説明

膜分離方法及び膜分離装置

【課題】スケール化傾向の高い被処理水を原水として膜分離処理を行うに当たり、スケール防止剤の添加や、カルシウム吸着塔の設置を必要とすることなく、膜分離装置におけるスケール障害を防止して、長期に亘り膜の透過流束を高く維持する。
【解決手段】カルシウム硬度100mg−CaCO3/L以上、酸消費量(pH4.8)100mg−CaCO3/L以上、かつLangelier指数>0の被処理水を膜分離処理する方法において、該被処理水に凝集剤を添加し、pHを8.0〜9.5に調整して凝集処理し、凝集処理水を膜分離処理する。膜分離処理に先立ち、被処理水を高pH条件に調整してカルシウムと炭酸イオンを析出、沈殿させることにより、被処理水中のカルシウム及びMアルカリを除去してスケール生成の可能性を排除することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般工場の用水、排水処理、排水回収などの水処理分野において、カルシウム硬度100mg−CaCO3/L以上、酸消費量(pH4.8)100mg−CaCO3/L以上、かつLangelier指数>0の、スケール析出傾向の大きい被処理水を原水として膜分離処理するに当たり、スケール防止剤を添加することなく、膜の閉塞を防止して透過流束を長く維持する膜分離方法及び膜分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離処理技術は、工業用水からの純水製造、廃水処理水からの純水やプロセス用水の製造、海水やかん水からの飲料水等の生活水や工業用水の製造等、多くの水処理分野で使用されている。
【0003】
一般的な用水の前処理では、それらの原水中に存在する懸濁物質(SS)やコロイド成分、有機物質を凝集かつ粗大化させた後、沈殿、浮上、濾過、膜濾過を行う凝集操作が多用されている。ここで、SS等を凝集させるための凝集剤としては、アルミニウム塩や鉄塩などの無機凝集剤、有機凝結剤が広く用いられている。
また、上記操作で凝集した粒子をさらに粗大化させるために高分子凝集剤が使用されることがある。
凝集粒子の粗大化には、一般的には撹拌機付き凝集反応槽が用いられ、その後沈殿槽または加圧浮上装置により凝集フロックを粗分離し、更に細かいフロックを固液分離するために砂濾過や重力濾過、膜濾過などの固液分離装置を設置する。
これらのうち、膜濾過を用いた固液分離装置(膜分離装置)において、カルシウム硬度、Mアルカリが高い被処理水を処理すると、膜面に炭酸カルシウムを主体としたスケールが付着し、透過流束の低下、モジュール差圧の上昇などの障害が発生する。
【0004】
この問題を解決するために、
(1) 膜分離装置に通水する水(以下「膜給水」と称す。)にスケール防止剤を添加してスケール付着を抑制する方法(例えば特許文献1,2)
(2) 膜給水のpHを低下させることによりスケール生成を防止する方法
(3) 膜分離装置の前段にカルシウム吸着塔を設けてスケール生成の原因となるカルシウムを吸着除去する方法
などの対策がとられている。
【0005】
上記(1)〜(3)の対策により、スケール付着による膜の透過流束の低下、膜モジュール差圧の上昇などの障害は抑制できるが、いずれも次のような問題がある。
【0006】
即ち、スケール防止剤の添加は、添加するスケール防止剤の分、薬剤コストを押し上げる結果となり、特にカルシウム濃度の高い被処理水を処理する場合、スケール防止剤添加によるコストアップの問題が大きくなる。また、スケール防止剤に起因する有機成分が後段の処理設備の負荷になるという問題もある。即ち、スケール防止剤は逆浸透(RO)膜等の膜を透過しないために濃縮水側に濃縮される。通常、膜分離装置の濃縮水は排水処理工程に移送され、生物処理と凝集沈殿処理を経て放流されるが、一般に、スケール防止剤は凝集沈殿処理並びに生物処理で除去することは困難である上に、スケール防止剤は凝集反応を阻害するものでもある。従って、スケール防止剤が濃縮された濃縮水が排水処理工程に移送されると、排水処理工程の負荷が増大する上に、放流水中のCOD値を増加させるなど、水質を低減させる恐れがある。
また、(2)のpHの低下のためにも、Mアルカリ除去のために酸を大量に使用することになり、薬剤コストが高くつく問題がある。
また、上記(1),(2)では、スケールの原因物質である被処理水中のカルシウム自体は除去されていないため、カルシウム系スケール生成の問題が完全に排除されるものではない。
更に、(3)のカルシウム吸着塔の設置には、吸着塔の設置のためのコストのみならず、スペースの問題、吸着材の交換などのメンテナンス費用等、コストアップの問題が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−000455号公報
