説明

膜分離活性汚泥装置

【課題】 膜の洗浄と酸素供給を効率よく行って、電力消費量を節減でき、かつメンテナンスが容易な膜分離活性汚泥装置を提供する。
【解決手段】 上記課題は、活性汚泥処理槽内に、散気装置と、膜分離装置と、前記膜分離装置の膜面に沿って流れる水流を形成するとともに、前記活性汚泥処理槽内にあるいは槽内を通して循環水流を形成する水流形成装置を備え、前記散気装置が平面図において前記膜分離装置の膜から離隔して設置されていることを特徴とする膜分離活性汚泥装置によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水や工場排水の処理に用いられる膜分離活性汚泥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
活性汚泥装置は種々のものが知られているが、そのなかに、活性汚泥処理槽内に膜分離装置を備えたものがある(例えば、特許文献1)。これは、活性汚泥処理を行いながら処理水を膜で分離して抜き出すものであり、例えば、図5に示すように、活性汚泥処理槽1に膜分離装置2と、散気装置3、3‘を設けて、この散気によって、活性汚泥菌への酸素の供給と気泡による膜面の洗浄を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−337787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、膜の洗浄は、常時膜の直下よりスクラビング(散気)して行っており、洗浄効果を高めるために粗大気泡(気泡径1〜10mm)が専ら用いられる。散気は、膜の洗浄のほかに活性汚泥への酸素供給を目的としているが、酸素溶解効率が、微細気泡による散気の場合20%程度であるのに比べて、粗大気泡の場合は10%程度と低い。よって、多くの場合には膜洗浄に必要なスクラビングだけでは活性汚泥の酸素供給をまかなうことができず、別途微細気泡による散気を行っており、ブロワの電力消費量が多くなる。通常、膜分離活性汚泥法の電力消費量は0.8kWh/m程度であり、標準活性汚泥法の値に比べてきわめて大きく運転費がかさむ。そして、さらに、散気の気泡を膜の洗浄に利用しているため、散気装置が膜分離装置の真下にあり、そのメンテナンスは膜分離装置を取外して槽外に出してから実施せざるを得ず、そのために余分な手間と時間がかかっていた。
【0005】
本発明の目的は、膜の洗浄と酸素供給を効率よく行って、電力消費量を節減でき、かつメンテナンスが容易な膜分離活性汚泥装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するべくなされたものであり、機械力を用いて水流を形成し、これを膜分離装置の上方から膜面に沿った流れとすることにより、散気をしなくても水流のみで膜の洗浄が可能であることを見出した。
【0007】
その結果、電力消費量を節減できるばかりでなく、散気装置を活性汚泥への酸素供給の目的でのみ用いることができるため膜分離装置の真下から他の位置へ移すことができ、散気装置のメンテナンスも膜分離装置を取外すことなく容易に行えるようになった。
【0008】
本発明は、これらの知見に基いてなされたものであり、活性汚泥処理槽内に、散気装置と、膜分離装置と、前記膜分離装置の膜面に沿って流れる水流を形成するとともに、前記活性汚泥処理槽内にあるいは槽内を通して循環水流を形成する水流形成装置を備え、前記散気装置が平面図において前記膜分離装置の膜から離隔して設置されていることを特徴とする膜分離活性汚泥装置を提供するものである。
【0009】
本発明者らは、上記装置において、膜モジュールにおける水流速が0.1〜1.0m/sであることが好ましく、また、この流速を低動力で発生させるために、機械力として旋回機構付プロペラ式水中攪拌機と水流ポンプの使用が有効であることも見出した。さらに散気を間欠的に行うことによって膜表面のせん断力を増大させ、膜の洗浄効果を高めることができることも見出した。
【0010】
従って、本発明は、上記装置において、水流形成装置が旋回機構付プロペラ式水中攪拌機及び/又は水流ポンプである装置、該水流形成装置によって形成される水流速が膜モジュール内において0.1〜1.0m/sである装置、および散気装置が間欠運転可能である装置をも提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、膜面洗浄用の散気装置を不要にしてメンテナンスを容易にするとともに、電力消費量を大きく節減して、活性汚泥処理コストを低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の装置の一例の概略構成を示す側面断面図である。
【図2】水流による膜洗浄効果を調べた実験装置の概略構成を示す側面断面図である。
