔3〕マウスM細胞の検出方法である、上記〔1〕の検出方法。
〔4〕M細胞を含む腸粘膜由来サンプルにおいてGP2の発現を測定することを含む、M細胞の同定方法。
〔5〕該腸粘膜由来サンプルが、パイエル板、孤立リンパ小節、あるいは盲腸又は大腸のリンパ濾胞を少なくとも含む、上記〔4〕の同定方法。
〔6〕プライマー、核酸プローブ及び抗体からなる群より選ばれる1以上のGP2測定用手段を含む、M細胞の検出又は同定用試薬又はキット。
〔7〕GP2ターゲティング分子を含む薬物送達媒体。
〔8〕GP2ターゲティング分子が抗体である、上記〔7〕の薬物送達媒体。
〔9〕GP2ターゲティング分子及び医薬としての有効成分を含む医薬。
〔10〕該有効成分が抗原である、上記〔9〕の医薬。
〔11〕GP2の発現又は機能を調節し得る物質を含む、粘膜免疫の調節剤。
〔12〕GP2の発現が調節されたM細胞又はそれを含む組織。
〔13〕M細胞又はそれを含む組織においてGP2の発現又は機能を測定することを含む、M細胞におけるエンドサイトーシスの評価方法。
〔14〕分泌形態のGP2を含む、微生物に対する結合剤。
〔15〕GP2及び微生物又はその成分を含む複合体。
〔16〕以下(a)又は(b)のいずれかを含む、哺乳動物における粘膜免疫の評価方法:
(a)GP2の発現が調節された哺乳動物を粘膜免疫の測定に供すること;あるいは
(b)哺乳動物をGP2の発現又は機能の測定に供すること。
【発明の効果】
【0010】
本発明の検出又は同定方法は、M細胞の検出又は同定は勿論のこと、M細胞の定量、M細胞が関連し得る疾患の診断、粘膜免疫の調節薬、粘膜免疫の調節作用を有しない所定の医薬の開発に利用することもできる。本発明の検出又は同定方法は、例えば、GP2をヒトM細胞マーカーとして利用することによりヒトM細胞の特異的な検出又は同定を初めて実現し得る点において、並びに/あるいはGP2をM細胞マーカーとして利用することにより任意の組織中のM細胞の特異的な検出又は同定を初めて実現し得る点において、格別顕著な効果を奏する。
本発明の試薬又はキットは、例えば、本発明の検出又は同定方法の簡便な実施に有用であり得る。
本発明の薬物送達媒体又は医薬は、例えば、M細胞への特異的なターゲティングによる、M細胞を介した粘膜免疫の調節に有用であり得る。
本発明の調節剤は、例えば、粘膜免疫の調節に有用であり得る。
本発明の細胞又は組織は、例えば、粘膜免疫の調節薬の開発、M細胞における抗原の取り込み及び輸送の解析、エンドサイトーシス関連遺伝子の探索などに有用であり得る。本発明はまた、本発明の細胞又は組織の利用方法(エンドサイトーシス評価方法)を提供する。
本発明の結合剤は、例えば、微生物の標識、微生物の体外排出の促進、自然免疫に有用であり得る。本発明はまた、これにより形成され得るGP2及び微生物又はその成分を含む複合体を提供する。
本発明による、動物を用いた粘膜免疫の評価方法は、インビボ及びエキソビボにおいて、粘膜免疫の調節薬の開発を可能にするため有用であり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、M細胞の検出又は同定方法を提供する。
【0012】
本発明の検出又は同定方法は、例えば、GP2の発現を測定することを含み得る。M細胞は、腸粘膜由来であり得る。従って、本発明の検出又は同定方法は、M細胞を含む腸粘膜由来サンプルを用いて行われてもよい。M細胞を含む腸粘膜由来サンプルとしては、例えば、動物から採取されたM細胞含有組織(例、小腸、十二指腸、結腸、空腸、回腸、大腸、盲腸の粘膜)、M細胞又はそれを含む組織の培養物に由来するサンプルが挙げられる。本発明で用いられるサンプルはまた、M細胞を含むGALT又はその構成組織であり得る。M細胞を含むGALT又はその構成組織としては、例えば、パイエル板、孤立リンパ小節、大腸、盲腸等のリンパ濾胞、が挙げられる。上記サンプル又はそれに含まれるM細胞が由来する動物は、霊長類、齧歯動物等の哺乳動物や鳥類であり得、例えば、ヒト、サル、ウシ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリが挙げられる。
【0013】
GP2の発現の測定は、GP2遺伝子の転写産物またはGP2タンパク質を対象として自体公知の方法により行うことができる。例えば、GP2遺伝子の転写産物の発現量は、生体サンプルからのtotal RNAの調製後、PCR(例、RT−PCR、リアルタイムPCR、定量的PCR)、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)(例えば、WO00/28082参照)、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)(例えば、WO00/56877参照)等の遺伝子増幅法、あるいはノザンブロッティング、マイクロアレイなどにより測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、生体サンプルからの抽出液又は組織切片の調製後、免疫学的手法により測定され得る。このような免疫学的手法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、サンドイッチELISA)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ウエスタンブロット法、免疫組織化学的染色法が挙げられる。GP2の発現の測定を可能とする上記以外の方法としては、例えば、質量分析法が挙げられる。
【0014】
本発明の検出又は同定方法は、M細胞の検出又は同定は勿論のこと、M細胞の定量にも利用することができる。本発明の検出又は同定方法はまた、M細胞が関連する疾患の診断に利用することができる。例えば、M細胞は、炎症性腸疾患(例、クローン病、潰瘍性大腸炎)等の疾患に関与する可能性がある。
【0015】
本発明の検出又は同定方法はまた、M細胞数を調節(例、増加、減少)し得る、又はM細胞数を変化させ得ない被験物のスクリーニングに利用することができ、M細胞数を調節し得る、又はM細胞数を変化させ得ない被験物の開発、あるいは粘膜免疫を調節し得る被験物の同定を可能とする。従って、本発明の検出又は同定方法は、例えば、(a)M細胞又はそれを含む組織等に被験物を接触させる工程、(b)M細胞又はそれを含む組織等におけるGP2の発現を測定する工程、(c)M細胞数を調節し得る、又は変化させ得ない物質を選択する工程を含み得る。M細胞数を調節し得る物質は、例えば、細菌(例、サルモネラ菌、エルシニア菌)の感染予防(例、Clark, M.A. et al., Infect Immun 1996, 64, 4363-4368; Clark, M. A. et al., Infect. Immun., 1998, 66, 1237-1243.)、粘膜免疫の調節に有用であり得、M細胞数を変化させ得ない物質は、薬理作用として他の作用を有し、かつ上記作用を有しない所定の医薬の開発に有用であり得る。