【特許文献2】特開2005−224761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、カルシウム硬度100mg−CaCO3/L以上、酸消費量(pH4.8)100mg−CaCO3/L以上、かつLangelier指数>0の、スケール化傾向の高い被処理水を原水として膜分離処理を行うに当たり、スケール防止剤の添加や、カルシウム吸着塔の設置を必要とすることなく、膜分離装置におけるスケール障害を防止して、長期に亘り膜の透過流束を高く維持する膜分離方法及び膜分離装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、膜分離処理に先立ち、被処理水をpH8.0以上の高pH条件に調整してカルシウムと炭酸イオンを析出させて、好ましくはこれを固液分離することにより、被処理水中のカルシウム及びMアルカリを除去してスケール生成の可能性を排除することができ、この結果、スケール防止剤を添加することなく、また、カルシウム吸着塔を用いることなく、膜分離装置におけるスケール障害を防止して、膜の透過流束を長期に亘り高く維持することができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] カルシウム硬度100mg−CaCO3/L以上、酸消費量(pH4.8)100mg−CaCO3/L以上、かつLangelier指数>0の被処理水を膜分離処理する方法において、該被処理水に凝集剤を添加し、pHを8.0〜9.5に調整して凝集処理し、凝集処理水を膜分離処理することを特徴とする膜分離処理方法。
【0012】
[2] [1]において、前記被処理水に無機凝集剤を添加してpH8.0〜9.5に調整して凝集処理した後、高分子凝集剤を添加して凝集処理し、得られた凝集処理水を膜分離処理することを特徴とする膜分離処理方法。
【0013】
[3] [1]又は[2]において、前記凝集処理水を固液分離し、得られた分離水を膜分離処理することを特徴とする膜分離処理方法。
【0014】
[4] カルシウム硬度100mg−CaCO3/L以上、酸消費量(pH4.8)100mg−CaCO3/L以上、かつLangelier指数>0の被処理水を膜分離処理する装置において、該被処理水に凝集剤を添加し、pHを8.0〜9.5に調整して凝集処理する手段と、凝集処理水を膜分離処理する手段とを有することを特徴とする膜分離処理装置。
【0015】
[5] [4]において、前記凝集処理手段は、前記被処理水に無機凝集剤を添加してpH8.0〜9.5に調整して凝集処理した後、高分子凝集剤を添加して凝集処理する手段であることを特徴とする膜分離処理装置。
【0016】
[6] [4]又は[5]において、前記凝集処理水の固液分離手段を有し、固液分離手段からの分離水が膜分離処理されることを特徴とする膜分離処理装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、膜分離処理に先立ち、被処理水を高pH条件に調整してカルシウムと炭酸イオンを析出させることにより、被処理水中のカルシウム及びMアルカリを除去してスケール生成の可能性を排除することができる。このため、カルシウム硬度100mg−CaCO3/L以上、酸消費量(pH4.8)100mg−CaCO3/L以上、かつLangelier指数>0の、スケール化傾向の高い被処理水を原水として膜分離処理を行う際に、スケール防止剤を添加することなく、また、カルシウム吸着塔の設置を必要とすることなく、膜分離装置におけるスケール障害を防止して、長期に亘り膜の透過流束を高く維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明で処理対象とする被処理水は、カルシウム硬度100mg−CaCO3/L以上、酸消費量(pH4.8)100mg−CaCO3/L以上、かつLangelier指数>0のカルシウム系スケールが析出し易い水である。
被処理水のカルシウム硬度が100mg−CaCO3/L未満、酸消費量(pH4.8)(以下「Mアルカリ」と称す。)が100mg−CaCO3/L未満、かつLangelier指数<0では、カルシウム系スケールの析出傾向が低く、スケール障害が問題となることはないため、本発明を採用しなくても膜分離装置における膜の透過流束を高く維持することができる場合もある。
【0020】