【図3】この実験装置を用い、水の流速を変えて膜間差圧の経時変化を調べた結果を示すグラフである。
【図4】本発明の装置の別の例の概略構成を示す側面図である。
【図5】従来の装置の概略構成を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の装置の本体である活性汚泥処理槽は、活性汚泥を収容して働かせる槽であり、形状は、円筒形等種々の形態をとりうるが、通常は箱型である。
【0014】
この活性汚泥処理槽内には膜処理装置を設ける。膜は、活性汚泥と処理水を分離するもので、膜の孔径に関しては精密濾過膜あるいは限外濾過膜を適用することができる。膜の形状は、平膜タイプ、中空糸タイプ、チューブラータイプ等を用いることができ、膜の透過流束と処理水量を基に適切な面積の膜を設置する。膜の配置は、通常は水流を妨げないように互いに平行とする。
【0015】
水流形成装置は、機械力によって水流を形成するものであり、攪拌機や水中ポンプを設置する方法があるが、旋回機構付プロペラ式水中攪拌機を用いると、攪拌機が旋回するため、攪拌力が大きくまた均一に攪拌できるため好適である。一方、水流ポンプも強い水流を方向性をもって吐出できるので本発明の装置に好適である。本発明においては、この水流を膜面に沿った流れとすることを特徴とし、それによって水流のみで膜面を洗浄できることを見出したのである。
【0016】
これを図2に示す装置で確認した。この装置は、一本の中空糸(平均外径:1.45mm、長さ:20cm、材質:PVDF、種類:UF膜)を上下端が閉止された透明塩化ビニル製の筒(内径:8mm)内に装着した。この中空糸の上端にはバルブ(常時閉)を取り付け、下端からは吸引ポンプで内部を減圧にできるようにした。中空糸の下にはビーカを置いて中空糸を通過した処理水を受け、その重量は天秤で計測できるようにした。一方、活性汚泥槽を系外に設け、そこから塩化ビニル製の筒の上部と下部に配管接続して活性汚泥の循環ラインを形成した。循環ラインの途中には循環ポンプと流量調整弁を設けた。また、圧力計を取付けて中空糸の内外の差圧を測定した。この流速はポンプ流量と内径8mmΦの筒の断面積から割り算して求めた。筒内の流速を0.1m/s、0.56m/sに変えて、処理水の膜分離を行い、各流速における差圧の経時変化を測定した。得られた結果を図3に示すが、同図へ示すように、流速0.56m/sでは膜間差圧がほぼ一定で、膜洗浄が良好に行われていることを示している。
【0017】
この水流の流速は0.1〜1.0m/s、好ましくは0.4〜0.6m/sが適当である。0.1m/s未満では膜の洗浄効果が不充分になり、膜間差圧の上昇や膜ろ過流束が低下し処理能力が低下する。一方、1.0m/sを越えると膜面に汚泥の堆積を抑制でき、安定した膜ろ過処理は行えるが、過大な動力のポンプを使用する必要があり、電力消費量が増大する。
水流の方向は膜面と平行であり、膜が上下方向に設置されている場合は、上昇流、下降流のいずれでもよいが、膜下部に散気装置がないため、メンテナンス性が向上する点で下降流の方が好ましい。
【0018】
水流の吐出口は膜全体に水流が流れるよう均一に分布させることが好ましい。
また、活性汚泥処理槽内に循環水流を円滑に形成させるために、槽内を縦方向に仕切る邪魔板を設けることが好ましい。邪魔板で仕切られた一方の室に活性汚泥菌のための散気装置を設置するとその室には散気された気泡によって上昇流が形成される。そこで、他方の室に膜分離装置を設置すると、槽内に循環水流が形成されるために膜分離装置の水流は下降流になる。
【0019】
本発明においては、散気装置は平面図において、すなわち、上方から見た状態で膜分離装置の膜から離隔して設ける。これは、散気装置を膜分離装置を取外すことなく修理、清掃等のメンテナンスをできるようにしたものである。この散気装置は、気泡を噴出させて、活性汚泥への酸素供給を行うものである。構造は、基本的に通常の散気装置と同様でよく、箱や管などの形をしたマニホールドに多数の空気噴出口を設けたものである。空気噴出口は、微細孔でよく、ノズルを取付けてもよい。空気噴出口の口径は、酸素溶解効率を高くするために微細気泡を形成するように定められ、気泡の径は0.5〜4mm程度、特に0.5〜1.0mm程度とするのがよい。気泡径が過大では十分な酸素溶解効率が得られず、過小では散気装置の圧力損失が高く、安定した運転を行うことが困難である。0.5〜1.0mmの気泡径であれば、30〜40%の酸素溶解効率が得られるため、好適である。
【0020】
散気風量は活性汚泥の必要酸素量から決定される。
【0021】