【0016】
スクリーニング方法に供される被験物は、いかなる化合物または組成物であってもよく、例えば、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和または不飽和の直鎖、分岐鎖および/または環を含む脂肪酸)、アミノ酸、タンパク質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、天然成分(例、微生物、動植物、海洋生物等由来の成分)、あるいは食品、飲料水等が挙げられる。
【0017】
本発明はまた、M細胞の検出又は同定用試薬又はキットを提供する。本発明の試薬又はキットは、1以上のGP2測定用手段を含み得る。GP2測定用手段は、GP2の発現の測定が可能である限り特に限定されないが、例えば、プライマー、核酸プローブ、抗体が挙げられる。
【0018】
本発明の試薬又はキットに含まれ得るプライマーは、GP2遺伝子の増幅及び検出を可能とする限り特に限定されない。例えば、プライマーのサイズは、約12bp以上、好ましくは約15〜100bp、より好ましくは約16〜50bp、さらにより好ましくは約18〜35bpであり得る。また、遺伝子増幅法の種類に応じて必要とされるプライマー数が異なるため、本発明の試薬に含まれ得るプライマー数は特に限定されないが、例えば、本発明の試薬は、2以上のプライマーを含み得る。2以上のプライマーは、予め混合されていても、混合されていなくてもよい。このようなプライマーは、自体公知の方法により作製できる。
【0019】
本発明の試薬又はキットに含まれ得る核酸プローブは、GP2遺伝子の検出を可能とする限り特に限定されない。核酸プローブはDNA、RNAのいずれでもよいが、安定性等を考慮するとDNAが好ましい。核酸プローブはまた、1本鎖又は2本鎖のいずれでもよい。核酸プローブのサイズは、GP2遺伝子の転写産物に特異的にハイブリダイズし得る限り特に限定されないが、例えば約15または16以上、好ましくは約15〜1000bp、より好ましくは約50〜500bpである。核酸プローブは、マイクロアレイのように基板上に固定された形態で提供されてもよい。このような核酸プローブは、自体公知の方法により作製できる。
【0020】
本発明の試薬又はキットに含まれ得る抗体は、GP2タンパク質に特異的に結合し得る抗体である限り特に限定されない。例えば、GP2タンパク質に対する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよい。抗体はまた、抗体のフラグメント(例、Fab、F(ab’))、組換え抗体(例、scFv)であってもよい。抗体は、プレート等の基板上に固定された形態で提供されてもよい。抗体は、自体公知の方法により作製できる。
【0021】
例えば、ポリクローナル抗体は、GP2タンパク質あるいはその部分ペプチド(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリアタンパク質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0022】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん―基礎と臨床―」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作製できる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例、NS-1, P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods,81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得できる。
【0023】
さらに、本発明で用いられる抗体は、キメラ抗体(chimeric antibody)、ヒト化抗体(humanized antibody)、ヒト型抗体(human antibody)であってもよい。キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号), Vol.6, No.10, 1988」、特公平3-73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4-506458号公報、特開昭62-296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997」、「Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994」、特表平4-504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature, Vol.368, p.856-859, 1994」、特表平6-500233号公報等を参考にそれぞれ作製することができる。例えば、以下のように、本発明で用いられる抗体を医薬として利用する場合、ヒト化抗体およびヒト型抗体が好ましい。
【0024】
GP2測定用手段は、必要に応じて、標識用物質で標識された形態で提供され得る。標識用物質としては、例えば、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質などが挙げられる。
【0025】
本発明の試薬又はキットは、GP2測定用手段に加え、さらなる構成要素を含む形態で提供されてもよい。この場合、試薬又はキットに含まれる各構成要素は、互いに隔離された形態、例えば、異なる容器に格納された形態で提供され得る。例えば、GP2測定用手段が標識用物質で標識されていない場合、本発明の試薬又はキットは、標識用物質をさらに含み得る。本発明の試薬又はキットはさらに、ポジティブコントロール(例、GP2遺伝子をコードするポリヌクレオチドまたはその部分ヌクレオチド、GP2タンパク質またはその部分ペプチド)を含んでいてもよい。
