説明

膜分離装置及び膜分離方法

【課題】有機物含有水を濾過した分離膜を膜洗浄することにより濾過性能が確実かつ十分に回復する膜分離装置及び膜分離方法を提供する。
【解決手段】膜モジュール3を逆洗するときには、ポンプ2を停止し、バルブ2a,4を閉、バルブ7,11を開とし、ポンプ9を作動させる。これにより、濾過水槽5内の濾過水が配管8,3を介して膜モジュール3の2次側3bに供給され、膜を逆方向に浸透し、配管10から逆洗排水として排出される。原水槽1内に有機物濃度センサ13が設置されており、その検出値が制御器14に入力されている。上記逆洗に際しては、所定の濾過水供給速度となるようにポンプ9の回転速度が制御される。膜洗浄時の洗浄流体の供給速度を被処理水中の有機物濃度に応じて制御する。有機物濃度と洗浄流体供給速度とを直線的に比例させてもよく、有機物濃度が高くなるのに従って洗浄流体供給速度を段階的に増加させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水を精密濾過膜(MF膜)、限外濾過膜(UF膜)、ナノ濾過膜(NF膜)などの分離膜によって膜濾過する膜分離装置及び膜分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の膜分離装置によって被処理水を濾過処理する場合、分離膜に汚れが付着してくるので、間欠的に洗浄流体(水及び/又は気体)を供給して膜洗浄を行う。この膜洗浄としては、膜濾過水などの洗浄流体を膜分離装置の2次側から1次側へ流す逆洗を行うことが多いが、分離膜の1次側に洗浄流体を流通させるフラッシングが行われることもある。
【0003】
この逆洗の制御方式について、特許2876978号には、被処理水中の有機物濃度と濁度とを検出し、この有機物濃度の大小、あるいは有機物濃度と濁度との比の大小に応じて膜の洗浄時間又は濾過時間を制御することが記載されている。
【特許文献1】特許2876978号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が種々研究を重ねたところ、被処理水の有機物濃度が高くなるのに応じて膜洗浄時間を長くしても、分離膜の濾過性能が十分に回復しないことがあることが認められた。
【0005】
本発明は、有機物含有水を濾過した分離膜を洗浄することにより濾過性能が確実かつ十分に回復する膜分離装置及び膜分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の膜分離装置は、被処理水を一次側から供給し、分離膜を透過した濾過水を二次側から排出する膜分離手段と、該膜分離手段に洗浄流体を供給して該分離膜を洗浄する洗浄手段とを有する膜分離装置において、被処理水中の有機物濃度を測定する有機物濃度測定手段と、該有機物濃度測定手段の測定値に基づき該膜分離手段に供給する洗浄流体の供給速度を制御する制御手段とを有することを特徴とするものである。
【0007】
請求項2の膜分離装置は、請求項1において、該洗浄手段は、二次側から洗浄流体を供給するとともに分離膜を透過した洗浄流体を一次側から排出することを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の膜分離装置は、請求項1又は2において、該有機物濃度測定手段は、波長200〜400nmの範囲内の紫外線吸光度と波長400〜800nmの範囲内の可視光線吸光度との差から有機物濃度を測定するものであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4の膜分離装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記制御手段は被処理水中の有機物濃度が高い程洗浄流体の供給速度を増大させるものであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5の膜分離方法は、被処理水を膜分離手段に供給して膜濾過水を得る工程と、膜分離手段に洗浄流体を供給する分離膜洗浄工程とを有する膜分離方法において、被処理水中の有機物濃度を測定し、該有機物濃度の計測値に基づいて膜分離手段に供給する洗浄流体の供給速度を変化させることを特徴とするものである。
【0011】
請求項6の膜分離方法は、請求項5において、被処理水中の有機物濃度が高い程洗浄流体の供給速度を増大させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
被処理水中の有機物濃度が高い場合でも、分離膜の洗浄時に洗浄流体の供給速度を大きくすることにより、分離膜の濾過性能が十分に回復することが見出された。本発明はかかる知見に基づくものである。本発明によれば、膜濾過性能を十分に回復させることができる。また、洗浄流体を徒に長時間供給して生産水を膜洗浄に無駄に消費したり、膜を劣化させたりすることが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0014】