また、一定流ではなく流速に変化をつけることが洗浄効果の観点から好ましく、散気または、機械攪拌による水流発生を間欠流とすることによってこの効果が得られる。間欠流とする機構については、エアライン電磁弁のタイマーによる開閉制御が考えられるが、別途エアラインに蓄気室を設け、蓄気室の吐出口が一定圧力以上で開放するような機構とすることによって、簡易に実現することができる。開放間隔は1〜30回/分程度、好ましくは、5〜15回/分程度とするのがよい。開放間隔が過小では、膜の洗浄効果が不十分になり、膜面に汚泥が堆積するため膜の目詰まりが進行する。
【0022】
活性汚泥処理槽には、その外、溶存酸素濃度計、pH計、温度計などが適宜設けられる。
【実施例1】
【0023】
本発明の一実施態様である膜分離活性汚泥装置の概略構成を図1に示す。
【0024】
この装置の活性汚泥処理槽1は箱型で、内部に膜分離装置2、散気装置3および水流形成装置4が設置されている。
【0025】
膜分離装置2は中空糸タイプの膜を垂直に多数配置したもので、上下端が集水部に接続されており、吸引ポンプによってろ液を得られる。膜の孔径は0.01〜1μm程度の範囲である場合が多く、特に0.02〜0.5μmの範囲にあるものが清澄な処理水質が得られて経済的な透過水流束が得られるために多く用いられる。
【0026】
水流形成装置4には水流ポンプを用いた。この水流ポンプ4は活性汚泥装置槽1の槽外に取付けて、活性汚泥装置槽1の底部に引抜配管が接続され、一方、膜分離装置2の上面に水流を吹出する配管が設けられている。この配管は途中で多管に分岐され、それぞれに多数のノズルが下方にむけて垂直に膜全体を水流洗浄できるように均等に配置されている。
【0027】
散気装置3は、平板や直管形状であり、表面はゴムや金属板、あるいはセラミック焼結体等で構成され、気泡放出用の細孔が多数形成されている。この細孔から放出される気泡は散気面直上部で径が1.5mm程度である。各直管は連結管で連結され、槽外のブロワ5に接続されている。
活性汚泥槽は、膜分離装置2と散気装置3の間を縦に仕切る邪魔板6を設けて2室に仕切り、両室間に循環水流を円滑に形成できるようにしている。
【実施例2】
【0028】
本発明の別の実施態様である膜分離活性汚泥装置の概略構成を図4に示す。
この装置は、水流形成装置4に旋回機構付プロペラ式水中攪拌機を用いた以外は実施例1と同じである。
【0029】
この攪拌機によって形成される水流が活性汚泥処理槽内で旋回流を形成するとともに、膜設置部では下降流となるように、処理槽1の膜分離装置と反対側の側面下部に取付けられている。本設備構成によって、膜表面の下向きの流速は最大値で0.4m/sとすることができた。また、本装置では散気装置の空気供給部に圧力弁を設けることによって、散気を間欠的に実施した。
【0030】
この実施例1の水流ポンプを用いた場合と、実施例2のプロペラ攪拌機を用いた場合と、従来の散気洗浄を行った場合の、下水1mを処理するための動力を比較した結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明により、活性汚泥処理装置のメンテナンスを容易にし、かつ、それに使用する電力を大幅に節減することができるので、膜分離活性汚泥処理設備に広く利用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 活性汚泥処理槽
2 浸透型膜分離装置
3、3‘ 散気装置
4 水流形成装置
5、5‘ ブロワ
6 邪魔板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥処理槽内に、散気装置と、膜分離装置と、前記膜分離装置の膜面に沿って流れる水流を形成するとともに、前記活性汚泥処理槽内にあるいは槽内を通して循環水流を形成する水流形成装置を備え、前記散気装置が平面図において前記膜分離装置の膜から離隔して設置されていることを特徴とする膜分離活性汚泥装置。
【請求項2】
前記水流形成装置が旋回機構付プロペラ式水中攪拌機及び/又は水流ポンプであることを特徴とする請求項1に記載の膜分離活性汚泥装置。
【請求項3】
前記水流形成装置によって形成される水の流速が膜モジュール内において0.1〜1.0m/sであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の膜分離活性汚泥装置。
【請求項4】
前記散気装置が間欠運転可能であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の膜分離活性汚泥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−157849(P2012−157849A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21438(P2011−21438)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】