ここで、Langelier指数とは、水のpHと炭酸カルシウムの飽和pH(pHs)との差であり、炭酸カルシウムの飽和pH(pHs)は、下記式で表される炭酸カルシウムの飽和条件を満足するpHである。
log[Ca2+]+log[MA]+pH=log(K/K
[ ]:イオン種の容量モル濃度
:溶解度積
=[Ca2+]+[CO2−
:炭酸の第2解離定数
=[H][CO2−]/[HCO
【0021】
本発明で処理対象とする被処理水としては、硬度成分が多い水(例えば、海外の用水等)、工場排水や用水のうち硬度成分が濃縮等により増加している水(例えば、濃縮したボイラ水、冷却水等)等が挙げられる。
【0022】
本発明においては、このような被処理水に凝集剤を添加し、pH8.0〜9.5に調整して凝集処理し、凝集処理水を膜分離処理する。
【0023】
凝集処理時のpHが低過ぎると炭酸カルシウムを十分に析出させることができず、本発明の効果を得ることができない。ただし、pHが過度に高いと無機凝集剤の適用pH範囲を超えるため、また、pH調整のための薬剤コスト、凝集処理設備や膜分離処理装置を高耐アルカリ性とするためのコストが嵩むため、凝集処理時のpHは8.0〜9.5に調整する。
【0024】
被処理水の凝集処理に用いる凝集剤としては、無機凝集剤、高分子凝集剤のいずれでもよく、これらの併用であってもよい。更に有機凝結剤を用いるものであってもよい。
また、2種以上の薬剤を添加する場合、その添加順序には特に制限はなく、別々に添加しても同時に添加してもよい。
【0025】
好ましくは、被処理水に無機凝集剤を添加して撹拌した後、pH調整剤を添加して撹拌することにより、pHを8.0〜9.5に調整し、その後高分子凝集剤を添加して撹拌することが好ましく、このような高pH条件での多段凝集処理を行うことにより、高pH条件で炭酸カルシウムを析出させ、析出した炭酸カルシウムが無機凝集剤を核として凝集フロックを形成させ、カルシウム硬度及びMアルカリを低減し、更に、凝集フロックを高分子凝集剤により粗大化させて固液分離性をより一層高めることができる。
【0026】
凝集処理に用いる無機凝集剤としては、限定されるものではないが、pH8.0以上でも凝集効果を発揮する鉄系の無機凝集剤、例えば、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、ポリ硫酸第二鉄などが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機凝集剤の添加量も特に制限はなく、対象とする被処理水の性状に応じて適宜決定されるが、概ね固形分添加量として10〜500mg/Lとすることが好ましい。
【0027】
高分子凝集剤ないし有機凝結剤としても特に制限はなく、被処理水の性状に合わせて凝集効果に優れるものが用いられる。例えば、アニオン系であれば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミドの共重合物、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の三元共重合物のようなスルホン酸基含有のポリマー、およびそれらのアルカリ金属塩等を用いることができる。ノニオン系であれば、ポリ(メタ)アクリルアミド等を用いることができる。カチオン系であれば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートもしくはその4級アンモニウム塩やジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドもしくはその4級アンモニウム塩等のカチオン性モノマーからなるホモポリマー、あるいはこれらのカチオン性モノマーと共重合可能なノニオン性モノマーとの共重合物等を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの高分子凝集剤ないし有機凝結剤の添加量も特に限定はなく、被処理水の性状に応じて適宜決定されるが、概ね固形分添加量として1〜100mg/Lとすることが好ましい。
【0028】
pH調整剤としては、通常、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリが用いられるが、被処理水のpHが高い場合には、塩酸、硫酸等の酸を用いる場合もある。
【0029】
このようにして得られた凝集処理水は、固液分離して凝集フロックを除去した後膜分離処理することが好ましい。凝集処理水の固液分離は、沈殿槽、浮上槽、濾過等により行うことができる。これらの固液分離手段を組み合わせ、沈殿槽で固液分離した後濾過を行っても良い。
【0030】