図1は実施の形態に係る膜分離装置の系統図である。原水は原水槽1から原水ポンプと、バルブ2aを介して膜モジュール3の1次側へ送られる。この実施の形態では、膜モジュール3は全量濾過方式であるが、クロスフロー方式でもよい。膜を透過して2次側に入った膜透過水(濾過水)は、バルブ4aを有した配管4を介して濾過水槽5に導入され、配管6より膜濾過水として取り出される。前記膜モジュール3aの1次側にはバルブ11を有した逆洗排水取出用の配管10が接続されている。
【0015】
膜モジュール3を逆洗するために、濾過水槽5内の水がバルブ7、配管8、ポンプ9を介して、前記バルブ4aよりも上流側の配管4へ供給可能とされている。
【0016】
膜モジュール3を逆洗するときには、ポンプ2を停止し、バルブ2a,4aを閉、バルブ7,11を開とし、ポンプ9を作動させる。これにより、濾過水槽5内の濾過水が配管8,4を介して膜モジュール3の2次側3bに供給され、膜を逆方向に浸透し、配管10から逆洗排水として排出される。
【0017】
原水槽1内に有機物濃度センサ13が設置されており、その検出値が制御器14に入力されている。上記逆洗に際しては、所定の濾過水供給速度となるようにポンプ9の回転速度が該制御器14によって制御される。
【0018】
なお、原水をまず凝集処理してから原水槽1に供給してもよく、この場合、原水槽1の上流側に凝集剤の添加手段と、凝集フロックを分離するための固液分離手段が設けられるが、固液分離手段はなくてもよい。
【0019】
本発明の膜分離装置及び膜分離方法が処理対象とする被処理水は、有機物を含むものであり、河川水、地下水などの天然水のほか、各種工場排水や農業排水、下水などが例示される。この被処理水に含まれる有機物は、特に限定されるものではない。なお、天然水中にはフミン酸が含まれることが多いが、当然ながらこのフミン酸も本発明の有機物の一種に当る。
【0020】
分離膜としては、MF膜、UF膜、NF膜などが例示される。
【0021】
膜分離装置は、前記の通り、クロスフロー方式のものであっても全量濾過方式のものであってもよい。
【0022】
本発明では、膜分離装置の膜洗浄は図示のように逆洗であってもよく、膜の1次側をフラッシングするものであってもよい。
【0023】
本発明では、膜洗浄時に洗浄流体を流通させるが、この洗浄流体は水であってもよく、気体であってもよく、気泡含有水であってもよい。また、水供給と気体供給とを交互に1回又は複数回行ってもよい。
【0024】
本発明では、膜洗浄時の洗浄流体の供給速度を被処理水中の有機物濃度に応じて制御する。この洗浄流体の供給速度とは単位時間当りの流体供給量のことであり、逆洗の場合は例えば透過流束(以後、逆透過流束と称する場合がある。)で表わすことができ、フラッシングの場合は例えば空塔速度で表わすことができる。
【0025】
被処理水中の有機物濃度はTOC計やCOD計によって測定してもよいが、紫外光及び可視光の吸光度の差から求めるのが簡便、迅速であり好適である。紫外光としては波長200〜400nmが好適であり、この吸光度は有機物の吸光度と主として無機粘土鉱物よりなる濁度成分の吸光度との合計値である。可視光としては波長600〜800nmが好適であり、これは主として無機粘土鉱物よりなる濁度成分による吸光度である。従って、両吸光度の差から被処理水の有機物濃度を検知することができる。
【0026】
本発明において、被処理水中の有機物濃度が高くなるほど洗浄流体の供給速度を増大させる場合、有機物濃度と洗浄流体供給速度とを直線的に比例させてもよく、有機物濃度が高くなるのに従って洗浄流体供給速度を段階的に増加させてもよい。例えば、被処理水中の有機物濃度と、濾過性能を十分に回復させる必要最小限の洗浄流体供給速度との関係を予め実験により求めておき、この関係を数式化したり、そのままコンピュータのメモリに格納しておき、これに基づいて洗浄流体供給速度を決定してもよい。
【0027】
なお、図2は本発明者が被処理水中のフミン酸濃度と膜濾過速度との関係について研究して得た結果を模式的に示すグラフである。
【0028】
図2の限外膜濾過流束Jcは、原水の有機物濃度が同じ濃度の場合に、それ以上の膜濾過流束に設定した時に、膜差圧ΔPの増加速度が急激に増大し、膜濾過の運転が不可能になる限界値を示す。
【0029】
図2においてu,u,uは洗浄水の供給速度であり、u<u<uである。濾過流束がA[m/d]にまで回復してこの濾過流束にて濾過運転を行うように膜洗浄を制御する場合、フミン酸濃度が0.8a以下では洗浄水の供給速度をuとし、0.8a〜0.8bでは洗浄水の供給速度をuとし、0.8b〜0.8cでは洗浄水の供給速度をuとする。0.8を安全係数として掛けるのは、フミン酸濃度Cがaであるときに洗浄水の供給速度をuとすると、逆方向の濾過流束が限界膜濾過流束となり、急激に差圧が上昇するおそれがあるからである。
【0030】
このように被処理水中の有機物濃度が高くなるほど洗浄流体供給速度を増加させることにより、有機物濃度が高い場合でも分離膜の膜濾過性能を確実かつ十分に回復させることができる。また、被処理水中の有機物濃度が低い場合には、それに応じて洗浄流体供給速度を低下させるため、洗浄流体の消費量が少なく、洗浄流体を節約することができると共に、膜の劣化を防止できる。なお、洗浄流体として膜濾過水を用いるときには、洗浄流体の節約により水回収率を多くすることができる。