【0026】
本発明はまた、GP2ターゲティング分子を含む薬物送達媒体を提供する。
【0027】
GP2ターゲティング分子としては、GP2を標的とすることができる物質である限り特に限定されないが、例えば、抗体、アプタマーが挙げられる。抗体としては、上述したものが挙げられるが、臨床応用の観点からは、ヒト化又はヒト抗体が好ましい。
【0028】
本発明で用いられる薬物送達媒体は、GP2ターゲティング分子と結合可能であり、かつ有効成分を送達できるものである限り特に限定されないが、例えば、リポソーム、ミクロスフェアが挙げられる。GP2ターゲティング分子は、薬物送達媒体に共有結合又は非共有結合したものであり得る。薬物送達媒体に結合されるべきGP2ターゲティング分子の量は適宜調節できる。
【0029】
本発明はまた、GP2ターゲティング分子及び有効成分を含む医薬を提供する。
【0030】
本発明の医薬は、例えば、有効成分に共有結合又は非共有結合したGP2ターゲティング分子を含み得る。GP2ターゲティング分子及び有効成分が互いに共有結合している場合、リンカーを介さずに、又は適切なリンカーを介して結合し得る。本発明の医薬はまた、互いに結合していない、GP2ターゲティング分子及び有効成分を含み得る。この場合、本発明の医薬は、上述したような薬物送達媒体の形態で提供されてもよい。
【0031】
医薬に含まれ得る有効成分としては、例えば、抗原(例、ワクチンとして用いられ得る、ウイルス、細菌及び寄生虫の抗原)、後述するGP2の発現又は機能を調節し得る物質、薬物が挙げられる。
【0032】
本発明の医薬はまた、抗原を含む場合、アジュバントをさらに含んでいてもよい。アジュバントとしては、免疫原性を増強し得るものである限り特に限定されないが、例えば、BCG、トレハロースダイマイコレート(TDM)、Merck65、AS−2、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、デキストラン、TLRリガンド(例、リポ多糖(LPS)、CpG)が挙げられる。
【0033】
本発明の医薬は、後述する本発明の剤と同様に用いられ得る。例えば、本発明の医薬は、後述する医薬上許容され得る担体を含み得る。
【0034】
本発明はまた、粘膜免疫の調節剤を提供する。本発明の剤は、GP2の発現又は機能を調節し得る物質を含み得る。
【0035】
GP2は、ヒトGP2(例、GenBankアクセッション番号:NP_001493参照)又はそのオルソログ(例、マウスGP2については、例えば、Genbankアクセッション番号:NP_080265参照)、あるいはそれらの変異体であり得る。GP2のオルソログは特に限定されず、例えば非ヒト哺乳動物(例、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウス)に由来するものであり得る。GP2はそれぞれ、エンドサイトーシス活性を有し得る限り、そのコードするアミノ酸配列において1以上(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1、2又は3個)のアミノ酸の変異(例、欠失、置換、付加、挿入)を有していてもよい(このようなタンパク質が、上記の「変異体」に該当する)。
【0036】
一実施形態では、本発明の剤は、粘膜免疫の増強剤であり得る。この場合、本発明の剤は、GP2の発現又は機能を促進し得る物質を含み得る。
【0037】
GP2の発現とは、GP2をコードする遺伝子から翻訳産物(即ち、タンパク質)が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。従って、GP2の発現を促進する物質は、GP2の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化およびタンパク質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。なお、本明細書中で使用される場合、GP2の発現の促進としては、GP2(タンパク質)自体の補充をも含むものとする。
【0038】
GP2の発現又は機能を促進する物質としては、例えば、GP2及びその発現ベクターが挙げられる。
【0039】
GP2は、天然タンパク質又は組換えタンパク質であり得る。GP2は、自体公知の方法により調製でき、例えば、a)GP2を含む生体試料からGP2を回収してもよく、b)宿主細胞(例、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞)にGP2発現ベクターを導入することにより形質転換体を作製し、該形質転換体により産生される構成因子を回収してもよく、c)ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等を用いる無細胞系によりGP2を合成してもよい。GP2は、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー、GP2抗体の使用などの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;これらを組合せた方法などにより適宜精製される。
【0040】
別の実施形態では、本発明の剤は、粘膜免疫の抑制剤であり得る。この場合、本発明の剤は、GP2の発現又は機能を抑制し得る物質を含み得る。GP2の発現を抑制する物質は、GP2の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化およびタンパク質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。
【0041】
GP2の発現を抑制する物質としては、例えば、アンチセンス核酸(例、DNA、RNA、又は修飾ヌクレオチド、あるいはそれらのキメラ分子)、リボザイム、RNAi誘導性核酸(細胞内に導入されることによりRNAi効果を誘導し得るポリヌクレオチド、好ましくはRNA:例、siRNA)、アプタマー、並びにこれらをコードする核酸を含む発現ベクターが挙げられる。
【0042】
GP2の機能を抑制する物質としては、例えば、上述したような抗体若しくはドミナントネガティブ変異体又はそれらの発現ベクター、あるいは低分子化合物が挙げられる。
【0043】