凝集処理水、好ましくは凝集処理水の固液分離水は、次いで、膜分離処理に供する。
【0031】
本発明において、膜分離処理に用いる分離膜としては、MF(精度濾過)膜、UF(限外濾過)膜、RO(逆浸透)膜、NF(ナノ濾過)膜などのいずれでもよい。膜の形態は、平膜、管状膜、中空糸などのいずれであっても良く、浸漬膜であっても良い。膜の材質としては、耐アルカリ性に優れたものであればよく、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等が例示されるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、以下の実施例及び比較例で処理した原水の水質は、下記表1に示す通りである。
【0033】
【表1】

【0034】
また、無機凝集剤には塩化第二鉄を用い、添加量は100mg/Lとした。pH調整剤には水酸化ナトリウムを用いた。また、高分子凝集剤には、栗田工業(株)製カチオン系高分子凝集剤「クリバーターEP301」を用い、添加量は2mg/Lとした。
【0035】
[実施例1]
原水を表2に示す手順で凝集処理した後、得られた凝集処理水をADVANTEC社製No.5A濾紙で濾過し、濾過水のカルシウム硬度及びMアルカリを測定した。この濾過水を平膜型RO膜分離装置(膜材質:ポリアミド)に通水し、回収率75%での透過流束を測定した。
凝集処理後の濾過水のカルシウム硬度及びMアルカリと、RO膜分離装置の透過流束の測定結果を表3に示す。
【0036】
[比較例1]
表2に示すように、凝集処理時のpHを6.5としたこと以外は実施例1と同様にして凝集処理を行い、得られた凝集処理水を実施例1と同様に濾過し、濾過水のカルシウム硬度及びMアルカリを測定した。この濾過水に栗田工業(株)製カルシウム系スケール防止剤「クリバーターN500」を2mg/L添加した後、実施例1と同様に平膜型RO膜分離装置に通水して透過流束を測定した。
凝集処理後の透過水のカルシウム硬度及びMアルカリと、RO膜分離装置の透過流束の測定結果を表3に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
以上の結果から明らかなように、pH8.5で凝集処理を行った実施例1では、凝集処理濾過水のLangelier指数は0未満となるため、スケール傾向とならず、スケール分散剤を添加することなく、長期に亘りRO膜分離装置で安定に処理することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム硬度100mg−CaCO3/L以上、酸消費量(pH4.8)100mg−CaCO3/L以上、かつLangelier指数>0の被処理水を膜分離処理する方法において、
該被処理水に凝集剤を添加し、pHを8.0〜9.5に調整して凝集処理し、凝集処理水を膜分離処理することを特徴とする膜分離処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記被処理水に無機凝集剤を添加してpH8.0〜9.5に調整して凝集処理した後、高分子凝集剤を添加して凝集処理し、得られた凝集処理水を膜分離処理することを特徴とする膜分離処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記凝集処理水を固液分離し、得られた分離水を膜分離処理することを特徴とする膜分離処理方法。
【請求項4】
カルシウム硬度100mg−CaCO3/L以上、酸消費量(pH4.8)100mg−CaCO3/L以上、かつLangelier指数>0の被処理水を膜分離処理する装置において、
該被処理水に凝集剤を添加し、pHを8.0〜9.5に調整して凝集処理する手段と、凝集処理水を膜分離処理する手段とを有することを特徴とする膜分離処理装置。
【請求項5】
請求項4において、前記凝集処理手段は、前記被処理水に無機凝集剤を添加してpH8.0〜9.5に調整して凝集処理した後、高分子凝集剤を添加して凝集処理する手段であることを特徴とする膜分離処理装置。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記凝集処理水の固液分離手段を有し、固液分離手段からの分離水が膜分離処理されることを特徴とする膜分離処理装置。

【公開番号】特開2012−187467(P2012−187467A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51523(P2011−51523)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】