【0031】
本発明において、洗浄流体として膜濾過水を用いる場合、膜濾過水をそのまま用いてもよいが、膜濾過水の水質が不十分であったり、高流束で膜洗浄するときにはこの膜濾過水に次亜塩素酸ナトリウムや水酸化ナトリウムなどのアルカリ系薬品や酸などの薬品などを添加してもよい。この酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、クエン酸、シュウ酸、アスコルビン酸、重亜硫酸ナトリウムの1種又は2種以上が例示されるが、これに限定されない。
【実施例】
【0032】
実施例1(実験No.1〜3)
図1に示す膜分離装置において、膜モジュール3として、クラレ製の内圧中空糸限外濾過膜(親水化ポリスルフォン、分画分子量150,000)の小型ラボモジュール(膜面積:0.14m)を用いた。有機物濃度センサ13として波長260nm及び660nmのUV濁度2波長測定センサを用いた。原水としては水道水にフミン酸を4.5mg/L溶解させたものを用いた。この原水の波長260nmの吸光度と660nmの吸光度との差は光路50mmで0.5absであった。なお、この水道水のフミン酸を添加する前の該吸光度差及び波長260nmの吸光度はいずれも0.035absであった。
【0033】
濾過流束をそれぞれ3m/dと一定にして膜濾過を行い、通水29分、逆洗1分のサイクルで濾過工程と逆洗工程を繰り返した。逆洗時の膜モジュール3への濾過水槽5からの濾過水の供給速度(逆透過流束)は、No.1では15m/d、No.2では10m/d、No.3では5m/dとした。この29分間の濾過工程における膜差圧の上昇速度(kPa/d)の測定結果を表1に示す。
【0034】
実施例2(実験No.4〜6)
原水としてフミン酸添加量2.0mg/Lの水道水を用いた他は、実験例1〜3と同様にして濾過工程・逆洗工程を繰り返し、濾過工程における膜差圧の上昇速度を測定した。結果を表1に示す。
【0035】
比較例1(実験No.7〜9)
原水としてフミン酸を添加せずに上記水道水をそのまま用いた他は、実験例1〜3と同様にして濾過工程・逆洗工程を繰り返し、濾過工程における膜差圧の上昇速度を測定した。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、フミン酸濃度が高くなるほど逆洗速度を大きくすることにより、No.1,4,5のように膜差圧上昇が抑制されることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施の形態に係る膜分離装置の系統図である。
【図2】フミン酸濃度と膜濾過速度との関係を模式的に示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
3 膜モジュール
5 濾過水槽
13 有機物濃度センサ
14 制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を一次側から供給し、分離膜を透過した濾過水を二次側から排出する膜分離手段と、
該膜分離手段に洗浄流体を供給して該分離膜を洗浄する洗浄手段とを有する膜分離装置において、
被処理水中の有機物濃度を測定する有機物濃度測定手段と、
該有機物濃度測定手段の測定値に基づき該膜分離手段に供給する洗浄流体の供給速度を制御する制御手段と
を有することを特徴とする膜分離装置。
【請求項2】
請求項1において、
該洗浄手段は、二次側から洗浄流体を供給するとともに分離膜を透過した洗浄流体を一次側から排出することを特徴とする膜分離装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
該有機物濃度測定手段は、波長200〜400nmの範囲内の紫外線吸光度と波長400〜800nmの範囲内の可視光線吸光度との差から有機物濃度を測定するものであることを特徴とする膜分離装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記制御手段は被処理水中の有機物濃度が高い程洗浄流体の供給速度を増大させるものであることを特徴とする膜分離装置。
【請求項5】
被処理水を膜分離手段に供給して膜濾過水を得る工程と、膜分離手段に洗浄流体を供給する分離膜洗浄工程とを有する膜分離方法において、
被処理水中の有機物濃度を測定し、該有機物濃度の計測値に基づいて膜分離手段に供給する洗浄流体の供給速度を変化させることを特徴とする膜分離方法。
【請求項6】
請求項5において、被処理水中の有機物濃度が高い程洗浄流体の供給速度を増大させることを特徴とする膜分離方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−272255(P2006−272255A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98709(P2005−98709)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】