GP2のドミナントネガティブ変異体は、GP2に対する変異の導入によりその活性が低減したものである。該ドミナントネガティブ変異体は、天然のGP2と競合することで間接的にその機能を阻害することができる。変異としては、例えば、機能性部位における、当該部位が担う機能の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。
【0044】
GP2の発現又は機能を調節する物質が、核酸分子又はタンパク質分子である場合、本発明の剤は、核酸分子又はタンパク質分子をコードする核酸分子を含む発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。本発明の発現ベクターが含み得るプロモーターは、その制御下にある因子の発現を可能とする限り特に限定されず、因子の種類により適宜選択され得るが、例えば、polIIIプロモーター(例、tRNAプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター)、哺乳動物用プロモーター(例、CMVプロモーター、CAGプロモーター、SV40プロモーター)が挙げられる。また、使用されるプロモーターとしては、M細胞に特異的なプロモーター(例、GP2の天然プロモーター)を用いてもよい。
【0045】
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含むこともできる。
【0046】
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは、プラスミド又はウイルスベクターであり得るが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0047】
本発明の剤は、GP2の発現又は機能を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0048】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、あるいは散剤、顆粒剤等である。
【0049】
非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0050】
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg〜約5.0gである。本発明の剤は、上述した本発明の医薬と同様に用いられ得る。例えば、本発明の医薬は、上述したアジュバントを含み得る。
【0051】
本発明の剤は、例えば、医薬として有用である。本発明の剤が医薬として使用される場合、例えば、粘膜免疫の異常を伴う疾患の予防・治療、あるいは粘膜免疫の増強が所望される疾患又は状態に使用し得る。粘膜免疫の異常を伴う疾患としては、炎症性腸疾患(例、クローン病、潰瘍性大腸炎)、食物アレルギーが挙げられる。粘膜免疫の増強が所望される疾患又は状態としては、例えば、癌、感染症(例、細菌等の微生物、ウイルス又は寄生虫による感染症)が挙げられる。本発明の剤が適用され得る被験体は、上記疾患又は状態の2以上を併発している、又は併発する危険性がある被験体であってもよい。
【0052】
本発明はまた、GP2の発現が調節されたM細胞又はそれを含む組織を提供する。本発明の細胞又は組織は、上述した哺乳動物に由来し得る。本発明の細胞は、上述した組織に由来し得る。本発明の組織は、上述した組織と同様であり得る。
【0053】
本発明の細胞又は組織は、例えば、GP2の発現が増強された、換言すれば、GP2遺伝子が導入された細胞又は組織であり得る。導入されるべきGP2遺伝子は特に限定されない。例えば、GP2遺伝子と、それが導入される細胞又は組織は、同種又は異種の哺乳動物にそれぞれ由来し得る。GP2はまた、非変異体又は変異体であり得る。GP2の変異体としては、上述したようなものが挙げられるが、例えば、別のタンパク質(例、GFP等の蛍光タンパク質)との融合物、GP2タンパク質に対するプロテアーゼによる切断に耐性を有するように変異が導入された改変タンパク質、所定のドメインを欠く欠失体(例、実施例参照)もまた含まれる。本発明の細胞又は組織はまた、GP2の発現が抑制された、例えば、GP2遺伝子が破壊された、又はGP2遺伝子の発現がトランス作用性因子により抑制された、細胞又は組織であり得る。
【0054】
本発明の細胞は、単離及び/又は精製されたものであり得る。本発明の細胞は、GP2の発現の調節(例、促進、抑制)により、エンドサイトーシス能が調節された細胞であり得る。本発明の細胞は、GP2の発現が一過的に調節された細胞、又は当該発現が恒常的に調節された細胞(例、ホモ接合性又はヘテロ接合性欠損細胞、あるいはゲノムに遺伝子が導入された細胞等のゲノム改変細胞)であり得る。本発明の細胞は形質転換体又は非形質転換体であり得る。本発明の細胞はまた、細菌等の微生物又はその成分で処理された、又は処理されていない細胞であり得る。
【0055】
本発明の細胞は、例えば、GP2の発現又は機能を調節し得る物質でM細胞を処理することにより作製できる。本発明の細胞はまた、遺伝子導入動物、遺伝子欠損(いわゆるノックアウト)動物からM細胞を単離及び/又は精製することにより作製できる。例えば、GP2ノックアウト動物(例、Yu, S. et al., J. Biol. Chem., 2004, 279, 50274-9.; Kobayashi, K. et al.,Biochem. Biophys. Res. Commun., 2004, 322, 659-64.参照)が公知であるので、本発明では、このような動物から本発明の細胞及び組織を調製できる。
【0056】
本発明の細胞は、例えば、a)上述の疾患又は状態の予防、治療及び/又は改善薬の開発(例、本発明のスクリーニング方法での使用)、b)M細胞における抗原の取り込み及び輸送(即ち、エンドサイトーシス)の解析、c)エンドサイトーシス関連遺伝子の探索などに有用であり得る。
【0057】
本発明はまた、M細胞又はそれを含む組織においてGP2の発現又は機能を測定することを含む、M細胞におけるエンドサイトーシスの評価方法を提供する。GP2の発現の測定は、上述のように行うことができる。GP2の機能の測定は、例えば、後述する実施例に記載されるように、蛍光標識等された抗原又は抗原模倣物(例、GP2に対する抗体)を用いて蛍光顕微鏡下で行うことができる。勿論、当該技術分野で公知のエンドサイトーシス評価方法(例、Fcレセプター、C型レクチンレセプター、及びToll様レセプター等のレセプターによる抗原取り込み及び輸送の評価方法と同様の方法)を利用して、GP2の機能を測定することもできる。本評価方法は、例えば、M細胞におけるエンドサイトーシスを調節し得る、又は調節し得ない物質のスクリーニングに有用であり得る。従って、本方法は、例えば、被験物がM細胞におけるGP2の発現又は機能を調節し得るか否かを評価することを含む方法であり得る。より詳細には、本方法は、(a)M細胞又はそれを含む組織等に被験物を接触させる工程、(b)M細胞におけるGP2の発現又は機能を測定する工程、(c)M細胞におけるエンドサイトーシスを調節し得る、又は調節し得ない物質を選択する工程を含んでいてもよい。例えば、M細胞におけるエンドサイトーシスを調節し得る物質は、粘膜免疫の調節に有用であり得、M細胞におけるエンドサイトーシスを変化させ得ない物質は、薬理作用として他の作用を有し、かつ粘膜免疫調節作用を有しない所定の医薬の開発に有用であり得る。
【0058】
本発明はまた、被験物(例、上述したもの、及び微生物由来の試験抗原)がGP2に結合するか否かを測定することを含む、GP2ターゲティング分子のスクリーニング方法を提供する。被験物のGP2への結合の測定は、自体公知の方法により行うことができ、例えば、免疫学的手法(例、免疫沈降法、ELISA)、表面プラズモン共鳴を利用する相互作用解析法、ツーハイブリッドシステムが挙げられる。
【0059】
本発明はまた、分泌形態のGP2を含む、微生物に対する結合剤を提供する。GP2は、プロテアーゼにより切断されて分泌形態となり得ることが知られている(例、Fritz, B. A. et al., Am. J. Physiol., 1996, 270, G176-83参照)。従って、本発明の結合剤は、このような切断されたGP2を含むものであり得る。微生物は、GP2が結合し得るものである限り特に限定されないが、例えば、大腸菌等の細菌、真菌、酵母が挙げられる。また、GP2が結合し得る限り、微生物のみならず、ウイルス、寄生虫等の外来異物に対しても同様に応用することができる。本発明の結合剤は、例えば、微生物の標識、微生物の体外排出の促進、自然免疫に有用であり得る。
【0060】
本発明はまた、GP2及び微生物又はその成分を含む複合体を提供する。本発明の複合体が含み得る微生物の成分は、GP2に対する結合能を有するもの(即ち、抗原)であり得る。GP2は自己オリゴマー能を有するので、本発明の複合体は、GP2がオリゴマー化して、高次複合体を形成していてもよい。本発明の複合体は、例えば、GP2を微生物又はその成分と接触させて、GP2及び微生物又はその成分を含む複合体を得ることにより作製できる。本発明はまた、このような複合体の製造方法を提供する。
【0061】
本発明はまた、動物を用いた粘膜免疫の評価方法を提供する。本方法は、インビボ及びエキソビボで行うことができる。本方法は、例えば、(a)GP2の発現が調節された動物を粘膜免疫の測定に供すること、あるいは(b)動物を、GP2の発現又は機能の測定に供することを含み得る。動物は上述したものと同様であり得るが、粘膜免疫に異常をきたす動物(例、粘膜免疫能が低下した動物)であってもよい。例えば、本方法は、動物に被験物を投与し、被験物が投与された動物を粘膜免疫の測定に供し、被験物が粘膜免疫を調節し得るか否かを評価することを含み得る。本方法はまた、動物に外部刺激を与え、外部刺激が与えられた動物を粘膜免疫の測定に供し、外部刺激が粘膜免疫を調節し得るか否かを評価することを含み得る。外部刺激は被験物投与以外の任意の刺激(例、触覚、聴覚、視覚等に関連する刺激)であり得る。粘膜免疫の測定は、例えば、粘膜組織におけるIgA量、ムチンや抗菌ペプチド量等の測定に基づき行われ得る。本方法は、例えば、粘膜免疫を調節し得る、又は調節し得ない被験物又は外部刺激のスクリーニングに有用であり得る。
【0062】
本明細書中で挙げられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0063】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0064】
(方法)
1)動物
BALB/cマウスは、CLEA Japanから購入し、6〜10週齢にて実験で使用するまで、理研動物施設において、病原体フリーの特定条件下で維持した。全ての動物実験は、理研横浜研究所の動物研究委員会により認可された。
【0065】
2)cDNAクローン及びプラスミド構築
マウス及びヒトGP2の組換えタンパク質を産生するため、C末端膜貫通領域又はZPドメイン欠失GP2(それぞれ、GP2(ΔTM)又はGP2(ΔZP))に対応するcDNAを、RIKEN FANTOMクローン又はヒトFAEからそれぞれ増幅した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を、各遺伝子に対する特異的なプライマーを用いて行った。プライマーの配列は以下の通りである。
マウスGP2(ΔTM)(mGP2(ΔTM))
5’- GAAGATCTACCATGAAAAGGATGGTGGGTT-3’(フォワード:配列番号1)
5’- CCGCTCGAGTGTAGTGTGGGGAGTCCCC-3’ (リバース:配列番号2)
ヒトGP2(ΔTM)(hGP2(ΔTM))
5’- CGCGGATCCACCATGGAAAGGATGGTGGGC-3’(フォワード:配列番号3)
5’- CCGCTCGAGTCCATTCATGACACCGGGAGA-3’(リバース:配列番号4)
mGP2(ΔZP)
5’- GAAGATCTACCATGAAAAGGATGGTGGGTT-3’(フォワード:配列番号5)
5’- CCGCTCGAGCAGAAGAGGCTGCAAACTCTG-3’(リバース:配列番号6)
得られたcDNAフラグメントを、ヒトIgGのFcセグメントをコードするフラグメントを含有する、pcDNA3発現ベクター(Invitrogen)の改変物(pcDNA3−Fc)のBamH1/XhoIクローニング部位に挿入した。マウス及びヒトGP2(GP2−N)のN末端配列を、各遺伝子についての特異的なプライマーを用いて、GP2(ΔTM)と同様に調製した。プライマーの配列は以下の通りである。
mGP2
5’-GAAGATCTCGATTCATCAGTTGCATGGTG-3’ (フォワード:配列番号7)
5’- CCGCTCGAGGAAACCCATACCTCCCAGCA-3’(リバース:配列番号8)
hGP2
5’- CGCGGATCCGCGATAAAAACATGAGCGGC-3’(フォワード:配列番号9)
5’- CCGCTCGAGCTCTCCAGAATGTTCCTGCAG-3 (リバース:配列番号10)
得られたcDNAフラグメントを、pcDNA3発現ベクターのBamHI/XhoIクローニング部位に挿入した。
【0066】
3)組換えヒト又はマウスGP2タンパク質の調製
ヒト胎児性腎(HEK)293T細胞にGP2(ΔTM)又はGP2(ΔZP)/pcDNA3−Fcプラスミドベクターで一過的にトランスフェクトし、5%COインキュベータ中で37℃にて約10日間培養した。培養培地中の分泌組換えタンパク質を、HiTrap(登録商標)プロテインAアフィニティーカラム(GE Healthcare)により精製した。
【0067】
4)FAE及びIECの単離
FAE及びIECを、既報(Hase, K. et al., DNA Res., 2005, 12, 127-37)に記載されるように単離した。簡潔には、PPを小腸から剥離し、30mM EDTA(pH7.2)を含有するHBSS中に浸した。室温での20分間のインキュベーション後、実体顕微鏡(MZ12.5;Leica Microsystems)下で細針を用いた操作によりFAEを単離した。IECもまた、PP除去後の小腸の小片から同様の様式で単離した。
【0068】
5)定量的PCR解析
マウス及びヒトGP2遺伝子発現を、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq(登録商標)(TaKaRa)及び既報(Hase, K. et al., DNA Res., 2005, 12, 127-37)に記載されるような特異的なプライマーを用いてリアルタイムPCRにより調べた:
mGP2
5’-GATACTGCACAGACCCCTCCA-3’ (フォワード:配列番号11)
5’-GCAGTTCCGGTCATTGAGGTA-3’ (リバース:配列番号12)
hGP2
5’-GTTGAGTCCGTGCTGTATGTGG-3’(フォワード:配列番号13)
5’-TCTGAACTGAGAACCGGCTTTC-3’(リバース:配列番号14)
GP2遺伝子の発現レベルを、各組織におけるGAPDH遺伝子の発現によりノーマライズし、データをIECに対するFAEの倍の変化として表した。
【0069】
6)インサイチュハイブリダイゼーション(ISH)
ジゴキシゲニン標識RNAプローブを、XhoI又はBamHIにより消化されたマウス及びヒトGP2−N/pcDNA3プラスミドベクターをそれぞれ鋳型として用いて、T7又はSP6 RNAポリメラーゼ(Roche)でのインビトロ転写により調製した。ISHを、既報(Hase, K. et al., DNA Res., 2005, 12, 127-37)により記載されるように、製造業者の使用説明書(Ventana Japan)に従って、Discovery(登録商標)自動化ISHシステム及びRiboMapキットで行った。簡潔には、PPの4%の緩衝化ホルマリン固定切片を、脱パラフィン処理し、プロテアーゼで処理し、50ngのmGP2特異的アンチセンスプローブ又はコントロールセンスプローブと65℃で6時間ハイブリダイズさせた。次いで、切片を、ビオチン標識抗ジゴキシゲニンAb(Jackson ImmunoResearch Laboratories)と37℃で20分間インキュベートし、続いてアルカリホスファターゼ・コンジュゲート・ストレプトアビジンと37℃で16分間インキュベートした。シグナルを、BlueMap NBT/BCIP基質キット(Ventana Japan)で検出し、切片を、Nuclear Fast Redで対比染色した。
ヒトGP2(hGP2)のISH解析については、内視鏡生検又は外科切片から得たヒト被験体のリンパ濾胞を含有する回腸末端の非炎症部位を使用した。生検サンプルを、4%緩衝化ホルマリンで固定し、マウスサンプルについて上述したようなhGP2特異的アンチセンスプローブ又はコントロールセンスプローブを用いてハイブリダイズさせた。
【0070】
7)抗体作製
a)ウサギ抗GP2ポリクローナル抗体
合成ペプチド(マウスGP2アミノ酸配列中の154〜169番目:CSEELGEYHVYKLQGT(配列番号15)をウサギに免疫し、得られた血清からプロテインAカラムを用いて精製を行った。
b)ラット抗マウスGP2モノクローナル抗体
マウスGP2のアミノ酸末端側224アミノ酸(配列番号16)とヒトIgG Fc領域との融合タンパク質を培養細胞(HEK293T細胞)に発現させ、プロテインAカラムを用いてタンパク質を精製することにより抗原タンパク質の大量調製を行った。この抗原をラットに免疫した後、脾臓由来のBリンパ球とミエローマ細胞を融合させることでマウスGP2特異的な抗体を産生するハイブリドーマを樹立した。モノクローナル抗体の大量調製は、ハイブリドーマをヌードマウスの腹腔内に注射した後、得られた腹水をプロテインGカラムで精製することにより行った。
【0071】
8)免疫蛍光染色
PPの凍結切片の免疫蛍光染色については、切片を、パラホルムアルデヒド(BD Pharmingen)で固定し、5%正常ヤギ血清/ホスフェート緩衝化生理食塩水(PBS)と共に室温で30分間インキュベートした。GP2発現を、4℃での一晩の2.5μg/mlラット抗マウスGP2 mAb(クローン2F11−C3)、続いて室温で1時間の0.5μg/ml Alexa488・コンジュゲート・抗ラットIgG Ab(Invitrogen)により検出した。M細胞を、10μg/mlローダミン標識Ulex europaeusアグルチニン−1(UEA―1)(Vector Laboratories)で染色し、最終的にDAPIで対比染色した。パラフィン切片の免疫蛍光染色については、孤立リンパ小節、盲腸リンパ濾胞、大腸リンパ濾胞の1%硫酸亜鉛/4%ホルマリン(Richard−Allan Scientific)固定切片(5μm)を脱パラフィン処理し、再水和させ、PBS中3%Hで室温にて20分間処理し、内因性ペルオキシダーゼ活性をブロックした。切片を、PBS中5%正常ヤギ血清及び0.5%ブロッキング緩衝液(Roche)と共に室温で30分間、次いで抗マウスGP2 mAbと共に4℃で一晩インキュベートした。一次抗体の結合を、チラミド−フルオレセインイソチオシナネート(FITC)(PerkinElmer)で可視化した。試料を、蛍光顕微鏡(OLYMPUS BX51)で解析した。ホールマウント染色については、PPを腸から切り出し、パラホルムアルデヒド(BD Pharmingen)と共に4℃で1時間固定し、4℃で1時間0.1%サポニン/0.2%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBSを用いて透過処理した。GP2発現を、凍結切片の染色と同じ様式において検出した。
【0072】
9)細菌結合アッセイ
細菌結合アッセイについては、0.065−200μg/mlの組換えマウス及びヒトGP2(ΔTM)―Fcタンパク質を添加し、96ウェルポリスチレンマイクロタイタープレート(NAGEL)中で4℃で一晩インキュベートした。洗浄後、マイクロタイタープレートを、PBS中1%ウシ血清アルブミン(BSA)で2時間ブロッキングし、次いで固定した組換えタンパク質を、PBS中0.1%NaN中において、1×10の大腸菌株C25又と共に室温で2時間インキュベートした。PBSでの5回の洗浄後、ゲノムDNAを、QIAamp DNAキット(QIAGEN)を用いて、結合DNAから抽出した。16SリボソームDNA(rDNA)のコピー数を、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq(登録商標)(TaKaRa)及びユニバーサル16S rDNAについての特異的プライマー(Greisen K. et al., J Clin. Microbiol., 1994, 32, 335-351)を用いたリアルタイムPCRにより定量した。
ユニバーサル16S rDNA
5’-AACTGGAGGAAGGTGGGGAT-3’(フォワード:配列番号17)
5’-AGGAGGTGATCCAACCGCA-3’ (リバース:配列番号18)
【0073】
10)結紮腸ループアッセイ
マウスを、アバチン(2.5mlのt−アミルアルコール中5gトリブロモエタノール;200mg/kg動物重量)で麻酔し、アッセイの間、37℃の温パッド上で暖め続けた。1×10のFITC標識大腸菌株C25を、結紮腸ループに注入した。注入1時間後、PPを腸から切り出し、ホールマウント染色の方法において記載されるように免疫染色した。試料を、DeltaVisionデコンボリューション顕微鏡(SEKI Technotron Corp)により観察した。
【0074】
実施例1:M細胞におけるGP2遺伝子の発現
腸では、M細胞、及びマウス小腸の固有層に在留し、管腔抗原を直接採取する経上皮樹状突起を形成するCX3CR1発現樹状細胞(DC)は、管腔抗原の重要なサンプリング部位である(Niess, J. H. et al., Science, 2005, 307, 254-8)。DCにおけるレセプター(例、Fcレセプター、C型レクチンレセプター、及びToll様レセプター)媒介抗原取り込みの機構は、以前の研究において十分に解析されているが、M細胞のものは依然として不明なままである。本発明者らは、M細胞に特異的に発現しているこのような遺伝子として、外分泌膵臓の腺房細胞の分泌顆粒膜に発現することが知られ、膵液で腸管に分泌されているGPIアンカー型膜タンパク質である糖タンパク質2(GP2)遺伝子(Beaudoin, A. R. et al., J. Histochem. Cytochem., 1991, 39, 575-88)を同定した。M細胞におけるGP2遺伝子の特異的な発現を確認するため、本発明者らは、定量的PCR(qPCR)及びインサイチュハイブリダイゼーション(ISH)を調べた。GP2遺伝子は、FAEに専ら発現しており(図1)、マウスPPのM細胞に発現するα−L−フコースを認識する種類のレクチンであるUlex europaeusアグルチニン−I(UEA−1)と共染色された(図2)。マウスと同様に、M細胞におけるGP2遺伝子の限定的な発現がヒトPPでも確認された(図3)。さらに、脳、舌、肝臓、肺、唾液腺、腎臓、心臓、精巣、胸腺、脾臓、胃、FAE等の組織におけるmRNA発現レベルを、リアルタイムPCRにより確認したところ、これらの組織ではGP2 mRNAは発現していないか、又は殆ど発現しておらず、FAEでのGP2 mRNA発現は、他の組織での発現に比し顕著なものであった。
【0075】
実施例2:M細胞におけるGP2タンパク質の発現及び細胞内局在
GP2タンパク質の発現を確認するため、本発明者らは、マウスGP2(mGP2)に対するポリクローナル及びモノクローナル抗体を作製した。イムノブロッティング及び免疫蛍光染色では、約75kDaのmGP2が、FAEにのみ発現しており(図4)、ISHの結果と同様に、UEA−1陽性M細胞において最も免疫染色された(図5、左側の一連のパネル)。さらに、GP2は、腺房細胞の結果から予期されたように、M細胞の頂端原形質膜に局在していた。これらの知見は、GP2がヒト及びマウスの双方のPPにおけるM細胞特異的マーカー分子であることを初めて実証する。PPは、腸関連リンパ組織(GALT)であるが、孤立リンパ小節、盲腸リンパ濾胞、大腸リンパ濾胞等の他のGALTもまた存在する。しかしながら、これらのGALTでは、M細胞の存在及び管腔抗原の経上皮輸送は既に示されている(Gebert, A. et a., Anat. Rec., 1995, 241, 487-95.; Liebler, E. M. et al., Am. J. Vet. Res., 1995, 56, 725-30.)ものの、異なるGALTにおいてM細胞が共通分子を発現するか否かは未知である。さらに、UEA−1は、以前からM細胞マーカーとして使用されているが、UEA−1は、盲腸リンパ濾胞、大腸リンパ濾胞及びヒトPP上の正常な腸細胞からM細胞を区別し得なかった。この問題は、マウスPPにおける膜の異なるグリコシル化により引き起こされる。これらの疑問に取り組むため、抗GP2抗体を用いて免疫染色し、蛍光顕微鏡により観察した。GP2は、孤立リンパ小節、大腸リンパ濾胞、盲腸リンパ濾胞のFAEでも発現しており(図5、右側の一連のパネル)、孤立リンパ小節ではUEA−1との共染色が確認された。大腸および盲腸リンパ濾胞では、GP2のような特異性はないもののパイエル板のM細胞に発現が確認されているケモカインのCCL9(未発表データ)がGP2陽性細胞に発現することを確認した。これらの結果は、GP2が組織及び種を超える汎M細胞マーカー分子であることを示す。
【0076】
実施例3:GP2は細菌に対する結合能を有する
M細胞の管腔表面におけるGP2発現は、幾つかの物質に対する抗原レセプターの潜在的役割を示唆する。そこで、本発明者らは、腸内微生物がGP2に対するリガンドとしての潜在的な候補であると推測した。この仮説を支持するものとして、哺乳動物の尿における最も豊富なタンパク質であり、かつGP2と高い相同性(アミノ酸レベルで約51%の相同性)を有する、腎上皮細胞から分泌されるTamm−Horsfallタンパク質(THP)が、大腸菌に対する結合能を有することが既に示されている(Pak, J. et al., J. Biol. Chem., 2001, 276, 9924-30)。この特性に基づいて、THPは、尿管を介して侵入した細菌の除去に対する役割を有することが示唆されている。GP2及び細菌の相互作用を調べるため、マイクロタイタープレートに固相化された0.065−200μg/mlの濃度の組換えGP2を、大腸菌C25とインキュベートし、細菌16SリボソームDNA(rDNA)量に基づいたqPCRにより細菌数を定量した。その結果、大腸菌の結合数は、6.5μg/mlのmGP2まで用量依存的に増加したが、大腸菌は、全ての濃度のコントロールヒトIgG−Fcタンパク質に結合し得なかった(図6)。これらの結果は、M細胞の管腔表面上のGP2が細菌に結合することを示唆する。
【0077】
実施例4:GP2は、M細胞における細菌成分のエンドサイトーシスレセプターである
エンドサイトーシスレセプターについてのGP2の役割を調べるため、細菌取り込みを、腸管ループアッセイにより調べた。大腸菌C25を蛍光イソチオシナネート(FITC)で標識し、パイエル板を含む結紮腸管ループの管腔に注入し、続いてホールマウント染色によりM細胞を可視化した。その結果、大腸菌C25の細胞膜画分と考えられる物質が取り込まれ、M細胞の基底側にトランスサイトーシスされた。それは、M細胞ポケットの空間にさらに輸送された。細胞質領域では、C25の細胞膜画分は、小胞中のGP2と共局在していた。GP2を介したエンドサイトーシスは、抗GP2モノクローナル抗体(mAb)を用いたループアッセイとその取り込みにより確認された。管腔内に注入したmAbは、GP2の管腔表面に結合し、一部はエンドサイトーシスを受け大腸菌C25と同様に、細胞質領域中の小胞として観察された。抗体処理の際に起こるGP2のクロスリンクは、細菌がGP2と結合した場合も同様に引き起こされると考えられる。これらの結果は、GP2がM細胞における細菌成分の新たなエンドサイトーシスレセプターであることを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】FAEにおけるマウスGP2 mRNAの特異的発現を示す図である。定量的PCR(qPCR)を行った。FAE:濾胞関連上皮(follicle-associated ephithelium)IEC:腸上皮細胞(intestinal epithelial cell)
【図2】マウス腸粘膜由来サンプルにおけるGP2 mRNA及びUEA−1(既知のM細胞マーカー)のインサイチュハイブリダイゼーションによる共染色を示す図である。
【図3】ヒトパイエル板(PP)におけるGP2 mRNAのインサイチュハイブリダイゼーションによる染色を示す図である。
【図4】FAEにおけるマウスGP2タンパク質の発現を確認するイムノブロッティングを示す図である。
【図5】マウスGP2タンパク質の免疫染色を示す図である。左上:マウスパイエル板におけるGP2の染色左上から2番目:上記と同一切片でのUEA−1による染色左上から3番目:上記と同一切片での核の染色左下:上記3つを重ね合わせた画像右上:マウス孤立リンパ小節におけるGP2およびUEA−1の染色右上から2番目:大腸リンパ濾胞におけるGP2の染色右下:盲腸リンパ濾胞におけるGP2の染色
【図6】マウスGP2タンパク質の大腸菌に対する結合を示す図である。■:マウスGP2タンパク質◆:コントロールヒトIgG−Fcタンパク質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GP2の発現を測定することを含む、M細胞の検出方法。
【請求項2】
ヒトM細胞の検出方法である、請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
マウスM細胞の検出方法である、請求項1記載の検出方法。
【請求項4】
M細胞を含む腸粘膜由来サンプルにおいてGP2の発現を測定することを含む、M細胞の同定方法。
【請求項5】
該腸粘膜由来サンプルが、パイエル板、孤立リンパ小節、あるいは盲腸又は大腸のリンパ濾胞を少なくとも含む、請求項4記載の同定方法。
【請求項6】
プライマー、核酸プローブ及び抗体からなる群より選ばれる1以上のGP2測定用手段を含む、M細胞の検出又は同定用試薬又はキット。
【請求項7】
GP2ターゲティング分子を含む薬物送達媒体。
【請求項8】
GP2ターゲティング分子が抗体である、請求項7記載の薬物送達媒体。
【請求項9】
GP2ターゲティング分子及び医薬としての有効成分を含む医薬。
【請求項10】
該有効成分が抗原である、請求項9記載の医薬。
【請求項11】
GP2の発現又は機能を調節し得る物質を含む、粘膜免疫の調節剤。
【請求項12】
GP2の発現が調節されたM細胞又はそれを含む組織。
【請求項13】
M細胞又はそれを含む組織においてGP2の発現又は機能を測定することを含む、M細胞におけるエンドサイトーシスの評価方法。
【請求項14】
分泌形態のGP2を含む、微生物に対する結合剤。
【請求項15】
GP2及び微生物又はその成分を含む複合体。
【請求項16】
以下(a)又は(b)のいずれかを含む、哺乳動物における粘膜免疫の評価方法:
(a)GP2の発現が調節された哺乳動物を粘膜免疫の測定に供すること;あるいは
(b)哺乳動物をGP2の発現又は機能の測定に供すること。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−141995(P2008−141995A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331950(P2006−331950)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本免疫学会総会・学術集会記録 第36巻
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】